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特許7048055高純度炭酸カルシウム焼結体及びその製造方法、並びに高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】高純度炭酸カルシウム焼結体及びその製造方法、並びに高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/00 20060101AFI20220329BHJP
【FI】
C04B35/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019501860
(86)(22)【出願日】2018-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2018006917
(87)【国際公開番号】W WO2018155680
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2017035245
(32)【優先日】2017-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391009187
【氏名又は名称】株式会社白石中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田近 正彦
(72)【発明者】
【氏名】梅本 奨大
(72)【発明者】
【氏名】鵜沼 英郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 潤
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-242415(JP,A)
【文献】特開平04-231367(JP,A)
【文献】特開平05-310469(JP,A)
【文献】特開昭62-036021(JP,A)
【文献】特開平08-198623(JP,A)
【文献】特開2011-251886(JP,A)
【文献】特開平01-290554(JP,A)
【文献】特開2007-063085(JP,A)
【文献】特開平09-124379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結助剤を用いずに、純度が99.7質量%以上である炭酸カルシウムを圧縮成形し、成形体を作製する工程と、
前記成形体を焼結することにより、相対密度が90%以上である炭酸カルシウム焼結体を製造する工程とを備える、高純度炭酸カルシウム焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記成形体が炭酸カルシウムのみを含む、請求項に記載の高純度炭酸カルシウム焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記成形体を、420~600℃で焼結する、請求項またはに記載の高純度炭酸カルシウム焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記圧縮成形が、一軸成形である、請求項のいずれか一項に記載の高純度炭酸カルシウム焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記成形体を空気中で焼結する、請求項のいずれか一項に記載の高純度炭酸カルシウム焼結体の製造方法。
【請求項6】
炭酸カルシウムが99.7質量%以上含まれており、かつ気孔率が50体積%以上である、高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体。
【請求項7】
炭酸カルシウムが99.9質量%以上含まれている、請求項に記載の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体。
【請求項8】
焼結体の外部に至る連通孔が形成されている、請求項またはに記載の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体。
【請求項9】
純度が99.7質量%以上である炭酸カルシウムを含む分散液を調製する工程と、
前記分散液に発泡剤を添加した後撹拌して泡立て、発泡体を作製する工程と、
前記発泡体を焼結することにより、炭酸カルシウム多孔質焼結体を製造する工程とを備える、高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法。
【請求項10】
前記発泡体を凍結乾燥した後、焼結する、請求項に記載の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法。
【請求項11】
前記分散液が、前記炭酸カルシウムを20体積%以上含有する、請求項または10に記載の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記焼結する工程が、仮焼結した後、本焼結する工程である、請求項11のいずれか一項に記載の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法。
【請求項13】
仮焼結の温度が200~500℃の範囲内であり、本焼結の温度が仮焼結時の温度以上かつ420~600℃の範囲内である、請求項12に記載の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度炭酸カルシウム焼結体及びその製造方法、並びに高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウム焼結体は、人工真珠の成長核や生体用途などへの応用が期待されており、その製造方法について種々研究されている。従来の炭酸カルシウム焼結体の製造方法では、一般に、炭酸カルシウムと焼結助剤の混合物を静水圧プレスにより成形体とし、この成形体を炭酸ガス雰囲気中で焼結することにより製造されている(特許文献1及び非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-254240号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】都祭聡子ら“炭酸カルシウムの焼結における出発物質の影響”無機マテリアル学会学術講演会講演要旨集 Vol.105th P.46-47 (2002.11.14)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の炭酸カルシウム焼結体は、上記のように焼結助剤を必要とするため、不純物含有量を少なくすることが困難であった。そのため、生体用途などに用いることができない場合があった。
【0006】
本発明の目的は、不純物含有量が少なく、生体用途などにも用いることができる高純度炭酸カルシウム焼結体及びその製造方法、並びに不純物含有量が少なく、生体用途などにも用いることができる高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の高純度炭酸カルシウム焼結体は、炭酸カルシウムが99.7質量%以上含まれており、かつ相対密度が90%以上であることを特徴としている。
【0008】
本発明の高純度炭酸カルシウム焼結体の製造方法は、純度が99.7質量%以上である炭酸カルシウムを圧縮成形し、成形体を作製する工程と、前記成形体を焼結することにより、炭酸カルシウム焼結体を製造する工程とを備えることを特徴としている。
【0009】
本発明の高純度炭酸カルシウム焼結体の製造方法においては、前記成形体が炭酸カルシウムのみを含むことが好ましい。
【0010】
本発明の高純度炭酸カルシウム焼結体の製造方法においては、前記成形体を、420~600℃で焼結することが好ましい。
【0011】
本発明の高純度炭酸カルシウム焼結体の製造方法においては、前記圧縮成形が、一軸成形であることが好ましい。
【0012】
本発明の高純度炭酸カルシウム焼結体の製造方法においては、前記成形体を空気中で焼結することが好ましい。
【0013】
本発明の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体は、炭酸カルシウムが99.7質量%以上含まれており、かつ気孔率が50体積%以上であることを特徴としている。
【0014】
本発明の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体においては、炭酸カルシウムが99.9質量%以上含まれていることが好ましい。
【0015】
本発明の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体においては、焼結体の外部に至る連通孔が形成されていることが好ましい。
【0016】
本発明の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法は、純度が99.7質量%以上である炭酸カルシウムを含む分散液を調製する工程と、前記分散液に発泡剤を添加した後撹拌して泡立て、発泡体を作製する工程と、前記発泡体を焼結することにより、炭酸カルシウム多孔質焼結体を製造する工程とを備えることを特徴としている。
【0017】
本発明の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法においては、前記発泡体を凍結乾燥した後、焼結することが好ましい。
【0018】
本発明の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法においては、前記分散液が、前記炭酸カルシウムを20体積%以上含有することが好ましい。
【0019】
本発明の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法においては、前記焼結する工程が、仮焼結した後、本焼結する工程であることが好ましい。この場合、仮焼結の温度が200~500℃の範囲内であり、本焼結の温度が、仮焼結時の温度以上かつ420~600℃の範囲内であることが好ましい。
【0020】
本発明の高純度炭酸カルシウム焼結体製造用炭酸カルシウムは、純度が99.9質量%以上であることを特徴としている。
【0021】
本発明の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体製造用炭酸カルシウムは、純度が99.9質量%以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の高純度炭酸カルシウム焼結体は、不純物含有量が少なく、生体用途などにも用いることができる。
【0023】
本発明の高純度炭酸カルシウム焼結体の製造方法によれば、焼結助剤の量を少なくすることができるので、不純物含有量の少ない高純度炭酸カルシウム焼結体を製造することができる。
【0024】
本発明の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体は、不純物含有量が少なく、生体用途などにも用いることができる。
【0025】
本発明の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法によれば、焼結助剤の量を少なくすることができるので、不純物含有量の少ない高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、実施例3の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率25倍)である。
図2図2は、実施例3の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率100倍)である。
図3図3は、実施例3の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍)である。
図4図4は、実施例3の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率50000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
<高純度炭酸カルシウム焼結体>
(炭酸カルシウム)
本発明において用いる炭酸カルシウムは、純度が99.7質量%以上であるものが好ましく、99.9質量%以上であるものがより好ましく、99.95質量%以上であるものがさらに好ましい。このような高純度の炭酸カルシウムは、例えば、特開2012-240872号公報に開示された方法で製造することができる。純度の高い炭酸カルシウムを用いることにより、焼結に必要な焼結助剤の量を少なくすることができる。また、焼結助剤を用いることなく、炭酸カルシウムの焼結体を製造することが可能である。
【0029】
なお、炭酸カルシウムの純度の上限値は特に限定されるものではないが、一般には、99.9999質量%である。
【0030】
本発明に用いる炭酸カルシウムにおいて、透過型電子顕微鏡観察により測定した粒子径分布における平均粒子径(D50)は、0.05~0.5μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.08~0.3μmの範囲内であり、さらに好ましくは0.1~0.25μmの範囲内である。平均粒子径(D50)をこのような範囲内にすることにより、密度の高い成形体を作製することができ、密度の高い高純度炭酸カルシウム焼結体を製造することができる。透過型電子顕微鏡観察による粒子径分布は、測定対象である炭酸カルシウムを透過型電子顕微鏡観察で1000個以上測定することにより求めることができる。
【0031】
本発明において用いる炭酸カルシウムのBET比表面積は、5~25m/gであることが好ましく、7~20m/gであることがより好ましく、8~15m/gであることがさらに好ましい。BET比表面積を上記の範囲内にすることにより、炭酸カルシウムの焼結性を高めることができる。このため、密度の高い高純度炭酸カルシウム焼結体を製造することができる。
【0032】
(焼結助剤)
本発明に従い、純度の高い炭酸カルシウムを用いることにより、焼結に必要な焼結助剤の量を少なくすることができる。また、焼結助剤を用いることなく、炭酸カルシウムの焼結体を製造することが可能である。従って、本発明によれば、焼結体における炭酸カルシウムの含有量を高めることができ、高純度の炭酸カルシウム焼結体を製造することができる。
【0033】
しかしながら、必要に応じて、焼結助剤を用いてもよい。焼結助剤としては、例えば、リチウム、ナトリウム及びカリウムの内の少なくとも2種の炭酸塩を含み、かつ融点が600℃以下である焼結助剤が挙げられる。焼結助剤の融点は、550℃以下であることが好ましく、530℃以下であることがより好ましく、450~520℃の範囲であることがさらに好ましい。焼結助剤の融点を上記範囲にすることにより、より低温で焼成して炭酸カルシウム焼結体を製造することができる。焼結の際には、炭酸カルシウムに添加して使用することから、実際の融点は上記の温度よりさらに低くなるため焼結助剤として十分に機能する。焼結助剤は、炭酸カリウム及び炭酸リチウムの混合物であることが好ましい。焼結助剤の融点は、例えば、相図から求めることができるし、示差熱分析(DTA)により測定することも可能である。
【0034】
また、焼結助剤として、フッ化カリウム、フッ化リチウム及びフッ化ナトリウムの混合物を用いてもよい。このような混合物も、上記の融点の範囲を有するものであることが好ましい。このような焼結助剤として、例えば、フッ化カリウム10~60モル%、フッ化リチウム30~60モル%、及びフッ化ナトリウム0~30モル%の組成範囲を有する混合物が挙げられる。このような範囲とすることにより、より低い温度で焼成し、より高い密度の炭酸カルシウム焼結体を製造することができる。
【0035】
焼結助剤を用いる場合、炭酸カルシウムと焼結助剤の混合物において、焼結助剤の含有割合が1.5質量%以下となるように、炭酸カルシウムに焼結助剤を混合して混合物を調製することが好ましく、より好ましくは1.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.7質量%以下である。焼結助剤の含有割合が多すぎると、炭酸カルシウム焼結体の純度及び密度を高めることができない場合がある。
【0036】
本発明に従い、純度の高い炭酸カルシウムを用いることにより、純度が高くない炭酸カルシウムを用いた場合に比べ、焼結温度を低くすることができる。
【0037】
(焼結温度)
焼結温度は、600℃以下であることが好ましく、より好ましくは580℃以下であり、さらに好ましくは560℃以下である。焼結温度が高すぎると、炭酸カルシウムが分解し酸化カルシウムが生成しやすくなるため好ましくない。焼結温度は、420℃以上であることが好ましく、より好ましくは430℃以上であり、さらに好ましくは440℃以上である。焼結温度が低すぎると、炭酸カルシウムが十分に焼結しない場合がある。
【0038】
(成形体)
本発明においては、炭酸カルシウム粉末単体、または炭酸カルシウム粉末と焼結助剤の混合物を圧縮成形して成形体を作製する。圧縮成形は、一軸成形であることが好ましい。本発明によれば、一軸成形による成形体を用いて、高い密度を有する高純度炭酸カルシウム焼結体を製造することができる。しかしながら、本発明においては、一軸成形に限定されるものではなく、静水圧プレス成形、あるいはドクターブレード成形、鋳込み成形など他に知られた成形方法により成形体を作製してもよい。
【0039】
本発明において、成形体の相対密度は、50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、58%以上であることがさらに好ましい。成形体の相対密度は、成形体のかさ密度を、炭酸カルシウムの理論密度(2.711g/cm)で割った値である。成形体のかさ密度は、後述するアルキメデス法により測定することができる。上記成形体の相対密度は、196.1Mpa(2000kgf/cm)の成形圧で、一軸プレス成形したときに得られるものであることが好ましい。上記範囲の相対密度にすることにより、より高い密度の高純度炭酸カルシウム焼結体を得ることができる。
【0040】
(炭酸カルシウム焼結体の製造)
本発明においては、上記の成形体を焼結することにより、炭酸カルシウム焼結体を製造する。より簡易な工程で焼結するという観点からは、焼結の際の雰囲気は、空気中であることが好ましい。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、従来と同様に、炭酸ガス雰囲気中、あるいは窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中で焼結してもよい。本発明によれば、空気中で焼結させても、高い密度を有する高純度炭酸カルシウム焼結体を製造することができる。焼結温度は、上記の範囲であることが好ましい。
また、本発明においては、レーザーを照射して成形体を焼結させてもよい。また、3次元プリンターを用いて、レーザーを照射し成形体を焼結させてもよい。
【0041】
炭酸カルシウム焼結体の相対密度は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、97%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましく、99%以上であることが特に好ましい。
【0042】
炭酸カルシウム焼結体の純度は、99.7質量%以上であることが好ましく、99.8質量%以上であることがより好ましく、99.9質量%以上であることがより好ましく、99.95質量%以上であることがさらに好ましく、99.99質量%以上であることが特に好ましい。これにより、炭酸カルシウム焼結体を、生体用途などにも用いることができる。なお、炭酸カルシウム焼結体の純度の上限値は特に限定されるものではないが、一般には、99.9999質量%である。
【0043】
<高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体>
(炭酸カルシウム)
炭酸カルシウムとしては、上記の高純度炭酸カルシウム焼結体の製造において説明した炭酸カルシウムを用いることができる。炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造においても、純度の高い炭酸カルシウムを用いることにより、焼結に必要な焼結助剤の量を少なくすることができる。また、焼結助剤を用いることなく、炭酸カルシウムの多孔質焼結体を製造することが可能である。焼結助剤を用いる場合、上記と同様の焼結助剤の種類及び含有量にすることができる。
【0044】
(発泡剤)
本発明において用いる発泡剤としては、ラウリル硫酸トリエタノールアミンなどのアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、アルキルポリグルコシドなどが挙げられる。
【0045】
(賦形剤)
本発明においては、分散液に賦形剤を添加してもよい。賦形剤を添加することにより発泡後の分散発泡体中の気泡の強度が上がり、発泡体の形状を安定化することができる。賦形剤としては、デンプン、デキストリン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレングリコール、ペクチン、アルギン酸類、カルボキシセルロースのナトリウム塩などが挙げられる。
【0046】
(分散液)
本発明においては、水などの分散媒に炭酸カルシウムを徐々に添加しながら、ディスパー、ミキサー、ボールミル等の攪拌力の強い装置を用いて、炭酸カルシウムを分散媒に分散することが好ましい。炭酸カルシウムの含有量は、一般に、分散液中において30~70質量%であることが好ましい。このとき、必要であれば炭酸カルシウム100質量部に対して0~3質量部程度のポリアクリル酸塩などの高分子界面活性剤を分散剤として添加してもよい。
【0047】
(発泡体の作製)
本発明では、上記分散液に発泡剤を添加した後撹拌し泡立てることにより発泡体を作製する。発泡剤は、分散液中の発泡剤の濃度が0.01~5質量%程度となるように添加することが好ましい。攪拌は、ハンドミキサーやディスパーなどで行うことが好ましい。撹拌を行うことで分散液の温度が上昇することがあるため、必要であれば、分散液を冷却しながら撹拌を行ってもよい。
【0048】
(凍結乾燥)
本発明においては、上記発泡体を凍結乾燥した後、焼結することが好ましい。凍結乾燥することにより、発泡体の形状を容易に維持することができ、多孔質焼結体を良好な形状で得ることができる。
【0049】
具体的には、発泡体を常圧下に-40℃以下で2時間以上予備凍結を行い、次に減圧条件下において氷晶を昇華させながら、徐々に温度を上げていくことが好ましい。減圧の条件は、20Pa以下が好ましく、10Pa以下がより好ましい。温度は、氷晶が融解をしない範囲で減圧を維持しながら徐々に高くしていくことが望ましく、一般的には-40℃~60℃の範囲で制御を行う。
【0050】
(発泡体の焼結)
本発明においては、発泡体を焼結することにより、炭酸カルシウム多孔質焼結体を製造する。本発明においては、仮焼結した後、本焼結することが好ましい。これにより、発泡体中に含まれている有機分が残存、炭化して黒ずんだり、有機分が急激に分解を起こすことで、焼結体にヒビの発生を生じることを防ぐことができる。
【0051】
仮焼結の温度は200~500℃の範囲内であることが好ましく、300~420℃の範囲内であることがより好ましい。本焼結の温度は仮焼結時の温度以上かつ420~600℃の範囲内であることが好ましく、450~540℃の範囲内であることがより好ましい。
【0052】
また、仮焼結及び本焼結の際の昇温速度は、2~20℃/分の範囲内であることが好ましい。これにより、有機分が急激に分解を起こすことで、焼結体にヒビの発生を生じることを防ぐことができる。
【0053】
焼結の際の雰囲気は、空気中であることが好ましい。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、炭酸ガス雰囲気中、あるいは窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中で焼結してもよい。本発明によれば、空気中で焼結させても、高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体を製造することができる。
【0054】
(炭酸カルシウム多孔質焼結体)
本発明の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体は、炭酸カルシウムが99.7質量%以上含まれており、かつ気孔率が50体積%以上である。
【0055】
炭酸カルシウム多孔質焼結体の純度は、99.7質量%以上であることが好ましく、99.8質量%以上であることがより好ましく、99.9質量%以上であることがより好ましく、99.95質量%以上であることがさらに好ましく、99.99質量%以上であることが特に好ましい。これにより、炭酸カルシウム多孔質焼結体を、生体用途などにも用いることができる。なお、炭酸カルシウム多孔質焼結体の純度の上限値は特に限定されるものではないが、一般には、99.9999質量%である。
【0056】
炭酸カルシウム多孔質焼結体の気孔率は、50体積%以上であることが好ましく、60体積%以上であることがより好ましく、70体積%以上であることがより好ましく、80体積%以上であることがさらに好ましく、85体積%以上であることが特に好ましい。これにより、炭酸カルシウム多孔質焼結体を、生体用途などにも用いることができる。なお、炭酸カルシウム多孔質焼結体の気孔率の上限値は特に限定されるものではないが、一般には、95体積%である。
【0057】
本発明の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体は、焼結体の外部に至る連通孔が形成されていることが好ましい。これにより、多孔質焼結体内部の炭酸カルシウムを外部の雰囲気と容易に接触させることができる。従って、例えば、生体用途などにさらに好適に用いることができる。
【実施例
【0058】
以下、本発明に従う具体的な実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
<炭酸カルシウム焼結体の製造>
<実施例1>
(炭酸カルシウム)
純度99.99質量%、平均粒子径(D50)0.15μm、BET比表面積10m/gである炭酸カルシウムを用いた。純度は、差分法により導出した。具体的には、誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて、質量既知の試料を溶解した測定検液中の不純物量を測定し、得られた結果の和を不純物含量として、全体から不純物含量を引いた値を純度とした。
【0060】
平均粒子径(D50)は、測定対象である炭酸カルシウム粒子について、透過型電子顕微鏡観察により1500個の粒子径を測定し、粒子径分布から求めた。
【0061】
BET比表面積は、島津製作所製のフローソーブ2200を用いて、1点法により測定した。
【0062】
上記の炭酸カルシウムを用いて、以下のようにして、炭酸カルシウム焼結体を製造した。
【0063】
(成形体の作製)
炭酸カルシウムを適量のジルコニアボールが入ったポリエチレン瓶に入れ、一晩乾式混合を行い、原料粉末とした。この原料粉末を円筒状の金型内に入れ、プレス機を用いて一軸プレス成形した。98Mpa(1000kgf/cm)の成形圧で1分間予備プレス成形した後、196.1Mpa(2000kgf/cm)の成形圧で1分間プレス成形した。
【0064】
(成形体の焼成)
得られた成形体を、空気中で540℃の焼成温度で3時間焼成し焼結させた。なお、焼成温度に達するまで毎分10℃で昇温させた。この焼成により、炭酸カルシウム焼結体を得た。
【0065】
(炭酸カルシウム焼結体の相対密度の測定)
アルキメデス法より炭酸カルシウム焼結体のかさ密度ρb[g/cm]を求め、得られたかさ密度を炭酸カルシウムの理論密度(2.711g/cm)で割り、その相対密度を求めた。炭酸カルシウム焼結体のかさ密度は、次のように求めた。先ず、炭酸カルシウム焼結体の試料の乾燥重量Wを測定し、湯煎したパラフィン中にその試料を10分程度静置した後、取り出して常温になるまで冷やした。冷めた後にパラフィンを含有した試料の重量Wを測定した。その後、その試料の水中重量Wを測定し、下記の式より試料のかさ密度ρbを求めた。炭酸カルシウム焼結体の相対密度を表1に示す。
【0066】
かさ密度ρb[g/cm]=WρW/(W2-W3
ρW:水の密度[g/cm
:試料の乾燥重量[g]
:パラフィンを含有した試料の重量[g]
:試料の水中重量[g]
【0067】
(炭酸カルシウム焼結体の純度の測定)
炭酸カルシウム焼結体の純度は、上記の差分法により導出した。
【0068】
炭酸カルシウム焼結体の純度を表1に示す。
【0069】
<実施例2>
純度99.91質量%、平均粒子径(D50)0.15μm、BET比表面積10m/gである炭酸カルシウムを用いる以外は、実施例1と同様にして、炭酸カルシウム焼結体を製造した。炭酸カルシウム焼結体の相対密度及び純度を表1に示す。
【0070】
<比較例1>
純度99.61質量%、平均粒子径(D50)0.15μm、BET比表面積10m/gである炭酸カルシウムを用いる以外は、実施例1と同様にして、炭酸カルシウム焼結体を製造することを試みた。しかしながら、炭酸カルシウムの成形体を焼結させることができなかった。
【0071】
<比較例2>
比較例1の炭酸カルシウムと焼結助剤とを、焼結助剤の含有量が0.7質量%となるように混合し、この混合粉末を上記のように乾式混合して原料粉末とした。この原料粉末を用いる以外は、実施例1と同様にして、炭酸カルシウム焼結体を製造した。
【0072】
焼結助剤として、炭酸カリウムと炭酸リチウムの混合物を用いた。混合割合は、モル比で、炭酸カリウム:炭酸リチウム=38:62である。混合物の融点(共融温度)は、488℃である。炭酸カルシウム焼結体の相対密度及び純度を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示すように、本発明に従う実施例1及び実施例2においては、炭酸カルシウムが99.7質量%以上含まれており、かつ相対密度が90%以上である高純度炭酸カルシウム焼結体が得られている。これに対し、純度が99.7質量%未満である炭酸カルシウムを用いた比較例1では、相対密度が68.0%であり、炭酸カルシウム焼結体が得られていない。比較例2に示すように、純度が99.7質量%未満である炭酸カルシウムを用いた場合でも、焼結助剤を用いることにより炭酸カルシウム焼結体を製造することができるが、焼結助剤を添加するため、炭酸カルシウムの含有量が低下し、高純度炭酸カルシウム焼結体にすることができない。
【0075】
<炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造>
<実施例3>
適量のジルコニアボールが入ったポリエチレン瓶に純水を入れ、39体積%になるように実施例1で用いた炭酸カルシウムを純水に添加した。次に、炭酸カルシウム100質量部に対して、賦形剤としてのポリビニルアルコールを0.8質量部、分散剤としての高分子界面活性剤(花王株式会社製、特殊ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、商品名「ポイズ520」)を2.5質量部添加した後、ポッドミルを用いて12時間湿式混合を行った。得られたスラリーに、スラリー10gあたり2mlとなるように、発泡剤としてのポリオキシエチレンアルキルエーテル19質量%水溶液を添加して分散液とした。
【0076】
上記分散液をハンドミキサーを用いて発泡し、発泡体を得た。得られた発泡体を型枠に流し込み、この状態で凍結乾燥を行った。凍結乾燥の条件は、常圧下に-40℃で12時間の予備凍結を行い、10Paの減圧下で30℃で48時間保持した。
【0077】
凍結乾燥した発泡体を、仮焼結温度(350℃)まで毎分10℃で昇温させ、昇温後10時間仮焼結を行った。冷却した後、同様の昇温速度で本焼結温度(510℃)まで昇温させ、昇温後3時間本焼結を行い、炭酸カルシウム多孔質焼結体を得た。
【0078】
得られた炭酸カルシウム多孔質焼結体の純度及び気孔率を表2に示す。純度は、炭酸カルシウム焼結体と同様の方法で測定した。気孔率は、焼結体を直方体ブロック状に切出し、ブロックの重量と見かけの体積から密度を求め、炭酸カルシウムの真密度2.711g/cmで除し、相対密度を求め、全体から相対密度を引いた値を気孔率とした。
【0079】
<実施例4>
実施例2で用いた炭酸カルシウムを用いる以外は、実施例3と同様にして、炭酸カルシウム多孔質焼結体を製造した。炭酸カルシウム多孔質焼結体の純度及び気孔率を表2に示す。
【0080】
<比較例3>
比較例1で用いた炭酸カルシウムを用いる以外は、実施例3と同様にして、炭酸カルシウム多孔質焼結体を製造することを試みた。しかしながら、発泡体を焼結させることができなかった。
【0081】
【表2】
【0082】
表2に示すように、本発明に従う実施例3及び実施例4においては、炭酸カルシウムが99.7質量%以上含まれており、かつ気孔率が50体積%以上である高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体が得られている。これに対し、純度が99.7質量%未満である炭酸カルシウムを用いた比較例3では、炭酸カルシウム多孔質焼結体が得られていない。
【0083】
<炭酸カルシウム多孔質焼結体の走査型電子顕微鏡観察>
図1図4は、実施例3で得られた炭酸カルシウム多孔質焼結体の走査型電子顕微鏡写真である。図1は倍率25倍、図2は倍率100倍、図3は倍率10000倍、図4は倍率50000倍である。図1及び図2から明らかのように、炭酸カルシウム多孔質焼結体は、焼結体の外部に至る連通孔を有していることがわかる。また、図3及び図4から明らかなように、炭酸カルシウム粒子が緻密に焼結されて、多孔質焼結体が形成されていることがわかる。
図1
図2
図3
図4