IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スパイバー株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人理化学研究所の特許一覧

<>
  • 特許-改変フィブロイン 図1
  • 特許-改変フィブロイン 図2
  • 特許-改変フィブロイン 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】改変フィブロイン
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/435 20060101AFI20220329BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220329BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220329BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220329BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220329BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220329BHJP
   D01F 4/02 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
C07K14/435 ZNA
C12N15/12
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
D01F4/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020068386
(22)【出願日】2020-04-06
(62)【分割の表示】P 2019532844の分割
【原出願日】2018-07-25
(65)【公開番号】P2020150945
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2017144586
(32)【優先日】2017-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、内閣府、革新的研究開発推進プログラム、産業技術力強化法17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】森田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】安部 佑之介
(72)【発明者】
【氏名】前川 健久
(72)【発明者】
【氏名】小鷹 浩一
(72)【発明者】
【氏名】菅原 潤一
(72)【発明者】
【氏名】沼田 圭司
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/113592(WO,A1)
【文献】特許第6807089(JP,B2)
【文献】Prep. Biochem. Biotechnol.,2016年,Vol. 46,p. 552-558
【文献】J. Mater. Sci.,2007年,Vol. 42,p. 8974-8985
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 14/435
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインであって、
グルタミン残基含有率が9%以下であり、
ドメイン配列中のGGX(但し、Xはグリシン残基以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であり、
REPの疎水性度が、-0.8以上である、改変フィブロイン。
[式1及び式2中、(A)モチーフは4~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
【請求項2】
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインであって、
グルタミン残基含有率が9%以下であり、
REP中にGPGXX(但し、Xはグリシン残基以外のアミノ酸残基を示す。)モチーフを含み、GPGXXモチーフ含有率が10%以上である、改変フィブロイン。
[式1及び式2中、(A)モチーフは4~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
【請求項3】
請求項1又は2に記載の改変フィブロインをコードする核酸。
【請求項4】
請求項3に記載の核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクター。
【請求項5】
プラスミドベクター又はウイルスベクターである、請求項4に記載の発現ベクター。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の発現ベクターで形質転換された宿主。
【請求項7】
原核生物である、請求項6に記載の宿主。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の改変フィブロインを含み、
繊維、糸、フィルム、発泡体、粒体、ナノフィブリル、ゲル及び樹脂からなる群から選択される、製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変フィブロインに関する。より具体的には、本発明は、グルタミン残基の含有量が低減された改変フィブロインに関する。本発明はまた、改変フィブロインをコードする核酸、当該核酸配列を含む発現ベクター、当該発現ベクターで形質転換された宿主、及び改変フィブロインから製造された製品にも関する。
【背景技術】
【0002】
フィブロインは、繊維状のタンパク質の一種であり、βプリーツシートの形成につながるグリシン残基、アラニン残基及びセリン残基を最大90%含有する(非特許文献1)。フィブロインとして、昆虫及びクモ類が産生する糸を構成するタンパク質(絹タンパク質、ホーネットシルクタンパク質、スパイダーシルクタンパク質)等が知られている。
【0003】
絹タンパク質は、優れた機械的特性、吸湿特性及び消臭特性を有し、衣服原料として広く用いられている素材である。また絹糸は免疫寛容な天然繊維であり、生体親和性が高いため手術用縫合糸等の用途にも用いられている。
【0004】
クモには最大7種類の絹糸腺が存在し、それぞれ性質の異なるフィブロイン(スパイダーシルクタンパク質)を産生する。スパイダーシルクタンパク質は、その源泉の器官にしたがって、高い靭性を有する大瓶状スパイダータンパク質(major ampullate spider protein、MaSp)、高度な伸長力を有する小瓶状スパイダータンパク質(minor ampullate spider protein、MiSp)、並びに鞭状(flagelliform(Flag))、管状(tubuliform)、集合(aggregate)、ブドウ状(aciniform)及びナシ状(pyriform)の各スパイダーシルクタンパク質と命名されている。特に、優れた強度と伸度を有することにより高い靭性を有する大瓶状スパイダータンパク質において構造的研究が集中して行われている(特許文献1及び特許文献2)。
【0005】
フィブロインに特異的な構造の一つとして、GPGXX、アラニン残基に富んだ伸長領域((A)又は(GA))、GGX、及びスペーサーに分類されるアミノ酸モチーフが反復した構造が知られている(非特許文献2)。また、(GA)モチーフを(A)モチーフで置換することにより伸度は減少するが引張り強度が増すこと、GPGXXモチーフの数を増加させることにより伸度が増加すること、GPGXXモチーフのいくつかを(A)モチーフで置換することにより引張り強度が増加することが報告されている(特許文献2)。また、GGX及びGPGXXモチーフは、糸に弾性を与える可撓性のらせん構造をとると考えられている(特許文献3)。
【0006】
組換えスパイダーシルクタンパク質、及び組換え絹タンパク質は、いくつかの異種タンパク質生産系で産生されている。例えば、ヤギ、カイコ、植物、哺乳類細胞、酵母、カビ、グラム陰性細菌及びグラム陽性細菌等を宿主とした組換えタンパク質生産系による組換えフィブロイン生産が多数報告されており一定の成果が得られている(非特許文献3、特許文献4及び5)。
【0007】
フィブロインを紡糸して得られるフィブロイン繊維は、水又は湯への浸漬、高湿度環境への暴露等により収縮する特性を有する。この特性は、製造工程及び製品化において様々な問題を発生させ、当該繊維よりなる製品にも影響が及ぶ。
【0008】
当該製品の収縮を防止するための防縮方法として、例えば、精練を完了した強撚糸使用の絹織物を、緊張した状態で水、その他の溶媒、又はその混合系に浸漬して所定時間加温することを特徴とする絹織物の防縮加工法(特許文献6)、所要形状に成形された状態にある動物繊維製品に、120~200℃の高圧飽和水蒸気を接触させる処理を施して、当該繊維製品に水蒸気処理時の形状を固定することを特徴とする動物繊維製品の形状固定化方法(特許文献7)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2012-55269号公報
【文献】特表2005-502347号公報
【文献】特表2009-505668号公報
【文献】特表2014-502140号公報
【文献】国際公開第2015/042164号
【文献】特公平2-6869号公報
【文献】特開平6-294068号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Asakuraら,Encyclopedia of Agricultural Science,Academic Press:New York,NY,1994年,Vol.4,pp.1-11
【文献】Microbial Cell Factories,2004年,3:14
【文献】Science,2002年,295巻,pp.472-476
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献6及び7に開示されるような防縮方法は、操作が煩雑であり、また工程が増えるため、工業的に不利である。一方、フィブロイン繊維自体の収縮を抑制又は低減させることができれば、極めて工業的に有用である。しかしながら、これまでに収縮が抑制又は低減されたフィブロイン繊維、又はそれを構成する改変されたフィブロインは知られていない。
【0012】
本発明は、収縮が低減されたフィブロイン繊維を紡糸することができる改変フィブロインの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、フィブロイン中に存在するグルタミン残基の含有量を減少させることにより、収縮が低減されたフィブロイン繊維が得られることを見出した。更に当該フィブロインを成形したフィルムは耐水性を有することを見出した。本発明はこの新規な知見に基づく。
【0014】
すなわち、本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインであって、
上記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当する、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する、改変フィブロイン。
[式1及び式2中、(A)モチーフは4~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[2]
REP中にGPGXX(但し、Xはグリシン残基以外のアミノ酸残基を示す。)モチーフを含み、GPGXXモチーフ含有率が10%以上である、[1]に記載の改変フィブロイン。
[3]
グルタミン残基含有率が9%以下である、[1]又は[2]に記載の改変フィブロイン。
[4]
上記他のアミノ酸残基が、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)からなる群より選択されるアミノ酸残基である、[1]~[3]のいずれかに記載の改変フィブロイン。
[5]
REPの疎水性度が、-0.8以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の改変フィブロイン。
[6]
天然由来のフィブロインと比較して、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列を有する、[1]~[5]のいずれかに記載の改変フィブロイン。
[7]
上記天然由来のフィブロインが、昆虫又はクモ類由来のフィブロインである、[6]に記載の改変フィブロイン。
[8]
上記天然由来のフィブロインが、クモ類の大瓶状スパイダータンパク質(MaSp)又は小瓶状スパイダータンパク質(MiSp)である、[7]に記載の改変フィブロイン。
[9]
配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号16若しくは配列番号17で示されるアミノ酸配列、又は配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号16若しくは配列番号17で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン。
[10]
更に、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の改変フィブロイン。
[11]
上記タグ配列が、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含む、[10]に記載の改変フィブロイン。
[12]
配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号19若しくは配列番号20で示されるアミノ酸配列、又は配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号19若しくは配列番号20で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン。
[13]
[1]~[12]のいずれかに記載の改変フィブロインをコードする核酸。
[14]
[13]に記載の核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインをコードする核酸。
[式1及び式2中、(A)モチーフは4~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[15]
[13]に記載の核酸と90%以上の配列同一性を有し、かつ式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインをコードする核酸。
[式1及び式2中、(A)モチーフは4~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[16]
[13]~[15]のいずれかに記載の核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクター。
[17]
プラスミドベクター又はウイルスベクターである、[16]に記載の発現ベクター。
[18]
[16]又は[17]に記載の発現ベクターで形質転換された宿主。
[19]
原核生物である、[18]に記載の宿主。
[20]
上記原核生物が、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属からなる群より選択される属に属する微生物である、[19]に記載の宿主。
[21]
真核生物である、[18]に記載の宿主。
[22]
上記真核生物が、酵母、糸状真菌又は昆虫細胞である、[21]に記載の宿主。
[23]
上記酵母が、サッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、クリベロマイセス属、トリコスポロン属、シワニオミセス属、ピキア属、キャンディダ属、ヤロウィア属及びハンゼヌラ属からなる群より選択される属に属する酵母である、[22]に記載の宿主。
[24]
上記サッカロマイセス属に属する酵母が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であり、上記シゾサッカロマイセス属に属する酵母が、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)であり、上記クリベロマイセス属に属する酵母が、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)であり、上記トリコスポロン属に属する酵母が、トリコスポロン・プルランス(Trichosporon pullulans)であり、上記シワニオミセス属に属する酵母が、シワニオマイセス・アルビウス(Schwanniomyces alluvius)であり、上記ピキア属に属する酵母が、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)であり、上記キャンディダ属に属する酵母が、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)であり、上記ヤロウィア属に属する酵母が、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)であり、上記ハンゼヌラ属に属する酵母が、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)である、[23]に記載の宿主。
[25]
上記糸状真菌が、アスペルギルス属、ペニシリウム属及びムコア属からなる群より選択される属に属する糸状真菌である、[22]に記載の宿主。
[26]
上記アスペルギルス属に属する糸状真菌が、アスペルギルス・オリゼであり、上記ペニシリウム属に属する糸状真菌が、ペニシリウム・クリゾゲナムであり、上記ムコア属に属する糸状真菌が、ムコア・フラギリスである、[25]に記載の宿主。
[27]
上記昆虫細胞が、鱗翅類の昆虫細胞である、[22]に記載の宿主。
[28]
上記昆虫細胞が、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来の昆虫細胞、又はイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)由来の昆虫細胞である、[27]に記載の宿主。
[29]
[1]~[12]のいずれかに記載の改変フィブロインを含み、
繊維、糸、フィルム、発泡体、粒体、ナノフィブリル、ゲル及び樹脂からなる群から選択される、製品。
【0015】
本発明はまた、例えば、以下の各発明にも関する。
[30]
改変フィブロインを含む人造改変フィブロイン繊維であって、湿潤状態にした際に伸長し、かつ湿潤状態から乾燥した際に収縮する、人造改変フィブロイン繊維。
[31]
下記式(1)で定義される復元率が95%以上である、[30]に記載の人造改変フィブロイン繊維。
復元率=(湿潤状態から乾燥した際の人造改変フィブロイン繊維の長さ/湿潤状態にする前の人造改変フィブロイン繊維の長さ)×100(%) ・・・(1)
[32]
上記人造改変フィブロイン繊維は、紡糸後に水と接触することで不可逆的に収縮された収縮履歴を有する繊維であり、
下記式(2)で定義される収縮率Aが2%以上である、[30]又は[31]に記載の人造改変フィブロイン繊維。
収縮率A={1-(紡糸後に水と接触することで不可逆的に収縮された繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前の繊維の長さ)}×100(%) ・・・(2)
[33]
上記人造改変フィブロイン繊維は、紡糸後に水と接触することで不可逆的に収縮された後、乾燥により更に収縮された収縮履歴を有する繊維であり、
下記式(3)で定義される収縮率Bが7%超である、[30]~[32]のいずれかに記載の人造改変フィブロイン繊維。
収縮率B={1-紡糸後に水と接触することで不可逆的に収縮された後、乾燥により更に収縮された繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前の繊維の長さ)}×100(%) ・・・(3)
[34]
上記改変フィブロインが、[1]~[12]のいずれかに記載の改変フィブロインである、[30]~[33]のいずれかに記載の人造改変フィブロイン繊維。
[35]
下記式(4)で定義される伸長率が17%以下である、[30]~[34]のいずれかに記載の人造改変フィブロイン繊維。
伸長率={(湿潤状態にした際の人造改変フィブロイン繊維の長さ/湿潤状態にする前の人造改変フィブロイン繊維の長さ)-1}×100(%) ・・・(4)
[36]
下記式(5)で定義される収縮率Cが15%以下である、[30]~[35]のいずれかに記載の人造改変フィブロイン繊維。
収縮率C={1-(湿潤状態から乾燥した際の人造改変フィブロイン繊維の長さ/湿潤状態にした際の人造改変フィブロイン繊維の長さ)}×100(%) ・・・(5)
[37]
紡糸後、水と接触する前の原料繊維を、水と接触させて不可逆的に収縮させた後、乾燥させて更に収縮させる収縮工程を備え、
上記原料繊維が、改変フィブロインを含む、人造改変フィブロイン繊維の製造方法。
[38]
上記原料繊維は、下記式(2)で定義される収縮率Aが2%以上の繊維である、[37]に記載の製造方法。
収縮率A={1-(紡糸後に水と接触することで不可逆的に収縮された繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前の繊維の長さ)}×100(%) ・・・(2)
[39]
上記原料繊維は、下記式(3)で定義される収縮率Bが7%超の繊維である、[37]又は[38]に記載の製造方法。
収縮率B={1-(紡糸後に水と接触することで不可逆的に収縮された後、乾燥により更に収縮された繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前の繊維の長さ)}×100(%) ・・・(3)
[40]
上記改変フィブロインが、[1]~[12]のいずれかに記載の改変フィブロインである、[37]~[39]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、収縮が低減されたフィブロイン繊維を紡糸することができる改変フィブロインの提供が可能となる。また、吸水性が低減され、耐水性を有するフィブロインフィルムを作製できる改変フィブロインの提供が可能となる。
【0017】
本発明によればまた、水との接触及びその後の乾燥による寸法変化(伸長及び収縮)の際、当該伸長と収縮の程度が同程度(復元率が100%に近い)であり、元の長さに戻ることができるという特性を有する人造改変フィブロイン繊維、及びその製造方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】改変フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。
図2】水等との接触によるフィブロイン繊維の長さ変化の例を示す図である。
図3】原料繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
〔改変フィブロイン〕
本発明に係る改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0021】
本明細書において「改変フィブロイン」とは、そのドメイン配列が天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインを意味する。本明細書でいう「天然由来のフィブロイン」もまた、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。
【0022】
「改変フィブロイン」は、本発明で特定されるアミノ酸配列を有するものであれば、天然由来のフィブロインに依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
【0023】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)モチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)モチーフは4~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0024】
(A)モチーフは、(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上であればよいが、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されることが好ましい。アラニン残基のみで構成されるとは、(A)モチーフが、(A)(Aはアラニン残基を示し、nは4~27の整数、好ましくは4~20の整数、より好ましくは4~16の整数を示す。)で表されるアミノ酸配列を有することを意味する。
【0025】
本実施形態に係る改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものであってよい。本実施形態に係る改変フィブロインは、グルタミン残基の含有量が低減されているため、当該改変フィブロインを紡糸して得られるフィブロイン繊維は、収縮が低減されたものとなる。また、当該フィブロインを成形して得られるフィルムは、耐水性を有するものとなる。
【0026】
本実施形態に係る改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフ(Gはグリシン残基、Pはフェニルアラニン残基、Xはグリシン残基以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。REP中にこれらのモチーフが含まれることにより、改変フィブロインの伸度を向上させることができる。
【0027】
本実施形態に係る改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。これにより、改変フィブロインの伸度をより向上させることができる。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
【0028】
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をxとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をyとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はx/yとして算出される。
【0029】
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
【0030】
図1は、改変フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。図1を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、図1に示した改変フィブロインのドメイン配列(「[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図1中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、xを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、xは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図1中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数yは50+40+10+20+30=150である。次に、xをyで除すことによって、x/y(%)を算出することができ、図1の改変フィブロインの場合21/150=14.0%となる。
【0031】
本実施形態に係る改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。これにより、本発明による効果をより一層顕著に奏することができる。
【0032】
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図1の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をwとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をyとしたときに、グルタミン残基含有率はw/yとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0033】
本実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0034】
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105-132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表1に示すとおりである。
【表1】
【0035】
表1に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
【0036】
本実施形態に係る改変フィブロインは、REPの疎水性度が、-0.8以上であることが好ましく、-0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
【0037】
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図1の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をzとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をyとしたときに、REPの疎水性度はz/yとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0038】
天然由来のフィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であり、具体的には、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
【0039】
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、スズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
【0040】
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、AAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
【0041】
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
【0042】
クモ類が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、fibroin-3(adf-3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin-4(adf-4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major angu11ate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major anpullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin-like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0043】
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0044】
NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含む天然由来のフィブロインは129種類存在した。このうち、更に上述の方法により算出されるGPGXXモチーフ含有率が10%以上である天然由来のフィブロインは下記表2に示す6種類であった。表2に示した6種類の天然由来のフィブロインのグルタミン残基含有率は、いずれも9.2%以上であった。
【表2】
【0045】
本実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0046】
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
【0047】
本発明に係る改変フィブロインのより具体的な例として、(i)配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号16、配列番号17、配列番号21若しくは配列番号22で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(ii)配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号16、配列番号17、配列番号21若しくは配列番号22で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0048】
(i)の改変フィブロインについて説明する。
【0049】
配列番号1で示されるアミノ酸配列(M_PRT410)は、天然由来のフィブロインであるNephila clavipes(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、(A)モチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つにする等の生産性を向上させるためのアミノ酸の改変を行ったものである。一方、M_PRT410は、グルタミン残基(Q)の改変は行っていないため、グルタミン残基含有率は、天然由来のフィブロインのグルタミン残基含有率と同程度である。
【0050】
配列番号2で示されるアミノ酸配列(M_PRT888)は、M_PRT410(配列番号1)中のQQを全てVLに置換したものである。
【0051】
配列番号3で示されるアミノ酸配列(M_PRT965)は、M_PRT410(配列番号1)中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。
【0052】
配列番号4で示されるアミノ酸配列(M_PRT889)は、M_PRT410(配列番号1)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0053】
配列番号5で示されるアミノ酸配列(M_PRT916)は、M_PRT410(配列番号1)中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。
【0054】
配列番号6で示されるアミノ酸配列(M_PRT918)は、M_PRT410(配列番号1)中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0055】
配列番号15で示されるアミノ酸配列(M_PRT525)は、M_PRT410(配列番号1)に対し、アラニン残基が連続する領域(A5)に2つのアラニン残基を挿入し、M_PRT410の分子量とほぼ同じになるよう、C末端側のドメイン配列2つを欠失させ、かつグルタミン残基(Q)13箇所をセリン残基(S)又はプロリン残基(P)に置換したものである。
【0056】
配列番号16で示されるアミノ酸配列(M_PRT699)は、M_PRT525(配列番号15)中のQQを全てVLに置換したものである。
【0057】
配列番号17で示されるアミノ酸配列(M_PRT698)は、M_PRT525(配列番号15)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0058】
配列番号21で示されるアミノ酸配列(M_PRT917)は、M_PRT410(配列番号1)中のQQを全てLIに置換し、かつ残りのQをVに置換したものである。
【0059】
配列番号22で示されるアミノ酸配列(M_PRT1028)は、M_PRT410(配列番号1)中のQQを全てIFに置換し、かつ残りのQをTに置換したものである。
【0060】
配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号16、配列番号17、配列番号21及び配列番号22で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率は9%以下である(表3)。
【0061】
【表3】
【0062】
(i)の改変フィブロインは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号16、配列番号17、配列番号21又は配列番号22で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0063】
(ii)の改変フィブロインは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号16、配列番号17、配列番号21又は配列番号22で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0064】
(ii)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(ii)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0065】
上述の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0066】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0067】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0068】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
【0069】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
【0070】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(iii)配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号19、配列番号20、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(iv)配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号19、配列番号20、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0071】
配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号19、配列番号20、配列番号23及び配列番号24で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号16、配列番号17、配列番号21及び配列番号22で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号19、配列番号20、配列番号23及び配列番号24で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表4)。
【表4】
【0072】
(iii)の改変フィブロインは、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号19、配列番号20、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0073】
(iv)の改変フィブロインは、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号19、配列番号20、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0074】
(iv)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(iv)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0075】
上述の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0076】
〔核酸〕
本発明に係る核酸は、本発明に係る改変フィブロインをコードする。核酸の具体例として、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号16、配列番号17、配列番号21若しくは配列番号22で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又はこれらのアミノ酸配列のN末端及びC末端のいずれか一方若しくは両方に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列)を結合させたタンパク質等をコードする核酸等が挙げられる。
【0077】
一実施形態に係る核酸は、本発明に係る改変フィブロインをコードする核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインをコードする核酸である。当該核酸によりコードされる改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、当該核酸によりコードされる改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0078】
「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。低ストリンジェントな条件とは、少なくとも85%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、42℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。中ストリンジェントな条件とは、少なくとも90%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、50℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、少なくとも95%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、60℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0079】
他の実施形態に係る核酸は、本発明に係る改変フィブロインをコードする核酸と90%以上の配列同一性を有し、かつ式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインをコードする核酸である。当該核酸によりコードされる改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、当該核酸によりコードされる改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0080】
〔宿主及び発現ベクター〕
本発明に係る発現ベクターは、本発明に係る核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する。調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
【0081】
本発明に係る宿主は、本発明に係る発現ベクターで形質転換されたものである。宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0082】
発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、本発明に係る核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0083】
細菌等の原核生物を宿主として用いる場合は、本発明に係る発現ベクターは、原核生物中で自立複製が可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、本発明に係る核酸及び転写終結配列を含むベクターであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0084】
原核生物としては、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する微生物を挙げることができる。
【0085】
エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ BL21(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ BL21(DE3)(ライフテクノロジーズ社)、エシェリヒア・コリ BLR(DE3)(メルクミリポア社)、エシェリヒア・コリ DH1、エシェリヒア・コリ GI698、エシェリヒア・コリ HB101、エシェリヒア・コリ JM109、エシェリヒア・コリ K5(ATCC 23506)、エシェリヒア・コリ KY3276、エシェリヒア・コリ MC1000、エシェリヒア・コリ MG1655(ATCC 47076)、エシェリヒア・コリ No.49、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ TB1、エシェリヒア・コリ Tuner(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ Tuner(DE3) (ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ W1485、エシェリヒア・コリ W3110(ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli) XL1-Blue、エシェリヒア・コリ XL2-Blue等を挙げることができる。
【0086】
ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ、ブレビバチルス・ボルステレンシス、ブレビバチルス・セントロポラスブレビバチルス・フォルモサス、ブレビバチルス・インボカツス、ブレビバチルス・ラチロスポラス、ブレビバチルス・リムノフィルス、ブレビバチルス・パラブレビス、ブレビバチルス・レウスゼリ、ブレビバチルス・サーモルバー、ブレビバチルス・ブレビス47(FERM BP-1223)、ブレビバチルス・ブレビス47K(FERM BP-2308)、ブレビバチルス・ブレビス47-5(FERM BP-1664)、ブレビバチルス・ブレビス47-5Q(JCM8975)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31(FERM BP-1087)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31-S(FERM BP-6623)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31-OK(FERM BP-4573)、ブレビバチルス・チョウシネンシスSP3株(Takara社製)等を挙げることができる。
【0087】
セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス(Serratia liquefacience)ATCC14460、セラチア・エントモフィラ(Serratia entomophila)、セラチア・フィカリア(Serratia ficaria)、セラチア・フォンティコーラ(Serratia fonticola)、セラチア・グリメシ(Serratia grimesii)、セラチア・プロテアマキュランス(Serratia proteamaculans)、セラチア・オドリフェラ(Serratia odorifera)、セラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)、セラチア・ルビダエ(Serratia rubidaea)等を挙げることができる。
【0088】
バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)等を挙げることができる。
【0089】
ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム ATCC15354等を挙げることができる。
【0090】
ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)ATCC14020、ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067)ATCC13826,ATCC14067、ブレビバクテリウム・インマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)ATCC14068、ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869)ATCC13665,ATCC13869、ブレビバクテリウム・ロゼウムATCC13825、ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)ATCC14066、ブレビバクテリウム・チオゲニタリスATCC19240、ブレビバクテリウム・アルバムATCC15111、ブレビバクテリウム・セリヌムATCC15112等を挙げることができる。
【0091】
コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)ATCC6871,ATCC6872、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC14067、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)ATCC13870、コリネバクテリウム・アセトグルタミカムATCC15806、コリネバクテリウム・アルカノリティカムATCC21511、コリネバクテリウム・カルナエATCC15991、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13020,ATCC13032,ATCC13060、コリネバクテリウム・リリウムATCC15990、コリネバクテリウム・メラセコーラATCC17965、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネスAJ12340(FERMBP-1539)、コリネバクテリウム・ハーキュリスATCC13868等を挙げることができる。
【0092】
シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・ブラシカセラム(Pseudomonas brassicacearum)、シュードモナス・フルバ(Pseudomonas fulva)、及びシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)D-0110等を挙げることができる。
【0093】
上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110 (1972)〕、プロトプラスト法(特開昭63-248394号公報)、又はGene,17,107(1982)やMolecular & General Genetics,168,111(1979)に記載の方法等を挙げることができる。
【0094】
ブレビバチルス属に属する微生物の形質転換は、例えば、Takahashiらの方法(J.Bacteriol.,1983,156:1130-1134)や、Takagiらの方法(Agric.Biol.Chem.,1989,53:3099-3100)、又はOkamotoらの方法(Biosci.Biotechnol.Biochem.,1997,61:202-203)により実施することができる。
【0095】
本発明に係る核酸を導入するベクター(以下、単に「ベクター」という。)としては、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもベーリンガーマンハイム社より市販)、pKK233-2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX-1(Promega社製)、pQE-8(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58-110600号公報)、pKYP200〔Agric.Biol.Chem.,48,669(1984)〕、pLSA1〔Agric.Biol.Chem.,53,277(1989)〕、pGEL1〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,4306(1985)〕、pBluescript II SK(-)(Stratagene社製)、pTrs30〔Escherichiacoli JM109/pTrS30(FERM BP-5407)より調製〕、pTrs32〔Escherichia coli JM109/pTrS32(FERM BP-5408)より調製〕、pGHA2〔Escherichia coli IGHA2(FERM B-400)より調製、特開昭60-221091号公報〕、pGKA2〔Escherichia coli IGKA2(FERM BP-6798)より調製、特開昭60-221091号公報〕、pTerm2(US4686191、US4939094、US5160735)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pEG400〔J.Bacteriol.,172,2392(1990)〕、pGEX(Pharmacia社製)、pETシステム(Novagen社製)等を挙げることができる。
【0096】
宿主としてEscherichia coliを用いる場合は、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold等を好適なベクターとして挙げることができる。
【0097】
ブレビバチルス属に属する微生物に好適なベクターの具体例として、枯草菌ベクターとして公知であるpUB110、又はpHY500(特開平2-31682号公報)、pNY700(特開平4-278091号公報)、pHY4831(J.Bacteriol.,1987,1239-1245)、pNU200(鵜高重三、日本農芸化学会誌1987,61:669-676)、pNU100(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1989,30:75-80)、pNU211(J.Biochem.,1992,112:488-491)、pNU211R2L5(特開平7-170984号公報)、pNH301(Appl.Environ.Microbiol.,1992,58:525-531)、pNH326、pNH400(J.Bacteriol.,1995,177:745-749)、pHT210(特開平6-133782号公報)、pHT110R2L5(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1994,42:358-363)、又は大腸菌とブレビバチルス属に属する微生物とのシャトルベクターであるpNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0098】
プロモーターとしては、宿主細胞中で機能するものであれば制限されない。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、T7プロモーター等の大腸菌又はファージ等に由来するプロモーターを挙げることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター(Ptrp×2)、tacプロモーター、lacT7プロモーター、let Iプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
【0099】
リボソーム結合配列であるシャイン-ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6~18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。本発明に係る発現ベクターにおいて、本発明に係る核酸の発現には転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
【0100】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母、糸状真菌(カビ等)及び昆虫細胞を挙げることができる。
【0101】
酵母としては、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、シワニオミセス(Schwanniomyces)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属、ヤロウィア属及びハンゼヌラ属等に属する酵母を挙げることができる。より具体的には、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、トリコスポロン・プルランス(Trichosporon pullulans)、シワニオマイセス・アルビウス(Schwanniomyces alluvius)、シワニオマイセス・オシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)ピキア・アングスタ(Pichia angusta)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア・ポリモルファ(Pichia polymorpha)、ピキア・スチピチス(Pichia stipitis)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)等を挙げることができる。
【0102】
酵母を宿主細胞として用いる場合の発現ベクターは通常、複製起点(宿主における増幅が必要である場合)及び大腸菌中でのベクターの増殖のための選抜マーカー、酵母における組換えタンパク質発現のためのプロモーター及びターミネーター、並びに酵母のための選抜マーカーを含むことが好ましい。
【0103】
発現ベクターが非組込みベクターの場合、さらに自己複製配列(ARS)を含むことが好ましい。これにより細胞内における発現ベクターの安定性を向上させることができる(Myers、A.M.、et al.(1986)Gene 45:299-310)。
【0104】
酵母を宿主として用いる場合のベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、YCp50(ATCC37419)、YIp、pHS19、pHS15、pA0804、pHIL3Ol、pHIL-S1、pPIC9K、pPICZα、pGAPZα、pPICZ B等を挙げることができる。
【0105】
プロモーターとしては、酵母中で発現できるものであれば制限されない。例えば、ヘキソースキナーゼ等の解糖系の遺伝子のプロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal 1プロモーター、gal 10プロモーター、ヒートショックポリペプチドプロモーター、MFα1 プロモーター、CUP 1プロモーター、pGAPプロモーター、pGCW14プロモーター、AOX1プロモーター、MOXプロモーター等を挙げることができる。
【0106】
酵母への発現ベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法(Methods Enzymol.,194,182(1990))、スフェロプラスト法(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,4889(1984))、酢酸リチウム法(J.Bacteriol.,153,163(1983))、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)記載の方法等を挙げることができる。
【0107】
糸状真菌としては、例えば、アクレモニウム(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ウスチラーゴ(Ustilago)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ノイロスポラ(Neurospora)属、フザリウム(Fusarium)属、フミコーラ(Humicola)属、ペニシリウム(Penicillium)属、マイセリオフトラ(Myceliophtora)属、ボトリティス(Botryts)属、マグナポルサ(Magnaporthe)属、ムコア(Mucor)属、メタリチウム(Metarhizium)属、モナスカス(Monascus)属、リゾプス(Rhizopus)属、及びリゾムコア属に属する菌等を挙げることができる。
【0108】
糸状真菌の具体例として、アクレモニウム・アラバメンゼ(Acremonium alabamense)、アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)、アスペルギルス・アクレアツス(アキュレータス)(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・サケ(Aspergillus sake)、アスペルギルス・ゾジエ(ソーヤ)(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・テュビゲンシス(Aspergillus tubigensis)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・パラシチクス(Aspergillus parasiticus)、アスペルギルス・フィクム(フィキュウム)(Aspergillus ficuum)、アスペルギルス・フェニクス(Aspergillus phoeicus)、アスペルギルス・フォエチズス(フェチダス)(Aspergillus foetidus)、アスペルギルス・フラーブス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・ヤポニクス(ジャポニカス)(Aspergillus japonicus)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、トリコデルマ・ハージアヌム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reseei)、クリソスポリウム・ルクノエンス(Chrysosporium lucknowense)、サーモアスクス(Thermoascus)、スポロトリクム(Sporotrichum)、スポロトリクム・セルロフィルム(Sporotrichum cellulophilum)、タラロマイセス(Talaromyces)、チエラビア・テレストリス(Thielavia terrestris)、チラビア(Thielavia)、ノイロスポラ・クラザ(Neurospora crassa)、フザリウム・オキシスポーラス(Fusarium oxysporus)、フザリウム・グラミネルム(Fusarium graminearum)、フザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)、フミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)、ペニシリウム・クリゾゲナム(Penicillium chrysogenum)、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)、ペニシリウム・カネセンス(Penicillium canescens)、ペニシリウム・エメルソニ(Penicillium emersonii)、ペニシリウム・フニクロスム(Penicillium funiculosum)、ペニシリウム・グリゼオロゼウム(Penicillium griseoroseum)、ペニシリウム・パープロゲナム(Penicillium purpurogenum)、ペニシリウム・ロケフォルチ(Penicillium roqueforti)、マイセリオフトラ・サーモフィルム(Myceliophtaora thermophilum)、ムコア・アンビグス(Mucor ambiguus)、ムコア・シイルシネロイデェス(Mucor circinelloides)、ムコア・フラギリス(Mucor fragilis)、ムコア・ヘマリス(Mucor hiemalis)、ムコア・イナエクイスポラス(Mucor inaequisporus)、ムコア・オブロンジエリプティカス(Mucor oblongiellipticus)、ムコア・ラセモサス(Mucor racemosus)、ムコア・レクルバス(Mucor recurvus)、ムコア・サトゥルニナス(Mocor saturninus)、ムコア・サブティリススミウス(Mocor subtilissmus)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、ファネロケーテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、リゾムコア・ミーヘイ(Rhizomucor miehei)、リゾムコア・プシルス(Rhizomucor pusillus)、リゾプス・アルヒザス(Rhizopus arrhizus)等を挙げることができる。
【0109】
宿主が糸状真菌である場合のプロモーターとしては、解糖系に関する遺伝子、構成的発現に関する遺伝子、加水分解に関する酵素遺伝子等いずれであってもよく、具体的にはamyB、glaA、agdA、glaB、TEF1、xynF1tannasegene、No.8AN、gpdA、pgkA、enoA、melO、sodM、catA、catB等を挙げることができる。
【0110】
糸状真菌への発現ベクターの導入は、従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、Cohenらの方法(塩化カルシウム法)[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,69:2110(1972)]、プロトプラスト法[Mol.Gen.Genet.,168:111(1979)]、コンピテント法[J.Mol.Biol.,56:209(1971)]、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0111】
昆虫細胞として、例えば、鱗翅類の昆虫細胞が挙げられ、より具体的には、Sf9、及びSf21等のスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来の昆虫細胞、並びに、High 5等のイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)由来の昆虫細胞等が挙げられる。
【0112】
昆虫細胞を宿主として用いる場合のベクターとしては、例えば、夜盗蛾科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等のバキュロウイルス(Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company,New York(1992))を挙げることができる。
【0113】
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、例えばカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company, New York(1992)、Bio/Technology,6,47(1988)等に記載された方法によって、ポリペプチドを発現することができる。すなわち、組換え遺伝子導入ベクター及びバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルス(発現ベクター)を得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、ポリペプチドを発現させることができる。該方法において用いられる遺伝子導入ベクターとしては、例えば、pVL1392、pVL1393、pBlueBacIII(ともにInvitorogen社製)等を挙げることができる。
【0114】
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換え遺伝子導入ベクターとバキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法(特開平2-227075号公報)、リポフェクション法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,7413(1987))等を挙げることができる。
【0115】
本発明に係る組換えベクターは、形質転換体選択のための選択マーカー遺伝子をさらに含有していることが好ましい。例えば、大腸菌においては、選択マーカー遺伝子としては、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の各種薬剤に対する耐性遺伝子を用いることができる。栄養要求性に関与する遺伝子変異を相補できる劣性の選択マーカーも使用できる。酵母においては、選択マーカー遺伝子として、ジェネティシンに対する耐性遺伝子を用いることができ、栄養要求性に関与する遺伝子変異を相補する遺伝子、LEU2、URA3、TRP1、HIS3等の選択マーカーも使用できる。糸状真菌においては、選択マーカー遺伝子として、niaD(Biosci.Biotechnol.Biochem.,59,1795-1797(1995))、argB(Enzyme Microbiol Technol,6,386-389,(1984)),sC(Gene,84,329-334,(1989))、ptrA(BiosciBiotechnol Biochem,64,1416-1421,(2000))、pyrG(BiochemBiophys Res Commun,112,284-289,(1983)),amdS(Gene,26,205-221,(1983))、オーレオバシジン耐性遺伝子(Mol Gen Genet,261,290-296,(1999))、ベノミル耐性遺伝子(Proc Natl Acad Sci USA,83,4869-4873,(1986))及びハイグロマイシン耐性遺伝子(Gene,57,21-26,(1987))からなる群より選ばれるマーカー遺伝子、ロイシン要求性相補遺伝子等が挙げられる。また、宿主が栄養要求性変異株の場合には、選択マーカー遺伝子として当該栄養要求性を相補する野生型遺伝子を用いることもできる。
【0116】
本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主の選択は、本発明に係る核酸に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション及びコロニーハイブリダイゼーション等で行うことができる。当該プローブとしては、本発明に係る核酸の配列情報に基づき、PCR法によって増幅した部分DNA断片をラジオアイソトープ又はジゴキシゲニンで修飾したものを用いることができる。
【0117】
〔改変フィブロインの生産〕
本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主において、本発明に係る核酸を発現させることにより、本発明に係る改変フィブロインを生産することができる。発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。酵母、動物細胞、昆虫細胞により発現させた場合には、糖又は糖鎖が付加されたポリペプチドとして改変フィブロインを得ることができる。
【0118】
本発明に係る改変フィブロインは、例えば、本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に本発明に係る改変フィブロインを生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。本発明に係る宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0119】
本発明に係る宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、本発明に係る宿主の培養培地として、該宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、該宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0120】
炭素源としては、該宿主が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。
【0121】
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。
【0122】
無機塩としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0123】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0124】
また、培養中必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0125】
昆虫細胞の培養培地としては、一般に使用されているTNM-FH培地(Pharmingen社製)、Sf-900 II SFM培地(Life Technologies社製)、ExCell400、ExCell405(いずれもJRH Biosciences社製)、Grace’s Insect Medium(Nature,195,788(1962))等を用いることができる。
【0126】
昆虫細胞の培養は、例えば、培養培地のpH6~7、培養温度25~30℃等の条件下で、培養時間1~5日間とすることができる。また、培養中必要に応じて、ゲンタマイシン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。
【0127】
宿主が植物細胞の場合、形質転換された植物細胞をそのまま培養してもよく、また植物の器官に分化させて培養することができる。該植物細胞を培養する培地としては、一般に使用されているムラシゲ・アンド・スクーグ(MS)培地、ホワイト(White)培地、又はこれらの培地にオーキシン、サイトカイニン等、植物ホルモンを添加した培地等を用いることができる。
【0128】
動物細胞の培養は、例えば、培養培地のpH5~9、培養温度20~40℃等の条件下で、培養時間3~60日間とすることができる。また、培養中必要に応じて、カナマイシン、ハイグロマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0129】
本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主を用いて改変フィブロインを生産する方法としては、該改変フィブロインを宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、及び宿主細胞外膜上に生産させる方法がある。使用する宿主細胞、及び生産させる改変フィブロインの構造を変えることにより、これらの各方法を選択することができる。
【0130】
例えば、改変フィブロインが宿主細胞内又は宿主細胞外膜上に生産される場合、ポールソンらの方法(J.Biol.Chem.,264,17619(1989))、ロウらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990))、又は特開平5-336963号公報、国際公開第94/23021号等に記載の方法を準用することにより、改変フィブロインを宿主細胞外に積極的に分泌させるように変更させることができる。すなわち、遺伝子組換えの手法を用いて、改変フィブロインの活性部位を含むポリペプチドにシグナルペプチドを付加した形で発現させることにより、改変フィブロインを宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。
【0131】
本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主により生産された改変フィブロインは、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法で単離及び精製することができる。例えば、改変フィブロインが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0132】
上記クロマトグラフィーとしては、フェニル-トヨパール(東ソー)、DEAE-トヨパール(東ソー)、セファデックスG-150(ファルマシアバイオテク)を用いたカラムクロマトグラフィーが好ましく用いられる。
【0133】
また、改変フィブロインが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として改変フィブロインの不溶体を回収する。回収した改変フィブロインの不溶体は蛋白質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により改変フィブロインの精製標品を得ることができる。
【0134】
改変フィブロイン、又は改変フィブロインに糖鎖の付加された誘導体が細胞外に分泌された場合には、培養上清から改変フィブロイン又はその誘導体を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、該培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0135】
〔紡糸〕
本発明に係る改変フィブロインは、上述のように生産及び精製した後、フィブロインの紡糸に通常使用されている方法で紡糸することができる。例えば、本発明に係る改変フィブロインを溶媒に溶解させた紡糸液(ドープ液)を、紡糸することにより、本発明に係る改変フィブロインで形成された繊維を得ることができる。
【0136】
紡糸液は、改変フィブロインに溶媒を加え、紡糸できる粘度に調整して作製する。溶媒は、改変フィブロインを溶解することができるものであればよい。溶媒として、例えば、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ヘキサフルオロアセトン(HFA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、蟻酸、尿素、グアニジン、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、臭化リチウム、塩化カルシウム、チオシアン酸リチウム等を含む水溶液等を挙げることができる。
【0137】
紡糸液には、必要に応じて無機塩を添加してもよい。無機塩としては、例えば、以下に示すルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩が挙げられる。ルイス塩基としては、例えば、オキソ酸イオン(硝酸イオン、過塩素酸イオン等)、金属オキソ酸イオン(過マンガン酸イオン等)、ハロゲン化物イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン等が挙げられる。ルイス酸としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の金属イオン、アンモニウムイオン等の多原子イオン、錯イオン等が挙げられる。ルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩の具体例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、過塩素酸リチウム、及びチオシアン酸リチウム等のリチウム塩、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、過塩素酸カルシウム、及びチオシアン酸カルシウム等のカルシウム塩、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硝酸鉄、過塩素酸鉄、及びチオシアン酸鉄等の鉄塩、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硝酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、及びチオシアン酸アルミニウム等のアルミニウム塩、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硝酸カリウム、過塩素酸カリウム、及びチオシアン酸カリウム等のカリウム塩、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、及びチオシアン酸ナトリウム等のナトリウム塩、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、硝酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、及びチオシアン酸亜鉛等の亜鉛塩、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硝酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、及びチオシアン酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、硝酸バリウム、過塩素酸バリウム、及びチオシアン酸バリウム等のバリウム塩、並びに塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸ストロンチウム、及びチオシアン酸ストロンチウム等のストロンチウム塩が挙げられる。
【0138】
紡糸液の粘度は、紡糸方法に応じて適宜設定すればよく、例えば、35℃において100~15,000cP(センチポイズ)とすることができる。紡糸液の粘度は、例えば京都電子工業社製の商品名“EMS粘度計”を使用して測定することができる。
【0139】
紡糸方法としては、本発明に係る改変フィブロインを紡糸できる方法であれば特に制限されず、例えば、乾式紡糸、溶融紡糸、湿式紡糸等を挙げることができる。好ましい紡糸方法としては、湿式紡糸を挙げることができる。
【0140】
湿式紡糸では、改変フィブロインを溶解させた溶媒を紡糸口金(ノズル)から凝固液(凝固液槽)の中に押出して、凝固液中で改変フィブロインを固めることにより糸の形状の未延伸糸を得ることができる。凝固液としては、脱溶媒できる溶液であればよく、例えば、メタノール、エタノール及び2-プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコール、並びにアセトン等を挙げることができる。凝固液には、適宜水を加えてもよい。凝固液の温度は、0~30℃であることが好ましい。紡糸口金として、直径0.1~0.6mmのノズルを有するシリンジポンプを使用する場合、押し出し速度は1ホール当たり、0.2~6.0ml/時間が好ましく、1.4~4.0ml/時間であることがより好ましい。凝固液槽の長さは、脱溶媒が効率的に行える長さがあればよく、例えば、200~500mmである。未延伸糸の引き取り速度は、例えば、1~20m/分であってよく、1~3m/分であることが好ましい。滞留時間は、例えば、0.01~3分であってよく、0.05~0.15分であることが好ましい。また、凝固液中で延伸(前延伸)をしてもよい。低級アルコールの蒸発を抑えるため凝固液を低温に維持し、未延伸糸の状態で引き取ってもよい。凝固液槽は多段設けてもよく、また延伸は必要に応じて、各段、又は特定の段で行ってもよい。
【0141】
上記の方法で得られた未延伸糸(又は前延伸糸)は、延伸工程を経て延伸糸(フィブロイン繊維)とすることができる。延伸方法としては、湿熱延伸、乾熱延伸等をあげることができる。
【0142】
湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中、スチーム加熱中で行うことができる。温度としては、例えば、50~90℃であってよく、75~85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、1~10倍延伸することができ、2~8倍延伸することが好ましい。
【0143】
乾熱延伸は、電気管状炉、乾熱板等を使用して行うことができる。温度としては、例えば、140℃~270℃であってよく、160℃~230℃が好ましい。乾熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、0.5~8倍延伸することができ、1~4倍延伸することが好ましい。
【0144】
湿熱延伸及び乾熱延伸はそれぞれ単独で行ってもよく、またこれらを多段で、又は組み合わせて行ってもよい。すなわち、一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を乾熱延伸で行う、又は一段目延伸を湿熱延伸行い、二段目延伸を湿熱延伸行い、更に三段目延伸を乾熱延伸で行う等、湿熱延伸及び乾熱延伸を適宜組み合わせて行うことができる。
【0145】
延伸工程における最終的な延伸倍率は、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、例えば、5~20倍であり、6~11倍であることが好ましい。
【0146】
本発明に係る改変フィブロインは、延伸してフィブロイン繊維とした後、フィブロイン繊維内のポリペプチド分子間で化学的に架橋させてもよい。架橋させることができる官能基は、例えば、アミノ基、カルボキシル基、チオール基及びヒドロキシ基等が挙げられる。例えば、ポリペプチドに含まれるリジン側鎖のアミノ基は、グルタミン酸又はアスパラギン酸側鎖のカルボキシル基と脱水縮合によりアミド結合で架橋できる。真空加熱下で脱水縮合反応を行なうことにより架橋してもよいし、カルボジイミド等の脱水縮合剤により架橋させてもよい。
【0147】
ポリペプチド分子間の架橋は、カルボジイミド、グルタルアルデヒド等の架橋剤を用いて行ってもよく、トランスグルタミナーゼ等の酵素を用いて行ってもよい。カルボジイミドは、一般式RN=C=NR(但し、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基、シクロアルキル基を含む有機基を示す。)で示される化合物である。カルボジイミドの具体例として、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)等が挙げられる。これらの中でも、EDC及びDICはポリペプチド分子間のアミド結合形成能が高く、架橋反応し易いことから好ましい。
【0148】
架橋処理は、フィブロイン繊維に架橋剤を付与して真空加熱乾燥で架橋するのが好ましい。架橋剤は純品をフィブロイン繊維に付与してもよいし、炭素数1~5の低級アルコール及び緩衝液等で0.005~10質量%の濃度に希釈したものをフィブロイン繊維に付与してもよい。架橋処理は、温度20~45℃で3~42時間行うのが好ましい。架橋処理により、フィブロイン繊維に更に高い応力(強度)を付与することができる。
【0149】
〔フィブロイン繊維の収縮性評価〕
図2は、水等との接触によるフィブロイン繊維の長さ変化の例を示す図である。フィブロイン繊維は、沸点未満の水に接触(湿潤)させることにより収縮する(一次収縮)特性を有する。一次収縮後、乾燥させると更に収縮する(二次収縮)。二次収縮後、再度沸点未満の水に接触させると二次収縮前の長さにまで膨張し、以後乾燥と湿潤を繰り返すと、二次収縮と同程度の幅(図2の「伸縮率」)で、収縮と膨張を繰り返す(図2)。フィブロイン繊維において、このような収縮が少ない程好ましいが、特にフィブロイン繊維からなる織物等の製品においては、この二次収縮が少ないことが好ましい。
【0150】
二次収縮は、以下の方法で求められる二次収縮率を指標として評価することができる。
<二次収縮率>
長さ約30cmの複数本のフィブロイン繊維を束ね、繊度150デニールの繊維束とする。この繊維束に0.8gの鉛錘を取り付け、その状態で繊維束を40℃の水に10分間浸漬し一次収縮させ、水中で繊維束の長さを測定する。
一次収縮した繊維束を水中から取り出し、0.8gの鉛錘を取り付けたまま室温で2時間おいて乾燥させる。乾燥後、繊維束の長さを測定する。再度、湿潤、乾燥を少なくとも3回繰り返し、湿潤時の平均の長さ(Lwet)、乾燥時の平均の長さ(Ldry)を求める。二次収縮率は下記式に従って算出される。
式:二次収縮率(%)=(1-(Ldry/Lwet))*100
【0151】
天然由来のフィブロインを紡糸したフィブロイン繊維は、通常、二次収縮率は11~20%であるが、本発明に係る改変フィブロインを紡糸したフィブロイン繊維は、二次収縮率を8%以下に低減することができる。
【0152】
〔フィルム〕
本発明に係るフィルムは、本発明に係る改変フィブロインを溶媒に溶解させたドープ溶液を調製し、当該ドープ液を基材表面にキャスト成形し、乾燥及び/又は脱溶媒することにより得ることができる。
【0153】
溶媒としては、紡糸液(ドープ液)で例示した溶媒と同種のものを挙げることができる。また、溶媒としては、ギ酸、ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)、又はジメチルスルホキシド等の極性溶媒が好ましい。ドープ液には、必要に応じて無機塩を添加してもよい。無機塩としては、紡糸液(ドープ液)で例示した無機塩と同種のものを挙げることができる。
【0154】
ドープ溶液の粘度は15~80cP(センチポアズ)であることが好ましく、20~70cPであることがより好ましい。
【0155】
ドープ溶液を100質量%としたとき、本発明に係る改変フィブロインの濃度は3~50質量%であることが好ましく、3.5~35質量%であることがより好ましく、4.2~15.8質量%であることがさらに好ましい。
【0156】
ドープ溶液調製時に、30~60℃に加温して行ってもよい。溶解を促進するために振盪、撹拌してもよい。
【0157】
基材は、樹脂基板、ガラス基板、金属基板等であってよい。基材は、キャスト成形後のフィルムを容易に剥離できる観点から、好ましくは樹脂基板である。樹脂基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、又はこれらのフィルム表面にシリコーン化合物を固定化させた剥離フィルムであってよい。基材は、HFIP、DMSO溶媒等に対して安定であり、ドープ溶液を安定してキャスト成形でき、成形後のフィルムを容易に剥離できる観点から、PETフィルム又はPETフィルム表面にシリコーン化合物を固定化させた剥離フィルムであることがより好ましい。
【0158】
具体的な手順を説明すると、まずドープ液を基材表面に流延し、アプリケーター、ナイフコーター、バーコーター等の膜厚制御手段を使用して、所定の厚さ(例えば、乾燥及び/又は脱溶媒後の厚さで1~1000μm)の濡れ膜を作製する。
【0159】
乾燥及び/又は脱溶媒は、乾式又は湿式で行うことができる。乾式で行う方法としては、真空乾燥、熱風乾燥、風乾等を挙げることができる。湿式で行う方法としては、キャストフィルムを脱溶媒液(凝固液とも言う)に浸漬して溶媒を脱離する方法等を挙げることができる。脱溶媒液として、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコール等のアルコール液、水とアルコールとの混合液等を挙げることができる。脱溶媒液(凝固液)の温度は0~90℃であることが好ましい。
【0160】
乾燥及び/又は脱溶媒後の未延伸フィルムは、水中で1軸延伸又は2軸延伸することができる。2軸延伸は、逐次延伸でも同時2軸延伸でもよい。2段以上の多段延伸をしてもよい。延伸倍率は、縦、横ともに、好ましくは1.01~6倍、より好ましくは1.05~4倍である。この範囲であると応力-歪のバランスがとりやすい。水中延伸は、20~90℃の水温で行われることが好ましい。延伸後のフィルムは、50~200℃の乾熱で5~600秒間熱固定することが好ましい。この熱固定により、常温における寸法安定性が得られる。なお、1軸延伸したフィルムは1軸配向フィルムとなり、2軸延伸したフィルムは2軸配向フィルムとなる。
【0161】
〔フィルムの耐水性評価〕
フィルムの耐水性は、塩類の飽和水溶液を用いた飽和塩法を利用し、高湿度下での吸湿の度合いを測定することにより評価することができる。
【0162】
塩類としては、硫酸カリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、炭酸カリウム、塩化マグネシウム等を挙げることができる。
【0163】
フィルムの耐水性は、例えば、硫酸カリウムの飽和水溶液を入れたファルコンチューブ等の密閉容器に、適当な大きさに切断したフィルムを、水溶液に浸からないように設置し、例えば、相対湿度98%のような高湿度で平衡状態にある空気中で、20~48時間静置し、フィルムの重量及び水分含量を測定し、重量あたりの水分含量より水分率をもとめることにより、評価することができる。
【0164】
〔製品〕
本発明に係る改変フィブロインから形成されたフィブロイン繊維は、繊維(長繊維、短繊維、マルチフィラメント、又は物フィラメント等)又は糸(紡績糸、撚糸、仮撚糸、加工糸、混繊糸、混紡糸等)として、織物、編物、組み物、不織布等に応用できる。また、ロープ、手術用縫合糸、電気部品用の可撓性止め具、さらには移植用生理活性材料(例えば、人工靭帯及び大動脈バンド)等の高強度用途にも応用できる。
【0165】
また、本発明に係る改変フィブロインは、フィルム以外にも、発泡体、粒体(球体又は非球体等)、ナノフィブリル、ゲル(ヒドロゲル等)、樹脂及びその等価物にも応用でき、これらは、特開2009-505668号公報、特許第5678283号公報、特許第4638735号公報等に記載の方法に準じて製造することができる。
【0166】
〔人造改変フィブロイン繊維〕
本実施形態に係る人造改変フィブロイン繊維は、改変フィブロインを含むものであり、湿潤状態にした際に伸長し、かつ湿潤状態から乾燥した際に収縮するものである(図2の「二次収縮」以降の伸縮に相当する。)。
【0167】
本実施形態に係る人造改変フィブロイン繊維における改変フィブロインは、上述した改変フィブロインの定義に該当するものであればよく、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する改変フィブロインに限られない。当該改変フィブロインとしては、改変絹(シルク)フィブロイン(カイコが産生する絹タンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、改変クモ糸フィブロイン(クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよい。改変フィブロインとしては、改変クモ糸フィブロインが好ましい。改変フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)、(A)モチーフの含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)モチーフの含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)、並びにグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)が挙げられる。
【0168】
第1の改変フィブロインとしては、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の改変フィブロインにおいて、(A)モチーフのアミノ酸残基数は、3~20の整数が好ましく、4~20の整数がより好ましく、8~20の整数が更に好ましく、10~20の整数が更により好ましく、4~16の整数が更によりまた好ましく、8~16の整数が特に好ましく、10~16の整数が最も好ましい。第1の改変フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10~200残基であることが好ましく、10~150残基であることがより好ましく、20~100残基であることが更に好ましく、20~75残基であることが更により好ましい。第1の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
【0169】
第1の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号25~27のいずれかに示されるアミノ酸配列又は配列番号25~27のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であるポリペプチドであってもよい。
【0170】
配列番号25に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号26に示されるアミノ酸配列は、配列番号25に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号27に示されるアミノ酸配列は、配列番号25に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
【0171】
第1の改変フィブロインのより具体的な例として、(1-i)配列番号28(recombinant spider silk protein ADF3KaiLargeNRSH1)で示されるアミノ酸配列、又は(1-ii)配列番号28で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0172】
配列番号28で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号29)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1~13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号28で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号27で示されるアミノ酸配列と同一である。
【0173】
(1-i)の改変フィブロインは、配列番号28で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0174】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第2の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0175】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0176】
第2の改変フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
【0177】
第2の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0178】
第2の改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
【0179】
第2の改変フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
【0180】
第2の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0181】
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、フェニルアラニン(F)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
【0182】
第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2-i)配列番号30(Met-PRT380)、配列番号31(Met-PRT410)、配列番号32(Met-PRT525)若しくは配列番号33(Met-PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2-ii)配列番号30、配列番号31、配列番号32若しくは配列番号33で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0183】
(2-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号30で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号34(Met-PRT313)で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号31で示されるアミノ酸配列は、配列番号30で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)モチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号32で示されるアミノ酸配列は、配列番号31で示されるアミノ酸配列の各(A)モチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号31の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号33で示されるアミノ酸配列は、配列番号31で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端に所定のヒンジ配列とHisタグ配列が付加されたものである。
【0184】
配列番号34で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号30で示されるアミノ酸配列、配列番号31で示されるアミノ酸配列、配列番号32で示されるアミノ酸配列、及び配列番号33で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号34、配列番号30、配列番号31、配列番号32及び配列番号33で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8~11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.8%である。
【0185】
(2-i)の改変フィブロインは、配列番号30、配列番号31、配列番号32又は配列番号33で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0186】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号30、配列番号31、配列番号32又は配列番号33で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0187】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号30、配列番号31、配列番号32又は配列番号33で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0188】
第2の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0189】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号35で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0190】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0191】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
【0192】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
【0193】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(2-iii)配列番号36(PRT380)、配列番号37(PRT410)、配列番号38(PRT525)若しくは配列番号39(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2-iv)配列番号36、配列番号37、配列番号38若しくは配列番号39で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0194】
配列番号40(PRT313)、配列番号36、配列番号37、配列番号38及び配列番号39で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号40、配列番号30、配列番号31、配列番号32及び配列番号33で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号35で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0195】
(2-iii)の改変フィブロインは、配列番号36、配列番号37、配列番号38又は配列番号39で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0196】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号36、配列番号37、配列番号38又は配列番号39で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0197】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号36、配列番号37、配列番号38又は配列番号39で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0198】
第2の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0199】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)モチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第3の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0200】
第3の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインから(A)モチーフを10~40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0201】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1~3つの(A)モチーフ毎に1つの(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0202】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)モチーフの欠失、及び1つの(A)モチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0203】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0204】
第3の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比(ギザ比率)が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0205】
第3の改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9~11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8~3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
【0206】
第3の改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
【0207】
第3の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)モチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)モチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0208】
第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3-i)配列番号41(Met-PRT399)、配列番号31(Met-PRT410)、配列番号32(Met-PRT525)若しくは配列番号33(Met-PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3-ii)配列番号41、配列番号31、配列番号32若しくは配列番号33で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0209】
(3-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号41で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号34(Met-PRT313)で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)モチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号31、配列番号32又は配列番号33で示されるアミノ酸配列は、第2の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0210】
配列番号34で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)のギザ比率1:1.8~11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号41で示されるアミノ酸配列、及び配列番号31で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号32で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号33で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.8%である。配列番号34、配列番号41、配列番号31、配列番号32及び配列番号33で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
【0211】
(3-i)の改変フィブロインは、配列番号41、配列番号31、配列番号32又は配列番号33で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0212】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号41、配列番号31、配列番号32又は配列番号33で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0213】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号41、配列番号31、配列番号32又は配列番号33で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3(ギザ比率が1:1.8~11.3)となる隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0214】
第3の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
【0215】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(3-iii)配列番号42(PRT399)、配列番号37(PRT410)、配列番号38(PRT525)若しくは配列番号39(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3-iv)配列番号42、配列番号37、配列番号38若しくは配列番号39で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0216】
配列番号42、配列番号37、配列番号38及び配列番号39で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号41、配列番号31、配列番号32及び配列番号33で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号35で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0217】
(3-iii)の改変フィブロインは、配列番号42、配列番号37、配列番号38又は配列番号39で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0218】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号42、配列番号37、配列番号38又は配列番号39で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0219】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号42、配列番号37、配列番号38又は配列番号39で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0220】
第3の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0221】
第4の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)モチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。第4の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、第4の改変フィブロインは、上述した第2の改変フィブロインと、第3の改変フィブロインの特徴を併せ持つ改変フィブロインである。具体的な態様等は、第2の改変フィブロイン、及び第3の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0222】
第4の改変フィブロインのより具体的な例として、(4-i)配列番号31(Met-PRT410)、配列番号32(Met-PRT525)、配列番号33(Met-PRT799)、配列番号37(PRT410)、配列番号38(PRT525)若しくは配列番号39(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(4-ii)配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号37、配列番号38若しくは配列番号39で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号37、配列番号38又は配列番号39で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
【0223】
第5の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0224】
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2~4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
【0225】
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
【0226】
第5の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0227】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0228】
第5の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
【0229】
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105-132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、上記表1に示すとおりである。
【0230】
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1~4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
【0231】
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4-1=7。「-1」は重複分の控除である。)。
【0232】
第5の改変フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
【0233】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
【0234】
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
【0235】
第5の改変フィブロインのより具体的な例として、(5-i)配列番号43(Met-PRT720)、配列番号44(Met-PRT665)若しくは配列番号45(Met-PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5-ii)配列番号43、配列番号44若しくは配列番号45で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0236】
(5-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号43で示されるアミノ酸配列は、配列番号31(Met-PRT410)で示されるアミノ酸配列に対し、C末端側の端末のドメイン配列を除いて、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号44で示されるアミノ酸配列は、配列番号42(Met-PRT525)で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号45で示されるアミノ酸配列は、配列番号32で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
【0237】
(5-i)の改変フィブロインは、配列番号43、配列番号44又は配列番号45で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0238】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号43、配列番号44又は配列番号45で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0239】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号43、配列番号44又は配列番号45で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0240】
第5の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
【0241】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(5-iii)配列番号46(PRT720)、配列番号47(PRT665)若しくは配列番号48(PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5-iv)配列番号46、配列番号47若しくは配列番号48で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0242】
配列番号46、配列番号47及び配列番号48で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号43、配列番号44及び配列番号45で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号35で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0243】
(5-iii)の改変フィブロインは、配列番号46、配列番号47又は配列番号48で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0244】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号46、配列番号47又は配列番号48で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0245】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号46、配列番号47又は配列番号48で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0246】
第5の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0247】
第6の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第6の改変フィブロインの好ましい態様等は、上述のとおりである。
【0248】
本実施形態に係る人造改変フィブロイン繊維における改変フィブロインとしては、水との接触及びその後の乾燥による寸法変化(伸長及び収縮)の際、当該伸長と収縮の程度が同程度(復元率が100%に近い)であり、元の長さに戻ることができるという特性を有することに加え、水との接触及びその後の乾燥による寸法変化が低減されていることから、第6の改変フィブロインであることが好ましい。
【0249】
本実施形態に係る人造改変フィブロイン繊維は、改変フィブロインを紡糸した原料繊維を水により収縮させる収縮工程を備える製造方法により得ることができる。収縮工程は、例えば、原料繊維(紡糸後、水と接触する前の原料繊維)を、水と接触させて不可逆的に収縮させるステップ(接触ステップ)を備えるものであってよい。収縮工程は、接触ステップの後、繊維を乾燥させて更に収縮させるステップ(乾燥ステップ)を備えるものであってもよい。
【0250】
原料繊維は、公知の紡糸方法を利用して製造することができる。具体的には例えば、上述したフィブロイン繊維の紡糸方法に従って、製造することができる。
【0251】
図3は、原料繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。図3に示す紡糸装置10は、乾湿式紡糸用の紡糸装置の一例であり、押出し装置1と、未延伸糸製造装置2と、湿熱延伸装置3と、乾燥装置4とを有している。
【0252】
紡糸装置10を使用した紡糸方法を説明する。まず、貯槽7に貯蔵されたドープ液6が、ギアポンプ8により口金9から押し出される。ラボスケールにおいては、ドープ液をシリンダーに充填し、シリンジポンプを用いてノズルから押し出してもよい。次いで、押し出されたドープ液6は、エアギャップ19を経て、凝固液槽20の凝固液11内に供給され、溶媒が除去されて、改変フィブロインが凝固し、繊維状凝固体が形成される。次いで、繊維状凝固体が、延伸浴槽21内の温水12中に供給されて、延伸される。延伸倍率は供給ニップローラ13と引き取りニップローラ14との速度比によって決まる。その後、延伸された繊維状凝固体が、乾燥装置4に供給され、糸道22内で乾燥されて、原料繊維が、巻糸体5として得られる。18a~18gは糸ガイドである。
【0253】
凝固液11としては、脱溶媒できる溶媒であればよく、例えば、メタノール、エタノール及び2-プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコール、並びにアセトン等を挙げることができる。凝固液11は、適宜水を含んでいてもよい。凝固液11の温度は、0~30℃であることが好ましい。口金9として、直径0.1~0.6mmのノズルを有するシリンジポンプを使用する場合、押出し速度は1ホール当たり、0.2~6.0ml/時間が好ましく、1.4~4.0ml/時間であることがより好ましい。凝固したタンパク質が凝固液11中を通過する距離(実質的には、糸ガイド18aから糸ガイド18bまでの距離)は、脱溶媒が効率的に行える長さがあればよく、例えば、200~500mmである。未延伸糸の引き取り速度は、例えば、1~20m/分であってよく、1~3m/分であることが好ましい。凝固液11中での滞留時間は、例えば、0.01~3分であってよく、0.05~0.15分であることが好ましい。また、凝固液11中で延伸(前延伸)をしてもよい。凝固液槽20は多段設けてもよく、また延伸は必要に応じて、各段、又は特定の段で行ってもよい。
【0254】
なお、原料繊維を得る際に実施される延伸は、例えば、上記した凝固液槽20内で行う前延伸、及び延伸浴槽21内で行う湿熱延伸の他、乾熱延伸も採用される。
【0255】
湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中、又はスチーム加熱中で行うことができる。温度としては、例えば、50~90℃であってよく、75~85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、1~10倍延伸することができ、2~8倍延伸することが好ましい。
【0256】
乾熱延伸は、電気管状炉、乾熱板等を使用して行うことができる。温度としては、例えば、140℃~270℃であってよく、160℃~230℃が好ましい。乾熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、0.5~8倍延伸することができ、1~4倍延伸することが好ましい。
【0257】
湿熱延伸及び乾熱延伸はそれぞれ単独で行ってもよく、またこれらを多段で、又は組み合わせて行ってもよい。すなわち、一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を乾熱延伸で行う、又は一段目延伸を湿熱延伸行い、二段目延伸を湿熱延伸行い、更に三段目延伸を乾熱延伸で行う等、湿熱延伸及び乾熱延伸を適宜組み合わせて行うことができる。
【0258】
最終的な延伸倍率は、その下限値が、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、好ましくは、1倍超、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上のうちのいずれかであり、上限値が、好ましくは40倍以下、30倍以下、20倍以下、15倍以下、14倍以下、13倍以下、12倍以下、11倍以下、10倍以下である。原料繊維が2倍以上の延伸倍率で紡糸された繊維であると、原料繊維を水に接触させて湿潤状態にした際の収縮率は、より高くなる。
【0259】
図2に示すとおり、原料繊維(改変フィブロインを含む繊維)は、水に接触(湿潤)させることにより収縮する(図2中、「一次収縮」で示した長さ変化)特性を有する。一次収縮後、乾燥させると更に収縮する(図2中、「二次収縮」で示した長さ変化)。二次収縮後、再度水に接触させると二次収縮前と同一又はそれに近似した長さにまで伸長し、以後乾燥と湿潤を繰り返すと、二次収縮と同程度の幅(図2中、「伸縮率」で示した幅)で、収縮と伸長を繰り返す。したがって、少なくとも接触ステップを含む収縮工程を備える製造方法により、本実施形態に係る人造改変フィブロイン繊維を得ることができる。
【0260】
接触ステップでの原料繊維(改変フィブロインを含む繊維)の不可逆的な収縮(図2中の「一次収縮」)は、例えば、以下の理由により生ずると考えられる。すなわち、一つの理由は、原料繊維(改変フィブロインを含む繊維)の二次構造や三次構造に起因すると考えられ、また別の一つの理由は、例えば、製造工程での延伸等によって残留応力を有する原料繊維(改変フィブロインを含む繊維)において、水が繊維間又は繊維内へ浸入することにより、残留応力が緩和されることで生ずると考えられる。したがって、収縮工程での原料繊維(改変フィブロインを含む繊維)の収縮率は、例えば、上記した原料繊維(改変フィブロインを含む繊維)の製造過程での延伸倍率の大きさに応じて任意にコントロールすることもできると考えられる。
【0261】
接触ステップでは、紡糸後、水と接触する前の原料繊維を水と接触させて、原料繊維を湿潤状態にする。湿潤状態とは、原料繊維の少なくとも一部が水で濡れた状態を意味する。これにより、外力によらずに原料繊維を収縮させることができる。この収縮は不可逆的なものである(図2の「一次収縮」に相当する)。
【0262】
接触ステップで原料繊維に接触させる水の温度は、沸点未満であってよい。これにより、取扱い性及び収縮工程の作業性等が向上する。また、収縮時間を充分に短縮するという観点からは、水の温度の下限値が、10℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが更に好ましい。水の温度の上限値は90℃以下であることが好ましい。
【0263】
接触ステップにおいて、水を原料繊維に接触させる方法は、特に限定されない。当該方法として、例えば、原料繊維を水中に浸漬する方法、原料繊維に対して水を常温で又は加温したスチーム等の状態で噴霧する方法、及び原料繊維を水蒸気が充満した高湿度環境下に暴露する方法等が挙げられる。これらの方法の中でも、接触ステップにおいては、収縮時間の短縮化が効果的に図れるとともに、加工設備の簡素化等が実現できることから、原料繊維を水中に浸漬する方法が好ましい。
【0264】
接触ステップにおいて、原料繊維を弛緩させた状態で水に接触させると、原料繊維が、単に収縮するだけでなく、波打つように縮れてしまうことがある。このような縮れの発生を防止するために、例えば、原料繊維を繊維軸方向に緊張させ(引っ張り)ながら水と接触させるなど、原料繊維を弛緩させない状態で接触ステップを実施してもよい。
【0265】
本実施形態に係る人造改変フィブロイン繊維の製造方法は、乾燥ステップを更に備えるものであってもよい。乾燥ステップは、接触ステップを経た原料繊維(又は接触ステップを経て得られた人造改変フィブロイン繊維)を乾燥させて更に収縮させる工程である(図2の「二次収縮」に相当する)。乾燥は、例えば、自然乾燥でもよく、乾燥設備を使用して強制的に乾燥させてもよい。乾燥設備としては、接触型又は非接触型の公知の乾燥設備がいずれも使用可能である。また、乾燥温度も、例えば、原料繊維に含まれるタンパク質が分解したり、原料繊維が熱的損傷を受けたりする温度よりも低い温度であれば何ら限定されるものではないが、一般には、20~150℃の範囲内の温度であり、50~100℃の範囲内の温度であることが好ましい。温度がこの範囲にあることにより、繊維の熱的損傷、又は繊維に含まれるタンパク質の分解が生ずることなく、繊維が、より迅速且つ効率的に乾燥される。乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜に設定され、例えば、過乾燥による人造改変フィブロイン繊維の品質及び物性等への影響が可及的に排除され得る時間等が採用される。
【0266】
本実施形態に係る人造改変フィブロイン繊維は、例えば、上述の製造方法により得られるものであるため、紡糸過程での延伸により生じる残留応力を実質的に含まないものである。
【0267】
本実施形態に係る人造改変フィブロイン繊維は、下記式(1)で定義される復元率が95%以上であってよい。
式(1):復元率=(湿潤状態から乾燥した際の人造改変フィブロイン繊維の長さ/湿潤状態にする前の人造改変フィブロイン繊維の長さ)×100(%)
【0268】
式(1)で定義される復元率が高い程、湿潤/乾燥時において、より元の長さに戻ることができるといえる。本実施形態に係る人造改変フィブロイン繊維は、式(1)で定義される復元率が96%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましく、98%以上であることが更に好ましく、99%以上であることが更により好ましい。
【0269】
本実施形態に係る人造改変フィブロイン繊維は、下記式(4)で定義される伸長率が17%以下であってもよい。式(4)で定義される伸長率は、人造改変フィブロイン繊維を湿潤状態にした際の伸長特性の指標となる。
式(4):伸長率={(湿潤状態にした際の人造改変フィブロイン繊維の長さ/湿潤状態にする前の人造改変フィブロイン繊維の長さ)-1}×100(%)
【0270】
式(4)で定義される伸長率の上限としては、15%以下、13%以下、10%以下又は5%以下が例示され、下限としては、0%超、1%以上、2%以上、5%以上、10%以上又は13%以上が例示される。式(4)で定義される伸長率は、例えば、0%超かつ17%以下であってよく、0%超かつ15%以下であってよく、2%以上かつ15%以下であってもよく、5%以上かつ15%以下であってもよく、5%以上かつ13%以下であってもよく、5%以上かつ10%以下であってもよく、0%超かつ10%以下であってもよく、0%超かつ5%以下であってもよい。
【0271】
本実施形態に係る人造改変フィブロイン繊維は、下記式(5)で定義される収縮率Cが17%以下であってもよい。式(5)で定義される収縮率Cは、人造改変フィブロイン繊維を湿潤状態から乾燥した際の収縮特性の指標となる。
式(5):収縮率C={1-(湿潤状態から乾燥した際の人造改変フィブロイン繊維の長さ/湿潤状態にした際の人造改変フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
【0272】
式(5)で定義される収縮率Cの上限としては、15%以下、13%以下、10%以下又は5%以下が例示され、下限としては、0%超、1%以上、2%以上、5%以上、10%以上又は13%以上が例示される。式(5)で定義される収縮率Cは、例えば、0%超かつ17%以下であってよく、0%超かつ15%以下であってよく、2%以上かつ15%以下であってもよく、5%以上かつ15%以下であってもよく、5%以上かつ13%以下であってもよく、5%以上かつ10%以下であってもよく、0%超かつ10%以下であってもよく、0%超かつ5%以下であってもよい。
【0273】
本実施形態に係る人造改変フィブロイン繊維は、紡糸後に水と接触することで不可逆的に収縮された収縮履歴を有する繊維であって、下記式(2)で定義される収縮率Aが2%以上であることが好ましい。式(2)で定義される収縮率Aは、原料繊維の一次収縮(図2参照)に関する特性を示す指標となる。式(2)で定義される収縮率Aが2%以上であることにより、式(1)で定義される復元率がより高いものとなる。
式(2):収縮率A={1-(紡糸後に水と接触することで不可逆的に収縮された繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前の繊維の長さ)}×100(%)
【0274】
式(2)で定義される収縮率Aは、2.5%以上、3%以上、3.5%以上、4%以上、4.5%以上、5%以上、5.5%以上、6%以上、10%以上、15%以上、20%以上又は25%以上であってよい。式(2)で定義される収縮率Aの上限は特に限定されないが、80%以下、60%以下、40%以下、20%以下、10%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、又は3%以下であってよい。
【0275】
本実施形態に係る人造改変フィブロイン繊維は、紡糸後に水と接触することで不可逆的に収縮された後、乾燥により更に収縮された収縮履歴を有する繊維であって、下記式(3)で定義される収縮率Bが7%超であることが好ましい。式(3)で定義される収縮率Bは、原料繊維の一次収縮及び二次収縮(図2参照。)に関する特性を示す指標となる。式(3)で定義される収縮率Bが7%超であることにより、式(1)で定義される復元率がより高いものとなる。
式(3):収縮率B={1-(紡糸後に水と接触することで不可逆的に収縮された後、乾燥により更に収縮された繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前の繊維の長さ)}×100(%)
【0276】
式(3)で定義される収縮率Bは、10%以上、15%以上、25%超、32%以上、40%以上、48%以上、56%以上、64%以上又は72%以上であってよい。式(3)で定義される収縮率Bの上限は特に限定されないが、通常、80%以下である。
【実施例
【0277】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0278】
[試験例1]
〔(1)改変フィブロインをコードする核酸の合成、及び発現ベクターの構築〕
天然由来のフィブロインであるNephila clavipes(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号8~14及び配列番号18~20で示されるアミノ酸配列を有するフィブロイン及び改変フィブロインを設計した。
【0279】
配列番号8で示されるアミノ酸配列(PRT410:試験例1-1)は、配列番号1で示されるアミノ酸配列(M_PRT410)のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである。M_PRT410(配列番号1)は、天然由来のフィブロインであるNephila clavipes(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、(A)モチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つにする等の生産性を向上させるためのアミノ酸の改変を行ったものである。一方、M_PRT410(配列番号1)は、グルタミン残基(Q)の改変は行っていないため、グルタミン残基含有率は、天然由来のフィブロインのグルタミン残基含有率と同程度である。
【0280】
配列番号9で示されるアミノ酸配列(PRT888:試験例1-2)は、配列番号2で示されるアミノ酸配列(M_PRT888)のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである。M_PRT888(配列番号2)は、M_PRT410(配列番号1)中のQQを全てVLに置換したものである。
【0281】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(PRT965:試験例1-3)は、配列番号3で示されるアミノ酸配列(M_PRT965)のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである。M_PRT965(配列番号3)は、M_PRT410(配列番号1)中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。
【0282】
配列番号11で示されるアミノ酸配列(PRT889:試験例1-4)は、配列番号4で示されるアミノ酸配列(M_PRT889)のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである。M_PRT889(配列番号4)は、M_PRT410(配列番号1)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0283】
配列番号12で示されるアミノ酸配列(PRT916:試験例1-5)は、配列番号5で示されるアミノ酸配列(M_PRT916)のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである。M_PRT916(配列番号5)は、M_PRT410(配列番号1)中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。
【0284】
配列番号13で示されるアミノ酸配列(PRT918:試験例1-6)は、配列番号6で示されるアミノ酸配列(M_PRT918)のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである。M_PRT918(配列番号6)は、M_PRT410(配列番号1)中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0285】
配列番号14で示されるアミノ酸配列(PRT720:試験例1-7)は、PRT410(配列番号8)に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、かつPRT410(配列番号8)の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。
【0286】
配列番号18で示されるアミノ酸配列(PRT525:試験例1-8)は、配列番号15で示されるアミノ酸配列(M_PRT525)のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである。M_PRT525(配列番号15)は、M_PRT410(配列番号1)に対し、アラニン残基が連続する領域(A)に2つのアラニン残基を挿入し、M_PRT410の分子量とほぼ同じになるよう、C末端側のドメイン配列2つを欠失させ、かつグルタミン残基(Q)13箇所をセリン残基(S)又はプロリン残基(P)に置換したものである。
【0287】
配列番号19で示されるアミノ酸配列(PRT699:試験例1-9)は、配列番号16で示されるアミノ酸配列(M_PRT699)のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである。M_PRT699(配列番号16)は、M_PRT525(配列番号15)中のQQを全てVLに置換したものである。
【0288】
配列番号20で示されるアミノ酸配列(PRT698:試験例1-10)は、配列番号17で示されるアミノ酸配列(M_PRT698)のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである。M_PRT698(配列番号17)は、M_PRT525(配列番号15)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0289】
設計した配列番号8~14及び配列番号18~20で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸をそれぞれ合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。これら5種類の核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0290】
〔(2)タンパク質の発現〕
配列番号8~14及び配列番号18~20で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸を含むpET22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液をアンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表5)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【表5】
【0291】
当該シード培養液を500mLの生産培地(表6)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加して形質転換大腸菌を植菌した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【表6】
【0292】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、目的のタンパク質を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とするタンパク質サイズのバンドの出現により、目的とするタンパク質の発現を確認した。
【0293】
〔(3)タンパク質の精製〕
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8Mグアニジン塩酸塩、10mMリン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収した。
【0294】
〔(4)紡糸液(ドープ液)の調製〕
4質量%になるように塩化リチウムを溶解したDMSOを溶媒として用い、上記で調製したPRT410(配列番号8:試験例1-1)、PRT888(配列番号9:試験例1-2)、PRT965(配列番号10:試験例1-3)、PRT889(配列番号11:試験例1-4)、PRT916(配列番号12:試験例1-5)、PRT918(配列番号13:試験例1-6)及びPRT720(配列番号14:試験例1-7)タンパク質の凍結乾燥粉末を、それぞれ濃度24質量%となるように、溶媒に添加した。90℃のアルミブロックヒーターで1時間溶解させた後、不溶物と泡を取り除き、紡糸液(ドープ液)とした。
【0295】
〔(5)紡糸〕
紡糸液をリザーブタンクに充填し、0.1又は0.2mm径のモノホールノズルからギアポンプを用い100質量%メタノール凝固浴槽中へ吐出させた。吐出量は0.01~0.08mL/分に調整した。凝固後、100質量%メタノール洗浄浴槽で洗浄及び延伸を行った。洗浄及び延伸後、乾熱板を用いて乾燥させ、得られた原糸(フィブロイン繊維)を巻き取った。
【0296】
〔(6)フィブロイン繊維の収縮性評価〕
得られた原糸を長さ約30cmに揃えて、束ね、繊度150デニールのフィブロイン繊維束とした。各フィブロイン繊維束に0.8gの鉛錘を取り付け、その状態でフィブロイン繊維束を40℃の水に10分間浸漬して一次収縮させ、水中でフィブロイン繊維束の長さを測定した。一次収縮したフィブロイン繊維束を水中から取り出し、0.8gの鉛錘を取り付けたまま、室温で2時間おいて乾燥させた。乾燥後、各フィブロイン繊維束の長さを測定した。この湿潤及び乾燥の操作を3回繰り返し、湿潤時の平均の長さ(Lwet:単位cm)、乾燥時の平均の長さ(Ldry:単位cm)を求め、下記式に従って二次収縮率を算出した。結果を表7に示す。
二次収縮率(%)={1-(Ldry/Lwet)}×100
【0297】
【表7】
【0298】
PRT720(試験例1-7)は、PRT410(試験例1-1)に疎水性アミノ酸残基を挿入したアミノ酸配列を有する。疎水性アミノ酸残基の挿入により、PRT410(試験例1-1)と比較して、PRT720(試験例1-7)のグルタミン残基含有率は若干低下し、かつREPの疎水性度が顕著に高くなっている。しかし、PRT720(試験例1-7)タンパク質で紡糸した繊維、及びPRT410(試験例1-1)タンパク質で紡糸した繊維は、二次収縮率に差はなかった(表7の試験例1-1及び試験例1-7)。この結果から、単に疎水性度を高くしても二次収縮率の低減は期待できないことが分かった。
【0299】
一方、ドメイン内のグルタミン残基(Q)を別のアミノ酸残基に置換することにより、グルタミン残基含有率を低減させ(6.3%)、PRT720(試験例1-7)とほぼ同じREPの疎水性度となるように設計したPRT888(配列番号9)では、顕著な二次収縮率の低減効果が認められた(表7の試験例1-2)。この二次収縮率の低減効果は、グルタミン残基含有率を更に低下(0%)させることにより、REPの疎水性度をPRT888のように高めなくても認められた(表7の試験例1-3)。また、グルタミン残基含有率を更に低下(0%)させると共に、さらに疎水性度の高いアミノ酸残基に置換することにより、二次収縮率の低減効果がより顕著に認められた(表7の試験例1-4~試験例1-6)。
【0300】
〔(7)フィルム作製用ドープ液の調製〕
PRT410(配列番号8:試験例1-1)、PRT525(配列番号18:試験例1-8)、PRT699(配列番号19:試験例1-9)及びPRT698(配列番号20:試験例1-10)タンパク質の凍結乾燥粉末を99%ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に濃度10質量%となるように添加し、55℃、400rpmの条件で20分間振盪し、溶解させ、ドープ液とした。
【0301】
〔(8)フィルムキャスト成形〕
厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム表面にシリコーン化合物を固定化させた離形フィルム(三井化学東セロ株式会社製、商品番号“SP-PET-01-75-BU”)を基板として使用した。バッチ式塗工機(井元製作所製)を使用して、送り速度20mm/秒、スリット幅0.18mmの条件で、上記で調製したドープ液を基板の表明にキャスト成形し、濡れ膜を作製した。
【0302】
〔(9)乾燥及び脱溶媒〕
成形した濡れ膜を、55℃の恒温槽(espec社製)中で12時間静置し、乾燥した。その後、乾燥フィルムを基板から剥離し、メタノールに12時間浸漬した。浸漬後、再度60℃の恒温槽(espec社製)中で12時間静置し、乾燥した。得られたフィルムを30mm角に切断し、以下の耐水性評価を行った。
【0303】
〔(10)フィルムの耐水性評価〕
硫酸カリウム(KSO・HO)の飽和水溶液を入れたファルコンチューブに、30mm角に切断したフィルムを、水溶液に浸からないように設置し、98%の高湿度下で48時間静置した。静置後のフィルムの水分含量を、カールフィッシャー(京都電子工業株式会社製)で吸湿の程度を測定することで水分率(%)として求めた。結果を表8に示す。
【表8】
【0304】
グルタミン残基含有率の低下に伴い、フィルムの吸水性が低下することが確認され、耐水性が向上することが分かった。
【0305】
[試験例2]
〔(1)改変フィブロインの製造〕
配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT917)、及び配列番号24で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT1028)を設計したこと以外は、試験例1と同様の手順で、改変フィブロインの凍結乾燥粉末を得た。
【0306】
〔(2)原料繊維の製造〕
4質量%になるように塩化リチウムを溶解させたDMSOを溶媒として用い、そこに改変フィブロインの凍結乾燥粉末を、濃度24質量%となるように添加した。90℃のアルミブロックヒーターで1時間溶解させた後、不溶物と泡を取り除き、ドープ液(紡糸原液)とした。
【0307】
ドープ液をリザーブタンクに充填し、0.3mm径のモノホールノズルからギアポンプを用い100質量%メタノール凝固浴槽中(凝固浴温度12℃)へ吐出させた。凝固後、100質量%メタノール洗浄浴槽で洗浄及び延伸を行った。洗浄及び延伸後、乾熱板を用いて乾燥させ(乾燥温度80℃)、得られた原糸(原料繊維)を巻き取った。延伸倍率は6倍であった。
【0308】
〔(3)人造改変フィブロイン繊維の製造〕
各原料繊維を、それぞれ長さ約30cmに揃えて束ね、繊度150デニールの原料繊維束とした。各原料繊維束に0.8gの鉛錘を取り付け、その状態で原料繊維束を40℃の水に10分間浸漬して収縮させた後(接触ステップ)、水中から取り出し、0.8gの鉛錘を取り付けたまま、室温で2時間おいて乾燥させて(乾燥ステップ)、互いにタンパク質の種類が異なる、試験例2-1~試験例2-2の人造改変フィブロイン繊維を得た。
【0309】
〔(4)人造改変フィブロイン繊維の評価(水伸縮性)〕
(3)で得られた試験例2-1~試験例2-2の人造改変フィブロイン繊維の乾燥状態での長さ(湿潤状態にする前の人造改変フィブロイン繊維の長さ)をそれぞれ測定した。次いで、各人造改変フィブロイン繊維に0.8gの鉛錘を取り付け、その状態で原料繊維束を40℃の水に10分間浸漬した。その後、水中で各人造改変フィブロイン繊維の長さ(湿潤状態にした際の人造改変フィブロイン繊維の長さ)を測定した。水中での各人造改変フィブロイン繊維の長さ測定は、各人造改変フィブロイン繊維の縮れを無くすために、各人造改変フィブロイン繊維に0.8gの鉛錘を取り付けたまま実施した。次いで、水中から取り出した各人造改変フィブロイン繊維を、0.8gの鉛錘を取り付けたまま、室温で2時間おいて乾燥させた。乾燥後、各人造改変フィブロイン繊維の長さ(湿潤状態から乾燥した際の人造改変フィブロイン繊維の長さ)を測定した。得られた測定値から、下記式(1)、式(4)及び式(5)に従って、各人造改変フィブロイン繊維の復元率、伸長率及び収縮率Cを算出した。結果を表9に示す。
式(1):復元率=(湿潤状態から乾燥した際の人造改変フィブロイン繊維の長さ/湿潤状態にする前の人造改変フィブロイン繊維の長さ)×100(%)
式(4):伸長率={(湿潤状態にした際の人造改変フィブロイン繊維の長さ/湿潤状態にする前の人造改変フィブロイン繊維の長さ)-1}×100(%)
式(5):収縮率C={1-(湿潤状態から乾燥した際の人造改変フィブロイン繊維の長さ/湿潤状態にした際の人造改変フィブロイン繊維の長さ)}×100(%)
【0310】
【表9】
【0311】
表9に示すとおり、グルタミン残基含有率を低減させた改変フィブロインを含む人造改変フィブロイン繊維(試験例2-1~試験例2-2)は、湿潤状態で伸長し、その後乾燥すると元の長さに戻る(復元率98.2~99%)という特性を有している。また、人造改変フィブロイン繊維(試験例2-1~試験例2-2)は、伸長率及び収縮率C共に低く抑えられており、水との接触(及びその後の乾燥)における寸法変化が抑制されている。
【0312】
[試験例3]
〔(1)改変フィブロインの製造〕
配列番号42で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT399)、配列番号36で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT380)、配列番号37で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT410)、配列番号39で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT799)を設計したこと以外は、試験例1と同様の手順で、改変フィブロインの凍結乾燥粉末を得た。
【0313】
〔(2)原料繊維の製造〕
4.0質量%になるように塩化リチウムを溶解させたジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒として用い、そこに改変フィブロインの凍結乾燥粉末を、濃度18質量%又は24質量%となるよう添加し(表10参照)、シェーカーを使用して3時間溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変フィブロイン溶液を得た。
【0314】
得られた改変フィブロイン溶液をドープ液(紡糸原液)とし、図3に示す紡糸装置10に準じた紡糸装置を用いた乾湿式紡糸によって、紡糸及び延伸された原料繊維を製造した。用いた紡糸装置は、図3に示す紡糸装置10において、未延伸糸製造装置2(第1浴)及び湿熱延伸装置3(第3浴)の間に、更に第2の未延伸糸製造装置(第2浴)を備えるものである。乾湿式紡糸の条件は以下のとおりである。
押出しノズル直径:0.2mm
第1浴~第3浴中の液体及び温度:表10参照
総延伸倍率:表10参照
乾燥温度:60℃
【0315】
【表10】
【0316】
〔(3)人造改変フィブロイン繊維の製造、並びに収縮率A及び収縮率Bの評価〕
製造例1~19で得た各原料繊維に対し、水に接触させる接触ステップを施すこと、又は当該接触ステップを施した後、室温で乾燥させる乾燥ステップを施すことにより、人造改変フィブロイン繊維を製造した。
【0317】
<接触ステップにおける収縮率Aの評価>
製造例1~19で得た原料繊維の巻回物から、それぞれ、長さ30cmの複数本の原料繊維を切り出した。それら複数本の原料繊維を束ねて、繊度150デニールの原料繊維束を得た。各原料繊維束に0.8gの鉛錘を取り付け、その状態で各原料繊維束を表11~14に示す温度の水に10分間浸漬した(接触ステップ)。その後、水中で各原料繊維束の長さを測定した。水中での原料繊維束の長さ測定は、原料繊維束の縮れを無くすために、原料繊維束に0.8gの鉛錘を取り付けたまま実施した。次いで、各原料繊維に対して、収縮率A(%)を、下記式(2)に従って算出した。式(2)中、L0は、紡糸後、水と接触する前の繊維の長さを示し、ここでは30cmである。同様に、式(2)中、Lwは、紡糸後に水と接触することで不可逆的に収縮された繊維の長さを示し、ここでは水中で測定した各原料繊維束の長さである。
式(2):収縮率A={1-(Lw/L0)}×100(%)
【0318】
<乾燥ステップにおける収縮率Bの評価>
接触ステップの後、原料繊維束を水中から取り出した。取り出した原料繊維束を、0.8gの鉛錘を取り付けたまま、室温で2時間おいて乾燥させて(乾燥ステップ)、人造改変フィブロイン繊維を得た。乾燥後、各人造改変フィブロイン繊維束の長さを測定した。次いで、各人造改変フィブロイン繊維に対して、収縮率B(%)を、下記式(3)に従って算出した。式(3)中、L0は、紡糸後、水と接触する前の繊維の長さを示し、ここでは30cmである。同様に、式(3)中、Lwdは、紡糸後に水と接触することで不可逆的に収縮された後、乾燥により更に収縮された繊維の長さを示し、ここでは乾燥後に測定した各人造改変フィブロイン繊維束の長さである。
式(3):収縮率B={1-(Lwd/L0)}×100(%)
【0319】
結果を表11~14に示す。
【表11】
【0320】
【表12】
【0321】
【表13】
【0322】
【表14】
【符号の説明】
【0323】
1…押出し装置、2…未延伸糸製造装置、3…湿熱延伸装置、4…乾燥装置、6…ドープ液、10…紡糸装置、20…凝固液槽、21…延伸浴槽、36…原料繊維。
図1
図2
図3
【配列表】
0007048058000001.app