(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】高比重繊維からなるマルチフィラメント糸の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 8/14 20060101AFI20220329BHJP
【FI】
D01F8/14 B
(21)【出願番号】P 2021024040
(22)【出願日】2021-02-18
(62)【分割の表示】P 2017036729の分割
【原出願日】2017-02-28
【審査請求日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2016041047
(32)【優先日】2016-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池田 弘平
(72)【発明者】
【氏名】池上 翔平
(72)【発明者】
【氏名】田中 知樹
(72)【発明者】
【氏名】須藤 嘉祐
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-096377(JP,A)
【文献】特開平11-200154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00 - 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分中に高比重粒子を含有し、比重が1.50以上である芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント糸の製造方法であり、
芯成分を構成するポリマーとして結晶融点200~220℃、ガラス転移温度70~80℃の共重合ポリエステルを用い、鞘成分を構成するポリマーとしてポリエチレンテレフタレートを用い、
複合型の溶融紡糸装置に、高比重粒子を含有する芯成分と、鞘成分とを導入して、溶融紡糸により紡出された繊維を冷却後、続いて1段目と2段目の熱延伸を行い、速度1500~3500m/分で巻き取ることにより、
マルチフィラメント糸の強度が4.7cN/dtex以上、かつ毛羽数が20個/100万m以下である高比重繊維からなるマルチフィラメント糸を得ることを特徴とするマルチフィラメント糸の製造方法。
【請求項2】
芯鞘比率(質量比)が、芯成分/鞘成分=30~20/70~80であり、芯成分と鞘成分を構成するポリマーがポリエステル系ポリマーであることを特徴とする請求項1記載のマルチフィラメント糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高比重繊維に関し、特に水産資材用途に好適な比重の高さと高強度を有するとともに、毛羽数の少ない高比重繊維からなるマルチフィラメント糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステルやポリアミド等の合成繊維は高強度であるため、漁網等の水産資材用ネットや土木資材等の陸上ネット用繊維として利用されている。また、機能性粒子を高濃度に合成繊維に含有させる技術は合成繊維の性質を損なうことなく、手頃に機能を付与する手段として有効な技術である。
【0003】
水産資材用の繊維の中でも、定置網用途に用いる繊維としては、水中での沈降速度を速くするためと、潮流に対する漁網の保形性を向上させるために、使用する繊維は比重の高いものが求められている。特許文献1や特許文献2に記載されているように、芯鞘型複合繊維の芯成分に高比重粒子を含有させ、比重を1.5~1.7以上とした高比重糸が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-311721号公報
【文献】特開平8-144125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した技術における複合繊維では、芯成分に高比重粒子を高濃度に含有させると均一な分散が困難となりやすく、その結果、延伸する際に高濃度に高比重粒子が含有された部分は延伸流動性に劣ることとなり、芯成分にボイド(空隙)が発生し、繊維中の高比重粒子の含有量に相当する比重を有する繊維が得られ難くなったり、あるいは、芯成分の切断によると思われる延伸毛羽が発生したりする。このような一部の繊維が切断してなり毛羽を有するマルチフィラメント糸をラッセル網等に適用すると、毛羽が原因となって網の目合いが閉塞するという問題が生じた。そのため、ビーム捲き取り時に整経試験を同時に行い、毛羽の除去を行っていることが現状であり、生産効率に劣るという問題があった。
【0006】
本発明は、上記した問題を解決するものであって、芯成分にボイドを発生させることなく、高比重粒子の含有量に見合う比重の高い高比重繊維を得ること、高強度の繊維を得ること、繊維の切断による毛羽が生じにくいマルチフィラメント糸を得ること、生産性が向上し連続操業が可能であることを同時に満たす高比重繊維からなるマルチフィラメント糸を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を達成するために鋭意検討を行った。特に、高比重粒子を含有させる芯成分に配するポリマーとして種々のものを検討していたところ、結晶性を有する特定の共重合ポリエステルを用いたことにより、生産効率が向上し、連続操業が可能でありながら、高強度でかつ高比重であり、毛羽が生じにくいマルチフィラメントを得ることができることを見出した。そして、この知見に基づき、さらに検討し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、芯成分中に高比重粒子を含有し、比重が1.50以上である芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント糸の製造方法であり、
芯成分を構成するポリマーとして結晶融点200~220℃、ガラス転移温度70~80℃の共重合ポリエステルを用い、鞘成分を構成するポリマーとしてポリエチレンテレフタレートを用い、
複合型の溶融紡糸装置に、高比重粒子を含有する芯成分と、鞘成分とを導入して、溶融紡糸により紡出された繊維を冷却後、続いて1段目と2段目の熱延伸を行い、速度1500~3500m/分で巻き取ることにより、
マルチフィラメント糸の強度が4.7cN/dtex以上、かつ毛羽数が20個/100万m以下である高比重繊維からなるマルチフィラメント糸を得ることを特徴とするマルチフィラメント糸の製造方法を要旨とする。
【0009】
本発明の特徴は、比重が1.50以上という高比重の繊維でありながら、この繊維によって構成されるマルチフィラメント糸の強度が4.7cN/dtex以上であり、さらに毛羽数が20個/100万m以下であるという性能を同時に満たし、マルチフィラメント糸の製造工程においても、得られたマルチフィラメント糸を用いて製編網する際においても、連続操業性および連続生産性が向上することにある。
【0010】
比重が1.50以上という高比重の繊維を得るためには、芯成分中に配合する高比重粒子をマトリックスとなる芯成分のポリマーが良好に把持し、ポリマーと高比重粒子との間に空隙や亀裂(ボイド)をできるだけ発生させないことを要する。
【0011】
ここで、問題となるボイド発生は、繊維の製造工程における延伸工程で生じる。すなわち、ポリマーと高比重粒子とは相溶性がなく、また、ポリマー中に多量の高比重粒子を含有させるため、延伸の応力がかかるとポリマーと粒子との界面にボイドが発生する。そこで、延伸中において芯成分ポリマーが流動性を有する状態であれば、ポリマーと高比重粒子との界面にボイドが発生しにくくなるのではないかと、発明者等は考えた。そして、延伸中における芯成分ポリマーが流動性を維持する状態とするために、延伸前の加熱温度を上げてみることとした。すると、芯成分ポリマーの流動性は上がるが、設定温度範囲のコントロールが難しく加熱温度が一定以上を超えると、芯成分ポリマーの結晶化が始まって逆に流動性が下がり、さらには、鞘部ポリマーの結晶化も始まることになり、十分な延伸が施せず、得られる繊維の強度は低く、また、芯成分ポリマーの流動性が下がることから芯成分ポリマー中にボイドが発生して、その箇所から繊維が切断されやすく、その切断した繊維がマルチフィラメント糸中における毛羽となって多量に発生することになってしまった。したがって、このように加熱温度の設定幅が小さいと、結局、目的とする高比重でかつ高強度で毛羽の少ないマルチフィラメント糸を安定して得ることができず、連続操業性や生産性が上がらない。
【0012】
そこで、加熱温度の設定幅を大きくすることが可能であり、延伸時の流動性を維持することが可能な芯成分ポリマーについて検討していたなかで、芯成分ポリマーのガラス転移温度と融点の関係に着目した。すなわち、ガラス転移温度(Tg)が低いと結晶化しやすくなるため、上記したようなボイドの発生や延伸不良が生じやすくなり、一方、融点が高いと、延伸時の流動性を上げるために加熱温度を上げる必要が生じ、そうすると鞘部ポリマーの結晶化に繋がり、十分な延伸ができなくなる。そこで、種々のポリマーを検討した結果、芯成分ポリマーのガラス転移温度が70~80℃の範囲、かつ結晶融点が200~220℃の範囲に設定しうることにより、加熱温度の設定幅を大きくすることが可能であり、延伸中の芯部ポリマーの流動性を維持することが可能であることを見出した。
【0013】
ガラス転移温度が70~80℃であり、かつ結晶融点が200~220℃の共重合ポリエステルとして、エチレンテレフタレート単位に、共重合成分としてイソフタル酸およびビスフェノールAのエチレンオキシド付加物を下式のモル分率で共重合してなる共重合ポリエステルを用いるとよい。
0.0≦A≦10.0
5.0<B≦15.0
(上式中、Aは共重合ポリエステルの全酸成分に対するイソフタル酸のモル分率(%)、Bは共重合ポリエステルの全グリコール成分に対するビスフェノールAのエチレンオキシド付加物のモル分率(%)である。)
【0014】
ここで、モル分率とは、芯成分のポリエステルの全酸成分に対するイソフタル酸のモル分率A(モル%)、芯成分のポリエステルの全グリコール成分に対するビスフェノールAのエチレンオキシド付加物のモル分率B(モル%)である。イソフタル酸成分、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物成分を上記したモル分率で共重合することにより、耐熱性が良好な結晶融点を有する低融点ポリエステルとすることができる。
【0015】
なお、本発明において共重合ポリエステルの組成は、以下に基づき求める。すなわち、共重合ポリエステル樹脂を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比が1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各成分のプロトンのピークの積分強度から、共重合成分の種類と含有量を求める。
【0016】
上記した共重合ポリエステルは、溶融紡糸の際に溶融時に熱分解が生じにくく、溶融段階にて高比重粒子を良好に保持しうるため、紡糸パックの目詰まりが生じにくく、紡糸の連続生産性が格段と向上する。溶融時に熱分解しやすいポリマーの場合、粘度低下が生じて溶融したポリエステルが高比重粒子を保持しにくくなり、保持できなかった高比重粒子が紡糸口金より上流部である紡糸パック内に徐々に残ってしまうことになって、パックの目詰まりによる紡糸性の問題が発生することから、パック交換を要するため連続操業ができず、生産性が低下する。これは、芯成分に非晶性のポリマーを用いた場合においても同様であり、非晶性のポリマーの場合、延伸時に流動性は確保しやすいために比重や強度は満足する繊維が得られやすいが、溶融紡糸の際に、溶融したポリエステルが高比重粒子を保持しにくく、上記と同様、連続操業が困難で生産性が低下する。
【0017】
また、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物成分を特定モル分率にて共重合することにより、イソフタル酸成分のみを共重合する場合と比較してガラス転移温度を比較的高くすることができ、芯成分の結晶化を遅らせることにより、延伸中の延伸流動性の低下を抑制し、芯成分に発生するボイドを抑制することを可能とする。
【0018】
さらに、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物成分とイソフタル酸成分とを上記した特定のモル分率で共重合することにより、上記したようにガラス転移温度を比較的高くしながら、融点は低め(200~220℃)に設定することができるため、延伸前に加熱温度の上げ過ぎを防ぎ、芯成分ポリマーの流動性を維持できる。ここで、融点が230℃以上となると、芯成分ポリマーの流動性が低くなるのである。また、融点が200℃未満となると熱分解が生じやすくなり、上記したごとく連続操業ができなくなる。
【0019】
本発明においては、繊維製造工程での連続操業の目安として、目詰まりが生じることなく20時間以上連続操業できることが好ましく、より好ましくは24時間以上である。
【0020】
また、芯成分ポリマーの極限粘度〔η〕は、延伸中の芯成分ポリマーの流動性を考慮して0.5~0.8であることが好ましい。
【0021】
芯成分に含有させる高比重粒子としては、バリウム、チタン、アルミニウム、タングステン等の金属粒子や二酸化チタン、酸化亜鉛、沈降性硫酸バリウム等の金属化合物が挙げられる。中でも硫酸バリウムは比重が高く、芯成分のポリエステルへの分散性に優れ、延伸性を阻害しにくいため、好ましい。
【0022】
また、高比重粒子の最大粒子径(直径)は、延伸性を考慮して4.0μm以下、中でも3.0μm以下とすることが好ましい。
【0023】
芯成分に含有させる高比重粒子の含有量は、芯成分中の30~70質量%とすることが好ましい。高比重粒子の含有量が芯成分中に30質量%未満では、繊維比重を高くするためには芯成分の複合比率を大きくする必要性が生じ、そのため鞘成分の複合比率を低下すると、高強度の繊維を得ることが困難となりやすい。一方、芯成分中における高比重粒子の含有量が70質量%以下とすることにより、芯成分中に均一に練り込むことを可能とし、ボイドが生じにくく、延伸流動性も良好となる。
【0024】
また、高比重粒子を芯成分ポリマーに含有させる方法としては、あらかじめ芯成分に用いる共重合ポリエステルに任意の高比重粒子を均一に練り込んでチップ化したものを、溶融紡糸の際に、そのまま芯成分として用いることが好ましい。
【0025】
次に、芯鞘型複合繊維における鞘成分について説明する。本発明において、マルチフィラメント糸の強度は、芯鞘複合繊維における鞘部が担う。本発明においては、強度と製糸性を考慮し、また、安価で比較的比重も高く、寸法安定性に優れることから、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルを用いることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称す。)を用いることがより好ましい。そして、PETの極限粘度〔η〕は0.9~1.3が好ましい。極限粘度が0.9より低くなると強度の高い繊維とすることが困難となる場合があり、一方、1.3より高くなると、延伸性が低下する場合があるので好ましくない。
【0026】
芯鞘型複合繊維の芯鞘複合比は、質量比(芯:鞘)で50/50~20/80が好ましい。芯成分の比率が20/80より小さいと、芯成分の割合が小さくなるため、高比重の繊維を得にくい。一方、芯成分の比率が50/50より大きいと、鞘成分の割合が少なくなり、繊維の強度が低くなる傾向となる。
【0027】
なお、芯成分と鞘成分ともにその効果や特性を損なわない範囲において、酸化チタンなどの艶消し剤、ヒンダートフェノール系化合物等の酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、難燃剤、抗菌材、導電性付与剤等が配合されてもよい。
【0028】
本発明における複合繊維の横断面形状は、芯成分、鞘成分ともに多角形や多葉形状等の異形であってもよく、また、芯成分と鞘成分の中心点が一致していない偏心芯鞘型のものであってもよいが、高強度となりやすいため、芯成分と鞘成分の中心点が略一致しており、円形断面形状のものである同心芯鞘で円形断面である芯鞘型複合繊維が特に好ましい。
【0029】
本発明により得られるマルチフィラメント糸は、毛羽数が20個/100万m以下であり、特に10個/100万m以下が好ましい。このマルチフィラメント糸の毛羽とは、マルチフィラメント糸を構成する複数本の複合繊維のうちの一部の複合繊維が切断したものがマルチフィラメント糸表面に毛羽として存在するものである。毛羽数が20個/100万mを超えると、マルチフィラメント糸を製編網に適用する際の製編網前のビーム捲き取り時に、毛羽が存在すると、機台を停止して毛羽を補修する作業(複合繊維の切断部分をつなぎ合せる作業)を要し、毛羽数が多い程、機台停止回数が増加し、生産効率を悪化させてしまう。また、毛羽の存在を見逃してしまい、ビーム捲き取り時に補修せずに除去できなかった毛羽があると、編網時に毛羽が隣の網糸に取られて、目合いが閉じた状態となってしまい、得られた網において閉じた目合いを広げる作業が必要となる。したがって、毛羽数は少ないほど好ましく、10個/100万m以下が好ましく、5個/100万m以下がより好ましい。なお、本発明において、毛羽数20個/100万m以下を達成できたのは、上記したように、溶融紡糸後の延伸の際に、芯成分が流動性を保持した状態で延伸を可能とし、芯成分の切断に起因する繊維の切断が発生しにくくなったことによると推定する。
【0030】
本発明における芯鞘型複合繊維の比重は、1.50以上であり、特に1.51以上であることが好ましい。複合繊維の比重が1.50未満であると、本発明により得られるマルチフィラメント糸を例えば定置網用途に用いる際に、漁網の沈降性や保形性が不十分となる。比重の上限としては1.80程度がよい。すなわち、芯成分に含有させる高比重粒子の含有量を多くすると比重が大きくなると考えるが、高比重粒子の含有量が多くなるに従って、繊維を高強度化することはより困難となる。したがって、芯成分中に含有させる高比重粒子の含有量を考慮し、かつ高強度4.7cN/dtex以上となる繊維を得るためには、繊維比重の上限は1.80がよい。
【0031】
本発明により得られるマルチフィラメント糸の強度は4.7cN/dtex以上である。強度を4.7cN/dtex以上とすることによって、水産資源用途に用いるには十分な強度となる。なお、前記同様に繊維比重を考慮すると、強度の上限は5.5cN/dtexがよい。
【0032】
また、耐磨耗性や製糸性を考慮すれば、本発明で得られる芯鞘型複合繊維の単繊維繊度は10~30dtex、伸度は15~30%であることが好ましい。
【0033】
本発明により得られる高比重繊維からなるマルチフィラメント糸は、上記したように、高比重でかつ高強度でありながら、また、毛羽数が20個/100万m以下を達成しているため、編網して得られるネットに良好に適用できる。
【0034】
次に本発明の高比重繊維からなるマルチフィラメント糸の製造方法の好ましい態様について説明する。
【0035】
芯成分ポリマーとして、常法の重合法によって得られた固有粘度が0.5~0.8の共重合ポリエステルと高比重粒子と、必要に応じて顔料等の添加剤を準備し、それぞれ計量し、常法により2軸押出機等により溶融混練した後、ノズルから押し出し、ペレット状にカットすることによって得る。チップ化された高比重粒子含有してなる共重合ポリエステルを乾燥させ、紡糸に供する。
【0036】
一方、鞘成分ポリマーとしては、常法の重合法によって得られたポリエチレンテレフタレートを固相重合し、高粘度化したもの準備する。この際、鞘のポリエチレンテレフタレートは、高強度と毛羽数を考慮して極限粘度0.9以上のPETが好ましく、極限粘度は1.3以上がより好ましい。また、繊維の強度、比重、毛羽数に影響を及ばさない範囲において、酸化チタンなどの艶消し剤、ヒンダートフェノール系化合物等の酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、難燃剤、抗菌材、導電性付与剤等を含有するマスターバッチを計量混合することもできる。
【0037】
次いで、複合型の溶融紡糸装置に、芯鞘複合型の紡糸口金を装着し、高比重粒子を含有してなる芯成分と鞘成分とをそれぞれ導入して溶融紡糸を行う。紡出された繊維を口金直下に設置された壁面温度200~500℃の加熱筒内を通過させた後、冷却装置で温度10~30℃、速度0.5~1m/秒の冷却風を吹き付けて冷却し、油剤を付与する。
【0038】
その後、非加熱の第1ローラーに引き取り、引き続き、表面温度120~170℃の第2ローラーに掛けて1.01~1.10倍の引き揃えを行い、表面温度130℃~200℃の第3ローラーとの間で1段目の延伸を行う。続いて表面温度200~260℃の第4ローラーと第3ローラーとの間にスチーム処理機を設置し、300℃以上のスチームを吹き付けながら、全延伸倍率が4.0~6.0倍となるように、延伸倍率1.2~1.6倍で2段目の延伸を行う。この後、表面温度100~200℃の第5ローラーとの間で2~5%の弛緩熱処理を行い、速度1500~3500m/分でワインダーに巻き取り、毛羽数が20個/100万m以下、強度が4.7cN/dtex以上、比重が1.50以上のマルチフィラメント糸を得る。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、高比重かつ高強度でありながら、繊維の切断による毛羽が生じにくいマルチフィラメント糸を、連続操業性が良好で生産効率が向上したものを提供することができる。毛羽が生じにくいマルチフィラメント糸であることから、このマルチフィラメント糸を用いて製編網する際においても生産効率を向上させることができる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明の実施例によって具体的に説明する。なお、本発明における各物性の評価は、次の方法で行った。
(A)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した。
(B)ポリエステルの組成
ポリエステル樹脂を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比が1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各成分のプロトンのピークの積分強度から、共重合成分の種類と含有量を求めた。
(C)強伸度
JIS L-1013 引張強さおよび伸び率の標準時試験に従い、島津製作所オートグラフDSS-500を用い、試料長25cm、引張速度30cm/分で測定した。
(D)繊維の比重
JIS l-1013 比重(浮沈法)に従い測定した。
(E)毛羽数
春日電機製毛羽発見器F9-AN型を用い、引き取り速度300m/分で測定した。
(F)融点(℃)
パーキンエルマー社製の示差走査型熱量計DSC-7型を使用し、昇温速度20℃/分で測定した。
(G)ガラス転移温度(℃)
パーキンエルマー社製の示差走査型熱量計DSC-7型を使用し、昇温速度20℃/分で測定した。なお、補外ガラス転移開始温度(Tig)をガラス転移温度とした。
(H)操業性
口金当たりの連続操業時間により下記三段階で評価した。
○:20時間以上
△:10時間以上、20時間未満
×:10時間未満
【0041】
実施例1
鞘成分として、極限粘度1.2のPETにカーボンブラックを高濃度に含有したマスターバッチとレギュラーのPET(極限粘度1.2)とを混合し、鞘成分中のカーボンブラック濃度が0.8質量%となるようにしたブレンドチップを用いた。一方、芯成分として、極限粘度0.58でイソフタル酸共重合率が8.0モル%、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物共重合率が6.5モル%である共重合ポリエステルに平均粒子径が0.6μm、最大粒子径2.0μm、比重4.3の沈降性硫酸バリウムを芯成分中に65質量%およびカーボンブラックを1.5質量%となるように溶融混合したもの(チップ)を用いた。
【0042】
上記の芯成分と鞘成分を複合型溶融紡糸装置に導入し、直径0.6mm、孔数64個の紡糸孔を有する芯鞘型複合紡糸口金より、温度286℃、芯鞘質量比(芯:鞘)26:74で溶融紡糸した。
【0043】
紡出された繊維を壁面温度450℃の加熱筒を通過させた後、横型冷却装置を用いて、温度16℃、速度0.8m/秒の冷却風を吹き付けて冷却し、油剤を付与した。続いて、非加熱の第1ローラーに引き取り、表面温度150℃の第2ローラーとの間で1.01倍の引き揃えを行った後、表面温度160℃の第3ローラーとの間で3.7倍(1段目)の延伸を行った。その後、スチーム処理機を用いて、温度450℃、圧力0.5MPaのスチームを繊維に吹き付けながら、表面温度240℃の第4ローラーとの間で1.4倍(2段目)の延伸を行い、表面温度190℃、速度1840m/分の第5ローラーとの間で2%の弛緩熱処理を行い、速度1800m/分のワインダーに巻き取り、1230dtex/64フィラメントで同心円型の芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント糸を得た。
【0044】
比較例1~4
芯成分中のイソフタル酸共重合率(A)およびビスフェノールAのエチレンオキシド付加物共重合率(B)を表1に記載したように変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0045】
比較例5
実施例1において、芯成分としてイソフタル酸共重合率(A)を8.0モル%である共重合ポリエステルを用いたこと、芯成分中に混合する沈降性硫酸バリウムの量を50質量%としたこと、芯鞘質量比(芯:鞘)を36:64として溶融紡糸したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0046】
比較例6~9
芯成分中のジオール成分をビスフェノールAのエチレンオキシド付加物に代えて、表2に記載した成分に変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0047】
複合繊維の評価結果を、表1および2に示す。
【0048】
【0049】
【表2】
実施例1は、毛羽数2個/100万mであり、本発明が規定する高強度(強度4.7cN/dtex)、高比重(比重1.50以上)のものであった。また、紡糸口金の交換頻度も低く、連続生産性に非常に優れていた。
【0050】
一方、比較例1および4は、共重合成分のモル分率が低く融点が230℃以上もしくは超えており、芯成分の延伸流動性が低く、比重が低くなった。比較例4においては、比重が1.46であって、極めて低いものであったため、その他の性能評価は行わなかった。
【0051】
比較例2、3はイソフタル酸成分のみの共重合のため、ガラス転移温度が低く熱安定性に劣り、紡糸口金の交換頻度が増加し連続生産性に劣るものとなった。
【0052】
比較例5は、目的とする強度が得られず、毛羽立ちが多いものであった。これの結果は、芯成分における共重合成分のモル分率が低く融点が230℃であり、芯成分の延伸流動性が低いことに起因したと考える。
【0053】
比較例6~8は、共重合成分に1,4-ブタンジオールを用いたが、熱安定性に劣り、紡糸口金の交換頻度が大幅に増加し、連続生産性に劣っていた。比較例9は、共重合成分に1,4-シクロヘキサンジメタノールを用いたが、融点が230℃を超えており、芯成分の延伸流動性が低く、得られた繊維の比重が1.46であって、極めて低いものであったため、その他の性能評価は行わなかった。
【0054】
なお、比較例2、3、6~8は、連続操業性が良くなかったので、毛羽評価は行っていない。
【0055】
連続操業性が良好である実施例1および比較例1、5について、下記の耐摩耗性評価を行った結果を表3に示す。実施例1の結果が最も良好であり、実用的な耐摩耗性を備えていることが分かる。
【0056】
<耐摩耗性>
得られたマルチフィラメント糸を用いて8本組紐を作成し、これを試料とした。耐摩耗試験装置(米倉製作所製)を用いて、試料を試験装置に取り付けた。すなわち、試料の一端に質量300gのおもりをつるし、他端を丸やすり(ツボミヤ社製 優良鉄工用ヤスリ 丸中目)の上を渡して設置し、試料を繰り返し速度30±1回/分、ストローク幅230±30mmにて往復運動させ、試料と丸やすりの周面とが約90度の角度で接触させて往復摩擦させ、破断に至る往復回数を計測した。
測定は、室温で耐摩耗性を評価したものは「乾摩耗」、一方、試料を工業用水に5分浸漬後、取り出して耐摩耗性を評価したものを「湿摩耗」とした。なお、「湿摩耗」は、試験開始直前と摩耗100回毎に1ccの水を滴下して測定した。
【0057】