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特許7048080有機溶剤の捕集器ならびに捕集方法、および有機溶剤量の測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】有機溶剤の捕集器ならびに捕集方法、および有機溶剤量の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/22 20060101AFI20220329BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20220329BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20220329BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20220329BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
G01N1/22 L
G01N1/22 C
B01J20/20 B
B01J20/34 C
B32B27/12
B32B27/32
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018018326
(22)【出願日】2018-02-05
(65)【公開番号】P2019135466
(43)【公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】宮内 博幸
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-101536(JP,A)
【文献】特開2015-093414(JP,A)
【文献】特開平10-328224(JP,A)
【文献】特開昭54-130184(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0163436(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 - 1/44
B01J 20/20 -20/34
B32B 1/00 -43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭素繊維の吸着層と、前記吸着層を覆う被覆部と、前記被覆部の一部に設けられた通気部とを有し、
前記通気部が、積層されたポリオレフィン系多孔質フィルムと不織布とを有し、前記不織布が前記活性炭素繊維側に設けられる通気材を用いたものであり、
前記通気材の透気度が10,000sec/100cc以上、前記通気材の透湿度が500g/m2・day以下である捕集器。
【請求項2】
前記通気材が、ポリオレフィン系多孔質フィルムと不織布との間に通気性接着層を有する請求項1記載の捕集器。
【請求項3】
前記被覆部に貼付部を有する請求項1または2に記載の捕集器。
【請求項4】
前記被覆部に絶縁層を有する請求項1~3のいずれかに記載の捕集器。
【請求項5】
厚みが、5mm以下である請求項1~4のいずれかに記載の捕集器。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の捕集器を測定対象環境に曝露し、前記測定対象環境の有機溶剤を吸着層に吸着させる有機溶剤の捕集方法。
【請求項7】
前記有機溶剤が、二硫化炭素、ケトン類、直鎖炭化水素、エステル類、芳香族類、および塩素化炭化水素からなる群から選択される1以上の有機溶剤である請求項6記載の捕集方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の捕集方法により前記有機溶剤を吸着させた前記吸着層を、脱着液に浸漬させ、
前記吸着層に捕集された前記有機溶剤を前記脱着液内に脱着させた有機溶剤回収液とし、
前記有機溶剤回収液内の前記有機溶剤の濃度から、前記吸着層に捕集されていた前記有機溶剤量を測定する有機溶剤量の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤のサンプリングに用いられる捕集器、およびその捕集器を用いた捕集方法、測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤を取り扱う現場等では、その現場の有機溶剤濃度等を測定するために各種サンプラーが用いられている。サンプラーとしては、アクティブサンプラーや、拡散型サンプラー(パッシブサンプラー)などが知られている。アクティブサンプラーは、電動式のポンプを用いるものであり、そのポンプの動作によりサンプリングするものである。しかし、アクティブサンプラーの多くは防爆構造ではなく、有機溶剤を取り扱う現場で使用しにくい場合がある。また、防爆構造とすると大型化するため、サンプラーを取付ける位置が制限される。
【0003】
一方、物質の濃度差による分子拡散を利用する拡散型サンプリングは安価で簡便な試料捕集法である。例えば、非特許文献1には、典型的な従来の拡散型サンプラーについて検討されている。従来の拡散型サンプラーの形状は、円筒型やディスク型が知られている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-300647号公報
【文献】特開2002-357517号公報
【文献】特開2003-18554号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】光崎純等、拡散型サンプラーにおける理論的捕集速度の算出法の検討、室内環境学会誌(2006),E8-22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3や非特許文献1に開示されているような従来の拡散型サンプラーでは、サンプラー内で有機溶剤等を含む気体の拡散距離を数cm設け、捕集材として球状活性炭や液体を使用していたため、その拡散や収納等のための空間を必要とする。このため、従来の拡散型サンプラーは、立体的な形状とする必要があり、円筒型やディスク型の厚みがあるものであった。また、作業者が装着するにあたっては、クリップや安全ピンによる取付けが必要であった。
【0007】
サンプラーは、作業環境の有機溶剤等の測定のために定点観測で用いられる場合もあるが、その環境で作業する作業者ごとの曝露(個人曝露)の程度を把握する需要がある。作業環境内においても有機溶剤濃度等に差があると考えられる。実際に作業者の作業する場所や、移動、気流等の影響も含めて、どの作業者がどの程度曝露されているか変化する可能性がある。このため、個人曝露測定のために作業者が個別にサンプラーを取り付ける場合がある。
【0008】
しかし、従来の拡散型サンプラーは、立体的な形状のため、作業中に周囲のものに衝突したりすることで損傷や脱落などの懸念があった。また、その取付ける位置も制限があった。
係る状況下、シート状などにもでき、測定目的に応じた設置や取付けが容易にできるサンプラー(捕集器)が求められていた。本発明の目的は、シート状などにもでき設置位置等を測定目的に応じて容易に調整できるサンプラー(捕集器)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 活性炭素繊維の吸着層と、前記吸着層を覆う被覆部と、前記被覆部の一部に設けられた通気部とを有し、
前記通気部が、積層されたポリオレフィン系多孔質フィルムと不織布とを有し、前記不織布が前記活性炭素繊維側に設けられる通気材を用いたものであり、
前記通気材の透気度が10,000sec/100cc以上、前記通気材の透湿度が500g/m2・day以下である捕集器。
<2> 前記通気材が、ポリオレフィン系多孔質フィルムと不織布との間に通気性接着層を有する前記<1>記載の捕集器。
<3> 前記被覆部に貼付部を有する前記<1>または<2>に記載の捕集器。
<4> 前記被覆部に絶縁層を有する前記<1>~<3>のいずれかに記載の捕集器。
<5> 厚みが、5mm以下である前記<1>~<4>のいずれかに記載の捕集器。
<6> 前記<1>~<5>のいずれかに記載の捕集器を測定対象環境に曝露し、前記測定対象環境の有機溶剤を吸着層に吸着させる有機溶剤の捕集方法。
<7> 前記有機溶剤が、二硫化炭素、ケトン類、直鎖炭化水素、エステル類、芳香族類、および塩素化炭化水素からなる群から選択される1以上の有機溶剤である前記<6>記載の捕集方法。
<8> 前記<6>または<7>に記載の捕集方法により前記有機溶剤を吸着させた前記吸着層を、脱着液に浸漬させ、前記吸着層に捕集された前記有機溶剤を前記脱着液内に脱着させた有機溶剤回収液とし、前記有機溶剤回収液内の前記有機溶剤の濃度から、前記吸着層に捕集されていた前記有機溶剤量を測定する有機溶剤量の測定方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の捕集器は、シート状などの形状の設計も容易にでき、設置位置等を測定目的に応じて容易に調整できる捕集器が提供される。本発明の捕集器により、有機溶剤の個人曝露をより容易に測定したり、様々な場所に取付け自在なため有機溶剤の場所や時間による分布・変動も容易に測定したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第一の実施形態に係る捕集器の平面図である。
図2】本発明の第一の実施形態に係る捕集器の断面図である。
図3】本発明の第一の実施形態に係る捕集器の断面拡大図である。
図4】本発明の第二の実施形態に係る捕集器の断面図である。
図5】本発明の第二の実施形態に係る捕集器の断面拡大図である。
図6】実施例に係る有機溶剤吸着試験に用いた装置構成を示す概要図である。
図7】実施例に係る有機溶剤吸着試験の結果を示すグラフである。
図8】実施例に係る有機溶剤吸着試験の結果を示すグラフである。
図9】実施例に係る皮膚表面曝露濃度試験に用いた手袋内外の捕集器の配置を説明するための図である。
図10】実施例に係る皮膚表面曝露濃度試験の結果を示すグラフである。
図11】実施例に係る皮膚表面曝露濃度試験の結果を示すグラフである。
図12】実施例に係る防毒マスク内濃度試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0014】
本発明の捕集器は、活性炭素繊維の吸着層と、前記吸着層を覆う被覆部と、前記被覆部の一部に設けられた通気部とを有し、
前記通気部が、積層されたポリオレフィン系多孔質フィルムと不織布とを有し、前記不織布が前記活性炭素繊維側に設けられる通気材を用いたものであり、
前記通気材の透気度が10,000sec/100cc以上、前記通気材の透湿度が500g/m2・day以下である。
本発明の捕集器は、シート状などの形状の設計も容易にでき、設置位置を測定目的に応じて容易に調整できる。
【0015】
また、本発明の捕集方法は、本発明の捕集器を測定対象環境に曝露し、前記測定対象環境の有機溶剤を吸着層に吸着させる有機溶剤の捕集方法に関する。
また、本発明の測定方法は、本発明の捕集方法により前記有機溶剤を吸着させた前記吸着層を、脱着液に浸漬させ、前記吸着層に捕集された前記有機溶剤を前記脱着液内に脱着させた有機溶剤回収液とし、前記有機溶剤回収液内の前記有機溶剤の濃度から、前記吸着層に捕集されていた前記有機溶剤量を測定する有機溶剤量の測定方法に関する。
なお、本願において本発明の捕集器は、本発明の捕集方法に利用でき、さらに本発明の捕集方法を利用して本発明の測定方法を行うこともできる。本願において、これらのそれぞれに対応する構成は相互に利用することができる。
【0016】
本発明者らは、形状を自由に設計しやすい捕集器の作成にあたり、シート状の捕集器を検討した。捕集器は、曝露時間や曝露環境の有機溶剤濃度に対する捕集量(吸着量)に相関性があることが重要である。
【0017】
本発明者らは、有機溶剤の吸着材として、活性炭素繊維の利用を検討した。活性炭素繊維は、有機溶剤等の吸着性に優れており、脱着液を用いた脱着性にも優れていることから吸着材に適していると考えられる。しかし、活性炭素繊維は、吸着性が高すぎることから、極めて短時間で吸着量が飽和してしまったり、吸湿して有機溶剤等の吸着能が発揮されず、曝露時間や有機溶剤濃度に対する相関性が不明となることが分かった。従来の立体的な形状の拡散型サンプラーは、その立体的な形状が拡散するための場としても寄与していたと考えられる。
【0018】
この拡散性をさらに検討した結果、積層されたポリオレフィン系多孔質フィルムと不織布とを有する通気材であり、透気度が10,000sec/100cc以上、透湿度が500g/m2・day以下の通気材を用いた通気部を設けることが有用であることを見出した。このような通気部を設け、通気部以外からの通気を抑制して、活性炭素繊維に有機溶剤等を吸着させることで、曝露時間や有機溶剤濃度に対する相関性を確保できる。
これは、ポリオレフィン系多孔質フィルムにより透気や透湿の量を制御し、さらに、不織布によりポリオレフィン系多孔質フィルムを通気した気体を拡散させて、活性炭素繊維に接触させることで、拡散するための場が薄くても十分に拡散させて吸着させることができるためと考えられる。
【0019】
(第一の実施形態)
図1~3は、本発明の第一の実施形態である捕集器10を示す概要図である。図1は、捕集器10の平面図である。図2は、捕集器10の断面図である。図3は、捕集器10の図2のA-A´線における断面拡大図である。
【0020】
捕集器10は、吸着層1を覆う形状を有している。捕集器10は、通気部2から通気して吸着層1に有機溶剤等を吸着する。捕集器10は、通気部2を設ける側を作業環境等に対向するように配置して用いるため、通気部側を表面、その反対側を裏面として説明する。
【0021】
吸着層1は、裏面側被覆部3(図2)と通気部2と接着部4とによる被覆部により覆われている。吸着層1は、通気部2から通気し、他の裏面側や側部等からの通気を抑制する構成を有する。
【0022】
通気部2は、多孔質フィルム21と不織布22とからなる通気材2Aの層を有する通気材を用いて形成されており、不織布22が吸着層1側に設けられ、多孔質フィルム21が表面側の最表層に設けられている。この構成により通気部2からの通気は制御され、吸着層1まで通過し吸着される有機溶剤等の量を制御する。
【0023】
捕集器10は、裏面側被覆部3に用いるシート、活性炭素繊維の吸着層1、不織布22、多孔質フィルム21の順に重ね合わせた積層体状とし、その積層体の四方の端部を熱溶着や、シール部材によるシール等により密閉する接着部4を設けることで形成することができる。
【0024】
(第二の実施形態)
図4~5は、本発明の第二の実施形態である捕集器11を示す概要図である。図4は、捕集器11の断面図である。図5は、捕集器11の図5のB-B´線における断面拡大図である。なお、捕集器11も平面視すると図1と同様のため省略する。
【0025】
捕集器11は、第一の実施形態の捕集器10と一部共通する構成を有し、さらに、貼付部5、通気性接着層23、絶縁層6を有している。通気材2Bは、多孔質フィルム21と不織布22と、これらを接着する通気性接着層23とからなる。
【0026】
貼付部5は、裏面側被覆部3のさらに裏面側(図4における下方)に設けられる。貼付部5により、捕集器11を任意の場所に貼付けることができる。
【0027】
絶縁層6は、吸着部1と、裏面側被覆部3との間に配置される。絶縁層6により、通気部2以外からの通気の影響をより低減することができる。
【0028】
(吸着層)
吸着層には、活性炭素繊維(Activated Cabon Fiber:ACF)が用いられる。活性炭素繊維は、繊維状の活性炭であり、JIS K1477:2007 繊維状活性炭試験方法に規定され、活性炭繊維や繊維状活性炭とも呼ばれるものである。例えば、セルロース系、PAN系、フェノール系、ピッチ系繊維を原料として製造される。活性炭素繊維は有機溶剤等の吸着性能に優れていることから、本発明の捕集器の吸着層として適しており、本発明においては繊維状の活性炭である活性炭素繊維全般を用いることができる。また、これらの活性炭素繊維を含み、本発明の目的を損ねない範囲でポリエステルやアクリル樹脂等の高分子繊維や無機繊維等の他の繊維と複合したものも用いることができる。
【0029】
本発明に適した代表的な活性炭素繊維についてさらに説明する。代表的な活性炭素繊維の繊維直径は約5~30μmであり、細孔直径は約15~20Åにピークを有する。これらの繊維直径や細孔形状により、微細で表面積が広くかつミクロ孔で構成されていることから、活性炭素繊維は吸脱着速度が速くかつ低濃度でも吸着性能に優れている。また、活性炭素繊維は球状活性炭に比べて表面積が約200倍と言われており、耐湿性も優れている。
【0030】
活性炭素繊維は、シート状に形成されたものを好適に用いることができる。このシート状は、不織布(フェルト)や織布(クロス)、ペーパーなどの形状で成形される。本発明においては活性炭素繊維の層は薄くてもその厚さに応じた吸着量となることから、薄いシート状のものであってもよい。また、シートにおける活性炭素繊維が占める割合も任意でよいが、活性炭素繊維の吸着性が高すぎる場合があることから活性炭素繊維と他の繊維を複合したものを用いてもよい。このような観点から、吸着層に用いるものは、活性炭素繊維を含むシートであることが好ましく、このシートは、その厚みは0.10~0.50mmが好ましく、0.15mm~0.35mmのものであってもよい。また、その目付は厚みにもよるが、10~100g/m2が好ましく、20~50g/m2のものであってもよい。また、そのシートの繊維等の成分において活性炭素繊維が占める割合は、100%であってもよく、好ましくは20質量%以上や30質量%以上、40質量%以上を下限としてよく、好ましくは90質量%以下や80質量%以下、70質量%以下を上限としてもよい。
【0031】
(被覆部)
本発明の捕集器は、吸着層を覆う被覆部を有する。吸着層は、前述のように活性炭素繊維が用いられる。この活性炭素繊維は、吸着性能が優れていることから、そのまま用いると、直ちに吸湿したり、捕集器の使用時以外の開放状態でも有機溶剤等を吸着したりして外乱の影響を受けやすく、捕集器として用いたときの有機溶剤等の吸着量を分析しにくい。このため、活性炭素繊維の吸着層が、捕集器の使用環境等で外乱の影響を受けにくいように、吸着層を密閉した形状の被覆部により覆われる。
この被覆部は、前述の第一の実施形態や第二の実施形態で説明したように、吸着層を覆う、裏面側被覆部、接着部、通気部を含む部分である。
【0032】
(通気部)
本発明の捕集器は、被覆部の一部に設けられた通気部を有する。通気部は、詳しくは後述するように、積層されたポリオレフィン系多孔質フィルムと不織布の層を有し不織布が前記活性炭素繊維側に設けられる通気材により形成されている。これらの層により捕集器が用いられる雰囲気から捕集器内部への通気量が制御される。通気部から、通気して、捕集器の被覆部の内部に配置されている吸着層は、その通気された気体から、有機溶剤等の吸着対象を吸着する。
【0033】
(ポリオレフィン系多孔質フィルム)
通気部に用いる通気材の透気度は、10,000sec/100cc以上である。また、通気材の透湿度は、500g/m2・day以下である。このような透気度と透湿度を有する通気材を用いることで、通気部から通気される気体量が適正なものとなり、吸着部に吸着される有機溶剤量等が、曝露時間や有機溶剤濃度に対する優れた相関性を有するものとなる。
【0034】
(透気度)
通気部の透気度は、透気度が10,000sec/100cc以上である。この透気度は100ccの空気が膜を通過するのにかかる時間を表し、この値が大きいほど通気性が低いものとなる。この透気度は、JIS P8117:2010の「王研式透気度測定器」により測定される値である。透気度をこの範囲とすることで、通気部から適度な通気が可能となる。透気度が高すぎると通気しやすくなり、捕集器内への通気量が多すぎることで吸着部が直ちに飽和して、相関性を得られない場合がある。透気度は、15,000sec/100cc以上が好ましく、20,000sec/100cc以上がより好ましく、25,000sec/100cc以上がさらに好ましい。
また、透気度の値は、捕集器内の吸着部が吸着可能な範囲で高くてもよく、透気度が高いほど長時間作業時や測定時の使用に適した捕集器とすることともできるため、上限を設けなくてもよい。しかし、透気度の値が高すぎる場合、実質通気されなかったり、通気が遅く吸着時間が長時間化してしまう場合があるため、200,000sec/100cc以下や、150,000sec/100cc以下、100,000sec/100cc以下、50,000sec/100cc以下のように上限を設けてもよい。
【0035】
(透湿度)
通気材の透湿度は、500g/m2・day以下である。この透湿度は24時間に1m2あたり、そのシートやフィルム、膜等を通過する水蒸気量を表し、この値が大きいほど通気する水蒸気量が高くなる。この透湿度は、JIS K7129-5:2016の「自動水蒸気透過計」により測定された値である。透湿度をこの範囲とすることで、通気部から透湿する量を抑制することができる。透湿度が高すぎると水蒸気が通気して、吸着部が吸湿してしまい、有機溶剤等を適度に吸着しなくなる。透湿度は、480g/m2・day以下が好ましく、450g/m2・day以下がより好ましい。
また、透湿度は、捕集器内の吸着部が吸着可能であればよいため、0を下限としてもよい。しかし、透湿度が低すぎる場合、実質他の気体も通気されなかったり、通気が遅く測定時間が長時間化してしまう場合があるため、50g/m2・day以上や、100g/m2・day以上、200g/m2・day以上、300g/m2・day以上のように上限を設けてもよい。
【0036】
(多孔質フィルム)
本発明の通気材は、ポリオレフィン系多孔質フィルムを用いたものである。このポリオレフィン系多孔質フィルムは、ポリオレフィン系の樹脂を主たる成分として含み、微細な孔を有する多孔質のフィルムである。ポリオレフィン系の樹脂を主たる成分として含むことで、疎水性を有し水蒸気の過剰な透過や、液状の水等の侵入も防止できる。主たる成分として含む量は、多孔質フィルムをなす組成物においてポリオレフィン系樹脂が50質量%以上や、70%以上、80%以上、90%以上等、適宜他の成分の性質等を考慮して設定される。また、ポリオレフィン系の樹脂は多くの有機溶剤に対する耐性を有するため、有機溶剤等の気体や液体と接しても浸食されにくい。また、多孔質を有することから、有機溶剤等を含む気体が通過する。
ポリオレフィン系多孔質フィルムは、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系の樹脂に炭酸カルシウム等の無機充填材(好ましくは、平均粒径が30μm以下のもの)を配合して押出し方式等の適宜な方式にてフィルムとしたものを一軸や二軸等にて延伸処理してなる多孔質フィルムなどがあげられる。
このポリオレフィン系の樹脂としては、ポリエチレンや、ポリプロピレンを用いることができ、さらに、α-オレフィンを必須のモノマー成分として形成されたオレフィン系共重合体等を用いることができる。また、複数の樹脂を混合して用いても良く、ポリエチレンとオレフィン系共重合体とを混合したものを用いてもよい。直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が、延伸性の観点から好ましく用いられる。
【0037】
(不織布)
本発明の通気材は、不織布を用いたものである。この不織布は、本発明の捕集器において、ポリオレフィン系多孔質フィルムよりも吸着層側に配置される。不織布により、ポリオレフィン系多孔質フィルムを介して通気された気体をさらに拡散させることができる。この拡散により、吸着層の全体に分散させて気体中の有機溶剤等が吸着される。この不織布がない場合、多孔質フィルムを介して通気された気体が十分に拡散されずに直ちに吸着層に到達して吸着量にムラが生じたり風の影響を大きく受けたりすることで、吸着層の有機溶剤等の吸着量がばらつきやすくなる恐れがある。
【0038】
不織布は、樹脂の繊維を不織布としたものなどを用いることができる。より具体的には、ポリアミド系繊維やポリエステル系繊維、ポリプロピレン系繊維等を適宜単独や組み合わせて形成されてなる不織布などを用いることができる。
【0039】
(通気性接着層)
本発明に用いる通気材は、ポリオレフィン系多孔質フィルムと不織布とが通気性接着層により積層されたものであることが好ましい。多孔質フィルムと不織布とを積層する方法は特に限定されないが、接着剤で貼り合わせたものであることが好ましい。この接着剤はポリオレフィン系多孔質フィルムと不織布との間に通気性接着層を形成し、その通気性接着層は、例えばパターン塗工の接着層やホットメルト型の多孔質接着フィルムなどの、通気性を示す適宜な接着層にて形成することができる。
【0040】
通気性接着層の形成は、例えば接着性物質を加熱溶融下に熱風を介し吹付け展開するカーテンスプレー方式やメルトブロー方式やスロットスプレー方式などの適宜な方式で接着性物質を繊維化して多孔質フィルムや通気性基材やセパレータ等からなる適宜な支持基材上に展開堆積させ、多孔状態の接着層とする方法などの、接着性物質を適宜な方式で繊維化してそれを多孔状態に配置する適宜な方法にて行うことができる。
【0041】
前記した繊維形成用の接着性物質としては、例えばホットメルト型の粘着剤ないし接着剤のように、加熱溶融できて常温又は加熱溶融時もしくはその加熱溶融物の繊維化時に粘着性を示すもの、あるいは形成した繊維の再加熱で接着性を示すものなどの適宜なものを用いることができる。接着性物質の例としては、SISやSBS、SEBSやSIPSのようなスチレン系エラストマー、ポリエチレン、特に超低密度ポリエチレンやポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体のようなオレフィン系ポリマー、アクリル酸やメタクリル酸等のアルキルエステルを成分とするアクリル系ポリマー、ポリエステル系やポリアミド系やウレタン系等の熱可塑性樹脂などを成分とするものがあげられる。
【0042】
通気材は、このような多孔質フィルムと不織布とを積層したものであり、積層するために、適宜、接着材を用いた層を有している。このような通気材としては、例えば特開平10-328224号公報や、特開2000-42023号公報、特開2013-1435号公報、特開2014-76158号公報の多孔質フィルムや、それを用いた袋体構成部材などを参照して作製し用いることができる。
【0043】
また、通気材は、通気材全体としての厚みは任意のものでものよいが、1mm以下が好ましく、0.8mm以下や、0.5mm以下、0.3mm以下とすることもできる。このような厚みの範囲の場合、捕集器として適した通気性が維持される。厚みが厚すぎる場合、捕集器全体としての厚みが厚くなり使用条件の制限が生じる場合がある。また、各層の厚みや、通気した気体の拡散を考慮すると、その下限は、0.05mm以上が好ましく、0.08mm以上、0.1mm以上、0.2mm以上としてもよい。
【0044】
(貼付部)
本発明の捕集器は、さらに、被覆部に貼付部を有するものとすることができる。この貼付部は、第二の実施形態に例示するように、図4の裏面側被覆部3のさらに裏面側に設けられた貼付部5のように配置することができる。
【0045】
この貼付部は、捕集器を任意の場所に貼り付けて設置するための構成である。この貼付部を用いて、作業者の衣服や、作業場所の観測場所に、適宜捕集器を貼り付けることができる。この貼付部には、例えば、両面テープや、点ファスナー、線ファスナー、面ファスナーなどを用いることができる。
【0046】
また、これらの貼付部は、捕集器の被覆部の任意の場所に設けることができる。通気部を表面として用いる場合が多いことから、裏面側に設ける場合が多く、例えば、裏面側被覆部の全面や一部に両面テープを貼るなどの構成とすることができる。
【0047】
(絶縁層)
本発明の捕集器は、被覆部に絶縁層を有するものとすることができる。この絶縁層は、その絶縁層を介する通気を実質的に遮断するものである。この絶縁層を設けることで通気部のみから通気し、吸着層は有機溶剤等を吸着する。この絶縁層は、例えば、アルミ箔や、アルミなどの金属蒸着膜を設けた樹脂フィルムなどを用いて形成することができる。
【0048】
また、この絶縁層が、被覆部そのものを形成するものであってもよい。すなわち、第二の実施形態を例にすると、図4および図5における裏面側被覆部3を省略し、絶縁層6自体が裏面側被覆部となるものであってもよい。
【0049】
または、裏面側被覆部と通気材との接着性や成形性等を考慮して、接着部分等からの漏れなどが生じないように通気材との接着性に優れた樹脂フィルムなどにより裏面側被覆部3を形成し、裏面側被覆部の内側や外側に、アルミ箔などの絶縁層6を設ける構成としてもよい。
【0050】
(捕集器)
本発明の捕集器は、任意の厚みや大きさ等の形状としてもよい。本発明によれば、薄いものでも優れた相関性を示す捕集器とすることができるため、シート状や板状の厚みとすることが好ましい。その厚みは、10mm以下が好ましく、8mm以下、5mm以下、3mm以下とすることができる。厚みが薄いことで、作業者が衣服や皮膚の表面に取り付けても作業中に接触等により損傷したり脱落するおそれが少ない。また、厚みが薄いことで、作業環境の設備等に取り付けて使用する場合も、作業環境の任意の場所に貼付けてもそのまま作業できる点でも優れている。
【0051】
また、その大きさも捕集目的等に応じて任意の大きさとすることができる。一般的には、方形状などの多角形や、円状などとする。特に、正方形や、長方形といった方形とする場合が多い。方形としたとき、10mm角や、1インチ角、30mm角程度の小型のものから、数十cm角~数m角といった大型のものまで任意の大きさとしてもよい。作業者が取り付けて用いる場合、小型のものが好ましい。
【0052】
(捕集方法)
本発明は、本発明の捕集器を測定対象環境に曝露し、前記測定対象環境の有機溶剤を吸着層に吸着させる有機溶剤の捕集方法とすることができる。この捕集方法により、本発明の捕集器に有機溶剤等を捕集(サンプリング)することができる。
【0053】
(測定対象環境)
本発明の捕集器は、測定対象環境に曝露して用いることができる。この測定対象環境とは、有機溶剤等を取り扱う作業現場等があげられる。この作業現場は密閉された室内でもよいし、開放された屋外等でもよい。一般に有機溶剤の捕集量を測定する場所は密閉された室内等である。本発明の捕集器は、アクティブサンプラーのような電動機構等を必要とせず発火の懸念がなく、狭い空間の塗装現場などの危険な場所の作業者曝露測定にも有用である。
【0054】
また、この測定対象環境は、限定的な空間でもよい。例えば、マスク内や、手袋内のような保護具内部とすることもできる。このような保護具内への有機溶剤等の侵入量を測定するために、本発明の捕集器を用いてもよい。本発明の捕集方法を行うとき、測定対象となる作業環境側を向く表面側に、本発明の捕集器の通気部側を向け、通気部を介して通気させて、有機溶剤等を吸着層に吸着させる。
【0055】
化学物質に対する経皮的な吸収を防護することは健康障害防止にとって非常に重要である。そのためには皮膚表面における化学物質のガス濃度を正しく評価することが重要である。手表面を化学物質から防護するために化学防備手袋が使用される。従来、実際に作業者が手袋を装着した時の、手袋内部の皮膚表面における化学物質濃度を測定する方法は無かった。本発明においては、捕集器を小型化しシート状とできることから、手袋内に捕集器を貼り付けて有機溶剤捕集量を測定することができる。
【0056】
防毒マスクを使用することにより、経気道的な化学物質曝露を防御することができる。しかし、マスクの装着状況により漏れが生じ、十分なマスクの性能が発揮されていないことが危惧される。従来、マスク内は配置できるものに空間的な制限があり、呼気に含まれる湿度が高いことから吸湿の影響もありマスク内の有機溶剤濃度等を測定しにくかった。本発明においては、捕集器を小型化しシート状とでき、かつ吸着層が吸湿しにくく湿度の影響を抑制した測定ができることから、防毒マスク内に捕集器を貼り付けて有機溶剤捕集量を測定することができる。
【0057】
本発明の捕集器は、作業者などに貼り付けて使用し、その作業者の各部位が直接接触した有機溶剤濃度等を測定するために用いてもよい。例えば、保護具内に配置して保護具を侵入した有機溶剤濃度等を捕集して、その濃度を測定することで直接曝露の有無、その程度を測定することができる。より具体的には、捕集器を取り付けて、その上からマスクや手袋をすることで、保護具内部に捕集器を配置することもできる。このような保護具内への有機溶剤等の侵入量を測定するために、本発明の捕集器を用いてもよい。
【0058】
(有機溶剤等)
本発明の捕集器は、有機溶剤等の捕集に用いられる。本発明の捕集器が捕集する対象としては、通気部を通過し、吸着層に用いる活性炭素繊維が吸着可能な任意のものを捕集対象としてよい。例えば、二硫化炭素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;ノルマルヘキサンなどの直鎖炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ベンゼン、キシレン、トルエンなどの芳香族類;ジクロロメタン、トリクロロメタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの塩素化炭化水素;などがあげられ、これらからなる群から選択される少なくとも1以上のものとすることができる。すなわちこれらの複数を捕集対象としてもよい。
【0059】
(捕集時間)
本発明の捕集方法において、捕集時間(サンプリング時間)は、任意の時間としてもよいが、4時間以下の曝露時間(作業時間)とすることが好ましい。作業現場における作業者の有機溶剤等の曝露時間を測定するためにも用いられることから、4時間以下で1時間以上や、2時間以上、3時間以上、としてもよい。例えば、日中の作業時間を8時間とし、前半(午前等)4時間で1つ使用し、後半(午後等)4時間で1つ使用することで2つの捕集器で1日の作業時間相当の捕集ができる。本発明の捕集器は、本発明の構成により吸着層の活性炭素繊維が飽和しにくく、このような長時間の捕集時間にも適している。
【0060】
(捕集環境)
本発明の捕集方法において、使用時の気温や湿度も任意の場所としてよい。作業現場で用いることや、各構成に用いる部材の耐性等を考慮すると、10~40℃が好ましく、20℃~35℃がより好ましく、室温付近での使用が適している。また、作業環境等の相対湿度の影響も小さいため、相対湿度の影響をほとんど考慮せず使用することができる。また、一定の風速下では影響を受けにくく、捕集時間中に平均0.3m/s程度以下の風に曝される環境で使用しても、その風速の影響をほとんど考慮せず使用することができることが確認されている。
【0061】
(捕集器の保管)
本発明の捕集方法により有機溶剤等を捕集した捕集器は、その捕集量等を測定する前に保管してもよい。保管方法としては、密閉性(アルミ製等)の容器(箱や袋等)内に捕集器全体や、捕集器内の吸着層のみを分離して保管することができる。また保管時は脱着等の反応を抑制するために冷蔵(例えば15℃以下や、10℃以下など)で保管してもよい。保管期間は、1週程度とすることもできる。このような保管を行っても捕集終了時の捕集量に対する高い保存率が維持でき、捕集後の捕集量の測定を任意の時期にまとめて行うことができるなどの作業性の利点も有する。
【0062】
(測定方法)
本発明は、本発明の捕集器を用いた捕集方法により有機溶剤を吸着させた捕集器の吸着層を、脱着液に浸漬させ、前記吸着層に捕集された前記有機溶剤を前記脱着液内に脱着させた有機溶剤回収液とし、前記有機溶剤回収液内に脱着された前記有機溶剤濃度から、前記吸着層に捕集されていた前記有機溶剤量を測定する有機溶剤量の測定方法とすることができる。
【0063】
(脱着液)
脱着液は、吸着層に吸着された有機溶剤を脱着することができる任意の液を吸着されている有機溶剤に応じて用いることができる。この脱着液は、吸着層に吸着させた有機溶剤と異なるものを用いる。代表的な脱着液としては、二硫化炭素、アセトン、ジクロロメタンがあげられる。
【0064】
(脱着)
脱着は、吸着層の活性炭素繊維と脱着液を接触させ、吸着層に吸着されていた有機溶剤等を脱着液側に移行させる。脱着させるときの吸着層と脱着液との比率は任意でよいが、吸着層:脱着液の質量比で、1:50~1:100程度とすることができる。吸着層量が少なすぎる場合、ガスクロ分析に必要な量を下回ったり、脱着液に脱着されにくかったり、脱着液を回収しにくい場合がある。脱着液量が多すぎる場合、相対的に吸着層から脱着される有機溶剤等が少なく、脱着された有機溶剤等を含む有機溶剤回収液における有機溶剤濃度が低く、その濃度を測定しにくい場合がある。この脱着は、脱着液に吸着層を浸漬等させることで行うことができ、また、適宜、浸漬させた状態で振とうさせるなどして、脱着の促進や脱着液内の有機溶剤濃度の均一化を行ってもよい。
【0065】
有機溶剤回収液内に脱着された有機溶剤濃度から、吸着層に捕集されていた有機溶剤量を測定することができる。この有機溶剤濃度の測定は、公知の測定方法を適宜採用してよい。脱着液量が比較的少ない場合が多いことから、少量の試料からも濃度測定を行いやすいガスクロマトグラフィーなどにより測定することが好ましい。
【0066】
このように脱着液を用いた有機溶剤回収液の有機溶剤濃度を求め、その作業工程から換算することで吸着層に捕集されていた有機溶剤量を求めることができる。この有機溶剤量に基づいて、適宜サンプリングレイトや、曝露量等も求めることができる。
【実施例
【0067】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
[1.捕集器の作製]
第二の実施形態に示す構成に準じて、以下の部材を用いて捕集器を作製した。
【0069】
(ア)通気材2B
ポリオレフィン系多孔質フィルムであるポリエチレン多孔質フィルムと、不織布とが接着層により接着された通気材として、以下の「ブレスロン(登録商標)」(株式会社ニトムズ)を用いた。
・通気材(ア-1):ブレスロン(登録商標) BRN-A120E1
透気度28000sec/100cc、透湿度410g/m2・day、PET系不織布
・通気材(ア-2):ブレスロン(登録商標) BRN-1860
透気度4500sec/100cc、透湿度860g/m2・day、ナイロン系不織布
・通気材(ア-3):ブレスロン(登録商標) BRN3000E1
透気度400sec/100cc、透湿度4500g/m2・day、PET系不織布
【0070】
(イ)吸着層1
活性炭素繊維として「太閤ACFシ-ト SHF025-50」(フタムラ化学株式会社)を使用した。アルミ箔の四隅へは接着剤としてスリーエム社製「スプレ-のり77」をスポットでごく少量塗布し、活性炭素繊維を固定した。
【0071】
(ウ)絶縁層6
アルミ箔(厚み17μm)を使用した。
【0072】
(エ)裏面側被覆部3(接着層5)
接着剤が塗布された強力両面テープ「プレミアゴールドSPS-12」(スリーエムジャパン株式会社)を裏面側被覆部として使用した。また、このシートの接着剤層を裏面側に配置することで接着剤が貼付部5(図4)として機能する。
【0073】
(捕集器(a1))
通気材として通気材(ア-1)のブレスロン(登録商標) BRN-A120E1、吸着層(活性炭素繊維)、絶縁層(アルミ箔)、裏面側被覆部(強力両面テープ)の順に、幅3cm・長さ3cmの大きさで裁断して重ねて配置した(活性炭素繊維は、幅2.5cm・長さ2.5cmとして中央に配置)。その後、周囲をメンディングテープ(3Mスコッチ社製)によりシールして、捕集器(a1)を作製した。
この捕集器(a1)は、厚み約1mmのシート状で凹凸を有さない形状で、重さは約0.5gと非常に軽量である。また、強力両面テープの接着剤により作業衣や皮膚の上に貼るたけでサンプリングが可能である。また、接着表面積が大きいため、動きが激しい現場作業者においても脱落せず、使用時の安全上のリスクは少ない。
【0074】
(捕集器(a2)、捕集器(a3))
前記捕集器a1の、通気材を、通気材(ア-1)に代えて、通気材(ア-2)としたものを捕集器(a2)、通気材(ア-3)としたものを捕集器(a3)として作製した。これらは、透気度や透湿度が、本発明の捕集器の範囲から外れる比較例の捕集器である。
【0075】
[2.捕集器によるトルエン捕集試験]
捕集器を用いて、有機溶剤としてトルエンの捕集試験を行った。
【0076】
「有機溶剤(トルエン)捕集試験」
トルエンの許容管理濃度である20ppmの0.2倍、0.5倍、1倍濃度の標準ガスを作成し、標準ガスで充填した恒温槽内の防爆チャンバ-内にて捕集器を1~4時間曝露させて、捕集器によるsampling rateを算出した。試験は、添加回収試験、温度、相対湿度、風速、保存による影響試験を行い、サンプリング性能を検討した。保存による影響は、トルエン濃度20ppmにて、捕集器を4時間曝露後に、保存温度25℃または4℃で保存し、0~8日の間の変化を測定した。
【0077】
有機溶剤捕集量の測定に用いた試験装置構成の概略を図6に示す。また、使用機器は以下のものである。
・温湿度制御装置 流量制御装置
微小流量用温湿度制御装置“KTC-Z02A-S”(コトヒラ工業株式会社)
・ガス発生装置
校正用ガス調製装置 パーミエーター“PD-1B”(ガステック株式会社)
・空調機
精密空調・局所空調“PAU-800S”(株式会社アピステ)
【0078】
「トルエン捕集量の測定」
捕集器が捕集したトルエン量は、捕集器を以下の方法で測定した。試験条件下に、一定時間設置した捕集器を回収し、二硫化炭素により捕集器の吸着層へ吸着したトルエンを脱着させた。このトルエン量はガスクロマトグラフ(試験条件後述)を用いてこの脱着液中のトルエン濃度を求め、吸着量等に適宜換算した。
【0079】
「トルエン濃度の分析条件」
・使用機器:ガスクロマトグラフ“GC-5890”(Agilent Technologies製(Clara, Cnada)
・カラム:BD-WAX(0.32mm×30m膜厚0.5μm)
・分析条件:カラム温度40℃(1分)-10℃/min-80℃(1分)
・測定用試料の導入量:1.0μL
・定量下限値:14.0μg/mL
【0080】
「実施例1」
捕集器(a1)を用いて、トルエンの有機溶剤捕集量の測定を行った。
捕集器(a1)を用いた添加回収試験はトルエンの標準試薬を用い、添加量として0.181mgから3.614mgにおいて平均回収率は99.2%と良好であり、算出されたトルエンのsampling rateは4.4ng/(ppm・min)となった。
【0081】
図7に、トルエン捕集量について曝露時間(図7(a))、温度(図7(b))、相対湿度(図7(c))、風速(図7(d))との関係を示す。
各試験ガス濃度とも曝露時間と全捕集量は比例関係にあった(図7(a))。また、温度25~35℃(図7(b))や相対湿度約20~80%(図7(c))、風速0.05~0.3m/s(図7(d))の違いによる測定値への影響はほとんど無いことが確認された。
図8に保存時間の影響試験の結果を示す。4℃にて8日目の保存率は99.8%で、冷蔵にて約1週間は保存が可能なことが確認された。
【0082】
このように、捕集器(a1)の性能は、トルエンに対して、温度が20℃~35℃、相対湿度20%~80%、風速0.05m/s~0.3m/sの範囲において4時間までのサンプリングを十分に実施することが可能である。
この特性より、たとえば口元付近に貼って呼吸域の化学物質濃度を測定できるほか、高湿度かつ皮膚温度(35℃)付近となる化学防護手袋内の手表面に貼り、従来は不可能であった手表面からの経皮的吸収の曝露指標を得ることも可能である。
さらに、防毒マスクの内側へ貼ることにより、吸収缶を通して実際の作業者が吸入しているマスク面体内の空気中化学物質濃度を測定すること、およびマスクの漏れ率を正確に測定することも可能である。
【0083】
「比較例1」
捕集器(a1)に代えて、捕集器(a2)~捕集器(a3)を用いて、トルエンの有機溶剤捕集量の測定を行った。トルエン濃度20ppm、温度30℃、相対湿度50%における経過時間とトルエン捕集量を表1に示す。
この試験の結果、透気度や透湿度が、本発明の捕集器の範囲から外れる捕集器(a2)~(a3)は、捕集量が多すぎるため、1時間経過前に過剰に吸着してしまい、捕集量と、試験時間との比例関係が認められなかった。このため、曝露の程度による捕集量の評価を行うことができず、捕集器として適さないものであった。
【0084】
【表1】
【0085】
[3.皮膚表面曝露濃度測定]
シート状である捕集器(a1)を手袋内の手表面に貼り付けることにより、濃度を評価できる方法について検討した。
【0086】
「試験素材」
試験の対象とした手袋の素材や厚さ等を表2に示す。
【0087】
「試験対象物質(有機溶剤)」
トルエン(99.5%)和光純薬工業製(特級)試薬を用いた。
【0088】
「試験装置」
試験手袋の外側表面(外側)、および手袋の内部の手の模型表面(内側)の各々3ケ所へ捕集器(a1)を貼り付けた(図9)。この試験手袋を手の模型に取り付けた試験体として、トルエンの取り扱い状況を想定してトルエン蒸気が発生している装置内に設置した。この装置内部温度は35℃に保ち、四時間経過後に試験体を取り出し各捕集器を外し、二硫化炭素2mLに各捕集器の活性炭素を浸漬してトルエンを脱着し、各捕集器に吸着したトルエン濃度(気中濃度)を求めた。試験は、トルエン蒸気濃度を変えて手袋下端側を閉鎖した条件にて5回行い、所定のトルエン蒸気濃度で手袋下端側を開放した条件にて5回行った。
【0089】
手袋内外に貼り付けた各3ヶ所の算術平均濃度の測定結果を表2および図10図11に示す。また、表2には試験に使用した手袋についての材質の種類、材質の透過時間、厚さ(mm)、重さ(g/m2)、サイズ、手袋表面(外側)の濃度、手袋内部の手模型表面(内側)の濃度、および内側に対する外側の割合を示した。なお、透過とは、材料の表面に接触した化学物質が吸収され内部に分子レベルで拡散を起こし裏面から離脱する現象であり、透過時間とは化学防護手袋素材の外側が化学物質と接触して内部の濃度が0.1μg/cm2/minに達するまでの時間である(JIS T8116:2005 化学防護手袋)。
【0090】
【表2】
【0091】
EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂)、ポリウレタン(厚手)、ニトリルゴム(厚手)は、手袋外側に対する内側の手表面トルエン濃度は1%以下と低濃度であり、トルエンに対する耐透過性が反映された結果であった。
また、EVOHとニトリルゴム(厚手)は手袋外側が高濃度であっても、化学物質は手袋により防護され、手表面のトルエン濃度としては1ppm未満であることが確認された。
また、手袋下端を開放状態とした場合は、閉鎖した場合に比べてポリウレタン(薄手)以外は内側に対する外側の割合が高値となった。手袋下端を閉鎖することの効果が伺えた。
本検討により、シート状サンプラーを使用することで手袋内部の皮膚表面における化学物質濃度を測定し、手袋の耐透過性能を評価することが可能となる結果を得た。
【0092】
[4.防毒マスク内濃度測定]
捕集器(a1)を用いて、実際に化学物質を取り扱っている時のマスク面体の外側と内側の濃度を実測して漏れ率を求めた。
【0093】
「使用防毒マスク」
下記の二種類とした
マスク1 面体:直結式小型 スカイマスクGH715型 (三光化学工業)
吸収缶:G36有機ガス用吸収缶(三光化学工業)破過時間210分以上
マスク2 面体:直結式小型1200 (3M)
吸収缶:3301J-55 有機ガス用吸収缶 (3M)破過時間240分
【0094】
「試験対象物質(有機溶剤)」
トルエン(99.5%)和光純薬工業製(特級)試薬を用いた。
【0095】
「試験方法」
防毒マスクの面体の内側と外側へ捕集器(a1)を貼り付けた。作業者がこのマスクを装着して約30分、または約60分間、屋外にてトルエンを用いた塗装作業を行った。作業は5回行った。作業ごとに捕集器を回収し、二硫化炭素2mLにて捕集器の吸着層を浸漬してトルエンを脱着し、二硫化炭素2mLに各捕集器の活性炭素を浸漬してトルエンを脱着し、各捕集器に吸着したトルエン濃度(気中濃度)を求めた。
【0096】
試験結果を表3、および図12に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
防毒マスクにおけるトルエンの漏れ率は、合計10回行った測定の平均値として9.33%であり、マスク内部の平均トルエン濃度は0.85ppmであった。これらのマスク内部の濃度は許容濃度の1/20以下であることが確認できた。
マスクは種類ごとに指定防護係数が定められており、曝露状況に応じてマスクの漏れ率を考慮した種類の選択することが可能である。また、防じんマスクはマスクフィッティングテスタ-を用いて面体とのフィットを確認してから使用することが可能である。しかし、防毒マスクではマスクフィッティングテスタ-は使用できないため、実際の漏れ率を確認する方法が存在せず、適する呼吸用保護具の選択となっているか、また、正しい装着状況になっているかを確認できなかった。しかし、本発明の捕集器を使用することにより、マスク内部の濃度を把握することが可能となるため、選択したマスク種類の是非、漏れ率の程度を正しく知ることが可能となる結果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の捕集器は、作業現場等での有機溶剤等の捕集量の測定に用いることができ、産業上有用である。
【符号の説明】
【0100】
1 吸着層
10、11 捕集器
2 通気部
21 多孔質フィルム
22 不織布
23 通気性接着層
2A、2B 通気材
3 裏面側被覆部
4 接着部
5 貼付部
6 絶縁層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12