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特許7048120抵抗スポット溶接用電極及びその製造方法並びに溶接方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】抵抗スポット溶接用電極及びその製造方法並びに溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/30 20060101AFI20220329BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20220329BHJP
   B23K 35/02 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
B23K11/30 320
B23K26/352
B23K35/02 F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020549254
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2019037467
(87)【国際公開番号】W WO2020067094
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2018180900
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135999
【氏名又は名称】株式会社ヒロテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】特許業務法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】和鹿 公則
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-157075(JP,U)
【文献】特開昭63-16882(JP,A)
【文献】特開2001-9574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00-11/36
B23K 26/352
B23K 35/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu又はCu合金からなる抵抗スポット溶接用電極であって、
電極先端面の少なくとも一部が酸化銅を主成分とする酸化物粒子のクラスターで被覆されていること、
を特徴とする抵抗スポット溶接用電極。
【請求項2】
前記酸化物粒子の平均粒径が100nm以下であること、
を特徴とする請求項1に記載の抵抗スポット溶接用電極。
【請求項3】
前記クラスターが略球状であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の抵抗スポット溶接用電極。
【請求項4】
前記電極先端面の少なくとも一部に、2本以上の溝からなる凹凸が形成されていること、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載の抵抗スポット溶接用電極。
【請求項5】
前記凹凸が直線状又は格子状に形成されていること、
を特徴とする請求項4に記載の抵抗スポット溶接用電極。
【請求項6】
前記凹凸の凹部及び凸部の幅が、それぞれ10~50μm及び50~100μmであり、
前記凸部の高さ又は前記凹部の深さが10~200μmであること、
を特徴とする請求項4又は5に記載の抵抗スポット溶接用電極。
【請求項7】
酸素を含む雰囲気中でCu又はCu合金からなる抵抗スポット溶接用電極の電極先端面にレーザ照射を施し、
前記電極先端面に酸化銅を主成分とする平均粒径が100nm以下の酸化物粒子からなるクラスターを形成させること、
を特徴とする抵抗スポット溶接用電極の製造方法。
【請求項8】
前記レーザ照射によって、前記電極先端面に2本以上の溝からなる凹凸を形成すること、
を特徴とする請求項7に記載の抵抗スポット溶接用電極の製造方法。
【請求項9】
前記凹凸を直線状又は格子状に形成すること、
を特徴とする請求項8に記載の抵抗スポット溶接用電極の製造方法。
【請求項10】
請求項1~6のうちのいずれかに記載の抵抗スポット溶接用電極を用いること、
を特徴とする抵抗スポット溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抵抗スポット溶接用電極及びその製造方法並びに当該抵抗スポット溶接用電極を用いた溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗スポット溶接に用いられる電極には、被接合領域に加圧力と電流を供給すると共に溶接熱を抜熱する機能が要求される。また、例えば、自動車の製造工程においては多数の抵抗スポット溶接を行う必要があるため、十分な連続打点性(電極寿命)が必要となる。その結果、当該電極は高温強度、電気伝導性及び熱伝導性に優れ、低コストであることが切望され、これらの多様な要求を比較的満足する電極材料として、従来から銅合金が使用されている。
【0003】
しかしながら、アルミニウム板、アルミニウム合金板及び亜鉛めっき鋼板等を溶接する場合、溶接発熱による電極の温度上昇により電極表面への溶接金属の付着や合金化が進行し、電極先端面が損傷する。当該損傷(劣化)に伴って溶接電流密度が低下することから、所望の溶接強度を得ることが困難となり、当該時点で電極寿命として認識される。
【0004】
ここで、特に、従来の銅合金電極はアルミニウムとの反応性が高く、電極寿命が短くなることが知られている。電極が寿命に至ると製造ラインを一旦停止して電極の交換やドレッシングを行う必要があり、生産効率及び生産コストの観点から深刻な問題となっている。
【0005】
このような状況下において、例えば、特許文献1(特許第5130476号公報)においては、電極チップ先端に、Niを0.01mass%以上5mass%以下含み、Cu、Ni、Snからなる金属間化合物が0.5μm以上20μm以下の厚みで存在することを特徴とするスポット溶接用電極、が提案されている。
【0006】
上記特許文献1に記載のスポット溶接用電極においては、Cu-Sn系合金のCuの一部がNiに置換されたCu-Ni-Sn系合金(Cu、Ni、Snからなる金属間化合物)ではCuの拡散が抑制されることから当該合金層が厚く成長せず、Sn-Znめっき鋼板のような難溶接材料を溶接する場合に従来よりも寿命の長いスポット溶接用の電極を提供することができる、としている。
【0007】
また、特許文献2(特開平5-330950号公報)においては、銅合金からなる電極内に、アルミニウムと固溶し難く、かつ溶接中に、前記電極表面に、アルミニウムと銅との反応を防止する保護層を形成し得るVa、VIa、VIIa、およびVIIIa族の1種以上の元素を重量%で1.5~20%配合し、当該元素を銅合金母材中に分散させたことを特徴とするアルミニウムまたはアルミニウム合金の抵抗スポット溶接用電極、が提案されている。
【0008】
上記特許文献2に記載の抵抗スポット溶接用電極においては、クロム等の金属元素から成る新たな層が電極先端部全面に渡って厚く形成されると、当該金属元素はアルミニウムと固溶しにくいため、アルミニウムと電極中の銅との反応も効果的に防止され、その後、繰り返し溶接を行った場合でも、電極の使用寿命が格段に向上する、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5130476号公報
【文献】特開平5-330950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載のスポット溶接用電極はSn-Znめっき鋼板に対して長寿命化が図られたものであり、その他の被接合材についての効果は明らかになっていない。また、電極とは異なる組成の金属間化合物を電極表面に形成し、当該金属間化合物層の膜厚を制御する必要があるため、製造工程が煩雑になることに加えて製造コストが高くなってしまう。
【0011】
一方で、上記特許文献2に記載の抵抗スポット溶接用電極はアルミニウム板及びアルミニウム合金板に対して長寿命化が図られたものであり、その他の被接合材についての効果は明らかになっていない。また、Va、VIa、VIIa、およびVIIIa族の1種以上の元素を重量%で1.5~20%配合し、当該元素を銅合金母材中に分散させる必要があるため、製造工程が煩雑になることに加えて製造コストが高くなってしまう。
【0012】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、種々の被接合材に対して連続打点性に優れ、特にアルミニウム板及びアルミニウム合金板の抵抗スポット溶接に関して長寿命化された安価な抵抗スポット溶接用電極及びその簡便な製造方法を提供することにある。また、当該抵抗スポット溶接用電極を用いた抵抗スポット溶接方法を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記目的を達成すべく、抵抗スポット溶接用電極の先端面の状態について鋭意研究を重ねた結果、当該先端面の少なくとも一部を、酸化銅を主成分とする酸化物粒子のクラスターで被覆すること等が効果的であることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
即ち、本発明は、
Cu又はCu合金からなる抵抗スポット溶接用電極であって、
電極先端面の少なくとも一部が酸化銅を主成分とする酸化物粒子のクラスターで被覆されていること、
を特徴とする抵抗スポット溶接用電極、を提供する。
【0015】
電極先端面の少なくとも一部が酸化銅を主成分とする酸化物粒子のクラスターで被覆されていることで、電極先端面の表面積が飛躍的に増加する。当該表面積の増加によって抵抗スポット溶接時の電流密度が低下し、電極先端面に対する溶接金属の凝着が極めて効果的に抑制される。その結果、抵抗スポット溶接における連続打点性を著しく向上させることができる。
【0016】
電極先端面の表面積増加に伴う連続打点性の向上は、当該電極先端面に対する溶接金属の凝着抑制によるものであり、被接合材の種類を問わず効果を得ることができるが、抵抗スポット溶接時に大きな溶接電流が用いられ、電極先端面への溶接材の凝着が顕著であるアルミニウム板及びアルミニウム合金板の抵抗スポット溶接に関して極めて効果的に長寿命化を図ることができる。
【0017】
また、本発明の抵抗スポット溶接用電極においては、酸化銅を主成分とする酸化物粒子のクラスターによって電極先端面の表面積を増加させていることから、抵抗スポット溶接用電極の主成分であるCuを適当な条件で酸化することのみで得ることができる。即ち、外部から電極に含まれない金属元素を供給等する必要がないため、抵抗スポット溶接用電極の価格上昇を最低限に抑制することができる。加えて、抵抗スポット溶接用電極の連続使用により電極先端面の酸化物粒子のクラスターが消失した場合、当該端面を再度適当な条件で酸化することで、容易に再生することが可能である。
【0018】
また、本発明の抵抗スポット溶接用電極においては、前記酸化物粒子の平均粒径が100nm以下であることが好ましい。酸化物粒子の平均粒径が100nm以下となることで、電極先端面の表面積の増加に起因して抵抗スポット溶接時の電流密度が低下し、電極先端面に対する溶接金属の凝着が極めて効果的に抑制される。その結果、抵抗スポット溶接における連続打点性が著しく向上する。なお、当該平均粒径は50nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。
【0019】
また、本発明の抵抗スポット溶接用電極においては、前記クラスターが略球状であること、が好ましい。クラスターが略球状であることで、電極先端面の表面積を効率的に増加させることができる。なお、当該略球状のクラスターの粒径は10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることが最も好ましい。クラスターの粒径減少に伴い、電極先端面の表面積をより効率的に増加させることができる。
【0020】
また、本発明の抵抗スポット溶接用電極においては、前記電極先端面の少なくとも一部に、2本以上の溝からなる凹凸が形成されていること、が好ましい。電極先端面に凹凸を形成することで、当該電極先端面の表面積を増加させることができる。
【0021】
また、本発明の抵抗スポット溶接用電極においては、前記凹凸が直線状又は格子状に形成されていることが好ましく、直線状に形成されていることがより好ましい。抵抗スポット溶接用電極では溶接金属の凝着を抑制する必要があるが、表面積の増加を目的として凹凸形状を形成させると、逆に凝着し易い状態となる。ここで、凹凸形状を直線状又は格子状に形成させることで当該凝着を抑制することができ、特に、直線状とすることでより効率的に凝着を抑制することができる。なお、その他の凹凸形状としては、例えば、直径の異なる円形の溝を同心円状に形成させるパターンや、中心から外周に向けてスクロール状に溝を形成させるパターン等を挙げることができる。
【0022】
また、本発明の抵抗スポット溶接用電極においては、前記凹凸の凹部及び凸部の幅が、それぞれ10~50μm及び50~100μmであり、前記凸部の高さ又は前記凹部の深さが10~200μmであること、が好ましい。凹部の幅を10μm以上とすることで溶接金属の凝着を抑制することができ、50μm以下とすることで電極先端面の表面積を十分に増加させることができる。また、凸部の幅を50μm以上とすることで凸部の損傷を抑制することができ、100μm以下とすることで電極先端面の表面積を十分に増加させることができる。更に、凸部の高さ又は凹部の深さを10μm以上とすることで電極先端面の表面積を十分に増加させることができ、200μm以下とすることで当該凹凸構造の損傷を抑制することができることに加えて溶接金属の凝着を抑制することができる。
【0023】
また、本発明は、
酸素を含む雰囲気中でCu又はCu合金からなる抵抗スポット溶接用電極の電極先端面にレーザ照射を施し、
前記電極先端面に酸化銅を主成分とする平均粒径が100nm以下の酸化物粒子からなるクラスターを形成させること、
を特徴とする抵抗スポット溶接用電極の製造方法、も提供する。
【0024】
例えば、Cu又はCu合金からなる抵抗スポット溶接用電極の電極先端面を大気炉中で酸化させても緻密な酸化皮膜が形成されるのみであり、表面積の増加に寄与する酸化銅を主成分とする平均粒径が100nm以下の酸化物粒子からなるクラスターを形成させることができない。これに対し、酸素を含む雰囲気中でCu又はCu合金からなる抵抗スポット溶接用電極の電極先端面にレーザ照射を施すことで、所望のクラスターを形成させることができる。当該レーザ照射によって酸化銅を主成分とする平均粒径が100nm以下の酸化物粒子からなるクラスターが形成される理由については必ずしも明らかにはなっていないが、酸素を含む雰囲気中で電極先端面のCuを急速加熱急速冷却することで、当該クラスターが形成されるものと考えられる。
【0025】
また、本発明の抵抗スポット溶接用電極の製造方法においては、前記レーザ照射によって、前記電極先端面に2本以上の溝からなる凹凸を形成すること、が好ましい。電極先端面に微小な凹凸を形成することは困難であるが、焦点が小さなレーザを用いて、適当な条件で電極先端面を走査することにより、極めて効率的かつ正確に微小な凹凸形状を付与することができる。即ち、適当な条件のレーザ照射によって、酸化銅を主成分とする平均粒径が100nm以下の酸化物粒子のクラスターの形成及び微小な凹凸形状の付与を、1工程で達成することができる。
【0026】
また、本発明の抵抗スポット溶接用電極の製造方法においては、前記凹凸を直線状又は格子状に形成すること、が好ましい。凹凸形状を直線状又は格子状に形成させることで当該凝着を抑制することができ、特に、直線状とすることでより効率的に凝着を抑制することができる。また、直線状又は格子状の凹凸であれば、単純なレーザ走査パターンで形成することができる。
【0027】
更に、本発明は、本発明の抵抗スポット溶接用電極を用いること、を特徴とする抵抗スポット溶接方法も提供する。当該抵抗スポット溶接方法は、従来公知の一般的な抵抗スポット溶接に本発明の抵抗スポット溶接用電極を用いるのみである。本発明の抵抗スポット溶接用電極を用いることで、連続打点性を著しく向上することができる。なお、本発明の抵抗スポット溶接方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金の接合に用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の抵抗スポット溶接用電極によれば、種々の被接合材に対して連続打点性に優れ、特にアルミニウム板及びアルミニウム合金板の抵抗スポット溶接に関して長寿命化された安価な抵抗スポット溶接用電極を提供することができる。また、本発明の抵抗スポット溶接用電極の製造方法においては、種々の被接合材に対して連続打点性に優れ、特にアルミニウム板及びアルミニウム合金板の抵抗スポット溶接に関して長寿命化された抵抗スポット溶接用電極を安価且つ簡便に製造する方法を提供することができる。更に、本発明の抵抗スポット溶接方法によれば、種々の被接合材に対して連続打点性に優れ、特にアルミニウム板及びアルミニウム合金板の接合に関して連続打点性に優れた抵抗スポット溶接方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の抵抗スポット溶接用電極の先端部の形状を示す概略図である。
図2】酸化銅を主成分とする酸化物粒子クラスターの模式図である。
図3】実施例1で得られた電極先端部表面の外観写真である。
図4】レーザ照射領域の表面近傍における断面のSEM写真である。
図5】レーザ照射領域の表面の高倍率(×25,000)のSEM写真である。
図6】球状クラスターの高倍率(×100,000)のSEM写真である。
図7】SEM-EDS分析における測定エリアのSEM写真である。
図8】SEM-EDS分析で得られたEDSスペクトルである。
図9】レーザ照射領域以外のSEM-EDS分析における測定エリアのSEM写真である。
図10】レーザ照射領域以外のSEM-EDS分析で得られたEDSスペクトルである。
図11】実施例2で得られた電極先端部表面の低倍のSEM写真である。
図12】実施例3で得られた電極先端部表面の低倍のSEM写真である。
図13】レーザ照射領域の表面近傍における断面のSEM写真である。
図14】通電を行わず加圧のみを行った場合のアルミニウム合金板への電極表面形状の転写状態である。
図15】連続打点で形成されたナゲット径と引張せん断強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明の抵抗スポット溶接用電極及びその製造方法並びに溶接方法の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0031】
(1)抵抗スポット溶接用電極
図1は、本発明の抵抗スポット溶接用電極の先端部の形状を示す概略図である。抵抗スポット溶接用電極1はCu又はCu合金からなり、先端部2の表面の少なくとも一部は酸化銅を主成分とする酸化物粒子のクラスターで被覆されている(酸化物粒子クラスター被覆領域4が形成されている。)。なお、先端部2の形状は従来公知の種々の抵抗スポット溶接用電極と同様の形状とすることができ、例えば、適当な曲面や平面等とすることができる。
【0032】
また、先端部2の表面の少なくとも一部には、2本以上の溝からなる凹凸が形成されていることが好ましい(凹凸領域6が形成されていることが好ましい。)。当該凹凸は直線状又は格子状に形成されていることが好ましく、直線状に形成されていることがより好ましい。抵抗スポット溶接用電極では溶接金属の凝着を抑制する必要があるが、表面積の増加を目的として凹凸形状を形成させると、逆に凝着し易い状態となる。ここで、凹凸形状を直線状又は格子状等の単純形状とすることで凝着金属が強固に付着することを抑制することができ、特に、直線状とすることでより効率的に凝着を抑制することができる。なお、その他の凹凸形状としては、例えば、直径の異なる円形の溝を同心円状に形成させるパターンや、中心から外周に向けてスクロール状に溝を形成させるパターン等を挙げることができる。
【0033】
凹凸の凹部及び凸部の幅は、それぞれ10~50μm及び50~100μmであり、凸部の高さ又は凹部の深さが10~200μmであること、が好ましい。凹部の幅を10μm以上と十分に広くすることで溶接金属の凝着を抑制することができ、50μm以下とすることで先端部2の表面積を十分に増加させることができる。また、凸部の幅を50μm以上とすることで凸部の破断及び損傷を抑制することができ、100μm以下とすることで先端部2の表面積を十分に増加させることができる。更に、凸部の高さ又は凹部の深さを10μm以上とすることで先端部2の表面積を十分に増加させることができ、200μm以下とすることで当該凹凸構造の損傷を抑制することができることに加えて溶接金属の凝着を抑制することができる。
【0034】
酸化物粒子クラスター被覆領域4及び凹凸領域6は、それぞれ先端部2の表面の全域に形成されていることが好ましい。この場合、酸化物粒子クラスター被覆領域4と凹凸領域6は一致することになる。一方で、酸化物粒子クラスター被覆領域4及び凹凸領域6は必ずしも先端部2の表面の全域に形成されている必要はなく、例えば、酸化物粒子クラスター被覆領域4と凹凸領域6が異なる領域に形成されていてもよい。
【0035】
酸化物粒子クラスター被覆領域4に形成される酸化銅を主成分とする酸化物粒子クラスターの模式図を図2に示す。酸化物粒子クラスター8は微細な酸化物粒子10の集合体であり、酸化物粒子10の主成分は酸化銅である。
【0036】
酸化物粒子10の平均粒径は100nm以下であることが好ましい。酸化物粒子10の平均粒径が100nm以下となることで、先端部2の表面積の増加に起因して抵抗スポット溶接時の電流密度が低下し、先端部2に対する溶接金属の凝着が極めて効果的に抑制される。その結果、抵抗スポット溶接における連続打点性が著しく向上する。なお、当該平均粒径は50nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。
【0037】
また、酸化物粒子クラスター8は略球状であることが好ましい。略球状体の酸化物粒子クラスター8が密に存在することで、先端部2の表面積を効率的に増加させることができる。酸化物粒子クラスター8の粒径は10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることが最も好ましい。酸化物粒子クラスター8の粒径減少に伴い、先端部2の表面積をより効率的に増加させることができる。なお、酸化物粒子クラスター8の表面には、複数の酸化物粒子10からなるより微細な構成単位が認められる場合が存在するが、当該構成単位は本発明の抵抗スポット溶接用電極では特段考慮する必要はない。
【0038】
酸化物粒子10の平均粒径の測定方法は特に限定されず、従来公知の種々の測定方法を用いることができる。例えば、高倍率のSEM観察又はTEM観察を行い、任意の領域における酸化物粒子10について粒径の平均値を求めればよい。
【0039】
(2)抵抗スポット溶接用電極の製造方法
本発明の抵抗スポット溶接用電極の製造方法は、酸素を含む雰囲気中でCu又はCu合金からなる抵抗スポット溶接用電極の電極先端面(先端部2)にレーザ照射を施し、電極先端面に酸化銅を主成分とする平均粒径が100nm以下の酸化物粒子のクラスター(酸化物粒子クラスター8)を形成させるものである。
【0040】
レーザ照射に用いるレーザは特に限定されず、従来公知の種々のレーザを用いることができる。ここで、当該レーザには半導体レーザ、COレーザ、ファイバーレーザ及びYAGレーザ等を用いることができる。
【0041】
雰囲気中には先端部2のCuと反応して酸化物粒子を生成するための酸素が含まれていればよく、大気中や酸素を混合した不活性ガス中でレーザ照射を行えばよい。また、レーザ出力及び走査速度等のレーザ照射条件は、形成される酸化物粒子クラスター8を確認しつつ、適宜調整すればよい。
【0042】
また、レーザ照射によって、先端部2の表面に2本以上の溝からなる凹凸を形成することが好ましい。先端部2の表面に微小な凹凸を形成することは困難であるが、焦点が小さなレーザを用いて、適当な条件で電極先端面を走査することにより、極めて効率的かつ正確に微小な凹凸形状を付与することができる。即ち、適当な条件のレーザ照射によって、適当な酸化物粒子クラスター8の形成及び微小な凹凸形状の付与を1工程で達成することができる。具体的には、パルスエネルギーが1mj程度のパルスレーザを用いて、微小な凹凸形状に対応した走査パターンでレーザ照射を行うことが好ましい。
【0043】
凹凸は直線状又は格子状に形成することが好ましい。凹凸形状を直線状又は格子状に形成させることで溶接金属の凝着を抑制することができ、特に、直線状とすることでより効率的に凝着を抑制することができる。また、直線状又は格子状の凹凸であれば、単純なレーザ走査パターンで形成することができる。
【0044】
(3)抵抗スポット溶接方法
本発明の抵抗スポット溶接方法は、本発明の抵抗スポット溶接用電極を用いた抵抗スポット溶接方法である。当該抵抗スポット溶接方法は、従来公知の一般的な抵抗スポット溶接に本発明の抵抗スポット溶接用電極1を用いるのみである。
【0045】
抵抗スポット溶接用電極1を用いることで、連続打点性を著しく向上することができる。なお、本発明の抵抗スポット溶接方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金の接合に用いることが好ましい。
【0046】
抵抗スポット溶接に用いる通電電流、通電時間及び加圧力等の接合条件は被接合材の種類、サイズ及び形状等に応じて適宜設定すればよい。ここで、先端部2の表面積の増加や酸化物粒子クラスター8の存在により、一般的に用いられる接合条件とは適切接合条件が異なる場合が存在するが、例えば、通電電流の調整等によって良好な接合部を得ることができる。
【0047】
連続接合に伴う接合部の強度低下が生じた場合、通電電流を増加させることで引き続き良好な接合部を形成することができる。また、当該通電電流の増加によっても継手強度が回復しない場合、使用済みの抵抗スポット溶接用電極1に対して再度レーザ照射を行うことで容易に再生することができる。
【0048】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0049】
1.抵抗スポット溶接用電極の製造
≪実施例1≫
クロム銅製の電極の先端部表面に対して、大気中にてレーザ照射を行った。レーザにはIPG社製のYLPパルスレーザを用い、レーザ照射の条件は平均出力:50W(エネルギー:1mj)、フォーカス径:60μm、走査速度(ピーク速度):1500588.5μm/sとした。
【0050】
Pitch:130μm、Raw Space:70μmの走査パターンで得られた電極先端部表面の外観写真を図3に示す。金属光沢が失われている領域がレーザ照射を施した領域である。
【0051】
レーザ照射領域の表面近傍における断面のSEM写真を図4に示す。レーザ照射領域には直線状の規則的な凹凸形状が形成されており、凹部の幅は38.5μm、凸部の幅は83μm、凹部の深さ(凸部の高さ)は91.5μmとなっている。
【0052】
レーザ照射領域の表面(図4の凸部の表面)の高倍率(×25,000)のSEM写真を図5に示す。極めて微細な粒子から構成される直径1~数μmの球状クラスターの形成が確認できる。また、当該クラスターのより高倍率(×100,000)のSEM写真を図6に示す。当該SEM写真から、微細粒子の平均粒径が約10nmであることが分かる。
【0053】
レーザ照射領域の表面においてSEM-EDS分析を行い、酸化物の同定を行った。当該分析における測定エリアのSEM写真を図7に、EDSスペクトルを図8に、それぞれ示す。得られたEDSスペクトルからZAF法簡易定量分析にて構成元素を算出したところ、酸素(O)が8.8質量%、銅(Cu)が89.3質量%であり、微細粒子は酸化銅(CuO)を主成分とする酸化物粒子であることが確認された。
【0054】
また、比較として、レーザ照射領域以外の表面のSEM-EDS分析を行った。当該分析における測定エリアのSEM写真を図9に、EDSスペクトルを図10に、それぞれ示す。得られたEDSスペクトルからZAF法簡易定量分析にて構成元素を算出したところ、酸素(O)が1.1質量%、銅(Cu)が98.1質量%であり、基本的に銅(Cu)のみから構成されており、レーザ照射領域とは全く異なることが分かる。
【0055】
≪実施例2≫
レーザ照射の走査パターンを格子状としたこと以外は実施例1と同様にして、抵抗スポット溶接用電極を得た。
【0056】
レーザ照射領域の表面近傍における断面の低倍SEM写真を図11に示す。レーザ照射領域にはレーザ照射による穴と酸化物粒子の積層による凹凸形状が形成されていることが分かる。なお、レーザ照射領域を高倍率でSEM観察したところ、実施例1と同様の酸化物クラスターが確認された。
【0057】
≪実施例3≫
レーザ照射の走査パターンをリング状としたこと以外は実施例1と同様にして、抵抗スポット溶接用電極を得た。電極先端部表面の低倍写真を図12に示す。
【0058】
レーザ照射領域の表面近傍における断面のSEM写真を図13に示す。レーザ照射領域にはレーザ照射による穴と酸化物粒子の積層による凹凸形状が形成されていることが分かる。なお、レーザ照射領域を高倍率でSEM観察したところ、実施例1と同様の酸化物クラスターが確認された。
【0059】
2.抵抗スポット溶接(抵抗スポット溶接用電極の評価)
実施例1で得た抵抗スポット溶接用電極を用い、板厚1.0mmの6000系アルミニウム合金板に対して連続接合を行った。通電を行なわず加圧のみを行なった際のアルミニウム合金板への電極表面形状の転写状態を図14に示す。抵抗スポット溶接の条件は、電流:31kA、加圧力:3.5kN、通電時間:40msとし、連続150点まで打点した。
【0060】
連続打点で形成されたナゲット径と引張せん断強度を図15に示す。また、参考値として引張せん断強度のJIS規格を示している。打点数の増加に伴うナゲット径及び引張せん断強度の変化は殆ど認められず、本発明の抵抗スポット溶接用電極は極めて優れた連続打点性を有しており、連続150打点時においてもJIS規格を十分に満足する接合部が形成されている。
【0061】
なお、100打点以降に僅かに引張せん断強度が不安定になったことから、電流値を34kAに増加させたところ、再度安定した引張せん断強度が得られている。また、150打点後に抵抗スポット溶接用電極の先端部表面を観察したところ、被接合材であるアルミニウム合金の凝着は認められなかった。150打点後も電極先端部表面へのアルミニウム合金の凝着が認められないことから、本発明の抵抗スポット溶接用電極の使用に関しては、アルミニウム合金凝着の影響を殆ど考慮しなくてもよいことが確認された。
【0062】
また、比較として、レーザ処理を施していない抵抗スポット溶接用電極(実施例1で用いた抵抗スポット溶接用電極)を用いて、上記と同様の抵抗スポット溶接条件で連続打点を行ったところ、数打点から電極先端部表面へのアルミニウム合金の凝着が認められ、10打点で既に良好な接合部を形成することができなかった。
【符号の説明】
【0063】
1・・・抵抗スポット溶接用電極、
2・・・先端部、
4・・・酸化物粒子クラスター被覆領域、
6・・・凹凸領域、
8・・・酸化物粒子クラスター、
10・・・酸化物粒子。
図1
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図15