(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】予備成形歯科用複合クラウン、その製造及び使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20220329BHJP
A61K 6/831 20200101ALI20220329BHJP
A61K 6/818 20200101ALI20220329BHJP
A61K 6/802 20200101ALI20220329BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/831
A61K6/818
A61K6/802
(21)【出願番号】P 2018546608
(86)(22)【出願日】2017-02-22
(86)【国際出願番号】 US2017018856
(87)【国際公開番号】W WO2017155692
(87)【国際公開日】2017-09-14
【審査請求日】2020-02-19
(32)【優先日】2016-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】ガルス シェフナー
(72)【発明者】
【氏名】ラインホルト ヘヒト
(72)【発明者】
【氏名】ヘルマール マイアー
(72)【発明者】
【氏名】マルテ コルテン
(72)【発明者】
【氏名】ベルンハルト ホフマン
(72)【発明者】
【氏名】ジョアッキーノ ライア
(72)【発明者】
【氏名】ティル モイラー
【審査官】古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-532378(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/196792(US,A1)
【文献】国際公開第2015/006087(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予備成形歯科用複合クラウンであって、その形状及び化学組成物によって特徴付けられ、
前記形状が、以下:
大臼歯及び小臼歯では、咬合トップ面、並びに従属する頬側、近心、遠心及び舌側又は口蓋側の側面を有すること、
前歯及び切歯では、遠心トップ面、並びに従属する唇側、近心、遠心及び舌側又は口蓋側の側面を有すること、
前記側面が互いに連結して、クラウン頸部を形成していること、
前記クラウンの前記クラウン頸部での壁厚が、0.6mm未満であること、
少なくとも2つの反対側にある従属側面が、凹形状を有すること
を特徴とし、
前記化学組成物が、
20~70wt%の量のナノ充填剤、
20~75wt%の量の樹脂マトリックス、
を含み、
前記樹脂マトリックスが、3~20wt%の量で存在するウレタン(メタ)アクリレートと、ウレタン部分を含まない(メタ)アクリレートとを含み、
前記ウレタン(メタ)アクリレートが、
構造A-(-S1-U-S2-MA)
nを有し、
Aが、少なくとも1つのユニットを含む連結要素であり、
S1が、互いに連結している少なくとも4つのユニットを含むスペーサー基であり、
S2が、互いに連結している少なくとも4つのユニットを含むスペーサー基であり、
A、S1及びS2
の前記ユニットが、-CH
2-、-O-、-S-、-NR
1-、-CO-、-CR
1=、
【化1】
、-N=、-CR
1R
2-から独立して選択され、ここで、R
1及びR
2が、水素、アルキル、置換アルキル、アルケニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アリールアルキル、アリール又は置換アリールから独立して選択され、これらのユニットが、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、エステル基、ウレタン基又はアミド基等の直鎖状、分枝状又は環状構造を形成することができ、
Uが、ウレタン基であり、
MAが、アクリレート基又はメタクリレート基であり、及び
nが、3~6であり、
前記化学組成物が、硬化された状態であり、
wt%が、前記化学組成物の重量に対するものである、
予備成形歯科用複合クラウン。
【請求項2】
前記形状が、以下の特徴:
前記クラウンの前記側面の壁厚が、0.6mmを超えないこと、
前記クラウンの前記側面の壁厚が、0.1~0.4mmであること、
前記クラウンの前記トップ面の壁厚が、0.15mm~1.5mmであること、
アンダーカットが、0.2mmを超えること
のうちの少なくとも1つ以上又は全てによって更に特徴付けられる、請求項1に記載の予備成形歯科用複合クラウン。
【請求項3】
前記ナノ充填剤が、SiO
2、ZrO
2、Al
2O
3又はこれらの混合物の粒子を含む、請求項1又は2に記載の予備成形歯科用複合クラウン。
【請求項4】
前記ナノ充填剤が、ナノサイズの、集合粒子、凝集粒子、離散粒子又はこれらの混合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の予備成形歯科用複合クラウン。
【請求項5】
ウレタン部分を含まない前記(メタ)アクリレートが、以下:
分子量が170~3,000g/molの範囲であること、
少なくとも2つの重合性部分を含むこと
を特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の予備成形歯科用複合クラウン。
【請求項6】
前記化学組成物が、以下の構成成分:
2wt%を上回る量の、酸性基を有する重合性構成成分(w)、
5wt%を上回る量の溶媒
のうちのいずれか又は全てを含まず、
wt%が、前記予備成形歯科用複合クラウンの重量に対するものである、
請求項1~5のいずれか一項に記載の予備成形歯科用複合クラウン。
【請求項7】
前記化学組成物が、
20~70wt%の量の、集合ナノ粒子、凝集ナノ粒子又は離散ナノ粒子及びこれらの混合物から選択されるナノ充填剤、
ウレタン(メタ)アクリレート、
5~55wt%の量の、ウレタン部分を含まない(メタ)アクリレート
を含み、
wt%が、前記化学組成物の重量に対するものである、
請求項1~6のいずれか一項に記載の予備成形歯科用複合クラウン。
【請求項8】
硬化された状態である前記化学組成物が、以下のパラメータ:
曲げ強度が、ISO4049:2009に従って測定して50~200MPa又は80~150MPaであること、
E弾性率が、DIN EN843-2:2007と組み合わせたISO4049:2009に従って測定して1,000~4,000MPaであること、
衝撃強度が、DIN53453:175-05に従って測定して5~15kJ/m
2であること、
摩耗が、約20mm
3未満又は15mm
3未満又は10mm
3未満であること、
色が、歯色であること
のいずれか又はこれらの組み合わせにより特徴付けられる、請求項1~7のいずれか一項に記載の予備成形歯科用複合クラウン。
【請求項9】
前記形状が、以下:
大臼歯及び小臼歯では、咬合トップ面、並びに従属する頬側、近心、遠心及び舌側又は口蓋側の側面を有すること、
前歯及び切歯では、遠心トップ面、並びに従属する唇側、近心、遠心及び舌側又は口蓋側の側面を有すること、
前記側面が互いに連結して、クラウン頸部を形成していること、
前記クラウンの前記クラウン頸部での壁厚が、0.1~0.4mmであること、
前記トップ面の壁厚が、0.15mm~1.5mmであること、
少なくとも2つの反対側にある従属側面が、凹形状を有し、0.2mmよりも大きいアンダーカット設計をもたらすこと
を特徴とし、
前記化学組成物が、
20~70wt%の量のナノ充填剤、
20~75wt%の量の樹脂マトリックス、
を含むことを特徴とし、
前記樹脂マトリックスが、
3~20wt%の量の、少なくとも2つの重合性部分を有するウレタン(メタ)アクリレートと、
5~55wt%の量の、少なくとも2つの重合性部分を有するがウレタン部分を含まない(メタ)アクリレートと
を含み、
wt%が、前記化学組成物の重量に対するものであり、
硬化された状態である前記化学組成物が、以下のパラメータ:
衝撃強度が、DIN53453:175-05に従って測定して5~15kJ/m
2であること、
E弾性率が、DIN EN843-2:2007と組み合わせたISO4049:2009に従って測定して1,000~4,000MPaであること
により特徴付けられる
ことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の予備成形歯科用複合クラウン。
【請求項10】
1つを超える、請求項1~9のいずれか一項に記載の予備成形歯科用複合クラウンを含み、前記予備成形歯科用複合クラウンが、形状、色、サイズ又はこれらの組み合わせのいずれかによって互いに区別される、部品のキット。
【請求項11】
歯科用セメント及び任意に歯科用複合材料を更に含む、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記歯科用セメントが、樹脂変性グラスアイオノマーセメント、自己接着性樹脂セメント又は接着性樹脂セメントである、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
歯を治療する方法において使用するための予備成形歯科用複合クラウンあって、前記方法が、歯科用セメントを使用して、請求項1~9のいずれか一項に記載の予備成形歯科用複合クラウンを患者の口内の歯の表面に固定する工程を含む、予備成形歯科用複合クラウン。
【請求項14】
以下の方法:
積層造形技術を適用する方法、
鋳型成形技術を適用する方法、
予備成形歯科用複合クラウンをフライス加工用ブロックからフライス加工する方法
のいずれかによる、請求項1~9のいずれか一項に記載の予備成形歯科用複合クラウンを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化された予備成形歯科用複合クラウン、これらのクラウンを含有する部品のキット、その製造及び使用方法に関する。予備成形歯科用クラウンは、特に小児の歯の欠陥の治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
歯の疾病の治療のために、これまで様々な異なる解決策が市場に出回っている。
【0003】
一般的に、歯の疾病は修復方法又は補綴方法によって治療することができる。
【0004】
例えば、窩洞に歯牙充填材料を充填する修復治療が可能になるほど十分な残存歯構造が残っていなければ、補綴方法が典型的に使用される。
【0005】
補綴治療は、通常、患者の口内の歯の状況の歯科印象を取ることによって開始する。得られた記録は、状態をそのまま表している。
【0006】
次の工程において、治療される歯は更に調製され、すなわち、歯は、後に人工クラウンの固定を可能にする形態に形削り(shaped)される。
【0007】
人工クラウンは、典型的には、歯科印象及び治療された歯の形状から得られる情報から設計される。
【0008】
次の工程において、人工クラウンは、歯科技工室において製造され、この個々の事例について具体的に設計される。この手順は時間がかかり高価である。
【0009】
しかし、素早く安価な補綴治療が望ましい場合、施術者は代わりに予備成形クラウンの使用を考慮することがある。この種類の治療は、多くの場合に小児歯科で使用される。
【0010】
この目的のために、これまで異なる種類の組立式クラウンが市販されている。
【0011】
最も一般的に使用される解決策は、ステンレス鋼クラウン(例えば、3M Oral Care、3M ESPE)である。ステンレス鋼クラウンは、製造することが妥当に安価であるばかりでなく、何年にもわたって耐久性もある。
【0012】
ステンレス鋼から作製される予備成形クラウンは、素早く容易な設置のために予備整形され(pre-trimmed)、鐘状にされ(belled)、圧着される(crimped)という利益を、追加的に有する。いわゆる「スナップオン」の特徴によって、ステンレス鋼クラウンは、調製済みの歯の外形を覆って容易に保持され、嵌合する。
【0013】
しかし、その金属表面によって、ステンレス鋼クラウンは、望ましい審美的要件を満たさない。
【0014】
この欠陥を治すために、化粧張(veneered)ステンレス鋼クラウンが示唆されている。
【0015】
しかし、化粧張ステンレス鋼クラウンは、クラウンの少なくとも一部の領域において、堅い壁のため限定された可撓性のみを示す。更に、これらのクラウンの化粧張の欠けが報告されており、下にあるステンレス鋼クラウンの金属の光沢が、美的外観を低下させる。
【0016】
したがって、他の材料から予備成形クラウンを製造する試みが示唆された。
【0017】
ジルコニアセラミック(ZrO2)は、個々に設計された審美歯科用クラウンにおいて全く一般的である。ZrO2は、いくつかの特有の材料の特性、例えば、極めて高い強度及び靭性、色調、染色性、並びに生物学的適合性を有し、これらによって、クラウンにとって又はブリッジにとっても、好適になっている。したがって、これまで予備成形ジルコニアクラウンが市販されていることも、驚くべきことではない。
【0018】
しかし、材料の特性のため、これらのクラウンの側壁は可撓性がなく、したがってアンダーカットの設計が可能ではない。更に、ステンレス鋼クラウンと比較して、アンダーカットの保持を有することなく又は非常に限られた可能性を伴って、異なる、より侵襲的な歯の調製が必要となり、ここでも、より慎重なセメント合着技術をもたらすことになる。クラウンの内面の粗面化の解決策、例えばサンドブラスト又は表面保持構造は、クラウンのセメント合着の支持を助けるはずであるが、要するに、アンダーカット特徴部の代わりになることはできない。
【0019】
予備成形クラウンをポリマー材料から製造することも示唆されている。
【0020】
この点において、米国特許第8,651,867(B2)号(Zilberman)は、乳歯及び永久大臼歯の治療の一部として患者の口内に容易に装着可能なように構成された歯科用クラウンを記載し、歯科用クラウンは、生活歯の自然な外観及び色を有し、歯の形状をしたトップ面及び可撓性側面を画定するように構成された熱可塑性材料層からなる。
【0021】
適切な熱可塑性材料として、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリメタクリレート(PMMA)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)及びポリスルホン(PSU)から選択されるポリマーが示唆されている。
【0022】
米国特許出願公開第2004/0161726(A1)号(Saito et al.)は、耐摩耗性及び審美的特性を有し、不飽和二重結合を有する重合性化合物、充填剤及び重合開始剤の混合物のポリマーを含み、歯に似ている外側形状及び内面と橋脚歯の間に歯科用複合樹脂が充填される空間を有する、クラウン補綴を記載する。
【0023】
しかし、ポリマー材料系予備成形クラウンを適用するのに必要なワークフローは、より可撓性のある材料が使用される場合であっても、予備成形ジルコニアクラウンを適用するのに必要なワークフローとあまり異ならない。
【0024】
市販のポリマー系予備成形クラウンは、500μmを超える壁厚を示し、このことは、十分な可撓性を与えず、したがってセメント合着への追加的支持としてのアンダーカット設計の選択肢を与えない。
【0025】
材料の特性によって壁を薄くすることができないという事実は、設計選択肢に対する制限要素になる。
【0026】
それにもかかわらず、調製歯面へのこれらのクラウンの十分な接着固定を確実にするため、表面粗面化が適用される場合であっても、理想的には内面の前処理を伴う接着性セメント合着が推奨される又は必要とされる。このことは全体的な補綴手順をより複雑及び高価にする。一般的に、クラウンは及びブリッジには、異なるセメント合着技術が利用可能である。
【0027】
これらを、一時的なセメント合着(例えば、3M Oral Care、3M ESPEのRelyX(商標)TempNE/E)、従来のセメント合着(例えば、3M Oral Care、3M ESPEのKetac(商標)セム若しくはKetac(商標)セムプラス)、自己接着性樹脂セメント合着(例えば、3M Oral Care、3M ESPEのRelyX(商標)ユニセム)、又は接着性樹脂セメント合着(例えば、3M Oral Care、3M ESPEのRelyX(商標)アルティメット)などの群に分けることができる。
【0028】
一般的に、セメント合着は、適応症の存続期間にわたって耐久性がある必要があり、このことは、化学結合若しくは機械的保持のいずれか、又はこれらの組み合わせによって達成することができる。
【0029】
したがって、特定の適応症に使用されるセメント又は一般的なセメント合着技術の選択は、修復材料、適応症それ自体、調製技術によって影響を受けるが、費用及び審美性も役割を果たす。
【0030】
予備成形クラウンを用いる、例えば小児歯科における素早く容易なチェアサイド(chairside)ワークフローのためには、素早く容易なセメント合着技術が望ましいばかりでなく、必要でもある。
【0031】
このため、ステンレス鋼クラウンの固定には、従来のセメント合着技術が使用される。これらのセメントは、ワークフローが容易であるだけでなく、自己接着性樹脂又は接着性樹脂セメントよりも安価である。更に、これらの自己接着性又は接着性セメントより血液及び唾液に対して耐湿性及び堅牢性がある。
【0032】
この技術は、時間を節約するチェアサイドワークフローのため及び個々に設計されたクラウンが必ずしも必要ではないという事実によって、小児歯科に普及している。
【0033】
最後に、この種類のクラウンの広範囲の使用は、歯科用椅子での容易なワークフローをもたらす。この容易なワークフローは、チェアサイドでの時間を短縮するので非常に重要である。
【0034】
この容易なワークフローを可能にする1つの重要な要素は、縁領域におけるクラウンのアンダーカット設計を可能にする材料の提供であり、薄く、したがって可撓性の側壁によって実行可能である。とりわけ乳大臼歯では、アンダーカット設計は、歯の残根の容易で素早い侵襲性の少ない調製技術をもたらし、このことは、残根へのクラウンのいわゆるスナップオン効果を可能にする。
【0035】
スナップオン効果は、クラウンの容易な設置も確実にする。更に、アンダーカット設計及び調製技術は、クラウンの巨視的な機械的保持をもたらし、これはクラウンのセメント合着を著しく支持する。
【0036】
国際公開第2007/098485(A2)号(Nusmile)には、中央面、中央面から移行して一体となっている周面を有し、周面が歯肉端へ向かうテーパ状を含み、このテーパ状が、歯肉端での0~0.5mmから少なくとも1.0mmの範囲の厚さを、中央面に近接するように移行しながら有する予備成形歯科用クラウンが記載されている。
【0037】
国際公開第2008/033758(A2)号(3M)は、外部クラウン面により画定された外部クラウン形状によって画定された外部クラウン形状を有する、自立型固体硬化性予備成形歯科用クラウンを含む、固体歯科用クラウンを記載する。
【0038】
米国特許出願公開第2007/0196792(A1)号(Johnson et al.)は、歯の色をしており、アンダーカットを有する組立式歯科用クラウンを記載する。組立式歯科用クラウンの製造に有用であるといわれる材料は、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリアリールエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂である。
【0039】
しかし、従来技術において示唆されている解決策のうち、完全に満足させるものはない。
【0040】
これら全ての種類のクラウンは、主に、より複雑で時間のかかるワークフローに関連するが、耐久性及び/又は審美性においても、異なる態様で欠点を有する。
【0041】
本発明の説明
したがって、ステンレス鋼製の予備成形歯科用クラウンと同様であるが、より良好な審美性を有して、調製済みの歯に容易に及び確実に固定され得る予備成形歯科用クラウンを提供することが、本発明の目的である。
【0042】
更に、調製済みの歯に歯科用クラウンを固定することは、例えば樹脂変性グラスアイオノマーセメントの種類の製品を使用して、低い労力及び低い費用で実行できることが望ましい。
【0043】
上記に記述された目的のうちの少なくとも1つは、本文書に記載されている予備成形歯科用クラウン、並びにその製造及び使用の関連方法によって解決することができる。
【0044】
したがって、1つの態様によると、本発明は、予備成形歯科用複合クラウンであって、その形状及び化学組成物によって特徴付けられ、
形状が、以下:
大臼歯及び小臼歯では、咬合トップ面、並びに従属する頬側、近心、遠心及び舌側又は口蓋側の側面を有すること、
前歯及び切歯では、遠心トップ面、並びに従属する唇側、近心、遠心及び舌側又は口蓋側の側面を有すること、
クラウンのクラウン頸部での壁厚が、0.6mm未満であること、
少なくとも2つの反対側にある従属側面が、凹形状を有すること
を特徴とし、
予備成形歯科用複合クラウンが作製された材料である化学組成物が、硬化組成物であり、以下の構成成分:
20~70wt%の量のナノ充填剤(、
20~75wt%の量の樹脂マトリックス、
を含むことを特徴とし、
樹脂マトリックスが、
少なくとも2つの重合性部分を有するウレタン(メタ)アクリレートと、
少なくとも1つ又は2つの重合性部分を有するがウレタン部分を含まない(メタ)アクリレートと
の重合生成物を含み、
wt%が、化学組成物の重量に対するものである、
予備成形歯科用複合クラウンに関する。
【0045】
別の態様によると、本発明は、以下の技術:積層造形技術、鋳型成形技術、予備成形歯科用複合クラウンをフライス加工用ブロックからフライス加工することのいずれかを適用することによる、本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンの製造方法に関する。
【0046】
本発明は、また、本文書に記載されている予備成形歯科用クラウンのセットを含む部品のキットを対象とする。
【0047】
本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンは、特に小児の歯科疾患を治療するために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】歯モデルに設置された予備成形歯科用複合クラウンの一例を示す。
【
図2】予備成形歯科用複合クラウンのアンダーカットをどのように決定できるかを例示する。
【
図3】接着実験を行うために使用される予備成形歯科用複合クラウンの形状を断面により示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
特に異なって定義されない限り、本明細書では、以下の用語は提示された意味を有する。
【0050】
「硬化性構成成分若しくは材料」又は「重合性構成成分」は、例えば、重合を起こす加熱、化学的架橋、放射線誘発性重合又はレドックス開始剤の使用による架橋によって硬化又は凝固し得る、任意の構成成分である。硬化性構成成分は、1つのみ、2つ、3つ又はそれ以上の重合性基を含有し得る。重合性基の典型例には、とりわけ(メチル)アクリレート基に存在するビニル基などの不飽和炭素基が挙げられる。
【0051】
「開始剤」は、硬化性組成物の硬化過程を始めること又は開始させることができる物質である。
【0052】
「モノマー」は、オリゴマー又はポリマーに重合することにより分子量が増加され得る、重合性基((メタ)アクリレート基を含む)を有する化学式により特徴付けることができる任意の化学物質である。通常、モノマーの分子量は、与えられた化学式に基づいて単純に算出することができる。
【0053】
本明細書において使用されるとき、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び/又は「メタクリル」を指す短縮語である。例えば、「(メタ)アクリルオキシ」基は、アクリルオキシ基(すなわち、CH2=CH-C(O)-O-)及び/又はメタクリルオキシ基(すなわち、CH2=C(CH3)-C(O)-O-)のいずれかを指す短縮語である。
【0054】
「硬化(curing、hardening又はsetting)反応」は互換的に使用され、個々の構成成分間の化学反応によって、組成物の粘度及び硬度などの物理的特性が経時的に変化する反応を指す。
【0055】
「酸性基を含む重合性構成成分」は、エチレン性不飽和、並びに酸及び/又は酸前駆体官能性を有するモノマー、オリゴマー及びポリマーを含むことが意図される。酸性前駆体官能性には、例えば、無水物、酸ハロゲン化物及びピロリン酸塩が挙げられる。酸性基は、好ましくは、-COOH若しくは-CO-O-CO-などの1つ以上のカルボン酸残基、-O-P(O)(OH)OHなどのリン酸残基、C-P(O)(OH)OHなどのホスホン酸残基、-SO3Hなどのスルホン酸残基、又は-SO2Hなどのスルフィン酸残基を含む。
【0056】
「粉末」は、振盪又は傾けたときに自由に流動することができる多数の微細粒子から構成される、乾燥したバルク固体を意味する。
【0057】
「粒子」は、幾何学的に決定できる形状を有する固体である物質を意味する。粒子は、典型的には、例えば粒度又は直径に関して分析され得る。
【0058】
粉末の平均粒子サイズは、粒度分布の積算曲線から得ることができ、特定の粉末混合物の測定粒度の算術平均と定義される。それぞれの測定は、市販の粒度計(例えば、CILAS Laser Diffraction Particle Size Analysis Instrument)を使用して実行することができる。
【0059】
「ナノ充填剤」は、個々の粒子が、ナノメートルの範囲、例えば、約200nm未満又は約100nm未満又は約50nm未満の平均粒径のサイズを有する充填剤である。有用な例が、米国特許第6,899,948号及び米国特許第6,572,693号に示されており、これらの特許の、とりわけナノサイズシリカ粒子に関する内容は、本明細書に参照として組込まれる。
【0060】
ナノ粒子のサイズの測定は、好ましくは、TEM(透過型電子顕微鏡検査)法に基づき、それによって集合が分析されて、平均粒径が得られる。粒子直径の好ましい測定方法を、以下のよう説明することができる。
【0061】
80nmを超えない厚さを有する試料を、炭素安定化フォルムバール基材(Structure Probe,Inc.,West Chester,PAの一部門であるSPI Supplies)付き200メッシュの銅グリッド上に設置する。透過型電子顕微鏡写真(TEM)を、200KVでJEOL 200CX(JEOL,Ltd.of Akishima,Japan、JEOL USA,Inc.により販売)を使用して撮る。約50~100個の粒子の集合サイズを測定することができ、平均直径が決定される。
【0062】
「凝集」は、通常、電荷又は極性により互いに保持される粒子の弱い会合を説明しており、より小さな実体に分解され得る。凝集粒子の比表面積は、凝集が作製される一次粒子の比表面積から本質的に逸脱していない(DIN 53206、1972を参照すること)。
【0063】
凝集充填剤は、例えば、デグサ、キャボットコーポレーション又はワッカーからAerosil(商標)、CAB-O-SIL(商標)及びHDKの製品名で市販されている。
【0064】
「非凝集充填剤」は、充填剤粒子が離散の非会合(すなわち、非凝集及び非集合)段階で樹脂に存在することを意味する。望ましい場合、これをTEM顕微鏡法により証明することができる。
【0065】
非凝集ナノサイズシリカは、例えば、ナルコケミカル社(イリノイ州ネイパービル)からNALCO COLLOIDAL SILICAS、例えばナルコ製品#1040、1042、1050、1060、2327及び2329の製品名で市販されている。
【0066】
非凝集充填剤は、例えば、欧州特許第2167013(B1)号(3M)において使用及び記載されている。この参考文献の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0067】
「集合」は、本明細書において使用されるとき、多くの場合、例えば残留化学薬品処理又は部分焼結によって互いに結合している粒子の強い会合を説明する。集合粒子の比表面積は、典型的には、集合粒子が作製される一次粒子の比表面積よりも小さい(DIN 53206、1972を参照すること)。
【0068】
集合体のより小さな実体への更なる分解が、集合充填剤を含有する組成物の表面に適用される研磨工程の際に生じ得るが、集合粒子を樹脂の中に分散させる際には生じないことがある。
【0069】
集合充填剤、並びその製造及び表面処理の方法は、例えば国際公報第01/30304号及び米国特許第6,730,156号(3M)に記載されている。これらの参考文献の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。「ウレタン基」は、構造「-NH-CO-O-」を有する基である。
【0070】
「積層造形」は、三次元物品を作製するのに用いられる方法を意味する。積層造形技術の例は、コンピュータ制御下で材料の連続層が積み重ねられる、立体リトグラフィ(SLA)である。物品は、ほとんどあらゆる形状又は幾何学的配置をとることができ、三次元モデル又は他の電子データソースから作製される。積層造形方法又は技術の他の例には、三次元印刷が挙げられる。
【0071】
「フライス加工用ブロック」とは、歯科用物品、歯科用ワークピース、歯科用支持構造体又は歯科用修復物が機械加工され得る又はされることになる材料の固体ブロック(三次元物品)を意味する。例えば、歯科用フライス加工用ブロックは、二次元において20mm~30mmのサイズを有してもよく、例えば、この範囲の直径を有してもよく、三次元においてある一定の長さを有してもよい。単一のクラウンを作製するためのブロックは、15mm~30mmの長さを有してもよく、ブリッジを作製するためのブロックは、40mm~80mmの長さを有してもよい。単一のクラウンを作製するために使用されるブロックの典型的なサイズは、約24mmの直径及び約19mmの長さを有する。更に、ブリッジを作製するために使用されるブロックの典型的なサイズは、約24mmの直径及び約58mmの長さを有する。上記に記述された寸法の他に、歯科用フライス加工用ブロックは、立方体、円筒又は直方体の形状を有することもできる。より大きなミルブロックは、1つを超えるクラウン又はブリッジが1つのブランクから製造されなければならない場合、有益であり得る。このような場合には、円筒形又は直方体形状のミルブロックの直径又は長さは、100~200mmの範囲であってもよく、厚さは10~30mmの範囲であってもよい。
【0072】
「樹脂変性グラスアイオノマーセメント」は、酸反応性ガラス、ポリ酸、水、重合性構成成分及び開始剤を含む硬化性歯科材料を意味する。樹脂変性グラスアイオノマーセメントは、二重硬化反応、グラスアイオノマー酸塩基系セメント反応及び典型的な(メタクリレート)アクリレート系モノマーの重合を受ける。
【0073】
「接着性樹脂セメント」は、重合性構成成分のラジカル重合により硬化する(グラスアイオノマーセメント反応では硬化しない)硬化性歯科用材料を意味する。接着性樹脂セメントは、硬質の歯科表面を前処理して、接着性をもたらす必要がある。樹脂変性グラスアイオノマーセメントと対照的に、接着性樹脂セメントは、加水(added water)を含有しない。
【0074】
「自己接着性樹脂セメント」は、酸性構成成分を追加的に含有する接着性樹脂セメントであり、そのため硬質歯科表面を前処理して接着性をもたらす必要がない。
【0075】
樹脂変性グラスアイオノマーセメントと対照的に、接着性樹脂セメント及び自己接着性樹脂セメントは、典型的には重合反応によってのみ硬化する。
【0076】
「周囲条件」は、本発明の組成物が、貯蔵及び取扱い中に通常さらされる条件を意味する。周囲条件は、例えば、900~1100mbarの圧力、-10~60℃の温度及び10~100%の相対湿度であり得る。実験室では、周囲条件は、約23℃及び約1013mbarに調整される。歯科及び歯列矯正分野では、周囲条件は、合理的には、950~1050mbarの圧力、15~40℃の温度及び20~80%の相対湿度と理解される。
【0077】
本明細書において使用されるとき、「a」、「an」、「the」、「少なくとも1つ」及び「1つ以上」は、互換的に使用される。用語「含む(comprises)」又は「含有する(contains)」及びそれらの変形は、これらの用語が本明細書及び特許請求の範囲に現れる場合、限定的な意味を有さない。用語「含む(comprising)」は、更に限定的な表現である「から本質的になる」及び「からなる」も含む。
【0078】
また本明細書では、端点による数値範囲の列挙は、その範囲内に包含される全ての数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0079】
用語に「(複数可)」を付加することは、その用語が単数形及び複数形を含むべきであることを意味する。例えば、用語「添加剤(additive(s))」は、1つの添加剤及びより多くの添加剤(例えば、2つ、3つ、4つなど)を意味する。
【0080】
特に指示のない限り、本明細書及び特許請求の範囲に使用されている、下記に記載されているものなどの、成分の量、物理的特性の測定値を表す全ての数は、全て場合に用語「約」により修飾されていると理解されるべきである。
【0081】
本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンは、いくつかの利点を有する。
【0082】
予備成形歯科用複合クラウンをチェアサイドワークフローに使用することができる。クラウンは既に使える形状で提供されるので、歯科技工室において別工程で歯クラウンを製造する必要がない。このことは、患者のために時間を節約するだけでなく、施術者用にも好都合である。
【0083】
ステンレス鋼製の予備成形クラウンと比較して、本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンは、ワークフロー全体に否定的な影響を与えることなく、より審美的である。
【0084】
ジルコニア又は熱可塑性材料(例えば、PEEK)に基づいた予備成形歯科用クラウンと比較して、本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンの形状は、施術者によって、望ましい場合には、例えば切断又は研削により更に適合させることが容易であり得る。
【0085】
しかし、ステンレス鋼製の予備成形クラウンと同様に、本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンは、いわゆる「スナップオン効果」を示す。すなわち、クラウンが最終的に固定される前に、調製済みの歯にクラウンが嵌合することを容易に確かめることができる。
【0086】
更に、その可撓性によって、予備成形歯科用複合クラウンを、最適に調製されていない歯構造にも容易に固定することができる。
【0087】
この「スナップオン効果」は、基本的に、a)少なくとも2つの反対側にある従属側面を有し、凹形状を有するクラウンを提供すること、b)クラウンのクラウン頸部での壁厚を0.6mm未満に調整すること、及びc)ウレタン(メタ)アクリレートを含む硬化樹脂マトリックスを含有する材料からクラウンを製造することによって、もたらされる。
【0088】
クラウンのクラウン頸部での低減された壁厚は、クラウンに十分な可撓性をもたらして、審美的な縁嵌合を可能にするので有益である。
【0089】
本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンは、十分な曲げ強度、破壊仕事、E弾性率及び耐摩耗性のようないくつかの有利な機械的特性も示す。
【0090】
予備成形歯科用複合クラウンは、調製済みの歯の表面に容易かつ確実にセメント合着され得る。上記に概説されたように、特に小児歯科において、欠陥した歯構造の治療は、素早く妥当に安価である必要がある。クラウンのセメント合着の費用は、クラウンそれ自体の費用を超えないことがある。
【0091】
驚くべきことに、歯科用樹脂変性グラスアイオノマーセメントが使用される場合、接着強度を更に改善できることが見出された。
【0092】
ある特定の理論に束縛されることなく、予備成形歯科用複合クラウンの製造に使用されたものと同様の構造を有する、反応性部分を有する重合性構成成分を含有するセメントを使用することは、接着性を改善するのに有益であり得ると考えられる。
【0093】
本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンは、射出成形すること又はビルドアップ(build-up)技術(例えば、三次元印刷)を使用することのいずれかによって、予備成形複合ブロックからフライス加工して、容易に製造することもできる。
【0094】
まとめると、本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンは、ステンレス鋼クラウンに使用される方法と同様のものを使用しながら、優れた審美性、耐久性及び容易なワークフローを提供する。
【0095】
本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンは、特定の形状を有する。
【0096】
形状は、以下のように特徴付けられる。予備成形クラウンは、トップ面並びに従属する頬側、それぞれ唇側、近心、遠心、舌側又は口蓋側の側面を有する。
【0097】
側面は互いに連結して、クラウン頸部を形成する。クラウン頸部の下部域は、クラウン縁又はクラウン周縁を形成する。
【0098】
予備成形クラウンは、外及び内面を有する。内面は、調製済みの歯科用歯に取り付けられる表面である。
【0099】
予備成形クラウンのクラウン頸部(クラウン縁から1mmの距離)での壁厚は、0.6mm未満又は0.1~0.4mm若しくは0.1~0.3mm若しくは0.1~0.2mmの範囲である。
【0100】
予備成形クラウンのトップ面(咬合及び/又は遠位)での壁厚は、典型的には0.15mm~1.5mmの範囲又は0.4mm~1.0mmの範囲である。
【0101】
予備成形クラウンの対向する従属性側面のうちの少なくとも2つは、凹形状、好ましくは頬側及び舌側の側面を有する。すなわち、予備成形クラウンの側壁は、湾曲した形状を有し、これによりクラウン頸部域にアンダーカットを提供する。
【0102】
望ましい場合、アンダーカットUの寸法(mm)は、式U=D2-D1により計算することができ、ここで、D1は、予備成形クラウンが半分に切断された場合、クラウン頸部の1mm上方で測定された、凹形状を有する予備成形クラウンの対向する内側壁の距離であり、D2は、D1と平行に測定された、クラウンの対向する内側壁の最大距離である。
【0103】
図2では、クラウン設計におけるD1及びD2のそれぞれの距離を断面により例示している。予備成形歯科用複合クラウンは、x、y及びz方向を有する。この断面は、z方向でクラウンの真ん中において行われたものである。距離D1は、それぞれのクラウン縁からy方向に1mmで測定される。距離D2は、距離D1から平行にy移動して測定される。距離D2は、この断面ではクラウンの最大距離である。
【0104】
本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンのアンダーカット(U=d2-d1)は、典型的には、0.2mm又は0.3mm又は0.4mmよりも大きい。典型的な範囲は、0.2~1.0又は0.3~0.8mmである。
【0105】
1つの実施形態において、予備成形クラウンの形状は、以下の特徴の単独又は組み合わせのいずれかによって更に特徴付けられる。
【0106】
クラウンの側面の壁厚は、典型的には0.6mm以下又は0.5mm若しくは0.4mmである。
【0107】
1つの実施形態によると、予備成形クラウンの側面の壁厚は、0.1mm~0.4mmの範囲である。
【0108】
1つの実施形態によると、予備成形歯科用複合クラウンの内面は、粗面化される及び/又は保持要素を有する。この特徴は、調製済み歯科用歯の表面へのクラウンの接着性を向上させることを助けることができる。
【0109】
1つの実施形態によると、予備成形歯科用複合クラウンの外面は研磨される。
【0110】
そのような形状は、調製済みの歯の残根への予備成形クラウンの容易な固定を可能にするのに有益であることが判明した。
【0111】
低い壁厚のため、予備成形クラウンは、アンダーカットがあったとしても、調製済みの歯の残根に設置するのに十分に弾性である。
【0112】
予備成形クラウンの側壁の厚さが大きすぎると、予備成形クラウンは十分な弾性がない。クラウンの側壁の厚さが低すぎると、予備成形クラウンは十分な堅牢性がない。
【0113】
このことは、セメント合着する前に予備成形クラウンの嵌合を試験しなければならない場合、及び予備成形クラウンを、対応する歯科用セメントの適用のために、調製済みの歯の残根から取り外さなければならない場合にも、有益である。
【0114】
一般的に、歯科医は、典型的には予備成形歯科用複合クラウンを可能な限り薄くしたいと思っている。しかし、予備成形歯科用複合クラウンが作製される化学組成物に応じて、耐久性、例えば、クラウンの摩耗又は更には完全な破損が、厚さを適切なレベルに限定する。他方、壁厚の可撓性は、壁厚が増加すると減少する。
【0115】
本文書に記載されている壁厚は、予備成形クラウンに望ましいスナップ効果を提供するのに必要な可撓性を提供することが、見出された。
【0116】
本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンの対応する図が、
図1に示されている。予備成形歯科用複合クラウン(大臼歯)は、人工歯列弓の歯の残根に設置されている。
【0117】
図3では、本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンの実施形態の概略断面が示されている。クラウン壁は、約300μmの厚さを有する。
【0118】
望ましい場合、本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンを、複合クラウンが作製される硬化化学組成物の機械的特性によって特徴付けることができる。
【0119】
典型的には、化学組成物は、以下のパラメータ:
曲げ強度が、ISO4049:2009に従って測定して50~200MPa又は80~150MPaであること、
E弾性率が、DIN EN843-2:2007と組み合わせたISO4049:2009に従って測定して1,000~4,000MPaであること、
衝撃強度が、DIN53453:175-05に従って測定して5~15kJ/m2であること、
摩耗が、20mm3未満又は15mm3未満又は10mm3未満であること(実施例セクションに記載されているように決定される)、
色が、歯色であること
のうちの1つ以上又は全てによって特徴付けることができる。
【0120】
次の特徴の組み合わせ:低い摩耗と組み合わせた高い衝撃強度が、多くの場合に好ましい。
【0121】
十分な曲げ強度は、クラウンの材料が容易に破断しないので有益である。
【0122】
十分に低いE弾性率は、クラウンの材料が十分な可塑性可撓性を有するので有益である。
【0123】
十分な衝撃強度は、クラウンの材料が高い靭性を有し、破壊に抵抗し得るので有益である。
【0124】
十分な摩耗は、クラウンが摩耗せず、咀嚼中に解剖学的形状を維持するので有益である。
【0125】
本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンも、化学組成物によって特徴付けられる。化学組成物は、硬化性化学組成物ではなく、硬化(hardened)(すなわち、硬化(cured))された化学組成物である。
【0126】
予備成形歯科用複合クラウンが作製される化学組成物は、ナノ充填剤を含む。
【0127】
ナノ充填剤は、ナノサイズの、集合粒子、凝集粒子、又は離散粒子(すなわち、非凝集、非集合)又はそれらの混合物から選択され得る。
【0128】
他の充填剤と比較して、ナノ充填剤を使用することは、良好な機械的特性、例えば、研磨性又は摩耗性及び高い審美性をもたらす高い充填剤の装填を有する組成物の配合を可能にするので、有益であることが見出された。
【0129】
1つの実施形態によると、ナノ充填剤は、ナノサイズの集合粒子を含む。
【0130】
ナノサイズの集合粒子を含むナノ充填剤は、典型的には、以下の特徴:
比表面積が、30~400又は60~300又は80~250m2/gであること、
SiO2、ZrO2、Al2O3及びこれらの混合物の粒子を含むこと
のうちの少なくとも1つ又は全てによって特徴付けることができる。
【0131】
望ましい場合、比表面積は、カンタクロームから入手可能な装置(Monosorb(商標))を使用して、Brunauer,Emmet and Teller(BET)に従って測定することができる。
【0132】
望ましい場合、平均粒子サイズは、例えば、Malvern Instrumentsから入手可能なMalvern Mastersizer 2000装置を使用して、光散乱によって決定することができる。
【0133】
ナノサイズの集合粒子を含む適切なナノ充填剤は、例えば、米国特許第6,730,156号(調製例A)に記載されている方法に従って製造することができる。
【0134】
ナノサイズの集合粒子を含む有用なナノ充填剤は、適切なゾルと、塩、ゾル、溶液又はナノサイズ粒子であり得る(これらのうち、ゾルが好ましい)1つ以上の酸素含有重金属化合物溶液前駆体とから調製することができる。本発明の目的において、ゾルは、液体内のコロイド固体粒子の安定した分散体と定義される。固体粒子は、典型的には周囲の液体よりも密度が高く、分散力が重力よりも大きくなるように十分に小さい。加えてこの粒子は、可視光を概ね屈折しないように十分に小さいサイズを持つ。前駆体ゾルの慎重な選択は、望ましい程度の視覚的不透明度、強度などをもたらす。ゾルの選択に導く要因は、以下の特性の組み合わせによって決まる。a)個々の粒子の平均サイズであり、好ましくは直径が100nm未満であること、b)酸性度であり、ゾルのpHは、好ましくは6未満、より好ましくは4未満であるべきであること、及びc)噴霧乾燥又は焼成など後に続く工程において、容易に分散又は粉砕させることができず、したがってナノ粒子を含む複合体から作製される歯科修復物の色調及び研磨性を減少する大きなサイズの粒子に、個々の離散粒子を過度に集合させる不純物を(充填剤調製過程において)、ゾルが含まないべきであること。
【0135】
出発ゾルが塩基性である場合、例えば硝酸又は他の適切な酸の添加により酸性化して、pHを減少させるべきである。しかし、追加の工程を必要とし、望ましくない不純物の導入をもたらすことがあるので、塩基性開始ゾルの選択は、あまり望ましくない。好ましく回避される典型的な不純物は、金属塩、特にアルカリ金属、例えばナトリウムの塩である。
【0136】
非重金属ゾル及び重金属酸化物前駆体は、好ましくは、硬化性樹脂の屈折率と一致するモル比で一緒に混合される。これは、低く望ましい視覚的不透明度を与える。好ましくは、非重金属酸化物(「非HMO」)と重金属酸化物(「HMO」)とのモル比の範囲は、非HMO:HMOと表され、0.5:1~10:1、より好ましくは3:1~9:1、最も好ましくは4:1~7:1である。
【0137】
ナノサイズの集合粒子がシリカ及びジルコニウム含有化合物を含有する好ましい実施形態において、調製方法は、シリカゾルと酢酸ジルコニルの混合物により約5.5:1モル比で開始する。
【0138】
非重金属酸化物ゾルを重金属酸化物前駆体と混合する前に、好ましくは非重金属酸化物ゾルのpHを低減して、1.5~4.0のpHを有する酸性溶液をもたらす。
【0139】
次に非重金属酸化物ゾルを、重金属酸化物前駆体を含有する溶液とゆっくりと混合し、激しく撹拌する。好ましくは強い撹拌が、ブレンド過程全体にわたって実施される。次に溶液を乾燥して、水及び他の揮発性構成成分を除去する。乾燥は、例えば、トレイ乾燥、流動層及び噴霧乾燥を含む様々な方法で達成することができる。酢酸ジルコニルが使用される好ましい方法においては、噴霧乾燥による乾燥である。
【0140】
得られた乾燥材料は、好ましくは、小さな実質的に球形の粒子のみならず、破断中空球体からも構成される。次にこれらの断片をバッチ焼成して、残留有機物を更に除去する。残留有機物の除去は充填剤がより脆性になることを可能にし、このことは、より効率的な粒子サイズの低減をもたらす。焼成の際に、ソーク温度は、好ましくは200℃~800℃、より好ましくは300℃~600℃に設定される。ソーキングは、焼成される材料の量に応じて、0.5時間から8時間にわたって実施される。焼成工程のソーク時間は、平坦表面領域が得られるものであることが好ましい。目視検査によって決定して、得られる充填剤が白色であり、黒色、灰色又は琥珀色の粒子を含まないように、時間及び温度が選択されることが好ましい。
【0141】
次に焼成材料を好ましくはフライス加工して、粒子サイズの中央値を5μm未満、好ましくは2μm未満(体積基準)にし、これは、Sedigraph 5100(Micrometrics,Norcross,Ga.)を使用して決定することができる。粒子サイズの決定は、Accuracy 1330 Pycometer(Micrometrics,Norcross,Ga.)を使用して、充填剤の特定の密度を最初に得ることによって実施できる。フライス加工は、例えば、撹拌フライス加工、振動フライス加工、流体フライス加工、ジェットフライス加工及びボールフライス加工を含む様々な方法によって達成することができる。ボールフライス加工が好ましい方法である。
【0142】
得られる充填剤は、ナノサイズの集合粒子を含む、を含有する、から実質的になる又はからなる。望ましい場合、このことを透過型電子顕微鏡(TEM)により証明することができる。
【0143】
望ましい場合、充填剤粒子の表面を表面処理することができる。表面処理は、米国特許第6,730,156号又は国際公開第01/30304号又は米国特許第6,730,156号(例えば、調製例B)に記載されている方法に従って達成することができる。これらの参考文献の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0144】
いったん樹脂中に分散されると、充填剤は集合した段階の状態である。すなわち、分散工程の際、粒子は、離散(すなわち、個々)の非会合(すなわち、非集合)粒子に分解しない。
【0145】
存在する場合、ナノサイズの集合粒子を含むナノ充填剤は、典型的には以下の量のいずれかで存在する。
予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物の重量に対して、少なくとも20又は少なくとも30又は少なくとも40wt%。
予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物の重量に対して、最大70又は最大60又は最大50wt%。
予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物の重量に対して、20~70又は30~60又は40~50wt%。
【0146】
1つの実施形態によると、ナノ充填剤は、ナノサイズの凝集粒子を含む。
【0147】
ナノサイズの凝集粒子を含むナノ充填剤は、典型的には以下の特徴:
比表面積が:(Brunauer,Emmet and TellerによるBET)が、30~400又は50~300又は70~250m2/gであること、
SiO2、ZrO2、Al2O3及びこれらの混合物の粒子を含むこと
のうちの少なくとも1つ又は全てによって特徴付けられる。
【0148】
望ましい場合、比表面積は、上記に記載されたように決定することができる。
【0149】
適切な粒塊ナノ粒子には、デグサ社(ドイツ、ハーナウ)から商標名Aerosil(商標)、例えば、Aerosil(商標)OX-130、-150及び-200、Aerosil(商標)R8200で販売されている製品、キャボットコーポレーション(イリノイ州タスコラ)から入手可能なCAB-O-SIL(商標)M5、並びにワッカーから入手可能なHDK(商標)例えばHDK-H2000、HDK H15、HDK H18、HDK H20及びHDK H30などのヒュームドシリカが挙げられる。
【0150】
充填剤粒子の表面を、樹脂相溶化表面処理剤で処理することができる。特に好ましい表面処理剤又は表面改質剤には、樹脂と重合することができるシラン処理剤が挙げられる。好ましいシラン処理剤には、ウィトコOSiスペシャルティーズ(コネチカット州ダンベリー)から商品名A-174で市販されているγ-メタクリルオキシルプロピルトリメトキシシラン、及びユナイテッドケミカルテクノロジーズ(ペンシルベニア州ブリストル)から商品名G6720で入手可能な製品であるγ-グリシドオキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0151】
あるいは、表面改質剤の組み合わせが有用な場合があり、この作用物質のうちの少なくとも1つは、硬化性樹脂と共重合可能な官能基を有する。例えば、重合性基は、エチレン性不飽和官能基又は開環重合を受ける環式官能基であり得る。エチレン性不飽和重合性基は、例えば、アクリレート若しくはメタクリレート又はビニル基であり得る。開環重合を受ける環式官能基は、一般的に、酸素、硫黄又は窒素などのヘテロ原子を含有しており、好ましくは、エポキシドなどの酸素含有3員環である。硬化性樹脂と一般的に反応しない他の表面改質剤を含めて、分散性又はレオロジー特性を向上させることができる。この種類のシランの例には、例えば、アルキル若しくはアリールポリエーテルシラン、アルキルシラン、シクロアルキルシラン、ヒドロキシアルキルシラン、アリールシラン、ヒドロキシアリールシラン又はアミノアルキル官能性シランが挙げられる。
【0152】
存在する場合、ナノサイズの凝集粒子を含むナノ充填剤は、典型的には以下の量のいずれかで存在する。
予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物の重量に対して、少なくとも1又は少なくとも3又は少なくとも5wt%。
予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物の重量に対して、最大20又は最大15又は最大10wt%。
予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物の重量に対して、1~20又は3~15又は5~10wt%。
【0153】
1つの実施形態によると、ナノ充填剤は、個別のナノサイズの離散粒子を含む。
【0154】
使用することができるナノサイズの離散粒子は、好ましくは実質的に球形であり、実質的に非多孔性である。
【0155】
ナノサイズの離散粒子を含むナノ充填剤は、典型的には以下の特徴:
平均粒径が200nm未満又は100nm未満であること、
SiO2、ZrO2及びこれらの混合物の粒子を含むこと
のうちの少なくとも1つ又は全てによって特徴付けられる。
【0156】
好ましいナノサイズシリカは、ナルコケミカル社(イリノイ州ネイパービル)から商品名NALCO(商標)COLLOIDAL SILICASで市販されている。例えば、好ましいシリカ粒子は、NALCO(商標)製品1040、1042、1050、1060、2327及び2329を使用することによって得ることができる。
【0157】
存在する場合、ナノサイズの離散粒子は、典型的には、以下の量のいずれかで存在する。
予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物の重量に対して、少なくとも1又は少なくとも3又は少なくとも5wt%。
予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物の重量に対して、最大30又は最大25又は最大20wt%。
予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物の重量に対して、1~30又は3~25又は5~20wt%。
【0158】
1つの実施形態によると、予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物は、
20~70wt%の量のナノサイズの集合粒子、
1~20wt%の量のナノサイズの凝集粒子、
1~30wt%の量のナノサイズの離散粒子
を含む。
【0159】
予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物は、樹脂を含む。
【0160】
この樹脂は、少なくとも2つの重合性部分を有するウレタン(メタ)アクリレートと、少なくとも1つ又は2つの重合性部分を有するが、ウレタン部分を含まない(メタ)アクリレートとの重合生成物である。
【0161】
異なる化学組成物が選択される場合、典型的には望ましい機械的特性が達成されない。
【0162】
予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物は、少なくとも2つの重合性(メタ)アクリレート部分を有する少なくとも1つのウレタン(メタ)アクリレートを含む。
【0163】
望ましい場合、化学組成物は、少なくとも2つ、3つ又は4つの異なる種類のウレタン(メタ)アクリレートを含むことができる。
【0164】
この樹脂組成物へのウレタン(メタ)アクリレートの添加は、硬化した樹脂組成物のE弾性率及び破壊抵抗性のような、ある特定の機械的特性の改善に寄与していることが見出された。
【0165】
特に、本文書に記載されているウレタン(メタ)アクリレートは有用であることが見出された。
【0166】
ウレタン(メタ)アクリレートの分子量は、少なくとも約450又は少なくとも約800又は少なくとも約1,000g/molである。
【0167】
有用な範囲には、450~3,000又は800~2,700又は1,000~2,500g/molが挙げられる。
【0168】
約450g/molを上回る又は約1,000g/モルを上回る分子量を有する分子は、通常、低分子量を有する分子より揮発性が低いので、生体適合性組成物の提供に寄与することができる。
【0169】
更に、分子量が十分に高くない場合、硬化歯科用組成物の望ましい破壊仕事を達成することができない。
【0170】
この組成物において用いられるウレタン(メタ)アクリレートは、典型的には、NCO末端化合物を、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、好ましくはヒドロキシエチル-及びヒドロキシプロピルメタクリレートなどの適切な単官能(メタ)アクリレートモノマーと反応させることによって得られる。
【0171】
ウレタン(メタ)アクリレートは、当業者に公知の多数の方法によって得ることができる。
【0172】
例えば、ポリイソシアネート及びポリオールを反応させて、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを形成することができ、その後に2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレートと反応させる。これらの種類の反応は、室温又は高温において、任意に、スズ触媒、第三級アミンなどの触媒の存在下で実施することができる。
【0173】
イソシアネート官能性ウレタンプレポリマーを形成するために用いることができるポリイソシアネートは、少なくとも2つの遊離イソシアネート基を有する任意の有機イソシアネートであってもよい。脂肪族脂環式、芳香族及びアリール脂肪族(araliphatic)イソシアネートが含まれる。
【0174】
アルキル及びアルキレンポリイソシアネート、シクロアルキル及びシクロアルキレンポリイソシアネートなどの公知のポリイソシアネートのいずれか、並びにアルキレン及びシクロアルキレンポリイソシアネートなどの組み合わせを用いることができる。
【0175】
好ましくは、式X(NCO)2を有するジイソシアネートが使用され、ここでXは、2~12個のC原子を有する脂肪族炭化水素ラジカル、5~18個のC原子を有する脂環式炭化水素ラジカル、6~16個のC原子を有する芳香族炭化水素ラジカル及び/又は7~15個のC原子を有するアリール脂肪族炭化水素ラジカルを表す。
【0176】
適切なポリイソシアネートの例には、2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート(HDI)、シクロヘキシル-1,4-ジイソシアネート、4,4’メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,1’-メチレンビス(4-イソシアナト)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンジフェニルジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、メタ-及びパラ-テトラメチルキシレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,6-及び2,4-トルエンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、2,4’及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0177】
ポリウレタン化学又はその他の変性ポリイソシアネートによって知られる、例えばカルボジイミド基、アロファネート基、イソシアヌレート基及び/又はビウレット基を含有する高官能性ポリイソシアネートを使用することも可能である。特に好ましいイソシアネートは、イソホロンジイソシアネート、2、4、4-トリメチル-ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソシアヌレート構造を有する高官能性ポリイソシアネートである。
【0178】
イソシアネート末端ウレタン化合物を、(メタ)アクリレートでキャッピングして、ウレタン(メタ)アクリレート化合物を生成する。一般的に、末端ヒドロキシル基を有し、アクリル又はメタクリル部分も有する(メタクリル部分が好ましい)任意の(メタ)アクリレート系キャッピング剤を用いることができる。
【0179】
適切なキャッピング剤の例には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリロールジ(メタ)アクリレート及び/又はトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートが挙げられる。2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)及び/又は2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)が特に好ましい。
【0180】
イソシアネート基と、イソシアネート基に対して反応性のある化合物との当量比は、1.1:1~8:1、好ましくは1.5:1~4:1である。
【0181】
イソシアネート重付加反応は、ポリウレタン化学に公知の触媒、例えば、ジブチルスズジラウレートなどの有機スズ化合物又はジアザビシクロ[2.2.2]オクタンなどのアミン触媒の存在下で行うことができる。更に、合成は、プレポリマー調製の前又は最中に添加することができる溶解物及び適切な溶媒の両方において行うことができる。適切な溶媒は、例えば、アセトン、2-ブタノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、酢酸エチル、エチレン及びプロピレングリコールのアルキルエーテル、並びに芳香族炭化水素である。溶媒として酢酸エチルを使用することが特に好ましい。
【0182】
ウレタン(メタ)アクリレートの適切な例には、7,7,9-トリメチル-4,13-ジオキソ-3,14-ジオキサ-5,12-ジアザヘキサデカン-1,16-ジオキシ-ジメタクリレート(例えば、プレックス666-1、レーム)、7,7,9-トリメチル-4,13-ジオキソ-5,12-ジアザヘキサデカン-1,16-ジオキシ-ジメタクリレート(UDMA)、1,4及び1,3-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベゼンから誘導されたウレタン(メタクリレート)(例えば、欧州特許出願第0934926(A1)号に記載されている)、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0183】
1つの実施形態によると、ウレタン(メタ)アクリレートは、以下のように特徴付けられる。
構造A-(-S1-U-S2-MA)
nを有し、
Aは、少なくとも1つのユニットを含む連結要素であり、
S1は、互いに連結している少なくとも4つのユニットを含むスペーサー基であり、
S2は、互いに連結している少なくとも4つのユニットを含むスペーサー基であり、
A、S1及びS2のユニットは、CH
3-、-CH
2-、-O-、-S-、-NR
1-、-CO-、-CR
1=、
【化1】
、-N=、-CR
1R
2-から独立して選択され、
ここで、R
1及びR
2は、水素、アルキル、置換アルキル、アルケニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アリールアルキル、アリール又は置換アリールから独立して選択され、これらのユニットは、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、エステル基、ウレタン基又はアミド基などの直鎖状、分枝状又は環状構造を形成することができ、
Uは、スペーサー基S1及びS2を連結しているウレタン基であり、
MAは、アクリレート基又はメタクリレート基であり、
nは、3~6である。
【0184】
1つの実施形態によると、ウレタン(メタ)アクリレートは、下記構造により表され、
A-(-S1-U-S2-MA)n
ここで、
Aは、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20ユニットを含む連結要素であり、
S1は、互いに連結しているユニットから構成され、少なくとも約4、5、6、7、8、9又は10ユニットを含むスペーサー基であり、
S2は、互いに連結しているユニットから構成され、少なくとも約4、5、6、7、8、9、10、12、15、20又は25ユニットを含むスペーサー基であり、
Uは、スペーサー基S1及びS2を連結しているウレタン基であり、
MAは、アクリレート基又はメタクリレート基であり、
nは、3~6又は4~6又は5~6である。
【0185】
Aが環状構造を有し、かつ少なくとも約6ユニットを含むことが好ましい場合がある。
【0186】
S1が直鎖状又は分枝状構造を有し、かつ少なくとも約4又は約6ユニットを含むことが更に好ましい場合がある。
【0187】
S2が直鎖状又は分枝状構造を有し、かつ少なくとも約6又は約8ユニットを含むことが更に好ましい場合がある。
【0188】
Aが環状構造を有し、かつ少なくとも約6ユニットを含み、S1が直鎖状構造を有し、かつ少なくとも約4ユニットを含み、S2が直鎖状構造を有し、かつ少なくとも約8ユニットを含み、Uがウレタン基であるウレタン(メタ)アクリレートも、好ましい場合がある。
【0189】
S1及びS2を連結するウレタン基の原子も、(メタ)アクリル基の原子も、スペーサー基S1又はS2に属さない。したがって、ウレタン基の原子は、スペーサー基S1又はS2のユニットとして数えられない。
【0190】
連結要素の性質及び構造は特に限定されない。連結要素は、飽和(二重結合なし)又は不飽和(少なくとも1つ若しくは2つの二重結合)ユニット、芳香族又はヘテロ芳香族ユニット(N、O及びSを含む原子を含有する芳香族構造)を含有することができる。
【0191】
環状構造を有する連結要素Aの特定の例には、以下のものが挙げられる。
【化2】
【0192】
非環状構造を有するが分枝状構造を有さない連結要素Aの特定の例には、以下のものが挙げられる。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0193】
点線はスペーサー基S1への結合を示す。
【0194】
スペーサー基S1又はS2の性質及び構造も、特に限定されない。
【0195】
スペーサー基は、互いに連結しているユニットから構成される。典型的なユニットには、CH
3-、-CH
2-、-O-、-S-、-NR
1-、-CO-、-CR
1=、
【化8】
、-N=、-CR
1R
2-が挙げられ、ここでR
1及びR
2は、水素、アルキル、置換アルキル、アルケニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アリールアルキル、アリール又は置換アリールから独立して選択される。
【0196】
これらのユニットは、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、エステル基、ウレタン基又はアミド基などの直鎖状、分枝状又は環状構造を形成することができる。
【0197】
S1の構造はS2の構造と同一であり得る。しかし、いくつかの実施形態において、S1の構造はS2と異なる。特定の実施形態において、S1に存在するユニットの数は、S2に存在するユニットの数以下である。
【0198】
特定の実施形態において、S1は飽和炭化水素構造を有してもよい。
【0199】
別の特定の実施形態において、S2は飽和炭化水素構造を有してもよい。
【0200】
S1に有用なスペーサー基の典型的な例には、以下のものが挙げられる。
【化9】
【化10】
【0201】
点線は、A基又はU基のいずれかへの化学結合を示す。
【0202】
S2に有用なスペーサー基の典型的な例には、以下のものが挙げられる。
【化11】
【化12】
【化13】
【0203】
点線は、(メタ)アクリレート基又はU基のいずれかへの化学結合を示す。本発明により数えられたユニットの数が括弧内に示されている。
【0204】
硬化性構成成分(A1)の特定の例には、以下のものが挙げられる。
【化14】
【0205】
更に適切なウレタン(メタ)アクリレートは、α,ω末端ポリ(メタ)アクリレートジオール(poly(meth)acrylatdiol)(例えば、欧州特許第1242493(B1)号に記載されている)に基づいている、又はポリエステル、ポリエーテル、ポリブタジエン又はポリカーボネートウレタン(メタ)アクリレート(例えば、米国特許第6,936,642(B2)号に記載されている)であり得る。
【0206】
ウレタン(メタ)アクリレートは、予備成形歯科用複合クラウンの重量に対して、典型的には少なくとも1又は少なくとも3又は少なくとも4.5wt%の量で存在する。
【0207】
ウレタン(メタ)アクリレートは、予備成形歯科用複合クラウンの重量に対して、典型的には最大20又は最大15又は最大10wt%の量で存在する。
【0208】
したがってウレタン(メタ)アクリレートは、予備成形歯科用複合クラウンの重量に対して、典型的には1~20又は3~15又は4.5~10wt%の量で存在する。
【0209】
ウレタン(メタ)アクリレートの量が高すぎると、得られる材料は可撓性が大きくなりすぎることがあり、恐らく解剖学的形状を維持しない。
【0210】
ウレタン(メタ)アクリレートの量が低すぎると、得られる材料は脆性が大きくなりすぎることがあり、破壊仕事及び衝撃強度に悪影響を及ぼすことがある。
【0211】
化学組成物の樹脂も、少なくとも1つ又は2つの重合性部分を有するが、ウレタン部分を含まない(メタ)アクリレートを含む。
【0212】
したがって(メタ)アクリレートは、例えば、官能性、化学的部分、分子量又はこれらの組み合わせに関してウレタン(メタ)アクリレートと異なる。
【0213】
望ましい場合、化学組成物は、少なくとも2つ、3つ又は4つの異なる種類の(メタ)アクリレートを含むことができる。
【0214】
樹脂組成物への(メタ)アクリレートの添加は、樹脂組成物の硬化段階において、特に曲げ強度又は耐摩耗性に関して、樹脂組成物の機械的特性を更に改善することを助ける。
【0215】
(メタ)アクリレートの分子量は、典型的には少なくとも170又は少なくとも200又は少なくとも300g/molである。
【0216】
(メタ)アクリレートの分子量は典型的には170~3,000又は200~2,500又は300~2,000g/molの範囲である。
【0217】
(メタ)アクリレートは、フリーラジカル活性官能基を有し、2つ以上のエチレン性不飽和基を有するモノマー、オリゴマー及びポリマーが挙げられる。
【0218】
このようなフリーラジカル重合性材料には、グリセロールジアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-プロパンジオールジアクリレート、1,3-プロパンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2,4-ブタントリオールトリメタクリレート、1,4-シクロヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ソルビトールヘキアサクリレート、ビス[1-(2-アクリルオキシ)]-p-エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1-(3-アクリルオキシ-2-ヒドロキシ)]-p-プロポキシフェニルジメチルメタンなどのジ-又はポリアクリレート及びメタクリレート;分子量200~500のポリエチレングリコールのビス-アクリレート及びビス-メタクリレート;米国特許第4,652,274号のものなどのアクリル化モノマーと米国特許第4,642,126号のものなどのアクリル化オリゴマーとの共重合性混合物;並びに、ジアリルフタレート、ジビニルスクシネート、ジビニルアジペート及びジビニルフタレートなどのビニル化合物が挙げられる。
【0219】
好ましいエチレン性不飽和モノマーは、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール及びエイコサンジオールのジ(メタ)アクリレート、エチレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのジ(メタ)アクリレート、エトキシル化ビスフェノールA、例えば2,2’-ビス(4-(メタ)アクリルオキシテトラエトキシフェニル)プロパンのジ(メタ)アクリレート、並びに(メタ)アクリルアミドなどの、メタクリレート及びアクリレートモノマーである。使用されるモノマーは、更に、[アルファ]-シアノアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸及びソルビン酸のエステルであり得る。
【0220】
ビス[3[4]-メタクリル-オキシメチル-8(9)-トリシクロ[5.2.1.02,6]デシルメチルトリグリコレートなどの、欧州特許第0235826号に記述されているメタクリル酸エステルを使用することも可能である。2,2-ビス-4(3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニルプロパン(ビス-GMA)、2,2-ビス-4(3-メタクリルオキシプロポキシ)フェニルプロパン、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)及びビスヒドロキシメチルトリシクロ(5.2.1.02,6)デカンのジ(メタ)アクリレートが、特に適している。
【0221】
(メタ)アクリレートを使用すること、より詳細には上記に記載された構成成分を使用することは、硬化された歯科用組成物の機械的特性を改善するのに有用な架橋剤の一種として機能することがあるので、硬化組成物に十分な機械的強度を提供することが有益であり得ることが見出された。
【0222】
(メタ)アクリレートは、組成物全体の重量に対して、典型的には少なくとも約5又は少なくとも約10又は少なくとも約15wt%の量で存在する。
【0223】
(メタ)アクリレートは、予備成形歯科用複合クラウンの重量に対して、典型的には最大約60又は最大約50又は最大約45wt%の量で存在する。
【0224】
したがって(メタ)アクリレートは、組成物全体の重量に対して、典型的には5~60又は10~50又は15~45wt%の量で存在する。
【0225】
予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物は、1つ以上の添加剤を含むこともできる。
【0226】
歯科用組成物にX線可視粒子を添加することは、施術者が、患者の口内の歯科材料をより良好に識別し、健全な歯科用歯牙構造と歯科用修復材料とを区別することができるので有益である。歯科用材料は放射線不透過性になる。
【0227】
歯科用材料の放射線不透過性は、X線が歯の状態の診断に使用される、ある特定の場合に有利である。例えば、放射線不透過材料は、充填剤を取り囲んでいる歯組織の中に形成されていることがある二次齲蝕の検出を可能とする。望ましい放射線不透過性の程度は、特定の用途及びX線フィルムを診断する施術者の予測に応じて変わり得る。
【0228】
適切なX線可視粒子には、金属酸化物及び金属フッ化物の粒子が挙げられる。約28を超える原子番号を有する重金属の酸化物又はフッ化物が、好ましい場合がある。重金属酸化物又はフッ化物は、それが分散される硬化樹脂に望ましくない色又は濃淡が付与されないように選択されるべきである。例えば、鉄及びコバルトは、歯科用材料の歯の中間色に、黒ずんだ色及び明暗差のある色を付与するので好ましくない。より好ましくは、重金属酸化物又はフッ化物は、30を超える原子番号を有する金属の酸化物又はフッ化物である。適切な金属酸化物は、イットリウム、ストロンチウム、バリウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニオビウム、タンタル、タングステン、ビスマス、モリブデン、スズ、亜鉛、ランタニド元素(すなわち、57~71の範囲の原子番号を有する元素)、セリウム及びこれらの組み合わせの酸化物である。適切な金属フッ化物は、例えば、三フッ化イットリウム及び三フッ化イッテルビウムである。最も好ましくは、30超72未満の原子番号を有する重金属の酸化物又はフッ化物が、任意に本発明の材料に含められる。特に好ましい放射線不透過性金属酸化物には、酸化ランタン、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化セリウム及びこれらの組み合わせが挙げられる。放射線不透過性を増加させる他の適切な充填剤は、バリウム及びストロンチウムの塩、とりわけ、硫酸ストロンチウム及び硫酸バリウムである。
【0229】
重金属酸化物又はフッ化金属粒子は、表面処理されていてもよい。
【0230】
存在する場合、X線可視粒子は、組成物全体の重量に対して、典型的には0.1~15又は1~10又は2~5wt%の量で存在する。
【0231】
任意に添加され得る更なる添加剤には、抗菌剤、顔料、染料、安定剤及びフッ化物放出材料が挙げられる。
【0232】
使用され得る顔料及び染料の例には、二酸化チタン又は硫化亜鉛(リトポン)、ベンガラ3395、バイフェロックス920Zイエロー、Neazopon Blue 807(銅フタロシアニン系染料)又はHelio Fast Yellow ERが挙げられる。これら添加物は、歯科用組成物の個々の着色剤として使用することができる。
【0233】
存在し得るフッ化物放出剤の例には、天然に生じる又は合成フッ化物鉱物が挙げられる。これらフッ化物源は、任意に、表面処理剤で処理され得る。
【0234】
添加することができる更なる添加物には、安定剤、とりわけ、フリーラジカルスカベンジャー、例えば、置換及び/又は非置換のヒドロキシ芳香族化合物(例えば、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エトキシフェノール)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(ジメチルアミノ)メチルフェノール又は2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン(UV-9)、2-(2’-ヒドロキシ-4’,6’-ジ-tert-ペンチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、フェノチアジン及びHALS(ヒンダードアミン光安定剤)が挙げられる。
【0235】
これらの添加物が存在する絶対的必要性はないので、添加物は全く存在しなくてもよい。しかし、これらが存在する場合、典型的には、意図する目的にとって有害ではない量で存在する。
【0236】
添加剤の有用な量には、以下が挙げられる:
少なくとも約0.1wt%又は少なくとも約0.5wt%又は少なくとも約1wt%、並びに/あるいは
約15wt%まで又は約10wt%まで又は約5wt%まで。
【0237】
典型的な範囲は、0.1wt%~15wt%又は0.5wt%~10wt%又は1wt%~5wt%を含む。
【0238】
1つの実施形態によると、予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物は、以下のように記載される。
ナノ充填剤が20~70wt%、
ウレタン(メタ)アクリレートが3~20wt%、
ウレタン部分を含まない(メタ)アクリレートが5~60wt%。
【0239】
別の実施形態によると、予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物は、以下のように記載される。
ナノ充填剤が30~55wt%、
ウレタン(メタ)アクリレートが5~15wt%、
ウレタン部分を含まない(メタ)アクリレートが10~50wt%。
【0240】
1つの実施形態によると、本発明は、また、特定の形状を有し、特定の化学組成物から構成される、本文書に記載されている歯科用複合クラウンを対象とし、
形状は、以下:
大臼歯及び小臼歯では、咬合トップ面、並びに従属する頬側、近心、遠心及び舌側又は口蓋側の側面を有すること、
前歯及び切歯では、遠心トップ面、並びに従属する唇側、近心、遠心及び舌側又は口蓋側の側面を有すること、
側面が互いに連結して、クラウン頸部を形成していること、
クラウンのクラウン頸部での壁厚が、0.1~0.4mm又は0.1~0.3mmであること、
トップ面の壁厚が、0.15mm~1.5mmであること、
少なくとも2つの反対側にある従属側面が、凹形状を有し、0.2mmよりも大きい又は0.3mmよりも大きいアンダーカット設計をもたらすこと
を特徴とし、
予備成形歯科用複合クラウンが作製された材料である化学組成物は、硬化組成物であり、以下の構成成分:
20~60wt%の量のナノ充填剤
20~75wt%の量の樹脂マトリックス、
を含むことを特徴とし、
樹脂マトリックスは、
3~20wt%の量の、少なくとも2つの重合性部分を有するウレタン(メタ)アクリレートと、
5~55wt%の量の、少なくとも2つの重合性部分を有するがウレタン部分を含まない(メタ)アクリレートと
の重合生成物を含み、
重量%は、化学組成物の重量に対するものであり、
硬化化学組成物は、以下のパラメータ、
衝撃強度が、DIN53453:175-05に従って測定して5~15kJ/m2であること、
E弾性率が、DIN EN843-2:2007と組み合わせたISO4049:2009に従って測定して1,000~4,000MPaであること
により特徴付けられる。
【0241】
本文書に記載されている化学組成物は、典型的には、
例えば約5wt%を上回る量の、酸性基を含む重合性構成成分、
例えば約5wt%を上回る量の溶媒、
例えば約10wt%を上回る又は約5wt%を上回る量の、平均粒子サイズが1~100μmを有する充填剤粒子、及び
これらの混合物から選択される構成成分を含まず、ここでwt%は、予備成形歯科用複合クラウンの重量に対するものである。
【0242】
すなわち、これらの構成成分は、典型的には意図的に添加されず、したがって、組成物全体の重量に対して、約10wt%を上回る又は約8wt%を上回る又は約5wt%を上回る又は約2wt%を上回る量で存在しない。
【0243】
しかし、選択された原料に応じて、組成物が微量の上記の構成成分のいずれかを含有し得ることは、時々避けられないことがある。
【0244】
上記に記述された範囲の平均粒子サイズを有する充填剤を約10wt%を上回る量で添加することは、研磨性及び光沢保持性のような特性に悪影響を及ぼすことがある。
【0245】
この種類の充填剤の例には、フルオロアルミノケイ酸塩ガラス、石英、すりガラス、CaF2などの非水溶性フッ化物、クリストバライト、ケイ酸カルシウム、分子ふるいを含むゼオライト、アルミニウム若しくはジルコニア又はこれらの混合酸化物などの金属酸化物粉末、硫酸バリウム、炭酸カルシウムが挙げられる。
【0246】
このような充填剤を高量で添加することは、硬化歯科用組成物の審美的特性に悪影響を及ぼすことがある。
【0247】
典型的には存在しない溶媒の例には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、THF、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノール、トルエン、アルカン及び酢酸アルキルエステルのような、直鎖状、分枝状又は環状、飽和又は不飽和のアルコール、ケトン、エステル又は2~10個のC原子を有するこの種類の溶媒の2つ以上の混合物が挙げられる。
【0248】
本文書に記載されている化学組成物に使用される全ての構成成分は、十分に生体適合性があるべきであり、すなわち、化学組成物は、毒性、傷害性又は免疫学的な応答を生体組織に生じるべきではない。
【0249】
本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンは、積層造形、鋳型成形及びフライス加工の手順を含む異なる製造技術を使用して得ることができる。
【0250】
これら全ての場合において、
本文書に記載されているナノ充填剤と、
本文書に記載されている、少なくとも2つの重合性部分を有するウレタン(メタ)アクリレートと、
本文書に記載されている、ウレタン部分を含まない重合性(メタ)アクリレートと、
ウレタン(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリレートを硬化させるのに適した開始剤系と、
本文書に記載されている任意の添加剤と
を含有する硬化性組成物が使用される。
【0251】
本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物を硬化させるのに使用できる開始剤系は、特に限定されず、典型的には、放射線、熱、酸化剤と還元剤の組み合わせ(多くの場合、レドックス硬化開始剤系とも呼ばれる)又はこれらの組み合わせのいずれかによってトリガーされる。
【0252】
この開始剤系は一成分系(例えば、放射線若しくは熱によりトリガーされる開始剤)又は二成分系(例えば、酸化剤と還元剤の組み合わせ)であり得る。
【0253】
フリーラジカル活性官能基の重合を開始することができる開始剤の1つの部類には、有機過酸化物とアミンの組み合わせなどの従来の化学的開始剤系が挙げられる。これらの開始剤は、レドックス反応に依存しており、多くの場合「自動硬化触媒(auto-cure catalyst)」と呼ばれる。これらは、典型的には、二成分系として供給され、そこでは反応物(還元剤と酸化剤)が互いに離されて保管され、その後、使用直前に組み合わされる。
【0254】
有機過酸化物化合物も、いわゆる活性剤と一緒になって、レドックス開始剤系として適している。特に、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル、並びにp-クロロベンゾイルペルオキシド及びp-メチルベンゾイルペルオキシドなどの化合物は、有機過酸化物化合物と考慮され得る。
【0255】
活性剤としては、例えば、米国特許第3,541,068号により公知のN,N-ビス-(ヒドロキシアルキル)-3,5-キシリジン、並びにN,N-ビス-(ヒドロキシアルキル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、特に、N,N-ビス-([ベータ]-オキシブチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、並びにN,N-ビス-(ヒドロキシアルキル)-3,4,5-トリメチルアニリンなどの三級芳香族アミンが適している。
【0256】
米国特許出願第2003/008967号、ドイツ国特許第1495520号に記載されているようなバルビツール酸及びバルビツール酸誘導体、並びに米国特許第4,544,742号(欧州特許第0059451号に対応)に記載されているマロニルスルファミドも、好適な活性化剤である。好ましいマロニルスルファミドは、2,6-ジメチル-4-イソブチルマロニルスルファミド、2,6-ジイソブチル-4-プロピルマロニルスルファミド、2,6-ジブチル-4-プロピルマロニルスルファミド、2,6-ジメチル-4-エチルマロニルスルファミド及び2,6-ジオクチル-4-イソブチルマロニルスルファミドである。
【0257】
更なる促進のために、重合は、好ましくは重金属化合物及び無機ハロゲン又は擬ハロゲンの存在下で実施される。
【0258】
重金属は、可溶性有機化合物の形態で適切に使用される。同様に、ハロゲン化物及び擬ハロゲン化物イオンは、可溶性塩の形態で適切に使用され、例として可溶性アミン塩酸塩、並びに四級塩化アンモニウム化合物を挙げることができる。適切な促進剤は、特に鉄又は銅族からの金属であり、好ましくは銅及び鉄錯体、特に銅錯体である。重金属は、好ましくは可溶性有機化合物の形態で用いられる。例えば、カルボン酸鉄、カルボン酸銅、プロセトネート(procetonate)鉄、プロセトネート銅、ナフテン酸銅、酢酸銅及びナフテン酸鉄が適している。
【0259】
貯蔵寿命の理由から、レドックス硬化開始剤系の酸化剤と還元剤は、典型的には別々に保管される。
【0260】
1つの実施形態によると、予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物は、暗硬化型レドックス開始剤系によって硬化される。
【0261】
別の実施形態によると、予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物は、光硬化開始剤系によって硬化される。
【0262】
このような開始剤は、典型的には、400~800nmの波長を有する光エネルギーへの曝露による重合において、フリーラジカルを生成することができる。
【0263】
可視光硬化開始剤構成成分の例には、例えば、アミン及びアルファ-ジケトンに基づく系が挙げられる。適切な系は、例えば米国特許第4,071,124号及び国際公開第2009/151957号に記載されている。これらの参考文献の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0264】
あるいは、使用され得るフリーラジカル開始剤には、米国特許第4,737,593号に記載されるようなアシルホスフィンオキシドの部類が挙げられる。こうしたアシルホスフィンオキシドは、下記一般式のものであり、
(R9)2-P(=O)-C(=O)-R10
式中、各R9は個々に、アルキル、シクロアルキル、アリール及びアラルキルなどのヒドロカルビル基であってもよく、そのいずれもがハロ-、アルキル-若しくはアルコキシ基で置換されてもよく又は2つのR9基が結合して、リン原子と共に環を形成することができ、R10はヒドロカルビル基、S-、O-若しくはN-含有5若しくは6員複素環基、又は-Z-C(=O)-P(=O)-(R9)2基であり、ここでZは2~6個の炭素原子を有するアルキレン又はフェニレンなどの二価のヒドロカルビル基を表す。
【0265】
好ましいアシルホスフィンオキシドは、R9及びR10基が、フェニル又は低級アルキル-若しくは低級アルコキシ-置換フェニルであるものである。「低級アルキル」及び「低級アルコキシ」とは、1~4個の炭素原子を有するこのような基を意味する。最も好ましくは、アシルホスフィンオキシドは、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IRGACURE(商標)819、チバスペシャルティケミカルズ、ニューヨーク州タリータウン)である。
【0266】
第三級アミン還元剤を、アシルホスフィンオキシドと組み合わせて使用してもよい。例示的な三級アミンには、エチル-4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾエート及びN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。
【0267】
400nmを超え、1200nmまでの波長で照射されたときにフリーラジカルを開始できる市販のホスフィンオキシド光開始剤には、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドと2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンとの25:75重量混合物(IRGACURE(商標)1700、チバスペシャルティケミカルズ)、2-ベンジル-2-(N,N-ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)-1-ブタノン(IRGACURE(商標)369、チバスペシャルティケミカルズ)、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)フェニル)チタン(IRGACURE(商標)784 DC、チバスペシャルティケミカルズ)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドと2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンとの1:1重量混合物(DAROCUR(商標)4265、チバスペシャルティケミカルズ)、及びエチル-2,4,6-トリメチルベンジルフェニルホスフィネート(LUCIRIN(商標)LR8893X、BASF社、ノースカロライナ州シャーロット)が挙げられる。
【0268】
別の実施形態によると、予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物は、レドックス開始剤系と光硬化開始剤系の組み合わせによって硬化される。
【0269】
更なる代替案において、熱を使用して、フリーラジカル活性基の硬化又は重合を開始させることができる。本文書に記載されている硬化性樹脂組成物に適した熱源の例には、誘導、対流及び放射が挙げられる。熱源は、基準条件下において、少なくとも40℃~150℃の温度を生じることができるべきである。この手順は、口腔環境外で行われる材料の重合を開始させるのに好ましい。使用することができ、かつ熱に敏感である適切な開始剤は、例えば有機過酸化物である。
【0270】
1つの実施形態によると、予備成形歯科用複合クラウンは、積層造形技術を適用することによって製造される。
【0271】
この種類の技術では、放射線によりトリガーされる開始剤系の使用が有用であることが見出された。
【0272】
予備成形歯科用複合クラウンは、
硬化性化学組成物を用意する工程であって、硬化性化学組成物が、予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物の構成成分及び本文書に記載されている、硬化性化学組成物を硬化させるのに適した開始剤系を含む工程と、
硬化性化学組成物を付加製造方法の構築材料として加工する工程と、
を含む方法によって得ることができる。
【0273】
この種類の技術の例は、パターンのある相乗的促進性の電磁放射線で層を凝固させることによって三次元物体を作製する製造方法に関する米国特許第8,003,040(B2)号(El-Siblani)において、更に記載されている。これらの参考文献の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0274】
予備成形歯科用複合クラウンを製造する積層造形技術の使用は、異なる形状を有する小量又は大量のいずれかの予備成形歯科用複合クラウンを製造する必要がある場合に有用であり得る。
【0275】
1つの実施形態によると、予備成形歯科用複合クラウンは、鋳型成形技術を適用することによって製造される。
【0276】
この種類の技術では、全ての種類の開始剤系を使用することができる。
【0277】
予備成形歯科用複合クラウンは、
硬化性化学組成物を用意する工程であって、硬化性化学組成物が、予備成形歯科用複合クラウンの化学組成物の構成成分及び本文書に記載されている、硬化性化学組成物を硬化させるのに適した開始剤系を含む工程と、
硬化性化学組成物を、製造される予備成形歯科用クラウンの形状を有する金型で成形する工程と、
化学組成物を硬化させて、硬化予備成形歯科用複合クラウンを得る工程と
を含む方法によって得ることができる。
【0278】
硬化性化学組成物の硬化は、熱、放射線、レドックス硬化系の使用又はこれらの組み合わせを適用することによって、開始することができる。
【0279】
予備成形歯科用複合クラウンを製造する鋳型成形技術の使用は、予備成形及び標準化歯科用複合クラウンを大量に製造する必要がある場合に有用であり得る。
【0280】
別の実施形態によると、予備成形歯科用複合クラウンは、フライス加工技術を適用することによって製造される。
【0281】
この種類の技術では、全ての種類の開始剤系を使用することもできる。
【0282】
予備成形歯科用複合クラウンは、
複合フライス加工用ブロックを用意する工程であって、複合フライス加工用ブロックが、本文書に記載されている化学組成物を有する工程と、
複合フライス加工用ブロックから物品をフライス加工することであって、物品が、本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンの形状を有する工程と
を含む方法によって、得ることができる。
【0283】
複合フライス加工用ブロックは、上記に記載された鋳型成形技術を使用して製造することができる。
【0284】
予備成形歯科用複合クラウンを製造するフライス加工技術の使用は、小量の予備成形歯科用複合クラウンのみを製造する必要がある場合、又は製造が「チェアサイド」において、すなわち、患者の治療中に歯科施術者により行われるべき場合に、有用であり得る。
【0285】
しかし、フライス加工技術を用いることは、特に、望ましい物品の形状による幾何学的制約(例えば、大きなアンダーカット)によって、常に推奨されるとは限らない。
【0286】
本発明は、本文書に記載されているような、予備成形歯科用複合クラウンのセットを含む部品のキットも対象とする。
【0287】
予備成形歯科用複合クラウンは、典型的には、形状、色、サイズ又はその組み合わせのいずれかによって互いに区別される。
【0288】
キットは、10個まで又は8個までの異なる形状の予備成形歯科用複合クラウンを含むことができる。
【0289】
キットは、それぞれ異なる形状の予備成形歯科用複合クラウンを、総計10個まで又は8個までの異なるサイズで含むことができる。
【0290】
これにより、キットは、予備成形歯科用複合クラウンを100個まで含むことができる。
【0291】
予備成形歯科用複合クラウンは、大臼歯の前又は後ろの形状を有することができる。
【0292】
典型的には、予備成形歯科用複合クラウンは、異なる歯の色で提供される。歯の色は、典型的にはVita(商標)カラーコードに従って分類される。
【0293】
部品のキットは、予備成形歯科用複合クラウンを調製済み歯面に確実に固定するのに適した歯科用セメントを含むこともできる。
【0294】
適切な歯科用セメントは、グラスアイオノマーセメント、特に樹脂変性グラスアイオノマーセメントである。グラスアイオノマーセメントは、典型的には次の構成成分:酸反応性充填剤、ポリ酸、水及び錯化剤を含有するが、放射線硬化性構成成分は含有しない。
【0295】
グラスアイオノマーセメントは、典型的には、液体部分及び粉末部分を含む部品のキットとして提供される。2つの部分は、使用前に混合される必要がある。
【0296】
粉末部分は、典型的には、酸反応性無機充填剤(例えば、フルオロアルミノケイ酸塩ガラス、FASガラス)を含む。
【0297】
液体部分は、典型的には、ポリ酸、水及び錯化剤(例えば、酒石酸)を含む。
【0298】
グラスアイオノマーセメントは市販されている(例えば、Ketac(商標)セム、3M Oral Care、3M ESPE)。
【0299】
グラスアイオノマーセメントは、使用前に混合される2つのペーストA及びBを含む部品のキットとしても提供され得る。
【0300】
好ましい実施形態によると、予備成形歯科用複合クラウンを含有する部品のキットは、樹脂変性グラスアイオノマーセメント(RM-GIZ)を含む。
【0301】
樹脂変性グラスアイオノマーセメントは、典型的には次の構成成分:酸反応性充填剤、ポリ酸、水、錯化剤、放射線硬化性構成成分、開始剤を含有する。
【0302】
適切な放射線硬化性構成成分は、典型的には、(メタ)アクリレート部分を含有する。
【0303】
樹脂変性グラスアイオノマーセメントも、粉末/液体系又はペースト/ペースト系のいずれかによって、部品のキットとして提供される。
【0304】
粉末部分は典型的には酸反応性無機充填剤(例えば、フルオロアルミノケイ酸塩ガラス、FASガラス)及び開始剤構成成分を含む。
【0305】
液体部分は、典型的には、ポリ酸、水、(メタ)アクリレート及び開始剤構成成分を含む。
【0306】
樹脂変性グラスアイオノマーセメントは市販されている(例えば、Ketac(商標)セムプラス、3M Oral Care、3M ESPE)。
【0307】
驚くべきことに、特にRM-GIZは、調製済み歯の表面に予備成形歯科用複合クラウンを確実に固定するのに適していることが、見出された。
【0308】
伝統的なグラスアイオノマーセメントより少し高価であっても、RM-GIZは、自己接着性樹脂セメント(例えば、RelyX(商標)ユニセム)又は接着性樹脂セメント(例えば、RelyX(商標)アルティメット)に比べて低価格で得ることができる。
【0309】
本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンは、特に小児の分野における歯科治療に使用される。
【0310】
このような方法は、本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウンを、本文書に記載されている歯科用セメント、特に樹脂変性グラスアイオノマーセメントの使用によって患者の口内の調製済みの歯の表面に固定する工程を含む。
【0311】
望ましい場合、歯科用セメントが適用される前に、調製済みの歯の表面に取り付けられる予備成形歯科用複合クラウンの表面(「内面」)を粗面化することができる。粗面化は、例えばサンドブラストにより行うことができる。
【0312】
表面を粗面化することは、治療される歯の調製済み表面への予備成形クラウンの固定を更により改善することに有用であり得る。
【0313】
望ましい場合、予備成形歯科用複合クラウンの形状は、切断又は研削によって更に適合され得る。
【0314】
本文書に引用された特許、特許文献及び公報の完全な開示は、あたかもそれぞれが個々に組み込まれたかのように、それらの全体が参照により組み込まれる。
【0315】
以下の実施例は本発明を例示するために提示される。
【実施例】
【0316】
特に指示のない限り、全ての部及び百分率は重量に基づき、全ての水は脱イオン水であり、全ての分子量は重量平均分子量である。更に、特に指示のない限り、全ての実験は、周囲条件下で実施された。
【0317】
測定方法
曲げ強度
望ましい場合、2*2*25mmのサイズを有する試験片を使用し、ISO4049:2009に従って3点曲げ強度試験を実施することによって、曲げ強度を測定することができる。曲げ強度は「MPa]で示される。
【0318】
E弾性率
望ましい場合、2*2*25mmのサイズを有する試験片を使用し、DIN EN843-2:2007と組み合わせたISO4049:2009に従って曲げ強度を測定することによって、E弾性率を測定することができる。E弾性率は、試験片の最大力の20%~50%の範囲で測定される。E弾性率は[GPa]で示される。
【0319】
衝撃強度
望ましい場合、4*6*50mmの寸法を有する試験試料を使用し、0.5Jの振り子を有するツビック5102振り子設定を使用し、42mmのスパンを使用して、DIN53453:1975-05(Charpy)に従って、衝撃強度を測定することができる。衝撃強度は[kJ/m2]で示される。
【0320】
摩耗
望ましい場合、摩耗[mm3]を以下のように決定することができる。摩耗試験は、30℃の傾斜により特定の試験片において実施した。この目的のため、材料をM12インブススクリューの窪みに充填し、製造会社の説明書に従って硬化した。
【0321】
試験片を、75μmのダイヤモンドソーの使用により平面研削し、蒸留水に36℃で4日間保管した。次に咀嚼シミュレーションを以下の条件の適用によって開始した。
【0322】
咀嚼力:80N;側方運動:4mm;摺動運動:10mm;アンタゴニスト:ステアタイトボール;咀嚼サイクル数:1,200,000;熱サイクル(5/55℃):5,000。
【0323】
咀嚼シミュレーションを実施した後、レーザー走査型顕微鏡VK-X200(キーエンス社)の使用により体積の損失を測定することによって、摩耗を決定した。
【0324】
摩耗試験についての更なる情報は、M.Rosentritt et al.,Materialprufung 39(1997),p.77-80に見出すことができる。
【0325】
クラウン設計:
大臼歯用3M Oral Care、3M ESPEステンレス鋼クラウン(ELR-3型、#N704922)を、新たな予備成形歯科用複合クラウンの設計の出発点として使用した。ステンレス鋼クラウンの壁厚は、本質的に均質(約150μm)である。
【0326】
このステンレス鋼クラウンの内面を歯科用スキャナ(Lava(商標)スキャンST2)で走査し、CADソフトウェア(3-matic、BASE6.0-ソフトウェア、ビルド6.0.0.13、Fa.Materialize N.V.)により、壁厚を外側方向から約300μmに均質に拡大した。クラウン設計の内面は、歯の残根への同じ嵌合を確実にするため、一定のままにした。
【0327】
CAMソフトウェア(Lava(商標)デザインソフトウェア7(コンフィギュレーションC)、バージョン:3.2.1.256-14/06/18)を使用するフライス加工戦略を計算することによって、フライス加工のためのクラウンの設計を作製した。
【0328】
【0329】
フライス加工用ブロックの調製
化学組成物
以下の構成成分を用意し、混練機の使用により混合して、ペーストA及びペーストBを得た。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0330】
ペーストを、ペーストAとペーストBの体積比の10:1でデュアルチャンバカートリッジ(SulzerMixpac)に充填した。
【0331】
フライス加工用ブロック(I)、(III)及び(IV)の調製
対応する組成物を、手動歯車の使用により静止混合チップ(SulzerMixpac)を介して、シリコーン材料(Fa.Siladent,Adisil(登録商標)blau 9:1)から作製されたブロック金型(寸法:18mm*14mm*12mm)に供給した。このブロックは3時間30分後に変形し、イソプロパノールで洗浄し、その後、オーブン内の脱イオン水に40℃で12時間保管して、硬化を完了させた。ブロックを取り出し、ペーパータオルで乾燥した。
【0332】
フライス加工用ブロック(II)の調製
熱可塑性材料のポリエーテルエーテルケトン-PEEKに基づいた市販のCAD/CAM材料を使用した(breCAM BioHPP Fa.Bredent/#420121)。材料を(18mm*14mm*12mm)の寸法に薄切りにした。
【0333】
予備成形クラウンの製造
フライス加工用ブロック(I)、(II)、(III)及び(IV)を、接着剤(DELO Automix 03 rapid)の使用によってフライス加工機ホルダ(Lava(商標)フレーム)に接着した。
【0334】
上記に記載された300μmの壁厚クラウン設計のクラウン(I)を、乾式フライス加工機(Lava(商標)CNC500-H004)の使用によってフライス加工用ブロック(I)からフライス加工した。
【0335】
上記に記載された、300μmの壁厚クラウン設計のクラウン(II)を、乾式フライス加工機(Lava(商標)CNC500-H004)の使用によってフライス加工用ブロック(II)からフライス加工した。
【0336】
上記に記載された、300μmの壁厚クラウン設計のクラウン(III)を、乾式フライス加工機(Lava(商標)CNC500-H004)の使用によってフライス加工用ブロック(III)からフライス加工した。
【0337】
上記に記載された、300μmの壁厚クラウン設計のクラウン(IV)を、乾式フライス加工機(Lava(商標)CNC500-H004)の使用によってフライス加工用ブロック(IV)からフライス加工した。
【0338】
クラウン(I)、(II)、(III)及び(IV)の内面を、Al2O3粉末によるサンドブラストで粗面化した。
【0339】
歯の調製
人工歯(Frasaco(商標)AK-6/2 ZE-85)を、3M Oral Care、3M ESPEのステンレス鋼クラウンの製造会社により示唆された調製指針に従って、歯モデル(Frasaco(商標)AK-6/2)において調製した。
【0340】
スナップオン試験
調製済み歯の残根へのクラウン(I)及び(II)の嵌合を手作業で試験した。両方のクラウンは十分な可撓性を有し、調製済みの歯への望ましいスナップオン挙動を示した。
【0341】
引抜き力試験
追加の人工歯を、3M Oral Care、3M ESPEのステンレス鋼クラウンの製造会社により示唆された調製指針に従って、乾式フライス加工によって真鍮から調製した。調製済みの歯の断面を
図4に示す。
【0342】
人工歯の表面を、Al2O3粉末を使用するサンドブラストにより粗面化して、残根へのより良好な結合を確実にした。
【0343】
以下のクラウン:クラウン(I)、(II)、(III)及び(IV)を、それぞれ5個のクラウン群で比較した。
【0344】
製造会社により提供された使用説明書に従い、以下の市販の歯科用セメントを使用して、クラウンを人工歯にセメント合着させ、高湿度条件下において37℃で24時間貯蔵した。樹脂変性グラスアイオノマー系セメント:Ketac(商標)セムプラス(3M Oral Care、3M ESPE)。
【0345】
真鍮引抜きホルダをクラウンの咬合領域上のアセンブリ(人工歯及びセメント合着クラウン)に、接着性セメント合着技術(Rely(商標)エックスユニセム、3M Oral Care、3M ESPE)を使用してセメント合着した。
【0346】
引抜き取付具を含むアセンブリをInstron(商標)機に入れ、引抜き力(N)を、セメント合着の破壊が発生するまで引張荷重速度1mm/分で測定した。標準偏差が括弧内に示されている。
【表5】
【0347】
【0348】
本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウン(クラウン(I))は、米国特許第8,651,867(B2)号(Zilberman)により示唆された熱可塑性材料PEEKから作製された予備成形歯科用クラウン-クラウン(II)よりも良好な接着性を、人工歯の残根に対して示した。
【0349】
本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウン(クラウン(I))は、配合物(III)及び(IV)から製造された予備成形歯科用クラウンに対しても、より良好な接着性を人工歯の残根に示した。
【0350】
E弾性率
加えて、E弾性率を測定した(GPa)。標準偏差が括弧内に示されている。
【表6】
【0351】
本文書に記載されている予備成形歯科用複合クラウン(クラウン(I))の調製に使用された配合物(I)のE弾性率は、予備成形歯科用複合クラウン(III)及び(IV)の調製に使用された配合物(III)及び(IV)のE弾性率よりも低かった。