(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】光学素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/155 20060101AFI20220329BHJP
G02F 1/15 20190101ALI20220329BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
G02F1/155
G02F1/15 508
G09F9/30 380
(21)【出願番号】P 2017055894
(22)【出願日】2017-03-22
【審査請求日】2020-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100091340
【氏名又は名称】高橋 敬四郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141302
【氏名又は名称】鵜飼 伸一
(72)【発明者】
【氏名】平野 智也
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/025900(WO,A1)
【文献】米国特許第09091868(US,B2)
【文献】特開平10-239716(JP,A)
【文献】特開2006-243154(JP,A)
【文献】実開平03-090225(JP,U)
【文献】特開2009-175327(JP,A)
【文献】特開2013-228487(JP,A)
【文献】特開2000-356750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15 - 1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する第1の基板と、
前記第1の基板と向かい合う第2の基板と、
前記第1の基板の、前記第2の基板側の面に配置され、光透過性を有する第1の電極と、
前記第2の基板の、前記第1の基板側の面に配置され、部分的に絶縁領域が設けられた第2の電極と、
前記第1および第2の電極の間に挟まれ、前記第1および第2の基板の法線方向から見たときに枠状の形状を有するシール枠部材と、
前記第1および第2の基板、ならびに、前記シール枠部材により画定される空間内に充填され、前記第1および第2の電極の表面で起こりうる電気化学反応により、光学状態が変化する電解質層と、
前記第1の基板の、前記第2の基板側であって、前記シール枠部材の外側に設けられ、前記第1の電極に接続され、前記第1の電極よりも電気抵抗率が低い第1の接続電極と、
前記第2の基板の、前記第1の基板側であって、前記シール枠部材の外側に設けられ、前記第2の電極に接続された第2の接続電極と、
を備え、
前記絶縁領域が、前記第2の電極の前記第1の電極側の面に配置された絶縁部材、または前記第2の電極に設けた孔であり、
前記第1および第2の基板の法線方向から見たときに、前記シール枠部材に囲まれた前記第2の電極の領域内において、前記第1の接続電極に近い領域が包含する前記絶縁領域の割合が、前記シール枠部材の中央に位置する領域が包含する前記絶縁領域の割合よりも高い、光学素子。
【請求項2】
前記第1および第2の基板の法線方向から見た場合に、
前記第1および第2の接続電極は、前記シール枠部材および前記電解質層を挟んで、相互に対向して配置されており、
前記シール枠部材に囲まれた前記第2の
電極の領域内であって、前記第1および第2の接続電極を横断する仮想直線上に、前記第1の接続電極に相対的に近い第1の領域、前記第1の接続電極から相対的に遠い第2の領域、および、前記第1および第2の領域の中間に位置する第3の領域を設定したとき、前記第1の領域が包含する前記絶縁領域の割合が、前記第3の領域が包含する前記絶縁領域の割合よりも高い、請求項1記載の光学素子。
【請求項3】
前記第2の領域が包括する前記絶縁領域の割合は、前記第3の領域が包括する前記絶縁領域の割合よりも高い、請求項2記載の光学素子。
【請求項4】
前記第2の電極は、光透過性を有する部材を含む請求項3記載の光学素子。
【請求項5】
前記第2の領域が包括する前記絶縁領域の割合は、前記第3の領域が包括する前記絶縁領域の割合よりも低い、請求項2記載の光学素子。
【請求項6】
前記第2の電極は、光反射性を有する金属部材を含む請求項5記載の光学素子。
【請求項7】
前記第2の電極は、前記第2の基板の表面に設けられる導電層と、前記導電層の表面に設けられ、前記絶縁領域を構成する絶縁部材と、を含む請求項1~6いずれか1項記載の光学素子。
【請求項8】
前記絶縁部材と前記電解質層との屈折率差は、0.15よりも小さい請求項7記載の光学素子。
【請求項9】
前記第2の電極は、前記絶縁領域を構成する孔部が設けられた導電層を含む請求項1~6いずれか1項記載の光学素子。
【請求項10】
前記第2の電極に設けられる絶縁領域の幅は、1mm以下である請求項1~9いずれか1項記載の光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2種の光学状態を切り替えることができる光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光学状態を切り替えることができる光学素子が提案されている。
【0003】
特許文献1には、いわゆるエレクトロデポジション素子が開示されている。エレクトロデポジション素子は、主に、対向配置される一対の透明電極と、その一対の透明電極に挟持され、銀を含むエレクトロデポジション材料を含有する電解質層と、を有する。エレクトロデポジション素子の平面サイズは、一般に、10mm□程度である。
【0004】
電解質層はほぼ透明であり、定常時(電圧無印加時)、エレクトロデポジション素子は透明状態となる。一対の透明電極間に電圧を印加すると、電気化学反応(酸化・還元反応)により、電解質層のエレクトロデポジション材料(銀)が、電極上に析出・堆積する。比較的平坦な電極の表面に析出・堆積するエレクトロデポジション材料は鏡面を構成し、エレクトロデポジション素子は鏡面(高光反射)状態となる。
【0005】
特許文献2には、いわゆるエレクトロケミカルルミネッセンス素子が開示されている。一対の基板及び透明電極に挟持されたエレクトロケミカルルミネッセンス材料を含む層を有している。電圧の印加によるカチオンラジカルとアニオンラジカルの励起と失活により発光を生じさせる。
【0006】
特許文献3には、いわゆるエレクトロクロミック素子が開示されている。一対の基板及び透明電極に挟持されたエレクトロクロミック材料を含む層を有している。電圧の印加によりエレクトロクロミック材料が電気化学反応により分子構造を変化させ、変色を生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-181389号公報
【文献】特開2007-134143号公報
【文献】特開2004-170613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主な目的は、素子面内において、一様な光学特性を有する光学素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の主な観点によれば、透光性を有する第1の基板と、前記第1の基板と向かい合う第2の基板と、前記第1の基板の、前記第2の基板側の面に配置され、光透過性を有する第1の電極と、前記第2の基板の、前記第1の基板側の面に配置され、部分的に絶縁領域が設けられた第2の電極と、前記第1および第2の電極の間に挟まれ、前記第1および第2の基板の法線方向から見たときに枠状の形状を有するシール枠部材と、前記第1および第2の基板、ならびに、前記シール枠部材により画定される空間内に充填され、前記第1および第2の電極の表面で起こりうる電気化学反応により、光学状態が変化する電解質層と、前記第1の基板の、前記第2の基板側であって、前記シール枠部材の外側に設けられ、前記第1の電極に接続され、前記第1の電極よりも電気抵抗率が低い第1の接続電極と、前記第2の基板の、前記第1の基板側であって、前記シール枠部材の外側に設けられ、前記第2の電極に接続された第2の接続電極と、を備え、前記絶縁領域が、前記第2の電極の前記第1の電極側の面に配置された絶縁部材、または前記第2の電極に設けた孔であり、前記第1および第2の基板の法線方向から見たときに、前記シール枠部材に囲まれた前記第2の電極の領域内において、前記第1の接続電極に近い領域が包含する前記絶縁領域の割合が、前記シール枠部材の中央に位置する領域が包含する前記絶縁領域の割合よりも高い、光学素子、が提供される。
【発明の効果】
【0010】
素子面内において、一様な光学特性を有する光学素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1-2】
図1A~
図1Cは、参考例によるエレクトロデポジション素子を示す平面図および断面図である。
【
図2-2】
図2A~
図2Cは、第1の実施例によるエレクトロデポジション素子を示す平面図および断面図である。
【
図3-2】
図3A~
図3Cは、第2の実施例によるエレクトロデポジション素子を示す平面図および断面図である。
【
図4】第3の実施例によるエレクトロデポジション素子を示す平面図である。
【
図5】
図5Aおよび
図5Bは、第4の実施例によるエレクトロデポジション素子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
最初に、参考例によるエレクトロデポジション素子(ED素子)の基本的な構造について説明する。
【0013】
図1A~
図1Cは、参考例によるED素子110を示す平面図および断面図である。
図1Aに示すIBC-IBC断面が、
図1Bおよび
図1Cに示す断面図に対応する。なお、図中に示す各構成部材の相対的なサイズや位置関係は、実際のものとは異なっている。
【0014】
図1Aに示すように、ED素子110は、主に、対向配置される下側および上側基板10,20と、下側および上側基板10,20の間に挟まれる電解質層(電解液)51およびシール枠部材70と、を備える。図中では、下側基板10の、上側基板20に隠れる部分、および、シール枠部材70の輪郭を、破線で示す。
【0015】
なお、下側および上側基板10,20各々の対向面には、外部電源に接続される電源接続電極12p,22pが設けられている。図中において、上側基板20に設けられる電源接続電極22pの輪郭も破線で示す。電源接続電極12p,22pは、一般に、シール枠部材70の外側に、電解質層51を挟んで、相互に対向するように配置される。
【0016】
下側および上側基板10,20が相互に重なる領域において、その周縁にシール枠部材70が設けられている。下側および上側基板10,20、ならびに、シール枠部材70によって画定される空間内に、電解液51が充填される。シール枠部材70に囲われ、電解液51が充填する領域は、光学状態を切り替えることができるスイッチング領域Asであり、その面積は、たとえば12000mm2(縦150mm×横80mm)である。
【0017】
図1Bに示すように、下側基板10は、支持基板11の表面全面に、透明電極12が積層する構造を有する。また、上側基板20は、支持基板21の表面全面に、透明電極22が積層する構造を有する。透明電極12,22は、互いに向かい合うように配置されている。
【0018】
支持基板11,21には、ガラス基板など、透光性を有する基板が用いられる。透明電極12,22には、たとえばインジウム錫酸化物(ITO)やインジウム亜鉛酸化物(IZO)など、透光性および導電性を有する部材が用いられる。ここでは、下側および上側基板10,20として、5Ω/□ITO付ソーダ石灰ガラス基板が用いられる。
【0019】
下側電極12の表面であって、シール枠部材70の外側には、外部電源(たとえばそのプラス端子ないしグランド端子)に接続される電極12pが設けられる。また、上側電極22の表面であって、シール枠部材70の外側にも、外部電源(たとえばそのマイナス端子)に接続される電極22pが設けられる。電源接続電極12p,22pには、ITOなどの透明電極よりも電気抵抗率が低い(電気伝導度が高い)、たとえば銀などの金属部材が用いられる。
【0020】
下側基板10に設けられる電極において、電源接続電極12pが設けられた領域を低抵抗領域12rと呼び、その他の領域、特に電解質層51に接触する領域(スイッチング領域Asに対応する領域)を主要領域12mと呼ぶこととする。同様に、上側基板20に設けられる電極において、電源接続電極22pが設けられた領域を低抵抗領域22rと呼び、その他の領域、特に電解質層51に接触する領域(スイッチング領域Asに対応する領域)を主要領域22mと呼ぶこととする。
【0021】
シール枠部材70は、樹脂部材などで構成され、下側ないし上側基板10,20面内において、下側および上側基板10,20の周縁に沿って閉じた形状で設けられる(
図1A参照)。下側および上側基板10,20の間隔(セルギャップ)は、シール枠部材70および図示しないギャップコントロール剤により規定される。下側および上側基板10,20の間隔は、たとえば100μm程度である。
【0022】
電解質層(電解液)51は、溶媒中にエレクトロデポジション(ED)材料(たとえば銀)が溶解しているものであり、下側および上側基板10,20、ならびに、シール枠部材70により画定される空間内に充填されている。電解質層51は、概ね透明であり、定常時(電圧無印加時)、ED素子110は、全体として光透過状態を実現する。
【0023】
電解質層(電解液)51は、溶媒、ED材料、支持塩、メディエータなどにより構成される。たとえば、溶媒であるDMSO(dimethyl―sulfoxide)中に、ED材料としてAgBrを350mM、支持塩としてLiClを1750mM、メディエータとしてTaCl5を30mM、添加したものを用いる。
【0024】
図1Cに示すように、下側電極12の電位を基準とし、上側電極22に負の電位(たとえば-4V)を印加すると、電極12,22表面における酸化還元反応により、上側電極12表面に、電解質層51中のED材料(銀)が析出・堆積して、光反射膜51dが形成される。このとき、ED素子110(スイッチング領域As)は、光反射状態を実現する。
【0025】
なお、電圧印加を停止すると、電極表面に析出・堆積したED材料(光反射膜51d)は、再度、電解質層(電解液)51中に溶解し、電極表面から消失する。電解質層51は、透明状態とED材料析出状態とに切り換えることができる。これに伴って、ED素子110は、その光学状態を、光透過状態(電圧無印加時)と光反射状態(電圧印加時)とに切り換えることができる。
【0026】
参考例において、上側電極22表面に堆積する光反射膜51dの膜厚は不均一になる。具体的には、電源接続電極12p,22pに近いスイッチング領域Asの両端において、光反射膜51dの膜厚は相対的に厚くなり、スイッチング領域Asの中央において、光反射膜51dの膜厚は相対的に薄くなる。このため、光反射状態において、電源接続電極12p,22pに近いスイッチング領域Asの両端において、相対的に光反射率が高くなり、スイッチング領域Asの中央において、相対的に光反射率が低くなる。
【0027】
この膜厚の不均一性は、電解質層51における電流密度の分布(バラつき)に起因する。この電流密度の分布(バラつき)は、電極12,22が、ITOなど、電気抵抗率が高い(電気伝導度が低い)部材から構成され、かつ、電源接続電極12p,22p間を横断する方向の、電極12,22の主要領域12m,22mの幅(スイッチング領域Asないし電解質層51の幅)が広い(たとえば30mm以上)ときに、より顕著となる。
【0028】
電極12,22の電気抵抗率が高く(電気伝導度が低く)、その主要領域12m,22mの幅が広い場合、電解質層51における電流密度は、電流供給源に近い領域で相対的に高くなり、電流供給源から離れた領域で相対的に低くなる。ED材料の析出量(堆積膜の膜厚)は、電解質層における電流密度に比例するため、電流供給源、つまり電源接続電極12p,22pに近いスイッチング領域Asの両端において光反射膜51dの膜厚は厚くなり、スイッチング領域Asの中央において光反射膜51dの膜厚は薄くなる。
【0029】
光反射膜51dの膜厚が位置により変化していると、素子面内における光学特性(光反射率)も位置により変化する。一般に、光学素子において、その光学特性は、素子面内において一様であることが好ましい。
【0030】
図2Aおよび
図2Bは、第1の実施例によるED素子101を示す平面図および断面図である。
図2Aに示すIIB-IIB断面が、
図2Bに示す断面図に対応する。
【0031】
第1の実施例によるED素子101は、基本的に、参考例によるED素子110(
図1参照)と同様の構造を有する。第1の実施例では、下側電極12の主要領域12mに、
電気的絶縁材料で形成された絶縁部材13が設けられている。
【0032】
図2Aに示すように、絶縁部材13は、電源接続電極12p,22pに沿って延在し、その延在方向と直交する方向(素子の横方向ないし幅方向)に複数並んで配置される。なお、図中において、絶縁部材13の輪郭を破線で示す。また、煩雑さを避けるため、シール枠部材の図示を省略している。
【0033】
絶縁部材13の幅は、50μm程度である。絶縁部材13は、電源接続電極12p,22pに近いスイッチング領域Asの両端で密に配置され、スイッチング領域Asの中央で疎に配置される。絶縁部材13の間隔は、最も狭いところで30μm程度であり、最も広いところで6mm程度である。
【0034】
図2Bに示すように、絶縁部材13は、ED材料を析出・堆積させない電極、ここでは下側電極12の表面に設けられる。絶縁部材13の屈折率は、電解質層51の屈折率と同等であることが望ましく、電解質層51の屈折率の±0.15の範囲内であることが好ましい。絶縁部材13には、たとえばSiO2を用いることができる。このような絶縁部材13を用いれば、絶縁部材13が配置されていることが視認されづらい。
【0035】
スイッチング領域Asにおいて、ED材料を析出・堆積させる電極、ここでは上側電極22に接続する電源接続電極22pにより近い領域を第1の領域A1と定義する。また、上側電極22に接続する電源接続電極22pから離れた領域を第2の領域A2と定義する。第1および第2の領域の中間に位置する領域を第3の領域と定義する。
【0036】
このとき、第1の領域A1に占める絶縁部材13の割合は、第3の領域A3に占める絶縁部材13の割合よりも高くなっている。また、第2の領域A2に占める絶縁部材13の割合も、第3の領域A3に占める絶縁部材13の割合よりも高くなっている。なお、第1および第2の領域A1,A2に占める絶縁部材13の割合は、ほぼ同等である。
【0037】
絶縁部材13は、電極12,22の間、ないし、電解質層51を流れる電流を抑制する。スイッチング領域Asにおいて、電流密度が相対的に高くなる領域で絶縁部材13を密に配置し、電流密度が相対的に低くなる領域で絶縁部材13を疎に配置する。これにより、電解質層における電流密度が均一化されるため、これに伴って、ED材料の堆積膜(光反射膜51d,
図1C参照)の膜厚も均一化される。
【0038】
図2Cに、堆積膜51dを設けたときの断面図を示す。堆積膜は、法線方向から見たときの絶縁部材13と重ならない領域と重なる領域とで連続的に設けられている。これは電極12の絶縁部材と重なる部分では電解質層51への電流は生じないが、絶縁部材13の周辺部の電流は電極22に向かって斜めに広がるような領域に影響するため、絶縁部材13と重なる領域についても堆積膜が生じるようになる。
【0039】
なお、絶縁部材13の幅が太すぎると、電解質層51において完全に電流が流れない領域が発現しうる。つまり、上側電極22に、ED材料の堆積膜が形成されない領域が発現しうる。このため、絶縁部材13の幅は、1mm以下にすることが好ましい。
【0040】
図3Aおよび
図3Bは、第2の実施例によるED素子102を示す平面図および断面図である。
図3Aに示すIIIB-IIIB断面が、
図3Bに示す断面図に対応する。
【0041】
第2の実施例によるED素子102は、基本的に、第1の実施例によるED素子101(
図2参照)と同様の構造を有する。第2の実施例では、下側電極を透明電極にする替わりに、一般にITOなどの透明電極よりも電気伝導度が高い金属電極14にする。これに伴って、第2の実施例では、絶縁部材13の配置(疎密のパターン)が、第1の実施例と異なっている。
【0042】
図3Aに示すように、絶縁部材13は、電源接続電極22pに近い領域で密に配置され、電源接続電極22pから離れた領域で疎に配置される。電源接続電極22pから離れるにしたがって、
領域に占める絶縁部材13の割合が徐々に低くなる。
【0043】
下側電極である金属電極14には、たとえば、光反射率が高い銀などを用いることができる。この場合、定常時(電圧無印加時)において、ED素子102は、全体として光反射状態を実現する。
【0044】
図3Bに示すように、上側電極22の表面には、装飾電極23を設けることができる。装飾電極23は、たとえばナノメートルサイズの微粒子が堆積することにより構成される。装飾電極23の表面は、微細な凹凸形状を有しており、少なくとも透明電極22の表面よりも粗くなっている。装飾電極23を構成する微粒子は、透光性および導電性を有する部材、たとえばITO等を含む。
【0045】
下側電極14の電位を基準とし、上側電極22に負の電位を印加すると、装飾電極23表面に、ED材料の堆積膜が形成される。装飾電極23の表面はナノオーダーの凹凸を有しているため、堆積膜も同様にナノオーダーの微細な凹凸を有する。微細な凹凸を有する堆積膜は、プラズモン吸収により、可視光を概ね吸収する。このとき、ED素子102(スイッチング領域As)は、光吸収状態(黒色状態)を実現する。ED素子102は、その光学状態を、光反射状態(電圧無印加時)と光吸収状態(電圧印加時)とに切り換えることができる。
【0046】
ED材料を析出・堆積させる電極22(ないし装飾電極23)の電気伝導度が相対的に低く、ED材料を析出・堆積させない電極14の電気伝導度が相対的に高いような場合、電解質層51における電流密度は、上側電極22の電流供給源(電源接続電極22p)に近い領域(第1の領域A1)で相対的に高くなり、電流供給源から遠い領域(第2の領域A2)で相対的に低くなる。
【0047】
ED素子102において、第1の領域A1に占める絶縁部材13の割合は、第3の領域A3に占める絶縁部材13の割合よりも高くなっている。また、第3の領域A3に占める絶縁部材13の割合は、第2の領域A2に占める絶縁部材13の割合よりも高くなっている。つまり、ED材料が堆積する上側電極22(装飾電極23)の電源接続電極22pから離れるにしたがって、領域に占める絶縁部材13の割合は徐々に小さくなる。
【0048】
スイッチング領域Asにおいて、電流密度が相対的に高くなる領域(第1の
領域A1)で絶縁部材13を密に配置し、電流密度が相対的に低くなる領域(第2の
領域A2)で絶縁部材13を疎に配置する。これにより、電解質層における電流密度が均一化されるため、これに伴って、ED材料の堆積膜(光反射膜51d,
図1C参照)の膜厚も均一化される。
【0049】
なお、電解質層における電流密度の分布パターンは、電極の電気伝導度やセルギャップなどに応じて変化しうる。絶縁部材の配置(疎密のパターン)は、電解質層における電流密度や堆積膜の膜厚などの測定結果、ないし、それらのコンピュータシミュレーションに基づいて、決定することが好ましいであろう。
【0050】
図3Cに、堆積膜51dを設けたときの断面図を示す。堆積膜は、法線方向から見たときの絶縁部材13と重ならない領域と重なる領域とで連続的に設けられている。これは電極14の絶縁部材と重なる部分では電解質層51への電流は生じないが、絶縁部材13の周辺部の電流は装飾電極23に向かって斜めに広がるような領域に影響するため、絶縁部材13と重なる領域についても堆積膜が生じるようになる
ためである。
【0051】
図4は、第3の実施例によるED素子103を示す平面図である。第3の実施例によるED素子103は、基本的に、第1の実施例によるED素子101(
図2参照)と同様の構造を有する。第3の実施例では、絶縁部材15の平面形状が、バー状ではなく、ドット状になっている。
【0052】
絶縁部材15の平面形状は、たとえば直径(ないし幅)が50μm程度のドット状である。絶縁部材15がこのような形状であっても、電流密度が相対的に高くなる領域において絶縁部材15を密に配置し、電流密度が相対的に低くなる領域において絶縁部材15を疎に配置することにより、ED材料の堆積膜の膜厚を均一化することができる。
【0053】
図5Aは、第4の実施例によるED素子104を示す断面図である。第4の実施例によるED素子104は、基本的に、第3の実施例によるED素子103(
図4参照)と同様の構造を有する。第4の実施例によるED素子104は、電極表面に絶縁部材を設ける替わりに、下側電極12にドット状の孔16(ないし溝)を設ける。
【0054】
絶縁部材に替えて、下側電極12に孔16を設けることでも、電解質層51における電流密度を抑制することができる。このため、電流密度が相対的に高くなる領域において孔16を密に設け、電流密度が相対的に低くなる領域において孔16を疎に設けることにより、ED材料の堆積膜の膜厚を均一化することができる。
【0055】
図5Bに、堆積膜51dを設けたときの断面図を示す。堆積膜は、法線方向から見たときの孔16と重ならない領域と重なる領域とで連続的に設けられている。これは電極12の孔16の部分では電解質層51への電流は生じないが、孔16の周辺部の電流は電極22に向かって斜めに広がるような領域に影響するため、孔16と重なる領域についても堆積膜が生じるようになる。
【0056】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。たとえば、電解質層において、ED材料を、エレクトロクロミック材料(たとえばジアセチルベンゼン等)やエレクトロケミカルルミネッセンス材料(たとえば9,10-ジフェニルアントラセン等)に置換すれば、エレクトロクロミック(EC)素子やエレクトロケミルミネッセンス(ECL)素子を製造することができる。
【0057】
図1のような絶縁部材13や
図5のような孔16のない構成の場合、EC素子やECL素子も同様に、電源接続電極付近にて反応が強く出て発色ムラ、発光ムラが生じる。このような、電解質層において電流密度の分布(バラつき)が生じうる素子において、絶縁部材や孔等の絶縁領域を疎密に設けることにより、電流密度の均一化を図ることができる。その結果、EC素子においては、素子面内における色味の均一化を図ることができ、ECL素子においては、素子面内における発光強度の均一化を図ることができる。EC素子やECL素子も同様に法線方向から見たときの絶縁部材13ないし孔16が存在する領域でも、斜め電界により発光、発色が生じるような絶縁部材13ないし孔16の大きさが選択される。
【0058】
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0059】
10…下側基板、11…下側支持基板、12…下側透明電極、13…絶縁部材(バー状)、14…金属電極、15…絶縁部材(ドット状)、16…孔、20…上側基板、21…上側支持基板、22…上側透明電極、23…装飾電極、51…電解質層(電解液)、70…シール枠部材、101…エレクトロデポジション素子(第1実施例)、102…エレクトロデポジション素子(第2実施例)、103…エレクトロデポジション素子(第3実施例)、104…エレクトロデポジション素子(第4実施例)、110…エレクトロデポジション素子(参考例)。