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特許7048223包装済食物の製造方法、及び、包装済食物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】包装済食物の製造方法、及び、包装済食物
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/144 20060101AFI20220329BHJP
   A23B 7/153 20060101ALI20220329BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20220329BHJP
   A23N 12/02 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
A23B7/144
A23B7/153
A23L19/00 A
A23N12/02 Q
A23N12/02 N
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017143350
(22)【出願日】2017-07-25
(65)【公開番号】P2019024321
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】591186176
【氏名又は名称】株式会社 ゼンショーホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】高塩 仁愛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】武井 俊憲
(72)【発明者】
【氏名】森本 昌志
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-094300(JP,A)
【文献】特開平06-245695(JP,A)
【文献】特開平06-245694(JP,A)
【文献】特開2013-243989(JP,A)
【文献】特開平9-075050(JP,A)
【文献】特開2014-147870(JP,A)
【文献】特開2008-264771(JP,A)
【文献】特開2008-306969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B
A23L
A23N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象食物を直径1μm未満の微細気泡を含む液体の噴流によって洗浄及び殺菌する洗浄工程と、
前記洗浄工程によって洗浄された前記対象食物を無菌状態で裁断加工する裁断工程と、
前記裁断工程において裁断加工された前記対象食物を無菌状態で包装する包装工程と、
を続けて行い、
前記洗浄工程は、1つの吐出口当たり洗浄槽容積に対し1秒間で0.05体積%以上、且つ、圧力0.01MPa以上で吐出された前記微細気泡を含む液体の噴流によって前記対象食物を殺菌する、包装済食物の製造方法。
【請求項2】
前記微細気泡の直径が10nm~500nmである請求項に記載の包装済食物の製造方法。
【請求項3】
前記液体中の前記微細気泡の濃度が106個/ml以上である請求項1又は請求項2に記載の包装済食物の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄工程における洗浄時間が2秒間~30分間である請求項1~請求項のいずれか一項に記載の包装済食物の製造方法。
【請求項5】
前記対象食物が、層状構造を有する野菜である請求項1~請求項のいずれか一項に記載の包装済食物の製造方法。
【請求項6】
直径1μm未満の微細気泡を含む液体の噴流によって洗浄及び殺菌された後、無菌状態で裁断加工及び包装された包装済食物であって、
1つの吐出口当たり洗浄槽容積に対し1秒間で0.05体積%以上、且つ、圧力0.01MPa以上で吐出された前記微細気泡を含む液体の噴流によって殺菌された包装済食物
【請求項7】
前記微細気泡の直径が10nm~500nmである請求項に記載の包装済食物。
【請求項8】
前記液体中の前記微細気泡の濃度が106個/ml以上である請求項6又は請求項7に記載の包装済食物。
【請求項9】
前記液体の噴流による洗浄時間が2秒間~30分間である請求項~請求項のいずれか一項に記載の包装済食物。
【請求項10】
前記対象食物が、層状構造を有する野菜である請求項~請求項のいずれか一項に記載の包装済食物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直径1μm未満の微細気泡を用いて食物を洗浄する工程を有する包装済食物の製造方法、及び、当該製造方法によって製造された包装済食物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から青果物などの食物が提供される際、当該食物は、洗浄、殺菌及び鮮度管理などの複数の工程を経た後に消費者に提供されている。また、近年では、千切りキャベツ等カットした野菜などの調理の手間を省くための製品も多く流通されている。カット野菜などの品質管理において微生物的鮮度低下については、保存温度と並んで初発菌数の低減が重要な要素の一つであると認識されている。このため、従来から食物の製造時に、例えば、次亜塩素酸、微酸性電解水、過酢酸製剤、オゾン等の殺菌作用を有する食品添加物を殺菌剤として用いて野菜等を洗浄殺菌している。これらの化学物質は最終製品に残存することは許されないので、大量の洗浄水を用いた洗浄処理が必要となる。
【0003】
このように、次亜塩素酸等による野菜等の青果物の殺菌や除菌はごく一般的に行われている。例えば、次亜塩素酸による殺菌処理によれば、カットした野菜を次亜塩素酸200ppmの水溶液に投入し、1~30分間程度浸漬し、その後無菌のチラー水で塩素が検出されなくなるまで洗浄することで、菌数を100分の一程度に減少させることができると言われている。殺菌処理に用いられる次亜塩素酸としては、次亜塩素酸水や次亜塩素酸ナトリウム等が一般に用いられている。尚、本明細書を通じて、単に「殺菌」と称した場合であっても、物理的に菌や微生物を排除する「除菌」の意味合いも含まれるものとする。
【0004】
しかし、次亜塩素酸を用いた洗浄方法については改良法も提案されている。例えば、次亜塩素酸ナトリウム等の殺菌剤水溶液を用いた千切りキャベツの製造方法としては、殺菌処理工程後にキャベツの切断部分に清水を注ぎながら千切り処理行い、その後一定時間以上水に晒す技術が開示されている(例えば、下記特許文献1参照)。当該技術によれば、十分に殺菌されキャベツのエグ味を大きく軽減できるとされている。
【0005】
一方、近年では微細な気泡を含む液体を用いた技術が注目されている。例えば、直径100μm以下の微細な気泡は「ファインバブル(登録商標)」と称されることがあり、種々の分野における利用が検討されている。ファインバブルの中でも特に直径が1μm未満のものは「ウルトラファインバブル(登録商標)」と称され、動植物の成長促進効果、水質改善効果、除菌効果、及び殺菌効果など種々の効果を奏する点で注目されている。
【0006】
このような微細な気泡を用いた食品の洗浄方法としては、次亜塩素酸ナトリウムの濃度を20~80ppmであり、微細気泡を含有する塩素気泡水を用いた食品の洗浄方法が開示されている(例えば、下記特許文献2参照)。当該技術では微細気泡水の有する除菌・殺菌効果が少ないことを理由として微細気泡水に次亜塩素酸ナトリウムを溶解し、流水洗浄させることで除菌・殺菌作用を発揮させることを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開WO2012/073840号公報
【文献】特開2017-38528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
また、作業環境の向上や食物本来の旨味を損なわないために次亜塩素酸の代替技術の開発が求められている。そこで、次亜塩素酸使用時の塩素濃度を数十ppmにまで減らしても殺菌効果のある微酸性電解水を導入する技術も増えてきている。しかし、このような技術でも共存する有機物により有効塩素が失活するため、殺菌効果を発揮させるためにはかけ流しで微酸性電解水を補給する必要がある。また、製品中には次亜塩素酸の残存が許されないため、殺菌処理後の洗浄が必須となる。
【0009】
しかし、次亜塩素酸で殺菌処理されたカット野菜は、水によって洗浄した後であっても口に入れる際に塩素臭を感じる場合が多い。例えば、蕎麦など麺類の薬味用途に用いられる棒ネギや、サラダやソテー用途に用いられるタマネギなどをカット野菜として用いる場合、不可食部位を除いたあと、裁断加工を施して殺菌剤である次亜塩素酸を、200ppm程度の水溶液に投入して殺菌する。これらは殺菌後に、冷水(チラー水)で残余の次亜塩素酸を洗浄した後に、ビニール袋に封入され、袋口を溶封して包装される。しかし、棒ネギやタマネギのような層状構造を有する野菜は切断面から侵入した塩素が層間に残留しやすく、塩素臭が残り残りやすい。
【0010】
また、棒ネギ等は次亜塩素酸水溶液とネギ内部の粘質部とが反応すると、独特の香味が著しく低下してしまう。さらに、カット野菜に次亜塩素酸で殺菌処理を施した後、塩素臭を除去する為に大量の無菌水を使用するが、この処理により更にネギの香味成分が失われる結果となる。
【0011】
一方、近年次亜塩素酸による殺菌処理にはその殺菌効果に限界があることが確認されている。これは、次亜塩素酸は有機物質に接触すると塩素が反応して遊離塩素が減少し、殺菌活性が激減するためであると推測される。
【0012】
また、微細な気泡を利用した技術も殺菌処理技術の候補として注目が高まっている。しかし、単に青果物などの食物を、微細気泡を含む液体に浸漬させたり、撹拌する程度では十分な殺菌効果を発揮できず、次亜塩素酸の代替技術とするためには未だ改良の余地がある。このように、微細気泡を用いた次亜塩素酸等化学物質代替の食物の洗浄技術に開発が求められているが、いまだ十分な効果を達成した事例はない。
【0013】
本発明は、上述の課題を解決すべく、食物の本来の香味や旨味が損なわれず除菌及び殺菌作用に優れた包装済食物の衛生的な製造方法及び当該製造方法によって製造された包装済食物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
<1> 対象食物を直径1μm未満の微細気泡を含む液体の噴流によって洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程によって洗浄された前記対象食物を無菌状態で裁断加工する裁断工程と、
前記裁断工程において裁断加工された前記対象食物を無菌状態で包装する包装工程と、
を続けて行う包装済食物の製造方法。
<2> 前記洗浄工程は、1つの吐出口当たり洗浄槽容積に対し1秒間で0.05体積%以上、且つ、圧力0.01MPa以上で吐出された前記微細気泡を含む液体で前記対象食物を洗浄する前記<1>に記載の包装済食物の製造方法。
<3> 前記微細気泡の直径が10nm~500nmである前記<1>又は<2>に記載の包装済食物の製造方法。
<4> 前記液体中の前記微細気泡の濃度が106個/ml以上である前記<1>~<3>のいずれか一つに記載の包装済食物の製造方法。
<5> 前記洗浄工程における洗浄時間が2秒間~30分間である前記<1>~<4>のいずれか一つに記載の包装済食物の製造方法。
<6> 前記対象食物が、層状構造を有する野菜である前記<1>~<5>のいずれか一つに記載の包装済食物の製造方法。
<7> 直径1μm未満の微細気泡を含む液体の噴流によって洗浄された後、無菌状態で裁断加工及び包装された包装済食物。
<8> 1つの吐出口当たり洗浄槽容積に対し1秒間で0.05体積%以上、且つ、圧力0.01MPa以上で吐出された前記微細気泡を含む液体で前記微細気泡を含む液体の噴流によって洗浄された前記<8>に記載の包装済食物。
<9> 前記微細気泡の直径が10nm~500nmである前記<7>又は<8>に記載の包装済食物。
<10> 前記液体中の前記微細気泡の濃度が106個/ml以上である前記<7>~<9>のいずれか一つに記載の包装済食物。
<11> 前記液体の噴流による洗浄時間が2秒間~30分間である前記<7>~<10>のいずれか一つに記載の包装済食物。
<12> 前記対象食物が、層状構造を有する野菜である前記<7>~<11>のいずれか一つに記載の包装済食物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、食物の本来の香味や旨味が損なわれず除菌され、その結果菌数の少ない保存性に優れた包装済食物の衛生的な製造方法及び当該製造方法によって製造された包装済食物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の内容について実施態様を用いて詳細に説明する。但し、以下の実施形態は例示であり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0017】
≪包装済食物の製造方法≫
本実施形態の包装済食物の製造方法(以下、単に「本実施形態の製造方法」と称することがある。)は、対象食物を直径1μm未満の微細気泡を含む液体の噴流によって洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程によって洗浄された前記対象食物を無菌状態で裁断加工する裁断工程と、前記裁断工程において裁断加工された前記対象食物を無菌状態で包装する包装工程と、を続けて行う。ここで、各工程を「続けて行う」とは、洗浄工程と、裁断工程と、包装工程とが、各工程の間に次亜塩素酸等を用いた除菌工程が介されることなく続けて行われることを意味する。ただし、各工程は、洗浄工程で使用する液体と共存する状態で行われてもよい。また、洗浄工程、裁断工程及び包装工程は除菌工程の以外にも極力他の工程が含まれないことが望ましいが、無菌状態が維持されることを条件として、各工程の間又は各工程自体に脱水処理、異物検出、重量チェック等を行う工程が含まれていてもよい。以下、直径1μm未満の微細な気泡を適宜「UFB」と称することがある。
【0018】
本実施形態の製造方法は衛生的な製造方法であり、次亜塩素酸等の殺菌剤を用いなくても当該洗浄によって対象食物に殺菌処理を施すことができる。さらに、本実施形態の製造方法によれば、対象食物を洗浄(殺菌)及び裁断後、続けて包装することで食物本来の香味や旨味を損なうことなく包装済食材を製造することができる。また、本実施形態の製造方法により製造された包装済食物、即ち、直径1μm未満の微細気泡を含む液体の噴流によって洗浄された後、無菌状態で裁断加工及び包装された包装済食物は、次亜塩素酸処理された食物と同等以上の除菌率を示すことができる。さらに、次亜塩素酸を用いないため、塩素臭がせず、また、次亜塩素酸との反応によって香味が損なわれることがなく、食物本来の香味や風味・旨味を有するものとなる。尚、上述のように、本明細書を通じて、単に「殺菌」と称した場合であっても、物理的に菌や微生物を排除する「除菌」の意味合いも含まれるものとする。また、本実施形態の製造方法においては、対象物に接触する器具・装置は十分洗浄されており、汚染源とならないことが必要である。
【0019】
また、本実施形態の製造方法によれば、単にUFBを含む液体に対象食物を浸漬させた場合に比して殺菌効果が高い。本実施形態における洗浄工程が対象食物に対して高い殺菌効果を発揮できる機構については明らかにされていないが、UFBを含む液体を噴流とすることで当該液体と対象食物との衝突回数が多くなり単に浸漬振盪させた場合に比して対象食物に残留する菌数を減らすことができることが一因であると推測される。更に、本実施形態の製造方法によれば、UFBの代わりに直径が1μm~100μm程度のマイクロバブルを用いた場合に比しても殺菌効果を高めることができる。
【0020】
本実施形態の製造方法は、洗浄工程、裁断工程及び包装工程の他、洗浄工程の前及び包装工程の後に他の工程を適宜含んでいてもよい。本実施形態の製造方法に含まれうる他の工程としては、例えば、予備洗浄処理などを施して対象食物を準備する準備工程等が挙げられる。また、本実施形態の製造方法は、全工程を通じて次亜塩素酸フリーで行われることが好ましい。また、洗浄工程及び裁断工程の間、並びに、裁断工程と包装工程との間において対象食物の搬送が行われる場合、当該搬送過程においても無菌状態が保たれる。なお、各工程間(各工程に用いられる装置間等)において水流を利用する搬送も可能である。当該水流を利用する搬送の際には無菌水、特にUFB含有の無菌水を用いることが安全面で好ましい。以下、洗浄工程、裁断工程及び包装工程を中心に各工程について説明する。
【0021】
(洗浄工程)
本実施形態における「洗浄工程」は、対象食物を直径1μm未満の微細気泡を含む液体の噴流によって洗浄する工程である。洗浄工程は、上述のように付着した泥やごみなどを洗い流すための予備洗浄や不食部位を除去などの準備工程を経て準備された対象食物を用いることができる。また、本実施形態の製造方法は、洗浄工程において次亜塩素酸等の殺菌剤を用いずに対象食物の洗浄及び殺菌が可能なことから、洗浄工程の後に別途殺菌剤等を除去するための工程をおこなわない。このため、大量のチラー水等を用いる必要がなく、コスト及び資源的観点からも優れている。
【0022】
-対象食物-
本実施形態における「対象食物」は液体で洗浄できる食物であれば特に限定されず、例えば、野菜や果物などの青果物に加えて、魚介類や肉類などの生鮮食品、豆腐やこんにゃくなどの加工食品等が挙げられる。特に、加熱殺菌しない調理品が好適な対象として挙げられる。本実施形態の製造方法は青果物に対して好適であり、特に棒ネギやタマネギ等の層状構造を有する野菜に好適に用いることができる。
【0023】
-微細気泡を含む液体-
本実施形態における「微細気泡」は、直径1μm未満の微細気泡であり、所謂「ウルトラファインバブル」と称されるナノオーダーの微細気泡を好適に用いることができる。微細気泡の直径が1μm以上であると、直径が1μm未満の微細気泡と比べ液体中において上昇速度が速く、水面浮上して消失しやすくなり十分な洗浄効果が得られない。この際の微細気泡の上昇速度は、以下の式(Stokes式)に従う。
上昇速度U=ρgd2/18μ
d:球形気泡の直径、g:重力加速度、ρ:液密度、μ:液粘度
本実施形態における微細粒子の直径は1μm未満であれば特に限定されるものではないが、10nm~500nmであることが好ましい。液体中のUFBの存在は、例えばレーザー光の散乱を用いることによって確認することができる。
【0024】
微細気泡の直径の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば、動的光散乱法(DLS)、粒子トラッキング解析(particle tracking analysis)、レーザー解析法、共振式質量測定法(RMM)等の公知の方法を適宜用いることができる。これら公知の方法で測定した微細気泡の平均直径を前記微細気泡の直径とみなすことができる。
【0025】
また、洗浄工程に用いられる液体中の微細気泡(UFB)の濃度は特に限定されるものではないが、洗浄殺菌効率の観点から、106個/ml以上であることが好ましく、107個/ml以上が更に好ましく、108個/ml以上が特に好ましい。当該微細気泡の濃度は、例えば、マイクロトラックベル社製のゼータビュー(登録商標)で測定することができる。
【0026】
前記UFBを含む液体は特に限定されるものではなく、一般に青果物の洗浄に用いられる脱イオン水、飲用可の井水や水道水などを用いることができる。またこれに限らず、エタノール、酢酸、有機酸等の水溶液を用いることもできる。また、当該液体は単一の液体であってもよいし、混合液体であってもよい。ここで、本実施形態の製造方法においては、次亜塩素酸を用いることなく対象食物の洗浄を行うことを目的としている。このため、前記液体は、食品衛生法等の観点から、次亜塩素酸ナトリウム等に起因する液体中の塩素濃度が20ppm未満であることが好ましく、1ppm以下であることが更に好ましい。前記液体中の塩素濃度は、高速液体クロマトグラフィー等の公知の方法で測定することができる。
【0027】
本実施形態において微細気泡(UFB)の発生手法は特に限定されることなく公知の手法を用いることができる。前記公知の手法としては、例えば、液体に気体を混合し、当該液体に高いせん断力等を付与することでUFBを発生させる手法を挙げることができる。より具体的には、気体を混合した液体をポンプで複雑な流体経路を有するミキサー等に送液し、液体中の気泡にせん断力を加えることで気泡を微細化することができる。また、用いられる装置によっても異なるが、例えば、気泡の微細化工程を数回繰り返すことで理想的な微細気泡を発生させることができる。液体に混合される気体は特に限定されるものではないが、例えば、空気、炭酸ガス、窒素ガス、オゾンガス等を用いることができ、炭酸ガス、空気、窒素ガスは規制対象とならない点で好ましい。またこれらのガスは単独ガスだけでなく混合ガスを用いることもできる。UFBの発生装置としては市販されている超高密度ウルトラファインバブル発生装置等を用いることができる。
【0028】
-噴流-
本実施形態における洗浄工程においては、UFBを含む液体(以下、「UFB水」と称することもある)の噴流を用いる。ここで、「噴流」とは、速度を持った流体が圧力をかけて吐出口から空間中にほぼ一方向の流れとなって噴出する現象である。前記洗浄工程では、UFBを含む洗浄用水を除菌洗浄対象である対象食物を含む洗浄槽に一定時間噴射して洗浄対象(対象食物)と混合させる。洗浄工程における洗浄条件は洗浄槽の形状、サイズ、噴出孔の数や位置、洗浄対象である対象食物(青果等)のサイズや比重などを考慮して決定することができる。一方、噴流の強度の範囲は対象の青果が沈降するあるいは浮いたままの状態よりも強く、青果が噴流によって傷つくより弱い、という必要がある。このような観点から、前記洗浄工程において「微細気泡を含む液体の噴流によって洗浄する」とは、1つの吐出口当たり洗浄槽容積に対し1秒間で0.05体積%以上、且つ、圧力0.01MPa以上で吐出された微細気泡を含む液体で対象食物を洗浄することを意味する。
本明細書を通じて、吐出口から微細気泡を含む液体を吐出するため圧力を「吐出圧力」(単位:Pa)と称する。また、1つの吐出口から1秒間洗浄槽容積に吐出される洗浄槽容器の容積に対する微細気泡を含む液体の量の比を「吐出量」(単位:体積%)と称する。
UFBを含む液体の吐出圧力が0.01MPa未満又は1秒間の吐出量が0.05体積%未満のUFB水量で洗浄した場合、菌体が潜んでいる対象食物の表面構造内にUFBが十分に侵入できず、殺菌効果を十分に発揮することができない。前記吐出圧力としては、対象食物の鮮度(ダメージの受け具合)と洗浄及び殺菌作用とのバランス、並びに工場稼働エネルギーの観点から、0.01~0.10MPaであることが好ましく、0.01~0.05MPaであることが更に好ましい。また、前記吐出量は、対象食物の鮮度(ダメージの受け具合)と洗浄及び殺菌作用とのバランス、並びに工場稼働エネルギーの観点から調整される。当該吐出量として、経験的には、洗浄槽容積の0.05体積%~50.00体積%であることが好ましく、0.05体積%~5.00体積%であることが更に好ましい。
【0029】
-洗浄条件-
本実施形態における洗浄工程においては、UFBを含む液体の噴流を用いれば特に他の洗浄条件に限定はないが、例えば、液体の噴流による洗浄時間は、対象食物の鮮度(ダメージの受け具合)と洗浄及び殺菌作用とのバランス、及び工程の稼働効率の観点から、2秒間~30分間であることが好ましく、10秒間~5分間であることが更に好ましい。特に本実施形態の製造方法によれば、噴流を用いるため浸漬振盪する場合に比して短い洗浄時間で、洗浄効果及び殺菌効果を奏することができる。また、洗浄時における液体の温度についても特に限定はないが、殺菌効果と対象食物の鮮度維持との観点から、2~25℃であることが好ましく、5~15℃であることが更に好ましい。
【0030】
本実形態において洗浄槽容器の構成(洗浄槽の容積、噴出口の設置数、設置角度、孔径等)については特に限定なく、目的に応じて適宜選定することができる。洗浄工程におけるUFBを含む液体の流れの方向は一方向であってもよいし、複数方向で液体が衝突するような方式であってもよく、更に、連続式、バッチ方式のいずれであってもよい。また、洗浄工程に用いられる洗浄槽は解放式及び密閉式いずれの方式であってもよく、目的(対象食物の種類や量等)に応じて適宜サイズを決定することができる。また、洗浄槽は、UFBを洗浄に用いられる水槽と同一槽内で発生させるような構成としそれを循環させるような機構であってもよいし、別の装置で発生させたUFBを含む液体を洗浄槽内に吐出するような機構のいずれであってもよい。また、前記洗浄槽はUFBを含む液体に超音波照射を施すことができる機構を有していてもよい。
【0031】
本実施形態において殺菌の対象となる菌としては、例えば、土壌由来の雑菌や野菜に付着してその鮮度を低下させるような菌を始め、大腸菌、サルモネラ菌、ブドウ球菌等が挙げられる。
【0032】
なお、上述の洗浄工程は以下に説明する裁断工程前に行うことが重要である。出願人による研究結果として、野菜中に含まれる菌の多くは野菜表面に存在しその内部と比較すると約100倍の違いがある知見が得られている。そのため、裁断工程前の表面洗浄が野菜を含む食物の除菌に極めて有効である。
【0033】
(裁断工程)
本実施形態における裁断工程は、洗浄工程によって洗浄された前記対象食物を無菌状態で裁断加工する工程である。本実施形態の製造方法は、洗浄工程に続けて無菌状態にて裁断工程を行うことで、洗浄工程おいて施された殺菌効果を維持したまま対象食物を裁断することができる。
【0034】
「無菌状態」とは、対象食品に応じて通常求められる程度の実用上の無菌状態を意味し完全な無菌状態である必要はなく、設定した賞味期限内に微生物的に安全な製品を製造できる状態(環境)を示す。例えば、「無菌状態」としては、一般的な規格として、環境中の一般生菌数では5CFU/cm2以下、大腸菌群が陰性となる条件を採用することができる(参考文献: BC Centre for Disease Control. Environmental hygiene monitoring: A guide for Environmental Health Officers,BC Centre for Disease Control,2010年10月5日[平成29年7月12日検索]、インターネット〈http://www.bccdc.ca/NR/rdonlyres/EF1461BE-0301-4A59-8843-420072412721/0/EnvMonitoringHygieneGuideforEHOs.pdf〉。
具体的には、特に限定されるものではないが、例えば、各工程(少なくとも裁断工程及び包装工程)を本実施形態における“無菌状態”で実施するためには、少なくとも対象食品と接する可能性がある装置及びその周辺の環境が、環境中の一般生菌数が5CFU/cm2以下、大腸菌群が陰性となる状態を基準とすることができる。
また、無菌上の対象としては、上述の殺菌の対象となる菌が挙げられる。前記無菌状態は、例えば、裁断加工に用いられる装置及び当該装置が設置される部屋の床や壁や他の設置物、或いは、裁断加工を行う人等に対して、前記殺菌の対象となる菌の除菌処理を施すことで達成することができる。また、無菌状態を維持するために、クリーンベンチやクリーンルームを利用してもよい。無菌状態における裁断加工は、クリーンベンチ内でヒトの手を介して行ってよく、また、工業用ロボット等を用いて自動的に行うものであってよい。
尚、無菌状態の確保は、消費者の口に入る製品やその原料が次亜塩素等の化学物質に触れないことを前提として、設備や施設を殺菌することによって行うことが好ましい。即ち、設備施設の殺菌剤としては次亜塩素でも可能であり、複数の殺菌処理を組み合わせることが好ましい。
【0035】
裁断加工における裁断(カット)は、無菌状態が保たれることを条件とする以外特に限定はなく、対象食物に応じて通常用いられる手法を適宜選定することができる。裁断の手法としては、例えば、青果物の場合には、輪切り、斜め切り、短冊切り、みじん切り、さいの目切り、ペースト加工等種々の手法が挙げられる。また、裁断加工に用いられる装置も対象食物等に応じて適宜選定することができる。
また、裁断加工時における加工条件も特に限定はないが、例えば、炭酸ガス雰囲気下で、湿度(RH)50%~90%程度、温度1℃~15℃程度(好ましくは、2℃~5℃)で実施することが好ましい。
【0036】
また、裁断工程の前後において無菌状態で行うことを条件に、脱水処理を行ってもよい。脱水処理は洗浄工程において洗浄された対象食物から液体を除去するための工程である。脱水処理においては、例えば、遠心脱水等の手段を用いることができる。なお、洗浄工程から脱水処理に移送する等の際に水流を用いる場合には、UFB水の利用が、化学薬剤の利用と異なり薬剤が除去できたかどうかの確認が必要ない点で好ましい。
【0037】
(包装工程)
本実施形態における包装工程は、裁断工程において裁断加工された前記対象食物を無菌状態で包装する工程である。本実施形態の製造方法は、洗浄工程による殺菌効果を維持したまま対象食物を包装するため、裁断後カット野菜の切断面に次亜塩素酸等の殺菌剤やこれを除去するための大量の水等が接触することがなく、対象食物の本来の香味や旨味等を維持することができる。前記無菌状態は、上述の裁断工程におけるものと同義であるが、上述の定義に当てはまるものであれば、裁断工程と異なる条件であってもよい。
【0038】
包装工程における対象食物の包装は、無菌状態が保たれることを条件とする以外特に限定はなく、公知の手法を適宜採用することができる。例えば、窒素ガス等の不活性ガスを充填させた袋や包装材で密封する手法等を採用することができるが、包装後においても一定期間滅菌状態を確保できるような手段を採用することが好ましい。このような手段としては、塩化ビニリデン樹脂製やポリ塩化ビニル樹脂製等の食品包装用ラップを用い、適当な量をトレーに格納しラップフィルムでパックする方法や、真空パック、無菌化包装及び脱酸素剤を用いる方法などが挙げられる。
【0039】
また、包装時における諸条件も特に限定はないが、例えば、炭酸ガス雰囲気下で、湿度(RH)50%~90%程度、温度1℃~15℃程度(好ましくは、2℃~5℃)で実施することが好ましい。
【0040】
以上、本発明の製造方法及びこれにより得られた包装済食物について詳細な実施形態を持って説明したが、本発明の構成は上述の実施形態に限定されるものではない。
【実施例
【0041】
[実施例1]
(準備工程)
まず、根部(例えば3cm幅)で裁断除菌した後、水道水で青ネギを洗浄し、表面の土などの不純物を除去した後、遠心分離により脱水した(予備洗浄)。次いで、葉側を切り落として10cmの長さとし(トリミング)、対象食物とした。
【0042】
(洗浄工程)
一般生菌数が105CFU/g以下、大腸菌群が陰性となる製品(本実施例においてはカット青ネギ)を調整できる水準の無菌状態のクリーンルーム内にて、得られた青ネギ(対象食物)0.5kgを10Lの水槽に移し、水道水中にウルトラファインバブルで充満されたウルトラファインバブル水(以下、「UFB水」と称する)の噴流にて5分間、15℃の水温下で洗浄・殺菌処理を行った。UFB水は(株)ナノクス製の装置(装置名:ナノフレッシャー(登録商標))を用いた。具体的には、水道水200Lをナノフレッシャーによって室温・2時間の条件で炭酸ガス(CO2)によって通気処理を行い、気泡の直径が10~500nm及び濃度が108個/ml以上となるようにUFBを生成した(UFBの濃度についてはマイクロトラックベル社製のゼータビュー(登録商標)で測定)。噴流は、圧力0.01~0.05MPa、吐出量0.1~0.5L/sの条件下で行った。
【0043】
(裁断工程・包装工程)
洗浄工程に続き、クリーンルーム内で、洗浄された対象食物を無菌状態で1mmの厚さで輪切りにし、商品形態とした(裁断工程)。また、対象商品は輪切りにした後脱水処理(水切り)を行った。同様に、裁断工程に続き、クリーンルーム内で、裁断された対象食物を無菌状態で食品包装用に封入し(包装工程)、包装済食物を製造した。
【0044】
[比較例1]
洗浄工程において、UFBを含む水道水に5分間対象食物を浸漬し予洗(“予洗”とは裁断前の洗浄のことを意味する。以下同じ)した以外は実施例1と同様にして、包装済食物を製造した。浸漬は試料を沈降装置させて行った。
【0045】
[比較例2]
予洗を行わず上述の裁断工程を経て調整したカット青ネギを水道水に次亜塩素酸ナトリウムを加え塩素濃度が200ppmになるように調整し、当該水道水の噴流によって対象食物を洗浄し、その後大量の水道水で濯いだ以外は実施例1と同様にして、包装済食物を製造した。噴流・洗浄の条件(時間、水温、圧力及び吐出量)は実施例1と同様とした。なお、使用した水道水の塩素濃度は1ppm以下であった。
[比較例3]
予洗を行わず上述の裁断工程を経て調整したカット青ネギを水道水の噴流によって対象食物を洗浄した以外は実施例1と同様にして、包装済食物を製造した。噴流・洗浄の条件(時間、水温、圧力及び吐出量)は実施例1と同様とした。なお、使用した水道水の塩素濃度は1ppm以下であった。
【0046】
[比較例4]
予洗を行わず上述の裁断工程を経て調整したカット青ネギを水道水に5分間対象食物を浸漬させた以外は実施例1と同様にして、包装済食物を製造した。浸漬は試料を沈降装置させて行った。なお、使用した水道水の塩素濃度は1ppm以下であった。
【0047】
[洗浄殺菌の効果(洗浄殺菌効果)評価]
各実施例及び比較例において製造した包装済食物(青ネギ)を5℃以下で保存した。
各操作について一般的な微生物実験の手順に従い、保存したサンプルを用いて菌数検査を行った。菌数検査は保存したサンプル10gに対し90mlのリン酸バッファー(pH7.0)とストマッカーとを用いて1分間処理して菌を抽出し、10倍段階希釈の後、これをプレートに1ml塗布し48時間培養した後、一般細菌と大腸菌群とのCFU/gを測定した。当該測定値に基づき、洗浄殺菌の前後での菌数を求め残菌率を算出した。なお、「残菌率」とは未処理のサンプルを100%とした時の一般生菌数の減少割合を示す。
【0048】
[香味・旨味評価]
各実施例及び比較例において製造された包装済食物を開封し、青ネギを実食して下記基準に従い香味及び旨味を評価した。評価は、製造に携わる10名をパネルとして、サンプルをブラインドで供試することにより行った。各評価結果としては、前記10名のパネル中6名以上が一致したものを示している。
A:青ネギ本来の香味及び旨味が感じられた。
B:青ネギ本来のものには至らないものの、十分に香味及び旨味が感じられた。
C:青ネギの香味及び旨味が損なわれていた。
【0049】
各実施例及び比較例における諸条件及び評価結果を下記表に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1の結果から明らかなように、残菌率で比較すると、UFBの噴流によって対象食物を洗浄した実施例1の製造方法は、除菌率(残菌率)が良好であり、更に、香味及び旨味も損なわれていなかった。一方、次亜塩素酸Naを使用した比較例2においては、除菌率は良好であるものの実食時にエグ味がつき、香味及び旨味が失われていた。また、比較例1,3及び4では、香味及び旨味は損なわれていなかったが除菌率が十分ではなかった。