(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】躯体のひび割れの補修方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220329BHJP
B29C 73/04 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
E04G23/02 B
B29C73/04
(21)【出願番号】P 2017179812
(22)【出願日】2017-09-20
【審査請求日】2020-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2017043447
(32)【優先日】2017-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博次
(72)【発明者】
【氏名】竹崎 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】野口 勝俊
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-075522(JP,A)
【文献】特開2017-193952(JP,A)
【文献】特開2005-163385(JP,A)
【文献】特開2007-009672(JP,A)
【文献】特開平09-184305(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0215271(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
B29C 73/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体のひび割れ上に、該躯体のひび割れを被覆する一液湿気硬化型樹脂層と、
目付量が20~80g/m
2
である不織布とをこの順に積層することを特徴とする、躯体のひび割れの補修方法。
【請求項2】
(1)一液湿気硬化型樹脂組成物により、前記躯体のひび割れを被覆して前記一液湿気硬化型樹脂層を形成する工程1、及び、
(2)前記一液湿気硬化型樹脂層の、前記躯体のひび割れ側の面とは反対側の面に、前記不織布を積層する工程2を含む、
請求項1に記載の躯体のひび割れの補修方法。
【請求項3】
水溶性層、前記一液湿気硬化型樹脂層、及び前記不織布がこの順に積層された補修用接着剤シートの、前記水溶性層側の面により躯体のひび割れを被覆する、請求項1に記載の躯体のひび割れの補修方法。
【請求項4】
前記不織布は、ガラス繊維製不織布である、請求項1~3の何れか1項に記載の躯体のひび割れの補修方法。
【請求項5】
前記一液湿気硬化型樹脂層を形成する一液湿気硬化型樹脂組成物の粘度が50~1000Pa・sである、請求項1~
4の何れか1項に記載の躯体のひび割れの補修方法。
【請求項6】
前記一液湿気硬化型樹脂層を形成する一液湿気硬化型樹脂組成物のチクソインデックスが3.0~10.0である、請求項1~
5の何れか1項に記載の躯体のひび割れの補修方法。
【請求項7】
前記一液湿気硬化型樹脂層の破断時伸びが50%以上である、請求項1~
6の何れか1項に記載の躯体のひび割れの補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、躯体のひび割れの補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、主にコンクリートにより形成される躯体は、高架橋やトンネル、港湾設備、ビル、道路、鉄道レール下に設けられるスラブ軌道などの多くの建築物に利用されている。
【0003】
しかし使用に伴い、荷重や天候などの種々の要因により躯体にひび割れが一定数発生することは不可避であり、躯体の用途によっては、そのひび割れを補修することが不可欠である。
【0004】
そもそも、コンクリートは一見して硬質な素材であるが、温度変化に応じて膨張や収縮を起こし、また一定の可撓性をも有していることから、躯体の構造に応じて、過大な負荷が断続的にかかる箇所があり、ひび割れが発生しやすくなる。躯体においてひび割れの発生するような箇所は、元来過大な負荷がかかっているような箇所であると考えられ、補修を行っても、その補修箇所が容易に再破断することもしばしばである。
【0005】
特に高架橋やスラブ軌道等を構成する躯体には、大きな負荷が断続的にかかるため、これに伴う躯体の破断は不可避である。そこで、破断により発生したひび割れを、容易に再破断しない方法により補修する方法を確立することは急務である。
【0006】
非特許文献1には、躯体のひび割れを補修する方法として、各種の方法が開示されているが、これらの方法でも、依然として十分な強度を有しているとは言い難く、より強度が高く、再破断のおそれの少ない補修方法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】公益社団法人日本コンクリート工学会 コンクリートのひび割れ調査、補修・補強指針-2013- 6.3補修工法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、補修箇所の再破断の発生を抑制することのできる、躯体のひび割れの補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、躯体のひび割れを被覆する樹脂層を設けた上に、更に多孔質基材の層を設けることで、補修個所の再破断が起きにくいことを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下の躯体のひび割れの補修方法を提供する。
項1.
躯体のひび割れ上に、該躯体のひび割れを被覆する一液湿気硬化型樹脂層と、多孔質基材層とをこの順に積層することを特徴とする、躯体のひび割れの補修方法。
項2.
(1)一液湿気硬化型樹脂組成物により、前記躯体のひび割れを被覆して前記一液湿気硬化型樹脂層を形成する工程1、及び、
(2)前記一液湿気硬化型樹脂層の、前記躯体のひび割れ側の面とは反対側の面に、前記多孔質基材層を積層する工程2を含む、
項1に記載の躯体のひび割れの補修方法。
項3.
水溶性層、前記一液湿気硬化型樹脂層、及び前記多孔質基材層がこの順に積層された補修用接着剤シートの、前記水溶性層側の面により躯体のひび割れを被覆する、項1に記載の躯体のひび割れの補修方法。
項4.
前記多孔質基材層は不織布である、項1~3の何れかに記載の躯体のひび割れの補修方法。
項5.
前記不織布は、ガラス繊維製不織布である、項4に記載の躯体のひび割れの補修方法。
項6.
前記多孔質基材層の目付量は20~80g/m2である、項1~5の何れかに記載の躯体のひび割れの補修方法。
項7.
前記一液湿気硬化型樹脂層を形成する一液湿気硬化型樹脂組成物の粘度が50~1000Pa・sである、項1~6の何れかに記載の躯体のひび割れの補修方法。
項8.
前記一液湿気硬化型樹脂層を形成する一液湿気硬化型樹脂組成物のチクソインデックスが3.0~10.0である、項1~7の何れかに記載の躯体のひび割れの補修方法。
項9.
前記一液湿気硬化型樹脂層の破断時伸びが50%以上である、項1~8の何れかに記載の躯体のひび割れの補修方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る躯体のひび割れの補修方法によれば、補修箇所の再破断の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の具体的な実施形態を説明する、躯体断面の模式図である。
【
図2】本発明のその他の実施形態を説明する、躯体断面の模式図である。
【
図3】実施例及び比較例に使用した試験片の説明図である。
【
図4】実施例9における接着剤シートの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る躯体のひび割れの補修方法は、躯体のひび割れ上に、該躯体のひび割れを被覆する一液湿気硬化型樹脂組成物と、多孔質基材層とをこの順に積層することを特徴とする。
【0014】
以下、
図1をもとに本発明に係る躯体のひび割れの補修方法について説明する。
【0015】
躯体
図1は、ひび割れの発生した躯体断面の模式図である。本発明の補修対象であるひび割れ110が発生する躯体100は、実質的にコンクリートにより構成される。具体的には、本明細書において躯体100は、高架橋やトンネル、港湾設備、ビル、道路、スラブ軌道などを構成するコンクリート構造物を意味する。
【0016】
ひび割れ
ひび割れ110の幅や深さ、長さについては特に限定はなく、躯体100上に発生する種々の形状やサイズのひび割れに対して補修を行うことが可能である。
【0017】
一液湿気硬化型樹脂層
躯体100のひび割れ110上に、該ひび割れを被覆するように一液湿気硬化型樹脂層210を設ける。本明細書において一液湿気硬化型樹脂層210は、一液湿気硬化型樹脂組成物が硬化することにより形成される層を意味する。
【0018】
一液湿気硬化型樹脂組成物としては、一液型(二液型のように、混合作業を行わなくてよい)で、湿気により硬化する樹脂組成物として公知のものを、広く採用することができる。一液型であるために、使用前の混合作業を省略し、作業を簡略化することができるとともに、一液型であるがゆえに樹脂組成物の均一性が良好であり、硬化不良が起こりにくく、優れた接着性を容易に得ることができる。
【0019】
また、一液湿気硬化型樹脂組成物は湿気硬化型であるため、湿潤環境が硬化に優位に働く。例えば、補修作業前に補修部位に散水したり、ひび割れからの漏水が発生していたりすることにより、容易に硬化し、高い接着力を発揮することができる。
【0020】
かかる一液湿気硬化型樹脂組成物の粘度は、作業時に一液湿気硬化型樹脂組成物をひび割れから垂れにくくするために、50Pa・s以上とすることが好ましく、100Pa・s以上とすることがより好ましい。また、一液湿気硬化型樹脂層を塗布などにより設けやすくするために、1000Pa・s以下の粘度とすることが好ましく、700Pa・s以下とすることがより好ましい。尚、かかる粘度は、JIS Z 8803に準拠して単一円筒形粘度計としてB型粘度計を用い、No.7ローター、23℃で測定した値である。
【0021】
使用する一液湿気硬化型樹脂組成物のチクソインデックスは、良好な作業性を維持するために、3.0以上とすることが好ましく、3.5以上とすることがより好ましく、5.0以上とすることがさらに好ましい。また同様の理由から、チクソインデックスの上限値に関しては、10.0以下であることが好ましく、8.0以下であることがより好ましく、7.0以下であることがさらに好ましい。
【0022】
本発明においてチクソインデックスは、23℃の温度条件下で、B型粘度計を用い、No.7ローターの1rpmの条件下で測定した粘度を、前記B型粘度計を用い、前記No.7ローターの10rpmの条件下で測定した粘度で除した値として得られるものを意味する。
【0023】
かかる一液湿気硬化型樹脂組成物を実質的に構成する樹脂としては、変性シリコーン樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂及びポリサルファイド樹脂からなる群から選ばれる1種以上を挙げることができる。これらの中でも、変性シリコーン樹脂が、湿潤状態のコンクリートに対しても高い接着力を有するという点で好ましい。
【0024】
変性シリコーン樹脂としては、公知の変性シリコーン樹脂であれば特に限定はない。変性シリコーン樹脂の中でも、加水分解性ケイ素基を有する変性シリコーン樹脂が好ましい。加水分解性ケイ素基を有する変性シリコーン樹脂は、ポリエーテル系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーおよびアクリル系ポリマーからなる群から選ばれるポリマーを主鎖(加水分解性ケイ素基を除く部分)とする。したがって、主鎖は、アルキレンオキサイド成分、オレフィン成分およびアクリル成分からなる群から選ばれるモノマーの重合体であってよく、この重合体は、単独重合体および共重合体を問わない。共重合体である場合、共重合成分としては、アルキレンオキサイド成分、オレフィン成分、アクリル成分、および他のビニル成分からなる群から選ばれてよい。
【0025】
アルキレンオキサイド成分としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどが挙げられる。主鎖は、硬化後の伸びおよび粘性的な取り扱い易さの観点から、主としてプロピレンオキサイド単位から構成されるポリプロピレンオキサイドが好ましい。
【0026】
オレフィン成分としては、イソブチレンが挙げられる。
【0027】
アクリル成分としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-3-メチルブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル2-ヒドロキシエチルフタル酸、2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル2-ヒドロキシプロピルフタル酸などが挙げられる。なお、アクリル系ポリマーが、他のビニルモノマー成分が共重合されたものである場合、加水分解性ケイ素基を有するビニルモノマー成分を共重合することにより加水分解性ケイ素基を導入することができる。
【0028】
主鎖がアクリル単位を含んでいることは、耐候性が良好となる点で好ましい。さらに、耐候性を考慮し、主鎖中のアクリル単位の含有量は、変性シリコーン樹脂中に5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0029】
加水分解性ケイ素基としては特に限定はなく、具体的には、ハロゲン化シリル基、アルケニルオキシシリル基、アシロキシシリル基、アミノシリル基、アミノオキシシリル基、オキシムシリル基、アミドシリル基、アルコキシシリル基などが挙げられる。ここで、加水分解性ケイ素基におけるケイ素原子に結合した加水分解性基の数は1以上3以下が好ましい。また、1つのケイ素原子に結合した加水分解性基は1種であってもよく、複数種であってもよい。更に、加水分解性基と非加水分解性基とが1つのケイ素原子に結合していてもよい。加水分解性ケイ素基としては、安定性に優れ、取り扱いが容易である点で、モノアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基、トリアルコキシシリル基などのアルコキシシリル基が好ましい。
【0030】
変性シリコーン樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0031】
加水分解性ケイ素基を有する変成シリコーン樹脂の数平均分子量は、樹脂組成物の硬化時間を短縮し、硬化後の接着強度を高めるという観点から、500以上であることが好ましく、1,000以上であることがより好ましく、4,000以上であることがさらに好ましい。また、取扱性の良好な粘度の一液湿気硬化型樹脂組成物を得るという観点から、加水分解性ケイ素基を有する変成シリコーン樹脂の数平均分子量は500,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることがさらに好ましい。
【0032】
シリコーン樹脂は、オルガノハロゲンシランもしくはオルガノアルコキシシランを加水分解し縮重合し、分子末端がシラノール又はアルコキシシリルで封鎖されたものであればよく、特に限定を受けない。例えば、ジメチルシリコーン、ジメチルシリコーンのジフェニル誘導体、ジメチルシリコーンのメチルフェニル誘導体、ジメチルシリコーンのメチルトリフルオロプロピル誘導体、ジメチルシリコーンのテトラクロロフェニル誘導体などから導かれる主鎖を有するシリコーン樹脂が挙げられる。
【0033】
例えば、ジメチルシリコーン、ジメチルシリコーンのジフェニル誘導体、ジメチルシリコーンのメチルフェニル誘導体、ジメチルシリコーンのメチルトリフルオロプロピル誘導体、ジメチルシリコーンのテトラクロロフェニル誘導体などから導かれる主鎖を有するシリコーン樹脂が挙げられる。
【0034】
ポリウレタン樹脂としては、一液型シーラント材として公知のポリウレタンを広く用いることができ、特に限定を受けないが、ウレタンプレポリマーとして公知の液状のものが挙げられ、イソシアネートを0.5%以上5%以下程度含有するウレタンプレポリマーが挙げられる。このようなポリウレタンは、通常、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物から製造される。
【0035】
ポリオールとしては、通常のポリウレタン樹脂の製造に用いられるものを使用することができ、具体的には、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシブチレングリコールなどのポリエーテル系ポリオール、ポリプロピレンポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオールなどのポリオレフィン系ポリオール、アジペート系ポリオール、ラクトン系ポリオール、ヒマシ油などのポリエステル系ポリオールなどが挙げられる。これらの化合物を2種以上併用してもよい。
【0036】
ポリイソシアネート化合物としては、通常のポリウレタン樹脂の製造に用いられるものを使用することができ、具体的には、パラフェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、4、4’ージフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタデシルジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネート;イソホロンジイソシアネートなどの脂環式イソシアネート;キシレンジイソシアネートなどのアリール脂肪族イソシアネート;上記各イソシアネートの変性イソシアネート、または多価アルコール類と上述のジイソシアネート化合物との反応生成物であるトリイソシアネートなどが挙げられる。これらの化合物を2種以上併用してもよい。ポリウレタンは、上述のポリオールとポリイソシアネート化合物とから、通常のポリウレタン製造方法に準じて製造することができる。
【0037】
ポリサルファイド樹脂としては、特に限定を受けないが、たとえばHS-(R-Sm)n-SHで表される重合体を用いることができる。式中、mの平均値は1.5以上2以下であってよく、nは2以上45以下であってよい。Rとしては2価の脂肪族基などが挙げられ、脂肪族基の炭素原子間には酸素原子が介在していてもよい。Rの具体例としては、-C2H4-、-C3H6-、-C4H8-、-C2H4OC2H4-、-C3H6OC3H6-、-C4H8OC4H8-、-C2H4OCH2OC2H4-、-C3H6OCH2OC3H6-、-C4H8OCH2OC4H8-などの2価の基が挙げられる。また芳香族ポリサルファイド、さらには末端にメルカプト基を有し、主鎖に主としてポリエーテルウレタン結合を有する変性ポリサルファイドを挙げることもできる。このようなポリサルファイドとして、具体的には、チオコールLPシリーズ(東レチオコール社製)として上市されているポリサルファイドが挙げられる。
【0038】
一液湿気硬化型樹脂組成物に、さらに硬化剤や縮合触媒、エポキシ樹脂を含有させるのも好ましい。またさらに必要に応じて、他の添加剤を含ませてもよい。かかる他の添加剤としては、脱水剤、エポキシシランカップリング剤、酸化防止剤、充填材、可塑剤、タレ防止剤、紫外線吸収剤、顔料、溶剤、及び香料などが挙げられる。
【0039】
一液湿気硬化型樹脂組成物中に硬化剤を併用する場合には、上記した一液湿気硬化型樹脂組成物を実質的に構成する樹脂の硬化目的に使用される公知の硬化剤を、広く採用することが可能であり、特に限定はない。
【0040】
一液湿気硬化型樹脂組成物を短時間で硬化させるために、一液湿気硬化型樹脂組成物中に、縮合触媒を含有させてもよい。特に一液湿気硬化型樹脂組成物を実質的に構成する樹脂として変性シリコーン樹脂を採用する場合には、シラノール縮合触媒を使用するのが好適である。かかるシラノール縮合触媒としては、公知のシラノール縮合触媒を広く採用することが可能であり特に限定はない。具体的には、ポリ(ジアルキルスタノキサン)ジシリケート化合物、モノアルキル錫エステルおよびジアルキル錫エステルなどの錫触媒、有機チタネートなどが挙げられる。
【0041】
モノアルキル錫エステルとしては、例えば、ブチルスズトリス(2-エチルヘキサノエート)などが挙げられ、ジアルキル錫エステルとしては、例えば、ジブチル錫アセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジオレート、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫ジフェノキシド、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジブチル錫アセトアセテート、オクタン酸第一錫などが挙げられる。
【0042】
有機チタネートとしては、例えば、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラ(2-エチルヘキシルチタネート)トリエタノールアミンチタネートなどのチタンアルコキシド類、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンエチルアセトアセテート、オクチレングリコレートなどのチタンキレート類などが挙げられる。
【0043】
シラノール縮合触媒は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。樹脂組成物中のシラノール縮合触媒の含有量は、変性シリコーン樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下とするのが好ましく、1質量部以上5質量部以下とするのがより好ましい。上記下限値以上であることは、硬化時間の短縮の点で好ましい。上記上限値以下であることは接着強度などの物性を担保する点で好ましい。
【0044】
エポキシ樹脂としては特に限定されず、エポキシ基を有する樹脂であればよい。具体的には、不飽和の脂肪族化合物、脂環式化合物、芳香族化合物、および複素環式化合物からなる群から選ばれる化合物にグリシジル基が結合したものが挙げられる。中性化抑制効果の観点からは、芳香族化合物を含むものであることが好ましい。
【0045】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型およびこれらの水添化物などのビスフェノール型エポキシ樹脂;ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フタル酸ジグリシジルエステル型エポキシ樹脂などのエステル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型およびクレゾールノボラック型などのノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂およびこれらの水添化物;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂などのトリスフェノール型の多官能エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート型、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型、テトラグリシジルメタキシレンジアミン型、ヒダントイン型などの含窒素環型多官能エポキシ樹脂;ナフタレン型などの縮環型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;エーテルエステル型エポキシ樹脂;3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどの脂環式構造を有するエポキシ樹脂;ウレタン型エポキシ樹脂;ポリブタジエンおよびアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのゴム骨格を有するゴム変成エポキシ樹脂などを用いることができる。エポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
樹脂組成物中のエポキシ樹脂の含有量は、一液湿気硬化型樹脂層の接着層の良好な靭性、およびコンクリートとの特に湿潤状態における良好な接着強度を得るという観点から、一液湿気硬化型樹脂組成物を実質的に構成する樹脂100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましい。また一液湿気硬化型樹脂層の良好な弾性を確保し、躯体に発生したひび割れからの漏水を長期にわたって防止するという観点から、一液湿気硬化型樹脂組成物を実質的に構成する樹脂100質量部に対し、エポキシ樹脂の含有量は100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましい。
【0047】
一液湿気硬化型樹脂層210は、ひび割れ110によって発生した隙間を埋めた上で、その埋められたひび割れ上に設けるとよい。しかし必ずしもひび割れによって発生した隙間を完全に埋める必要はなく、少なくとも、一液湿気硬化型樹脂層210が、ひび割れ110を被覆するように設けられればよい。
【0048】
一液湿気硬化型樹脂層210は、ひび割れ110の横方向(幅方向)については、確実な接着性を確保するという観点から、ひび割れの左右共に10mm以上ひび割れ箇所を越えて被覆するように設けるのが好ましく、20mm以上被覆するように設けるのがより好ましい。
【0049】
一液湿気硬化型樹脂層210の厚みは、良好な補修効果および接着強度を得るという観点から、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましい。また経済性という観点から、一液湿気硬化型樹脂層210の厚みは、10mm以下であることが好ましく、7mm以下であることがより好ましい。尚本明細書において、一液湿気硬化型樹脂組成物が、躯体のひび割れの隙間にされるような場合には、一液湿気硬化型樹脂層210の厚みは、躯体100表面から、一液湿気硬化型樹脂層210における躯体100表面とは反対側の表面までの距離を意味する。
【0050】
以上のようにして形成される一液湿気硬化型樹脂層210の引張強さは、0.7N/mm2以上が好ましく、1.0N/mm2以上がより好ましく、1.5N/mm2以上がさらに好ましい。引張強さの上限値としては、特に限定的ではないが、例えば5N/mm2もあれば十分である。また破断時伸びは、10%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。同様に、破断時伸びの上限値としても特に限定的ではないが、1500%もあれば十分である。引張強さ及び破断時伸びにおいて斯かる構成を採用することにより、一液湿気硬化型樹脂層と、躯体や後述する多孔質基材層との接着性を高め、補修後の再破断の可能性を低減することが可能である。尚、引張強さ及び破断時伸びは、JIS K6251に準拠し、ダンベル状3号形の試験片を引張強度500mm/分で測定することにより得られる値である。
【0051】
多孔質基材層
上述した一液湿気硬化型樹脂層210を躯体100のひび割れ110を被覆するように設けた後、さらに前記一液湿気硬化型樹脂層210の上に被覆するように、多孔質基材層220を積層する。
【0052】
本明細書において多孔質基材層220は、多孔質基材によって構成される層を意味する。多孔質基材としては、公知の多孔質構造を有する公知の材料を、広く採用することが可能であり、特に限定はない。
【0053】
多孔質基材層220を構成する多孔質基材としては、安価かつ簡便に得ることが可能であり、軽量であるがゆえに輸送も容易であるということから、多孔質材料により構成される不織布であることが好ましい。勿論不織布でなくとも、例えば繊維製シートであれば、少なくともその厚さ方向に連通する連通孔を有する態様であればよく、メッシュ、織布、網、網布などの各種の態様のものを使用することが可能である。
【0054】
多孔質基材層220を構成する多孔質材料としては、公知のものを広く採用することができ、特に限定はない。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリアミド繊維、バサルト繊維などを使用することが可能である。これらの中でも、不燃性に優れるという点で、ガラス繊維を使用することが好ましい。
【0055】
多孔質基材層220の目付量は強度の観点から、20g/m2以上であることが好ましく、30g/m2以上であることがより好ましい。また、一液湿気硬化型樹脂が多孔質基材層に含浸しやすくするために、80g/m2以下であることが好ましく、70g/m2以下であることがより好ましい。
【0056】
また、多孔質基材層220の厚みは、強度を確保するため、0.2mm以上とするのが好ましく、0.3mm以上とするのがより好ましい。一方で、多孔質基材層220の厚みは、その扱いやすさを考慮し、0.8mm以下とするのが好ましく、0.7mm以下とするのがより好ましい。
【0057】
多孔質基材層220は、基本的には上述した一液湿気硬化型樹脂層210と同じサイズ及び形状となるように構成するか、或いは一液湿気硬化型樹脂層210を完全に被覆するサイズ及び形状となるように構成するのが好ましい。かかる構成を採用することにより、多孔質基材層220を、一液湿気硬化型樹脂層210を完全に被覆するように積層することが可能であり、補修箇所の再破断を効果的に抑制することができる。しかし必ずしもかかる構成に限定されるものではなく、少なくとも多孔質基材層220が、一液湿気硬化型樹脂層210を介して躯体100のひび割れ110上に、該ひび割れ110をほぼ完全に被覆するように積層されていればよい。
【0058】
上記した本発明の躯体の補修方法の具体的な実施態様としては、一液湿気硬化型樹脂組成物により、躯体100のひび割れ110を被覆して一液湿気硬化型樹脂層210を形成する工程1を行い、次いで、前記一液湿気硬化型樹脂層210における、躯体のひび割れ側の面とは反対側の面に、多孔質基材層220を設ける工程2を行う方法を挙げることができる(
図1)。
【0059】
ここで、工程1において一液湿気硬化型樹脂層210を設けるための具体的な方法としては公知の方法を広く採用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、塗布、噴霧等の方法を挙げることができる。また、工程2において多孔質基材層220を設ける方法としても公知の方法を広く採用することが可能であり、特に限定はない。例えば、多孔質基材層220を、硬化前の一液湿気硬化型樹脂層に重ね合わせる等の方法を採用することが可能である。ここで、得られる積層体の接着性及び強度を高め、補修後のひび割れの再破断をなるべく抑制するために、多孔質基材層220を一液湿気硬化型樹脂層210が硬化する前に、貼り合わせるようにして積層することにより、多孔質基材層220の近傍に存在する硬化前の一液湿気硬化型樹脂組成物を、多孔質基材層220に含浸させるのが好ましい。この際、多孔質基材層220における一液湿気硬化型樹脂組成物が含浸した部分の厚みとしては、躯体100のひび割れ110の再破断を抑制するために、多孔質基材層の厚み分、一液湿気硬化型樹脂組成物が含浸することが好ましい。
【0060】
それ以外の実施態様としては
図2に示すように、水溶性層230、一液湿気硬化型樹脂層210、及び多孔質基材層220がこの順に積層された補修用接着剤シート200の、前記水溶性層230側の面により、躯体100のひび割れ110を被覆する方法も挙げることができる。かかる実施態様においては、例えば上記補修用接着剤シート200を工場等で製造すれば、躯体のひび割れを補修する現場における補修作業に要する労力を著しく抑制することが可能である。そして、補修作業を行う際には、躯体のひび割れから漏出してくる水分や、補修前にひび割れに散布された水分等により水溶性層230が溶解し、一液湿気硬化型樹脂層210がひび割れに接着し、ひび割れを補修することができる。
【0061】
水溶性層230は、任意の水溶性物質により構成するとよく、特に限定はない。具体的には、水溶性物質としては、天然、合成、および半合成の水溶性高分子を使用することができる。より具体的には、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、メチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、グアガム、ローカストビーンガム、ゼラチン、キサンタンガム、カンテン、デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ジエチルアミノアセテート、メタクリル酸/メタクリル酸メチル共重合体、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ソーダ、アクリル酸ソーダ/メタクリル酸ソーダ共重合体、アクリル酸ソーダ/マレイン酸ソーダ共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸ソーダ共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド系高分子等およびそれらの誘導体であり、好ましくはポリビニルアルコールおよびその誘導体、メチルセルロース、ポリビニルアセタールを挙げることができる。
【0062】
水溶性層230の厚さは、表面のベタつきを抑えて取扱性を向上させるために、5μm以上とすることが好ましく、20μm以上とすることがより好ましい。また、水溶性層230が湿潤状態に付された場合に溶けて一液湿気硬化型樹脂層210をより容易に露出させるために、水溶性層230の厚さを100μm以下とすることが好ましく、50μm以下とすることがより好ましい。
【0063】
ここで、水溶性層230を構成する水溶性物質としてポリビニルアルコールを使用する場合には、水溶性層230の厚みは10μm以上80μm以下とするのが好ましく、20μm以上45μm以下とするのがより好ましい。
【0064】
水溶性層230には、エンボス加工を施してもよい。エンボス加工を施すことにより水溶性層230の表面積が拡大する。このため水分との接触面積が大きくなり、水溶性物質が細かく溶解するため、一液湿気硬化型樹脂層210と躯体100との接着力が良好となる。
【0065】
また、一液湿気硬化型樹脂層が強化繊維を含む実施態様も、好ましい。かかる強化繊維としては、例えば、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、バサルト繊維を挙げることができ、特に限定はない。中でも、強度、柔軟性、一液湿気硬化型樹脂組成物との接着性、躯体の表面との密着性を考慮し、ビニロン繊維を使用することが好ましい。また、強度、一液湿気硬化型樹脂との接着性、および不燃性などに優れるという点で、ガラス繊維を使用することも好ましい。これらの強化繊維は1種を単独で、或いは2種以上を併せて使用することができる。
【0066】
強化繊維は、一液湿気硬化型樹脂層に略均一に分散されていてもよいが、強化繊維層として一液湿気硬化型樹脂層中に存在していることが好ましい。強化繊維層の質量は、強度の観点から、10g/m2以上とするのが好ましく、30g/m2以上とするのがより好ましい。一方で、扱いやすさを考慮し、強化繊維層の質量は、120g/m2以下とするのが好ましく、100g/m2以下とするのがより好ましい。
【0067】
強化繊維層は、その厚さ方向に連通する連通孔を有していることが好ましい。強化繊維層の面積に対する連通孔の開口面積の割合はたとえば30%以上80%以下が好ましい。当該開口面積の割合が上記下限値以上であることは、強化繊維層とそれに隣接する一液湿気硬化型樹脂層との接着性との一体性に優れる点で好ましく、上記上限値以下であることは、強化繊維による一液湿気硬化型樹脂層の補強強化に優れる点で好ましい。
【0068】
上記したような、厚さ方向に連通する連通孔を有する強化繊維層の具体的態様としては、メッシュ、織布、網、編布および不織布が挙げられ、これらの中から1種を単独で、または2種以上の組み合わせで用いることができる。なお、メッシュとは、複数本の連続繊維束が交差積層し、その交差部分において繊維束同士が好ましくは接着された構造を持つ基材である。具体的には、2軸メッシュ(格子状メッシュ)、3軸メッシュ、4軸メッシュ、5軸メッシュ、およびそれ以上の多次元メッシュが挙げられる。好ましくは、経方向、斜方向、逆斜方向の3方向(具体的には繊維束の交差角が60度となるよう)に積層した3軸メッシュが用いられる。
【0069】
強化繊維層を設ける態様としては、例えば、躯体のひび割れ上に、一液湿気硬化型樹脂層、強化繊維層、及び多孔質基材層がこの順に積層される態様を、挙げることができる。躯体表面にまず一液湿気硬化型樹脂層を設けることにより、躯体表面への一液湿気硬化型樹脂の密着を強固なものとすることができる。強化繊維層を積層する際には、躯体表面上に設けられる一液湿気硬化型樹脂層が硬化する前に積層することが好ましい。これにより、強化繊維層に一液湿気硬化型樹脂組成物が含浸され、補修箇所の強度を高めることができる。
【0070】
強化繊維層を設けるその他の態様としては、躯体のひび割れ上に、第1の一液湿気硬化型樹脂層、強化繊維層、第2の一液湿気硬化型樹脂層、及び多孔質基材層をこの順に積層する態様も挙げることができる。
【0071】
ここで、第1及び第2の一液湿気硬化型樹脂層の厚みは、躯体表面や強化繊維層への密着を高めるために、それぞれ0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましい。一方、経済性の観点から、第1及び第2の一液湿気硬化型樹脂層の厚みは、それぞれ5mm以下であることが好ましく、3.5mm以下であることがより好ましい。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0073】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0074】
(実施例及び比較例)
図3に示したように、一対のコンクリート製の基板311、312を、0.2mmの隙間Iをおいて配置し、下記実施例1~9、及び比較例1の補修方法に基づき、コンクリート製基板311及び312の間の隙間Iを補修した。
【0075】
実施例1~8においては、基板311、312の表面に、一液湿気硬化型樹脂組成物を、Iにまたがるように150mm×50mmの大きさにヘラを用いて塗布した。そして該一液湿気硬化型樹脂組成物が硬化する前に、その上に同様に150mm×50mmのサイズのガラス繊維製不織布を、前記一液湿気硬化型樹脂組成物が前記ガラス繊維製不織布にしみ込むようにして貼り付けた。比較例1においては、不織布を使用しなかった。尚、実施例1~8及び比較例1において使用した一液湿気硬化型樹脂組成物及び不織布に関する詳細は、下記表1及び2に示した通りである。
【0076】
また実施例9においては、
図4に示したように、150mm×50mmの大きさに切り出したガラス繊維製不織布430の上に、一液湿気硬化型樹脂層410を構成するための変性シリコーン樹脂(積水フーラー社製、A430S)を塗布した後、水溶性層420を構成するためのポリビニルアルコールシートを積層することによって、補修用接着剤シート400を作製した。得られた接着剤シート400において、一液湿気硬化型樹脂層410の厚みは3mm、水溶性層420の厚みは40μm、不織布430の目付は50g/m
2であった。
【0077】
さらに、実施例10においては、
図3に示す基板311、312の表面に、第1の一液湿気硬化型樹脂層として、一液湿気硬化型樹脂組成物を、ヘラを用いてIにまたがるように150mm×50mmの大きさ、1.5mmの厚みで塗布した。第1の一液湿気硬化型樹脂層が硬化する前に、その上に、強化繊維層として、150mm×50mmの大きさで56g/m
2の質量の強化繊維シート(積水フィルム社製ビニロン3軸ソフ)を乗せた。さらにその上に、第2の一液湿気硬化型樹脂層として、一液湿気硬化型樹脂組成物を、ヘラを用いて150mm×50mmの大きさ、1.5mmの厚みで塗布した。その後、第2の一液湿気硬化型樹脂層が硬化する前に、さらにその上に150mm×50mmのサイズのガラス繊維不織布を、一液湿気硬化型樹脂組成物がガラス繊維不織布にしみ込むようにして貼り付けた。
【0078】
【0079】
【0080】
(疲労試験)
上記のようにして得られた実施例1~10及び比較例1の試験片の耐疲労性(耐再破断性)を、JIS A1436-2006「建築用被覆材料の下地不連続部における耐疲労性試験方法」に準じて評価した。具体的には、一方の基板311を固定し、他方の基板312を、
図3に示す矢印方向に沿って、振幅0.04mm、周期0.1secで往復運動させた。具体的には、20℃、60℃、及び-10℃の順に、それぞれの温度条件下において600万回、合計で1800万回往復運動を行った。その後、補修材の表面を目視により観察し、変状を調べた。
【0081】
(疲労試験結果)
図1に示したように、実施例1~10の試験片においては、基板の往復運動後において破断を確認できなかったが、比較例1の試験片においては、破断が認められた。
【符号の説明】
【0082】
100 躯体
110 ひび割れ
200 補修用接着剤シート
210 一液湿気硬化型樹脂層
220 多孔質基材層
230 水溶性層
311 基板
312 基板
320 一液湿気硬化型樹脂層及び多孔質基材層
400 補修用接着剤シート
410 一液湿気硬化型樹脂層
420 水溶性層
430 不織布