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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】膨張タービン
(51)【国際特許分類】
   F01D 25/16 20060101AFI20220329BHJP
   F16C 32/06 20060101ALI20220329BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
F01D25/16 C
F01D25/16 J
F16C32/06 Z
F16J15/447
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017208076
(22)【出願日】2017-10-27
(65)【公開番号】P2019078251
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雄一
(72)【発明者】
【氏名】石丸 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】武内 遼太
(72)【発明者】
【氏名】足立 利光
(72)【発明者】
【氏名】仮屋 大祐
(72)【発明者】
【氏名】阪井 直人
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03105631(US,A)
【文献】実開昭61-193230(JP,U)
【文献】西独国特許出願公開第1928784(DE,A1)
【文献】特開2017-008775(JP,A)
【文献】特開2017-008776(JP,A)
【文献】特開平01-121501(JP,A)
【文献】米国特許第4477223(US,A)
【文献】特開平06-101498(JP,A)
【文献】米国特許第3038318(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 25/16
F01D 25/22
F02C 6/00
F02C 6/06
F02C 7/06
F02C 7/24
F02C 7/28
F16C 32/06
F16J 15/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、前記回転軸の一端側に取り付けられ、前記回転軸が回転したときにプロセスガスを取り込みながら膨張させる第1の羽根車とを有するロータ部材と、
前記ロータ部材を回転可能に収容するケーシング部材とを備え、
前記ケーシング部材は、
前記回転軸を支持する軸受部と、
前記回転軸と前記軸受部との間の第1の領域にガスを供給する第1のガス供給路と、
前記第1の領域に供給されたガスが前記第1の領域から排出されるガス排出路と、
前記第1のガス供給路あるいは前記ガス排出路のいずれか一方に接続され、前記ロータ部材と前記ケーシング部材との間に位置する第2の領域にガスを供給する第2のガス供給路とを有し
前記軸受部が複数形成され、複数の前記軸受部のそれぞれに対応して、前記第1の領域及び前記ガス排出路が形成され、少なくとも1つの前記ガス排出路が前記第2の領域に接続されていることを特徴とする膨張タービン。
【請求項2】
回転軸と、前記回転軸の一端側に取り付けられ、前記回転軸が回転したときにプロセスガスを取り込みながら膨張させる第1の羽根車とを有するロータ部材と、
前記ロータ部材を回転可能に収容するケーシング部材とを備え、
前記ケーシング部材は、
前記回転軸を支持する軸受部と、
前記回転軸と前記軸受部との間の第1の領域にガスを供給する第1のガス供給路と、
前記第1の領域に供給されたガスが前記第1の領域から排出されるガス排出路と、
前記第1のガス供給路あるいは前記ガス排出路のいずれか一方に接続され、前記ロータ部材と前記ケーシング部材との間に位置する第2の領域にガスを供給する第2のガス供給路とを有し、
前記軸受部は、前記回転軸を軸方向に支持するスラスト軸受部を有し、
前記第1のガス供給路は、前記回転軸と、前記スラスト軸受部との間の第4の領域にのみガスを供給するガスの流路であり、
前記ガス排出路は、前記第4の領域からのみ排出されるガスの流路であることを特徴とする膨張タービン。
【請求項3】
前記第2の領域には、前記第1の羽根車によって膨張の行われたプロセスガスの温度よりも高い温度のガスが供給されることを特徴とする請求項1または2に記載の膨張タービン。
【請求項4】
前記ケーシング部材は、少なくとも前記第1の羽根車の背面部を覆うカバーを有し、
前記カバーには、前記回転軸を回転可能に挿通させる挿通部が形成され、
前記第2の領域は、前記回転軸と前記挿通部との間の第3の領域と連通した領域であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の膨張タービン。
【請求項5】
前記挿通部には、前記第1の羽根車によって取り込まれたプロセスガスの、前記回転軸に沿う前記挿通部よりも前記一端側とは逆側の他端側への漏れに対してシールするシール部が設けられていることを特徴とする請求項に記載の膨張タービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静圧気体軸受により支持された膨張タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、膨張タービンを用いてヘリウムや水素などのプロセスガスを断熱膨張させ寒冷を得る極低温冷凍装置が知られている。このような膨張タービンでは回転軸を支持するためにプロセスガスを用いた気体軸受を使用する場合がある。気体軸受は、静圧気体軸受と動圧気体軸受とに大別される。静圧気体軸受は、動圧気体軸受と比べて負荷容量が高い点、膨張タービンの始動時や停止時に回転軸と軸受の間で接触が生じない点で有利である。
【0003】
このような膨張タービンを運転する際に、羽根車の背面に設けたシール部から軸受部に低温のプロセスガスの漏れが生じることがある。この漏れた低温のプロセスガスによって回転軸及び軸受部が冷却されてしまうことにより、回転軸及び軸受部の寸法精度が低下する可能性がある。膨張タービンの運転の際に、回転軸及び軸受部の寸法精度が低下した状態で回転軸が回転すると、回転軸が軸受部と接触し、機器の故障の原因となる可能性がある。
【0004】
膨張タービンにおける羽根車の背面に設けたシール部から漏れる低温のプロセスガスの量を少なくするために、特許文献1には、羽根車の背面にシールガス室を設けると共に、シールガス室にシールガスを供給する形式の膨張タービンについて開示されている。特許文献1では、シールガス室の内部の温度が検知され、シールガス室の内部の温度に応じてシールガス室に供給されるガスの流量が調節されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-169447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された膨張タービンでは、シールガス室の内部の温度が検出されてからシールガス室に供給されるシールガスの流量が調節されるまでにタイムラグが生じる。そのため、起動時や負荷変更時といったプロセスガスが急激に変化する場合に対応することができず、適切な流量のシールガスをシールガス室に供給することができない可能性がある。これによって回転軸及び軸受部の寸法精度が低下し、機器の故障の原因となる可能性がある。
【0007】
そこで、本発明は上記の事情に鑑み、プロセスガスの圧力が急激に変化する場合であっても、羽根車の背面に設けたシール部からの低温のプロセスガスの漏れによる回転軸及び軸受部の周囲の温度の低下が少なく抑えられた膨張タービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の膨張タービンは、回転軸と、前記回転軸の一端側に取り付けられ、前記回転軸が回転したときにプロセスガスを取り込みながら膨張させる第1の羽根車とを有するロータ部材と、前記ロータ部材を回転可能に収容するケーシング部材とを備え、前記ケーシング部材は、前記回転軸を支持する軸受部と、前記回転軸と前記軸受部との間の第1の領域にガスを供給する第1のガス供給路と、前記第1の領域に供給されたガスが前記第1の領域から排出されるガス排出路と、前記第1のガス供給路あるいは前記ガス排出路のいずれか一方に接続され、前記ロータ部材と前記ケーシング部材との間に位置する第2の領域にガスを供給する第2のガス供給路とを有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の膨張タービンによれば、プロセスガスの圧力が急激に変化する場合にも羽根車の背面に設けたシール部からの低温のプロセスガスの漏れによる回転軸及び軸受部の周囲の温度の低下が少なく抑えられるので、故障の発生が抑えられ、膨張タービンの信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】膨張タービンについての構成図である。
図2図1の膨張タービンの変形例についての構成図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る膨張タービンについての構成図である。
図4】本発明の第3実施形態に係る膨張タービンについての構成図である。
図5】本発明の第4実施形態に係る膨張タービンについての構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0012】
図1に、膨張タービン37についての構成図を示す。図1には、膨張タービン37における軸受部にガスが供給されるガス供給路及び軸受部から軸受ガスが排出されるガス排出路が示されている。本実施形態では、軸受ガスとしては、プロセスガスと同一種類のガスが用いられている。
【0013】
膨張タービン37は、回転軸371と羽根車372とを有するロータ部材373と、ロータ部材373を回転可能に収容するケーシング部材374とを備えている。
【0014】
羽根車(第1の羽根車)372は、回転軸371の一端側に取り付けられている。羽根車372は、回転軸371が回転したときに、膨張タービン37の内部にプロセスガスを取り込みながら膨張させる。
【0015】
ケーシング部材374は、内部にロータ部材373を回転可能に収容している。ケーシング部材374は、羽根車372を覆うカバー375を有している。カバー375は、少なくとも羽根車372の背面部372aを覆うように構成されている。
【0016】
カバー375には、ロータ部材373の回転軸371を挿通させる挿通部375aが形成されている。挿通部375aを通して回転軸371がカバー375に挿通されている。このとき、羽根車372がカバー375の外側に突出するように、ロータ部材373が配置されている。これによって、ロータ部材373が回転可能にケーシング部材374内に配置されている。
【0017】
挿通部375aの内周面にはシール部が設けられており、シール部よりも他端側へのプロセスガスの漏れが封止されている。本実施形態では、挿通部375aの内周面に凹凸が形成され、これによって挿通部375aの内周面にラビリンスシールが形成されている。挿通部375aにラビリンスシールが形成されているので、羽根車372によって取り込まれたプロセスガスの、回転軸371に沿う挿通部375aよりも他端側への漏れが少なく抑えられている。なお、挿通部375aに設けられるシール部は、ラビリンスシール以外のシール部であってもよい。回転軸371に沿う挿通部375aよりも他端側へのプロセスガスの漏れを少なく抑えることができるのであれば、他のシール部であってもよい。
【0018】
ここで、「他端側」とは、回転軸371におけるプロセスガスを膨張させる羽根車372が取り付けられている側とは逆側のことをいうものとする。
【0019】
ケーシング部材374は、回転軸371を支持する軸受部376を備えている。軸受部376は、回転軸371を径方向に対して支持するラジアル軸受部376aと、回転軸371を回転軸の軸方向に対して支持するスラスト軸受部376bとを備えている。
【0020】
ケーシング部材374には、回転軸371と軸受部376との間の領域(第1の領域)377に軸受ガスを供給するガス供給路(第1のガス供給路)378が形成されている。ガス供給路378を介して回転軸371と軸受部376との間の領域377に軸受ガスを供給することが可能に構成されている。
【0021】
適切な圧力によって回転軸371とラジアル軸受部376aとの間の領域377aに軸受ガスを供給させると共に回転軸371を回転させることにより、回転軸371がラジアル軸受部376aの内側で浮上する。それと共に、回転軸371の径方向に対する位置が維持される。従って、回転軸371とラジアル軸受部376aとの間が、非接触の状態で維持される。
【0022】
このように、膨張タービン37を運転させる際に、回転軸371とラジアル軸受部376aとの間が非接触の状態で回転軸371を回転させることができる。回転軸371がラジアル軸受部376aに対し非接触の状態で回転軸371が回転するので、回転軸371が回転する際の抵抗を少なく抑えることができる。これにより、膨張タービン37の運転の際の消費エネルギーを少なく抑えることができる。
【0023】
また、適切な圧力によって回転軸371とスラスト軸受部376bとの間の領域377bに軸受ガスを供給させると共に回転軸371を回転させることにより、回転軸371を軸方向に適切な位置に維持することができる。従って、回転軸371とスラスト軸受部376bとの間が、非接触の状態で維持される。このように、膨張タービン37を運転させる際に、回転軸371とスラスト軸受部376bとの間が非接触の状態で回転軸371を回転させることができる。スラスト軸受部376bに対し非接触の状態で回転軸371が回転するので、回転軸371が回転する際の抵抗を少なく抑えることができる。これにより、膨張タービン37の運転の際の消費エネルギーをさらに少なく抑えることができる。
【0024】
さらに、膨張タービン37は、ガス供給路378から回転軸371と軸受部376との間の領域377に供給された軸受ガスがその領域377から排出されるガス排出路379を備えている。
【0025】
また、気体の軸受ガスによって回転軸と軸受部との間を非接触とした状態で回転軸を回転させて、膨張タービン37が運転されるので、プロセスガスに液体の潤滑油が混入することを防ぐことができる。
【0026】
ロータ部材373は、ケーシング部材374に収容されたまま回転可能に構成されているので、回転軸371が回転する際には、回転軸371とケーシング部材374との間にはどうしても隙間が生じてしまう。羽根車372によって膨張されたプロセスガスの一部が羽根車372の背面部372aとカバー375との間の隙間を通って、カバー375と回転軸371との間の隙間を通り、プロセスガスがカバー375よりも他端側の領域に侵入する可能性がある。
【0027】
羽根車372によって膨張されるプロセスガスは、極低温の状態にある。極低温のプロセスガスがカバー375の挿通部375aよりも他端側の領域に侵入すると、回転軸371、軸受部376、及びこれらの周囲の部材がプロセスガスによって冷却される。回転軸371及び軸受部376が極端に低温の状態となると、回転軸371及び軸受部376が収縮してしまい、これらの部材の寸法精度が低下してしまう。この状態で膨張タービン37が運転されて回転軸371が回転すると、回転軸371と軸受部376とが接触してしまい、回転軸371及び軸受部376あるいはその周囲の機器の故障の原因となる可能性がある。
【0028】
そのため、本実施形態では、ロータ部材373とケーシング部材374との間の領域に常温のガス(加温ガス)が供給される。以下、ロータ部材373とケーシング部材374との間の領域に供給されるガス及びガス流路について説明する。
【0029】
本実施形態では、ロータ部材373とケーシング部材374との間の領域(第2の領域)のうち、回転軸371と挿通部375aとの間の領域(第3の領域)380に近接した領域381にガスを供給するガス供給路(第2のガス供給路)382が形成されている。本実施形態では、ガス供給路382によってガスの供給される領域381は、回転軸371と挿通部375aとの間の領域380と連通している。領域380は、領域380における羽根車372の取り付けられた側(一端側)とは逆側の他端側の端部380aで、領域381に連通するように形成されている。
【0030】
本実施形態では、ガス供給路382を介して領域381にガスが供給されている。領域381に羽根車372で膨張されるプロセスガスよりも温度の高いガスが供給されるので、領域381の内部のガスの温度の低下を少なく抑えることができる。
【0031】
本実施形態では、ケーシング部材374の内部は、全体的にプロセスガスと同種のガスによって満たされている。そのため、領域381の内部についても、プロセスガスと同種のガスによって満たされている。従って、温度の高いプロセスガスと同種のガスを領域381に供給することにより、領域381の内部のガスの温度の低下を抑えることができる。このように、羽根車372とカバー375との間の隙間からのプロセスガスの漏れによる回転軸371及び軸受部376の周囲の温度の低下を少なく抑えることができる。
【0032】
本実施形態では、ガスの供給される領域381が、羽根車372とカバー375との間の隙間からのプロセスガスの出口に近接した位置に形成されている。そのため、ガス供給路382からの加温ガスが、羽根車372とカバー375との間の隙間からのプロセスガスの出口に近接した位置に供給される。出口から出たばかりのプロセスガスが充填された領域381に対して加温ガスが供給されるので、羽根車372とカバー375との間の隙間からプロセスガスの漏れが生じていたとしても、漏れ出したプロセスガスによって冷却された部位に対し効率的に加温することができる。従って、領域381のガスの温度が低下することを効率的に抑えることができる。
【0033】
ここで、領域381に接続されたガス供給路382は、軸受部376に軸受ガスを供給するガス供給路378から分岐して領域381に延びている。従って、領域381に供給されるガスは、回転軸371を軸受部376に対して非接触とするために軸受部376に供給される軸受ガスと同一のガスである。本実施形態では、軸受部376及び領域381に、常温のガスが供給されている。
【0034】
軸受部376及び領域381に供給されるガスは常温であるので、羽根車372によって膨張されるプロセスガスに比べて温度が高い。従って、領域381には、羽根車372によって膨張の行われたプロセスガスよりも温度の高いガスが供給されることになる。これにより、羽根車372の背面部372aとカバー375との間の隙間を通り、カバー375と回転軸371との間の隙間を通って、領域381内に漏れ出したプロセスガスによる領域381の温度の低下を少なく抑えることができる。
【0035】
領域381の温度の低下を抑えることができるので、回転軸371及び軸受部376の温度の低下を少なく抑えることができる。従って、回転軸371及び軸受部376の寸法精度の低下を抑えることができる。回転軸371及び軸受部376との間で非接触の状態が保たれたまま膨張タービン37の運転が行われるので、膨張タービン37の信頼性を向上させることができる。
【0036】
また、羽根車372の設けられた一端側に位置している方のラジアル軸受部376aに供給されたガスについて、回転軸371とラジアル軸受部376aとの間の領域377aから排出されたガスの一部が、直接領域381に供給されている。このとき、ラジアル軸受部376aを出たガスは、回転軸371とラジアル軸受部376aとの間の隙間を通って直接領域381に供給されている。ここでは、ガスが通るための流路を特別形成しているわけではないが、回転軸371とラジアル軸受部376aとの間の隙間が、領域381にガスを供給するガス供給路(第2のガス供給路)として機能している。回転軸371とラジアル軸受部376aとの間の隙間を通って、領域381を加温するためのガスが領域381に供給されている。
【0037】
領域381に供給されるガスは、もともと回転軸371と軸受部376との間の領域377に供給される軸受ガスである。本実施形態では、回転軸371と軸受部376との間の領域377に供給される軸受ガスのためのガス供給路378を分岐させて領域381に接続している。従って、領域381に加温のためのガスを供給するために、特別なガス供給手段を設けているわけではない。そのため、簡易な構成の変更によって、領域381にガスを供給することができる。従って、領域381にガスを供給することで膨張タービン37の信頼性を向上させるためのコストを少なく抑えることができる。
【0038】
また、もともと軸受部376に軸受ガスを供給するガス供給路378の一部がガス供給路382のガス流路として用いられることになるので、ガス供給路382を形成する際の構成の変更が少なくて済む。従って、領域381にガスを供給するガス供給路382を形成するためのコストを少なく抑えることができる。
【0039】
また、領域381に供給されるガスは、軸受部376に供給される軸受ガスのためのガス供給路378から分岐した流路のガス供給路382を通っている。従って、回転軸371と軸受部376との間の領域377に軸受ガスが供給されている間は、領域381にもガスが供給され続けることになる。本実施形態では、膨張タービン37が運転され、回転軸371が回転している間は、ガスは領域381に供給され続ける。従って、羽根車372によって膨張されるプロセスガスの圧力変動に関係なく、一定の流量で領域381にガスが供給され続ける。そのため、プロセスガスの圧力が急激に変化する場合にも領域381にガスが供給される。これにより、プロセスガスの圧力が急激に変化する場合にも回転軸371及び軸受部376の周囲の温度の低下を抑えることができる。従って、回転軸371及び軸受部376の周囲の部材の寸法精度が低下せずに、羽根車372とカバー375との間の隙間からのプロセスガスの漏れ量が少なく抑えられる。つまり、起動時や負荷変更時といったプロセスガスの圧力が急激に変化する場合にも領域381にガスが供給され続けることにより、回転軸371の周囲の温度が低下することを抑えることができる。従って、膨張タービン37の信頼性を向上させることができる。
【0040】
領域381に供給されたガスは、領域381で空間内部のガスに対し自身の熱を与えることによって領域381内部のガスを加温した後に、ガス排出路379を通って膨張タービン37の外部に排出される。また、領域381に供給されずに、ガス供給路378を通って軸受部376と回転軸371との間の領域377に供給されたガスについても、ガス排出路379を通って膨張タービン37の外部に排出される。
【0041】
なお、上記実施形態では、領域381に接続されたガス供給路382は、軸受部376に軸受ガスを供給するガス供給路378から分岐して領域381に延びている構成について説明したが、本発明はこれに限定されない。回転軸371と軸受部376との間の領域377から排出されるガス排出路が、領域381に接続される構成であってもよい。
【0042】
図2に示されるように、ラジアル軸受部376aから排出された軸受ガスのガス排出路が屈曲することにより、ガス排出路が領域381に接続されている。これによって、領域381にガスを供給するためのガス供給路382aが形成されている。このように、領域381にガスを供給するためのガス供給路382aは、領域377から軸受ガスを排出させるためのガス排出路に接続されて形成されてもよい。領域381にガスを供給するためのガス供給路は、軸受部376と回転軸371との間の領域377に軸受ガスを供給するガス供給路あるいは領域377から軸受ガスを排出させるガス排出路のいずれか一方に接続されていればよい。
【0043】
領域381にガスを供給するためのガス供給路382aがガス排出路に接続された場合には、回転軸371と軸受部376との間の領域377に供給されて回転軸371の位置決めのために用いられた軸受ガスが領域381内で再度空間内部のガスの加温に用いられている。従って、回転軸371の位置決めのための軸受ガスと、領域381内のガスの加温のためのガスとが共通して用いられることになる。その場合、ガスは、回転軸371と軸受部376との間の領域377に供給された後に、そこから領域381に供給される。回転軸371と軸受部376との間の領域377に供給される軸受ガスと回転軸371及び軸受部376の周辺を加温するために領域381に供給されるガスとの間で同じガスが用いられるので、ガスの消費量を少なく抑えることができる。
【0044】
回転軸371と軸受部376との間の領域377に供給される軸受ガスの圧力によって回転軸371の位置決めが行われることから、領域377に供給される軸受ガスには、ある程度の圧力を有することが必要とされる。また、領域381に供給されるガスは、領域377に供給される軸受ガスの流路から分岐した流路を通って供給されるので、領域381に供給されるガスについてもある程度の圧力を有している。
【0045】
領域377に供給される軸受ガスを高圧にするには、通常、圧縮機を用いて圧縮する等、軸受ガスに対する加圧工程が必要になる。例えば、圧縮機を駆動することによって軸受ガスを昇圧させる場合には、圧縮機を駆動するためのエネルギーが消費されることになる。また、領域377に供給されるガスの消費量が多くなると、その分エネルギーの消費量が多くなり、原料ガス液化装置100のシステムとしてのエネルギー効率が低下する可能性がある。
【0046】
これに対し、本実施形態のように領域377に供給される軸受ガスと、領域381に供給されるガスとが共通して用いられる場合には、ガスの消費量が少なく抑えられる。従って、原料ガス液化装置100で消費されるエネルギーが少なく抑えられる。これにより、原料ガス液化装置100のシステムとしてのエネルギー効率を向上させることができる。
【0047】
なお、上記実施形態では、加温ガスの供給される領域381は、回転軸371とカバー375の挿通部375aとの間の領域380に連通する位置に形成されている。特に、上記実施形態では、領域380における他端側の端部380aで領域381と領域380とが連通する位置に領域381が形成されている。しかしながら、本発明はこれに限定されず、加温ガスの供給される領域381は、他の位置に形成されてもよい。ロータ部材373とケーシング部材374との間に位置する領域であれば、他の位置に形成されてもよい。つまり、領域381は、カバー375の挿通部375aに近接した位置でなくてもよい。回転軸371、軸受部376あるいはその周辺の部材を加温するのであれば、加温ガスの供給される領域381は、ロータ部材373とケーシング部材374との間の、他の位置に形成されてもよい。
【0048】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る膨張タービンについて説明する。なお、上記第1実施形態と同様に構成される部分については図中同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0049】
第2実施形態では、回転軸371と軸受部376との間の領域377に供給された軸受ガスが領域377から排出される複数のガス排出路379のうち、全てのガス排出路379が領域381に接続されている。
【0050】
図3に、第2実施形態における膨張タービン37aについての構成図を示す。第2実施形態では、ラジアル軸受部376aとスラスト軸受部376bとで、それぞれ軸受部376が複数形成されている。ラジアル軸受部376aが、プロセスガスを膨張させる羽根車372の取り付けられた側と、それとは逆側の他端側にそれぞれ1つずつ配置され、2つのラジアル軸受部376aが配置されている。また、2つのラジアル軸受部376aに挟まれた領域で回転軸371の一部が外側に突出し、その部分を回転軸371の軸方向に支持するスラスト軸受部376bが軸方向の前後に挟むように2つ配置されている。
【0051】
また、それぞれの軸受部376に対応して、それぞれの軸受部376における回転軸371と軸受部376との間の領域377に軸受ガスを供給するために、複数配置された軸受部376のそれぞれに、ガス供給路378が複数形成されている。
【0052】
また、それぞれの軸受部376における回転軸371と軸受部376との間の領域377から軸受ガスを排出するために、複数配置された軸受部376のそれぞれに、ガス排出路379が複数形成されている。
【0053】
第2実施形態では、複数のガス排出路379の全てが領域381に接続されるように構成されている。本実施形態では、複数のガス排出路379が、領域381に接続される前に、複数のガス排出路379の全てが互いに接続され、複数のガス排出路379が1つのガス流路にまとめられて構成されている。このガス流路が、領域381に接続されている。従って、複数のガス排出路379がそれぞれ互いに接続されて、領域381に加温のためのガスを供給する1つのガス供給路382bとして構成されている。
【0054】
領域381にガスを供給するガス供給路382bがこのように構成されているので、軸受部376と回転軸371との間の領域377に供給されたガスは、全て一旦領域381に供給される。これにより、領域381に供給されるガスの流量を十分に確保することができる。十分な流量のガスが領域381に供給されるので、回転軸371及び軸受部376の周囲の温度の低下をより確実に抑えることができる。従って、回転軸371及び軸受部376の周囲の部材の寸法精度が低下せずに、羽根車372とカバー375との間の隙間からのプロセスガスの漏れ量が少なく抑えられる。従って、膨張タービン37の信頼性をさらに向上させることができる。
【0055】
なお、複数の軸受部376の配置については上記実施形態に限定されない。複数のガス排出路379の全てが領域381に接続されるように構成されているのであれば、軸受部376の配置は他の形態であってもよい。
【0056】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る膨張タービンについて説明する。なお、上記第1実施形態及び第2実施形態と同様に構成される部分については図中同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0057】
図4に、第3実施形態における膨張タービン37bについての構成図を示す。第3実施形態では、軸受部376のうち、スラスト軸受部376bにのみ、回転軸371とスラスト軸受部376bとの間の領域(第4の領域)377bにガスを供給するためのガス供給路378が形成されている。また、スラスト軸受部376bにのみ、回転軸371とスラスト軸受部376bとの間の領域377bからガスを排出するためのガス排出路379が形成されている。領域381にガスを供給するガス供給路382cが、スラスト軸受部376bについてのガス排出路379にのみ接続されて形成されている。
【0058】
一般に、膨張タービンが運転される際には、スラスト軸受部にかかる負荷は、ラジアル軸受部にかかる負荷よりも大きい。そのため、スラスト軸受部では、回転軸の位置決めのために大きな力が必要とされる一方、ラジアル軸受部では、回転軸の位置決めのための力は小さくて済む。そのため、ラジアル軸受部に軸受ガスを積極的に供給する必要がない場合には、ラジアル軸受部に軸受ガスを供給するガス供給路は設けられなくてもよい。
【0059】
ラジアル軸受部376aについては、回転軸371が回転する際に、回転軸371とラジアル軸受部376aとの間に巻き込まれるガスによって回転軸371がラジアル軸受部376aに対して非接触な状態が維持される。このように、本実施形態におけるラジアル軸受部376aは、いわゆる動圧型の軸受部である。そのような場合、スラスト軸受部376bにのみ、領域377bに軸受ガスを供給するためのガス供給路378と、領域377bから軸受ガスを排出するためのガス排出路379が形成されていてもよい。
【0060】
スラスト軸受部376bについての領域377bから軸受ガスを排出するためのガス排出路379は、領域381にガスを供給するガス供給路382cに接続されている。従って、回転軸371とスラスト軸受部376bとの間の領域377bに供給され、ガス排出路379から排出されるガスは、ガス供給路382cを通って、領域381に供給される。従って、回転軸371及び軸受部376の周囲の温度の低下を抑えることができる。従って、回転軸371及び軸受部376の周囲の部材の寸法精度が低下せずに、羽根車372とカバー375との間の隙間からのプロセスガスの漏れ量が少なく抑えられる。従って、膨張タービン37の信頼性を向上させることができる。
【0061】
なお、第3実施形態では、ガス供給路382cは、スラスト軸受部376bについての、領域377bから軸受ガスを排出するためのガス排出路379に接続される構成とした。しかしながら、本発明はこれに限定されず、ガス供給路382cは、スラスト軸受部376bについての、領域377に軸受ガスを供給するガス供給路378に接続される構成であってもよい。
【0062】
このように、領域381にガスを供給するガス供給路382cは、スラスト軸受部376bについてのガス供給路378あるいはスラスト軸受部376bについてのガス排出路379にのみ接続されて形成されてもよい。
【0063】
なお、本実施形態では、ラジアル軸受部376a及びスラスト軸受部376bのうち、スラスト軸受部376bについてのガス供給路378あるいはガス排出路379にガス供給路382cが接続される構成とした。しかしながら本願発明はこれに限定されず、ラジアル軸受部376a及びスラスト軸受部376bのうち、ラジアル軸受部376aについてのガス供給路378あるいはガス排出路379にのみガス供給路382cが接続されるように構成されてもよい。
【0064】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る膨張タービンについて説明する。なお、上記第1実施形態ないし第3実施形態と同様に構成される部分については図中同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0065】
図5に、第4実施形態における膨張タービン37cについての構成図を示す。第4実施形態では、プロセスガスの膨張を行わせる羽根車372の取り付けられている側とは逆側の端部にブレーキ羽根車372bが取り付けられている。ブレーキ羽根車372bによって圧縮された制動ガスの一部が、領域381に供給されている。
【0066】
第4実施形態の膨張タービン37cについて説明する。本実施形態では、回転軸371の一端にプロセスガスを膨張させる羽根車372が取り付けられ、その反対側の他端側には、ブレーキ羽根車(第2の羽根車)372bが取り付けられている。
【0067】
ブレーキ羽根車372bは、回転軸371が回転したときにブレーキ羽根車372b側の流路383を流れるプロセスガスを取り込みながら、そこでプロセスガスの圧縮を行う。ブレーキ羽根車によって圧縮されたプロセスガスは、ガス流路383を流れ、そこからガス流路を循環した後に再びブレーキ羽根車372bに戻る。戻ってきたプロセスガスに対し、再びブレーキ羽根車372によってプロセスガスの圧縮が行われる。このように、ブレーキ羽根車372bによるプロセスガスの圧縮が、流路内のプロセスガスの循環によって繰り返し行われる。これにより、ブレーキ羽根車372b及びガス流路383によって、繰り返しプロセスガスの圧縮を行う制動ラインが構成されている。
【0068】
本実施形態では、制動ラインを構成するガス流路383に、領域381へガスを供給するガス供給路(第3のガス供給路)382dが接続されている。すなわち、ブレーキ羽根車372bによって圧縮されたプロセスガスのガス流路383に接続されたガス供給路382dが、領域381に接続されている。これにより、制動ラインのガス流路383を流れるプロセスガスの一部が、ガス供給路382dを介して領域381に供給される。
【0069】
第4実施形態においても、プロセスガスの膨張を行わせる羽根車372に近接した側のラジアル軸受部376aと回転軸371との間の領域377aから排出された軸受ガスの一部が直接領域381に供給されている。この羽根車372側の領域377aから領域381へのガスの供給に追加して、ガス流路383から領域381へのガスの供給が行われている。従って、より確実に回転軸371及び軸受部376の周囲の温度の低下を抑えることができる。これにより、膨張タービン37の信頼性をより向上させることができる。
【0070】
制動ラインを構成するガス流路383には、ブレーキ羽根車372bによる圧縮の行われたガスが流通している。そのため、ガス流路383には、比較的高温、高圧のプロセスガスが流通している。
【0071】
ガス流路383を流れるプロセスガスは比較的高い圧力を有しているので、ガス流路383と領域381との間にガス供給路382dを形成すれば、プロセスガスは領域381に供給される。従って、ガス流路383から領域381にガスを供給するために、新たにガス供給手段を設ける必要がない。従って、簡易な変更で領域381にガスを供給するガス供給路382dを形成することができる。これにより、領域381にガスを供給するガス供給路382dを有する膨張タービンを製造する際の製造コストを低く抑えることができる。
【0072】
また、ガス流路383を流れているプロセスガスは、比較的高い温度を有しているので、ガス供給路382dを通して領域381にガス流路383からのガスを供給することにより、効率的に領域381を加温することができる。
【0073】
このように、ブレーキ羽根車372bによって圧縮されたガスのガス流路383に接続されたガス供給路382dが、領域381に接続されていてもよい。これによって、制動ラインを構成するガス流路383を流れるガスが領域381に供給されてもよい。
【0074】
(他の実施形態)
なお、本発明は、羽根車とカバーとの間の隙間に向けてシールガスを供給し、羽根車とカバーとの間の隙間から他端側に漏れるプロセスガスを羽根車側に押し返すシールガスが供給される形式の膨張タービンに追加して適用されてもよい。羽根車とカバーとの間の隙間に接続されたシールガス室にシールガスが供給される形式の膨張タービンであっても、プロセスガスの流量が急激に変動する場合に、シールガスの供給がプロセスガスの流量の急激な変化に対応できない可能性がある。そのような場合に対応するために、シールガスが供給される形式の膨張タービンに、ロータ部材とケーシング部材との間の領域に加温ガスが供給される構成が追加されてもよい。
【符号の説明】
【0075】
371 回転軸
372 羽根車
373 ロータ部材
374 ケーシング部材
376 軸受部
378、382 ガス供給路
379 ガス排出路
図1
図2
図3
図4
図5