(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】変圧器の診断システム、変圧器の診断方法、及び変圧器
(51)【国際特許分類】
H01F 27/00 20060101AFI20220329BHJP
H01F 41/00 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
H01F27/00 B
H01F41/00 D
(21)【出願番号】P 2017233449
(22)【出願日】2017-12-05
【審査請求日】2020-10-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物名:第37回絶縁油分科会研究発表会要旨集; 掲載ページ:58~63; 発行者:松岡徹; 発行所:公益社団法人石油学会; 発行年月日:2017年6月9日 集会名:公益社団法人石油学会主催、第37回絶縁油分科会研究発表会; 開催日:2017年6月9日; 開催場所:京都テルサ(京都市南区)
(73)【特許権者】
【識別番号】514105011
【氏名又は名称】株式会社東光高岳
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【氏名又は名称】西 和哉
(72)【発明者】
【氏名】栗原 二三夫
(72)【発明者】
【氏名】大橋 優一
(72)【発明者】
【氏名】小川 賢治
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1068552(KR,B1)
【文献】特開平07-142259(JP,A)
【文献】特開2008-066435(JP,A)
【文献】特開2006-060134(JP,A)
【文献】特開2015-061479(JP,A)
【文献】特開2011-009497(JP,A)
【文献】特開2018-148052(JP,A)
【文献】特開2008-192775(JP,A)
【文献】特開平04-252945(JP,A)
【文献】実開平03-106712(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/00
H01F 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器の劣化を診断する変圧器の診断システムであって、
前記変圧器に設けられ、前記変圧器に用いられる絶縁油の温度を測定する油温センサと、
前記変圧器に設けられ、前記絶縁油中の水分量を測定する水分量センサと、
前記油温センサ及び前記水分量センサにより得られた前記温度及び前記水分量の経時データに基づいて、前記変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、前記重合度から前記変圧器の劣化を評価する評価部と、を備え、
前記評価部は、前記経時データにおいて、所定の前記温度の変化における前記水分量の変化量から前記重合度を推定する、変圧器の診断システム。
【請求項2】
変圧器の劣化を診断する変圧器の診断システムであって、
前記変圧器に設けられ、前記変圧器に用いられる絶縁油の温度を測定する油温センサと、
前記変圧器に設けられ、前記絶縁油中の水分量を測定する水分量センサと、
前記油温センサ及び前記水分量センサにより得られた前記温度及び前記水分量の経時データに基づいて、前記変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、前記重合度から前記変圧器の劣化を評価する評価部と、を備え、
前記評価部は、前記経時データにおいて、所定の前記温度における前記水分量の変化速度から前記重合度を推定する、変圧器の診断システム。
【請求項3】
変圧器の劣化を診断する変圧器の診断システムであって、
前記変圧器に設けられ、前記変圧器に用いられる絶縁油の温度を測定する油温センサと、
前記変圧器に設けられ、前記絶縁油中の水分量を測定する水分量センサと、
前記油温センサ及び前記水分量センサにより得られた前記温度及び前記水分量の経時データに基づいて、前記変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、前記重合度から前記変圧器の劣化を評価する評価部と、を備え、
前記評価部は、前記経時データにおいて、前記水分量を前記温度で除した値の積算値から前記重合度を推定する、変圧器の診断システム。
【請求項4】
変圧器の劣化を診断する変圧器の診断システムであって、
前記変圧器に設けられ、前記変圧器に用いられる絶縁油の温度を測定する油温センサと、
前記変圧器に設けられ、前記絶縁油中の水分量を測定する水分量センサと、
前記油温センサ及び前記水分量センサにより得られた前記温度及び前記水分量の経時データに基づいて、前記変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、前記重合度から前記変圧器の劣化を評価する評価部と、を備え、
前記変圧器に用いられる絶縁紙及び絶縁油を密閉した油中水分検出槽を、前記変圧器の絶縁油中に備え、
前記油温センサ及び前記水分量センサは、それぞれ、前記油中水分検出槽の前記絶縁油の油温及び前記絶縁油中の水分量を測定する、変圧器の診断システム。
【請求項5】
前記評価部は、前記変圧器の劣化を段階的に評価する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の変圧器の診断システム。
【請求項6】
前記評価部は、前記重合度の経時データに基づいて、前記変圧器の使用可能期間を評価する寿命評価部を備える、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の変圧器の診断システム。
【請求項7】
前記評価部は、前記変圧器に設けられ、かつ、ネットワークに接続され、前記評価部による評価の結果を、前記ネットワークを介して接続される所定の処理装置に送信する、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の変圧器の診断システム。
【請求項8】
前記油温センサ及び前記水分量センサは、ネットワークに接続され、前記絶縁油の温度及び前記絶縁油中の水分量を、前記ネットワークを介して接続される所定の処理装置に備えられる前記評価部に送信する、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の変圧器の診断システム。
【請求項9】
変圧器の劣化を診断する変圧器の診断方法であって、
前記変圧器に設けられる油温センサにより、前記変圧器に用いられる絶縁油の温度を測定することと、
前記変圧器に設けられる水分量センサにより、前記絶縁油中の水分量を測定することと、
前記油温センサ及び前記水分量センサにより得られた前記温度及び前記水分量の経時データに基づいて、前記変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、前記重合度から前記変圧器の劣化を評価することと、を含み、
前記変圧器の劣化の評価は、前記経時データにおいて、所定の前記温度の変化における前記水分量の変化量から前記重合度を推定することにより行う、変圧器の診断方法。
【請求項10】
変圧器の劣化を診断する変圧器の診断方法であって、
前記変圧器に設けられる油温センサにより、前記変圧器に用いられる絶縁油の温度を測定することと、
前記変圧器に設けられる水分量センサにより、前記絶縁油中の水分量を測定することと、
前記油温センサ及び前記水分量センサにより得られた前記温度及び前記水分量の経時データに基づいて、前記変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、前記重合度から前記変圧器の劣化を評価することと、を含み、
前記変圧器の劣化の評価は、前記経時データにおいて、所定の前記温度における前記水分量の変化速度から前記重合度を推定することにより行う、変圧器の診断方法。
【請求項11】
変圧器の劣化を診断する変圧器の診断方法であって、
前記変圧器に設けられる油温センサにより、前記変圧器に用いられる絶縁油の温度を測定することと、
前記変圧器に設けられる水分量センサにより、前記絶縁油中の水分量を測定することと、
前記油温センサ及び前記水分量センサにより得られた前記温度及び前記水分量の経時データに基づいて、前記変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、前記重合度から前記変圧器の劣化を評価することと、を含み、
前記変圧器の劣化の評価は、前記経時データにおいて、前記水分量を前記温度で除した値の積算値から前記重合度を推定することにより行う、変圧器の診断方法。
【請求項12】
変圧器の劣化を診断する変圧器の診断方法であって、
前記変圧器は、前記変圧器に用いられる絶縁紙及び絶縁油を密閉した油中水分検出槽を、前記変圧器の絶縁油中に備えており、
前記変圧器に設けられる油温センサにより、前記油中水分検出槽の前記絶縁油の
温度を測定することと、
前記変圧器に設けられる水分量センサにより、前記油中水分検出槽の
前記絶縁油中の水分量を測定することと、
前記油温センサ及び前記水分量センサにより得られた前記温度及び前記水分量の経時データに基づいて、前記変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、前記重合度から前記変圧器の劣化を評価することと、を含む、変圧器の診断方法。
【請求項13】
鉄心と、前記鉄心に装着され、絶縁紙により絶縁された巻線と、前記巻線及び前記鉄心を浸漬する絶縁油とを備える、変圧器であって、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の変圧器の診断システムを備える、変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器の診断システム、変圧器の診断方法、及び変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、受変電機器の高経年化に伴うメンテナンス強化の必要性が重要視されている中で、状態監視による経年劣化状態の見える化と状態基準メンテナンス(CBM:Condition Based Maintenance)等によるメンテナンスの効率化が推進されている。油入変圧器の内部状態診断は、一般的に異常診断、劣化診断に大別される。異常診断は、変圧器内に封入された絶縁油中(油中)の溶存ガスを検出し、検出した溶存ガスにより、変圧器内部の異常の有無あるいは様相変化に関する診断を行う。劣化診断は、変圧器においては巻線絶縁紙の劣化状態の診断を意味する。劣化診断は、例えば、変圧器内の巻線絶縁紙の劣化により生成されて絶縁油中に溶存する一酸化炭素、二酸化炭素、フラン化合物などの劣化生成物を検出し、評価することで行われている(例えば、下記の特許文献1)。これらの診断は、例えば、メンテナンスなどの際に油入変圧器から絶縁油を採取し、採取した絶縁油中の対象成分を測定施設に設置される分析装置で定量分析することにより実施されている。また、500kV送電用の変圧器などの大規模で運用・メンテナンスコストが大きい大型変圧器では、異常の早期発見の観点から、絶縁油中における複数種のガスを精度よく分析可能な分析設備を変圧器に設け、オンサイトで常時監視による異常診断が行われる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように変圧器から採取した絶縁油の分析により劣化診断を行う場合、労力、時間及びコストを要する。また、上記のように絶縁油中における複数種のガスを精度よく分析可能な分析設備を変圧器に設ける場合、設備規模及び設備コストが増大する。
【0005】
配電用変圧器などの比較的規模の小さい変圧器(小規模変圧器)においても、内部状態の常時監視(オンラインモニタリング)が望まれるが、小規模変圧器においては、上記したオンサイトの分析設備導入に対する費用対効果の点であまり適用されておらず、絶縁油を採取して実施することによる内部状態の診断が一般的である。小規模変圧器において、異常診断に関しては、小規模で簡易な油中ガスセンサなどを用いてオンラインモニタリングを実現する事例もあるが、劣化診断に関しては実現されていない。劣化診断を常時監視するオンラインモニタリングで実施する場合、例えば、絶縁油中に溶存するガスの一種である一酸化炭素、二酸化炭素を用いて実施することになる。小規模で簡易な油中ガスセンサを用いて劣化診断を実施する場合、現状、一酸化炭素と二酸化炭素とを共に検出できるセンサの機種はなく、またフラン化合物については検出可能なセンサ自体がない。すなわち、現状では、従来の手法による劣化診断は、小規模で簡易な構成により実現することが困難である。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明は、変圧器におけるオンサイトの常時監視による劣化診断を、簡易且つ安価でコンパクトな構成により行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様に係る変圧器の診断システムは、変圧器の劣化を診断する変圧器の診断システムであって、変圧器に設けられ、変圧器に用いられる絶縁油の温度を測定する油温センサと、変圧器に設けられ、絶縁油中の水分量を測定する水分量センサと、油温センサ及び水分量センサにより得られた温度及び水分量の経時データに基づいて、変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、重合度から変圧器の劣化を評価する評価部と、を備え、評価部は、経時データにおいて、所定の温度の変化における水分量の変化量から重合度を推定する。
また、本発明の態様に係る変圧器の診断システムは、変圧器の劣化を診断する変圧器の診断システムであって、変圧器に設けられ、変圧器に用いられる絶縁油の温度を測定する油温センサと、変圧器に設けられ、絶縁油中の水分量を測定する水分量センサと、油温センサ及び水分量センサにより得られた温度及び水分量の経時データに基づいて、変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、重合度から変圧器の劣化を評価する評価部と、を備え、評価部は、経時データにおいて、所定の温度における水分量の変化速度から重合度を推定する。
また、本発明の態様に係る変圧器の診断システムは、変圧器の劣化を診断する変圧器の診断システムであって、変圧器に設けられ、変圧器に用いられる絶縁油の温度を測定する油温センサと、変圧器に設けられ、絶縁油中の水分量を測定する水分量センサと、油温センサ及び水分量センサにより得られた温度及び水分量の経時データに基づいて、変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、重合度から変圧器の劣化を評価する評価部と、を備え、評価部は、経時データにおいて、水分量を温度で除した値の積算値から重合度を推定する。
また、本発明の態様に係る変圧器の診断システムは、変圧器の劣化を診断する変圧器の診断システムであって、前記変圧器に設けられ、前記変圧器に用いられる絶縁油の温度を測定する油温センサと、前記変圧器に設けられ、前記絶縁油中の水分量を測定する水分量センサと、前記油温センサ及び前記水分量センサにより得られた前記温度及び前記水分量の経時データに基づいて、前記変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、前記重合度から前記変圧器の劣化を評価する評価部と、を備え、前記変圧器に用いられる絶縁紙及び絶縁油を密閉した油中水分検出槽を、前記変圧器の絶縁油中に備え、前記油温センサ及び前記水分量センサは、それぞれ、前記油中水分検出槽の前記絶縁油の油温及び前記絶縁油中の水分量を測定する。
また、本発明の態様に係る変圧器の診断システムは、変圧器の劣化を診断する変圧器の診断システムであって、変圧器に設けられ、変圧器に用いられる絶縁油の温度を測定する油温センサと、変圧器に設けられ、絶縁油中の水分量を測定する水分量センサと、油温センサ及び水分量センサにより得られた温度及び水分量の経時データに基づいて、変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、重合度から変圧器の劣化を評価する評価部と、を備える。なお、「絶縁紙の重合度」は、絶縁紙を構成するセルロースの平均重合度である。以下、「絶縁紙の重合度」を「重合度」と略すことがある。
【0008】
また、評価部は、経時データにおいて、所定の温度の変化における水分量の変化量から重合度を推定してもよい。また、評価部は、経時データにおいて、所定の温度における水分量の変化速度から重合度を推定してもよい。また、評価部は、経時データにおいて、水分量を温度で除した値の積算値から重合度を推定してもよい。また、評価部は、変圧器の劣化を段階的に評価してもよい。また、評価部は、重合度の経時データに基づいて、変圧器の使用可能期間を評価する寿命評価部を備えてもよい。また、変圧器の診断システムは、変圧器に用いられる絶縁紙及び絶縁油を密閉した油中水分検出槽を、変圧器の絶縁油中に備え、油温センサ及び水分量センサは、それぞれ、油中水分検出槽の絶縁油の油温及び絶縁油中の水分量を測定してもよい。また、評価部は、変圧器に設けられ、かつ、ネットワークに接続され、評価部による評価の結果を、ネットワークを介して接続される所定の処理装置に送信してもよい。また、油温センサ及び水分量センサは、ネットワークに接続され、絶縁油の温度及び絶縁油中の水分量を、ネットワークを介して接続される所定の処理装置に備えられる評価部に送信してもよい。
【0009】
本発明の態様に係る変圧器の診断方法は、変圧器の劣化を診断する変圧器の診断方法であって、変圧器に設けられる油温センサにより、変圧器に用いられる絶縁油の温度を測定することと、変圧器に設けられる水分量センサにより、絶縁油中の水分量を測定することと、油温センサ及び水分量センサにより得られた温度及び水分量の経時データに基づいて、変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、重合度から変圧器の劣化を評価することと、を含み、変圧器の劣化の評価は、経時データにおいて、所定の温度の変化における水分量の変化量から重合度を推定することにより行う。
また、本発明の態様に係る変圧器の診断方法は、変圧器の劣化を診断する変圧器の診断方法であって、変圧器に設けられる油温センサにより、変圧器に用いられる絶縁油の温度を測定することと、変圧器に設けられる水分量センサにより、絶縁油中の水分量を測定することと、油温センサ及び水分量センサにより得られた温度及び水分量の経時データに基づいて、変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、重合度から変圧器の劣化を評価することと、を含み、変圧器の劣化の評価は、経時データにおいて、所定の温度における水分量の変化速度から重合度を推定することにより行う。
また、本発明の態様に係る変圧器の診断方法は、変圧器の劣化を診断する変圧器の診断方法であって、変圧器に設けられる油温センサにより、変圧器に用いられる絶縁油の温度を測定することと、変圧器に設けられる水分量センサにより、絶縁油中の水分量を測定することと、油温センサ及び水分量センサにより得られた温度及び水分量の経時データに基づいて、変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、重合度から変圧器の劣化を評価することと、を含み、変圧器の劣化の評価は、経時データにおいて、水分量を温度で除した値の積算値から重合度を推定することにより行う。
また、本発明の態様に係る変圧器の診断方法は、変圧器の絶縁油中に備えた変圧器の劣化を診断する変圧器の診断方法であって、変圧器は、変圧器に用いられる絶縁紙及び絶縁油を密閉した油中水分検出槽を、変圧器の絶縁油中に備えており、変圧器に設けられる油温センサにより、油中水分検出槽の絶縁油の温度を測定することと、変圧器に設けられる水分量センサにより、油中水分検出槽の絶縁油中の水分量を測定することと、油温センサ及び水分量センサにより得られた温度及び水分量の経時データに基づいて、変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、重合度から変圧器の劣化を評価することと、を含む。
また、本発明の態様に係る変圧器の診断方法は、変圧器の劣化を診断する変圧器の診断方法であって、変圧器に設けられる油温センサにより、変圧器に用いられる絶縁油の温度を測定することと、変圧器に設けられる水分量センサにより、絶縁油中の水分量を測定することと、油温センサ及び水分量センサにより得られた温度及び水分量の経時データに基づいて、変圧器に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、重合度から変圧器の劣化を評価することと、を含む。
【0010】
本発明の変圧器は、鉄心と、鉄心に装着され、絶縁紙により絶縁された巻線と、巻線及び鉄心を浸漬する絶縁油とを備える、変圧器であって、上記した変圧器の診断システムを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る変圧器の診断システム、変圧器の診断方法、及び変圧器は、変圧器におけるオンサイトの常時監視による劣化診断を、簡易且つ安価でコンパクトな構成により行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る変圧器の診断システムを示す図である。
【
図2】第1実施形態における絶縁油の温度、絶縁紙中水分量及び絶縁油中水分量の関係を示すグラフである。
【
図3】第1実施形態における絶縁紙の劣化度、紙中水分量、及び油中水分量の関係を示すグラフである。
【
図4】第1実施形態の評価部による絶縁紙(DP1000)における油中水分量及び油温の経時データの処理の説明図である。
【
図5】第1実施形態の評価部による絶縁紙(DP600)における油中水分量及び油温の経時データの処理の説明図である。
【
図6】第1実施形態の評価部による絶縁紙(DP450)における油中水分量及び油温の経時データの処理の説明図である。
【
図7】第1実施形態における水分変化量と絶縁紙の重合度との関係を示すグラフである。
【
図8】第1実施形態における寿命評価部による評価の説明図である。
【
図9】第1実施形態に係る変圧器の診断方法のフローチャートである。
【
図10】第2実施形態に係る変圧器の診断システムを示す図である。
【
図11】第2実施形態の評価部による絶縁紙(DP1000)における油中水分量及び油温の経時データの処理の説明図である。
【
図12】第2実施形態の評価部による絶縁紙(DP600)における油中水分量及び油温の経時データの処理の説明図である。
【
図13】第2実施形態の評価部による絶縁紙(DP450)における油中水分量及び油温の経時データの処理の説明図である。
【
図14】第2実施形態における立ち上がり温度と、絶縁紙の重合度との関係を示すグラフである。
【
図15】第2実施形態に係る変圧器の診断方法のフローチャートである。
【
図16】第3実施形態に係る変圧器の診断システムを示す図である。
【
図17】第3実施形態の評価部による絶縁紙(DP1000)における油中水分量及び油温の経時データの処理の説明図である。
【
図18】第3実施形態の評価部による絶縁紙(DP600)における油中水分量及び油温の経時データの処理の説明図である。
【
図19】第3実施形態の評価部による絶縁紙(DP450)における油中水分量及び油温の経時データの処理の説明図である。
【
図20】第3実施形態における油温降下時の水分変化速度と、絶縁紙の重合度との関係を示すグラフである。
【
図21】第4実施形態に係る変圧器の診断システムを示す図である。
【
図22】第4実施形態における油中水分量/油温積算値と、絶縁紙の重合度との関係を示すグラフである。
【
図23】第4実施形態に係る変圧器の診断方法のフローチャートである。
【
図24】第5実施形態に係る変圧器の診断システムを示す図である。
【
図25】第6実施形態に係る変圧器の診断システムを示す図である。
【
図26】参考例の検証装置を示す図であり、(A)は概略図、(B)は写真である。
【
図27】参考例における室温変動に応じた油温変化に対する両センサにより測定された油中水分量の変化を示すグラフである。
【
図28】参考例における温度センサAで測定した油温と油中水分量の関係を示すグラフである。
【
図29】参考例における絶縁紙(DP1000)に対する油温の変動パターンと油中水分量の変化を示すグラフであり、(A)は油温、(B)は油中水分量を示す。
【
図30】参考例における絶縁紙(DP1000)と絶縁紙(DP450)の油温に対する油中水分量の変化を比較した図であり、(A)は油温、(B)は油中水分量を示す。
【
図31】参考例における絶縁紙(DP1000)と絶縁紙(DP450)の油温及び油中水分量のトレンドを比較した図であり、(A)昇温時間を長くした条件におけるデータ(B)は通常の昇温時間におけるデータである。
【
図32】参考例における劣化絶縁紙(DP450)の油温変化に対する油中水分変化を示す図であり、(A)は油温、(B)は油中水分量を示す。
【
図33】参考例における劣化絶縁紙(DP600)の油温変化に対する油中水分変化を示す図であり、(A)は油温、(B)は油中水分量を示す。
【
図34】参考例における絶縁紙(DP1000、DP450、DP650)と劣化絶縁紙における水分の吸脱着速度を比較した図であり、(A)は油温、(B)は油中水分量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。また、図面においては実施形態を説明するため、一部分を大きく又は強調して記載するなど適宜縮尺を変更して表現している。
【0014】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る変圧器の診断システム(以下、「診断システム」と称す。)を概念的に示す図である。本実施形態の診断システム1は、変圧器の劣化を診断する。診断システム1は、油入変圧器に用いられる。診断システム1は、油入変圧器中の絶縁油の温度と絶縁油中の水分量との経時データに基づいて、常時監視による劣化の診断を行う。本実施形態では、診断システム1は、本実施形態の変圧器2に備えられる構成として説明する。
【0015】
本実施形態の変圧器2について説明する。本実施形態の変圧器2は、鉄心4と、鉄心4に装着され、絶縁紙(巻線絶縁紙)により絶縁された巻線(一次巻線5、二次巻線6)と、巻線(一次巻線5、二次巻線6)及び鉄心4を浸漬する絶縁油7とを備える変圧器であって、診断システム1を備えている。変圧器2の構成は、油入変圧器であれば、限定されず任意である。すなわち、診断システム1は、任意の油入変圧器に適用可能である。例えば、変圧器2は、配電用変圧器などの比較的規模の小さい変圧器(例、印加電圧が6600V等の柱上変圧器)でもよいし、送電用変圧器などの比較的大規模な変圧器(例、印加電圧が60kV以上の変圧器)でもよい。
【0016】
本実施形態では、変圧器2が、鉄心4と、一次巻線5(巻線)、二次巻線6(巻線)、絶縁油7、タンク8、冷却器10、一次ブッシング11、二次ブッシング12、及び診断システム1を備える構成として説明する。
【0017】
タンク8は、上方に蓋(図示せず)が設けられ、蓋により内部を密閉した状態で封止することができる。タンク8の内部には、鉄心4、一次巻線5、及び二次巻線6が収容される。また、タンク8の内部には、絶縁油7が収容される。鉄心4は、O字状である。鉄心4の外周には、一次巻線5及び二次巻線6が巻回されている。一次巻線5及び二次巻線6は、それぞれ、絶縁紙(図示せず)に被覆された導体が巻回されたものである。一次巻線5及び二次巻線6は、それぞれ、絶縁紙により絶縁されている。この絶縁紙は、JISなどの工業規格により定められた特性を有する絶縁紙である。一次巻線5及び二次巻線6が巻回された鉄心4は、絶縁油7に浸漬された状態で、タンク8に収容される。絶縁油7は、絶縁及び冷却の媒体として機能する。絶縁油7は、JISなどの工業規格により定められた特性を有する絶縁油である。一次巻線5及び二次巻線6は、それぞれ、配線を介して、一次ブッシング11、二次ブッシング12に接続されている。
【0018】
タンク8には、配管14を介して、冷却器10が接続される。冷却器10は、絶縁油7を冷却する。冷却器10は、変圧器2の内部で発生した熱により温度上昇した絶縁油7を、空気との熱交換により冷却する。なお、冷却器10の構成は、上記の例に限定されず任意である。例えば、冷却器10は、送風機、フィン、ラジエター、ポンプ等を備えるタイプでもよい。
【0019】
診断システム1は、例えば、センサ収容部16、油温センサ17、水分量センサ18、処理装置19、及び表示装置20を備える。診断システム1は、配管22を介してタンク8に接続される。センサ収容部16は、油温センサ17及び水分量センサ18を内部に収容する。また、センサ収容部16は、配管22を介してタンク8から絶縁油7を内部に流入させ、絶縁油7を内部に収容する。これにより、センサ収容部16の内部に収容される油温センサ17及び水分量センサ18における測定素子は、絶縁油7に接触する。
【0020】
油温センサ17は、絶縁油7の温度を測定するセンサである。油温センサ17は、絶縁油7の温度を経時的に測定する。油温センサ17は後に説明する処理装置19に通信可能に接続される。油温センサ17の測定結果は、処理装置19に送られる。油温センサ17は、例えば、絶縁油7の温度を検出限界1℃で測定可能な公知のセンサを用いることができる。すなわち、油温センサ17は、比較的安価なセンサを用いることができる。油温センサ17は、油温の変化に対する感度が高く、測定精度がよいセンサが好ましい。なお、油温センサ17の構成は、特に限定されず、任意である。
【0021】
水分量センサ18は、絶縁油7中の水分量を測定するセンサである。水分量センサ18は、絶縁油7中の水分量を経時的に測定する。水分量センサ18は、処理装置19に通信可能に接続される。水分量センサ18の測定結果は、処理装置19に送られる。水分量センサ18は、例えば、絶縁油7の水分量を検出限界数ppm程度で測定可能な公知のセンサを用いることができる。すなわち、水分量センサ18は、比較的安価なセンサを用いることができる。水分量センサ18は、水分量の変化に対する感度が高く、測定精度がよいセンサが好ましい。なお、水分量センサ18の構成は、特に限定されず、任意である。
【0022】
なお、油温センサ17(油温センサ17の設置位置)は、後に説明する参考例等で説明するように、変圧器2内の絶縁油7の油温を示す(反映する)温度を測定することができればよい。例えば、油温センサ17は、その測定素子の設置位置に応じて測定結果が異なる場合もあるが、このような場合においても、例えば、測定結果を補正することにより、診断システム1において用いることができる。また、水分量センサ18(水分量センサ18の設置位置)においても、上記の油温センサ17と同様に、変圧器2内の絶縁油7中の水分量を示す(反映する)水分量を測定することができればよい。
【0023】
また、油温センサ17及び水分量センサ18は、一体で構成されてもよいし、互いに独立した構成でもよい。また、油温センサ17及び水分量センサ18は、それぞれ、測定可能であれば、センサ収容部16により収容されなくてもよい。例えば、油温センサ17及び水分量センサ18は、タンク8内に配置し、配管22を省略する構成でもよい。
【0024】
処理装置19は、油温センサ17及び水分量センサ18により得られた温度及び水分量の経時データに基づいて、絶縁紙の重合度を推定し、重合度から変圧器2の劣化を評価する。本実施形態の診断システム1は、油温センサ17及び水分量センサ18により得られた結果に基づいて、変圧器2の劣化を評価するので、装置サイズがコンパクトである。
【0025】
処理装置19は、例えば、CPU、メインメモリ、記憶装置、通信装置等を備え、各種情報の処理を行うコンピュータ装置である。処理装置19は、例えば、油温センサ17の測定結果及び水分量センサ18の測定結果に基づく各種の情報(データ)の処理、情報の記憶、情報の入出力、情報の通信(送受信)等を行う。
【0026】
処理装置19は、例えば、処理部24、記憶部25、及び通信部26を備える。記憶部25は、ハードディスク、不揮発性メモリ等の記憶装置であり、各種情報(データ)を記憶(格納)する。記憶部25には、例えば、処理装置19の各部の動作に必要な各種プログラムあるいは各種情報、油温センサ17の測定結果、水分量センサ18の測定結果、それらの測定結果に基づく情報等が記憶される。通信部26は、各種情報の通信(送受信)を行う。通信部26は、油温センサ17の測定結果及び水分量センサ18の測定結果の受信を行う。また、通信部26は、ネットワークNWを介した情報の送受信が可能である。例えば、通信部26は、ネットワークNWを介して、処理装置28と各種情報の通信(送受信)を行う。ネットワークNWは、光ファイバ、ADSL、PLC(Power Line Communication;電力線搬送通信)等の有線ネットワークでもよいし、無線でもよい。処理装置19には、表示装置20及び入力装置(図示せず)が接続される。表示装置20は、処理装置19の指令に基づいて、各種情報を表示する。また、入力装置は、処理装置19に各種情報を入力する。
【0027】
処理部24は、各種演算等の処理を行う。処理部24は、例えば、油温センサ17から送られた測定結果及び水分量センサ18から送られた測定結果を、それぞれ、経時データに処理する。また、処理部24は、評価部30を備える。
【0028】
ここで、絶縁油7中の水分の挙動について説明する。
図2は、絶縁油の温度、絶縁紙中水分量、及び絶縁油7中水分量の関係を示すグラフである。
図2に示すグラフは、Y.Duら著, "Moisture Equilibrium in Transformer Paper-Oil Systems",IEEE Electrical Insulation Magazine, Vol.15, No.1, 1999, から引用したグラフである。
図2において、縦軸は絶縁紙中水分量(wt%)を示し、横軸は絶縁油中水分量(ppm)を示す。なお、以下の説明において、「絶縁油の温度」を「油温」、「絶縁紙中水分量」を「紙中水分量」、「絶縁油中水分量」を「油中水分量」と、称すこともある。
【0029】
変圧器2内において、水分は、絶縁紙と絶縁油7との間で分担されて保持される。この水分は、絶縁油7が一定温度の場合、絶縁紙と絶縁油7との間において平衡状態となるが、
図2に示すように、油温が変わると絶縁紙と絶縁油7との間で水分が移動する現象が知られる。その結果、変圧器2の負荷変動などに起因する油温の変化に対して、絶縁油7中の水分量は増減する。例えば、油温が上がると、絶縁紙に保持される水分の一部は、絶縁紙から絶縁油7に移動する。反対に、油温が下がると、絶縁油7中の水分は、絶縁油7から絶縁紙に移動する。
【0030】
図3は、絶縁紙の劣化度、紙中水分量、及び油中水分量の関係を示すグラフである。
図3は、油温70℃において、絶縁紙の重合度(DP)がDP1000、DP600、DP450を示す絶縁紙における、紙中水分量と油中水分量との関係を示している。また、本明細書の説明において、その重合度が「x」である絶縁紙を、絶縁紙(DPx)と表記することがある。例えば、絶縁紙の重合度がDP1000、DP600、DP450を示す絶縁紙は、それぞれ、絶縁紙(DP1000)、絶縁紙(DP600)、絶縁紙(DP450)と表記する。なお、重合度において、DP1000は新品の絶縁紙の重合度であり、DP600及びDP450は劣化品の絶縁紙の重合度である。各重合度(DP1000、DP600、DP450)の絶縁紙は、参考例で説明するように、油温の昇降を行うことにより、人為的に作製することが可能である。
【0031】
絶縁紙が劣化すると、絶縁紙の構成成分であるセルロースの分子間の結合が切断されていく。また、変圧器の劣化の程度(劣化度)は、絶縁紙の引張強さの低下の程度に起因する。また、絶縁紙の引張強さは、重合度と密接な関係があることが知られる。これらのことから、絶縁紙及び変圧器において、絶縁紙の重合度は、絶縁紙の劣化度及び変圧器の劣化度と密接な関係があり、絶縁紙の劣化度及び変圧器の劣化度の指標とされている。例えば、絶縁紙の重合度の値が小さいほど、絶縁紙の劣化度及び変圧器の劣化度が大きいことを示す。
【0032】
また、上記した紙中水分量と油中水分量との平衡関係は、
図3に示すように、絶縁紙の劣化度に応じて異なる。例えば、
図3に示すように、絶縁紙の劣化度が大きい場合、絶縁紙中の水分は、絶縁油7側へ移行しやすくなることがわかる。これは、絶縁紙の劣化度が大きくなると、絶縁紙の保水力が低下するためであると考えられる。また、参考例に示すように、上記した絶縁紙の劣化の進行(劣化度の増加)による油中水分量の増加は、油温が高いほど顕著に表れる。
【0033】
ここで、油中水分量及び油温の経時データについて説明する。なお、本明細書において、経時データとは、経時的に測定されたデータを意味する。油中水分量及び油温の経時データは、変圧器2の日々の負荷の変動に応じて、変圧器の油温が変化し、変化した油温に応じた油中水分量を示すデータとなる。油中水分量及び油温の経時データは、例えば、変圧器2が昼間は高負荷であり夜間は低負荷であるため、日周期的な変動を示すデータとなる。油中水分量及び油温の経時データは、例えば、参考例に示すように、油温が周期的に変動する場合、ヒステリシスな環状トレンド(環状に変化するパターン)のデータとなる(
図18、
図19参照)。
【0034】
図4から
図6は、油中水分量及び油温の経時データD1(以下、「経時データ」と略して表記する。)の一例を示す図である。
図4から
図6には、種々の劣化度の絶縁紙(DP1000(
図4)、DP600(
図5)、DP450(
図6))における経時データD1を示す。なお、
図4から
図6に示した各劣化度の絶縁紙における経時データD1は、それぞれ、後に説明する参考例と同様の方法で、人為的に油温を変化させたときに、油温センサ及び水分量センサAを用いて所定の時間間隔で油温及び油中水分量を測定することにより作成したデータである。
図4及び
図5に示す経時データD1は、油温を30℃から70℃に上昇させ油温を70℃に所定時間保持した後に、油温を30℃に降温させる油温制御(昇降サイクル)を2回繰り返したときに得られたデータである。
図6に示す経時データD1は、
図4及び
図5と同様の昇降サイクルを3回繰り返したときに得られたデータである。なお、30℃から70℃の油温の変動は、変圧器の実負荷の10%から90%における油温の変動に相当する。また、
図4から
図6に示す継時データD1のそれぞれにおいて、1回目と2回目の油温制御における70℃の保持時間は異なっている。また、
図4から
図6に示す経時データD1において、タンク(容器部66)中の油温が30℃から70℃で変動するのに対して、油温センサ17による測定温度の変化が25℃から48℃であったが、この油温センサ17による測定温度の変化は、実際の油温の昇降パターンと同様の昇降パターンを示し、実際の油温の変化が反映したものである(参考例参照)。
【0035】
図4から
図6に示す経時データD1は、上記したように油温を昇降させたサイクルを2回又は3回繰り返したときに得られたデータである。このため、
図4から
図6に示す経時データD1は、2つあるいは3つのヒステリシスな環状トレンドが存在するデータとなる。
【0036】
図2及び
図3で説明したように、油温、絶縁紙の劣化度、紙中水分量、及び油中水分量は関係を有している。このため、
図4から
図6に示す経時データD1は、絶縁紙の劣化度に応じて異なるデータとなり、これらの経時データD1から、絶縁紙の劣化度を求める(推定する)ことが可能となる。
【0037】
本実施形態の診断システム1では、処理部24における評価部30(
図1参照)が、経時データD1に基づいて、変圧器2に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、重合度から変圧器(絶縁紙)の劣化を評価する。
【0038】
評価部30による経時データD1に基づく重合度の評価は、
図2及び
図3で説明した油温、絶縁紙の劣化度、紙中水分量、及び油中水分量は関係を用いた任意の方法により実施することができる。例えば、本実施形態の評価部30は、経時データD1において、所定の温度(油温)の変化に対する油中水分量の変化量(以下、「水分変化量」と略して表記する。)から重合度を推定する。以下、評価部30が
図4から
図6に示す経時データD1を評価するケースを一例として説明する。
【0039】
まず、評価部30は、経時データD1から、所定の油温の変化におけるデータを抽出する。上記所定の油温の変化は、予め設定される。上記所定の油温の変化は、任意に設定可能である。上記したように、上記した絶縁紙の劣化の進行(劣化度の増加)による油中水分量の増加は、油温が高いほど顕著に表れるため、設定する所定の油温の変化は、比較的高温の油温におけるデータを含む方が好ましい。例えば、設定する所定の油温の変化は、本実施形態のように、タンク8中の絶縁油7の温度で70℃程度(比較的高温)の油温を含むのが好ましい。また、抽出する比較的高温の油温におけるデータは、多い方が好ましい。
【0040】
なお、診断システム1は、例えば、変圧器2内の絶縁油7の油温が70℃程度まで達しない場合、あるいは油温が70℃程度で保持される時間が短い場合、温度幅が小さくなり、変圧器(絶縁紙)の劣化の評価の感度が低くなる可能性があるため、タンク8内にヒーターなどの加熱装置を設け、油温を所定の温度(70℃程度)に上昇させて、規定時間保持する変圧器の劣化の評価用の動作を行う構成を備えてもよい。この構成の場合、診断システム1における変圧器の劣化の評価を確実かつ精度よく実施することができる。
【0041】
なお、上記の所定の油温の変化は、油温の変化の範囲として設定してもよいし、所定の変動パターンとして設定してもよい。例えば、本実施形態では、所定の油温の変化を、センサにより測定された油温が25℃から48℃に上昇した後25℃に下降する変化に含まれる範囲として設定している。この場合、評価部30は、
図4から
図6に示す経時データD1の場合、所定の油温の変化を示す2つ又は3つの環状トレンドのデータを抽出する。
【0042】
続いて、評価部30は、抽出した所定の油温の変化に相当するデータにおける水分変化量を求める。例えば、本例の評価部30では、上記のように抽出した、複数の所定の油温の変化に相当するデータにおける水分変化量の平均値を算出する。評価部30は、複数の所定の油温の変化に相当するデータにおける水分変化量のうち、最大の水分変化量と最小の水分変化量とを求めて、これらの平均値を算出する。評価部30は、例えば、
図4から
図6に示す経時データD1の場合、以下の表1に示す水分変化量(平均)を算出する。
【0043】
【0044】
なお、評価部30による水分変化量の算出の方法は、上記の例に限定されず任意である。例えば、評価部30は、複数の所定の油温の変化に相当するデータにおけるそれぞれの水分変化量を求めて、それらの平均値を水分変化量として算出してもよいし、また、複数の所定の油温の変化に相当するデータにおける最大の水分変化量を水分変化量として算出してもよい。
【0045】
続いて、評価部30は、求めた水分変化量に基づいて、重合度を推定する。水分変化量は、重合度と相関がある。
図7は、水分変化量と絶縁紙の重合度との関係を示すグラフである。
図7は、
図4から
図6に示した経時データD1に基づいて得られた水分変化量と、絶縁紙の重合度との関係を示すグラフである。例えば、
図7に示す例の場合、水分変化量と重合度との間には、図中に示した関係式で表される相関の関係がある。すなわち、評価部30は、未知の経時データD1から水分変化量を求め、水分変化量と重合度との関係に基づいて、重合度を推定することができる。
図7に示すように、水分変化量と重合度との間との関係は、高い相関を示すので、重合度を精度よく推定することができる。
【0046】
評価部30が用いる上記の水分変化量と重合度との関係は、予め記憶部25に情報(データ)として記憶される。評価部30は、求めた水分変化量を、記憶部25に記憶される水分変化量と重合度との関係情報に照合し、重合度を推定する。評価部30により求められた重合度は、処理部24により、経時データとして、記憶部25に格納される。
【0047】
上記の水分変化量と重合度との関係は、油温(所定の油温の変化)、絶縁紙の組成あるいは絶縁油の組成に応じて変化するが、予備実験、あるいは、数値解析などのシミュレーションなどにより、予め求めることができる。なお、評価部30は、上記した水分変化量と重合度との関係情報を用いる処理を行わずに、経時データD1と重合度とを直接関連づけた情報に基づいて、重合度を推定してもよい。例えば、経時データD1と重合度とを直接関連づけた情報は、機械学習などにより求めた情報でもよい。
【0048】
上記したように、変圧器2の劣化診断は変圧器2においては絶縁紙の劣化状態の診断を意味し、また、絶縁紙の劣化度はセルロースの重合度で表すことができる。すなわち、評価部30により重合度を求めることにより、変圧器(絶縁紙)の劣化度(劣化状態)を定量的に診断することができる。
【0049】
また、評価部30は、変圧器(絶縁紙)の劣化度を段階的に評価する。例えば、評価部30は、求めた重合度から、下記の表2に示す基準により、変圧器(絶縁紙)の劣化度を段階的に評価(判定)する。これにより、変圧器(絶縁紙)の劣化度を、シンプルかつ適切に表現することができる。なお、下記の表2に示すように、段階的評価の基準は、JEM1463「変圧器用絶縁紙の平均重合度評価基準」では、重合度450を寿命レベル、重合度250を危険レベルとしており、この基準を用いてもよい。
【0050】
【0051】
また、本実施形態の評価部30は、重合度の経時データに基づいて、変圧器の使用可能期間を評価する寿命評価部32を備える。
【0052】
図8は、寿命評価部による評価の説明図である。例えば、寿命評価部32は、
図8に示すように、記憶部25に記憶される重合度の経時データの近似式を求め、求めた近似式に基づいて、変圧器の使用可能期間を評価する。例えば、寿命評価部32は、
図8に示すように、求めた近似式から、平均重合度が寿命レベルを示す450、あるいは危険レベルを示す250となる時(年)(t1、t2)を算出し、平均重合度が寿命レベルに達するまでの期間(t1-t0)あるいは危険レベルに達するまでの期間(t2-t0)を求めることにより、変圧器の使用可能期間について評価する。これにより、変圧器の寿命を簡単に評価することができる。上記の近似式を求める方法は、特に限定されず、任意である。例えば、上記の近似式は、Acker, C.R著、「Transformer Insulation Deterioration and Transformers Life Expectancy-A More Comprehensive Concept」, IEEE PES, Winter Meeting, A76, p21-26, 1976,に記載される方法により、下記の式(1)を用いて重合度の経時データを最小二乗法により近似することにより得ることができる。
【0053】
【0054】
評価部30(寿命評価部32)は、上記した変圧器(絶縁紙)の劣化、及び変圧器の使用可能期間を、所定の時間間隔で継続して評価する。なお、上記所定の時間間隔は、任意に設定可能である。例えば、評価部30(寿命評価部32)は、上記の評価をリアルタイムに実施してもよいし、数分あるいは数時間ごとに実施してもよい。本実施形態の診断システム1は、上記のようにして、変圧器における常時監視による劣化の診断を行う。
【0055】
また、評価部30は、
図1に示すように、ネットワークNWに接続され、評価部30による評価の結果を、ネットワークNWを介して接続される所定の処理装置28に送信する。評価部30による評価の結果は、寿命評価部32の評価結果を含み、例えば、上記した重合度、変圧器(絶縁紙)の劣化の評価、及び変圧器の使用可能期間の評価等を含む。
【0056】
上記の処理装置28は、例えば、CPU、メインメモリ、記憶装置、通信装置等を備え、各種情報の処理を行うコンピュータ装置である。この処理装置28は、データ管理部34、記憶部35を含む。処理装置28は、評価部30から送られた評価の結果(評価結果)を、記憶部35に逐次格納する。データ管理部34は、評価結果に基づいた、変圧器の管理及び監視を行う。例えば、データ管理部34は、評価結果において、要注意レベル、寿命レベル、危険レベル等の変圧器(絶縁紙)の劣化が特定の程度を示す変圧器、あるいは、変圧器の使用可能期間が短い等の変圧器の使用可能期間が特定の程度を示す変圧器がある場合、その旨をユーザに示す構成にしてもよい。本実施形態においては、
図1に示すように、複数の変圧器2が処理装置28にネットワークNWを介して接続され、それぞれ、処理装置28により管理及び監視が行われる、変圧器管理システムが構成されている。なお、上記した評価部30が評価結果を所定の処理装置28に送信する構成を備えるか否かは任意である。
【0057】
また、処理装置19は、表示装置20を備える。表示装置20は、各種情報を表示する。例えば、表示装置20は、評価部30の評価結果を表示する。表示装置20は、液晶ディスプレイ、タッチパネルなどである。なお、表示装置20を備えるか否かは任意である。
【0058】
上記の説明のように、本実施形態の診断システム1は、変圧器の劣化を診断する変圧器の診断システムであって、変圧器2に設けられ、変圧器2に用いられる絶縁油7の温度を測定する油温センサ17と、変圧器2に設けられ、絶縁油7中の水分量を測定する水分量センサ18と、油温センサ17及び水分量センサ18により得られた温度及び水分量の経時データD1に基づいて、変圧器2に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、重合度から変圧器(絶縁紙)の劣化を評価する評価部30と、を備える。この構成の場合、診断システム1は、簡易且つ安価でコンパクトな油温センサ17及び水分量センサ18を用いて、変圧器(絶縁紙)の劣化を評価するので、変圧器における常時監視による劣化診断を、簡易且つ安価でコンパクトな構成により行うことができる。
【0059】
また、上記の説明のように、本実施形態の変圧器2は、上記した本実施形態の診断システム1を備えるので、変圧器におけるオンサイトの常時監視による劣化診断を、簡易且つ安価でコンパクトな構成により行うことができる。
【0060】
次に、上述した診断システム1に基づいて、本実施形態の変圧器の診断方法について説明する。
図9は、本実施形態の変圧器の診断方法のフローチャートである。
【0061】
本実施形態の変圧器の診断方法は、変圧器の劣化を診断する変圧器の診断方法である。変圧器の診断方法は、本実施形態の診断システム1を用いて行うことができる。
【0062】
例えば、本実施形態の診断方法では、
図9のステップS1において、上記のように、変圧器2に設けられる油温センサ17により、変圧器2に用いられる絶縁油7の温度を測定する。続いて、ステップS2において、上記のように、変圧器2に設けられる水分量センサ18により、絶縁油7中の水分量を測定する。
【0063】
続いて、ステップS3において、上記のように、評価部30により、油温センサ17及び水分量センサ18により得られた温度及び水分量の経時データD1に基づいて、変圧器2に用いられる絶縁紙の重合度を推定する。例えば、ステップS4において、上記のように、評価部30により、経時データD1において、所定の温度の変化における水分量の変化量から重合度を推定する。例えば、評価部30は、上記したように、経時データD1から、予め設定した所定の油温の変化に相当するデータを抽出し、抽出した所定の油温の変化に相当するデータにおける水分変化量(平均)を求め、重合度を推定する。
【0064】
続いて、ステップS5において、上記のように、評価部30により、重合度から変圧器の劣化を評価する。例えば、評価部30は、上記のように、重合度から変圧器の劣化を段階的に評価する。
【0065】
続いて、ステップS6において、上記のように、寿命評価部32により、重合度の経時データに基づいて、変圧器の使用可能期間を評価する。例えば、寿命評価部32は、上記のように、平均重合度が寿命レベルあるいは危険レベルとなる時(日)を算出し、平均重合度が寿命レベルに達するまでの期間あるいは危険レベルに達するまでの期間を求めることにより、変圧器の使用可能期間について評価する。
【0066】
上記の説明のように、本実施形態の変圧器の診断方法は、変圧器の劣化を診断する変圧器の診断方法であって、変圧器2に設けられる油温センサ17により、変圧器2に用いられる絶縁油7の温度を測定することと、変圧器2に設けられる水分量センサ18により、絶縁油7中の水分量を測定することと、油温センサ17及び水分量センサ18により得られた温度及び水分量の経時データD1に基づいて、変圧器2に用いられる絶縁紙の重合度を推定し、重合度から変圧器2の劣化を評価することと、を含む。この構成の場合、変圧器の診断方法は、簡易且つ安価でコンパクトな油温センサ17及び水分量センサ18を用いて、変圧器に用いられる絶縁紙の劣化を評価するので、変圧器におけるオンサイトの常時監視による劣化診断を、簡易且つ安価でコンパクトな構成により行うことができる。
【0067】
以上説明したように、本実施形態の変圧器2、診断システム1、及び変圧器の診断方法は、変圧器におけるオンサイトの常時監視による劣化診断を、簡易且つ安価でコンパクトな構成により行うことができる。
【0068】
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。本実施形態において、上述の実施形態と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略あるいは簡略化する。
【0069】
図10は、第2実施形態の診断システム1A及び変圧器2Aを示す図である。この診断システム1Aは、重合度を推定する方法が第1実施形態と異なる評価部30Aを備える点が、第1実施形態の診断システム1と異なっており、評価部30A以外の構成は、第1実施形態の診断システム1と同様である。診断システム1Aは、本実施形態の変圧器2Aに備えられる。変圧器2Aは、診断システム1A以外の構成は、第1実施形態の変圧器2と同様である。
【0070】
以下、本実施形態の評価部30Aが
図11から
図13に示す経時データD1を評価するケースを一例として説明する。
図11から
図13に示す経時データD1は、それぞれ、
図4から
図6と同一の経時データD1であり、種々の劣化度の絶縁紙(DP1000(
図11)、DP600(
図12)、DP450(
図13))におけるデータである。
【0071】
図11から
図13の経時データD1に示すように、各経時データD1では、各環状トレンドにおける高温時において、油中水分量が急激に立ち上がる現象が見られる(図中の「○」の部分)。経時データD1では、この油中水分量が急激に立ち上がる温度(以下、「立ち上がり温度」と称す。)は、
図11から
図13に示すように、絶縁紙の劣化度によって、差異が見られる。したがって、この立ち上がり温度から、重合度を推定することができる。
【0072】
そこで、本実施形態の評価部30Aは、経時データD1において、所定の温度における油中水分量の変化の速度(以下、「水分変化速度」と略して表記する。)から重合度を推定する。まず、評価部30Aは、経時データD1から、所定の温度の範囲におけるデータを抽出する。この所定の温度は、予め設定される。上記の所定の温度は、例えば、経時データD1において、温度の最大値から所定の範囲の温度に設定される。これにより、経時データD1の複数の環状トレンドにおける高温時のデータを選択することができる。例えば、
図11から
図13に示す経時データD1の場合、油温が25℃から48℃までの変動を示すので、最大値(48℃)から10℃の範囲の温度(38℃から48℃)を、所定の温度として設定する。
【0073】
続いて、評価部30Aは、上記のように抽出した経時データD1の各環状トレンドにおける高温時のデータにおいて、油中水分変化速度の変化(油中水分量の変化の加速度)が最大を示す温度を求める。これにより、環状トレンドにおける立ち上がり温度を求めることができる。そして、評価部30Aは、各環状トレンドにおける立ち上がり温度の平均値を算出し、重合度の推定に用いる。評価部30Aは、例えば、
図11から
図13に示す経時データD1の場合、下記の表3に示すように、立ち上がり温度を算出する。
【0074】
【0075】
続いて、評価部30Aは、求めた立ち上がり温度に基づいて、重合度を推定する。上記立ち上がり温度は、重合度と相関がある。
図14は、立ち上がり温度と絶縁紙の重合度との関係を示すグラフである。
図14は、
図11から
図13に示した経時データD1に基づいて得られた立ち上がり温度と、絶縁紙の重合度との関係を示すグラフである。例えば、
図13に示す例の場合、立ち上がり温度と重合度との間には、図中に示す関係式で表される相関の関係がある。すなわち、評価部30Aは、立ち上がり温度を求め、立ち上がり温度と重合度との関係に基づいて、重合度を推定することができる。
図14に示すように、立ち上がり温度と重合度との間との関係は、高い相関を示すので、重合度を精度よく推定することができる。
【0076】
本実施形態の評価部30Aの評価結果は、
図11から
図13、表3の結果から、第1実施形態の評価部30の評価結果と同様に、重合度を精度よく推定していることが確認される。
【0077】
以上のように、診断システム1Aは、評価部30Aにより重合度を求めることにより、変圧器(絶縁紙)の劣化度(劣化状態)を定量的に診断する。
【0078】
なお、評価部30Aは、上記した以外の点については、第1実施形態の評価部30と同様である。例えば、評価部30Aは、第1実施形態の評価部30と同様に、変圧器(絶縁紙)の劣化度を段階的に評価(判定)する。
【0079】
次に、上述した診断システム1Aに基づいて、本実施形態の変圧器の診断方法について説明する。
図15は、本実施形態の変圧器の診断方法のフローチャートである。
【0080】
本実施形態の変圧器の診断方法は、第1実施形態の変圧器の診断方法におけるステップS4に代えて、ステップS7を行う点が、第1実施形態の変圧器の診断方法と異なっている。なお、本実施形態の変圧器の診断方法は、上記以外は、第1実施形態の変圧器の診断方法と同様である。
【0081】
本実施形態の変圧器の診断方法は、ステップS7において、評価部30Aにより、経時データD1において、所定の温度における油中水分量の変化の速度から重合度を推定する。例えば、評価部30Aは、上記のように、経時データD1の複数の環状トレンドにおける高温時のデータを抽出し、抽出したデータから、環状トレンドにおける油中水分変化速度の変化(油中水分量の変化の加速度)が最大を示す温度(立ち上がり温度)を求める。経時データD1の環状トレンドにおける各環状トレンドにおける高温時のデータにおいて、油中水分変化速度の変化(油中水分量の変化の加速度)が最大を示す温度を求め、重合度を推定する。
【0082】
以上説明したように、本実施形態の変圧器2A、診断システム1A、及び変圧器の診断方法は、変圧器におけるオンサイトの常時監視による劣化診断を、第1実施形態と同様に、簡易且つ安価でコンパクトな構成により行うことができる。
【0083】
[第3実施形態]
第3実施形態について説明する。本実施形態において、上述の実施形態と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略あるいは簡略化する。
【0084】
図16は、第3実施形態の診断システム1B及び変圧器2Bを示す図である。この診断システム1Bは、重合度を推定する方法が第1実施形態と異なる評価部30Bを備える点が、第1実施形態の診断システム1と異なっており、評価部30B以外の構成は、第1実施形態の診断システム1と同様である。診断システム1Aは、本実施形態の変圧器2Bに備えられる。変圧器2Bは、診断システム1B以外の構成は、第1実施形態の変圧器2と同様である。
【0085】
以下、本実施形態の評価部30Bが
図17から
図19に示した経時データD1を評価するケースを一例として説明する。
図17から
図19に示す経時データD1は、それぞれ、
図4から
図6と同一の経時データD1であり、種々の劣化度の絶縁紙(DP1000(
図17)、DP600(
図18)、DP450(
図19))におけるデータである。
【0086】
図17から
図19の経時データD1に示すように、各経時データD1では、油温降下時における油温に対する油中水分量の変化の速度(水分変化速度)が異なる(各図中の矢印部分を参照)。この理由は特に限定されないが、絶縁紙は劣化により保水力(水分吸着力)が低くなっているため、水分が速やかに絶縁紙に戻らないということが想定される。すなわち、この油温降下時における油温に対する油中水分量の変化の速度(水分変化速度)から、重合度を推定することができる。
【0087】
そこで、本実施形態の評価部30Bは、第2実施形態の評価部30Aと同様に、経時データD1において、所定の温度における水分変化速度から重合度を推定するが、経時データD1において、所定の油温降下時における油中水分量の変化の速度(以下、「油温降下時の水分変化速度」と称す。)に基づいて、重合度を推定する。
【0088】
まず、本実施形態の評価部30Bは、経時データD1から、所定の油温降下時におけるデータを抽出する。継時データD1の抽出に用いられる所定の油温降下は、特に限定されず任意である。上記所定の油温降下は、例えば、油温降下のパターンで設定してもよいし、油温降下の範囲で設定してもよい。上記所定の油温降下は、予め設定される。上記の所定の油温降下は、例えば、経時データD1における油温の最大値から最小値に設定される。例えば、上記の所定の油温降下は、
図17から
図19に示す経時データD1の場合、油温が48℃から25℃までの油温降下のパターンを示すので、この油温降下のパターンに設定される。
【0089】
続いて、評価部30Bは、上記のように抽出した経時データD1の各環状トレンドにおける油温降下のパターンを示す範囲のデータにおいて、油中水分量の変化の速度(水分変化速度)を求める。例えば、本実施形態の評価部30Bは、
図17から
図19の経時データD1に示すように、油温が48℃から25℃までの油温降下のパターンを示す範囲において、油温の変化量に対する油中水分量の変化量の比率を求める。これにより、評価部30Bは、各環状トレンドにおける所定の油温降下時における油中水分量の変化の速度を求めることができる。評価部30Bによる上記油温の変化量に対する油中水分量の変化量の比率を求める方法は、特に限定されず任意である。例えば、本実施形態の評価部30Bは、
図17から
図19の経時データD1に示すように、油温が48℃から25℃までの油温降下のパターンのうち、油温の変化量に対する油中水分量の変化量の比率が最大を示す部分に対する漸近線f1を求め、その漸近線f1の傾き(油中水分変化量/油温変化量)を、上記油温降下時の水分変化速度として設定する。なお、
図17から
図19に示す漸近線f1は、油温20℃、油中水分量5ppmを通る一次式として設定している。また、評価部30Bによる漸近線f1の求め方は、上記の例に限定されず、任意である。
【0090】
そして、評価部30Bは、
図17から
図19に示すように、算出した各環状トレンドにおける油温降下時の上記油温の変化量に対する油中水分量の変化量の比率(例、漸近線f1の傾き)のうち、絶対値が最大を示すものを上記油温降下時の水分変化速度として、重合度の推定に用いる。なお、評価部30Bは、算出した各環状トレンドにおける油温降下時の上記油温の変化量に対する油中水分量の変化量の比率の平均値を、重合度の推定に用いてもよい。
【0091】
続いて、評価部30Bは、求めた上記油温降下時の水分変化速度(例、漸近線f1の傾き)に基づいて、重合度を推定する。上記油温降下時の水分変化速度は、重合度と相関がある。
図20は、油温降下時の水分変化速度と絶縁紙の重合度との関係を示すグラフである。
図20は、
図17から
図19に示した経時データD1に基づいて得られた油温降下時の水分変化速度と絶縁紙の重合度との関係を示すグラフである。例えば、
図20に示す例の場合、油温降下時の水分変化速度と重合度との間には、図中に示す関係式で表される相関の関係がある。すなわち、評価部30Bは、上記油温降下時の水分変化速度を求め、上記油温降下時の水分変化速度と重合度との関係に基づいて、重合度を推定することができる。
図20に示すように、上記油温降下時の水分変化速度と重合度との間との関係は、高い相関を示すので、重合度を精度よく推定することができる。
【0092】
本実施形態の評価部30Bの評価結果は、
図17から
図20の結果から、第1実施形態の評価部30の評価結果と同様に、重合度を精度よく推定していることが確認される。
【0093】
以上のように、診断システム1Bは、評価部30Bにより重合度を求めることにより、変圧器(絶縁紙)の劣化度(劣化状態)を定量的に診断する。
【0094】
なお、評価部30Bは、上記した以外の点については、第1実施形態の評価部30と同様である。例えば、評価部30Bは、第1実施形態の評価部30と同様に、変圧器(絶縁紙)の劣化度を段階的に評価(判定)する。
【0095】
次に、上述した診断システム1Bに基づいて、本実施形態の変圧器の診断方法について説明する。
【0096】
本実施形態の変圧器の診断方法は、第2実施形態の変圧器の診断方法におけるステップS7(
図15参照)において、経時データD1において所定の温度における油中水分量の変化の速度から重合度を推定することが、経時データD1において所定の油温降下時における油中水分量の変化の速度(油温降下時の水分変化速度)に基づいて重合度を推定する点で、第2実施形態の変圧器の診断方法と異なっている。なお、本実施形態の変圧器の診断方法は、上記以外は、第2実施形態の変圧器の診断方法と同様である。
【0097】
本実施形態の変圧器の診断方法は、
図15のステップS7において、本実施形態の評価部30Bにより、上記のように、経時データD1において所定の油温降下時における油中水分量の変化の速度(油温降下時の水分変化速度)に基づいて重合度を推定する。例えば、評価部30Bは、上記のように、経時データD1の複数の環状トレンドにおける油温降下時のデータを抽出し、抽出したデータから、環状トレンドにおける油温降下時の水分変化速度を求め、油温降下時の水分変化速度と重合度との関係に基づいて、重合度を推定する。
【0098】
以上説明したように、本実施形態の変圧器2B、診断システム1B、及び変圧器の診断方法は、変圧器におけるオンサイトの常時監視による劣化診断を、上記の実施形態と同様に、簡易且つ安価でコンパクトな構成により行うことができる。
【0099】
[第4実施形態]
第4実施形態について説明する。本実施形態において、上述の実施形態と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略あるいは簡略化する。
【0100】
図21は、第4実施形態の診断システム1C及び変圧器2Cを示す図である。この診断システム1Cは、重合度を推定する方法が第1実施形態と異なる評価部30Cを備える点が、第1実施形態の診断システム1と異なっており、評価部30C以外の構成は、第1実施形態の診断システム1と同様である。診断システム1Cは、本実施形態の変圧器2Cに備えられる。変圧器CAは、診断システム1C以外の構成は、第1実施形態の変圧器2と同様である。
【0101】
以下、本実施形態の評価部30Cが
図4から
図6に示した経時データD1を評価するケースを一例として説明する。
【0102】
図4から
図6に示した経時データD1では、油中水分量/油温の積算値は、絶縁紙の劣化度が進むほど大きい傾向がある。したがって、油中水分量/油温の積算値から、重合度を推定することができる。
【0103】
そこで、本実施形態の評価部30Cは、経時データD1において、油中水分量/油温の積算値から重合度を推定する。評価部30Cは、
図4から
図6に示した経時データD1において、油中水分量の各測定データを、油中水分量が測定されたときの油温で除すことにより、各測定点における油中水分量/油温の値を求める。続いて、評価部30Cは、
図4から
図6に示した経時データD1における所定の範囲の油中水分量/油温の値を積算する。例えば、この経時データD1における所定の範囲は、
図4から
図6に示した経時データD1における油温昇降の1サイクル分とすることができる。評価部30Cは、
図4から
図6に示した経時データD1のように油温昇降が複数サイクルである場合、所定の範囲における油中水分量/油温の値の積算値(以下「油中水分量/油温積算値」と称す。)を、各サイクルの平均値あるいは中央値にしてもよいし、各サイクルにおける最大値にしてもよい。
【0104】
続いて、評価部30Cは、求めた油中水分量/油温積算値に基づいて、重合度を推定する。上記油中水分量/油温積算値は、重合度と相関がある。
図22は、油中水分量/油温積算値と絶縁紙の重合度との関係を示すグラフである。
図22は、
図4から
図6に示した経時データD1に基づいて得られた油中水分量/油温積算値と、絶縁紙の重合度との関係を示すグラフである。例えば、
図22に示す例の場合、油中水分量/油温積算値との間には、図中に示す関係式で表される相関の関係がある。すなわち、評価部30Cは、油中水分量/油温積算値を求め、油中水分量/油温積算値と重合度との関係に基づいて、重合度を推定することができる。
図22に示すように、油中水分量/油温積算値と重合度との間との関係は、高い相関を示すので、重合度を精度よく推定することができる。
【0105】
本実施形態の評価部30Cの評価結果は、
図22の結果から、第1実施形態の評価部30の評価結果と同様に、重合度を精度よく推定していることが確認される。
【0106】
以上のように、診断システム1Cは、評価部30Cにより重合度を求めることにより、変圧器(絶縁紙)の劣化度(劣化状態)を定量的に診断する。
【0107】
なお、評価部30Cは、上記した以外の点については、第1実施形態の評価部30と同様である。例えば、評価部30Cは、第1実施形態の評価部30と同様に、変圧器(絶縁紙)の劣化度を段階的に評価(判定)する。
【0108】
次に、上述した診断システム1Cに基づいて、本実施形態の変圧器の診断方法について説明する。
図23は、本実施形態の変圧器の診断方法のフローチャートである。
【0109】
本実施形態の変圧器の診断方法は、第1実施形態の変圧器の診断方法におけるステップS4に代えて、ステップS8を行う点が、第1実施形態と異なっている。なお、本実施形態の変圧器の診断方法は、上記以外は、第1実施形態の変圧器の診断方法と同様である。
【0110】
本実施形態の変圧器の診断方法は、ステップS8において、評価部30Cにより、経時データD1において、経時データD1における油中水分量/油温の積算値に基づいて、重合度を推定する。例えば、評価部30Cは、上記のように、経時データD1における所定の範囲の油中水分量/油温の値を積算し、求めた油中水分量/油温の積算値に基づいて、重合度を推定する。
【0111】
以上説明したように、本実施形態の変圧器2C、診断システム1C、及び変圧器の診断方法は、変圧器におけるオンサイトの常時監視による劣化診断を、第1実施形態と同様に、簡易且つ安価でコンパクトな構成により行うことができる。
【0112】
[第5実施形態]
第5実施形態について説明する。本実施形態において、上述の実施形態と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略あるいは簡略化する。
【0113】
図24は、第5実施形態の診断システム1Dを示す図である。本実施形態の診断システム1Dは、油中水分検出槽41を備える点が第1実施形態の診断システム1と異なっている。診断システム1Dは、変圧器2Dに備えられている。
【0114】
ところで、上記した診断システム1等は、絶縁紙の平均重合度と、油温変化に対する油中水分量の変化を関係付け、絶縁紙の劣化を評価するものであるが、実際の変圧器では、機器ごとに負荷条件(油温)、内部構造による水分拡散速度の変化、紙量や油量などの運転状況や機器条件等の条件の違いがあり、これらの条件によっては個別のデータを得る必要があるケースも想定される。
【0115】
そこで、本実施形態の診断システム1Dでは、一定(特定)の絶縁紙と絶縁油を収納した油中水分検出槽41を設けて、上記のようなデータを採取する。これにより、上述の各変圧器の機器の種類などの条件の違いを抑制することができる。
【0116】
本実施形態の診断システム1Dは、変圧器2Dに用いられる絶縁紙40及び絶縁油43を密閉した油中水分検出槽41を、変圧器2Dの絶縁油7中に備え、油温センサ17及び水分量センサ18は、それぞれ、油中水分検出槽41の絶縁油43の油温及び絶縁油43中の水分量を測定する。油中水分検出槽41は、内部を密封可能な比較的小さい容器である。油中水分検出槽41は、絶縁性を有する材料で形成されている。油中水分検出槽41は、変圧器2Dのタンク8の内部の絶縁油7中に配置される。油中水分検出槽41の内部には、絶縁油43が封入され、絶縁油43中に絶縁紙40が配置されている。この絶縁油43は、変圧器2Dのタンク8内の絶縁油7と同様である。また、この絶縁紙40は、変圧器2Dの巻線に用いられる絶縁紙と同様である。油中水分検出槽41は、配管22を介して、センサ収容部16に接続される。すなわち、本実施形態の診断システム1Dでは、油中水分検出槽41における油中水分量及び油温を、水分量センサ18、油温センサ17により測定する。また、油中水分検出槽41には、加熱装置42を、任意に設けてもよい。加熱装置42は、油中水分検出槽41の内部の絶縁油43を所定の温度に加熱する。加熱装置42は、例えば、制御装置(図示せず)により、変圧器2Dのタンク8内の絶縁油7と同等の温度になるように、油中水分検出槽41の内部の絶縁油43の温度を制御する。加熱装置42を制御する制御装置は、例えば、油温センサ17の測定結果あるいは巻線の温度を測定するセンサ(図示せず)等の測定結果に基づいて、変圧器2Dのタンク8内の絶縁油7と同様の温度になるように、加熱装置42を制御する。このような加熱装置42を備えることにより、油中水分検出槽41の絶縁紙40と、変圧器2Dの巻線の絶縁紙との劣化状態の差を抑制することができる。なお、油中水分検出槽41の絶縁紙40と、変圧器2Dの巻線の絶縁紙との劣化状態に差がある場合、実験あるいはシミュレーション等のデータに基づく補正処理を行うことにより、油中水分検出槽41の絶縁紙40と、変圧器2Dの巻線の絶縁紙との劣化状態の差を抑制してもよい。また、上記の例では、油中水分検出槽41を変圧器2Dの内部に配置する例を示したが、この例に限定されず、診断システム1D(変圧器2D)は、油中水分検出槽41が変圧器2Dのタンク8の外部に設けられる構成でもよい。また、診断システム1D(変圧器2D)は、水分量センサ18及び油温センサ17を油中水分検出槽41の内部に設け、油中水分検出槽41と一体化して変圧器2Dの内部(タンク8内の絶縁油7中)に設置し、配管22を省略する構成としてもよい。この構成の場合、変圧器2Dへの取り付け位置の制約に関わらず、油中水分検出槽41を変圧器2D内部の油温上昇位置、例えば、油面近接部分等に設置できるので、油温環境に応じて行う加熱装置42による油温の調整を不要あるいは最小限とすることができる。
【0117】
そして、本実施形態の診断システム1Dでは、水分量センサ18及び油温センサ17の測定結果は、第1から第4実施形態の診断システム1、1A~1C(第1から第4実施形態の変圧器の診断方法)と同様に、処理装置19に送られて処理され、変圧器2D(絶縁紙)の劣化状態が診断される。
【0118】
以上説明したように、本実施形態の変圧器2D、及び、診断システム1D、及び変圧器の診断方法は、一定(特定)の絶縁紙40と絶縁油43を密閉して収納した油中水分検出槽41を設けて、絶縁紙の劣化状態を診断することにより、上述した各変圧器の機器の種類などの条件の違いを抑制することができる。
【0119】
[第6実施形態]
第6実施形態について説明する。本実施形態において、上述の実施形態と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略あるいは簡略化する。
【0120】
図25は、第6実施形態の診断システム1Eを示す図である。本実施形態の診断システム1Eは、油温センサ17及び水分量センサ18は、ネットワークNWに接続され、絶縁油7の温度及び絶縁油7中の水分量を、ネットワークNWを介して接続される所定の処理装置28Eに備えられる評価部30に送信する点が第1実施形態と異なっている。
【0121】
診断システム1Eは、油温センサ17、水分量センサ18、処理装置19E、処理装置28Eを備える。油温センサ17及び水分量センサ18は、第1実施形態と同様であり、処理装置19Eに測定結果を送る。処理装置19Eは、処理部24E、記憶部25、及び通信部26を備える。処理装置19Eは、CPU、メインメモリ、記憶装置、通信装置等を備え、各種情報の処理を行うコンピュータ装置である。処理装置19Eは、油温センサ17及び水分量センサ18から送られた測定結果を、通信部26を介して、処理装置28Eに送る。処理部24Eは、評価部30を備えない点以外は、第1実施形態の処理部24と同様である。記憶部25及び通信部26は、第1実施形態と同様である。
【0122】
処理装置28Eは、データ管理部34、記憶部35、及び、処理部36(評価部30、寿命評価部32)を備える。データ管理部34、記憶部35は、第1実施形態と同様である。
【0123】
処理装置28Eの処理部36(評価部30、寿命評価部32)は、処理装置28Eに備えられる点以外は、第1実施形態の処理部24(評価部30、寿命評価部32)と同様である。処理装置28Eは、処理部36(評価部30、寿命評価部32)により、第1実施形態と同様に、油温センサ17及び水分量センサ18から送られた測定結果から、重合度を推定し、重合度から変圧器の劣化及び変圧器の使用可能期間を評価する。なお、処理装置28Eは、第1実施形態の評価部30に代えて、上記実施形態の評価部30A~30Cを備える構成としてもよい。
【0124】
上記した本実施形態の診断システム1Eの構成においても、簡易且つ安価でコンパクトな油温センサ17及び水分量センサ18を用いて、変圧器に用いられる絶縁紙の劣化を評価するので、変圧器におけるオンサイトの常時監視による劣化診断を、簡易且つ安価でコンパクトな構成により行うことができる。
【実施例】
【0125】
以下に、参考例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、参考例によってなんら限定されるものではない。
【0126】
[参考例]
油入変圧器の絶縁油の油温を測定する油温センサ及び絶縁油中の水分量を測定するセンサを用いて油温及び水分量を測定し、得られた油温及び水分量の経時データのトレンドの変化による変圧器の劣化診断の可能性を検証した。
【0127】
(水分量センサ)
本検証では、2台の水分量センサ(センサA、センサB)として、オンラインガスモニタを用いた。検証に用いたオンラインガスモニタの仕様を表4に示す。本検証では水分、温度を検証の対象とした。なお、絶縁油中の水分量は、オンラインガスモニタの演算回路により油中水分量(ppm)に換算し測定した。なお、表4において、「RS」は、油中水分飽和度を意味する。油中水分飽和度は、ある温度の油中に存在可能な最大水分量に対する実際の油中水分量の割合であり、相対的な値である。
【0128】
【0129】
<検証装置>
本検証に用いたオンラインガスモニタ検証装置50(検証装置)の概略図を
図26(A)、検証装置50の写真を
図26(B)に示す。以下、検証装置について、説明する。検証装置50の容器部66(以下、「容器」と称すこともある。)は、アクリル製の円筒部材66を上下のフランジ53で挟むことにより、円筒部材66の内部を密閉した構造である。容器部66の内部は絶縁油65で満たし、絶縁油65中に絶縁紙63を配置した。絶縁油65の温度調節は、温度調節器(図示せず)を接続したヒーター54と冷却管55とを用いて実施した。絶縁油65の温度は、4つの熱電対57~60を用いて測定した。オンラインガスモニタ(センサA51、センサB52)は、それぞれ、配管を介して下部フランジ53に取り付けた。また、容器部66には、内部への絶縁油65の導入に用いる採油用弁52と、内部の圧力を調整に用いる圧力弁51と、が設けられている。
【0130】
(試料)
絶縁油65として、JIS C 2320「電気絶縁油」1種2号の新油を脱気して用いた。絶縁紙は、JIS C 2304「コイル絶縁紙」2種(クラフト紙)を用いた。絶縁紙の紙中水分量は、大容量変圧器の現地作業基準の154kV級以下の管理値である2%(重量%)に調整した。劣化状態の絶縁紙(劣化品の絶縁紙(DP600、DP450))は、調湿した新品の絶縁紙(DP1000)を、絶縁油入り空気密封ステンレスタンク内で、加熱することにより、加速劣化させて作製した。
【0131】
新品の絶縁紙(DP1000)及び作製した劣化状態の絶縁紙の劣化度を、新品の絶縁紙(DP1000)に対する平均重合度残率として表5に示す。平均重合度残率は、式(平均重合度残率=劣化品の平均重合度/新品の平均重合度)で表される値である。なお、絶縁油量と絶縁紙量との比率は、実器相当とした。また、容器部66内における絶縁油65面の上部空間には、乾燥空気を密封した。
【0132】
【0133】
(検証方法)
検証にあたって、容器部66内に絶縁油65と各絶縁紙13を封入した状態で、室温で一定時間静置することで紙中/油中水分の平衡状態を作った。絶縁油65の温度は、変圧器における低負荷時の油温を模擬した30℃と高負荷時の油温を模擬した70℃とし、予め設定した油温変動パターンとなるよう温度調節器で制御した。検証中は、絶縁油65全体が均一な温度となるように、マグネチックスターラー(撹拌子)56を用いて、常に撹拌を行った。なお、絶縁油65の加熱や冷却に伴う容器部66内の圧力変化が生じないように、圧力弁51を用いて容器部66内の圧力を調整した。
【0134】
<検証結果>
(センサの応答性に関する検証)
(1)オンラインガスモニタとJIS法で測定した油中水分量の比較
オンラインガスモニタで測定した油中水分量と、一般的に用いられるJIS C 2101による方法で測定した油中水分量と差異を把握するために、上記の2つの方法による油中水分量の測定結果を比較した。表6に、2つの方法により測定した油中水分量を比較した結果を示す。その結果、室温下での十分な静置状態においては、オンラインガスモニタで測定した値とJIS法で規定された方法で測定した値は、同程度であり、本検証で対象としたオンラインガスモニタによる油中水分量の測定結果は、信頼性が高いことが確認された。
【0135】
【0136】
(2)静置状態での水分応答性
図27に静置状態での室温変動に応じた油温変化に対する両センサにより測定された油中水分量の変化を示す。両センサの油中水分量は、油温の上昇傾向に伴い増加傾向を示すことが確認できた。特に、センサAの油中水分量は、昼夜の温度変化に応じて、若干の遅れがあるものの同傾向で変化していることがわかった。このことにより、センサAは油温変化に追従して絶縁紙と絶縁油間の水分移動を精度よく測定可能なことがわかった。
【0137】
図28にセンサAの温度センサで測定した油温と油中水分量の関係を示す。容器(容器部)内の絶縁油の温度のわずかな変化に対し、絶縁紙から吸脱着されることにより変動する油中水分量のわずかな変化が確認できる。以上のことから、今回適用したセンサ(特にセンサA)は十分な応答性をもって、絶縁紙中/絶縁油中の水分移動をモニタ可能であると判断できる。
【0138】
(油温変化に対する新品絶縁紙と劣化絶縁紙の油中水分変化)
(1)新品の絶縁紙(DP1000)に対する油温の変動パターンと油中水分量の変化
油温の変動パターンは、油温を30℃から70℃に急速に昇温後一定時間保持し、その後30℃まで降温させる制御を2回繰り返したものである。
図29に(A)に油温の経時的変化、
図29(B)に油温変化に対する油中水分量の経時的変化を示す。
【0139】
図29(A)及び(B)に示す結果から、絶縁油の温度の昇降に応じて両センサにより測定された油中水分量も昇降することが確認された。急速な昇温に対して、センサBはセンサAに対して油中水分量が遅れて上昇する傾向を示した。降温に対しては、同様な油中水分量の減少傾向を示した。これは、両センサの検出素子の位置の違いによって、水分の検知に時間差が生じた結果と考えられる。両センサの油中水分量の経時的変化は、1回目と2回目で同等の傾向であり、再現性が良いことが確認された。
【0140】
(2)劣化品の絶縁紙(DP450)に対する油温変動パターンと油中水分量の変化
劣化品の絶縁紙(DP450)に対して、新品の絶縁紙(DP1000)と同様の温度設定にて油温を変動させた。ただし、70℃の保持時間は水分の増加傾向に合わせて1回目の昇温時は新品より長く設定し、2回目の昇温時では新品の絶縁紙(DP1000)の1回目の保持時間と同様に設定した。
図30に(A)に油温の経時的変化(経時データ)、
図30(B)に油温変化に対する油中水分量の経時的変化(経時データ)を示す。
【0141】
図30(A)及び(B)から、1回目の昇温では、劣化品の絶縁紙(DP450)では新品の絶縁紙(DP1000)に比べて油中水分量が長時間をかけて増加することがわかった。ただし、油中水分量の増加速度は、新品の絶縁紙(DP1000)1.2ppm/h、劣化品の絶縁紙(DP450)1.1ppm/hと、同傾向であった。
【0142】
また、2回目の昇温では、劣化品の絶縁紙(DP450)の油中水分量の増加量は新品の絶縁紙(DP1000)と同等レベルまで増加したが、降温の際は特に後半の水分低下がゆるやかになる傾向であった。これは、劣化によって絶縁紙の保水力(水分吸着力)が低くなっているため、水分が速やかに絶縁紙に戻らないということが想定される。
【0143】
以上の結果から、センサにより測定した劣化品の絶縁紙(DP450)の油中水分量の変化の特徴は、昇温に対し油中水分量が多くなること、降温に対し水分低下がゆるやかであることと考えられる。
【0144】
(3)新品の絶縁紙(DP1000)と劣化品の絶縁紙(DP450)の油温に対する油中水分量変化のトレンドの比較
図31(A)及び(B)に、センサAで測定した新品の絶縁紙(DP1000)と劣化品の絶縁紙(DP450)の油温に対する油中水分量変化のトレンドを示す。
図31に示すように、新品の絶縁紙(DP1000)と劣化品の絶縁紙(DP450)の油中水分量は共に、昇温に伴ってゆるやかに増加後急増、その後油温低下に伴ってゆるやかに減少し、環状のトレンドとなることがわかる。
図31(A)に示すように昇温時間を長くとった場合は、劣化品の絶縁紙(DP450)では多くの水分が絶縁紙から放出され、油中水分量は新品の絶縁紙(DP1000)と比べて大きく増加するトレンドであった。
【0145】
また、
図31(B)に示すように同じ温度パターンで温度変化させた場合にも、昇温時の著しい増加は見られないものの劣化品の絶縁紙(DP450)の油中水分量は多めであり、劣化品の絶縁紙(DP450)は水分変化のトレンドがより高水分量側へシフトしていることがわかる。これらのトレンドが、絶縁紙が劣化した場合の特徴的トレンドである。実器の場合、負荷の状況により、また、季節によって油温の昇降が変化すると想定されるが、精度のよいセンサで油中水分量の変化トレンドを常時モニタし、得られたデータにおいてこのような新品の絶縁紙(DP1000)と劣化品の絶縁紙(DP450)のトレンドの特徴的な差を数値解析することで、絶縁紙の劣化度を診断可能である。
【0146】
(4)劣化絶縁紙(DP450)の油温変化に対する油中水分変化
油温の変動パターンは、油温を30℃から70℃に急速に昇温後一定時間保持し、その後30℃まで降温させる制御を3回繰り返したものである。
図32(A)に油温の経時的変化、
図32(B)に油温変化に対する油中水分量の経時的変化を示す。
【0147】
図32(A)及び(B)から、劣化品の絶縁紙(DP450)では新品の絶縁紙(DP1000)に比べて油中水分量が長時間をかけて増加することがわかった。
【0148】
(5)劣化絶縁紙(DP600)の油温変化に対する油中水分変化
油温の変動パターンは、油温を30℃から70℃に急速に昇温後一定時間保持し、その後30℃まで降温させる制御を2回繰り返したものである。
図33(A)に油温の経時的変化、
図33(B)に油温変化に対する油中水分量の経時的変化を示す。
【0149】
図33(A)及び(B)から、劣化品の絶縁紙(DP600)では新品の絶縁紙(DP1000)に比べて油中水分量が長時間をかけて増加することがわかった。
【0150】
(6)新品絶縁紙(DP1000)と劣化絶縁紙(DP450、DP650)における水分の吸脱着速度の比較
油温の変動パターンは、油温を30℃から70℃に急速に昇温後一定時間保持し、その後30℃まで降温させる制御を行ったものである。
図34(A)に油温の経時的変化、
図34(B)に油温変化に対する油中水分量の経時的変化を示す。
【0151】
図34(A)及び(B)から、絶縁紙の劣化度が高いほど、油中水分量の低下速度がについて、緩やかになる傾向が見られた。油中水分量の増加速度については、絶縁紙の劣化度に応じた増加速度の差が少なかった。この結果は、絶縁紙の劣化により紙の保水力(水分吸着力)が低下していることにより、油中水分が速やかに紙中に移動しないことが原因であると想定される。
【0152】
<まとめ>
絶縁紙の劣化に伴う紙中/油中水分平衡関係の変化を利用し、変圧器における劣化時の油温の変化に対する油中水分量のトレンド変化による変圧器劣化診断の可能性について検証を行った。新品絶縁紙と劣化絶縁紙をそれぞれ絶縁油中で昇降温したところ、劣化絶縁紙での油中水分量が多く、センサで測定した絶縁油温度変化に伴う油中水分量のトレンドが新品絶縁紙と異なることが確認された。例えば、この差異から、温度、水分を精度良く測定できるセンサを用いることで、変圧器の劣化診断ができる。
【0153】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に限定されるものではない。上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態などで引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【0154】
なお、上述の実施形態では、診断システム1、1A~1Dは、変圧器2、2A~2Dに備えられる構成の例を説明したが、この例に限定されない。例えば、診断システム1、1A~1Dは、単体として、既存の油入変圧器に取り付けて用いる構成としてもよい。
【0155】
また、上述の実施形態では、診断システム1、1A~1Eは、油温センサ17及び水分量センサ18の測定結果に基づいて、変圧器(絶縁紙)の劣化を評価する例を示したが、この例に限定されない。例えば、診断システム1、1A~1Eは、水素(H2)あるいは一酸化炭素(CO)等、絶縁油中のガスを測定可能な他のガスセンサ(オンラインガスセンサ)を備え、その測定結果を用いて、絶縁油中のガス分析方法による、上記した変圧器の異常診断を、変圧器の劣化診断とともに行う構成としてもよい。
【符号の説明】
【0156】
1、1A~1E・・・診断システム
2、2A~2D・・・変圧器
4・・・鉄心
5・・・一次巻線(巻線)
6・・・二次巻線(巻線)
7・・・絶縁油
8・・・タンク
10・・・冷却器
11・・・一次ブッシング
12・・・二次ブッシング
16・・・センサ収容部
17・・・油温センサ
18・・・水分量センサ
19、19E・・・処理装置
24、24E・・・処理部
25・・・記憶部
26・・・通信部
28、28E・・・処理装置
30、30A~30C・・・評価部
32・・・寿命評価部
34・・・データ管理部
35・・・記憶部
36・・・処理部
40・・・絶縁紙
41・・・油中水分検出槽
42・・・加熱装置
43・・・絶縁油
D1・・・経時データ
NW・・・ネットワーク