(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】鼻汁吸引器用の吸引ヘッド
(51)【国際特許分類】
A61M 1/00 20060101AFI20220329BHJP
【FI】
A61M1/00 161
(21)【出願番号】P 2017245943
(22)【出願日】2017-12-22
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000112288
【氏名又は名称】ピジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100096806
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【氏名又は名称】野口 和孝
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】新井 啓介
(72)【発明者】
【氏名】平田 尚子
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-123237(JP,A)
【文献】特開平11-319073(JP,A)
【文献】特表2002-505615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体的に柔軟性を有し、
鼻汁を吸引するために負圧を発生させる負圧発生部よりも先端に配置され、鼻孔に挿入されて前記鼻汁を引き込むための開口部を有する挿入部と、
前記挿入部と一体的に形成されるようにして前記挿入部よりも前記負圧発生部側に配置され、前記開口部と連通した鼻汁の通路を内側に有すると共に、前記負圧発生部側の他部材に接続される接続部と、
前記挿入部よりも前記負圧発生部側に配置され、前記接続部の前記挿入部側の先端部から外側に張り出して形成され、前記挿入部を鼻孔に挿入した際に鼻孔入口周辺に当接する鼻当接部と、
前記鼻当接部の全周縁部が前記負圧発生部側に曲って延伸することで形成され、前記接続部と距離をあけて前記接続部を囲むように配置され
、延伸した先の端部が自由端とされている延伸部と、
を有することを特徴とする鼻汁吸引器用の吸引ヘッド。
【請求項2】
前記延伸部は略円筒状であることを特徴とする請求項1に記載の鼻汁吸引器用の吸引ヘッド。
【請求項3】
前記鼻当接部は、前記挿入部および前記延伸部に比べて厚みが大きな肉厚部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の鼻汁吸引器用の吸引ヘッド。
【請求項4】
前記延伸部の前記延伸した先の端部は、前記延伸部の他の領域に比べて、外側に向かって厚みが大きく形成されている、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の鼻
汁吸引器用の吸引ヘッド。
【請求項5】
前記延伸部における前記延伸した先の端部以外の領域は、前記吸引ヘッドの中で最も薄肉であることを特徴とする請求項4に記載の鼻汁吸引器用の吸引ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鼻汁吸引器用の吸引ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、乳幼児や病人等の鼻詰まりを解消するため、鼻汁吸引器が用いられている。
特許文献1は、この鼻汁吸引器の例であり、その
図2に示されるように、ストロー1と、その端部に接続された鼻当て部4とを有している。鼻当て部4は鼻孔に入る吸引ヘッドであり、中心に吸引孔4cが形成されている。これにより、その
図5に示されるように、鼻当て部4を鼻孔に挿入して、親等の操作者がストロー1を吸うことで鼻汁を吸引できる。
また、特許文献1の鼻当て部4の外面は円錐状にされており、これにより、鼻孔に挿入し易くすると共に、鼻孔内を封止して吸引力が外に漏れないようにしている。なお、従来の鼻汁吸引器は、上記
図2のようなストローの代わりにチューブを使う方が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば乳幼児が鼻汁の吸引を嫌がって暴れるなど、被操作者が動いた際に、特許文献1の鼻当て部4では、その全体が鼻孔に入ってしまう恐れがある。もし、このように鼻当て部4の全体が鼻孔に入ってしまうと、特許文献1では、鼻当て部4を引き抜く際に円錐状部4aが傘のように開いてアンカーとなったり、周縁が捲れたりして、鼻孔から容易に引き抜くことが出来なくなる。
また、鼻汁の量が多かったり粘度が低かったりする場合、鼻汁は鼻孔入口周辺にある鼻当て部4の表面を伝わり、
図2の円錐状部4aの内側空間に回り込んでくる恐れがあり、鼻汁が内側空間に侵入してくると鼻当て部4の洗浄が困難となる。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するものであり、鼻孔の奥に挿入したとしても容易に鼻孔から引き抜くことができ、さらに、洗浄が容易に行える吸引ヘッド、及びこれを利用した鼻汁吸引器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、本発明によれば、全体的に柔軟性を有し、鼻汁を吸引するために負圧を発生させる負圧発生部よりも先端に配置され、鼻孔に挿入されて前記鼻汁を引き込むための開口部を有する挿入部と、前記挿入部と一体的に形成されるようにして前記挿入部よりも前記負圧発生部側に配置され、前記開口部と連通した鼻汁の通路を内側に有すると共に、前記負圧発生部側の他部材に接続される接続部と、前記挿入部よりも前記負圧発生部側に配置され、前記接続部の前記挿入部側の先端部から外側に張り出して形成され、前記挿入部を鼻孔に挿入した際に鼻孔入口周辺に当接する鼻当接部と、前記鼻当接部の全周縁部が前記負圧発生部側に曲って延伸することで形成され、前記接続部と距離をあけて前記接続部を囲むように配置され、延伸した先の端部が自由端とされている延伸部と、を有する鼻汁吸引器用の吸引ヘッドにより解決される。
【0007】
本発明の吸引ヘッドによれば、鼻汁を吸引するために負圧を発生させる負圧発生部よりも先端に配置され、鼻孔に挿入されて鼻汁を引き込むための開口部を有する挿入部と、挿入部と一体的に形成されるようにして挿入部よりも負圧発生部側に配置され、開口部と連通した鼻汁の通路を内側に有すると共に、負圧発生部側の他部材に接続される接続部とを有する。従って、接続部を負圧発生部側の他部材に接続して、接続部の鼻汁の通路内に負圧を発生させれば、その通路と連通した挿入部の開口部から鼻汁を吸引できる。
また、吸引ヘッドは、挿入部よりも負圧発生部側に配置され、接続部の挿入部側の先端部から外側に張り出して形成され、挿入部を鼻孔に挿入した際に鼻孔入口周辺に当接する鼻当接部を有する。従って、挿入部を鼻孔に挿入して、鼻当接部を鼻孔入口周辺に当てれば鼻孔内は封止され、この状態で負圧を発生させれば、挿入部の開口部から効果的に鼻汁を吸引できる。
ここで、鼻当接部の全周縁部が負圧発生部側に曲って延伸することで形成され、接続部と距離をあけて接続部を囲むように配置された延伸部を有する。このため、もし、鼻当接部の全体が鼻孔に挿入したとしても、吸引ヘッド全体が鼻孔に挿入されることを防止して、鼻当接部が開いたり捲れたりすることもなく、容易な引き抜きが可能となる(引き抜きの容易化)。
また、延伸部があるために、鼻孔入口周辺に配置された鼻当接部の裏側に鼻汁が回り込むような事態も防止して、吸引ヘッドの洗浄も容易になる(洗浄の容易化)。
しかも、延伸部は鼻当接部の全周縁部が負圧発生部側に曲って延伸するものであり、鼻当接部が円錐台状などのまま延伸して後端に向かって傘が広がるような形状(裾広がりな形状)とはされていない。このため、延伸部と鼻の下との距離が確保されやすく、乳幼児が暴れるなど被操作者が動いても、延伸部が鼻の下等に接触し難くなる。従って、被操作者の吸引動作中のストレスを軽減できる(ストレスの軽減)。
また、不明瞭な鼻腔内で鼻汁の場所を探るのに挿入部を方向転換したり、不意な被操作者の動きに追従したりして接続部が曲ったとしても、延伸部と接続部との間には所要の距離があるため、接続部の曲げを円滑にして、操作を容易に行うことができる(操作の容易化)。
更に、延伸部の一部が鼻孔内に挿入しても、延伸部と接続部との間に距離があることで、柔軟性のある延伸部は個人差のある種々の鼻形状に対応して変形が容易となる(鼻形状の個人差への対応)。従って、鼻形状に個人差があっても鼻孔を有効に封止して効果的な吸引力を実現できるし、また、延伸部が鼻孔に当たった際の力を吸収し、延伸部が鼻孔に接触することで生じる痛みや違和感が生じ難いという効果を発揮する。
しかも、延伸部の、鼻当接部の全周縁から負圧発生部側に曲がって延伸した先の端部は自由端とされているので、延伸部の変形の自由度はより高くなり、これにより上記「鼻形状の個人差への対応」をより高めることができる。また、このように自由端にすることで、操作者及び被操作者のストレスを軽減することもできる。例えば、もし、延伸部の延伸した先が接続部に繋がっていると、鼻当接部が鼻孔入口周辺に衝突した際や、操作者が鼻汁の場所を探して挿入部を鼻孔内で動かした際、延伸部が外側に膨らんで操作の邪魔になったり被操作者の鼻の下に当たる等してストレスになるが、本発明の延伸部の延伸した先は自由端であるため、延伸部が外側に膨らむこともなく、そのようなストレスを防止できる。
【0008】
また、好ましくは、前記延伸部は略円筒状であることを特徴とする。
このため、例えば円錐状のように先が広がった延伸部とは違い、狭い鼻孔に延伸部が挿入しても、鼻孔入口周辺において延伸部は皺になり難くなる。従って、皺になり難い分、鼻との密着度が高まって空気漏れを有効に防止することができる。
【0009】
前記鼻当接部は、前記挿入部および前記延伸部に比べて厚みが大きな肉厚部を有していることを特徴とする。
従って、鼻当接部は肉厚で撓み難くなって、鼻孔周辺に当接し易くなり、空気が漏れないように鼻孔を封止できる。また、例えば吸引動作中に暴れる乳幼児の鼻孔の深くに、鼻当接部が撓んで侵入することを防止できる。そして、鼻当接部は、乳幼児が暴れたりして鼻孔内の挿入部が動いて曲ることで応力が集中し易い状態になっても、損傷の危険を回避できる。
【0010】
また、好ましくは、前記延伸部の前記延伸した先の端部は、前記延伸部の他の領域に比べて、外側に向かって厚みが大きく形成されていることを特徴とする。
従って、もし鼻汁が延伸部を伝わって流れてきたとしても、その流れを延伸部の先の端部が障壁になって止め、延伸部と接続部との間に鼻汁が入り込むことを防止できる。従って、洗浄する際に延伸部をめくる必要がなくなって、吸引ヘッドの洗浄が容易となり、吸引ヘッドの破損も防止できる。
【0011】
また、好ましくは、前記延伸部における前記延伸した先の端部以外の領域は、前記吸引ヘッドの中で最も薄肉であることを特徴とする。
このため、延伸部における延伸した先の端部以外の領域は、最も薄肉で可撓性に優れる。従って、延伸部が鼻孔に挿入して、不明瞭な鼻腔内で鼻汁の場所を探るのに挿入部を方向転換した際、延伸部が挿入部の動きに追従して動いて鼻粘膜に衝突したとしても、鼻粘膜を傷つける恐れを有効に防止し、また、被操作者に与える違和感も抑制することができる。また、延伸部の変形の自由度が更に高くなり、上記「鼻形状の個人差への対応」を更に高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明は、鼻孔の奥に挿入したとしても容易に鼻孔から引き抜くことができ、さらに、洗浄が容易に行える吸引ヘッド、及びこれを利用した鼻汁吸引器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る吸引ヘッドを利用した鼻汁吸引器の斜視図。
【
図6】
図1の吸引ヘッドを鼻孔に挿入した際の使用状態図であり、
図6(A)は挿入部が鼻孔に挿入した通常の状態図、
図6(B)は延伸部の一部が鼻孔に挿入した際の状態図。
【
図7】
図6(A)の吸引ヘッドが動いた際の使用状態図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下の図において、同一の符号を付した箇所は同様の構成である。
図1は本発明の実施形態に係る鼻汁吸引器10の斜視図である。
図1では、吸引ヘッド20の中に配置されたヘッド接続部25を外部から透かし見ることが可能なものとして図示している。
鼻汁吸引器10は、鼻水吸引器や鼻水吸引装置などとも呼ばれ、鼻汁(鼻水とも言う)を除去するのに用いられる。鼻汁を除去するのは、呼吸を楽にしたり、鼻汁の菌が原因で生じる中耳炎や副鼻腔炎などの病気を予防したりするためである。特に乳幼児は自ら鼻をかめないので鼻詰まりになり易く、詰まった鼻汁を取り除くのに鼻汁吸引器10は有効に用いられる。本実施形態はこの乳幼児用に適した鼻汁吸引器10とされている。但し、本発明の鼻汁吸引器10は乳幼児用に限定されるものではない。
【0015】
図1の鼻汁吸引器10は、鼻NZの鼻孔に挿入して鼻汁を吸引する吸引ヘッド20と、吸引ヘッド20で吸引した鼻汁を溜める鼻汁貯留構造体40と、吸引ヘッド20内を負圧にするために空気を引くチューブ50と、負圧を発生させる負圧発生部60とを有している。
これら吸引ヘッド20、鼻汁貯留構造体40、チューブ50、負圧発生部60は、この順番で互いに接続されており、吸引ヘッド20の開口部MSと、鼻汁貯留構造体40の内側空間Sと、チューブ50内の空間S5とは連通している。そして、負圧発生部60でチューブ50内に負圧を付与することで、鼻汁貯留構造体40を介して吸引ヘッド20から鼻汁を吸引する仕組みになっている。
【0016】
図1の鼻汁吸引器10は、負圧発生部60に公知の電動式ポンプが用いられた電動式である。一例をあげれば、負圧発生部60の内側には、電源部61と、この電源部61から電源の供給を受けて作動するポンプ62とを有し、このポンプ62を駆動させてチューブ50内の空気を吸入して、一定の負圧力(吸引力となる)を発生させている。ポンプ62は操作部64により吸引力の制御が可能である。なお、本発明の鼻汁吸引器10は電動式のものに限られず、チューブ50の先端を親などの操作者がくわえて口で吸うタイプのもの、或いは、手動式のスポイトやポンプで負圧を発生させて鼻汁を吸引するタイプのものでも構わない。
【0017】
チューブ50はその内側に空間S5を有する管状であって、吸引ヘッド20の開口部MS内を負圧にするために空気を引く通路である。チューブ50はシリコーンゴムなどの柔軟な材料により形成され、弾力性と可撓性を有するのが好ましい。チューブ50と負圧発生部60とは着脱可能である。
【0018】
鼻汁貯留構造体40は、全体が硬質のプラスチック樹脂で形成され、吸引ヘッド20とチューブ50との間に配置されている。鼻汁貯留構造体40には、公知のもの(例えば特許第4031098号参照)を利用できる。図の場合の鼻汁貯留構造体40は、吸引した鼻汁を溜める内側空間Sを有する収容容器43と、この収容容器43の上部に対して着脱可能な蓋部44とを有する。
【0019】
収容容器43は操作者に把持される部分であり、図の場合、厚みDを小さくして、親指TFとその他の指AFとで主面を無理なく挟持可能な寸法としている。
蓋部44の内側は収容容器43の内側空間Sと繋がった中空状である。蓋部44は、その先端部に吸引ヘッド20が接続されるヘッド接続部25を有すると共に、側面部にチューブ50が接続されるチューブ接続部53を有する。
【0020】
ヘッド接続部25は略円筒状であり、そこに吸引ヘッド20の接続部24が差し込まれて使用される。
図1ではヘッド接続部25の孔に吸引ヘッド20の接続部24が差し込まれて互いに着脱自在とされ、これにより吸引ヘッド20と鼻汁貯留構造体40とを別々に洗浄可能としている。なお、本発明はこれに限られず、接続部24の孔にヘッド接続部25を差し込むようにしても構わない。また、チューブ50とチューブ接続部53も着脱自在であり、これにより、鼻汁貯留構造体40から吸引ヘッド20とチューブ50を外して、鼻汁貯留構造体40を単体にして洗浄することができる。
【0021】
ヘッド接続部25の内側は、鼻汁を鼻汁貯留構造体40内に導くための蓋部44に形成された開口である流入口41と連通している。また、チューブ接続部53の内側は、空気を引いて鼻汁貯留構造体40内を負圧状態にするための開口である吸引口42と連通している。
そして、流入口41と吸引口42とは、その開口部の向きが異なっており、これにより、流入口41から流れてきた鼻汁は吸引口42に侵入せずに、収容容器43の内側空間Sに落下して溜めることができる。従って、吸引口42及びチューブ接続部53を介して、チューブ50に鼻水が侵入する事態を防止することができ、チューブ50の洗浄が容易となる。
【0022】
以上のように、本実施形態の鼻汁貯留構造体40は、蓋部44のヘッド接続部25及び流入口41を介して流れてきた鼻汁を収容容器43の内側空間Sに落下させて溜める構成とし、そして、溜められた鼻汁が吸引口42に引き込まれないように、吸引口42を先端側の蓋部44に配置している。しかし、本発明の態様はこれに限られるものではない。例えば、鼻汁貯留構造体の先端部にヘッド接続部、鼻汁貯留構造体の後端部にチューブ接続部を配置し、先端側の流入口から流れてきた鼻汁が後端側の吸引口に引き込まれないように、流入口と吸引口との間にラビリンス構造を設けてもよい。
【0023】
吸引ヘッド20は、全体が柔軟性を有する材料、例えばシリコーンゴムで全てが一体的に形成され、その厚みに応じた可撓性を有している。吸引ヘッド20は、鼻汁の吸引状態を外部から視認可能となるように透明又は半透明にされるのが好ましい。
この吸引ヘッド20は、鼻孔に挿入される挿入部21と、鼻孔入口周辺ET(
図6参照)に当接する鼻当接部28を有し、これら挿入部21と鼻当接部28とで略漏斗状とされている。
【0024】
図1に示すように、挿入部21は中空部S1を有する略円筒状であり、その先端には鼻汁を引き込むための開口部MSが形成されている。開口部MSは中空部S1と繋がっている。なお、挿入部21は鼻孔の内径よりも小さく、鼻粘膜に接触せずに鼻孔に差し入れ可能な外形とされている。
鼻当接部28は、吸引ヘッド20の鼻孔への挿し込み過ぎを防止するストッパーであると共に、鼻孔内を封止するためものである。具体的には、鼻当接部28は、挿入部21よりも負圧発生部60側(即ち、鼻汁を引く方向であり、本実施形態の場合は鼻汁貯留構造体40側)に配置され、後述する接続部24の挿入部21側の先端部39(
図5参照)から外側に張り出して形成されている。そして、鼻当接部28は、挿入部21の半径方向の外側に拡がる表面を有する。図の場合、後端に向かうに従って外径が除々に大きくなる略円錐状又は略ドーム状とされ、これにより鼻孔形状が使用者により異なっても、鼻孔に容易に挿入すると共に、鼻孔入口周辺に鼻当接部を当接させ易くしている。
本実施形態の場合、
図2に示すように、挿入部21は、長さL1が3~4mm程度、直径φ1が5mm前後である。また、鼻当接部28は、長さL2が4~5mm程度、直径φ2が12~15mm程度である。これにより、基本的には、鼻当接部28が鼻孔入口周辺に当たって鼻孔内を封止し、かつ、その先の挿入部21が鼻孔内に挿入し過ぎることもなく、封止した空間内で鼻汁を効果的に吸引することができる。
【0025】
本実施形態の鼻汁吸引器10の特徴は以上の通りであり、上述した吸引ヘッド20は更に特徴を備えているので、これを
図2~
図7を用いて説明する。
図2は吸引ヘッド20の正面図、
図3は吸引ヘッド20の右側面図、
図4は吸引ヘッド20の左側面図、
図5は
図3のA-A拡大断面図、
図6(A)は挿入部21を鼻孔に挿入した際の通常の使用状態図、
図6(B)は延伸部32の途中までが鼻孔内に挿入した際の使用状態図、
図7は吸引ヘッド20を動かした際の使用状態図、
図8は
図6(B)のB-B断面図である。なお、吸引ヘッド20の背面図は
図2の正面図と対称である。また、吸引ヘッド20の平面図および底面図は
図2の正面図と同一である。これらの図では吸引ヘッド20の全体を不透明にして図示している。
【0026】
吸引ヘッド20は、
図5に示すように、負圧発生部側の他部材(図の場合は鼻汁貯留構造体40のヘッド接続部25)と接続される接続部24を有している。接続部24は、挿入部21が鼻当接部28の径方向の中心部CLを通って(突き抜けて)負圧発生部側に向かって延伸することで形成された円筒状であり、開口部MSと連通した鼻汁の通路(鼻汁が通る通路)S2を内側に有する。即ち、接続部24は挿入部21と一体的に形成され、挿入部21よりも負圧発生部側に配置されている。挿入部21から接続部24にかけては一本の真っ直ぐな円筒形状ないし管状であり、その内側が吸引した鼻汁の通路となる。そして、鼻当接部28はこの一本の円筒形状ないし管状の途中から張り出したフランジ状部とされている。なお、本実施形態の接続部24は、挿入部21が鼻当接部28の中央部CLを通って延伸することで形成されているが、中央部CLから位置がずれても構わない。
【0027】
接続部24の壁厚T1(但し、鼻当接部28が配置された先端部39を除く)は約1mmと比較的肉厚であり、吸引ヘッド20の中で、鼻当接部28の次に大きな厚みとされている。接続部24の長さL3は約22mm前後であって、吸引ヘッド20の中で最も長く、これにより、壁厚T1が大きくても所要の可撓性が発揮される。本実施形態の接続部24は、通路S2が閉塞することなく少なくとも45度の曲げが可能である。具体的には、接続部24は、少なくとも吸引ヘッド20よりも硬度の高いヘッド接続部25の孔25aに50%以上が挿入されており、このヘッド接続部25に挿入されていない部分24aの45度以上の曲げが可能とされている。このヘッド接続部25に挿入されていない部分24aは、後述する延伸部32に囲まれている。この部分24aは曲げにより通路S2が閉塞しないように内径(孔の直径)φ3を約3mmとしているが、接続部24は後端(鼻汁貯留構造体40側)に向かうに従って僅かに外径を小さくすることで、ヘッド接続部25への接続を容易にしている。
【0028】
ここで、鼻当接部28の全周縁部28aが負圧発生部側(即ち、鼻汁吸引器の後端側であり、図の場合は鼻汁貯留構造体40側)に曲って延伸することで延伸部32が形成されている。延伸部32は、この延伸部32により、吸引ヘッド20は「鼻孔からの引き抜きの容易化」及び「洗浄の容易化」を図っている。
即ち、
図6(B)に示すように鼻当接部28の全体が鼻孔NH内に入った場合、もし延伸部32がないと、吸引ヘッド20を引き抜く際、鼻当接部28の端部がめくれたりして引き抜き難くなってしまうが、鼻孔NH内に挿入不可能な延伸部32が存在することで、鼻当接部28の端部のめくれ等を防止して、吸引ヘッド20を容易に引き抜くことができる。本実施形態の場合、
図6(A)に示す延伸部32の長さL4は10mm前後であり、挿入部21の先端から、延伸部32の延伸した先の端部32aまでの長さ(L1+L2+L4)を約19mmとすることで、延伸部32の全体が鼻孔内に挿入されることを防止している。
【0029】
また、通常の使用状態では、
図6(A)に示すように、鼻当接部28は鼻孔入口周辺ETに当接する部分であり、鼻汁がその表面を流れる恐れが高い部分であるため、延伸部32がないと鼻汁が裏側28bに付着する恐れがある。そうすると、吸引作業後の洗浄の際、鼻当接部28をめくる必要が生じ、洗浄が困難であるし、吸引ヘッド20が損傷する恐れもある。しかし、延伸部32が存在することで、吸引ヘッド20の内側に鼻汁が付着する事態を防止できる。
特に、延伸部32の延伸した先の端部32aは、延伸部32の他の部分に比べて、外側に向かって厚みが大きく形成されている。図の端部32aの厚みT3は延伸部32の他の領域の厚みの凡そ2倍であり、延伸部32の表面に段部45が形成されている。従って、もし鼻汁が延伸部32の表面を流れたとしても、この段部45が障壁になって鼻汁の流れを止め、延伸部32と接続部24との間の空間S3への鼻汁の侵入を防止できる。
【0030】
この点、円錐状又はドーム状の鼻当接部28をそのまま延伸させても、延伸部32の上記機能「引き抜きの容易化」「洗浄の容易化」は発揮されるが、本発明の延伸部32は鼻当接部28の全周縁部28aが負圧発生部側に曲って(角度θ分、曲って)延伸している。本実施形態の場合、延伸部32は接続部24に略沿って延伸している。従って、
図6(A)に示す通常の吸引作業において、延伸部32は鼻の下UNに当たることが可及的に防止され、被操作者へのストレスを軽減できる(「ストレスの軽減化」)。なお、接続部24は後端に向かうに従って外径が小さくなるため、詳細には延伸部32と接続部24とは完全に平行ではなく、互いの間に僅かな角度(3度以内)を有しているが、このような場合も、鼻の下UNへの延伸部32の接触は防止されており、上記「延伸部32は接続部24に略沿って延伸している」ことに該当する。
【0031】
更に、
図5及び
図6に示すように、延伸部32は、接続部24との間に距離W1をあけて、接続部24を囲むように配置されている。図の場合、延伸部32は略円筒状であって、接続部24はその内側空間S3の径方向の中央部を通るため、延伸部32と接続部24とは横断面の形状が略同心円である。接続部24と接続されたヘッド接続部25も内側空間S3の中央部に配置される。これにより、不明瞭な鼻腔内で鼻汁の場所を探るのに、
図7に示すように挿入部21を方向転換したり、不意な被操作者の動きに追従したりして接続部24(
図7の場合はヘッド接続部25に挿入されていない部分24a)が曲ったとしても、延伸部32が邪魔にならないため、接続部24の曲げが円滑になって操作を容易に行うことができる(「操作の容易化」)。
【0032】
また、
図6(B)に示すように、延伸部32の一部が鼻孔NH内に挿入しても、延伸部32と接続部24との間に距離W1があることで、可撓性のある延伸部32は個人差のある種々の鼻形状に対応して変形が容易となる(「鼻形状の個人差への対応」)。従って、鼻形状に個人差があっても鼻孔を有効に封止して効果的な吸引力を実現できるし、また、被操作者が動いた際の力を吸収し、延伸部32が鼻孔NHに接触することで生じる痛みや違和感を有効に防止できる。
しかも、延伸部32は、鼻当接部28の全周縁部28aから負圧発生部側に曲がって延伸した先の端部32aが自由端とされているので、変形の自由度がより高くなり、上記「鼻形状の個人差への対応」をより高めることができる。
特に、本実施形態の延伸部32は、接続部24に略沿って延伸し、略円筒状とされているため、円錐状又は傘のように広がったものと比べて、延伸部32の一部が鼻孔NH内に挿入しても、
図8に示すように、鼻孔入口周辺ETにおいて延伸部32に形成される皺FUが最小限で済む。従って、皺FUができ難い分、鼻孔入口周辺ETとの密着度が高まって吸引力を維持することができる。
なお、
図5に示す延伸部32の外径φ4は端部32aを除けばどの箇所も同様であるが、この外径φ4を端部32aに向かって除々に小さくしても、上述の皺を軽減できる。しかし、
図5のように延伸部32の外径φ4を同様にして略円筒形状にする方が鼻への密着度を高められるし、延伸部32と接続部24との距離W1を維持して上記「操作の容易化」を図ることができるため好ましい。
【0033】
また、
図5に示すように、延伸部32は、延伸した先の端部32a以外の領域が、吸引ヘッド20の中で最も薄肉とされ、可撓性に最も優れている(
図5の厚みT2は0.5mmである。)。従って、
図6(B)の延伸部32の一部を鼻孔に挿入している状態で、挿入部21を方向転換した際、延伸部32が鼻粘膜に接触したとしても、鼻粘膜を傷つける恐れを有効に防止でき、また、被操作者に与える違和感を抑制できる。また、延伸部32の変形の自由度が更に高くなり、上記「鼻形状の個人差への対応」を更に高めることもできる。
【0034】
ところで、
図5に示す鼻当接部28は、挿入部21および延伸部32に比べて厚み(吸引ヘッド20を鼻孔に挿入する方向に沿った厚み)T4が大きな肉厚部28cを有している。肉厚についてまとめると、延伸部32(但し端部32aを除く)の厚みT2<挿入部21の厚みT5<接続部24の厚みT1<肉厚部28cの厚みT4であり、吸引ヘッド20の中で肉厚部28cの厚みT4が最も大きい。
従って、鼻当接部28は肉厚で変形し難くなって、鼻孔入口周辺に当接し易くなり、空気の漏れがないように鼻孔を封止できる。また、被操作者が乳幼児の場合、吸引動作中に暴れる乳幼児の鼻孔の深くに吸引ヘッド20が侵入することを防止できる。
また、鼻当接部28の肉厚部28cは、接続部24の先端部39の壁部と一体的に形成され、接続部24の先端部39から接続部24の径方向の外側に向かって張り出した構成とされている。従って、肉厚部28cは、鼻孔内の挿入部21が動くなどして先端部39が曲ることで応力が集中し易い状態になっても、損傷の危険を回避できる。
【0035】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、上述の実施形態の個別の構成は、必要により省略したり、説明しない他の構成と組み合わせたりしてもよい。
例えば、上記実施形態では、
図1に示すように吸引ヘッド20は鼻汁貯留構造体40に接続されているが、吸引ヘッド20をチューブ50に接続し、鼻汁貯留構造体40をチューブ50と負圧発生部60との間に配置してもよい。
また、挿入部21から接続部24にかけて一本の真っ直ぐな円筒形状とされているが、本発明はこれに限られず、挿入部21及び/又は接続部24はその途中で曲げられても構わず、また、円筒形状以外の筒形状であってもよい。
また、上記実施形態の延伸部32は、好ましい形態として接続部24に略沿って形成されているが、接続部24に対して角度を有していてもよい。
【符号の説明】
【0036】
10・・・鼻汁吸引器、20・・・吸引ヘッド、21・・・挿入部、24・・・接続部、28・・・鼻当接部、28c・・・肉厚部、32・・・延伸部、40・・・鼻汁貯留構造体、41・・・流入口、60・・・負圧発生部(電動式ポンプ)、MS・・・開口部