(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】耐熱用パワーモジュール基板及び耐熱用めっき皮膜
(51)【国際特許分類】
C23C 18/50 20060101AFI20220329BHJP
C23C 18/31 20060101ALI20220329BHJP
H05K 3/24 20060101ALI20220329BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20220329BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
C23C18/50
C23C18/31 A
H05K3/24 A
H01L23/12 J
H01L23/36 C
(21)【出願番号】P 2017246931
(22)【出願日】2017-12-22
【審査請求日】2020-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000189327
【氏名又は名称】上村工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【氏名又は名称】村上 浩之
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 成吾
(72)【発明者】
【氏名】小田 幸典
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-200707(JP,A)
【文献】特開2017-057486(JP,A)
【文献】特開2002-256444(JP,A)
【文献】特開平05-263259(JP,A)
【文献】特開2015-137394(JP,A)
【文献】特開昭58-166768(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104328397(CN,A)
【文献】特開2005-220412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-18/54
H05K 3/24
H01L 23/12
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高熱を発するパワー半導体を搭載するための耐熱用パワーモジュール基板であって、
少なくとも、
酸化アルミニウム、窒化アルミニウム又は窒化ケイ素からなる基材と、
前記基材上に、直接又はろう材を介して形成された、銅若しくはアルミニウムからなる回路と、
前記回路表面に形成されためっき皮膜とを備え、
前記めっき皮膜は、無電解ニッケル-リン-モリブデンめっき皮膜であり、
前記めっき皮膜中のリンの含有率は11.0~13.0重量%であることを特徴とする耐熱用パワーモジュール基板。
【請求項2】
前記めっき皮膜中のモリブデンの含有率は0.01~2.0重量%であることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール基板。
【請求項3】
高熱を発するパワー半導体を搭載するためのパワーモジュール基板の回路表面に形成するための耐熱用めっき皮膜であって、
前記めっき皮膜中のモリブデンの含有率は、0.01~2.0重量%、リンの含有率が11.0~13.0重量%であり、
前記めっき皮膜は、無電解ニッケル-リン-モリブデンであることを特徴とする耐熱用めっき皮膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱を発するパワー半導体を搭載するための耐熱用パワーモジュール基板及び耐熱用めっき皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パワーモジュール基板は、Si半導体チップが多用されており、半導体チップの性能保証上、動作温度が最高で150℃程度の条件で使用されていた。
【0003】
導体回路の耐食性向上を目的に、上記のパワーモジュール基板には、上記動作温度に耐えうるニッケル-リンめっきなどが施されていた。
【0004】
例えば特許文献1では、従来から用いられている樹脂基板やセラミック基板等を対象とし、高いハンダ接合強度を可能とするために、導電体回路におけるハンダ接合部分に、鉄、タングステン、モリブデン及びクロムから選ばれた少なくとも一種の成分を有する無電解ニッケル-リンめっき皮膜が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、セラミック、アルミニウム等の被めっき物に、高温処理をすることなく高硬度を得ることができる無電解ニッケル-ホウ素のめっき方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-256444号公報
【文献】特許3146065号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、次世代のSiC, GaNなどの半導体チップは耐熱性が高く、200℃以上での動作が可能である。それにともないパワーモジュール基板にも同様の耐熱性が要求されるが、従来のニッケル-リンめっきでは耐熱性の評価試験である冷熱衝撃テスト(以下TCTと略す)において、低温側を-50℃とし、高温側を200℃以上とした場合に、めっき皮膜にクラックが入るという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記温度でのTCTを行っても、めっき皮膜にクラックが発生することを防止する耐熱用パワーモジュール基板及び耐熱用めっき皮膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る耐熱用パワーモジュール基板は、高熱を発するパワー半導体を搭載するための耐熱用パワーモジュール基板であって、少なくとも、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム又は窒化ケイ素からなる基材と、前記基材上に、直接又はろう材を介して形成された、銅若しくはアルミニウムからなる回路と、前記回路表面に形成されためっき皮膜とを備え、前記めっき皮膜は、無電解ニッケル-リン-モリブデンめっき皮膜であり、前記めっき皮膜中のリンの含有率は11.0~13.0重量%であることを特徴とする。
【0010】
このようにすれば、高温側200℃以上のTCTを行っても、めっき皮膜にクラックが発生することを防止する耐熱用パワーモジュール基板を提供することができる。
【0011】
このとき、本発明の一態様では、前記めっき皮膜中のモリブデンの含有率は0.01~2.0重量%としても良い。
【0012】
このようにすれば、めっき皮膜にクラックが発生することをより防止できる。
【0015】
また、本発明の他の態様は、高熱を発するパワー半導体を搭載するためのパワーモジュール基板の回路表面に形成するための耐熱用めっき皮膜であって、前記めっき皮膜中のモリブデンの含有率は、0.01~2.0重量%、リンの含有率が11.0~13.0重量%であり、前記めっき皮膜は、無電解ニッケル-リン-モリブデンであることを特徴とする。
【0016】
このようにすれば、高温側200℃以上のTCTを行っても、めっき皮膜にクラックが発生することを防止する耐熱用めっき皮膜を提供することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明によれば、高温側200℃以上のTCTを行っても、めっき皮膜にクラックが発生することを防止する耐熱用パワーモジュール基板及び耐熱用めっき皮膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る耐熱用パワーモジュール基板の概略を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。本発明の一実施形態に係る耐熱用パワーモジュール基板、耐熱用めっき皮膜及びめっき液について、下記の順に説明する。
1.耐熱用パワーモジュール基板
1-1.基材
1-2.回路
2.耐熱用めっき皮膜
3.めっき液
【0024】
[1.耐熱用パワーモジュール基板]
本発明の一実施形態に係る耐熱用パワーモジュール基板100は、高熱を発するパワー半導体を搭載するための基板である。そして、
図1に示すように、発明の一実施形態に係る耐熱用パワーモジュール基板100は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム又は窒化ケイ素からなる基材10と、上記基材上に、直接又はろう材を介して形成された、銅若しくはアルミニウムからなる回路20と、上記回路表面に形成されためっき皮膜30とを備える。以下詳細に説明する。
【0025】
[1-1.基材]
本発明の一実施形態に係る耐熱用パワーモジュール基板100に用いられる基材10は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム又は窒化ケイ素からなる。
【0026】
また、本発明の一実施形態に係るパワーモジュール基板に用いられる基材は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム又は窒化ケイ素からなるため、他のセラミック材料に比べて、コストや放熱性、強度などに優れている。
【0027】
[1-2.回路]
次に、
図1に示すように基材10上に回路20を形成する。このとき、基材10上に直接法で回路20を形成してもよく、あるいは、ろう材(不図示)を介して回路20を形成してもよい。上記回路20は、銅若しくはアルミニウムからなる。
【0028】
回路20の形成方法は、公知の方法を用いればよく、特に限定はされないが、直接法では回路部材である銅の板の片面を酸化処理し、基材10と接合させ、回路以外の不要な部分をエッチングしてもよい。アルミニウムは展延性に優れ、銅は放熱性に優れている。またコストの点でもこれら金属は他の金属に比べて優れているためパワーモジュール基板に用いられている。
【0029】
そして、上記回路20表面に形成されためっき皮膜30について、下記に詳細に説明する。
【0030】
[2.耐熱用めっき皮膜]
本発明の一実施形態に係る耐熱用パワーモジュール基板の回路20表面に形成されためっき皮膜30は、無電解ニッケル-リン-モリブデンめっき皮膜であり、上記めっき皮膜中のリンの含有率は10.5~13重量%であることを特徴とする。なお、上記の無電解ニッケル-リン-モリブデンめっき皮膜に用いられるめっき液は後述する。
【0031】
上述したが、次世代のSiC,GaNなどの半導体チップは耐熱性が高く、200℃以上での動作が可能である。それにともないパワーモジュール基板にも同様の耐熱性が要求されるが、従来のニッケル-リンめっきでは耐熱性の評価試験であるTCTにおいて、低温側を-50℃とし、高温側を200℃以上とした場合に、めっき皮膜にクラックが入るという不具合があった。
【0032】
さらに、従来より無電解ニッケル-リンめっきは、モリブデンに代えて、鉄やタングステン、クロムなどの金属を用いて、上記金属を皮膜中に含有させた皮膜がある。しかし、従来の鉄やタングステン、クロムなどの金属を含有させても、パワーモジュール基板での高温側200℃以上でのTCTに対してクラック抑制効果はみられない。
【0033】
そこで本発明の一実施形態に係るパワーモジュール基板に形成されためっき皮膜30は、上記高温側200℃以上でのTCTでも、クラックの発生を抑えることができるものである。そして、上記めっき皮膜30は、無電解ニッケル-リン-モリブデンめっき皮膜であり、上記めっき皮膜中のリンの含有率は10.5~13重量%である。
【0034】
上記めっき皮膜30中のリンの含有率が10.5重量%未満であると、上記温度でのTCTを行ったときに、めっき皮膜にクラックが発生する。一方、上記めっき皮膜30中のリンの含有率が13重量%を超える場合には、生産性が低下する。
【0035】
さらに、上記めっき皮膜30中のリンの含有率は11~13重量%であることが好ましい。そうすることで、皮膜にクラックが発生することをより防止できる。
【0036】
また、上記めっき皮膜中のモリブデンの含有率は0.01~2.0重量%であることが好ましい。さらに好ましいモリブデンの含有率は0.2~2.0重量%である。
【0037】
上記めっき皮膜30中のモリブデンの含有率が0.01重量%未満であると、上記温度でのTCTを行ったときに、めっき皮膜にクラックが発生する可能性がある。一方、上記めっき皮膜30中のモリブデンの含有率が2.0重量%を超える場合には、めっき液中のモリブデン濃度が非常に高くなることで、めっき析出速度が低下し生産性が低下する可能性がある。さらには無めっきが発生する可能性がある。
【0038】
また、本発明の一実施形態に係る耐熱用めっき皮膜は、高熱を発するパワー半導体を搭載するためのパワーモジュール基板の回路表面に形成するための皮膜であり、上記めっき皮膜中のモリブデンの含有率及びリンの含有率は上記の範囲であり、上記めっき皮膜は、無電解ニッケル-リン-モリブデンである。
【0039】
以上より、本発明の一実施形態に係る耐熱用パワーモジュール基板及び、耐熱用めっき皮膜によれば、高温側が200℃以上となるTCTを行っても、皮膜にクラックが発生することを防止できる。以下に、無電解ニッケル-リン-モリブデンの耐熱用めっき皮膜を形成するためのめっき液を説明する。
【0040】
[3.めっき液]
本発明の一実施形態に係るめっき液は、高熱を発するパワー半導体を搭載するためのパワーモジュール基板の回路表面に耐熱用めっき皮膜を形成するためのものであり、無電解ニッケル-リン-モリブデンめっき液である。
【0041】
ここでめっき液とは、めっきをするために用いられる液であって、各種金属及び添加剤が一つの容器に濃縮されたもの、各種金属及び添加剤が複数の容器に分かれ各容器に各種金属及び添加剤が濃縮されたもの、上記濃縮されたもの等を水で調整し建浴したもの、及び各種金属及び添加剤を添加し調整し建浴したものをいう。
【0042】
本発明の一実施形態に係るめっき液は、少なくとも、ニッケル塩と、その錯化剤と、還元剤である次亜リン酸塩と、モリブデン酸塩とを含み、上記次亜リン酸塩の濃度は、H2PO2イオンとして12~37g/Lであり、上記モリブデン酸塩の濃度は、Moイオンとして0.004~0.8g/Lであることを特徴とする。
【0043】
上記還元剤である次亜リン酸塩の濃度が、H2PO2イオンとして12g/L未満であると、めっき皮膜中のリンの含有率が高くならず、TCTを行ったときに、めっき皮膜にクラックが発生する。一方、上記次亜リン酸塩の濃度が、H2PO2イオンとして37g/Lより多くなると、めっき液が不安定化しめっき液が分解したり、まためっき析出速度が遅くなり生産性が低下する。なお次亜リン酸ナトリウムの好ましい濃度は、H2PO2イオンとして18~37g/Lである。
【0044】
また、上記モリブデン酸塩の濃度が、Moイオンとして0.004g/L未満であると、めっき皮膜中のモリブデンの含有率が高くならず、TCTを行ったときに、めっき皮膜にクラックが発生する。一方、上記モリブデン酸塩の濃度が、Moイオンとして0.8g/Lより多くなると、めっき皮膜中の析出速度が遅くなり、生産性が低下する。なおモリブデン酸塩の好ましい濃度は、Moイオンとして0.04~0.8g/Lである。
【0045】
よって、本発明の一実施形態に係るめっき液に使用される次亜リン酸塩のH2PO2イオン及びモリブデン酸塩のMoイオン濃度は、上記の範囲とし、そうすることで、皮膜にクラックが発生することを防止できる。
【0046】
本発明の一実施形態に係るめっき液に使用される還元剤としての次亜リン酸塩は、限定されないが、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸ニッケル等が用いられる。
【0047】
本発明の一実施形態に係るめっき液に使用されるモリブデン酸塩は、限定されないが、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウム等が用いられる。
【0048】
本発明の一実施形態に係るめっき液に使用されるニッケル塩は、限定されないが、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、次亜リン酸ニッケル等の無機の水溶性ニッケル塩、及び酢酸ニッケル、リンゴ酸ニッケル等の有機の水溶性ニッケル塩等を用いることができる。なお、これらの水溶性ニッケル塩は単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0049】
また、めっき液中のニッケルイオンの濃度は、例えば、金属ニッケルとして2~8g/Lが好ましく、より好ましくは4~6g/Lである。ニッケル濃度が低過ぎると、めっき速度が遅くなる場合があるため、好ましくない。また、ニッケル濃度が高過ぎると、めっき液において白濁が生じる場合や、めっき液の粘度が高くなる場合があるため、均一析出性が低下し、形成後のめっき皮膜にピットが生じる場合があるため、好ましくない。
【0050】
本発明の一実施形態に係るめっき液に使用される錯化剤は、限定されないが、公知の無電解ニッケルめっき液において用いられている各種の錯化剤を用いることができる。錯化剤の具体例としては、グリシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、フェニルアラニン等のアミノ酸、乳酸、プロピオン酸、グリコール酸、グルコン酸等のモノカルボン酸、酒石酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸等のジカルボン酸、クエン酸等のトリカルボン酸などが挙げられる。また、これらの塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等も錯化剤として使用可能である。なお、これらの錯化剤は、単独で、または2種以上混合して用いることができる。
【0051】
また、めっき液における錯化剤の濃度は、使用する錯化剤の種類により異なるが、10~200g/Lが好ましく、より好ましくは30~100g/Lである。錯化剤濃度が低すぎると、水酸化ニッケルの沈殿が生じやすくなるため好ましくない。また、錯化剤濃度が高すぎると、めっき液の粘度が高くなるため、均一析出性が低下する場合があり、好ましくない。
【0052】
さらに、上記ニッケル塩と、その錯化剤と、次亜リン酸塩のH2PO2イオンと、モリブデン酸塩のMoイオン濃度の質量比は、1:1.25~100:1.5~18.5:0.0005~0.4であることが好ましい。このようにすれば、適切な濃度比となり、皮膜にクラックが発生することをより防止できる。
【0053】
また、本発明の一実施形態に係るめっき液には、ニッケル以外の添加金属として、上記のモリブデンを加えるが、モリブデンに代えて鉄、タングステン、クロム、錫は含有されないし、モリブデンとさらに上記の鉄、タングステン、クロム、錫も含有されない。
【0054】
その他、公知の安定剤、還元剤を用いることができる。またpHは3~7、好ましくは4~6である。めっき時間は目的の膜厚となるように調整すればよい。
【0055】
以上より本発明の一実施形態に係るめっき液によれば、高温側で200℃以上のTCTを行っても、めっき皮膜にクラックが発生することを防止できる。
【実施例】
【0056】
次に、本発明の一実施形態に係る耐熱用パワーモジュール基板、耐熱用めっき皮膜及びめっき液について実施例により詳しく説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
実施例1では、耐熱用パワーモジュール基板に使用する基材として、DAB基板(セラミクス:窒化アルミニウム50mm×50mm-0.8tmm、アルミニウム:40mm×40mm-0.6tmm×2(両面)、厚みトータル:2.0tmm)を使用した。また上記の基材上に直接、銅の回路を形成した。そして、当該回路上に、下記の条件による無電解ニッケル-リン-モリブデンめっき皮膜を施した。
【0058】
無電解ニッケル-リン-モリブデンのめっき液の組成として、硫酸ニッケル(II)六水和物を27.0g/L、つまりニッケルイオンを6g/L、次亜リン酸ナトリウムを30g/L(H2PO2イオンとして18.4g/L)、酢酸鉛(II)三水和物を1mg/L、モリブデン酸ナトリウムを0.1g/L(Moイオンとして0.040g/L)、りんご酸を20g/L、コハク酸を15g/L、水酸化ナトリウムを5g/Lとした。また、めっき時間を35分、液温を90℃、pHを4.5とした。
【0059】
また、上記のめっき皮膜形成後に組成を分析した。より具体的には、めっき析出した無電解めっき皮膜を硝酸に溶解させ、この溶解液をICP(HORIBA製、商品名:Ultima Expert)にてリン及びモリブデンまたはタングステンまたは錫の定量分析を行い、溶解しためっき皮膜の重量から、皮膜中の各成分の質量%を算出した。
【0060】
そして、クラック抑制効果の確認のために、小型冷熱衝撃装置(エスペック(株)製、商品名:TSE-11)を用いて温度サイクル試験(TCT)を行うことにより、上述のめっき処理により形成しためっき皮膜のクラック抑制効果を評価した。より具体的には、40分間-高温:200℃の状態で放置した後、20分間-低温:-50℃の状態で放置し、これを1サイクルとする。めっき皮膜にクラックが発生するまでこの冷熱衝撃を繰り返した。最大1000サイクルまで評価を行った。クラックの発生有無は光学顕微鏡にて確認を行った。
【0061】
[実施例2]
実施例2では、モリブデン酸ナトリウムを0.5g/L(Moイオンとして0.198g/L)とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0062】
[実施例3]
実施例3では、モリブデン酸ナトリウムを1.0g/L(Moイオンとして0.397g/L)とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0063】
[実施例4]
実施例4では、モリブデン酸ナトリウムを0.5g/L(Moイオンとして0.198g/L)とした。また、めっき時間を25分、pHを4.8とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0064】
[実施例5]
実施例5では、モリブデン酸ナトリウムを0.5g/L(Moイオンとして0.198g/L)とし、りんご酸を40g/L、コハク酸を30g/Lとした。また、めっき時間を60分、pHを4.4とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0065】
[実施例6]
実施例6では、モリブデン酸ナトリウムを0.01g/L(Moイオンとして0.004g/L)とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0066】
[比較例1]
比較例1では、モリブデン酸ナトリウムを添加しなかった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0067】
[比較例2]
比較例2では、モリブデン酸ナトリウムを5g/L(Moイオンとして1.983g/L)とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0068】
[比較例3]
比較例3では、モリブデン酸ナトリウムを0.5g/L(Moイオンとして0.198g/L)とし、さらに次亜リン酸ナトリウムを15g/L(H2PO2イオンとして9.2g/L)とした。また、めっき時間を60分、pHを4.6とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0069】
[比較例4]
比較例4では、モリブデン酸ナトリウムを0.05g/L(Moイオンとして0.020g/L)とし、さらに次亜リン酸ナトリウムを15g/L(H2PO2イオンとして9.2g/L)とした。錯化剤であるりんご酸及びコハク酸の代わりにグリシンを添加し12g/Lとした。さらに、pHを6.2とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0070】
[比較例5]
比較例5では、モリブデン酸ナトリウムを添加しなかった代わりに、タングステン酸ナトリウムを添加し20g/Lとした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0071】
[比較例6]
比較例6では、モリブデン酸ナトリウムを添加しなかった代わりに、メタンスルホン酸錫を添加し0.3g/Lとした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0072】
以上の条件を表1に示す。なお、表1の次亜リン酸ナトリウム及びモリブデン酸ナトリウムの濃度は、それぞれH2PO2イオン及びMoイオンで表した。また、表1の条件で得られた皮膜の含有率とクラック発生サイクル数の結果を表2に示す。なお、表2に示すサイクル数は、めっき皮膜にクラックが発生したサイクル数を示す。また>1000は、TCTを1000サイクル行っても、クラックが発生していないことを示す。
【0073】
【0074】
【0075】
全ての実施例では、TCTを900サイクル未満の場合に、めっき皮膜にクラックは発生しなかった。よって、耐熱性の向上によるクラック抑制効果に優れためっき皮膜を形成することができたことが分かる。また、めっき皮膜中のリン濃度が11~13重量%で、かつモリブデンの含有率が0.2~2.0重量%である実施例1、2、3及び5では、TCTを1000サイクル以上行っても、めっき皮膜にクラックは発生しなかった。よって、上記濃度範囲におけるめっき皮膜は、クラックに対しより有効であった。
【0076】
一方、比較例では、TCTを300~500サイクル行った時点でめっき皮膜にクラックが発生した。また、比較例2では、めっき液にモリブデン酸ナトリウムを添加しすぎたため、めっきができなかった。さらに、モリブデン酸ナトリウムを添加しない比較例1、モリブデン酸ナトリウムの代わりにタングステン酸ナトリウム又はメタンスルホン酸錫を添加した比較例5及び6では、TCTを400~500サイクル行った時点でめっき皮膜にクラックが発生した。
【0077】
以上より、本発明の一実施形態に係る耐熱用パワーモジュール基板、耐熱用めっき皮膜及びめっき液によれば、高温側で200℃以上のTCTを行っても、めっき皮膜にクラックが発生することを防止できた。
【0078】
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0079】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、耐熱用パワーモジュール基板、耐熱用めっき皮膜及びめっき液の構成、動作も本発明の各実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0080】
10 基材、20 回路、30 めっき皮膜、100 耐熱用パワーモジュール基板