(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】編機の張力測定装置及びその張力測定方法
(51)【国際特許分類】
D04B 15/44 20060101AFI20220329BHJP
【FI】
D04B15/44
(21)【出願番号】P 2018092147
(22)【出願日】2018-05-11
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(72)【発明者】
【氏名】中口 一人
(72)【発明者】
【氏名】島崎 宜紀
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-272141(JP,A)
【文献】特表2013-530904(JP,A)
【文献】国際公開第03/093550(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第4032402(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 15/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸パッケージからの編糸に張力が付与された状態で編針までの給糸経路を経た編糸が前記給糸経路の給糸口により案内されて前記編針まで給糸されるようにした編機において、
前記給糸口の近傍には、その給糸口を通過後の位置で編糸を前記編針への給糸経路とは異なる測定経路に対し引き込んで当該編糸の張力を測定する張力測定装置本体が設置され、
前記張力測定装置本体は、
前記給糸口の通過後の位置に編糸を編成が行える状態で前記測定経路へ引き込む編糸引き込み手段と、
前記給糸口と前記測定経路の前記編糸引き込み手段との間に設けられ、その編糸引き込み手段により前記測定経路へ編成を行わずに引き込まれる前記編糸の張力を測定する測定手段と、
前記測定手段により測定された前記測定経路での編糸の張力測定値を表示する表示手段と、
を備えていることを特徴とする編機の張力測定装置。
【請求項2】
給糸経路は、前記編糸に対し張力を付与する張力付与手段を備え、
前記表示手段は、予め目標とされている前記給糸口を通過後の編糸の張力目標値と比較可能にかつ前記張力付与手段の調整によって前記張力目標値に近付けられるように、前記測定経路での編糸の張力測定値を表示していることを特徴とする請求項1に記載の編機の張力測定装置。
【請求項3】
前記測定経路での編糸の糸送り速度は、前記給糸口の通過後の位置で前記給糸経路での編糸の送り方向の変更によって変動する糸送り速度に応じて変更されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の編機の張力測定装置。
【請求項4】
前記張力測定装置本体は、前記編機の給糸口の近傍に脱着自在に設置されていることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1つに記載の編機の張力測定装置。
【請求項5】
糸パッケージからの編糸に張力が付与された状態で編針までの給糸経路を経た編糸が前記給糸経路の給糸口により案内されて前記編針まで給糸されるようにした編機において、
前記給糸口を通過後の位置に編糸を前記編針への給糸経路とは異なる測定経路に対し編成が行える状態で引き込んでから、前記測定経路へ編成を行わずに引き込まれる前記編糸の張力を測定し、前記給糸口の通過後の位置での編糸の張力測定値を表示していることを特徴とする編機の張力測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸パッケージからの編糸に対し張力が付与された状態で編針までの給糸経路を経て編糸を給糸する編機において、編糸の張力を正確に把握できるようにした張力測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の編機の張力測定装置としては、糸パッケージから編針までの編糸の給糸経路途中に設けられ、当該給糸経路において天ばね装置やサイドテンション装置などにより張力を付与した状態で給糸される編糸の張力を測定するようにしたものは知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この張力測定装置では、給糸経路を経て給糸される編糸で編成する際に、給糸経路途中での編糸の張力が、給糸経路の給糸口を通過する前に測定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、編成する際の編糸の張力としては、編成される編地への影響を考慮すると、編針に対し可及的に近い位置つまり給糸口を通過した後の位置で測定した張力測定値が好ましいものとなる。
【0006】
前記従来の張力測定装置では、給糸口を通過する前の位置で測定された編糸の張力測定値であるため、給糸口を通過後の位置での編糸の張力との間に差が生じることが否めず、給糸口を通過後の位置で編糸の張力を正確に把握することができない。
【0007】
しかも、張力を測定している最中の編糸が高速度で編針に給糸されているので、編糸の張力測定値に異常があっても惰性で編成が続行されてしまい、編成途中の編地に不具合が発生するおそれがある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、給糸口の通過後の位置に編糸を編成が行える状態で編針への給糸経路とは異なる測定経路へ給糸口を停止させたまま引き込んで張力を測定することで、給糸口の通過後の位置で編成を行う編糸と遜色のない正確な張力を把握でき、編糸の張力測定値の異常による編地の不具合を未然に防止することができる編機の張力測定装置及びその張力測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明では、編機の張力測定装置として、糸パッケージからの編糸に張力が付与された状態で編針までの給糸経路を経た編糸が前記給糸経路の給糸口により案内されて前記編針まで給糸されるようにした編機を前提とする。更に、前記給糸口の近傍に、その給糸口を通過後の位置で編糸を前記編針への給糸経路とは異なる測定経路に対し引き込んで当該編糸の張力を測定する張力測定装置本体を設置する。そして、前記張力測定装置本体に、前記給糸口の通過後の位置に編糸を編成が行える状態で前記測定経路へ引き込む編糸引き込み手段と、前記給糸口と前記測定経路の前記編糸引き込み手段との間に設けられ、その編糸引き込み手段により前記測定経路へ編成を行わずに引き込まれる前記編糸の張力を測定する測定手段と、前記測定手段により測定された前記測定経路での編糸の張力測定値を表示する表示手段と、を備えることを特徴としている。このとき、編成が行える状態とは、給糸口を通過後に編針まで案内されればそのまま編地の編成が行える状態を指している。
【0010】
また、給糸経路に、前記編糸に対し張力を付与する張力付与手段を設ける。そして、前記表示手段は、予め目標とされている前記給糸口を通過後の編糸の張力目標値と比較可能にかつ前記張力付与手段の調整によって前記張力目標値に近付けられるように、前記測定経路での編糸の張力測定値を表示していてもよい。
【0011】
また、前記測定経路での編糸の糸送り速度を、前記給糸口の通過後の位置で前記給糸経路での編糸の送り方向の変更によって変動する糸送り速度に応じて変更していてもよい。
【0012】
更に、前記張力測定装置本体を、前記編機の給糸口の近傍に脱着自在に設置していてもよい。
【0013】
また、前記目的を達成するため、本発明では、編機の張力測定方法として、糸パッケージからの編糸に張力が付与された状態で編針までの給糸経路を経た編糸が前記給糸経路の給糸口により案内されて前記編針まで給糸されるようにした編機を前提とする。そして、前記給糸口を通過後の位置に編糸を前記編針への給糸経路とは異なる測定経路に対し編成が行える状態で引き込む。それから、前記測定経路へ編成を行わずに引き込まれる前記編糸の張力を測定し、前記給糸口の通過後の位置で編糸の張力測定値を表示することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
以上、給糸口を通過後の位置に編糸を編成が行える状態で測定経路に引き込んで、当該編糸の張力を測定することで、給糸口の通過後の位置で編糸の張力を編成が行える状態の給糸経路と遜色なく正確に把握することができる。特に、糸パッケージから長さの異なる複数の給糸経路を経て編地を編成するインターシャ編成の場合などにあっても、個々の給糸経路毎に給糸口の通過後の位置で編糸の張力を正確に把握することができる。更に、同一の給糸経路であっても編地の編み量(糸量)に応じて変動する編糸の張力についても正確に把握することができる。
【0015】
しかも、給糸口の通過後の位置で編糸を編針への給糸経路とは異なる測定経路へ給糸口を停止させたまま引き込んで張力を測定していることにより、編糸の張力を測定している最中に編地を編針により編成する必要がなく、編糸の張力測定値の異常による編地の不具合を編成前に確認して未然に防止することができる。
【0016】
また、測定経路での編糸の張力測定値を、予め目標とする編糸の張力目標値と比較可能にかつ張力付与手段の調整によって張力目標値に近付けられるように表示することで、張力付与手段によって編糸への張力の付与状態を調整して、張力測定値を張力目標値に正確に近付けることができる。
【0017】
また、給糸口の通過後の位置で給糸経路の編糸の送り方向の変更によって変動する糸送り速度に応じて測定経路での編糸の糸送り速度を変更することで、給糸経路で変動する編糸の糸送り速度に応じた張力を測定経路において簡単に測定することができる。
【0018】
更に、張力測定装置本体を編機の給糸口の近傍に脱着自在に設置することで、他の編機の給糸口の近傍にも設置することが可能となり、単一の張力測定装置を用いて他の編機の給糸経路での編糸の張力を正確に測定することができる。
【0019】
また、給糸口の通過後の位置で編糸を編成が行える状態で編針への給糸経路とは異なる測定経路へ引き込み、その測定経路へ編成を行わずに引き込んだ編糸の張力測定値を表示している。これにより、給糸口の通過後の位置で編成を行う編糸の張力と遜色なく正確に把握し得ることに加え、給糸経路での編糸の張力異常による編地の不具合を編成前に未然に防止し得る張力測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態に係る張力測定装置を備えた横編機の概略構成図である。
【
図2】
図1の横編機の編糸の給糸経路を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は本発明の実施の形態に係る張力測定装置を備えた編糸の給糸経路の概略構成図、
図2は
図1の横編機の編糸の給糸経路を示す概略構成図をそれぞれ示している。
【0023】
図1及び
図2において、横編機1は、歯口10を挟んで逆V字状に対向する前後の針床11(一方のみ示す)を備えている。また、前後の針床11に対し、糸道レール14を跨ぐようにしてキャリッジ12が配置される。キャリッジ12は、図示しないサーボモータにより針床11の長手方向(
図1では左右方向)へ往復移動する。
【0024】
具体的には、歯口10の上方に、複数の糸道レール14(
図1では1つのみ示す)が、針床11の長手方向に沿って架設されている。糸道レール14には、編糸20を給糸するヤーンキャリア15,16が走行可能に支持されている。また、糸道レール14には、ヤーンキャリア15,16を走行させるトラックが2つずつ形成されている。ヤーンキャリア15,16は、基台151,161と、この基台151,161より下方へ延びる給糸アーム152,162と、給糸アーム152,162の下端に設けられ、編糸20を編針(図示せず)に案内する給糸口153,163とを備えている。編針は、各針床11の長手方向に多数列設され、キャリッジ12にそれぞれ搭載される選針機構およびカム機構等のシステムによって選択的に編成動作が行えるようになっている。
【0025】
また、キャリッジ12は、ヤーンキャリア連行ピンをヤーンキャリア15,16の凹部に係合させることで、ヤーンキャリア15,16を連行する。また、横編機1の糸立台18には、糸パッケージ17がセットされている。また、各ヤーンキャリア15,16の給糸口153,163には、各糸パッケージ17からの編糸20がそれぞれ個別の給糸経路2を経て給糸されるようになっている。
【0026】
編地22の編成は、編針の先端のフックを歯口10に進出させて、給糸口153,163から給糸された編糸20を各針床11に引き込み、旧編目をノックオーバーさせることを繰り返して行われる。キャリッジ12は、単数又は複数のヤーンキャリア15,16を連行して編地22を編成する。編地22の編成は、予め作成される編成データに基づく制御に従って行われ、編地22は、編成に合わせて歯口10の下方に引き下げられる。キャリッジ12及び編針の動作も、編成データに基づいて自動的に行われ、キャリッジ12が移動する移動ストロークも編成データ等に基づいて最適化されている。
【0027】
ヤーンキャリア15,16は、編地22の編幅の外方となる編み端221付近で待機している。また、キャリッジ12の移動方向は、編地22の編幅の外方付近でサーボモータ(図示せず)の回転方向を切り換えることで反転される。
【0028】
給糸経路2には、横編機1の上端部に設置された張力付与手段としての複数の天ばね装置3が設けられている。この天ばね装置3は、テンションディスク31と、このテンションディスク31を支持する基端部より前方へ突出する支持アーム32と、この支持アーム32の先端に設けられた糸ガイド33とを備えている。そして、糸パッケージ17から上方へ給糸された編糸20は、天ばね装置3のテンションディスク31から支持アーム32先端の糸ガイド33に通されて下方へ導かれる。このとき、テンションディスク31に通された編糸20に張力が付与され、当該テンションディスク31に設けられた調整ツマミ34によりテンションディスク31の負荷が調整されて編糸20に対する張力の付与具合が変更される。
【0029】
また、給糸経路2には、糸立台18の左右両側に設置された張力付与手段としての複数のサイドテンション装置4が設けられている。このサイドテンション装置4は、糸立台18の左右両端に揺動自在に支持された支持部41を備えている。また、サイドテンション装置4は、支持部41に上端が取り付けられたサイドテンションアーム42と、このサイドテンションアーム42の先端(下端)に設けられた糸ガイド43とを備えている。支持部41は、糸立台18に対するサイドテンションアーム42の揺動負荷を調整可能としている。そして、天ばね装置3から下方へ導かれた編糸20は、サイドテンションアーム42の先端の糸ガイド43に通されて左右方向内方へ向けて導かれるように案内される。このとき、支持部41でのサイドテンションアーム42の揺動負荷と当該サイドテンションアーム42のしなりとによって編糸20に張力が付与され、支持部41に設けられた調整ダイヤル(図示せず)によりサイドテンションアーム42の揺動負荷が調整されて編糸20に対する張力の付与具合が変更される。
【0030】
更に、給糸経路2には、天ばね装置3とサイドテンション装置4との間において編糸20を一周掛け渡して送り出す送りローラ44が設けられている。この送りローラ44は、編糸20に対し駆動力を付与して糸パッケージ17から天ばね装置3を介してサイドテンション装置4に給糸し、キャリッジ12に連行されて糸道レール14を左右方向へ摺動するヤーンキャリア15,16までの編糸20の送りを、抵抗を減らすことで滑らかにしている。ヤーンキャリア15,16は、キャリッジ12に連行されて左右方向へ摺動する際、サイドテンション装置4からの編糸20を、その案内方向のままに給糸口153,163から引き出す引き方向とその案内方向と逆向きに引き出す押し方向とに切り換えられる。
【0031】
図3は
図2の張力測定装置の概略構成図を示している。この
図3において、ヤーンキャリア15の給糸口153の近傍には、給糸口153の通過後の位置で編糸20を編針への給糸経路2とは異なる測定経路24へ給糸口153を停止させたまま引き込んで張力を測定する張力測定装置5の張力測定装置本体50が設置されている。この張力測定装置本体50は、枠体状の筐体59を備え、筐体59の下面には磁石(図示せず)が設けられ、横編機1の金属製の支持台19上に脱着自在に取り付けられている。これにより、他の横編機の給糸口の近傍にも設置することが可能となり、単一の張力測定装置本体50を用いて他の横編機の給糸経路での編糸の張力を正確に測定することができる。なお、本実施の形態では、横編機1の支持台19上に張力測定装置本体50の筐体59を脱着自在に取り付けたが、張力測定装置本体が横編機の支持台に脱着不能な状態で一体的に設けられていてもよい。
【0032】
張力測定装置本体50は、給糸口153の通過後の位置で編糸20を編針へ糸送りする際の給糸経路2において編成が行える状態で測定経路24へ引き込む編糸引き込み手段51を備えている。編糸引き込み手段51は、編糸引き込みモータ511と、編糸引き込みモータ511の出力軸512に回転一体に連結された編糸引き込みプーリ513と、編糸引き込みプーリ513に対し編糸20を挟んだ状態で連れ回りする従動プ-リ514とを備えている。この場合、編糸引き込み手段51による測定経路24での編糸20の糸送り速度は、キャリッジ12に連行されたヤーンキャリア15により給糸口153の通過後の位置で編針へ案内する給糸経路2での編糸20の糸送り速度と同一となるように設定する。
【0033】
また、張力測定装置本体50は、給糸口153と測定経路24の編糸引き込み手段51との間に設けられた測定手段52を備えている。この測定手段52は、測定経路24に糸送りされた編糸20をガイドする2つのガイドローラ521,522と、両ガイドローラ521,522間に設けられた張力検出ローラ523と、張力検出ローラ523を支持するロードセル524とを備えている。そして、測定手段52は、編糸引き込み手段51により測定経路24へ引き込まれた編糸20の張力が張力検出ローラ523を介してロードセル524により測定されるようにしている。
【0034】
更に、張力測定装置本体50は、ロードセル524により測定された張力測定値を表示する表示手段としてのモニタ53を備えている。このモニタ53には、給糸口153の通過後の位置での編糸20の張力測定値つまり測定経路24での編糸20の張力測定値が表示される。このモニタ53に表示される張力測定値は、給糸経路2での編針までの編糸20の予め目標とされている張力目標値と比較可能となるように表示され、天ばね装置3及びサイドテンション装置4の調整によって張力測定値が給糸口153の通過後の位置において給糸経路2での編糸20の張力目標値に近付けられるように利用される。この場合、給糸口153の通過後の位置において給糸経路2での編糸20の張力目標値は、横編機の機種に応じて予め設定されたものであり、理想の張力目標値である必要がなく、編成が不可なく行える張力目標値であればよい。
【0035】
また、測定経路24での編糸20の糸送り速度は、給糸口153の通過後の位置において給糸経路2での編針までの編糸20の案内方向の変更、つまりキャリッジ12の進行方向の折返しの切り換えにより反転するヤーンキャリア15の給糸口153からの編糸20が押し方向と引き方向とに切り換わった際に変動する糸送り速度に応じて変更されている。この編糸20の押し方向と引き方向とに切り換わった際に変動する糸送り速度は、編目のコース方向のピッチ、編成する編目のループ長、編地22を編成する速度、横編機1のゲージに応じて予め設定されている。この場合、編糸20の押し方向及び引き方向の糸送り速度は、横編機1の機種毎に予め設定されている。
【0036】
例えば天竺組織の場合、編糸20の押し方向での糸送り速度(m/s)は、
((編目のループ長-編目のピッチ)/編目のピッチ)×編地22を編成する速度
に基づいて算出することも可能である。具体的には、編糸20の押し方向での糸送り速度(m/s)は、編目のコース方向のピッチ1.814、編成する編目のループ長6.0、編地22を編成する速度1.0、横編機1のゲージ14Gに応じて
((6.0-1.814)/1.814)×1.0≒2.3m/sとなる。
【0037】
一方、編糸20の引き方向での糸送り速度(m/s)は、
((編目のループ長+編目のピッチ)/編目のピッチ)×編地22を編成する速度
に基づいて算出することも可能である。具体的には、編糸20の引き方向での糸送り速度(m/s)は、編目のコース方向のピッチ1.814、編成する編目のループ長6.0、編地22を編成する速度1.0、横編機1のゲージ14Gに応じて
((6.0+1.814)/1.814)×1.0≒4.3m/sとなる。
【0038】
また、編糸20の押し方向又は引き方向での糸送り速度に基づいて編糸引き込みモータ511の回転数を互いの相関関係から得ることも可能である。例えば、編糸20の押し方向での糸送り速度2.3m/sでは編糸引き込みプーリ513の回転数は約1400rpmであり、編糸20の引き方向での糸送り速度4.3m/sでは編糸引き込みプーリ513の回転数は約2550rpmであることが互いの相関関係から得られる。
【0039】
次に、張力測定装置本体50を用いて給糸口153の通過後の位置で編糸20の張力を測定する測定方法の一例について説明する。
【0040】
先ず、糸パッケージ17から天ばね装置3及びサイドテンション装置4を経て各ヤーンキャリア15の給糸口153の通過後の位置での編糸20を、編針への給糸経路2とは異なる測定経路24に対し編成が行える状態で引き込む。
【0041】
次いで、測定経路24へ編成を行わずに引き込んだ編糸20を、編糸引き込みプーリ513と従動プ-リ514との間に挟んでおく。そして、編糸引き込みモータ511により編糸引き込みプーリ513を、編針へ案内する際の給糸経路2において編成が行える状態で回転させて従動プ-リ514を連れ回りさせ、測定経路24へ編成を行わずに引き込んだ編糸20を糸送りする。
【0042】
このとき、給糸口153の通過後の位置で給糸経路2の編糸20の押し方向と引き方向とに切り換わった際に変動する糸送り速度を設定する場合には、編目のコース方向のピッチ、編成する編目のループ長、編地22を編成する速度、横編機1のゲージ等に応じて、予め設定されている数値に基づいて測定経路24での糸送り速度を設定すればよい。具体的には、編糸20の押し方向又は引き方向での糸送り速度との相関関係に基づいて編糸引き込みプーリ513の回転数を設定すればよい。これにより、編目のループ長と編成する速度の組合せで比率が異なる押し方向と引き方向の糸送り速度を簡単に再現し、給糸経路2で変動する糸送り速度に応じた張力を測定経路24においても簡単に測定することができる。
【0043】
それから、給糸口153の通過後の位置で測定経路24へ編成を行わずに引き込んだ編糸20の張力を測定手段52のロードセル524により測定する。これにより、給糸口153の通過後の位置での編糸20の張力を編成が行える状態の給糸経路2と遜色なく正確に把握することができる。特に、異なる糸パッケージ17から長さの異なる複数の給糸経路2,2を経て編地22を編成するインターシャ編成の場合などにあっても、個々の給糸経路2,2毎に給糸口153を通過後の位置での編糸20の張力を正確に把握することができる。更に、同一の給糸経路2であっても編地22の編み量に応じて変動する編糸20の張力についても正確に把握することができる。しかも、給糸口153の通過後の位置で編糸20を編針への給糸経路2とは異なる測定経路24へ給糸口153を停止させたまま引き込んで張力を測定していることにより、編糸20の張力を測定している最中に編地22を編成する必要がなく、編糸20の張力測定値の異常による編地22の不具合を編成前に確認して未然に防止することができる。
【0044】
そして、給糸口153の通過後の位置でロードセル524により測定した編糸20の張力測定値を、モニタ53に表示する。このため、モニタ53に表示された張力測定値が、給糸口153の通過後の位置において給糸経路2での編糸20の張力目標値と比較可能となる。これにより、天ばね装置3の調整ツマミ34によりテンションディスク31の負荷を調整したり、サイドテンション装置4の支持部41により糸立台18に対するサイドテンションアーム42の揺動負荷を調整したりして、給糸経路2での編糸20の張力測定値を張力目標値に正確に近付けることができる。
【0045】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その他種々の変形例を包含している。例えば、前記実施の形態では、モニタ53に表示した張力測定値を、給糸口153の通過後の位置で給糸経路2での張力目標値と比較可能とし、天ばね装置3及びサイドテンション装置4などの調整によって張力測定値を張力目標値に近付ける際に利用したが、給糸口の通過後の位置で測定経路に引き込んだ編糸の張力が張力測定値としてモニタに表示されていればよい。このとき、モニタに表示された張力測定値は編成を行う状態に可及的に近いものであることから、張力目標値に近付ける編糸の張力値の調整が必ずしも必須である必要はない。かかる点から、モニタに表示された張力測定値によって、同じ編機内での給糸口毎の差異や異なる編機間での差異などが把握でき、給糸経路での張力付与状態の調整も感覚に頼ることなく張力測定値に基づいて正確に対処することが可能となる。
【0046】
また、前記実施の形態では、編糸20に対し駆動力を付与する送りローラ44を給糸経路2に設けたが、編糸に対し駆動力を付与しつつ編糸の給糸量を測定する送出装置が給糸経路に設けられていてもよい。
【0047】
また、前記実施の形態では、張力測定装置5を横編機1に適用した場合について述べたが、これに限定されるものではなく、張力測定装置が経編機や丸編機などの編機に適用されていてもよいのはいうまでもない。
【0048】
また、前記実施の形態では、張力付与手段として、天ばね装置3やサイドテンション装置4を適用した場合について述べたが、これらは一例に過ぎず、張力付与手段はこれらに限定されるものではない。
【0049】
更に、前記実施の形態では、張力測定装置本体50を、その筐体59の下面に設けた磁石によって、横編機1の支持台19上に脱着自在に取り付けたが、横編機の支持台上に凹部を設け、この凹部内に筐体が嵌入されて張力測定装置本体が脱着自在に取り付けられていてもよい。また、ロック部品などによって張力測定装置本体が横編機の支持台上に脱着自在に取り付けられていてもよいのはいうまでもない。
【符号の説明】
【0050】
1 横編機(編機)
153 給糸口
17 糸パッケージ
2 給糸経路
20 編糸
24 測定経路
3 天ばね装置(張力付与手段)
4 サイドテンション装置(張力付与手段)
50 張力測定装置本体
51 編糸引き込み手段
52 測定手段
53 モニタ(表示手段)