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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】水素ガス充填方法及び水素ガス充填装置
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/02 20060101AFI20220329BHJP
   F17C 5/06 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
F17C13/02 301A
F17C5/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018102762
(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公開番号】P2019207007
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-02-04
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27~29年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用技術研究開発事業/水素ステーション安全基盤整備に関する研究開発/実環境下における安全運用技術の研究開発」委託研究、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000110099
【氏名又は名称】トキコシステムソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(72)【発明者】
【氏名】福永 明彦
(72)【発明者】
【氏名】蓮仏 達也
(72)【発明者】
【氏名】坂本 公貴
【審査官】佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-214874(JP,A)
【文献】特開2017-137929(JP,A)
【文献】特開2015-169325(JP,A)
【文献】特表2013-538320(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159314(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 13/02
F17C 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスを充填するタンクを搭載する、前記水素ガスを動力源とする自動車から充填開始前の前記タンクの温度を受信する工程と、
予め設定された最大温度と前記タンクの温度との差分を演算する工程と、
前記差分に依存する水素ガスの充填速度を演算する工程と、
水素ガスが蓄圧された蓄圧器から計量機を介して、演算された充填速度で前記タンクに水素ガスを充填する工程と、
を備えたことを特徴とする水素ガス充填方法。
【請求項2】
前記充填速度は、前記計量機を介して供給される水素ガスの供給温度に依存する前記差分と充填速度との関係式若しくは関係テーブルを用いて演算されることを特徴とする請求項1記載の水素ガス充填方法。
【請求項3】
前記関係式は、前記差分と充填速度との相関関係を2次以上の多項式で表わした近似式であることを特徴とする請求項記載の水素ガス充填方法。
【請求項4】
充填開始前の前記タンクの温度を受信する場合に、前記充填開始前の前記タンクの圧力も合わせて受信し、
前記充填速度は、前記充填開始前の前記タンクの圧力に依存することを特徴とする請求項1~3いずれか記載の水素ガス充填方法。
【請求項5】
前記充填速度は、外気温度に依存することを特徴とする請求項1~4いずれか記載の水素ガス充填方法。
【請求項6】
前記水素ガスは、前記計量機内に配置される冷却器により冷却され、
前記タンクへの前記水素ガスの充填を開始する際に前記冷却器への冷媒の循環を開始し、前記タンクへの前記水素ガスの充填終了と共に、前記冷媒の循環を停止することを特徴とする請求項1~5いずれか記載の水素ガス充填方法。
【請求項7】
前記水素ガスは、前記計量機内に配置される冷却器により冷却され、
前記タンクへの前記水素ガスの充填を開始する際に前記冷却器への冷媒の循環量を増加し、前記タンクへの前記水素ガスの充填終了と共に、前記冷媒の循環量を低減することを特徴とする請求項1~5いずれか記載の水素ガス充填方法。
【請求項8】
前記充填速度は、前記タンクへの前記水素ガスの充填中における水素ガスの供給温度に応じて変化させることを特徴とする請求項1~7いずれか記載の水素ガス充填方法。
【請求項9】
水素ガスを充填するタンクを搭載する、前記水素ガスを動力源とする自動車から充填開始前の前記タンクの温度を受信する受信部と、
予め設定された最大温度と前記タンクの温度との差分を演算する差分演算部と、
前記差分に依存する水素ガスの充填速度を演算する充填速度演算部と、
水素ガスが蓄圧された蓄圧器と、
演算された充填速度で前記蓄圧器から前記タンクに水素ガスを充填する計量機と、
を備えたことを特徴とする水素ガス充填装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガス充填方法及び水素ガス充填装置に関し、例えば、水素ステーションにおける水素ガスを動力源とする自動車への水素ガス充填方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃料として、従来のガソリンを始めとした燃料油の他に、近年、クリーンなエネルギー源として水素燃料が注目を浴びている。これに伴い、水素ガスを動力源とする燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)の開発が進められている。かかる燃料電池自動車(FCV)を普及させるためには水素ガスを急速に充填することができる水素ステーションを拡充する必要がある。水素ステーションでは、水素ガスを急速にFCV車両に充填するために、圧縮機で高圧に圧縮された水素燃料を蓄圧する複数の蓄圧器による多段蓄圧器を配置する。そして、使用する蓄圧器を切り替えながらディスペンサ(計量器)を介して充填することで蓄圧器内の圧力とFCV車両の燃料タンクの圧力との差圧を大きく保ち、蓄圧器から燃料タンクへ差圧によって水素ガスを急速充填する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、水素ステーションにて水素ガスを充填する場合、水素ガスの供給温度が上がらないように十分過ぎるだけ冷やした水素ガスを使って、FCV車両の燃料タンクの温度が高温にならないように実際の燃料タンクの温度上昇に対して予めマージンを大きくとったシミュレーションにより満充填になるまでの充填時間を推定する。そして、推定された充填時間に合わせた充填速度を決めている。そのため、決定される充填速度は、実際の水素ステーションで充填可能な能力に比べて遅く設定されるのが通常であった。よって、無駄な充填時間が必要とされていた。また、供給される水素ガスの供給温度が上がらないように、ディスペンサ内の冷却器(プレクーラー)には、冷凍機から常時、冷媒が供給され続け、水素ガスが例えば-40℃に冷却されていた。よって、冷媒の循環に多くの電力量が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-197700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一態様は、水素ガスを充填する場合に、余分なマージンを排除した充填速度で充填可能な方法および装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の水素ガス充填方法は、
水素ガスを充填するタンクを搭載する、水素ガスを動力源とする自動車から充填開始前のタンクの温度を受信する工程と、
予め設定された最大温度とタンクの温度との差分を演算する工程と、
差分に依存する水素ガスの充填速度を演算する工程と、
水素ガスが蓄圧された蓄圧器から計量機を介して、演算された充填速度でタンクに水素ガスを充填する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、充填速度は、計量機を介して供給される水素ガスの供給温度に依存する上述した差分と充填速度との関係式若しくは関係テーブルを用いて演算されると好適である。
【0008】
また、関係式は、上述した差分と充填速度との相関関係を2次以上の多項式で表わした近似式であると好適である。
【0009】
また、充填開始前のタンクの温度を受信する場合に、充填開始前のタンクの圧力も合わせて受信し、
充填速度は、充填開始前のタンクの圧力に依存すると好適である。
【0010】
また、充填速度は、外気温度に依存すると好適である。
【0011】
また、水素ガスは、計量機内に配置される冷却器により冷却され、
タンクへの水素ガスの充填を開始する際に冷却器への冷媒の循環を開始し、タンクへの水素ガスの充填終了と共に、冷媒の循環を停止すると好適である。
【0012】
或いは、水素ガスは、計量機内に配置される冷却器により冷却され、
タンクへの水素ガスの充填を開始する際に冷却器への冷媒の循環量を増加し、タンクへの水素ガスの充填終了と共に、冷媒の循環量を低減すると好適である。
【0013】
また、充填速度は、タンクへの水素ガスの充填中における水素ガスの供給温度に応じて変化させると好適である。
【0014】
本発明の一態様の水素ガス充填装置は、
水素ガスを充填するタンクを搭載する、前記水素ガスを動力源とする自動車から充填開始前のタンクの温度を受信する受信部と、
予め設定された最大温度とタンクの温度との差分を演算する差分演算部と、
差分に依存する水素ガスの充填速度を演算する充填速度演算部と、
水素ガスが蓄圧された蓄圧器と、
演算された充填速度で蓄圧器からタンクに水素ガスを充填する計量機と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、水素ガスを充填する場合に、余分なマージンを排除した充填速度で充填できる。よって、充填時間を短くできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態1における水素ステーションの水素充填システムの構成を示す構成図の一例である。
図2】実施の形態1における水素充填システム全体を制御する制御回路の内部構成の一例を示す構成図である。
図3】実施の形態1における水素充填方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図4】実施の形態1における燃料タンクの温度上昇変化と充填速度との相関関係の一例を示す図である。
図5】実施の形態1における燃料タンクの温度上昇変化と充填速度との相関関係を2次多項式で近似した場合の2次多項式の係数表を説明するための図である。
図6】実施の形態1における燃料タンクの温度上昇変化と充填速度との相関関係の他の一例を示す図である。
図7】実施の形態1における燃料タンクの温度上昇変化と充填速度との相関関係を3次多項式で近似した場合の3次多項式の係数表を説明するための図である。
図8】実施の形態1における多段蓄圧器を用いて水素燃料の差圧充填を行う場合の充填の仕方を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における水素ステーションの水素充填システムの構成を示す構成図の一例である。図1において、水素充填システム500は、水素ステーション102内に配置される。水素充填システム500は、多段蓄圧器101、ディスペンサ(計量機)30、圧縮機40、冷凍機42、及び制御回路100を備えている。多段蓄圧器101は、使用下限圧力を多段にした複数の蓄圧器10,12,14により構成される。図1の例では、3つの蓄圧器10,12,14により多段蓄圧器101が構成される。図1の例では、例えば、蓄圧器10が、使用下限圧力が低い1stバンクとして作用する。蓄圧器12が、例えば、使用下限圧力が中間の2ndバンクとして作用する。蓄圧器14が、例えば、使用下限圧力が高い3rdバンクとして作用する。但し、これに限るものではない。1stバンクから3rdバンクに使用する各蓄圧器は、必要に応じて入れ替える。水素ステーション102内には、その他、図示しないカードル、中間蓄圧器、及び/或いは水素製造装置が配置される。また、水素ステーション102内には、水素ガスを充填して配送する図示しない水素トレーラーが到来する。
【0018】
また、図1において、圧縮機40の吸込側は、上述したカードル、中間蓄圧器、水素トレーラーの充填タンク、或いは水素製造装置と配管により接続される。
【0019】
圧縮機40の吐出側は、バルブ21を介して蓄圧器10と配管により接続される。同様に、圧縮機40の吐出側は、バルブ23を介して蓄圧器12と配管により接続される。同様に、圧縮機40の吐出側は、バルブ25を介して蓄圧器14と配管により接続される。
【0020】
また、蓄圧器10は、バルブ22を介してディスペンサ30と配管により接続される。また、蓄圧器12は、バルブ24を介してディスペンサ30と配管により接続される。また、蓄圧器14は、バルブ26を介してディスペンサ30と配管により接続される。このように、ディスペンサ30が、多段蓄圧器101を構成する蓄圧器10,12,14に共通に接続される。
【0021】
図1において、ディスペンサ30内には、遮断弁36、流量調整弁33、流量計37、冷却器32(プレクーラー)、遮断弁38、緊急離脱カプラ41、及び制御回路43が配置され、ディスペンサ30には、さらにディスペンサ30外へと延びるノズル44が配置される。ディスペンサ30は、多段蓄圧器101から供給される水素ガス(水素燃料)を、遮断弁36、流量調整弁33、及び流量計37を介して冷却器32に送る。その際、多段蓄圧器101から供給される水素燃料の単位時間あたりの流量は、流量調整弁33により制御されると共に、流量計37により測定される。そして、冷却器32により、例えば、-40℃に冷却する。冷却された水素燃料は、遮断弁38、緊急離脱カプラ41、及びノズル44を介して、FCV車両200に搭載された燃料タンク202に差圧を利用して充填される。また、冷却器32には、冷凍機42で冷却された冷媒が図示しない循環ポンプにより循環している。また、制御回路43は、水素ステーション102に到来したFCV車両200(水素燃料を動力源とする燃料電池自動車(FCV))内の車載器204と通信可能に構成される。例えば、赤外線を用いて無線通信可能に構成される。また、制御回路43は、水素充填システム500全体を制御する制御回路100に接続される。
【0022】
また、図1における水素充填システム500では、複数の圧力計が、多段蓄圧器101からディスペンサ30の出口までの間の水素燃料の流路中に場所を異にして配置される。具体的には、蓄圧器10内の圧力は、圧力計11によって計測される。蓄圧器12内の圧力は、圧力計13によって計測される。蓄圧器14内の圧力は、圧力計15によって計測される。また、ディスペンサ30内では、ディスペンサ30に供給されるディスペンサ30入口付近の圧力は、圧力計27によって計測される。また、ディスペンサ30出口付近の圧力は、圧力計28によって計測される。図1の例では、圧力計27は、冷却器32の1次側に位置する遮断弁36の上流側(1次側)の圧力を測定する。圧力計28は、冷却器32の2次側であって緊急離脱カプラ41付近の圧力を測定する。各圧力計で測定される圧力データは、常時、或いは所定のサンプリング周期(例えば、10m秒~数秒)で制御回路100に出力される。言い換えれば、制御回路100は、各圧力計で測定される圧力を常時、或いは所定のサンプリング周期(例えば、10m秒~数秒)でモニタリングする。また、FCV車両200に搭載された燃料タンク202の圧力は、FCV車両200に搭載された圧力計206によって計測される。後述するように、FCV車両200に搭載された燃料タンク202の圧力は、車載器204と制御回路43との通信が確立されている間、常時或いは所定のサンプリング間隔(例えば、10m秒~数秒)で、モニタリングされる。
【0023】
また、ディスペンサ30内では、FCV車両200に供給されるディスペンサ30出口付近の水素ガスの温度が温度計29によって計測される。温度計29は、冷却器32の2次側であって、例えば緊急離脱カプラ41付近の温度を測定する。また、ディスペンサ30付近の外気温度が温度計31によって計測される。各温度計で測定される温度データは、常時、或いは所定のサンプリング周期(例えば、10m秒~数10秒)で制御回路100に出力される。言い換えれば、制御回路100は、各温度計で測定される温度を常時、或いは所定のサンプリング周期(例えば、10m秒~数10秒)でモニタリングする。また、FCV車両200に搭載された燃料タンク202の温度は、FCV車両200に搭載された温度計207によって計測される。後述するように、FCV車両200に搭載された燃料タンク202の温度は、車載器204と制御回路43との通信が確立されている間、常時或いは所定のサンプリング間隔(例えば、10m秒~数秒)で、モニタリングされる。
【0024】
カードル、中間蓄圧器、或いは水素トレーラーのタンク内に蓄圧された水素ガスは、制御回路100により制御された図示しないそれぞれのレギュレータによって低圧(例えば、0.6MPa)に減圧された状態で、圧縮機40の吸込側に供給される。同様に、水素製造装置で製造された水素ガスは、低圧(例えば、0.6MPa)の状態で圧縮機40の吸込側に供給される。圧縮機40は、制御回路100による制御のもと、低圧で供給される水素ガスを圧縮しながら多段蓄圧器101の各蓄圧器10,12,14に供給する。圧縮機40は、多段蓄圧器101の各蓄圧器10,12,14内が所定の高圧(例えば、82MPa)になるまで圧縮する。言い換えれば、圧縮機40は、吐出側の2次側圧力POUTが所定の高圧(例えば、82MPa)になるまで圧縮する。圧縮機40の吸込側に水素ガスを供給する相手が、カードル、中間蓄圧器、水素トレーラー、及び水素製造装置のいずれにするかは、制御回路100が制御することによっていずれかに決定されればよい。同様に、圧縮機40が水素ガスを供給する相手が蓄圧器10,12,14のいずれにするかは、それぞれの配管上に配置された、対応するバルブ21,23,25の開閉を制御回路100が制御することによっていずれかに決定されればよい。或いは、2以上の蓄圧器に同時に供給するように制御しても良い。
【0025】
なお、上述した例では、圧縮機40の吸込側に水素ガスを供給する圧力PINが所定の低圧(例えば、0.6MPa)に減圧制御されている場合を示したがこれに限るものではない。カードル、中間蓄圧器、或いは水素トレーラーに蓄圧された水素ガスの圧力を減圧せずに、或いは所定の低圧(例えば、0.6MPa)よりも高い圧力の状態で圧縮機40の吸込側に与えて圧縮する場合であっても構わない。
【0026】
多段蓄圧器101に蓄圧された水素ガスは、ディスペンサ30内の冷却器32によって冷却され、ディスペンサ30から水素ステーション102内に到来したFCV車両200に供給される。
【0027】
図2は、実施の形態1における水素充填システム全体を制御する制御回路の内部構成の一例を示す構成図である。図2において、制御回路100内には、通信制御回路50、メモリ51、受信部52、外気温度受信部53、終了圧演算部54、タイマ55、温度差演算部56、充填速度演算部57、システム制御部58、判定部59、復圧制御部61、供給制御部63、バンク圧力受信部66、ディスペンサ情報受信部67、出力部74、モニタ76、及び磁気ディスク装置等の記憶装置80,84,86が配置される。復圧制御部61は、バルブ制御部60、及び圧縮機制御部62を有する。供給制御部63は、ディスペンサ制御部64、バルブ制御部65、及び冷凍機制御部68を有する。受信部52、外気温度受信部53、終了圧演算部54、タイマ55、温度差演算部56、充填速度演算部57、システム制御部58、判定部59、復圧制御部61(バルブ制御部60、圧縮機制御部62)、供給制御部63(ディスペンサ制御部64、バルブ制御部65、及び冷凍機制御部68)、バンク圧力受信部66、ディスペンサ情報受信部67、及び出力部74、といった各「~部」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。受信部52、外気温度受信部53、終了圧演算部54、タイマ55、温度差演算部56、充填速度演算部57、システム制御部58、判定部59、復圧制御部61(バルブ制御部60、圧縮機制御部62)、供給制御部63(ディスペンサ制御部64、バルブ制御部65、及び冷凍機制御部68)、バンク圧力受信部66、ディスペンサ情報受信部67、及び出力部74内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度メモリ51に記憶される。
【0028】
また、記憶装置80内には、FCV車両200に搭載された燃料タンク202の圧力、温度、及び燃料タンク202の容積といったFCV情報と、FCV情報に対応する水素ガスの残量と、燃料タンク202に充填すべき最終圧、及び最終温度といった充填情報との相関関係を示す変換テーブル81が格納される。また、記憶装置80内には、変換テーブル81から得られる結果を補正する補正テーブル83が格納される。
【0029】
また、記憶装置86内には、燃料タンク202の許容最大温度Tmaxと燃料タンク202の初期温度Tiとの差分ΔTと、充填速度Mとの関係式パラメータ87が格納される。また、記憶装置86内には、燃料タンク202の許容最大温度Tmaxと燃料タンク202の初期温度Tiとの差分ΔTと、充填速度Mとの関係テーブル88が格納される。関係式パラメータ87及び関係テーブル88は、水素ガスの供給温度毎に作成される。また、関係式パラメータは、燃料タンク202の初期圧力Paに依存して作成される。また、関係式パラメータは、外気温度T’に依存して作成される。図2の例では、関係式パラメータ87及び関係テーブル88の両方が格納される場合を示しているが、どちらか一方だけでも構わない。
【0030】
また、バンク圧力受信部66は、上述したように各圧力計11,13,15で測定される圧力を常時、或いは所定のサンプリング周期(例えば、10m秒~数秒)で受信し、記憶装置84に受信時刻と共に格納する。同様に、ディスペンサ情報受信部67は、ディスペンサ30内の各圧力計27,28で測定される圧力を常時、或いは所定のサンプリング周期(例えば、10m秒~数秒)で受信し、記憶装置84に受信時刻と共に格納する。また、ディスペンサ情報受信部67は、ディスペンサ30内の温度計29で測定される温度を常時、或いは所定のサンプリング周期(例えば、10m秒~数秒)で受信し、記憶装置84に受信時刻と共に格納する。
【0031】
上述したように、従来、水素ステーション102にて水素ガスを充填する場合、水素ガスの供給温度が上がらないように十分過ぎるだけ冷やした水素ガスを使って、FCV車両200の燃料タンク202の温度が高温にならないように実際の燃料タンク202の温度上昇に対して予めマージンを大きくとったシミュレーションにより満充填になるまでの充填時間を推定する。そして、推定された充填時間に合わせた充填速度を決めている。そのため、決定される充填速度は、実際の水素ステーション102で充填可能な能力に比べて遅く設定されるのが通常であった。そこで、実施の形態1では、水素ステーション102にて実際にFCV車両200の燃料タンク202に水素ガスを充填した際のデータに基づいて、燃料タンク202の許容最大温度と燃料タンク202の初期温度との差分と、充填速度との相関関係を求めておき、かかる相関関係に沿って充填速度を決定する。以下、具体的に説明する。
【0032】
図3は、実施の形態1における水素充填方法の要部工程を示すフローチャート図である。図3において、実施の形態1における水素充填方法は、ノズル接続工程(S102)と、冷凍機循環開始工程(S104)と、FCV情報受信工程(S106)と、外気温度受信工程(S108)と、終了圧演算工程(S110)と、温度差演算工程(S112)と、充填速度演算工程(S114)と、水素充填工程(S116)と、判定工程(S118)と、水素供給温度入力工程(S120)と、冷凍機循環停止及び復圧継続工程(S122)と、いう一連の工程を実施する。
【0033】
ノズル接続工程(S102)として、FCV車両200が水素ステーション102に到来すると、水素ステーション102の作業員或いはFCV車両200のユーザが、ディスペンサ30のノズル44を、FCV車両200の燃料タンク202の受け口(レセプタクル)に接続(嵌合)し、固定する。FCV車両200が水素ステーション102内に到来し、ユーザ或いは水素ステーション102の作業員によってディスペンサ30のノズル44がFCV車両200の燃料タンク202の受け口(レセプタクル)に接続、固定されると、車載器204と制御回路43(中継器)との通信が確立される。
【0034】
冷凍機循環開始工程(S104)として、車載器204と制御回路43(中継器)との通信が確立されると、制御回路100内の冷凍機制御部68は、通信制御回路50を介して冷凍機42を制御して、冷凍機42の循環ポンプを駆動する。これにより、冷凍機42と冷却器32との間での冷媒の循環を開始する。これにより、ディスペンサ30内の冷却器32によって水素ガスの冷却が開始される。上述したように、水素ガスは、ディスペンサ30内に配置される冷却器32により冷却されるが、実施の形態1では、燃料タンク202への水素ガスの充填を開始する際にディスペンサ30内の冷却器32によって水素ガスの冷却を開始し、後述するように、燃料タンク202への水素ガスの充填終了と共に、冷媒の循環を停止する。このように、従来、常時循環により常時駆動していた循環ポンプを水素ガスの充填が成されていない期間は停止させる。これにより、水素ガスの充填が成されていない期間に生じていた循環ポンプを駆動するための電力量の消費を低減できる。
【0035】
FCV情報受信工程(S106)として、受信部52は、水素ガスを充填する燃料タンク202を搭載する、水素ガスを動力源とするFCV車両200(燃料電池自動車:FCV)から充填開始前の燃料タンク202の温度(初期温度)Tiを受信する。また、受信部52は、充填開始前の燃料タンク202の温度Tiを受信する場合に、充填開始前の燃料タンク202の圧力(初期圧力)Paも合わせて受信する。具体的には、受信部52は、水素ガスを動力源とするFCV車両200(燃料電池自動車(FCV))に搭載された車載器204からFCV車両200に搭載された燃料タンク202(水素貯蔵容器)に関するFCV情報を受信する。さらに具体的には以下のように動作する。車載器204と制御回路43(中継器)との通信が確立されると、車載器204からは、燃料タンク202の現在の圧力、温度、及び燃料タンク202の容積といったFCV情報が、リアルタイムで出力(発信)される。FCV情報は、制御回路43を中継して、制御回路100に送信される。制御回路100内では、受信部52が、通信制御回路50を介してかかるFCV情報を受信する。FCV情報は、車載器204と制御回路43との通信が確立されている間、常時或いは所定のサンプリング間隔(例えば、10m秒~数秒)で、モニタリングされる。受信されたFCV情報は、受信時刻の情報と共に、記憶装置80に記憶される。
【0036】
外気温度受信工程(S108)として、外気温度受信部53は、通信制御回路50を介して、温度計31で測定された外気温度T’を受信する。受信された外気温度T’の情報は、受信時刻の情報と共に、記憶装置80に記憶される。
【0037】
終了圧演算工程(S110)として、終了圧演算部54は、記憶装置80から変換テーブル81を読み出し、受信された燃料タンク202の受信初期時の圧力Pa、温度Ti、燃料タンク202の容積V、及び外気温度T’に対応する最終圧PFを演算し、予測する。また、終了圧演算部54は、記憶装置80から補正テーブル83を読み出し、変換テーブル81によって得られた数値を補正する。変換テーブル81のデータだけでは、得られた結果に誤差が大きい場合に、実験或いはシミュレーション等により得られた結果に基づいて補正テーブル83を設ければよい。演算された最終圧PFは、システム制御部58に出力される。
【0038】
温度差演算工程(S112)として、温度差演算部56は、予め設定された最大温度Tmaxと燃料タンク202の温度(初期温度)Tiとの差分ΔT(=Tmax-Ti)を演算する。燃料タンク202の許容される最大温度Tmaxとして、例えば85℃が予め設定される。受信した充填前の燃料タンク202の温度(初期温度)Tiが、例えば15℃であったとすると、差分ΔT=85-15=70℃と演算されることになる。
【0039】
図4は、実施の形態1における燃料タンクの温度上昇変化と充填速度との相関関係の一例を示す図である。図4において、縦軸に、温度上昇変化として、予め設定された最大温度Tmaxと燃料タンク202の温度(初期温度)Tiとの差分ΔT(℃)を示す。横軸に、充填速度M(MPa/min)を示す。また、相関関係は、水素ガスの供給温度毎に作成される。さらに、相関関係は、燃料タンク202の充填開始前の圧力(初期圧力)Paと外気温度T’に依存する。よって、相関関係は、燃料タンク202の初期圧力Paと外気温度T’との組合せ毎、かつ水素ガスの供給温度毎に作成される。図4の例では、水素ガスの供給温度として、-20℃、-26℃、-32℃、及び-38℃について相関関係が示されている。かかる相関関係は、水素ステーション102において実際に水素ガスを充填した際のデータに基づいて作成する。よって、かかる相関関係には、従来のようなマージンが含まれていない。図4の例では、プロットされた関係を2次多項式で近似したグラフを示している。
【0040】
図5は、実施の形態1における燃料タンクの温度上昇変化と充填速度との相関関係を2次多項式で近似した場合の2次多項式の係数表を説明するための図である。図5では、図4で説明した2次多項式の係数a,b,cの値を水素ガスの供給温度毎に定義している。図5の例では、水素ガスの供給温度が、-20℃、-23℃、-26℃、-29℃、-32℃、-35℃、及び-38℃について2次多項式の係数a,b,cが定義される場合を示している。図4の相関式で示されていない水素ガスの供給温度については線形補間により求めればよい。また、実際に演算する際の水素ガスの供給温度が、定義されていない場合には、線形補間した値を用いればよい。燃料タンクの許容最大温度と初期温度の差分と充填速度との相関関係は、2次式に限るものではない。その他の次数の式で近似しても構わない。
【0041】
図6は、実施の形態1における燃料タンクの温度上昇変化と充填速度との相関関係の他の一例を示す図である。図6において、縦軸に、温度上昇変化として、予め設定された最大温度Tmaxと燃料タンク202の温度(初期温度)Tiとの差分ΔT(℃)を示す。横軸に、充填速度M(MPa/min)を示す。また、相関関係は、図4に示した場合と同様、水素ガスの供給温度毎に作成される。さらに、相関関係は、図4に示した場合と同様、燃料タンク202の充填開始前の圧力(初期圧力)Paと外気温度T’に依存する。よって、相関関係は、燃料タンク202の初期圧力Paと外気温度T’との組合せ毎、かつ水素ガスの供給温度毎に作成される。図6の例では、水素ガスの供給温度として、-23℃、-29℃、及び-35℃について相関関係が示されている。かかる相関関係は、水素ステーション102において実際に水素ガスを充填した際のデータに基づいて作成する。よって、かかる相関関係には、従来のようなマージンが含まれていない。図6の例では、プロットされた関係を3次多項式で近似したグラフを示している。
【0042】
図7は、実施の形態1における燃料タンクの温度上昇変化と充填速度との相関関係を3次多項式で近似した場合の3次多項式の係数表を説明するための図である。図7では、図6で説明した3次多項式の係数A,B,C,Dの値を水素ガスの供給温度毎に定義している。図7の例では、水素ガスの供給温度が、-20℃、-23℃、-26℃、-29℃、-32℃、-35℃、及び-38℃について3次多項式の係数A,B,C,Dが定義される場合を示している。図6の相関式で示されていない水素ガスの供給温度については線形補間により求めればよい。また、実際に演算する際の水素ガスの供給温度が、定義されていない場合には、線形補間した値を用いればよい。
【0043】
なお、図4図7では、燃料タンク202の温度上昇変化と充填速度との関係式について示しているが、かかる関係を係数表の代わりに、関係テーブルとして定義してもよい。関係テーブルについても、燃料タンク202の初期圧力Paと外気温度T’との組合せ毎、かつ水素ガスの供給温度毎に作成されればよい。
【0044】
充填速度演算工程(S114)として、充填速度演算部57は、差分ΔTに依存する水素ガスの充填速度Mを演算する。充填速度Mは、上述した、ディスペンサ30を介して供給される水素ガスの供給温度に依存するタンクの温度上昇変化と充填速度との関係式若しくは関係テーブルを用いて演算される。具体的には、まず、燃料タンク202の初期圧力Paと外気温度T’と予め設定された水素ガスの供給温度T”に相当する関係式の係数表或いは関係テーブルを記憶装置86から読み出す。充填開始前の時点では、冷凍機42から冷媒が冷却器32に供給されていないので、水素ガスが十分に冷却されているとは限らない。そのため、水素ガスの供給温度の初期値T”を予め設定しておくと良い。例えば、初期値T”=-20℃と設定しておく。冷媒の循環が開始されると、短期間で水素ガスは冷却される。例えば、数10秒で冷却される。よって、それまでは初期値T”で仮の充填速度を演算すればよい。そこで、充填速度演算部57は、読み出した関係式の係数表或いは関係テーブルを参照して、演算された差分ΔTに対応する充填速度Mを演算する。演算された充填速度Mは、システム制御部58に出力される。
【0045】
水素充填工程(S116)として、水素ガスが蓄圧された多段蓄圧器101(蓄圧器)からディスペンサ30を介して、演算された充填速度Mで燃料タンク202に水素ガスを充填する。言い換えれば、ディスペンサ30は、多段蓄圧器101(蓄圧器)から演算された充填速度Mで燃料タンク202に水素ガスを充填する。
【0046】
図8は、実施の形態1における多段蓄圧器を用いて水素燃料の差圧充填を行う場合の充填の仕方を説明するための図である。図8において縦軸は圧力を示し、横軸は時間を示す。FCV車両200に水素燃料の差圧充填を行う場合、通常、予め、多段蓄圧器101の各蓄圧器10,12,14は、同じ圧力P0(例えば、82MPa)に蓄圧されている。一方、水素ステーション102に到来したFCV車両200の燃料タンク202は圧力Paになっている。かかる状態からFCV車両200の燃料タンク202に充填を開始する場合について説明する。
【0047】
まず、1stバンクとなる例えば蓄圧器10から燃料タンク202に充填を開始する。具体的には、以下のように動作する。供給制御部63は、システム制御部58による制御のもと、供給部106を制御して、FCV車両200の燃料タンク202に蓄圧器10から水素燃料を供給させる。具体的には、システム制御部58は、ディスペンサ制御部64、及びバルブ制御部65を制御する。ディスペンサ制御部64は、通信制御回路50を介してディスペンサ30の制御回路43と通信し、ディスペンサ30の動作を制御する。具体的には、まず、制御回路43は、ディスペンサ30内の流量調整弁の開度を演算された充填速度Mになるように調整する。次に、制御回路43は、ディスペンサ30内の遮断弁36,38を開にする。そして、バルブ制御部65は、通信制御回路50を介して、バルブ22,24,26に制御信号を出力し、各バルブの開閉を制御する。具体的には、バルブ22を開にして、バルブ24,26を閉に維持する。これにより、蓄圧器10から燃料タンク202に水素燃料が供給される。蓄圧器10と燃料タンク202との差圧によって蓄圧器10内に蓄圧された水素燃料は燃料タンク202側へと調整された充填速度で移動し、燃料タンク202の圧力は点線Ptに示すように徐々に上昇していく。それに伴い、蓄圧器10の圧力(「1st」で示すグラフ)は徐々に減少する。そして、1stバンクの使用下限圧力を割った、充填開始から時間T1が経過した時点で、蓄圧器10から2ndバンクとなる例えば蓄圧器12に使用する蓄圧器が切り替えられる。具体的には、バルブ制御部65は、通信制御回路50を介して、バルブ22,24,26に制御信号を出力し、各バルブの開閉を制御する。具体的には、バルブ24を開にして、バルブ22を閉し、バルブ26を閉に維持する。これにより、蓄圧器12と燃料タンク202との差圧が大きくなるため、充填速度が速い状態を維持できる。
【0048】
そして、2ndバンクとなる例えば蓄圧器12と燃料タンク202との差圧によって蓄圧器12内に蓄圧された水素燃料は燃料タンク202側へと、同じく調整された充填速度で移動し、燃料タンク202の圧力は点線Ptに示すように徐々にさらに上昇していく。それに伴い、蓄圧器12の圧力(「2nd」で示すグラフ)は徐々に減少する。そして、2ndバンクの使用下限圧力を割った、充填開始から時間T2が経過した時点で、蓄圧器12から3rdバンクとなる例えば蓄圧器14に使用する蓄圧器が切り替えられる。具体的には、バルブ制御部65は、通信制御回路50を介して、バルブ22,24,26に制御信号を出力し、各バルブの開閉を制御する。具体的には、バルブ26を開にして、バルブ24を閉し、バルブ22を閉に維持する。これにより、蓄圧器14と燃料タンク202との差圧が大きくなるため、充填速度が速い状態を維持できる。
【0049】
そして、3rdバンクとなる例えば蓄圧器14と燃料タンク202との差圧によって蓄圧器14内に蓄圧された水素燃料は燃料タンク202側へと調整された充填速度で移動し、燃料タンク202の圧力は点線Ptに示すように徐々にさらに上昇していく。それに伴い、蓄圧器14の圧力(「3rd」で示すグラフ)は徐々に減少する。そして、3rdバンクとなる蓄圧器14によって燃料タンク202の圧力が演算された最終圧PF(例えば65~81MPa)になるまで充填する。
【0050】
以上のように、1stバンクから順に水素ガスを燃料タンク202に充填していくことになる。演算された充填速度Mで充填する限り、燃料タンク202の温度は、燃料タンク202の温度(初期温度)Tiから上昇しても最大温度Tmaxまでしか上昇しないことになる。言い換えれば、演算された充填速度Mで充填する限り、燃料タンク202の温度が最大温度Tmaxを超えることはない。但し、かかる関係は、水素ガスの供給温度が変化しなければ成り立つ。なお、外気温度については、数分程度の充填期間中の変化は誤差程度とみなして構わない。そこで、定期的に、充填速度Mを見直す。
【0051】
判定工程(S118)として、判定部59は、充填が終了したかどうかを判定する。具体的には、判定部59は、タイマ55に設定された時間が経過するごとに、燃料タンク202の圧力が演算された最終圧PFに到達したかどうかを判定する。充填が終了した場合には、冷凍機循環停止工程(S122)及び復圧工程(S124)に進む。まだ充填が終了していない場合には、水素供給温度入力工程(S120)に進む。タイマ55に設定される時間は、充填開始直後の1回目は数10秒(例えば30秒)、2回目以降は、数秒(例えば5秒)に設定される。実施の形態1では、水素ガスの充填を行うたびに冷凍機42から冷媒を冷却器32に循環させるので、充填開始時の水素ガスの冷却が不十分である可能性がある。そのため、1回目は、冷却器32による水素ガスの冷却にかかる時間を想定して2回目以降よりも長く設定すると好適である。
【0052】
水素供給温度入力工程(S120)として、充填速度演算部57は、現在の水素供給温度を入力する。具体的には、記憶装置84に格納される温度計29による測定された最新の温度を最新の水素供給温度として入力する。そして、充填速度演算工程(S114)に戻り、充填が終了するまで充填速度演算工程(S114)から水素供給温度入力工程(S120)までを繰り返す。
【0053】
充填速度演算工程(S114)では、充填速度演算部57は、最新の水素供給温度と、既に測定された外気温度T’と、既に得られている燃料タンク202の初期圧力Paとに相当する関係式の係数表或いは関係テーブルを記憶装置86から読み出す。そして、充填速度演算部57は、読み出した関係式の係数表或いは関係テーブルを参照して、改めて、既に演算された差分ΔTに対応する充填速度Mを演算する。ここでは、水素供給温度だけを変えるだけで他のパラメータは変えないで用いる。そして、演算された充填速度Mは、システム制御部58に出力される。そして、充填速度Mが演算されるたびに、改めて演算された充填速度Mになるように流量調整弁33の開度が再調整される。そして、充填速度Mが演算されるたびに、再調整された充填速度Mで水素ガスの充填動作が継続されることになる。
【0054】
冷凍機循環停止及び復圧継続工程(S122)として、冷凍機制御部68は、充填が終了すると、通信制御回路50を介して冷凍機42を制御して、冷凍機42の循環ポンプを停止する。これにより、冷凍機42と冷却器32との間での冷媒の循環を停止させる。これにより、ディスペンサ30内の冷却器32によって水素ガスの冷却が停止或いは冷却速度が低下する。実施の形態1では、実際の水素供給温度、実際の外気温度、及び実際の初期圧力に依存する実際の温度差ΔTに応じた充填速度Mを用いているので、水素供給温度の変化に対応できる。よって、常時、冷却器32で水素ガスを過分に冷却する必要を無くすことができる。よって、従来、常時循環により常時駆動していた循環ポンプを水素ガスの充填が成されていない期間は停止させることができる。これにより、水素ガスの充填が成されていない期間に生じていた循環ポンプを駆動するための電力を低減できる。
【0055】
なお、上述した例では、燃料タンク202への水素ガスの充填を開始する際にディスペンサ30内の冷却器32によって水素ガスの冷却を開始し、燃料タンク202への水素ガスの充填終了と共に、冷媒の循環を停止する場合について説明したが、これに限るものではない。燃料タンク202への水素ガスの充填を開始する際に冷却器32への冷媒の循環量を増加し、燃料タンク202への水素ガスの充填終了と共に、冷媒の循環量を低減するように構成しても良い。かかる構成でも循環ポンプを駆動するための電力を低減できる。
【0056】
また、復圧機構104は、各蓄圧器10,12,14を復圧する。圧縮機40、及びバルブ21,23,25等が復圧機構104を構成する。まず、システム制御部58は、図示しないカードル、中間蓄圧器、水素トレーラー、或いは水素製造装置の中から圧縮機40の吸込側につなぐ水素燃料の供給元を選択する。そして、復圧制御部61は、システム制御部58による制御のもと、復圧機構104を制御して、各蓄圧器10,12,14を復圧させる。具体的には、以下のように動作する。FCV車両200の燃料タンク202への充填に使用する各バンクの蓄圧器は、充填中に復圧も行われていても良い。しかしながら、規定の圧力まで復圧する時間が足りないため、充填後も復圧を行わなくてはならない。1stバンク、2ndバンク、3rdバンクの順で切り替わるので、まず、1stバンクとなる蓄圧器10を復圧する。バルブ制御部60は、バルブ21,23,25が閉じた状態から、バルブ21を開にする。
【0057】
そして、圧縮機制御部62は、圧縮機40を駆動して、水素燃料の供給元からの低圧(例えば0.6MPa)の水素燃料を圧縮しながら送り出し、蓄圧器10の圧力が所定の圧力P0(例えば、82MPa)になるまで蓄圧器10に水素燃料を充填することで蓄圧器10を復圧する。
【0058】
次に、バルブ制御部60は、バルブ21を閉じて、代わりにバルブ23を開にする。
【0059】
そして、圧縮機制御部62は、圧縮機40を駆動して、低圧(例えば0.6MPa)の水素燃料を圧縮しながら送り出し、蓄圧器12の圧力が所定の圧力P0(例えば、82MPa)になるまで蓄圧器12に水素燃料を充填することで蓄圧器12を復圧する。
【0060】
次に、バルブ制御部60は、バルブ23を閉じて、代わりにバルブ25を開にする。
【0061】
そして、圧縮機制御部62は、圧縮機40を駆動して、低圧(例えば0.6MPa)の水素燃料を圧縮しながら送り出し、蓄圧器14の圧力が所定の圧力P0(例えば、82MPa)になるまで蓄圧器14に水素燃料を充填することで蓄圧器14を復圧する。
【0062】
以上により、次のFCV車両200が水素ステーション102に到来しても、同様に、水素燃料の供給が可能となる。
【0063】
以上のように、実施の形態1によれば、水素ガスを充填する場合に、余分なマージンを排除した充填速度Mで充填できる。よって、充填時間を短くできる。また、循環ポンプを水素ガスの充填が成されていない期間は停止させる。これにより、水素ガスの充填が成されていない期間に生じていた循環ポンプを駆動するための電力を低減できる。
【0064】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、上述した例では、FCV車両1台分の水素燃料の充填に、3つの蓄圧器10,12,14による多段蓄圧器101を用いた場合を示したが、これに限るものではない。蓄圧器10,12,14の容積等に応じて、1台分の充填にさらに多くの蓄圧器を用いる場合もあり得る。或いは、逆に1台分の充填に2つの蓄圧器で賄える場合もあり得る。
【0065】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。
【0066】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての水素ガス充填方法及び水素ガス充填装置は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0067】
10,12,14 蓄圧器
11,13,15,27,28 圧力計
21,22,23,24,25,26 バルブ
29 温度計
30 ディスペンサ
31 温度計
32 冷却器
33 流量調整弁
36 遮断弁
37 流量計
38 遮断弁
40 圧縮機
41 緊急離脱カプラ
42 冷凍機
43 制御回路
50 通信制御回路
51 メモリ
52 受信部
53 外気温度受信部
54 終了圧演算部
55 タイマ
56 温度差演算部
57 充填速度演算部
58 システム制御部
59 判定部
60,65 バルブ制御部
61 復圧制御部
62 圧縮機制御部
63 供給制御部
64 ディスペンサ制御部
66 バンク圧力受信部
67 ディスペンサ情報受信部
68 冷凍機制御部
74 出力部
80,84,86 記憶装置
81 変換テーブル
83 補正テーブル
86 関係式パラメータ
88 関係テーブル
100 制御回路
101 多段蓄圧器
102 水素ステーション
104 復圧機構
106 供給部
200 FCV車両
202 燃料タンク
204 車載器
206 圧力計
207 温度計
500 水素充填システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8