(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】レーザー多色印字方法
(51)【国際特許分類】
B41M 5/46 20060101AFI20220329BHJP
B41M 5/327 20060101ALI20220329BHJP
B41M 5/323 20060101ALI20220329BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20220329BHJP
C08L 59/00 20060101ALI20220329BHJP
C08L 25/06 20060101ALI20220329BHJP
C08K 5/1525 20060101ALI20220329BHJP
C08K 5/1545 20060101ALI20220329BHJP
C08K 5/18 20060101ALI20220329BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20220329BHJP
【FI】
B41M5/46 210
B41M5/327
B41M5/323
C08J7/00 CER
C08J7/00 CEZ
C08L59/00
C08L25/06
C08K5/1525
C08K5/1545
C08K5/18
B23K26/00 B
C08J7/00 302
(21)【出願番号】P 2018113443
(22)【出願日】2018-06-14
【審査請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】591258587
【氏名又は名称】日本カラリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】赤松 正
(72)【発明者】
【氏名】橋本 章
(72)【発明者】
【氏名】水谷 竜也
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-083242(JP,A)
【文献】特開2001-001645(JP,A)
【文献】特開平09-302236(JP,A)
【文献】特開2001-199180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/26-5/48
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体(A)と、レーザー発色剤(B1)と、前記レーザー発色剤(B1)とは異なるレーザー発色剤(B2)と、を含有するレーザー多色印字用組成物を用いてレーザー多色印字用成形体を作成する工程と、
前記レーザー多色印字用成形体に対し、波長が300nm以上700nm未満である第1のレーザーと、波長が700nm以上11000nm以下である第2のレーザーとを照射して多色印字を行う工程と、
を含
み、
前記レーザー発色剤(B1)がラクトン骨格を有する化合物を含み、前記レーザー発色剤(B2)がトリアリールメタン骨格を有する化合物を含み、
前記レーザー多色印字用組成物が、前記重合体(A)100質量部に対して、前記レーザー発色剤(B1)を0.1質量部以上15質量部以下含有し、前記レーザー発色剤(B2)を0.1質量部以上15質量部以下含有する、
レーザー多色印字方法。
【請求項2】
前記ラクトン骨格を有する化合物が、フルオラン骨格を有する化合物である、請求項1に記載の
レーザー多色印字方法。
【請求項3】
前記重合体(A)が、ポリアセタール系重合体又はポリスチレンである、請求項1または請求項2に記載のレーザー多色印字方法。
【請求項4】
前記レーザー多色印字用組成物が、前記レーザー発色剤(B1)の含有量をM
B1(質量部)、前記レーザー発色剤(B2)の含有量をM
B2(質量部)としたときに、M
B1/M
B2が0.3~3である、請求項1ないし請求項
3のいずれか一項に記載の
レーザー多色印字方法。
【請求項5】
前記レーザー多色印字用組成物が、六ホウ化ランタン、酸化タングステンセシウム、酸化インジウム錫(ITO)及び酸化アンチモン錫よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物をさらに含有する、請求項1ないし請求項
4のいずれか一項に記載の
レーザー多色印字方法。
【請求項6】
前記レーザー多色印字用組成物が、有機ハロゲン化物をさらに含有する、請求項1ないし請求項
5のいずれか一項に記載の
レーザー多色印字方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー多色印字に係る印字方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成形体にレーザーを照射し、2以上の異なる色調を発色させて文字、記号、図柄等を印字する方法が知られている。具体的には、白色、黒色、白色及び黒色以外の単色をレーザー照射により発色させる技術(例えば、特許文献1参照)や、成形体の表面に発色層を作成し、その発色層にレーザーを照射して発色する技術(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-083242号公報
【文献】特表2016-539031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の印字方法では、成形体を作成するための組成物の混練工程や成形工程において熱が発生し、その熱によって発色剤が反応して組成物自体が着色してしまうことがあった。また、特許文献1に示す技術のように、レーザー照射により2以上の有彩色を発色し得る機能を成形体自体に付与することは困難であり、2以上の有彩色を発色させるためには、特許文献2に示す技術のように成形体の表面に発色層を別途設ける必要があった。
【0005】
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、混練工程や成形工程を経て成形体を作成しても発色せず、該成形体に2以上のレーザーを照射することにより2以上の有彩色を簡便に発色させることができる印字方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下のいずれかの態様として実現することができる。
【0007】
本発明に係る印字方法の一態様は、
重合体(A)と、レーザー発色剤(B1)と、前記レーザー発色剤(B1)とは異なるレーザー発色剤(B2)と、を含有するレーザー多色印字用組成物を用いてレーザー多色印字用成形体を作成する工程と、
前記レーザー多色印字用成形体に対し、波長が300nm以上700nm未満である第1のレーザーと、波長が700nm以上11000nm以下である第2のレーザーとを照射して多色印字を行う工程と、
を含む。
【0008】
前記印字方法の一態様において、
前記レーザー発色剤(B1)がラクトン骨格を有する化合物を含み、前記レーザー発色剤(B2)がトリアリールメタン骨格を有する化合物を含むことができる。
【0009】
前記印字方法の一態様において、
前記ラクトン骨格を有する化合物がフルオラン骨格を有する化合物であることができる
。
【0010】
前記印字方法のいずれかの態様において、
前記レーザー多色印字用組成物が、前記重合体(A)100質量部に対して、前記レーザー発色剤(B1)を0.1質量部以上15質量部以下含有し、前記レーザー発色剤(B2)を0.1質量部以上15質量部以下含有することができる。
【0011】
前記印字方法のいずれかの態様において、
前記レーザー多色印字用組成物が、前記レーザー発色剤(B1)の含有量をMB1(質量部)、前記レーザー発色剤(B2)の含有量をMB2(質量部)としたときに、MB1/MB2が0.3~3であることができる。
【0012】
前記印字方法のいずれかの態様において、
前記レーザー多色印字用組成物が、六ホウ化ランタン、酸化タングステンセシウム、酸化インジウム錫(ITO)及び酸化アンチモン錫よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物をさらに含有することができる。
【0013】
前記印字方法のいずれかの態様において、
前記レーザー多色印字用組成物が有機ハロゲン化物をさらに含有することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る印字方法の一態様によれば、混練工程や成形工程などの工程を経て成形体を作成しても発色せず、該成形体に2以上のレーザーを照射することにより2以上の有彩色を簡便に発色させることができる。また、本発明に係る印字方法の一態様によれば、2以上の有彩色を発色し得る機能を付与するために成形体の表面に別途発色層を形成する必要がないため、より簡便に上記機能を成形体に付与することができる。さらに、本発明に係る印字方法の一態様によれば、フルカラー印字を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る印字方法の一例を説明するための概念図である。
【
図2】本実施形態に係る印字方法の一例を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0017】
本明細書において、「~」を用いて記載された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味である。
【0018】
本発明における「レーザー多色印字」とは、レーザー照射により少なくとも2以上の有彩色を発色させることをいい、2以上の有彩色を発色させればさらに無彩色を発色させることを含んでもよい。また、本明細書において「2以上の有彩色を発色させる」とは、それぞれの色相角の差が45°以上となる各々の有彩色を発色させることをいう。そして、色相角とは、CIELAB色空間において定義される色相角(h°)のことをいい、測色機Gretag Spectrolino(商品名、Gretag社製)を用いて測定された当該画像の色相角(h°)のことをいう。
【0019】
本明細書において、「有彩色」とは、色相、明度、彩度の三次元を併せ持つ色であり、例えば赤、青、黄、緑、紫、青緑などがある。本明細書において、「無彩色」とは、明度
の次元しか含まれない色であり、例えば白、灰、黒などがある。
【0020】
1.印字方法
本実施形態に係る印字方法は、重合体(A)と、レーザー発色剤(B1)と、前記レーザー発色剤(B1)とは異なるレーザー発色剤(B2)と、を含有するレーザー多色印字用組成物を用いてレーザー多色印字用成形体を作成する工程と、前記レーザー多色印字用成形体に対し、波長が300nm以上700nm未満である第1のレーザーと、波長700nm以上11000nm以下である第2のレーザーとを照射して多色印字を行う工程とを含む。以下、本実施形態に係る印字方法の各工程について詳細に説明する。
【0021】
1.1.レーザー多色印字用成形体の作成工程
まず、レーザー多色印字用組成物を用いてレーザー多色印字用成形体を作成する。レーザー多色印字用組成物は、重合体(A)と、レーザー発色剤(B1)と、前記レーザー発色剤(B1)とは異なるレーザー発色剤(B2)と、を含有する。本工程によれば、レーザー多色印字用組成物を作成するための混練工程やレーザー多色印字用成形体を作成するための成形工程を経ても発色せず、2以上のレーザーを照射することにより2以上の有彩色を発色し得る機能を有するレーザー多色印字用成形体を作成することができる。
【0022】
レーザー多色印字用組成物は、例えば、後述する各原料成分を、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等に投入し、混練りする等の方法によって製造することができる。混練方法としては、各成分を一括添加してもよいし、多段添加方式で混練りしてもよい。
【0023】
また、上記のようにして製造されたレーザー多色印字用組成物からペレットを作成し、レーザー多色印字用成形体を製造する工程に供することができる。このようなレーザー多色印字用成形体を作成するためのペレットは、3メッシュの篩を通過するペレットの含有割合が、ペレット全質量に対して、98質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましい。また、5メッシュの篩を通過し、かつ、9メッシュの篩を通過しないペレットの含有割合は、ペレット全質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることが特に好ましい。なお、上記「メッシュ」は、Tyler篩による標準篩法に基づくものである。
【0024】
上記ペレットは、押出機等により上記レーザー多色印字用組成物を加工することにより作成することができる。例えば、ペレタイザーを用いて、ダイス径、引き取り速度等を調整することにより、スレッド径及びそのカット長を適宜変更することができる。その後、ペレットを所定の篩により分級等を行うことにより製造することができる。
【0025】
次いで、上記レーザー多色印字用組成物のペレットを、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、フィルム押出、シート押出、真空成形、発泡成形、ブロー成形等の方法によって、所定形状を有するレーザー多色印字用成形体を作成することができる。
【0026】
レーザー多色印字用成形体の形状は、目的及び用途に応じて様々な形状の成形体が選択可能であり、レーザー光が照射可能であれば、印字される部分が平面、曲面、角部を有する凹凸面等であってもよい。
【0027】
以下、レーザー多色印字用組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0028】
1.1.1.レーザー多色印字用組成物
<重合体(A)>
本実施形態で用いられるレーザー多色印字用組成物は、重合体(A)を含有する。重合
体(A)は、組成物を成形して得られる成形体の基材としての機能を有する。
【0029】
重合体(A)としては、公知の材料を使用することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)などのポリエステル系重合体;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのアクリル系重合体;ポリアセタール(POM)系重合体;ポリスチレン(PS)等を使用することができる。これらの中でも、機械的強度に優れた半透明ないし白色不透明の成形体が得られることから、ポリアセタール系重合体、ポリスチレンであることが好ましい。半透明ないし白色不透明の成形体とすることで、2以上の有彩色や無彩色の鮮明な印字が可能となる。
【0030】
<レーザー発色剤>
本実施形態で用いられるレーザー多色印字用組成物は、レーザー発色剤として、レーザー発色剤(B1)と、前記レーザー発色剤(B1)とは異なるレーザー発色剤(B2)と、を含有する。レーザー発色剤(B1)及びレーザー発色剤(B2)をそれぞれ発色させるためには、それぞれ異なるエネルギーのレーザー光を照射する必要がある。
【0031】
レーザー発色剤としては、ロイコ色素が好ましい。本明細書において「ロイコ色素」とは、レーザーを照射することにより着色する機能を有する化合物のことをいう。
【0032】
(レーザー発色剤(B1))
レーザー発色剤(B1)としては、ラクトン骨格を有する化合物を含むことが好ましい。ラクトン骨格を有する化合物は、レーザー照射によって分子内に有するラクトン環が開環状態となることにより発色する。このようなラクトン骨格を有する化合物の中でも、フルオラン骨格を有する化合物であることがより好ましい。
【0033】
ラクトン骨格を有する化合物の市販品としては、RED40、BLUE63(以上、山本化成株式会社製)、RED500、CVL、BLACK305(以上、山田化学工業株式会社製)等を好ましく使用することができる。
【0034】
レーザー発色剤(B1)の含有割合は、重合体(A)100質量部に対して、0.1質量部以上15質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以上10質量部以下であることがより好ましく、0.3質量部以上5質量部以下であることが特に好ましい。
【0035】
(レーザー発色剤(B2))
レーザー発色剤(B2)は、トリアリールメタン骨格を有する化合物を含むことが好ましい。トリアリールメタン骨格を有する化合物としては、4,4’-テトラメチルジアミノトリフェニルメタン、トリス(4-ジメチルアミノフェニル)メタン等が挙げられる。
【0036】
トリアリールメタン骨格を有する化合物の市販品としては、ロイコマラカイトグリーン(東京化成工業株式会社製)、ロイコクリスタルバイオレット(和光純薬工業株式会社製)等を好ましく使用することができる。
【0037】
レーザー発色剤(B2)の含有割合は、重合体(A)100質量部に対して、0.1質量部以上15質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以上10質量部以下であることがより好ましく、0.3質量部以上5質量部以下であることが特に好ましい。
【0038】
<その他の添加剤>
本実施形態で用いられるレーザー多色印字用組成物は、上述した成分以外にその他の添
加剤を目的、用途に応じて含有することができる。その他の添加剤としては、例えば、顕色剤、フィラー等が挙げられる。
【0039】
(顕色剤)
顕色剤は、レーザー照射によって印字する際に、レーザー照射によって酸化剤となり、主にレーザー発色剤(B2)を酸化させて二重結合を形成することにより発色させる機能を有する。顕色剤としては、有機ハロゲン化物を使用することが好ましい。有機ハロゲン化物としては、例えば、ジブロモベンゼン、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、ペンタブロモジフェニルエーテル、ジクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン等が挙げられる。これらの顕色剤は、1種単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0040】
顕色剤の含有割合は、重合体(A)100質量部に対して、0.1~15質量部であることが好ましく、0.2~12質量部であることがより好ましい。
【0041】
(フィラー)
フィラーは、レーザー照射によって印字する際に電磁線を熱に転換して、主にレーザー発色剤(B1)を熱により発色させる機能を有する。このようなフィラーとしては、アルミニウム、ニッケル、金、銀、銅、鉄、ステンレス鋼(SUS)等の金属粒子;酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化インジウム錫(ITO)、酸化アンチモン錫、酸化タングステンセシウム等の金属酸化物粒子;カーボンブラック、六ホウ化ランタン等が挙げられる。これらのフィラーの中でも、六ホウ化ランタン、酸化タングステンセシウム、酸化インジウム錫(ITO)及び酸化アンチモン錫よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。これらのフィラーは、1種単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0042】
フィラーの含有割合は、重合体(A)100質量部に対して、0.01~5質量部であることが好ましく、0.03~3質量部であることがより好ましく、0.05~1質量部であることが特に好ましい。
【0043】
1.2.多色印字工程
次いで、上述のようにして得られたレーザー多色印字用成形体に対し、波長が300nm以上700nm未満である第1のレーザーと、波長が700nm以上11000nm以下である第2のレーザーとを照射して多色印字を行う。このように、上述のレーザー多色印字用成形体を用いれば、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を照射することにより、2以上の有彩色を発色させることができる。すなわち、低エネルギーの第2のレーザー光照射により上記レーザー発色剤(B1)が発色し、高エネルギーの第1のレーザー光照射により上記レーザー発色剤(B2)が発色するので、多色印字が可能となる。
【0044】
レーザー光の照射方法としては、スキャン方式及びマスク方式のいずれでもよい。また、第1のレーザーと第2のレーザーを同時に照射してもよいし、1つずつ照射してもよい。
【0045】
レーザー光の照射装置としては、一般的なレーザー印字用装置等を用いることができる。レーザー印字に際しては、1台の装置で異なるエネルギーを有する2以上のレーザー光を照射してもよいし、複数の装置を用いてもよい。2波長のレーザー印字が可能な装置としては、例えば、ロフィン・バーゼル社製レーザー印字システム「RSM50D型」、「RSM30D型」等を用いることができる。
【0046】
なお、本明細書において、例えば、波長1064nm、波長532nmのようにレーザ
ー光の「波長」を示す数字は、いずれも中心波長を意味し、通常、±3%程度の誤差を含むものとする。
【0047】
なお、第1のレーザーと第2のレーザーとの波長の差は、好ましくは100nm以上、更に好ましくは200nm以上、特に好ましくは500nm以上である。
【0048】
レーザー発色剤(B1)を発色させる際に使用する低エネルギーの第2のレーザーの波長は、700nm以上11000nm以下であるが、800nm以上1100nm以下であることがより好ましい。このような長波長のレーザーとしては、一般的にYAGレーザー、YVO4の近赤外レーザー(波長1064nm)、CO2レーザー等を好ましく使用することができる。
【0049】
レーザー発色剤(B2)を発色させる際に使用する高エネルギーの第1のレーザーの波長は、300nm以上700nm未満であるが、350nm以上600nm以下であることが好ましい。このような短波長のレーザーはとしては、一般的にYVO4のUVレーザー(波長355nm)、ブルーレーザー(波長455nm)、グリーンレーザー(波長532nm)等を好ましく使用することができる。
【0050】
以下、レーザー光照射による印字方法の具体例を図面を参照しながら説明するが、本実施形態に係る印字方法は、これに限定されるものではない。上述のようにして得られたレーザー多色印字用成形体1に対し、2つの異なるエネルギーを有するレーザー光を照射する(
図1の〔I〕)。このとき、レーザー光の照射は同時に行ってよいし、別々に行ってもよい。また、目的とする色によっては、照射位置は異なっても良いし、重複して発色する色を混合してもよい。低エネルギーのレーザー光の照射部は、レーザー発色剤(B1)に由来する色に印字(
図1の3a)され、一方、高エネルギーのレーザー光の照射部はレーザー発色剤(B2)に由来する色に印字(
図1の3b)される(
図1の〔II〕)。以上の要領で、2つ以上の異なる色調に印字された多色印字付き成形体2を得ることができる。
【0051】
また、レーザー多色印字用成形体1に対し、低エネルギーのレーザー光を照射することにより、広い面積のレーザー発色剤(B1)に由来する色の印字部(
図2の3a)を形成し、その後、該印字部の中に、高エネルギーのレーザー光を照射することにより、その照射部を、レーザー発色剤(B2)に由来する色とレーザー発色剤(B1)に由来する色との混色とした印字部(
図2の3b)を形成することができる。以上の要領で、2つ以上の異なる色調に印字された多色印字付き成形体2aを得ることができる。
【0052】
なお、このようにして作製された多色印字付き成形体は、印字部を有する面に保護層を備えてもよい。この保護層を構成する材料は、目的、用途に応じて選択すればよく、特に限定されない。
【0053】
多色印字付き成形体は、例えば、電気・電子用途、自動車用途、一般雑貨用途、建築部材等に有用であり、特に自動車部品、例えばエンジンルーム内のモジュール部品、インテークマニホールド、アンダーフード部品、ラジエター部品、インパネなどに用いるコックピットモジュール部品に用いることができる。その他の用途としては、例えば、パソコン、液晶プロジェクター、モバイル機器、携帯電話等の電子部品に有用である。
【0054】
2.実施例
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、本実施例における「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0055】
2.1.実施例1
2.1.1.レーザー多色印字用成形体の作成工程
表1に示す種類、質量部の各成分を、ラボプラストミル(東洋精機製、型番:4C150)にてスクリュー回転数100rpm、シリンダー温度200℃にて5分混練してレーザー多色印字用組成物を作成した。そして、得られたレーザー多色印字用組成物を圧縮プレス機にて200℃で5分予熱した後、30kgf/cm2で加圧成形し、直径90mmの円形で、厚み1mmの板状のレーザー多色印字用成形体を得た。
【0056】
2.1.2.印字工程
上記で得られたレーザー多色印字用成形体の表面に、走査速度20mm/s、出力1.8Wの条件で波長455nmのレーザーを照射(レーザー照射条件A)して日本カラリングの会社情報を記録した14mm×14mmの2次元バーコードを印字し、印字部の発色の色と印字の鮮明さの評価を行った。
【0057】
次に、レーザー多色印字用成形体の別の部位に、走査速度15mm/s、出力3.5Wの条件で波長455nmのレーザーを照射(レーザー照射条件B)して日本カラリングの会社情報を記録した14mm×14mmの2次元バーコードを印字し、印字部の発色の色と印字の鮮明さの評価を行った。
【0058】
さらに、レーザー多色印字用成形体の別の部位に、走査速度25mm/s、出力15Wの条件で波長1064nmのYVO4レーザーを照射(レーザー照射条件C)して日本カラリングの会社情報を記録した14mm×14mmの2次元バーコードを印字し、印字部の発色の色と印字の鮮明さの評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0059】
2.1.3.評価方法
<印字部の鮮明さ>
印字部を目視により下記評価基準により印字の鮮明さの評価を行った。結果を表1に示す。
(評価基準)
・印字の輪郭が鮮明である場合、良好と判断し「○」と表記した。
・印字の輪郭が不鮮明である場合、不良と判断し「×」と表記した。
【0060】
<生地色の発色>
レーザー多色印字用成形体を目視により観察し、生地色の着色を観察して下記評価基準により評価を行った。結果を表1に示す。
(評価基準)
・重合体(A)の色調と比較し、レーザー多色印字用成形体の色調に変化が認められない場合、成形加工により変質がないため良好と判断し「○」と表記した。
・重合体(A)の色調と比較し、レーザー多色印字用成形体の色調に変化が認められる場合、成形加工により変質が生じたため不良と判断し「×」と表記した。
【0061】
<ブリードアウト性>
印字部をベンコットによりふき取り、印字部が転写するかどうかについて下記評価基準により評価を行った。結果を表1に示す。
(評価基準)
・ベンコットへの転写が認められない場合、良好と判断し「○」と表記した。
・ベンコットへの転写が認められる場合、不良と判断し「×」と表記した。
【0062】
2.2.実施例2~17、比較例1~9
レーザー照射条件を適時変化させ、組成物の組成を下表1~下表3に記載の組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてレーザー多色印字用成形体を作成し、印字の鮮明さ、生地色の発色、ブリードアウト性の評価を行った。結果を下表1~下表3に示す。
【0063】
下表1~下表3中のレーザー照射条件は、それぞれ以下の通りである。
・レーザー照射条件A:レーザー波長455nm、出力1.8W/走査速度20mm/s・レーザー照射条件B:レーザー波長455nm、出力3.5W/走査速度15mm/s・レーザー照射条件C:レーザー波長1064nm、出力15W/走査速度25mm/s・レーザー照射条件D:レーザー波長1064nm、出力25W/走査速度25mm/s・レーザー照射条件E:レーザー波長355nm、出力2W/走査速度600mm/s
・レーザー照射条件F:レーザー波長355nm、出力2W/走査速度300mm/s
・レーザー照射条件G:レーザー波長532nm、出力2W/走査速度600mm/s
・レーザー照射条件H:レーザー波長532nm、出力2W/走査速度300mm/s
【0064】
2.3.実施例18
表2に示す種類、質量部の各成分を、二軸押出機で溶融混練した後、ペレット化した。作成したペレットを、篩を使用して分級し、ペレット100質量部中、3メッシュの篩を通過するペレットを98質量%、5メッシュの篩を通過し、かつ、9メッシュの篩を通過しないペレットを99質量%になるように調整し、シリンダー温度200℃、金型温度60℃の条件下、射出成形機(JSW社製、110H)を用いて射出成形し、長さ90mm×幅50mm×厚み3mmのレーザー多色印字用成形体を作成した。このようにして得られたレーザー多色印字用成形体を、実施例1と同様に評価した。
【0065】
2.4.評価結果
下表1~下表3に、各実施例及び比較例における、レーザー多色印字用成形体を作成するためのレーザー多色印字用組成物の組成、工法、及び評価結果を示す。なお、評価結果の欄において空欄の箇所は、そのレーザー照射条件で評価を行っていないことを表す。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
上表1~上表3中の各成分の名称または略称は、それぞれ以下の通りである。
<重合体(A)>
・POM:三菱エンジニアリングプラスチックス製、商品名「F20-03」、ポリアセタール樹脂
・PS:PSジャパン社製、商品名「HF77」、ポリスチレン
<レーザー発色剤(B1)>
・R-40:商品名、山本化成社製、3,3-ビス(1-n-ブチル-2-メチル-3-インドリル)フタリド
・R-500:商品名、山田化学工業社製、9-(N-エチル-N-イソペンチルアミノ)スピロ[ベンゾ[a]キサンテン-12,3’-フタリド]
・BLUE-63:商品名、山本化成社製、3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチル-3-インドリル)-4-アザフタリド
<レーザー発色剤(B2)>
・LMG:東京化成工業社製、商品名「ロイコマラカイトグリーン」、4,4’-テトラメチルジアミノトリフェニルメタン
・LCV:和光純薬工業社製、商品名「ロイコクリスタルバイオレット」、トリス(4-ジメチルアミノフェニル)メタン
<その他の添加剤>
・DBB:和光純薬工業社製、商品名「p-ジブロモベンゼン」、顕色剤
・PBT:和光純薬工業社製、商品名「ペンタブロモトルエン」、顕色剤
・HCB:和光純薬工業社製、商品名「ヘキサクロロベンゼン」、顕色剤
・ITO:三菱マテリアル社製、商品名「E-ITO」、酸化インジウム錫、フィラー、一次粒子径0.03μm
・トリオキサン:東京化成工業社製、商品名「1,3,5-トリオキサン」
【0070】
上表1及び上表2から明らかなように、実施例1~18のレーザー多色印字用組成物から作成されたレーザー多色印字用成形体によれば、いずれも生地色の着色が抑制されており、また該成形体表面に照射条件の異なる2以上のレーザー光を照射することにより、2以上の有彩色を発色できることがわかった。
【0071】
一方、上表3から明らかなように、比較例1~9の組成物から作成された成形体の表面に対し、照射条件の異なる2以上のレーザー光を照射しても、単色の有彩色のみ発色する(すなわち多色印字ができない)か、全く発色できないことがわかった。
【0072】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0073】
1…レーザー多色印字用成形体、2・2a…多色印字付き成形体、3a…印字部1、3b…印字部2