(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】固体酸化物形電解セル、電解システム、一酸化炭素及び水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20220329BHJP
C25B 1/01 20210101ALI20220329BHJP
C25B 11/047 20210101ALI20220329BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20220329BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B1/01 Z
C25B11/047
C25B1/04
(21)【出願番号】P 2018114776
(22)【出願日】2018-06-15
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】水上 範貴
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 博之
(72)【発明者】
【氏名】石原 達己
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/096022(WO,A1)
【文献】特開昭49-002777(JP,A)
【文献】特開昭56-020181(JP,A)
【文献】特表2015-528979(JP,A)
【文献】国際公開第2012/118065(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147720(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 9/00
C25B 1/01
C25B 11/04
C25B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物のみからなるカソード電極と、アノード電極と、電解質層と、を備え、
前記電解質層は前記カソード電極と前記アノード電極との間に設けられ、
前記電解質層を構成する電解質が固体であり、
前記固体酸化物がスピネル型構造を有する固体酸化物を含
み、
前記スピネル型構造を有する固体酸化物がCuFe
2
O
4
である、固体酸化物形電解セル。
【請求項2】
請求項
1に記載の固体酸化物形電解セルを備えた電解システム。
【請求項3】
前記固体酸化物形電解セルの前記カソード電極側に二酸化炭素を供給して電解し、一酸化炭素を得る、請求項
2に記載の電解システム。
【請求項4】
前記固体酸化物形電解セルの前記カソード電極側に水蒸気を供給して電解し、水素を得る、請求項
2に記載の電解システム。
【請求項5】
前記固体酸化物形電解セルの前記カソード電極側に二酸化炭素及び水蒸気を供給して共電解し、一酸化炭素及び水素を得る、請求項
2に記載の電解システム。
【請求項6】
請求項
1に記載の固体酸化物形電解セルを用い、前記カソード電極側に二酸化炭素を供給し、電解して一酸化炭素を得る、一酸化炭素の製造方法。
【請求項7】
請求項
1に記載の固体酸化物形電解セルを用い、前記カソード電極側に水蒸気を供給し、電解して水素を得る、水素の製造方法。
【請求項8】
請求項
1に記載の固体酸化物形電解セルを用い、前記カソード電極側に二酸化炭素及び水蒸気を供給し、共電解して一酸化炭素及び水素を得る、一酸化炭素及び水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形電解セル、電解システム、一酸化炭素及び水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の抑制の観点から二酸化炭素の削減が要求されている。また、太陽光発電を中心に再生可能エネルギーの増加によって生じる過剰電力の有効利用として、高温電解技術が注目されている。高温電解技術の一つとして、二酸化炭素及び水蒸気を同時に電気化学的に還元して一酸化炭素と水素を得る装置の研究が進められている。
【0003】
二酸化炭素や水蒸気を電解する電解セルとしては、電解質層、カソード電極及びアノード電極を備え、酸素イオン伝導性を有する固体酸化物を用いた固体酸化物形電解セルが知られている。電解質としては、ジルコニア系酸化物、セリア系酸化物、ランタンガレート系酸化物等が用いられている。
【0004】
カソード電極には、導電性及び触媒活性に優れ、高い電解効率が得られることから、Niを含む電極が広く用いられている。例えば、Niとペロブスカイト系固体酸化物を含む電極や、Niを含むサーメットと固体酸化物を含む電極を備える電解セルが知られている(例えば、特許文献1)。しかし、Niを含むカソード電極を用いた電解セルは安定性が不充分であり、使用の際に触媒活性が経時的に低下する問題がある。
【0005】
また、Srを含むペロブスカイト系固体酸化物を用いたカソード電極を備える電解セルも知られている。しかし、Srを含むカソード電極を用いた電解セルも安定性が不充分であり、使用の際に触媒活性が経時的に低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安定性に優れ、使用時に触媒活性が経時的に低下しにくい固体酸化物形電解セル、及び、前記固体酸化物形電解セルを用いた電解システム、一酸化炭素の製造方法、水素の製造方法、一酸化炭素及び水素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]固体酸化物のみからなるカソード電極と、アノード電極と、電解質層と、を備え、
前記電解質層は前記カソード電極と前記アノード電極との間に設けられ、
前記固体酸化物がスピネル型構造を有する固体酸化物を含む、固体酸化物形電解セル。
[2]前記スピネル型構造を有する固体酸化物が、組成式AB2O4で表され、A及びBがそれぞれCu、Co、Mn、Ni及びFeから選ばれる1種であり、かつAとBとが異なる元素である固体酸化物である、[1]に記載の固体酸化物形電解セル。
[3]前記スピネル型構造を有する固体酸化物がCuFe2O4である、[1]に記載の固体酸化物形電解セル。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の固体酸化物形電解セルを備えた電解システム。
[5]前記固体酸化物形電解セルの前記カソード電極側に二酸化炭素を供給して電解し、一酸化炭素を得る、[4]に記載の電解システム。
[6]前記固体酸化物形電解セルの前記カソード電極側に水蒸気を供給して電解し、水素を得る、[4]に記載の電解システム。
[7]前記固体酸化物形電解セルの前記カソード電極側に二酸化炭素及び水蒸気を供給して共電解し、一酸化炭素及び水素を得る、[4]に記載の電解システム。
[8][1]~[3]のいずれかに記載の固体酸化物形電解セルを用い、前記カソード電極側に二酸化炭素を供給し、電解して一酸化炭素を得る、一酸化炭素の製造方法。
[9][1]~[3]のいずれかに記載の固体酸化物形電解セルを用い、前記カソード電極側に水蒸気を供給し、電解して水素を得る、水素の製造方法。
[10][1]~[3]のいずれかに記載の固体酸化物形電解セルを用い、前記カソード電極側に二酸化炭素及び水蒸気を供給し、共電解して一酸化炭素及び水素を得る、一酸化炭素及び水素の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安定性に優れ、使用時に触媒活性が経時的に低下しにくい固体酸化物形電解セル、及び、前記固体酸化物形電解セルを用いた電解システム、一酸化炭素の製造方法、水素の製造方法、一酸化炭素及び水素の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の固体酸化物形電解セルの一例を示した断面図である。
【
図2】本発明の固体酸化物形電解セルの一例を示した断面図である。
【
図3】本発明の電解システムの一例を示した模式図である。
【
図4】実施例における各種スピネル酸化物を用いた電解セルの電流密度とセル間にかかる電圧との関係をプロットしたグラフである。
【
図5】実施例における各種原料ガスを電解した場合の電流密度とセル間にかかる電圧との関係をプロットしたグラフである。
【
図6】実施例における供給した二酸化炭素と水蒸気の比率と生成した一酸化炭素と水素の比率の関係を示したグラフである。
【
図7】実施例における電解前と電解後のカソード電極のCuFe
2O
4の構造解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[固体酸化物形電解セル]
本発明の固体酸化物形電解セル(以下、「本電解セル」とも記す。)は、固体酸化物のみからなるカソード電極と、アノード電極と、電解質層と、を備える。本電解セルは、二酸化炭素及び水蒸気のいずれか一方又は両方を電解する電解セルとして使用できる。
【0012】
カソード電極は、固体酸化物のみからなる。本発明において、固体酸化物とは、CO2還元及びH2還元に活性を有する固体酸化物である。
カソード電極を構成する固体酸化物は、スピネル型構造を有する固体酸化物(以下、「スピネル酸化物」とも記す。)を含む。スピネル酸化物は、組成式AB2O4で表される、結晶中にAサイトとBサイトの2つのサイトをもつ遷移金属酸化物である。スピネル酸化物の結晶は、等軸晶系である。
【0013】
カソード電極に含まれるスピネル酸化物は、特に限定されない。スピネル酸化物のAサイト及びBサイトを占める金属元素としては、例えば、Co、Cu、Fe、Ge、Mg、Mn、Ni、Ti、Zn、Al、Cr、V等が挙げられる。
スピネル酸化物としては、安定性に優れる点から、組成式AB2O4で表され、A及びBがそれぞれCu、Co、Mn、Ni及びFeから選ばれる1種であり、かつAとBとが異なる元素である固体酸化物が好ましく、AがCu、Co、Mn又はNiであり、BがFe、Mn又はCoであり、かつAとBとが異なる元素である固体酸化物がより好ましい。
【0014】
スピネル酸化物の具体例としては、CuFe2O4、CoMn2O4、MnCo2O4、NiFe2O4、CoFe2O4、CuCo2O4、CuMn2O4、CuFe2O4、CoCu2O4、CoNi2O4、MnCu2O4、MnNi2O4、MnFe2O4、NiCu2O4、NiCo2O4、NiMn2O4、FeCu2O4、FeCo2O4、FeMn2O4、FeNi2O4等が挙げられる。なかでも、CuFe2O4、CoMn2O4、MnCo2O4、NiFe2O4、CoFe2O4が好ましく、優れた触媒活性と安定性を両立しやすい点から、CuFe2O4が特に好ましい。
カソード電極に含まれるスピネル酸化物は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0015】
カソード電極を構成する固体酸化物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、スピネル酸化物に加えて、スピネル酸化物以外の他の固体酸化物が含まれていてもよい。
他の固体酸化物としては、例えば、LaSrMn酸化物(LSM)、LaSrCo酸化物(LSC)、LaSrCoFe酸化物(LSCF)、LaSrFe酸化物(LSF)等のペロブスカイト系固体酸化物等が挙げられる。カソード電極に含まれる他の固体酸化物は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0016】
カソード電極を構成する固体酸化物中のスピネル酸化物の割合は、カソード電極を構成する固体酸化物の総質量に対して、10質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。スピネル酸化物の割合が前記下限値以上であれば、優れた安定性が得られやすく、使用時に触媒活性が経時的に低下しにくくなる。
【0017】
アノード電極を構成する材料としては、特に限定されず、電解セルのアノード電極に用いられる公知の材料を使用でき、電気伝導性を有する酸化物も好ましい。
アノード電極を構成する酸化物としては、例えば、Ba0.6La0.4CoO3等のBaLaCoO系酸化物(BLC)、Ni-YSZ等のジルコニア系酸化物、La0.3Sr0.7Fe0.7Ti0.3O3等のLaSrFeTi系酸化物(LSFT)、La0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3等のLaSrCrMn系酸化物(LSCM)等が挙げられる。なかでも、安定性及び触媒活性の点から、BaLaCoO系酸化物が好ましい。アノード電極に含まれる酸化物は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0018】
電解質層はカソード電極とアノード電極との間に設けられる。電解質層を構成する電解質としては、特に限定されず、電解セルに用いられる公知の電解質を使用でき、酸素イオン伝導性を有する固体酸化物も好ましい。「酸素イオン伝導性を有する」とは、酸素イオン格子点と空格子点の交換による酸素イオンが移動することにより生じる伝導性を有することを意味する。
電解質としては、例えば、La0.9Sr0.1Ga0.8Mg0.2O3等のLaSrGaMgO系酸化物(LSGM)、YSZ等のジルコニア系酸化物、Ce0.9Gd0.1O2等のセリア系酸化物等が挙げられる。なかでも、高い酸素イオン伝導性が得られやすい点から、LaSrGaMgO系酸化物が好ましい。電解質層に含まれる電解質は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0019】
本電解セルの態様は、カソード電極とアノード電極との間に電解質層が設けられている態様であれば特に限定されず、平板状、円筒状等の態様を採用できる。
例えば、
図1に示すように、平板状の電解質層10の一方の側にカソード電極12が設けられ、電解質層10の他方の側にアノード電極14が設けられ、カソード電極12がスピネル酸化物を含む固体酸化物形電解セル1(以下、「電解セル1」とも記す。)が挙げられる。また、
図2に示すように、円筒状の電解質層20の外側にカソード電極22が設けられ、電解質層20の内側にアノード電極24が設けられ、カソード電極22がスピネル酸化物を含む固体酸化物形電解セル2が挙げられる。
なお、
図1及び
図2の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
カソード電極の厚さは、適宜設定でき、例えば、1μm~10mmとすることができる。
アノード電極の厚さは、適宜設定でき、例えば、1μm~10mmとすることができる。
電解質層の厚さは、適宜設定でき、例えば、1μm~1mmとすることができる。
【0021】
本電解セルの製造方法は、特に限定されず、カソード電極を形成する材料にスピネル酸化物を用いる以外は公知の方法を採用できる。電解質層は、例えば、冷間静水圧成形等で電解質を成形することで形成できる。アノード電極及びカソード電極を形成する方法としては、スクリーンプリント、ディップコート等が挙げられる。
【0022】
[電解システム]
本発明の電解システムは、本電解セルを備えた電解システムである。本発明の電解システムは、本電解セルを備える以外は公知の態様を採用できる。
本発明の電解システムは、例えば、カソード電極側に二酸化炭素を供給して電解し、一酸化炭素を得るシステム、カソード電極側に水蒸気を供給して電解し、水素を得るシステム、又は、カソード電極側に二酸化炭素及び水蒸気を供給して共電解し、一酸化炭素及び水素を得るシステムとすることができる。
【0023】
本発明の電解システムとしては、本電解セルを備える以外は特に限定されない。例えば、
図3に例示した電解システム100が挙げられる。
電解システム100は、電解部110と、原料ガス供給手段120と、生成ガス回収部130と、スイープガス供給手段140と、酸素回収部150と、電圧印加部160とを備えている。
【0024】
電解部110は、内部に電解セル1を備える。電解部110は、電解セル1を加熱する電気炉等の加熱手段を備えていることが好ましい。原料ガス供給手段120は、電解部110内の電解セル1のカソード電極12側に原料ガスを供給する手段である。生成ガス回収部130は、電解部110内の電解セル1のカソード電極12で原料ガスが電解されて生成した生成ガスが回収される部分である。スイープガス供給手段140は、電解部110内の電解セル1のアノード電極14側にスイープガスを供給する手段である。酸素回収部150は、原料ガスの電解により電解セル1のアノード電極14側で生じる酸素が回収される部分である。電圧印加部160は、電解セル1に電圧を印加する部分である。
なお、本発明の電解システムは、電解システム100における酸素回収部150を備えない電解システムであってもよい。
【0025】
二酸化炭素を電解して一酸化炭素を得るシステムの場合、原料ガス供給手段120から電解部110内の電解セル1のカソード電極12側に二酸化炭素を供給し、電解セル1での電解により生成した一酸化炭素を生成ガス回収部130で回収する。また、カソード電極12での電解で生じた酸素イオンは電解質層10を通じてアノード電極14へと移動し、酸素となって酸素回収部150で回収される。スイープガスとしては、特に限定されず、例えば、乾燥空気を使用できる。
【0026】
水蒸気を電解して水素を得るシステムの場合は、原料ガス供給手段120から電解部110内の電解セル1のカソード電極12側に水蒸気を供給し、電解セル1での電解により生成した水素を生成ガス回収部130で回収する。
二酸化炭素及び水蒸気を電解して一酸化炭素及び水素を得るシステムの場合は、原料ガス供給手段120から電解部110内の電解セル1のカソード電極12側に二酸化炭素及び水蒸気を供給し、電解セル1での電解により生成した一酸化炭素及び水素を生成ガス回収部130で回収する。
【0027】
なお、本発明の電解システムは、前記した電解システム100には限定されない。例えば、二酸化炭素及び水蒸気を電解して一酸化炭素及び水素を得るシステムの場合、二酸化炭素と水蒸気を別々の供給手段からそれぞれ電解セル1のカソード電極12側に供給する電解システムとしてもよい。
【0028】
[一酸化炭素の製造方法]
本発明の一酸化炭素の製造方法は、本電解セルを用い、カソード電極側に二酸化炭素を供給し、二酸化炭素を電解して一酸化炭素を得る方法である。例えば、前記した電解セル1を備える電解システム100を用い、電解セル1のカソード電極12側に原料ガスとして二酸化炭素を供給することで、二酸化炭素を電解して一酸化炭素を製造する方法が挙げられる。
【0029】
二酸化炭素を電解する際の本電解セルの温度は、400~1000℃が好ましく、500~900℃がより好ましい。本電解セルの温度が前記範囲内であれば、二酸化炭素や水蒸気を安定に電解しやすい。
【0030】
本電解セルのカソード電極側に二酸化炭素を供給する際には、電解に対して不活性なキャリアガスを用いてもよい。キャリアガスとしては、Arガス、Heガス等が挙げられる。
本電解セルのカソード電極側へのガス供給量は、適宜設定できる。
【0031】
本電解セルのアノード電極側には、スイープガスを供給してもよい。本電解セルのアノード電極側へのスイープガスのガス供給量は、適宜設定できる。
【0032】
[水素の製造方法]
本発明の水素の製造方法は、本電解セルを用い、カソード電極側に水蒸気を供給し、水蒸気を電解して水素を得る方法である。例えば、前記した電解セル1を備える電解システム100を用い、電解セル1のカソード電極12側に原料ガスとして水蒸気を供給することで、水蒸気を電解して水素を製造する方法が挙げられる。
本発明の水素の製造方法は、本電解セルのカソード電極側に水蒸気を供給する以外は、一酸化炭素の製造方法と同様に行うことができる。
【0033】
[一酸化炭素及び水素の製造方法]
本発明の一酸化炭素及び水素の製造方法は、本電解セルを用い、カソード電極側に二酸化炭素及び水蒸気を供給し、二酸化炭素及び水蒸気を共電解して一酸化炭素及び水素を得る方法である。例えば、前記した電解セル1を備える電解システム100を用い、電解セル1のカソード電極12側に原料ガスとして二酸化炭素及び水蒸気を供給することで、二酸化炭素及び水蒸気を共電解して一酸化炭素及び水素を製造する方法が挙げられる。
本発明の一酸化炭素及び水素の製造方法は、本電解セルのカソード電極側に二酸化炭素及び水蒸気を供給する以外は、一酸化炭素の製造方法と同様に行うことができる。
【0034】
本発明の一酸化炭素及び水素の製造方法において、電解により得られる一酸化炭素と水素の比率は、本電解セルのカソード電極側に供給する二酸化炭素と水蒸気の比率と相関がある。そのため、本発明の一酸化炭素及び水素の製造方法で得られる一酸化炭素と水素の比率は、本電解セルのカソード電極側に供給する二酸化炭素と水蒸気の比率を調節することで任意に調節することができる。
本電解セルのカソード電極側に供給する二酸化炭素と水蒸気の比率は、目的とする一酸化炭素及び水素の比率に応じて適宜設定すればよい。
【0035】
本発明では、本電解セルのカソード電極側に二酸化炭素と水蒸気の両方を供給すると、水蒸気を供給せずに二酸化炭素のみを供給する場合に比べて、二酸化炭素の供給量が同じでも二酸化炭素の電解効率が高くなる。そのため、二酸化炭素の電解効率が向上する点では、本電解セルのカソード電極側に供給するガスの総体積に対する水蒸気の比率は、1体積%以上が好ましく、5体積%以上がより好ましい。
【0036】
なお、本発明の一酸化炭素の製造方法、水素の製造方法、一酸化炭素及び水素の製造方法はいずれも、前記した電解システム100を用いる方法には限定されない。
【0037】
以上説明したように、本電解セルにおいては、固体酸化物のみでカソード電極を形成し、かつ固体酸化物としてスピネル酸化物を用いる。これにより、固体酸化物形電解セルにおけるカソード電極の安定性に優れ、使用時に触媒活性が経時的に低下することが抑制される。また、本電解セルを用いた場合、二酸化炭素や水蒸気の電解において、充分な電解効率が得られる。
【0038】
本電解セルの安定性が優れる要因は、以下のように考えられる。
従来のNiを含むカソード電極を備える固体酸化物形電解セルでは、触媒となるNiが使用中に酸化されることで触媒活性が経時的に低下する。また、Srを含むペロブスカイト系固体酸化物を用いたカソード電極を備える固体酸化物形電解セルでは、使用中に電極表面にSrの炭酸塩が形成されることで触媒活性が経時的に低下する。
これに対して、本発明では、固体酸化物のみでカソード電極を形成し、かつスピネル酸化物を用いることで、使用時のNiの酸化やSrの炭酸塩の形成が抑制される。そのため、優れた安定性が得られ、使用時の経時的な触媒活性の低下が抑制されると考えられる。
【0039】
また、本電解セルを用いれば、Niの酸化を抑制するためにカソード電極に水素を供給する必要がない。さらに、本電解セルを用いた二酸化炭素や水蒸気の電解においては、セル間にかかる印加電圧が増加したときと減少したときの本電解セルにおける電解効率の変化のずれが小さく、ヒステリシス特性に優れている。これらのことから、本発明の電解システムは、太陽光発電等の出力が安定しない発電システムと組み合わせた場合でも、安定して二酸化炭素や水蒸気の電解を行うことができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[例1]
固相法により合成したLa0.9Sr0.1Ga0.8Mg0.2O3(LSGM9182)を、冷間静水圧成形機を用いて成形し、φ1.5mm、厚み0.4mmの電解質からなるディスクを作製した。ディスクの片面に、アノード電極としてBa0.6La0.4CoO3(BLC64)をスクリーンプリントし、もう片面にはカソード電極としてスピネル酸化物(AB2O4)をスクリーンプリントし、固体酸化物形電解セルを作製した。スピネル酸化物(AB2O4)として、CuFe2O4、CoMn2O4、MnCo2O4、NiFe2O4、又はCoFe2O4を用いて5種類の固体酸化物形電解セルを作製した。アノード電極及びカソード電極はともにφ0.5mmとした。
【0041】
[電解特性]
ディスクにリード線として白金線を取り付け、作製した固体酸化物形電解セルをAl
2O
3チューブに溶融ガラスシールを用いてセットした。
固体酸化物形電解セルに対し、電気炉を用いて800℃に昇温した状態で、カソード電極側に後述の原料ガスBを100mL/minで送入し、アノード電極側にスイープガスとして乾燥空気を100mL/minで送入した。電解セルに定電流が流れるようにセル間に電圧を印加し、電流密度とセル間にかかる電圧の関係を測定して電解特性を評価した。各セルについて、電流密度が増加する方向(forward、黒塗りのプロット)と減少する方向(backward、白抜きのプロット)にそれぞれ電圧を変化させた場合の電解特性を評価した。各電解セルにおける電流密度とセル間にかかる電圧との関係をプロットした結果を
図4に示す。
【0042】
また、カソード電極にCuFe
2O
4を用いた固体酸化物形電解セルについては、原料ガスBを後述の原料ガスA、C~Eに変更した場合についても同様に電解特性を評価した。原料ガスを変更する以外の条件は同じとした。各原料ガスによる評価試験の電流密度とセル間にかかる電圧との関係をプロットした結果を
図5に示す。
カソード電極にCuFe
2O
4を用いた固体酸化物形電解セルの評価試験では、カソード電極側の出口ガス流量を測定し、さらにガスクロマトグラフィーを用いて出口ガス組成を測定した。カソード電極側に送入した原料ガスの組成と出口ガス組成との関係を
図6に示す。
【0043】
原料ガスA:CO2(20体積%)とH2O(40体積%)とAr(40体積%)の混合ガス。
原料ガスB:CO2(30体積%)とH2O(30体積%)とAr(40体積%)の混合ガス。
原料ガスC:CO2(40体積%)とH2O(20体積%)とAr(40体積%)の混合ガス。
原料ガスD:CO2(50体積%)とH2O(10体積%)とAr(40体積%)の混合ガス。
原料ガスE:CO2(60体積%)とAr(40体積%)の混合ガス。
【0044】
[カソード電極の安定性]
カソード電極にCuFe
2O
4を用いた固体酸化物形電解セルについて、電解前と、前記評価試験において800℃で数時間、原料ガスDのCO
2とH
2Oを共電解した後のカソード電極のCuFe
2O
4のX線回折法による構造解析を行った。その結果を
図7に示す。
【0045】
図4に示すように、カソード電極にスピネル酸化物を用いた固体酸化物形電解セルにおいて、電解電流が確認され、二酸化炭素と水蒸気が共電解されて一酸化炭素と水素が得られることが分かった。特にカソード電極にCuFe
2O
4を用いた場合に高い電流密度が得られ、電解効率が高かった。
また、
図5及び
図6に示すように、固体酸化物形電解セルのカソード電極側に供給する二酸化炭素と水蒸気の比率と、得られる一酸化炭素と水素の比率には相関があった。この結果は、固体酸化物形電解セルのカソード電極側に供給する二酸化炭素と水蒸気の比率を調節することで、得られる一酸化炭素と水素の比率を調節できることを示すものである。
また、
図7に示すように、電解前と電解後において、カソード電極のCuFe
2O
4はほぼ同じXRDパターンを示しており、電解中の分解は確認されず、安定性に優れていた。
【符号の説明】
【0046】
1,2…固体酸化物形電解セル、10,20…電解質層、12,22…カソード電極、14,24…アノード電極、100…電解システム、110…電解部、120…原料ガス供給手段、130…生成ガス回収部、140…スイープガス供給手段、150…酸素回収部、160…電圧印加部。