(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】ターボチャージャ
(51)【国際特許分類】
F02B 39/14 20060101AFI20220329BHJP
F02B 39/00 20060101ALI20220329BHJP
F02C 7/06 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
F02B39/14 C
F02B39/00 L
F02B39/00 C
F02C7/06 D
F02C7/06 C
(21)【出願番号】P 2018117345
(22)【出願日】2018-06-20
【審査請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】浦 晴登
(72)【発明者】
【氏名】照井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】太田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】樹杉 剛
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-203360(JP,A)
【文献】特開2015-086705(JP,A)
【文献】特開2012-237254(JP,A)
【文献】特開2002-349551(JP,A)
【文献】特開平06-066150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/00 - 39/14
F02C 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッサホイールとタービンホイールとを連結したシャフトと、
前記シャフトと共に回転するスラストカラーと、
前記スラストカラーを回転可能に保持したスラスト軸受と、
前記スラスト軸受を保持した軸受ハウジングと、を備え、
前記軸受ハウジングは、
前記スラスト軸受に潤滑用のオイルを供給する供給油路と、
前記スラスト軸受に供給されたオイルが排出される排出油路と、
前記スラスト
軸受に対向する壁部と、
前記壁部に形成され前記スラストカラーから前記排出油路の排出口に向けて延びた溝部と、を有し
、
前記溝部は、鉛直下方に対して傾斜した向きで、前記スラストカラーの回転軸心を中心とした円の接線の方向に延びている、ターボチャージャ。
【請求項2】
前記スラスト軸受は、前記スラストカラーの回転軸心方向に対向した対向部を有し、
前記対向部は、第1及び第2端部を有し、前記第1端部から前記スラストカラーの回転方向に円弧状に前記第2端部まで延在し、
前記第2端部は、法線が前記排出口を通過する縁部を有している、
請求項1のターボチャージャ。
【請求項3】
前記対向部は、前記スラストカラーの回転方向で前記スラストカラーに接近するように厚みが徐々に増した傾斜部と、前記傾斜部に対して前記回転方向に隣接し前記傾斜部の最大厚みと同じ厚みを有し前記スラストカラーの回転方向で厚みが一定である平坦部と、を含み、
前記スラストカラーの回転軸心方向での前記平坦部と前記スラストカラーとの隙間は、前記スラストカラーの回転軸心方向での前記傾斜部と前記スラストカラーとの隙間よりも狭く、
前記縁部は、前記平坦部に形成されている、
請求項2のターボチャージャ。
【請求項4】
前記対向部には、オイルを前記スラストカラーに向けて流出する流出孔が形成されており、
前記傾斜部と前記平坦部とは、前記スラストカラーの回転方向に交互に複数設けられており、
前記流出孔は、前記縁部が形成された前記平坦部に前記スラストカラーの回転方向とは反対方向で隣接した前記傾斜部を除いた残りの前記傾斜部の少なくとも何れかに形成されている、
請求項3のターボチャージャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャの軸受ハウジングには、スラスト軸受を潤滑するオイルを供給する供給油路と、このオイルを排出するための排出油路とが形成されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなターボチャージャのコンプレッサホイールは、内燃機関の吸気通路内に配置される。ここで、内燃機関の運転状態によっては、吸気通路内が負圧となる場合がある。このような場合には、排出油路内のオイルが吸気通路側に吸引されて、排出油路からのオイルの排出性が低下する可能性がある。
【0005】
そこで本発明は、軸受ハウジングに形成された排出油路からのオイルの排出性が向上したターボチャージャを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、コンプレッサホイールとタービンホイールとを連結したシャフトと、前記シャフトと共に回転するスラストカラーと、前記スラストカラーを回転可能に保持したスラスト軸受と、前記スラスト軸受を保持した軸受ハウジングと、を備え、前記軸受ハウジングは、前記スラスト軸受に潤滑用のオイルを供給する供給油路と、前記スラスト軸受に供給されたオイルが排出される排出油路と、前記スラスト軸受に対向する壁部と、前記壁部に形成され前記スラストカラーから前記排出油路の排出口に向けて延びた溝部と、を有し、前記溝部は、鉛直下方に対して傾斜した向きで、前記スラストカラーの回転軸心を中心とした円の接線の方向に延びている、ターボチャージャによって解決できる。
【0007】
スラストカラーが回転することにより生じる風は、スラストカラーの壁部に形成された溝部に沿ってスラストカラーから排出口に向けて流れる。また、スラスト軸受に供給されたオイルの少なくとも一部は、この溝部内に流入する。溝部内に流入したオイルは、スラストカラーの回転によって生じる風圧により、排出口に向けて飛散する。このようにして、軸受ハウジングに形成された排出油路からのオイルの排出性が向上している。
【0009】
前記スラスト軸受は、前記スラストカラーの回転軸心方向に対向した対向部を有し、前記対向部は、第1及び第2端部を有し、前記第1端部から前記スラストカラーの回転方向に円弧状に前記第2端部まで延在し、前記第2端部は、法線が前記排出口を通過する縁部を有していてもよい。
【0010】
前記対向部は、前記スラストカラーの回転方向で前記スラストカラーに接近するように厚みが徐々に増した傾斜部と、前記傾斜部に対して前記回転方向に隣接し前記傾斜部の最大厚みと同じ厚みを有し前記スラストカラーの回転方向で厚みが一定である平坦部と、を含み、前記スラストカラーの回転軸心方向での前記平坦部と前記スラストカラーとの隙間は、前記スラストカラーの回転軸心方向での前記傾斜部と前記スラストカラーとの隙間よりも狭く、前記縁部は、前記平坦部に形成されていてもよい。
【0011】
前記対向部には、オイルを前記スラストカラーに向けて流出する流出孔が形成されており、前記傾斜部と前記平坦部とは、前記スラストカラーの回転方向に交互に複数設けられており、前記流出孔は、前記縁部が形成された前記平坦部に前記スラストカラーの回転方向とは反対方向で隣接した前記傾斜部を除いた残りの前記傾斜部の少なくとも何れかに形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、軸受ハウジングに形成された排出油路からのオイルの排出性が向上したターボチャージャを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施例のターボチャージャの断面図である。
【
図3】
図3は、ターボチャージャの部分断面図である。
【
図4】
図4は、ターボチャージャの部分断面図である。
【
図5】
図5は、ターボチャージャの部分断面図である。
【
図6】
図6は、ターボチャージャの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本実施例のターボチャージャ1の断面図である。
図2は、
図1の部分拡大図である。
図3~
図6は、ターボチャージャ1の部分断面図である。
図1~
図6には、シャフト5の回転軸心Aと、互いに直交するX、Y、及びZ方向とを示しており、Y方向は回転軸心Aの方向に一致し、Z方向は鉛直方向の上方に一致する。コンプレッサハウジング11及びタービンハウジング19は、
図1では点線で示し、
図3、
図4、及び
図6では省略している。また、
図5ではコンプレッサハウジング11を省略しタービンハウジング19のみを点線で示している。尚、本実施例のターボチャージャ1は、車両の走行用の駆動源として用いられるエンジンに適用されるがこれに限定されず、それ以外のエンジンに用いてもよい。
【0015】
図1に示すように、ターボチャージャ1は、コンプレッサホイール4、シャフト5、タービンホイール6、シールリングカラー8、コンプレッサハウジング11、軸受ハウジング12、タービンハウジング19、ラジアル軸受20、デフレクタ30、スラスト軸受40、スラストカラー50、及びシールリテーナ60を有している。コンプレッサホイール4は、シャフト5の-Y方向側の端部に固定され、タービンホイール6は、シャフト5の+Y方向側の端部に固定され、シャフト5はコンプレッサホイール4及びタービンホイール6を連結している。コンプレッサハウジング11は、軸受ハウジング12の-Y方向側の端部に固定され、タービンハウジング19は、軸受ハウジング12の+Y方向側の端部に固定されている。軸受ハウジング12には、詳しくは後述するが、潤滑用のオイルが流通する油路が形成されている。
【0016】
コンプレッサハウジング11は、コンプレッサホイール4を回転可能に収納しつつ、エンジンに吸気を供給する吸気通路の一部を画定する。軸受ハウジング12は、ラジアル軸受20及びスラスト軸受40を介してシャフト5を回転可能に収納している。タービンハウジング19は、タービンホイール6を回転可能に収納しつつ、エンジンから排気が排出される排気通路の一部を画定する。ターボチャージャ1は、エンジンの排気通路上に配置されたタービンホイール6がエンジンの排気のエネルギによって回転するとき、エンジンの吸気通路の途中に配置されたコンプレッサホイール4がシャフト5を介して回転駆動され、このコンプレッサホイール4の遠心圧縮作用により、吸気通路内の空気が正圧に加圧されてエンジンに過給される。
【0017】
ラジアル軸受20及びスラスト軸受40は、外部からオイルが強制的に供給される強制潤滑式であり、軸受ハウジング12に保持されている。ラジアル軸受20は、
図1に示すように、軸受ハウジング12とシャフト5の間に挿入されている。スラスト軸受40は、
図1に示すようにシールリテーナ60と軸受ハウジング12の間で保持されている。スラストカラー50は、シャフト5とスラスト軸受40との間に配置されており、シャフト5に固定されている。ラジアル軸受20、スラスト軸受40、及びスラストカラー50についての詳細は後述する。
【0018】
シールリングカラー8は、シャフト5とシールリテーナ60との間に配置されており、シャフト5に固定されている。コンプレッサホイール4とスラスト軸受40の間には、シールリングカラー8を回転可能に保持するシールリテーナ60が設けられている。シールリテーナ60のスラスト軸受40側には、略円板状のデフレクタ30が固定されている。
【0019】
デフレクタ30は、シールリテーナ60より十分に大径に形成されており、シールリテーナ60の片面側を覆うことで、スラスト軸受40側から流出する強制潤滑後のオイルがコンプレッサホイール4側に漏れることを防止する。シャフト5には、上述したようにスラストカラー50及びシールリングカラー8が固定されており、これらは一体的に回転する。これに対して、スラスト軸受40、デフレクタ30、及びシールリテーナ60は、軸受ハウジング12に一体的に固定されており、これらは回転しない。
【0020】
スラスト軸受40は、
図6に示すように、略円板状の下部を切り欠いた形状であって、回転軸心Aを中心とした略扇状であり、換言すれば、馬蹄形状である。スラスト軸受40は、
図2に示すように、コンプレッサホイール4側の面40aとタービンホイール6側の面40bとを有している。スラスト軸受40には、スラスト軸受40を厚み方向で貫通し面40a及び40bに開口したボルト孔411が2つ形成されている。ボルト孔411には、軸受ハウジング12にデフレクタ30、スラスト軸受40、及びシールリテーナ60を固定するためのボルトが貫通する。
図3に示すようにスラスト軸受40の面40bには、供給部421、案内部423等が形成されている。尚、
図3では、スラスト軸受40については断面を示していない。
【0021】
また、
図3には、軸受ハウジング12に形成された供給油路R1、R2、及びR3を点線で示している。供給油路R1、R2、及びR3は、
図3では示された軸受ハウジング12の部分とは反対側の部分に形成されている。
図4には、供給油路R1及びR2を点線で示している。
図5及び
図6には、供給油路R1の一部が示されている。供給油路R1は、軸受ハウジング12の下方側から略-Z方向に延びている。エンジンの下部に配置されたオイルパン内に潤滑用のオイルが貯留されており、オイルポンプにより供給油路R1にオイルが供給される。供給油路R2は、供給油路R1から略Y方向と平行に延びており、スラスト軸受40の面40bに形成された供給部421に連通している。このように軸受ハウジング12に形成された供給油路R1及びR2を介して、スラスト軸受40にはオイルが供給される。
【0022】
スラスト軸受40に供給されたオイルは、詳しくは後述するがスラスト軸受40とスラストカラー50との間に供給されて油膜が形成され、スラスト軸受40とスラストカラー50とが潤滑される。また、供給油路R3は、供給油路R1からラジアル軸受20に向けて延びており、シャフト5及びラジアル軸受20が収容された空間に連通している。供給油路R1及びR3介してラジアル軸受20にオイルが供給される。ラジアル軸受20に供給されたオイルは、ラジアル軸受20に形成された経路を介して、ラジアル軸受20の内周面とシャフト5の外周面との間に供給されて油膜が形成され、ラジアル軸受20とシャフト5とが潤滑される。尚、軸受ハウジング12には、冷却水が流通する流路が形成されている。
【0023】
図2に示すように、スラストカラー50は、略環状であって、円筒部51とフランジ部52a及び52bとを有している。円筒部51はシャフト5に嵌合しているため、スラストカラー50はシャフト5と共に回転軸心Aを中心に回転する。フランジ部52aは、円筒部51の回転軸心Aの方向のシールリングカラー8側の一端に、円筒部51よりも径が大きく形成されている。フランジ部52bは、円筒部51の軸方向のラジアル軸受20側の他端に、円筒部51よりも径が大きく形成されている。フランジ部52a及び52bは、略同じ径であるがこれに限定されない。フランジ部52a及び52bは、それぞれスラスト軸受40の面40a及び40bと対向している。
【0024】
軸受ハウジング12には、シャフト5よりも-Z方向側に、即ち鉛直下方側に、漏斗状の排出油路13が形成されている。ラジアル軸受20及びスラスト軸受40の潤滑に用いられた後のオイルは、排出油路13の-Z方向側に形成された排出口14から排出される。排出口14には、配管が接続され、この配管はエンジンの下部に配置されたオイルパンに連通している。従って、排出口14から排出されたオイルは、配管を介してオイルパン内に貯留される。
【0025】
図7は、
図6の部分拡大図である。スラスト軸受40は、本体部41と、本体部41の径方向内側に位置した対向部43と、対向部43よりも径方向内側に位置した内周部45と、を有している。本体部41は、上述したように回転軸心Aを中心とした略扇状である。対向部43は、回転軸心Aを中心とした略円弧状である。内周部45には、スラストカラー50の円筒部51の外周の一部と対向しており、円筒部51の一周全体と対向しているわけではない。換言すれば、スラスト軸受40の内周部45は、U字状である。
【0026】
対向部43は、Y方向、即ち回転軸心Aの方向でスラストカラー50のフランジ部52a及び52bに重なっている。本体部41には、上述したボルト孔411が形成されている。また、
図7には、スラストカラー50の回転方向RDを示している。スラストカラー50はシャフト5と共に回転方向RDに回転する。対向部43は、端部431及び432を有している。端部431及び432は、それぞれ第1及び第2端部の一例である。対向部43は、端部431から回転方向RDに円弧状に端部432にまで延在している。端部431は、端部432から回転方向RDとは反対方向に離間している。また、対向部43には、詳しくは後述するが流出孔433h及び435hが形成されている。
【0027】
図7には、スラスト軸受40の面40b及びスラストカラー50のフランジ部52bと対向した、軸受ハウジング12の壁部15を示している。壁部15には、Y方向、即ち回転軸心Aの方向から見た場合に、スラストカラー50から排出口14に延びた溝部15aが形成されている。溝部15aの一部は、スラストカラー50のフランジ部52bに対向している。溝部15aは、壁部15に窪んで形成されており、-Z方向に対してやや傾斜した向きに直線状に延びている。溝部15aの深さは、溝部15aが延びた方向で一定である。また、溝部15aの延長線が排出口14を通過するように延びている。スラストカラー50が回転することにより、スラストカラー50周辺では風が発生する。ここで、溝部15aはスラストカラー50から排出口14に向けて延びているため、スラストカラー50の回転によって生じた風の方向が、溝部15aによって排出口14側に案内される。
【0028】
ここで、上述したようにオイルはスラスト軸受40やラジアル軸受20に供給されており、これらのオイルの少なくとも一部は、溝部15a内に流入する。例えばスラスト軸受40とスラストカラー50との間に供給されたオイルは、スラストカラー50のフランジ部52bを乗り越えてフランジ部52bと壁部15との間を流れ、溝部15a内に流入する場合がある。また、ラジアル軸受20とシャフト5との間から壁部15側に漏れたオイルの一部も、溝部15a内に流入する場合がある。このように溝部15a内に流入したオイルは、上述したようにスラストカラー50の回転によって生じ溝部15aによって排出口14に向かう風圧によって、排出口14に向けて飛散する。このように、排出油路13からのオイルの排出性が向上している。
【0029】
また、溝部15aは、回転軸心Aを中心とした円の接線の方向に延びているため、スラストカラー50の回転により生じる風を効率的に排出口14に向けて案内することができる。従って、溝部15aから排出口14に流れる風量が確保されており、排出油路13からのオイルの排出性が向上している。
【0030】
また、
図7に示すように、溝部15aは、-X方向側の縁15a1と、+X方向側の縁15a2とを有しており、縁15a1は、フランジ部52bよりも径方向外側に位置している。これにより、フランジ部52bの回転によってフランジ部52bの径方向外側に流れるオイルをも溝部15a内に流入するため、溝部15a内に流入するオイルの量が確保されている。
【0031】
また、
図7に示すように、スラスト軸受40の対向部43の端部432の一部には、縁部432eが形成されている。回転軸心Aの方向から見て縁部432eの法線Lは、排出口14を通過している。このため、スラスト軸受40とスラストカラー50との間に供給されたオイルの少なくとも一部は、スラストカラー50の回転によって、スラスト軸受40の端部432の縁部432eにまで流れる。スラストカラー50の回転によって生じる風圧により、オイルは縁部432eから法線Lの方向に飛散する。これにより、排出油路13からオイルの排出性が向上している。
【0032】
上述したように、スラスト軸受40に供給されたオイルの一部は、スラストカラー50のフランジ部52bを乗り越えて溝部15a内に流入し、その他の一部は、スラスト軸受40とスラストカラー50との間から縁部432eにまで流れる。このようにスラスト軸受40から異なる経路で排出されたオイルの双方を排出口14にまで飛散させることができるため、できるだけ多くの量のオイルを排出油路13から直ちに排出することができる。
【0033】
以上のように、排出口14から直ちにオイルが排出されるため、漏斗状に形成された排出油路13内でのオイルの滞留が抑制され、例えば軸受ハウジング12の意図しない箇所からオイルが漏れることが抑制される。これにより、オイルの消費量の増大が抑制され、また、吸気通路内が負圧の状態であってもオイルが吸気通路側に吸引されてエンジンにまで搬送されてエンジンで異常燃焼が生じることも抑制される。また、スラストカラー50の回転を利用してオイルを排出口14に飛散させることができるため、ターボチャージャ1が搭載された車両の姿勢や振動により大きな影響を受けずに、排出油路13からのオイルの排出性が確保されている。
【0034】
尚、回転軸心Aの方向でのスラストカラー50と壁部15との間の距離は、オイルが流通可能であって、スラストカラー50の回転によって生じる風圧の影響を受ける程度に設定されていることが望ましい。回転軸心Aの方向でのスラストカラー50と壁部15との間の距離が離れすぎていると、溝部15a内のオイルがスラストカラー50の回転によって生じる風圧の影響を受けにくくなり、オイルが排出口14にまで飛散しない可能性があるからである。
【0035】
溝部15aの形状は、溝部15a内に流入するオイルの量や、溝部15a内を流れる風量、溝部15a内を流れる風向き、排出口14の位置などを考慮して、適宜設定できる。例えば、溝部が延びた方向に垂直な断面視で、互いに対向する2つの側面と2つの側面を繋ぐ底面とのそれぞれの間の角度が、直角や90度を超えた角度であってもよい。また、溝部の形状は、断面視でU字状やV字状であってもよい。溝部の深さは、溝部が延びた方向で一定であってもよいし変化していてもよい。例えば溝部の位置と排出口とが軸心の方向で離れている場合には、溝部の底面が排出口を向くように、溝部の深さが溝部の延びた方向で徐々に浅くなる、又は深くなる形状であってもよい。また、溝部の幅は、特に限定されず、一定であってもよいし、排出口14に接近するにつれて幅が狭くなってもよい。また、溝部は、必ずしも直線状には限定されず、湾曲した形状であってもよい。また、溝部の本数は、1つに限定されない。
【0036】
尚、デフレクタ30は、溝部15aの延長線や法線Lと交差しない位置に設けられていることが好ましい。溝部15aや縁部432eから排出口14に向けて飛散したオイルの妨げにならないようにするためである。
【0037】
次に、スラスト軸受40について詳細に説明する。
図8A及び
図8Bは、スラスト軸受40の説明図である。
図8Aは、スラスト軸受40の面40aから見た図を示しており、
図8Bは、スラスト軸受40の面40bから見た図を示している。流出孔433h及び435hは、スラスト軸受40の面40a及び40bの双方に開口しており、即ち、スラスト軸受40の厚み方向に貫通している。スラスト軸受40の面40bには、供給部421と、案内部423と、中継部425及び427とが形成されている。供給部421、案内部423、中継部425及び427は、底を有した凹状である。供給部421には、上述した供給油路R1及びR2を介してオイルが供給される。中継部425は、供給部421から回転方向RDとは反対方向に離れている。中継部427は、中継部425から回転方向RDとは反対方向に離れている。案内部423は、供給部421と中継部425及び427とを接続するように円弧状に延在した溝である。
【0038】
供給油路R1及びR2を介して供給部421に供給されたオイルは、案内部423を介して中継部425及び427に案内される。スラスト軸受40の内部には、中継部425及び427のそれぞれと流出孔435h及び433hとを連通した連通路426及び428が形成されている。連通路426及び428は、スラスト軸受40内部で径方向に延びている。このため、中継部425及び427に案内されたオイルは、それぞれ、連通路426及び428を介して流出孔433h及び435hから流出する。流出孔433h及び435hから流出したオイルは、スラスト軸受40とスラストカラー50との間に供給される。
【0039】
図9A及び
図9Bは、対向部43の拡大図である。
図9Aは、スラスト軸受40の面40a側から見た場合の対向部43の拡大図である。
図9Bは、スラスト軸受40の面40b側から見た場合の対向部43の拡大図である。対向部43は、端部431から回転方向RDに順に端部431、傾斜部433、平坦部434、傾斜部435、平坦部436、傾斜部437、及び平坦部438が形成されている。即ち、傾斜部と平坦部とは、回転方向RDに交互に複数設けられている。流出孔433h及び435hは、それぞれ傾斜部433及び435に形成されている。流出孔433hは、平坦部434よりも端部431に近い位置に形成されている。流出孔435hは、平坦部436よりも平坦部434に近い位置に形成されている。
【0040】
図10は、
図9AのA-A断面の展開図である。尚、
図10には、理解を容易にするためにスラストカラー50についても示している。傾斜部433、435、及び437は、回転方向RDに従って徐々に厚みが増大している。これに対して平坦部434、436、及び438の厚みは一定であり、平坦部434、436、及び438の各厚みは、傾斜部433、435、437の各厚みの最大値と同じである。尚、平坦部434と傾斜部435との間には、符号は付していないが、回転方向RDにスラストカラー50から離れるように傾斜した部位が設けられている。平坦部436と傾斜部437との間も同様である。
【0041】
流出孔433h及び435hから流出したオイルは、スラスト軸受40の面40a及び40bの両側で、スラストカラー50の回転方向RDの回転に伴って傾斜部433、435、437のそれぞれから回転方向RDに隣接した平坦部434、436、及び438へと流れる。ここで、スラストカラー50と、平坦部434、436、及び438のそれぞれとの隙間は、スラストカラー50と、傾斜部433、435、及び437のそれぞれとの隙間よりも狭い。このため、スラストカラー50のフランジ部52aと、平坦部434、436、及び438のそれぞれとの隙間、及びスラストカラー50のフランジ部52bと平坦部434、436、及び438のそれぞれとの隙間での油膜圧力が高くなる。これにより、スラスト軸受40とスラストカラー50との接触が抑制される。また、このように対向部43には3つの平坦部434、436、及び438が形成されているため、スラストカラー50は安定して支持されている。
【0042】
ここで、縁部432eが設けられている端部432は、平坦部438に形成されている。上述したようにスラストカラー50のフランジ部52aと平坦部438との隙間、及びスラストカラー50のフランジ部52bと平坦部438との隙間でのオイルの圧力は高いため、このような圧力の高いオイルが縁部432eから排出口14に向けて飛散する。このため、オイルの飛散距離を確保することでき、オイルの排出性が向上している。
【0043】
図9A及び
図9B、
図10に示したように、縁部432eが形成されている平坦部438に隣接した傾斜部437には、流出孔433h及び435hのようなオイルが流出する孔は設けられていない。仮に傾斜部437にこのような流出孔を設けると、この傾斜部437に設けられた流出孔から流出したオイルは、平坦部438から縁部432eを介して直ちに排出口14に排出される。このため、オイルをスラスト軸受40とスラストカラー50との間の潤滑のために効率的に使用することができない。本実施例のように、縁部432eが形成されている平坦部438に隣接した傾斜部437には、流出孔を設けないことにより、オイルの効率的な使用が確保されている。
【0044】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 ターボチャージャ
4 コンプレッサホイール
5 シャフト
6 タービンホイール
12 軸受ハウジング
R1~R3 供給油路
13 排出油路
14 排出口
15 壁部
15a 溝部
L 法線
40 スラスト軸受
43 対向部
431 端部(第1端部)
432 端部(第2端部)
432e 縁部
433、435、437 傾斜部
434、436、438 平坦部
433h、435h 流出孔
50 スラストカラー