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特許7048435積層造形物の積層計画方法、積層造形物の製造方法及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】積層造形物の積層計画方法、積層造形物の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20220329BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20220329BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20220329BHJP
【FI】
B23K9/04 Z
B33Y30/00
B33Y50/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018122324
(22)【出願日】2018-06-27
(65)【公開番号】P2020001059
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 雄幹
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-027558(JP,A)
【文献】特開2017-114114(JP,A)
【文献】特開2017-077671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B33Y 30/00
B33Y 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を積層する積層造形装置により、積層造形物を該積層造形物の3次元形状データを用いて造形する積層造形物の積層計画方法であって、
前記3次元形状データを取得する工程と、
前記3次元形状データの形状を層分解した各層を前記溶融金属で形成するための前記積層造形装置の軌道、及び前記積層造形装置が前記溶融金属を形成する加熱条件を定める積層計画を作成する工程と、
作成された前記積層計画により前記積層造形物を造形した際の、冷却により熱収縮した前記積層造形物の形状と前記3次元形状データの形状との差分を演算により求める工程と、
積層造形されて熱収縮した後の前記積層造形物の形状が、前記3次元形状データの形状になるように、前記差分を見越した形状の補正形状モデルを求める工程と、
前記補正形状モデルを層分解した各層における前記積層造形装置の軌道及び前記加熱条件を定める補正積層計画を作成する工程と、
作成された前記補正積層計画により前記積層造形物を造形した際の、冷却により熱収縮した前記積層造形物の形状と前記3次元形状データの形状との差分を演算により求め、当該差分が予め定めた許容範囲に収まるまで、前記軌道及び前記加熱条件を変更して前記補正積層計画を補正する工程と、
をこの順で実施する積層造形物の積層計画方法。
【請求項2】
前記差分を演算により求める工程は、前記熱収縮による変形量を、熱弾塑性解析、固有ひずみ法解析、熱弾性解析のいずれかを用いて求める請求項1に記載の積層造形物の積層計画方法。
【請求項3】
前記積層計画の補正は、前記熱収縮による変形が生じる方向と逆方向に前記軌道を変更する請求項1又は2に記載の積層造形物の積層計画方法。
【請求項4】
前記積層造形物は、溶加材を溶融及び凝固させた複数のビードでビード層を形成し、該形成されたビード層に次層のビード層を繰り返し積層して造形される請求項1~3のいずれか一項に記載の積層造形物の積層計画方法。
【請求項5】
前記ビードは、多軸ロボットのロボットアームの先端に支持されたトーチから発生させたアークにより、前記溶加材を溶融させて形成される請求項4に記載の積層造形物の積層計画方法。
【請求項6】
前記加熱条件は、前記ビードを形成する溶接電流、アーク電圧、溶接速度、トーチ角度の少なくともいずれかを含む請求項5に記載の積層造形物の積層計画方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の積層造形物の積層計画方法により作成した前記補正積層計画に基づいて、前記積層造形物を積層造形する積層造形物の製造方法。
【請求項8】
溶融金属を積層する積層造形装置により、積層造形物を該積層造形物の3次元形状データを用いて造形する積層造形物の製造装置であって、
前記3次元形状データを取得する入力部と、
前記3次元形状データの形状を層分解した各層を前記溶融金属で形成するための前記積層造形装置の軌道、及び前記積層造形装置が前記溶融金属を形成する加熱条件を定める積層計画を作成する積層計画作成部と、
作成された前記積層計画により前記積層造形物を造形した際の、冷却により熱収縮した前記積層造形物の形状と前記3次元形状データの形状との差分を演算により求める変形量計算部と、
積層造形されて熱収縮した後の前記積層造形物の形状が、前記3次元形状データの形状になるように、前記差分を見越した形状の補正形状モデルを求め、
前記補正形状モデルを層分解した各層における前記積層造形装置の軌道及び前記加熱条件を定める補正積層計画を作成し、
作成された前記補正積層計画により前記積層造形物を造形した際の、冷却により熱収縮した前記積層造形物の形状と前記3次元形状データの形状との差分を演算により求め、当該差分が予め定めた許容範囲に収まるまで、前記軌道及び前記加熱条件を変更して前記補正積層計画を補正する制御部と、
を備える積層造形物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の積層計画方法、積層造形物の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
立体的な造形物を作製する積層造形装置が知られている。この種の積層造形装置では、造形物の目標形状を表す3次元形状データが入力され、この3次元形状データを所定の厚さで層分割した分割層の形状データを生成する。そして、積層造形装置は、分割層の形状データに対応した形状を順次形成し積層することを繰り返すことで、3次元の積層造形物を造形する。
【0003】
積層造形装置の造形方式が、造形材料を加熱して溶融、凝固させた層を、順次に積層する方式である場合、造形後の造形物は、造形材料の熱収縮によって最終形状が変化する。そこで、造形後の造形物の形状から変形を予測して、この変形を低減するように3次元形状データを修正し、修正後の形状データを用いて造形物を造形する方法が特許文献1に開示されている。この方法によれば、造形後の造形物に対し、元の3次元形状データが定める目標形状からの変形を低減させ、好ましくは変形を相殺するように形状データが修正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-205975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、造形材料を加熱して溶融、凝固させる場合、造形時の加熱条件によっては、造形材料への入熱量が変化するため、造形物の熱収縮量にばらつきが生じる。特許文献1の技術では、幾何学的な形状データのみから3次元形状データを修正するので、加熱条件による入熱量のばらつきの影響をキャンセルすることができない。その結果、造形後の造形物には、加熱条件の違いにより、依然として目標形状からのずれが生じることになる。
【0006】
そこで本発明は、造形時の加熱条件に応じた熱収縮が造形物に生じても、造形後の造形物の形状を高精度で目標形状にすることができる積層造形物の積層計画方法、積層造形物の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 溶融金属を積層する積層造形装置により、積層造形物を該積層造形物の3次元形状データを用いて造形する積層造形物の積層計画方法であって、
前記3次元形状データを取得する工程と、
前記3次元形状データの形状を層分解した各層を前記溶融金属で形成するための前記積層造形装置の軌道、及び前記積層造形装置が前記溶融金属を形成する加熱条件を定める積層計画を作成する工程と、
作成された前記積層計画により前記積層造形物を造形した際の、冷却により熱収縮した前記積層造形物の形状と前記3次元形状データの形状との差分を演算により求める工程と、
前記差分が予め定めた許容範囲に収まるまで、前記軌道及び前記加熱条件を変更して前記積層計画を補正する工程と、
をこの順で実施する積層造形物の積層計画方法。
(2) (1)に記載の積層造形物の積層計画方法により作成した前記積層計画に基づいて、前記積層造形物を積層造形する積層造形物の製造方法。
(3) 溶融金属を積層する積層造形装置により、積層造形物を該積層造形物の3次元形状データを用いて造形する積層造形物の製造装置であって、
前記3次元形状データを取得する入力部と、
前記3次元形状データの形状を層分解した各層を前記溶融金属で形成するための前記積層造形装置の軌道、及び前記積層装置が前記溶融金属を形成する加熱条件を定める積層計画を作成する積層計画作成部と、
作成された前記積層計画により前記積層造形物を造形した際の、冷却により熱収縮した前記積層造形物の形状と前記3次元形状データの形状との差分を演算により求める変形量計算部と、
前記寸法差が予め定めた許容範囲に収まるまで、前記軌道及び前記加熱条件を変更して前記積層計画を補正する制御部と、
を備える積層造形物の製造装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、造形の加工条件に応じた熱収縮が造形物に生じても、造形後の造形物の形状を目標形状にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る積層造形物の製造装置の概略構成図である。
図2A】積層造形物の平面図である。
図2B】積層造形物の側面図である。
図3】複数のビードにより積層造形物を造形する様子を示す工程説明図である。
図4】積層造形物の積層計画と製造方法の手順を示すフローチャートである。
図5】円筒状の積層造形物を示す斜視図である。
図6図5に示す積層造形物を造形する場合の形状モデルを示す説明図である。
図7】積層造形物が形状モデルの形状から熱収縮によって変形する様子を示す説明図である。
図8】熱収縮により変形した積層造形物の形状モデルからの差分を示す模式的な説明図である。
図9】形状モデルを補正する様子を模式的に示す説明図である。
図10】形状モデルが補正された補正形状モデルを模式的に示す説明図である。
図11】トーチを用いて積層造形物を積層造形する様子を示す説明図である。
図12】熱収縮後の積層造形物を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<積層造形物の製造装置>
図1は本発明に係る積層造形物の製造装置の概略構成図である。
本構成の積層造形物の製造装置100は、造形部11と、造形部11を統括制御する造形コントローラ13と、電源装置15と、を備える。
【0011】
造形部11は、先端軸にアーク溶接用のトーチ17が設けられたトーチ移動機構である溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Fmを供給する溶加材供給部21とを有する。
【0012】
溶接ロボット19は、例えば6軸の自由度を有する多関節ロボットであり、ロボットアームの先端軸に取り付けたトーチ17には、溶加材Fmが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0013】
トーチ17は、溶加材Fmを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Fmの先端からアークを発生させる。トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからトーチ先端にシールドガスが供給される。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Fmがコンタクトチップに保持される。
【0014】
溶加材Fmは、あらゆる市販の溶接ワイヤが使用可能である。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0015】
溶加材Fmは、溶接ロボット19のロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17は、造形コントローラ13からの指令によりロボットアームが駆動されることで、所望の溶接ラインに沿って移動する。また、連続送給される溶加材Fmは、トーチ17の先端で発生するアークによってシールドガス雰囲気で溶融され、凝固する。これにより、溶加材Fmの溶融凝固体であるビード25が形成される。このように、造形部11は、溶加材Fmの溶融金属を積層する積層造形装置であって、ベース材23上に多層状にビード25を積層することで、積層造形物27を造形する。
【0016】
溶加材Fmを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。アークを用いる場合は、シールド性を確保しつつ、素材、構造によらずに簡単にビードを形成できる。電子ビームやレーザにより加熱する場合は、加熱量を更に細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、積層造形物の更なる品質向上に寄与できる。
【0017】
造形コントローラ13は、積層計画作成部31と、変形量計算部33と、プログラム作成部35と、記憶部37と、入力部39と、これら各部が接続される制御部41と、を有する。制御部41には、作製しようとする積層造形物の形状を表す3次元形状データ(CADデータ等)や、各種の指示情報が入力部39から入力される。
【0018】
本構成の積層造形物の製造装置100は、積層造形物27を、入力された3次元形状データを用いてビード形成用のモデルを生成し、トーチの移動軌跡や溶接条件等の積層計画を作成する。積層造形物27は、ビードの積層後に生じる熱収縮によって最終形状が変化する。そこで本構成の製造装置100では、積層造形物27の最終形状が、入力された3次元形状データの形状と一致するように、詳細を後述する手順で積層計画が補正される。制御部41は、補正した積層計画に応じた動作プログラムを作成し、この動作プログラムに従って各部を駆動して、所望の形状の積層造形物27を積層造形する。
【0019】
積層計画作成部31は、入力された3次元形状データの形状のモデルをビード25の高さに応じた複数の層に分解する。そして、分解されたモデルの各層について、ビード25を形成するためのトーチ17の軌道、及びビード25を形成する加熱条件(ビード幅、ビード積層高さ等を得るための溶接条件等を含む)を定める積層計画を作成する。
【0020】
変形量計算部33は、作成された積層計画に従って積層造形物27を造形する場合に、積層造形物27に生じる熱収縮による変形量を解析的に求め、3次元形状データのモデル形状との差分(寸法差)を求める。求めた寸法差は、積層計画に反映され、この寸法差が許容範囲内になるように補正される。
【0021】
プログラム作成部35は、造形部11の各部を駆動して積層造形物の造形手順を設定し、この手順をコンピュータに実行させる動作プログラムを作成する。作成された動作プログラムは、記憶部37に記憶される。
【0022】
記憶部37には、動作プログラムが記憶される他、造形部11が有する各種駆動部の仕様や溶加材Fmの材料の情報等も記憶され、プログラム作成部35で動作プログラムを作成する際、動作プログラムを実行する際等に、記憶された情報が適宜参照される。この記憶部37は、メモリやハードディスク等の記憶媒体からなり、各種情報の入出力が可能となっている。
【0023】
制御部41を含む造形コントローラ13は、CPU、メモリ、I/Oインターフェース等を備えるコンピュータ装置である。造形コントローラ13は、記憶部37に記憶されたデータやプログラムを読み込み、データの処理や動作プログラムを実行する機能、及び造形部11の各部を駆動制御する機能を有する。制御部41は、入力部39からの操作や通信等による指示に基づいて、動作プログラムの作成や実行がなされる。
【0024】
制御部41がプログラムを実行すると、溶接ロボット19や電源装置15等の各部が、プログラムされた所定の手順に従って駆動される。溶接ロボット19は、造形コントローラ13からの指令により、プログラムされた軌道軌跡に沿ってトーチ17を移動させるとともに、溶加材Fmを所定のタイミングでアークにより溶融させて、所望の位置にビード25を形成する。
【0025】
積層計画作成部31、変形量計算部33、プログラム作成部35等の各演算部は、造形コントローラ13に設けられるがこれに限らない。図示はしないが、例えば積層造形物の製造装置100とは別体に、ネットワーク等の通信手段や記憶媒体を介して離間して配置されたサーバや端末等の外部コンピュータに、上記した演算部が設けられてもよい。外部コンピュータに上記した演算部が設けられることで、積層造形物の製造装置100を要せずに、所望の動作プログラムを作成でき、プログラム作成作業が繁雑にならない。また、作成した動作プログラムを、造形コントローラ13の記憶部37に転送することで、造形コントローラ13で動作プログラムを作成した場合と同様に、造形部11を動作させることができる。
【0026】
<基本的な積層造形の手順>
次に、単純なモデルとして例示した図示例の積層造形物27に対する積層造形の手順を簡単に説明する。
図2Aは積層造形物27の平面図、図2Bは積層造形物27の側面図である。
【0027】
図示例の積層造形物27は、円筒状であり、予め設置されたベース材23にビード25を下層から上層に向けて順に積層することで造形される。
つまり、図1に示す溶接ロボット19が、動作プログラムに従って、指示された軌道に沿ってトーチ17を移動させ、このトーチ17の移動と共にアークを発生させる。これにより、トーチが移動する軌道に沿ってビード25が形成される。ビード25は、溶加材Fmを溶融及び凝固させて形成され、形成されたビード層に次層のビード層が繰り返し積層される。
【0028】
図2A図2Bにおいては、一本のビード25により一層分のビード層を形成する例を示しているが、複数本のビードによりビード層を形成することもできる。
【0029】
図3は複数のビードにより積層造形物を造形する様子を示す工程説明図である。
この場合は、トーチ17を図3の奥行き方向(紙面垂直方向)に移動させ、シールドガスG雰囲気中で発生させたアークにより、ベース材23にビード25A,25B,25Cを隣接させて形成する。一層目の各ビード25A,25B,25Cは、発生させたアークによりビード形成の目標位置付近を加熱し、加熱により溶融した溶加材Fmが目標位置で凝固することで形成される。2層目のビード層H2は、1層目のビード層H1のビード25Aとビード25Bとの間にビード25Dを形成し、更にビード25Dに隣接してビード25Eを形成する。このようにして、ビード形成を繰り返す。
【0030】
この場合、トーチ17を、ベース材23の板面法線L0から所定のトーチ角度θで傾斜した方向L1に傾ける。トーチ角度θは、図中点Pcにおける2つのビード表面の接線の二等分線にすることができる。
【0031】
また、積層造形物の造形は、その形状の全てをビードで形成する以外にも、一部に粗形材を用い、粗形材の表面にビードを形成して積層造形物の形状とすることでもよい。その場合、入力された3次元形状データを用いて、積層造形物の外形を、積層造形物の基体となる粗形材領域と、基体上に形成される積層造形物の外形となる積層造形領域とに区分けして、積層造形領域にビードを形成する。この方式によれば、造形工程を軽減できる。
【0032】
<積層造形物の積層計画と積層条件>
次に、図2A図2Bに一例として示した積層造形物27の積層計画の作成と、積層造形手順を詳細に説明する。
図4は積層造形物の積層計画と製造方法の手順を示すフローチャートである。以下、このフローチャートを用いて各手順を順次に説明する。
【0033】
まず、図1に示す造形コントローラ13は、造形しようとする積層造形物の3次元形状データを入力部39から取得する(S1)。
造形コントローラ13の積層計画作成部31は、取得した3次元形状データの形状に応じて、その形状をビードで形成する積層計画を作成する(S2)。積層計画には、トーチ17を移動させる軌道を表す軌道計画を作成すること、アークを加熱源としてビードを形成する際の、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、トーチ角等の溶接条件を設定することが含まれる。
【0034】
具体的には、図5に示すように、中心軸Lcから一定半径rで形成される円筒状の積層造形物27を造形する場合、図6に示すように積層造形物27の形状を垂直方向に複数層(図示例では10層)に分割し、複数の分割層43S1,43S2,43S3,・・・,43S10を有する形状モデル43を生成する。各分割層43S1,43S2,43S3,・・・,43S10のモデルに対応して、それぞれトーチ17(図1参照)を移動させる軌道が求められる。軌道の決定には、所定のアルゴリズムに基づく演算等により決定される。軌道の情報としては、図示例の場合、トーチ17を移動させる経路の空間座標、経路の半径、経路長等の経路の情報や、形成するビードのビード幅、ビード高さ等のビード情報等が含まれる。分割層の高さは、溶接条件により設定されるビード高さに応じて決定される。
【0035】
次に、図1に示す変形量計算部33は、作成された軌道計画を、設定された溶接条件で実施した場合の積層造形物に生じる熱収縮による変形量を解析的に求める(S3)。この変形量は、熱弾塑性解析、固有ひずみ法解析、熱弾性解析のいずれかを用いて求めることができる。例えば、有限要素法を用いた解析(FEM解析)により、上記いずれかの理論を選択的に指定して解析を行うことで、造形後、常温まで冷却された状態の積層造形物の最終形状が推定できる。なお、記憶部37には、溶加材Fmの材質に応じた物性情報等が記憶され、これら情報が解析に適宜使用される。
【0036】
図7は積層造形物27Aが形状モデル43の形状から熱収縮によって変形する様子を示す説明図である。
図1に示す造形部11が形状モデル43に対応する動作プログラムを実行することで、形状モデル43の形状に従ってビード25が形成される。このビード25の積層後、完成した積層造形物は加熱により高温となった状態から常温に冷却される。すると、図7に示すように積層造形物27は熱収縮によって最終形状に変形する。図示例の積層造形物27Aでは、ベース材23から最も離れた最終層27A10において最大の変形量となり、形状モデル43の形状から半径方向にΔLの変形が生じる。
【0037】
このように、形状モデル43を目標形状として積層計画を作成して積層造形すると、完成した積層造形物は、熱収縮によって形状モデル43とは異なる形状に変形する。そこで、本構成の積層造形物の製造装置100においては、発生する熱収縮による変形をキャンセルするように積層計画を補正する。
【0038】
図8は熱収縮により変形した積層造形物27Aの形状モデル43からの差分を示す模式的な説明図である。
ここでは、図7に示す積層造形物27Aの中心軸Lcを中心とする半径方向の変形量ΔLを、形状モデル43の各分割層43S1,43S2,43S3,・・・,43S10に対応させて、ΔLi(ΔL,ΔL,ΔL,・・・,ΔL10)として示している。
【0039】
次に、目標形状とする形状モデルを、元の形状モデル43から、解析的に求めた変形量ΔLiを見越した形状の補正形状モデルに変更する(S4)。
補正形状モデル45は、積層造形されて熱収縮した後の積層造形物の形状が、元の形状モデル43の形状になるように、形状モデル43を、変形量ΔLiを用いて補正したモデルである。
【0040】
補正形状モデル45を設定する具体的な方法としては、種々の手法が採用できる。ここでは一例として、変形量ΔLiを、元の形状モデル43の形状に、変形方向と逆向きの方向に加える手法を説明する。
【0041】
図9は形状モデル43を補正する様子を模式的に示す説明図である。
元の形状モデル43(図6も参照)は、層分解された分割層43S1~43S10を有する。各分割層43S1~43S10は、いずれも同径の円筒体の一部を形成する形状である。補正形状モデル45は、各分割層43S1~43S10のモデルに、変形方向(径方向内側に向かう方向)と逆向きの方向(径方向外側に向かう方向)へ変形量ΔLiだけ延ばす補正を施すことで得られる。
【0042】
つまり、分割層43S1の位置では、分割層43S1を変形量ΔL1だけ径方向外側に向けて延ばした、拡径された環形状として、補正形状モデル45の分割層45S1に設定する。分割層43S2~43S10についても同様に、対応する変形量ΔL2~ΔL10だけ径方向外側に延ばした形状を、補正形状モデル45の分割層45S2~45S10に設定する。
【0043】
図10は形状モデル43が補正された補正形状モデル45を模式的に示す説明図である。
形状モデル43の各分割層43S1~43S10図9参照)の形状が補正された補正形状モデル45は、変形量ΔLiの大きさに応じて拡径された、逆円錐形の側面形状を有する。
【0044】
この補正形状モデル45を用いて、図4に示すS2の工程と同様に積層計画を作成(補正)する(S5)。このとき軌道計画のみを補正してもよいが、必要に応じて加熱条件の再設定を行ってもよい。例えば、溶接電流を増減制御して、入熱量を変更することで、ビード幅やビード高さ等の各種形状パラメータを調整できる。その場合、調整代を拡大でき、効率よく最適な積層計画への補正が行える。
【0045】
そして、補正形状モデル45を補正された積層計画に基づいて積層造形した場合に生じる変形量ΔLを、前述のS3の場合と同様に解析的に求める(S6)。
【0046】
変更された補正形状モデル45の形状を目標形状として積層造形する補正軌道計画によれば、図11に示すように、トーチ17による積層造形の直後には補正形状モデル45の形状に沿った積層造形物27Bが得られる。この積層造形物27Bが常温まで冷却されると、図12に示すように熱収縮による変形が生じ、最終的に積層造形物27Cの形状となることが解析的に求められる。
【0047】
ここで、図12に示す解析的に求めた変形量ΔLiで変形した積層造形物27Cの形状と、最初の形状モデル43の形状(入力された3次元形状データの形状)との差分Δdを求め、この差分Δdが予め定めた許容範囲εに収まっているかを判断する(S7)。
【0048】
差分Δdが許容範囲εを超えている場合には、先述のS4の工程に戻り、目標形状である補正形状モデル47を再度変更する。
補正形状モデル47を再度変更する場合は、S6の工程で求めた変形量ΔLiを用いて、積層計画を再度作成する。このときも、軌道計画の他に、加熱条件を再設定してもよい。そして、補正された積層計画により積層造形を実施した場合に、積層造形物に生じる変形量ΔLiを解析的に求める。求めた変形量ΔLiで変形した積層造形物の形状と、最初の形状モデル43の形状(3次元形状データの形状)との差分Δdを求め、この差分Δdが予め定めた許容範囲εに収まるまで、S4~S7の工程を繰り返す。
【0049】
差分Δdが許容範囲εに収まった場合には、プログラム作成部35(図1参照)が、上記のS6にて補正された積層計画(軌道計画、加熱条件)に基づいて、ビードを形成する手順を示す動作プログラムを作成する(S8)。
【0050】
ここでいう動作プログラムとは、入力された積層造形物の3次元形状データから、所定の演算により設計されたビードの形成手順を、図1に示す造形部11により実施させるための命令コードである。制御部41は、記憶部37に記憶された動作プログラムを実行することで、造形部11によって積層造形物を製造させる。つまり、制御部41は、記憶部37から所望の動作プログラムを読み込み、この動作プログラムに従って、図1に示すトーチ17を溶接ロボット19の駆動により移動させるとともに、トーチ17先端からアークを発生させる。これにより、ベース材23にビード25が繰り返し形成され、形状モデル43と高い精度で同じ形状にされた積層造形物を造形できる。
【0051】
上記例では積層造形物を単純な円筒形状としたが、積層構造物の形状は、これに限らない。積層構造物がより複雑な形状であるほど、上記した積層計画、及び製造方法による効果が顕著となるため、好適に適用することができる。
【0052】
以上説明したように、本構成の積層造形物の製造装置100によれば、実際に積層造形物を積層造形することなく、熱収縮による変形量を解析的に求めて積層計画を作成するため、積層計画の作成時間を短縮して高効率な積層造形物の製造が行える。
【0053】
また、本積層計画方法によれば、変形量ΔLの計算と、形状モデル43との形状との比較を繰り返し行うことで、特別なアルゴリズムを用いることなく、双方の形状差を縮小する方向へ確実に調整できる。
【0054】
そして、熱収縮による変形量ΔLの計算を、熱弾塑性解析に基づいて行うことで、塑性変形が加味された変形解析がなされ、高精度で変形量を予測できる。また、固有ひずみ法解析に基づいて行うことで、積層条件毎の固有ひずみを利用して解析するため、より簡便に短時間での解析が可能となる。さらに、熱弾性解析に基づいて行うことで、推定される収縮ひずみを入力することで、短時間、且つ簡易に変形を予測できる。また、塑性域までの変形が生じない小規模な変形の場合等、解析工程をより簡単化でき、低コストなハードウェアであっても高精度な解析が可能となる。
【0055】
なお、上記例では、積層造形物の完成形状と形状データの形状の差分を寸法差として説明したが、例えば、積層造形物の完成形状と形状データの形状とを重ね合わせた際の重なり領域の体積(又は面積)を用いて、許容範囲か否かを判断することであってもよい。つまり、許容範囲かを判断するパラメータとしては、形状差が判断できるものであればよい。
【0056】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
例えば、本技術は、溶接により積層造形物を作製する場合に限らず、例えば、粉体材料に対面する加工ヘッドを走査させて、粉体材料を選択的に溶融、凝固させた層を積層し、3次元形状の積層造形物を得る場合にも好適に適用可能である。
【0057】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶融金属を積層する積層造形装置により、積層造形物を該積層造形物の3次元形状データを用いて造形する積層造形物の積層計画方法であって、
前記3次元形状データを取得する工程と、
前記3次元形状データの形状を層分解した各層を前記溶融金属で形成するための前記積層造形装置の軌道、及び前記積層造形装置が前記溶融金属を形成する加熱条件を定める積層計画を作成する工程と、
作成された前記積層計画により前記積層造形物を造形した際の、冷却により熱収縮した前記積層造形物の形状と前記3次元形状データの形状との差分を演算により求める工程と、
前記差分が予め定めた許容範囲に収まるまで、前記軌道及び前記加熱条件を変更して前記積層計画を補正する工程と、
をこの順で実施する積層造形物の積層計画方法。
この積層造形物の積層計画方法によれば、積層造形物を造形する際に、目標形状に応じた積層造形装置の軌道に加え、溶融金属を形成する加熱条件を含めて積層計画を作成するため、造形時の入熱量に応じた熱収縮量が正確に求められる。その結果、積層造形物に生じる変形量を正確に把握でき、より高い形状精度の積層造形物の作製が可能となる。
【0058】
(2) 前記差分を演算により求める工程は、前記熱収縮による変形量を、熱弾塑性解析、固有ひずみ法解析、熱弾性解析のいずれかを用いて求める(1)に記載の積層造形物の積層計画方法。
この積層造形物の積層計画方法によれば、熱弾塑性解析、固有ひずみ法解析、熱弾性解析によって、高精度な変形量の予測が可能となる。
【0059】
(3) 前記積層計画の補正は、前記熱収縮による変形が生じる方向と逆方向に前記軌道を変更する(1)又は(2)に記載の積層造形物の積層計画方法。
この積層造形物の積層計画方法によれば、発生する変形を複雑な演算を要することなく簡単にキャンセルできる。
【0060】
(4) 前記積層造形物は、溶加材を溶融及び凝固させた複数のビードでビード層を形成し、該形成されたビード層に次層のビード層を繰り返し積層して造形される(1)~(3)のいずれか一つに記載の積層造形物の積層計画方法。
この積層造形物の積層計画方法によれば、溶接によるビードで形成される高強度な積層造形物を造形する積層計画が得られる。
【0061】
(5) 前記ビードは、多軸ロボットのロボットアームの先端に支持されたトーチから発生させたアークにより、前記溶加材を溶融させて形成される(4)に記載の積層造形物の積層計画方法。
この積層造形物の積層計画方法によれば、高い自由度で任意形状の積層造形物を造形する造形計画が得られる。
【0062】
(6) 前記加熱条件は、前記ビードを形成する溶接電流、アーク電圧、溶接速度、トーチ角度の少なくともいずれかを含む(5)に記載の積層造形物の積層計画方法。
この積層造形物の積層計画方法によれば、積層造形物への入熱量を正確に把握でき、発生する熱収縮量を正確に予測できる。これにより、より高い形状精度の積層造形物を造形する積層計画が得られる。
【0063】
(7) (6)に記載の積層造形物の積層計画方法により作成した前記積層計画に基づいて、前記積層造形物を積層造形する積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、より高い形状精度の積層造形物の作製が可能となる。
【0064】
(8) 溶融金属を積層する積層造形装置により、積層造形物を該積層造形物の3次元形状データを用いて造形する積層造形物の製造装置であって、
前記3次元形状データを取得する入力部と、
前記3次元形状データの形状を層分解した各層を前記溶融金属で形成するための前記積層造形装置の軌道、及び前記積層造形装置が前記溶融金属を形成する加熱条件を定める積層計画を作成する積層計画作成部と、
作成された前記積層計画により前記積層造形物を造形した際の、冷却により熱収縮した前記積層造形物の形状と前記3次元形状データの形状との差分を演算により求める変形量計算部と、
前記寸法差が予め定めた許容範囲に収まるまで、前記軌道及び前記加熱条件を変更して前記積層計画を補正する制御部と、
を備える積層造形物の製造装置。
この積層造形物の製造装置によれば、積層造形物を造形する際に、目標形状に応じた積層造形装置の軌道に加え、溶融金属を形成する加熱条件を含めて積層計画を作成するため、造形時の入熱量に応じた熱収縮量が正確に求められる。その結果、積層造形物に生じる変形量を正確に把握でき、より高い形状精度の積層造形物の作製が可能となる。
【符号の説明】
【0065】
11 造形部(積層造形装置)
13 造形コントローラ
17 トーチ
19 溶接ロボット
25,25A,25B,25C,25D,25E ビード
27,27A,27B 積層造形物
31 積層計画作成部
33 変形量計算部
35 プログラム作成部
39 入力部
41 制御部
43 形状モデル
45 補正形状モデル
100 積層造形物の製造装置
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12