(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】ガスセンサ及びガスセンサの使用方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/26 20060101AFI20220329BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20220329BHJP
G01N 27/409 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
G01N27/26 381B
G01N27/416 371Z
G01N27/409 100
(21)【出願番号】P 2018132129
(22)【出願日】2018-07-12
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】常吉 孝治
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-027317(JP,A)
【文献】特開平09-133649(JP,A)
【文献】特開2014-070906(JP,A)
【文献】特開平06-109695(JP,A)
【文献】特開平10-170408(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0290329(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26 - G01N 27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質のセンサ素子が、筒状のホルダの端部または内部に封止材を介して支持されていることにより第一空間及び第二空間が区画されており、前記第一空間において前記センサ素子の表面に設けられた第一電極と前記第二空間において前記センサ素子の表面に設けられた第二電極によって前記センサ素子に生じる起電力を検出するガスセンサであって、
筒状で両端がそれぞれ少なくとも一部で開放している第一筒部と、
該第一筒部において一方の端部である第一端部側の部分をスライド可能に挿入している有底筒状の第二筒部と、を具備し、
前記ホルダは、前記第一筒部の内部に、前記ホルダの外周面と前記第一筒部の内周面との間の空隙である筒壁間空隙をあけた状態で、且つ、前記第一空間を前記第一端部側として固定されており、
前記第一筒部は、前記第二筒部に挿入されない部分において前記筒壁間空隙に開口する第一孔部を有していると共に、
前記第二筒部は、側周壁または底壁の少なくとも一方で貫通する第二孔部を有しており、
前記第二筒部内での前記第一筒部のスライドに伴い、前記第二孔部が開放されて前記第一空間が外部空間と連通する開放状態と、前記第一筒部が前記第二孔部を閉塞する閉塞状態とに切り替えられる
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記第二筒部に対して前記第一筒部が挿入された深さを保持することにより、前記開放状態及び前記閉塞状態それぞれを維持する保持機構を、更に具備する
ことを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガスセンサを使用する使用方法であり、
ガス濃度が未知である測定雰囲気に前記第二孔部が位置すると共に、前記測定雰囲気の外部に前記第一孔部が位置するように前記ガスセンサを設置して、前記第二空間にガス濃度が既知である基準ガスを導入し、
前記測定雰囲気におけるガス濃度を検出するときは、前記ガスセンサを前記開放状態として前記測定雰囲気を前記第一空間と連通させる一方で、
前記ガスセンサを校正するときは、前記ガスセンサを前記閉塞状態とし、前記第一孔部から前記筒壁間空隙を介してガス濃度が既知である校正用ガスを前記第一空間に導入する
ことを特徴とするガスセンサの使用方法。
【請求項4】
前記ガスセンサを校正するとき、前記基準ガス及び前記校正用ガスとして濃度が同一のガスを使用し、前記センサ素子に起電力が生じた場合、その起電力値に基づいて校正を行う
ことを特徴とする請求項3に記載のガスセンサの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質をセンサ素子に使用して気相におけるガス濃度を検出するガスセンサ、及び、該ガスセンサの構成により可能となるガスセンサの校正方法を含む使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体電解質(イオン伝導性セラミックス)をセンサ素子に使用して、水素ガス、酸素ガス、炭酸ガス、水蒸気などのガス濃度を検出するガスセンサが種々提案されており、本出願人も過去に複数の提案を行っている。これらのガスセンサは、同一イオンの濃度差により固体電解質に電位差が生じる濃淡電池の原理を使用したものであり、センサ素子を挟んだ二つの空間で検出対象のガスの濃度が異なる場合に、センサ素子に生じる起電力を測定する。二つの空間のうち、一方の空間において検出対象ガスの濃度が既知であれば、ネルンストの式により、測定された起電力とセンサ素子の温度から、他方の空間におけるガス濃度を知ることができる。或いは、一方の空間のガス濃度を一定とした状態で、他方の空間におけるガス濃度を変化させて起電力を測定することによって、予めガス濃度と起電力との相関関係を調べておくことにより、ガス濃度が未知の場合の起電力の測定値からガス濃度を知ることができる。
【0003】
センサ素子は、使用に伴い測定雰囲気で固体電解質に生じる酸化還元反応などに起因して、経時的に劣化するため、定期的に校正を行う必要がある。校正は、例えば、本来であればガス濃度が未知である測定ガスが導入されるべき空間に、濃度が既知の校正用ガスを導入し、そのガス濃度を変化させつセンサ素子に生じる起電力を測定することにより行われる。そして、必要に応じて、起電力の測定値からガス濃度を算出する際に用いる起電力とガス濃度との相関関係を修正する。
【0004】
ここで、固体電解質をセンサ素子とするガスセンサは、大型の工業炉に挿入された状態で使用されていることが多い。具体的には、炉壁にセンサ用の孔部が穿設されており、その孔部からガスセンサを炉内に挿入した上で、ガスセンサの基部が炉壁に固定された状態で使用されている。ガスセンサの使用現場がこのような大型の工業炉である場合、ガスセンサの校正を現場で行うことは困難である。大型の炉の内部空間をガス濃度が既知である校正用のガスで満たし、更に濃度の異なる校正用のガスに切り替えることは、実際的ではないからである。
【0005】
そこで、従来は、現場での使用期間が所定の期間に達した時点で、ガスセンサを工業炉から抜き取り、校正用の施設まで移送して、ガスセンサの校正を行っていた。そのため、校正のために工業炉からガスセンサが取り外されている時間が長く、その間は当然ながら現場でガス濃度の検出ができないという問題があった。また、工業炉からガスセンサを取り外し、校正用の施設に移送し、校正を行い、校正後のガスセンサを使用現場まで返送し、工業炉に再び取り付けるという一連の作業が必要であるため、校正をすること自体が大掛かりであった。そのため、仮に使用現場でガスセンサによる検出結果に疑義が生じたとしても、すぐに校正を行うことはできなかった。
【0006】
更に、固体電解質には、ガス濃度と起電力とが相関関係を示す温度範囲がある。従って、使用現場の温度でガス濃度と起電力とが相関関係を示す必要があり、使用現場の温度で校正を行う必要がある。そのため、校正用の施設において、ガスセンサが配される空間の温度を使用現場の温度まで昇温させるために時間を要すると共に、使用現場の温度に正確に一致させる温度制御が、使用現場ごとに必要であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記の実情を鑑み、使用現場から取り外すことなく、簡易かつ手軽に校正を行うことができるガスセンサ、及び、該ガスセンサの構成ゆえに可能となるガスセンサの校正方法を含む使用方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるガスセンサは、
「固体電解質のセンサ素子が、筒状のホルダの端部または内部に封止材を介して支持されていることにより第一空間及び第二空間が区画されており、前記第一空間において前記センサ素子の表面に設けられた第一電極と前記第二空間において前記センサ素子の表面に設けられた第二電極によって前記センサ素子に生じる起電力を検出するガスセンサであって、
筒状で両端がそれぞれ少なくとも一部で開放している第一筒部と、
該第一筒部において一方の端部である第一端部側の部分をスライド可能に挿入している有底筒状の第二筒部と、を具備し、
前記ホルダは、前記第一筒部の内部に、前記ホルダの外周面と前記第一筒部の内周面との間の空隙である筒壁間空隙をあけた状態で、且つ、前記第一空間を前記第一端部側として固定されており、
前記第一筒部は、前記第二筒部に挿入されない部分において前記筒壁間空隙に開口する第一孔部を有していると共に、
前記第二筒部は、側周壁または底壁の少なくとも一方で貫通する第二孔部を有しており、
前記第二筒部内での前記第一筒部のスライドに伴い、前記第二孔部が開放されて前記第一空間が外部空間と連通する開放状態と、前記第一筒部が前記第二孔部を閉塞する閉塞状態とに切り替えられる」ものである。
【0009】
「筒状のホルダ」、「筒状の第一筒部」及び「有底筒状の第二筒部」における「筒状」は、円筒状、楕円筒状、角筒状とすることができる。ただし、ホルダ、第一筒部、及び第二筒部それぞれの形状及び大きさは、第一筒部が第二筒部にスライド可能に挿入され、第一筒部の内部に固定されたホルダの外周面と第一筒部の内周面との間に空隙(筒壁間空隙)が形成され、且つ、第一筒部のスライドに伴い第二筒部の第二孔部が開放される状態と閉塞される状態とに切り替えられるように設定される。
【0010】
本構成のガスセンサは、測定雰囲気とする外部空間に第二孔部を位置させる一方、第一孔部を測定雰囲気の外部に位置させて使用する。その状態で、第一筒部を第二筒部に対してスライドさせることにより、第二孔部が開放されている開放状態とすると、第二孔部を介して第二筒部の内部空間を測定雰囲気と連通させることができる。第一筒部の第一端部は少なくとも一部で開放しているため、第一空間は第二筒部の内部空間と連通している。すなわち、開放状態では、第一空間は測定雰囲気と連通する。従って、第二空間に基準ガスを導入し、第一電極及び第二電極によってセンサ素子に生じる起電力を測定することにより、測定雰囲気におけるガス濃度を検出することができる。
【0011】
一方、第一筒部を第二筒部に対してスライドさせることにより、第二孔部が第一筒部によって閉塞されている閉塞状態とすれば、筒壁間空隙のみを第一空間と連通させることができる。そのため、ガス濃度が既知である校正用ガスを第一孔部から筒壁間空隙に導入することにより、第一空間を校正用ガスで満たすことができる。従って、第二空間に基準ガスを導入する一方で、第一空間に校正用ガスを導入した状態で、センサ素子に生じる起電力とガス濃度との相関関係を確認することにより、ガスセンサを校正することができる。
【0012】
以上のように、本構成のガスセンサによれば、使用現場からガスセンサを取り外すことなく、校正を行うことができる。そのため、使用現場からガスセンサを取り外し、校正用施設で構成を行っていた従来に比べて、校正の作業に要する手間や時間が大幅に低減される。また、現場においてガスセンサを校正する必要性が感じられたとき、速やかに、且つ、手軽に構成を行うことができる。
【0013】
また、ガスセンサの校正は使用現場の温度で行う必要があるところ、本構成のガスセンサは、使用現場で校正することができるため、温度の調整や制御を何ら必要とすることなく、まさに使用現場の温度において簡易に校正を行うことができる。
【0014】
本構成のガスセンサは、上記構成に加え、
「前記第二筒部に対して前記第一筒部が挿入された深さを保持することにより、前記開放状態及び前記閉塞状態それぞれを維持する保持機構を、更に具備する」ものとすることができる。
【0015】
本構成では、第二筒部に対して第一筒部が挿入された深さが保持機構によって保持されるため、開放状態としている最中(測定雰囲気のガス濃度を検出している最中)に意図せず閉塞状態となってしまうことや、閉塞状態としている最中(校正の作業中)に意図せず開放状態となってしまうことが防止される。
【0016】
次に、本発明にかかるガスセンサの使用方法は、
「上記に記載のガスセンサを使用する使用方法であり、
ガス濃度が未知である測定雰囲気に前記第二孔部が位置すると共に、前記測定雰囲気の外部に前記第一孔部が位置するように前記ガスセンサを設置して、前記第二空間にガス濃度が既知である基準ガスを導入し、
前記測定雰囲気におけるガス濃度を検出するときは、前記ガスセンサを前記開放状態として前記測定雰囲気を前記第一空間と連通させる一方で、
前記ガスセンサを校正するときは、前記ガスセンサを前記閉塞状態とし、前記第一孔部から前記筒壁間空隙を介してガス濃度が既知である校正用ガスを前記第一空間に導入する」ものである。
【0017】
これは、ガスセンサが上記構成であることにより可能となる使用法であり、現場で測定雰囲気中のガス濃度を検出していたガスセンサを、取り外すことなく、その場で校正を行うという使用方法である。
【0018】
本発明にかかるガスセンサの使用方法は、上記構成に加え、
「前記ガスセンサを校正するとき、前記基準ガス及び前記校正用ガスとして濃度が同一のガスを使用し、前記センサ素子に起電力が生じた場合、その起電力値に基づいて校正を行う」ものとすることができる。
【0019】
センサ素子を挟んで区画されている第一空間及び第二空間のガス濃度が同一のとき、本来はセンサ素子に起電力は生じない。従って、第一空間に導入される校正用ガスと第二空間に導入される基準ガスのガス濃度を同一としたときに、センサ素子に起電力が生じた場合は、この起電力値に基づいて、ガス濃度のゼロ点を簡易に補正することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、使用現場から取り外すことなく、簡易かつ手軽に校正を行うことができるガスセンサ、及び、該ガスセンサの構成ゆえに可能となるガスセンサの校正方法を含む使用方法を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1(a)は本発明の一実施形態であるガスセンサの斜視図であり、
図1(b)は
図1(a)のガスセンサの分解斜視図である。
【
図2】
図2は
図1のガスセンサ(センサ本体部を省略)が、保持機構が保持状態にないと共に、固定機構が固定状態になく、且つ、開放状態にあるとき、縦方向に中央で切断した端面図である。
【
図3】
図3は
図1のガスセンサ(センサ本体部を省略)が、保持機構が保持状態にある共に、固定機構が固定状態にあり、且つ、閉塞状態にあるとき、縦方向に中央で切断した端面図である。
【
図4】
図4(a)は
図1のガスセンサ(センサ本体部を含む)が開放状態にあるとき、縦方向に中央で切断した端面図であり、
図4(b)は
図1のガスセンサ(センサ本体部を含む)が閉塞状態にあるとき、縦方向に中央で切断した端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態であるガスセンサ1、及び、ガスセンサ1の使用方法について、
図1乃至
図4を用いて説明する。まず、ガスセンサ1の構成について説明する。ガスセンサ1は、センサ本体部と、センサ本体部を収容するケーシングに大別され、ケーシングは、筒状で両端がそれぞれ少なくとも一部で開放している第一筒部10と、第一筒部10の一部をスライド可能に挿入している第二筒部20とからなる。
【0023】
具体的に説明すると、第一筒部10は円筒状で、ここでは両端が開端である場合を図示している。第一筒部10の両端をそれぞれ第一端部E1及び第二端部E2とすると、第二端部E2の近傍で、且つ、第二端部E2からは離れた位置に、側周壁を貫通する第一孔部11hが二以上設けられている。ここでは、第一孔部11hが二つであり、それぞれの周縁に小パイプ11が気密に接続されている場合を例示する。
【0024】
第二筒部20は有底円筒状であり、円筒状部の内径は第一筒部10の外径より僅かに大きい。従って、第一筒部10における第一端部E1側の部分を、第二筒部20の開端25から挿入することができ、第一筒部10はその外周面を第二筒部20の内周面に沿わせながら第二筒部20内をスライドする。第一筒部10において第一孔部11hから第一端部E1までの距離は、第二筒部20の長さより大きく設定されている。そのため、第一筒部10を第二筒部20に最も深く挿入した状態で、第一筒部10の第一端部E1は第二筒部20の底壁20bに当接すると共に、第一孔部11hは第二筒部20の開端25から離隔している。
【0025】
また、第二筒部20の側周壁には、底壁20bの近傍において、複数の第二孔部21が貫設されている。
【0026】
第二筒部20は、開端25で内径及び外径ともに拡径しており、その部分の外周面には雄ネジ25sが形成されている。開端25で内径が拡径していることにより、第二筒部20の内周面には段部25bが形成されているが、この段部25bに、第一筒部10の外径より大径で樹脂製のOリング26が載置されている。また、第二筒部20は、雄ネジ25sと螺合する雌ネジ28sを有する締付けリング28を備えている。締付けリング28は、底部28bに孔部28hが貫設された有底円筒状であり、孔部28hは第一筒部10を挿入できる大きさである。締付けリング28の円筒状部分28aは、長さが雄ネジ25sと同程度であり、その内周面に雌ネジ28sが形成されている。
【0027】
これらの雄ネジ25s、Oリング26、及び締付けリング28は、本発明における「第二筒部に対して第一筒部が挿入された深さを保持する保持機構」に相当する。すなわち、第一筒部10を第二筒部20に開端25から挿入し、第二筒部20に対して第一筒部10がある深さで挿入されている状態を保持させるときは、締付けリング28の雌ネジ28sを雄ネジ25sに締付ける。それに伴い、締付けリング28の底部28bによってOリング26が段部25bに向かって押し付けられ、弾性変形して第一筒部10の外周面に圧接される(
図3における一番上の拡大図を参照)。これにより、第一筒部10が第二筒部20に対してスライドすることが規制され、第一筒部10が第二筒部20に対してある深さで挿入された状態が保持されると共に、第二筒部20の内周面と第一筒部10の外周面との間が気密にシールされる。なお、ここでは、締付けリング28とOリング26との間に剛体リング27を介在させており、剛体リング27を介して締付けリング28がOリング26を押圧する場合を例示しているが、締付けリング28によってOリング26を十分に弾性変形させられる場合は、剛体リング27は不要である。
【0028】
第二筒部20は、ガスセンサ1が使用される現場においてガスセンサ1が測定雰囲気に挿入された状態を固定するための固定機構を、更に備えている。固定機構は、固定具30、Oリング31、及び、締付けリング32を備えている。固定具30は短い円筒状で、その内径は第二筒部20の外径より僅かに大きい。従って、固定具30は第二筒部20を挿通させた状態で、第二筒部20の外周面に沿ってスライド可能である。固定具30の外周面には、一方の端部側に雄ネジ30aが形成されていると共に、他方の端部側に雄ネジ30bが形成されている。固定具30は、雄ネジ30bが開端25側となる向きで、第二筒部20を挿通させている。
【0029】
ガスセンサ1が使用される現場である工業炉では、炉壁にガスセンサ用孔部が設けられており、そのガスセンサ用孔部の内周面に雌ネジが形成されている。固定具30の雄ネジ30aは、炉壁に設けられたガスセンサ用孔部の雌ネジに螺合するものである。
【0030】
他方の雄ネジ30bは、締付けリング32の雌ネジ32sと螺合する。締付けリング32は、底部32bに孔部32hが貫設された有底円筒状であり、孔部32hは第二筒部20を挿入できる大きさである。締付けリング32の円筒状部分32aは、長さが雄ネジ30bと同程度で、その内周面に雌ネジ32sが形成されている。そして、締付けリング32の底部32b及び円筒状部分32aと、固定具30の雄ネジ30b側の端部とで囲まれた空間に、樹脂製のOリング31が嵌め込まれている。
【0031】
使用現場では、炉壁に設けられたガスセンサ用孔部の雌ネジに固定具30の雄ネジ30aを留め付けた状態で、締付けリング32の雌ネジ32sを雄ネジ30bに締付ける。それに伴い、締付けリング32の底部32bによってOリング31が固定具30の端部に向かって押し付けられ、弾性変形して第二筒部20の外周面に圧接される(
図3における中央の拡大図を参照)。これにより、固定具30が第二筒部20に対してスライドすることが規制され、工業炉内の測定雰囲気中に、ある長さで挿入された状態でガスセンサ1が固定される。
【0032】
なお、第二筒部20において固定具30と開端25との間にストッパ39が取り付けられていると共に、第一筒部10において第一孔部11hより第一端部E1側にストッパ19が取り付けられている。ストッパ39及びストッパ19は、それぞれボルト39b,19bの締付けにより縮径するリング状である。ガスセンサ1が工業炉内の測定雰囲気中に、ある長さで挿入されている状態を固定具30で固定した上で、固定具30にストッパ39を当接させてボルト39bを締付けることにより、ストッパ39が第二筒部20の外周面に圧着される。これにより、固定具30に何らかの異常が生じたとしても、ガスセンサ1が炉内に引き込まれることが防止される。同様に、第一筒部10が第二筒部20に対して、ある深さで挿入されている状態を保持機構で保持した上で、締付けリング28にストッパ19を当接させてボルト19bを締付けることにより、ストッパ19が第一筒部10の外周面に圧着される。これにより、保持機構に何らかの異常が生じたとしても、第一筒部10が第二筒部20に引き込まれることが防止される。
【0033】
センサ本体部は、固体電解質のセンサ素子51と、センサ素子51を支持している筒状のホルダ52と、センサ素子51に設けられた第一電極61及び第二電極62と、ガスを導入する導入管53と、センサ素子51の温度を測定するための熱電対54とを、主な構成とする。そして、センサ素子51とホルダ52の内周面との間が封止材56で気密に封止されていることにより、センサ素子51を挟んだ二つの空間である第一空間S1及び第二空間S2が気密に区画されている。センサ素子51の表面には、第一空間S1において第一電極61が形成されていると共に、第二空間S2において第二電極62が形成されている。
【0034】
ホルダ52は円筒状であり、その外径は第一筒部10の内径より小さい。従って、ホルダ52を第一筒部10の内部に位置させると、ホルダ52の外周面と第一筒部10の内周面との間には空隙が存在し、この空隙が筒壁間空隙S3である。センサ本体部は、第一空間S1が第一筒部10の第一端部E1側となる向きで、第一筒部10の内部に固定されている。
【0035】
ここで、ホルダ52の長さは、一方の端部が第一筒部10の第一端部E1まで達しない長さである共に、他方の端部が第一孔部11hより第二端部E2側に達する長さである。また、第一孔部11hより第二端部E2側で、第一筒部10の内周面とホルダ52の外周面との間は封止材59によって気密に封止されている。
【0036】
次に、上記構成のガスセンサ1の使用方法について説明する。ガスセンサ1の使用現場では、工業炉の炉壁に形成されたセンサ用孔部にガスセンサ1を挿入し、炉内の測定雰囲気に第二筒部20の第二孔部21が位置すると共に、第一筒部10の第一孔部11hが測定雰囲気の外部(炉外)に位置する状態とする。この状態で、測定雰囲気に所定の長さで挿入されているガスセンサ1を、固定具30によって炉壁に固定する。
【0037】
測定雰囲気のガス濃度を検出する際は、第一筒部10を第二筒部20に対してスライドさせることにより、第二孔部21が開放されている開放状態、すなわち、第二孔部21が第一筒部10によって閉塞されていない状態とする(
図4(a)参照)。この開放状態は、上記の保持機構により保持することができる。開放状態では、第二筒部20の内部空間が第二孔部21を介して測定雰囲気と連通する。また、第一筒部10の第一端部E1が少なくとも一部で開放していることにより、センサ本体部の第一空間S1は第二筒部20の内部空間と連通している。従って、開放状態では第一空間S1は測定雰囲気と連通しているため、導入管53を介して第二空間S2に基準ガスを導入し、第一電極61及び第二電極62によってセンサ素子51に生じる起電力を測定することにより、測定雰囲気におけるガス濃度を検出することができる。
【0038】
なお、このような開放状態では、筒壁間空隙S3も第一空間S1と連通している。第一孔部11hより第二端部E2側では、筒壁間空隙S3は封止材59によって閉塞されているため、小パイプ11に栓部材60を嵌めることにより第一孔部11hを閉塞すれば、工業炉内の測定雰囲気に炉外の空気が混入することや、工業炉内のガスが第一孔部11hを介して炉外に漏れ出ることを防止することができる。なお、工業炉内の測定雰囲気に、第二孔部21を介して第二筒部20の内部空間に向けてガスを圧入するガス圧があり、工業炉内のガスが炉外に漏れ出ても問題がないガスである場合は、第一孔部11hを開放しておいても問題はない。
【0039】
ガスセンサ1の校正を行う際は、第一筒部10を第二筒部20に対してスライドさせることにより、第二孔部21が第一筒部10によって閉塞されている閉塞状態とする(
図4(b)参照)。ここでは、第一筒部10の第一端部E1が第二筒部20の底壁20bに当たるまで第一筒部10を第二筒部20内に押し込んでいる場合を例示している。この場合、第一筒部10の側周壁が第二孔部21を被覆することに加え、第一筒部10の第一端部E1と第二筒部20の底壁20bとが当接することにより、測定雰囲気が第二孔部21を介して第二筒部20の内部空間に流入することが防止される。この閉塞状態は、上記の保持機構により保持することができる。
【0040】
閉塞状態では、筒壁間空隙S3が第一空間S1と連通する。第一筒部10の第一端部E1側で、ホルダ52は第一端部E1に達していない長さであり、第一筒部10の第一端部E1は少なくとも一部で開放しているからである。そのため、ガス濃度が既知である校正用ガスを、小パイプ11を介して第一孔部11hから筒壁間空隙S3に導入することにより、第一空間S1を校正用ガスで満たすことができる。上記のように、第一孔部11hより第二端部E2側で筒壁間空隙S3は封止材59によって閉塞されているため、第一孔部11hから導入された校正用ガスが第二端部E2から流出することが防止されており、筒壁間空隙S3を通って第一空間S1に流入する。
【0041】
従って、導入管53を介して第二空間S2に基準ガスを導入する一方で、第一孔部11hから校正用ガスを第一空間S1に導入し、第一電極61及び第二電極62によってセンサ素子51に生じる起電力を測定することにより、ガスセンサ1の校正を行うことができる。その際、校正用ガスを濃度の異なるガスに切り替えることにより、起電力とガス濃度との相関関係を確認することができる。また、第一空間S1に導入する校正用ガスを、第二空間S2に導入する基準ガスと同一のガス濃度としたときに、センサ素子51に起電力が生じた場合は、その起電力値に基づいてガス濃度のゼロ点を補正する校正を行うことができる。
【0042】
なお、第一孔部11hは二以上設けられているため、そのうちの少なくとも一つを残して校正用ガスを導入すれば、第一空間S1を満たした後の校正用ガスは、残る第一孔部11hを介して外部に排出される。図示は省略するが、校正用ガスが導入される第一孔部11hに細管の一端を接続し、他端が第一筒部10の下端近傍まで至るように、その細管を筒壁間空隙S3に配設すれば、第一電極61が設けられている第一空間S1のガスが校正用ガスに速やかに置換されるため、より望ましい。
【0043】
また、第一筒部10による第二孔部21の閉塞は、完璧に気密された閉塞状態であることまでは要請されない。仮に、第一空間S1と第二孔部21との間に極く小さな空隙がありガスが僅かに流通可能であったとしても、校正用ガスは第一孔部11h及び筒壁間空隙S3を介して第一空間S1に送り込まれるガス圧を有している。そのため、極く小さな空隙を介して校正用ガスは第二孔部21から外部に排出されるため、極く小さな空隙の存在は、第一空間S1を校正用ガスで満たすことの障害とはならない。
【0044】
以上のように、本実施形態のガスセンサ1、及び、ガスセンサ1の使用方法によれば、使用現場からガスセンサ1を取り外すことなく、校正を行うことができる。そのため、ガスセンサを取り外して校正用施設まで移送して校正を行っていた従来に比べて、校正のために要する時間や手間が大幅に低減される。また、測定雰囲気のガス濃度を検出している際に、検出結果に疑義が生じた場合であっても、速やかに、且つ、手軽に校正を行うことができる。
【0045】
更に、ガスセンサ1の校正は使用現場の温度で行われる必要があるため、校正用施設で校正を行う場合は、使用現場の温度まで昇温する時間や、使用現場の温度に正しく一致させる温度制御が必要であった。これに対し、本実施形態のガスセンサ1は使用現場で校正を行うことができるため、温度の調整や制御のために何らの作業を要することなく、まさに使用現場の温度で簡易に校正を行うことができる。
【0046】
また、本実施形態のガスセンサ1は、第二筒部20に対して第一筒部10が挿入された深さを保持する保持機構を備えているため、測定雰囲気のガス濃度を検出している際に第一筒部10が意図せずスライドして閉塞状態となってしまうおそれや、校正の作業中に第一筒部10が意図せずスライドして開放状態となってしまうおそれがない。
【0047】
加えて、本実施形態のガスセンサ1は、測定雰囲気に挿入されている状態を固定するための固定機構を備えており、固定機構は第二筒部20に対してスライドする固定具30を有している。そのため、異なる使用現場それぞれで、測定雰囲気にガスセンサ1が挿入されるべき長さに応じて、ガスセンサ1が炉壁に固定される位置を調整できる利点がある。なお、ガスセンサが使用される現場が定まっており、測定雰囲気に挿入されるべきガスセンサの長さが一定の場合は、固定具は第二筒部20に固着されていても良い。
【0048】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0049】
例えば、上記では、形状が有底筒状であるセンサ素子51が筒状のホルダ52の内部空間を閉塞している場合を図示により例示したが、センサ素子を挟んで第一空間と第二空間とが区画されるようにセンサ素子がホルダに保持されるものであれば、センサ素子の形状及びホルダによる保持の態様は限定されない。例えば、有底筒状のセンサ素子が、その開口をホルダの内部または外部に向けた状態で、ホルダの一端を閉塞している態様、柱状または平板状のセンサ素子がホルダの内部空間を閉塞している態様、或いは、柱状または平板状のセンサ素子がホルダの一端を閉塞している態様のガスセンサを、何れも使用することができる。
【0050】
また、第一筒部10の両端が開端である場合を例示したが、両端それぞれが少なくとも一部で開放されていれば開端でなくても良い。つまり、第一筒部10の第一端部E1は、第一筒部10の内部に配置されたセンサ本体部における第一空間S1を、第二筒部20の内部空間と連通させられるだけの開口を有して入れば足りる。また、第一筒部10の第二端部E2は、導入管53、熱電対54、第一電極61及び第二電極62に電気的に接続されるリード線(図示を省略)を、外部から第一筒部10内に引き込むことできるだけの開口を有していれば足りる。
【0051】
加えて、第二孔部21が第二筒部20の側周壁に貫設されている場合を例示したが、これに限定されず、第二筒部20の底壁20bに第二孔部が貫設されていても良い。具体的には、第一筒部10が第一端部E1に底壁を有していると共に、この底壁に第一空間S1を第二筒部20の内部空間と連通させる開口が設けられており、その開口の位置が第二孔部の位置とずれている構成とすることができる。かかる構成では、第一筒部10の底壁を第二筒部20の底壁20bに当接させることにより、第二孔部を閉塞することができ、第一筒部10の底壁を第二筒部20の底壁20bから離隔させれば、第二孔部を開放することができる。また、このように第二筒部20の底壁20bに貫設された第二孔部と、側周壁に貫設されて第一筒部10の側周壁によって閉塞される上記の第二孔部21との、双方を有していても良い。
【0052】
更に、第一孔部11hに小パイプ11が接続されている場合を例示したが、小パイプ11は必須ではない。例えば、校正用ガスを供給する装置の側で、ガス供給用のパイプの先端を第一孔部11hに挿し込んでその状態を固定できる固定具を有してれば足りる。
【符号の説明】
【0053】
1 ガスセンサ
10 第一筒部
11h 第一孔部
20 第二筒部
21 第二孔部
51 センサ素子
52 ホルダ
61 第一電極
62 第二電極
E1 第一端部
S1 第一空間
S2 第二空間
S3 筒壁間空隙