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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】樹脂溶解装置及び樹脂溶解方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/16 20060101AFI20220329BHJP
【FI】
C08J11/16
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018165031
(22)【出願日】2018-09-04
(65)【公開番号】P2020037638
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591089855
【氏名又は名称】三和油化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】磯村 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】加納 彰
(72)【発明者】
【氏名】内野 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 裕子
(72)【発明者】
【氏名】竹村 由
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-074204(JP,A)
【文献】特開2008-036548(JP,A)
【文献】特開2010-168560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/00-11/28
B29B 17/00-17/04
B09B 1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化プラスチックが含有する樹脂材を溶解する樹脂溶解装置であって、
温度及び濃度が管理されていると共に硫酸を含有する溶解液と、炭素繊維強化プラスチックと、が投入される、溶解槽と、
前記溶解槽下面に配置され、前記溶解槽内に設けられた処理空間にバブル用ガスを導入してバブルを発生させる、ガス導入部と、
前記処理空間に、前記ガス導入部を囲い、前記溶解槽の前記下面から上方へ向かって延設され、前記バブルに伴って上昇する前記溶解液をガイドする、ガイド壁と、を備え、
前記炭素繊維強化プラスチックは、前記ガイド壁の外側に投入され、
前記ガイド壁の前記溶解槽の前記下面近傍、前記炭素繊維強化プラスチックが含有する炭素繊維が前記ガイド壁の内側に侵入することを防ぎつつ、前記処理空間において前記溶解液を対流させるための第1の貫通孔が設けられ
前記ガイド壁の前記第1の貫通孔より上方に、前記炭素繊維強化プラスチックが含有する炭素繊維が前記ガイド壁の内側に侵入することを防ぎつつ、前記処理空間において前記溶解液を対流させるための第2の貫通孔が設けられている、樹脂溶解装置。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂溶解装置を用いて前記樹脂材を溶解する工程を備え、
前記溶解する工程において、
前記溶解液として、硫酸を90wt%以上含有し、120℃以上に温度調節された溶解液を用い、
前記ガス導入部から前記処理空間に前記バブル用ガスを導入し、前記処理空間において前記溶解液を対流させる、樹脂溶解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂溶解装置及び樹脂溶解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチック(CFRP、Carbon Fiber Reinforced Plastic)材が含有する樹脂を分解し、CFRP材から樹脂材を除去する方法が知られている。
例えば、特許文献1には、硫酸を含有する溶解液を用いて、CFRP材が含有する樹脂を溶解する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-074204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、樹脂溶解装置に関し、以下の課題を見出した。
溶解槽に設けられたガス導入部からバブル用ガスを導入し、溶解槽に投入された溶解液を対流させることがある。CFRP材は、樹脂材と炭素繊維とを含有する。溶解液を用いてCFRP材が含有する樹脂材を溶解すると、CFRP材が含有する炭素繊維が露出する。露出した炭素繊維は、溶解液を含んで膨張する。つまり、樹脂材の一部が溶解されて炭素繊維が露出したCFRP材は、体積が膨張する。
【0005】
体積が膨張したCFRP材は、バブル用ガスの導入によって生じるバブルを抱き抱え、溶解液の液面に浮上しやすい。そのため、溶解液を対流させても、CFRP材が含有する樹脂材の溶解に要する時間を短くすることができない。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、溶解液の対流を起こし、CFRP材が含有する樹脂材を短時間で溶解することができる樹脂溶解装置及び樹脂溶解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための一態様は、炭素繊維強化プラスチック材が含有する樹脂材を溶解する樹脂溶解装置であって、温度及び濃度が管理されていると共に硫酸を含有する溶解液と、炭素繊維強化プラスチック材と、が投入される、溶解槽と、前記溶解槽下面に配置されており、前記溶解槽内に設けられた処理空間にバブル用ガスを導入してバブルを発生させる、ガス導入部と、前記処理空間において前記ガス導入部を囲うように上方へ向かって延設されており、前記バブルに伴って上昇する前記溶解液をガイドする、ガイド壁と、を備え、前記炭素繊維強化プラスチック材は、前記ガイド壁の外側に投入され、前記ガイド壁の前記溶解槽下面近傍には、前記炭素繊維強化プラスチック材が含有する炭素繊維が前記ガイド壁の内側に侵入することを防ぎつつ、前記処理空間において前記溶解液を対流させるための貫通孔が設けられている。
【0008】
上記目的を達成するための一態様は、樹脂溶解方法であって、上記に記載の樹脂溶解装置を用いて前記樹脂材を溶解する工程を備え、前記溶解する工程において、前記ガス導入部から前記処理空間に前記バブル用ガスを導入し、前記処理空間において前記溶解液を対流させる。
【0009】
本発明に係る樹脂溶解装置は、温度及び濃度が管理されていると共に硫酸を含有する溶解液と、炭素繊維強化プラスチック材と、が投入される、溶解槽と、溶解槽下面に配置されており、溶解槽内に設けられた処理空間にバブル用ガスを導入してバブルを発生させる、ガス導入部と、処理空間においてガス導入部を囲うように上方へ向かって延設されており、バブルに伴って上昇する溶解液をガイドする、ガイド壁と、を備える。
【0010】
炭素繊維強化プラスチック材は、ガイド壁の外側に投入される。前記ガイド壁の前記溶解槽下面近傍には、炭素繊維強化プラスチック材が含有する炭素繊維がガイド壁の内側に侵入することを防ぎつつ、処理空間における溶解液を対流させるための貫通孔が設けられている、したがって、ガス導入部から導入されたバブル用ガスによって、ガイド壁の外側において溶解液が下に向かう対流を起こすことができる。
【0011】
本発明に係る樹脂溶解方法は、上記に記載の樹脂溶解装置を用いて樹脂材を溶解する工程を備え、溶解する工程において、ガス導入部から処理空間にガスを導入し、処理空間において溶解液を対流させる。ガイド壁の外側に投入された炭素繊維強化プラスチック材は、下に向かう対流を受けるため、溶解液の液面に浮上しにくい。そのため、本発明に係る樹脂溶解方法は、ガイド壁を設けない樹脂溶解装置を用いた方法に比較して、樹脂材の溶解に要する時間を短くすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶解液の対流を起こし、CFRP材が含有する樹脂材を短時間で溶解することができる樹脂溶解装置及び樹脂溶解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態に係る樹脂溶解装置の正面図である。
図2】本実施の形態に係る樹脂溶解装置の平面図である。
図3図1のIII-III線に沿う断面図である。
図4】溶解槽の模式的斜視図である。
図5】本実施の形態に係る樹脂溶解方法を示すフローチャートである。
図6】脱水実験に用いたサンプルの写真である。
図7】硫酸濃度と樹脂材の脱水との関係を表す表である。
図8】硫酸濃度と樹脂材の酸化との関係を表すグラフである。
図9】樹脂材の溶解後における、CFRP材及び溶解液の写真である。
図10】実施例1~3における樹脂材の溶解時間の計測結果を示すグラフである。
図11】実施例2において再生された炭素繊維の写真である。
図12】実施例1において再生された炭素繊維のせん断強さの計測結果を示すグラフである。
図13】実施例1において再生された炭素繊維のせん断強さの計測結果をまとめたグラフである。
図14】実施例1において再生された炭素繊維を用いて成型されたCFRP材の引張強度の計測結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0015】
まず、図1~4を参照して、本実施の形態に係る樹脂溶解装置の構成について説明する。図1は、本実施の形態に係る樹脂溶解装置の正面図である。図2は、本実施の形態に係る樹脂溶解装置の平面図である。図3は、図1のIII-III線に沿う断面図である。図4は、溶解槽の模式的斜視図である。
【0016】
樹脂溶解装置1は、図1に示すように、溶解槽2、貯液槽3、及び通液管4を備える。樹脂溶解装置1は、図3に示すように、図1に示した構成に加えて、圧搾部材5、及びガイド壁6を備える。なお、図3では、上記構成に加えて、溶解液7を図示している。また、図4では、上記構成に加えて、溶解液7、バブル8a、及び炭素繊維9を図示している。なお、図4では、圧搾部材5及びガス導入部8の図示を省略している。
【0017】
なお、当然のことながら、図1及びその他の図面に示した右手系xyz直交座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものである。通常、z軸正方向が鉛直上向き、xy平面が水平面であり、図面間で共通である。
【0018】
溶解槽2は、例えば、図2に示すように、断面円形状である。溶解槽2の内部には、図3に示すように、処理空間2aが設けられている。溶解槽2は、例えば、鋼やステンレスから構成される。溶解槽2の内周面は、テフロンコーティングされていることが好ましい(「テフロン」は登録商標)。処理空間2aには、図4に示すように、溶解液7及び炭素繊維9を含有するCFRP材が投入される。溶解槽2は、例えば、天井が開閉可能である。炭素繊維9を含有するCFRP材は、例えば、開閉可能な天井から処理空間2aに投入される。
【0019】
炭素繊維9を含有するCFRP材は、樹脂材を含有する。CFRP材が含有する樹脂材は、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、又はナイロン樹脂である。炭素繊維9の直径は、例えば、6μm以上7μm以下である。CFRP材の繊維体積含有率(Volume fraction of Fiber)Vfは、例えば、40%である。樹脂材の種類、炭素繊維9の直径、及びCFRP材の繊維体積含有率Vfは、使用目的等に応じて適宜変更可能である。
【0020】
処理空間2aに投入されたCFRP材が含有する樹脂材は、溶解液7を用いて溶解される。溶解液7は、硫酸を含有する液体である。溶解液7は、硫酸を90wt%(質量パーセント濃度)以上含有する。溶解液7は、120℃以上に温度調節されている。
【0021】
120℃以上に温度調節されていると共に硫酸を90wt%以上含有する溶解液7にCFRP材を含浸すると、脱水反応及び酸化反応によって、CFRP材が含有する樹脂材が溶解される。脱水反応の一例を以下の化学式(1)に示す。酸化反応の一例を以下の化学式(2)に示す。
122211→11HO+12C ・・・(1)
SO+C→SO+CO+HO ・・・(2)
【0022】
化学式(1)に示す脱水反応では、硫酸は触媒として機能する。化学式(1)に示す脱水反応は、樹脂材が含有する酸素原子や水素原子を奪うことによって、樹脂材の結合を切断することができる。溶解液7の硫酸濃度が90wt%以上である場合、化学式(1)に示す脱水反応によってCFRP材が含有する樹脂材を脱水させることができる。
【0023】
化学式(2)に示す酸化反応では、硫酸は酸化剤として機能する。化学式(2)に示す酸化反応は、樹脂材が含有する炭素原子を酸化することによって、樹脂材の結合を切断することができる。溶解液7の温度が120℃以上である場合、化学式(2)に示す酸化反応によってCFRP材が含有する樹脂材を酸化させることができる。
【0024】
溶解槽2の下方には、図1に示すように、貯液槽3が配置されている。貯液槽3には、図3に示すように、貯液空間3aが設けられている。貯液空間3aには、図3に示すように、溶解液7が貯留される。貯液槽3は、例えば、鋼やステンレスから構成される。貯液槽3の内周面は、テフロンコーティングされていることが好ましい。貯液槽3は、溶解槽2と同じ材料から構成されてもよいし、異なる材料から構成されてもよい。
【0025】
貯液空間3aに貯留された溶解液7は、ヒーター(不図示)を用いて温度調節される。ヒーターは、溶解液7によって腐食しない耐腐食性を有する。ヒーターは、例えば、投げ込み式のテフロン製熱交換器である。ヒーターは、例えば、貯液槽3の天井から吊り下げられて溶解液7を加熱する。
【0026】
通液管4は、図3に示すように、処理空間2aと貯液空間3aとを連通している。通液管4は、例えば、断面円形状の筒状部材である。溶解液7は、通液管4を通って貯液空間3aから処理空間2aに導入される。
【0027】
貯液槽3には、図3に示すように、エア導入部3bが設けられている。エア導入部3bは、溶解液7に接触しない位置に設けられることが好ましい。エア導入部3bは、図示しないポンプ等に接続されている。エア導入部3bに接続されたポンプを駆動すると、貯液空間3aに圧縮空気を導入することができる。
【0028】
また、溶解槽2には、図3に示すように、排気部2cが設けられている。排気部2cは、溶解液7に接触しない位置に設けられる。排気部2cは、例えば、図3に示すように、溶解槽2の天井に設けられる。排気部2cは、処理空間2a内の気体を排気することができる。
【0029】
貯液空間3aに圧縮空気を導入すると、貯液空間3a内の圧力が上昇する。貯液空間3a内の圧力が上昇すると、溶解液7は、通液管4を通って、処理空間2aに導入される。貯液空間3aに圧縮空気を導入する際には、排気部2cから処理空間2a内の気体を排気する。貯液空間3aに圧縮空気を導入する際に処理空間2a内の気体を排気すると、処理空間2a内における圧力の上昇が抑制される。そのため、処理空間2aへの溶解液7の導入が促進される。
【0030】
貯液槽3には、図3に示すように、排気部3cが設けられている。排気部3cは、溶解液7に接触しない位置に設けられる。排気部3cは、例えば、貯液槽3の天井に設けられる。排気部3cは、貯液空間3a内の気体を排気することができる。
【0031】
また、溶解槽2には、図3に示すように、エア導入部2bが設けられている。エア導入部2bは、溶解液7に接触しない位置に設けられることが好ましい。エア導入部2bは、処理空間2aにエアを導入することができる。エア導入部2bを用いて処理空間2aにエアを導入すると共に排気部3cを用いて貯液空間3a内の気体を排気すると、処理空間2a内の溶解液7が、通液管4を通って貯液空間3aに戻される。
【0032】
処理空間2aにおいてCFRP材が含有する樹脂材の溶解が行われると、化学式(2)に示すように、二酸化硫黄(SO)や一酸化炭素(CO)が発生する。つまり、処理空間2aや貯液空間3aから排気された気体は、二酸化硫黄等の硫黄酸化物や一酸化炭素を含有する。硫黄酸化物や一酸化炭素は、人体に有害である。したがって、処理空間2aや貯液空間3aから排気された気体を外部に放出する際には、気体が含有する硫黄酸化物や一酸化酸素を除去する必要がある。
【0033】
処理空間2aや貯液空間3aから排気された気体が含有する硫黄酸化物や一酸化炭素は、図示しない酸化物除去手段を用いて除去される。酸化物除去手段は、例えば、アルカリスクラバ、及びフィルタを備える。アルカリスクラバは、硫黄酸化物や一酸化炭素を中和処理することができるスクラバである。処理空間2aや貯液空間3aから排気された気体は、アルカリスクラバを用いて中和され、フィルタを用いて粉塵除去される。
【0034】
また、酸化物除去手段は、酸化手段、水スクラバ、及びフィルタを備えていてもよい。酸化手段は、一酸化炭素を酸化させる手段である。酸化手段は、例えば一酸化炭素を燃焼して排気された気体が含有する一酸化炭素を酸化させる。また、酸化手段は、触媒と共に加熱して一酸化炭素を酸化させてもよいし、オゾン分子を用いて一酸化炭素を酸化させてもよい。硫黄酸化物は水に溶けやすいため、水スクラバを用いて除去される。
【0035】
貯液槽3には、図3に示すように、液導入部3dが設けられている。液導入部3dは、硫酸等の液体を貯液空間3aに導入することができる。貯液空間3aに貯留された溶解液7の硫酸濃度は、液導入部3dから硫酸を導入することによって、調節される。
【0036】
処理空間2a内には、図3に示すように、溶解槽2の天井近傍に圧搾部材5が配置されている。圧搾部材5は、図4に示す炭素繊維9よりも上側に配置されている。圧搾部材5は、環状部材である。圧搾部材5は、溶解槽2の内周面とガイド壁6の外周面との間に配置される。圧搾部材5は、処理空間2a内を上下動することができる。
【0037】
溶解液7を用いてCFRP材に含有される樹脂材を溶解すると、図7に示すように、炭素繊維9が露出する。露出した炭素繊維9は、溶解液7を含んで膨張している。樹脂材の溶解が終了した後、処理空間2a内の溶解液7を貯液空間3aに戻し、炭素繊維9を脱液する。具体的には、処理空間2a内の溶解液7を貯液空間3aに戻す際に、圧搾部材5を降下させる。圧搾部材5を降下させると、溶解液7を含んで膨張している炭素繊維9を圧搾することができる。圧搾された溶解液7は、貯液空間3aに戻される。
【0038】
処理空間2aには、図3に示すように、ガイド壁6が設けられている。ガイド壁6は、図3に示すように、溶解槽2下面に設けられるガス導入部8を覆うように設けられている。ガイド壁6は、ガス導入部8に加えて、通液管4の溶解槽2側の開口部を覆うように設けられていることが好ましい。ガイド壁6は、溶解槽2の下面から溶解槽2の天井に向かって延設されている。ガイド壁6は、断面円形状の筒状部材である。炭素繊維9を含有するCFRP材は、図4に示すように、ガイド壁6の外側に投入される。
【0039】
ガイド壁6の溶解槽2下面近傍及びガイド壁6の溶解槽2天井近傍には、図示しない貫通孔が設けられている。ガイド壁6に設けられた貫通孔は、炭素繊維9が通ることを抑制しつつ溶解液7を通すことができる大きさの貫通孔である。貫通孔は、複数設けられてもよいし、1つ設けられてもよい。ガイド壁6に設けられた貫通孔の形状は、炭素繊維9が通ることを抑制しつつ溶解液7を通すことができる形状であれば、特に限定されない。ガイド壁6に設けられた貫通孔は、例えば、メッシュ状であってもよい。また、ガイド壁6に設けられた貫通孔は、例えば、スリット状であってもよい。
【0040】
溶解槽2の下面には、図3に示すように、ガス導入部8が配置されている。ガス導入部8は、溶解槽2の下面の中央部近傍に配置されることが好ましい。ガス導入部8は、処理空間2aにバブル用ガスを導入することができる。溶解液7が導入されている処理空間2aにバブル用ガスが導入されると、図4に示すように、溶解槽2の下面の中央部近傍においてバブル8aが発生する。
【0041】
ガス導入部8は、例えば、バブリングノズルである。バブリングノズルは、端部等にノズル口を有する筒状部材である。バブリングノズルは、図示しないポンプに接続されている。バブリングノズルは、ノズル口からバブル用ガスを導入することができる。ガス導入部8がバブリングノズルである場合、ノズル口が溶解槽2の下面の中央部近傍に位置するように配置される。
【0042】
ガイド壁6は、バブル8aをガイドする。具体的には、バブル8aは、図4に示すように、ガイド壁6の内側を通って、処理空間2a内において上昇する。バブル8aが上昇する際に、バブル8aの周囲の溶解液7は、バブル8aと共に上昇する。つまり、バブル8aが発生すると、ガイド壁6の内側において、上に向かう液流が発生する。
【0043】
ガイド壁6の内側において上に向かう液流が発生すると、溶解液7は、ガイド壁6の溶解槽2天井近傍に設けられた貫通孔を通って、ガイド壁6の内側からガイド壁の外側に向かって流れる。したがって、ガイド壁6の外側において下に向かう液流が発生する。ガイド壁6の外側において下に向かう液流が発生すると、溶解液7は、ガイド壁6の溶解槽2下面近傍に貫通孔を通って、ガイド壁6の外側からガイド壁6の内側に向かって流れる。このように、ガス導入部8からバブル用ガスを導入すると、図4の矢印に示す液流が発生する。
【0044】
例えば、樹脂溶解装置1に、ガイド壁6を設置しない場合を考える。ガイド壁6が設置されない場合、バブル8aは、処理空間2a内に投入されたCFRP材にぶつかる。溶解液7を含んで膨張した炭素繊維9は、バブル8aがぶつかると、バブル8aを抱き抱えてバブル8aと共に上昇しやすい。したがって、炭素繊維9が露出したCFRP材は、溶解液7の液面に露出しやすい。そのため、樹脂材の溶解に要する時間が長くなる虞がある。
【0045】
一方、樹脂溶解装置1にガイド壁6を設置する場合、ガイド壁6の外側に投入されたCFRP材は、図4に示すように、下に向かう液流を受ける。したがって、CFRP材は、樹脂材が一部溶解して炭素繊維9が露出しても、溶解液7の液面に浮上しにくい。そのため、樹脂溶解装置1にガイド壁6を設置する場合、CFRP材が常に溶解液7に浸った状態で、対流する溶解液7を用いて樹脂材を溶解することができる。そのため、樹脂溶解装置1は、ガイド壁6が設けられない樹脂溶解装置に比較して、樹脂材の溶解に要する時間が短い。
【0046】
以上で説明したように、本実施の形態に係る樹脂溶解装置は、溶解液の対流を起こし、CFRP材が含有する樹脂材を短時間で溶解することができる。
次に、図5を参照して、本実施の形態に係る樹脂溶解方法について説明する。図5は、本実施の形態に係る樹脂溶解方法を示すフローチャートである。
【0047】
本実施の形態に係る樹脂溶解方法では、図5に示すように、まず、溶解する工程(ステップS1)を行う。溶解する工程(ステップS1)を行う際には、図4に示すように、炭素繊維9を含有するCFRP材をガイド壁の外側に投入する。そして、図3に示すように、排気部2cから処理空間2a内の気体を排気しつつエア導入部3bを用いて貯液空間3aに圧縮空気を導入し、処理空間2a内に溶解液7を導入する。
【0048】
溶解する工程(ステップS1)を行う際には、ガス導入部8からバブル用ガスを導入し、図4に示すように、溶解液7の対流を発生させる。ガイド壁6の外側に投入されたCFRP材は、下に向かう液流を受けるため、溶解液7の液面に浮上しにくい。したがって、CFRP材が含有する樹脂材を効率良く溶解することができる。
【0049】
溶解する工程(ステップS1)では、貯液空間3aにおいて、120℃以上に温度調節されている溶解液7を処理空間2aに導入する。したがって、処理空間2aにおいて溶解液7を加熱する必要がない。溶解槽2は、処理空間2aに導入された溶解液7の保温を行うことが可能な保温手段を備えることが好ましい。
【0050】
次に、脱液する工程(ステップS2)を行う。脱液する工程(ステップS2)を行う際には、図3に示すように、排気部3cから貯液空間3a内の気体を排気しつつ処理空間2aにエア導入部2bを用いてエアを導入し、貯液空間3aに溶解液7を戻す。
【0051】
脱液する工程(ステップS2)を行う際には、処理空間2aに配置された圧搾部材5を降下させ、炭素繊維9を圧搾する。脱液する工程(ステップS2)において貯液空間3aに戻された溶解液7は、次なるCFRP材が含有する樹脂材の溶解に使用される。
【0052】
化学式(1)や化学式(2)に例示するように、溶解液7を用いて樹脂材を溶解すると、水が生成する。したがって、樹脂材溶解後の溶解液7は、樹脂材溶解前の溶解液7に比較して、濃度が薄い。そこで、液導入部3dから硫酸を貯液槽3に導入し、樹脂材溶解後の溶解液7の硫酸濃度を調節する。
【0053】
脱液する工程(ステップS2)では、溶解槽2を開閉することなく、溶解液7を吸液している炭素繊維9を脱液することができる。つまり、溶解液7を周囲に暴露する虞なく炭素繊維9を脱液することができる。溶解液7は、高温であると共に高濃度の硫酸を含有するため、周囲に暴露すると危険である。本実施の形態に係る樹脂溶解装置1では、炭素繊維9を脱液する際に、溶解液7を周囲に暴露する虞がない。したがって、樹脂溶解装置1は、例えば、貯液槽3が設けられない樹脂溶解装置に比較して、安全に樹脂材の溶解を行うことができる。
【0054】
次に、洗浄する工程(ステップS3)を行う。洗浄する工程(ステップS3)では、図示しない洗浄液を処理空間2aに投入し、溶解液7を中和する。洗浄液は、溶解液7が含有する硫酸を中和することができるアルカリ性の溶液である。洗浄液は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)である。
【0055】
ステップS1~S3では、排気部2c及び排気部3c等から硫黄酸化物や一酸化炭素を含有する空気が排気される。排気された空気が含有する硫黄酸化物や一酸化炭素は、酸化物除去手段を用いて除去される。したがって、本実施の形態に係る樹脂溶解方法では、硫黄酸化物や一酸化炭素を外部に放出することなく、樹脂材を溶解することができる。
【0056】
次に、乾燥する工程(ステップS4)を行う。洗浄する工程(ステップS3)において中和された炭素繊維9は、水分を多く含む。そこで、乾燥する工程(ステップS4)において、炭素繊維9の乾燥を行う。炭素繊維9を乾燥する方法は、特に限定されない。炭素繊維9は、例えば、自然乾燥されてもよいし、オーブン等を用いて乾燥されてもよい。乾燥した炭素繊維9は、CFRP材の原料として再び使用される。
【0057】
以上で説明したように、本実施の形態に係る樹脂溶解方法は、溶解液の対流を起こし、CFRP材が含有する樹脂材を短時間で溶解することができる。本実施の形態に係る樹脂溶解方法は、樹脂材を燃焼させることなくCFRP材から樹脂材を除去することができる。したがって、本実施の形態に係る樹脂溶解方法は、樹脂材を燃焼させる場合に比較して、二酸化炭素の排出量を抑制することができる。
次に、図6~9を参照して、溶解液7の温度条件及び濃度条件についてさらに説明する。
【0058】
図6は、脱水実験に用いたサンプルの写真である。図7は、硫酸濃度と樹脂材の脱水との関係を表す図である。図8は、硫酸濃度と樹脂材の酸化との関係を表すグラフである。図9は、樹脂材の溶解後における、CFRP材及び溶解液の写真である。
【0059】
<脱水実験>
発明者らは、図6に示す3種のサンプルを使用して、CFRP材が含有する樹脂材の脱水実験を行った。3種のサンプルは、図6に示すように、ビニルエステル樹脂、ナイロン6樹脂、又はエポキシ樹脂を含有するCFRP材であった。脱水実験における実験条件は、以下の通りであった。
・脱水実験条件
溶解液の温度 150℃
サンプルの繊維体積含有率Vf 40%
サンプルと溶解液との体積比 1:9
溶解液の硫酸濃度 80wt%、90wt%、98wt%
【0060】
脱水実験の実験結果を図7に示す。図7において、○は、樹脂材が脱水していたことを示す。×は、樹脂材が脱水していなかったことを示す。3種のサンプルは、いずれも、溶解液7の硫酸濃度が90wt%以上である場合に樹脂材が脱水していた。
【0061】
<酸化実験>
次に、発明者らは、CFRP材が含有する樹脂材の酸化実験を行った。酸化実験における実験条件は以下の通りであった。
・酸化実験条件
サンプルの繊維体積含有率Vf 40%
サンプルと溶解液との体積比 1:9
【0062】
溶解液7の温度を徐々に上昇させつつ、樹脂材の酸化によって発生する二酸化硫黄の量を計測した。二酸化硫黄の発生量は、溶解液のpHを維持するために添加した水酸化ナトリウム水溶液量から計測した。酸化実験の計測結果を図8に示す。図8に示すように、溶解液7の温度が120℃程度となった時点で、二酸化硫黄の発生量が急激に増大した。つまり、溶解液7の温度が120℃以上である場合に、CFRP材が含有する樹脂材は酸化していた。
【0063】
脱水実験の結果から、溶解液7の硫酸濃度が90wt%以上である場合に樹脂材の脱水反応が起こることが確認された。また、酸化実験の結果から、溶解液7が120℃以上に温度調節されている場合に樹脂材の酸化反応が起こることが確認された。
【0064】
図9は、樹脂材の溶解後における、CFRP材及び溶解液の写真である。図9における樹脂材の溶解では、CFRP材と溶解液7との体積比を1:9とした。CFRP材の繊維体積含有率Vfは40%であった。溶解液7の硫酸濃度は、98wt%であった。
【0065】
図9に示すように、溶解液7の温度が120℃である場合、CFRP材が含有する樹脂材が溶解され、溶解液7の色が黒色に変化していた。このことから、溶解液7の硫酸濃度が90wt%以上であると共に溶解液7が120℃以上に温度調節されている場合、脱水反応及び酸化反応によって樹脂材が溶解されることが確認された。
【実施例
【0066】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。なお、これらの記載は、本発明を限定するものではない。
【0067】
[実施例1]
実施例1では、硫酸を含有する溶解液を用いてエポキシ樹脂を含有するCFRP材を溶解した。実施例1において溶解したCFRP材の繊維体積含有率Vfは、40%であった。実施例1における溶解条件は、以下の通りであった。
・溶解条件
溶解液の温度 150℃
溶解液の硫酸濃度 98wt%
【0068】
[実施例2~3]
実施例2では、実施例1におけるエポキシ樹脂の代わりにビニルエステル樹脂を含有するCFRP材を溶解した。実施例3では、実施例1におけるエポキシ樹脂の代わりにナイロン樹脂を含有するCFRP材を溶解した。実施例2及び実施例3における溶解条件は、実施例1における溶解条件と同様であった。
【0069】
[比較例1~3]
比較例1~3では、実施例1~3における硫酸を含有する溶解液の代わりに有機溶剤を用いて樹脂材を溶解した。
【0070】
<樹脂材の溶解時間の計測>
実施例1~3及び比較例1~3におけるCFRP材が含有する樹脂材の溶解に要した時間を計測した。図10は、実施例1~3における樹脂材の溶解時間の計測結果を示すグラフである。
【0071】
図10に示すように、実施例1及び実施例2において樹脂材の溶解に要した時間は、1時間程度であった。実施例3において樹脂材の溶解に要した時間は、2時間程度であった。一方。比較例1において樹脂材の溶解に要した時間は、5時間程度であった。なお、比較例2及び比較例3において樹脂材は不溶であった。このことから、本発明に係る樹脂溶解方法は、有機溶剤を使用した樹脂溶解方法に比較して、樹脂材の溶解に要する時間が短く、溶解可能な樹脂材の種類が多いことが明らかになった。
【0072】
<炭素繊維のSEM画像>
実施例2において樹脂材を溶解した後、CFRP材が含有していた炭素繊維9を回収した。図11は、実施例2において回収された炭素繊維の写真である。図11に示す写真は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)を用いて撮影された。図11に示すように、実施例2において回収された炭素繊維9には、樹脂材の残渣がみられなかった。
【0073】
<炭素繊維のせん断強さ>
次に、実施例1において回収された炭素繊維9にナイロン6樹脂を密着させた場合のせん断強さを、マイクロドロップレット法によって計測した。図12は、実施例1において回収された炭素繊維のせん断強さの計測結果を示すグラフである。図12に示す比較例4は、CFRP材が含有する樹脂材を燃焼させることによって除去する燃焼法によって回収された炭素繊維である。比較例5は、CFRP材を形成する前の新材である。
【0074】
図13は、実施例1において回収された炭素繊維のせん断強さの計測結果をまとめたグラフである。図13は、図12に示した計測結果をまとめたグラフである。図12及び図13に示すように、実施例1において回収された炭素繊維9は、燃焼法によって回収された比較例4や新材である比較例5に比較して、せん断強さが強い傾向が見られた。このことから、本発明の樹脂溶解方法を用いて回収された炭素繊維9は、新材に比較して、表面性状が同程度又は高いことが明らかになった。
【0075】
<CFRP材の引張強度>
次に、実施例1において回収された炭素繊維9を用いて、ナイロン6樹脂を含有するCFRP材を成型した。成型されたCFRP材の引張強度を計測した。図14は、実施例1において回収された炭素繊維を用いて成型されたCFRP材の引張強度の計測結果を示すグラフである。図14に示すように、実施例1において回収された炭素繊維9を用いて成型されたCFRP材の引張強度は、新材である炭素繊維を用いて成型されたCFRP材の引張強度と同程度であった。このことから、本発明の樹脂溶解方法を用いて回収された炭素繊維9は、引張強度を低下させることなくCFRP材を成型可能であることが明らかになった。
【0076】
以上で説明した本実施の形態に係る発明により、溶解液の対流を起こし、CFRP材に含有される樹脂材を短時間で溶解することができる樹脂溶解装置及び樹脂溶解方法を提供することができる。
【0077】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 樹脂溶解装置
2 溶解槽
2a 処理空間
2b エア導入部
2c 排気部
3 貯液槽
3a 貯液空間
3b エア導入部
3c 排気部
3d 液導入部
4 通液管
5 圧搾部材
6 ガイド壁
7 溶解液
8 ガス導入部
8a バブル
9 炭素繊維
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14