(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】硬化層の積層方法及び積層造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/22 20210101AFI20220329BHJP
B23K 26/342 20140101ALI20220329BHJP
C22C 1/05 20060101ALI20220329BHJP
C22C 29/08 20060101ALI20220329BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220329BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220329BHJP
【FI】
B22F10/22
B23K26/342
C22C1/05 D
C22C29/08
B33Y10/00
B33Y70/00
(21)【出願番号】P 2018196019
(22)【出願日】2018-10-17
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 瑛介
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0038167(US,A1)
【文献】国際公開第2017/110828(WO,A1)
【文献】特開2016-002698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00-12/90,
B23K 26/342,15/00,
C22C 1/05,29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にレーザビームを照射しながら、前記基材上の照射位置に第1粉末と第2粉末とを混合した粉末材料を供給して、前記基材上に硬化層を順次積層する
レーザ粉体肉盛溶接方式による硬化層の積層方法であって、
前記第1粉末は、前記レーザビームで溶融されて前記硬化層のマトリックス部となる合金を含
み、
前記第2粉末は、金属の炭化物からなるセラミック
であり、
前記レーザビームの出力を、前記第2粉末の
前記金属の少なくとも一部が溶融
して前記マトリックス部に固溶されるまで高めて、
前記粉末材料に占める前記第2粉末の体積分率をa[vol%]、前記硬化層の切断面に占める前記第2粉末の残存粒子の面積率をb[area%]とするとき、比b/aが0.2以下になるように、前記第2粉末の前記金属を前記マトリックス部に固溶させる硬化層の積層方法。
【請求項2】
前記第1粉末は、ステライト合金又はコルモノイ合金の粉末であり、前記第2粉末は、炭化タングステン粉末である請求項1に記載の硬化層の積層方法。
【請求項3】
前記硬化層の最外層の表面から当該硬化層の内部に向けて3mmまでの深さ範囲において、ビッカース硬度のばらつきがHv200以下である請求項1
または2に記載の硬化層の積層方法。
【請求項4】
前記基材は、肉盛り対象となる被肉盛部材であり、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の硬化層の積層方法によって、前記被肉盛部材に前記硬化層を肉盛りする積層造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化層の積層方法及び積層造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高い機械的特性が要求される金属部品においては、部品性能を向上させるために種々の製造方法が採用される。例えば、溶接や溶射により部品表面上に耐摩耗性や耐食性に優れた材料を肉盛する方法、金型形成、HIP(Hot Isostatic Pressing)等による粉末焼結や付加製造(Additive Manufacturing)により、要求特性を満足する材料で部品全体を成形する方法、等が用いられる。また、機械的特性が優れる粉末焼結体を成形し、この粉末焼結体を拡散接合やロウ付け等により基材表面に接合する方法も用いられる。
【0003】
特に耐摩耗性や耐食性に優れる材料として、例えば、金属、セラミックスやサーメットを含む材料が挙げられる。これらの材料を用いて表面肉盛、成形、積層造形を実施する場合に、基材との接合強度の確保、加工中の割れの回避、高密度な成形品や積層造形品の実現に向けて、様々な技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、炭化タングステンの粉末及びコバルトベースの合金の粉末を所定の配合で混合した粉末混合物を生成し、この粉末混合物を金型に充填して、熱間等方圧加圧法(HIP処理)により冶金的に結合させることで、耐摩耗性に優れる部品を製造する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2では、粉末積層造形に用いる造形用材料として、セラミックを含む粉末と、金属を含む粉末とにより構成される特殊構造の造形粒子を用いている。具体的には、セラミック粉末として炭化タングステン、炭化クロム粉末、金属粉末としてコバルト、Co-Cr合金であるステライト(登録商標)合金、ニッケルクロム合金、ステンレス鋼粉末で構成された造形粒子を、選択的レーザ溶融法(SLM:Selective Laser Melting)により造形物を製造する方法が記載されている。また、金属粒子、セラミック粒子等の複数種類の単一粒子を混合して造形用材料とする場合には、各材料の比重差等によって造形用材料中に成分の偏りが生じ、造形物にも組織の不均一性が現れるために不適であると記載されている。
【0006】
非特許文献1では、基材表面の耐摩耗性を向上させるため、コバルト合金と炭化タングステンの複合材を、レーザ粉末吹付溶融方式(レーザ粉末肉盛LMD:Laser Metal Deposition)により基材表面にコーティングする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2015-533939号公報
【文献】特開2017-114716号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Wear resistance in the soil of Stellite-6/WC coatings produced using laser cladding method (Int. Journal of Refractory Metals and Hard Materials,Vol.64,2017,pp.20-26)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載の製造方法では、金型が必要となることや、HIP処理を行うためのチャンバーの制約等によって、製造できる部品の形状自由度やサイズが制限される。また、金型の製造工程も含め、部品が製造されるまでに多くの工程を要するため、製造コストが高くなる。
【0010】
特許文献2に記載の方法では、セラミックと金属の粉末により構成される特殊な造形用材料を使用するため、この造形用材料の調製に複雑な工程を要し、材料費が高コスト化する問題がある。また、この方法は、同種の造形用材料で部品全体を造形する場合に適しているが、部品の一部に異種材料を用いて付加造形する場合には、割れを発生させずに、均一で高い硬度を有する層を部分的に付与できるかは定かでない。
【0011】
非特許文献1に記載の方法では、肉盛層全体の硬度を高めるために、含有させる炭化タングステン粉末量を増大させる必要があり、これをレーザ粉末肉盛方式(LMD)で実現しようとすると、肉盛加工中に割れが発生しやすくなる。
【0012】
さらに、非特許文献1に記載の方法において、肉盛層の割れの発生及び硬度分布の不均一化を回避するためには、レーザ出力、レーザ照射範囲、ヘッド走査速度、粉末供給量、ガス流量、等、多くのパラメータを適正化した条件下で加工を実施する必要がある。このため、各パラメータの適正化に多大な労力及び時間を要し、数ミリオーダーの厚さの高硬度な層を、割れを発生させることなく安定して形成することが難しかった。
【0013】
そこで本発明は、数ミリオーダーの高硬度な硬化層を、割れを発生させることなく安定して形成できる硬化層の積層方法及び積層造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下の構成からなる。
(1) 基材上にレーザビームを照射しながら、前記基材上の照射位置に第1粉末と第2粉末とを混合した粉末材料を供給して、前記基材上に硬化層を順次積層するレーザ粉体肉盛溶接方式による硬化層の積層方法であって、
前記第1粉末は、前記レーザビームで溶融されて前記硬化層のマトリックス部となる合金を含み、
前記第2粉末は、金属の炭化物からなるセラミックであり、
前記レーザビームの出力を、前記第2粉末の前記金属の少なくとも一部が溶融して前記マトリックス部に固溶されるまで高めて、
前記粉末材料に占める前記第2粉末の体積分率をa[vol%]、前記硬化層の切断面に占める前記第2粉末の残存粒子の面積率をb[area%]とするとき、比b/aが0.2以下になるように、前記第2粉末の前記金属を前記マトリックス部に固溶させる硬化層の積層方法。
(2)前記基材は、肉盛り対象となる被肉盛部材であり、(1)に記載の硬化層の積層方法によって、前記被肉盛部材に前記硬化層を肉盛りする積層造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、数ミリオーダーの厚さの高硬度な硬化層を、割れを発生させることなく安定して形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】レーザ粉体肉盛溶接を行うレーザ粉体肉盛溶接装置の模式的な構成図である。
【
図2】(A)は試験例1,3,5で作製した積層造形物の概略的な断面図であり、(B)は試験例2,4,6で作製した積層造形物の概略的な断面図である。
【
図3】試験例1の積層造形物の切断面を示す写真である。
【
図4】試験例2の積層造形物の切断面を示す写真である。
【
図5】試験例1,2の積層造形物におけるビッカース硬度分布の測定結果を示すグラフである。
【
図6】(A)は試験例2の面積率測定用画像であり、(B)は(A)の二値化画像である。
【
図7】試験例3の積層造形物の切断面を示す写真である。
【
図8】試験例4の積層造形物の切断面を示す写真である。
【
図9】試験例3,4の積層造形物におけるビッカース硬度分布の測定結果を示すグラフである。
【
図10】(A)は試験例4の面積率測定用画像であり、(B)は(A)の二値化画像である。
【
図11】試験例5の積層造形物の切断面を示す写真である。
【
図12】試験例6の積層造形物の切断面を示す写真である。
【
図13】試験例5,6の積層造形物におけるビッカース硬度分布の測定結果を示すグラフである。
【
図14】(A)は試験例6の面積率測定用画像であり、(B)は(A)の二値化画像である。
【
図15】試験例2,4,6における、それぞれの第2粉末の含有量及び残存粒子の面積率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本発明に係る硬化層の積層方法では、複数種類の粉末を混合した硬化層形成用の粉末材料を基材上に供給して溶融させ、基材上に粉末材料の溶融凝固した硬化層を順次に積層する。この硬化層の積層方法においては、詳細を後述するように、粉末材料が、硬化層のマトリックス部となる合金を含む第1粉末と、セラミックを含む第2粉末とを含み、この粉末材料を第2粉末の少なくとも一部が溶融するまで加熱して、溶融した第2粉末に含まれる金属元素の少なくとも一部を硬化層のマトリックス部に固溶させる。これにより、数ミリオーダーの厚さの高硬度な硬化層を、割れを発生させることなく安定して形成できるようになる。
【0018】
以下の説明では、肉盛層形成用の粉末材料を溶融させるために、レーザ粉体肉盛溶接(LMD:Laser Metal Deposition)を用いる例を説明するが、本発明はこれに限らない。例えば、レーザ積層造形法(LAM:Laser Additive Manufacturing)、選択的レーザ溶接法(DMLS:Direct Metal Laser Sintering)、プラズマ粉体肉盛溶接法(PTA:Plasma Transferred Arc welding)、等にも本硬化層の積層方法を好適に適用できる。特にレーザ粉体肉盛溶接の場合には、溶接ロボットを用いてワークを溶接するため、ワークをチャンバー内で加工する場合よりも積層造形の形状自由度を向上できる利点がある。
【0019】
[レーザ粉体肉盛溶接装置]
図1はレーザ粉体肉盛溶接を行うレーザ粉体肉盛溶接装置100の模式的な構成図である。
図1に示すレーザ粉体肉盛溶接装置(以下、LMD装置と称する。)100は、不図示の多軸の溶接ロボットに取り付けられた溶接トーチ11と、溶接トーチ11にレーザ光を供給するレーザ光源部15と、レーザ光源部15のレーザ出力を調整する出力調整部17と、溶接トーチ11に後述する肉盛層形成用の粉末材料35を供給する粉末材料供給部19と、粉末材料調製部21とを備える。
【0020】
溶接トーチ11は、加工対象である基材23に対して相対移動可能なロボットアーム(図示省略)に支持される。溶接トーチ11は、ロボットアームの駆動によって基材23上の所望の溶接線に沿って相対移動される。
図1には溶接方向TDに沿って溶接トーチ11を移動させながら溶接する様子を示している。
【0021】
溶接トーチ11の先端には、レーザ照射口25、粉末材料供給口27、シールドガス供給口29が設けられる。
【0022】
レーザ照射口25は、溶接トーチ11の先端中央で開口し、レーザ照射口25から基材23にレーザビームLBが照射される。レーザビームLBは、レーザ光源部15で発振され、導光系31を経て溶接トーチ11に導かれる。出力調整部17は、レーザ光源部15のレーザ出力を調整することで、溶接部の入熱量を任意に増減制御できるようになっている。
【0023】
粉末材料供給口27は、レーザ照射口25の径方向外側に同心状に開口し、粉末材料供給部19から供給された粉末材料35が、供給経路37を通じて粉末材料供給口27から基材23に向けて噴射される。この粉末材料35は、粉末材料調製部21によって調製され、粉末材料供給部19によって基材23への供給量が調整される。
【0024】
粉末材料調製部21は、粉末材料供給部19が溶接トーチ11に供給する粉末材料35における第2粉末の配合量を調整させる。
【0025】
粉末材料供給部19は、不図示のキャリアガス供給部からのキャリアガスとともに、粉末材料35を粉末材料供給口27から噴射させる。基材23に向けて噴射された粉末材料35は、基材23の表面において、集光されたレーザビームLBによって溶融した後に冷却されて凝固し、硬化層41を形成する。
【0026】
シールドガス供給口29は、粉末材料供給口27の外側に同心状に開口しており、シールドガス供給口29から基材23にシールドガスGが供給される。シールドガスGは、硬化層41及びその周辺の酸化を抑制する。
【0027】
[粉末材料]
粉末材料調製部21は、Co-Cr合金や、Co基合金であるCo-Cr-W-C系合金鋼(ステライト合金)を含む第1粉末と、炭化タングステンを含む第2粉末とを、機械的に混合して、肉盛層形成用の粉末材料35を調製する。ここでいう「機械的に混合する」とは、異なる種類の粉状体をキャリアガス流に供給することにより、特別な加工を伴うことなく、粉末材同士を混合することを意味する。
【0028】
第1粉末としては、例えば、ステライト#1,#6,#12,#21等、コルモノイ(登録商標)#5,#21等が使用可能である。また、第2粉末としては、例えば、炭化タングステン粉末が使用可能であり、その他、炭化クロムや炭化チタン等も使用可能である。第1粉末及び第2粉末には、いずれも市販の粉末材料をそのまま用いることができる。
【0029】
[基材]
基材23は平板状の鋼材であるが、平板状に限らず、曲面を有する板材や、ブロック体、管状体等、製造しようとする積層造形物の形状に応じて、適宜な形状のものが採用される。基材23の材質は、ステンレス鋼材等の鋼材の他、コバルトベースやニッケルベースの合金等を用いることができる。
【0030】
[肉盛層(積層造形体)の形成]
図1に示すLMD装置100は、溶接トーチ11をロボットアームで移動させながらレーザ粉体肉盛溶接を実施して、基材23上に粉末材料35の溶融、凝固により硬化層41を形成する。硬化層41を複数層重ねて形成することで、より厚みのある積層造形体が形成される。
【0031】
レーザ粉体肉盛溶接の際、第2粉末に含まれるセラミック粉末の少なくとも一部が溶融するまでレーザ出力を高め、第1粉末よりも融点が高い第2粉末の少なくとも一部を溶融させる。第2粉末が炭化タングステンの場合、溶融した炭化タングステンに含まれる金属元素(タングステン)の少なくとも一部を、硬化層41のマトリックス部となる第1粉末の合金に固溶させる。その結果、マトリックス部も含めて機械的特性(硬度)が向上し、しかも均一な硬度分布を有する硬化層41が形成される。
【0032】
[作用・効果]
高硬度材料を使用するレーザ粉体肉盛溶接では、材料同士の線膨張係数の違いにより凝固時に生じる残留応力の影響で、基材23と硬化層41との界面や硬化層41内で割れが発生しやすい傾向がある。また、材質の組み合わせによっては脆化層が形成されることで割れやすくなる。しかし、本方法のように、第2粉末であるセラミック粉末の少なくとも一部が溶融する温度範囲になるまでレーザ出力を高めることで、基材23側と硬化層41側との材質が異なる界面でセラミック粉末の固溶が促進され、界面における接合強度が、溶射、拡散接合、ブレージング等の従来方式と比較して向上する。
【0033】
また、レーザ光によりセラミック粉末の一部を溶融させる温度範囲に加熱することで、溶融部及びその周囲の入熱量が増加して、溶融した粉末材料35の凝固速度が遅くなる。このため、残留応力の発生が緩和され、加工中の割れの発生も抑制できる。
【0034】
一般にレーザ出力を高め、溶融部への入熱量を増加させた場合、溶融した粉末材料35の冷却速度が遅くなるため、得られる硬化層41は凝固組織が粗大化して、硬度が低下する傾向がある。これに対し、本硬化層の積層方法によれば、第2粉末である炭化タングステンの粉末に含まれる高硬度な金属元素をマトリックス部に固溶させることで、その硬度低下分を補うことができる。また、第1粉末(マトリックス合金粉末)のみを用いた単相肉盛の場合に比べて、より高い硬度が得られる。
【0035】
一般に、マトリックス合金とセラミックとを焼結させ、又はマトリックス合金粉末のみを溶融させて硬化層を形成すると、マトリックス合金がセラミックを元の粒子状態を保ったまま含有して凝固する。その場合、マトリックス合金とセラミックとのそれぞれ単体での硬度差が大きいため、セラミック粒子の分布状態によっては、硬化層内の組織や硬度特性が不均一になりやすい。一方、本硬化層の積層方法によれば、セラミック粉末に含まれる金属元素をマトリックス部に固溶させるため、マトリックス部の硬度が均一に高められた硬化層を形成できる。
【0036】
また、第2粉末に炭化タングステンを用いた場合、その比重が第1粉末と比較して大きいため、元の粒子状態のままでは硬化層の溶融部で沈降しやすくなる。その結果、炭化タングステンの分散に偏りが生じやすくなる。これに対し、本硬化層の積層方法によれば、第2粉末の一部も溶融させるため、粒子状態として残る炭化タングステンの粒子サイズが小さくなり、その分散の均一性も改善される。
【0037】
さらに、本硬化層の積層方法によれば、第1粉末と第2粉末とを粉体状体のまま混合した粉末材料35を使用してレーザ粉体肉盛溶接を実施することで、材料の調製のための複雑な工程が不要であり、材料コストを低減できる。
【0038】
また、本硬化層の積層方法では、粉末材料35中に配合された第2粉末の粉末材料35に対する体積分率をa[vol%]、硬化層41の切断面における第2粉末の残存粒子の単位面積当たりの面積率をb[area%]とした場合、比b/aが0.2以下になるようにする。これにより、後に実施例を示して詳述するように、硬化層41内の硬度分布を均一化し、硬化層41の耐摩耗性を向上させることができる。
【0039】
配合される第2粉末の体積分率aの変更は、キャリアガス流に供給する第1粉末と第2粉末との供給量比の調整によりなされる。第2粉末の残存粒子の面積率bの変更は、第2粉末であるセラミック粉末の一部を溶融させる温度となるようにレーザ出力を調整した結果としてなされる。
【0040】
ここで、レーザ出力の調整は、
図1に示すレーザ光源部15のレーザ出力を増減させる方式に限らない。例えば、一定光量で出力されるレーザビームLBの光路途中にNDフィルタやアッテネータ等の光学素子を配置して光量調整してもよい。その場合、レーザビームLBを、出力によらずに安定化できる。
【0041】
また、本硬化層の積層方法では、硬化層41の最外層の表面から、その硬化層41の内部に向けて3mmまでの深さ範囲において、ビッカース硬度のばらつきがHv200以下になるようにする。
【実施例】
【0042】
図1に示すLMD装置100を用いて、表1に示す試験例1~6の各条件で、基材上に硬化層(肉盛層)を形成した。試験例1~6においては、基材として寸法50mm×50mm×20mm(厚さ)のステンレス鋼板を用いた。
【0043】
【0044】
試験例1,3,5は、硬化層形成用の粉末材料として第1粉末のみを使用し、
図2の(A)に示すように、基材23上に一本のビード24からなる硬化層41を形成した。試験例1,3ではレーザ出力を3.5kW、試験例5ではレーザ出力を2.5kWとすることで、割れのない硬化層を形成できた。加工後に割れが生じていないことは、浸透探傷試験(PT:Penetrant Testing)により確認した。
【0045】
試験例2,4,6は、硬化層形成用の粉末材料として第1粉末と第2粉末との混合粉末を使用し、
図2の(B)に示すように、基材23上に各層5本のビード24からなる二層構造の硬化層41を形成した。レーザ出力は、試験例1と試験例2、試験例3と試験例4、試験例5と試験例6で、それぞれ同じ条件とした。
【0046】
表2には、第1粉末と第2粉末とを混合した試験例2,3,6における、各粉末の供給量の詳細と、詳細を後述する第2粉末の含有量(質量分率、体積分率a)、面積率b、比b/aを纏めて示す。
【0047】
【0048】
また、試験例1~6で形成した硬化層をそれぞれ切断した断面において、ビッカース硬度測定を行った。硬度測定にはマイクロビッカース硬度計を用い、試験荷重を300gfとした。
【0049】
(試験例1,2)
試験例1では、硬化層をステライト♯1(第1粉末)のみで形成した。試験例2では、硬化層をステライト♯1(第1粉末)と炭化タングステン(第2粉末)との混合粉末を用いて形成した。レーザ出力は、試験例1,2で共に3.5kWとし、試験例2では、ステライト♯1からなる硬化層のマトリックス中に、第2粉末である炭化タングステンの一部を固溶させた。
【0050】
表2に示すように、試験例2の混合粉末における第2粉末の配合量は、第1粉末の密度と供給速度、第2粉末の密度と供給速度から換算され、質量分率では11.2[wt.%]、体積分率aでは8.17[vol%]であった。
【0051】
試験例1の硬化層の切断面を
図3、試験例2の硬化層の切断面を
図4に示す。
各試験例におけるビッカース硬度は、硬化層の表面からその内部に向けて0.4mmピッチで測定した。
【0052】
試験例1,2のビッカース硬度の測定結果を
図5に示す。
試験例1では、硬化層の表面から1.6mm以内の範囲における硬度は、概ねHv550~600程度であった。
試験例2の硬化層の表面から約3mmまでの範囲におけるビッカース硬度は、Hv700以上であり、炭化タングステンが配合された試験例2が、炭化タングステンを含まない試験例1よりも硬度が向上した。試験例2の硬化層の厚さ方向における硬度のばらつきΔHvは、Hv200以下であった。
【0053】
試験例2の硬化層の切断面において、第2粉末の残存粒子の単位面積当たりの面積率bは、
図4に示す硬化層の切断面に長方形で囲んで示す一定面積の検査領域Aを定め、この検査領域A内に存在する残存粒子の合計面積を測定することにより行った。
【0054】
具体的には、硬化層の切断面を撮像して得た撮像画像における検査領域Aの部分を、
図6の(A)に示すように、面積率測定用画像として切り出した。次に、切り出した面積率測定用画像を、高輝度のマトリックスと低輝度の炭化物とを区別するように閾値を設定して二値化画像に変換した。これにより、
図6の(B)に示すように、白画素で示されるマトリクス内に黒画素で示される炭化物が点在した二値化画像を得た。そして、得られた二値化画像から、検査領域Aの面積に占める黒画素の面積の割合を算出し、これを残存粒子の面積率b[area%]とした。
【0055】
図6(B)の二値化画像に基づく残存粒子の面積率bの計算結果は、0.971[area%]であり、第2粉末の体積分率aとの比b/aは、0.119であった。
【0056】
これによれば、硬化層をステライト♯1(第1粉末)のみで形成した試験例1よりも、硬化層をステライト♯1(第1粉末)と炭化タングステン(第2粉末)との混合粉末を用いて形成した試験例2の方が、硬度分布が均一で高硬度な硬化層が得られることを確認できた。また、試験例2により、硬度分布が均一で高硬度な硬化層を数ミリオーダーの厚さで形成し得ることを確認できた。
【0057】
(試験例3,4)
試験例3では、表1に示すように、硬化層をコルモノイ♯5(第1粉末)のみで形成した。試験例4では、硬化層をコルモロイ♯5(第1粉末)と炭化タングステン(第2粉末)との混合粉末を用いて形成した。レーザ出力は、試験例3,4で共に3.5kWとし、試験例4では、コルモロイ♯5からなるマトリックス中に、第2粉末である炭化タングステンの一部を固溶させた。
【0058】
図9に示すように、試験例3の硬化層の表面から2mm以内の範囲におけるビッカース硬度は、Hv440以下であった。試験例4の硬化層の表面から4mm以内の範囲におけるビッカース硬度は、Hv580以上であり、硬化層の厚さ方向における硬度のばらつきΔHvは、Hv200以下であった。
【0059】
表2に示すように、試験例4の混合粉末における第2粉末の配合量は、前述同様に各粉末の密度と供給速度から換算され、質量分率では11.2[wt.%]であり、体積分率aでは7.71[vol%]であった。
【0060】
また、
図10の(A)に示す硬化層の切断面における検査領域Aを二値化した
図10の(B)に示す二値化画像に基づく第2粉末の残存粒子の面積率bの計算結果は、1.14[area%]であり、第2粉末の体積分率aとの比b/aは、0.148であった。
【0061】
これによれば、硬化層をコルモロイ♯5(第1粉末)のみで形成した試験例3よりも、硬化層をコルモロイ♯5(第1粉末)と炭化タングステン(第2粉末)との混合粉末を用いて形成した試験例4の方が、硬度分布が均一で高硬度な硬化層が得られることを確認できた。また、試験例4により、硬度分布が均一で高硬度な硬化層を数ミリオーダーの厚さで形成し得ることを確認できた。
【0062】
(試験例5,6)
試験例5では、硬化層をコルモロイ♯21(第1粉末)のみで形成した。試験例6では、硬化層をコルモロイ♯21(第1粉末)と炭化タングステン(第2粉末)との混合粉末を用いて形成した。コルモロイ♯21はステライト♯1等と比較して硬度が低いため、レーザ出力は試験例5,6で共に2.5kWに抑え、炭化タングステン粉末を溶融させずに粒子の状態で、コルモロイ♯21からなるマトリックス中に残存させた。
【0063】
図13に示すように、試験例5の硬化層の表面から1.2mm以内の範囲における硬度は、Hv420以下であった。試験例6の硬化層の表面から3.6mm以内の範囲における硬度は、Hv480以上である。また、硬化層の厚さ方向における硬度のばらつきΔHvは、Hv200を超える大きさに増加した。
【0064】
表2に示すように、試験例6の混合粉末における、質量分率で評価した粉末材料における第2粉末の配合量は、前述同様に各粉末の密度と供給速度から換算され、質量分率では29.6[wt.%]であり、体積分率aでは22.2[vol%]であった。
【0065】
また、
図10の(A)に示す硬化層の切断面における検査領域Aを二値化した
図13の(B)に示す二値化画像に基づく第2粉末の残存粒子の面積率bの計算結果は、25.1[area%]であり、第2粉末の体積分率aとの比b/aは、1.13であった。これは、炭化タングステン粉末が溶融せず粒子の状態で残存していることによる。
【0066】
これによれば、硬化層をコルモロイ♯21(第1粉末)と炭化タングステン(第2粉末)との混合粉末を用いて形成した試験例6であっても、試験例4との比較から、比b/aが0.2[area%]を超えた場合には、硬度分布がバラつき、所望の高硬度な硬化層が安定して得られないことがわかる。これは、
図12の切断面のように、第2粉末の残存粒子が殆ど存在しない領域と、密集した領域とが混在しており、残存粒子が局所的な偏りを有して不均一に分散されているため、第2粉末の分布に応じた硬度分布が生じたものと考えられる。
【0067】
図15は、試験例2,4,6における、それぞれの第2粉末の含有量及び残存粒子の面積率を示すグラフである。試験例2及び試験例4では、比b/aが0.119及び0.148で、いずれも0.2[area%]以下となり、第2粉末の配合量に対する残存粒子量が少ない。一方、試験例6では、比b/aが25.1[area%]であり、その殆どが残存したままである。試験例6のビッカース硬度のバラつきは、このような多量の第2粉末の残存粒子が、不均一な硬度分布を更に助長したものと考えられる。
【0068】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0069】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 複数種類の粉末を混合した硬化層形成用の粉末材料を基材上に供給して溶融させ、前記基材上に前記粉末材料の溶融凝固した硬化層を順次に積層する硬化層の積層方法であって、
前記粉末材料は、前記硬化層のマトリックス部となる合金を含む第1粉末と、セラミックを含む第2粉末とを含み、
前記粉末材料を前記第2粉末の少なくとも一部が溶融するまで加熱して、溶融した前記第2粉末に含まれる金属元素の少なくとも一部を前記硬化層のマトリックス部に固溶させる硬化層の積層方法。
この硬化層の積層方法によれば、第2粉末の一部を、硬化層のマトリックス部となる第1粉末の合金に固溶させ、マトリックス部も含めて硬度を向上させることにより、数ミリオーダーの厚さの硬化層を、割れを発生させることなく安定して形成することができる。
【0070】
(2) 前記第1粉末は、ステライト合金又はコルモノイ合金の粉末であり、
前記第2粉末は、炭化タングステン粉末である(1)に記載の硬化層の積層方法。
この硬化層の積層方法によれば、炭化タングステン粉末の一部を、硬化層のマトリックス部となるステライト合金又はコルモノイ合金に固溶させ、マトリックス部も含めて硬度を向上させることができる。
【0071】
(3) 前記粉末材料中に配合された前記第2粉末の前記粉末材料に対する体積分率をa[vol%]、前記硬化層の切断面における前記第2粉末の残存粒子の単位面積当たりの面積率をb[area%]とした場合、比b/aが0.2以下である(1)又は(2)に記載の硬化層の積層方法。
この硬化層の積層方法によれば、硬度分布が均一で高硬度な硬化層をより安定して形成できる。
【0072】
(4) 前記硬化層の最外層の表面から当該硬化層の内部に向けて3mmまでの深さ範囲において、ビッカース硬度のばらつきがHv200以下である(1)~(3)のいずれか一つに記載の硬化層の積層方法。
この硬化層の積層方法によれば、耐摩耗性等に優れた高硬度な硬化層を安定して形成できる。
【0073】
(5) 前記硬化層をレーザ粉体肉盛溶接法によって形成する(1)~(4)のいずれか一つに記載の硬化層の積層方法。
この硬化層の積層方法によれば、耐摩耗性等に優れた高硬度な硬化層を、工程を煩雑にすることなく形成できる。
【0074】
(6) 前記基材は、肉盛り対象となる被肉盛部材であり、
(1)~(5)のいずれか一つに記載の硬化層の積層方法によって、前記被肉盛部材に前記硬化層を肉盛りする積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、数ミリオーダーの厚さの硬化層を、割れを発生させることなく肉盛りでき、高品位な積層造形物の製造が可能となる。
【符号の説明】
【0075】
23 基材(被肉盛部材)
35 粉末材料
41 硬化層
43 造形物
100 レーザ粉体肉盛溶接装置