(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】疎水性物質を被包するための方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20220329BHJP
【FI】
A23L5/00 C
(21)【出願番号】P 2018513917
(86)(22)【出願日】2016-03-15
(86)【国際出願番号】 ES2016070165
(87)【国際公開番号】W WO2016189173
(87)【国際公開日】2016-12-01
【審査請求日】2018-07-19
【審判番号】
【審判請求日】2020-05-01
(32)【優先日】2015-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】517413373
【氏名又は名称】カヴィアローリ・エセ・エレ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ラモン・ラモン・レアル
(72)【発明者】
【氏名】ラモン・マリア・ラモン・フェレス
【合議体】
【審判長】村上 騎見高
【審判官】瀬良 聡機
【審判官】関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/022909(WO,A1)
【文献】英国特許出願公開第2486945(GB,A)
【文献】特開平6-55060(JP,A)
【文献】特開昭49-55568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE FSTA STN
JSTPLUS/JMEDPLUS/JST7580 JDREAMIII
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性物質の2層のカプセルの工業規模での調製方法であって、以下の工程
(a)アルギン酸塩の濃度が、溶液の0.05質量%~5%質量%の範囲にある、非カルシウムのアルギン酸塩の水溶液を調製する工程と、
(b)被包しようとする疎水性物質を用意する工程と、
(c)被包しようとする疎水性物質及び非カルシウムのアルギン酸塩の水溶液を
2~5の範囲の直径比を有する同心円チューブにより送液する工程であり、ノズルを振動することなく、被包しようとする疎水性物質を内側チューブにより送液し、前記内側チューブの直径は2mm~5mmであり、非カルシウムのアルギン酸塩の水溶液を外側チューブにより送液し、前記外側チューブの直径は6mm~25mmである、工程と、
(d)工程(c)で形成される1滴又は複数の液滴を、カルシウムイオンを含む水溶液に導入する工程と、
(e)工程(d)で形成されるカプセルを洗浄、排液及び包装する工程と
を含み、
前記カプセルが透明であり、4mm~25mmの範囲の直径を有することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記被包しようとする疎水性物質が、食用油、浸出油、精油、樹脂、水に非混和性の有機化合物及びそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記食用油が、オリーブ油、ひまわり油、ハシバミの実の油、ゴマ油、くるみ油、アーモンド油、綿実油、アボガド油、落花生油、キャノーラ油、サフラワー油、ココナッツ油、トウモロコシ油、パーム油、大豆油、及びそれらの組み合わせを含むリストから選択されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記食用油が、ドレッシング、アロマ、フレーバー及び油に可溶な他の食品添加物と混合されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記精油が、タイム(タチジャコウソウ(Thymus vulgaris))の油、オレガノ(ハナハッカ(Origanum vulgaris))の油、クローブ(チョウジノキ(Syzygium aromaticum))の油、ナツメグ(ニクズク(Myristica fragrans))の油、シナモン(セイロンニッケイ(Cinnamomum zeylanicum))の油、月桂樹(ゲッケイジュ(Laurus nobilis))の油、オレンジ(キンクネンボ(Citrus sinensis))の油、ペパーミント(コショウハッカ(Mentha piperita))の油、バレリアン(セイヨウカノコソウ(Valeriana officinalis))の油、シトロネラ(シトロネラグラス(Cymbopogon nardos))の油、ラベンダー(ラベンダー(Lavanda angustifolia))の油、ホホバ(シモンジアカリフォルニカ(Simmondsia californica))の油、ローズマリー(マンネンロウ(Rosemarinus officinalis))の油、ニーム(インドセンダン(Azadirachta indica))の油、綿実(キヌワタ(Gossypium hirsutum))の油、ローズヒップ(ロサエグランテリア(Rosa eglanteria))の油、又はそれらの組み合わせを含むリストから選択されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記カルシウムイオンを含む水溶液が、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、又はそれらの混合物の溶液の中から選択されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記カルシウムイオン源が、塩化カルシウムであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記使用するアルギン酸塩が、アルギン酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記アルギン酸塩溶液のpHが、2~14であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記カプセルが、6mm~25mmの範囲の直径を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記カプセルが、8mm~25mmの範囲の直径を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記カプセルが、10mm~25mmの範囲の直径を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記カプセルが、12mm~25mmの範囲の直径を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記カプセルが、14mm~25mmの範囲の直径を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記カプセルが、16mm~25mmの範囲の直径を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記カプセルが、18mm~25mmの範囲の直径を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記カプセルが、20mm~25mmの範囲の直径を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性物質、特に油状物質の被包を可能にする方法であって、前記カプセルがアルギン酸カルシウムのフィルムで被覆される方法に関する。
【0002】
本発明の疎水性物質、特に油状物質のカプセルは、「球体化」として一般に知られる手順により得られる。工業規模での球体化では、例えば、被包しようとする物質及び非カルシウムのアルギン酸塩の溶液は、ゲル化剤として作用する非カルシウムのアルギン酸塩の溶液のフィルムにより包まれた、被包しようとする物質の液滴の形成を可能にするように、異なる流速を有する2つの同心円チューブにより送液される。前記液滴は、カルシウムイオン源を含むバス中に落下し、被包しようとする材料を含むゲルの層を形成する。前記フィルムは、ほぼ瞬時に形成され、外側は半固体でゼラチン状であり、内部には被包された物質を保持する。
【背景技術】
【0003】
工業的球体化の方法は、例えば、特許出願PCT国際公開第2009/109681(A1)号パンフレットに開示されており、ここでは、果肉等の食品が被包され、前記食品は常に水系であり、すなわち、被包しようとする物質は親水性である。
【0004】
しかし、本特許の発明者は、被包しようとする物質が疎水性物質、特に油状物質である球体化の手順については認識していない。油状物質の液滴が、形成された液滴が落下することになるカルシウムイオンの溶液より低い密度を有する場合、前記液滴が同心円形態となった溶液を確実に維持することは技術的に問題となり得るし、また、アルギン酸カルシウムのゲル化反応は、被包しようとする物質が放出される前に起こり得る。
【0005】
更に、球体化の手順には、液滴又は球体のサイズを拡大することが望ましい場合には前記液滴又は球体が表面張力のため変形する傾向があり、然るにこれがカルシウムのカルシウム溶液中に導入された場合には、油が放出されて同心円の液滴がうまく形成されないという難点を呈する。このことは、特にその使用目的が台所での食品の消費向けである場合、前記カプセルの美的外観に著しく影響を及ぼす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】PCT国際公開第2009/109681(A1)号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋭意検討の結果、本特許の発明者は、疎水性物質、特に油状物質の、驚くほど球形のカプセルの工業規模での製造を可能にする球体化方法を開発した。更に、前記カプセルの直径をその球形形状に影響を及ぼすことなく、最大で25mmのサイズに拡大することが可能である。
【0008】
本発明の方法は、それぞれ被包しようとする油状物質とゲル化溶液の液滴を形成する同心円チューブの内径と外径の特定の比を使用することに基づく。
【0009】
したがって、本発明は、疎水性物質のカプセルの調製方法であって、以下の工程
(a)アルギン酸塩の濃度が、溶液の0.05%~5%質量%の範囲にある非カルシウムのアルギン酸塩の水溶液を調製する工程と、
(b)被包しようとする疎水性物質を用意する工程と、
(c)被包しようとする疎水性物質及び非カルシウムのアルギン酸塩の水溶液を1.2~5の範囲の直径比を有する同心円チューブにより送液する工程であり、被包しようとする疎水性物質を内側チューブにより送液し、非カルシウムのアルギン酸塩の水溶液を外側チューブにより送液する、工程と、
(d)工程(c)で形成される1滴又は複数の液滴を、カルシウムイオンを含む水溶液に導入する工程と、
(e)工程(d)で形成されるカプセルを洗浄、排液及び包装する工程と
を含むことを特徴とする、方法を開示する。
【0010】
本発明の方法は、食品産業だけでなく、化粧料、イントラシューティカル、化学品及び医薬品の産業、又はこの種のカプセルを必要とする他の任意の産業でも使用することができる。
【0011】
本発明では、「疎水性物質」は、水に非混和性又は実質的に非混和性である任意の物質を指す。前記物質は、疎水性物質であることを条件として、有機物であっても無機物であってもよい。例えば、前記疎水性物質は、食用油、浸出油、精油、樹脂、水に非混和性の有機化合物等の油状物質、及びそれらの組み合わせを含む。
【0012】
例えば、食品産業の場合、被包しようとする疎水性物質は、オリーブ油、ひまわり油、ハシバミの実、ゴマ油、くるみ油、アーモンド油、綿実油、アボガド油、落花生油、キャノーラ油、サフラワー油、ココナッツ油、トウモロコシ油、パーム油、大豆油、及びそれらの組み合わせを含むリストから選択される植物油であってもよい。
【0013】
更に、前記植物油は、ドレッシング、アロマ、フレーバー及び油に可溶な他の添加物と混合することができる。
【0014】
本発明の方法を使用して被包し得る他の種類の油状物質は、タイム(タチジャコウソウ(Thymus vulgaris))の油、オレガノ(ハナハッカ(Origanum vulgaris))の油、クローブ(チョウジノキ(Syzygium aromaticum))の油、ナツメグ(ニクズク(Myristica fragrans))の油、シナモン(セイロンニッケイ(Cinnamomum zeylanicum))の油、月桂樹(ゲッケイジュ(Laurus nobilis))の油、オレンジ(キンクネンボ(Citrus × sinensis))の油、ペパーミント(コショウハッカ(Mentha piperita))の油、バレリアン(セイヨウカノコソウ(Valeriana officinalis))の油、シトロネラ(シトロネラグラス(Cymbopogon nardos))の油、ラベンダー(ラベンダー(Lavanda angustifolia))の油、ホホバ(シモンジアカリフォルニカ(Simmondsia californica))の油、ローズマリー(マンネンロウ(Rosemarinus officinalis))の油、ニーム(インドセンダン(Azadirachta indica))の油、綿実(キヌワタ(Gossypium hirsutum))の油、ローズヒップ(ロサエグランテリア(Rosa eglanteria))の油、又はそれらの組み合わせを含むリストから選択される精油である。
【0015】
本発明の方法で使用されるカルシウムイオンを含む水溶液は、カプセルの外側フィルムを形成するアルギン酸カルシウムのゲルを形成する能力があることを条件として、任意のカルシウムイオン源とすることができることは、当業者にとって明らかであろう。前記カルシウムイオン源は、例えば、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、又はそれらの混合物を含む。好ましくは、カルシウムイオン源は塩化カルシウムである。
【0016】
更に、前記カルシウムイオンの溶液は、任意の種類の添加物を含んでよく、又は製造するカプセルの官能特性を変更することを可能にする任意の原料と混合することができる。
【0017】
本発明の方法のアルギン酸塩溶液は、カルシウムイオンの存在下で反応し、カプセルのアルギン酸カルシウム外側フィルムを形成することを条件として、いかなる非カルシウムのアルギン酸塩であってもよい。好ましくは、使用するアルギン酸塩は、アルギン酸ナトリウムである。アルギン酸塩溶液のpHは、2~14である。
【0018】
本発明の方法の更なる利点は、すべての工程が室温で実施されることである。温度の増減は、本方法の油相及び水相の粘度、密度及び表面張力に影響を及ぼし得ると共に、カプセルの製造コストを上昇させるので、室温の場合と同じ結果を得るためには、本方法の種々のパラメーターを変更することが必要となろう。
【0019】
更に、本発明の方法は、アルギン酸カルシウムのフィルムによって囲まれた疎水性物質を内部に含む球状カプセルを得ることを可能にし、疎水性物質を含む前記カプセルの直径は、1mm~25mmの範囲、好ましくは2mm~25mm、より好ましくは4mm~25mm、更により好ましくは6mm~25mm、8mm~25mm、10mm~25mm、12mm~25mm、14mm~25mm、16mm~25mm、18mm~25mm、及び最も好ましくは20~25mmの範囲である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0020】
(実施例1)
本発明の方法によるオリーブ油を含むフードカプセルの調製
この実施例では、本発明の方法を使用してオリーブ油を被包した。最初に、1質量%の濃度のアルギン酸ナトリウム溶液を調製した。オリーブ油及びアルギン酸ナトリウム溶液について、それぞれ2mm及び6mmの同心円チューブにより送液することにより液滴を得た。液滴を、1質量%の濃度の塩化カルシウムを含む溶液中に滴下した。
【0021】
少なくとも1個の直径6mmのカプセルが得られ、その外側フィルムは透明な外観を有した。前記カプセルは、主にレストランでの消費に適している。
【0022】
(実施例2)
ゴマ油カプセルの調製
本発明の方法を使用してゴマ油を被包した。0.1%のソルビン酸カリウムを含む5質量%の濃度のアルギン酸ナトリウム溶液を調製した。ゴマ油及びアルギン酸ナトリウム溶液について、それぞれ3mm及び7mmの同心円チューブにより送液することにより液滴を得た。液滴を、2質量%の濃度の塩化カルシウムを含む溶液中に滴下した。
【0023】
少なくとも1個の直径7mmのカプセルが得られ、その外側フィルムは透明な外観を有した。
【0024】
(実施例3)
ローズヒップ油を含むカプセルの調製
本発明の方法を使用してローズヒップ油を被包した。0.5質量%の濃度のアルギン酸ナトリウム溶液を調製した。ローズヒップ油及びアルギン酸ナトリウム溶液について、それぞれ2mm及び9mmの同心円チューブにより送液することにより液滴を得た。液滴を、3質量%の濃度の塩化カルシウムを含む溶液中に滴下した。
【0025】
少なくとも1個の直径10mmのカプセルが得られ、その外側フィルムは透明な外観を有した。
【0026】
(実施例4)
ニーム油を含むカプセルの調製
本発明の方法を使用してニーム油を被包した。1質量%の濃度のアルギン酸ナトリウム溶液を調製した。ニーム油及びアルギン酸ナトリウム溶液について、それぞれ1mm及び2mmの同心円チューブにより送液することにより液滴を得た。液滴を、2質量%の濃度の塩化カルシウムを含む溶液中に滴下した。
【0027】
少なくとも1個の直径2mmのカプセルが得られ、その外側フィルムは透明な外観を有した。
【0028】
(実施例5)
ラベンダー油を含むカプセルの調製
本発明の方法を使用してラベンダー油を被包した。2質量%の濃度のアルギン酸ナトリウム溶液を調製した。ラベンダー油及びアルギン酸ナトリウム溶液について、それぞれ5mm及び25mmの同心円チューブにより送液することにより液滴を得た。液滴を、2質量%の濃度の塩化カルシウムを含む溶液中に滴下した。
【0029】
少なくとも1個の直径24mmのカプセルが得られ、その外側フィルムは透明な外観を有した。
【0030】
本発明を、好ましい実施形態に関して記述したが、本発明は、前記実施形態によって限定的に取られるべきではなく、以下の請求項の最大解釈により定義されることになる。