IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アラヤ (シャンハイ) バイオサイエンス カンパニー リミテッドの特許一覧

特許7048496高安定性の非小胞型ナノ粒子および微生物感染の治療におけるその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】高安定性の非小胞型ナノ粒子および微生物感染の治療におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/202 20060101AFI20220329BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20220329BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220329BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20220329BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20220329BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220329BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20220329BHJP
   A61K 31/20 20060101ALI20220329BHJP
   A61K 31/201 20060101ALI20220329BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220329BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
A61K31/202
A61K9/107
A61P31/04
A61P31/10
A61K47/24
A61K47/26
A61K47/28
A61K31/20
A61K31/201
A61K47/12
A61K47/14
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2018533994
(86)(22)【出願日】2016-09-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-08
(86)【国際出願番号】 CN2016099136
(87)【国際公開番号】W WO2017045628
(87)【国際公開日】2017-03-23
【審査請求日】2019-09-12
(31)【優先権主張番号】201510594983.0
(32)【優先日】2015-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518094256
【氏名又は名称】アラヤ (シャンハイ) バイオサイエンス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】タン ユン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ガン
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-087096(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0028546(US,A1)
【文献】特表2009-533341(JP,A)
【文献】国際公開第2014/140268(WO,A3)
【文献】特表2009-501802(JP,A)
【文献】特表2009-513559(JP,A)
【文献】特表2014-512366(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0195030(US,A1)
【文献】米国特許第05250236(US,A)
【文献】特表2013-522424(JP,A)
【文献】特表2011-505235(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101385714(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102048696(CN,A)
【文献】International Journal of Food Microbiology,2009年,135,pp.211-215
【文献】オレオサイエンス,2012年,第12巻,第8号,第311~319頁
【文献】International Journal of Food Microbiology,2009年,135,pp.211-215
【文献】PLOS ONE,2013年,8(10),e76245
【文献】Journal of Applied Microbiology,2008年,105,pp.993-1001
【文献】Nanoscale,6,2014年,pp.825-832
【文献】International Journal of Pharmaceutics,2010年,395,pp.154-160
【文献】Journal of Food Process Engineering,2009年,32,pp.104-111
【文献】International Journal of Pharmaceutics,2006年,321,pp.171-175
【文献】Journal of Food Safety,31,2011年,pp.232-237
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸、界面活性剤および任意に含まれる脂質で構成され、粒子径が5-20nmである非小胞型ナノ粒子の製造方法であって、
1).界面活性剤および任意に含まれる脂質を水に懸濁させる工程、
2).1)で得られた懸濁液を均一相の懸濁液になるまで撹拌する工程、
3).2)で得られた均一相の懸濁液をそれに含まれる界面活性剤および任意に含まれる脂質の融点以上に加熱する工程、
4).脂肪酸を3)で得られた熱い懸濁液に入れて撹拌する工程、及び
5).4)で得られた懸濁液を降温し静置することによって、前記非小胞型ナノ粒子懸濁液を得る工程、
を含む、非小胞型ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記脂肪酸はリノレン酸、ラウリン酸、ミリストレイン酸、またはラウリン酸のモノグリセリド、ジグリセリドもしくはトリグリセリドである請求項1に記載の非小胞型ナノ粒子の製造方法
【請求項3】
前記非小胞型ナノ粒子の粒子径は5~15nmである請求項1または2に記載の非小胞型ナノ粒子の製造方法
【請求項4】
前記非小胞型ナノ粒子の多分散性指数は<0.3である請求項1~3のいずれか1項に記載の非小胞型ナノ粒子の製造方法
【請求項5】
前記非小胞型ナノ粒子の多分散性指数は<0.2である請求項4に記載の非小胞型ナノ粒子の製造方法
【請求項6】
前記非小胞型ナノ粒子の安定性は、
室温~37℃において3か月保存した後、新しく製造された非小胞型ナノ粒子と比べ、前記非小胞型ナノ粒子の「最小発育阻止濃度」と「最小殺菌濃度」の値の変化が20%未満であるか、あるいは、
室温において1.5か月保存した後、新しく製造された非小胞型ナノ粒子と比べ、前記非小胞型ナノ粒子の粒子径の変化が20%未満であるか、あるいは
室温において3か月保存した後、新しく製造された非小胞型ナノ粒子と比べ、前記非小胞型ナノ粒子の粒子径の変化が20%未満である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の非小胞型ナノ粒子の製造方法
【請求項7】
前記非小胞型ナノ粒子の安定性は、
室温~37℃において3か月保存した後、新しく製造された非小胞型ナノ粒子と比べ、前記非小胞型ナノ粒子の「最小発育阻止濃度」と「最小殺菌濃度」の値の変化が10%未満であるか、あるいは、
室温において1.5か月保存した後、新しく製造された非小胞型ナノ粒子と比べ、前記非小胞型ナノ粒子の粒子径の変化が15%未満であるか、あるいは
室温において3か月保存した後、新しく製造された非小胞型ナノ粒子と比べ、前記非小胞型ナノ粒子の粒子径の変化が15%未満である、
請求項6に記載の非小胞型ナノ粒子の製造方法
【請求項8】
前記非小胞型ナノ粒子の安定性は、
室温において1.5か月保存した後、新しく製造された非小胞型ナノ粒子と比べ、前記非小胞型ナノ粒子の粒子径の変化が10%未満であるか、あるいは
室温において3か月保存した後、新しく製造された非小胞型ナノ粒子と比べ、前記非小胞型ナノ粒子の粒子径の変化が10%未満である、
請求項7に記載の非小胞型ナノ粒子の製造方法
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法により非小胞型ナノ粒子を製造し、該非小胞型ナノ粒子と、任意に薬学的に許容される担体と、を含む薬物組成物を得る工程を有する、薬物組成物の製造方法
【請求項10】
前記薬物組成物はさらに抗生物質を含む請求項に記載の薬物組成物の製造方法
【請求項11】
前記薬物組成物は水性薬物組成物である請求項または10に記載の薬物組成物の製造方法
【請求項12】
求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法により非小胞型ナノ粒子を製造し、または請求項11のいずれか1項に記載の製造方法により薬物組成物を製造し、前記非小胞型ナノ粒子または前記薬物組成物を使用する工程を有する、抗微生物試薬の製造方法
【請求項13】
前記抗微生物試薬は、細菌、及び真菌の少なくとも1つを含む微生物の感染の治療に用いる、請求項12に記載の抗微生物試薬の製造方法
【請求項14】
前記細菌は、グラム陽性菌、及びグラム陰性菌の少なくとも1つを含む請求項13に記載の抗微生物試薬の製造方法
【請求項15】
前記グラム陽性菌は、ブドウ球菌(Staphylococcus)、及びプロピオン酸菌(Propionibacterium)の少なくとも1つを含み、
前記グラム陰性菌は、ピロリ菌(Helicobacter Pylori)、及び緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の少なくとも1つを含む、
請求項14に記載の抗微生物試薬の製造方法
【請求項16】
前記グラム陰性菌は、ピロリ菌である、請求項15に記載の抗微生物試薬の製造方法
【請求項17】
前記ブドウ球菌(Staphylococcus)は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)であり、
前記プロピオン酸菌(Propionibacterium)は、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudennreichii)、アクネ菌(Propionibacterium acnes)、プロピオニバクテリウム・アビダム(Propionibacterium avidum)、及びプロピオニバクテリウム・グラヌローサム(Propionibacterium granulosum)の少なくとも1つである、
請求項15に記載の抗微生物試薬の製造方法
【請求項18】
前記黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)であり、前記プロピオン酸菌(Propionibacterium)は、アクネ菌(Propionibacterium acnes)である、請求項17に記載の抗微生物試薬の製造方法
【請求項19】
前記真菌は、コクシジオイデス菌、パラコクシジオイデス菌、ブラストミセス・デルマチチジス、黒色真菌、マズレラ・ミセトミ、スポロトリックス・シェンキイ、白癬菌、カンジダ属、クリプトコッカス菌、アスペルギルス菌、ムコール菌、放線菌、及びノカルディア菌の少なくとも1つを含む、請求項13に記載の抗微生物試薬の製造方法
【請求項20】
前記真菌は、白癬菌及びアスペルギルス菌の少なくとも1つを含む、請求項19に記載の抗微生物試薬の製造方法
【請求項21】
前記真菌は、白癬菌およびアスペルギルス菌を含む、請求項20に記載の抗微生物試薬の製造方法
【請求項22】
前記真菌は、紅色白癬菌(Trichophyton rubrum)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)、カンジダ・アルビカンズ(Canidia albicans)、又は黄癬菌(Mycelium yellow ringworm)を含む、請求項21に記載の抗微生物試薬の製造方法
【請求項23】
前記真菌は、紅色白癬菌、又はアスペルギルス・フミガーツスを含む、請求項21に記載の抗微生物試薬の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物の分野に関する。具体的に、本発明は、高安定性の非小胞型ナノ粒子および微生物感染の治療におけるそのナノ粒子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物は個体が肉眼で観察しにくいすべての微小生物の総称で、細菌、真菌および一部の小型原生生物、微細藻類などを含む大きな生物の類別ならびにウイルスが含まれる。これらは個体が微小で、人類と密接に関連し、有益・有害の多くの種類が含まれ、幅広く食品、医薬、工業・農業、環境保護などの多くの分野に関連する。
【0003】
微生物の人類に対する最も重要な影響の一つは、伝染病の流行を起こすことである。疾患の予防および治療において、人類はすでに大きな進歩を遂げたが、新発見および再発見の微生物感染はまだ相次ぐ。一部の微生物感染の発症機序はまだ不明で、有効な治療薬が欠けている。また、大量の広域抗生物質の濫用は、強い選択圧になり、多くの菌株が変異し、薬剤耐性が生じ、人類の健康が新たな脅威が迫っている。たとえば、薬剤耐性結核菌の出現によってすでに抑えられていた結核感染はまた世界中で暴れだしてきた。
【0004】
また、たとえば、ブドウ球菌、特に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は致命的な院内感染および市中感染を引き起こす要因の一つである。最近の数十年で、黄色ブドウ球菌は数回の抗生物質に対する耐性が現れ、かつ現在ペニシリン系、セファロチン系およびカルバペネム系の抗生物質を含むβ-ラクタム系抗生物質全体に薬剤耐性を持つようになった。これらのβ-ラクタム系抗生物質に対して薬剤耐性を持つ黄色ブドウ球菌はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、またはスーパー細菌とも呼ばれている。MRSA感染によってバンコマイシンが幅広く使用されるようになってきたが、バンコマイシンは現在数少ないMRSAに有効な抗生物質の一つである。しかし、バンコマイシンもMRSAを抑制するだけで、根治することができない。また、1990年代後半から、バンコマイシンの大量の使用によってバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌株が現れた。これらの事実はいずれもMRSAを有効に治療する新しい方法を開発するという需要の重要性と切実性を示した。
【0005】
最近、新型抗MRSA薬の研究は主に既存の抗生物質に基づいた新薬の合成、MRSA毒素の標的除去を目的とするイムノグロブリンの開発、およびいくつかの天然抗生物質、たとえばカチオン性抗菌ペプチド、リポソームやほかの内因性物質の開発を含む。これらの新型合成薬物は良い臨床試験結果が得られたが、既存の抗生物質と類似の構造および抗菌機序を持つため、合成系薬物が幅広く臨床で使用されると、MRSAはすぐにこれらに薬剤耐性が生じる。抗毒グロブリンや抗体断片の注射による受動的な細菌毒素因子に対する中和は急性感染の改善に有益であるが、このような方法は細菌そのものを抑制または根治することができない。また長期的に、再発性感染が発生することもある。
【0006】
一部の微生物は特定の部位に感染するため、薬物は到達できないか、あるいは作用が果たせない。たとえば、胃で発見されたピロリ菌(Helicobacter Pylori)は世界中で最も見られる細菌性病原体で、世界人口の半分以上は感染されている。ピロリ菌の感染は慢性胃炎、胃潰瘍や胃癌などを含む多くの胃疾患につながる。
【0007】
現在、世界中で汎用のピロリ菌感染の治療プロトコールは3剤併用療法で、すなわち、2種類の抗生物質(クラリスロマイシン+アモキシシリンまたはメトロニダゾール)をプロトンポンプ阻害薬と併用するものである。しかしながら、既存の抗生物質に耐性を有するピロリ菌株がすぐに現れたため、現在の治療プロトコールはこれらに対する根治率が急激に低下してきた。たとえば、3剤併用療法のピロリ菌に対するクリアランスはすでに60~75%まで低下した。その要因はピロリ菌株がこれらの抗生物質に対して薬剤耐性が生じたためである。特に3剤併用療法における重要な成分であるメトロニダゾールに対する薬剤耐性が顕著である。それに対する薬剤耐性は、先進国では40%で、発展途上国では90%である。現れたこれらの薬剤耐性に対し、様々な抗生物質が開発されたが、結果はいずれも望ましくない。さらに、新たに開発された抗生物質およびその使用も患者の服薬順守が良くない、毒性・副作用が高い、そして抗生物質治療のコストが高価といった制限がある。明らかに、現在、臨床では優れた治療効果、さらに小さい副作用を有する新たな治療プロトコールが切望されている。
【0008】
また、一部の微生物感染は一般的に厳重な結果、たとえば致命的な結果につながらないが、人々の生活品質に大きく影響する。たとえば、座瘡感染はよく見られる皮膚疾患で、80%の人はその影響を受けるかまたは受けたことがある。座瘡の原因は主に皮脂の過剰分泌で、毛嚢が埋まることで、局部の低酸素または無酸素環境になり、これはアクネ菌(Propionibacterium acnes)を刺激して急速に繁殖させる。アクネ菌はグラム陽性の嫌気性細菌で、座瘡感染と密接に関連する。アクネ菌の過剰生長は毛嚢壁を破裂させ、それで宿主の免疫細胞は侵入する細菌に反応することで、炎症性座瘡が生じる。重度炎症の座瘡の病変は色素の沈着と永久的な皮膚瘢痕につながり、気まずさ、プレッシャーやコンプレックスをもたらすことで、人々の精神健康と精神発達に影響を与える。
【0009】
アダパレン、タザロテン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、過酸化ベンゾイル(BPO)、およびほかの抗生物質を含む多くの抗菌薬はすでに座瘡の治療のために研究・開発されてそしてその使用が許可された。これらの抗生物質系薬物は顕著な抗座瘡治療効果を有するが、これらの薬物は通常強い副作用を引き起こす。たとえば、BPOは最も使用される座瘡を治療する皮膚薬物の一つであるが、それによる紅斑、鱗屑、皮膚の焼灼および白毛の発生率が高い。抗生物質の経口投与は非常に有効であるが、よく腸内細菌叢の破壊が伴い、薬剤耐性のアクネ菌の誘導などのリスクがある。たとえば、イソトレチノインは重症の座瘡を治療するビタミンA誘導体であるレチノイン酸薬物で、その使用は厳重に管理されている。強烈な催奇作用を有するため、ほとんどの座瘡患者はこの薬を使用することができない。そのため、新たな抗座瘡薬物は良い治療効果を有するだけでなく、毒性・副作用が非常に少なくて薬剤耐性株を誘導しない。
【0010】
細菌以外、真菌も人類の健康に大きな脅威のある微生物である。真菌の人体への侵入部位によって、真菌感染性疾患は表在性真菌症、皮膚真菌症、皮下真菌症および全身性真菌症と4種類に分かれ、前の二つは合わせて浅在性真菌症と呼ばれ、後の二つは深在性真菌症とも呼ばれる。
【0011】
現在、骨髄や器官の移植、腫瘍の化学治療、糖質コルチコイドの長期間投与および広域抗生物質の汎用によって、侵襲性真菌感染の発症率が年々増え、新しい病原菌が続々と現れ、病状も重篤化してきた。深在性真菌症は真菌感染のうち最も危害が大きく、院内感染の種類の一つでもあり、その臨床症状と徴候は特異性がなく、有効な診断手段がなく、病状の進展が早く、予後が悪く、予防的治療と経験的治療の応用が普遍化してきた。現在の臨床抗真菌薬物は、大きく、アゾール系、ポリエン系、アリルアミン系、フルシトシン系などと4種類に分かれ、そのうち、アゾール系が最も幅広く使用されている。既存の抗真菌薬物は、普遍的に、抗菌スペクトルが狭い、副作用が大きいといった制限があるため、その臨床における使用が制限される。同時に、抗真菌薬物の大量の使用によって、真菌の薬剤耐性率が増える一方で、薬物の治療効果に影響する。
【0012】
過去の数十年で、ナノ技術の薬物学における使用は幅広く探索されてきた。物理的被覆または化学的結合によって、薬物はナノ粒子に収納することで、遊離の薬物と比べ、薬物の動態学指数と治療指数を顕著に向上させることができる。これらのナノ粒子に基づいた薬物送達システムの利点は、薬物の血清溶解度の向上、薬物の体循環周期の延長および薬物の持続的で制御可能な放出などの面に集中している。これらのナノ粒子における薬物は従来の抗生物質が多いため、薬剤耐性株はまだ現れる。そして、使用されるナノ粒子の製造過程が複雑で、コストが高く、かつ安定性が制限されることで、このような薬物の実際の応用価値に大きく影響する。
【0013】
そのため、本分野では、効率的で、薬剤耐性株を誘導しない微生物感染に抵抗する新規な治療薬が切望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、効率的で、薬剤耐性株を誘導しない微生物感染に抵抗する新規な治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第一の側面では、本発明は脂肪酸またはその誘導体、界面活性剤および任意に脂質で構成される非小胞型ナノ粒子を提供する。
好適な実施形態において、前記脂肪酸はC8~C28、好ましくはC12~C24、最も好ましくはC12~C18の飽和または不飽和脂肪酸で、前記脂肪酸誘導体はC10~C14、好ましくはC11~C13の脂肪酸のモノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリドである。
【0016】
好適な実施形態において、前記不飽和脂肪酸は1~6個、好ましくは1~4個、たとえば1個、2個または3個の不飽和結合、好ましくは二重結合を含有する。
好適な実施形態において、前記脂肪酸はパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸、リノール酸、ラウリン酸、ミリストレイン酸、アラキド酸、エイコサペンタエン酸(以下EPAと呼ぶ)、ドコサヘキサエン酸(以下DHAと呼ぶ)、カプリル・カプリン酸およびノナン酸を含むが、これらに限定されない。
【0017】
具体的な実施形態において、前記脂肪酸はリノレン酸、ラウリン酸、ミリストレイン酸で、前記脂肪酸誘導体はラウリン酸モノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリドで、好ましくはラウリン酸モノグリセリドである。
【0018】
好適な実施形態において、前記界面活性剤はステアリン酸ナトリウム、4-(5-ドデシル)ベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレングリコール、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ソルベート60、ポリソルベート80、ポロキサマー、ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテルおよびTriton X-100のうちの1種または複数種を含むが、これらに制限されない。
【0019】
好適な実施形態において、前記脂質はリン脂質および/またはコレステロールである。
好適な実施形態において、前記リン脂質はホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ジミリストイルレシチン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロールおよびジオレオイルホスファチジルエタノールアミンのうちの1種または複数種を含むが、これらに制限されない。
【0020】
好適な実施形態において、前記脂質と界面活性剤の質量比は10~0:1、好ましくは5~0:1、より好ましくは2.5~0:1である。
好適な実施形態において、前記脂肪酸またはその誘導体の濃度は0.001~5w/v%、好ましくは0.1~5w/v%、より好ましくは0.2~4w/v%、さらに好ましくは0.3~3w/v%である。
【0021】
具体的な実施形態において、前記のナノ粒子の粒子径は1~90 nm、好ましくは2~80 nm、より好ましくは5~50 nm、さらに好ましくは5~20 nm、最も好ましくは5~15 nmである。
【0022】
好適な実施形態において、製造されたナノ粒子の粒子径は1~30 nm、10~40 nm、20~50 nm、30~60 nm、40~70 nm、50~80 nm、60~90 nmでもよく、あるいは前記ナノ粒子の粒子径は5~25 nm、15~35 nm、25~45 nm、35~55 nm、45~65 nm、55~75 nm、65~85 nmでもよく、あるいは前記ナノ粒子の粒子径は10~30 nm、20~40 nm、30~50 nm、40~60 nm、50~70 nm、60~80 nm、70~90 nmでもよい。
【0023】
具体的な実施形態において、前記ナノ粒子の多分散性指数は<0.3、好ましくは<0.2である。
好適な実施形態において、前記ナノ粒子の粒子径は狭い範囲内にあり、たとえば約5~10 nm、約15~25 nm、約20~30 nm、約40~50 nm、約65~75 nm、約80~90 nmまたは約100~110 nmである。
【0024】
具体的な実施形態において、前記非小胞型ナノ粒子の安定性は、
室温~37℃において3か月保存した後、新しく製造されたナノ粒子と比べ、前記ナノ粒子の「最小発育阻止濃度」と「最小殺菌濃度」の値の変化が20%未満、好ましくは10%未満であるか、あるいは、
室温において1.5か月、好ましくは3か月保存した後、新しく製造されたナノ粒子と比べ、前記ナノ粒子の粒子径の変化が20%未満、好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満である。
【0025】
具体的な実施形態において、前記ナノ粒子は以下の方法によって製造され、前記方法は、
1).界面活性剤および任意に脂質を水に懸濁させる工程、
2).1)で得られた懸濁液を均一相の懸濁液になるまで撹拌する工程、
3).2)で得られた均一相の懸濁液をそれに含まれる界面活性剤および任意に脂質の融点以上に加熱する工程、
4).脂肪酸またはその誘導体を3)で得られた熱い懸濁液に入れて撹拌する工程、
5).降温し、4)で得られた懸濁液を静置することによって、本発明の非小胞型ナノ粒子懸濁液を得る工程、
を含む。
【0026】
具体的な実施形態において、本発明のナノ粒子は、抗微生物感染の試薬の製造、または微生物感染の治療に使用される。
前記微生物は、細菌、真菌を含み、前記細菌は、グラム陽性菌、グラム陰性菌を含み、前記グラム陽性菌は、ブドウ球菌(Staphylococcus)、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、より好ましくはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)、プロピオン酸菌(Propionibacterium)、好ましくはプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudennreichii)、アクネ菌(Propionibacterium acnes)、プロピオニバクテリウム・アビダム(Propionibacterium avidum)、プロピオニバクテリウム・グラヌローサム(Propionibacterium granulosum)、より好ましくはアクネ菌(Propionibacterium acnes)を含み、そして
前記グラム陰性菌は、ピロリ菌(Helicobacter Pylori)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、好ましくはピロリ菌を含む。
【0027】
前記真菌は、コクシジオイデス菌、パラコクシジオイデス菌、ブラストミセス・デルマチチジス、黒色真菌、マズレラ・ミセトミ、スポロトリックス・シェンキイ、白癬菌、カンジダ属、クリプトコッカス菌、アスペルギルス菌、ムコール菌、放線菌、ノカルディア菌など、好ましくは白癬菌およびアスペルギルス菌、より好ましくは紅色白癬菌(Trichophyton rubrum)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)、カンジダ・アルビカンズ(Canidia albicans)、黄癬菌(Mycelium yellow ringworm)、最も好ましくは紅色白癬菌、アスペルギルス・フミガーツスを含むが、これらに限定されない。
【0028】
第二の側面では、本発明は、本発明の第一の側面に記載の非小胞型ナノ粒子の製造方法であって、
1).界面活性剤および任意に脂質を水に懸濁させる工程、
2).1)で得られた懸濁液を均一相の懸濁液になるまで撹拌する工程、
3).2)で得られた均一相の懸濁液をそれに含まれる界面活性剤および任意に脂質の融点以上に加熱する工程、
4).脂肪酸またはその誘導体を3)で得られた熱い懸濁液に入れて撹拌する工程、
5).降温し、4)で得られた懸濁液を静置することによって、請求項1~5のいずれかに記載の非小胞型ナノ粒子懸濁液を得る工程、
を含む方法を提供する。
【0029】
好適な実施形態において、前記方法における融点温度は20℃~80℃、たとえば20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃または80℃である。
好適な実施形態において、前記方法は、さらに、得られたナノ粒子の流体力学的サイズを検出することを含む。
【0030】
好適な実施形態において、前記脂肪酸はC8~C28、好ましくはC12~C24、最も好ましくはC12~C18の飽和または不飽和脂肪酸で、前記脂肪酸誘導体はC10~C14、好ましくはC11~C13の脂肪酸のモノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリドである。
【0031】
好適な実施形態において、前記不飽和脂肪酸は1個または複数個、好ましくは1~4個の二重結合を含有する脂肪酸である。
好適な実施形態において、前記脂肪酸はパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸、リノール酸、ラウリン酸、ミリストレイン酸、アラキド酸、EPA、DHA、カプリル・カプリン酸およびノナン酸を含むが、これらに限定されない。
【0032】
好適な実施形態において、前記界面活性剤はステアリン酸ナトリウム、4-(5-ドデシル)ベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレングリコール、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ソルベート60、ポリソルベート80、ポロキサマー、ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテルおよびTriton X-100のうちの1種または複数種を含むが、これらに制限されない。
【0033】
好適な実施形態において、前記脂質はリン脂質および/またはコレステロールである。
好適な実施形態において、前記リン脂質はホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ジミリストイルレシチン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロールおよびジオレオイルホスファチジルエタノールアミンのうちの1種または複数種を含むが、これらに制限されない。
【0034】
好適な実施形態において、前記脂質と界面活性剤の質量比は10~0:1、好ましくは5~0:1、より好ましくは2.5~0:1である。
好適な実施形態において、前記脂肪酸の濃度は0.001~5w/v%、好ましくは0.1~5w/v%、より好ましくは0.2~4w/v%、さらに好ましくは0.3~3w/v%である。
【0035】
好適な実施形態において、製造されたナノ粒子の粒子径は1~90 nm、好ましくは2~80 nm、より好ましくは5~50 nm、さらに好ましくは5~20 nm、最も好ましくは5~15 nmである。
【0036】
好適な実施形態において、製造されたナノ粒子の粒子径は1~30 nm、10~40 nm、20~50 nm、30~60 nm、40~70 nm、50~80 nm、60~90 nmでもよく、あるいは前記ナノ粒子の粒子径は5~25 nm、15~35 nm、25~45 nm、35~55 nm、45~65 nm、55~75 nm、65~85 nmでもよく、あるいは前記ナノ粒子の粒子径は10~30 nm、20~40 nm、30~50 nm、40~60 nm、50~70 nm、60~80 nm、70~90 nmでもよい。
【0037】
好適な実施形態において、前記ナノ粒子の多分散性指数は<0.3、好ましくは<0.2である。
好適な実施形態において、前記ナノ粒子の粒子径は狭い範囲内にあり、たとえば約5~10 nm、約15~25 nm、約20~30 nm、約40~50 nm、約65~75 nm、約80~90 nmまたは約100~110 nmである。
【0038】
好適な実施形態において、前記非小胞型ナノ粒子の安定性は、
室温~37℃において3か月保存した後、新しく製造されたナノ粒子と比べ、前記ナノ粒子の「最小発育阻止濃度」と「最小殺菌濃度」の値の変化が20%未満、好ましくは10%未満であるか、あるいは、
室温において1.5か月、好ましくは3か月保存した後、新しく製造されたナノ粒子と比べ、前記ナノ粒子の粒子径の変化が15%未満、好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満である。
【0039】
第三の側面では、本発明は本発明の第一の側面に記載の非小胞型ナノ粒子と任意に薬学的に許容される担体とを含む薬物組成物を提供する。
好適な実施形態において、前記薬物組成物の剤形は全身投与に適する剤形、あるいは外用または局所投与に適する剤形を含むが、これらに限定されない。
【0040】
さらに、前記剤形は、錠剤、溶液剤、懸濁液、カプセル剤、顆粒剤、粉剤、注射剤、貼付剤、スプレー剤、軟膏剤、油脂性軟膏剤、油性クリーム剤、ゲル剤、水性クリーム剤、滴剤、噴霧剤、ローション剤を含むが、これらに限定されない。
【0041】
好適な外用または局所投与に適する剤形は、貼付剤、スプレー剤、軟膏剤、油脂性軟膏剤、油性クリーム剤、ゲル剤、水性クリーム剤、滴剤、噴霧剤、ローション剤を含むが、これらに限定されない。
【0042】
好適な実施形態において、前記薬学的に許容される担体は、水、生理食塩水、バインダー(たとえばポリビニルピロリドンやヒドロキシプロピルメチルセルロース)、フィラー(たとえば乳糖およびほかの糖類、ゼラチンや硫酸カルシウム)、潤滑剤(たとえばデンプン、ポリエチレングリコールや酢酸ナトリウム)、崩壊剤(たとえばデンプンやデンプングリコール酸ナトリウム)、および湿潤剤(たとえばラウリル硫酸ナトリウム)を含むが、これらに限定されない。
【0043】
好適な実施形態において、前記薬物組成物は、さらに、透過促進剤を含んでもよいが、前記透過促進剤は、界面活性剤(たとえばドデシル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテルやポリオキシエチレン-20-ヘキサデシルエーテル)、胆汁酸塩(たとえばコール酸、デヒドロコール酸やデオキシコール酸)、キレート剤(たとえばエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、クエン酸やサリチル酸塩)、および非キレート性非界面活性剤(たとえば不飽和環状尿素)を含むが、これらに限定されない。
【0044】
具体的な実施様態において、前記薬物組成物は、さらに、ほかの抗生物質を含んでもよい。
好適な実施形態において、前記抗生物質は、ブドウ球菌、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、より好ましくはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)による感染を治療する抗生物質で、バンコマイシン、セファロスポリン、リネゾリド、テイコプラニン、アルベカシン、シナシッド、ダルホプリスチン、キヌプリスチン、クリンダマイシン、ダプトマイシン、リファンピシン、テラバンシン、テトラサイクリン系、たとえばチゲサイクリンなどの薬物を含むが、これらに限定されないか、あるいは、
前記抗生物質はアクネ菌による感染を治療する抗生物質で、アダパレン、タザロテン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、アジスロマイシン、ミノサイクリン、ロキシスロマイシン、イソトレチノインおよび過酸化ベンゾイル(BPO)を含むが、これらに限定されないか、
あるいは、前記抗生物質はピロリ菌(Helicobacter Pylori)による感染を治療する抗生物質で、クラリスロマイシン、アモキシシリン、メトロニダゾール、チニダゾール、フラゾリドン、テトラサイクリンなどの薬物を含むが、これらに限定されないか、
あるいは、前記抗生物質は抗真菌感染の抗生物質で、クロトリマゾール、ナイスタチン、フルコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、ミコナゾール、テルビナフィン、ナフチフィン、アモロルフィン、アムホテリシンB、グリセオフルビン、シクロピロクスオラミン、カスポファンギンなどを含むが、これらに限定されないか、
あるいは、前記抗生物質はキノロン系、β-ラクタム系、マクロライド系、アミノグリコシド系、アンフェニコール系、ニトロイミダゾール系などでもよい。
【0045】
具体的な実施様態において、前記薬物組成物は水性薬物組成物である。
第四の側面では、本発明は、抗微生物試薬の製造における本発明の第一の側面に記載のナノ粒子または本発明の第三の側面に記載の薬物組成物の使用を提供する。
【0046】
具体的な実施形態において、前記微生物は細菌、真菌を含む。
具体的な実施形態において、前記細菌はグラム陽性菌、グラム陰性菌を含む。
具体的な実施形態において、前記グラム陽性菌は、ブドウ球菌(Staphylococcus)、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、より好ましくはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)、プロピオン酸菌(Propionibacterium)、好ましくはプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudennreichii)、アクネ菌(Propionibacterium acnes)、プロピオニバクテリウム・アビダム(Propionibacterium avidum)、プロピオニバクテリウム・グラヌローサム(Propionibacterium granulosum)、より好ましくはアクネ菌(Propionibacterium acnes)を含み、そして 前記グラム陰性菌は、ピロリ菌(Helicobacter Pylori)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、好ましくはピロリ菌を含む。
【0047】
具体的な実施形態において、前記真菌は、コクシジオイデス菌、パラコクシジオイデス菌、ブラストミセス・デルマチチジス、黒色真菌、マズレラ・ミセトミ、スポロトリックス・シェンキイ、白癬菌、カンジダ属、クリプトコッカス菌、アスペルギルス菌、ムコール菌、放線菌、ノカルディア菌など、好ましくは白癬菌およびアスペルギルス菌、より好ましくは紅色白癬菌(Trichophyton rubrum)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)、カンジダ・アルビカンズ(Canidia albicans)、黄癬菌(Mycelium yellow ringworm)、最も好ましくは紅色白癬菌、アスペルギルス・フミガーツスを含むが、これらに限定されない。
【0048】
第五の側面では、本発明は、本発明の第一の側面に記載のナノ粒子を対象に投与することによって微生物感染を治療することを含む治療方法を提供する。
また、本発明は、本発明の第一の側面に記載のナノ粒子をほかの抗生物質と併用して対象に投与することによって微生物感染を治療することを含む治療方法を提供する。
【0049】
好適な実施形態において、前記抗生物質は、ブドウ球菌、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、より好ましくはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)による感染を治療する抗生物質で、バンコマイシン、セファロスポリン、リネゾリド、テイコプラニン、アルベカシン、シナシッド、ダルホプリスチン、キヌプリスチン、クリンダマイシン、ダプトマイシン、リファンピシン、テラバンシン、テトラサイクリン系、たとえばチゲサイクリンなどの薬物を含むが、これらに限定されないか、
前記抗生物質はプロピオン酸菌、たとえばアクネ菌、プロピオニバクテリウム・アビダム、プロピオニバクテリウム・グラヌローサム、好ましくはアクネ菌による感染を治療する抗生物質で、アダパレン、タザロテン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、アジスロマイシン、ミノサイクリン、ロキシスロマイシン、イソトレチノインおよび過酸化ベンゾイル(BPO)を含むが、これらに限定されないか、
前記抗生物質はピロリ菌による感染を治療する抗生物質で、クラリスロマイシン、アモキシシリン、メトロニダゾール、チニダゾール、フラゾリドン、テトラサイクリンなどの薬物を含むが、これらに限定されないか、
前記抗生物質は緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)による感染を治療する抗生物質で、ピペラシリン、アズロシリン、セフトリアキソン、セホペラゾン/スルバクタム、アミカシン、ゲンタマイシン、ポリミキシンBなどを含むが、これらに限定されないか、
前記抗生物質は真菌感染を治療する抗生物質で、クロトリマゾール、ナイスタチン、フルコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、ミコナゾール、テルビナフィン、ナフチフィン、アモロルフィン、アムホテリシンB、グリセオフルビン、シクロピロクスオラミン、カスポファンギンなどを含むが、これらに限定されない。
【0050】
好適な実施形態において、前記ナノ粒子はほかの抗生物質と同じか異なる投与経路で、同じか異なる投与時間で投与される。
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1は、一組の本発明のナノ粒子の写真である。ここで、図Aはリノレン酸(linolenic acid)の濃度の(a) 0.1 w/v%から(h)における4 w/v%(ここで、w/v%はwt%に相当する)を示す。図Bはラウリン酸(lauric acid)の濃度の(a) 0.1 w/v%から(f) 5 w/v%を示す。図Cはミリストレイン酸(myristoleic acid)の濃度の(a) 0.1 w/v%から(h)における4 w/v%を示す。図Dはラウリン酸モノグリセリドの濃度の0.1 w/w%から0.8 w/w%を示す。これらのサンプルの会合度や清澄度などの物理的性質によって、理想のナノ粒子の剤形を確定することができる。
図2図2は、動的光散乱法によって異なる濃度のミリストレイン酸を含有する本発明のナノ粒子の(A)流体力学的サイズ(直径、nm)および(B)多分散性(PDI)を示す。
図3図3は、1w/v%のリノレン酸を含有する本発明のナノ粒子の長期間安定性を示すが、3か月のスパンでこれらの流体力学的サイズを検出した。このスパンにおいて、これらのナノ粒子はそれぞれ4℃、25℃および37℃で保存されても、直径の増加が2 nm未満であった。
図4図4は、異なる温度における1 w/v%のラウリン酸を含有する本発明のナノ粒子の流体力学的サイズ(nm)を示すが、広範囲の温度において(-40℃から+100℃)、ナノ粒子のサイズが安定状態で維持した。
図5図5は、20℃の条件における1 w/v%のラウリン酸を含有する本発明のナノ粒子の保存安定性を示すが、5か月の検出期間内において、ナノ粒子のサイズが安定状態で維持した。
図6図6は、0.3w/v%のミリストレイン酸を含有する本発明のナノ粒子の懸濁液がそれぞれ-20℃、4℃、25℃および37℃で3か月保存されたが、直径の増加が2 nm未満であったことを示す。
図7図7は、本発明のナノ粒子(0.4 w/v%のラウリン酸モノグリセリドを含有する)の安定性を示すが、6週間の検出期間内において、ナノ粒子のサイズが安定状態で維持した。
図8図8は、1w/v%のリノレン酸を含有する本発明のナノ粒子のMRSA252に対する体外最小発育阻止濃度(MIC)を示す。異なる濃度のナノ粒子がMRSA252(1×106 CFU/mL)(CFU:コロニー形成ユニット)とともに培養され、それぞれ5時間および24時間で測定された細菌のOD600における吸收度である。結果から、本発明のナノ粒子は濃度が0.1w/v%超またはそれ以上の場合細菌の生長を抑制することができることがわかる。5時間および24時間の細菌と本発明のナノ粒子の混合懸濁液の図面では、0.1w/v%のナノ粒子の溶液が清澄で透明であることが示され、0.1w/v%は本発明のナノ粒子のMICであることがわかる。
図9図9は、1w/v%のラウリン酸を含有する本発明のナノ粒子のアクネ菌に対する体外最小発育阻止濃度(MIC)を示すが、ここで、図(b)は図(a)の拡大図である。
図10図10は、0.3w/v%のミリストレイン酸を含有する本発明のナノ粒子のピロリ菌(シドニー株1、HPSS1)に対する体外最小発育阻止濃度(MIC)を示す。異なる濃度の本発明のナノ粒子がHPSS1(5×106 CFU/mL)(CFU:コロニー形成ユニット)とともに18時間培養され、測定された細菌のOD600における吸收度である。結果から、本発明のナノ粒子は濃度が0.0015w/v%以上の場合細菌の生長を有効に抑制することができることがわかる。0.0015w/v%は本発明のナノ粒子のMICであることがわかる。
図11図11は、1w/v%のリノレン酸を含有する本発明のナノ粒子のMRSA252に対する体外最小殺菌濃度(MBC)を示す。異なる濃度の本発明のナノ粒子がMRSA252(1×106 CFU/mL)とともに24時間培養された後、5 μLの懸濁液が37℃で一晩培養されてTSB寒天プレート上で観察された。よってMRSA252のCFU値が量化された。(A) 画像は異なる濃度の本発明のナノ粒子がMRSA252と寒天プレートで24培養された後観察されたMRSA252のCFUを示す。(B)結果から0.2w/v%の本発明のナノ粒子が99.9%のMRSA252を殺滅しさせたことがわかる。また、細菌は本発明のナノ粒子の濃度が0.4w/v%以上に達した場合全部殺滅された。
図12図12は本発明のナノ粒子(1 w/v%ラウリン酸)の異なる濃度のアクネ菌に対する抗菌活性曲線図を示す。(a) 1 x 106 CFU/mL、(b) 1 x 107CFU/mL、(c) 1 x 108 CFU/mLおよび(d) 1 x 109 CFU/mLである。本発明のナノ粒子は各濃度の菌サンプルと5時間インキュベートした。その後、サンプルをPBSで希釈し、希釈倍数は1: 10~1: 106で、各サンプルは10 μLずつ取ってRCM寒天プレートに接種した。その後、37℃の嫌気条件において3日培養し、アクネ菌のコロニー形成ユニット(CFU)を計数した(UD:検出不能)。
図13図13は本発明のナノ粒子(1 w/v%ラウリン酸)の1 x 107CFU/mLのアクネ菌に対する抗菌活性と時間の関係図を示す。5時間インキュベートされた後、アクネ菌が完全に殺滅された(UD:検出不能)。
図14図14は5時間インキュベートされた後の本発明のナノ粒子(1 w/v%ラウリン酸)の1 x 107CFU/mLのアクネ菌に対する抗菌活性と温度の関係図を示す。結果から、室温(20℃)またはそれ以上の温度で、アクネ菌が完全に殺滅されたことが示された(UD:検出不能)。
図15図15は、1w/v%のラウリン酸を含有する本発明のナノ粒子のアクネ菌に対する体外最小殺菌濃度(MBC)を示すが、ここで、図(b)は図(a)の拡大図である。
図16図16は、0.3w/v%のミリストレイン酸を含有する本発明のナノ粒子のHPSS1に対する体外最小殺菌濃度(MBC)を示す。異なる濃度のTNAN-3がHPSS1(5×106 CFU/mL)とともに18時間培養された後、5 μLの懸濁液が37℃で一晩培養された。よってHPSS1のCFU値が量化された。(A) 画像は異なる濃度の本発明のナノ粒子がHPSS1と寒天プレートで18培養された後観察されたHPSS1のCFUを示す。(B)結果から0.0015w/v%の本発明のナノ粒子が99.9%のHPSS1を殺滅したことがわかる。また、細菌は本発明のナノ粒子の濃度が0.003w/v%以上に達した場合全部殺滅された。
図17図17は、MRSA252の1w/v%のリノレン酸を含有する本発明のナノ粒子の処理前の形態(A)および処理後の形態(B)を示す。(B)では、細菌を本発明のナノ粒子と24時間培養した後撮影した。すべての実験において、細菌の開始濃度はいずれも1×106CFU/mLであった。図面における縮尺は1 μmである。
図18図18は走査電子顕微鏡(SEM)の図面を示す。(a)は未処理のアクネ菌で、(b)は1 w/v%のラウリン酸を含有する本発明のナノ粒子で処理されたアクネ菌である。電子顕微鏡で本発明のナノ粒子で処理されたアクネ菌の菌膜が破壊されたことが観察された。
図19図19は、HPSS1の0.3w/v%のミリストレイン酸を含有する本発明のナノ粒子の処理前の形態(A)および(B)処理後の形態を示す。(B)では、細菌を0.003 w/v%の本発明のナノ粒子と18時間培養した後撮影した。すべての実験において、細菌の開始濃度はいずれも2.5×106 CFU/mLであった。図面における縮尺は1 μmである。
図20図20は、1w/v%のリノレン酸を含有する本発明のナノ粒子の長期間抗菌活性を示す。室温で2か月保存された後の本発明のナノ粒子と新しく調製された本発明のナノ粒子は類似するMICとMBCの値を示した。3か月保存された後のサンプルはMICが0.2w/v%にやや向上したが、MBC値がその前と一致した。
図21図21は異なる温度で5か月保存された本発明のナノ粒子(1 w/v%ラウリン酸)の1 x 107CFU/mLのアクネ菌に対する抗菌活性を示す。37℃の保存条件において、アクネ菌が完全に殺滅された(UD:検出不能)。
図22図22は、0.3w/v%のミリストレイン酸を含有する本発明のナノ粒子の長期間抗菌活性を示す。前記ナノ粒子は懸濁液の形態で室温で3か月保存された後、新しく調製されたナノ粒子と類似するMICとMBCの値を示した。
図23図23は、0.3w/v%のミリストレイン酸を含有する本発明のナノ粒子の長期間抗菌活性を示す。前記ナノ粒子は冷凍乾燥の形態で-20℃で3か月保存された後、新しく調製されたナノ粒子と類似するMICとMBCの値を示した。
図24図24は、1w/v%のリノレン酸を含有する本発明のナノ粒子のMRSA252に対する体内抗菌活性を示す。マウスが1×107CFUのMRSA252で感染された。その後、本発明のナノ粒子を含有するゲルは毎日1回、5日連続して使用した。菌担持量は、MRSA252接種の5日後、マウスの感染した皮膚を取り、均一化して寒天プレートで培養し、細菌CFUを記録した。データから、6つの単独実験の平均値±標準偏差が示された。*p値の有意水準を示す(**p<0.01)。
図25図25は、1w/v%のリノレン酸を含有する本発明のナノ粒子のMRSA252皮下感染のマウスに対する体内抗菌活性を示す。試験において、マウスが1×106CFUのMRSA252を皮下注射された後、同じ部位に20分間後また本発明のナノ粒子を注射された。図面は注射部位にMRSA注射の24、48および72時間後の損傷部位の状況を示す。
図26図26は、1w/v%のリノレン酸を含有する本発明のナノ粒子の外用ゲル剤形の7日体内毒性の研究を示す。ドレイズ採点システムによって本発明のナノ粒子剤形の使用で顕著な水腫または紅斑が生じなかったことが示された。図面は各群にマウス5匹ずつの代表である。
図27図27は、H&E(左列)およびTUNEL(右列)の評価結果による1w/v%のリノレン酸を含有する本発明のナノ粒子の体内毒性に対する評価を示す。ブランクのPBSゲルは陰性対照群として使用された。本発明のナノ粒子剤形は炎症が生じず、顕著な細胞死亡がなかった。図面は各群にマウス5匹ずつの代表である。
図28図28は、マクロファージの皮膚に対する浸潤の評価結果を示す。1w/v%のリノレン酸を含有する本発明のナノ粒子の使用安全性を評価した。皮膚の冷凍切片を調製した後、DAPIで細胞核を染色し、FITC-抗マウスf4/80抗体で皮膚のマクロファージを染色した。染色後、皮膚のサンプルをすぐにNikon Delta Macroview蛍光顕微鏡で撮影した。図面は各群にマウス5匹ずつの代表である。図面における縮尺は400 μmである。
図29図29はマウス耳モデルによる本発明のナノ粒子(1 w/v%ラウリン酸)の生体内におけるアクネ菌に対する抗菌活性を示す。ICRマウスの耳(左耳と右耳)にアクネ菌(1x107 CFU、20 μLのPBSに混合された)を皮下注射した。アクネ菌の注射部位にまたそれぞれ本発明のナノ粒子(1 wt%ラウリン酸)またはPBSを注射した。注射24時間後、細菌に感染した皮膚組織を取って細菌を計数した。(a) 注射24時間後の注射部位の組織損傷である。(b) 注射24時間後の注射部位の微生物負荷である(UD:検出不能)。
図30図30は本発明のナノ粒子(1 w/v%ラウリン酸)のマウス背部皮膚に対する毒性測定結果を示す。ゲル形態の本発明のナノ粒子をマウスの除毛された背部皮膚に貼り付けた。24時間後ゲルを取り、皮膚を分析した。本発明のナノ粒子で処理された皮膚は正常の構造のままで、紅斑または水腫が見られなかった。ヘマトキシリン・エオジン染色(H&E)結果から、本発明のナノ粒子で処理された皮膚構造が損傷せず、真皮層の上に一層の健康の表皮細胞があった。本発明のナノ粒子で処理されたものの観察結果はPBSで処理されたものの結果と同様で、本発明のナノ粒子は皮膚に検測可能な毒性がないことが示された。
図31図31は、98名の座瘡のボランティアが本発明のナノ粒子を使用した後のフィードバック結果を示す。3日目、7日目および21日目にそれぞれフィードバック結果を採取した。
図32図32は、1w/v%のリノレン酸を含有する本発明のナノ粒子のサイズ分布曲線を示す。
図33図33は、本発明のナノ粒子(1w/v%ラウリン酸)のサイズ分布曲線を示す。
図34図34は、本発明のナノ粒子(0.4w/v%ラウリン酸モノグリセリド)のサイズ分布曲線を示す。
図35図35は、本発明のナノ粒子の構造概略図を示す。
図36図36は、1w/v%のリノレン酸を含有する本発明のナノ粒子と遊離脂肪酸の水性環境における最小殺菌濃度を比較する。
図37図37は、本発明のナノ粒子(1w/v%ラウリン酸)と遊離脂肪酸の水性環境における最小殺菌濃度を比較する。
図38図38は、PBS緩衝液において、遊離のミリストレイン酸は抗ピロリ菌の活性を表さなかったが、本発明のナノ粒子の形態で存在するミリストレイン酸(0.3w/v%)は抗ピロリ菌の活性を表したを示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
(具体的な実施形態)
発明者は、幅広く深く研究したところ、意外に、脂肪酸またはその誘導体(たとえば、脂肪酸グリセリド)、界面活性剤および任意に脂質で調製された非小胞型ナノ粒子(ミセルナノ粒子構造)は顕著な抗菌活性を有するだけでなく、優れた安定性も有し、かつ本発明の非小胞型ナノ粒子は薬剤耐性株の発生を誘導しないため、優れた抗菌薬として有用である。これに基づき、本発明を完成させた。
【0053】
脂肪酸
本明細書で用いられる用語「脂肪酸」は、当業者に通常理解される意味を持つ。すなわち、前記脂肪酸は疎水の炭素水素鎖と親水のカルボン酸末端基からなる両親媒性分子である。
【0054】
当業者には、一部の脂肪酸がある程度の抗微生物の能力を有するが、脂肪酸自身の特殊な性質、たとえば水に不溶の特性は、脂肪酸が直接薬物として使用することができないように、有機溶媒で投与する必要があるようにさせることが知られている。たとえば、ラウリン酸はヒトの皮脂に存在する遊離脂肪酸で、その抗菌活性が過酸化ベンゾイルよりも強い。しかし、その水溶性が劣るため、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの溶媒でラウリン酸を溶解させることによって外用剤形を形成する必要があるが、DMSOは刺激性および毒性・副作用を有する。そのため、既存技術において、脂肪酸を薬物として使用するには制限が多くある。
【0055】
既存技術と比べ、本発明は有機溶媒を使用しない条件で脂肪酸を送達することによって抗微生物感染の作用をさせることができ、脂肪酸の薬物としての使用における制限を打破し、既存技術において薬物として使用することが困難な大量の脂肪酸が利用できるようになる。本発明に適する脂肪酸はC8~C28、好ましくはC12~C24、より好ましくはC12~C18の飽和または不飽和脂肪酸である。好適な実施形態において、前記不飽和脂肪酸は1~6個、好ましくは1~4個、たとえば1、2、3または4個の不飽和結合、好ましくは二重結合を含有する。具体的な実施形態において、本発明に適する脂肪酸はパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸、リノール酸、ラウリン酸、ミリストレイン酸、アラキド酸、EPA、DHA、カプリル・カプリン酸およびノナン酸を含むが、これらに限定されない。さらに好適な実施形態において、本発明に適する脂肪酸はリノレン酸、ラウリン酸、ミリストレイン酸を含むが、これらに限定されない。
【0056】
本発明の掲示に基づき、当業者には、本明細書に記載の「脂肪酸」はその誘導体を含み、すなわち、、本明細書に記載の「脂肪酸」は脂肪酸の酸、塩およびエステルの3つの形態を含むことが理解される。具体的な実施形態において、本発明の非小胞型ナノ粒子における脂肪酸誘導体はC10~C14、好ましくはC11~C13の脂肪酸のモノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリドである。具体的な実施形態において、前記脂肪酸は飽和脂肪酸、好ましくはラウリン酸である。好適な実施形態において、前記脂肪酸誘導体はラウリン酸モノグリセリドである。本明細書で用いられる用語「ラウリン酸モノグリセリド」はラウリン酸モノグリセリドにおけるグリセリンのヒドロキシ基がR、Sと異なる立体配置を取った異性体、1-ヒドロキシ置換のラウリン酸モノグリセリド、2-ヒドロキシ置換のラウリン酸モノグリセリド、およびこれらの任意の混合物などの多くの形態を含む。
【0057】
非小胞型ナノ粒子
本明細書で用いられる用語の「ナノ粒子」、「本発明のナノ粒子」、「非小胞型ナノ粒子」および「本発明の非小胞型ナノ粒子」は同じ意味を有し、いずれも小胞形態を有さないナノ粒子をいう。具体的に、本発明の非小胞型ナノ粒子はほかの空洞構造を有するナノ粒子に対するもので、すなわち、本発明の非小胞型ナノ粒子は中に空洞を有さないナノ粒子である。また、後記の本発明のナノ粒子の製造方法に基づき、当業者には、本発明のナノ粒子はナノ粒子系で、すなわち、水性系にあるナノ粒子、すなわち、ナノ粒子を含む水性系全体である。言い換えれば、本発明に記載のナノ粒子はナノ粒子の水性系、すなわち、有機溶媒を含有しないナノ粒子系である。
【0058】
本発明のナノ粒子は、たとえば脂肪酸およびその誘導体(たとえばラウリン酸モノグリセリド)系の天然抗菌物質を微生物、たとえば細菌または真菌の感染部位に伝達し、たとえばDMSOなどの溶媒の使用を避けることができる。本発明によって提供される非小胞型ナノ粒子は脂肪酸またはその誘導体、界面活性剤および任意に脂質で構成される。これらの構成成分の分子はいずれも親水の部分および伸長した炭素水素鎖で構成される疎水部分を有する。たとえば、脂肪酸は疎水の炭素水素鎖と親水のカルボン酸末端基からなる両親媒性分子である。また、たとえば、脂肪酸グリセリド、たとえばラウリン酸モノグリセリドのような脂肪酸エステルは疎水の炭素水素鎖と親水のカルボン酸末端基からなる両親媒性分子である。このような構造は脂肪酸または脂肪酸エステルがナノミセルのような両親媒性環境を有するナノ粒子を収容できるようにさせる。水の存在下において、これらの親水部分および界面活性剤が水の表面に向かう一つの面に並ぶと同時に、疎水部分が並んで水から離れる核心を形成することによって、ミセルのナノ構造になる(図35に示す)。
【0059】
本発明の非小胞型ナノ粒子に含まれる脂質はリン脂質および/またはコレステロールでもよい。具体的な実施形態において、前記脂質はリン脂質で、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ジミリストイルレシチン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロールおよびジオレオイルホスファチジルエタノールアミンのうちの1種または複数種を含むが、これらに制限されない。
【0060】
本発明に適する界面活性剤はステアリン酸ナトリウム、4-(5-ドデシル)ベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレングリコール、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ソルベート60、ポリソルベート80、ポロキサマー、ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテルおよびTriton X-100のうちの1種または複数種を含むが、これらに制限されない。
【0061】
具体的な実施形態において、本発明のナノ粒子の賦形剤の材料はホスファチジルコリン、コレステロール、レシチン、ポリソルベート20、ポリソルベート80およびドデシル硫酸ナトリウムを含んでもよい。
【0062】
本発明の非小胞型ナノ粒子において、脂質と界面活性剤の配合比は10~0:1、好ましくは5~0:1、より好ましくは2.5~0:1でもよい。
本発明の非小胞型ナノ粒子の成分は適量の脂肪酸またはその誘導体を含む。具体的な実施形態において、前記脂肪酸またはその誘導体の濃度は0.001~5w/v%、好ましくは0.1~5w/v%、より好ましくは0.2~4w/v%、さらに好ましくは0.3~3w/v%である。好適な実施形態において、本発明のナノ粒子には、1.0 w/v%のリノレン酸またはラウリン酸、あるいは0.3 w/v%のミリストレイン酸、あるいは0.3 w/v%のラウリン酸モノグリセリドを含んでもよい。当業者には、本明細書に記載の脂肪酸またはその誘導体の濃度とは当該脂肪酸またはその誘導体の本発明のナノ粒子を含む系、特に水性系、たとえば水性懸濁液における濃度をいうことが理解される。
【0063】
本発明の非小胞型ナノ粒子は一連の物理・化学的特徴、たとえばナノ粒子の直径およびリノレン酸またはラウリン酸グリセリドの濃度(すなわち、リノレン酸またはラウリン酸グリセリドのナノ粒子懸濁液全体における質量百分率)を有する。ナノ粒子の直径は動的光散乱法によって測定することができる。本発明の非小胞型ナノ粒子の平均直径は約1~90 nm、好ましくは2~80 nm、より好ましくは5~50 nm、さらに好ましくは5~20 nm、最も好ましくは5~15 nmである。
【0064】
ほかの実施形態において、前記ナノ粒子の粒子径は1~30 nm、10~40 nm、20~50 nm、30~60 nm、40~70 nm、50~80 nm、60~90 nmでもよく、あるいは前記ナノ粒子の粒子径は5~25 nm、15~35 nm、25~45 nm、35~55 nm、45~65 nm、55~75 nm、65~85 nmでもよく、あるいは前記ナノ粒子の粒子径は10~30 nm、20~40 nm、30~50 nm、40~60 nm、50~70 nm、60~80 nm、70~90 nmでもよい。
【0065】
本発明の非小胞型ナノ粒子は、粒子径分布が均一で、その多分散性指数は<0.3、好ましくは<0.2である。好適な実施形態において、前記ナノ粒子の粒子径は狭い範囲内にあり、たとえば約5~10 nm、約15~25 nm、約20~30 nm、約40~50 nm、約65~75 nm、約80~90 nmまたは約100~110 nmである。
【0066】
本発明の非小胞型ナノ粒子は優れた安定性を有する。具体的な実施形態において、各温度で3か月保存した後、新しく製造されたナノ粒子と比べ、本発明のナノ粒子の「最小発育阻止濃度」と「最小殺菌濃度」の値の変化が20%未満、好ましくは10%未満である。もう一つの実施形態において、室温で1.5か月、好ましくは3か月保存した後、新しく製造されたナノ粒子と比べ、本発明のナノ粒子の粒子径の変化が15%未満、好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満である。本明細書で用いられる用語「室温」は、当業者に通常理解される意味を持つが、一般的に25℃±5℃、または25℃±3℃、または25℃±1℃をいう。
【0067】
本発明の非小胞型ナノ粒子は優れた抗微生物感染の活性を有する。具体的な実施形態において、本発明のナノ粒子は、細菌または真菌を抑制または殺滅することができる。
具体的な実施形態において、前記細菌はグラム陽性菌、グラム陰性菌を含むが、これらに限定されない。
【0068】
前記グラム陽性菌は、ブドウ球菌(Staphylococcus)、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、より好ましくはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)、プロピオン酸菌(Propionibacterium)、好ましくはプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudennreichii)、アクネ菌(Propionibacterium acnes)、プロピオニバクテリウム・アビダム(Propionibacterium avidum)、プロピオニバクテリウム・グラヌローサム(Propionibacterium granulosum)、より好ましくはアクネ菌(Propionibacterium acnes)を含むが、これらに限定されない。
【0069】
前記グラム陰性菌は、ピロリ菌(Helicobacter Pylori)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、好ましくはピロリ菌を含むが、これらに限定されない。
もう一つの具体的な実施形態において、前記真菌は、コクシジオイデス菌、パラコクシジオイデス菌、ブラストミセス・デルマチチジス、黒色真菌、マズレラ・ミセトミ、スポロトリックス・シェンキイ、白癬菌、カンジダ属、クリプトコッカス菌、アスペルギルス菌、ムコール菌、放線菌、ノカルディア菌など、好ましくは白癬菌およびアスペルギルス菌、より好ましくはカンジダ・アルビカンズ(Canidia albicans)、紅色白癬菌(Trichophyton rubrum)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)、黄癬菌(Mycelium yellow ringworm)、最も好ましくは紅色白癬菌(Trichophyton rubrum)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)を含むが、これらに限定されない。
【0070】
具体的な実施形態において、本発明のナノ粒子の1×106 CFUのMRSAに対する最小発育阻止濃度(MIC)は0.1w/v%で、最小殺菌濃度(MBC)は0.2w/v%である。もう一つの具体的な実施形態において、本発明のナノ粒子のアクネ菌に対する最小発育阻止濃度(MIC)は0.0125w/v%で、最小殺菌濃度(MBC)は0.02w/v%である。またもう一つの具体的な実施形態において、本発明のナノ粒子の5×106 CFUのピロリ菌に対する最小発育阻止濃度(MIC)は0.0015w/v%で、最小殺菌濃度(MBC)も0.0015w/v%である。またもう一つの具体的な実施形態において、本発明の非小胞型ナノ粒子の紅色白癬菌に対するMICは0.006w/v%で、アスペルギルス・フミガーツスに対するMICは0.1w/v%である。
【0071】
本発明のナノ粒子の微生物を抑制する能力は以下のように測定することができる。たとえば、被験微生物を本発明のナノ粒子と体外培地でインキュベートするか、あるいは動物モデルでインキュベートする。その後、微生物の集落数を測定する(CFUで表される)。本明細書で用いられる用語「生長を抑制する」とは本発明のナノ粒子がある微生物と共同培養する場合CFUの増加を抑制する能力をいう。そのため、ある微生物が本発明のナノ粒子と接触すると、そのCFUは変化しないか、あるいは低下する。
【0072】
本明細書で用いられる用語「最小発育阻止濃度」(MIC)とは、微生物、たとえばある細菌、たとえば黄色ブドウ球菌、またはある真菌、たとえば紅色白癬菌やアスペルギルス・フミガーツスの生長を抑制することができる薬物、たとえば本発明のナノ粒子の最小濃度をいう。MIC値は当該微生物が各濃度の本発明のナノ粒子と接触した後の光学密度を測定することによって確認することができるが、特にOD600値またはOD450値が変化するか比較する。一定の時間が経った後、OD600またはOD450値が上がっていない場合、培養液における細菌または真菌の数が増えていないことを示す。
【0073】
本明細書で用いられる用語「最小殺菌濃度」(MBC)とは、微生物細胞を殺滅することができる薬物、たとえば本発明のナノ粒子の最低濃度をいう。MBCは、たとえばある特定の条件(たとえば37℃)で異なる濃度の本発明の粒子と共同培養した培地における集落の生長状況を計数することによって測定することができる。
【0074】
本明細書で用いられる用語「約」とは引用される実際の数字または数値、および引用される数字または数値の前後10%範囲内にあることをいう。
本発明の非小胞型ナノ粒子の製造方法
本発明の非小胞型ナノ粒子は、
1).界面活性剤および任意に脂質を水に懸濁させる工程、
2).1)で得られた懸濁液を均一相の懸濁液になるまで撹拌する工程、
3).2)で得られた均一相の懸濁液をそれに含まれる界面活性剤および任意に脂質の融点以上に加熱する工程、
4).脂肪酸またはその誘導体を3)で得られた熱い懸濁液に入れて撹拌する工程、
5).降温し、4)で得られた懸濁液を静置することによって、本発明の非小胞型ナノ粒子懸濁液を得る工程、
を含む方法によって製造することができる。
【0075】
具体的な実施形態において、前記方法における融点温度は20℃~80℃、たとえば20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃または80℃である。
さらなる実施形態において、前記方法は、さらに、得られたナノ粒子の流体力学的サイズを検出することを含む。
【0076】
本発明の非小胞型ナノ粒子の製造は以下のようなパラメーターを考慮する必要がある。たとえば、原材料およびナノ粒子に含ませる材料の物理・化学的性質、ナノ粒子を分散させる媒体の性質、担持される物質の有効濃度およびその潜在毒性、ナノ粒子の利用/送達に関する加工過程、最適なサイズ、多分散性および貯蔵期間、ロット再現性および安全で効率的な製品の大規模生産の可能性が挙げられる。
【0077】
本発明のナノ粒子の製造は自発的に形成するわけではなく、十分なエネルギーが水における脂肪酸、たとえばリノレン酸および賦形剤の材料に提供される場合のみ形成する(たとえば超音波処理、均一化、振とうまたは加熱によって提供される)。
【0078】
本発明のナノ粒子は数種類の本発明によって提供される成分および方法で製造することができる。本発明のナノ粒子に適するほかの製造方法は撹拌法および加熱法を含み、高速撹拌が含まれる。このような技術の利点は、設備が簡単で、生産しやすいことにある。
【0079】
一部の実施形態において、前記ナノ粒子は高圧均質化法によって形成することができる。高圧均質化法は多くの業界に幅広く使用され、最も実行性のある工業的応用方法とされる。この技術は室温よりも高いか低い条件における固形脂質ナノ粒子の調製を含み、キャビテーションおよびボルテックスの作用は粒子のサイズを小さくさせる。熱高圧均質化法を使用すると、リポソームと薬物を溶融させ、かつ同等の温度で界面活性剤水溶液と組み合わせる。熱い前乳濁液をさらに温度が制御される高圧ホモジナイザーで加工し、通常500 barの条件で多くとも3サイクル行われる。得られたナノ乳濁液は室温に冷却した後再結晶し、固形リポソームナノ粒子になる。冷高圧均質化法は親水性薬物の加工に使用することができる。
【0080】
上記方法以外、固形リポソームナノ粒子の製造に使用されるほかの方法のいずれも本発明のナノ粒子の生産に使用することができる。このような方法は、微乳液法、乳化-溶媒揮発法、乳化溶媒拡散法、溶媒注入法および逆相法を含む。
本発明の製造方法で得られるナノ粒子は構造および生物学的活性で優れた安定性を有する。本発明の製造方法は脂肪酸またはその誘導体の利用率にも十分である。
【0081】
薬物組成物およびその使用方法
本発明のナノ粒子はヒトおよびほかの哺乳動物に使用できるように薬物組成物にしてもよい。使用時ほかの薬物担体または希釈剤と混合し、かつ哺乳動物の病状の特徴および重篤度によって投与の量と周期を決めてもよい。通常の場合、本発明のナノ粒子における脂肪酸またはその誘導体は、薬学的に有効な投与量、たとえば、有効に哺乳動物、たとえばヒトが感染した微生物、たとえば黄色ブドウ球菌または真菌の数を減らす投与量に達することが可能である。
【0082】
製剤および投与方法はいずれも本業界で経験のある人に熟知のものである。通常の場合、治療される疾患の病状の重篤度と薬物効果の反応によって投与し、病状が緩和するまで、治療過程は数日から数か月持続する。最適な投与量、投与方法および重複率も当業者によって決めることができる。最適な投与量は本発明のナノ粒子の相対的な治療効果によって調整することができるが、通常、体外および体内動物モデルのMICとMBCの値によって使用量を見積もることができる。投与頻度は毎日1回または数回、週に2回、毎週1回またはもっと長い期間に1回でもよい。治療が成功した後、感染が再発しないように、続いてある程度維持治療を行うべきである。
【0083】
本明細書で用いられる用語「薬学的に許容される担体」と「賦形剤」は同じ意味を持ち、いずれも使用対象に本発明のナノ粒子を送達するための薬学的に許容される溶媒、懸濁剤または任意にほかの薬学的に不活性の賦形剤をいう。薬学的に許容される担体は液体でも固体でもよいが、本発明のナノ粒子を1種または複数種の治療作用を有する化合物あるいはほかの薬学的成分と併用する場合、理想の投与量、一致性、およびほかの薬物送達と化学的特性になれるように、予定される投与形態によって担体を担体を選択する。
【0084】
本発明のナノ粒子と有害な反応が生じず本発明のナノ粒子のナノ構造を破壊しない薬学的に許容される担体は、水、生理食塩水、バインダー(たとえばポリビニルピロリドンやヒドロキシプロピルメチルセルロース)、フィラー(たとえば乳糖およびほかの糖類、ゼラチンや硫酸カルシウム)、潤滑剤(たとえばデンプン、ポリエチレングリコールや酢酸ナトリウム)、崩壊剤(たとえばデンプンやデンプングリコール酸ナトリウム)、および湿潤剤(たとえばラウリル硫酸ナトリウム)を含むが、これらに限定されない。
【0085】
本発明のナノ粒子は多くの方法によって投与することができるが、通常は局所投与である。本発明のナノ粒子はほかの分子と混合するか、あるいはほかの分子、分子構造または化合物の混合物とともに使用することができるが、たとえばポリエチレングリコール、ワセリン、またはほかの外用製剤とともに使用することによって、薬物の摂取、分布および/または吸収を促進する。局所投与の剤形は無菌および非無菌水溶液、ならびに通常の溶媒の非水溶液(たとえばエタノールあるいは液体または固体油基質溶液)を含む。このような溶液は緩衝液、希釈剤およびほかの適切な添加剤を含有してもよい。局所投与の薬物剤形は経皮吸収型貼付剤、軟膏、ローション剤、クリーム剤、ゲル剤、滴剤、噴霧剤、液体および粉末を含む。その中で、ローション剤、クリーム剤およびゲル剤が特に好適である。使用時よく通常の薬物担体(水基質、粉末基質または油基質のもの)が必要で、増ちょう剤などのほかの物質を使用することもある。場合によって、本発明のナノ粒子は水基質、非水基質または混合基質の懸濁液に懸濁させることがある。懸濁液にはさらに懸濁液の粘度を増加させる物質、たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールおよび/またはグルカンが含まれてもよい。また、懸濁液は安定化剤を含んでもよい。
【0086】
好適な実施形態において、本発明の薬物組成物は、本発明のナノ粒子が有効に哺乳動物の皮膚を透過する機能を向上させるように、さらに、透過促進剤を含んでもよい。透過促進剤は同時に親油性と非親油性の薬物が細胞膜を透過する能力を向上させることができる。透過促進剤は、界面活性剤(たとえばドデシル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテルやポリオキシエチレン-20-ヘキサデシルエーテル)、胆汁酸塩(たとえばコール酸、デヒドロコール酸やデオキシコール酸)、キレート剤(たとえばエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、クエン酸やサリチル酸塩)、および非キレート性非界面活性剤(たとえば不飽和環状尿素)を含むが、これらに限定されない。
【0087】
さらに、一部の実施形態において、本発明のナノ粒子はイオントフォレシス法によって送達し、電荷を持つ経皮吸収型貼付剤で当該ナノ粒子を真皮に到達させることができる。
本発明の薬物組成物には、通常、ほかの補助薬物成分が含まれてもよい。これらは、相溶性のある薬物活性材料、たとえばかゆみ止め薬、収斂剤、局部麻酔剤または消炎薬、およびほかの剤形の物理的性能を改良するための材料(たとえば染色剤、防腐剤、酸化防止剤、遮光剤、増ちょう剤や安定化剤など)を含む。さらに、補助試薬、たとえば潤滑剤、防腐剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響する塩、緩衝液、着色剤や芳香物質などを入れてもよい。もちろん、これらの補助物質の添加は本発明のナノ粒子の活性および使用効果を干渉しない。必要によって、製剤は調製後滅菌処理を行う。
【0088】
本発明の内容および既存技術の掲示に基づき、当業者は本発明の薬物組成物を様々な剤形にすることができる。具体的な実施形態において、本発明の薬物組成物の剤形は全身投与に適する剤形、あるいは外用または局所投与に適する剤形を含むが、これらに限定されない。さらに、前記剤形は、錠剤、溶液剤、懸濁液、カプセル剤、顆粒剤、粉剤、注射剤、貼付剤、スプレー剤、軟膏剤、油脂性軟膏剤、油性クリーム剤、ゲル剤、水性クリーム剤、滴剤、噴霧剤、ローション剤を含むが、これらに限定されない。具体的な実施形態において、本発明の薬物組成物は外用または局所投与に適する剤形は、貼付剤、スプレー剤、軟膏剤、油脂性軟膏剤、油性クリーム剤、ゲル剤、水性クリーム剤、滴剤、噴霧剤、ローション剤を含むが、これらに限定されない。
【0089】
本発明の医薬品組成物は抗微生物感染の試薬として使用することができる。前記微生物は細菌または真菌を含む。たとえば、前記細菌は、グラム陽性菌、グラム陰性菌を含むが、これらに限定されない。前記グラム陽性菌は、ブドウ球菌、好ましくは黄色ブドウ球菌、より好ましくはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌、あるいは、プロピオン酸菌、好ましくはプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ、アクネ菌、プロピオニバクテリウム・アビダム、プロピオニバクテリウム・グラヌローサム、より好ましくはアクネ菌を含むが、これらに限定されない。前記グラム陰性菌は、ピロリ菌、緑膿菌を含むが、これらに限定されない。また、たとえば、前記真菌は、コクシジオイデス菌、パラコクシジオイデス菌、ブラストミセス・デルマチチジス、黒色真菌、マズレラ・ミセトミ、スポロトリックス・シェンキイ、白癬菌、カンジダ属、クリプトコッカス菌、アスペルギルス菌、ムコール菌、放線菌、ノカルディア菌など、好ましくは白癬菌およびアスペルギルス菌、より好ましくはカンジダ・アルビカンズ、紅色白癬菌、アスペルギルス・フミガーツス、黄癬菌、最も好ましくは紅色白癬菌、アスペルギルス・フミガーツスを含むが、これらに限定されない。
【0090】
本発明の薬物組成物は特に哺乳動物(たとえばヒト)の体表または体内に生存する微生物、たとえばブドウ球菌、プロピオン酸菌、ピロリ菌または真菌の数を減らすことによってこれらの微生物の感染を治療することができる。これらの方法は、本発明の薬物組成物または本発明のナノ粒子をかんせんされた哺乳動物の病巣部位、たとえば皮膚に施用することによって、感染したブドウ球菌またはプロピオン酸菌または真菌細胞の数を減らすことを含む。本発明の薬物組成物またはナノ粒子は微生物、たとえば黄色ブドウ球菌またはアクネ菌または真菌による感染の症状を軽減させることもできる。
【0091】
本発明の薬物組成物は、さらに、ほかの通常の抗生物質を含むことで、ほかの抗生物質と併用てもよいが、これらのほかの通常の抗生物質が本発明のナノ粒子と互いに悪影響を与えなければよい。通常の抗生物質の単独使用とくらべ、上記併用は通常の抗生物質の使用量を減らす、毒性・副作用を減少させる、そして治療効果を向上させるといった有益な効果を果たす。前記ほかの抗生物質は本発明のナノ粒子で治療するものと同様の微生物感染を治療する抗生物質で、治療効果を向上させてもよい。本発明のナノ粒子で治療するものと異なる微生物感染を治療する抗生物質で、異なる微生物感染または複雑な微生物感染を治療することができる。前記ほかの通常の抗生物質はキノロン系、β-ラクタム系、マクロライド系、アミノグリコシド系、アンフェニコール系、ニトロイミダゾール系などでもよい。たとえば、前記ほかの通常の抗生物質はバンコマイシン、セファロスポリン、リネゾリド、テイコプラニン、アルベカシン、シナシッド、ダルホプリスチン、キヌプリスチン、クリンダマイシン、ダプトマイシン、リファンピシン、テラバンシン、テトラサイクリン系、たとえばチゲサイクリンなどの薬物を含むが、これらに限定されないか、あるいは、前記ほかの通常の抗生物質は、アダパレン、タザロテン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、アジスロマイシン、ミノサイクリン、ロキシスロマイシン、イソトレチノインおよび過酸化ベンゾイル(BPO)を含むが、これらに限定されないか、あるいは、前記ほかの通常の抗生物質は、クラリスロマイシン、アモキシシリン、メトロニダゾール、チニダゾール、フラゾリドン、テトラサイクリンなどの薬物を含むが、これらに限定されないか、あるいは、前記ほかの通常の抗生物質は抗真菌感染の抗生物質で、クロトリマゾール、ナイスタチン、フルコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、ミコナゾール、テルビナフィン、ナフチフィン、アモロルフィン、アムホテリシンB、グリセオフルビン、シクロピロクスオラミン、カスポファンギンなどを含むが、これらに限定されない。
【0092】
また、当業者には、上記のほかの抗生物質は本発明のナノ粒子と同じ投与経路で同じ投与時間で投与してもよく、本発明のナノ粒子と異なる投与経路で同じ投与時間で投与してもよく、本発明のナノ粒子と同じ投与経路で異なる投与時間で投与してもよいことがわかる。たとえば、上記ほかの抗生物質は本発明のナノ粒子と離散的に同一の薬物組成物(たとえばキット)に存在することで、同じか異なる投与経路で、同じか異なる投与時間で投与することができる。
【0093】
好適な実施様態において、本発明の薬物組成物は水性薬物組成物で、すなわち、有機溶媒を含有しない薬物組成物である。当業者は本発明の掲示および実際の要求によって薬物組成物における脂肪酸またはその誘導体の濃度を決めることができる。
【0094】
本発明の利点:
1.本発明の非小胞型ナノ粒子は顕著な抗菌活性を有する。
2.本発明の非小胞型ナノ粒子は天然由来の成分を使用し、安全性が高く、毒性・副作用がない。
【0095】
3.本発明の非小胞型ナノ粒子は優れた安定性を有する。
4.本発明の非小胞型ナノ粒子はDMSOのような有機溶媒を使用せずに薬物を送達する。
5.本発明の非小胞型ナノ粒子の製造方法は簡単で、クロロホルムなどの有毒で有害な有機溶媒を使用する必要がないため、生産コストを低下させて環境にやさしい。
【0096】
6.本発明の非小胞型ナノ粒子の粒子径が小さく、組織内部に入って殺菌作用を発揮することがより容易である。
7.本発明の非小胞型ナノ粒子は多分散性が小さく、均一性が良く、殺菌効果が安定している。
【0097】
特別に説明しない限り、本発明で用いられるすべての技術用語と科学用語はいずれも本発明が属する技術分野の当業者が通常理解する意味と同様である。本発明は本特許で開示されたものと類似または同等の方法と材料で実施することができるが、以下適切な方法と材料を開示した。本特許に記載のすべての出版物、特許出願、特許およびほかの参考資料は引用で全体として取り入れられる。これらの出版物、特許出願、特許およびほかの参考資料が本特許出願と矛盾する場合、本明細書(定義を含む)に準ずる。また、本特許出願における材料、方法および実例は説明のためのものだけで、制限的なものではない。
【0098】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例で具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、例えばSambrookら、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(コールド・スプリング・ハーバー研究所出版社、2001) に記載の条件などの通常の条件に、或いは、メーカーのお薦めの条件に従う。 特に断らない限り、%と部は、重量で計算される。
【実施例
【0099】
材料と方法
材料:
卵黄レシチン(egg PC)、コレステロール、C6-NBDフィトスフィンゴシン(C6NBD)および1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-リサミンローダミンBスルホニル(DMPE-RhB)はAvanti Polar Lipids有限公司(Alabaster、AL)から、リノレン酸、トリプチケースソイブロス(TSB)、リン酸塩緩衝塩(PBS)、トリフルオロ酢酸(TFA)、アセトニトリルおよびセファデックスG-75はSigma Aldrich(St. Louis、MO)から、寒天はBD(sparks、MD)から購入された。
【0100】
ラウリン酸はSigma Aldrich(St. Louis、MO)から購入された。KHCO3はFisher Scientific社(Pittsburgh、PA)から購入された。3,4-ジフルオロベンゾイルメチルブロミドはMaybridge社(Cambridge、英国)から購入された。ブルセラ培地(ロット番号211088)、吸引装置(ロット番号260683)およびヒト寒天(ロット番号214010)はBD社(Sparks、MD)から購入された。1Lのブルセラ培地には、10.0 gのカゼインのトリプターゼ消化物、10.0 gの動物組織のペプシン消化物、1.0 gのブドウ糖、2.0 gの酵母エキス、5.0 gの塩化ナトリウムおよび0.1 gの亜硫酸水素ナトリウムが含まれる。脱フィブリン化ヒツジ血(ロット番号R54016およびR54008)およびクロロマイセチンとビタミンK溶液(ロット番号R450951)はRemel社(Lenexa、KS)から購入された。強化クロストリジウム培地(ロット番号OXCM0149B)はOxoid社(Hampshire、英国)から購入された。
【0101】
ミリストレイン酸、トリプチケースソイブロス(TSB)、リン酸塩緩衝塩(PBS)、トリフルオロ酢酸(TFA)、アセトニトリルおよびセファデックスG-75はSigma Aldrich(St. Louis、MO)から購入された。寒天はBD(sparks、MD)から購入された。
【0102】
ラウリン酸モノグリセリドはTCI (Tokyo Chemical Industry)から購入され、紅色白癬菌株216-3664は華山医院真菌室から、アスペルギルス・フミガーツス116-7490は華山医院真菌室から獲得され、PDA完成品乾燥粉末は独国メルク社から、RPMI1640は米国GIBCO社から購入された。
【0103】
細菌の培養:
MRSA252菌株(ATCCから獲得された)を冷凍保存から取り出し、37℃でトリプチケースソイブロス寒天プレートで一晩培養した。そして、一つの単独集落をトリプチケースソイブロス培地(TSB)に接種し、37℃で培養し、培養媒体のOD600が0.7程度に達する(対数増殖期)まで振とうした。その後、4000×gで3分間遠心することによって細菌を得た後、無菌PBSで2回洗浄した。遠心でPBSを除去した後、得られた細菌を適量の新鮮なTSBに懸濁させて後の使用に供した。
【0104】
アクネ菌 (ATCC 6919)をブルセラ培地で培養し、培地に5% (v/v)の脱フィブリン化ヒツジ血、ビタミンK(5 μg/mL)およびクロロマイセチン(50 μg/mL)を添加し、吸引装置による37℃嫌気環境において培養した。単一クローンを取って強化クロストリジウム培地に接種し、OD600が約1.0に達する(対数増殖期)まで37℃嫌気環境において培養した。5000 gで10分間遠心し、菌を収集してPBSで洗浄した後、適量のPBSで再溶解させて試験に使用した。
【0105】
ピロリ菌シドニー株1(HPSS1、ATCCから)を冷凍保存から取り出し、37℃で通常のようにコロンビア寒天(5%分解ウマ血液(FBS)含有)の微好気環境(10% CO2、85% N2および5%O2)において保存した。実験において、寒天プレートで培養された新鮮な集落を5%牛胎児血清を添加したブレインハートインフュージョン(BHI)に接種した後、37℃の微好気条件で適度に振とうしながら一晩培養することによって、ピロリ菌のブロス培養物を調製した。HPSS1の一晩ブロス培養物を5000×gで10分間遠心することによって細菌沈殿物を得た。遠心で培地を除去した後、得られた細菌を適量の5%FBSを含有する新鮮なBHIに懸濁させて使用に備えた。
【0106】
真菌の培養:
紅色白癬菌株216-3664およびアスペルギルス・フミガーツス116-7490を冷凍保存から取り出し、37℃の条件においてPDA寒天プレートに接種して48h培養した。
【0107】
本発明のナノ粒子の製造および特徴付け:200 mgの界面活性剤(ポリソルベート20またはポリソルベート80)と脂質(卵黄レシチン:コレステロール=9:1重量比)の混合物を4 mLの水に懸濁させ、ここで、界面活性剤:リポソームの比率はそれぞれ10: 0、8: 2、5: 5、3: 7、1: 9または0: 10であった。懸濁液を均一相溶液になるまで撹拌した後、界面活性剤および脂質の融点以上(20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃または80℃で、使用された界面活性剤と脂質およびその比率によって決まる)に加熱した。相応する濃度の脂肪酸、たとえばリノレン酸(0.1w/v%から4w/v%)、ラウリン酸(0.1 w/v%~5 w/v%)、ミリストレイン酸(0.1wt%から4wt%)またはラウリン酸モノグリセリド(0.1w/v%から0.8w/v%)を懸濁液に入れて30分間撹拌した。その後、溶液を室温で一晩置いた。本発明のナノ粒子の流体力学的サイズは、マルバーンZetasizer ZS装置(英国マルバーン・インスツルメンツ社、英国)によって測定された。本発明のナノ粒子の平均直径は動的光散乱法(DLS)によって測定された。すべての性質の測定は25℃で3回繰り返した。
【0108】
本発明のナノ粒子の安定性:本発明のナノ粒子の長期間安定性はナノ粒子溶液を異なる温度において一定の時間で保存することによって考察した。決めておいた各時刻で、サンプルの粒子径を測定することによって本発明のナノ粒子の異なる温度における安定性を判断した。
【0109】
本発明のナノ粒子の体外抗菌活性(MICとMBCの値):本分野の通常の方法によって本発明のナノ粒子の異なる細菌に対する体外MICおよびMBCを検出した。
本発明のナノ粒子で処理された細菌の形態学:通常の方法によって、走査電子顕微鏡(SEM)によって本発明のナノ粒子で処理されたか、あるいは処理されていない細菌の形態を測定した。
【0110】
本発明のナノ粒子のMRSA252に対する体内抗菌活性の測定:
マウス表皮傷口感染モデルとマウス皮下感染モデルの二つのモデルで本発明のナノ粒子のMRSA252感染に対する体内抗菌活性および治療効果を評価した。
【0111】
表皮傷口モデルを構築するために、マウス(Charles River laboratories)にケタミンおよびキシラジンを腹腔注射し、麻酔後、マウスの黒い毛を剃り、皮膚をアルコールパッドできれいにした。マウスの後背の表皮に皮膚の擦り傷の傷口を作り、所定の1×1 cm2領域に28G注射針で6×6の交差線を切り込んだ。これらの切痕の作り方は、角質層と表皮上層しか切らずに、真皮が傷つかないようにした。切ってから5分間後、50μLの1×107CFUのMRSA252細菌PBS懸濁液を微量ピペットで交差切り傷の領域に接種した。接種30分間後、本発明のナノ粒子のPBSゲルを損傷領域に使用した。使用されたゲルはヒドロキシエチルセルロース、グリセリン、ポリエチレングリコールを適当な比率で調製されたヒドロゲルである。これらの薬物は連続5日で毎日1回塗った。ブランクの懸濁ゲルも塗って対照実験とした。6日目に、マウスを安楽死させた。皮膚組織を8 mmの皮膚穿孔機で取ってそれに含まれる細菌数を計数した。
【0112】
皮下感染モデルを構築するために、マウスの黒い毛を剃り、皮膚をアルコールパッドできれいにした。その後、20μLの1×106 CFUのMRSA252細菌PBS懸濁液を毛が剃られた領域に皮下注射し、そして同じ領域に200 μLの本発明のナノ粒子を注射した。無菌PBSをブランク対照実験として注射した。(感染部位の)生理的所見および形態を細かく観察した。細菌接種の3日後、傷口の組織学的分析の結果を記録した。
【0113】
本発明のナノ粒子のアクネ菌に対する体内抗菌活性の測定:ICRマウス(Charles River laboratoriesから)で皮下注射を行うことによって生理環境における本発明のナノ粒子のアクネ菌に対する抗菌活性を検出した。具体的に、アクネ菌 (1x107 CFU、20 μL PBSに溶解)をICRマウスの両耳(左耳と右耳を含む)に皮下注射した後、アクネ菌の注射部位にさらにそれぞれ本発明のナノ粒子(1 w/v%ラウリン酸)またはPBS(陰性比較試験として使用した)を注射した。注射24時間後、8 mm生検穿孔でマウス耳サンプルを採取した後、1 mLの無菌PBS (Mini-BeadbeaterTM)で均質化した。均質化液をPBSで希釈し、希釈比率は1: 10~1: 106であった。各希釈液は10 μL取ってRCM寒天プレートに塗布した。寒天プレートを37℃の嫌気条件において3日培養した後、アクネ菌のCFUを計数した。各群ではマウスを6匹(n=6)使用し、実験を3回繰り返して統計学的な有意差を検証した。
【0114】
本発明のナノ粒子(1 w/v%リノレン酸)の体内毒性の研究:ICRマウスの背部皮膚で本発明のナノ粒子の皮膚毒性を測定した。具体的に、マウスの背部の毛を研究の24時間前に剃った。その後、7日内で毎日本発明のナノ粒子ゲルで毛を剃った領域に1回塗った。PBSで塗ったマウスを対照群とした。ゲルが乾燥しないように、(マウス)皮膚をガーゼで被覆した。最後の外用投与から24時間後、マウスを安楽死させ、皮膚から8 mmの断面切片を切り出して組織学検査に使用した。各マウスの皮膚組織を10%の緩衝ホルマリンで18時間処理した後、パラフィンに包埋した。これたの組織切片をH&E法によって染色した。上皮細胞のアポトーシスをTUNEL法によって分析・評価した。切片をHamamatsu NanoZoomer2.0HT(デジタル切片スキャナー)によって撮影した。図面をNDP画像ソフトによって処理した。各群の実験ではマウスが5匹いた(n=5)。毒性を評価するために、組織サンプルをDraizeシステムで採点した。採点システムでは、0は刺激がないことで、1は極小さくてほとんど見られないことで、2は表皮層で明らかな刺激が見られたことで、3は表皮層で重度の刺激があったことで、4は表皮層で重度の刺激があって真皮層の刺激が伴ったことで、5は表皮層と真皮層の両方に重度の刺激があったことである。マクロファージの浸潤を分析するために、マウスの皮膚組織から8 mmの断面切片が採取された。これらの冷凍皮膚切片では、皮膚のマクロファージにFITC-抗マウスf4/80抗体で染色し、細胞核にDAPIで染色した。染色後、皮膚のサンプルをすぐにNikon Delta Macroview蛍光顕微鏡で撮影した。
【0115】
皮膚毒性:ICRマウスの背部皮膚で本発明のナノ粒子の皮膚毒性を測定した。具体的に、研究の24時間前に、マウスの背部の毛を剃った後、本発明のナノ粒子(1 w/v%ラウリン酸)セルロースゲル(ヒドロキシエチルセルロース、グリセリン、ポリエチレングリコールを適当な比率で調製されたヒドロゲル)を局所投与した。ブランクPBSゲル(本発明のナノ粒子を含有しない)を陰性比較試験として使用した。24時間後、皮膚の形態学を検出して撮影した。Draize採点システムによって皮膚が刺激を受けた結果を採点した。8 mm生検穿孔で皮膚の断面切片を取り、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)で染色した後、顕微鏡で撮影して皮膚の組織学的観察を行った。各群ではマウスを6匹(n=6)使用し、実験を3回繰り返して統計学的な有意差を検証した。
【0116】
本発明の非小胞型ナノ粒子の体外抗真菌活性(MIC)の測定:PDAプレートで培養された紅色白癬菌株216-3664集落を無菌再蒸留水に取り、濁度106 CFUの菌液に調製した後、菌液の最終濃度が103CFUになるようにRPMI 1640液体で1000倍希釈した。蓋付きの96ウェルプレートを取り、勾配希釈された薬液を高濃度順で96ウェルプレートに入れ、1~10のウェルに薬液を100 μlずつ、11のウェルにRPMI 1640液体培地を100 μl (薬液を含有しない)陽性対照として、12のウェルにRPMI 1640液体培地を200 μl (薬液を含有しない)陰性対照として入れた。1~11のウェルに菌懸濁液を100 μlずつ入れた。各種類の菌株に1列の重複ウェルを設け、平行に1回操作した。調製された培養プレートを35℃の電気加熱恒温インキュベーターに入れてウェットボックスで48 hインキュベートした後、菌が生長しない最低薬液濃度を観察することによって、薬物のMIC値を得た。
【0117】
類似の過程で本発明の非小胞型ナノ粒子のアスペルギルス・フミガーツス116-7490に対する体外MIC値を測定した。具体的に、PDAプレートで培養されたアスペルギルス・フミガーツス116-7490集落を無菌再蒸留水に取り、濁度106 CFUの菌液に調製した。MICの測定方法は薬物の紅色白癬菌株216-3664に対する測定方法と同様である。
【0118】
実施例1 本発明のナノ粒子の製造と特徴付け
「材料と方法」部分の記載のように本発明のナノ粒子を製造した。
本発明のナノ粒子の流体力学的粒子径は、z-平均粒子径と多分散性指数の二つのパラメーターで表すが、二つのパラメーターはいずれも動的光散乱法によって測定された累計量から分析・計算されたものである。
【0119】
リノレン酸の濃度を変えることによって、本発明者は一連のナノ粒子を製造して検出することで最適な剤形を判断した。図1Aに示すように、リノレン酸の濃度が1w/v%の場合、溶液は清澄で透明で(d)、ここで、本発明のナノ粒子の平均粒子径は10 nmで、多分散性指数は0.2である。そのため、後の実験に選ばれたナノ粒子は1w/v%のリノレン酸を含み、ここで、脂質と界面活性剤の質量比は2:1である(本明細書ではTNAN-2とも呼ぶ)。また、本発明者はさらに含まれるリノレン酸の濃度が0.2w/v%~0.9w/v%の間の場合の本発明のナノ粒子の水における表面電位を検出したところ、-3mV~-6mVであった。
【0120】
ラウリン酸の濃度を変えることによって、本発明者は一連の本発明のナノ粒子を製造し、試験を繰り返すことによって最適な配合を同定した。図1Bに示すように、ラウリン酸の濃度が1w/v%の場合、溶液は清澄で透明で(c)、当該ナノ粒子の平均直径は11.1 nmで、平均多分散性指数は0.09である。そのため、後の実験に選ばれた製剤は1w/v%のラウリン酸である(脂質と界面活性剤の質量比は2:1で、本明細書ではTNAN-1とも呼ぶ)。また、本発明者はさらに含まれる本発明のナノ粒子の水における表面電位を検出したところ、-5mV~-15mVであった。
【0121】
さらに、本発明者は0.1~4 w/v%の異なるミリストレイン酸担持率の本発明のナノ粒子を製造し、図1Cに示すように、ナノ粒子の最適な収率を選択し、同時に許容されるナノ粒子のサイズ(約9 nm)が維持された。本発明者は、ミリストレイン酸の開始担持濃度が増加すると、ナノ粒子のサイズも増加することを見出した(図2)。後の実験に選ばれた最適な製剤は0.3w/v%のミリストレイン酸で(脂質と界面活性剤の質量比は2:1で、本明細書ではTNAN-3とも呼ぶ)、平均粒子径は約8.6 nmで、10 nmの閾値よりも低い。ナノ粒子の質量は動的光散乱法によって測定され、多分散性指数で特徴づけられる。0.3w/v%ミリストレイン酸のナノ粒子のPDIは約0.2で、狭い粒子径分布を示す。
【0122】
さらに、本発明者は表面Z-電位でミリストレイン酸を配合した本発明のナノ粒子製剤を確認した。0.1~0.5w/v%のミリストレイン酸を担持する製剤の脱イオン水における表面Z-電位の範囲は-3~-13mVであった。製剤におけるミリストレイン酸の担持量が高くなると、表面負電荷が多くなる。表面z-電位のこのような低下とミリストレイン酸の担持の関係は本発明のナノ粒子へのミリストレイン酸の配合によるため、ミリストレイン酸のカルボン酸基は生理pH値7.4に近い条件で脱プロトン化してCOO-になる。
【0123】
さらに、本発明者は0.1~0.8w/v%の異なるラウリン酸モノグリセリド濃度の一連の非小胞型ナノ粒子を製造し、これらのナノ粒子を検出して最適な剤形を判断した。ラウリン酸モノグリセリドの濃度が0.4wt%の場合、溶液は清澄で透明で(図1Dに示す)、ここで、ナノ粒子の平均粒子径は7.5 nmで、平均多分散性指数は0.17である(図34に示す)。
【0124】
実施例2-1 本発明のナノ粒子の体外抗菌活性-1
本発明のナノ粒子(リノレン酸)のMRSA252に対する体外抗菌活性は、細菌を異なる濃度の本発明のナノ粒子と培養した場合表れる抑菌および殺菌作用を検出することによって評価した。研究において、まず、細菌の生長を抑制する本発明のナノ粒子の最小濃度(MIC)を測定した。具体的に、1×106CFUのMRSA252を濃度0~0.6w/v%の本発明のナノ粒子と培養した。濃度0.1w/v%以上の本発明のナノ粒子と培養した細菌は顕著な清澄液のままで、この濃度が細菌の生長に顕著な抑制作用を有することが示された(図8A)。それに対し、本発明のナノ粒子の濃度が0.1w/v%未満の場合、細菌培養液が混濁し、大量の細菌の生長が現れた。細菌の生長を量的分析するために、培養の5時間または24時間後、混合液に対してOD600を測定することによって細菌数を判断した (1 OD600は108 CFU/mLに相当する)。図8Bおよび8Cに示すように、本発明のナノ粒子は濃度が0.1w/v%超の場合細菌の生長が抑制された。このように、0.1w/v%は本発明のナノ粒子のMRSA252に対するMICである。
【0125】
さらに、本発明のナノ粒子のMRSA252に対する最小殺菌濃度(MBC)を検出した。具体的に、確認されるMBC値は99.9%の標的細菌であるMRSA252を殺滅する最低抗菌濃度と定義した。一つの体外実験において、異なる濃度の本発明のナノ粒子がMRSA252(1×106 CFU)とともに24時間培養された。このような培養は本発明のナノ粒子をMRSA252と接触するようにさせて殺菌する。培養後、細菌培養液から5 μL寒天プレートに取り、そして37℃で一晩培養した後、MRSA252のCFUを計数した。図11Aは異なる濃度の本発明のナノ粒子が細菌と24時間培養された後5 μLのサンプルを寒天プレートに取った代表的な写真である。明らかに、使用される薬物の濃度が高くなるほど、寒天プレートに残った見える集落が少なくなる。その後、各群では細菌培地を5 μL取り、1: 10~1: 105の希釈を行った後、TSB寒天プレートに置いて観察し、CFUを計数した。図11Bに示すように、0.2w/v%の本発明のナノ粒子が99.9%のMRSA252を殺滅した。リノレン酸の濃度が0.2w/v%以上に上がった場合、細菌が全部死亡した。そのため、0.2w/v%は本発明のナノ粒子のMRSA252に対するMBC値である。
【0126】
以上の結果から、本発明のナノ粒子のMRSA252に対するMBC:MICの比は約2: 1であることがわかるが、このナノ粒子は当該細菌にとって殺菌剤であることが示された。同時に、このナノ粒子は24時間内で細菌数を3桁低下させ、このナノ粒子のMRSAに対する殺菌作用が示された。この研究は将来の体内の濃度と薬物接触時間の評価に指導を提供する。
【0127】
本発明のナノ粒子のMRSA252を殺滅する機序をさらに理解するために、本発明者はさらにMRSA252細菌の本発明のナノ粒子による処理の前後の形態学的変化を検査した。処理の前では、SEM撮影はMRSA252細胞が典型的な直径0.6~1 μmのブドウ状で集まる形態で、完全な細胞壁/膜構造を有することを示す(図17A)。本発明のナノ粒子による処理の24時間後、SEM撮影は細菌形態の実質的な変化を示すが、顕著な細胞構造の破壊、不規則な集まる形態、破損してはっきりしない細胞周縁を含む(図17B)。この形態の変化は、本発明のナノ粒子が細菌細胞に対する強烈な破壊効果を有するため、細菌の生長を抑制することを意味する。
【0128】
実施例2-2 本発明のナノ粒子の体外抗菌活性-2
本発明のナノ粒子(1 w/v%ラウリン酸)が異なる濃度のアクネ菌( 1 x 106 CFU/mL、1 x 107 CFU/mL、1 x 108CFU/mLおよび 1 x 109 CFU/mL)と37℃で5時間インキュベートすることによってその体外の抗菌活性を検出した。ともにインキュベートした後、サンプルをPBSで希釈し、希釈倍数は1: 10~1: 106で、各サンプルは10 μLずつ取ってRCM寒天プレートに塗布した。サンプルを37℃の嫌気条件において3日培養した後、アクネ菌のCFUを計数した。図12に示すように、細菌濃度が1 × 107CFU/mL未満の場合、本発明のナノ粒子はアクネ菌を完全に殺滅することができる。細菌濃度が1 × 109 CFU/mLに上がった場合、本発明のナノ粒子は細菌の負荷を5桁低下させ、残った細菌の濃度は約1 ×104 CFU/mLである。これは、細菌は高濃度で、前記ナノ粒子(1 w/v%ラウリン酸)はすべての細菌を除去するには足りないことを示すが、その原因は溶液におけるナノ粒子の量が足りないからかもしれない。
【0129】
本発明のナノ粒子の時間依存性抗菌活性の試験結果から、本発明のナノ粒子を細菌(1 × 107 CFU/mL)と5時間インキュベートしてから、初めて完全に細菌を殺滅することができることが示された。ともにインキュベートする時間が減ると、抗菌性能も弱くなる(図13)。
【0130】
本発明のナノ粒子のこのような抗菌活性は操作温度に関連する。前記ナノ粒子(1 w/v%ラウリン酸)が細菌(1 × 107CFU/mL)と5時間インキュベートしたところ、室温 (20℃)またはそれ以上の温度において、細菌が完全に除去された(図14)。
【0131】
本発明のナノ粒子のアクネ菌に対する体外MICを測定するために、嫌気条件において、異なる濃度の本発明のナノ粒子をアクネ菌(1×106 CFU/mL)と5時間培養した後、サンプルの600nmにおける吸収度(600nmにおける光学密度、OD600)を検出した。すべての検出は平行に3回操作した。結果から、本発明のナノ粒子の濃度が0.0125 w/v%またはそれ以上の場合、図9に示すように、細菌の生長を抑制したことがわかる。
【0132】
本発明のナノ粒子のアクネ菌に対する体外MBCを測定するために、37℃の嫌気条件において、異なる濃度の本発明のナノ粒子をアクネ菌(1×106 CFU/mL)と5時間培養した。培養後、サンプルをPBSで1:10~1:106の希釈を行い、5μLの希釈液を取ってRCM寒天プレートに接種した。寒天プレートを37℃の嫌気条件において3日培養した後、定量的にアクネ菌のCFU(コロニー形成ユニット)を測定した。結果から、0.02 w/v%の本発明のナノ粒子が99.9%のアクネ菌を殺滅したが示された。また、図15に示すように、0.05 w/v%またはそれ以上の本発明のナノ粒子がアクネ菌を全部殺滅した。
【0133】
以上の結果から、本発明のナノ粒子のアクネ菌に対するMBC:MICの比は約1.6: 1であることがわかるが、このナノ粒子は当該細菌にとって殺菌剤であることが示された。
定量的に本発明のナノ粒子のアクネ菌に対する体外抗菌活性を分析した後、走査電子顕微鏡で前記ナノ粒子による処理の細菌の形態に対する影響を観察した。アクネ菌を前記ナノ粒子と5時間インキュベートした後、2%のグルタルアルデヒドで固定化した後、さらに走査電子顕微鏡で観察した。図18に示すように、未処理サンプル(すなわちPBS緩衝液とともにインキュベートした)の走査電子顕微鏡の画像は、アクネ菌が規則的な桿状構造を有し、菌の表面が円滑で、菌毛を有することを示す。それに対し、本発明のナノ粒子で処理された細菌は顕著な異常を表した。細菌の表面に不規則な変形および収縮が現れ、菌毛がなかった(図18)。以上の結果から、本発明のナノ粒子が細菌膜の構造を破壊することによって、その殺菌の機能を実現させたことが示された。
【0134】
実施例2-3 本発明のナノ粒子の体外抗菌活性-3
ピロリ菌に対するMIC(細菌の生長を抑制する最低濃度と定義する)およびMBC(99.9%の標的細菌を殺滅する最低濃度)の値によって本発明のナノ粒子(ミリストレイン酸)のピロリ菌(シドニー菌株1、HPSS1)に対する体外抗菌活性を確認した。
【0135】
MICを測定するために、0.05 OD600 (5×106 CFU/mLに相当する)のピロリ菌を異なる濃度(0~0.012 w/v%)の本発明のナノ粒子と培養した。細菌の生長状況を量化するために、18時間培養した後、細菌培養物のOD600値を測定し、開始値との変化値を記録した。変化値は細菌が本発明のナノ粒子による影響を受けた生長状況を反映する。図10に示すように、本発明のナノ粒子の濃度が0.0015 w/v%未満の場合、ともに培養した後のOD600値と開始値の変化は顕著で(>5%)、この濃度のTNAN-3の存在下でも細菌の生長が顕著であった。それに対し、ミリストレイン酸の濃度が0.0015 w/v%超の場合、OD600の変化値が5%未満で、細菌の生長が有効に抑制されたことが示された。そのため、0.0015 w/v%は本発明のナノ粒子のMICである。
【0136】
また、本発明者は、本発明のナノ粒子のピロリ菌に対する殺菌作用を測定した。ピロリ菌(5×106 CFU)を異なる濃度の本発明のナノ粒子と18時間培養した。このような培養過程は本発明のナノ粒子をピロリ菌と相互作用させることによって、殺傷する。培養後、5 μLの細菌培養液をコロンビア寒天に接種した後、37℃で4日培養し、細菌を計数した。図16Aは異なる濃度の本発明のナノ粒子で18時間処理した後の5 μLの細菌をを寒天プレートに接種して一晩培養した代表的な写真である。明らかに、本発明のナノ粒子の濃度が高くなるほど、寒天プレートに見える集落が少なくなる。
【0137】
図16Bに示すように、0.0015w/v%の本発明のナノ粒子が99.9%のピロリ菌を殺滅した。ミリストレイン酸の濃度が0.0015w/v%以上に上がった場合、細菌が全部死亡した。そのため、0.0015w/v%は本発明のナノ粒子のピロリ菌に対するMBC値である。
【0138】
本発明の結果から、本発明のナノ粒子のHPSS1に対するMBC:MICの比は約1: 1であることがわかるが、この製剤は当該病原菌にとって殺菌剤であることが示された。同時に、この製剤は18時間内で細菌計数を3桁以上低下させ、この薬物のHPSS1に対する殺菌作用が示され、さらに体内の濃度および薬物接触時間の評価に指導を提供する。
【0139】
本発明のナノ粒子の製剤がピロリ菌を殺滅する機序をさらに理解するために、本発明者はさらにピロリ菌細胞の本発明のナノ粒子による処理の前後の形態学的変化を検査した。処理の前に、SEM画像はピロリ菌細胞が正常の湾曲形態および完全な細胞膜を有することを示す(図19A)。典型的なピロリ菌細胞は2~4 μmの長さ、0.5~0.8 μmの幅を有し、見える有鞘鞭毛を持つ。本発明のナノ粒子で18時間処理した後、SEM画像は細菌形態の顕著な変化を示し、正常の湾曲形態の完全喪失、プロトプラストの円柱体型の破壊、細胞の溶解、細菌細胞膜の断片化および高度の集合形態を含む(図19B)。この形態の変化は、本発明のナノ粒子の製剤の強烈な破壊作用を示し、細菌の生長を抑制する。
【0140】
実施例2-4 本発明のナノ粒子の体外抗菌活性-4
真菌と異なる濃度の本発明のナノ粒子(ラウリン酸モノグリセリドの濃度が異なる一連の非小胞型ナノ粒子)がともにインキュベートした場合表れる抑菌作用を検査することによって本発明の名の漁師の真菌に対する体外抗菌活性を評価した。
【0141】
まず、細菌の生長を抑制する本発明のナノ粒子の最小濃度(MIC)を測定した。具体的に、1×103 CFUの紅色白癬菌216-3664を濃度0~0.4w/v%の本発明のナノ粒子とインキュベートした。NCCLS-M27-A3微量希釈法によって測定し、薬剤感受性プレートで48時間インキュベートした後、結果の判定は、ブランク対照菌を未生長とし、生長対照菌を生長したとし、各濃度のナノ粒子培地では菌が生長したのは抑制作用がないことを、菌が未生長であるのは抑菌作用があることを示す。菌が未生長である場合に相応するナノ粒子培地の最低濃度は、すなわちMICである。観察によって、本発明のナノ粒子の紅色白癬菌216-3664に対するMIC値は0.006w/v%であった。
【0142】
また、1×103CFUのアスペルギルス・フミガーツス116-7490を濃度0~0.4w/v%の本発明のナノ粒子とインキュベートした。使用された方法は紅色白癬菌216-3664の方法と同様で、本発明のナノ粒子のアスペルギルス・フミガーツス116-7490に対するMIC値は0.1w/v%であった。
【0143】
実施例3 本発明のナノ粒子の保存安定性
本発明者は本発明のナノ粒子(1 w/v%リノレン酸)の異なる温度における3か月の長期間安定性を考察した。安定性の変化は粒子径の検出で表す。図3に示すように、4℃、25℃および37℃で保存されたナノ粒子の粒子径は11 nmから13 nmに増加しただけで、変化は無視できるぐらいで、本発明のナノ粒子のすべての保存条件における高安定性を示す。
【0144】
薬用として、本発明のナノ粒子の重要なポイントは長期間の保存で有効な殺菌作用を維持すること、すなわち、安定な構造を有するだけでなく、安定な活性を有することである。この能力を評価するために、本発明者は3か月の時間内の本発明のナノ粒子のMICおよびMBCの値を検査した。図20に示すように、室温で3か月保存された後、本発明のナノ粒子は新しく調製されたサンプルと類似するMICとMBCの値を示した。
【0145】
研究では、本発明のナノ粒子(1 w/v%ラウリン酸)の抗菌活性はサンプルの保存温度にも関連することが示された。本発明のナノ粒子が37℃で5か月保存された後、そのは新しく調製されたナノ粒子と同様で、1 × 107 CFU/mLのアクネ菌を完全に殺滅することができる。しかしながら、保存温度が20℃または4℃の場合、その抗菌活性が低下し、それぞれ4.4と1.8の対数値の元アクネ菌量しか殺滅できなない(1 × 107 CFU/mL) (図21)。
【0146】
これに基づき、本発明者はさらに本発明のナノ粒子(1 w/v%ラウリン酸)の極高温および極低温の条件における安定性およい薬物効果を検出した。粒子サイズ(図4)および最小殺菌濃度(MBC)の結果(実施例2、図14)は、20~100℃の温度における粒子は安定して、その抗菌活性が維持した。また、さらに低い温度 (4~-80℃)で保存された粒子は濃度が1×107 CFU/mLのアクネ菌を完全に除去することができず、-80℃で冷凍されたTNAN-1は非常に不安定であった。
【0147】
さらなる長期間安定試験では、当該ナノ粒子が20℃で5か月安定して保存することができることがわかった。試験期間で、粒子の体積および多分散性指数はいずれもほとんど変わらなかった(図5)。
【0148】
ナノ粒子のサイズをモニタリングすることによって、本発明者はさらにほかの選ばれた製剤(0.3w/v%のミリストレイン酸)の異なる保存温度における3か月のスパンでの長期間安定性を考察した。図6に示すように、-20℃(冷凍乾燥製剤)、4℃、25℃および37℃(懸濁液形態)の様々な条件で保存されたナノ粒子ミセルはサイズの変化が8.2~9.7nmの間にあることを示すが、無視できるぐらいで、本発明のナノ粒子の様々な条件における高安定性が示唆された。
【0149】
本発明のナノ粒子の製剤にとって、長期間の保存で有効な殺菌作用を維持することが重要である。この能力を評価するために、本発明者は3か月の時間内の本発明のナノ粒子のMICおよびMBCの値を検査した。図22および23に示すように、室温で懸濁液で3か月保存しても、-20℃で冷凍乾燥形態で3か月保存しても、本発明のナノ粒子はいずれも新しく調製されたナノ粒子に相当するMICとMBCの値を示した。
【0150】
ラウリン酸モノグリセリドを含む本発明のナノ粒子も優れた保存安定性を示した。本発明者は0.4w/v%ラウリン酸モノグリセリドを含む本発明のナノ粒子を室温で6週間保存した。その安定性の変化は粒子径の大きさの検出で表す。図7に示すように、室温で6週間保存された本発明のナノ粒子の粒子径は7.5 nm~8.0 nmの間に維持し、その粒子径の変化は無視できるぐらいで、本発明のナノ粒子のこの保存条件における高安定性を示す。
【0151】
実施例4-1 本発明のナノ粒子の体内抗菌効果-1
本発明のナノ粒子(1 w/v%リノレン酸)のMRSA252感染に対する体内抗菌活性および治療効果はICRマウスを使用する皮膚擦傷感染モデルでさらに評価した。(マウスの)感染はMRSA252によるもので、連続5日で毎日内分泌ナノ粒子のゲルおよびブランクゲルを塗った。細菌担持量はMRSA252感染後の6日目に測定された。皮膚組織は、まずPBSで均質化し、そしてMRSA特異的な寒天プレート(ソルビトール塩寒天)で一晩培養した。特にソルビトール寒天プレートを選んでMRSA培養を行うのは、寒天の色はMRSAの生長に従ってピンクから黄色に変わるからである。図24Aに示すように、本発明のナノ粒子で処理されたMRSA寒天プレートはピンクのままであったが、それらの(ブランクゲルを使用する)対照群の寒天プレートは黄色になった。この観察は、本発明のナノ粒子が皮膚擦傷感染部位に強い殺菌活性を有することを示す。肉眼観察以外、本発明者はさらにサンプルのCFU値を計数して量化した。結果から、ブランクゲルで処理されたマウスの皮膚における細菌残存量は本発明のナノ粒子で処理されたものよりも約66倍多かったが、ここで、t分布検定のp値が0.01未満である(図24B)。
【0152】
さらに本発明のナノ粒子の抗MRSA活性を評価するために、またICRマウス皮下感染のモデルでさらに当該ナノ粒子をテストした。この研究では、感染24時間後、ブランクゲルで治療されたマウスは感染部位に膿含有損傷が現れた。本発明のナノ粒子のゲルで治療されたマウスは感染部位の近くに皮疹が現れたが、重篤度は遥かに軽かった(図25)。72時間後、ブランクゲルで治療されたマウスの病変はもっと顕著になり、マウスの体内感染の拡散を意味する。それと比べ、本発明のナノ粒子のゲルで治療されたマウスは顕著ではない病変を示した。この比較は本発明のナノ粒子の優れた抗MRSA治療効果を示した。
【0153】
実施例4-2 本発明のナノ粒子の体内抗菌効果-2
ICRマウスに皮下注射を行うことによって本発明のナノ粒子(1w/v%ラウリン酸)アクネ菌に対する体内抗菌活性を検出した。本実施例において、マウスの耳を選んで皮下注射を行うのは、マウスの耳の構造は接種された細菌を注射領域に滞るようにできるからである。生理環境における本発明のナノ粒子のアクネ菌に対する抗菌活性を検出するために、ICRマウスの両耳(左耳と右耳)にアクネ菌(1x107 CFU、20 μLのPBSに混合された)を皮下注射した。アクネ菌の注射部位にまたそれぞれ本発明のナノ粒子(1w/v%ラウリン酸)またはPBS(陰性比較試験として)を注射した。注射24時間後、直径8 mmの生検穿孔でマウス耳サンプルを採取した後、均質化して培養し、残ったアクネ菌の数を計数した。図29に示すように、本発明のナノ粒子で治療すると、マウスの耳に接種されたアクネ菌を完全に除去することができた。それに対し、陰性対照群(PBS緩衝液で処理された)で検出された菌数は1.2 × 104 CFU/mLであった。以上の結果から、本発明のナノ粒子が生理環境(たとえば真皮内)において有効にアクネ菌を殺滅することができることが証明された。
【0154】
実施例5-1 本発明のナノ粒子の正常皮膚組織に対する毒性-1
5日内で本発明のナノ粒子(1 w/v%リノレン酸)のゲル剤形を毛が剃られたマウスの表皮に外用して本発明のナノ粒子の毒性をテストした。図26に示すように、本発明のナノ粒子による紅斑または水腫の刺激はいすれも見られなかった。
【0155】
さらに刺激性およびアポトーシスを評価するために、H&E染色および末端デオキシヌクレオチド転移酵素標識(TUNEL)実験を行った。図27に示すように、本発明のナノ粒子で処理された皮膚表面は破壊されていない構造のままで、真皮層の上に一層のはっきりとした健康の表皮細胞があり、これは処理されていない皮膚のサンプルと同じである。H&E染色でも同様に、処理されていない皮膚と比べ、本発明のナノ粒子による処理はどのような組織内炎症も引き起こさなかったことが証明された。それ以外、TUNEL分析を行って皮膚組織において重度のDNA破壊および壊死細胞が生じた数を評価した。図27において、本発明のナノ粒子で処理された皮膚組織は処理されていない皮膚と比べて顕著なアポトーシス染色の増加が現れなかった。
【0156】
さらに本発明のナノ粒子の安全性を、特に皮膚の炎症を引き起こすかどうか検証するために、皮膚浸透のマクロファージレベルを測定した。この研究においえ、本発明のナノ粒子で処理された皮膚組織および処理されていない皮膚組織における皮膚のマクロファージにFITC-抗マウスf4/80抗体で染色した。図28に示すように、真皮層の上の表皮層の比較的に低い部位に皮膚のマクロファージが見られたが、本発明のナノ粒子による処理はこのような組織分布を変えなかった。処理されていない皮膚サンプルと比べ、本発明のナノ粒子で処理されたサンプルは浸透マクロファージの顕著な増加がなく、顕著な炎症がなかったことが示された。
【0157】
実施例5-2 本発明のナノ粒子の正常皮膚組織に対する毒性-2
ICRマウスの背部皮膚に局所で本発明のナノ粒子(1w/v%ラウリン酸)のゲルを使用した後、皮膚の形態学的変化を検査することによって前記ナノ粒子の正常皮膚組織に対する生じうる毒性を検出した。本実施例において、皮膚の角質層が受けたかき傷からの回復に十分な時間があるように投与24時間前にマウスの背部皮膚の毛を剃り、実験が開始する前にPBSで皮膚を湿潤させた。その後、本発明のナノ粒子サンプルを局所で皮膚に使用し、24時間後薬物を除去し、かつPBSで洗浄して湿潤させた。図30んい示すように、本発明のナノ粒子で処理された皮膚は正常の構造のままで、紅斑または水腫が現れなかった。前記ナノ粒子で処理された皮膚の構造は陰性対照、すなわちブランクPBSゲルで処理された皮膚の構造と類似する。Draizeの皮膚刺激採点システムによって、本発明のナノ粒子で処理された皮膚の紅斑おおび水腫はいずれも0点で、顕著な皮膚刺激が現れなかった。皮膚の生検サンプルを採取し、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色で組織学的検出および分析を行った結果(図30、下列)、本発明のナノ粒子で処理された皮膚の構造が完全で、真皮層の上に一層の健康の表皮細胞があり、PBS処理の結果と同様である。この結果によって本発明のナノ粒子の使用安全性がさらに確認された。
【0158】
実施例6 本発明のナノ粒子の人体テスト
98名のボランティアを募集して本発明のナノ粒子(1w/v%ラウリン酸)のゲルを使用させ、これらのボランティアはいずれも異なる段階の座瘡感染を罹患した。ゲルは毎日2回、連続3週間使用させた。3、7および21日目に使用者のフィードバック結果を収集した。統計結果から、3、7および21日目に、積極的に本発明のナノ粒子のゲルが効果を有すると認めた比率はそれぞれ72.4%、82.7%および90.8%であった(図31)。ボランティアによって提供されたフィードバック結果から、本発明のナノ粒子が有効にアクネ菌による座瘡感染を減少または除去することができることが示された。
【0159】
実施例7 脂肪酸の水性系における抗菌作用
本発明者はさらに水性系における本発明のナノ粒子および遊離脂肪酸の抗菌作用をテストした。
【0160】
結果は図36~38に示すように、水性系において(PBS)、リノレン酸を含む本発明のナノ粒子は顕著にMRSAを殺滅したが、遊離のリノレン酸は水性系でほとんど殺菌作用がなかった。
【0161】
ラウリン酸を含む本発明のナノ粒子は顕著にアクネ菌を殺滅したが、遊離のラウリン酸は水性系でほとんど殺菌作用がなかった。
同じ濃度のミリストレイン酸の遊離形態はピロリ菌に対する殺菌活性を示さないが、本発明のナノ粒子形態のミリストレイン酸ははピロリ菌に対する殺菌活性を示した。
【0162】
これは、遊離の脂肪酸を本発明のナノ粒子形態にしてから、初めて脂肪酸がその抗菌作用を発揮する。
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、この分野の技術者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の様態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38