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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】二重特異性抗原結合ポリペプチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220329BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220329BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220329BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220329BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220329BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220329BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
A61K39/395 N
C07K16/28
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019233759
(22)【出願日】2019-12-25
(62)【分割の表示】P 2017501125の分割
【原出願日】2015-03-20
(65)【公開番号】P2020072686
(43)【公開日】2020-05-14
【審査請求日】2020-01-22
(31)【優先権主張番号】61/968,437
(32)【優先日】2014-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511197822
【氏名又は名称】エックス-ボディ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・チェン
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・ダブリュー・ワグナー
(72)【発明者】
【氏名】ケミン・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・リシャレ
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0304590(US,A1)
【文献】国際公開第2014/012082(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C07K1/00-19/00
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原結合ポリペプチドの単離されたVHドメインであって、該単離されたVHドメインが配列番号13のアミノ酸配列を含み、該単離されたVHドメインがヒトHER2に特異的に結合する、抗原結合ポリペプチドの単離されたVHドメイン。
【請求項2】
単離されたVHドメインが、表面プラズモン共鳴アッセイによる測定で1.2nM以下のKdでヒトHER2に結合する、請求項1に記載の抗原結合ポリペプチドの単離されたVHドメイン
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗原結合ポリペプチドの単離されたVHドメインをコードする単離された核酸。
【請求項4】
請求項に記載の核酸を含むベクター。
【請求項5】
請求項に記載のベクターを含む細胞。
【請求項6】
請求項1または2に記載の抗原結合ポリペプチドの単離されたVHドメインおよび薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2014年3月21日出願の米国仮特許出願第61/968,437号に基づく優先権を主張する。該出願の内容は、引用によりその全体が本明細書中に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
抗体および抗体様分子のような二重特異性抗原結合ポリペプチドは、同時に複数の抗原を標的とするそれらの能力のために治療薬として大いに期待されている。しかしながら、これらの分子の製造には課題がある。二重特異性抗体の場合、製造時に重鎖および軽鎖の誤対合が生じることが多く、それにより、二重特異性抗体の収量が低下し、精製が困難になる。
【0003】
二重特異性抗体の製造に関する課題を解決するために、抗体定常領域または可変領域において複雑な技術が試みられている。例えば、二重特異性抗体は、個々の抗体のVHおよびVLをリンカーを介して遺伝子的に融合させて作製されてきた(例えば、US2010/0254989A1を参照のこと)。別の方法では、個々の抗体を、Fab交換に関与するヒトIgG4のFc中の残基の変異を用いて製造している(例えば、Van der Neut at al., Science (2007) 317: 1554を参照のこと)。さらに別の方法において、マウスクアドローマを二重特異性抗体を作製するために用いた。この方法において、マウスおよびラットの抗体は、元々のVH/VL対ならびにラットおよびマウスFcからなる二重特異性抗体を主に形成する(例えば、Lindhofer et al., J Immunol. (1995) 155: 1246-1252を参照のこと)。最近では、二重特異性抗体は、抗原結合に寄与しない単一の共有の軽鎖を用いて製造されている(例えば、Merchant et al., Nature Biotechnology (1998) 16: 677-681を参照のこと)。しかしながら、これらの大きな抗体作製技術の努力にもかかわらず、二重特異性抗体は、依然として安定性が低く、機能的発現収量が低いままである。
【0004】
従って、高度に発現され、容易に精製される、新規の抗原結合ポリペプチドのための技術が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願第2010/0254989号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Van der Neut at al., Science (2007) 317: 1554
【文献】Lindhofer et al., J Immunol. (1995) 155: 1246-1252
【文献】Merchant et al., Nature Biotechnology (1998) 16: 677-68
【発明の概要】
【0007】
本発明は、高度に発現され、容易に精製され、高度に安定化され、かつそれらの標的抗原に対して高い親和性を有する、二重特異性抗原結合ポリペプチドを提供する。ある態様において、二重特異性抗原結合ポリペプチドは、PDGFRβおよびHER2の両方に高い親和性で結合し、そしてPDGFRβおよびHER2活性の両方を阻害(antagonize)する。ある態様において、二重特異性抗原結合ポリペプチドは、PDGFRβおよびVEGFの両方に高い親和性で結合し、そしてPDGFRβおよびVEGF活性の両方を阻害する。本発明はまた、HER2に特異的に結合し、そしてHER2活性を阻害する新規の抗原結合ポリペプチド(例えば、VHドメイン)を提供する。かかる抗原結合ポリペプチドは、癌の処置に特に有用である。本発明はまた、抗原結合ポリペプチドをコードする核酸、組換え発現ベクターおよびかかる抗原結合ポリペプチドを製造するための宿主細胞を提供する。疾患(例えば、癌)を処置するための本発明の抗原結合ポリペプチドの使用方法もまた、本発明に包含される。
【0008】
従って、一面において、本発明は、第二抗原に特異的に結合する第二VHドメインにC末端で連結されている、第一抗原に特異的に結合する第一VHドメインを含む抗体重鎖を含み、抗体軽鎖を含まない、単離された二重特異性抗原結合ポリペプチドを提供する。
【0009】
ある態様において、該抗体重鎖は、アミノ酸リンカーを介して第二VHドメインに遺伝子的に連結されている。特定の一態様において、該リンカーは、配列番号23に記載のアミノ酸配列を含む。
【0010】
ある態様において、該抗原結合ポリペプチドは、抗体軽鎖をさらに含み、該軽鎖は、抗原に特異的に結合するVLドメインを含み、該重鎖および軽鎖は自然に(naturally)対を形成する。特定の一態様において、VLドメインは第一抗原に結合する。特定の一態様において、VLドメインは第三抗原に結合する。特定の一態様において、第一抗原および第三抗原は同一分子内の異なる領域にある。特定の一態様において、第一抗原と第三抗原とは異なる分子上にある。
【0011】
ある態様において、本発明は、本明細書に記載の2つの抗原結合ポリペプチドの二量体を含む抗原結合ポリペプチドを提供し、該2つの抗原結合ポリペプチドは、重鎖定常領域を介して自然に二量体化している。
【0012】
ある態様において、第一抗原と第二抗原とは異なる。特定の一態様において、第一抗原および第二抗原は同一分子内の異なる領域にある。特定の一態様において、第一抗原と第二抗原とは異なる分子上にある。
【0013】
ある態様において、第一抗原は、ヒトPDGFRβまたはHER2である。ある態様において、第二抗原は、ヒトPDGFRβまたはHER2である。
【0014】
ある態様において、抗原結合ポリペプチドは、ヒトHER2に特異的に結合するVHドメインを含み、かつ配列番号1、4、7および10からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むHCDR3を含む。ある態様において、VHドメインは、配列番号2、5、8および11からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むHCDR2をさらに含む。ある態様において、VHドメインは、配列番号3、6、9および12からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むHCDR1をさらに含む。ある態様において、VHドメインアミノ酸配列は、配列番号13、14、15および16からなる群より選択されるVHドメインアミノ酸配列と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する。ある態様において、VHドメインは、配列番号13、14、15および16からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0015】
ある態様において、抗原結合ポリペプチドは、ヒトPDGFRβに特異的に結合するVHドメインを含み、かつ配列番号25に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む。ある態様において、VHドメインは、配列番号26に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2をさらに含む。ある態様において、VHドメインは、配列番号27に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1をさらに含む。ある態様において、VHドメインは、配列番号24に記載のアミノ酸配列を含む。
【0016】
ある態様において、抗原結合ポリペプチドは、配列番号18または20に記載のアミノ酸配列を含む重鎖を含む。
【0017】
ある態様において、抗原結合ポリペプチドは、ヒトPDGFRβに特異的に結合するVLドメインを含み、かつ配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む。ある態様において、VLドメインは、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2をさらに含む。ある態様において、VLドメインは、配列番号31に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1をさらに含む。ある態様において、VLドメインは、配列番号28に記載のアミノ酸配列を含む。
【0018】
ある態様において、抗原結合ポリペプチドは、配列番号22に記載のアミノ酸配列を含む抗体軽鎖を含む。
【0019】
別の面において、本発明は、配列番号1、4、7および10からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む、HER2に特異的に結合する単離された抗原結合ポリペプチドを提供する。
【0020】
ある態様において、抗原結合ポリペプチドは、配列番号1、4、7および10からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR3を含むVHドメインを含む。ある態様において、VHドメインは、配列番号2、5、8および11からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR2をさらに含む。ある態様において、VHドメインは、配列番号3、6、9および12からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR1をさらに含む。ある態様において、VHドメインは、配列番号13、14、15および16からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。ある態様において、VHドメインは、配列番号13、14、15および16からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0021】
別の面において、本発明は、配列番号13、14、15および16からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するVHドメインと同じHER2上のエピトープに結合する抗原結合ポリペプチドを提供する。ある態様において、抗原結合ポリペプチドはVHドメインを含む。
【0022】
別の面において、本発明は、配列番号13、14、15および16からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するVHドメインとHER2に対する結合について競合する抗原結合ポリペプチドを提供する。ある態様において、抗原結合ポリペプチドはVHドメインを含む。
【0023】
さらなる面において、本発明は、本発明の抗原結合ポリペプチドをコードする単離された核酸を提供する。
【0024】
さらなる面において、本発明は、本発明の抗原結合ポリペプチドをコードする単離された核酸を含む組換え発現ベクターを提供する。
【0025】
さらなる面において、本発明は、本発明の抗原結合ポリペプチドを発現する宿主細胞を提供する。
【0026】
さらなる面において、本発明は、本発明の抗原結合ポリペプチドを製造する方法であって、該抗原結合ポリペプチドが宿主細胞により産生されるような条件下で、本発明の結合ポリペプチドを発現可能な宿主細胞を培養することを含む方法を提供する。
【0027】
さらなる面において、本発明は、本発明の抗原結合ポリペプチドおよび1つまたはそれ以上の薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0028】
さらなる面において、本発明は、本発明の医薬組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、疾患または障害の処置法を提供する。ある態様において、該疾患または障害は癌(例えば、乳がんおよび卵巣癌)である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の例示的な二重特異性抗原結合ポリペプチドの概念図である。
図2図2は、本発明の例示的な二重特異性抗原結合ポリペプチドの概念図である。
図3図3は、本発明の例示的な二重特異性抗原結合ポリペプチドの概念図である。
図4図4は、本発明の例示的な二重特異性抗原結合ポリペプチドの概念図である。
図5図5は、還元および非還元条件下での、本発明の例示的な二重特異性抗原結合ポリペプチドのSDS-PAGEゲルを示す。
図6図6は、HEK293細胞培養上清中のHER2/PDGFRβ二重特異性抗原結合ポリペプチドの発現を検出するELISAアッセイの結果を示す。
図7図7は、HER2およびPDGFRβへのHER2/PDGFRβ二重特異性抗原結合ポリペプチドの同時結合を測定するELISAアッセイの結果を示す。
図8図8は、HER2およびPDGFRβを発現する細胞表面へのHER2/PDGFRβ二重特異性抗原結合ポリペプチドの同時結合を測定するFACSベースの結合アッセイの結果を示す。
図9図9は、本明細書に記載の例示的な抗HER2 VHドメインのBiacore分析およびFACS分析の結果を示す。
図10図10は、本明細書に記載の例示的な抗HER2 VHドメインおよびscFv誘導体のBiacore分析およびFACS分析の結果を示す。
図11図11は、SK-BR-3細胞の増殖に対する、抗HER2 VH B12、トラスツズマブ、ペルツズマブおよびそれらの組み合わせの効果を測定するMTS細胞増殖アッセイの結果を示す。
図12図12は、本発明の例示的な抗HER2二重特異性抗原結合ポリペプチドの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
本発明は、高度に発現され、容易に精製され、高度に安定で、かつそれらの標的抗原に対して高い親和性を有する、二重特異性抗原結合ポリペプチドを提供する。ある態様において、二重特異性抗原結合ポリペプチドは、PDGFRβおよびHER2の両方に高い親和性を有して結合し、PDGFRβおよびHER2活性の両方を阻害する。ある態様において、二重特異性抗原結合ポリペプチドは、PDGFRβおよびVEGFの両方に高い親和性を有して結合し、PDGFRβおよびVEGF活性の両方を阻害する。本発明はまた、HER2に特異的に結合し、HER2活性を阻害する、新規の抗原結合ポリペプチド(例えば、VHドメイン)を提供する。かかる抗原結合ポリペプチドは、癌の処置に特に有用である。本発明はまた、抗原結合ポリペプチドをコードする核酸、組換え発現ベクターおよびかかる抗原結合ポリペプチドを産生する宿主細胞を提供する。疾患(例えば、癌)の処置のための本発明の抗原結合ポリペプチドの使用法もまた、本発明に包含される。
【0031】
I. 定義
本発明がより容易に理解されるようにするために、特定の用語を最初に定義する。
本明細書で用いる用語“PDGFRβ”は、血小板由来増殖因子受容体βを意味する。PDGFRβヌクレオチドおよびポリペプチド配列は当技術分野でよく知られている。例示的なヒトPDGFRβアミノ酸配列は、GenBank deposit GI:4505683に記載されており、例示的なマウスPDGFRβアミノ配列は、GenBank deposit GI:226371752に記載されている。
【0032】
本明細書で用いる用語“HER2”は、受容体チロシンタンパク質キナーゼerbB-2を意味する。HER2ヌクレオチドおよびポリペプチド配列は、当技術分野でよく知られている。例示的なヒトHER2アミノ配列は、GenBank deposit GI:54792096に記載されており、例示的なマウスHER2アミノ配列は、GenBank deposit GI:54873610に記載されている。
【0033】
本明細書で用いる用語“VEGF”は、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、PIGF、タンパク質ならびにVEGF121、VEGF121b、VEGF145、VEGF165、VEGF165b、VEGF189およびVEGF206を含むそのスプライスバリアントを含む、血管内皮細胞増殖因子ファミリーの全てのメンバーを意味する。VEGFヌクレオチド配列およびポリペプチド配列は、当技術分野でよく知られている。例示的なヒトVEGFアミノ配列は、GenBank deposit GI:32699990に記載されており、例示的なマウスVEGFアミノ配列は、GenBank deposit GI:GI:160358815に記載されている。
【0034】
本明細書で用いる用語“二重特異性抗原結合ポリペプチド”は、2つまたはそれ以上の異なる抗原に同時に特異的に結合できる抗原結合ポリペプチドを意味する。
【0035】
本明細書で用いる用語“抗原”は、抗原結合ポリペプチドにより認識される結合部位またはエピトープを意味する。
【0036】
本明細書で用いる用語“抗体”は、ジスルフィド結合によって相互に連結された2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖の4本のポリペプチド鎖を含む免疫グロブリン分子、ならびにそれらの多量体(例えば、IgM)を意味する。各重鎖は、重鎖可変領域(VHと省略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、およびCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VLと省略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VHおよびVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域と、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より一定に保たれた領域とにさらに細分され得る。
【0037】
本明細書で用いる用語、抗体の“抗原結合部位”には、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素化学的に得られる、合成の、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質が含まれる。抗体の抗原結合フラグメントは、例えば、抗体の可変ドメインおよび要すれば定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を含む、タンパク質分解または組み換え遺伝子操作技術のような好適な標準技術を用いて、完全長抗体分子から誘導され得る。抗原結合部位の非限定的な例には、(i)Fabフラグメント;(ii)F(ab’)フラグメント;(iii)Fdフラグメント;(iv)Fvフラグメント;(v)単鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAbフラグメント;および、(vii)抗体の超可変領域(例えば、単離された相補性決定領域(CDR))を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位が含まれる。二重特異性抗体(diabody)、三重特異性抗体(triabody)、四重特異性抗体(tetrabody)およびミニボディのような他の操作された分子もまた、“抗原結合部位”の表現に包含される。
【0038】
本明細書で用いる用語“VHドメイン”および“VLドメイン”は、FR(フレームワーク領域)1、2、3および4ならびにCDR(相補性決定領域)1、2および3をそれぞれ含む、単鎖抗体可変重鎖および軽鎖ドメインを意味する(Kabat et al. (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest. (NIH Publication No. 91-3242, Bethesda)参照)。
【0039】
本明細書で用いる用語“自然に(naturally)二量体化している”とは、天然に存在する四量体抗体分子と同様に、重鎖定常領域が連結される、抗原結合ポリペプチドの二量体を意味する。
【0040】
本明細書で用いる用語“自然に(naturally)対を形成する”とは、天然に存在する四量体抗体分子と同様に、天然の重鎖/軽鎖相互作用部分(interface)を介して連結されている抗体重鎖および軽鎖対を意味する。
【0041】
本明細書で用いる用語“CDR”または“相補性決定領域”は、重鎖および軽鎖ポリペプチドの両方の可変領域内に見いだされる不連続な抗原結合部位を意味する。これらの特定の領域は、Kabat et al., J. Biol. Chem. 252, 6609-6616 (1977). Kabat et al., Sequences of protein of immunological interest. (1991)、Chothia et al., J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987)、およびMacCallum et al., J. Mol. Biol. 262:732-745 (1996)(各々、引用によりその内容全体を本明細書中に包含させる)に記載されており、該定義には、互いに比較した場合、アミノ酸残基の重複(overlap)またはサブセットが含まれる。上記の文献のそれぞれによって定義されるようなCDRを包含するアミノ酸残基は、比較のために記載される。好ましくは、用語“CDR”は、配列比較に基づいて、Kabatにより定義されるCDRである。
【0042】
本明細書で用いる用語“フレームワーク(FR)アミノ酸残基”は、免疫グロブリン鎖のフレームワーク領域中のアミノ酸を意味する。本明細書で用いる用語“フレームワーク領域”または“FR領域”は、可変領域の一部であるが、CDRの一部ではない(例えば、CDRのKabatの定義を使用)、アミノ酸残基を含む。
【0043】
本明細書で用いる、用語“遺伝子的に連結された”とは、組換えDNA技術を用いる、2つまたはそれ以上のポリペプチドの連結を意味する。ある態様において、これは、2つまたはそれ以上のポリペプチドの融合物をコードするキメラ遺伝子の製造を伴う。
【0044】
本明細書で用いる用語“~に特異的に結合する”は、少なくとも約1x10-6M、1x10-7M、1x10-8M、1x10-9M、1x10-10M、1x10-11M、1x10-12M、またはそれ以上のKdで抗原に結合する、および/または非特異的抗原に対する親和性よりも少なくとも2倍大きい親和性で抗原に結合する、結合ポリペプチドの能力を意味する。しかしながら、結合ポリペプチドは、配列に関連のある2つまたはそれ以上の抗原に特異的に結合し得ることが、理解されなければならない。例えば、本発明の結合ポリペプチドは、ヒト抗原およびその抗原の非ヒトオルソログに特異的に結合し得る。
【0045】
本明細書で用いる用語“ベクター”とは、それが連結されている別の核酸を輸送可能な核酸分子を意味することが意図される。あるタイプのベクターは、さらなるDNAセグメントがライゲーションされ得る環状二本鎖DNAループを意味する“プラスミド”である。別のタイプのベクターは、付加的なDNAセグメントがウイルスゲノムにライゲーションされ得るウイルスベクターである。特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞内で自己複製可能である(例えば、複製およびエピソーム哺乳動物ベクターの細菌起点を有する細菌ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それによって宿主ゲノムと共に複製され得る。さらに、特定のベクターは、作動可能に連結された遺伝子の発現をもたらし得る。そのようなベクターは、本明細書中、“組換え発現ベクター”(または単に、“発現ベクター”)と呼ばれる。一般的に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、プラスミド形態であることが多い。用語“プラスミド”および“ベクター”は互換的に用いられ得る。しかしながら、本発明は、同等の機能を果たすウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)などの発現ベクターの他の形態を含むことを意図する。
【0046】
本明細書で用いる用語“宿主細胞”は、組換え発現ベクターが導入された細胞を意味することが意図される。この用語は、特定の対象細胞のみでなく、その細胞の子孫も意味することが意図されると理解されるべきである。特定の修飾が変異または環境の影響のいずれかにより後の世代で起こり得るため、かかる子孫は、実際、親細胞と同一ではないかもしれないが、本明細書で用いる用語“宿主細胞”の範囲内に含まれる。
【0047】
本明細書で用いる用語“PDGFRβ関連疾患または障害”は、PDGFRβ活性に関連する疾患状態および/または症状を含む。一般的なPDGFRβ関連疾患または障害には、加齢黄斑変性症(AMD)および癌が含まれるが、これらに限定されない。
【0048】
本明細書で用いる用語“HER2関連疾患または障害”には、HER2活性と関連する疾患状態および/または症状が含まれる。例示的なHER2関連疾患または障害としては、癌(例えば、乳癌および卵巣癌)が含まれるが、それに限定されない。
【0049】
本明細書で用いる用語“VEGF関連疾患または障害”には、VEGF活性と関連する疾患状態および/または症状が含まれる。例示的なVEGF関連疾患または障害としては、血管新生、例えば、加齢性黄斑変性症(AMD)および癌が含まれるが、それに限定されない。
【0050】
本明細書で用いる用語“処置する”、“処置の”および“処置”は、本明細書に記載の治療または予防手段を意味する。“処置”の方法は、該疾患もしくは障害または疾患もしくは障害の再発の予防、治療、遅延、その重症度の低下もしくはその1つまたはそれ以上の症状の改善のため、またはそのような処置がない場合に予想される期間を超えて対象の生存を延長するために、該対象に、例えば、疾患または障害(例えば、癌)を有するか、または疾患または障害に罹りやすい素因を有する対象に、本発明の抗体または抗原結合部分を投与することを含む。
【0051】
本明細書で用いる用語“有効量”は、対象に投与されるとき、疾患または障害の処置、予後予測または診断を行うのに十分な結合ポリペプチドの量を意味する。治療的有効量は、処置される対象および疾患状態、対象の体重および年齢、疾患状態の重篤度、投与方法などによって変わってよく、当業者により容易に決定され得る。投与量は、例えば約1ngから約10,000mg、約1ugから約5,000mg、約1mgから約1,000mg、または約10mgから約100mgの範囲の本発明の結合ポリペプチドであり得る。投与量レジメンは、好適な治療応答を提供するように調整可能である。有効量はまた、結合ポリペプチドの何らかの毒性または有害な効果(すなわち、副作用)を最小化する、および/または有益な効果を増加する量である。
【0052】
本明細書で用いる用語“対象”は、任意のヒトまたは非ヒト動物を含む。
【0053】
II. 抗HER2抗原結合ポリペプチド
一面において、本発明は、HER2に特異的に結合し、そしてHER2活性を阻害(inhibit)する、抗原結合ポリペプチド(例えば、二重特異性抗原結合ポリペプチド、抗体またはその抗原結合フラグメント)を提供する。かかる結合ポリペプチドは、HER2関連疾患または障害(例えば、乳がんおよび卵巣がんなどの癌)の処置に特に有用である。
【0054】
一般的に、本発明の抗HER2抗原結合ポリペプチドは、HER2に特異的に結合する重鎖CDR3(HCDR3)アミノ酸配列を含む。発明の結合ポリペプチドに使用するのに好適な非限定的なHCDR3配列は、本明細書中、配列番号1、4、7または10に記載のHCDR3アミノ酸配列を含む。他の態様において、HCDR3配列は、配列番号1、4、7または10に対して少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つなど)の保存的アミノ酸置換を含む、配列番号1、4、7または10の変異体である。
【0055】
本明細書に記載のHER2結合HCDR3配列を組み込まれ得るポリペプチドは、抗体またはそのフラグメント(例えば、VHドメイン)および免疫グロブリン様ドメインを含むが、それらに限定されない、本発明の抗原結合ポリペプチドを産生するために使用できる。好適な免疫グロブリン様ドメインには、フィブロネクチンドメイン(例えば、Koide et al. (2007), Methods Mol. Biol. 352: 95-109を参照のこと、その内容全体は引用により本明細書中に包含される)、DARPin(例えば、Stumpp et al. (2008) Drug Discov. Today 13 (15-16): 695-701を参照のこと、その内容全体は引用により本明細書中に包含される)、プロテインAのZドメイン(Nygren et al. (2008) FEBS J. 275 (11): 2668-76を参照のこと、その内容全体は引用により本明細書中に包含される)、リポカリン(例えば、Skerra et al. (2008) FEBS J. 275 (11): 2677-83を参照のこと、その内容全体は引用により本明細書中に包含される)、アフィリン(例えば、Ebersbach et al. (2007) J. Mol. Biol. 372 (1): 172-85を参照のこと、その内容全体は引用により本明細書中に包含される)、アフィチン(Affitins)(例えば、Krehenbrink et al. (2008). J. Mol. Biol. 383 (5): 1058-68を参照のこと、その内容全体は引用により本明細書中に包含される)、Avimer(例えば、Silverman et al. (2005) Nat. Biotechnol. 23 (12): 1556-61を参照のこと、その内容全体は引用により本明細書中に包含される)、Fynomer(例えば、Grabulovski et al. (2007) J Biol Chem 282 (5): 3196-3204を参照のこと、その内容全体は引用により本明細書中に包含される)、およびクニッツドメインペプチド(例えば、Nixon et al. (2006) Curr Opin Drug Discov Devel 9 (2): 261-8を参照のこと、その内容全体は引用により本明細書中に包含される)が含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
ある態様において、抗HER2抗原結合ポリペプチドは、VHドメインを含む抗体または抗体フラグメントを含む。本発明における使用に適する例示的なCDRおよびVHドメインのアミノ酸配列は、本明細書の表1および2に記載されている。
【0057】
【表1】


【表2】

【0058】
ある態様において、抗HER2 VHドメインは、表1に記載の重鎖HCDR2またはHCDR1のアミノ酸配列のいずれか1つから独立して選択されるHCDR2および/またはHCDR1配列と共に、配列番号1、4、7または10に記載のHCDR3のアミノ酸配列を含む。
【0059】
ある態様において、抗HER2抗原結合ポリペプチドは、それぞれ配列番号1、2および3;4、5および6;7、8および9;ならびに、10、11および12からなる群より選択されるHCDR3、HCDR2およびHCDR1アミノ酸配列を含む。
【0060】
ある態様において、抗HER2抗原結合ポリペプチドは、配列番号13、14、15または16に記載の少なくとも1つのVHアミノ酸配列を含む。
【0061】
ある態様において、抗HER2抗原結合ポリペプチドは、配列番号1-12からなる群より選択される1つまたはそれ以上のCDRのアミノ酸配列を含み、ここで、1つまたはそれ以上のCDR領域アミノ酸配列は、少なくとも1つまたはそれ以上の保存的アミノ酸置換(例えば、1、2、3、4または5個の保存的アミノ酸置換)を含む。保存的アミノ酸置換には、あるクラスのアミノ酸を同じクラスのアミノ酸により置換することが含まれ、ここで、クラスとは、アミノ酸側鎖の共通の物理化学的特性および相同タンパク質において天然に見出だされる高置換頻度により定義される(例えば、標準Dayhoff頻度交換マトリックスまたはBLOSUMマトリックスにより決定される)。アミノ酸側鎖の6つの一般的なクラスが分類されており、クラスI(Cys);クラスII(Ser、Thr、Pro、Ala、Gly);クラスIII(Asn、Asp、Gln、Glu);クラスIV(His、Arg、Lys);クラスV(Ile、Leu、Val、Met);およびクラスVI(Phe、Tyr、Trp)が含まれる。例えば、Asn、GlnまたはGluなどの別のクラスIII残基へのAspの置換は、保存的置換である。従って、抗PDGFRβ抗体における予測される非必須アミノ酸残基は、好ましくは、同じクラスの別のアミノ酸残基で置換されている。抗原結合を排除しないアミノ酸の保存的置換を同定する方法は、当技術分野で周知である(例えば、Brummell et al., Biochem. 32:1180-1187 (1993); Kobayashi et al. Protein Eng. 12(10):879-884 (1999);および、Burks et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:412-417 (1997)を参照のこと、それぞれ、その内容全体は引用により本明細書中に包含される)。
【0062】
ある態様において、本発明は、配列番号13、14、15または16に記載のVH領域アミノ酸配列と約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸配列同一性を有するVH領域アミノ酸配列および/またはVL領域アミノ酸配列を含む、抗HER2抗原結合ポリペプチドを提供する。
【0063】
ある態様において、抗HER2抗原結合ポリペプチドは、1.2nMのKdでHER2に結合する。ある態様において、抗HER2抗原結合ポリペプチドは、1.39x10-1-1の結合速度(on-rate)でHER2に結合する。ある態様において、抗HER2抗原結合ポリペプチドは、1.67x10-1の解離速度(off-rate)でHER2に結合する。ある態様において、抗HER2抗原結合ポリペプチドは、scFv分子として形成されたとき、0.87nMのKdでHER2に結合する。
【0064】
ある態様において、抗HER2抗原結合ポリペプチドは、トラスツズマブ(CAS#180288-69-1)および/またはペルツズマブ(CAS#380610-27-5)とは異なるHER2上のエピトープに結合する。ある態様において、抗HER2抗原結合ポリペプチドは、トラスツズマブおよび/またはペルツズマブと同じHER2上のエピトープに結合する。ある態様において、抗HER2抗原結合ポリペプチドは、HER2への結合に関してトラスツズマブおよび/またはペルツズマブと競合する。
【0065】
ある態様において、本明細書に記載の抗HER2抗原結合ポリペプチドは、HER2に結合することにより内在化される。特定の一態様において、該内在化する抗HER2抗原結合ポリペプチドは、細胞傷害性物質(例えば、抗癌剤)に連結されている。好適な非限定的な細胞障害性物質は本明細書に記載されている。
【0066】
別の面において、本発明は、HER2上の同じエピトープに結合し、および/または配列番号13、14、15または16に記載のVHドメインアミノ酸配列を含む抗原結合ポリペプチドと競合する抗HER2抗原結合ポリペプチドを提供する。かかる抗体は、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)に基づく競合アッセイを含む常套の競合結合アッセイを用いて同定することができる。
【0067】
III. 二重特異性抗原結合ポリペプチド
別の面において、本発明は、第一および第二標的抗原に特異的に結合する二重特異性抗原結合ポリペプチドを提供する。任意の2つの抗原は、本発明の二重特異性抗原結合ポリペプチドを用いて標的化され得る。一般的に、本発明の二重特異性抗原結合ポリペプチドは、第一抗原に特異的に結合する第一VHドメインを含む抗体重鎖を含み、ここで、該重鎖は、第二抗原に特異的に結合する第二VHドメインに連結されている。
【0068】
抗体重鎖は、当技術分野における認識手段(化学的および/または遺伝子的手段)を用いて第二VHドメインに連結されていてよい。ある態様において、抗体重鎖および第二VHドメインは、遺伝子的に連結されている。一態様において、抗体重鎖のC末端アミノ酸は、第二VHドメインのN末端アミノ酸に連結されている。この結合は、直接、またはリンカーを仲介いて行われる。一態様において、抗体重鎖は、配列番号23に記載の配列を含むアミノ酸リンカーを介して第二VHドメインのN末端アミノ酸に連結されている。
【0069】
ある態様において、二重特異性抗原結合ポリペプチドは、各抗体重鎖が第一抗原に特異的に結合する第一VHドメインを含む2つの抗体重鎖の二量体であり、ここで、各抗体重鎖は、第二抗原に特異的に結合する第二VHドメインに連結されている。二量体中の2つの抗体重鎖は、天然に存在する、四量体抗体分子に生じる結合と同じ方法で、天然の重鎖二量体結合部分(interface)を介して結合されている。このような構造を有する例示的な二重特異性抗原結合ポリペプチドを、本明細書中の図2および3に記載する。
【0070】
ある態様において、二重特異性抗原結合ポリペプチドは、抗体軽鎖をさらに含む。ある態様において、軽鎖は、天然に存在する、四量体抗体分子に生じる結合と同じ方法で、天然に軽鎖/重鎖二量体結合部分を介して重鎖と自然に対を形成する。このような構造を有する例示的な二重特異性抗原結合ポリペプチドを、本明細書中の図1および4に記載する。
【0071】
第一抗原および第二抗原は、同一でも異なっていてもよい。抗原が異なる場合、それらは、同一分子の異なる領域内または異なる分子上にあってよい。ある態様において、第一抗原および第二抗原は細胞表面受容体である。ある態様において、第一抗原は、PDGFRβまたはHER2(例えば、ヒトPDGFRβまたはHER2)である。ある態様において、第二抗原は、PDGFRβまたはHER2(例えば、ヒトPDGFRβまたはHER2)である。特定の一態様において、第一抗原はPDGFRβであり、第二抗原はHER2である。別の特定の態様において、第一抗原はHER2であり、第二抗原はPDGFRβである。
【0072】
ある態様において、ある抗原(第一または第二抗原)は細胞表面受容体であり、別のある抗原(第一または第二抗原)は、リガンド(例えば、VEGF、PDGFまたはEGFなどの増殖因子)である。ある態様において、第一抗原は、PDGFRβまたはVEGF(例えば、ヒトPDGFRβまたはVEGF)である。ある態様において、第二抗原はPDGFRβまたはVEGF(例えば、ヒトPDGFRβまたはVEGF)である。特定の一態様において、第一抗原はPDGFRβであり、第二抗原はVEGFである。別の特定の態様において、第一抗原はVEGFであり、第二抗原はPDGFRβである。かかる二重特異性抗原結合ポリペプチドは、AMDおよび癌などのPDGFRβ関連疾患およびVEGF関連疾患の処置において特に有用である。
【0073】
第一抗原および第三抗原は、同一分子の異なる領域内または異なる分子上にあってよい。ある態様において、軽鎖は第一抗原に結合し、そして重鎖および軽鎖は、共作用して、第二抗原に対する単一結合部位を作成する。ある態様において、軽鎖は、第三の抗原に結合する。第一、第二および第三抗原が異なる場合、これは3つの特異性を有する抗原結合性ポリペプチドの産生を可能にすることに留意すべきである。このような分子もまた本発明に包含される。
【0074】
任意の抗体重鎖、軽鎖、VHドメイン、VLドメインまたはCDRアミノ酸配列は、本発明の抗原結合ポリペプチドに使用できる。例示的な抗体重鎖、軽鎖、VHドメイン、VLドメインおよびCDRアミノ酸配列は、本明細書中、表1から4に記載される。
【0075】
ある態様において、二重特異性抗原結合ポリペプチドは、本明細書に記載の抗PDGFRβ VHドメイン(例えば、配列番号24に記載のもの)ならびにEGFRファミリー受容体タンパク質(例えば、EGFR、HER2、HER3、および/またはHER4)に結合する抗体のVHおよびVLドメインを含む。該VHおよびVLドメインを得ることができる好適な治療抗体には、トラスツズマブ(CAS#180288-69-1)、ペルツズマブ(CAS#380610-27-5)およびセツキシマブ(CAS#205923-56-4)が含まれるが、これに限定されない。特定の一態様において、二重特異性抗原結合ポリペプチドは、図4に記載のように形成される。
【0076】
ある態様において、二重特異性抗原結合ポリペプチドは、本明細書に記載の抗HER2 VHドメイン(例えば、配列番号13から16に記載のもの)ならびにEGFRファミリーメンバー(例えば、EGFR、HER2、HER3、および/またはHER4)に結合する抗体のVHおよびVLを含む。該VHおよびVLドメインを得ることができる好適な治療抗体には、トラスツズマブ(CAS#180288-69-1)、ペルツズマブ(CAS#380610-27-5)、およびセツキシマブ(CAS#205923-56-4)が含まれるが、これに限定されない。特定の一態様において、二重特異性抗原結合ポリペプチドは、図12に記載のように形成される。
【0077】
【表3】

【0078】
【表4】


【表5】


【表6】

【0079】
ある態様において、本発明の二重特異性抗原結合ポリペプチドは、ヒトHER2に特異的に結合する第一VHドメインおよび/または第二VHドメインを含む。ある態様において、抗HER2VHドメインは、配列番号1、4、7または10に記載のHCDR3アミノ酸配列を、表1に記載の重鎖HCDR2またはHCDR1アミノ酸配列の何れか1つから独立して選択されるHCDR2および/またはHCDR1配列と共に含む。ある態様において、抗HER2VHドメインは、配列番号1、2および3;4、5および6;7、8および9;ならびに、10、11および12のそれぞれからなる群のより選択されるHCDR3、HCDR2およびHCDR1アミノ酸配列を含む。ある態様において、抗HER2VHドメインは、配列番号13、14、15または16に記載のアミノ酸配列を含む。
【0080】
ある態様において、本発明の二重特異性抗原結合ポリペプチドは、ヒトPDGFRβに特異的に結合する第一VHドメインおよび/または第二VHドメインを含む。PDGFRβに結合する任意のVHドメインは、本発明の方法に使用可能である。好適なVHドメインには、2012年12月5日出願の米国出願第13/705,978号(その内容全体は引用により本明細書中に包含される)に記載のものが含まれる。ある態様において、抗PDGFRβVHドメインは、配列番号25に記載のHCDR3アミノ酸配列を含む。ある態様において、抗PDGFRβVHドメインは、配列番号25、26および27のそれぞれに記載のHCDR3、HCDR2およびHCDR1アミノ酸配列を含む。ある態様において、抗PDGFRβVHドメインは、配列番号24に記載のアミノ酸配列を含む。
【0081】
ある態様において、本発明の二重特異性抗原結合ポリペプチドは、ヒトPDGFRβに特異的に結合するVLドメインを含む。PDGFRβに結合する任意のVLドメインは、本発明の方法に使用可能である。好適なVLドメインには、2012年12月5日出願の米国出願第13/705,978号に記載のものが含まれる。ある態様において、抗PDGFRβVLドメインは、配列番号29に記載のHCDR3アミノ酸配列を含む。ある態様において、抗PDGFRβVLドメインは、配列番号29、30および31のそれぞれに記載のHCDR3、HCDR2およびHCDR1アミノ酸配列を含む。ある態様において、抗PDGFRβVLドメインは、配列番号28に記載のアミノ酸配列を含む。
【0082】
特定の一態様において、本発明の二重特異性抗原結合ポリペプチドは、配列番号18または20に記載の重鎖を含む。
【0083】
特定の一態様において、本発明の二重特異性抗原結合ポリペプチドは、配列番号22に記載の抗体軽鎖を含む。
【0084】
ある態様において、本発明の二重特異性抗原結合ポリペプチドは、少なくとも1つまたはそれ以上の保存的アミノ酸置換(例えば、1、2、3、4、5つなどの、保存的アミノ酸置換)を含む、1つまたはそれ以上のCDR、VHドメイン、VLドメイン、重鎖または軽鎖を含む。保存的アミノ酸置換には、あるクラスのアミノ酸を同じクラスのアミノ酸により置換することが含まれ、ここで、クラスとは、アミノ酸側鎖の共通の物理化学的特性および相同タンパク質において天然に見られる高置換頻度により定義される(例えば、標準Dayhoff頻度交換マトリックスまたはBLOSUMマトリックスにより決定される)。アミノ酸側鎖の6つの一般的なクラスが分類されており、クラスI(Cys);クラスII(Ser、Thr、Pro、Ala、Gly);クラスIII(Asn、Asp、Gln、Glu);クラスIV(His、Arg、Lys);クラスV(Ile、Leu、Val、Met);およびクラスVI(Phe、Tyr、Trp)が含まれる。例えば、Asn、GlnまたはGluなどの別のクラスIII残基へのAspの置換は、保存的置換である。従って、抗PDGFRβ抗体における予測される非必須アミノ酸残基は、好ましくは、同じクラスの別のアミノ酸残基で置換されている。抗原結合を排除しないアミノ酸の保存的置換を同定する方法は、当技術分野で周知である(例えば、Brummell et al., Biochem. 32:1180-1187 (1993); Kobayashi et al. Protein Eng. 12(10):879-884 (1999);および、Burks et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:412-417 (1997)を参照のこと、それぞれ、その内容全体は引用により本明細書中に包含される)。
【0085】
ある態様において、本発明は、本明細書に記載のCDR、VHドメイン、VLドメイン、重鎖または軽鎖アミノ酸配列と約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸配列同一性を有する、CDR、VHドメイン、VLドメイン、重鎖または軽鎖アミノ酸配列を含む二重特異性抗原結合ポリペプチドを提供する。
【0086】
IV.修飾された抗原結合ポリペプチド
ある態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、1つまたはそれ以上の修飾を含んでいてよい。本発明の抗原結合ポリペプチドの修飾形態は、当技術分野で公知の何らかの技術を用いて作製可能である。
【0087】
i)免疫原性の低下
ある態様において、本発明の抗原結合ポリペプチド(例えば、二重特異性抗原結合ポリペプチド、抗体またはその抗原結合フラグメント)は、当該技術分野で認識された技術を用いて、それらの免疫原性を低下させるために修飾されている。例えば、抗体またはそのフラグメントは、キメラ化、ヒト化、および/または脱免疫化されていてよい。
【0088】
ある態様において、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントは、キメラであってよい。キメラ抗体とは、マウスモノクローナル抗体由来の可変領域およびヒト免疫グロブリン定常領域を有する抗体のような、抗体の異なる部分が異なる動物種に由来する抗体である。キメラ抗体またはそのフラグメントの作製法は、当技術分野で公知である。例えば、Morrison, Science 229:1202 (1985); Oi et al., BioTechniques 4:214 (1986); Gillies et al., J. Immunol. Methods 125:191-202 (1989);米国特許第5,807,715号;同第4,816,567号;および、同第4,816,397号(それらは、その内容全体が引用により本明細書中に包含される)を参照のこと。“キメラ抗体”を作製するために開発された技術(Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 81:851-855 (1984); Neuberger et al., Nature 312:604-608 (1984); Takeda et al., Nature 314:452-454 (1985))は、該分子の合成のために使用できる。例えば、マウス抗PDGFRβ抗体分子の結合特異性をコード化する遺伝子配列を、適当な生物活性のヒト抗体分子由来の配列と共に融合することができる。本明細書で用いるキメラ抗体は、異なる部分が、マウスモノクローナル抗体に由来する可変領域およびヒト免疫グロブリン定常領域を有する抗体、例えば、ヒト化抗体などの、異なる動物種に由来する分子である。
【0089】
別の態様において、本発明の抗体またはその抗原結合部分はヒト化されている。ヒト化抗体は、非ヒト抗体由来の1つまたはそれ以上の相補性決定領域(CDR)およびヒト抗体分子に由来するフレームワーク領域を含んで、特異的結合性を有する。しばしば、ヒトフレームワーク領域におけるフレームワーク残基は、CDRドナー抗体由来の対応する残基で置換して、抗原結合を改変、好ましくは改善され得る。これらのフレームワーク置換は、当技術分野で周知の方法によって、例えば、特定の位置における異常なフレームワーク残基を同定するための抗原結合および配列比較に重要なフレームワーク残基を同定するためのCDRおよびフレームワーク残基の相互作用をモデリングすることにより、同定される。(例えば、Queen et al., U.S. Pat. No. 5,585,089; Riechmann et al., Nature 332:323 (1988)を参照のこと、その内容全体は引用により本明細書中に包含させる)。抗体は、当技術分野において公知の様々な技術、例えば、CDR移植(EP239,400;PCT公開番号WO91/09967;米国特許第5,225,539号;同第5,530,101号;および同第5,585,089号、それらの内容全体は引用により本明細書中に包含させる)、ベニヤリング(veneering)またはリサーフェイシング(resurfacing)(EP592,106;EP519,596; Padlan, Molecular Immunology 28(4/5):489-498 (1991); Studnicka et al., Protein Engineering 7(6):805-814 (1994); Roguska. et al., PNAS 91:969-973 (1994)、それらの内容全体は引用により本明細書中に包含させる)、および鎖シャッフリング(chain shuffling)(米国特許第5,565,332号、その内容全体は引用により本明細書中に包含させる)を含む技術を用いてヒト化され得る。
【0090】
ある態様において、脱免疫化は、PDGFRβ抗原結合ポリペプチド(例えば、抗体、またはその抗原結合部分)の免疫原性を低下させるために使用できる。本明細書で用いる用語“脱免疫化”は、ポリペプチド(例えば、抗体またはその抗原結合部分)を改変してT細胞エピトープを修飾することを含む(例えば、WO9852976A1、WO0034317A2を参照のこと、それらの内容は引用により本明細書中に包含される)。例えば、本発明の出発PDGFRβ特異的抗体またはその抗原結合部分由来のVHおよびVL配列は分析されてもよく、ヒトT細胞エピトープ“マップ”が、該配列内の配列相補性決定領域(CDR)および他の重要な残基と関連させてエピトープの位置を示す各V領域から作成することができる。T細胞エピトープマップからの個々のT細胞エピトープは、最終抗体の活性を改変するリスクが低い代替的(alternative)アミノ酸置換を同定するために分析される。代替VHおよびVL配列の範囲は、アミノ酸置換の組合せを含むように設計され、次いで、これらの配列は、本明細書に記載の診断法および処置法において使用するために抗原結合ポリペプチドの範囲に組み込まれ、その後それらは機能に関して試験される。その後、修飾されたV領域およびヒトC領域を含む完全な重鎖および軽鎖遺伝子を、発現ベクターにクローニングし、次いで、プラスミドを全体抗体の産生のために細胞株に導入した。その後、抗体を適当な生化学的アッセイおよび生物学的アッセイで比較して、最適な変異体を同定する。
【0091】
ii)エフェクター機能およびFc修飾
本発明の抗原結合ポリペプチドは、一般的に、抗体定常領域(例えば、IgG定常領域、例えば、ヒトIgG定常領域、例えば、ヒトIgG1、2、3または4定常領域)を含み、1つまたはそれ以上のエフェクター機能を仲介する。例えば、抗体定常領域への補体の1成分の結合は、補体系を活性化し得る。補体の活性化は、細胞病原体のオプソニン化および溶解に重要である。補体の活性化はまた、炎症反応を刺激し、自己免疫過敏症にも関与し得る。さらに、抗体は、細胞上のFc受容体(FcR)に結合する抗体Fc領域上のFc受容体結合部位で、Fc領域を介して種々の細胞上の受容体に結合する。IgG(ガンマ受容体)、IgE(イプシロン受容体)、IgA(アルファ受容体)およびIgM(ミュー受容体)を含む抗体の異なるクラスに特異的な多くのFc受容体がある。細胞表面上のFc受容体への抗体の結合は、抗体被覆粒子の取り込みおよび破壊、免疫複合体のクリアランス、キラー細胞による抗体被覆標的細胞の溶解(抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用、またはADCCと呼ばれる)、炎症性メディエーターの放出、免疫グロブリンの胎盤通過および免疫グロブリン産生の制御を含む、多くの重要かつ多様な生物学的応答を引き起こす。好ましい態様において、本発明の抗原結合ポリペプチド(例えば、抗体またはその抗原結合フラグメント)は、Fc-ガンマ受容体に結合する。さらに別の態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、1つまたは複数のエフェクター機能(例えば、ADCC活性)を欠く、および/またはFcγ受容体に結合できない、定常領域を含み得る。
【0092】
本発明の特定の態様は、定常領域ドメインの1つまたはそれ以上における少なくとも1つのアミノ酸を、低下または増強されたエフェクター機能、非共有結合二量体化の能力、腫瘍の部位に局在する増加した能力、低下した血清半減期、またはほぼ同じ免疫原性を有する全体の改変されていない抗体と比較したとき増加した血清半減期などの所望の生化学的特性を提供するように、欠失させ、または他の方法で改変させた、抗原結合性ポリペプチドを含む。例えば、本明細書に記載の診断法および治療法において使用するための、ある抗体またはそのフラグメントは、免疫グロブリン重鎖と同様のポリペプチド鎖を含むが、1つまたはそれ以上の重鎖ドメインの少なくとも一部を欠く、ドメイン欠失抗体である。例えば、ある抗体において、修飾抗体の定常領域の1つのドメイン全体を欠失しており、例えば、CH2ドメインの全体または一部が欠失されている。
【0093】
特定の他の態様において、抗原結合ポリペプチドは、異なる抗体イソ型由来の複数の定常領域(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4のうち2つ以上由来の定常領域)を含む。他の態様において、抗原結合ポリペプチドは、キメラヒンジ(すなわち、異なる抗体イソ型のヒンジドメイン由来の複数のヒンジ部分、例えば、IgG4分子由来の上部ヒンジドメインおよびIgG1中央ヒンジドメイン、を含むヒンジ)を含む。一態様において、抗原結合ポリペプチドは、ヒトIgG4分子由来のFc領域またはその一部ならびに該分子のコアヒンジ領域におけるSer228Pro変異(EU番号付け)を含む。
【0094】
ある態様において、Fc部分は、当技術分野で公知の技術を用いてエフェクター機能を増加または低下させるために変異されてよい。例えば、定常領域ドメインの欠失または不活性化(点変異または他の手段による)は、循環している修飾抗体のFc受容体結合を減少させ、それによって腫瘍局在化を増加させ得る。他の場合において、本発明と一致する定常領域改変は補体結合を調節し、それにより、複合体形成している細胞毒素の血清半減期および非特異的結合を低減させることができる。定常領域のさらに他の修飾は、増加した抗原特異性または柔軟性のために増加した局在化を可能にするジスルフィド結合またはオリゴ糖部分を修飾するために使用することができる。得られた生理的プロファイル、バイオアベイラビリティならびに腫瘍局在化、生体分布および血清半減期などの修飾の他の生化学的作用を、容易に、過度の実験を行うことなく周知の免疫学的技術を用いて測定および定量することができる。
【0095】
ある態様において、本発明の抗体に用いるFcドメインは、Fc変異体である。本明細書で用いる用語“Fc変異体”は、該Fcドメインが由来する、野生型Fcドメインと比較して少なくとも1つのアミノ酸置換を有するFcドメインを意味する。例えば、該FcドメインはヒトIgG1抗体に由来し、該ヒトIgG1 FcドメインのFc変異体は、該Fcドメインと比較して少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0096】
Fc変異体のアミノ酸置換(複数可)は、Fcドメイン内の任意の位置(すなわち、任意のEU慣用的なアミノ酸位置)に配置されてよい。一態様において、Fc変異体は、ヒンジドメインまたはその一部に位置するアミノ酸位置に置換を含む。別の態様において、Fc変異体は、CH2ドメインまたはその一部に位置するアミノ酸位置に置換を含む。別の態様において、Fc変異体は、CH3ドメインまたはその一部に位置するアミノ酸位置に置換を含む。別の態様において、Fc変異体は、CH4ドメインまたはその一部に位置するアミノ酸位置に置換を含む。
【0097】
本発明の抗原結合ポリペプチドは、エフェクター機能および/またはFcR結合の改善(例えば、減少または増強)を付与することが知られている当該技術分野で認識されるFc変異体を用いることができる。Fc変異体は、例えば、国際公開WO88/07089A1、WO96/14339A1、WO98/05787A1、WO98/23289A1、WO99/51642A1、WO99/58572A1、WO00/09560A2、WO00/32767A1、WO00/42072A2、WO02/44215A2、WO02/060919A2、WO03/074569A2、WO04/016750A2、WO04/029207A2、WO04/035752A2、WO04/063351A2、WO04/074455A2、WO04/099249A2、WO05/040217A2、WO05/070963A1、WO05/077981A2、WO05/092925A2、WO05/123780A2、WO06/019447A1、WO06/047350A2およびWO06/085967A2または米国特許第5,648,260号;同第5,739,277号;同第5,834,250号;同第5,869,046号;同第6,096,871号;同第6,121,022号;同第6,194,551号;同第6,242,195号;同第6,277,375号;同第6,528,624号;同第6,538,124号;同第6,737,056号;同第6,821,505号;同第6,998,253号;および、同第7,083,784号(それらは全て、引用によりその全体を本明細書中に包含させる。)に開示されたアミノ酸置換のいずれか1つを含んでいてよい。例示的一態様において、本発明の結合ポリペプチドは、EU位置268のアミノ酸置換(例えば、H268DまたはH268E)を含むFc変異体を含み得る。別の例示的態様において、本発明の結合ポリペプチドは、EU位置239でのアミノ酸置換(例えば、S239DまたはS239E)および/またはEU位置332でのアミノ酸置換(例えば、I332DまたはI332Q)を含んでいてよい。
【0098】
ある態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、抗原非依存性エフェクター機能を変化させる、特に結合ポリペプチドの循環半減期を変化させる、アミノ酸置換を含むFc変異体を含み得る。かかる抗原結合ポリペプチドは、これらの置換を欠く抗原結合ポリペプチドと比較したとき、FcRnへの増加または減少した結合のいずれかを示し、従って、それぞれ、血清中半減期を増加または減少させる。FcRnに対する改善された親和性を有するFc変異体は、より長い血清半減期を有することが予想され、このような分子は、例えば、慢性疾患または障害を処置するために、投与された抗原結合ポリペプチドの長い血清半減期が望まれる場合、哺乳動物の処置に有用な応用をもたらす。対照的に、減少したFcRn結合親和性を有するFc変異体は、より短い半減期を有すると予想され、このような分子はまた、例えば、インビボ画像診断のため、または長時間循環系に存在するとき出発抗体が毒性の副作用を有する状況において、例えば、短縮された循環時間が有利であり得る場合、哺乳動物への投与に有用である。減少したFcRn結合親和性を有するFc変異体はまた、胎盤を通過する可能性が低く、従って、妊婦における疾患または障害の処置にも有用である。加えて、減少したFcRn結合親和性が望まれ得る他の適用には、脳、腎臓、および/または肝臓への局在が望ましい用途が含まれる。例示的一態様において、本発明の改変された抗原結合ポリペプチドは、血管系から腎臓糸球体の上皮を横断する輸送を減少させた。別の態様において、本発明の改変された抗原結合ポリペプチドは、脳から血液脳関門(BBB)を通過し、血管内への減少した輸送を示す。一態様において、改変されたFcRn結合を有する抗体は、Fcドメインの“FcRn結合ループ”内に1つまたはそれ以上のアミノ酸置換を有するFcドメインを含む。FcRn結合ループは、アミノ酸残基280-299(EU番号付けに従う)から構成される。FcRn結合活性を改変された例示的なアミノ酸置換は、国際公開WO05/047327(引用により本明細書中に包含させる)に記載されている。特定の例示的態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、以下の置換:V284E、H285E、N286D、K290EおよびS304D(EU番号付け)の1つまたはそれ以上を有するFcドメインを含む。
【0099】
他の態様において、本明細書に記載の診断法および処置法に使用するための抗原結合ポリペプチドは、グリコシル化を低減または排除するために改変される、定常領域、例えば、IgG1重鎖定常領域を有する。例えば、本発明の抗原結合ポリペプチドはまた、抗体Fcのグリコシル化を変化させるアミノ酸置換を含むFc変異体を含み得る。例えば、該Fc変異体は、グリコシル化(例えば、N-またはO-結合グリコシル化)を低減させ得る。例示的態様において、Fc変異体は、アミノ酸位置297(EU番号付け)で通常見出される、N-結合型グリカンの減少したグリコシル化を含む。別の態様において、抗原結合ポリペプチドは、例えば、アミノ酸配列NXTまたはNXSを含む、N-結合型グリコシル化モチーフの近くまたはグリコシル化モチーフ内のアミノ酸置換を有する。特定の態様において、抗原結合ポリペプチドは、アミノ酸位置228または299(EU番号付け)にてアミノ酸置換を有するFc変異体を含む。より特定の態様において、抗原結合ポリペプチドは、S228PおよびT299A変異(EU番号付け)を含むIgG1またはIgG4定常領域を含む。
【0100】
低減または改変されたグリコシル化を与える例示的アミノ酸置換は、国際公開WO05/018572(その内容は、引用により本明細書中に包含させる)に記載されている。好ましい態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、グリコシル化を排除するために修飾される。このような抗原結合ポリペプチドは、“agly”抗原結合ポリペプチドと呼ばれ得る。理論は別にして、“agly”抗原結合ポリペプチドは、インビボで改善された安全性および安定性プロファイルを有し得ると考えられる。典型的なagly抗原結合ポリペプチドは、それによってPDGFRβを発現する正常な重要臓器へのFc媒介性毒性の可能性を排除したFcエフェクター機能を欠いているIgG4抗体の非グリコシル化Fc領域を含む。さらに他の態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、改変されたグリカンを含む。例えば、抗原結合ポリペプチドは、Fc領域のAsn297でN-グリカンのフコース残基の数の減少を有していてもよく、すなわち、脱フコシル化されていてよい。別の態様において、抗原結合性ポリペプチドは、Fc領域のAsn297でN-グリカンのシアル酸残基の変化した数を有していてもよい。
【0101】
iii)共有結合
本発明の抗原結合ポリペプチドは、例えば、共有結合が結合ポリペプチドをその同族エピトープへの特異的結合から妨げないように、該結合ポリペプチドへの分子の共有結合により、修飾されていてよい。例えば、限定はしないが、本発明の抗原結合ポリペプチドは、グリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、公知の保護基/遮断基による誘導体化、タンパク質分解切断、細胞リガンドまたは他のタンパク質への結合などにより修飾され得る。多数の化学修飾のいずれかは、特定の化学的切断、アセチル化、ホルミル化などを含むが、これに限定されない既知の技術によって行われ得る。さらに、誘導体は、1つまたはそれ以上の非古典的アミノ酸を含有していてよい。
【0102】
本発明の抗原結合ポリペプチドは、さらに、ポリペプチドまたは他の組成物に、N-またはC-末端結合または化学的結合(共有結合および非共有結合を含む)して異種ポリペプチドに組換え融合されていてよい。例えば、抗原結合ポリペプチドは、検出アッセイにおける標識ならびに異種ポリペプチド、薬物、放射性核種、または毒素などのエフェクター分子として有用な分子に組み換え的に融合されるか、または連結されていてよい。例えば、PCT公開WO92/08495;WO91/14438;WO89/12624;米国特許第5,314,995号;および、EP396,387(それらはそれぞれ、その内容を引用により本明細書に包含させる)。
【0103】
抗原結合ポリペプチドは、インビボ半減期を増加させるため、または当技術分野で公知の方法を用いて免疫アッセイで使用するために、異種ポリペプチドに融合され得る。例えば、一態様において、PEGは、インビボでの半減期を増加させるために、本発明の抗原結合ポリペプチドに結合され得る(Leong, S. R., et al., Cytokine 16:106 (2001); Adv. in Drug Deliv. Rev. 54:531 (2002);または、Weir et al., Biochem. Soc. Transactions 30:512 (2002)(それらの内容は、引用により本明細書に包含させる)を参照のこと)。
【0104】
さらに、本発明の抗原結合ポリペプチドは、マーカー配列、例えば、それらの精製または検出を容易にするためのペプチドに融合され得る。好ましい態様において、マーカーのアミノ酸配列は、pQEベクター(QIAGEN, Inc., 9259 Eton Avenue, Chatsworth, Calif., 91311), among others, many of which are commercially available. As described in Gentz et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:821-824 (1989)(その内容は引用により本明細書中に包含させる)において提供されるタグなどのヘキサ-ヒスチジンペプチドであり、例えば、ヘキサ-ヒスチジンは、融合タンパク質の簡便な精製を提供する。精製に有用な他のペプチドタグには、インフルエンザ赤血球凝集素タンパク質由来のエピトープに対応する“HA”タグ(Wilson et al., Cell 37:767 (1984)、その内容は引用により本明細書中に包含させる)および“flag”タグが含まれるが、これらに限定されない。
【0105】
本発明の抗原結合ポリペプチドは、非結合型で使用されてもよく、または例えば、分子の治療特性を改善するために、標的検出を容易にするために、または患者の画像化もしくは治療のために、種々の分子の少なくとも1つに結合されていてよい。精製を行う際に、本発明の抗原結合ポリペプチドは、精製の前または後のいずれかで標識されるか、または結合され得る。特に、本発明の抗原結合ポリペプチドは、治療剤、プロドラッグ、ペプチド、タンパク質、酵素、ウイルス、脂質、生物学的反応調節物質、医薬、またはPEGに結合されていてよい。
【0106】
本発明はさらに、診断薬または治療薬に結合されている本発明の抗原結合ポリペプチドを包含する。抗原結合ポリペプチドは、例えば、所定の処置および/または予防レジメンの有効性を決定するための、臨床試験手順の一部として、例えば、免疫細胞障害(例えば、CLL)の発症または進行を監視することにより診断に使用することができる。検出は、検出可能な物質に抗原結合ポリペプチドを結合することにより容易にすることができる。検出可能な物質の例には、種々の酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、放射性物質、種々の陽電子放射断層撮影法を用いた陽電子放出金属、および非放射性常磁性金属イオンが含まれる。例えば、本発明に係る診断薬として使用するための抗体に結合され得る金属イオンについて、米国特許第4,741,900(その内容は引用により本明細書中に包含させる)を参照のこと。好適な酵素の例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼが含まれる。好適な補欠分子族複合体の例には、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが含まれる。好適な蛍光物質の例には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシルまたはフィコエリトリンが含まれる。発光物質の例には、ルミノールが含まれる。生物発光物質の例としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、およびエクオリンが含まれる。そして、好適な放射性物質の例としては、125I、131I、111Inまたは99Tcが含まれる。
【0107】
本明細書に記載の診断法および処置法における使用を目的とする抗原結合ポリペプチドは、細胞毒素(例えば、放射性同位体、細胞毒性薬、または毒素など)治療剤、細胞増殖抑制剤、生物学的毒素、プロドラッグ、ペプチド、タンパク質、酵素、ウイルス、脂質、生物学的反応修飾因子、医薬、免疫学的活性リガンド(例えば、リンホカインまたは他の抗体、ここで得られた分子は、T細胞などの腫瘍細胞およびエフェクター細胞の両方に結合する)、またはPEGに連結されていてよい。
【0108】
別の態様において、本明細書に記載の診断法および処置法における使用を目的とする抗原結合ポリペプチドは、腫瘍細胞増殖を減少させる分子に連結されていてよい。他の態様において、本明細書に記載の組成物は、薬物またはプロドラッグに結合された抗体またはそのフラグメントを含んでいてよい。本発明のさらに他の態様は、リシン、ゲロニン、シュードモナス外毒素またはジフテリア毒素などの特定の生物毒素またはその細胞毒性フラグメントに結合された抗原結合ポリペプチドの使用を含む。使用する共役または非共役抗体の選択は、癌の種類や病期、補助治療(例えば、化学療法または外部放射線)の使用ならびに患者の状態によって異なる。当業者が、本明細書の教示を考慮してそのような選択を容易に行うことができることは理解され得る。
【0109】
以前の研究において、同位体で標識された抗腫瘍抗体は、動物モデルにおいて、およびヒトのある場合において、腫瘍細胞を破壊するために成功裏に使用されてきたことが理解され得る。例示的な放射性同位元素には、90Y、125I、131I、123I、111In、105Rh、153Sm、67Cu、67Ga、166Ho、177Lu、186Reおよび188Reが含まれる。放射性核種は、細胞死につながる、核DNA内の複数の鎖切断を引き起こす電離放射線を形成することにより作用する。治療用複合体を作製するために使用される同位体は、一般的に、は短いパス長を有する、高エネルギーのアルファ-またはベータ-粒子を生成する。かかる放射性核種は、複合体が付着しているか、または内部にあるとき、それらが近接している細胞、例えば腫瘍細胞を殺す。それらは、非局在化した細胞にはほとんど影響を及ぼさない。放射性核種は、実質的に、非免疫原性である。
【0110】
V.抗原結合ポリペプチドの発現
上記のように、本発明の抗原結合ポリペプチドを提供するために、単離された遺伝物質の操作に続いて、遺伝子を、一般的に、所望の量の抗原結合ポリペプチドを生成するために使用することができる宿主細胞への導入のために発現ベクターに挿入する。
【0111】
用語“ベクター”または“発現ベクター”は、細胞内に導入し、そして細胞内で所望の遺伝子を発現するためのビークルとして、本発明に従って使用されるベクターを意味するために、明細書および特許請求の範囲の目的のために本明細書中で使用される。当業者に公知のように、かかるベクターは、プラスミド、ファージ、ウイルスおよびレトロウイルスからなる群より容易に選択され得る。一般的に、本発明に適合するベクターは、選択マーカー、所望の遺伝子のクローニングを容易にする適切な制限部位、ならびに真核細胞または原核細胞への導入および/もしくは該細胞内での複製能力を含み得る。
【0112】
多数の発現ベクター系が、本発明の目的のために使用可能である。例えば、ベクターの1つのクラスは、ウシパピローマウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス(RSV、MMTVもしくはMOMLV)またはSV40ウイルスなどの動物ウイルスに由来するDNA要素を利用する。他は、内部リボソーム結合部位を有する多シストロン系の使用を含む。さらに、その染色体にDNAを組み込んだ細胞は、形質転換された宿主細胞の選択を可能にする1つまたはそれ以上のマーカーを導入することにより選択することができる。マーカーは、栄養要求性宿主への原栄養能、殺生物剤耐性(例えば、抗生物質)または銅などの重金属への耐性を提供し得る。選択可能なマーカー遺伝子は、発現されるべきDNA配列に直接結合されるか、または同時形質転換によって同じ細胞に導入され得る。さらなる要素はまた、mRNAの最適な合成のために必要とされ得る。これらの要素は、シグナル配列、スプライスシグナル、転写プロモーター、エンハンサー、および終結シグナルを含み得る。特に好ましい態様では、クローン化された可変領域遺伝子は、上記のように合成される重鎖および軽鎖定常領域遺伝子(好ましくは、ヒト)と共に発現ベクターに挿入される。
【0113】
他の好ましい態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、多シストロン性構築物を用いて発現させ得る。このような発現系において、抗体の重鎖および軽鎖のような目的の複数の遺伝子産物は、単一の多シストロン性構築物から産生され得る。これらの系は、有利には、真核宿主細胞において、本発明のポリペプチドの比較的高いレベルを提供するために、内部リボソーム侵入部位(IRES)を用いる。互換性のIRES配列は、引用によりその内容を本明細書に包含させる米国特許第6,193,980に記載されている。当業者は、かかる発現系が、本明細書に記載のポリペプチドの完全な範囲を効率的に産生するために使用され得ることを理解し得る。
【0114】
より一般的には、抗体またはそのフラグメントをコードするベクターまたはDNA配列が一旦調製されると、該発現ベクターは、適当な宿主細胞に導入され得る。すなわち、宿主細胞を形質転換し得る。宿主細胞へのプラスミドの導入は、当業者に周知の種々の技術によって達成することができる。これらには、トランスフェクション(電気泳動およびエレクトロポレーションを含む)、プロトプラスト融合、リン酸カルシウム沈殿、エンベロープDNAによる細胞融合、マイクロインジェクション、および無傷ウイルスによる感染が含まれるが、これらに限定されない。Ridgway, A. A. G. “Mammalian Expression Vectors” Chapter 24.2, pp. 470-472 Vectors, Rodriguez and Denhardt, Eds. (Butterworths, Boston, Mass. 1988)(その内容は引用により本明細書中に包含される)を参照のこと。最も好ましくは、宿主へのプラスミド導入はエレクトロポレーションを仲介するものである。形質転換細胞は、軽鎖および重鎖の産生に好適な条件下で増殖させ、そして重鎖および/または軽鎖タンパク質合成についてアッセイされる。例示的なアッセイ技術には、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、または蛍光活性化セルソーター分析(FACS)、免疫組織化学などが含まれる。
【0115】
本明細書で用いる用語“形質転換”は、広義の意味で、遺伝子型を変化させ、その結果レシピエント細胞における変化をもたらす、レシピエント宿主細胞へのDNAの導入を意味するために用いられ得る。
【0116】
同様に、“宿主細胞”は、組換えDNA技術を用いて構築された、少なくとも1つの異種遺伝子をコードするベクターで形質転換された細胞を意味する。組換え宿主からポリペプチドを単離するための方法の記載において、用語“細胞”および“細胞培養”は、明確に他に特記されない限り、抗体の由来源を示すために互換的に使用される。言い換えると、“細胞”からのポリペプチドの回収とは、遠沈全細胞から、または培地および懸濁細胞の両方を含有する細胞培養物からの何れかを意味し得る。
【0117】
一態様において、抗原結合ポリペプチド発現のために使用される宿主細胞株は、哺乳動物起源のものである。当業者は、そこで発現されるべき所望の遺伝子産物に最も適している特定の宿主細胞株を決定することができる。例示的な宿主細胞株としては、DG44およびDUXB11(チャイニーズハムスター卵巣株、DHFR-)、HELA(ヒト子宮頸癌)、CVI(サル腎臓株)、COS(SV40T抗原を有するCVIの誘導体)、R1610(チャイニーズハムスター線維芽細胞)、BALBC/3T3(マウス線維芽細胞)、HAK(ハムスター腎臓株)、SP2/O(マウス骨髄腫)、BFA-1c1BPT(ウシ内皮細胞)、RAJI(ヒトリンパ球)、293(ヒト腎臓)が含まれるが、これに限定されない。一態様において、細胞株は、それから発現される抗体の改変されたグリコシル化、例えば、脱フコシル化(afucosylation)を提供する(例えば、PER.C6.RTM.(Crucell)またはFUT8-ノックアウトCHO細胞株(Potelligent.RTM.Cells)(Biowa、Princeton、N.J.))。一態様において、NS0細胞が使用され得る。CHO細胞が特に好ましい。宿主細胞株は、一般的に、商業サービス、アメリカ培養細胞系統保存機関または公開された文献から入手可能である。
【0118】
インビトロ産生では、大量の所望のポリペプチドを得るためのスケールアップが可能となる。組織培養条件下での哺乳動物細胞培養のための技術は、当技術分野において公知であり、例えばエアリフトリアクターまたは連続撹拌反応器中での均質懸濁培養、または例えば中空繊維(hollow fiber)中、マイクロカプセル中、アガロースマイクロビーズ上またはセラミックカートリッジ上での固定化もしくは捕捉された細胞培養が含まれる。必要に応じて、および/または所望により、ポリペプチドの溶液は、慣用のクロマトグラフィー法、例えばゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、DEAE-セルロースを用いるクロマトグラフィーおよび/または(免疫)親和性クロマトグラフィーにより精製することができる。
【0119】
本発明の抗原結合ポリペプチドをコードする遺伝子はまた、細菌または酵母または植物細胞などの非哺乳動物細胞においても発現させ得る。これに関して、細菌などの種々の単細胞非哺乳動物微生物、すなわち、培養または発酵で増殖させることができる微生物も形質転換することができることが理解され得る。形質転換されやすい細菌には、大腸菌株またはサルモネラ株などの腸内細菌科のメンバー;枯草菌(Bacillus subtilis)などのバチルス;肺炎球菌;連鎖球菌、およびインフルエンザ菌が含まれる。細菌において発現されるとき、ポリペプチドは、封入体の一部となり得ることがさらに理解され得る。ポリペプチドは、単離され、精製され、次いで機能性分子に組み立てられる必要がある。
【0120】
原核生物に加えて、真核微生物も使用することができる。出芽酵母または一般的なパン酵母は、真核微生物のうちでもっとも一般的に使用されているが、多くの他の株を一般的に利用可能である。出芽酵母での発現のために、例えば、プラスミドYRp7(Stinchcomb et al., Nature, 282:39 (1979); Kingsman et al., Gene, 7:141 (1979); Tschemper et al., Gene, 10:157 (1980)、各々が引用によりその内容を本明細書中に包含される)が一般的に使用される。このプラスミドは、既に、トリプトファン中で増殖する能力を欠く酵母の変異株、例えばATCC番号44076またはPEP4-1(Jones, Genetics, 85:12 (1977)、その内容を引用により本明細書に包含させる)に対する選択マーカーを提供するTRP1遺伝子を含む。従って、酵母宿主細胞ゲノムの特徴としてのtrpl損傷の存在は、トリプトファンの不存在下での増殖による形質転換を検出する有効な環境を提供する。
【0121】
VI.医薬製剤および抗原結合ポリペプチドの投与の方法
別の面において、本発明は、本明細書に記載の抗原結合ポリペプチドを含む医薬組成物を提供する。
【0122】
本発明の抗原結合ポリペプチドの製造法および対象へのその投与法は、当業者によく知られているか、または当業者によって容易に決定される。本発明の抗原結合ポリペプチドの投与経路は、経口、非経腸、吸入または局所投与であり得る。本明細書で用いる用語、非経腸には、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、直腸または膣内投与が含まれる。非経腸投与の静脈内、動脈内、皮下および筋肉内の形態が一般的に好ましい。投与の全てのこれらの形態が明確に本発明の範囲内であると考えられるが、投与のための形態は、注射のための溶液、特に静脈内または動脈内注射または点滴のための溶液であり得る。通常、注射に適する医薬組成物は、緩衝液(例えば、酢酸塩緩衝液、リン酸緩衝液またはクエン酸緩衝液)、界面活性剤(例えば、ポリソルベート)、要すれば安定化剤(例えば、ヒトアルブミン)などを含んでいてよい。しかしながら、本明細書の教示に適合する他の方法において、抗原結合ポリペプチドは、有害細胞集団の部位に直接送達され、それにより治療薬への罹患組織の曝露を増加させることができる。
【0123】
非経腸投与のための製剤には、無菌の水溶液または非水溶液、懸濁液、およびエマルジョンが含まれる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルである。水性担体には、生理食塩水および緩衝媒体を含む、水、アルコール溶液/水溶液、エマルジョンまたは懸濁液が含まれる。本発明では、薬学的に許容される担体には、0.01-0.1M、好ましくは0.05Mのリン酸緩衝液または0.8%生理食塩水が含まれるが、これらに限定されない。他の一般的な非経腸ビークルには、リン酸ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液、または固定油が含まれる。静脈内ビークルには、栄養補充液、電解質補給剤、例えばリンゲルデキストロースに基づくものなどが含まれる。例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガスなどの防腐剤および他の添加物も存在してもよい。より具体的には、注射用に適した医薬組成物は、滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散液および滅菌注射用溶液または分散液の即時調製のための滅菌粉末を含む。そのような場合、組成物は無菌でなければならず、容易に注射可能である程度に流動性であるべきである。それは、製造および貯蔵条件下で安定であるべきであり、好ましくは、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護され得る。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの好適な混合物を含む、溶媒または分散媒体であり得る。適当な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散液の場合は必要な粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって、維持され得る。微生物の作用の防止は、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどの種々の抗菌剤および抗真菌剤によって達成することができる。多くの場合、組成物中に、等張剤、例えば、糖類、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトールまたは塩化ナトリウムなどを含むことが好ましい。注射用組成物の持続的吸収は、組成物中に吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン、を含めることによってもたらされ得る。
【0124】
何れの場合においても、滅菌注射溶液は、必要に応じて本明細書に列挙した1つまたは複数の成分の組み合わせと共に適当な溶媒中に必要量の活性化合物(例えば、単独でまたは他の活性剤と組み合わせた、抗体)を組み込み、次いでろ過滅菌することにより製造できる。一般的に、分散液は、基本的な分散媒体および上記に列挙したものから必要な他の成分を含む滅菌ビークル中に活性化合物を組み込むことによって製造される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい製造法は、真空乾燥および凍結乾燥であり、それにより、予め滅菌濾過した溶液から、活性成分の粉末と任意のさらなる所望の成分とを得る。注射用製剤は処理され、アンプル、バッグ、ボトル、シリンジ、またはバイアルなどの容器に充填され、そして当技術分野で公知の方法に従って無菌条件下で密封される。さらに、該製剤は、同時係属中の米国特許出願第09/259,337号および同第09/259,338号(それぞれ、その内容を引用により本明細書中に包含させる)に記載のようなキットの形態で包装され、販売され得る。そのような製品は、好ましくは、関連する組成物が、自己免疫疾患または腫瘍性疾患に罹患しているか、または罹患しやすい対象を処置するのに有用であることを示すラベルまたは添付文書を包含している。
【0125】
上記の病状の処置のための本発明の安定化された抗原結合ポリペプチドの有効用量は、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態、患者がヒトか、または動物かどうか、他の投与される薬剤、ならびに処置が予防か、または治療かどうかを含む多くの異なる要因によって変化する。通常、患者はヒトであるが、トランスジェニック哺乳動物を含む非ヒト哺乳動物も処置され得る。処置投与量は、安全性および有効性を最適化するために、当業者に公知の通常の方法を用いて決定され得る。
【0126】
本発明の抗体を用いる受動免疫化のために、投与量は、対象の体重1kg当たり、例えば、約0.0001から100mg、より一般的には、0.01から5mg(例えば、0.02mg、0.25mg、0.5mg、0.75mg、1mg、2mgなど)の範囲であり得る。例えば、投与量は、1mg/kg体重または10mg/kg体重、または1-10mg/kgの範囲内、好ましくは少なくとも1mg/kgであり得る。上記の範囲の中間用量もまた本発明の範囲内であることが意図される。
【0127】
対象は、かかる用量を、毎日、隔日、毎週または経験的分析によって決定された任意の他のスケジュールに従って投与され得る。例示的な処置は、例えば少なくとも6ヶ月の、長期間にわたって複数回の投与を必要とする。さらなる例示的な処置レジメンは、2週間毎に1回、または月に1回、または3から6ヶ月毎に1回の投与を必要とする。例示的な投与スケジュールは、毎日1-10mg/kgもしくは15mg/kg、隔日30mg/kg、または毎週60mg/kgを含む。ある方法において、異なる結合特異性を有する2つまたはそれ以上の抗原結合ポリペプチドは、各抗体の投与が指示された範囲内に入る場合には、同時に投与され得る。
【0128】
本発明の抗原結合ポリペプチドは、複数回投与され得る。単一投与量の間隔は、例えば、毎日、毎週、毎月または毎年とすることができる。間隔はまた、患者におけるポリペプチドまたは標的分子の血中濃度を測定することにより示されるところに従って不規則であってもよい。ある方法において、投与量は、特定の血漿抗体または毒素濃度、例えば、1-1000ug/mlまたは25-300ug/mlを達成するように調整される。あるいは、抗原結合ポリペプチドは、製剤、より少ない頻度の投与が必要とされる場合に、持続放出製剤として投与することができる。投与量および頻度は、患者における抗原結合ポリペプチドの半減期に依存して変化する。一般的に、ヒト化抗原結合ポリペプチドは、最長の半減期を示し、次いでキメラ抗原結合ポリペプチドおよび非ヒト抗原結合ポリペプチドである。一態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、非コンジュゲート形態で投与することができる。別の態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、コンジュゲート形態で複数回投与することができる。さらに別の態様において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、非コンジュゲート形態で投与し、その後、コンジュゲート形態で投与することができるか、またはその逆が可能である。
【0129】
投与量および投与頻度は、処置が予防または治療であるかどうかによって変化し得る。予防的適用において、本発明の抗体またはそのカクテルを含む組成物は、その患者の抵抗力を高めるために、疾患状態にない患者に投与される。このような量は、 “予防的有効用量”と定義されている。この使用において、正確な量は、患者の健康状態および全身免疫によっても変わるが、一般的に、1用量当たり、0.1から25mg、とりわけ0.5から2.5mgの範囲である。比較的低い投与量が、長期間にわたって比較的低頻度の間隔で投与される。ある患者は、彼らの残りの全生存期間にわたって処置を受け続ける。
【0130】
治療的適用において、比較的短い間隔で比較的高い投与量(例えば、放射性免疫複合体についてより一般的に使用される5から25mgの投与量ならびに細胞毒-薬物コンジュゲート分子についてより高用量と共に、1用量当たり、約1から400mg/kgの抗体)が、疾患の進行が低減または停止するまで、好ましくは患者が疾患症状の一部または完全な改善を示すまで、必要とされることがある。その後、本特許発明方法は、予防的レジメで継続され得る。
【0131】
一態様において、対象は、本発明のポリペプチドをコードする核酸分子(例えば、ベクター中)を用いて処置され得る。ポリペプチドをコードする核酸の用量は、患者当たり、約10ngから1g、100ngから100mg、1ugから10mg、または30-300ugのDNAの範囲である。感染性ウイルスベクターのための用量は、1用量当たり、10-100またはそれ以上のビリオンで変化する。
【0132】
治療剤は、予防的処置および/または塗料的処置のために、非経腸、局所、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、腹腔内、鼻腔内または筋肉内投与により投与され得る。筋肉内注射または静脈内注入は、本発明の抗体の投与に好ましい。ある方法において、治療用抗体またはそのフラグメントは、頭蓋内に直接注射される。ある方法において、抗体またはそのフラグメントは、徐放性組成物またはMedipadTM装置などのデバイスとして投与される。
【0133】
本発明の抗原結合ポリペプチドは、必要に応じて、(例えば、予防的または治療的)処置を必要とする障害または病状を処置するのに有効な他の薬剤と組み合わせて投与されてよい。好ましいさらなる薬剤は、当該技術分野において認識され、標準的に、特定の障害のために投与されるものである。
【0134】
本発明の90Y-標識された抗体の有効な単回処置投与量(すなわち、治療的有効量)は、約5から約75mCi、より好ましくは約10から約40mCiの範囲である。131I-標識された抗原結合ポリペプチドの有効な単回処置の非骨髄破壊投与量は、約5から約70mCi、より好ましくは約5から約40mCiの範囲である。131I-標識された抗体の有効な単回処置の甲状腺組織を破壊する投与量(Ablation dosage)(すなわち、自家骨髄移植を必要とするかもしれない)は、約30から約600mCi、より好ましくは約50から約500mCi未満の範囲である。
【0135】
臨床実験の多くが131Iおよび90Yを用いて得られているが、他の放射性標識が当技術分野で公知であり、同様の目的に使用されている。さらに他の放射性同位体は、画像化するために使用される。例えば、本発明の範囲と適合するさらなる放射性同位元素としては、123I、125I、32P、57Co、64Cu、67Cu、77Br、81Rb、81Kr、87Sr、113In、127Cs、129Cs、132I、197Hg、203Pb、206Bi、177Lu、186Re、212Pb、212Bi、47Sc、105Rh、109Pd、153Sm、188Re、199Au、225Ac、211Aおよび213Biが含まれるが、これらに限定されない。この点において、α、γおよびβ放射体は、本発明において全て互換性がある。さらに、本明細書に記載の観点から、当業者が過度の実験なしに選択した治療をコースと互換性のある放射性核種を容易に決定できることが認められる。この目的のため、既に臨床診断に使用されているさらなる放射性核種には、125I、123I、99Tc、43K、52Fe、67Ga、68Ga、ならびに111Inが含まれる。抗体はまた、標的化した免疫療法における使用可能性のために種々の放射性核種で標識されている(Peirersz et al. Immunol. Cell Biol. 65: 111-125 (1987)、引用によりその内容を本明細書中に包含される)。これらの放射性核種には、188Reおよび186Reならびにより少ない程度の199Auおよび67Cuが含まれる。米国特許第5,460,785は、そのような放射性同位体に関するさらなるデータを提供し、引用によりその内容全体が本明細書に包含される。
【0136】
上記のように、本発明の抗原結合ポリペプチドは、哺乳動物の障害のインビボでの処置のために薬学的に有効な量で投与され得る。この点に関して、本明細書に記載の抗原結合ポリペプチドは、投与を容易にし、そして活性剤の安定性を促進するように製剤され得ることが理解され得る。好ましくは、本発明による医薬組成物は、生理食塩水、非毒性緩衝液、防腐剤などの、薬学的に許容される、非毒性の滅菌担体を含む。本発明の目的のために、治療剤にコンジュゲートまたは非コンジュゲートされた本発明の抗原結合ポリペプチドの薬学的に有効量は、標的に対する効果的な結合を達成するため、および利益を達成するため、例えば、疾患もしくは障害の症状を改善するために、または物質もしくは細胞を検出するために、十分な量を意味する。腫瘍細胞の場合、ポリペプチドは、好ましくは、新生物または免疫反応性細胞上の選択された免疫反応性抗原と相互作用し、そしてそれらの細胞の細胞死の増加をもたらすことができる。もちろん、本発明の医薬組成物は、ポリペプチドの薬学的に有効量を提供するために、単一または複数の用量で投与され得る。
【0137】
本発明の範囲に合わせて、本発明の抗原結合ポリペプチドは、治療効果または予防効果を生じるのに十分な量で、上記の処置法に従いヒトまたは他の動物に投与され得る。本発明の抗原結合ポリペプチドは、本発明の抗体を、公知の技術に従って、常套の薬学的に許容される担体または希釈剤と組み合わせることにより調製される従来の剤形でヒトまたは他の動物に投与され得る。薬学的に許容される担体または希釈剤の形態および特性は、併用される活性成分の量、投与法および他の周知の可変因子(variable)により記載されることが、当業者により認識され得る。当業者は、本発明のポリペプチドの1つまたはそれ以上の種類を含むカクテルが特に有効であることを証明し得ることをさらに理解し得る。
【0138】
VII.疾患または障害を治療する方法
本発明の抗原結合ポリペプチドは、HER2および/またはPDGFRβなどの細胞表面受容体の活性をアンタゴナイズするのに有用である。従って、別の面において、本発明は、本発明の1つまたはそれ以上の抗原結合ポリペプチドを含む医薬組成物をそれを必要とする対象に投与することにより、PDGFRβ-および/またはHER2-関連疾患または障害を処置するための方法を提供する。
【0139】
ある態様において、本明細書に記載の抗PDGFRβ、抗HER2、および/または二重特異性抗原結合ポリペプチド(例えば、配列番号13-16、17-22、および/または24に記載のもの)は、さらなる治療剤と組み合わせて投与される。好適な治療分子には、EGFRファミリー受容体活性の阻害剤(例えば、トラスツズマブ(CAS#180288-69-1)、ペルツズマブ(CAS#380610-27-5)、セツキシマブ(CAS#205923-56-4)、およびエルロチニブ(CAS#183321-74-6)が含まれるが、これらに限定されない。特定の一態様において、抗PDGFRβ/抗HER2二重特異性抗原結合ポリペプチドは、トラスツズマブおよび/またはペルツズマブと組み合わせて投与される。特定の一態様において、抗HER2単一特異性抗原結合ポリペプチドは、トラスツズマブおよび/またはペルツズマブと組み合わせて投与される。
【0140】
処置の影響を受けやすい疾患または障害には、癌、例えば乳がんおよび卵巣癌が含まれるが、これに限定されない。
【0141】
当業者は、有効な非毒性量の抗体(または、さらなる治療剤)が、PDGFRβおよび/またはHER2関連疾患または障害を処置する目的を達成し得るかどうかを、常套の試験により決定することができる。例えば、ポリペプチドの治療的に活性な量は、疾患ステージ(例えば、ステージI対ステージIV)、対象の年齢、性別、合併症(例えば、免疫抑制状態または疾患)および体重、ならびに対象において所望の応答を誘発する抗体の能力などの要因によって変化し得る。投与量レジメンは、最適な治療応答を提供するように調整することができる。例えば、いくつかの分割用量を毎日投与してもよく、または治療状況の緊急性によって示されるように、用量を比例的に減少させることができる。しかしながら、一般に、有効な投与量は、1日あたり体重1kg当たり、約0.05から100mg、より好ましくは約0.5から10mgの範囲であると予期される。
本発明の好ましい態様を次に記載する:
[項1]
第二抗原に特異的に結合する第二VHドメインにC末端で連結されている、第一抗原に特異的に結合する第一VHドメインを含む抗体重鎖を含み、
抗体軽鎖を含まない、
単離された二重特異性抗原結合ポリペプチド。
[項2]
抗体重鎖が、アミノ酸リンカーを仲介して第二VHドメインに遺伝子的に連結されている、上記項1に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項3]
リンカーが、配列番号23に記載のアミノ酸配列を含む、上記項2に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項4]
抗体軽鎖をさらに含む、上記項1から3のいずれか一項に記載の抗原結合ポリペプチドであって、該軽鎖が、抗原に特異的に結合するVLドメインを含み、該重鎖および軽鎖は自然に対を形成している、ポリペプチド。
[項5]
VLドメインが第一抗原に結合する、上記項4に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項6]
VLドメインが第三抗原に結合する、上記項4に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項7]
上記項1から6のいずれか一項に記載の2つの抗原結合ポリペプチドの二量体を含む抗原結合ポリペプチドであって、該2つの抗原結合ポリペプチドが、重鎖定常領域を介して自然に二量体化している、抗原結合ポリペプチド。
[項8]
第一抗原と第二抗原とが異なる、上記項1から7のいずれか一項に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項9]
第一抗原および第二抗原が同一分子の異なる領域内にある、上記項1から8のいずれか一項に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項10]
第一抗原および第二抗原が異なる分子上にある、上記項1から9のいずれか一項に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項11]
第一抗原および第三抗原が同一分子の異なる領域内にある、上記項1から10のいずれか一項に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項12]
第一抗原および第三抗原が異なる分子上にある、上記項1から11のいずれか一項に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項13]
第一抗原がヒトPDGFRβまたはHER2である、上記項1から12のいずれか一項に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項14]
第二抗原がヒトPDGFRβまたはHER2である、上記項1から13のいずれか一項に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項15]
ヒトHER2に特異的に結合するVHドメインを含み、かつ配列番号1、4、7および10からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むHCDR3を含む、上記項1から14のいずれか一項に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項16]
VHドメインが、配列番号2、5、8または11からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むHCDR2をさらに含む、上記項15に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項17]
VHドメインが、配列番号3、6、9または12からなる群より選択得されるアミノ酸配列を含むHCDR1をさらに含む、上記項16に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項18]
配列番号13、14、15および16からなる群より選択されるVHドメインのアミノ酸配列と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有するVHドメインのアミノ酸配列を含む、上記項15に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項19]
VHドメインが、配列番号13、14、15および16からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、上記項15に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項20]
ヒトPDGFRβに特異的に結合するVHドメインを含み、配列番号25に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む、上記項1から19のいずれか一項に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項21]
VHドメインが、配列番号26に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2をさらに含む、上記項20に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項22]
VHドメインが、配列番号27に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1をさらに含む、上記項20に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項23]
配列番号24に記載のアミノ酸配列を含むVHドメインを含む、上記項20に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項24]
配列番号18または20に記載のアミノ酸配列を含む重鎖を含む、上記項20に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項25]
ヒトPDGFRβに特異的に結合するVLドメインを含み、配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む、上記項1から24のいずれか一項に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項26]
VLドメインが、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2をさらに含む、上記項25に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項27]
VLドメインが、配列番号31に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1をさらに含む、上記項25に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項28]
VL配列番号28に記載のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、上記項25に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項29]
配列番号22に記載のアミノ酸配列を含む抗体軽鎖を含む、上記項25に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項30]
配列番号1、4、7および10からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む、HER2に特異的に結合する単離された抗原結合ポリペプチド。
[項31]
配列番号1、4、7および10からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR3を含むVHドメインを含む、上記項30に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項32]
VHドメインが、配列番号2、5、8または11からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR2をさらに含む、上記項31に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項33]
VHドメインが、配列番号3、6、9または12からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR1をさらに含む、上記項31に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項34]
配列番号13、14、15および16からなる群より選択されるVHドメインのアミノ酸配列と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有するVHドメインのアミノ酸配列を含む、上記項31に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項35]
VHドメインが、配列番号13、14、15および16からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、上記項31に記載の抗原結合ポリペプチド。
[項36]
配列番号13、14、15および16からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するVHドメインと同じHER2上のエピトープに結合する、抗原結合ポリペプチド。
[項37]
配列番号13、14、15および16からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するVHドメインとHER2に対する結合について競合する、抗原結合ポリペプチド。
[項38]
上記項1から37のいずれか一項に記載の抗原結合ポリペプチドをコードする単離された核酸。
[項39]
上記項38に記載の核酸を含む組換え発現ベクター。
[項40]
上記項39に記載の組換え発現ベクターを含む宿主細胞。
[項41]
抗原結合ポリペプチドが宿主細胞により産生されるような条件下で、上記項40に記載の宿主細胞を培養することを含む、抗原結合ポリペプチドの製造法。
[項42]
上記項1から37のいずれか一項に記載の抗原結合ポリペプチドおよび1つまたはそれ以上の薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
[項43]
上記項42に記載の医薬組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、疾患または障害の処置法。
[項44]
該疾患または障害が癌である、上記項43に記載の方法。
【実施例
【0142】
VIII.実施例
本発明は、さらに限定するものとして解釈されるべきではない以下の実施例によりさらに説明される。配列表、図面ならびに本明細書中に引用した全ての文献、特許および公開された特許出願の内容は、引用により明示的に本明細書に包含される。
【0143】
実施例1.HER2/PDGFRβ二重特異性抗原結合ポリペプチドの調製
種々のHER2/PDGFRβ二重特異性抗原結合ポリペプチドフォーマットをコードする遺伝子を合成し、哺乳動物発現ベクター中にクローニングした。次いで、構築物を、標準的なプロトコルに従ってHEK293細胞中に一過性にトランスフェクトした。上清を回収し、発現について試験した。二重特異性フォーマット2(表4に記載の配列番号18)の発現された二量体のSDS-PAGEゲルを、図5に記載する。該ゲルは、非還元条件下で、期待値125Daのポリペプチドが発現されたこと(レーン2)、およびこれは、還元条件下で、期待値62.5kDaの単量体に解離されること(レーン1)を示す。
【0144】
実施例2.ELISAを用いたHER2/PDGFRβ二重特異性抗原結合ポリペプチド発現の評価
ELISAアッセイは、細胞上清中のHER2/PDGFRβ二重特異性抗原結合ポリペプチドの発現をアッセイするために開発された。すなわち、2ug/mLの抗ヒトFc抗体を、一晩、Maxisorp Immulonプレート上に捕捉し、そしてスーパーブロックでブロッキングした。上清を連続希釈し、プレート上にローディングした。培養培地を同様に希釈し、陰性対照として並行してローディングした。二重特異性抗原結合ポリペプチドを、抗ヒトFab特異的HRPを用いて検出した。図6に記載の結果は、ELISAアッセイが、HEK293細胞上清において二重特異性抗原結合ポリペプチドを検出可能であることを示す。
【0145】
実施例3.ELISAを用いたHER2/PDGFRβ二重特異性抗原結合ポリペプチドの同時抗原結合の検出
ELISAアッセイは、HER2/PDGFRβ二重特異性抗原結合ポリペプチドのHER2およびPDGFRβへの同時結合を検出するために開発された。すなわち、2ug/mLのヒトHer2-Fc融合タンパク質(Hisエピトープタグを含まない)を、一晩、Maxisorp Immulonプレート上に捕捉し、そしてスーパーブロックでブロッキングした。二重特異性抗原結合ポリペプチドを含むHEK293細胞上清を連続希釈し、プレート上にローディングした。1時間インキュベーション後、プレートを洗浄し、100nMのヒトPDGFRβ-Fc融合(Hisエピトープタグを含む)を該プレートに適用し、1時間インキュベートした。二重特異性AbのHer2およびPDGFRβへの結合を、抗HisHRPを用いて検出した。図7に記載の結果は、二重特異性抗原結合ポリペプチドが、HER2およびPDGFRβの両方に同時に結合できることを示す。
【0146】
実施例4.HER2/PDGFRβ二重特異性抗原結合ポリペプチドのFACSベースの結合アッセイ
FACSベースの結合アッセイは、細胞の表面上に発現されたとき、HER2/PDGFRβ二重特異性抗原結合ポリペプチドのHER2およびPDGFRβへの同時結合を検出するために開発された。具体的には、HER2を構成的に過剰発現する200ulのHEK293細胞、またはPFGFRβを一過性に過剰発現するHEK293細胞、またはmockをトランスフェクトされた対照細胞を、新鮮な96ウェルプレートに1ml当たり100万個の細胞で播種した。細胞を4℃で維持して、受容体の内在化を回避した。フォーマット2またはフォーマット3のHER2/PDGFRβ二重特異性抗原結合ポリペプチド(表4ならびに図2および3を参照のこと)を含むHEK293細胞上清を、25nMの組換えヒトPDGFRβ-CF647または組換えヒトHer2-CF647と共にインキュベートし、二重特異性/標識されたタンパク質複合体を形成させた。インキュベーション後、100ulの各上清を、適当なHER2発現細胞、PDGFRβ発現細胞、または対照細胞に添加し、4℃で2時間振とうしながらインキュベートして、二重特異性/標識されたタンパク質複合体を細胞表面HER2およびPDGFRβへ結合させた。インキュベーション後、細胞を、1500rpmで4分間遠心してペレット化し、200ulの新鮮な完全培地で1回洗浄し、そして最終容量200ulの新鮮な完全培地中に再懸濁した。蛍光標識されたPDGFRβ-CF647またはHer2-CF647の該細胞への結合を、Guavaフローサイトメーター(Millipore)を用いて決定した。X軸方向の正のシフトは、標識されたPDGFRβ-CF647またはHer2-CF647の細胞との結合を示すと考えられた。
【0147】
これらの実験において、抗PDGFR抗体または抗HER2抗体、培地のみおよびCF647標識した受容体を陰性対照として用いた。25nMのCF647標識したHER2抗体または50nMのCF647標識したPDGFRβ抗体を、それぞれ、HER2およびPDGFRβ発現細胞の陽性対照として用いた。
【0148】
これらの実験の結果を図8に示す。このデータは、フォーマット2およびフォーマット3のHER2/PDGFRβ二重特異性抗原結合ポリペプチドの両方が、細胞表面HER2およびPDGFRβに同時に結合できたことを示す。
【0149】
実施例4.例示的抗HER2 VHドメインのHER2への結合の分析。
B8抗HER2 VHドメイン(配列番号13)のHER2への結合動態を、表面プラズモン共鳴アッセイ(Biacore)を用いて分析した。図9に示すように、B8 VHドメインは、1.2nMのKdを示し、1.39x10-1-1の会合速度(on-rate)および1.67x10-1の解離速度(off-rate)を示した。
【0150】
トラスツズマブおよび/またはペルツズマブとの結合に対して競合するB8 VHドメインの能力を、FACSベースのアッセイを用いて分析した。図9に示した結果は、B8 VHドメインが、トラスツズマブおよびペルツズマブと同時にHER2に結合し得ることを実証した。これらのデータは、抗HER2 VHドメインが、トラスツズマブおよびペルツズマブのいずれよりも、HER2上の異なるエピトープに結合することを示している。
【0151】
B8 VHドメインをscFv中に再フォーマットして、HER2に対する結合親和性を決定した。図10に示す結果は、B8 scFvが0.87nMのKdを示したことを示す。
【0152】
実施例5.細胞増殖アッセイ
B12抗HER2 VHドメイン(配列番号14)、トラスツズマブ、またはペルツズマブの、単独または組み合わせでの、SK-BR-3細胞の増殖を阻害する能力を、MTS細胞増殖アッセイを用いて決定した。図11に示す結果は、B12 VH、トラスツズマブおよびペルツズマブの組合せが、各薬剤の単独使用またはトラスツズマブおよびペルツズマブのみの組合せで得られる結果よりも、細胞増殖のより大きな阻害をもたらしたことを示した。これらのデータは、B12 VHが、トラスツズマブおよびペルツズマブの細胞増殖阻害を増強するために使用可能であることを示している。
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【配列表】
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