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特許7048582ルミネセンス光を放射するように励起光により励起可能な、試料中の分離された分子の位置を空間的に高分解能に確定するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】ルミネセンス光を放射するように励起光により励起可能な、試料中の分離された分子の位置を空間的に高分解能に確定するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20220329BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
G01N21/64 E
G02B21/00
【請求項の数】 40
(21)【出願番号】P 2019511690
(86)(22)【出願日】2017-10-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 EP2017075756
(87)【国際公開番号】W WO2018069283
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-07-13
(31)【優先権主張番号】102016119263.5
(32)【優先日】2016-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102016119262.7
(32)【優先日】2016-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102016119264.3
(32)【優先日】2016-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518071349
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト ツア フェルデルング デア ヴィッセンシャフテン イー.ヴイ.
【氏名又は名称原語表記】Max-Planck-Gesellschaft zur Forderung der Wissenschaften e.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】バルザロッティ,フランシスコ
(72)【発明者】
【氏名】アイラース,イヴァン
(72)【発明者】
【氏名】グヴォシュ,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】ヘル,シュテファン ダブリュー.
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/097000(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0305884(US,A1)
【文献】特表2014-535059(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0032420(US,A1)
【文献】特表2011-514532(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0093871(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/83
G02B 21/00-21/36
G01N 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料(6)中の1つまたは複数の空間方向において分離された分子(24)の位置を高い空間分解能で確定するための方法であって、前記分離された分子(24)は、励起光(3)によりルミネセンス光(12)を放射するように励起可能であり、
前記励起光(3)は、ゼロ箇所(20)および強度上昇領域(22)を有する強度分布(19)をもって前記試料(6)に指向され、前記強度上昇領域(22)は各空間方向において前記ゼロ箇所(20)に両側で隣接し、
前記試料(6)中の前記ゼロ箇所(20)の種々の位置(A~D)の各々について、前記分離された分子(24)から放射される前記ルミネセンス光(12)が記録され、
前記試料(6)中の前記分離された分子(24)の位置が、前記ゼロ箇所(20)の種々の位置(A~D)について記録された前記ルミネセンス光(12)の強度(I~I)から導出される、
方法において、
前記分離された分子(24)の位置を、n個の空間方向において前記ゼロ箇所(20)の種々の位置(A~D)について記録された前記ルミネセンス光(12)の強度(I~I)から導出するために、前記ゼロ箇所(20)は、前記試料(6)中のn×3以下の異なる位置(A~D)に配置され、
前記ゼロ箇所(20)が前記試料(6)中に配置される前記種々の位置(A~D)は、前記試料(6)中の前記分離された分子(24)の位置が確定される各空間方向において、前記試料(6)中に前記分離された分子(24)が配置された制限された位置領域(23)の中心の両側に各1つの位置(A~C)を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記分離された分子(24)の位置を、n個の空間方向において前記ゼロ箇所(20)の種々の位置(A~D)について記録された前記ルミネセンス光(12)の強度(I~I)から導出するために、前記ゼロ箇所(20)は、前記試料(6)中の(n×2)+1以下の異なる位置(A~D)に配置される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分離された分子(24)の位置を、n個の空間方向において前記ゼロ箇所(20)の種々の位置(A~D)について記録された前記ルミネセンス光(12)の強度(I~I)から導出するために、前記ゼロ箇所(20)は、前記試料(6)中のn+2以下の異なる位置(A~D)に配置される、ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ゼロ箇所(20)が前記試料(6)中に配置される前記種々の位置(A~D)は、前記試料(6)中の前記分離された分子(24)の位置が確定される各空間方向において、制限された位置領域(23)の中心の両側にある2つの位置(A~C)の他に、制限された位置領域(23)の中心にある1つの位置(D)を含む、ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ゼロ箇所(20)が前記試料(6)中に配置される前記種々の位置(A~D)は、前記分離された分子(24)の位置が2つの空間方向で確定される場合、1つの中心位置(D)と3つの周辺位置(A~C)であり、
前記周辺位置(A~C)は、2つの空間方向により張架され、前記中心位置を通って延在する平面内において、前記中心位置を中心にする円弧(25)上に等間隔に配置される、ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ゼロ箇所(20)が前記試料(6)中に配置される前記種々の位置は、前記分離された分子(24)の位置が3つの空間方向で確定される場合、1つの中心位置と4つの周辺位置であり、
前記周辺位置は、前記中心位置を中心にして配置された球殻上に等間隔に配置される、ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記励起光(3)の最大強度は、前記ゼロ箇所(20)の各位置(A~D)から、前記試料(6)中の前記ゼロ箇所(20)の(複数)位置(A~D)の間の各点までの最大間隔が、間隔(a)の方向での各強度上昇領域(22)の広がり以下であるように調節され、前記広がりにわたって前記励起光(3)の強度は、前記励起光(3)の飽和強度(I)の90%まで上昇する、ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ゼロ箇所(20)に隣接する前記強度上昇領域(22)は、前記ゼロ箇所(20)を中心にして回転対称に構成される、ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ルミネセンス光(12)は、前記ゼロ箇所(20)を位置(A~D)の間で反復してシフトすることにより、前記ゼロ箇所(20)の位置(A~D)について疑似的に同時に記録される、ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ルミネセンス光(12)は前記ゼロ箇所(20)の位置(A~D)について、前記ゼロ箇所(20)の位置(A~D)について記録される前記ルミネセンス光(12)の強度(I~I)が十分な精度で検出されるまで記録され、前記分離された分子(24)の位置は所定の精度で確定可能であり、
前記所定の精度は、0.5から20nmの間の範囲にある、ことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法を、前記試料(6)中の前記ゼロ箇所(20)の位置(A~D)の間隔を小さくしながら反復して実施する方法であって、
前記試料(6)中の前記ゼロ箇所(20)の位置(A~D)が、本方法の各反復の際に、本方法の先行の実施の際に前記ルミネセンス光(12)の記録された強度(I~I)から導出された、前記試料(6)中の前記分離された分子(24)の位置の周囲に配置される、反復して実施する方法
【請求項12】
試料(6)中の複数の空間方向において分離された分子(24)の位置を高い空間分解能で確定(31)するための方法であって、前記分離された分子(24)は、励起光(3)によりルミネセンス光(12)を放射するように励起可能であり、
前記励起光(3)は、ゼロ箇所(20)および強度上昇領域(22)を有する強度分布(19)をもって前記試料(6)に指向され、前記強度上昇領域(22)は前記分離された分子(24)の位置が確定される各空間方向において前記ゼロ箇所(20)に両側で隣接し、
前記ゼロ箇所(20)は、前記分離された分子(24)の位置が確定される各空間方向において前記試料(6)中でシフトされ、前記試料(6)中の前記ゼロ箇所(20)の各位置(A~D)について、前記分離された分子(24)から放射される前記ルミネセンス光(12)が記録される、方法において、
前記分離された分子(24)が配置された前記試料(6)中の初期位置領域(23)が決定され、
前記分離された分子(24)の位置が確定される各空間方向において前記ゼロ箇所(20)の少なくとも1つの初期位置(A,B,C)が、前記初期位置がそれぞれの空間方向において前記初期位置領域(23)の片側に来るように設定され、
前記ルミネセンス光(12)は、前記ゼロ箇所(20)を前記初期位置(A,B,C)の間で反復してシフトすることにより、前記分離された分子(24)の位置が確定される全ての空間方向に割り当てられた前記ゼロ箇所(20)の前記初期位置(A,B,C)について疑似的に同時に記録され、
前記ゼロ箇所(20)の前記初期位置(A,B,C)は、各初期位置(A,B,C)について記録された前記ルミネセンス光(12)の光子に依存して、前記初期位置領域(23)に漸次入るようにシフトされることにより、前記ゼロ箇所(20)の前記初期位置(A,B,C)は、前記試料(6)中の前記分離された分子(24)の実際の位置に近似され、これにより、前記初期位置領域(23)と比較して縮小された位置領域に制限され、前記縮小された位置領域の寸法は、前記分離された分子(24)の位置を確定する精度に相当することを特徴とする方法。
【請求項13】
前記ゼロ箇所(20)の前記初期位置(A,B,C)は、各初期位置(A,B,C)について記録された前記ルミネセンス光(12)の光子に依存して、前記初期位置領域(23)に漸次入るようにシフトされる、ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ゼロ箇所(20)の前記初期位置(A,B,C)の数は、nから2nの間であり、nは、前記分離された分子(24)が局在化される空間方向の数である、ことを特徴とする請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
空間方向の少なくとも1つにおいて、前記試料(6)中の前記分離された分子(24)の位置は、
それぞれの空間方向に割り当てられた前記ゼロ箇所(20)の前記初期位置(A,B,C)であって、前記ゼロ箇所(20)について記録される前記ルミネセンス光(12)の光子の割合が最小化されている当該位置と同一であるとされ、または
それぞれの空間方向の少なくとも1つに割り当てられた前記ゼロ箇所(20)の前記初期位置(A,B,C)について記録される前記ルミネセンス光(12)の光子の割合若しくは時間的間隔から導出される、ことを特徴とする請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ゼロ箇所(20)の前記初期位置(A,B,C)は、各空間方向について、それぞれの空間方向で前記初期位置領域(23)の両側にある2つの位置を含み、
全ての空間方向に割り当てられた前記ゼロ箇所(20)の前記初期位置(A,B,C)を、前記ルミネセンス光(12)の光子の、全ての位置を確定するための割合または時間的間隔に依存して漸次シフトすることにより、前記ゼロ箇所(20)の前記初期位置(A,B,C)の間に残った前記分離された分子(24)の位置領域が漸次狭められる、ことを特徴とする請求項12から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ゼロ箇所(20)の前記初期位置(A,B,C)の間に残った前記分離された分子(24)の位置領域は、その寸法が所定の精度以下になるまで漸次狭められ、
前記所定の精度は、0.5から20nmの間の範囲または1nmから10nmの範囲にある、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
各空間方向において前記ゼロ箇所(20)に隣接する前記強度上昇領域(22)は、前記ゼロ箇所(20)に対して回転対称に構成される、ことを特徴とする請求項12から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
全て空間方向に割り当てられた前記ゼロ箇所(20)の前記初期位置(A,B,C)の少なくとも1つは、これまでの位置において前記ルミネセンス光(12)の平均でp個の光子が記録されると直ちにシフトされ、ここでpは30,20,10または5以下である、ことを特徴とする請求項12から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
全ての空間方向に割り当てられた前記ゼロ箇所(20)の前記初期位置(A,B,C)の少なくとも1つは、これまでの位置において全部でn×q個の前記ルミネセンス光(12)の光子が記録されると直ちにシフトされ、ここでnは、前記試料(6)中の前記分離された分子(24)の位置が確定される空間方向の数であり、qは50,25、または5以下である、ことを特徴とする請求項12から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
各ゼロ箇所(20)の前記初期位置(A,B,C)は、これまでの位置において前記ルミネセンス光(12)のm個の光子が記録されると直ちにシフトされ、ここでmは30,20,10、5または3以下である、ことを特徴とする請求項12から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記励起光(3)の最大強度(I)は、前記初期位置領域(23)が前記ゼロ箇所(20)の各位置を基準にして、前記励起光(3)の飽和強度(I)の90%以下の領域に存在するように調整される、ことを特徴とする請求項12から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記励起光(3)の絶対強度(I)は、前記ゼロ箇所(20)の前記初期位置(A,B,C)のシフト(234)によって漸次高められる、ことを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記励起光(3)の絶対強度(I)は、前記ゼロ箇所(20)のそれぞれ全ての前記初期位置(A,B,C)について記録された光子の割合が、少なくとも一次的に同じに留まるように高められる、ことを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記励起光(3)の絶対強度(I)は、全体で少なくとも50%だけ高められる、ことを特徴とする請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
試料(6)中の1つまたは複数の空間方向において分離された分子(24)の位置を高い空間分解能で確定するための方法であって、前記分離された分子(24)は、励起光(3)によりルミネセンス光(12)を放射するように励起可能であり、
前記励起光(3)が強度分布(19)をもって前記試料(6)に指向され、前記強度分布は、前記分離された分子(24)の位置が確定される各空間方向において、前記強度分布(19)の基点(20,326)までの間隔にわたって前記励起光(3)の強度(I)が既知の厳密に単調に経過する少なくとも1つの強度上昇領域(22)を有し、
前記強度分布(19)の前記基点(20,326)は、前記分離された分子(24)の位置が確定される各空間方向において前記試料(6)中の種々異なる位置に配置され、
前記試料(6)中の前記強度分布(19)の前記基点(20,326)の各位置について、前記分離された分子(24)から放射される前記ルミネセンス光(12)が記録され、
前記試料(6)中の前記分離された分子(24)の位置(x が、記録された前記ルミネセンス光(12)の強度から導出される、
方法において、
前記試料(6)中の前記分離された分子(24)が配置された初期位置領域(23)が決定され、
(i)空間方向の各々において前記強度分布(19)の前記基点(20,326)の少なくとも1つの位置が、少なくとも1つの前記強度上昇領域(22)が前記分離された分子(24)の位置が確定される各空間方向において前記初期位置領域(23)にわたって伸長するように設定され、
(ii)前記分離された分子(24)の位置が確定される各空間方向について2つの強度値(I,ISWないしI1a,I1b)を含み、これら強度値の一方(IないしI1a)が前記強度分布(19)の基点の少なくとも1つの位置について記録された前記ルミネセンス光(12)の強度を指示する、前記ルミネセンス光(12)の強度値(I,ISW,I1a,I1b)から、前記分離された分子(24)が配置されており、かつ前記初期位置領域(23)よりも小さい、前記試料(6)中のさらなる位置領域(324,325)が決定され、
前記分離された分子(24)の位置が確定されるそれぞれの空間方向についての第2の強度値は、
前記強度分布(19)の基点の第2の位置について記録された前記ルミネセンス光(12)の強度(I1b)であり、前記第2の位置は、それぞれの空間方向において、前記強度分布(19)の基点の少なくとも1つの位置と同じ側の別の箇所にあるか、または前記強度分布(19)の基点の少なくとも1つの位置に対向する、前記初期位置領域(23)の側にあり、
前記励起光(3)により励起される際の前記分離された分子(24)の前記ルミネセンス光(12)の強度(I)の飽和値(ISW)であり、
前記ステップ(i)と(ii)は、前記さらなる位置領域を新たな開始位置領域(23)として使用して、少なくとも一度繰り返される、ことを特徴とする方法。
【請求項27】
前記基点は、前記強度分布(19)のゼロ箇所(20)であり、前記ゼロ箇所(20)には、空間方向の各々において片側に少なくとも1つの強度上昇領域(22)が続いており、対向する側にさらなる強度上昇領域(22)が続いている、ことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
少なくとも1つの前記強度上昇領域(22)とさらなる前記強度上昇領域(22)は、前記ゼロ箇所(20)に対して対称に構成されている、ことを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ステップ(i)の各実施の際に設定される位置の数は、n+1から2nの間であり、nは、前記分離された分子(24)が局在化される空間方向の数である、ことを特徴とする請求項26から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記ルミネセンス光(12)は、前記強度分布(19)の基点に位置について、前記基点(20,326)を(複数)位置の間で反復してシフトすることにより、疑似的に同時に記録される、ことを特徴とする請求項26から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記ルミネセンス光(12)は、前記強度分布(19)の前記基点(20,326)の位置について、当該位置について記録される前記ルミネセンス光(12)の強度が十分な精度で検出されるまで記録され、前記さらなる位置領域(324,325)は、所定の値だけ前記初期位置領域(23)よりも小さく決定可能である、ことを特徴とする請求項26から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記さらなる位置領域(324,325)をそれぞれの空間方向において前記初期位置領域(23)よりも小さく決定可能な前記所定の値は、5%から75%の範囲にある、ことを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記励起光(3)の最大強度は、前記初期位置領域(23)が前記強度分布(19)の前記基点(20,326)の各位置を基準にして、前記励起光(3)の飽和強度(I)の90%以下の領域に存在するように調整される、ことを特徴とする請求項26から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記励起光(3)の最大強度は、前記ステップ(i)と(ii)の少なくとも一回の反復で高められ、
前記励起光(3)の最大強度は、前記ステップ(i)と(ii)の全ての反復にわたって少なくとも50%だけ高められる、ことを特徴とする請求項33に記載の方法。
【請求項35】
ステップ(i)と(ii)は、前記さらなる位置領域(324,325)が所定の精度よりも大きくならなくなるまで繰り返され、
前記所定の精度は、0.5から20nmの間の範囲にある、ことを特徴とする請求項26から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記ルミネセンス光(12)は空間分解能により記録され、付加的に、記録された前記ルミネセンス光(12)全体の空間的分布が、前記試料(6)中の前記分離された分子(24)の位置に関して評価される、ことを特徴とする請求項1から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記試料(6)には前記分離された分子(24)の位置確定の前に切替信号が印加され、該切替信号は、隣接する同種の分子が隔離後には、前記分離された分子(24)とは異なり、前記励起光(3)により前記ルミネセンス光(12)を放射するように励起することができないことによって、前記分離された分子(24)を隣接する同種の分子から隔離する、ことを特徴とする請求項1から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
順次隔離され、前記励起光(3)により前記ルミネセンス光(12)の放射が励起可能な複数の前記分離された分子(24)であって、前記試料(6)中の対象構造をマーキングする分子の位置を確定するための、請求項1から37のいずれか一項に記載の方法反復して実施する方法
【請求項39】
前記試料(6)中で運動する前記分離された分子(24)を追跡するための、請求項1から37のいずれか一項に記載の方法反復して実施する方法
【請求項40】
STEDラスタ蛍光顕微鏡(1)により提供されるSTEDビームを前記励起光(3)として使用する、請求項1から39のいずれか一項に記載の方法を実施するためのSTEDラスタ蛍光顕微鏡(1)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の1つまたは複数の空間方向において、分離された分子の位置を空間的に高分解能に確定するための方法に関し、前記分子は、励起光によりルミネセンス光を放射するように励起可能である。
【0002】
隔離され、励起光によりルミネセンス光を放射するように励起可能な分子とは、ここでは、同じ励起光により同じ波長領域のルミネセンス光を放射するように励起可能である他の同形式の分子に対して最小間隔を有する分子であると理解される。この最小間隔は、この種の同形式の分離された分子に対する間隔がルミネセンス光の波長における回折限界と少なくとも同じ場合は、確実に維持される。なぜならその場合には、ルミネセンス光を放射させるための励起光によって励起可能な種々異なる分子からルミネセンス光を別個に検出することができるからである。しかし本発明は、この最小間隔がルミネセンス光の波長における回折限界よりも小さい実施形態も含む。
【0003】
ルミネセンス光は、とりわけ蛍光光とすることができ、分子はルミネセンス光を放射するように励起光により励起可能である。しかし分子によるルミネセンス光の放射は、励起光によって励起される任意の光物理学的プロセスに基づくことができる。これには、フォトルミネセンスの全てのプロセスが含まれ、例えば励起光によって励起された、量子ドットによるルミネセンス光の放射も含まれる。
【背景技術】
【0004】
隔離され、励起光によりルミネセンス光を放射するように励起可能な分子の位置を確定するための簡単な方法は、分子を励起光によってルミネセンス光を放射するように励起し
、このルミネセンス光をカメラまたは一般的には空間分解能のある検出器に結像することである。この結像の際に達成可能な空間分解能に対しては、基本的にはこのルミネセンス光の波長における回折限界が当てはまる。しかしルミネセンス光の複数の光子が空間分解能のある検出器により検出され、これらの光子が試料中の固定的位置にあるただ1つの分子から由来する場合、これらの光子の空間的分布から検出器によって分子の位置を、係数1/√nだけ改善された精度で確定することができる。ここで「n」は記録された光子の数である。したがって局在化と称されるこの方法において回折限界を下回ることは、ルミネセンス光の光子が多数あることを前提とし、これら多数の光子は分離された分子から放射され、記録される。したがって、試料中の分子の位置を所望の精度により確定する際に、および場合により確定の前に、分離された分子がブリーチングされる恐れがある。したがって、とりわけ試料中で運動する分子をトラッキングするために必要なように、分離された同じ分子の位置を繰り返し確定することは、しばしば不可能である。
【0005】
分離された分子が、指向性のある空間分布を備えるルミネセンス光を放射する場合、このルミネセンス光は、その位置を確定する際にルミネセンス光の光子の分布から空間分解能のある検出器を介して、すなわち局在化により、位置エラーの形態で発生する。この位置エラーは、それぞれの試料中の分子の配向に依存している。放射されたルミネセンス光の指向性分布は、例えば分子の回転拡散時間が、分子がルミネセンス光を放射する励起状態における滞在時間よりも長い分子において顕著である(非特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1から、試料中の対象構造を活性可能な分子によりマーキングすることが公知である。この分子は、非蛍光出発状態にあるが、活性光により蛍光状態に移行させることができ、この蛍光状態では励起光によりルミネセンス光を放出するように分子を励起することができる。したがってこの活性光により、全体として存在する分子の僅かな割合を蛍光状態に移行させることができ、この蛍光状態において隣接する分子は回折限界よりも大きな間隔を有する。すなわち隔離されている。引き続き試料に励起光を印加すると、蛍光光は蛍光状態にある分子からだけ放射される。このようにして蛍光状態にある隔離された個々の分子からの蛍光光を別個に記録することができ、個々の分子の位置を、試料中における分子の絶対密度が高いにもかかわらず、局在化により回折限界を超える精度で確定することができる。試料中の分子の分布の結像および分子によりマーキングされた対象構造の結像は、分子の僅かな割合を活性化するステップ、この活性化された分子を励起することにより蛍光光を放出させるステップ、および蛍光光を空間分解能のある検出器により、それぞれ活性化された分子がブリーチングするまで記録するステップを、対象構造をマーキングする更に多くの分子に対してステップごとに繰り返すことにより達成される。
【0007】
特許文献1は、存在する全分子の一部の量だけを活性化することは、他の結像方法にも転用できることを記載する。ここでは、最小値により制限された最大値を備える励起光の強度分布によって、専用の特定の平面において、または試料の空間的に別のサブユニットにおいて分離された分子を蛍光光の放射のために励起することができる。
【0008】
特許文献1から公知の方法は、PALMとも、すなわち光活性化局在性顕微鏡法とも称される。非常に似た、STORM(確率的光学再構築顕微鏡法)と称される方法は、基本的に同じ利点と欠点を有する。
【0009】
特許文献2から、活性化できないが、蛍光出発状態を有し、2つの配座状態の間を切り替えることができないが、それらの一方だけが蛍光性である通常の色素の分子も、分離された分子の位置を局在化によって確定するために使用できることが公知である。更に試料には大きな強度で励起光が印加されるが、このような大きい強度の励起光により、分子は同時にある程度の移行確率で比較的長期の電子暗状態に移行され、目下、蛍光状態にある(複数)分子間の間隔が回折限界よりも上に調節される。
【0010】
それぞれ蛍光状態で存在する分子は、励起光により蛍光光の放射が励起され、この蛍光光が空間分解能のある検出器としてのカメラにより記録される。このようにして色素の異なる分子が漸次局在化される。なぜならすでに光子が記録された分子は暗状態に達し、この暗状態から別の分子がある程度の移行確率で蛍光状態に戻るからである。この公知の方法は連続的に実施することもできる。すなわち、試料が励起光によって、色素を実質的に暗状態に留め、同時にこれにより分離された分子に対してルミネセンス光の放射を励起するような大きな強度で印加される間に、カメラから連続的にフレームを読み出すことができる。
【0011】
特許文献2から公知の方法は、GSDIM(基底状態抑制個別分子リターン顕微鏡法、Ground State Depletion Individual Molecule Return Microscopy)とも称される。
【0012】
励起光によりルミネセンス光の放射が励起可能な分子の試料中の位置を高い空間分解能で確定するための基本的に別の方法は、ラスタ蛍光顕微鏡法の高空間分解能変形例で適用される。ラスタ蛍光顕微鏡法において、試料中の蛍光分子の位置を確定する際の精度は、各時点での試料の局所的な励起にだけ基づく。したがってそれぞれの時点で記録された蛍光光は励起の空間領域に割り当てることができる。試料中の分子が集束された励起光により励起される場合、励起光の波長における回折限界は、励起領域の空間的寸法に対する下限、ひいては蛍光分子によりマーキングされた試料中の構造を結像する際に達成可能な空間分解能に対する下限を設定する。
【0013】
STED(誘導放出抑制)蛍光顕微鏡法では、集束された励起光により生じ、試料の対象構造をマーキングした分子の励起が、各測定点の周囲における指向性放射によって再び除去される。指向性放射はSTEDビームにより刺激され、分子による蛍光光の放射を阻止する。その後に記録される蛍光光は、励起がSTEDビームによって除去されなかった領域からだけ発生することができる。励起が除去されないこの領域は、STEDビームの強度分布のゼロ箇所によりこの領域を確定することによって非常に小さく維持することができ、STEDビームの最大強度は、隣接する強度分布のゼロ箇所において非常に大きく選択され、したがって分子の励起はそのゼロ箇所の極めて近傍においてはすでに完全に除去される。
【0014】
試料の一部分において以前に生じた分子の励起を再び沈静する代わりに、ゼロ箇所を有する強度分布による蛍光阻止ビームを、蛍光分子をゼロ箇所の外では非蛍光暗状態に切り替えるために使用することもできる。これは例えばRESOLFT(可逆的可飽和光学(蛍光)遷移)蛍光顕微鏡法またはGSD(基底状態抑制)蛍光顕微鏡法において行われる。
【0015】
STED、RESOLFTまたはGSDラスタ蛍光顕微鏡法として公知の方法では、すでに前もって蛍光光が記録された各分子には、蛍光阻止ビームのゼロ箇所に隣接する領域において、励起光とは別の大きい強度の蛍光阻止ビームが印加されるが、これは分子のブリーチングの危険性と大きく結び付いている。このブリーチングの危険性は、これら公知の方法において隔離され、励起光によりルミネセンス光の放射が励起可能な試料中の分子が蛍光阻止ビームのゼロ箇所により追跡される場合にも生じる。
【0016】
特許文献3から、励起光ビームの焦点において最大値を備えるSTEDビームの強度分布が重畳された励起光ビームにより試料を高速に走査し、多数の順次連続する走査過程の各々において蛍光光が、それぞれ個別の分子からだけ由来する個別の光子の形態でだけ記録される方法が公知である。光子が由来する種々の個別の分子の位置は、試料中における
STEDビームの最小値の所属の位置に割り当てられる。
【0017】
この方法では、確かに各分子の少数の光子、極端な場合にはただ1つの光子が試料中の1つの位置に割り当てられる。しかしそれでも分子は、典型的には数サイクルの励起と刺激放出を被り、したがってそれらのブリーチングは排除されない。更にこの公知の方法によっては、分離された特定の分子を目的どおりに追跡することが有意には可能でない。
【0018】
特許文献4から、個別の蛍光分子を追跡する方法が公知である。分子は、励起光により蛍光光の放射が励起され、この蛍光光が記録される。ここでは、局所的最小値を有する強度分布の励起光が試料に指向され、この最小値が試料中で運動する分子に追従される。この目的のために、励起光の強度分布は連続的に試料に対して、分子から放射される蛍光光の光子の割合が最小になるようにシフトされる。これは、分子を励起光の強度分布の最小値に保持することを意味し、最小値は励起光の強度分布のゼロ箇所とすることができる。
【0019】
特許文献5から、試料中の分離された分子の位置を確定するための方法が公知である。ここでは分離された分子が、励起光によって蛍光光の放射が励起可能である蛍光状態にあり、物質の分離された分子の間隔は最小値を維持する。分離された分子は、励起光により蛍光光の放射が励起され、励起光の強度分布はゼロ箇所を有する。物質の励起された分離された分子の蛍光光は、試料中の励起光の強度分布のゼロ箇所の種々の位置について記録される。ここでゼロ箇所に隣接する(複数)位置間の間隔は、個別分子の間隔の最小値の半分よりも大きくない。具体的には試料はゼロ箇所により走査され、試料走査時の走査ピッチは最小値の半分よりも大きくない。試料中の分離された分子の位置は、それぞれの分離された分子の蛍光光の強度経過から、励起光の強度分布のゼロ箇所の位置を介して導出される。ここでは、ゼロ箇所を備える関数を、それぞれの分離された分子のルミネセンス光の強度経過に適合することができ、それぞれの分子の位置を、適合された関数のゼロ箇所の位置と同等に扱うことができる。この関数は2乗関数とすることができる。しかし適合された関数は、それぞれの物質の分離された分子のルミネセンス光の強度経過に、そのゼロ箇所の周囲において励起光の強度経過への応答として個別に適合することもできる。
【0020】
特許文献5から公知の方法では、それぞれの分離された分子が、試料を走査する際に励起光の強度分布のゼロ箇所の近傍に入り込む前に、励起光の隣接する強度最大値の比較的に大きな強度に曝される。この強度は励起光の飽和強度を上回っており、この飽和強度を上回ると、それぞれの分離された分子のルミネセンス光の強度に勾配がもはや発生せず、そのためその経過は飽和値において一定であり、したがって情報内容を含まない。相応して物質の各分離された分子からは、分子の位置を確定するための光子が検出される前に非常に多数の光子が放出される。そのため、励起光のゼロ箇所の各位置において、ゼロ箇所が更にシフトされる前に制限された数の光子が記録される場合であっても、分子のブリーチングの危険性が非常に高い。
【0021】
特許文献6から、測定領域における物質の分布を測定フロントの走査によって確定する方法が公知である。光学的信号の波長における回折限界よりも小さい測定フロントの深度にわたって、光学的信号の強度は、測定状態の物質の割合が、まず存在しない状態から増加するように上昇し、次に存在しない状態に向かって下降する。測定フロントは、光学的信号の強度上昇とは反対方向に、測定領域にわたってシフトされる。蛍光光とすることのできる測定信号が検出され、測定領域における測定フロントのそれぞれの位置に割り当てられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】国際公開第2006/127692号 2
【文献】米国特許第8174692号明細書
【文献】国際公開第2012/171999号
【文献】独国特許出願公開第102011055367号明細書
【文献】国際公開第2015/097000号
【文献】独国特許出願公開第102010028138号明細書
【非特許文献】
【0023】
【文献】Engelhardt,Jら著、「Molecular Orientation Affects Localization Accuracy in Superresolution Far-Field Fluorescence Microscopy」、NanoLett 2011年1月12日、11(1):209~13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の基礎とする課題は、励起光によりルミネセンス光の放射が励起可能な、試料中の分離された分子の位置を高い空間分解能で確定するための方法を提示することであり、分子においては、光子の放出のために分離された分子を励起しなければならない光子の数が、達成される精度を基準にして、分離された分子の位置を高い空間分解能で確定するための公知の方法と比較して、格段に低減されるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の第1の実施形態においてこの課題は、試料中の1つまたは複数の空間方向において分離された分子の位置を高い空間分解能で確定するための方法であって、分子がルミネセンス光の放射のために励起光によって励起可能である方法によって解決され、この方法は、以下の特徴を有する:
励起光が、ゼロ箇所と強度上昇領域を有する強度分布をもって試料に指向され、前記強度上昇領域は前記空間方向の各々においてゼロ箇所に両側で隣接する。試料中のゼロ箇所の種々の位置の各々について、分子から放射されたルミネセンス光が記録され、試料中の分子の位置が、ゼロ箇所の種々の位置について記録されたルミネセンス光の強度から導出される。ここで分子の位置をn個の空間方向において、ゼロ箇所の種々の位置について記録されたルミネセンス光の強度から導出するために、ゼロ箇所は、試料中のn×3以下の異なる位置に配置される。
【0026】
本発明の第2の実施形態においてこの課題は、試料中の1つまたは複数の空間方向において分離された分子の位置を高い空間分解能で確定するための方法であって、分子はルミネセンス光の放射のために励起光によって励起可能である方法によって解決され、この方法は、以下の特徴を有する:励起光が、ゼロ箇所と強度上昇領域を有する強度分布をもって試料に指向され、前記強度上昇領域は前記空間方向の各々においてゼロ箇所に両側で隣接する。ゼロ箇所が試料中の空間方向に各々においてシフトされ、試料中のゼロ箇所の各々の位置について分子から放射されたルミネセンス光が記録される。分子が配置された試料中の初期位置領域が確定される。各空間方向においてゼロ箇所の少なくとも1つの初期位置が、この位置がそれぞれの空間方向において初期位置領域の片側に来るように設定される。ルミネセンス光が、全ての空間方向に割り当てられた位置について擬似的に同時に、ゼロ箇所を複数の位置の間で反復的にシフトすることにより記録される。ゼロ箇所の位置は、各位置について記録されたルミネセンス光の光子に依存して、初期位置領域に入るように漸次シフトされる。
【0027】
本発明の第3の実施形態においてこの課題は、試料中の1つまたは複数の空間方向において分離された分子の位置を高い空間分解能で確定するための方法であって、分子はルミネセンス光の放射のために励起光によって励起可能である方法によって解決され、この方法は、以下の特徴を有する:励起光が、強度分布をもって試料に指向され、この強度分布は、空間方向の各々において、強度分布の基点までの間隔にわたって励起光の強度が厳密に単調に経過する少なくとも1つの強度上昇領域を有する。強度分布の基点は、各空間方向において試料中の種々異なる位置に配置される。試料中の強度分布の基点の各位置について、分子から放射されたルミネセンス光が記録され、試料中の分子の位置が、記録されたルミネセンス光の強度から導出される。更に分子が配置された試料中の初期位置領域が確定される。次に(i)空間方向の各々において強度分布の基点の少なくとも1つの位置が、少なくとも1つの強度上昇領域がそれぞれの空間方向において初期位置領域にわたって伸長するように設定される。更に(ii)各空間方向について2つの強度値を含み、これら強度値の一方が強度分布の基点の少なくとも1つの位置について記録されたルミネセンス光の強度を指示するルミネセンス光の強度値から、分子が配置されており、かつ初期位置領域よりも小さい、試料中のさらなる位置領域が決定される。ステップ(i)と(ii)は、さらなる位置領域を新たな開始位置領域として使用して、少なくとも一度繰り返される。
【0028】
本発明は、順次に隔離された複数の分子の位置を確定するための本発明の方法、ないし分離された分子をトラッキングするための本発明の方法の反復実施、並びに本発明の方法を実施するためのSTEDラスタ蛍光顕微鏡法の使用にも関する。
【0029】
定義
本発明の方法を、分離された分子の位置を高い空間分解能で確定するために用いることは、10nmの達成可能な精度から理解されるように、励起光およびルミネセンス光の波長における回折限界よりも格段に下の空間分解能が格段に良好に、容易に達成されることを意味する。この関連から、文言“空間分解能”とは、ここでは、試料中のそれぞれの分離された分子の位置を確定する精度に対する同義語として使用されることに注意されたい。
【0030】
本発明の方法を、分離された分子の位置を確定するために用いることは、すでに冒頭に述べたように、分離された分子の位置が、同じ励起光により同じ波長領域のルミネセンス光を放射するように励起可能な隣接する同種の分子に対して最小間隔を含んでおり、そのため隣接する同種の分子からのルミネセンス光は、波長が異なるため分離することができない、ことを意味する。この最小間隔は、本発明の全ての方法において、ルミネセンス光の波長における回折限界のオーダであるか、またはそれより小さい。実際、この最小間隔は、特許文献5から公知の方法では、最小間隔が、それぞれの空間方向における励起光の強度分布の強度上昇領域の広がりよりも小さくなく、かつ前記空間方向にわたって励起光の強度が飽和強度以下である場合、すなわち分子のルミネセンス光の強度が飽和値以下に留まる場合、ルミネセンス光の波長の回折限界よりも格段に小さくすることができる。励起光により励起可能な隣接する分子までの分離された分子の間隔が、ルミネセンス光の波長における回折限界よりも大きい場合、分離された分子から放射されるルミネセンス光を、空間分解能のある検出器により、この分離された分子に隣接する分子から放射されるミネセンス光から空間的に分離して記録することができる。分離された分子の間隔が、ルミネセンス光の強度を基準にして分子の強度上昇領域から影響を受ける、励起光の強度分布の領域よりも小さくない場合、励起光の飽和強度における飽和値に対するルミネセンス光の強度の差を、分離された分子に直接的に割り当てることができる。なぜならこの場合、分子は、強度上昇領域から影響を受ける領域に単独で存在するからである。
【0031】
分離された分子が励起光によりルミネセンス光を放射するように励起可能であるとは、分離された分子がフォトルミネセンスであることを意味する。具体的には分離された分子は蛍光性である。すなわち励起光により蛍光光を放射するように励起可能である。ここで、記述「ルミネセンス」または「蛍光性」も、ここでは、分離された分子が励起光によりルミネセンス光ないし蛍光光を放射するように励起可能であることだけを述べ、これがすでにルミネセンスないし蛍光性である、すなわち、励起されていることは意味しないことに留意すべきである。
【0032】
励起光が、本発明の第1および第2の実施形態において、強度分布をもって試料に指向され、試料がゼロ箇所、および各空間方向においてゼロ箇所の両側に隣接する強度上昇領域を有するとは、隣接する強度上昇領域を備えるゼロ箇所が、このゼロ箇所に対して異なる強度で表出される破壊的干渉により形成されることを意味することができる。ゼロ箇所に隣接する各強度上昇領域にわたって励起光の強度は、ゼロ箇所までの間隔が増大するにつれ、厳密に単調に、すなわち連続的に上昇する。
【0033】
ゼロ箇所は、干渉によって形成された理想ゼロ箇所とすることができ、このゼロ箇所では励起光の強度が実際にゼロに逆戻りする。しかしゼロ箇所における励起光の僅かな残留強度は無害である。とりわけ、ゼロ箇所を試料中に、その位置が試料中の分子の位置と一致するように位置決めすることは、本発明の第1および第2の実施形態の方法の目的ではない。同じ理由から、強度上昇領域により隣接されるゼロ箇所は、基本的に、それぞれの空間方向において離間したガウス形状の強度分布により、具体的にはこれらの間に残った強度最小値により形成することもできる。
【0034】
ただ1つの空間方向にだけ延在する強度上昇領域を備える平面状のゼロ箇所によっても、試料中の分子の位置を、2つまたは3つすべての空間方向において高分解能に確定することができる。同様に、2つの空間方向にだけ延在する強度上昇領域を備える線形のゼロ箇所によって、試料中の分離された分子の位置を、これら2つだけでなく、3つすべての空間方向においても高分解能に確定することができる。更に本発明の第1および第2の実施形態の方法は、強度上昇領域を種々の空間方向に配向して実施される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図面の簡単な説明
以下、本発明を、図面に示された好ましい実施例に基づき更に説明し記述する。
【0036】
図1隔離され、励起光によりルミネセンス光の放射が励起可能な分子の位置を確定するための本発明の実施のために使用することのできるSTED顕微鏡を概略的に示す図である。
図2】強度最大値が隣接するゼロ箇所を備える励起光の強度分布、および試料中のそれぞれの位置に配置されたルミネセンス分子から放射されるルミネセンス光の生じた強度の一部を示す図であり、この励起光は、図1のSTED顕微鏡により本発明の方法を実施する際に試料に指向される。
図3】本発明の第1の実施形態の実施を、分離された分子が推定的に存在する試料中の制限された2次元位置領域に関連して示す図である。
図4】本発明の第1の実施形態を実施する際に、励起光の強度分布のゼロ箇所の、試料中にある種々の位置について記録されたルミネセンス光の種々の強度間の関連性を示す 図である。
図5】本発明の第1の実施形態の構成のブロック図である。
図6】本発明の第2の実施形態の実施を、分離された分子が推定的に存在する試料中の制限された2次元位置領域に関連して示す図である。
図7】本発明の第2の実施形態を実施する際に、励起光の強度分布のゼロ箇所の、試料中にある種々の位置について記録されたルミネセンス光の種々の強度間の関連性を、図4の図示に対応して示す図である。
図8】本発明の第2の実施形態の構成のブロック図である。
図9】本発明の第3の実施形態のステップの第1の実施を、試料中の分離された分子の第1の初期位置領域に関連して示す図である。
図10】本発明の第3の実施形態のステップの第2の実施を、試料中の分離された分子の縮小された初期位置領域に関連して示す図である。
図11】励起光のガウス状の強度分布による、本発明の第3の実施形態のステップの実施の択一的構成を示す図である。
図12】励起光の強度分布の基点の位置の第1の相対的配置による本発明の第3の実施形態のステップの順次連続する2つの実施を、初期位置領域に関連して示す図である。
図13】励起光の強度分布の基点の位置の別の相対的配置による発明の第3の実施形態のステップの順次連続する2つの実施を、初期位置領域に関連して示す図である。
図14】試料中の分離された分子の位置を確定するための本発明の第3の実施形態の構成のブロック図である。
図15】試料中の、分離された分子によりマーキングされた構造を結像するための本発明の第3の実施形態の反復実施のブロック図である。
図16】試料中の分離された分子の運動を追跡するための本発明の第3の実施形態の反復実施のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、特許文献5から公知の、試料中の1つまたは複数の空間方向における分離された分子の位置を高い空間分解能で確定するための方法から出発するものであり、前記分子は、励起光によりルミネセンス光を放射するように励起可能である。
【0038】
本発明の第1の実施形態では、励起光が、出発方法と同じように強度分布をもって、ゼロ箇所および強度上昇領域を有する試料に指向され、これら強度上昇領域は各空間方向においてゼロ箇所に両側で隣接している。試料中のゼロ箇所の種々の各位置について分子から放射されたルミネセンス光が記録され、試料中の分子の位置が、ゼロ箇所の種々の位置について記録されたルミネセンス光の強度から導出される。
【0039】
公知の方法とは異なり、本発明の第1の実施形態におけるゼロ箇所は、試料中にn×3以下の異なる位置に配置される。これは、nの空間方向における分子の位置をルミネセンス光の記録された強度から導出するためである。実際には、nの空間方向における分子の位置は、試料中のゼロ箇所の位置を有意義に選択すれば、n×3以下の異なる位置について記録されたルミネセンス光の強度から、分子の位置を含む試料中の位置領域を空間的に走査する場合よりも決して劣らない精度で導出できることが判明した。更に、以下に詳細に説明するように位置を上手く選択すれば、この精度は、ゼロ箇所が(n×2)+1以下の位置、またはそれどころか試料中にn+2の異なる位置にだけ配置される場合に、すでに達成される。ここでは、試料中のゼロ箇所の各位置について記録されたルミネセンス光の光子の数を、ゼロ箇所の各位置において試料の空間的走査の際に有意義に記録される光子の数よりも高めることは、多くの場合必要ない。
【0040】
したがって本発明の第1の実施形態において試料中の分離された分子の位置は、各空間方向において非常に高速に確定される。すなわち、分離された分子から放射され記録された光子の数が少ないので、非常に高速に確定される。分離された分子の位置を確定する精度は、問題なしに10nmであり、ひいてはルミネセンス光の波長における回折限界を格段に下回ることができる。
【0041】
すでに述べたように、本発明の第1の実施形態において試料は、試料の隣接する位置領域(この領域内に分子が推定される)においても、空間的に走査されるのではなく、ゼロ箇所がこの位置領域に対して少数の位置にだけ配置される。
【0042】
試料中の分子の位置を、ゼロ箇所の種々の位置について記録されたルミネセンス光の強度から導出する際に、分離された分子から放射されるルミネセンス光の強度と、励起光の強度分布のゼロ箇所までの分離された分子の間隔との関数関係が考慮される。この関数関係は、ゼロ箇所に隣接する強度上昇領域における励起光の強度経過に依存しており、ルミネセンス光を放射するように分子を励起することの基礎となる光物理学的プロセスにも依存する。したがって破壊的干渉により形成されたゼロ箇所、および単一光子プロセスに基づく分子の光ルミネセンスにおいて、分子から放射されるルミネセンス光の強度と、ゼロ箇所までの分子の間隔との間に近似的に2乗の関数関係が生じる。二光子プロセスに基づく光ルミネセンスの場合、関数関係は更に顕著であり、関数x4にしたがう。事実上、本発明の第1の実施形態では、ゼロ箇所に隣接する強度上昇領域における励起光の強度経過は、これが分子からのルミネセンス光の強度にどのように作用するかという点でだけ既知であればよい。すなわち、ルミネセンス光の強度と、ゼロ箇所までの分子の間隔との関数関係は、試料中の分子の位置を導出する際にこれを考慮できるようにするため、既知でなければならない。しかしこの関数関係は、例えば経験的に、ゼロ箇所を有する分離された分子の周囲を小さなステップで一度走査することにより容易に決定される。
【0043】
具体的には分子の位置は、ゼロ箇所の種々に位置について記録されたルミネセンス光の強度から導出することができる。この導出は、分子からのルミネセンス光の強度の経過をゼロ箇所からの分子の間隔について種々の空間方向で記述し、かつゼロ箇所を有する関数を、前記強度に適合することによって行われる。分子の位置は、試料中の、適合された関数のゼロ箇所の位置と同一とすることができる。
【0044】
分子の位置を、ゼロ箇所の種々に位置について記録されたルミネセンス光の強度から導出することは、ルミネセンス光の光子の種々の割合を考慮できるだけでなく、記録された光子の時間的間隔を観察する可能性も含む。ここでは、記録された光子の時間的間隔の平均値は、ゼロ箇所の位置について記録されたルミネセンス光の光子の割合の逆数に等しいことが理解される。
【0045】
ゼロ箇所の種々の位置について記録されたルミネセンス光の強度に加えて、分子の位置を導出する際に、分離された分子の相対的発光強度に対する尺度を考慮することができる。この尺度は、具体的には、励起光により励起する際の分子からのルミネセンス光の最大強度値、またはこれと直接的に相関する強度値とすることができる。最大強度値またはこれと相関する強度値は、それぞれの分離された分子に対して具体的に測定することができ、あるいは潜在的なすべての分離された分子に対しても特定の値により推定することができる。
【0046】
試料中にゼロ箇所が配置される種々の位置が特に少数でも間に合うようにするため、これら種々の位置は、試料中の分子の位置が確定される各空間方向において、分子が配置された試料中の位置領域の中心の両側に、前記種々の位置がそれぞれ1つの位置を含むように配置することができる。しかしこのことは、各空間方向に、2つの別個のゼロ箇所の位置を設けなければならないことを意味するものではない。したがって、とりわけ二等辺三角形の角に配置された一平面内の3つの位置も、この平面内の任意の各空間方向において、三角形の中点の異なる辺に配置された少なくとも2つの位置を含む。可能なすべての空間方向に関連して、正四面体にも同様のことが当てはまる。
【0047】
本発明の第1の実施形態では更に、試料中にゼロ箇所が配置される種々の位置が、試料中の分子の位置が確定される各空間方向において、位置領域の中心の両側の2つの位置の他に、この位置領域の中心に1つの位置を含むと有利である。ここで、位置領域の中心にあるこの一つの位置は、すべての空間方向に対して同じにすることができる。
【0048】
具体的には、試料中にゼロ箇所が配置される種々の位置は、分子の位置が2つの空間方向で確定される場合、中心の位置および周辺の3つの位置とすることができ、すなわち全部で4つの位置とすることができる。ここで3つの周辺の位置は、2つの空間方向により
張架され、中心の位置を通る平面内において、中心の位置を中心にする円弧に等間隔に配置される。別の言い方をすれば、3つの周辺の位置は二等辺三角形の角にあり、中心の位置は三角形の中点にある。
【0049】
分子の位置が3つ全ての空間方向で確定される場合、試料中にゼロ箇所が配置される種々の位置は、中心の位置と4つの周辺の位置とすることができ、周辺の位置は中心の位置の周囲の球殻上に等間隔に配置されている。別の言い方をすれば、周辺の位置は正四面体の角にあり、中心の位置は正四面体の中点にある。
【0050】
すでに述べたように、分子が推定される試料中の全ての位置領域は、ゼロ箇所の各位置に対して励起光の強度分布の領域であって、ゼロ箇所に隣接する強度上昇領域における強度が、励起光の飽和強度よりも下に留まっている当該領域内に存在すべきである。この飽和強度よりも上では、励起光の強度を更に高めても、分離された分子からのルミネセンス光の強度上昇はもはや生じない。本発明の第1の実施形態において、最大強度、すなわち励起光の絶対強度レベルがそれぞれ、ゼロ箇所の各位置から試料中のゼロ箇所の(複数)位置の間の各点までの最大間隔が、この間隔の方向における各強度上昇領域の広がり以下であるように調整されると好ましい。更に好ましくは最大間隔は、励起光の強度が励起光の飽和強度の90%にまで上昇する間隔の方向において、強度上昇領域の広がり以下である。
【0051】
本発明の第1の実施形態では、ゼロ箇所に隣接する強度上昇領域は、ゼロ箇所を中心にして回転対称に構成することができる。少なくともこの回転対称の構成は、主平面において励起光が試料に指向される方向に対して直交に配置することができる。しかし励起光をその波長および/または偏光に関して、および/またはゼロ箇所に隣接する強度領域を種々の空間方向における励起光の強度経過に関して、ゼロ箇所のそれぞれの位置に依存して異なって構成することも可能である。これによりとりわけ、各空間方向においてゼロ箇所の(複数)位置の間の各点における分子の位置を、同じ精度で確定するという目的を遂行することができる。すなわち、これにより特定の空間方向において最大可能な精度が、分離された分子の位置を確定する際に利用し尽くされないことが理解される。反対に、各分離された分子は、達成された精度の広がりの点でその位置が再現される際に、この精度が全ての方向において同じである場合だけ小さな円ないし球として出現する。
【0052】
本発明の第1の実施形態では、ルミネセンス光を、試料中のゼロ箇所の種々の位置について疑似的に同時に記録することができる。このことは、ゼロ箇所を、試料中の(複数)位置の間で反復的にシフトすることによって行われる。この目的のために励起光の同じ強度分布を、スキャナを用いてシフトすることができる。しかし、試料中のそれらのゼロ箇所の各種々の位置について強度分布を新たに、例えば励起光の光線路に配置された空間光変調器(SLM)を用いて形成することも可能である。この場合、少なくともその点でスキャナを省略することができる。更に、完全にまたは部分的に異なる光源により励起光を順番に提供することによって、試料中のゼロ位置をシフトすることも可能である。本発明の第1の実施形態のこれら可能なすべての構成において、ゼロ箇所を試料中のその(複数)位置の間で反復的に往復シフトさせることができる。ここでは、ゼロ箇所の個々の位置に所属するルミネセンス光が、分子から別個に記録されることが理解される。ゼロ箇所の種々の位置についてルミネセンス光を疑似的に同時に記録することには、ゼロ箇所の個別に位置について記録されたルミネセンス光の光子が、分子の位置を所望の精度で、ゼロ箇所の種々の位置について記録されたルミネセンス光の強度から導出することを許容する場合、励起光による試料の印加および試料からのルミネセンス光の記録を直ちに中断できるという利点がある。
【0053】
相応の中断基準は、試料中のゼロ箇所の各位置についてルミネセンス光を連続的に記録する場合にも適用することができる。しかし、分子からの全部で数個の光子の後に、全て
のゼロ箇所について記録されたルミネセンス光の強度を観察することで、分子の位置が所望の精度で導出可能であることを分かる場合がある。
【0054】
本発明の第1の実施形態において、励起光の強度分布のゼロ箇所の位置についてルミネセンス光が、それらの位置について記録されたルミネセンス光の強度が十分な精度で検出されるまでだけ、それぞれ記録される場合、分子の位置は所望の精度で導出可能であり、この所望の精度は20nm以下の範囲でありうる。この精度は、10nm未満でもあり得る。所望の精度は、1nmのオーダでも、すなわち0.5nm程度まで可能である。基本的に本発明の第1の実施形態は、試料中の分離された分子の位置を確定する際に達成可能な精度に対して内在的な限界を有しない。しかし、それぞれの個別事例で発生する条件、例えばS/N比の減少は、実際に達成可能な精度を制限することがある。
【0055】
本発明の第1の実施形態を、試料中のゼロ箇所の(複数)位置間の間隔を次第に小さくしながら反復実施し、その際に、試料中のゼロ箇所の位置を、本方法の各反復の際に試料中のゼロ箇所の位置であって、先行の本方法の実施の際にルミネセンス光の記録された強度から導出された当該位置の周囲に配置することは、本発明の第1の実施形態により達成される精度を相互的に向上させるために用いることができる。試料中のゼロ箇所の(複数)位置間の間隔を次第に小さくすることにより、励起光の最大強度を高めることができる。このようにして、次第に小さくなる制限された(分子が推定的に存在する)位置領域を、強度上昇領域における励起光の種々の強度の全帯域幅に、すなわち分離された分子からのルミネセンス光の種々の強度の全帯域幅に再び割り当てることができる。
【0056】
本発明の第2の実施形態では、励起光が、特許文献5から公知の出発方法と同じように、強度分布をもって、試料に指向され、この強度分布は、ゼロ箇所および強度上昇領域を有し、これら強度上昇領域は各空間方向においてゼロ箇所に両側で隣接している。このゼロ箇所は、試料中の各空間方向においてシフトされ、試料中のゼロ箇所の各位置について分子から放射されるルミネセンス光が記録される。
【0057】
この公知の方法に加えて、本発明の第2の実施形態では、分子が配置された試料中の初期位置領域がまず確定される。次に、各空間方向においてゼロ位置の少なくとも1つの初期位置が、それぞれの空間方向において前記初期位置領域の片側に存在するように設定される。ルミネセンス光は、全ての空間方向に割り当てられたゼロ箇所の位置について、擬似的に同時に記録される。このことは、ゼロ箇所を反復的にそれぞれの(複数)位置の間で往復シフトさせ、ゼロ箇所の位置を、各位置について記録されたルミネセンス光の光子に依存して、初期位置領域に入るように漸次シフトすることにより行われる。
【0058】
このようにして、全ての空間方向に所属するゼロ箇所の位置を非常に高速に、すなわち分離された分子から放射され記録された光子の数が少ないことに基づいて高速に、試料中の分子の実際の位置に近似され、これにより、ゼロ箇所の位置は、初期位置領域と比較して強く縮小された位置領域に制限される。この強く縮小された位置領域の寸法は、分離された分子の位置を確定する精度に相当する。この寸法は、問題なしに10nmであり、ルミネセンス光の波長における回折限界を格段に下回ることができる。
【0059】
本発明の第2の実施形態では、試料が分子の初期位置領域においても空間的に走査されず、強度分布の基点の位置が、強度分布の基点のこれまでの位置について記録されたルミネセンス光の光子に基づいてインテリジェントに、すなわちルミネセンス光の記録された光子からこれまでに使用可能な情報を最大限に利用して、分離された分子の実際の位置を介して、ひいては規則的に一方向でだけ分子の実際の位置に向かってシフトされる。したがって本発明によるゼロ箇所の位置のシフトは、試行錯誤の後に行われるのではなく、必須ではなくても最短経路で、常に試料中の分子の実際の位置に向かって行われる。
【0060】
ゼロ箇所を漸次シフトする場合、例えばゼロ位置がそれぞれシフトされる距離を設定するために、分離された分子の相対的発光強度に対する尺度を考慮することができる。この尺度は、具体的には、励起光により励起された際の分子からのルミネセンス光の最大強度値、またはこれと直接的に相関する強度値とすることができる。最大強度値またはこれと相関する強度値は、分離された分子に対して具体的に測定することができ、あるいは潜在的な全ての分離された分子に対しても特定の値により推定することができる。
【0061】
本発明の第2の実施形態では、ルミネセンス光を、試料中のゼロ箇所のそれぞれ種々の位置について疑似的に同時に記録することができる。このことは、基点を、試料中のそれぞれの位置の間で反復してシフトすることによって行われる。この目的のために励起光の同じ強度分布を、スキャナを用いてシフトすることができる。しかし、試料中のそれらのゼロ箇所の各種々の位置について強度分布を新たに、例えば励起光の光線路に配置された空間光変調器(SLM)を用いて形成することも可能である。この場合、少なくともその点でスキャナを省略することができる。更に、まったくまたは部分的に異なる光源により励起光を順番に提供することによって、試料中のゼロ位置をシフトすることも可能である。本発明の第2の実施形態のこれら可能なすべての構成において、ゼロ箇所を試料中のそれら(複数)位置の間で反復的に非常に高速に往復シフトさせることができる。ここではゼロ箇所の個々の位置に所属するルミネセンス光が、分子から別個に記録されることが理解される。励起光の強度分布の基点の種々の位置についてルミネセンス光を疑似的に同時に記録することには、励起光の強度分布の基点の個々の位置について記録されたルミネセンス光の光子が、これらの位置を試料中の分子の実際の位置に更に接近してシフトすることを許容する場合、励起光による試料の印加および試料からのルミネセンス光の記録を直ちに中断できるという利点がある。
【0062】
本発明の第2の実施形態では、ゼロ箇所の位置を、具体的に各位置について記録されたルミネセンス光の光子の割合または時間的間隔に依存して、初期位置領域に向かって漸次シフトすることができる。ここでは、記録された光子の時間的間隔の平均値は、基点のそれぞれの位置について記録されたルミネセンス光の光子の割合の逆数に等しいことが理解される。
【0063】
ゼロ箇所の位置を初期領域に目的どおりにシフトすることは、例えばまず、個別の位置について記録されたルミネセンス光の光子の割合ないし光子の対応する時間的間隔を互いに適合することにより行うことができる。更に、そのために記録されたルミネセンス光の光子の最大の割合ないし最小の時間的間隔を備えるゼロ箇所の位置を、最小の割合ないし最大の時間的間隔を備えるゼロ箇所の位置の方向にシフトすることができる。平行して、または引き続き、ゼロ箇所の全ての位置を初期位置領域に入るようにシフトすることができ、これにより全ての位置について記録された光子の割合ないし時間的間隔を最小または最大にすることができる。例えば全ての位置について記録された光子の割合ないし時間的間隔が、すでに互いに適合されている場合、光子の割合を最小にするか、あるいは時間的間隔を最大にするために、これらの位置をそれらの共通の中点の方向で更に位置領域に入るようにシフトすることができる。
【0064】
初期位置領域に対して設定され、次に本発明によりシフトされるゼロ箇所の位置の数は、nから2nの間にすることができ、ここでnは、分子が局在化される空間方向の数である。すなわち、ゼロ箇所の位置の数は非常に小さくすることができる。少なくとも試料中の分子の位置を確定すべき各空間方向についてゼロ箇所に1つの位置が必要であり、これは位置全体を、それらについて記録されたルミネセンス光の光子に基づいて目的どおりにシフトできるようにするためである。各方向においてゼロ箇所の位置が2つあれば、試料中の分子の実際の位置を、後で詳細に説明するように組み込むことができる。
【0065】
本発明の第2の実施形態では、試料中の分子の位置を、空間方向の少なくとも1つでは、それぞれの空間方向に割り当てられた、分子から放射されるルミネセンス光の光子の割合が最小化されているゼロ箇所の位置と同一とすることができる。本発明の第2の実施形態のこの構成では、対応するゼロ箇所が分子と、試料中で可能な限り一致される。
【0066】
しかし分子の位置は、それぞれの空間方向に割り当てられたゼロ箇所の位置の少なくとも1つが記録される少なくとも1つの空間方向において、ルミネセンス光の光子の割合または時間的間隔から導出することもできる。
【0067】
ここでは、ルミネセンス光の光子の割合ないし時間間隔と、励起光の強度分布のゼロ箇所までの分離された分子の空間的間隔との関数関係が考慮される。この関数関係は、ゼロ箇所に隣接する強度上昇領域における励起光の強度経過に依存しており、ルミネセンス光を放射するように分子を励起することの基礎となる光物理学的プロセスにも依存する。したがって破壊的干渉により形成されたゼロ箇所に隣接する強度上昇領域、および単一光子プロセスに基づく分子のフォトルミネセンスにおいては、分子から放射されるルミネセンス光の強度と、ゼロ箇所までの分子の間隔との間に近似的に2乗の関数関係が生じる。二光子プロセスに基づく光ルミネセンスの場合、関数関係は更に顕著であり、関数x4にしたがう。事実上、強度上昇領域における励起光の強度経過は、この経過が分子からのルミネセンス光の強度にどのように作用するかという点でだけ既知であればよい。すなわち、ルミネセンス光の強度と、励起光の強度分布のゼロ箇所までの分子の間隔との関数関係は、試料中の分子の実際の位置を確定する際にこれを考慮できるようにするため、既知でなければならない。しかしこの関数関係は、例えば経験的に、ゼロ箇所を有する分子の周囲を小さなステップで走査することにより容易に決定される。
【0068】
試料中の分子の実際の位置を、それぞれの空間方向に割り当てられたゼロ箇所の位置の少なくとも1つについて記録されたルミネンス光の光子の割合または時間的間隔から導出する場合、ルミネセンス光の光子のさらなる割合またはさらなる時間的間隔を考慮することができる。ここでは、それぞれの空間方向に割り当てられたゼロ箇所の位置のさらなる1つについて記録される、ルミネセンス光の光子のさらなる割合またはさらなる時間的間隔を取り扱うことができる。ここではそれぞれの空間方向におけるゼロ箇所の位置の間隔も考慮される。その代わりにまたはそれに加えて、試料中の分子の位置を、ゼロ箇所の少なくとも1つの位置について記録されたルミネセンス光の光子の割合または時間的間隔から導出する際に、分離された分子の相対的発光強度に対するすでに述べた尺度も考慮することができる。
【0069】
本発明の第2の実施形態の構成では、ゼロ箇所の初期位置は空間方向の各々について2つの位置を含み、これら2つの位置はそれぞれの空間方向において初期位置領域の両側にある。全ての空間方向に割り当てられたゼロ箇所の位置を、ルミネセンス光の光子の、全ての位置について確定された割合または時間的間隔に依存して漸次シフトすることによって、ゼロ箇所の(複数)位置の間に残った分子の位置領域が漸次狭められる。ここでは空間方向の各々に対して、ゼロ箇所の2つの別個の開始の位置を設定する必要はない。むしろゼロ箇所の初期位置の1つを、複数の空間方向に割り当てることもできる。したがって、例えば2つの空間方向で分子の位置を確定するために、ゼロ箇所の初期位置は、この2つの空間方向により張架される平面において三角形の角に置くことができる。すなわち、全部で3つの位置だけを含む。相応して、3つの空間方向で分子の位置を確定するためのゼロ箇所の初期位置は、四面体の角に配置することができる。基本的に、試料中の分子の位置が確定される空間方向ごとに、ゼロ箇所の2つの別個の位置も当然可能である。したがって、試料中の分子の位置をルミネセンス光の可及的に少数の光子により確定するという視点の下では、ルミネセンス光が記録される、試料中のゼロ箇所の位置が多数であるこ
とは、必ずしも好ましいことではない。
【0070】
とりわけ、ゼロ箇所の初期位置が空間方向の各々について、初期位置領域の両側のそれぞれの空間方向にある2つの位置を含む場合、空間方向の各々においてゼロ箇所に隣接する強度領域がゼロ箇所に対して対称に構成されていることが好ましい。試料中の分子の位置が確定される全ての空間方向において強度上昇領域が、ゼロ箇所を中心に回転対称に構成されていると更に好ましい。
【0071】
ゼロ箇所の(複数)位置の間に残った分子の位置領域は、その寸法が所定の精度以下になるまで漸次狭めることができる。この所定の精度は、20nmの範囲またはそれ以下とすることができる。この精度は、10nm未満でもあり得る。所定の精度自体は、1nmのオーダでも、すなわち0.5nm程度まで可能である。基本的に本発明の第2の実施形態は、試料中の分離された分子の位置を確定する際に達成可能な精度に対して内在的な限界を有しない。しかし、それぞれの個別事例で発生する条件、例えばS/N比の減少は、実際に達成可能な精度を制限することがある。
【0072】
本発明の第2の実施形態において、ゼロ箇所のさらなるシフトに対する中断基準として、所定のS/N比を下回ることを設定することもできる。このS/N比は、ポイント検出器の前方のピンホールを縮小することにより改善することができる。このポイント検出器により、分離された分子から放射されたルミネセンス光が、試料中のゼロ箇所のそれぞれの位置に共焦点で記録される。ピンホールのこの縮小は、分子から放射されるルミネンス光の光子と比較して、記録された光子における収率の低下を伴う。したがって試料中の分子の位置の直接近傍にあるゼロ箇所の最後の位置に制限されることがあるが、この最後の位置ではS/N比が典型的には重要になる。
【0073】
本発明の第2の実施形態では、試料中の分子の位置が確定される全ての空間方向に割り当てられたゼロ箇所の位置の少なくとも1つが、これまでの位置において平均でp個のルミネセンス光の光子が記録されると直ちにシフトされる。ここでpは、比較的小さく、それどころか非常に小さくてもよい。具体的にはpは、30以下、20以下、10以下、それどころか5以下の値を有することができる。pの値は、位置の少なくとも1つを、どの程度有意にシフトできるかに依存することが理解される。なぜならpは、統計の基本法則によれば、個々の位置についてのルミネセンス光の光子の割合ないし時間的間隔を決定することのできる精度を決めるからである。
【0074】
その代わりにまたはそれに加えて、全ての空間方向に割り当てられたゼロ箇所の位置の少なくとも1つは、これまでの位置において全部でn×q個のルミネセンス光の光子が記録されると直ちにシフトすることができる。ここでnは、試料中の分子の位置が確定される空間方向の数である。qもここでは比較的に小さくすることができる。具体的にはqは50以下、または25以下、またはそれどころか5以下とすることができる。ここでもqの値は、ゼロ箇所の位置の少なくとも1つを、n×q個の光子が記録された際に、どの程度有意にシフトできるかに依存することが再び当てはまる。
【0075】
本発明の第2の実施形態のさらなる構成では、各ゼロ箇所の位置は、このゼロ箇所のこれまでの位置においてルミネセンス光のm個の光子が記録されると直ちにシフトされる。ここでもmは、小さくてよく、それどころか非常に小さくてもよい。具体的にはmは、30以下、20以下、10以下、またはそれどころか5以下1までとすることができる。
【0076】
とりわけmの値が非常に小さい場合、ゼロ箇所の位置をシフトする際には、分子からのルミネセンス光の光子のうち有意な光子だけが考慮されることが理解される。すなわち、記録はされるが、例えばノイズに割り当てられた光子は考慮されないままである。ゼロ箇
所が、励起光の強度がゼロに戻る理想的なゼロ箇所ではない場合、ゼロ箇所における励起光の残留強度と結び付いた、分子からのルミネセンス光の光子の割合を無意味なノイズとみなし、差し引くことができ、それから光子の割合ないし時間的間隔を求め、それに基づいてゼロ箇所の位置がシフトされる。
【0077】
すでに述べたように、ゼロ箇所の各位置における初期位置領域全体は、強度上昇領域の強度が励起光の飽和強度より下に留まる、励起光の強度分布の領域内に存在すべきであり、それより上では励起光の強度を更に増大しても、分離された分子のルミネッセンス光の強度はより高くならない。本発明の第2の実施形態では、励起光の最大強度、すなわち絶対的強度レベルが、初期位置領域が励起光の強度分布のゼロ箇所の各位置を基準にして、励起光の飽和強度の90%以下である領域内に存在するようにそれぞれ調整されることが好ましい。
【0078】
ゼロ箇所の位置を漸次シフトすることにより、励起光の最大強度を漸次高めることができる。ゼロ箇所の位置を漸次シフトすることにより、試料中の分子の実際の位置までのゼロ箇所の間隔が減少する。励起光の最大強度を高めることにより、小さくなった間隔が、分離された分子からのルミネセンス光の種々の強度の比較的に大きな帯域幅にわたって再び分散される。
【0079】
例えば励起光の絶対強度は、ゼロ箇所のそれぞれ全ての位置について記録された光子の割合が同じに留まるように高めることができる。これは、これら光子の時間的間隔が同じに留まることと同義である。割合ないし時間的間隔を、励起光の絶対強度を上昇することにより同じに維持することは、少なくとも一時的に、すなわちゼロ箇所のシフトを行う部分的な時間の間、可能である。
【0080】
具体的には励起光の最大強度は、ゼロ箇所の全シフトにわたって少なくとも50%だけ上昇することができる。しかし最大強度は、その開始値の少なくとも100%、または3倍、4倍または多重倍だけ上昇することができる。
【0081】
本発明の第3の実施形態では、励起光が、特許文献5から公知の出発方法のように、強度分布をもって試料に指向され、この強度分布は、空間方向の各々において、励起光の強度が強度分布の基点までの間隔にわたって厳密に単調に経過する少なくとも1つの強度上昇領域を有する。強度分布のこの基点は、各空間方向において試料中の種々の位置に配置される。試料中の強度分布の基点の各位置について、分子から放射されたルミネセンス光が記録され、試料中の分子の位置が、記録されたルミネセンス光の強度から導出される。
【0082】
この公知の方法に加えて、本発明の第3の実施形態では、分子が配置された試料中の初期位置領域がまず決定される。次に(i)各空間方向において強度分布の基点の少なくとも1つの位置が、少なくとも1つの強度上昇領域がそれぞれの空間方向において、初期位置領域全体を越えて伸長するように設定され、そして(ii)各空間方向について2つの強度値を含み、これら強度値の一方が強度分布の基点の少なくとも1つの位置について記録されたルミネセンス光の強度を指示する、ルミネセンス光の強度値から、分子が配置されており、かつ初期位置領域よりも小さい、試料中のさらなる位置領域が確定される。ステップ(i)と(ii)は、励起光の強度分布の基点をステップ(i)で設定された位置に配置すること、および分子から放射されたルミネセンス光をこれら各位置について記録することを含めて、さらなる位置領域を新規の初期位置領域として使用して少なくとも一度繰り返される。
【0083】
このようにして試料中の分離された分子の位置は、各空間方向において非常に高速に、すなわち分離された分子から放射され記録される光子の数が少ないことに基づき高速に、比較的に小さな位置領域に制限される。この小さな位置領域の寸法は、分離された分子の位置を確定する精度に相当する。この寸法は、問題なしに10nmであり、したがってルミネセンス光の波長における回折限界を格段に下回ることができる。
【0084】
本発明の第3の実施形態では、試料が分子の初期位置領域においても空間的に走査されず、強度分布の基点の位置が、強度分布の基点のこれまでの位置について記録された、位置領域に対するルミネセンス光の強度に基づいて、インテリジェントに、すなわちルミネセンス光の記録された強度からこれまでに使用可能な情報を最大限に利用して、分離された分子の実際の位置を介して設定される。ここで設定された基点の位置は、位置領域自体を完全に空けておくことができる。
【0085】
本発明の第3の実施形態で、励起光が強度分布をもって試料に指向され、この強度分布は各空間方向において、励起光の強度が、強度分布の基点までの間隔にわたって厳密に単調に既知のように経過する少なくとも1つの強度上昇領域を有するということは、この強度上昇領域は、基点までの間隔が異なれば強度も異なる破壊的干渉によって成形されることを意味することができる。更に励起光の強度は、少なくとも1つの強度上昇領域においてゼロから、すなわち例えば励起光の完全な破壊的干渉から上昇することができる。この場合、この強度上昇領域は、励起光のとりわけ小さな強度を含み、この小さな強度により分離された分子は、ルミネセンス光を放射するために励起されても非常に僅かしか負荷されない。ここで強度上昇領域は、励起光の強度分布のゼロ箇所に隣接することができ、このゼロ箇所には、それぞれの空間方向において対向する側にさらなる強度上昇領域が隣接する。2つの強度上昇領域は、ゼロ箇所を基準にして互いに対称に構成することができる。ゼロ箇所は、励起光の強度上昇領域の基点として同時に使用することができる。この基点は、この場合好ましくは、励起光の最小強度の近傍に位置し、この最小強度は分離された分子をほんの僅かしか負荷しない。一般的に励起光の強度分布の基点は、強度分布内に規定された基準点であり、そのそれぞれの位置は試料中に規定されており、試料中に規定された位置に対応して基準点を位置決めすることができる。励起光の強度分布の基点が、強度上昇領域が隣接するゼロ箇所の場合、励起光の強度は、この各強度上昇領域にわたり基点に対して間隔を増大しながら厳密に単調に、すなわち連続的に上昇する。強度分布の基点の形式に応じて励起光の強度は、基点に対して間隔を増大しながら、強度上昇領域にわたって同様に厳密に単調に、下降することもできる。
【0086】
励起光の強度分布のゼロ箇所または別の基点に続く2つの強度上昇領域が互いに対称に構成されているか否かに関係なく、本発明の第3の実施形態では両方の強度上昇領域を使用することができる。これは例えばステップ(i)で、基点の位置を初期位置領域の異なる側に設定することにより行う。
【0087】
ゼロ箇所は、干渉によって形成された理想ゼロ箇所とすることができ、このゼロ箇所では励起光の強度が実際にゼロに逆戻りする。しかしゼロ箇所における励起光の僅かな残留強度は無害である。とりわけ、ゼロ箇所が励起光の強度分布内に存在する場合にこのゼロ箇所を試料中に、その位置が試料中の分子の位置と一致するように位置決めすることは、本発明の第3実施形態の核心ではない。この理由から、強度上昇領域により隣接されるゼロ箇所は、基本的に、それぞれの空間方向において離間したガウス状の強度分布によって、具体的にはこれらの間に残った強度最小値によって形成することもできる。更に少なくとも1つの強度上昇領域は、ただ1つのガウス状の強度分布の側縁によっても提供することができる。しかしこの場合、ガウス状の強度分布に集束された励起光の重心は、強度上昇領域にある励起光の特に興味の対象である小さな強度から相対的にかなり離れた強度分布の基点となる。
【0088】
ただ1つの空間方向にだけ延在する強度上昇領域によっても、試料中の分子の位置を、
2つまたは3つすべての空間方向において高分解能に確定することができる。同様に、2つの空間方向にだけ延在する強度上昇領域によって、試料中の分離された分子の位置を、これら2つだけでなく、3つ全ての空間方向においても高分解能に確定することができる。更に本発明の第3の実施形態は、(単数または複数)強度上昇領域を種々の空間方向に配向して実施される。この実施は、(単数または複数)強度上昇領域の種々の配向に対して順番に、または疑似的に同時に行うことができ、例えば、ステップ(i)と(ii)が、(単数または複数)強度上昇領域の配向の全ての空間方向に対して少なくとも一度実施された後に初めて、これらのステップを繰り返す。
【0089】
本発明の第3の実施形態では、分子が配置された初期位置領域が種々のやり方で確定される。この例を以下に示す。
【0090】
本発明の第3の実施形態のステップ(i)において、各空間方向での強度分布の基点の少なくとも1つの位置を、少なくとも1つの強度上昇領域がそれぞれの空間方向で初期位置領域にわたって伸長するように設定することは、分子からのルミネセンス光の強度に関連する強度上昇領域から影響を受ける励起光の強度分布の領域内に分子が確実に存在することを意味する。
【0091】
ステップ(ii)で、各空間方向について2つの強度値を含むルミネセンス光の強度値であって、そのうちの1つの強度値が強度分布の基点の少なくとも1つの位置ついて記録されたルミネセンス光の強度である当該強度値が評価されることは、それぞれの空間方向についてのそれぞれ第2の強度値が全ての空間方向に対して同じ値であることを排除するものではない。したがってステップ(ii)では全部でn+1個の強度値だけが評価され、「n」は分離された分子の位置が確定される空間方向の数である。しかし基本的に各空間方向に対しては付加的な強度値も考慮することができ、したがって全部で2n個の強度値が評価される。
【0092】
ステップ(ii)で、分子が配置されており、初期位置領域よりも小さいさらなる位置領域を試料中に決定するために、分離された分子から放射されるルミネセンス光の強度と、励起光の強度分布のゼロ箇所までの分離された分子の間隔との関数関係が考慮される。この関数関係は、強度上昇領域においてこの間隔の方向で厳密に単調に上昇または下降する励起光の強度の既知の経過に依存しており、ルミネセンス光を放射するように分子を励起することの基礎となる光物理学的プロセスにも依存する。したがって破壊的干渉により形成されたゼロ箇所に隣接する強度上昇領域、および単一光子プロセスに基づく分子の光ルミネセンスにおいては、分子から放射されるルミネセンス光の強度と、ゼロ箇所までの分子の間隔との間に近似的に2乗の関数関係が生じる。二光子プロセスに基づく光ルミネセンスの場合、関数関係は更に顕著であり、関数x4にしたがう。事実上、本発明の第3の実施形態では、強度上昇領域における励起光の厳密に単調な経過は、これが分子からのルミネセンス光の強度にどのように作用するかという点でだけ既知であればよい。すなわち、ルミネセンス光の強度と励起光の強度分布の基点までの分子の間隔との関数関係は、試料中の分子の実際の位置を確定する際にこれを考慮できるようにするため、既知でなければならない。しかしこの関数関係は、例えば経験的に、強度上昇領域を有する分子の周囲を小さなステップで走査することにより容易に決定される。
【0093】
ステップ(ii)で、試料中の分子の小さなさらなる位置領域を、各空間領域についてルミネセンス光の2つの強度値を含むルミネセンス光の強度値から確定することは、ルミネセンス光の光子の種々の割合を考慮する可能性を含むだけではなく、記録された光子の時間的間隔を観察する可能性も含む。ここでは、記録された光子の時間的間隔の平均値は、基点の位置について記録されたルミネセンス光の光子の割合の逆数に等しいことが理解される。
【0094】
本発明の第3の実施形態では、ステップ(i)と(ii)が少なくとも一度繰り返される。すなわち、分子が試料中に存在する位置領域は、初期位置領域と比較して少なくとも2倍縮小される。このことは、本発明の第3の実施形態により、試料中の分子の位置領域が、その最初の推定と比較して少なくとも2倍狭められることを意味する。この位置領域を同じように、または別のやり方で更に狭めることもできる。しかし初期位置領域を少なくとも2回狭めた後に得られた比較的に小さな位置領域は、分離された分子の位置を指示するために、あり得るエラーとしての位置領域の半径を伴う位置領域の中心として直接的に使用することもできる。
【0095】
本発明の第3の実施形態のステップ(ii)で評価される、それぞれの空間方向についての第2の強度値は、試料中の強度分布の基点の第2の位置について記録されたルミネセンス光の強度とすることができる。この第2の位置は、それぞれの空間方向において強度分布の基点の少なくとも1つの位置と同じ側の別の箇所に、または強度分布の基点の少なくとも1つの位置に対向する初期位置領域の側に存在することができる。いずれの場合でも本発明の第3の実施形態のこの構成では、強度上昇領域における励起光の種々の強度の作用が、励起光の強度分布の基点の2つの位置において検出され、そこからこれらの位置がそれぞれの空間方向において分子の初期位置領域を基準にしてどこにあるのかが既知となる。
【0096】
強度上昇領域における励起光の強度の既知の経過を考慮し、それぞれの空間方向における基点の位置の間隔と関連して、関連するルミネセンス光の強度からそれぞれの空間方向における分子の実際の位置を推定することができる。本発明の第3の実施形態のこの構成でも、各空間方向に対して基点の2つの別個の位置を、そのために記録されたルミネセンス光の強度に関して考慮する必要はない。むしろ、例えば2つの空間方向で分子の位置を確定するために、基点の位置は、これら2つの空間方向により張架される平面において三角形の角に置くことができる。すなわち、全部で3つの位置だけを含む。相応して、3つの空間方向で位置を確定するための基点の位置は、四面体の角に配置することができる。基本的に、分子の位置が確定される各空間方向ごとに、基点の2つの別個の位置も当然可能である。したがって、試料中の分子の位置をルミネセンス光の可及的に少数の光子により確定するという視点の下では、ルミネセンス光が記録される、試料中の基点の位置が多数であることは、必ずしも好ましいことではない。
【0097】
別の実施形態では、それぞれの空間方向についての第2の強度値は、ステップ(ii)において分離された分子の相対的発光強度に対する尺度である。この尺度は、具体的には、励起光により励起される際の分子からのルミネセンス光の最大強度値、またはこれと直接的に相関する強度値とすることができる。最大強度値またはこれと相関する強度値は、分離された分子に対して具体的に測定することができ、あるいは潜在的なすべての分離された分子に対しても特定の値により推定することができる。
【0098】
本発明の第3の実施形態では、ルミネセンス光を、試料中の基点の種々の位置について疑似的に同時に記録することができる。このことは、基点を、試料中の(複数)位置の間で反復してシフトすることによって行われる。この目的のために、励起光の同じ強度分布をスキャナを用いてシフトすることができる。しかし、試料中のそれらの基点の各種々の位置について強度分布を新たに、例えば励起光の光線路に配置された空間光変調器(SLM)を用いて形成することも可能である。この場合、少なくともその点でスキャナを省略することができる。更に、試料中の励起光の強度分布の基点を、まったくまたは部分的に異なる光源により励起光を順番に提供することによってシフトすることも可能である。本発明の第3の実施形態のこれら可能な全ての構成において、励起光の強度分布の基点を、試料中のその(複数)位置の間で反復的に往復シフトさせることができる。ここでは基点
の個々の位置に所属する、分子からのルミネセンス光が別個に記録されることが理解される。励起光の強度分布の基点の種々の位置についてルミネセンス光を疑似的に同時に記録することには、励起光の強度分布の基点の個々の位置について記録されたルミネセンス光の光子が、分子が配置された試料中の初期位置領域を所定の程度だけ狭めることを許容する場合には、励起光による試料の印加および試料からのルミネセンス光の記録を直ちに中断できるという利点がある。
【0099】
相応の中断基準は、試料中の励起光の強度分布の各基点についてルミネセンス光を連続的に記録する場合にも適用することができる。しかし、分子からの全部で数個の光子の後に、励起光の強度分布の基点の全ての位置について記録されたルミネセンス光の強度を観察することで、初期位置領域を所望の程度に狭めることが可能であることが認識される場合がある。
【0100】
本発明の第3の実施形態において、励起光の強度分布の基点の位置についてルミネセンス光が、これらの位置について記録されたルミネセンス光の強度が十分な精度で検出されるまでだけそれぞれ記録され、所定の値だけ初期値よりも小さいさらなる位置領域が決定可能である場合、前記所定の値は5%から75%の範囲とすることができる。ここでこの記述は、それぞれの空間方向における位置領域の寸法に関連する。励起光の強度分布の基点の種々の位置について記録されたルミネセンス光の強度を更により正確に検出すべき場合には、さらなる位置領域を初期位置領域よりも更に多く使用すべきであることが理解される。制限が小さければ、基点の種々の位置についてルミネセンス光の強度を検出する際に必要な精度は小さい。しかし同じ精度を達成するためには本発明の第3の実施形態のステップ(i)と(ii)を何回も繰り返すことが必要である。ここでは試料中の分子の位置を確定する際に、特定の精度を達成するために必要なルミネセンス光の光子の数に関して最適化を実行することができる。
【0101】
すでに述べたように、基点の各位置における初期位置領域全体は、強度上昇領域における強度が励起光の飽和強度より下に留まる、励起光の強度分布の領域内に存在すべきであり、それより上では励起光の強度を更に増大しても、分離された分子のルミネッセンス光の強度はより高くならない。本発明の第3の実施形態では、励起光の最大強度、すなわち絶対的強度レベルが、初期位置領域が励起光の強度分布の基点の、ステップ(i)で確定された各位置を基準にして、励起光の飽和強度の90%以下である領域内に存在するようにそれぞれ調整されることが好ましい。
【0102】
位置領域が小さくなるにつれ、励起光の最大強度は上昇することができる。このようにして、次第に小さくなる位置領域を、強度上昇領域における励起光の種々の強度の全帯域幅に、すなわち分離された分子からのルミネセンス光の種々の強度の全帯域幅に再び割り当てることができる。
【0103】
具体的には励起光の最大強度は、ステップ(i)と(ii))の全ての反復にわたって少なくとも50%だけ上昇することができる。しかし最大強度は、その開始値の少なくとも100%、または3倍、4倍または多重倍だけ上昇することができる。
【0104】
本発明の第3の実施形態のステップ(i)と(ii)は、最後に実行されたステップ(ii)においてさらなる位置領域が所定の精度以下になるまで繰り返すことができる。この所定の精度は、20nmの範囲またはそれ以下とすることができる。この精度は、10nm未満でもあり得る。所定の精度自体は、1nmのオーダでも、すなわち0.5nm程度まで可能である。基本的に本発明の第3の実施形態は、試料中の分離された分子の位置を確定する際に達成可能な精度に対して内在的な限界を有しない。しかし、それぞれの個別事例で発生する条件、例えばS/N比の減少は、実際に達成可能な精度を制限することがある。例えばステップ(i)と(ii)の反復に対する中断基準として、本発明の第3の実施形態では、所定のS/N比を下回ること、または試料中の分離された分子が存在する位置領域のさらなる縮小に到達するための下限を設定することができる。
【0105】
本発明の全ての方法において、分子が配置されていると推定される初期位置領域は種々のやり方で決定することができる。この例を以下に示す。
【0106】
本発明の全ての方法において、分離された分子の位置の確定の開始時に、分離された分子を含む試料の領域を、ゼロ箇所を備える各空間方向において走査することができる。ここでは走査中のルミネセンス光の強度経過から分離された分子の位置が推定され、推定された位置が試料中のゼロ箇所の位置の設定の基礎とされる。試料の少なくとも1つの領域をこのように空間的に走査することは、励起光の比較的に小さな強度と、比較的に大きな空間的ステップおよび比較的に小さな時間的ステップとで実行することができる。なぜなら分子の位置、すなわち分子が存在すると推定される制限された位置領域は、そこから粗く推定すればよいだけだからである。励起光の強度分布のゼロ箇所によってではなく、分離された分子を含む試料中の領域を、分離された分子の位置の確定の開始時に、励起光のガウス状の強度分布によって、すなわち励起光を単純に集束した光線によって各空間方向において走査することができる。このことは、試料中の分離された分子を共焦点顕微鏡法的に結像することに相当する。
【0107】
本発明の方法の別の構成では、分離された分子の位置確定の開始時に、ガウス状の強度分布を有する励起光が、点ごとにだけまたは円軌道ないしスパイラル軌道で、分離された分子を含む試料の領域に指向される。ここで分離された分子の位置は、ルミネセンス光の強度経過から(複数)点ないし軌道を介して推定され、推定された位置は試料中にゼロ箇所の位置を設定するための基礎とされる。ここで分離された分子から放射されるルミネセンス光の光子の数を制限するために、ガウス状の強度分布は非常に高速に移動され、および/または励起光の最大強度が小さく維持される。ガウス状の強度分布を円軌道またはスパイラル軌道上で移動する際に、励起光のガウス状の強度分布の周辺にある強度上昇領域を、分離された分子に小さな強度の励起光だけを印加するために使用することができる。しかしこの小さな強度は、分離された分子が推定的に存在する制限された位置領域を分子の局在化によって特定するのに十分である。
【0108】
本発明の方法の更に別の構成では、分離された分子の位置確定の開始時に、分離された分子を含む試料の領域、すなわち全体が励起光によって照射され、ルミネセンス光を空間分解能をもって記録する検出器、例えばカメラに結像される。この場合、検出器により記録されたルミネセンス光の空間的分布から分離された分子の位置が推定され、推定された位置が試料中のゼロ箇所の位置の設定の基礎とされる。分離された分子が推定的に存在する制限された位置領域が、この推定ではまだ特に狭められていないから、これに対しては分離された分子からの少数の光子で十分である。
【0109】
分離された分子の位置を推定するために、あるいは分離された分子が推定的に存在する制限された位置領域を確定するために、この分離された分子の位置確定の開始時に実施可能なここに示した全てのステップにおいて、励起光による励起の際に分子からのルミネセンス光の最大強度またはこれに関連する強度値を同時に検出することができ、この最大強度または強度値は分離された分子の相対的発光強度に対する尺度である。
【0110】
本発明の全ての方法において、ルミネセンス光は基本的に空間分解能のある検出器、例えばカメラにより記録することができるが、例えば2×2または3×3のポイントセンサである小さなアレイによっても記録することができる。ゼロ箇所の種々の位置にわたって記録された分離された分子からのルミネセンス光の光子の和から、分子の位置を付加的に局在化によって確定することができる。ここでは、局在化の際に得られた試料中の分子の別の位
置が、試料中の分子の特定の配向を示唆することができる。なぜなら、試料中の分子の位置を確定するための局在化は、分子の配向により影響を受けるが、試料中の分子の位置を本発明によって確定することは影響を受けないからである。本発明の全ての方法において、分子からそれぞれ放出される光子がどこで記録されるかは重要でない。対応してルミネセンス光を、本発明の全ての方法において、ポイント検出器により記録することもできる。
【0111】
本発明の全ての方法において、試料には分離された分子の位置確定の前に切替信号を印加することができる。この切替信号は、隣接する同種の分子を、分離された分子とは異なり、励起光によりルミネセンス光の放射を励起することができない暗状態に切り替えることにより、当該分子を隣接する同種の分子から隔離する。この暗状態は、ルミネセンスではない分子の別の配座状態とすることができる。しかし電子的暗状態であってもよい。択一的に切替信号は、隔離すべき分子だけをルミネセンス状態に切り替えることができる。この切替信号は、励起光とは別の波長および強度を備える切替光とすることができる。しかし励起光と同じ波長であるが、強度だけが異なってもよい。基本的に切替信号は、励起光自体とすることもできる。
【0112】
本発明の方法を反復して実施することは、順次隔離され、励起光によりルミネセンス光の放射が励起可能な複数の分子であって、試料中の対象構造をマーキングする当該分子の位置を確定するために使用することができる。別の実施形態では、本発明の方法を反復して実施することは、試料中で運動する分離された分子を追跡するために用いられる。ここで分子が推定的に存在する制限された位置領域は、本発明の方法の各反復の際に、分子の前もって確定された位置に、これを取り囲むエラー領域を加えたものとすることができる。このエラー領域の幅は、試料中の分子の最大運動速度に整合されている。
【0113】
本発明の方法を実施するために、STEDラスタ蛍光顕微鏡を使用することができる。ここでSTEDラスタ蛍光顕微鏡法より提供され、強度最大値に隣接するゼロ箇所を備えるSTEDビームは、励起光として使用される。
【0114】
本発明の有利な発展形態は、特許請求の範囲、明細書および図面から得られる。明細書に述べた特徴および複数の特徴の組み合わせの利点は単なる例であり、択一的にまたは累積的に作用することができ、これらの利点は本発明の実施形態により必然的に達成する必要はない。これにより添付した特許請求の範囲の対象が変更されることなしに、当初の出願書類および特許の開示に関しては以下が当てはまる。さらなる特徴は、図面、とりわけ図示の幾何形状および複数の構成部材の互いの相対的寸法並びにそれらの相対的配置と作用接続から理解される。本発明の種々の実施形態の特徴の組み合わせ、または種々の特許請求項の特徴の組み合わせは、特許請求項の選択された引用関係から異なっても同様に可能であり、ここにおいて提案される。このことは、別個の図面に示される特徴、または図面の説明において述べられる特徴にも該当する。これらの特徴は、異なる特許請求項の特徴と組み合わせることもできる。同様に特許請求の範囲に挙げられた特徴は、本発明のさらなる実施形態に対しても当てはまる。
【0115】
特許請求の範囲および明細書に述べられた特徴は、それらの数に関して、副詞「少なくとも」を明示的に使用する必要なしに、ちょうどその数または述べた数よりも大きい数が存在していると理解すべきである。したがって例えば分離された分子について述べる場合、ちょうど1つの分離された分子、2つの分離された分子、またはそれ以上の分離された分子が存在しており、それらの位置が確定されると理解すべきである。特許請求の範囲に挙げられた特徴は、別の特徴と置換することができ、または請求された対象が有するただ1つの特徴とすることができる。
【0116】
特許請求の範囲に含まれる参照符号は、特許請求の範囲により保護される対象の範囲を制限するものではない。参照符号は、特許請求の範囲を容易に理解する目的のためにだけ用いられる。
【0117】
本発明の可能な実施形態ついてのさらなる情報は、特許文献5から引き出すことができる。そこに開示された全ては本発明に矛盾するものではなく、本発明の実現の際に実装することもできる。
【0118】
図の説明
図1は、本発明の方法を実施することのできるSTED蛍光顕微鏡1を概略的に示す。本発明の方法を実施する際に、STED蛍光顕微鏡1の全ての構成部分を必ずしも使用する必要はない。しかしSTED蛍光顕微鏡1は、本発明の方法を実施するために必要な構成部分の全てを含む。STED蛍光顕微鏡1の通常の使用では、STEDビームを提供する光源2は、本発明の方法を実施するためにSTED蛍光顕微鏡1を使用する場合、励起光3を提供する。光線形成手段4により励起光3は、これが対物レンズ5の焦点において、少なくとも1つの強度上昇領域を備える強度分布を有するように形成される。本発明の方法の一構成では、励起光3は、対物レンズ5の焦点にゼロ箇所を備える強度分布を有し、このゼロ箇所には、試料6中の分離された分子の位置を確定すべき全ての空間方向において両側で強度最大値が隣接している。そして、この強度最大値の側縁は、本発明の全ての方法において使用される強度上昇領域を形成する。光線形成手段4は、もっぱら受動型コンポーネントを含むが、能動型光学系、例えば空間光変調器(SLM)を含むこともできる。STED蛍光顕微鏡1のさらなる光源7は、その通常の使用では励起光を提供するが、本発明の方法の実施の際には、試料6中の分子を隔離するために切替光8を提供することができ、試料中の分子の位置が引き続き確定される。ここで分子の隔離は、別の同種の分子が切替光8により暗状態に切り替えられ、この暗状態ではこれら分子が励起光3によってルミネセンス光を放射するように励起できないことに基づくことできる。切替光8は、励起光3の光線路に入力結合され、そのためにここでは二色性ビームスプリッタ9が設けられている。スキャナ10により励起光3の上昇領域ないしゼロ箇所が試料6中でシフトされる。試料6からスキャナ10の前方に配置された二色性ビームスプリッタ11を介して、試料6からのルミネセンス光12は励起光3の光線路から出力結合され、光学系13によりカメラ14に結像される。カメラ14は、ルミネセンス光12のための空間分解能のある検出器の一例である。これとは択一的に、二色性ビームスプリッタ15により試料6からのルミネセンス光12は、ピンホール17が前置されたポイント検出器16に供給される。試料6からのルミネセンス光12は、励起光3によりルミネセンス光の放射が励起される分離された分子から由来する。ルミネセンス光のこの放射の基礎となる過程は光ルミネセンス、とりわけ蛍光性である。試料6は、試料ホルダ18上に配置されている。試料ホルダ18により試料は、例えば付加的にz方向に、すなわち対物レンズ5の光軸の方向に移動することができ、これにより励起光3の強度上昇領域ないし強度分布のゼロ箇所を試料中でこの方向にも、とりわけゼロ箇所に、z方向でも強度最大値が隣接している場合には、移動することができる。カメラ14には試料6が、分子からのルミネセンス光12の光子の空間的分布から分離された分子の局在化がカメラ14を介して可能であるように結像される。しかし本発明の全ての方法において、少なくとも付加的に、試料6中の分子の位置は、励起光の強度上昇領域ないし強度分布のゼロ箇所が試料6中に種々異なって配置される場合、ルミネセンス光12の強度に基づいて確定される。
【0119】
図2には、励起光3の強度分布19が、図1の対物レンズ5の光軸に対して横方向のx方向の一部に沿って示されている。この強度分布は中央のゼロ箇所20を含み、ゼロ箇所では励起光3の強度IAがゼロまで、または少なくともほぼゼロまで戻る。このゼロ箇所20には両側で強度最大値21が隣接している。ゼロ箇所20と強度最大値21との間には、強度上昇領域22が形成されている。これらの強度上昇領域22においては励起光3
の強度IAが、ゼロから飽和強度ISまで、そして更に上昇する。飽和強度ISでは、励起光3により励起されたルミネセンス光12の強度ILが飽和値ISWに達し、この飽和値を超えて強度ILはそれ以上上昇しない。励起光3の強度分布19は、ゼロ箇所20に対して対称に構成されている。すなわち、強度上昇領域は互いに対称に経過する。
【0120】
図3は、分子24が推定的に存在する、試料6中の制限された位置領域23を示す。この位置領域23は、xy平面内にある円である。分子の位置をx方向およびy方向で確定するために、励起光3の強度分布19のゼロ箇所20がxy平面内で、隣接する位置領域に対して4つの位置A~Dに配置される。ここで周辺位置とも称される3つの位置A~Cは、隣接する位置領域23の周囲の円弧25上にあり、ここでは円弧25に沿って等間隔に配置される。ゼロ箇所20の第4の位置Dは、隣接する位置領域23の中心にあり、したがって円弧25の中点にある。別の言い方をすると、位置A~Cはxy平面内で二等辺三角形の角にあり、位置Dはこの三角形の中点にある。試料中のゼロ箇所20の位置A~Dについて、分子24から励起光3による励起に基づいて放射されたルミネセンス光12が記録される。強度上昇領域22がxy平面においてゼロ箇所20を中心に回転対称に構成されている場合、ゼロ箇所20の種々の位置A~Dについて記録されたルミネセンス光12の強度は、とりわけ分子24からそれぞれの位置A~Dまでの間隔aと、その間隔aにわたるルミネセンス光の強度ILの経過26に依存する。この経過が図4にプロットされている。
【0121】
図4には、ゼロ箇所20からの分子24の間隔aA~aDも位置A~Dについてプロットされており、そこから生じるルミネセンス光の強度IA~IDもプロットされている。本発明の第3の実施形態において測定されるこれらの強度から、経過26に基づき所属の間隔aA~aDを求めることができ、更に既知の位置A~Dに対する分子24の位置を確定することができる。強度は、位置A~Dについて記録されたルミネセンス光12の光子の数に依存する、ある程度の精度でしかそれぞれ決定することができないから、分子24の位置も正確にではなく、特定の精度をもってだけ確定することができる。しかしそのために必要なルミネセンス光12の光子の総数と比較すると、本発明の方法で達成される分子24の位置確定の際の精度は非常に高い。特にこの精度は、分子24からのルミネセンス光の光子(これらの光子は、図1のカメラ14のような空間分解能のある検出器により検出される)の空間的分布に基づいて分子24を局在化する場合と比較して格段に高い。位置A~Dに対する分子24の位置を間隔aA~aDに基づいて確定する代わりに、位置A~Dについて測定された強度IA~IDに、経過26を記述する関数を適合することができる。そして試料中の分子24の位置は経過26のゼロ箇所27の位置と同一とすることができる。
【0122】
本発明の第1の実施形態の実地試験において、同じ精度による分子24の局在化のために必要なルミネセンス光の光子の5%未満によって、分子の位置をほぼ1nmの精度で確定することができた。
【0123】
図5にブロック図の形で示された本発明の第1の実施形態の構成は、スタート28後に分子の分離29を開始する。分子が推定的に存在する、制限された位置領域23が決定される。これは例えば、試料6全体に励起光3を印加し、カメラ14に結像された試料からのルミネセンス光12を評価することによって行われる。次に、ゼロ箇所20を所定の位置A~Dに配置し、これらの位置A~Dについてルミネセンス光12を記録することからなるプロシージャ31が行われる。これに続いて、試料中6の分子24の位置が、種々の位置A~Dについて記録されたルミネセンス光12の強度から導出32される。プロシージャ31と導出32が新たに実行されるループ33は、終了34の前に、分子24の位置をまだ高くない精度で確定するために用いることができる。ここでゼロ箇所20の位置A~Dは、最初の導出32の際に確定された試料6中の分子24の位置に更に接近され、励起光の絶対強度が高められる。
【0124】
しかしこのループ33は、試料中で運動する分離された分子24を追跡するために、すなわちトラッキングするために、ゼロ箇所の位置A~Dを密に配置することなく実行することもできる。ここで位置A~Dは常に、先行の導出32の際に決定された分子24の位置の周囲に配置することができる。ここで位置A~Dにより張架される位置領域23は、ルミネセンス光12を最後に記録した後に分子24が試料6中で最大に大きく運動してもこの位置領域が分子を含むように大きく選択される。比較的に大きなループ35は、試料6中の対象構造をマーキングした複数の分子から常に別の分子を分離するためにすべてのステップ29~32の反復を含む。次に分離された分子24の確定された位置の和は、更に精度を向上させて試料6中の対象構造を記述する。
【0125】
本発明の第2の実施形態について図6は、試料6中の初期位置領域23を示し、この初期位置領域内には分子24が先行の測定に基づき存在している。この位置領域は、ここではxy平面内にある円である。分子24の位置をx方向およびy方向で確定するために、励起光3の強度分布19のゼロ箇所20の3つの初期位置がxy平面内で、初期位置領域に対して設定される。ここで位置A~Dは円弧25上に配置される。この円弧は、初期位置領域23の周囲に間隔を置いて延在しており、初期位置領域23は全ての空間方向において位置AからCの間にある。円弧25に沿って位置A~Cは等間隔で配置される。別の言い方をすると、位置A~Cはxy平面内で二等辺三角形の角にある。試料中のゼロ箇所20の位置A~Cについて、分子24から励起光3による励起に基づいて放射されたルミネセンス光12が記録される。強度上昇領域22がxy平面においてゼロ箇所20を中心に回転対称に構成されている場合、ゼロ箇所20の種々の位置A~Cについて記録されたルミネセンス光12の強度は、とりわけ分子24からそれぞれの位置A~Cまでの間隔aと、その間隔aにわたるルミネセンス光の強度ILの経過26に依存する。この経過が図7にプロットされている。
【0126】
図7には、ゼロ箇所20からの分子24の間隔aA~aCも位置A~Dについてプロットされており、そこから生じるルミネセンス光の強度IA~IDもプロットされている。これらの強度が正確に測定される場合、経過26に基づき所属の間隔aA~aCを求めることができ、更に既知の位置A~Cに対する分子24の位置を確定することができる。強度が検出される精度は、位置A~Cについて記録されたルミネセンス光12の光子の数に依存する。したがって強度IA~ICの正確な決定は、ゼロ箇所20の各位置A~Cについて多数の光子を記録することを必要とする。
【0127】
本発明の第2の実施形態は、別のやり方を選択する。本発明によればゼロ箇所の種々の位置A~Cについてルミネセンス光の比較的に少数の光子だけが記録される。すなわち、ゼロ箇所20のそれぞれの位置A~Cが分子24からまだ比較的に遠く離れているか否か、すなわち間隔aA~aCがまだ大きいか否か、および分子24からのゼロ箇所20の種々の間隔aa~acがほぼ等しいかまたは特定のやり方で異なっているか否かについて予測できる程度に多数だけ記録される。位置A~Cの各々において分子24からのルミネセンス光の少数の光子だけを記録すればよいこれら確定の結果に依存して、位置A~Cが初期位置領域23に入り込むようにシフトされる。これは図6の矢印228A1から228C1により示されている。ゼロ箇所20のこのようにシフトされた位置A~Cについて再び、分子24からのルミネセンス光12が記録され、新たな確定が実行される。図6にプロットされた矢印228A1から228C1はゼロ箇所20の位置A~Cを同じ間隔だけ分子23に向かって導くから、ゼロ箇所20のこのようにシフトされた位置A~Cにおいてルミネセンス光12の光子は同じ割合ないし同じ時間的間隔で検出されることとなる。相応して、位置A~Cは引き続きそれらの共通の中点に向かって更にシフトされることとなる。これは図6に矢印228A2から228C2により示されている。実際には位置A
~Cを分子24に接近させるために、位置A~Cのシフトのステップおよび種々の位置A~Cについての分子24からのルミネセンス光の記録のステップを非常に多数反復して実行することができる。ここで、種々の位置A~Cについてのルミネセンス光12の記録は疑似的に同時に行われ、これにより可及的に高速に、光子の割合あるいはその時間的間隔がどのように互いに挙動するかを確定できるようにする。これは、可及的に直ちに、すなわち全部で可及的に少数の光子の後に、位置A~Cを有意義に更に初期位置領域23に入り込むようにシフトし、もって位置A~Cを分子24に接近させるためである。ここでは、各位置A~Cについて次のシフトまでに記録されるルミネセンス光の光子の数はステップごとに相関され、これにより位置A~Cを引き続き有意義にシフトできることが理解される。基本的に全ての位置A~Cを、ルミネセンス光の各記録の後にシフトする必要もない。光子の割合が特に大きい、あるいは光子の時間的間隔が特に小さい位置A~Cだけをシフトすることもできる。このことは、各位置についてある程度の数の光子が記録された場合には各位置A~Cを常にシフトし、一方、まだ記録されていない別の位置A~Cは、とりあえずまだシフトしないようにして行うことができる。本発明の第2の実施形態により、試料中の分子24の位置領域を非常に高速に、すなわち具体的には試料6中の分子24を局在化する場合よりも非常に少数の光子によって非常に強力に絞り込むことができる。位置A~Cがすでに非常に密に並んでいる場合、これらの位置により取り囲まれる位置領域を、分子の位置±達成された精度として出力することができる。しかしゼロ位置20のこの最後の位置A~Cから出発して、分子24の位置を更に正確に確定することもできる。この確定は、例えばこれらの位置A~Cについて決定されたルミネセンス光12の強度から、図7の経過26に基づいて位置を導出することによって行われる。
【0128】
図8にブロック図の形で示された本発明の第2の実施形態の構成は、スタート229後に分子24の分離230を、例えば図1の切替光8によって開始する。次に初期位置領域23の決定231が行われる。設定232の際にゼロ箇所20の初期位置A~Cが初期位置領域23に対して設定される。次にプロシージャ233でゼロ箇所20が位置A~Cに配置され、位置A~Cについて、分子24から放射されたルミネセンス光12が記録される。その際にゼロ箇所20は、位置A~Cの間で往復シフトされ、ルミネセンス光12は種々の位置A~Cについて別個に記録され、ルミネセンス光12は種々の位置A~Cについて疑似的に同時に記録される。後続のシフト234の際に、ゼロ箇所20の位置A~Cは初期位置領域23に入り込むように、ただし種々の位置A~Cについて記録されたルミネセンス光12の光子の割合ないし時間的間隔に依存してシフトされる。プロシージャ233とシフト234はループ235において、ゼロ箇所20の位置A~Cが所望の程度で試料中の分子24の位置に接近するまで反復される。次に確定236の際に、試料中の分子24の位置が、例えば最後の位置A~Cにより画定された位置領域として確定される。ステップ232,233,234および236は、ループ235も含めて、試料6中で分子が運動した場合に分子24を追跡するために、さらなるループ237で繰り返すことができる。このことを分子24のトラッキングと称する。ここで位置A~Cは常に、先行の確定236の際に確定された分子24の位置の周囲に配置することができる。引き続き設定された位置A~Cにより張架される初期位置領域23は、最後のプロシージャ233の後に分子24が試料6中で最大に大きく運動してもこの位置領域が分子を含むように大きく選択される。
【0129】
その代わりに、比較的に大きなループ238において付加的にループ230および231を、複数の同形式の分子24によりマーキングされた試料6中の対象構造を漸次結像するために反復することができる。終了239にはこの場合、対象構造が所望のように完全に結像されると到達する。
【0130】
本発明の第3の実施形態について、図9は、XNにおけるゼロ箇所20の長さに対して生じるルミネセンス光12の強度ILを、試料中の分離された分子の位置xに依存して示す。強度ILは、強度上昇領域22にわたってゼロから飽和値ISWまで上昇する。これは、本発明の第3の実施形態では次のように使用される。例えば分離された分子からのルミネセンス光12の分布から、カメラ14を介して試料6が図1の励起光3により空間的に照明される際に、試料6中に分子の位置が存在する初期位置領域23が決定される。図1のスキャナ10によってゼロ箇所20を位置XN1に位置決めすることにより、ここでは左の強度領域22が試料6中に、この領域が初期位置領域23を覆うように配置される。次に試料6に励起光3を印加する間に、実際の位置x0に存在する分子から放射されるルミネセンス光12が記録され、その強度が決定される。強度I1が決定される精度は、ゼロ箇所のこの位置XN1で記録されるルミネセンス光12の光子の数に依存している。強度が飽和値ISWと同じように正確に既知であれば、強度ILの既知の経過からゼロ箇所20までの間隔にわたり、分離された分子の位置x0を正確に推定することができる。しかしここでは、強度の決定のために記録される光子の数が制限されているので、エラーが残る。同様にエラーは、例えば最初にカメラ14により記録された分子からのルミネセンス光12の光子から飽和値ISWを決定する際にも残る。これに対してルミネセンス光12の強度ILの経過はまさに正確に決定可能である。ゼロ箇所20の近傍では、一光子プロセスによりルミネセンス光12を放射するために分子が励起される際に、この経過は、通常ゼロ箇所20までの間隔に二乗で依存する。したがってI1とISWの決定の際の精度が不正確であっても、I1の測定に基づき、分子の位置x0が存在しており、かつ位置領域23よりも格段に小さいさらなる位置領域324が決定される。このさらなる位置領域324は図9には、I1とISWのエラーのある特定の測定値に対してプロットされている。
【0131】
図10は、分子の実際の位置x0を更に高い精度で、すなわち高い空間分解能により試料6中で確定するために、本発明の第3の実施形態においてさらなる位置領域324に関する知識が、今度はxN2におけるゼロ箇所20の新たな位置決めのためにどのように使用されるかを示す。このためにゼロ箇所20の位置XN2は、左の強度上昇領域22が位置領域324を越えて伸長するように再び配置される。更に励起光3の絶対強度が、ルミネセンス光12の飽和値ISWがゼロ箇所20までの小さな間隔にわたって達成されるように高められる。次にゼロ箇所20のこの位置XN2について、分子からのルミネセンス光12の強度が決定される。次にこの強度I2および飽和値ISWから、分子が試料6中に存在しており、やはり位置領域324よりも小さいさらなる位置領域325を決定することができる。次に、このさらなる位置領域325は、試料中の分子の位置を更に高い精度で確定するために、ゼロ箇所20を試料6中のさらなる位置に位置決めするために使用することができる。しかしこの位置領域325は、試料中の分子の位置x0を、初期位置領域23よりもすでに非常に高い精度で指示する。実際に試料6中の分子の位置x0は、本発明の第3の実施形態により、実質的に1nmのオーダ以下のエラーをもって確定することができる。
【0132】
さらなる位置領域324,325を、強度I1ないしI2およびルミネセンス光12の強度ILの飽和値ISWから確定する代わりに、ゼロ箇所20を試料中の2つの異なる位置XN1aおよびXN1bに配置し、これによりルミネセンス光12の所属の強度を測定し、そしてこれら2つの強度および強度ILの経過から、ゼロ箇所20までの間隔にわたってさらなる位置領域324,325を確定することができる。ここでは飽和値ISWに頼る必要がない。
【0133】
図11は、励起光3のガウス状の強度分布における対応の手順を示す。ここではルミネセンス光12の同様のガウス状の強度分布において飽和限界値に達しないことにより、このガウス状の強度分布は生じる。強度上昇領域22は、ここではガウス状の強度分布の側縁に存在する。試料6中の分子の位置x0の初期位置領域23を制限するために、ここでは励起光3のガウス状の強度分布の重心326が2つの異なる位置XG1aおよびXG1bに位置決めされ、これにより図11ではそれぞれ左の強度上昇領域22が初期位置領域
23を覆う。これらの位置XG1aおよびXG1bの各々について、分子からのルミネセンス光12の強度I1aおよびI1bが記録される。強度I1aおよびI1bからルミネセンス光12の強度ILの経過と共に、重心326までの間隔にわたって、試料6中の分子の位置x0が存在している、比較的に小さなさらなる位置領域324が確定される。ここで図11は、図3および4とは同じ縮尺で図示されておらず、分離された分子を可及的に低く負荷するために、上昇領域22において励起光3の可及的に小さい強度を使用する場合には、励起光3の強度分布の基点の位置xG1a,xG1bを、ゼロ箇所20の位置xN1ないしxN2よりも試料中の分子の対象位置x0から更に遠く離して配置しなければならないことに考慮すべきである。これは、励起光3のガウス状の強度分布は励起光3の波長における回折限界の半値幅を有しており、励起光3の強度が小さい領域はほぼこの半値幅だけ重心326から離れており、一方、強度上昇領域22における励起光3の小さな強度は、ゼロ箇所20を備える励起光3の強度分布においてこのゼロ箇所20に直接隣接するためである。
【0134】
図12は、試料6中の分子の初期位置領域23を、図1の対物レンズ5の光軸に対して垂直のxy平面内に示す。この位置領域の周囲には、ゼロ箇所20の等間隔で離間した4つの位置が、図2の励起光3の強度分布の基点としてプロットされている。ゼロ箇所20の各これらの位置について分子24からのルミネセンス光の強度が記録される場合、そこからさらなる位置領域324を確定することができる。ここで、ゼロ箇所20の図12に示された位置の1つは自由選択であり、これはここでは上方右に示された位置においてスケッチで示されている。対応して、本発明の第3の実施形態の次のステップでは、さらなる位置領域324を、これに隣接する位置にゼロ箇所20を位置決めすることによって、さらなる位置領域325に更に制限することができ、この位置領域は試料6中の分子24の位置を更に小さなエラーで指示する。ここで、ゼロ箇所20の図12に示された位置の1つは自由選択であり、これはここでも上方右にスケッチで示されている。
【0135】
図13は、初期位置領域23およびさらなる位置領域324に対するゼロ箇所20の別の配置を、それぞれ等間隔に離間した3つの位置において示す。これら3つの位置も、分子24の位置が確定される各空間方向xとyに少なくとも2つの異なる位置を含む。
【0136】
図6と7において2次元について示された措置は、3次元にも拡張することができる。更に各位置領域23~325について、ゼロ箇所20のそれぞれ少なくとも4つの位置を設定すべきである。
【0137】
図14は、本発明の第3の実施形態の構成のブロック図である。スタート328後に、初期位置領域23の決定329が行われる。次に特定の位置領域に対して、基点の位置、すなわちゼロ箇所20または重心326が設定330される。後続のステップ331では、励起光3の強度分布が、基点をこれらの位置に配置しながら試料6に指向され、試料6中の分離された分子から放射されるルミネセンス光が記録される。次に、ステップ331で検出されたルミネセンス光の強度に基づいて、さらなる位置領域324が、場合により分子からのルミネセンス光の飽和値ISWを付加的に使用して確定332される。引き続き、位置領域324の寸法により与えられる精度が、当該精度に対する基準値をすでに満たしているか否かの検査333が行われる。検査333の結果、精度がまだ十分に高くなければステップ330~332が繰り返され、設定330の際に基点の位置はさらなる位置領域324に対して設定される。検査333の結果がポジティブであれば、試料6中の分子24の位置を確定するための本方法の終了334に達する。
【0138】
図15は、図14の方法がそのステップ329~333に関して反復して実行される方法のブロック図を示す。ここでスタート328の後に、まず分子の分離335が行われる。次にルーティン336でステップ329~333を使用して、各分離された分子に対してその位置が確定される。検査337の際に、分子によりマーキングされた構造がすでに十分な詳細度で結像されているか否かが検証される。ノーの場合、構造をマーキングする分子のうちのいくつかが新たに分離される。マーキングされた構造が検査337の際に十分に結像されたとみなされる場合、終了334に達する。
【0139】
図16は、試料6中の分離された分子24をトラッキングするための図14のステップ329~333を反復して実行するためのブロック図を示す。これについて、スタート328後に分子24の目下の位置が所望の精度で、ステップ329~333の実行によって確定される。引き続き任意選択で待機338されるか、または直ちに試料6中の分子の目下の位置が新たに確定される。ステップ329~333による分子24の位置の確定を各々反復する際に、試料6中の分子24の最後に確定された最小の位置領域を、新たな初期位置領域にセンタリングして拡張することができ、この新たな初期位置領域は、ステップ329~333の新たな実行に対する初期位置領域23として使用される。最後に確定された最小の位置領域の拡張は、その間の時間ではまだ分子24が、拡張された位置領域から出て移動することができないように行われる。
【符号の説明】
【0140】
符号一覧
1 STED蛍光顕微鏡
2 光源
3 励起光
4 光線形成手段
5 対物レンズ
6 試料
7 光源
8 切替光
9 二色性ビームスプリッタ
10 スキャナ
11 二色性ビームスプリッタ
12 ルミネセンス光
13 光学系
14 カメラ
15 二色性ビームスプリッタ
16 ポイント検出器
17 ピンホール
18 試料ホルダ
19 強度分布
20 励起光3の強度分布19のゼロ箇所
21 最大値
22 強度上昇領域
23 制限された位置領域
24 分子
25 円弧
26 経過
27 経過26のゼロ箇所
28 スタート
29 分離
30 確定
31 プロシージャ
32 導出
33 ループ
34 終了
35 ループ
228 矢印
229 スタート
230 分離
231 確定
232 設定
233 プロシージャ
234 シフト
235 ループ
236 ルーティン
237 ループ
238 ループ
239 終了
324 さらなる位置領域
325 さらなる位置領域
326 励起光3の強度分布19の重心(基点)
328 スタート
329 確定
330 設定
331 ステップ
332 確定
333 検査
334 終了
335 分離
336 ルーティン
337 検査
338 待機
IA 励起光3の強度
IL ルミネセンス光12の強度
IS 励起光3の飽和強度
ISW ルミネセンス光12の強度ILの飽和値
a 間隔
A ゼロ箇所20の位置
B ゼロ箇所20の位置
C ゼロ箇所20の位置
D ゼロ箇所20の位置
aA 分子24からのゼロ箇所20の位置Aの間隔
aB 分子24からのゼロ箇所20の位置Bの間隔
aC 分子24からのゼロ箇所20の位置Cの間隔
aD 分子24からのゼロ箇所20の位置Dの間隔
IA ゼロ箇所20の位置Aにおけるルミネセンス光12の強度
IB ゼロ箇所20の位置Bにおけるルミネセンス光12の強度
IC ゼロ箇所20の位置Cにおけるルミネセンス光12の強度
ID ゼロ箇所20の位置Dにおけるルミネセンス光12の強度
x0 試料6中の分子24の位置
xN1 励起光3の強度分布19のゼロ箇所の位置
xN2 励起光3の強度分布19のゼロ箇所の位置
xG1a 励起光3の強度分布19の重心326の位置
xG1b 励起光3の強度分布19の重心326の位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16