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特許7048585網膜変性疾患の処置に使用するための光遺伝学的に形質転換した光受容体前駆細胞
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】網膜変性疾患の処置に使用するための光遺伝学的に形質転換した光受容体前駆細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20220329BHJP
   C12N 5/079 20100101ALI20220329BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220329BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20220329BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220329BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20220329BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
C12N15/31
C12N5/079
C12N5/10
C12N15/864 100Z
A61P27/02
A61K35/30
A61L27/38 100
A61L27/38 300
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019515990
(86)(22)【出願日】2017-09-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2017074125
(87)【国際公開番号】W WO2018055131
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-08-05
(31)【優先権主張番号】16306225.0
(32)【優先日】2016-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(73)【特許権者】
【識別番号】520088580
【氏名又は名称】テヒニシェ・ウニヴェルジテート・ドレスデン(テーウー・ドレスデン)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】デュベル,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】アーダー,マリウス
(72)【発明者】
【氏名】シャフェオール,アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ガリタ‐ヘルナンデス,マルセラ
(72)【発明者】
【氏名】ランピック,マルサ
(72)【発明者】
【氏名】ダルカラ,デニ
(72)【発明者】
【氏名】グーロー,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】サエル,ジョゼ‐アラン
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-516091(JP,A)
【文献】Molecular Brain (2014) Vol.7, No.45, pp.1-11
【文献】PLoS ONE (2011) Vol.6, No.4, e18992, pp.1-11
【文献】Cell Transplantation (2010) Vol.19, pp.9-19
【文献】Scientific Reports (2016) Vol.6, No.29784, pp.1-15
【文献】Scientific Reports (2015) Vol.5, No.14807, pp.1-11
【文献】PNAS (2013) Vol.110, No.1, pp.354-359
【文献】Biophysical Journal (2011) Vol.101, pp.1326-1334
【文献】Human Molecular Genetics 2011 Vol.20, No.21, pp.4102-4115
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 5/00
A61K 35/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光遺伝学的阻害剤をコードする異種核酸を含む単離した光受容体前駆細胞であって、前記光遺伝学的阻害剤は、ハロロドプシン、アーキロドプシン-3(AR-3)、アーキロドプシン(Arch)、バクテリオロドプシン、プロテオロドプシン、キサントロドプシン、レプトスフェリアマクランス真菌オプシン(Mac)、及びJawsからなる群から選択される、光受容体前駆細胞
【請求項2】
前記光遺伝学的阻害剤は、光に暴露すると細胞を過分極させる、請求項1に記載の光受容体前駆細胞。
【請求項3】
前記光遺伝学的阻害剤は、光ゲート式イオンポンプである、請求項1又は2に記載の光受容体前駆細胞。
【請求項4】
前記異種核酸は、特異的光受容体プロモーターと操作可能に連結される、請求項1~3のいずれか1項に記載の光受容体前駆細胞。
【請求項5】
前記異種核酸は、組換えウイルスベクターに含まれる、請求項1~4のいずれか1項に記載の光受容体前駆細胞。
【請求項6】
前記ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスベクターである、請求項5に記載の光受容体前駆細胞。
【請求項7】
前記光遺伝学的阻害剤は、ハロロドプシン及びJawsから選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の光受容体前駆細胞。
【請求項8】
前記光受容体前駆細胞は、幹細胞の分化によって得られる、請求項1~7のいずれか1項に記載の光受容体前駆細胞。
【請求項9】
前記幹細胞は、誘導多能性幹細胞である、請求項8に記載の光受容体前駆細胞。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の光受容体前駆細胞と薬学的に許容される賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項11】
前記組成物は眼内注入用に製剤化される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
網膜変性疾患の処置に使用するための、請求項1~9のいずれか1項に記載の光受容体前駆細胞又は請求項10若しくは11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記網膜変性疾患は、光受容体の機能喪失又は死に関連する網膜変性疾患である、請求項12に記載の光受容体前駆細胞又は医薬組成物。
【請求項14】
前記細胞又は前記組成物は、眼内注入することで、投与を必要とする対象に投与される、請求項12又は13に記載の光受容体前駆細胞又は医薬組成物。
【請求項15】
前記眼内注入は、目の網膜下腔に注入することである、請求項14に記載の光受容体前駆細胞又は医薬組成物。
【請求項16】
前記網膜変性疾患は、黄斑変性、網膜色素変性、錐体ジストロフィー、アッシャー症候群、桿体ジストロフィー、桿体-錐体ジストロフィー、全色盲、及びバルデー・ビードル症候群からなる群より選択される、請求項12~15のいずれか1項に記載の光受容体前駆細胞又は医薬組成物。
【請求項17】
前記疾患は網膜色素変性である、請求項12~16のいずれか1項に記載の光受容体前駆細胞又は医薬組成物。
【請求項18】
光受容体変性の進行期にある患者における、請求項12~17のいずれか1項に記載の光受容体前駆細胞又は医薬組成物。
【請求項19】
提供される光受容体前駆細胞に光遺伝学的阻害剤をコードする核酸をインビトロで導入するステップを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の光受容体前駆細胞を作製する方法。
【請求項20】
提供される光受容体前駆細胞は、幹細胞の分化によって得られる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記光受容体前駆細胞は、成体幹細胞又は網膜変性疾患に罹患する患者からの体細胞から得た誘導多能性幹細胞の分化によって得られる、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の分野、特に網膜変性疾患の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
光受容体の減少につながる網膜変性疾患は、先進国における治療不能な失明の主要な原因である。後期段階の網膜回復に対して考えられる方法は、電気的網膜インプラント、及び細胞置換療法(幹細胞による方法)又は光遺伝学などの新しい取り組みを含むものである。
【0003】
光受容体前駆細胞を使用する細胞置換療法は、網膜色素変性又は加齢黄斑変性などの失明する疾患における変性光受容体の置換を可能にする。しかしながら、細胞置換療法の主要な問題は、移植した光受容体が光感受性外節の健康な光受容体に成長する必要があるということである。Barber等は、緩徐な網膜変性(Gnat1-/-)の野生型マウスモデルにおいて、光受容体移植後に視機能回復を示したが、急激で重篤な変性モデル(例えばPDE6βrd1/rd1)では細胞置換方法はより困難であることを示した(Barber AC等、Proc Natl AcadSci USA. 2013 Jan 2;110(1):354-9)。これらの動物モデルにおいて、移植前駆細胞は、既存の病気の網膜に良好に取り込まれることができず、光感受性外節の正常で健康な光受容体に成長せず、つまり、機能しているとは考えられない。
【0004】
未熟な光受容体前駆体が機能的外節を作り出す能力は、生理学的状態、特にグリア性瘢痕及び受容者の病気の網膜の外層膜(outer layer membrane、OLM)における変化に多くを依存している(Barber AC等、 Proc Natl Acad Sci USA. 2013 Jan 2;110(1):354-9)。光感受性外節の成長及び維持は、光受容体外節と網膜色素上皮(RPE)との密接な接触を要求する非常に複雑なプロセスである。重要なことは、RPEは光受容体に栄養分を供給し、これが外節の更新(ディスクシェディング)に重要であるということである。最後に、RPEは、オールトランスレチノールから視物質の発色団である11-シスレチナールへの変換に必須であるので、視サイクル(発色団再生)にとって重要なものである。
【0005】
あるいはまた、網膜内層細胞に光感受性を与えることで視機能を回復するために、光遺伝学的ツールが使用される。遺伝子的にコードした光感受性タンパク質を、ウイルスベクターを介して、双極細胞若しくは網膜神経節細胞、又は「休止状態の」錐体に導入する。この方法は、残りの細胞の機能を回復できるのみであって変性神経構造を再生できないことから、いずれにしても限定的である。
ゆえに、特に疾患の進行期にある患者において、光受容体の減少につながる網膜変性疾患を処置する改善された方法が大きく求められている。
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、細胞置換方法を光遺伝学的方法と組み合わせることで、網膜変性疾患の処置が、特に疾患の進行期にある患者において著しく改善できることを示した。その方法は、移植前に、光受容体前駆体に光遺伝学的阻害剤(例えばハロロドプシン又はJaws)を導入することである。この光遺伝学的ツールを発現する細胞を照射することで過分極させて、光に対する健康な光受容体の機能を再現する。この方法の主な利点は、取り込まれた光受容体が、正常に成長した外節も有さずに光遺伝的阻害剤によって視機能を回復するだけでなく、神経変性構造の再生も行うということである。さらに、これらの光遺伝学的に形質転換した光受容体は、RPEと光受容体細胞との間のレチノイド類似体のサイクルを必要としない。
【0007】
したがって、第1の態様において、本発明は、光遺伝学的阻害剤をコードするとともに、好ましくは特異的光受容体プロモーターに操作可能に連結する異種核酸を含む、光受容体前駆細胞、好ましくは単離光受容体前駆細胞に関する。
【0008】
好ましくは、該異種核酸は、組換えウイルスベクター、より好ましくはアデノ随伴ウイルスに含まれる。
【0009】
好ましくは、該光遺伝学的阻害剤は、ハロロドプシン、アーキロドプシン-3(AR-3)、アーキロドプシン(Arch)、バクテリオロドプシン、プロテオロドプシン、キサントロドプシン、レプトスフェリアマクランス真菌オプシン(Mac)、及びJawsからなる群から選択され、より好ましくはハロロドプシン及びJawsから選択される。
【0010】
好ましくは、該光受容体前駆細胞は、幹細胞、より好ましくは誘導多能性幹細胞の分化によって得られる。
【0011】
第2の態様において、本発明は、本発明の光受容体前駆細胞と薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。好ましくは、該組成物は眼内注入用に製剤化される。
【0012】
第3の態様において、本発明は、網膜変性疾患、好ましくは光受容体の機能喪失又は死に関連する網膜変性疾患の処置に使用するための本発明の光受容体前駆細胞又は医薬組成物に関する。
【0013】
好ましくは、該細胞又は組成物は、眼内注入、より好ましくは目の網膜下腔に注入することで、それを必要とする対象に投与される。
【0014】
好ましくは、網膜変性疾患は、黄斑変性、網膜色素変性、錐体ジストロフィー、アッシャー症候群、桿体ジストロフィー、桿体-錐体ジストロフィー、全色盲、及びバルデー・ビードル症候群からなる群から選択される。
【0015】
好ましくは、本発明の光受容体前駆細胞又は医薬組成物で処置される患者は、光受容体変性の進行期にある患者である。
【0016】
最後の態様において、本発明は、i)光受容体前駆細胞を提供するステップと、ii)該前駆細胞に光遺伝学的阻害剤をコードする核酸を導入するステップとを含む、本発明の光受容体前駆細胞を作製する方法に関する。
【0017】
好ましくは、ステップi)で提供される光受容体前駆細胞は、幹細胞の分化、より好ましくは成体幹細胞又は誘導多能性幹細胞の分化によって得られる。特に、光受容体前駆細胞は、網膜変性疾患に罹患した患者の体細胞、例えば線維芽細胞から得た誘導多能性幹細胞によって得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、マウス(上段)又はhiPSC(下段)由来の光遺伝学的に形質転換した光受容体の概略図である。上段では、新生仔野生型マウス(P2)の目に、ロドプシンプロモーターの制御下でNpHRをコードするウイルスベクター(AAV-hRho-NpHR-GFP)を注入した。P4に、網膜を切開し、光受容体特異的マーカーを使用して光受容体前駆体を選別した。そして、これらの採取した細胞を網膜下注入により失明マウスに移植した。下段では、ヒトiPSCを網膜オルガノイドに分化させた。錐体アレスチンプロモーターの制御下でJaws遺伝子を有するウイルスベクター(AAV-mCar-Jaws-GFP)を網膜オルガノイドに感染させた。さらに成熟させた後、細胞を解離し、iPSC由来光受容体を網膜下注入により失明マウスに移植した。
図2A-F】図2は、ハロロドプシンを発現する取り込んだ移植光受容体前駆体は光に反応することを示す。A~DはCpfl1/Rho-/-モデルであり、E~Gはrd1モデルである。A、Eは、1×1016photons・cm-2-1の強度における590nmの光による2回連続フラッシュで刺激したNpHR発現光受容体前駆体の光誘発反応を示す(上部は電流反応、下部は電圧反応)。B、Fは、様々な波長で刺激したNpHR発現細胞に対応する光電流作用スペクトルを示す。25nmのステップによって隔てられた400nm~650nmの範囲の刺激を3.5×1017photons・cm-2-1で使用した。575nmで最大反応を得た。Cは、Bと同様だが、350nm~680nmの連続的な「虹」刺激で行った。D、Gは、刺激周波数の増大における(2Hz~25Hz、3.5×1017photons・cm-2-1)NpHR誘導光電流の変調によって時間特性を示し、25Hzについて拡大トレースを示す。Hは、NpHR光受容体前駆体を移植したCpfl1/Rho-/-モデルとrd1モデルとの光反応特性の比較を示す。Kは反応振幅の比較である。平均光電流ピークは電圧クランプ構成において-40mVで得られ(左上)、又は平均ピーク電圧反応は電流クランプ構成(電流ゼロ)において得られた(右上)。590nm及び1×1016photons・cm-2-1における、(電流クランプ「ゼロ」構成の)2つのモデルの移植細胞の立上り及び減衰時定数の比較を示す(下部)。
図2G-H】図2は、ハロロドプシンを発現する取り込んだ移植光受容体前駆体は光に反応することを示す。A~DはCpfl1/Rho-/-モデルであり、E~Gはrd1モデルである。A、Eは、1×1016photons・cm-2-1の強度における590nmの光による2回連続フラッシュで刺激したNpHR発現光受容体前駆体の光誘発反応を示す(上部は電流反応、下部は電圧反応)。B、Fは、様々な波長で刺激したNpHR発現細胞に対応する光電流作用スペクトルを示す。25nmのステップによって隔てられた400nm~650nmの範囲の刺激を3.5×1017photons・cm-2-1で使用した。575nmで最大反応を得た。Cは、Bと同様だが、350nm~680nmの連続的な「虹」刺激で行った。D、Gは、刺激周波数の増大における(2Hz~25Hz、3.5×1017photons・cm-2-1)NpHR誘導光電流の変調によって時間特性を示し、25Hzについて拡大トレースを示す。Hは、NpHR光受容体前駆体を移植したCpfl1/Rho-/-モデルとrd1モデルとの光反応特性の比較を示す。Kは反応振幅の比較である。平均光電流ピークは電圧クランプ構成において-40mVで得られ(左上)、又は平均ピーク電圧反応は電流クランプ構成(電流ゼロ)において得られた(右上)。590nm及び1×1016photons・cm-2-1における、(電流クランプ「ゼロ」構成の)2つのモデルの移植細胞の立上り及び減衰時定数の比較を示す(下部)。
図3図3は、CPFLマウスモデルの単離網膜におけるGFP陽性移植細胞のライブイメージングを示す。Aは、全組織標本網膜に注入した20日後の移植光受容体細胞の落射蛍光画像である(光受容体側が上)。白色矢印は小球とみなされる(シナプス出力)移植細胞を示す。Bは、移植細胞の密度を示し、光遺伝発現はPR膜に限定されたことを示す2光子ライブ画像である。
図4図4において、移植光受容体のハロロドプシン誘発反応は、網膜神経節細胞に伝達される。A~Cは、移植したCpfl1/Rho-/-マウスにおいて記録したPSTH(刺激前後時間ヒストグラム)及びラスタープロットとして示される多電極アレイ(MEA)記録から得た平均スパイク反応を表す(580nm、1.24×1017photons・cm-2-1)。Aは、オン反応(左)、オフ反応(中央)、又はオン・オフ反応(右)のいずれかで反応する3つのRGCの代表的なトレースを示す。Bは、L-AP4での灌流前(左)及びL-AP4での灌流時のオン反応を示す細胞の代表的なPSTH及びラスタープロットを示す。右に示すような洗浄後の反応と比較して、中央に示すようにL-AP4の適用によりオン型双極細胞反応を特異的に遮断する。PSTHは、10反復を超えて単一細胞に対して計算した平均として示され、同じ細胞のラスタープロットを下に示す。Cは、GFPのみを発現する光受容体前駆細胞を移植したコントロールの網膜の非反応細胞から記録した代表的なPSTH及びラスタープロットを示す。Dは、移植したrd1マウスにおいて記録したPSTH(刺激前後時間ヒストグラム)及びラスタープロットとして示される多電極アレイ(MEA)記録から得た平均スパイク反応を示し(580nm、1.24×1017photons・cm-2-1)、オン反応(左)、オフ反応(中央)、又はオン・オフ反応(右)のいずれかで反応する3つのRGCの代表的なトレースを表す。
図5図5において、移植光受容体のハロロドプシン誘発反応により、失明マウスの光回避挙動を引き起こす。Aは、マウスの光回避挙動を測定するために使用した明暗ボックステストの概略図を示す。Bは、明るい区画で過ごした時間のパーセンテージを示す。コントロール群は、非注入Cpfl1/Rho-/-マウス、GFP発現細胞を移植、N=9であり、ハロロドプシン群は、NpHR-YFP発現細胞を移植、N=12であり、野生型群は、非注入野生型マウスである。各群に対して平均±標準誤差を示す。2.11×1015photons・cm-2-1の照度を使用した。
図6図6において、光遺伝学的刺激が失明rd10マウスの移植光受容体においてハロロドプシン誘導光反応を誘発する。Aは、590nmの光及び1.3×1016photons・cm-2-1の強度の2回連続フラッシュで刺激したハロロドプシン発現細胞の膜電位過分極の代表的な例を示す。Bは、刺激波長の関数としてのハロロドプシン誘導光電流を示す。25nmのステップによって隔てられた400nm~650nmの範囲の刺激を使用した(1.3×1016photons・cm-2-1)。550~575nmで最大反応を得た。Cは、Bと同様だが、350nm~680nmの連続的な「虹」刺激で行った(電流クランプ)。Dは、刺激周波数の増大における(2Hz~25Hz、1.3×1016photons・cm-2-1)ハロロドプシン誘導膜過分極の変調によって時間特性を示す。A~Dのすべてのトレースは、ホールセルパッチクランプ記録技術を使用して得た。
図7図7は、rd10マウスモデルの単離網膜におけるGFP陽性移植細胞のライブイメージングを示す。Aは、全組織標本網膜に注入した20日後の移植光受容体細胞の落射蛍光画像である(光受容体側が上)。白色矢印(右)は小球とみなされる(シナプス出力)移植細胞を示す。Bは、移植細胞の密度を示し、光遺伝発現はPR膜に限定されたことを示す2光子ライブ画像である(左、矢印)。一部の移植細胞は良好な延長性を示した(右、矢印)。
図8図8において、光遺伝学的刺激はドナー細胞においてハロロドプシン誘導光反応を誘発する。Aは、590nmの光及び1.3×1016photons・cm-2-1の強度の2回連続フラッシュで刺激したハロロドプシン発現細胞の膜電位過分極の代表的な例を示す。Bは、刺激波長の関数としてのハロロドプシン誘導光電流(上)又は膜過分極(下)を示す。25nmのステップによって隔てられた400nm~650nmの範囲の刺激を使用した(1.3×1016photons・cm-2-1)。575nmで最大反応を得た。Cは、刺激周波数の増大における(2Hz~25Hz、1.3×1016photons・cm-2-1)ハロロドプシン誘導光電流(上)及び膜過分極(下)の変調を示す。25Hzについて、拡大したトレースを示す。A~Cのすべてのトレースは、ホールセルパッチクランプ記録技術を使用して得た。
図9図9は、ドナーの単離網膜におけるGFP陽性細胞のライブイメージングを示す。Aは、全組織標本網膜にAAV注入した20日後の光受容体細胞の落射蛍光画像である(光受容体側が上)。蛍光は細胞膜に限定された。Bは、蛍光ドナー細胞の高密度を示し、光遺伝発現はPR膜に限定されることを示す2光子ライブ画像である。
図10図10において、網膜オルガノイドにおけるJawsを発現するAAV形質導入hiPS細胞において光遺伝学的刺激が光反応を誘発する。Aは、590nmの光及び3.5×1017photons・cm-2-1の強度の2回連続フラッシュで刺激したJaws発現細胞の光電流の代表的な例である細胞の典型的な光反応を示す。Bは、刺激波長の関数としてのJaws誘導光電流(上)及び過分極(下)を示す。25nmのステップによって隔てられた400nm~650nmの範囲の刺激を使用した(1.3×1016photons・cm-2-1)。575nmで最大反応を得た。Cは、刺激周波数の増大における(2Hz~25Hz、3.5×1017photons・cm-2-1)Jaws誘発膜光電流(上)及び過分極(下)の変調によって時間特性を示し、25Hzについて拡大トレースを示す。B~Dのすべてのトレースは、ホールセルパッチクランプ記録技術を使用して得た。
図11図11は、様々な倍率での網膜オルガノイドにおけるGFP陽性細胞のライブイメージングを示す。観察された蛍光は、Jaws発現がPR膜に限定されることを示す(2光子ライブ画像)。
図12図12は、Jaws陽性光受容体単層の形成(A~B)、70日目の網膜オルガノイドの解離から得たD100単層培養物の明視野画像(C)、GFP(C)、DAPI(D)、光受容体マーカーリカバリン(E)、3チャンネルの統合(F)に対して染色した70日目の網膜オルガノイドの解離から得たD100単層培養物の免疫蛍光を示す。スケールバーは、A~Bは10μm、C~Fは50μmである。
図13図13において、Aは、Jaws(GFP)及びCRX、Jaws及びRCVN、Jaws及びPDE6C、並びにJaws及びR/Gオプシンを標識する感染網膜オルガノイドを移植した100日齢のrd10マウスの網膜切片への免疫染色、Bは、Jaws(GFP)及びPKCA、Jaws及びRIBEYEを標識する移植した100日齢のrd10マウスの網膜切片への免疫染色を示す。
図14図14は、90日齢rd10マウスの明暗ボックス挙動テストを示す。Aは、非移植rd10マウス(n=12)、単眼移植rd10マウス(n=10)、両眼移植rd10マウス(n=3)における(B)、光条件の明るいボックスで過ごした時間(%)を表す。*:p<0.0070及び**:p<0.0091。
図15図15は、hiPSC由来の取り込まれた移植Jaws陽性光受容体は光に反応することを示す。A~DはCpfl1/Rho-/-モデルであり、E~Gはrd1モデルである。A、Dは、Cpfl1/Rho-/-モデル(図15A)及び又はrd1モデル(図15D)において、3.5×1017photons・cm-2-1の強度における590nmの光による2回連続フラッシュで刺激した、Jaws発現細胞の代表的な光電流(上)及び電圧過分極(下)を示す。B、Fは、様々な波長で刺激したJaws発現細胞に対応するJaws誘導過分極作用スペクトルを示す。25nmのステップによって隔てられた400nm~650nmの範囲の刺激を3.5×1017photons・cm-2-1で使用した。575nmで最大反応を得た。C、Gは、移植失明マウスにおいて刺激周波数を増大させた(2Hz~30Hz、3.5×1017photons・cm-2-1)Jaws誘導過分極の変調によって時間特性を示し、Cにおいて25Hzの拡大トレースを示す。Eは、光刺激強度の関数としてのJaws電圧反応を示す(1014~1017photons・cm-2-1)。
図16図16は、介在ニューロンを介したhiPSから神経節細胞への信号伝達の概略図を示す。A~Cは、1017photons・cm-2-1の590nm光刺激に反応する3つの異なる細胞タイプの、hiPS細胞を移植したrd1マウスにおける連続する電気生理学的記録を示し、この実施例では、移植細胞からの入力信号がどのようにオフINL細胞に、最終的にはオフ神経節細胞に伝達され得るかを示している。Aは、2回連続フラッシュで刺激したJaws発現細胞の代表的な光電流を示す。Bは、Jawsを発現しないが周囲のJaws-hiPS移植細胞に接続すると考えられる(左側画像)INL層における2次細胞(オフ細胞)からの代表的な電流(下部)及び電圧(上部)反応を示す。Cは、Bに示す2次ニューロンから仮説上は入力を受けているとされるオフ神経節細胞(3次ニューロン)反応(スパイク活性)記録の例を示す。
図17図17は、Jawsによって媒介される光反応が網膜神経節細胞に伝達されることを示す。A~Dは、移植した失明Cpfl1/Rho-/-マウスのPSTH及びラスタープロットとして示されるMEA記録から得た平均スパイク反応を示す。Aは、Cpfl1/Rho-/-マウスにおいてオフ反応(左)又はオン・オフ反応(右)のいずれかで反応する2つのRGCの代表的な例を示す(580nm、1.24×1017photons・cm-2-1)。Bは、450~650nmの範囲の波長に対して構成された代表的なPSTH及びラスタープロットを示す(1.24×1017photons・cm-2-1)。Cは、より低い光強度(それぞれ、580nm、1016photons・cm-2-1及び1015photons・cm-2-1)、Dは、1秒~1ミリ秒の範囲のより短い光パルス(580nm、1.24×1017photons・cm-2-1)における代表的な細胞の平均スパイク反応及びラスタープロットを示す。Eは、GFPのみを発現するiPSC由来光受容体を移植したコントロールの網膜の非反応細胞から記録した代表的なPSTH及びラスタープロットを示す。Fは、移植したrd1マウスにおいて記録したPSTH(刺激前後時間ヒストグラム)及びラスタープロットとして示される多電極アレイ(MEA)記録から得た平均スパイク反応を示し(580nm、1.24×1017photons・cm-2-1)、オン反応(左)、又はオフ反応(右)のいずれかで反応する2つのRGCの代表的なトレースを表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、本明細書において、細胞置換方法を移植前の光受容体前駆細胞における光遺伝学的阻害剤の導入と組み合わせることからなる新規の治療方法を使用して網膜変性疾患の処置が大きく改善可能であること示した。この手法は、光受容体過分極におけるこれらの細胞の移植の利益を向上させる。
【0020】
発明者らは、重度の網膜変性のマウスモデルにおいて微生物オプシンを発現する光受容体前駆体の移植により、これらの処置マウスにおいて視覚的に誘導された挙動を回復可能であることを示した。また、発明者らは、これらの移植光受容体がホスト動物の網膜に良好に取り込まれることができ、残りの網膜内層回路にシナプス結合を形成することができること、及び、微生物オプシンによって誘導される信号が失明マウスの出力ニューロンに伝達されることを観察した。
【0021】
[定義]
本明細書において使用するとき、「核酸」又は「ポリヌクレオチド」という用語は、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドである、任意の長さのヌクレオチドの重合形態を指す。つまり、この用語は、一本鎖、二本鎖、若しくは多重鎖のDNA若しくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、又はプリン塩基及びピリミジン塩基を含む、若しくは他の天然、化学的、若しくは生化学的に修飾した、非天然の、若しくは生成したヌクレオチド塩基を含む重合体を包含するが、これらに限定されない。ポリヌクレオチドの骨格は、(RNA又はDNAに通常見受けられ得るように)糖とリン酸基、又は修飾若しくは置換された糖若しくはリン酸基を含むことができる。あるいは、ポリヌクレオチドの骨格は、ホスホロアミダイトなどの合成サブユニットの重合体を含むことができ、つまり、オリゴデオキシヌクレオシドホスホロアミダイト(P-NH2)又は混合ホスホロアミダイトホスホジエステルオリゴマーであり得る。本発明の核酸は、化学合成、組換え、突然変異誘発を含む、当業者に既知の任意の方法によって作製することができる。好ましい実施形態において、本発明の核酸はDNA分子、好ましくは二本鎖DNA分子であり、好ましくは当業者に既知の組換え方法によって合成される。
【0022】
本明細書において使用するとき、「プロモーター」という用語は、プロモーターが操作可能に連結する核酸の転写を行わせる調節因子を指す。プロモーターは、操作可能に連結した核酸の転写の速度と効率との両方を調節可能である。プロモーターは、核酸のプロモーター依存性転写を促進(「促進因子」)又は制御(「制御因子」)する他の調節因子に操作可能に連結することもできる。本明細書において使用するとき、「特異的プロモーター」という用語は、主に特定の組織又は細胞タイプに活性であるプロモーターを指すと理解される。他の組織又は細胞における、一般には低い残存発現は完全には除外できないことが理解される。本明細書において使用するとき、「特異的光受容体プロモーター」という用語は、光受容体細胞又はその前駆体に特異的な転写プロモーター活性を有するプロモーターを指すと理解される。
【0023】
「対象」又は「患者」という用語は、網膜を有する動物、好ましくは哺乳動物、さらにより好ましくは、成人、子供、出生前段階のヒトを含むヒトを指す。
【0024】
本明細書において使用するとき、「処置」、「処置する」、又は「処置すること」という用語は、疾患の治療、防止、予防、及び遅延などの患者の健康状態を改善することを意図する任意の行為を指す。所定の実施形態において、そうした用語は、疾患の又は疾患に関連した症状の緩和又は根絶を指す。他の実施形態において、この用語は、そうした疾患を有する対象に1つ以上の治療剤を投与することでもたらされた疾患の広がり又は悪化の最小化を指す。
【0025】
特に、「網膜変性疾患の処置」という用語は、光受容体の光検知能力の維持又は改善を指し得る。特に、この用語は、視力の回復、改善、又は維持を指し得る。
【0026】
「治療有効量」によって、上述で規定するような処置、特に網膜変性疾患の処置をなすのに十分であり、対象に投与される、例えば本発明の光受容体前駆細胞などの治療剤の量を意図する。網膜変性疾患を処置するための本発明の方法において、本発明の医薬組成物又は光受容体前駆細胞は、好ましくは眼球内に、より好ましくは目の網膜下腔に注入することで、投与する。特に、光受容体前駆細胞又は医薬組成物は、好ましくは、神経網膜と、重なっているRPEとの間に注入される。
【0027】
第1の態様において、本発明は、光遺伝学的阻害剤をコードする異種核酸を含む、光受容体前駆細胞、好ましくは単離光受容体前駆細胞に関する。
【0028】
本明細書において使用するとき、「単離」という用語は、光受容体前駆細胞に関して、その自然環境にない、すなわち対象又は患者にはない光受容体前駆細胞を指す。単離光受容体前駆細胞は、例えば、細胞培養物、細胞懸濁液、又は医薬組成物内に配することができる。単離光受容体前駆細胞は、他の細胞又は細胞タイプと相互作用し得る。特に、オルガノイド又は組織などのエクスビボ又はインビトロ細胞系に含むことができる。
【0029】
光受容体前駆細胞は、光受容体細胞への分化に関与する十分に分化されていない、非分裂細胞である。本明細書において使用するとき、「光受容体細胞」という用語は、錐体光受容体細胞又は桿体光受容体細胞を指す。このように、本明細書において使用するとき、「光受容体前駆細胞」という用語は、桿体光受容体前駆細胞又は錐体光受容体前駆細胞を指し得る。光受容体前駆細胞は、好ましくは、有糸分裂後の光受容体前駆体、すなわち、桿体光受容体への分化に特異的である細胞である。好ましくは、光受容体前駆細胞はCD73を発現する。好ましくは、光受容体前駆細胞はCD73及びCD24を発現する。
【0030】
実施形態において、光受容体前駆細胞は、ドナー(例えば死体ドナーの目)又は処置される対象の、好ましくは処置される対象からの網膜から得られる。
【0031】
他の実施形態において、光受容体前駆細胞は、幹細胞、特に胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、成体幹細胞、又は胎児幹細胞から得られる。他の実施形態において、光受容体前駆細胞は分化胚性幹細胞から得られる。
【0032】
ヒト胚性幹細胞からの光受容体前駆細胞の作製は、倫理的問題に見合うものである。一実施形態において、胚性幹細胞は非ヒト胚性幹細胞である。他の実施形態において、ヒト胚性幹細胞は、方法自体又は任意の関連行為にはヒト胚の破壊を含まないという条件で用いられ得る。
【0033】
胚性幹細胞は、着床前胚盤胞の内部細胞塊に由来する。胚性幹細胞は、未分化状態を維持可能である、又は外胚葉、内胚葉、及び中胚葉の3つすべての胚葉由来の系統に沿って成熟させることができる。本発明において、胚性幹細胞は、主要な発生シグナル経路の操作によって、例えばアクチビン-A及び血清に加えノーダル及びwnt経路のアンタゴニストを使用して(Watanabe K等、Nat Neurosci. 2005 Mar;8(3):288-96.)、ノッチシグナル経路を阻害して(Osakada F等、Nat Protoc. 200;4(6):811-24)、光受容体へ分化することができる。光受容体前駆細胞は、当業者に既知の任意のプロトコルを使用して胚性幹細胞から得ることができる(Osakada F等、Nat Biotechnol. 2008 Feb;26(2):215-24; Amirpour N等、Stem Cells Dev. 2012 Jan;21(1):42-53; Nakano T等、Cell Stem Cell. 2012 Jun 14;10(6):771-85; Zhu Y等、Plos One. 2013;8(1):e54552; Yanai A等、Tissue Eng Part C Methods. 2013 Oct;19(10):755-64; Kuwahara A等、Nat Commun. 2015 Feb 19;6:6286; Mellough CB等、Stem Cells. 2015 Aug;33(8):2416-30; Singh RK等、Stem Cells Dev. 2015 Dec 1;24(23):2778-95)。
【0034】
好ましくは、光受容体前駆細胞は、iPS細胞又は成体幹細胞、より好ましくはiPS細胞から得られる。
【0035】
誘導多能性幹(iPS)細胞は、いくつかの特定遺伝子のみの導入が細胞を多能性にするのに必要とされるリプログラミングとして既知のプロセスを介して、非多能性細胞、通常は成体体細胞に由来するものである(例えば、ヒト細胞のOCT4、SOX2、KLF4、及びC-MYC)。iPS細胞使用の一利益は、胚性細胞の使用を全体的に回避して、ゆえにその倫理的問題を退けることである。
【0036】
つまり、好ましい実施形態において、光受容体前駆細胞は、iPS細胞由来光受容体前駆細胞である。iPS細胞は、処置される対象又は他の対象から得ることができる。好ましくは、iPS細胞は、処置される対象の細胞に、特にこの対象の線維芽細胞に由来するものである。
【0037】
光受容体前駆細胞は、当業者に既知の任意の分化方法を使用してiPS細胞から得ることができる。特に、光受容体前駆細胞は、iPS培地においてコンフルエントに広がったヒトiPS細胞から得ることができる。(例えば、Essential 8培地、GIBCO、Life Technologies)。コンフルエント後、培地を前神経用培地(例えば、1%のN2サプリメントを添加したEssential 6培地、GIBCO、Life Technologies)に28日間換えた。28日目に、ニードルを用いて、同定した神経網膜様構造を単離し、FGF2を添加した成熟培地(例えば、DMEM/栄養混合物F-12、1%のMEM非必須アミノ酸、2%のB27サプリメント(Life Technologies))にプレーティングした。35日目に、FGF2を取り除き、網膜オルガノイドを、分化の42日目から49日目に添加したγセクレターゼ阻害剤のN-[N-(3、5-ジフルオロフェナセチル)-l-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステル(DAPT)とともにさらに成熟培地にて培養した。70日目に、ヒト由来の移植可能な光受容体前駆体を得る。
【0038】
また、光受容体前駆細胞は、当業者に既知の任意の他のプロトコル(Lamba, Osakada and colleagues (Lamba等、Proc Natl Acad Sci USA. 2006 Aug 22;103(34):12769-74;, Lamba等、Plos one. 2010 Jan 20;5(1):e8763; Osakada等、Nat. Protoc. 2009;4(6):811-24; Meyer JS等、Proc Natl Acad Sci USA. 2009 Sep 29; 106(39):16698-703 ;Meyer JS等、Stem Cells. 2011 Aug ;29(8) :1206-18; Mellough CB等、Stem Cells. 2012 Apr;30(4):673-86; Boucherie C等、Stem Cells. 2013 Feb ;31(2) :408-14 ; Sridhar A等、Stem Cells Transl Med. 2013 ;2(4) :255-64 ;Tucker BA等、Elife. 2013 Aug 27,2:e00824 ; Tucker BA等、Stem Cells Transl Med. 2013 Jan ;2(1) :16-24 ;Reichman S等、Proc Natl Acad Sci USA. 2014 Jun10 ;111(23) :8518-23 ; Zhong X等、Nat Commin. 2014 Jun 10 ;5 :4047 ; Wang X等、Biomaterials. 2015 Jun ;53 :40-9)を使用してヒトiPS細胞から得ることができる。
【0039】
本発明の光受容体前駆細胞は、光遺伝学的阻害剤をコードする異種核酸を含む。
【0040】
本明細書において使用するとき、「異種核酸」という用語は、その自然環境には存在しない遺伝子、ポリヌクレオチド、又は核酸配列を指す。特に、この用語は、光受容体細胞又は光受容体前駆に自然には存在しない核酸分子を指す。換言すると、この用語は、外来の由来物若しくは種に由来する、又は同じ由来物の場合その元の形態から改変した核酸を指す。
【0041】
異種核酸は、光遺伝学的阻害剤をコードする任意の核酸配列であってもよい。
【0042】
本明細書において使用するとき、「光遺伝学的ツール」という用語は、光強度の増大後に標的細胞の膜電位を変化させる分子を指す。分子は、標的細胞を過分極又は脱分極させることができる。本明細書において使用するとき、「光遺伝学的阻害剤」という用語は、光遺伝学的ツールを発現するニューロンを過分極させて、不活性化させる光遺伝学的ツールを指す。
【0043】
光遺伝学的阻害剤は、光に暴露すると細胞を過分極させる。細胞を過分極させると、細胞の内部負電荷が短期間、さらに負になる。さらに負に変化させることで、膜電位を活動電位しきい値にするのに必要な刺激を増大させて活動電位を阻害する。特定の実施形態において、光遺伝学的阻害剤は、フォトンの吸収により、クロライドイオンを内側に輸送する、及び/又はカチオンを外側に輸送する光ゲート式イオンポンプである。特定の実施形態において、フォトンの吸収により、クロライドイオンを内側に又はカチオンを外側に輸送する、任意の適切な光ゲート式網膜依存イオンポンプは、光遺伝学的阻害剤として使用することができる。光遺伝学的阻害剤の例は、古細菌ナトロノモナス・パラオニス(NpHR)のハロロドプシン、改良ハロロドプシン(eNpHR2.0及びeNpHR3.0)、及びレッドシフトハロロドプシンのハロ57などのハロロドプシン、アーキロドプシン-3(AR-3)、アーキロドプシン(Arch)、改良バクテリオロドプシン(eBR)などのバクテリオロドプシン、プロテオロドプシン、キサントロドプシン、レプトスフェリア・マキュランス(Leptosphaeria maculans)真菌オプシン(Mac)、Jawsとも呼称されるクラックスハロロドプシン(cruxhalorhodopsin)のJaws、並びにそれらの変異体を含むが、これらに限定されない。好ましくは、光遺伝学的阻害剤は、ハロロドプシン、並びに改良ハロロドプシン(eNpHR2.0及びeNpHR3.0)及びレッドシフトハロロドプシンのハロ57などのその誘導体、並びにJaws、より好ましくは改良ハロロドプシン及びJawsから選択される。
【0044】
本明細書に記載の光遺伝学的阻害剤の一部は、改変のない天然のタンパク質である。
【0045】
特定の実施形態において、光受容体前駆細胞は、一般に、光遺伝学的阻害剤をコードする異種核酸配列を含む発現カセット又は発現ベクターを該細胞に導入して遺伝子学的に改変される。本明細書において使用するとき、「発現カセット」という用語は、コード配列及び該コード配列の発現に必要とされる1つ以上の制御配列を含む核酸構築物を指す。特に、これらの制御配列の1つは、コード配列の発現を促進するプロモーターである。
【0046】
好ましくは、光遺伝学的阻害剤をコードする核酸配列は、光受容体前駆細胞が認識するプロモーターに操作可能に連結される。プロモーターは、光遺伝学的阻害剤の発現を媒介する転写制御配列を含む。プロモーターは、突然変異体の、トランケートした、及びハイブリッドのプロモーターを含む、光受容体前駆細胞において転写活性を示す任意のポリヌクレオチドであってもよい。プロモーターは、構成的プロモーター又は誘導的プロモーター、好ましくは構成的プロモーターであってもよい。
【0047】
適切なプロモーターの例は、ロドプシンプロモーター、錐体アレスチンプロモーター、cGMPホスホジエステラーゼ(PDE)プロモーター、光受容体間レチノイド結合タンパク質(IRBP)プロモーター、SV40プロモーター、CMVプロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼプロモーター、RPE-65プロモーター、組織メタロプロテアーゼ阻害物質3(Timp3)プロモーター、及びチロシナーゼプロモーターを含むが、これらに限定されない。
【0048】
特定の実施形態において、プロモーターは組織特異的、特に光受容体細胞又は光受容体前駆細胞に特異的である。好ましくは、該特異的プロモーターは、ロドプシンプロモーター、錐体アレスチンプロモーター、cGMPホスホジエステラーゼ(PDE)プロモーター、光受容体間レチノイド結合タンパク質(IRBP)プロモーターからなる群から選択される。
【0049】
好ましい実施形態において、プロモーターは、ロドプシンプロモーター及び錐体アレスチンプロモーターからなる群から選択される。特定の実施形態において、光受容体前駆細胞は桿体光受容体前駆細胞であり、プロモーターはロドプシンプロモーターである。他の特定の実施形態において、光受容体前駆細胞は錐体光受容体前駆細胞であり、プロモーターは錐体アレスチンプロモーターである。
【0050】
また、発現カセットは、適切な転写開始、終了、及び促進因子配列、スプライス信号及びポリアデニル化信号などの効果的なRNAプロセシング信号、細胞質のmRNAを安定化する配列、転写効率を向上する配列(すなわちコザックコンセンサス配列)、及び/又はタンパク質の安定性を向上させる配列も含むことができる。例えば、天然の、構成的、誘導的、及び/又は組織特異的な多くの発現制御配列が当該分野において知られており、光遺伝学的阻害剤をコードする核酸配列の発現を促進するために使用することができる。
【0051】
核酸配列又は発現カセットは発現ベクターに含まれてもよい。本明細書において使用するとき、「ベクター」という用語は、インビトロ又はインビボで、遺伝物質を伝達する、特に核酸を宿主細胞に送達する媒体として使用される核酸分子を指す。ベクターは、例えば、プラスミド、染色体外因子、小染色体、又は人工染色体などの、自己複製ベクター、すなわち染色体外成分として存在しその複製は染色体複製から独立するベクターであってもよい。ベクターは、自己複製を確実にするための任意の手段を含んでもよい。あるいは、ベクターは、宿主細胞に導入されるとゲノムに組み込まれ、ベクターが組み込まれた染色体と共に複製されるものであってよい。
【0052】
好ましくは、異種核酸、発現カセット、又はベクターは、宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それが組み込まれた染色体と共に複製される。
【0053】
適切なベクターの例は、組換えの組込み又は非組込みウイルスベクター、並びに組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNA又はコスミドDNA由来のベクターを含むが、これらに限定されない。好ましくは、ベクターは組換えの組込み又は非組込みウイルスベクターである。組換えウイルスベクターの例は、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(Adeno-associatedvirus)、又はウシパピローマウイルス由来のベクターを含むが、これらに限定されない。
【0054】
好ましくは、光遺伝学的阻害剤をコードする異種核酸又は発現カセットは、組換えアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、又はレンチウイルスベクターに含まれる。
【0055】
好ましい実施形態において、ベクターは組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、すなわち本発明の光受容体前駆細胞は、光遺伝学的阻害剤を発現するAAV形質導入光受容体前駆細胞である。
【0056】
ヒトパルボウイルスのアデノ随伴ウイルス(AAV)は、自然には複製できないディペンドウイルスであり、感染細胞のゲノムに組み込んで潜伏感染を行うことができる。最後の特性は、染色体19(19ql3.3-qter)に位置する、AAVSIと呼称されるヒトゲノムの特定の部位で組込みが起こることから、哺乳動物のウイルスのなかでも特有であると考えられる。ゆえに、AAVは、ヒト遺伝子治療用の使用可能なベクターとして考慮されるべき対象となっている。ウイルスの好ましい特性には、任意のヒト疾患との関連がないこと、分裂細胞と非分裂細胞との両方に感染できること、感染可能な種々の組織由来の広範囲の細胞株がある。
【0057】
本明細書において使用するとき、「AAVベクター」という用語は、少なくとも1つのAAV末端逆位反復配列(ITR)、好ましくは2つのITRが側部に位置する、1つ以上の異種配列(すなわち、例えば光遺伝学的阻害剤をコードする配列などAAV由来ではない核酸配列)を含むポリヌクレオチドベクターを指す。そうしたAAVベクターは、適切なヘルパーウイルスに感染させる(又は適切なヘルパー機能を発現する)とともにAAVのrep及びcap遺伝子産物(すなわちAAVのRep及びCapタンパク質)を発現する宿主細胞に存在するとき、複製して、感染性ウイルス粒子にパッケージングすることができる。「末端逆位反復」又は「ITR」配列は、当該技術分野において十分に理解されている用語であり、反対の位置にあるウイルスゲノムの末端に見受けられる比較的短い配列を指す。「AAV末端逆位反復(ITR)」配列は、天然の一本鎖AAVゲノムの両末端に存在する約145のヌクレオチドの配列である。ITRにおける最外の125のヌクレオチドは、2つの別の位置のいずれかに存在して、種々のAAVゲノム同士の間及び単一のAAVゲノムの2つの端部の間で不均質性をもたらし得る。また、最外の125のヌクレオチドは、いくつかのより短い自己相補領域(指定したA、A’、B、B’、C、C’及びD領域)を含んで、鎖内塩基対形成をこのITR部分内で行うことができる。AAVのITRは、野生型ヌクレオチド配列を有してもよく、又は挿入、削除、又は置換によって変化させることができる。AAVベクターの末端逆位反復(ITR)の血清型は、任意の既知のヒト又は非ヒトAAV血清型から選択することができる。
【0058】
ベクターは、栄養要求性マーカー(例えば、LEU2、URA3、TRP1、又はHIS3)などの選択マーカーをコードする1つ以上の核酸配列、蛍光若しくは発光タンパク質などの検出可能な標識(例えば、GFP、eGFP、DsRed、CFP、YFP)、又は化学的・毒性化合物に対する耐性を与えるタンパク質(例えば、テモゾロミドに対する耐性を与えるMGMT遺伝子)をさらに含むことができる。これらのマーカーは、ベクターを含む宿主細胞を選択又は検出するために使用可能であり、宿主細胞に対応して当業者が容易に選択可能である。
【0059】
ベクターは、ウイルスカプシドにパッケージングして「ウイルス粒子」を作製することができる。特に、ベクターは、AAV由来カプシドにパッケージングして少なくともの1つのAAVカプシドタンパク質及びカプシド形成したAAVベクターゲノムから構成された「アデノ随伴ウイルス粒子」又は「AAV粒子」を作製した、AAVベクターであってもよい。
【0060】
カプシド血清型は、AAV粒子の指向性範囲を決定する。12のヒト血清型及び非ヒト霊長動物の100を超える血清型を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)の複数の血清型が現在特定されている(Howarth等、2010, Cell BiolToxicol 26: 1-10)。これらの血清型のなかでも、ヒト血清型2は、遺伝子伝達ベクターとして開発された最初のAAVであった。現在使用される他のAAV血清型は、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh8、AAV9、AAV10、AAVrh10、AAV11、AAV12、AAVrh74、及びAAVdj等を含むが、これらに限定されない。
【0061】
特定の実施形態において、AAVベクターは、AAV2、AAV9、AAV9-2YF、AAV5、AAV2-7m8(Dalkara D等、Gene Ther. 2012Feb;19(2):176-81; Dalkara D等、Sci Transl Mes. 2013 Jun 12;5(189):189ra76)又はAAV8カプシドからなる群より選択されるAAV由来カプシドを含む。
【0062】
さらに、非天然の改変変異体及びキメラAAVも有用であり得る。特に、カプシドタンパク質は、効果的に分解するため及び/又は核へと正確に伝達するため、形質導入効果を向上させ、免疫原性を最小化し、安定性及び粒子生存期間を調整するように、1つ以上のアミノ酸置換を含む変異体であってもよい。突然変異AAVカプシドは、エラープローンPCRによって挿入したカプシド改変及び/若しくはペプチド挿入、又は1又は複数のアミノ酸置換を含むことで、得られる。特に、突然変異は、天然又は非天然カプシドタンパク質の任意の1つ以上のチロシン残基に行ってもよい(例えば、VP1、VP2、又はVP3)。好ましくは、突然変異残基は表面露出チロシン残基である。例示の突然変異は、Y252F、Y272F、Y444F、Y500F、Y700F、Y704F、Y730F、Y275F、Y281F、Y508F、Y576F、Y612G、Y673F、及びY720Fなどのチロシンからフェニルアラニンへの置換を含むが、これらに限定されない。
【0063】
AAV天然血清型を使用する代わりに、非天然発生カプシドタンパク質を有するAAVを非限定的に含む、人工AAV血清型も使用することができる。そうした人工カプシドは、異なる選択AAV血清型、同じAAV血清型の非隣接部分、非AAVウイルス源、又は非ウイルス源から得たものであり得る異種配列と組み合わせた選択AAV配列(例えば、VPIカプシドタンパク質のフラグメント)を使用して、任意の適切な技術で作製することができる。人工AAV血清型は、非限定的に、キメラAAVカプシド又は突然変異AAVカプシドであり得る。キメラカプシドは、少なくとも2つの異なるAAV血清型由来のVPカプシドタンパク質を含む、又は、少なくとも2つのAAV血清型由来のVPタンパク質領域若しくはドメインを組み合わせた少なくとも1つのキメラVPタンパク質を含む。AAV粒子は、同じ血清型又は混合血清型(すなわち偽型AAV)のウイルスタンパク質及びウイルス核酸を含むことができる。例として、組換えAAVベクターは、AAV2ゲノム及びAAV1カプシドタンパク質を含む、AAV血清型2/1ハイブリッド組換え遺伝子伝達システムであってもよい。当業者は、そうしたベクター並びにそれらの構築方法及び使用方法を熟知しており、例えば国際公開第01/83692号が参照される。
【0064】
本発明に使用するAAVベクターは、当業者によって容易に選択されることができる。
【0065】
好ましい実施形態において、光遺伝学的阻害剤をコードする異種核酸又は発現カセットを含むAAVベクターは、血清型2若しくは9のAAVベクター、又は例えばAAV9-2YF又はAAV2-7m8などのAAV-2若しくはAAV-9由来AAVベクター(Dalkara D等、Gene Ther. 2012Feb;19(2):176-81; Dalkara D等、Sci Transl Mes. 2013 Jun 12;5(189):189ra76)である。
【0066】
核酸構築物、発現カセット、又はベクターは、リン酸カルシウム-DNA沈殿法、DEAEデキストラン遺伝子導入法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法、リポフェクション法、ウイルス感染法を含むがこれらに限定されない任意の既知の技術を使用して、光受容体前駆細胞に運搬することができる。
【0067】
さらなる態様において、本発明はまた、本発明の光受容体前駆細胞と薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0068】
また、上述のすべての実施形態はこの態様においても考慮される。薬学的に許容される賦形剤は、投与経路に対応して選択される。本明細書において使用するとき、「薬学的に許容される」という用語は、動物及び/又はヒトにおける使用について、規制機関又は欧州薬局方などの指定薬局方によって承認されたことを意味する。「賦形剤」という用語は、それとともに治療剤が投与される希釈剤、アジュバント、担体、又はビヒクルを指す。当該技術分野では既知であるように、薬学的に許容される賦形剤は、薬理的に有効な物質の投与を容易にする比較的不活性の物質であり、液剤又は懸濁剤として、乳剤として、又は使用前に液体に溶解又は懸濁することに適した固体剤形として提供することができる。例として、賦形剤は、剤形若しくは硬度を与える、又は希釈剤として機能することができる。適切な賦形剤は、安定化剤、湿潤及び乳化剤、異なる重量モル浸透圧濃度のための塩、内包剤、pH緩衝物質、及び緩衝剤を含むが、これらに限定されない。そうした賦形剤は、不適当な毒性なく投与できる、目に直接的に送達することに適する任意の医薬剤を含む。
【0069】
好ましくは、組成物は、特に目の網膜下腔に、好ましくは網膜と、重なっているRPEとの間に、眼球内注入によって投与するように製剤化される。そうした投与に適する医薬組成物は、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、溶質、又は懸濁化剤若しくは増粘剤を含み得る、1つ以上の薬学的に許容される滅菌等張水性溶液(例えば等張性の0.9%NaCl)若しくは非水性溶液(例えば平衡塩溶液(BSS))、分散剤、懸濁剤、若しくは乳剤、又は使用直前に滅菌注射液剤又は懸濁剤にすることができ得る滅菌粉末、と組み合わせた光受容体前駆細胞を含むことができる。薬学的に許容される賦形剤の適切な記載は、Remington'sPharmaceutical Sciencesの15版にて入手可能である。
【0070】
任意的に、本発明の光受容体前駆細胞を含む医薬組成物は、細胞保存に適する任意の温度で、保存のために凍結することができる。例として、細胞は約-20℃、-80℃、又は任意の他の適切な温度で凍結することができる。低温で凍結した細胞は、細胞損傷のリスクを下げるとともに細胞が解凍において生存する可能性を最大化するように、適切な容器にて保存して保管に備えることができる。あるいは、細胞はまた、例えば約4℃の冷蔵室温で維持することもできる。
【0071】
投与される光受容体前駆細胞の量は、当業者に既知の標準的な方法によって決定することができる。適切な投与量を決定するために、患者の生理学的データ(例えば、年齢、大きさ、及び体重)並びに処置する疾患のタイプ及び重症度を考慮に入れる必要がある。
【0072】
本発明の医薬組成物は単一用量として又は複数用量で投与することができる。特に、各単位用量は、1μlあたり100,000~300,000の光受容体前駆細胞、好ましくは1μlあたり200,000~300,000の光受容体前駆細胞を含むことができる。
【0073】
医薬組成物は、副腎皮質ステロイド、抗生物質、鎮痛剤、免疫抑制剤、栄養因子、又は任意のそれらの組合せなどの1又は複数のさらなる活性化合物をさらに含むことができる。
【0074】
他の態様において、本発明はまた、光受容体前駆細胞を提供するステップと、該細胞に、光遺伝学的阻害剤をコードする核酸、又は該核酸を含む発現カセット若しくはベクターを導入するステップとを含む、本発明の光受容体前駆細胞を作製する方法にも関する。
【0075】
該方法は、インビボ、インビトロ、又はエクスビボ方法であってもよい。好ましくは、本発明の光受容体前駆細胞を作製する方法はエクスビボ又はインビトロ方法である。特に、作製した光受容体前駆細胞は、移植を必要とする患者に移植するために使用することができる。
【0076】
実施形態において、核酸を導入することによって改変される光受容体前駆細胞は、特にドナー又は処置される患者の、網膜から得られる。
【0077】
他の実施形態において、改変される光受容体前駆細胞は、幹細胞の分化、好ましくは成体幹細胞又は誘導多能性幹細胞の分化、より好ましくは処置される対象の例えば線維芽細胞などの体細胞から得た誘導多能性幹細胞の分化によって得られる。
【0078】
該光受容体前駆細胞は、当業者には既知の任意の方法によって、例えば、特に抗CD73抗体を使用して網膜細胞又は網膜オルガノイドからCD73陽性細胞を単離することによって、精製又は単離することができる。
【0079】
特定の実施形態において、本発明の光受容体前駆細胞を作製する方法は、上述のように、(i)幹細胞の分化、好ましくは処置される患者の例えば線維芽細胞などの体細胞から得た成体幹細胞又は誘導多能性幹細胞の分化によって得た光受容体前駆細胞を提供するステップと、(ii)該受容体前駆細胞に、光遺伝学的阻害剤をコードする異種核酸、又は該核酸を含む発現カセット若しくはベクターを導入するステップとを含む。
【0080】
方法には、上述のような薬学的に許容される賦形剤を該遺伝子学的に改変した光受容体前駆細胞に添加することで本発明の医薬組成物を調製することをさらに含むことができる。
【0081】
また、方法には、処置される患者から誘導多能性幹細胞を提供することと、該細胞を光受容体前駆細胞に分化することも含むことができる。
【0082】
また、方法には、誘導多能性幹細胞を得るために、処置される患者の成体体細胞、好ましくは線維芽細胞を提供することもさらに含むことができる。
【0083】
特定の実施形態において、光遺伝学的阻害剤をコードする異種核酸又は発現カセットは、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに含まれる。
【0084】
核酸構築物、発現カセット、又はベクターは、リン酸カルシウム-DNA沈殿法、DEAEデキストラン遺伝子導入法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法、リポフェクション法、ウイルス感染法を含むがこれらに限定されない任意の既知の技術を使用して、光受容体前駆細胞に運搬することができる。
【0085】
また、光受容体前駆細胞及び医薬組成物のすべての実施形態はこの方法においても考慮される。
【0086】
他の態様において、本発明は、
-網膜変性疾患の処置に使用するための本発明の光受容体前駆細胞又は本発明の医薬組成物と、
-投与を必要とする対象に本発明の医薬組成物の治療有効量を投与することを含む網膜変性疾患を処置する方法と、
-網膜変性疾患の処置のための薬剤を製造するための本発明の光受容体前駆細胞又は本発明の医薬組成物の使用と、にさらに関する。
【0087】
また、本発明の光受容体前駆細胞、本発明の医薬組成物、及び本発明の光受容体前駆細胞を作製する方法について上述したすべての実施形態は、この態様においても考慮される。
【0088】
網膜変性疾患は、好ましくは光受容体の機能喪失又はその死に関し、より好ましくは光受容体の機能喪失に関する。
【0089】
網膜変性疾患は、黄斑変性、網膜色素変性(症候性及び非症候性)、錐体ジスロフィー、アッシャー症候群、桿体ジストロフィー、桿体-錐体ジストロフィー、全色盲、及びバルデー・ビードル症候群を含むが、これらに限定されない。好ましくは、網膜変性疾患は、網膜色素変性又は加齢黄斑変性である。
【0090】
実施形態において、上述の光受容体前駆体又は医薬組成物は、光受容体変性の進行期にある患者における網膜変性疾患の処置に使用することに特に適する。光受容体変性の進行期は、主に、実質的な光受容体細胞喪失だけでなく、網膜グリア性瘢痕の存在及び外層膜における実質的な変化によって、特徴づけることができる。光受容体変性の進行期にある患者は、視力の著しい障害、又はさらに視力の完全な喪失を示し得る。
【0091】
特定の実施形態において、網膜変性疾患の処置に使用される本発明の光受容体前駆細胞は、処置される患者の細胞から得られる。光受容体前駆細胞は、上述のように患者から、該患者の網膜サンプル又は幹細胞から得ることができる。好ましくは、本発明に使用される光受容体前駆細胞は、処置される患者の幹細胞から、より好ましくは線維芽細胞などの患者の成体体細胞由来の成体幹細胞から又は誘導多能性幹細胞から得られる。
【0092】
ゆえに、特定の実施形態において、処置を必要とする対象における網膜変性疾患を処置する方法は、上述のように、(i)幹細胞の分化、好ましくは処置される患者の例えば線維芽細胞などの体細胞から得た成体幹細胞又は誘導多能性幹細胞の分化によって得た光受容体前駆細胞を提供するステップと、(ii)該受容体前駆細胞に、光遺伝学的阻害剤をコードする異種核酸、又は該核酸を含む発現カセット若しくはベクターを導入するステップとを含む。
【0093】
また、方法には、処置される患者から誘導多能性幹細胞を提供することと、該細胞を光受容体前駆細胞に分化することも含むことができる。
【0094】
また、方法には、誘導多能性幹細胞を得るために、処置される患者の成体体細胞、好ましくは線維芽細胞を提供することもさらに含むことができる。患者から得た成体体細胞、好ましくは線維芽細胞は、当業者に既知の任意の方法によって、好ましくは該細胞に特定の遺伝子(例えば、OCT4、SOX2、C-MYC、及びKLF4)を発現することによって、多能性幹細胞にリプログラミングすることができる。
【0095】
方法には、投与を必要とする対象に、光遺伝学的阻害剤をコードする異種核酸を含む光受容体前駆細胞を投与することをさらに含むことができる。前述の好ましくは、該光受容体前駆細胞は眼球内に投与される。
【0096】
特定の実施形態において、網膜変性疾患は、遺伝性網膜色素変性又は遺伝性加齢黄斑変性などの遺伝性網膜変性疾患である。特に、遺伝性網膜変性疾患は、ABCA4、EYS、PDE6B、RPE65、RHO、USH65、RPGR、WFS1、CRB1を含むがこれらに限定されない遺伝子内の突然変異によるものであり得る。この特定の実施形態において、光受容体前駆細胞は処置される遺伝性網膜変性疾患の患者から得られ、疾患の原因の突然変異を修正するように遺伝子学的に改変することができる。光受容体前駆細胞は、当業者に既知の任意の方法によって、好ましくは修正遺伝子を含む核酸の相同組換えを使用して、遺伝子学的に改変することができる。遺伝子修正方法は、内在性遺伝子と核酸との間に相同組換えが起こるように、少なくとも修正遺伝子をコードする配列と内在性遺伝子の部分とを含む核酸を細胞に導入するステップを含むことができる。特定の実施形態において、方法には、内在性遺伝子内の標的配列を切断可能なレアカッティングエンドヌクレアーゼ(rare-cutting endonuclease)を細胞に発現させるステップをさらに含むことができる。レアカッティングエンドヌクレアーゼは、メガヌクレアーゼ、TALE-ヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、又はCRISPR/Cas9エンドヌクレアーゼであり得る。好ましい実施形態において、遺伝子学的に改変された光受容体前駆細胞は、患者の成体体細胞、好ましくは線維芽細胞由来の誘導多能性幹細胞から得られる。他の実施形態において、遺伝子学的に改変された光受容体前駆細胞はドナーから得られる。
【0097】
他の好ましい実施形態において、本発明は、i)患者の網膜サンプル又は幹細胞から、上述のように処置される患者より得た光受容体前駆細胞を提供するステップと、ii)該光受容体前駆細胞に光遺伝学的阻害剤をコードする異種核酸を導入するステップと、iii)疾患の原因の突然変異を修正するように光受容体前駆細胞を遺伝子学的に改変するステップとを含む、遺伝性網膜変性疾患を処置する方法に関する。ステップ(ii)及び(iii)は、連続的に又は共に、任意の順番で行ってもよい。
【0098】
好ましくは、処置される患者から得た光受容体前駆細胞は、幹細胞の分化、好ましくは処置される患者の例えば線維芽細胞などの体細胞から得た成体幹細胞又は誘導多能性幹細胞の分化によるものである。
【0099】
方法には、投与を必要とする対象に、疾患の原因の突然変異を修正するように遺伝子学的に改変されるとともに光遺伝学的阻害剤をコードする異種核酸を含む、光受容体前駆細胞の治療有効量を投与することをさらに含むことができる。
【0100】
他の実施形態において、遺伝性網膜変性疾患を処置するために使用される、光遺伝学的阻害剤をコードする異種核酸を含む光受容体前駆細胞は、健康なドナー、すなわち遺伝性網膜変性疾患の原因となる突然変異を有しないドナーから得られる。そうした実施形態において、方法には、i)健康なドナーから、すなわち該ドナーの網膜サンプル又は幹細胞からから得た光受容体前駆細胞を提供するステップと、ii)該光受容体前駆細胞に光遺伝学的阻害剤をコードする異種核酸を導入するステップと、を含むことができる。
【0101】
また、本発明の方法は、少なくとも1つのさらなる治療剤を対象に投与することをさらに含むことができる。特に、該治療剤は、副腎皮質ステロイド、抗生物質、鎮痛剤、免疫抑制剤、若しくは栄養因子、又はそれらの任意の組合せからなる群より選択することができる。該さらなる治療剤及び本発明の光受容体前駆細胞は、連続的に又は共に投与することができる。さらなる治療剤及び本発明の光受容体前駆細胞は、共に投与する場合、同じ医薬組成物に製剤化することができる。
【0102】
好ましくは、本発明の光受容体前駆細胞又は医薬組成物は、眼球内の注入、好ましくは網膜下腔注入、より好ましくは神経網膜と、重なっているRPEとの間に投与される。
【0103】
投与される本発明の光受容体前駆細胞の量は、当業者に既知の標準的な方法によって決定することができる。適切な投与量を決定するために、患者の生理学的データ(例えば、年齢、大きさ、及び体重)並びに処置する疾患のタイプ及び重症度を考慮に入れる必要がある。
【0104】
本発明の改変光受容体前駆細胞は単一用量として又は複数用量で投与することができる。特に、各単位用量は、1μlあたり100,000~300,000の光受容体前駆細胞、好ましくは1μlあたり200,000~300,000の光受容体前駆細胞を含むことができる。
【0105】
本明細書にて言及される又は引用されるすべての特許、特許出願、仮特許出願、及び公報は、この明細書の明確な教示と整合しない範囲まで、すべての図面及び表を含む、その全体が言及することで援用される。
【0106】
以下の実施例は例示の目的で提供され、限定するものではない。
【実施例
【0107】
〔A.失明CPFL(錐体光受容体機能喪失、Cone Photoreceptor Function Loss)マウス及びrd1マウスの移植光受容体において、光遺伝学的刺激がハロロドプシン誘導光反応を誘発する〕
<1.ドナー(光受容体前駆体)細胞の光遺伝学的形質転換>
出生後日P2に、ジャンヴィエ研究所(JanvierLaboratories、Le Genest SaintIsle、仏国)より入手したC57BL/6Jマウス(野生型)を氷上で麻痺させて、まぶたに切り口をつけ、ヒトロドプシンプロモーターのもとでハロロドプシンをコードするAAV(AAV92YF-hRho-eNpHR-EYFP)の3.0×1013~3.3×1014粒子を含有する1μlストックを、超微細34ゲージシリンジ(Hamilton)を使用して各目の硝子体腔に注入した(図1、上段)。
【0108】
<2.ドナー細胞(光受容体前駆体)の単離-MACSによる細胞濃縮>
出生後日P4に、以前に注入したC57BL/6Jマウスから網膜を単離した。パパイン解離系(Worthington Biochemical Corporation)を使用して、網膜を消化させた。細胞(約10cells/ml)を、遠心分離によって(300gで5分)採取し、500μLのMACS緩衝液(リン酸緩衝食塩液[PBS、pH7.2]、0.5%BSA、2mMのEDTA)に再懸濁し、10μg/mlのラット抗マウスCD73抗体(BD Biosciences)とともに5分間4℃でインキュベートした。MACS緩衝液で洗浄後、細胞を5分間300gで遠心分離した。細胞のペレットを、480μLのMACS緩衝液及び120μLのヤギ抗ラットIgG磁気ビーズ(Miltenyi Biotec)に再懸濁した。懸濁液を15分間4℃でインキュベートし、その後MACS緩衝液で洗浄して遠心分離した。磁気分離前に、細胞をMACS緩衝液に再懸濁して、30μmの前分離フィルターでろ過した。MACS分離器に固定した平衡化前LSカラムに、細胞懸濁液を付加した。カラムを3×3mLのMACS緩衝液でリンスし、その通過画分を採取した(CD73陰性細胞)。カラムを磁石から取り外して、新しい採取チューブに配置した。5mLのMACS緩衝液をロードして、カラムのプランジャーを直ちに適用することで、CD73陽性の断片を溶出した。
【0109】
<3.失明Cpfl1/Rho-/-マウス及びrd1マウスへの移植>
細胞懸濁液を網膜下腔に移植するために、成体のCpfl1/Rho-/-失明マウス又は早期発症の重度網膜変性を示すrd1マウスを、ケタミン(50mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)の腹腔内注入により麻酔した。瞳孔をトロピカミド(Mydriaticum Dispersa)の液滴で拡張させ、鈍い34ゲージニードルを備えたシリンジ(Hamilton)を使用して、約200,000細胞を含有する1マイクロリットルの懸濁液を網膜下腔に注入した(図1、上段)。
【0110】
<3.パッチクランプ記録>
実験全体で、36℃の顕微鏡記録チャンバに、酸素を添加した(95%O/5%CO)エイムス培地(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)において、単離した網膜を配置した。YFP陽性細胞のパッチクランプ記録のために、25×水浸対物レンズ(XLPlanN-25x-W-MP/NA1.05、Olympus、東京、日本)とパルスフェムト秒レーザー(InSight DeepSee - Newport Corporation、アーバイン、カリフォルニア州)とを備えた特注の2光子顕微鏡を使用した。
【0111】
AAV形質導入蛍光性細胞をパッチ電極で標的とした。Axon Multiclamp700B増幅器(Molecular Device Cellular Neurosciences、サニーベール、カリフォルニア州)を使用してホールセル記録をした。パッチ電極は、ホウケイ酸ガラスから作製し(BF100-50-10, Sutter Instrument、ノバト、カリフォルニア州)、8~10MΩにし、115mMのグルコン酸カリウム、10mMのKCl、1mMのMgCl2、0.5mMのCaCl2、1.5mMのEGTA、10mMのHEPES、及び4mMのATP-Na2(pH7.2)で充填した。細胞は、光電流を測定するために電圧クランプ構成において(-40mV)記録され、又は光刺激時の膜電位変化をモニターするために電流クランプ構成において(ゼロ)記録された。
【0112】
<5.光刺激>
移植の後、一連の電気生理学的実験によって機能性をテストした。
【0113】
YFP陽性細胞の光反応を測定するため、単色光源(Polychrome V,TILL photonics(FEI)、ヒルズボロ、オレゴン州)を使用した。細胞をパッチした後、まず、対の590nmのフルフィールド光パルスで細胞を刺激した。
【0114】
そして、(25nmのステップで隔てられた)400nm~650nmの範囲の光フラッシュを使用して、活性スペクトルを測定し、350nm~680nmの連続的な「虹」スペクトルも使用した。
【0115】
最後に、2Hz~25Hzの範囲の様々な周波数の光パルスを生成して、記録した細胞の時間反応特性を測定した。マトラボ(Matlab、Mathworks、ネイティック、マサチューセッツ州)及びラボビュー(Labview、National Instruments、オースティン、テキサス州)の特注のソフトウエアを使用して、刺激を生成した。1.3×1016~3.2×1017photons・cm-2-1の範囲の光強度を使用した。
【0116】
図2A及び図2Dは、それぞれCpfl1/Rho-/-モデル及びrd1モデルに取り込まれ、590nmでの光による2回連続フラッシュで刺激したNpHR発現光受容体前駆体の典型的な光誘起反応を示し、これらの細胞は、最大反応が575nmで得られるスペクトルチューニングでの光電圧を示す(図2B(Cpfl1/Rho-/-モデル)、図2E(rd1モデル))。図2C(Cpfl1/Rho-/-モデル)及び図2F(rd1モデル)では、刺激周波数の増大における(2Hz~25Hz、1.3×1016photons・cm-2-1)ハロロドプシン誘導膜過分極の変調を示す。
【0117】
図2Gは、NpHR光受容体前駆体を移植したCpfl1/Rho-/-モデルとrd1モデルとの光反応特性の比較を示す。図2Gの左側は、電圧クランプ構成において-40mV又は0mVで移植細胞にて得た、平均光電流ピークを表し、図2Gの右側は、電流クランプ構成(電流ゼロ)において得た平均ピーク電圧反応を表す。
【0118】
図2Hは、590nm及び1×1016photons・cm-2-1における、(電流クランプ「ゼロ」構成の)2つのモデルの移植細胞の立上り及び減衰時定数の比較を示す(下部)。
【0119】
このように、失明CPFLマウス及びrd1マウスの移植光受容体において、光遺伝学的刺激がハロロドプシン誘導光反応を誘発し、この反応は575nmの光強度で最大になり、速い動態を示し、ドナー細胞から得た反応と有意に異なることはない。
【0120】
<6.2光子ライブイメージング>
実験全体で、36℃の顕微鏡記録チャンバに、酸素を添加した(95%O/5%CO)エイムス培地(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)において、単離した網膜又は網膜オルガノイドを配置した。YFP陽性細胞のイメージング記録のために、25×水浸対物レンズ(XLPlanN-25x-W-MP/NA1.05、Olympus、東京、日本)とパルスフェムト秒レーザー(InSight DeepSee - Newport Corporation、アーバイン、カリフォルニア州)とを備えた特注の2光子顕微鏡を使用した。930nmの波長の励起レーザーを使用して2光子画像を取得した。ImageJ(NIH、ベセスダ、メリーランド州)を使用して画像をオフラインで処理した。
【0121】
(落射蛍光光による)図3A及び(2光子イメージングによる)図3Bに示すように、ハロロドプシン形質導入前駆細胞はホストに移植後20日生存し、蛍光は細胞膜に限定された。
【0122】
<7.多電極アレイ記録及びデータ分析>
すべての多電極アレイ記録を、252チャンネルの多電極アレイシステム(USB-MEA256-System、MultiChannel Systems、ロイトリンゲン、ドイツ)で行い、MC_Rackソフトウエア(MC_Rackv4.5、Multi ChannelSystems)を使用してデータを取得した。10週齢以上の移植したCpfl1/Rho-/-マウス及びRd1マウスにおけるエクスビボで単離して平坦に載置した網膜をテストした。マウスを安楽死させ、網膜は、ポリ‐l‐リジン(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)に一晩浸漬したセルロース膜に配置して、34℃で重炭酸ナトリウム(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)を含有する酸素を添加したエイムス培地(A1420、Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)で灌流し、RGC側を、電極間隔が60μmである多電極アレイチップ(256MEA60/10iR, Multi Channel Systems)に対して軽く押し付けた。所定の実験では、光受容体からのオン型双極細胞への入力を遮断するため、記録前に組織をL-AP4(50μM)で少なくとも20分間灌流した。フルフィールド光刺激をポリクロームVモノクロメーター(TILL Photonics、ミュンヘン、ドイツ)を使用して行い、MC_Stimulus II(MC_Stimulus II Version 3.4.4、Multi Channel Systems)における特注の刺激を使用してSTG2008刺激生成器(Multichannel Systems)によって発生させた。出力光強度を分光光度計(USB2000+、Oceanoptics、ダニーデン、フロリダ州)を使用してキャリブレーションした。網膜を約1017photons・cm-2-1において実行毎に2秒の期間で580nmの光波長で刺激した。そして、RGC活性を増幅して20kHzでサンプリングした。信号をMC_Rackにおいて200Hzのハイパスフィルターでフィルターして、Spike2ソフトウエアv.7(Cambridge Electronic Design Ltd.、ケンブリッジ、UK)を使用して波長の主成分分析プロットを視覚化することによって各チャンネルをスパイクソーティングした。反応をプロットするために特注のマトラボスクリプトを使用した。
【0123】
光刺激後にRGCからの反応を得ることで、移植光受容体からのハロロドプシン誘発反応がRGC層に伝達されることを示す。図4は、NpHR移植Cpfl1/Rho-/-マウス(A、B)、コントロールのGFPのみ移植Cpfl1/Rho-/-マウス(C)、及びrd1マウス(D)において記録したPSTH(刺激前後時間ヒストグラム)及びラスタープロットとして示されるMEA記録から得た平均スパイク反応を表す。網膜を580nmの光波長及び1.24×1017photons・cm-2-1の強度で刺激した。図4A(Cpfl1/Rho-/-マウス)及び図4D(rd1マウス)は、オン反応(左)、オフ反応(中央)、又はオン・オフ反応(右)のいずれかで反応する3つのRGCの代表的なトレースを示す。RGCに通常見受けられる3つの主なタイプの反応が得られた。その後、オン型双極細胞反応の遮断剤であるL-AP4で網膜を灌流した。これはRGC反応を遮断し、反応がまさに光受容体層に由来するものであることを示した(図4B)。この反応は、洗浄後に再度出現する。コントロールとして、失明Cpfl1/Rho-/-マウスにGFPのみを発現する光受容体前駆体を移植した(図4C)。移植される細胞を、NpHR発現細胞と同様の方法で準備して単離し、その唯一の違いは、AAV-Rho-NpHR-YFPの代わりにAAV-Rho-GFPをP2野生型マウスへの注入に使用したことである。これらのマウスにて反応が検出されなかったということは、光遺伝学的タンパク質を発現しない光受容体前駆体単独では機能しない又は信号を網膜出力ニューロンに伝達できないということを示している。
【0124】
<8.光が誘導する挙動>
明暗ボックス実験のために、特注の明暗ボックス(Bourin M, Hascoet M, Eur J Pharmacol. 2003 Feb 28;463(1-3):55-65に類似するが、590nmで光遺伝学的刺激を行うように構成される)を作製した。図5Aに示すように、36cm(l)×20cm(b)×18cm(h)の寸法の箱を、中央に7cm(b)×5cm(h)の穴のある不透明壁を使用して2つの等しいサイズの区画に長さ方向に分けた。明るい区画には、ケージ床から3cmの高さで、アルミニウムヒートシンクに、8個の590nmのLED(Cree XP-E, amber, Lumitronix)を取り付けた。マウスはすべて同年齢であり、その年齢はテスト時に10~13週の範囲であった。非移植Cpfl1/Rho-/-(n=10)、GFPのみを発現する細胞を移植したCpfl1/Rho-/-(n=9)、NpHR発現細胞を移植したCpfl1/Rho-/-(n=12)、及び非移植野生型C57BL6Jマウス(n=10)に、オレンジ色(590nm)光で区画を照明する4分間のトライアルを行った。テスト前に、マウスを暗いテスト室に2時間馴化させた。マウスの挙動を2.11×1015photons・cm-2-1の光強度においてテストした。明るい区画の光強度は、可変電圧供給源(VLP-1303 PRO, Voltcraft)を使用して調節され、分光光度計(OceanOptics)を用いて測定した。光強度測定値は、LEDから1cmにおいて、ケージ中央において、及び照明側の穴に隣接して、明るい区画の3つの位置より平均した。実験手順及び処置群については伏せてある観察者が、マウスの挙動を手作業で分析した。マウスを明るい区画に個別に誘導して、4分間自由にボックスにおいて移動させた。マウスが位置する区画を判定するためにマウス頭部の位置を使用した。各区画で過ごした時間をビデオカメラ(Handycam、Sony Corporation、東京、日本)で記録した。動物が暗所において最初の3分に境界を超えない場合、トライアルから除外した。統計的有意性を通常の一元配置分散分析によって評価するとともに、群平均を比較するためにテューキーの多重比較検定を使用し、P<0.05のレベルを有意であるとした。データをPrism6(Graphpad Software、ラホヤ、カリフォルニア州)で分析及びプロットした。
【0125】
図5Bに示すように、野生型とNpHR発現細胞を移植したCpfl1/Rho-/-マウスとは、非移植Cpfl1/Rho-/-マウス又はGFPのみを発現する細胞を移植したCpfl1/Rho-/-マウスと比較して、明るい区画において有意に少ない時間を過ごした(P<0.0001、通常の一元配置分散分析)。野生型マウスとNpHR処置Cpfl1/Rho-/-マウスとの挙動の違いは有意ではなく、非移植マウスとGFPのみで処置したCpfl1/Rho-/-マウスとの挙動の違いも有意ではなかった。明暗ボックス実験は、NpHR細胞移植マウスにおける有意な光回避挙動を示すことから、網膜に由来するハロロドプシン誘導信号が脳に伝達されているとともに失明マウスの挙動を変化させるのに十分であるということが示される。移植細胞単独(GFPのみ、NpHRを発現しない)では挙動の変化を誘発するには十分でない。
【0126】
〔B.失明rd10マウスの移植光受容体において、光遺伝学的刺激がハロロドプシン誘導光反応を誘発する〕
ドナー(光受容体前駆体)細胞の光遺伝学的形質転換、単離及び失明rd10マウスへの移植を、パッチクランプ記録及び光刺激分析として上記に記載されるように行う。
【0127】
ハロロドプシン発現細胞は、590nmの光による2回連続フラッシュに対する典型的な光反応を示し(図6A)、最大反応が550nm~575nmで得られるスペクトルチューニングでの光電流を示し(図6B及び図6C)、速い動態を示す典型的なフリッカー刺激反応を示す(図6D)。
【0128】
GFP陽性細胞のライブイメージングを上述のように行う。ハロロドプシン形質導入前駆細胞はホストに移植後生存し、蛍光性は細胞膜に限定された(図7Aは落射蛍光画像、図7Bは2光子イメージング)。一部の移植細胞は良好な延長性を示した(図7A及び図7B、右側、矢印)。
【0129】
〔C.全組織標本網膜のドナー細胞において光遺伝学的刺激がハロロドプシン誘導光反応を誘発する〕
出生後日P2に、C57BL/6Jマウスを氷上で麻痺させて、まぶたに切り口をつけ、ヒトロドプシンプロモーターのもとでハロロドプシンをコードするAAV(AAV92YF-hRho-eNpHR-EYFP)の3.0×1013~3.3×1014粒子を含有する1μlストックを、超微細34ゲージシリンジ(Hamilton)を使用して各目の硝子体腔に注入した。出生後日P4に、以前に注入したC57BL/6Jマウスから網膜を単離した。網膜におけるパッチクランプ記録及び光刺激分析を上記に記載されるように行う。
【0130】
ハロロドプシン発現細胞は、590nmの光による2回連続フラッシュに対する典型的な光反応を示し(図8A)、最大反応が575nmで得られるスペクトルチューニングでの光電流及び膜過分極を示し(図8B)、速い動態の典型的なフリッカー刺激反応を示す(図8C)。
【0131】
GFP陽性細胞のライブイメージングを上述のように行う。ハロロドプシン形質導入前駆細胞は全組織標本網膜に注入後20日存在し、蛍光性は細胞膜に限定された(図9A及び図9B)。
【0132】
〔D.網膜オルガノイドにおけるJawsを発現するAAV形質導入hiPS細胞において光遺伝学的刺激が光反応を誘発する〕
<1.Jaws陽性光受容体の生成>
hiPS細胞を、成体ヒト皮膚線維芽細胞初代細胞株に、転写因子OCT4、SOX2、KLF4及びC-MYCをコードする3つのプラスミドで遺伝子導入することによって作製し、フィーダー上で培養する(Yu J等、Science, 2009)。hiPS細胞は、iPS培地においてコンフルエントに広がる。(Essential8培地、GIBCO、Life Technologies)。コンフルエントにおいて、時間の状態を0日目とする。0日目に、hiPS細胞をFGF-2不含iPS培地に配置する。3日目に、培地を取り除き、新しいProN2培地(1%のN2サプリメントを添加したEssential6培地、(GIBCO、Life Technologies)を添加する。28日目に、同定した神経網膜(NR)様構造をニードルで単離し、移動して、10ng/mLのFGF2を添加したDMEM/栄養素混合物F-12、1%のMEM非必須アミノ酸、2%のB27サプリメント(すべてLife Technologiesより)(ProB27培地とも呼称される)を含む成熟培地において浮遊構造として培養して、神経網膜を形成させる。35日目に、FGF2を取り除いた。DAPTを分化の42日~49日に添加した。
【0133】
<2.感染網膜オルガノイドの光刺激>
70日目に、mCAR(錐体アレスチン)プロモーターのもとでJawsをコードするAAVの5.0×1010粒子(AAV2-7m8-mCAR-Jaws-GFP)に網膜オルガノイドを感染させた(図1、下段)。感染網膜オルガノイドにおけるパッチクランプ記録及び光刺激分析を上記に記載されるように行う。
【0134】
Jaws発現細胞は、590nmの光による2回連続フラッシュで刺激するとき典型的な光反応を示し(図10A)、最大反応が575nmで得られるスペクトルチューニングでの過分極及び光電流を示し(図10B)、速い動態の典型的なフリッカー刺激反応を示す(図10C)。
【0135】
<3.感染網膜オルガノイドの2光子ライブイメージング>
GFP陽性細胞のライブイメージングを上述のように行う。様々な倍率での網膜オルガノイドにおけるGFP陽性細胞のライブイメージングにより、Jaws発現がPR膜に限定されることが示される(図11)。
【0136】
<4.70日目の網膜オルガノイドの解離から得たD100単層培養物の免疫蛍光>
-網膜オルガノイドの解離
任意の色素組織を取り除いた後、70日目の網膜オルガノイドを採取し、リンゲル液(155mMのNaCl、5mMのKCl、2mMのCaCl2、1mMのMgCl2、2mMのNaH2PO4、10mMのHEPES、及び10mMのグルコース)にて3回洗浄してから、リンゲル液にて25分間37℃で、28.7μ/mgの2単位の前活性化したパパイン(Worthington)で解離した。ピペットに通した後に均質な細胞懸濁液を得ると、パパインをProB27培地で非活性化した。細胞を遠心分離して予備加温したProB27培地に再懸濁した。
【0137】
-ヒトiPSC由来の光受容体の単層培養
解離した網膜細胞を、24ウェルのプレートにおいて30μg/cmヒト組換えラミニン(Sigma-Aldrich)及び150μg/cmのポリ-L-オルニチンでコーティングしたカバーガラスにプレーティングした。単層物を標準的な5%CO/95%空気のインキュベータ-において37℃でインキュベートして、免疫染色前、培地を続く15~20日間で2日毎に変えた。
【0138】
細胞をPBSで洗浄して(5分、室温)、0.5%のTRITON(登録商標)X-100を含むPBSにて1時間室温で透過処理した。遮断を0.2%のゼラチン、0.25%のTRITON、X-100を含むPBSで30分間室温にて行い、一次抗体とともにインキュベートを一晩4℃で行った。使用した一次抗体は、光受容体マーカーとして1/2000希釈の抗リカバリンウサギポリクローナル抗体(Millipore)と1/500希釈の抗GFPニワトリポリクローナル抗体(abcam)である。
【0139】
一次抗体とともにインキュベート後、切片を0.25%のTween20を含むPBSで洗浄して、蛍光色素コンジュゲート2次抗体(1/500希釈)とともに1時間室温でインキュベートした。その後のPBS-Tween20での洗浄後、核を1/2000希釈のDAPI(4´,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、ジラクテート、Invitrogen-MolecularProbe、ユージーン、オレゴン州)で対比染色した。
【0140】
図12に示すように、70日目のJaws感染網膜オルガノイドの解離から得た100日目の単層培養物はJaws陽性光受容体(RCVN)細胞を示す。
【0141】
<5.Jaws陽性光受容体の網膜下移植>
感染網膜オルガノイドを移植前に解離する。 細胞懸濁液を網膜下腔に移植するために、成体のrd10、Cpfl1/Rho-/-又はrd1-/-マウスを、ケタミン(50mg/Kg)及びキシラジン(10mg/kg)の腹腔内注入により麻酔した。瞳孔をトロピカミド(MydriaticumDispersa)の液滴で拡張させ、鈍い34ゲージニードルを備えたシリンジ(Hamilton)を使用して、約200,000細胞を含有する1マイクロリットルの懸濁液を網膜下腔に注入した(図1、下段)。
【0142】
<6.Rd10マウスにおける移植Jaws陽性細胞(GFP)は外顆粒層に取り込まれて光受容体特異的マーカーを発現する>
組織の準備
100日齢の移植rd10マウスの目を摘出して、新しく準備した4%のパラホルムアルデヒド溶液にて一晩4℃で直ちに固定した。目をPBSにて洗浄して、PBS溶液内の30%ショ糖にて一晩インキュベートして、OCTに含ませた。
【0143】
クリオスタットミクロトームを使用して眼杯の18μm厚の切片を得て、スーパーフロストウルトラプラススライド(MENZEL-GLASER、ブラウンシュヴァイク、ドイツ)に封入した。凍結切片をPBSで洗浄して(5分、室温)残りのOCTを取り除き、0.5%のTRITON(登録商標)X-100を含むPBSにて1時間室温で透過処理した。遮断を0.2%のゼラチン、0.25%のTRITON、X-100を含むPBSで30分間室温にて行い、一次抗体とともにインキュベートを一晩4℃で行った。使用した一次抗体は、1/5000希釈の抗CRXマウスモノクローナル抗体(Abnova)と、光受容体マーカーとしての1/2000希釈の抗RCVNウサギポリクローナル抗体(Millipore)と、錐体特異的マーカーとしての1/200希釈の抗R/Gオプシンウサギポリクローナル抗体(Millipore)と、1/200希釈の抗PDE6Cウサギポリクローナル抗体(Millipore)と、1/500希釈の抗GFPニワトリポリクローナル抗体(abcam)と、1/500希釈の抗RIBEYEマウスモノクローナル抗体(BD Biosciences)である。
【0144】
一次抗体とともにインキュベート後、切片を0.25%のTween20を含むPBSで洗浄して、蛍光色素コンジュゲート2次抗体(1/500希釈)とともに1時間室温でインキュベートした。その後のPBS-Tween20での洗浄後、核を1/2000希釈のDAPI(4´,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、ジラクテート、Invitrogen-MolecularProbe、ユージーン、オレゴン州)で対比染色した。サンプルをさらにPBSで洗浄し、100%エタノールで脱水してから、フルオロマウント、ベクタシールド(VectorLaboratories)を使用して封入した。
【0145】
100日齢の移植rd10マウスの網膜切片における免疫蛍光分析は、ONLに取り込まれて光受容体特異的マーカーを発現するJaws陽性細胞(GFP)を示す。Jaws及びCRX及びRCVN並びに錐体特異的マーカーR/Gオプシン、NoPDE6C(錐体特異的)の陽性細胞をドナー又はホスト細胞において観察した(図13A)。Jaws陽性光受容体細胞は双極細胞と接続し、シナプス結合を形成する(図13B)。
【0146】
このように、Jaws陽性細胞(GFP)は、ONLに取り込まれて光受容体特異的マーカーを発現した。Jaws陽性細胞は下方の双極細胞とシナプス結合を形成した。
【0147】
<7.Rdマウスにおける移植Jaws陽性細胞による光が誘導する挙動>
図14に示すように、90日齢rd10マウスにおいて明暗ボックステストを使用して光挙動分析を行った。図14は、非移植失明rd10マウス(n=12)、単眼移植rd10マウス(n=10)、両眼移植rd10マウス(n=3)における、光条件の明るいボックスで過ごした時間(%)を表す。統計的有意性をマン・ホイットニーのU検定を行って評価して、群平均を比較した。p<0.05のp値を有意であるとした。データをPrism6(Graphpad Software、ラホヤ、カリフォルニア州)で分析及びプロットした。*:p=0.0070であり、**:p=0.0091である。
【0148】
このように、これらの結果は、両眼に注入したとき移植マウスがrd10失明マウスのコントロールと比較して光回避挙動を示すことを表す。
【0149】
<Cpfl1/Rho-/-モデル及びRd1モデルにおける移植Jaws陽性細胞の光刺激>
パッチクランプ記録及び光刺激分析を上記に記載されるように行った。
【0150】
光電流(上部)及び電圧過分極(下部)を、Cpfl1/Rho-/-モデル(図15A)及び又はrd1モデル(図15D)において、3.5×1017photons・cm-2-1の強度における590nmの光による2回連続フラッシュで刺激した、Jaws発現細胞より分析した。図15B及び図15Fは、様々な波長で刺激したJaws発現細胞に対応するJaws誘導過分極作用スペクトルを示す。25nmのステップによって隔てられた400nm~650nmの範囲の刺激を3.5×1017photons・cm-2-1で使用した。Cpfl1/Rho-/-モデル(図15B)及びrd1モデル(図15F)の両方において、最大反応を575nmで取得し、これはJawsの作用スペクトル最大値に対応するものである。そして、時間特性を、移植Cpfl1/Rho-/-マウス(図15C)及びrd1マウス(図15G)において、2Hzから30Hzまでの(3.5×1017photons・cm-2-1)刺激周波数の増大におけるJaws誘導過分極の変調によって分析した。Cpfl1/Rho-/-モデルの25Hzについて、拡大したトレースを示す(図15C)。これは人の視力にとって十分な時間分解能である。図15Eは、光刺激強度(1014~1017photons・cm-2-1)の関数としてのJaws電圧反応を示し、より低い光強度もまた、移植細胞に反応を、程度はより低いものではあるが、誘発するのに十分であることを示す。
【0151】
<9.介在ニューロンを介したhiPSから神経節細胞への信号伝達>
移植したhiPSC由来細胞(網膜の入力)から神経節細胞(網膜の出力)への信号伝達の例を示すため、3つの移植蛍光性細胞に直接的に接続する可能性が高いことから3つの移植蛍光細胞の直下に位置する介在ニューロン(Jawsを発現しない2次ニューロン)を記録することができた。この信号伝達の概略図が図16に示される。2回連続フラッシュで刺激したJaws発現細胞の代表的な光電流を図16Aに示し、次に、Jawsを発現しないが周囲のJaws-hiPS移植細胞に接続すると考えられるINL層における2次細胞(オフ細胞)からの代表的な電流(下部)及び電圧(上部)反応(図16B)、最後に、図16Bに示す2次ニューロンから仮説上は入力を受けているオフ神経節細胞(3次ニューロン)反応(スパイク活性)記録の例である(図16C)。
【0152】
<10.多電極アレイ記録及びデータ分析>
多電極アレイ記録、光刺激、及びデータ分析を上記に記載されるように行った。
【0153】
図17Aは、移植した失明Cpfl1/Rho-/-マウスのPSTH及びラスタープロットとして示されるMEA記録からの平均スパイク反応を示す。反応は、1.24×1017photons・cm-2-1の強度の580nmの光による2秒の光パルスで誘発される。オフ(左)又はオン・オフ(右)反応のいずれかで反応するRGCを検出している。また、移植したrd1マウスにおけるオン及びオフ反応も記録しており、代表的な例を図17Fに示す。さらに、450nm~650nmの範囲の波長で(1.24×1017photons・cm-2-1の強度)移植Cpfl1/Rho-/-網膜を刺激した。RGCは、450nm刺激に暴露したとき反応を示さず、Jawsの作用スペクトルがレッドシフトしているということと対応する(図17B)。また、刺激により低い光強度を使用して、1016photons・cm-2-1の強度の刺激(580nm)がRGCにおける反応を、程度はより低いものではあるが、誘発するために十分なものであるということを示した(図17C)。図17Dは、1秒(左)、100ミリ秒(中央)、1ミリ秒(右)の刺激の結果である(580nm、1.24×1017photons・cm-2)代表的なRGCからの平均スパイク反応及びラスタープロットを表す。適切な反応を誘発するために、1ミリ秒ほども短い刺激でも十分である。図17Eは、GFPのみを発現するiPSC由来光受容体で処置した網膜から記録した代表例を示す。これらの細胞の準備及び単離は、Jaws発現細胞のものと同じ方法で行われ、その唯一の違いは、AAV-mCar-Jaws-GFPウイルスの代わりにAAV-mCar-GFPウイルスを培地に添加したことである。結果は、Jawsを発現しないiPSC由来光受容体単独はRGCの反応を回復するために十分なものではないことを示す。

図1
図2A-F】
図2G-H】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17