(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】ハイブリッド・アクティブマトリクス・フラットパネル検出器システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/20 20060101AFI20220329BHJP
G01T 1/24 20060101ALI20220329BHJP
A61B 6/00 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
G01T1/20 E
G01T1/24
G01T1/20 G
A61B6/00 300Q
(21)【出願番号】P 2019517340
(86)(22)【出願日】2017-11-30
(86)【国際出願番号】 US2017063851
(87)【国際公開番号】W WO2018102497
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-11-18
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503035992
【氏名又は名称】ザ・リサーチ・ファウンデーション・フォー・ザ・ステイト・ユニヴァーシティ・オブ・ニューヨーク
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ・ジャオ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ショイエルマン
(72)【発明者】
【氏名】エイドリアン・ホーワンスキー
(72)【発明者】
【氏名】リック・ルビンスキー
(72)【発明者】
【氏名】アミルホセイン・ゴルダン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・スタヴロ
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-211832(JP,A)
【文献】特開2000-132662(JP,A)
【文献】特開2007-169647(JP,A)
【文献】特開2007-170954(JP,A)
【文献】特開2008-071961(JP,A)
【文献】特開2011-022132(JP,A)
【文献】特開2012-026932(JP,A)
【文献】特開2012-107886(JP,A)
【文献】特開2012-200455(JP,A)
【文献】特開2014-090863(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0054835(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/20
G01T 1/24
A61B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線撮像センサであって、
低X線減衰基板と、
前記基板の上方に配置された光導電体素子と、
前記光導電体素子の上方に配置されたシンチレータと
、
前記光導電体素子と前記シンチレータとの間に配置された光電変換層であって、テルルドープa-Se、セレン化カドミウムまたは硫化カドミウムを含む光電変換層とを含む放射線撮像センサ。
【請求項2】
前記基板はフレキシブル基板である、請求項1に記載の放射線撮像センサ。
【請求項3】
前記基板と前記光導電体素子との間に電荷障壁層をさらに含む、請求項1に記載の放射線撮像センサ。
【請求項4】
前記光導電体素子と前記シンチレータとの間に電荷障壁層をさらに含む、請求項1に記載の放射線撮像センサ。
【請求項5】
前記基板と前記光導電体素子との間に第1の電荷障壁層と、前記光導電体素子と前記シンチレータとの間に第2の電荷障壁層とをさらに含む、請求項1に記載の放射線撮像センサ。
【請求項6】
前記基板と前記光導電体素子との間に画素電極アレイをさらに含む、請求項1に記載の放射線撮像センサ。
【請求項7】
前記光導電体素子と前記シンチレータとの間に透明導電性電極をさらに含む、請求項1に記載の放射線撮像センサ。
【請求項8】
前記シンチレータの実効電子-正孔対(EHP)生成エネルギー(W±)は、前記光導電体素子の実効電子-正孔対(EHP)生成エネルギー(W±)と実質的に等しい、請求項1に記載の放射線撮像センサ。
【請求項9】
放射線撮像センサであって、
下から上に、
低X線減衰基板と、
複数の画素電極を含む画素電極アレイと、
第1の電荷障壁層と、
光導電体素子と、
第2の電荷障壁層と、
透明導電性電極と、
前記光導電体素子に光学的に結合されたシンチレータとを含
み、
前記放射線撮像センサは、前記光導電体素子と前記シンチレータとの間に配置された光電変換層をさらに含み、前記光電変換層は、テルルドープa-Se、セレン化カドミウムまたは硫化カドミウムを含む、放射線撮像センサ。
【請求項10】
前記複数の画素電極の各々と電気的に連通している薄膜トランジスタおよび貯蔵コンデンサをさらに含む、請求項
9に記載の放射線撮像センサ。
【請求項11】
前記光導電体素子は、アモルファスセレン、テルル化カドミウム、ヨウ化鉛、酸化鉛(II)、ヨウ化水銀、チタン酸ジルコン酸鉛およびチタン酸バリウムストロンチウムからなる群から選択される材料を含み、前記シンチレータは、酸化セシウム、ゲルマニウム酸ビスマス、ルテチウムオルトシリケート、ルテチウムイットリウムオルトシリケート、タングステン酸カルシウム、タリウムドープヨウ化セシウム、テルビウムドープガドリニウムオキシサルファイド、フルオロハロゲン化バリウムおよびシンチレーションガラスからなる群から選択される材料を含む、請求項
9に記載の放射線撮像センサ。
【請求項12】
前記光導電体素子と前記光電変換層との間にバッファ層をさらに含む、請求項
9に記載の放射線撮像センサ。
【請求項13】
X線放射を撮像するための方法であって、
光導電体素子
、シンチレータ
および光電変換層を含む放射線撮像センサをX線放射に暴露するステップ
であって、前記光電変換層は、テルルドープa-Se、セレン化カドミウムまたは硫化カドミウムを含む、ステップと、
前記光導電体素子により前記放射の第1の部分の吸収に応答して、前記光導電体素子内部で電荷キャリアを直接生成するステップであって、前記放射の第2の部分は、前記光導電体素子を通過する、ステップと、
前記シンチレータによる前記放射の前記第2の部分の吸収に応答して、前記シンチレータの内部で光学光子を生成するステップと、
前記光導電体素子による前記光学光子の吸収に応答して、前記光導電体素子の内部で間接的に電荷キャリアを生成するステップとを含むX線放射を撮像するための方法。
【請求項14】
前記X線放射は低X線減衰基板を通して前記センサに入射する、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記低X線減衰基板と前記光導電体素子との間に配置された画素電極アレイ上で電荷パターンを形成するステップをさらに含む、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記光導電体素子が電離放射線の第1の部分を吸収し、前記光学光子を感知する、請求項
13に記載の方法。
【請求項17】
放射線撮像センサを形成するための方法であって、
低X線減衰基板の上方に光導電体素子を形成するステップと、
前記光導電体素子の上方に光電変換層を形成するステップ
であって、前記光電変換層はテルルドープa-Se、セレン化カドミウムまたは硫化カドミウムを含む、ステップと、
前記光電変換層の上方にシンチレータを形成するステップとを含む放射線撮像センサを形成する方法。
【請求項18】
前記光電変換層を形成するステップに先立って、前記光導電体素子の上方にバッファ層を形成するステップをさらに含む、請求項
17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、一般に電離放射線を検出するための装置および方法に関し、より具体的にはX線撮像用のハイブリッドセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
X線撮像の分野は、アクティブマトリクス・フラットパネル・イメージャ(AMFPI)に基づくデジタルラジオグラフィ(DR)システムの急増とともに、2000年代初期に「デジタル革命」を経験した。それ以来、大面積AMFPIの急速な発展および臨床解釈がアモルファスシリコン(a-Si)アクティブマトリクス技術に基づいて行われてきた。AMFPIは、それらの小型のサイズ、素早い画像読み出しおよび優れた画像品質のために、一般的なX線撮影および蛍光透視などの従来のX線撮像診断法についてだけでなく、コーンビームコンピュータ断層撮影法(CBCT)およびデジタル・トモシンセシスにおいても使用されている。
【0003】
デジタルX線システムは、とりわけ、蛍光透視、コーンビームコンピュータ断層撮影法(CBCT)および心臓撮像を含む、歯科用途および医療用途のためのX線パターンの可視表現を提供する。従来のX線システムは、典型的には、X線の電荷キャリア(例えば、電子-正孔対)への直接変換、または光学光子(例えば、可視光)などの中間状態を介したX線の電荷キャリアへの間接変換に依存している。
【0004】
図1Aを参照すると、直接変換の手法は、典型的には、各々が貯蔵コンデンサ18に結合された、画素電極14および薄膜トランジスタのアレイを含む固体素子上に配置された、アモルファスセレン(a-Se)の層のようなX線感受性光導電体12を使用する。走査制御システム22およびマルチプレクサ24は、画像データを蓄積し、および電子的にアドレス指定するように構成されている。
【0005】
直接変換検出器10において、X線11は光導電体12において相互作用し、それらは電子-正孔対(EHP)に変換され、読み出し電子回路(TFTまたはCMOS)を介してデジタル化される。図示された例に示されるように、バイアス電極20は光導電体層12の上にあってもよい。
【0006】
直接変換検出器10は、光導電体12の固有の解像度に起因した高空間分解能の恩恵を受ける。しかしながら、蛍光透視法、CBCTおよび心臓撮像などの高エネルギー用途では、ほとんどの光導電体は、入射X線を十分に減衰させるのに十分な量子効率を有していない。1000μm厚さのa-Se層を含む光導電体は、例えば、限られた量子効率を示し、低い信号対ノイズ比をもたらす。さらに、そのような厚い光導電体層内での不十分な電荷輸送は、信号のゴースト発生、遅延および/または損失をもたらし得る。適切な信号は、施される放射線量を増加させることによって達成されてもよいが、理解されるように、患者へのX線照射線量を最小にしながら十分なコントラストおよび明度を有する診断画像を達成することが望ましい。
【0007】
結果として、高エネルギー用途は、より優れた量子効率を有する間接検出器を使用する傾向がある。
図1Bを参照すると、間接変換検出器30は、最初にX線11を光学光子に変換するためにシンチレータまたは蛍光体スクリーン32を使用し、これは次いでフォトダイオード34内で吸収され、そして電子読み出し部を介してデジタル化される。しかしながら、間接変換検出器30の量子効率は、典型的には直接変換検出器10の量子効率を超えるけれども、シンチレータ内部の光学的不鮮明が、直接変換検出器で達成可能な空間分解能より低い空間分解能をもたらし得る。
【0008】
間接検出器の感度および最大信号対ノイズ比(SNR)は、例えば、それらの光学光子変換効率により制限される。低変換効率は、検出器の感度を低減させるだけでなく、取得される画像にノイズ(例えば、二次量子ノイズ)を追加する。このノイズは細部の解像度を妨げ得る。前述した点から、直接的または間接的な放射線変換に基づくX線撮像技術は、効率および分解能の不適切な組み合わせを提供することが理解されるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
最近の動向にもかかわらず、例えば放射線の過剰な線量を必要とせずに、適切なコントラストおよび明度を提供するX線用途のための改良された撮像センサが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書では、蛍光透視法およびCBCTを含む放射線撮像のためのX線検出器の性能を改善する、ハイブリッド・アクティブマトリクス・フラットパネル検出器システムなどのハイブリッド検出器およびそのシステムを実装する方法が開示される。様々な実施形態は、患者に供与する増大された線量を必要とせずに改善された画像品質を提供する。
【0011】
様々な実施形態によれば、放射線撮像センサは、低X線減衰基板と、基板の上方に配置された光導電体素子と、光導電体素子の上方に配置されたシンチレータとを含む。光導電体素子は、例えば、アモルファスセレン(a-Se)の層を含み得る。
【0012】
さらなる例示的な放射線撮像センサは、下から上に、低X線減衰基板と、画素電極アレイと、第1の電荷障壁層と、光導電体素子と、第2の電荷障壁層と、透明導電性電極と、光導電体素子に光学的に結合されたシンチレータとを含む。
【0013】
ハイブリッド検出器は、光導電体内部の直接相互作用並びにシンチレータからの間接相互作用を利用しており、それによりアモルファスセレン直接検出器の高い空間分解能と間接検出器の高い量子効率とを組み合わせている。
【0014】
さらなる実施形態によれば、X線放射を撮像するための方法は、光導電体素子およびシンチレータを含む放射線撮像センサをX線放射に暴露するステップと、光導電体素子による放射の第1の部分の吸収に応答して、光導電体素子内部で電荷キャリアを直接生成するステップであって、放射の第2の部分は光導電体素子を通過するステップとを含む。
【0015】
本方法は、シンチレータによる放射の第2の部分の吸収に応答して、シンチレータ内部で光学光子を生成させるステップをさらに含む。光導電体素子による光学光子の吸収に応答して、電荷キャリアが光導電体素子の内部で生成される。
【0016】
放射線撮像センサを形成する方法は、低X線減衰基板の上方に光導電体素子を形成するステップと、光導電体素子の上方にシンチレータを形成するステップとを含む。特定の実施形態では、シンチレータを形成するステップに先立って、光電変換層が光導電体素子の上方に形成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本出願の特定の実施形態の以下の詳細な説明は、以下の図面と併せて読むことで最もよく理解することができ、同様の構造は同様の参照符号で示されている。
【0018】
【
図1A】単一の光導電体層がX線を直接に電子-正孔対に変換する従来のX線検出器の概略図である。
【
図1B】従来のX線検出器の概略図であり、X線が最初にシンチレータ内で光学光子に変換され、続いてフォトダイオードにおいて光学光子を電子-正孔対に変換する。
【
図2】様々な実施形態によるハイブリッドX線撮像センサの概略図である。
【
図3A】150ミクロンの画素ピッチを有するテルビウムドープガドリニウムオキシサルファイド間接検出器を使用して作成された比較のX線画像を示している。
【
図3B】例示的なハイブリッド撮像センサを使用して作成された改善されたX線画像を示している。
【
図4】特定の実施形態によるハイブリッドAMFPIについての検出量子効率対空間周波数のプロットである。
【
図5】様々な実施形態による、光電変換層を含むハイブリッドX線撮像センサの分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ここで、本出願の主題の様々な実施形態をより詳細に参照し、そのいくつかの実施形態が添付の図面に示される。同一または類似の部分を参照するために、図面全体を通して同一の参照符号が使用される。
【0020】
図2を参照すると、様々な実施形態によるハイブリッドX線撮像センサ200は、低X線減衰基板210と、電子読み出し部220と、第1の電荷障壁層230と、光導電体素子240と、第2の電荷障壁層250と、透明導電性電極260および光導電体素子240に光学的に結合されたシンチレータ270とを含む。
【0021】
上側層および構造のための機械的支持を提供し得る低X線減衰基板210は、20から100ミクロンの厚さを有するガラス基板とすることができる。例えば、基板210は、低バリウムガラス基板またはポリマー基板であり得る。低X線減衰基板は、X線が光導電体素子240およびシンチレータ270を通過することを可能にしている。本明細書で使用される「低X線減衰」とは、基板210を通るX線の透過が少なくとも75%、例えば75、80、90、95、97または98%であり、前述の値のいずれかの間の範囲を含むことを意味する。
【0022】
特定の実施形態では、低X線減衰基板210はフレキシブル基板とすることができる。例えば、任意の薄いフレキシブルガラスが基板として使用され得る。適切なフレキシブル基板は、3から4cmの曲率半径まで曲げられ得る。電子読み出し部220は基板210の上方に形成され得る。
【0023】
電子読み出し部220は、画素電極222のアレイを含み、各々は、ソース領域(S)、ドレイン領域(D)およびゲート(G)を有する薄膜トランジスタ224に結合されている。アレイは、行および列に直線的に配置された複数の個々のセルに分割されている。各薄膜トランジスタ224は、貯蔵コンデンサに電気的に接続され得る。様々な実施形態によれば、電子読み出し部220は、X線透過性であり、放射線非感受性である。電子読み出し部220は、基板210に近接して、すなわち基板と光導電体素子240との間に配置されており、それによりセンサのX線入射面の近くでサンプリングが起こる。そのような幾何学的形状により、シンチレータの空間分解能が改善される。
【0024】
光導電体素子240と電子読み出し部220との間に位置する第1電荷障壁層230は、光導電体素子240と電子読み出し部220、すなわち画素電極222との間で、電荷、例えば電子の通過を防止するように構成されている。第1の電荷障壁層230は、例えば、二酸化ケイ素または窒化ケイ素のような誘電材料を含有していてもよく、熱蒸着またはスパッタリングを含む物理気相成長(PVD)のような真空蒸着技術を用いて形成されてもよい。
【0025】
光導電体素子240は、アモルファスセレン(a-Se)の層を含有していてもよく、50から1000ミクロン、例えば、50、100、200、400、600、800、または1000ミクロン、前述の値のいずれかの間の範囲を含む厚さを有し得る。特定の実施形態では、アモルファスセレンの光導電体素子240は、ヒ素または塩素などの1つ以上のドーパントを含み得る。アモルファスセレンの代わりに、光導電体素子240は、テルル化カドミウム(CdTe)、ヨウ化鉛(PbI2)、酸化鉛(II)(PbO)、ヨウ化水銀(HgI2)、またはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)またはチタン酸バリウムストロンチウム(BST)などのペロブスカイト材料などの他の光導電体材料を含み得る。特定の実施形態では、光導電体素子は、1つ以上のそのような材料の量子ドットを含み得る。
【0026】
光導電体素子240は、熱蒸着、スパッタリング、またはゾルゲル法などの溶液系プロセスなどの任意の適切な技術によって形成された光導電体薄膜とすることができる。光導電体薄膜を緻密化するために1つ以上の焼結ステップを用いてもよい。
【0027】
光導電体素子とシンチレータ270との間に配置される第2の電荷障壁層250は、シンチレータ270から放出された光放射がそれを通って光導電体素子240の中に伝達されることを可能にすると同時に、光導電体素子240と高電圧(HV)電極260との間で、電荷、例えば正孔の通過を防止するように構成されている。例示的な第2の電荷障壁層250は、二酸化ケイ素または窒化ケイ素などの誘電材料を含む。
【0028】
本明細書で使用される化合物二酸化ケイ素および窒化ケイ素は、それぞれ名目上SiO2およびSi3N4として表される組成を有している。二酸化ケイ素および窒化ケイ素という用語は、これらの化学量論的組成だけでなく、化学量論的組成から逸脱する酸化物および窒化物組成も言及している。
【0029】
光導電体素子240は、高電圧電極260でバイアスをかけられ、並びに第1および第2の電荷障壁層230、250によってそれぞれ画素電極222および高電圧電極260から分離され得る。高電圧電極260は、シンチレータ270から光導電体素子240への光子の光透過を可能にする透明導電性電極とすることができる。例示的な透明導電性電極は、酸化インジウムスズ(ITO)などの導電体金属酸化物またはポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などの導電体有機ポリマーを含み得る。
【0030】
シンチレータスクリーン270は、X線放射を吸収し、吸収したX線放射を光学放射に変換するように構成されている。シンチレータ270に適した材料の例は、ドープされていないまたはドープされたヨウ化セシウム(CsI)、例えば約550nmにピーク発光を有する、タリウムドープされたヨウ化セシウム(CsI:Tl)である。より長いまたはより短い波長で発光するシンチレータもまた使用することができる。シンチレータ270は、例えば、青色光または緑色光を放射することができる。他の例示的なシンチレーション材料は、ゲルマニウム酸ビスマス(BGO)、ルテチウムオルトシリケート(LSO)、ルテチウムイットリウムオルトシリケート(LYSO)およびシンチレーションガラスを含む。
【0031】
青色波長で発光するシンチレータは、フルオロハロゲン化バリウム(例えば、フルオロ臭化バリウム、フルオロ塩化バリウム、フルオロヨウ化バリウムなど)およびタングステン酸カルシウムを含むが、これらに限定されない。青色光は、a-Seにおいて高い光量子効率(>80%)を有しており、これはa-Seが青色シンチレータに直接結合することを可能にしている。
【0032】
緑色波長で発光するシンチレータ270は、タリウムドープヨウ化セシウム(CsI:Tl)およびテルビウムドープガドリニウムオキシサルファイド(GOS)を含む。緑色で発光するシンチレータの光量子効率は20%未満であり得るので、特定の実施形態では、追加の緑色感光性光導電体層(図示せず)がa-Se層240と高電圧(HV)電極260との間に含まれ得る。追加の光導電体層は、例えば、テルルドープa-Se、またはセレン化カドミウムなどの他の化合物半導体を含み得る。
【0033】
理解されるように、シンチレータの組成および幾何学的形状(例えば、厚さ)は特定の用途のために選択されてもよい。特定の実施形態では、シンチレータ270の実効EHP生成エネルギー(W±)は、全てのX線が等しく計数されるように、a-Seの実効EHP生成エネルギー(W±=50)と一致する。
【0034】
X線撮影の期間の間に、X線ビームは患者に衝突し、それが患者の解剖学的構造を通過するときに画像様に変更される。患者の解剖学的構造に関する情報を含む空間的に変更された放射線は、画像センサ200に衝突する。
【0035】
操作の間に、X線201は、基板210を通って、および電子読み出し部(TFTアレイ)220を通ってセンサ200に入射する。例えば、X線は、光導電体層240を通過して、X線の第1の部分が減衰され、電子-正孔対に直接変換され得る。直接変換は、
図2において概略的に示されている。
【0036】
X線の第2の部分は光導電体層240を通過し得る。X線の第2の部分はシンチレータ270によって吸収され、光学光子に変換され得る。光学光子は、次に、光導電体層240内で電子-正孔対に変換される。
【0037】
このように、様々な実施形態において、入射X線201は、光導電体240における直接相互作用およびシンチレータ270を用いた間接相互作用の両方を介して吸収されて、電子-正孔対に変換される。特定の実施形態では、光導電体240は、X線および光学光子の両方を感知するように構成されている。このハイブリッド構造は、直接検出器または間接検出器単独で達成可能なものを超えた空間分解能および線量効率の改善を可能にしている。
【0038】
さらに
図2を参照すると、入射X線201は、シンチレータ270との相互作用に先立って光導電体240と相互作用する。X線の第1の部分、例えば高エネルギーX線よりもより高いX線撮影コントラストを有している、低エネルギーX線は、光導電体240により吸収され、電子-正孔対に直接変換され得る。
【0039】
X線の第2の部分、例えば、光導電体240と相互作用しない高エネルギーX線は、光導電体240よりも高い阻止能(しかしより低い空間分解能)を有するシンチレータ270によって吸収され得る。そのような高エネルギーX線の電子-正孔対への間接的な変換は、検出器の全体的な吸収効率を高めることができる。
【0040】
様々な実施形態において、a-Se光導電体240は、X線の直接検出器および光学光子に対する検出器の両者として機能するように構成されている。様々な実施形態によれば、a-Seの光結合および量子効率は、シンチレータに吸収されたX線とa-Seに吸収されたX線との間で十分に整合のとれた信号利得を達成するために使用される。
【0041】
開示されたハイブリッド検出器200を用いた撮像における改善は、
図3Aおよび
図3Bを参照して理解することができる。
図3Aを参照すると、比較による間接検出器を使用して導出されたシミュレート画像が示されている。
図3Aのファントム画像は、150μmの画素ピッチを有する標準テルビウムドープガドリニウムオキシサルファイド(GOS)燐光体スクリーンを用いて生成されたものである。
【0042】
図3Bを参照すると、本明細書で開示したハイブリッド検出器を使用して導出された同じシミュレート画像が示されている。ハイブリッド検出器での鮮明度の改善は明らかである。シミュレートされたファントムにおける300ミクロンの線群(右下から2番目)のコントラスト変調は、例えば3倍改善されている。
【0043】
ハイブリッド検出器の改善された撮像効率は、(A)本明細書で開示したハイブリッドAMFPI、(B)比較用のa-Seベースの直接検出器および(C)比較用の蛍光体ベースの間接検出器についての検出量子効率(DQE)対空間周波数のプロットである、
図4を参照すると理解することができる。
【0044】
検出量子効率は、撮像システムの信号性能およびノイズ性能の複合効果の尺度である。医療用X線撮影において、DQEは、理想的な検出器に対して撮像システムが高い信号対ノイズ比で画像をどれだけ効果的に生成できるかを表している。
図4を参照すると、ハイブリッドAMFPIのDQEは、0から7サイクル/mmの領域にわたって直接または間接検出器のいずれかに対するDQEよりも大きいことが容易に明らかである。
【0045】
図5を参照すると、様々な実施形態による平面型ハイブリッドX線撮像センサは、下から上に、電子読み出し部220、第1の電荷障壁層230、光導電体素子240、バッファ層242、光電変換層244、第2の電荷障壁層250、透明導電性電極260並びに光電変換層244および光導電体素子240に光学的に結合されたシンチレータ270とを含む。
【0046】
電子読み出し部220は、例えば各々が貯蔵コンデンサ518に結合された、画素電極514および薄膜トランジスタ(TFT)またはダイオード516のアレイを有するソリッドステート素子を含み得る。走査制御システム522およびマルチプレクサ524は画像データを蓄積し、電子的にアドレス指定するように構成されている。
【0047】
本実施形態では、バッファ層242および光電変換層244が、光導電体素子240と電荷障壁層250との間に配置されている。ドープアモルファスセレン、例えばヒ素ドープアモルファスセレンを含み得るバッファ層242は、安定化を高め、光導電体素子240の結晶化を抑制するように適合されている。特定の実施形態では、バッファ層242は省略されてもよい。光電変換層244は、例えば、セレン化カドミウム(CdSe)または硫化カドミウム(CdS)を含み得る。特定の実施形態では、光電変換層244は光導電体素子240を補うように適合されている。使用の間に、様々な実施形態によれば、X線は、
図5の平面状ハイブリッドセンサの上面(例えばシンチレータ270)または下面(例えば電子読み出し部220)に入射し得る。
【0048】
本明細書で開示している様々なハイブリッドセンサのアーキテクチャは、スパッタリング、熱蒸着、電子ビーム蒸着、または溶液ベースの蒸着方法などの1つ以上の従来の薄膜堆積プロセスを使用して層ごとに製造することができる。
図5を再び参照すると、例示的な製造プロセスの流れは、電子読み出し部220上に光導電体素子240を形成するステップを含み得る。アモルファスセレンを含む光導電体素子240は、蒸着によって形成され得る。光導電体素子240は、X線を電子電荷に変換するための変換層として、および/または光生成電荷を電子読み出し部220に向かって輸送するためのドリフト層として機能することができる。特定の実施形態では、ドープセレンの層は、バッファ層242を形成するために光導電体素子240の上に直接、例えば蒸着によって堆積され得る。光電変換層244は、存在する場合はバッファ層242の上に、または光導電体素子240の直接上方に形成することができる。光電変換層244は、例えば、熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリングまたは溶液処理、例えば量子ドットの液体懸濁液をスピンコーティングすることによって形成され得る。特定の実施形態では、光電変換層244は、30℃以下の堆積温度で形成される。特定の用途では、光電変換層244は、上側の電極から光導電体素子240への電荷注入を阻止または防止するための電荷障壁層(例えば、正孔障壁層)として機能するように適合される。様々な実施形態では、酸化亜鉛(ZnO)の層などの電荷障壁層250は、光電変換層244の上方に形成される。電荷障壁層250は、30℃以下の堆積温度で、熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、または溶液処理により、例えば、コロイド状ZnO粒子またはコロイド状量子ドットの分散液を用いることにより形成することができる。透明導電性電極260は、電荷障壁層250の上に形成され、X線を光子に変換するように適合されたシンチレータ270は、透明導電性電極260の上に形成される。
【0049】
出願人は、間接変換X線フラットパネルイメージャと高効率光電変換層244との組み合わせが、改善されたダイナミックレンジおよび感度を提供し、これはデジタルX線撮影に対して有益であることを実証した。光導電体素子240(例えば、a-Se)とシンチレータ(例えば、CsI)との間の光電変換層244の組み込むは、センサの光学光子変換効率を向上させ得る。
【0050】
改善された光学光子変換効率は、高い信号対ノイズ性能、および低線量蛍光透視における電子ノイズの悪影響の減少を含む、様々な用途に対して実用的な利点を提供している。
【0051】
本明細書で開示したように、ハイブリッド検出器は、直接および間接検出器のそれぞれの欠点を最小限に抑えながら、その利点を利用している。セレン内のX線の直接相互作用は、画像の鮮明度を維持するのを助け、高い空間周波数での電子ノイズを克服する。シンチレーション層からのX線信号は、a-Se内のものと比較して不鮮明であるが、その高い吸収効率は、全検出器信号を増大させ、低線量性能を改善する。
【0052】
開示されたハイブリッド検出器は、従来の直接変換検出器と比較して改善された線量効率、および従来の間接変換検出器と比較して優れた空間分解能を示している。高い空間分解能と組み合わされた高い吸収効率は、特に微細な細部および低コントラストの対象物に対して、より良好な量子効率および改善された撮像をもたらす。
【0053】
開示されたセンサは、一般的な放射線撮影およびマンモグラフィーのような画像診断用の様々なX線システムと共に使用されてもよいことが理解されるであろう。
【0054】
本明細書で使用される、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数の指示物を含む。従って、例えば、「画素電極」への言及は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、2つ以上のそのような「画素電極」を有する例を含む。
【0055】
特に明記しない限り、本明細書に記載の任意の方法は、そのステップが特定の順序で行われることを必要とすると解釈されることを決して意図していない。従って、方法クレームが後にそのステップが続く順番を現に記載していないか、またはそうでなければステップが特定の順番に限定されるべきであることが請求項または明細書に具体的に述べられていない場合、任意の特定の順序が暗示されることを決して意図していない。任意の1つの請求項における任意の記載された単一または複数の特徴または態様は、任意の他の1つまたは複数の請求項内の任意の他の記載された特徴または態様と組み合わせることができるか、または置換することができる。
【0056】
層、領域または基板などの要素が別の要素の「上に(on)」または「上方に(over)」形成され、堆積され、または配置されていると言及される場合、それは他の要素の上に直接あり得ること、または介在要素も存在し得ることが理解されよう。対照的に、ある要素が別の要素の「直接上に」または「直接上方に」あると言及される場合、介在要素は存在しない。
【0057】
特定の実施形態の様々な特徴、要素またはステップは、「含む(comprising)」という移行句を使用して開示され得るけれども、「からなる(consisting)」または「から本質的になる(consisting essentially of)」という移行句を使用して説明され得るものを含む代替の実施形態が意味されると理解される。従って、例えば、アモルファスセレンを含む光検出器の暗黙の代替実施形態は、光検出器がアモルファスセレンから本質的になる実施形態、および光検出器がアモルファスセレンからなる実施形態を含む。
【0058】
本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明に様々な修正および変更を加えることができることが当業者には明らかであろう。本発明の精神および実体を組み込んでいる開示された実施形態の修正、組み合わせ、サブコンビネーション、および変形は当業者に想起され得るので、本発明は添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物の範囲内のすべてを含むと解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0059】
10 直接変換検出器
11 X線
12 X線感受性光導電体
14 画素電極
18 貯蔵コンデンサ
20 バイアス電極
22 走査制御システム
24 マルチプレクサ
30 間接変換検出器
32 蛍光体スクリーン
34 フォトダイオード
200 ハイブリッド検出器
201 X線
210 X線減衰基板
220 電子読み出し部
222 画素電極
224 薄膜トランジスタ
230 第1の電荷障壁層
240 光導電体素子
242 バッファ層
244 光電変換層
250 電荷遮蔽層
260 透明導電性電極
270 シンチレータ
514 画素電極
516 薄膜トランジスタ(TFT)またはダイオード
518 貯蔵コンデンサ
522 走査制御システム
524 マルチプレクサ