(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびこれにより製造された成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 25/04 20060101AFI20220329BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20220329BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220329BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20220329BHJP
C08K 5/524 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
C08L25/04
C08L51/04
C08K3/22
C08K5/13
C08K5/524
(21)【出願番号】P 2019530135
(86)(22)【出願日】2017-12-19
(86)【国際出願番号】 KR2017015045
(87)【国際公開番号】W WO2018124592
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-09-01
(31)【優先権主張番号】10-2016-0184165
(32)【優先日】2016-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520087103
【氏名又は名称】ロッテ ケミカル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】イ,ウン チュ
(72)【発明者】
【氏名】クォン,ヨン チュル
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-161758(JP,A)
【文献】特開2004-067951(JP,A)
【文献】特開2001-220464(JP,A)
【文献】特開2009-091400(JP,A)
【文献】特開2006-188628(JP,A)
【文献】特開平11-263705(JP,A)
【文献】特開2013-189629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム変性ビニル系グラフト共重合体および芳香族ビニル系共重合体樹脂を含む熱可塑性樹脂;
フェノール系熱安定剤およびリン系熱安定剤を含む熱安定剤;ならびに
平均粒子径が約0.5μm~約3μmであり、BET比表面積が約1m
2/g~約10m
2/gである酸化亜鉛を含むことを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物
であって、
前記酸化亜鉛は、フォトルミネッセンス(Photo Luminescence)測定時、370nm~390nm領域のピークAと450nm~600nm領域のピークBとの強度比(B/A)が約0~約1であり、
前記酸化亜鉛は、X線回折(X-ray diffraction,XRD)の分析時、ピーク位置(peak position)2θ値が35°~37°の範囲であり、下記数式1による微結晶サイズ(crystallite size)値が約1,000Å~約2,000Åである、熱可塑性樹脂組成物:
【数1】
前記数式1において、Kは形状係数(shape factor)であり、λはX線波長(X-ray wavelength)であり、βはX線回折ピーク(peak)のFWHM値(degree)であり、θはピーク位置値(peak position degree)である。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂組成物は、前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体約20重量%~約50重量%および前記芳香族ビニル系共重合体樹脂約50重量%~約80重量%を含む熱可塑性樹脂約100重量部;前記フェノール系熱安定剤約0.05重量部~約2重量部;前記リン系熱安定剤約0.05重量部~約2重量部;ならびに前記酸化亜鉛約0.3重量部~約10重量部を含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物がグラフト重合されたことを特徴とする、請求項1
または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、芳香族ビニル系単量体および前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体の重合体であることを特徴とする、請求項1
~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記フェノール系熱安定剤は、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートおよび2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェノール)のうち1種以上を含むことを特徴とする、請求項1
~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記リン系熱安定剤は、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトおよびジフェニルイソオクチルホスファイトのうち1種以上を含むことを特徴とする、請求項1
~5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記
フェノール系熱安定剤と前記リン系熱安定剤との重量比(
フェノール系熱安定剤:リン系熱安定剤)は、約1:1~約1:2であることを特徴とする、請求項1
~6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記熱安定剤と前記酸化亜鉛との重量比(熱安定剤:酸化亜鉛)は、約1:0.75~約1:15であることを特徴とする、請求項1
~7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂組成物は、HS-SPME GC/MS(headspace solid-phase microextraction coupled to gas chromatography/mass spectrometry)を用いて、120℃で300分間捕集した揮発性有機化合物の検出面積値が約600area/g~約2,000area/gであることを特徴とする、請求項1
~8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂組成物は、GC/MS(gas chromatography/mass spectrometry)を用いて、250℃で測定した残留揮発成分の含有量が約800ppm~約2,000ppmであることを特徴とする、請求項1
~9のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂組成物は、JIS Z 2801抗菌評価法によって、5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌および大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後の抗菌活性値が、それぞれ独立して、約2~約7であることを特徴とする、請求項1
~10のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
前記熱可塑性樹脂組成物は、3Dプリンティング用素材であることを特徴とする、請求項1
~11のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか
1項に記載の熱可塑性樹脂組成物から形成されることを特徴とする、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物およびこれにより製造された成形品に関するものである。より具体的には、本発明は、低臭性、抗菌性等に優れた熱可塑性樹脂組成物およびこれにより製造された成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂として、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)等のゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂は、機械的物性、加工性、外観特性等に優れるため、電気/電子製品の内/外装材、自動車の内/外装材、建築用外装材等に広く使用されている。
【0003】
特に、ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂は、コストが安く、成形性に優れるため3Dプリンティング用素材としても使用されているが、Out-gas(未反応揮発性有機化合物)の量が多いことから、成形時または成形後にプラスチック臭が強く出るという欠点がある。
【0004】
また、これらの樹脂が医療機器、おもちゃ、食品容器等の物理的な接触が生じる用途に使用される場合、素材自体に抗菌性が要求される。
【0005】
よって、低臭性、抗菌性等に優れた熱可塑性樹脂組成物の開発が必要な実情にある。
【0006】
本発明の背景技術は、韓国公開特許第2016-0001572号公報等に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、低臭性、抗菌性等に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、前記熱可塑性樹脂組成物から形成された成形品を提供することである。
【0009】
本発明の上記およびその他の目的は、下記で説明する本発明によって全て達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一つの観点は、熱可塑性樹脂組成物に関するものである。上記熱可塑性樹脂組成物は、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体および芳香族ビニル系共重合体樹脂を含む熱可塑性樹脂;フェノール系熱安定剤およびリン系熱安定剤を含む熱安定剤;ならびに平均粒子径が約0.5μm~約3μmであり、BET比表面積が約1m2/g~約10m2/gである酸化亜鉛を含む。
【0011】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、上記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体約20重量%~約50重量%および上記芳香族ビニル系共重合体樹脂約50重量%~約80重量%を含む熱可塑性樹脂約100重量部;上記フェノール系熱安定剤約0.05重量部~約2重量部;上記リン系熱安定剤約0.05重量部~約2重量部;ならびに前記酸化亜鉛約0.3重量部~約10重量部を含むことができる。
【0012】
具体例において、上記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物がグラフト重合されたものでもよい。
【0013】
具体例において、上記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、芳香族ビニル系単量体および上記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体の重合体でもよい。
【0014】
具体例において、上記フェノール系熱安定剤は、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートおよび2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェノール)のうち1種以上を含んでもよい。
【0015】
具体例において、上記リン系熱安定剤は、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトおよびジフェニルイソオクチルホスファイトのうち1種以上を含んでもよい。
【0016】
具体例において、上記酸化亜鉛は、フォトルミネッセンス(Photo Luminescence)測定時、370nm~390nm領域のピークAと450nm~600nm領域のピークBの強度比(B/A)が約0~約1になり得る。
【0017】
具体例において、上記酸化亜鉛は、X線回折(X-ray diffraction,XRD)の分析時、ピーク位置(peak position)2θ値が35°~37°の範囲であり、下記数式1による微結晶サイズ(crystallite size)の値が約1,000Å~約2,000Åになり得る:
【0018】
【0019】
上記数式1において、Kは形状係数(shape factor)であり、λはX線波長(X-ray wavelength)であり、βはX線回折ピーク(peak)のFWHM値(degree)であり、θはピーク位置の値(peak position degree)である。
【0020】
具体例において、上記フェノール系熱安定剤および上記リン系熱安定剤の重量比(フェノール系熱安定剤:リン系熱安定剤)は、約1:1~約1:2になり得る。
【0021】
具体例において、上記熱安定剤および上記酸化亜鉛の重量比(熱安定剤:酸化亜鉛)は約1:0.75~約1:15になり得る。
【0022】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、HS-SPME GC/MS(headspace solid-phase microextraction coupled to gas chromatography/mass spectrometry)を用いて、120℃で300分間捕集した揮発性有機化合物の検出面積の値が約600area/g~約2,000area/gになり得る。
【0023】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、GC/MS(gas chromatography/mass spectrometry)を用いて、250℃で測定した残留揮発成分の含有量が約800ppm~約2,000ppmになり得る。
【0024】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、JIS Z 2801抗菌評価法によって、5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌および大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後の抗菌活性値が、それぞれ独立して、約2~約7になり得る。
【0025】
具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、3Dプリンティング用素材でもよい。
【0026】
本発明の他の観点は、成形品に関するものである。上記成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物から形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、低臭性、抗菌性等に優れた熱可塑性樹脂組成物およびこれにより形成された成形品を提供するという発明の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳しく説明すると、次の通りである。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A1)ゴム変性ビニル系グラフト共重合体および(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂を含む(A)熱可塑性樹脂;(B1)フェノール系熱安定剤および(B2)リン系熱安定剤を含む(B)熱安定剤;ならびに(C)酸化亜鉛を含む。
【0030】
(A)熱可塑性樹脂
本発明の熱可塑性樹脂は、(A1)ゴム変性ビニル系グラフト共重合体および(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂を含むゴム変性ビニル系共重合体樹脂であり得る。
【0031】
(A1)ゴム変性芳香族ビニル系グラフト共重合体
本発明の一具体例にかかるゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物がグラフト重合されたものであってもよい。例えば、上記のゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物をグラフト重合して得ることができ、必要に応じて、上記単量体混合物に加工性および耐熱性を付与する単量体をさらに含有させてグラフト重合することができる。上記重合は、乳化重合、懸濁重合等の公知の重合方法によって行うことができる。また、前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、コア(ゴム質重合体)-シェル(単量体混合物の共重合体)構造を形成することができるが、これらに制限されない。
【0032】
具体例において、上記ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ポリ(スチレン-ブタジエン)、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン)等のジエン系ゴム、および上記ジエン系ゴムに水素添加した飽和ゴム、イソプレンゴム、炭素数2~10のアルキル(メタ)アクリレートゴム、炭素数2~10のアルキル(メタ)アクリレートおよびスチレンの共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン単量体三元共重合体(EPDM)等を例示することができる。これらは、単独または2種以上混合して適用することができる。例えば、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレートゴム等を使用することができ、具体的には、ブタジエン系ゴム、ブチルアクリレートゴム等が使用することができる。上記ゴム質重合体(ゴム粒子)の平均粒子径(Z-平均)は、約0.05μm~約6μm、例えば約0.15μm~約4μm、具体的には約0.25μm~約3.5μmになり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、外観特性等に優れる。
【0033】
具体例において、前記ゴム質重合体の含有量は、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体全体100重量%のうち、約20重量%~約70重量%、例えば約25重量%~約60重量%になり得、上記単量体混合物(芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む)の含有量は、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体全体100重量%のうち、約30重量%~約80重量%、例えば約40重量%~約75重量%になり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、外観特性等に優れる。
【0034】
具体例において、前記芳香族ビニル系単量体は、前記ゴム質重合体にグラフト共重合できるものであり、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレン等を例示することができる。これらは単独で使用したり、2種以上を混合して使用することができる。上記芳香族ビニル系単量体の含有量は、上記単量体混合物100重量%中、約10重量%~約90重量%、例えば約40重量%~約90重量%になり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の加工性、耐衝撃性等に優れる。
【0035】
具体例において、上記シアン化ビニル系単量体は、上記芳香族ビニル系と共重合可能なものであり、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、フマロニトリル等を例示することができる。これらは単独で使用したり、2種以上を混合して使用することができる。例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を使用できる。前記シアン化ビニル系単量体の含有量は、上記単量体混合物100重量%中、約10重量%~約90重量%、例えば約10重量%~約60重量%になり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐化学性、機械的特性等に優れる。
【0036】
具体例において、上記の加工性および耐熱性を付与するための単量体としては、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、N-置換マレイミド等が例示できるが、これらに限定されない。上記の加工性および耐熱性を付与するために単量体を使用する際、その含有量は、上記単量体混合物100重量%中、約15重量%以下、例えば、約0.1重量%~約10重量%でもよい。上記範囲で、他の物性を損なうことなく、熱可塑性樹脂組成物に加工性や耐熱性を付与することができる。
【0037】
具体例において、上記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体としては、ブタジエン系ゴム質重合体に芳香族ビニル系化合物であるスチレン単量体と、シアン化ビニル系化合物であるアクリロニトリル単量体がグラフトされた共重合体(g-ABS)、ブチルアクリレート系ゴム質重合体に芳香族ビニル系化合物であるスチレン単量体と、シアン化ビニル系化合物であるアクリロニトリル単量体がグラフトされた共重合体であるアクリレート-スチレン-アクリロニトリルグラフト共重合体(g-ASA)等を例示することができる.
具体例において、上記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、全体の熱可塑性樹脂(ゴム変性ビニル系グラフト共重合体および芳香族ビニル系共重合体樹脂)100重量%のうち、約20重量%~約50重量%、例えば約25重量%~約45重量%で含まれ得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性(成形加工性)、外観特性、これらの物性バランス等に優れる。
【0038】
(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂
本発明の一具体例にかかる芳香族ビニル系共重合体樹脂は、通常のゴム変性ビニル系共重合体樹脂に使用される芳香族ビニル系共重合体樹脂であってもよい。例えば、上記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体等の上記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体を含む単量体混合物の重合体であってもよい。
【0039】
具体例において、上記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、芳香族ビニル系単量体および芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体等を混合した後、これを重合して得ることができ、前記重合は、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の公知の重合方法により行うことができる。
【0040】
具体例において、上記芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレン等を使用することができる。これらは、単独または2種以上を混合して適用することができる。上記芳香族ビニル系単量体の含有量は、芳香族ビニル系共重合体樹脂全体100重量%中、約20重量%~約90重量%、例えば約30重量%~約80重量%になり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性等に優れる。
【0041】
具体例において、上記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、フマロニトリル等のシアン化ビニル系単量体等が使用でき、単独または2種以上を混合して使用することができる。上記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体の含有量は、芳香族ビニル系共重合体樹脂全体100重量%中、約10重量%~約80重量%、例えば約20重量%~約70重量%になり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性等に優れる。
【0042】
具体例において、上記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、GPC(gel permeation chromatography)で測定した重量平均分子量(Mw)が、約10,000g/mol~約300,000g/mol、例えば約15,000g/mol~約150,000g/molになり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の機械的強度、成形性等に優れる。
【0043】
具体例において、上記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、全体の熱可塑性樹脂100重量%中、約50重量%~約80重量%、例えば約55重量%~約75重量%で含まれ得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性(成形加工性)等に優れる。
【0044】
(B)熱安定剤
本発明の一具体例にかかる熱安定剤は、上記酸化亜鉛と共に熱可塑性樹脂組成物(試験片)の低臭性、抗菌性等を向上させることができるものであり、(B1)フェノール系熱安定剤および(B2)リン系熱安定剤を含む。
【0045】
(B1)フェノール系熱安定剤
本発明の一具体例にかかるフェノール系熱安定剤は、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2'-エチリデン-ビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、これらの組合せ等を含んでもよい。好ましくは、オクタデシル-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等を使用することができる。
【0046】
具体例において、上記フェノール系熱安定剤は、上記熱可塑性樹脂約100重量部に対して、約0.05重量部~約2重量部、例えば約0.1重量部~約1重量部、具体的には約0.2重量部~約0.5重量部で含んでもよい。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の低臭性、抗菌性等に優れる。
【0047】
(B2)リン系熱安定剤
本発明の一具体例にかかるリン系熱安定剤は、ホスファイト系化合物、例えば、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、これらの組合せ等を含んでもよい。好ましくは、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等を使用することができる。
【0048】
具体例において、上記リン系熱安定剤は、上記熱可塑性樹脂約100重量部に対して、約0.05重量部~約2重量部、例えば約0.1重量部~約1重量部、具体的には0.3重量部~0.6重量部で含むことができる。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の低臭性、抗菌性等に優れる。
【0049】
具体例において、上記フェノール系熱安定剤(B1)および上記リン系熱安定剤(B2)の重量比(B1:B2)は、約1:1~約1:2、例えば約1:1~約1:1.5になり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の低臭性、抗菌性等により優れる。
【0050】
(C)酸化亜鉛
本発明の酸化亜鉛は、上記熱安定剤と共に熱可塑性樹脂組成物の低臭性、抗菌性等を向上させることできるものであり、粒度分析装置で測定した平均粒子径(D50)が約0.5μm~約3μm、例えば約1μm~約3μmになり得、BET比表面積が約1m2/g~約10m2/g、例えば約1m2/g~約7m2/gになり得、純度が約99%以上になり得る。上記範囲を外れた場合、熱可塑性樹脂組成物の低臭性、抗菌性等が低下するおそれがある。
【0051】
具体例において、前記酸化亜鉛は、フォトルミネッセンス(Photo Luminescence)の測定時、370nm~390nm領域のピークAと450nm~600nm領域のピークBの強度比(B/A)が約0~約1、例えば約0.01~約1、具体的には約0.01~約0.09になり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の低臭性、抗菌性等により優れる。
【0052】
具体例において、上記酸化亜鉛は、X線回折(X-ray diffraction,XRD)の分析時、ピーク位置(peak position)2θ値が35°~37°の範囲であり、測定されたFWHM値(回折ピーク(peak)のFull width at Half Maximum)を基準にScherrer’s equation(下記数式1)に適用して演算された微結晶サイズ(crystallite size)値が約1,000Å~約2,000Å、例えば約1,200Å~約1,800Åになり得る。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の初期色相、耐候性、抗菌性等に優れる。
【0053】
【0054】
前記数式1において、Kは形状係数(shape factor)であり、λはX線波長(X-ray wavelength)であり、βはFWHM値(degree)であり、θはピーク位置値(peak position degree)である。
【0055】
具体例において、前記酸化亜鉛は下記数式2に基づいて算出した光触媒効率が約90%~約99%、例えば、約91%~約98.5%になり得る。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の低臭性がより優れる。
【0056】
【0057】
上記数式2において、N1は660nmの波長強さで測定した5ppm濃度のメチレンブルー溶液のUV吸収率であり、N2は5ppmの濃度のメチレンブルー溶液に上記酸化亜鉛1,000ppmを担持し、280nm~360nm波長の紫外線(UV-B)を2時間照射した後、660nmの波長強さで測定したUV吸収率である。
【0058】
具体例において、上記酸化亜鉛は、金属形態の亜鉛を溶かした後、約850℃~約1,000℃、例えば約900℃~約950℃に加熱して気化させた後、酸素ガスを注入して約20℃~約30℃に冷却し、必要に応じて、反応器に窒素/水素ガスを注入しながら、約700℃~約800℃で約30分~約150分間、例えば約60分~約120分間加熱して製造することができる。
【0059】
具体例において、上記酸化亜鉛は上記熱可塑性樹脂約100重量部に対して、約0.3重量部~約10重量部、例えば約0.5重量部~約5重量部、具体的には約1重量部~約3重量部で含むことができる。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の低臭性、抗菌性等に優れる。
【0060】
具体例において、上記熱安定剤(B)と上記酸化亜鉛(C)との重量比(B:C)は約1:0.75~約1:15、例えば約1:0.75~約1:10になり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の低臭性、抗菌性等により優れる。
【0061】
本発明の一具体例にかかる熱可塑性樹脂組成物は、通常の熱可塑性樹脂組成物に含まれる添加剤をさらに含んでもよい。上記添加剤としては、難燃剤、充填剤、酸化防止剤、滴下防止剤、滑剤、離型剤、核剤、帯電防止剤、安定剤、顔料、染料、これらの混合物等を例示することができるが、これらに制限されるのではない。上記添加剤を使用する際、その含有量は、熱可塑性樹脂約100重量部に対して、約0.001重量部~約40重量部、例えば約0.1重量部~約10重量部になり得る。
【0062】
本発明の一具体例にかかる熱可塑性樹脂組成物は、上記の構成成分を混合し、通常の二軸押出機を用いて、約200℃~約280℃、例えば約220℃~約250℃で溶融押出したペレット形態になり得る。上記熱可塑性樹脂組成物は、低臭性、抗菌性、耐衝撃性、流動性(成形加工性)、これらの物性バランス等に優れるため、3Dプリンティング用素材(フィラメント)等に有用である。
【0063】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、HS-SPME GC/MS(headspace solid-phase microextraction coupled to gas chromatography/mass spectrometry)を使用し、約120℃で約300分間捕集した揮発性有機化合物の検出面積値が約600area/g~約2,000area/g、例えば約700area/g~約1,300area/gになり得る。
【0064】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、GC/MS(gas chromatography/mass spectrometry)を使用して、250℃で測定した残留揮発成分の含量が約800ppm~約2,000ppm、例えば約900ppm~約1,500ppmになり得る。
【0065】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、JIS Z 2801抗菌評価法に基づいて、5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌および大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後、測定した抗菌活性値が、それぞれ独立して、約2~約7、例えば約4~約6.5になり得る。
【0066】
本発明にかかる成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物から形成される。上記熱可塑性樹脂組成物はペレット形態に製造でき、製造されたペレットは、射出成形、押出成形、真空成形、キャスティング成形等の多様な成形方法を通じて多様な成形品(製品)に製造することができる。このような成形方法は、本発明の属する分野の通常の知識を有する者によってよく知られている。上記成形品は、低臭性、抗菌性、耐衝撃性、流動性(成形加工性)、これらの物性バランス等に優れるため、3Dプリンティングによって製造された成形品、医療用品の素材、電気/電子製品の内/外装材等に有用である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明するが、このような実施例は、単に説明の目的のためのものであり、本発明を制限するものであると解釈してはならない。
【0068】
実施例
実施例および比較例で用いられた各成分の仕様は次の通りである。
【0069】
(A)熱可塑性樹脂
(A1-1)ゴム変性芳香族ビニル系グラフト共重合体
45重量%のZ-平均が310nmのブタジエンゴムに、55重量%のスチレンおよびアクリロニトリル(重量比:75/25)がグラフト共重合されたg-ABSを使用した。
【0070】
(A1-2)ゴム変性芳香族ビニル系グラフト共重合体
45重量%のZ-平均が310nmのブチルアクリレートゴムに、55重量%のスチレンおよびアクリロニトリル(重量比:75/25)がグラフト共重合されたg-ASAを使用した。
【0071】
(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂
スチレン71重量%およびアクリロニトリル29重量%が重合されたSAN樹脂(重量平均分子量:130,000g/mol)を使用した。
【0072】
(B)熱安定剤
(B1)フェノール系熱安定剤として、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを使用した。
【0073】
(B2)リン系熱安定剤として、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトを使用した。
【0074】
(C)酸化亜鉛
(C1)下記表1の平均粒子径、BET表面積、純度、フォトルミネッセンス(Photo Luminescence)の測定時、370nm~390nm領域のピークAと450nm~600nm領域のピークBとの強度比(B/A)、および微結晶サイズ(crystallite size)の値を有する酸化亜鉛(製造社:PJ ChemTek社製、製品名:KS-1)を使用した。
【0075】
(C2)下記表1の平均粒子径、BET表面積、純度、フォトルミネッセンス(Photo Luminescence)の測定時、370nm~390nm領域のピークAと450nm~600nm領域のピークBとの強度比(B/A)、および微結晶サイズ(crystallite size)の値を有する酸化亜鉛(製造社:リーステックビース、製品名:RZ-950)を使用した。
【0076】
【0077】
物性の測定方法
(1)平均粒子径(単位:μm):粒度分析装置(Laser Diffraction Particle Size Analyzer LS I3 320,Beckman Coulter Co.,Ltd.)を使用して、平均粒子径を測定した。
【0078】
(2)BET表面積(単位:m2/g):窒素ガス吸着法を用いて、BET analyzer(Surface Area and Porosity Analyzer ASAP 2020,Micromeritics Co.,Ltd.)でBET表面積を測定した。
【0079】
(3)純度(単位:%):TGA熱分析法を用いて、800℃の温度で残留する大きさを以て純度を測定した。
【0080】
(4)PLの強度比(B/A):フォトルミネッセンス(Photo Luminescence)の測定法に従い、室温で325nm波長のHe-Cd laser(KIMMON社,30mW)を試験片に入射して発光するスペクトルをCCD detectorを用いて検出し、このとき、CCD detectorの温度は-70℃を保った。370nm~390nm領域のピークAと450nm~600nm領域のピークBとの強度比(B/A)を測定した。ここで、射出試験片は、別途の処理をせずレーザー(laser)を試験片に入射させてPL分析を行い、酸化亜鉛粉末は6mm径のペレタイザー(pelletizer)に入れ、圧着して平らに試験片を作製した後、測定した。
【0081】
(5)微結晶サイズ(crystallite size,単位:Å):高分解能X線回折分析装置(High Resolution X-Ray Diffractometer,製造社:X’pert社,装置名:PRO-MRD)を使用し、ピーク位置(peak position)2θ値が35°~37°の範囲であり、測定されたFWHM値(回折ピーク(peak)のFull width at Half Maximum)を基準にScherrer’s equation(下記数式1)に適用して演算した。ここで、粉末の形態と射出試験片の両方の測定が可能であり、より正確な分析のために、射出試験片の場合は、600℃、エアー(air)状態で2時間熱処理して高分子樹脂を除去した後、XRD分析を行った。
【0082】
【0083】
上記数式1において、Kは形状係数(shape factor)であり、λはX線波長(X-ray wavelength)であり、βはFWHM値(degree)であり、θはピーク位置値(peak position degree)である。
【0084】
実施例1~5および比較例1~3
上記の各構成成分を下記表2に記載の含有量で添加した後、230℃で押出してペレットを製造した。押出は、L/D=36、直径45mmの二軸押出機を使用し、製造されたペレットは、80℃で2時間以上乾燥した後、6Ozの射出器(成形温度230℃,金型温度:60℃)で射出して試験片を製造した。製造された試験片に対して下記の方法で物性を評価し、その結果を下記表2に表した。
【0085】
物性の測定方法
(1)低臭性評価(揮発性有機化合物(TVOC)検出面積の値、単位:area/g):HS-SPME GC/MS(headspace solid-phase microextraction coupled to gas chromatography/mass spectrometry)を使用して、120℃で300分間捕集した揮発性有機化合物の検出面積値を測定した。測定条件および前処理方法は下記の通りである。
【0086】
【0087】
-前処理方法
1)試料をHSS vialに入れる。(Powder 20mg、Pellet 2g)
2)Headspace Sampler条件を上記の通りセッティング(setting)する。
【0088】
(2)低臭性評価(残留揮発成分(RTVM)含有量、単位:ppm):GC/MS(gas chromatography/mass spectrometry)を使用して、250℃で残留揮発成分の含有量を測定した。測定条件および前処理条件は下記の通りである。
【0089】
【0090】
-前処理方法
1)20mL vialに測定しようとする試料を0.2g~0.3g入れる。
【0091】
2)NMP 9mLを入れ、10時間以上シェーカー(shaker)を用いて溶解させる
3) Internal standard溶液を1mL入れて攪拌した後、0.45μmのfilterでろ過する。
【0092】
(3)抗菌活性値:JIS Z 2801抗菌評価法によって、5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌および大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後、測定した。
【0093】
【0094】
*重量部:(A)100重量部に対する重量部
上記の結果から、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、低臭性、抗菌性等に全て優れることが分かった。
【0095】
一方、フェノール系熱安定剤(B1)を使用していないか(比較例1)、リン系熱安定剤(B2)を使用しなかった場合(比較例2)は、低臭性が大きく低下し、ペレット成形時に臭いがひどくなることが分かった。また、本発明の酸化亜鉛(C1)の代わりに酸化亜鉛(C2)を使用した場合(比較例3)は、低臭性および抗菌性が低下することが分かった。
【0096】
本発明の単純な変形ないし変更は、本分野の通常の知識を有する者が容易に実施することができ、このような変形や変更は共に本発明の領域に含まれるものと見なすことができる。