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特許7048608APOM-FC融合タンパク質、それとスフィンゴシン1-リン酸(S1P)との複合体、および血管疾患および非血管疾患を処置するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】APOM-FC融合タンパク質、それとスフィンゴシン1-リン酸(S1P)との複合体、および血管疾患および非血管疾患を処置するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20220329BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20220329BHJP
   C07K 14/775 20060101ALI20220329BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220329BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220329BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220329BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220329BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K16/00
C07K14/775
A61K38/16
A61P9/12
A61P9/10
C12N15/12
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019530362
(86)(22)【出願日】2017-08-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 US2017046916
(87)【国際公開番号】W WO2018052615
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-08-07
(31)【優先権主張番号】62/375,088
(32)【優先日】2016-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519053935
【氏名又は名称】チルドレンズ メディカル センター コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CHILDREN’S MEDICAL CENTER CORPORATION
【住所又は居所原語表記】300 Longwood Avenue, Boston, MA 02115, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】フラ,ティモシー ティー.
(72)【発明者】
【氏名】スウェンデマン,スティーブン エル.
(72)【発明者】
【氏名】ディロレンツォ,アナリタ
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス,テレーザ
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/162392(WO,A1)
【文献】特表2020-531010(JP,A)
【文献】THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2008年07月04日,Vol.283, No.27,p18765-18772
【文献】JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES,2014年,Vol.103,p53-64
【文献】Science Signaling,2017年,Vol.10, No.492,aal2722,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5680089/参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/00-825
C07K 16/00- 46
C07K 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体の結晶性断片(Fc)領域に融合しているアポリポタンパク質M(ApoM)シグナルペプチドを欠くApoMポリペプチドを含む、融合タンパク質であって、Fc領域が、ApoMポリペプチドのアミノ末端またはカルボキシル末端に融合している、前記融合タンパク質
【請求項2】
ApoMポリペプチドが、配列番号9のアミノ酸21-188を含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
ApoMポリペプチドが、配列番号9に記載されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
poMポリペプチドが、配列番号9のアミノ酸1-20を含まない、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
poMポリペプチドがさらに、アミノ末端にIL-2シグナルペプチドを含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
Fc領域が、IgG抗体、IgM抗体、IgA抗体、IgE抗体、およびIgD抗体からなる群から選択されるFc領域である、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
Fc領域が、IgG1-Fcである、請求項6に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
リン脂質またはリゾリン脂質との複合体である請求項1に記載の融合タンパク質を含む、組成物。
【請求項9】
リン脂質が、ホスホコリンを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
リン脂質が、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)を含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
組成物が、融合タンパク質と、リン脂質またはリゾリン脂質とを混合すること、混合物をインキュベートして複合体を形成させること、および複合体を精製すること、により形成される、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
リン脂質が、ホスホコリンを含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
リン脂質が、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
高血圧症、心臓の虚血、脳の虚血、加速性アテローム性動脈硬化症、非心臓性の再灌流障害および末梢血管疾患からなる群から選択される状態を処置するための、請求項8~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記高血圧症が、一次抵抗性高血圧症、二次抵抗性高血圧症、神経性高血圧症、妊娠高血圧症(妊娠高血圧腎症)、糖尿病性妊娠高血圧腎症、および慢性腎疾患の高血圧症からなる群から選択される状態を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記心臓の虚血が、心臓性の再灌流障害、心筋梗塞、急性冠症候群および狭心症からなる群から選択される疾患を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
前記非心臓性の再灌流障害が、肝虚血、腎虚血、腸管虚血、筋虚血からなる群から選択される虚血の結果としての障害を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項18】
フィンゴリモドで処置される患者において、フィンゴリモドの副作用を低減させるための、請求項8~13のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年8月15日に出願された米国仮出願第62/375,088号に基づく優先権の利益を主張し、その全体の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発に関する記載
本発明は、国立衛生研究所によって与えられた助成金番号HL-89934の下で政府の支援によってなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
配列表の参照による組み込み
2017年8月9日に作成され、EFS-Webを介して米国特許商標庁に提出された、6KBの33974_Seq_ST25.txtと命名されたASCIIテキストファイルの配列表は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
背景
内皮細胞機能は正常な心血管恒常性に必須である(Harrison, D. G., Basic research in Cardiology, 89 Suppl 1, 87-102 (1994); Pober, J. S. & Sessa, W. C, Nature Reviews. Immunology, 7, 803-815 (2007))。心血管疾患および脳血管疾患の多くの環境的および内因性の危険因子は内皮機能不全を引き起こす。実際、機能不全の内皮は血管疾患の発症を引き起こすと考えられている(Girouard, H. & Iadecola, C, J. of App. Physiology, 100, 328-335 (2006))。一方、様々な内在性因子は、内皮の健康を促進し、危険因子を打ち消す(Libby, P. et al., J. of the Am. Coll. of Cardio. 54, 2129-2138 (2009))。そのような因子の1つは、高密度リポタンパク質(HDL)である、多機能循環ナノ粒子である(Rosenson, R. S. et al., Nature Rev. Cardiology, 13, 48-60 (2016))。
【0005】
多数の疫学的研究は、血漿HDLレベルが、心血管疾患および脳血管疾患のリスクの減少(Hovingh, G. K. et al., Curr. Op. in Lipidology, 26, 127-132 (2015); Rader, D. J., Nature Med., 18, 1344-1346 (2012))、ならびに虚血イベント後の転帰の改善(Makihara, N. et al., Cerebrovascular Diseases, 33, 240-247 (2012); Olsson, A. G. et al., European Heart Journal, 26, 890-896 (2005))と相関していることを示している。しかしながら、コレステロールエステル転移タンパク質阻害剤またはナイアシン補給による総HDLコレステロールの薬理学的上昇は、心血管転帰を減少させなかった(Keene, D. et al., BMJ, 349, g4379 (2014))。加えて、HDL粒子は不均一であり、多数の生物活性因子を含み、そして血管機能、代謝機能および免疫機能を調節し(Rye, K. A., Journal of Lipid Research, 50 Suppl, S 195-200 (2009))、このことは、HDL粒子の特定のサブタイプが心血管系における独特の機能を調節することを示唆する。例えば、血漿アポリポタンパク質M含有HDL(ApoMHDL)が、Gタンパク質共役型S1P受容体に作用し、炎症応答を抑制し、血管バリア機能を維持する、生理活性脂質であるスフィンゴシン1-リン酸(S1P)の生理学的担体であることが最近実証されている(Christensen, P. M. et al., FASEB J., 30.6 (2016): 2351-2359 (2016); Christoffersen, C. et al., PNAS, 108, 9613-9618 (2011); Galvani, S. et al., Science Signaling, 8, ra79 (2015))。S1P依存性免疫作用に関して、ApoMHDLは、二次リンパ器官からのリンパ球排出に要求されておらず、むしろ骨髄におけるリンパ球新生を抑止する(Blaho, V. A. et al., Nature, 523, 342-346 (2015))。ApoMを欠くマウスは、リポタンパク質代謝に変化を有し、そしてLDL受容体ヌルバックグラウンドにおいて増強されたアテローム性動脈硬化症を示す。加えて、ApoMのアデノウイルス発現は、LDL受容体ヌルマウスにおけるアテローム性動脈硬化症を抑制する(Wolfrum, C. et al., Nature Med., 11, 418-422 (2005); Christoffersen, C. et al., J. of Biol. Chem., 283, 1839-1847 (2008))。血漿ApoMは、HDL、LDLおよびコレステロールと正の相関がある一方で、急性心筋梗塞、内毒血症、糖尿病、代謝症候群およびBMIと負の相関がある(Frej, C. et al., JCMM, 20.6 (2016): 1170-1181 (2016); Borup, A. et al., Current Opinion in Lipidology, 26, 48-55 (2015); Nielsen, L. B. et al., Trends in Endocrinology and Metabolism, 20, 66-71 (2009), Plomgaard, P. et al., Journal of Internal Medicine, 266, 258-267 (2009))。まとめると、これらの観察は、ApoMHDLが内皮機能を促進すること、およびこのシグナル伝達経路が心血管疾患、炎症性疾患および代謝性疾患において損なわれていることを示唆する。
【0006】
D-スフィンゴシンのリン酸化代謝物であるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は、5つのGタンパク質共役受容体(S1P1~S1P5)に結合し、多くの生物学的作用を調節する(Garcia et al., J. Clin. Invest, 108:689-701 (2001); Ishii et al., Annu. Rev. Biochem., 73:321-354 (2004))。特に、プロトタイプの(prototypical)S1P1受容体は発生中の血管成熟に必須であり、内皮細胞遊走、血管新生およびバリア機能を促進する(Liu et al., J. Clin. Invest, 106:951-961 (2000); Paik et al., J. Biol Chem., 276: 11830-11837 (2001); Lee et al., Cell, 99:301-312 (1999))。したがって、S1Pは肺内皮のバリア特性の維持に要求される(Camerer et al., J. Clin. Invest, 119: 1871-1879 (2009))。いくつかの細胞供給源に由来する血漿S1P(Pappu et al., Science, 316:295-298 (2007); Venkataraman et al., Circ. Res., 102:669-676 (2008))は、高密度リポタンパク質(HDL)(約65%)およびアルブミン(約35%)と会合している(Aoki et al., J. Biochem., 138:47-55 (2005); Argraves et al., J. Lipid Res., 48:2325-2333 (2007))。内皮に対する、HDL誘導性血管弛緩作用ならびにバリア促進作用および生存促進(pro-survival)作用は、S1Pシグナル伝達に起因している(Kimura et al., J. Biol Chem., 281 :37457-37467 (2006); Nofer et al., J. Clin. Invest, 113:569-581 (2004); Argraves et al., J. Biol Chem., 283:25074-25081 (2008))。従って、HDLの内皮保護作用の多くは内皮S1P受容体に対するS1Pの作用によるものである。
【0007】
S1Pシャペロンであるアポリポタンパク質M(ApoM)は、約22kDaのHDL関連アポリポタンパク質であり、主に血漿HDL画分に存在するタンパク質のリポカリンファミリーメンバーである(XU et al., J. Biol Chem., 274:31286-31290 (1999))。成熟ApoM(ヒトapoM、配列番号9(GenBank登録番号:NP_061974.2)、およびマウスApoM、配列番号10(GenBank登録番号:NP_061286.1))はシグナルペプチド(配列番号9および配列番号10のアミノ酸1~21)を保持しており、これは、ApoMをリポタンパク質のリン脂質層に付着させる脂質アンカーとして働き、それによってそれを循環に保ち、腎臓におけるApoMの濾過を防止する(Christoffersen et al., J. Biol Chem., 283: 18765-18772 (2008))。
【0008】
ApoMは、S1Pと会合する脂質結合ポケット、および、それがHDL粒子にアンカーすることを可能にする繋ぎ止められたシグナルペプチドを含む(Axler, O. et al., FEBS Letters 582, 826-828 (2008))。その受容体へのS1P結合親和性はApoMよりも高く、これはおそらくシャペロンからのS1P放出とそれに続く受容体会合および活性化を可能にする(Christoffersen, C. et al., PNAS, 108, 9613-9618 (2011); Sevvana, M. et al., Journal of Molecular Biology, 404, 363-371 (2010); Lee, M. J. et al., Science, 279, 1552-1555 (1998))。最近の研究は、HDL結合S1Pが内皮S1P1受容体に対して「偏ったアゴニスト(biased agonist)」として作用することを示しており、これは下流応答のサブセットのみが活性化されることを意味する(Galvani, S. et al., Science Signaling, 8, ra79 (2015))。HDL結合S1Pは、内皮の生存、遊走、血管新生、NO産生および炎症応答の阻害に重要である(Galvani, S. et al., Science Signaling, 8, ra79 (2015); Nofer, J. R. et al., JC1, 113, 569-581 (2004); Nofer, J. R. et al., JBC, 276, 34480-34485 (2001); Kimura, T. et al., JBC, 281, 37457-37467 (2006))。加えて、HDL結合S1Pは、HDL受容体(SR-B1など)およびS1P受容体の両方を、NO合成の刺激、内皮障害および炎症の阻害などの特定の生物学的応答の誘発に従事させていると考えられる(Sato, K., World Journal of Biological Chemistry, 1, 327-337 (2010))。
【発明の概要】
【0009】
開示の概要
1つの側面において、本開示は、抗体の結晶性断片(Fc)領域に融合しているアポリポタンパク質M(ApoM)ポリペプチドを含む、融合タンパク質を提供する。
【0010】
いくつかの態様において、ApoMポリペプチドは、配列番号9のアミノ酸21-188を含む。いくつかの態様において、ApoMポリペプチドは、配列番号9に記載されるアミノ酸配列を含む。
【0011】
いくつかの態様において、Fc領域は、ApoMポリペプチドのアミノ末端に融合している。いくつかの態様において、Fc領域は、ApoMポリペプチドのカルボキシル末端に融合している。
【0012】
いくつかの態様において、Fc領域は、IgG抗体、IgM抗体、IgA抗体、IgE抗体、およびIgD抗体からなる群から選択されるFc領域である。特定の態様において、Fc領域は、IgG1-Fcである。
【0013】
別の側面において、本開示は、リン脂質またはリゾリン脂質との複合体におけるApoM融合タンパク質を含む組成物を提供する。
【0014】
いくつかの態様において、リン脂質は、ホスホコリンを含む。いくつかの態様において、リン脂質は、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)を含む。
【0015】
いくつかの態様において、組成物は、融合タンパク質と、リン脂質またはリゾリン脂質とを混合すること、混合物をインキュベートして複合体を形成させること、および複合体を精製すること、により形成される。
【0016】
さらに別の側面において、本開示は、対象の状態を処置する方法であって、リン脂質またはリゾリン脂質との複合体におけるApoM-Fc融合タンパク質を含む組成物を対象に投与することを含み、ここで前記状態が、高血圧症、心臓の虚血、脳の虚血、加速性アテローム性動脈硬化症、非心臓性の再灌流障害および末梢血管疾患からなる群から選択される、前記方法を提供する。
【0017】
いくつかの態様において、前記高血圧症は、一次抵抗性高血圧症(primary resistant hypertension)、二次抵抗性高血圧症(secondary resistant hypertension)、神経性高血圧症、妊娠高血圧症(妊娠高血圧腎症)、糖尿病性妊娠高血圧腎症、および慢性腎疾患の高血圧症からなる群から選択される状態を含む。
【0018】
いくつかの態様において、前記心臓の虚血は、心臓性再灌流障害、心筋梗塞、急性冠症候群および狭心症からなる群から選択される疾患を含む。
【0019】
いくつかの態様において、前記非心臓性の再灌流障害は、肝虚血、腎虚血、腸管虚血、筋虚血からなる群から選択される虚血の結果としての障害を含む。
【0020】
さらなる側面において、本開示は、フィンゴリモドで処置される患者において、フィンゴリモドの副作用を減少させる方法であって、ApoM-Fc融合タンパク質を患者に投与することを含む、前記方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図面の簡単な説明
図1A-1C】図1A図1E。ApoM-FおよびApoM-F-TM融合タンパク質の生産、精製、およびそれらによるS1P結合の特徴付け。(A)(左パネル)ApoMに結合したS1Pの共結晶構造。S1Pの頭部基領域と接触する3つの残基であるR98、W100およびR116が標識されている。(右パネル)ApoM分子におけるS1Pの頭部基領域の空間充填モデル。(B)ApoM-FおよびApoM-F-TM融合タンパク質を発現させ、記載されるようにHEK293またはSf9細胞の条件培地から精製した。精製された材料を非還元または還元10%SDS-PAGEによって分離し、抗ApoM免疫ブロットによって検出した。(C)Sf9由来の精製されたタンパク質(5μg)を、還元10%SDS-PAGEによって分析し、そしてクーマシーブルーで染色した。
図1D-1E】(D)精製されたIgG1-Fc(Fc)、ApoM-Fc、またはApoM-Fc-TMを、S1P結合について、記載されるように蛍光分光蛍光分析によって分析した(N=4、平均(+S.D.)として表される)。データをスチューデントのt検定および二元配置ANOVA、続いてApoM-FまたはApoM-F-TMをFc単独と比較するボンフェローニの事後検定によって分析した(ApoM-F****、P<0.001)ApoM-F-TM(ns;有意ではない))。(E)精製されたApoM-FおよびApoM-F-TM(5μM)をS1Pと24~48時間インキュベートし、またはしないで、ゲル濾過クロマトグラフィーにより精製し、そしてエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI-MS/MS)によりスフィンゴ脂質について分析した。得られたデータを平均(+S.D.)として表す;N=4。
【0022】
図2A-2B】図2A~2D。ApoM-FはS1P受容体を活性化する。(A)増加用量のアルブミン(Alb)-S1P、ApoM-FまたはApoM-F-TMを、S1P-GFPシグナル伝達マウスから単離したMEF細胞と24時間インキュベートし、フローサイトメトリーによって分析した。(B)(A)からの結果の定量分析。N=3、平均(+S.D.)として表される。データを二元配置ANOVA、続いてApoM-FまたはBSA-S1PをApoM-F-TMと比較するボンフェローニの事後検定によって分析した(****、P<0.001;***、P<0.01)。
図2C】(C)S1PまたはS1Pで安定に形質導入された、またはされていないCHO細胞を、アルブミン-S1P(100nM S1P)、ApoM-F-S1P(6~12μg/ml;60~120nM S1P)またはApoM-F-TM(12μg/ml)を用いて5分間処置し、p44/42 ERKおよびAktについて免疫ブロット分析により分析した。N=3;代表的なブロットが示される。
図2D】(D)HUVEC(左パネル)またはCRISPR/Cas9由来のS1P1 KO HUVEC(中央および右パネル)をアルブミン(Alb)-S1P(333nM S1P)、ApoM-Fc-S1P(20μg/ml;240nM)またはApoM-F-TM(20μg/ml)で指示された時間処置し、そしてp44/42 ERK、AktおよびeNOSの活性化について免疫ブロット分析によって分析した。CRISPR/Cas9由来のS1P KO HUVECをビヒクル(DMSO)、またはS1P阻害剤JTE-013(10μM)、またはS1P阻害剤TY52156(10μM)、または両方を含む、または含まずに、ApoM-F-S1P(20μg/ml;240nM S1P)で処置し、p44/42 ERKおよびAktの活性化について免疫ブロット分析によって分析した。N=2~3;代表的なブロットが示される。
【0023】
図3A-3C】図3A図3C。S1P受容体エンドサイトーシスおよび内皮細胞バリア機能に対するApoM-Fの効果。(A)記載されるようなTEERのリアルタイム測定により、HUVECをバリア機能について分析した。時間0において、Alb-S1P(200nM)またはApoM-Fc(20μg/ml;200nM)またはApoM-F-TM(20μg/ml)のいずれかを添加した。すべてのデータをApoM-F-TMのベースラインと比較した(N=3;平均(+S.E.M)として表される、t検定、****、P<0.0001;二元配置ANOVA、P<0.0001)。(B)HUVECまたはS1PKO HUVEC(S1P-CRISPR)をApoM-F(10μg/ml;100nM)で処置し、記載されるようにTEERのリアルタイム測定によりバリア機能について分析した(t検定、****、P<0.0001;一元配置ANOVA、P<0.0001)。(C)S1P-GFPを発現するU2OS細胞を、指示される濃度のFTY720-P、BSA-S1P、ApoM-FまたはApoM-F-TMで、37℃で30分間処置し、固定し、受容体内部移行(internalization)を記載されるように定量した。すべてのデータをApoM-F-TMのベースラインと比較した(N=2、n=8;平均(+s.e.m)として表される、t検定 **、P<0.01;、P<0.05、一元配置ANOVA、P<0.01)。
【0024】
図4A-4C】図4A。血漿S1Pレベルおよび循環造血細胞に対するApoM-F投与の効果。(A)WTマウスを4mg/kgの精製されたApoM-FまたはApoM-F-TM(N=4)で腹腔内注射により処置し、そして血漿ApoMレベルを記載されるように免疫ブロット分析により決定した。(B)Apom-/-マウス(N=4、平均(+S.D.)として表される)にApoM-F-S1P(4mg/kg)を投与し、投与の24時間後に血漿スフィンゴ脂質を記載されるように定量した。(C)WTマウス(N=4、平均(+S.D.)として表される)に、4mg/kgの精製されたApoM-F-S1PまたはApoM-Fc-TMを腹腔内注射によって投与し、そして投与の24時間後に血漿スフィンゴ脂質を記載されるように定量した。BおよびCについては、両側スチューデントのt検定によりデータを分析した(p=0.05;**p<0.01****p<0.005)。
図4D-4G】(D)~(G)WTマウスにPBS(N=5)、4mg/kgの精製されたApoM-Fc-S1P(N=5)またはApoM-F-TM(N=5)のいずれかを腹腔内注射により投与し、注射の6および24時間後に血液を回収した。血液細胞を遠心分離によって単離し、リンパ球(D)、白血球(WBC)(E)、赤血球(RBC)(F)および血小板(G)を臨床グレードのサイトメトリーによって定量した。相対的な血液細胞カウントにおいて観察された変動は、二元配置ANOVAによって判断されるように統計的に有意ではなかった。
【0025】
図5A-5E】図5A図5E。ApoM-F投与は、マウスにおいて持続した血圧降下効果をもたらす。(A)収縮期血圧(SBP)を、ビヒクル(PBS)(N=2)または4mg/kgのApoM-F(N=6)またはApoM-F-TM(N=4)のいずれかを腹腔内注射により投与したAngII処置マウスにおいて指定された回数測定した。(B)AngII処置マウスに、24時間毎に(矢印)S1P1アンタゴニストW146(10mg/kg)を注射し、続いてSBPを測定した(N=5、5)。(C)ApoM-FまたはApoM-F-TMをAngII処置マウス(N=6)に24時間投与し、そして血漿亜硝酸塩レベルを記載されるように測定した。(D)ビヒクル(PBS)(N=2)または4mg/kgのApoM-F(N=6)またはApoM-F-TM(N=4)のいずれかを腹腔内注射によって投与した正常血圧マウスにおいてSBPを測定した。(E)WT(N=12)またはApom-/-(N=11)マウスにおいて、SBPを、記載されるように測定した。すべてのデータは平均±平均の標準誤差(S.E.M.)として表される;野生型(WT)と比較してP<0.05;**P<0.01;***P<0.001(A~D)。統計的有意性は、二元配置ANOVAとそれに続くボンフェローニの事後検定または一元配置ANOVAによって決定した。
【0026】
図6A-6C】図6A図6H。ApoM-F投与は、心臓および脳における虚血/再灌流障害を軽減する。心筋虚血/再灌流手術の30分前に、WTマウスにPBSまたは4mg/kgのApoM-F(N=9)またはApoM-F-TM(N=9)のいずれかを静脈内注射により投与した。動物を30分間の虚血、その後24時間の再灌流に供した。(A)危険面積(AAR)/左心室(LV)面積および梗塞/AAR面積の定量的測定を、盲検方式で以下のコホート、PBS(N=7)、ApoM-F-TM(N=9)およびApoM-F(N=9)で実施した。(B)心臓切片をLy6GおよびIB4抗体で染色し、そして好中球および毛細血管密度を定量した。N=9。(C)LV拡張終期直径(LVDd)、LV収縮終期(LVDs)直径、および短縮率(FS)を、心筋I/R損傷後の指定された時点で測定した(n=6)。データは平均±SEMとして表される。ApoM-F群と比較して、P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
図6D-6H】(D)マウスを中大脳動脈閉塞(MCAO)による60分間の局所脳虚血に供した。再灌流直後に、4mg/kgのApoM-Fc(N=10)、ApoM-F-TM(N=10)、またはPBS(N=10)のいずれかをマウスに腹腔内注射した。(E)梗塞および浮腫の比率は、画像分析によって計算され、そして非虚血性半球の比率として報告された。梗塞率は浮腫について補正された。(F)浮腫について補正されたmmでの総梗塞体積。(G)神経学的欠損スコアを再灌流の23時間後に評価した。(H)MCAO手術の間、中大脳動脈(MCA)領域内の相対的脳血流(rCBF)をレーザースペックルにより測定した。閉塞の間(「I」として示される)および再灌流後(「R」として示される)の相対的CBF(対側の%、CL)を示す。個々の値および平均値±S.E.M.が示される。P<0.05(一元配置ノンパラメトリックANOVAとそれに続くダンの検定)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
詳細な説明
定義
本明細書で用いられる場合、用語「約」は、所与の値からのおおよそ±10%の変動を指す。
【0028】
用語「急性冠症候群」(ACS)は、心筋の一部が適切に機能できないかまたは死滅するような冠動脈内の血流の減少に起因する症候群を指す。ACSの最も一般的な症状は、しばしば左肩や顎の角度まで広がる胸痛であり、吐き気や発汗を伴う。急性冠症候群は通常、3つの問題のうちの1つによって引き起こされる:ST上昇型心筋梗塞(STEMI、症例の30%)、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI、症例の25%)、または不安定狭心症(症例の38%)。
【0029】
用語「狭心症」は、心筋のある領域が十分な酸素を得られないときに起こる胸痛または不快感を指す。
【0030】
用語「アテローム性動脈硬化症」は、これらに限定されないが、冠動脈、大動脈、腎動脈、頸動脈、および四肢および中枢神経系に血液を供給する動脈を含む、身体および身体の器官の、動脈および細動脈の1つまたはいくつかの狭窄および/または閉塞をもたらす、マクロファージ、平滑筋細胞および他の種類の細胞における、コレステロールおよびコレステリルエステルならびに関連する脂質の異常な蓄積をもたらす病理学的過程を指す。この病理学的過程の関連する炎症反応および媒介物質もこの定義に含まれる。
【0031】
本明細書中で用いられる場合、用語「慢性腎疾患」(CKD)は、数ヶ月または数年にわたる腎機能の進行性喪失を指す。CKDは、当技術分野においてその一般的な意味を有し、腎臓、腎臓実質の破壊および機能性ネフロンまたは糸球体の喪失に影響を及ぼす多数の状態を分類するために用いられる。CKDは様々な原因から生じ得るが、最終経路は腎線維症のままであることにさらに留意すべきである。CKDの病因の例としては、これらに限定されないが、心血管疾患、高血圧症、糖尿病、糸球体腎炎、多発性嚢胞腎疾患、および腎移植片拒絶反応を含む。
【0032】
用語「結晶性断片領域(Fc領域)」は、Fc受容体と呼ばれる細胞表面受容体および補体系のいくつかのタンパク質と相互作用することができる抗体の重鎖のカルボキシ末端領域を指す。
【0033】
用語「融合タンパク質」または「融合ポリペプチド」は、直接またはアミノ酸リンカーを介してのいずれかで共有結合的に連結した少なくとも2つの異種ポリペプチドを有するタンパク質を指す。融合タンパク質を形成するポリペプチドは、典型的にはC末端からN末端に連結しているが、C末端からC末端、N末端からN末端、またはN末端からC末端にも連結され得る。融合タンパク質のポリペプチドは任意の順序であり得、そして構成ポリペプチドのいずれかの1超、または両方を含み得る。本明細書中で用いられる場合、用語「宿主細胞」は、ポリペプチドの生産のための組み換え発現ベクターがポリペプチドの発現のためにトランスフェクトされ得る細胞または細胞株を指す。
【0034】
用語「高血圧症」は、血管内の血圧が、それが身体を通って循環するにつれて正常よりも高い状態を指す。安静時の正常血圧は、収縮期100~140ミリメートル水銀(mmHg)および拡張期60~90mmHgの範囲内である。ほとんどの成人について、安静時血圧が持続的に140/90mmHg以上である場合、高血圧症が存在する。
【0035】
高血圧症は、「本態性」(一次性)または「二次性」として分類される。本態性(一次性)高血圧症には明白な原因はない。それは、家族歴やライフスタイルなどに起因している可能性がある。高血圧を有するほとんどの人は本態性高血圧症である。一方、二次性高血圧症はあまり一般的ではなく、クッシング症候群、高アルドステロン症、および褐色細胞腫などの副腎の障害;多嚢胞性腎疾患、腎臓腫瘍、腎不全、または腎臓に供給する主動脈の狭窄もしくは閉鎖を含む腎臓疾患;コルチコステロイド(プレドニゾンなどの抗炎症薬)、非ステロイド系抗炎症薬、減量薬(フェンテルミンなど)、プソイドエフェドリンなどの鬱血除去薬を含む風邪治療剤、避妊薬(エストロゲン成分)、および片頭痛治療剤などの薬;睡眠時無呼吸;大動脈の縮窄、大動脈が狭くなっている先天性欠損症;子癇前症、妊娠に関連する状態、甲状腺と副甲状腺の問題;などの別の状態の結果である。
【0036】
本明細書で用いられる場合、用語「虚血」は、それを供給する血管の収縮または閉鎖によって引き起こされる、身体の一部への不適切なまたは止められた血流を指す。
【0037】
用語「脳の虚血」は、脳への血液供給の絶対的または相対的な不足を指し、その結果、脳組織、特に中枢神経細胞の損傷または機能不全を伴う。
【0038】
用語「心臓の虚血」は、不整脈状態、例えば、心室性不整脈、心室細動、および細胞死滅をもたらし得る心臓組織への血流の減少を指す。そのような不整脈状態は、正常心臓細胞と虚血障害心臓細胞との間に作り出された非同期の興奮性状態の結果であり、それは次に心臓組織内の正常なイオン輸送チャネルの混乱を引き起す。
【0039】
本明細書で用いられる場合、用語「心筋梗塞」(「心臓発作」としても知られる)は、心臓の一部への血液供給が欠乏したときに突然起こる急性の心血管イベントを指し、著しい持続的な虚血による心筋細胞壊死の実証によって定義される。
【0040】
用語「末梢血管疾患」または「PVD」は、末梢アテローム性動脈硬化症または閉塞性動脈硬化症を指し、これはアテローム硬化性プラークによる四肢への血液供給の閉塞を含み、間欠性跛行(血流が少なすぎることにより引き起こされる疼痛)を包含する。
【0041】
用語「リン脂質」は、脂肪酸およびグリセロールまたはアミノアルコールスフィンゴシンに付着したリン酸含有化合物から誘導された化合物を指し、脂溶性および水溶性領域を有する化合物をもたらす。用語「リゾリン脂質」は、一方または両方のアシル基が加水分解によって除去されている、リン脂質の誘導体を指す。
【0042】
本明細書で用いられる場合、用語「子癇前症」は、妊娠中に起こる状態を指し、その主な症状は、尿中のタンパク質の存在および浮腫(腫脹)をしばしば伴う、様々な形態の高血圧である。時折、妊娠中毒症とも呼ばれる子癇前症は、「子癇」と呼ばれるより重篤な障害に関連しており、これは、脳卒中とともに子癇前症である。これらの状態は、妊娠の後半(20週後)に通常発症するが、出産直後または妊娠20週前に発症する可能性もある。
【0043】
用語「抵抗性高血圧症」は、異なるクラスの3つの降圧剤(そのうちの1つは利尿薬である)を同時に使用したにもかかわらず、正常を上回ったままである血圧を指す。
【0044】
本明細書中で用いられる場合、用語「組み換えタンパク質」は、宿主細胞に導入されている組み換え発現ベクター上で運ばれる遺伝子の転写および翻訳の結果として生産されるタンパク質を指す。
【0045】
用語「再灌流障害」は、虚血の期間の後に血流が組織に戻るときに引き起こされる組織損傷を指す。
【0046】
用語「対象」または「患者」は、疾患と診断され、そして本発明の方法で処置されるヒト種を含む動物を指す。用語「対象」または「患者」は、一方の性別が特に指定されていない限り、男性と女性の両方の性別を指すことを意図する。
【0047】
用語「スフィンゴシン-1-リン酸」(S1P)は、リゾスフィンゴ脂質としても知られるシグナル伝達スフィンゴ脂質を指す。S1Pはまた、生物活性脂質媒介物質とも呼ばれる。スフィンゴ脂質は、概して、スフィンゴシンである特定の脂肪族アミノアルコールによって特徴付けられるクラスの脂質を形成する。S1Pは以下の化学構造:
【化1】

および、化学名「(2S,3R,4E)-2-アミノ-4-オクタデセン-1,3-ジオール1-ホスファート、D-エリスロ-スフィンゴシン1-ホスファート」を有する。S1Pは、当技術分野において知られているプロトコール、例えば、Reimann, C. and Graeler, M. H.(Bio-protocol, (2016), 6(10): el817. DOI: 10.21769/BioProtoc. l817)に記載されるプロトコールに従って、組織試料、細胞、またはヘパラン化血液に由来する血漿から抽出および精製することができる。精製されたS1Pは、例えば、Sigma-Aldrich(Catalog #:S9666)から、VWR(Catalog #: AAJ66459-LB0)から、またはTocris Bioscience(Catalog #: 1370)から入手することもできる。
【0048】
一般的な説明
Apo-Fc融合タンパク質
HDLと会合しない遊離のApoMは、極めて短い半減期(例えば、15分未満のインビボ半減期)を有する(Faber, K. et al., Molecular Endocrinology, 20, 212-218, (2006))。本開示に従って、本発明者らは、アポリポタンパク質M(ApoM)タンパク質の半減期が、抗体の結晶性断片(F)領域などの融合パートナーと融合した場合に、有意に増加することを発見した(例えば、96時間を超えるインビボ半減期)。特定の理論に拘束されることなく、Fドメインはプロテオソームによるその分解を防止することによってApoMの安定性を改善する。本明細書に開示されるApoM-Fc融合タンパク質は、インビボで生物活性リン脂質の血漿レベルを上昇させるために機能的かつ有効的であることが示されている。開示されるApoM-Fc融合タンパク質は、高度に精製された形態で組み換え的に生産され得、そして精製されたApoM-Fc融合タンパク質は、精製された天然のApoMタンパク質よりも長い期間、緩衝食塩水中で貯蔵することができる。ApoM融合タンパク質はまた、それを必要とする器官および組織にリン脂質を送達するために使用され得る。
【0049】
したがって、1つの側面において、本開示は、ApoM-Fc融合タンパク質を提供する。いくつかの態様において、ApoM-Fc融合タンパク質は、二量体として提供される。いくつかの態様において、ApoM-Fc二量体は、Fc領域間のジスルフィド結合を介して形成される。
【0050】
本開示にしたがって、ApoM-Fc融合タンパク質中の「ApoM」は、S1P結合能力を保持する天然の成熟ApoMタンパク質の部分を含む任意のApoMポリペプチドを指す。1つの態様において、ApoM-Fc融合タンパク質中のApoMポリペプチドは、ヒトApoMポリペプチドである。特定の態様において、ApoM-Fc融合タンパク質中のApoMポリペプチドは、配列番号9のアミノ酸21-188を含む。いくつかの態様において、ApoM-Fc融合タンパク質中のApoMポリペプチドは、配列番号9における全長の成熟ApoMタンパク質を含む。いくつかの態様において、ApoM-Fc融合タンパク質中のApoMポリペプチドは、ApoMポリペプチドがS1P結合能力を保持することを条件として、天然のApoMタンパク質または天然のApoMタンパク質断片と比較して、1以上のアミノ酸残基の欠失、付加、修飾または置換を含有する。例えば、ApoM-Fc融合タンパク質中のApoMポリペプチドは、配列番号9と、または配列番号9のアミノ酸21-188と、少なくとも85%、90%、95%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を有する。
【0051】
いくつかの態様において、本明細書で使用されるFc領域は、少なくとも、免疫グロブリンのCH2およびCH3を含む。いくつかの態様において、Fc領域は、免疫グロブリンのヒンジ、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む。ヒンジは、Fc融合タンパク質の2つの部分間の柔軟なスペーサーとして働き、分子の各部分が独立して機能することを可能にし得る。いくつかの態様において、ApoM-Fc融合タンパク質中のFc領域は、IgG、IgM、IgA、IgEおよびIgDから選択される免疫グロブリンのFc領域である。特定の態様において、Fc領域は、IgG1のFc領域(IgG1-Fc)である。いくつかの態様において、Fc領域は、ApoMのアミノ末端に融合され、他の態様においては、Fc領域は、ApoMのカルボキシル末端に融合される。いくつかの態様において、Fc領域は、直接的に、すなわちリンカーを介すことなくApoMタンパク質に融合される。他の態様において、Fc領域は、リンカーを介してApoMタンパク質に融合される。前記リンカーがApoMペプチドのFc領域への化学的連結を可能にすることを条件に、任意の種類のリンカーが当業者によって使用され得る。本開示に好適なリンカーは、タンパク質ドメイン間に存在する短いペプチド配列であり得る。いくつかの態様において、隣接するタンパク質ドメインが互いに対して自由に動くことができるように、リンカーはグリシンおよびセリンのような柔軟な残基から構成される。
【0052】
いくつかの態様において、ApoM-Fc融合タンパク質は、好適な宿主細胞中で組み換え的に生産され得る。適切な宿主細胞は、細菌、古細菌、真菌、特に酵母、および植物、昆虫および動物の細胞、特に哺乳動物の細胞を含む。宿主細胞の特定の例は、E. coli、B. subtilis、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces carlsbergensis、Schizosaccharomyces pombe、Pichia pastoris、SF9細胞、C129細胞、293細胞、Neurospora、およびCHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、および不死化哺乳動物骨髄およびリンパ細胞株を含む。特定の態様において、ApoM-Fc融合タンパク質は、Sevvana et al.(J. Mol. Biol. 393: 920-936 (2009))により記載されるように、E. coliにおいて発現され、封入体から回収され、精製され(例えば、クロマトグラフィーにより)、リフォールディングされ得る。別の特定の態様において、ApoM-Fc融合タンパク質は、ApoM-Fc融合タンパク質をコードする核酸コンストラクトを含むバキュロウイルスの株で感染させたsf9昆虫細胞において発現させることができる。
【0053】
別の態様において、ApoM-Fc融合タンパク質は、例えばLife Technologyまたは他の適切な供給源を通じて市販されている、インビトロ無細胞翻訳システムを使用して生産される。原核生物および真核生物の両方の無細胞翻訳システムを使用することができる。典型的には、無細胞翻訳システムは、翻訳に要求される巨大分子成分(例えば、70Sまたは80Sリボソーム、tRNA、アミノアシルtRNAシンテターゼ、開始、伸長および終結因子)を含有する、ウサギ網状赤血球、小麦胚芽およびE. coliなどの、高速度のタンパク質合成に携わる細胞から調製された抽出物を利用する。抽出物は、一般に、アミノ酸、エネルギー源(ATP、GTP)、エネルギー再生系(真核生物系のためのクレアチンリン酸およびクレアチンホスホキナーゼ、ならびにE.coli溶解物のためのホスホエノールピルビン酸およびピルビン酸キナーゼ)、および他の補因子(Mg2+、Kなど)で補われる。網状赤血球溶解物および小麦胚芽抽出物などのいくつかの翻訳システムが鋳型としてRNAを使用する一方で、他のシステムはDNA鋳型で開始し、それをRNAに転写し、次いで翻訳する。すべてのこれらシステムはインビトロでのApoM-Fc融合タンパク質の合成における使用に好適である。
【0054】
いくつかの態様において、ApoM-Fc融合タンパク質は、好適なタンパク質精製技術を用いて精製される。特定の態様において、ApoM-Fc融合タンパク質は、クロマトグラフィーを用いて精製される。いくつかの態様において、ApoM-Fc融合タンパク質精製は、少なくとも1つのイオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーまたは拡張床(expanded bed)吸着クロマト分離法を含む。特定の態様において、クロマトグラフィー法は、レクチンアフィニティークロマトグラフィー、タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、またはそれらの組み合わせである。いくつかの態様において、ApoM-Fc融合タンパク質は、アフィニティータグ精製を通じて精製され得る。特定の態様において、ApoM-Fc融合タンパク質は、ポリ-Hisタグでタグ付けられ、ニッケルアフィニティー精製により精製され得る。別の態様において、ApoM-Fc融合タンパク質は、myc-タグ、FLAGタグ、HAタグ、GSTタグ、NEタグ、V5タグもしくはVSVタグから選択されるタグ、または当該技術分野において知られている任意の他のタグでタグ付けられ、次いで、タグに対する抗体を用いて精製され得る。
【0055】
ApoM-Fc融合タンパク質の純度は、これらに限定されないが、SDS-PAGEに続く銀染色、およびクロマトグラフィー、およびFrank J. et al., Anal Biochem. Apr; 162(l):65-73 (1987)により記載される多波長検出を含む様々な方法により評価され得る。
【0056】
精製されたApoM-Fc融合タンパク質は、ビトロまたはインビボ使用のために緩衝食塩水中に維持され得る。
【0057】
いくつかの態様において、ApoM-Fc融合タンパク質は、タンパク質の所望の生物学的品質をさらに改善するために、担体またはビヒクルに共有結合的に連結させるか、または付着させてもよい。特定の態様において、ApoM-Fc融合タンパク質の所望の生物学的品質は、バイオアベイラビリティーの増加、またはインビボでのタンパク質の血漿半減期の増加もしくは延長を含む。特定の態様において、担体はポリエチレングリコール(PEG)またはナノ粒子を含む。
【0058】
ApoM-Fc融合タンパク質とリン脂質またはリゾリン脂質との複合体を含む組成物
本開示はさらに、リン脂質またはリゾリン脂質との複合体においてApoM-Fc融合タンパク質を含む組成物を提供する。
【0059】
本明細書で用いられる場合、複合体は、ApoM融合タンパク質とリン脂質との間で形成され、ここで融合タンパク質は非共有結合的相互作用を介してリン脂質に結合する(すなわち、それにより結合される)。リン脂質は天然では水に溶解せず、溶液中で膜またはミセルを形成する。いかなる特定の理論にも拘束されないが、ApoM-Fc融合タンパク質は、リン脂質の疎水性部分に結合してそれをマスキングすることによって、溶液中のリン脂質の溶解度を増加させる。それゆえ、ApoM-Fc融合タンパク質は、血液などの水性媒体中でのリン脂質の輸送を可能にし、それによってリン脂質の担体として作用する。
【0060】
いくつかの態様において、リン脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、またはそれらの組み合わせから選択することができる。
【0061】
いくつかの態様において、組成物のリゾリン脂質は、天然に存在するリゾリン脂質、合成リゾリン脂質、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様において、リゾリン脂質は、極性基(例えば、ホスホコリン基)が結合しているグリセロール骨格、グリセロール骨格の2位における遊離のヒドロキシ基、およびグリセロール骨格に付着している飽和または不飽和脂肪酸残基を含む。いくつかの態様において、リゾリン脂質の脂肪酸残基は、C-アルキル鎖またはC-アルケニル鎖(式中、n>4である)を有する。特定の態様において、リゾリン脂質は、酸化脂肪酸残基(oxidized fatty acid residue)を含む。
【0062】
いくつかの態様において、ApoM-Fc融合タンパク質とリン脂質またはリゾリン脂質との複合体は、融合タンパク質を、メタノール、ベータ-シクロデキストランまたはDMSOに懸濁したリン脂質またはリゾリン脂質と混合することによって形成することができる。いくつかの態様において、融合タンパク質は、約1:2~1:50の比(μmole融合タンパク質/μmoleリン脂質またはリゾリン脂質)で脂質と混合される。いくつかの態様において、メタノール、ベータ-シクロデキストランまたはDMSO中の比(μmole融合タンパク質/μmoleリン脂質またはリゾリン脂質)は、約1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10、1:20、1:30、1:40、1:50である。特定の態様において、前記比は1:8である。融合タンパク質-脂質混合物は、約4~37℃で24~48時間インキュベートされ得る。いくつかの態様において、インキュベーション温度は、約2℃、4℃、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、または40℃である。いくつかの態様において、インキュベーション時間は約24時間、30時間、36時間、42時間または48時間である。
【0063】
ApoM-Fc融合タンパク質/リン脂質またはリゾリン脂質複合体は、既知の技術、例えばクロマトグラフィーを使用して、遊離/未結合の脂質を除去するために、精製され得る。特定の態様において、ApoM-Fc融合タンパク質-リン脂質複合体の精製は、少なくとも1つのイオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーまたは拡張床吸着クロマト分離法を含む。いくつかの態様において、複合体は、FPLC(高速タンパク質液体クロマトグラフィー)装置を用いて精製され得る。特定の態様において、クロマトグラフィー法は、レクチンアフィニティークロマトグラフィー、タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィー、タンパク質Gアフィニティークロマトグラフィー、またはゲルろ過クロマトグラフィーである。
【0064】
精製されたApoM-Fc融合タンパク質-リン脂質またはリゾリン脂質複合体は、Sommer, U. et al.(Journal of lipid Research, 47(4), 804-814 (2006))およびChristoffersen, C. et al.(PNAS, 108, 9613-9618, (2011))に記載されるような液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS/MS)によって液体含量について分析され得る。
【0065】
いくつかの態様において、ApoM-Fc融合タンパク質に対するS1P結合は、以前に記載されているような(Sevvana, M. et al., Journal of Molecular Biology, 404, 363-371 (2010))蛍光分光光度計における固有のトリプトファン蛍光消光によって決定することができる。
【0066】
いくつかの態様において、未結合の脂質を除去するための精製後、得られる組成物は、脂質と結合したApoM-Fc融合タンパク質(すなわち、複合体、または「負荷された(loaded)」)、および脂質により結合されていないApoM-Fc融合タンパク質「負荷されていない(unloaded)」)を含む。いくつかの態様において、組成物内のApoM-Fc融合タンパク質の少なくとも約30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%またはそれ以上は、リン脂質またはリゾリン脂質によって結合されている。リン脂質またはリゾリン脂質によって結合されている、組成物内のApoM-Fc融合タンパク質の百分率は、質量分析により、例えばエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析法(ESI-MS/MS)を用いることにより決定することができる。
【0067】
いくつかの態様において、ApoM-Fc融合タンパク質-リン脂質またはリゾリン脂質複合体内で、ApoM-Fc融合タンパク質とリン脂質またはリゾリン脂質との比は、約1:0.3、1:0.4、1:0.5、1:0.6、1:0.7、1:0.8、1:0.9または1:1である。融合タンパク質-脂質複合体中のApoM-Fc融合タンパク質:リン脂質またはリゾリン脂質の比は、質量分析により、例えば、エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析法(ESI-MS/MS)を用いることにより決定することができる。
【0068】
医薬組成物
それに結合しているリン脂質を含む、または含まないApoM-Fc融合タンパク質を含有する医薬組成物は、1以上の生理学的に許容し得る担体または賦形剤を用いて調製されてもよい。本明細書で用いられる場合、薬学的に許容し得る担体は、ありとあらゆる溶媒、分散媒、等張剤などを含む。任意の従来の媒体、剤、希釈剤または担体がレシピエントまたはそれに含有される活性成分の治療的有効性にとって有害である場合を除いて、本発明の方法の実施におけるその使用は適切である。担体は、液体、半固体、例えばペースト、または固体担体であり得る。担体の例は、油、水、生理食塩水、アルコール、糖、ゲル、脂質、リポソーム、樹脂、多孔質マトリックス、結合剤、充填剤、コーティング剤、保存剤など、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様において、担体は、制御放出マトリックス、ApoM-Fc融合物含有組成物中の活性成分の緩徐な放出を可能にする材料である。
【0069】
本発明によれば、本医薬組成物の有効成分は、例えば、混和、溶解、懸濁、乳化、カプセル化、吸収などの任意の簡便で実用的な方法で担体と組み合わせることができ、錠剤、カプセル、粉末、シロップ、注射に適した懸濁液、移植、吸入、摂取などの製剤において製造され得る。適切な場合には、本発明の医薬組成物は、周知の手順によって滅菌されるべきである。例えば、溶液は、濾過滅菌またはオートクレーブにより滅菌され得る。滅菌粉末を得るために、滅菌された溶液は、必要に応じて真空乾燥または凍結乾燥され得る。
【0070】
処置の方法
1つの側面において、本開示は、対象における状態を処置する方法であって、該状態が、リン脂質の血漿レベルの増加から利益を得、リン脂質との(またはそれと結合した)複合体中におけるApoM-Fc融合タンパク質を含む医薬組成物を対象に投与することを含む、前記方法を提供する。医薬組成物の投与は、内皮細胞および身体のすべての組織への、複合体における生物活性リン脂質の送達をもたらす。送達された生物活性リン脂質は次に、限定することなく、心血管疾患、炎症性疾患および代謝性疾患を含む疾患において損なわれる内皮機能を促進する。
【0071】
いくつかの態様において、リン脂質は、スフィンゴ脂質である。特定の態様において、スフィンゴ脂質は、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)である。
【0072】
いくつかの態様において、対象は、リン脂質の血漿レベルの増加から恩恵を受ける疾患である、高血圧症、心臓の虚血、脳の虚血、加速性アテローム性動脈硬化症、非心臓性の再灌流障害および末梢血管疾患からなる群から選択される状態に罹患している。特定の態様において、高血圧症は、一次抵抗性高血圧症、二次抵抗性高血圧症、神経性高血圧症、妊娠高血圧症(妊娠高血圧腎症)、糖尿病性妊娠高血圧腎症、および慢性腎疾患の高血圧症からなる群から選択される状態を含む。いくつかの態様において、心臓の虚血は、心臓再灌流障害、心筋梗塞、急性冠症候群および狭心症からなる群から選択される疾患を含む。いくつかの態様において、非心臓性の再灌流障害は、心臓組織(心臓)以外の器官または組織に対する虚血の結果としての障害を含む。非心臓性虚血の例は、肝虚血、腎虚血、腸管虚血、および筋虚血を含む。
【0073】
他の態様において、投与のための医薬組成物中のApoM-Fc融合タンパク質は、「負荷されていない」、すなわちリン脂質によって結合されておらず、投与後にレシピエントにおいて循環しているS1Pを動員し、それと複合体を形成する。血漿S1Pは、いくつかの細胞供給源に由来する(Pappu et al., Science 316: 295-298 2007)。例えば、S1Pは、その異化の原因となる酵素を欠くヒト血小板中で比較的高濃度で貯蔵され、そして成長因子、サイトカイン、および受容体アゴニストおよび抗原のような生理学的刺激の活性化の際に血流中に放出される。
【0074】
特定の態様において、ApoM-Fc融合タンパク質は、自己免疫障害のために、FTY720/フィンゴリモド/Gilenya(商標)(IUPAC名:2-アミノ-2-[2-(4-オクチルフェニル)エチル]プロパン-1,3-ジオール)またはその類似体による処置を受けている患者に与えられる。FTY720/フィンゴリモド/Gilenya(商標)は、多発性硬化症について承認された治療薬であり、乾癬、慢性関節リウマチ、ブドウ膜炎およびI型糖尿病などの他の自己免疫適応症を処置するのに有用であり得る。フィンゴリモドの最も一般的な副作用は、鼻かぜ(head cold)、頭痛、および疲労である。しかしながら、フィンゴリモドは、潜在的に致命的な感染症、徐脈、皮膚がん、および出血性局所脳炎の症例、出血を伴う脳の炎症と関連している。本発明によれば、フィンゴリモドおよびその類似体の副作用は、投与されたApoM-Fc融合タンパク質によって低減することができ、それは過剰な循環S1P分子を隔離すると考えられる。
【0075】
本発明の医薬組成物である、負荷されていないApoM-Fc融合タンパク質を含む組成物およびApoM-Fc融合タンパク質リン脂質複合体を含む組成物の両方は、経口、鼻腔、気管、経皮、非経口(例えば、静脈内、腹腔内、皮内、皮下または筋肉内)または直腸を含む、標準的な経路によって対象に投与され得る。加えて、ApoM-Fc融合物含有組成物は、注射によって、またはかなりの量の活性成分が、例えば制御放出様式でその部位に入ることができるように、予め選択された組織または器官の部位の近くへの外科的移植もしくは付着によって、直接拡散によって、身体に導入することができる。
【0076】
投与量は、処置される病状または状態、ならびに、対象の体重および状態などの他の臨床的要因、治療に対する対象の応答、製剤の種類および投与経路に依存する。治療的に有効な、かつ有害ではない正確な投与量は、当業者によって決定され得る。一般的に言えば、医薬組成物は、単位投与量形態当たり約0.5μg~約2グラムで投与され得る。単位投与量形態は、哺乳動物の処置のための単位投与量として適した物理的に別々の単位を指す:各単位は、任意の要求される医薬担体に関連して所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性材料を含有する。本発明の方法は、同時に、または長期間にわたって与えられる、単回投与、および複数回投与を企図する。
【0077】
他に定義されない限り、本明細書中で用いられるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または同等の任意の方法および材料も本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料がここに記載される。本明細書で言及されるすべての刊行物は、それらの刊行物が引用されることに関連して、方法および/または材料を開示および説明するために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0078】
以下に列挙される特定の例は、例示に過ぎず、決して限定することを意味しない。
【実施例
【0079】

例1:材料および方法
ApoM-Fcおよび三重突然変異体ApoM-Fc(ApoM-Fc-TM)の作成
ApoM-IgG1-Fc融合タンパク質を、Δ1-20ApoMオープンリーディングフレーム(ORF)(Xu, N., JBC, 21 A, 31286-31290 (1999))に対応するPCR由来のcDNAを、pFUSE-mIgG1-Fc2ベクター(InVivogen; Cat. # pfuse-mglfc2)のIL-2シグナルペプチドとIgG1-Fcフレームワーク領域の間にクローニングすることによって作成した。したがって、シグナルペプチドを欠き、終止コドンを置換したヒトApoMの507bpのオープンリーディングフレームは、プライマー:
【化2-1】

【化2-2】

を用いたPCRにより生成された。
【0080】
フォワードプライマーは、新規のNcoI制限部位(太字およびイタリック体)を挿入し、ApoMコドン21において開始し、切断不可能なApoMシグナルペプチド23を排除する。リバースプライマーは、新規のBamHI制限部位(太字およびイタリック体)を挿入し、A>G置換であるTGA>GGAにより、終止コドン(TGA、コドン189)をグリシンコドンで置換した。得られたPCR由来DNAを精製し、Ncol-BamHI(New England Biolabs; Cat#R0193S, R3136S)で二重消化することにより切断し、そしてNcol-BglII(New England Biolabs; Cat# R0193S, R0144S)で消化したpFUSE-mIgG1-Fc2ベクター(InVivogen; Cat. # pfuse-mglfc2)のオープンリーディングフレームにライゲートした(Quick Ligation Kit, New England Biolabs, Cat#M2200)。BglIIは、BamHIに対して適合可能な粘着末端であり、そしてライゲーション時に両方の部位を排除する。ライゲーションを高効率トランスフェクションコンピテントDH5a(ThermoFisher Scientific;Cat#l 8263012)にトランスフェクトし、ゼオシン(25μg/ml;ThermoFisher Scientific;Cat#R25005)Millerのブロス寒天ペトリ皿上で選択した。個別のコロニーを採取し、2mlのゼオシン(25μg/ml)Millerのブロス中で増殖させ、GeneJET Plasmid Miniprep Kit(ThermoScientific, Cat#K0503)を用いてDNAを単離した。組み換えベクターを、430bpのDNA断片を放出する診断用EcoRI(New England Biolabs, R3101S)DNA消化物を用いて同定し、そしてCornell DNA sequencing Core Facilityを用いて陽性クローンを配列決定した。このクローニングは、融合遺伝子ApoM-F(pApoM-F)をもたらした。これらの研究のための非S1P結合陰性対照を作成するために、ApoM13の結晶学的分析に基づいてApoM-F三重突然変異体(pApoM-F-TM)を作成した。製造者のプロトコールに従ってQuikChange II XL部位特異的突然変異誘発キットを使用し、そして以下のプライマー:
【化3】

を使用して、コドンR98A、W100A、およびR116Aにおける部位特異的突然変異誘発によって突然変異体を作成した。
【0081】
突然変異プラスミドを上記のように細菌に形質転換し、そしてゼオシン寒天プレート上で選択した。クローンを単離し、そして上記のようにミニプレップに供し、そして上記のように配列決定した。これにより、突然変異融合遺伝子ApoM-F-TM(pApoM-F-TM)が得られた。
【0082】
バキュロウイルスにおけるApoM-F、ApoM-FTMおよびIgG-F1タンパク質の発現
インビボ研究のための、ミリグラム量の適切に折り畳まれたグリコシル化タンパク質を生産するために、昆虫細胞上清中に可溶性タンパク質を発現する組み換えバキュロウイルスを使用する、Bac-to-Bacバキュロウイルス発現システム(ThermoFisher/Invitrogen)を採用した。pApoM-Fc、pApoM-Fc三重突然変異体または元のpFUSE-IgG1Fc2(IgG1-Fc単独)プラスミドを鋳型として使用して、pFUSE-IgG1F2ベクターに反応性であるプライマーを使用して、さらなるラウンドのPCRを行った:
【化4】
【0083】
フォワードプライマーは、BamHI(イタリック体)の制限部位を作成し、リバースプライマーは、NheI(イタリック体)の制限部位を作成する。得られたPCR由来DNAカセットを精製し、BamHI-NheI(New England Biolabs, Cat#R3136S, R5131S)での二重消化によって切断し、BamHI-XbaI(New England Biolabs, R3136S, R5145S)で制限消化したバキュロウイルス発現ベクターpFASTBAC1(Invitrogen)にライゲーションした。製造者のプロトコール((Invitrogen; Bac-to-Bac Baculovirus Expression System)を用い、DH10BAC E. coli細菌、およびルリアブロス(LB)寒天プレート上でテトラサイクリン(10μg/ml)、ゲンタマイシン(7μg/ml)およびカナマイシン(50g/ml)を用いる三重薬物選択を用いて、組み換えウイルスDNAを生成した。個別のコロニーを選択し、そして同じ三剤の組み合わせを補充したLBブロス中で増殖させた。組み換えプラスミドを上記のようにミニプレップによって単離し、そして陽性クローンをCornell University Sequencing Core Facilityで配列決定した。得られたバキュロウイルスプラスミドをpApoM-F(Bac)、pApoM-FTM(Bac)、またはpIgG1-F(Bac)と命名した。
【0084】
HEK293T細胞におけるApoM-F、ApoM-FTMおよびIgG1-Fの生産
pApoM-F、pApoM-Fc-TMまたは対照pFUSE-mIgG1Fc2ベクターを、Lipofectamine 2000試薬(ThermoFisher Scientific, Cat# 11668019))を使用して、HEK293T細胞(AATC Cat. #: CRL-1573)のトランスフェクションによってタンパク質発現についてアッセイした。正常な培養物を、10%ウシ胎児血清(FBS)を補充したDMEM中で37℃に維持した。Lipofectamine 2000を使用して、72時間、293T細胞の3つの別々の培養物に組み換えpApoM-Fプラスミドをトランスフェクトした。最後の18時間は、培養培地を無血清のOptiMem培地(ThermoFisher Scientific Cat# 31985-070)と置き換えた。上清を回収し、遠心分離により清澄化し、そして使用まで-80℃で貯蔵した。
【0085】
バキュロウイルスにおける組み換えApoM-F、ApoM-F-TM、またはIgG1-Fの生産
組み換えバキュロウイルスDNA(1~3μg)pApoM-F(Bac)、pApoM-F-TM(Bac)、またはpIgG1-F(Bac)を、製造者によって提供されるリン酸カルシウム法によって昆虫細胞株Sf9の個別の培養物にトランスフェクトした。5日後、ウイルス粒子を含有する得られた培養上清を、1:50希釈でナイーブSf9細胞上に継代し、そして5日間インキュベートした。これを3回繰り返して、高力価ウイルスストック(>10PFU/ml)を作成した。ウイルスストックのさらなる増幅/維持のために、完全培養培地(Sf900-III; ThermoFisher Scientific, Cat.#12658027)中の150mm組織培養プレート中の3×10のSf9細胞を、一連のウイルス増幅工程(継代5)からの500μlのウイルス懸濁液で感染させ、27℃で5日間インキュベートした。タンパク質生産のために、3×10個のHigh-Five(商標)(ThermoFisher Scientific, Cat#PHG0143)細胞を完全培地(Sf900-III; ThermoFisher Scientific, Cat#12658027)中の150mm組織培養プレートに播種し、次いで1mlのウイルスストックを感染させ、加湿インキュベーター中で27℃で4~5日間インキュベートした。上清を回収し、3,000×gで10分間の遠心分離により清澄化し、そして4℃で貯蔵した。
【0086】
組み換えApoM-Fcの免疫ブロット分析
融合タンパク質の同一性を、抗ApoM特異的免疫ブロット分析を用いて確認した。ほとんどの実験について、10~20μlの組み換え細胞培養上清を5×Laemmliの試料緩衝液中で10分間95℃で加熱した。100mMジチオトレイトール(Sigma-Aldrich)を含む、または含まないのいずれかで別々の試料を調製した。試料を12%SDS-PAGEゲル(BioRad, Acrylamide, Cat# 1610156)上で分離し、電気泳動的にニトロセルロース膜(BioRad, Cat#1620115)に移した。ブロットを、TBS-T(50mMトリス塩基pH8.0、150mM NaCl、0.05%Tween-20)に懸濁した5%ミルク(Carnation)中で室温で1時間ブロックし、次いでウサギ抗ApoMモノクローナル抗体(Genetex GTX62234; Clone EPR2904)と共に一晩(>12時間)インキュベートし、30分にわたるTBS-Tの5回の交換で洗浄した。ブロットを、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)(1:5000(v/v);Jackson Labs)に結合させたヤギ抗ウサギIgGを補充した1%ミルク-TBS-T中で60分間インキュベートし、次いで室温で30分間緩やかに揺り動かしながらTBS-T中で5回洗浄した。ブロットをImmobilon Western Chemiluminescent HRP Substrate(Millipore, Cat# WBKLS0500)とインキュベートし、化学発光をX線フィルム(Denvillie Scientific, HyBlotCL E3018)を用いて明らかにした。
【0087】
ApoM-Fc、ApoM-Fc-S1P、ApoM-Fc-TM、およびIgG1-Fcの精製
融合タンパク質の大規模精製を、BioRad NGC FPLCクロマトグラフィーシステム上で、以下のプロトコールを使用して行った。
工程1)融合タンパク質を含有する100~200mlの培養上清を、滅菌ポリスチレンスクリューキャップチューブ中で、42,000RPM(>100,000g;Sorvall Discovery 90, T-1250 Rotor)での超遠心分離により、清澄化した。
工程2)上清を回収し、Amicon Ultra-15 Centrifugal filter(Ultracel-50K)を用いて、1/10の体積に濃縮した。
工程3)濃縮した培養上清を、Amicon Ultra-15 Centrifugal filter(Ultracel-50K)中で10倍の体積のコンカナバリンAレクチン結合緩衝液(LBB)(Tris-HCl、50mM pH7.5、NaCl 300mM、MnCl 1.5mM、CaCl 1mM、MgCl1mM)と置き換えた。
工程4)タンパク質試料を、20ベッド容量のLBBで予め洗浄した、プレパックコンカナバリンA-セファロースビーズの5mlのBioscale MT-5カラムに適用した。適用速度は0.2m/分であり、平均圧力は30psiであった。
工程5)カラムフロースルーが緩衝液ベースラインOD280、典型的には55~57mAUに達するまで、カラムを0.4ml/分の流速においてLBBで洗浄した。
工程6)使用前に濾過滅菌した、200mMのα-メチル-マンノシドを補充したLBB(溶出緩衝液)を用いて、タンパク質をカラムから溶出させた。システム容量を差し引いた後、典型的には、2mlの溶出緩衝液をカラムに適用し(0.4ml/分)、次いで結合したタンパク質の効率的な置換を可能にするために15~30分間インキュベートした。
工程7)タンパク質を0.4ml/分の速度でカラムから溶出緩衝液中に溶出させた。OD280が溶出緩衝液ベースライン(約125mAU)に戻るまで、0.8mlの画分をBioFracコレクター上で回収した。
工程8)陽性画分をプールし、Amicon Ultra-4 Centrifugal Filter(Ultracel-10K)上で10倍に濃縮し、溶出緩衝液を10倍容量のPBS-1mM EDTAで置き換えてマンノースを除去した。
工程9)5μgの調製物のSDS-PAGEと組み合わせた、試料のBCAタンパク質分析(ThermoFisher Scientific)により、融合タンパク質のおおよその濃度を決定した。いくつかの実験について、融合タンパク質を、1:8(μmolの融合タンパク質/μmolのS1P)でメタノールに再懸濁したS1Pと混合し、穏やかに揺り動かしながら4℃で24~48時間インキュベートした。試料中のメタノールの最終濃度は3%(vol/vol)を超えなかった。試料をAmicon Ultra-4 Centrifugal Filter(Ultracel-10K)で濃縮した。
工程10)1mlのタンパク質濃縮物を、PBS-1mM EDTAで予め平衡化したSuperose 6 Increase 10/300 GLカラム上に注入し、ピーク画分が回収されるまで0.4ml/分の速度で分離した。
工程11)タンパク質陽性画分をプールし、Amicon Ultra-4 Centrifugal Filter(Ultracel-10K)で濃縮した。緩衝液を10倍容量の滅菌PBSで置き換え、1~3mg/mlの最終濃度で維持した。
【0088】
FPLCタンパク質画分の分析
すべての画分を、SDS-PAGEにより分析した。10μlの各画分を、100mM DTTで補充された5×Laemmliの試料緩衝液中で95℃で煮沸し、12%SDS-PAGEゲル上で分離した。ゲルをメタノール:酢酸:水(50%:10%:40%)で固定し、0.3%クマシーブリリアントブルー(BioRad)を含有する固定溶液で染色し、固定溶液で脱色した。
【0089】
蛍光消光分析に基づくS1PのApoM-F結合の測定
以前の研究は、予測されたヒトApoMポリペプチドのトリプトファン47(W47)の蛍光消光に基づいて、細菌で発現された組み換えApoMが約1μMの相対的親和性でS1Pに結合することを実証した(Sevvana, M. et al., Journal of Molecular Biology, 404, 363-371 (2010))。従って、0.125、0.25および0.5μMのApoM-Fc、ApoM-F-TM、またはIgG1-Fを、Quantamaster 300(商標)(Horiba)で、250~400nmの範囲の放射スペクトルを回収し、脂質依存性蛍光消光について分析した。ベースライン放射を確立し、そして最大放射を各タンパク質試料について決定した。消光試験のために、各タンパク質を5分間安定化させ、次いでメタノールに溶解したS1Pを60分間かけて0.25~3.0μMの最終濃度まで添加した。融合タンパク質が評価され、興味はApoM中での消光にのみあるので、IgG1-Fを融合タンパク質のカルボキシ末端の非特異的消光のための対照として使用した。IgG1-Fcの放射蛍光を、すべての適切なApoM-FおよびApoM-F-TMデータから差し引いた。データを回収し、そしてFelixGXソフトウェアを用いて分析した。
【0090】
ApoM融合タンパク質の注射後の精製されたApoM-F、ApoM-F-TMまたは血漿中のS1Pの測定。
50μgの精製されたApoM-F、ApoM-F-S1P、ApoM-Fc-TMまたはApoM-F-TMを、Stony Brook University lipidomics Core Facilityを用いて液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)によりスフィンゴ脂質含量について分析した。血漿試験のために、Apom-/-またはC57BL/6マウスをチークパンチ法により予め採血し、24~48時間休ませた。マウスに100μg(4mg/kg)のApom-F-S1PまたはApoM-F-TMをIP注射し、24時間後に血液をEDTA中に回収し、2000×gで10分間遠心分離して血漿を回収した。25μlの血漿をLC/MSによってスフィンゴ脂質含量および種類について分析した。
【0091】
S1Pレポーター細胞におけるS1P依存性シグナル伝達のインビトロ分析
Proiaおよび同僚は、S1Pシグナル伝達を記録するためのβ-アレスチンシグナル伝達に基づいてマウス系統(S1PGFPシグナル伝達マウスと呼ばれる)を樹立した(Kono, M. et al., JCI, 124, 2076-2086 (2014))。本質的に、S1PによるS1P受容体の活性化は、活性化細胞の核においてヒストン-GFP融合タンパク質の蓄積をもたらす。マウス胚性線維芽細胞(MEF)細胞系を10.5日目の胚から樹立した。標準的なプロトコールを用いて、胚を解離させ、MEF細胞を単離し、SV40ラージT抗原で形質転換した。得られた形質転換細胞を、低内在性GFP発現について選択し、そして非常に低いレベルのS1Pを含有する10%チャコール処理済み(charcoal-stripped)胎児ウシ血清を補充したDMEM中で維持した。機能アッセイについては、脂肪酸非含有(FAF)アルブミン-S1P(Alb-S1P)の添加が、刺激後24時間で最大のシグナルを伴う、6時間という早さで現れる核のGFP蓄積をもたらすが決定された。処置した細胞をトリプシン処置により採取し、そしてGFP発現をゲートしてFACS分析により直接分析した。このアッセイを使用して、0.12~1μMのApoM-Fc-S1PまたはApoM-Fc-TMを、FACS分析により、S1P活性化およびGFP発現についてアッセイした。データは、%GFP陽性/分析された総生細胞として表現した。
【0092】
S1P受容体1、2、および3を介したシグナル伝達に対するApoM-FまたはApoM-F-TMの効果の分析
レンチウイルスベクターであるp(CHO-S1P)にクローニングされたS1P cDNAを使用した、安定にトランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞におけるS1P受容体-1シグナル伝達の分析は、以前に報告されている(Christoffersen, C. et al., PNAS, 108, 9613-9618 (2011))。別々のCHO細胞クローンを、Tet-Onベクターシステムを用いて、S1P受容体-2について樹立した(CHO S1P)。細胞を、10%FBSを補充したHamのF12培地(Invitrogen)中で維持した。シグナル伝達の分析のために、播種した培養物を一晩付着させ、無血清培地中で2回洗浄し、次いで0.1%FAF-アルブミンを補充した培地中で一晩培養した。培地を置き換え、細胞をOptiMem培地単独またはアルブミン-S1P(100nM S1P)、ApoM-F-S1P、またはApoM-F-TMと共に5分間インキュベートした。細胞をPBSで簡単に洗浄した後、PBS-NP-40(PBS、1%NP40、プロテアーゼ阻害剤(Sigma)、および1mMのNaVO、10mMのNaF、10mM β-グリセロールリン酸)に溶解した。溶解物を4℃、13,000gで10分間の遠心分離により清澄化し、上清を100mM DTTを含有する5×Laemmliの緩衝液と混合した。試料を12%SDS-PAGEゲル(BioRad, Acrylamide, Cat. # 1610156)上で分離し、そしてニトロセルロース膜(BioRad, Cat.#1620115)に電気泳動的に移した。ブロットをTBS-T(50mMトリス塩基pH8.0、150mM NaCl、0.05%Tween-20)に懸濁した5%ミルク(Carnation)中で室温で1時間ブロッキングし、次いでp-p44/42MAPK(T202/Y204)((E10)9106S、細胞シグナル伝達)に対するマウスモノクローナル抗体と共に、1:1000で一晩(>12時間)インキュベートし、30分間かけて5回交換したTBS-Tで洗浄した。ブロットを、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)(1:5000;Jackson Labs)に結合したヤギ抗マウスIgGを補充した1%ミルク-TBS-T中で60分間インキュベートし、次いでTBS-T中で穏やかに揺り動かしながら、30分間にわたって室温で5回洗浄した。ブロットをImmobilon Western chemiluminescentHRP基質(Millipore, Cat# WBKLS0500)とインキュベートし、化学発光をX線フィルム(Denvillie Scientific, HyBlotCL E3018)を用いて明らかにした。ローディング対照として、グリシンpH2.5を用いて10分間ブロットを剥がし(stripped)、そしてウサギ抗ERK1/2(Santa Cruz Biotechnology, Cat# sc-292838)で再プローブした。ブロットを剥ぎ、そしてpAkt(S473)(#9271L 細胞シグナリング)および総Akt(#9272S、細胞シグナリング)の発現について再プローブした。ブロットをインキュベートし、洗浄し、そして上記のように発色させた。
【0093】
HUVEC(ATCC Cat. # 100-010)を、補充されたEGM緩衝液中で維持し、そしてアッセイ前に分割した。細胞を0.1%FAF-アルブミン培地中で4時間飢餓状態にした後、アッセイした。シグナル伝達の実験のために、飢餓状態の細胞をAlb-S1P(100~400nM S1P)、ApoM-F-S1P(5~20μg/ml)、またはApoM-F-TM(5~20μg/ml)と5、15または30分培養した。細胞を溶解し、溶解物を分離し、そして上記のようにウエスタンブロッティングのために移した。MapKおよびAktに加えて、ブロットをp-eNOS(s1177)(#9571S 細胞シグナル伝達)の活性化および全eNOS発現(cat# 610296, BD Biosciences)について分析した。
【0094】
CRISPR/Cas9によるS1P1-ノックアウトHUVECの生成
以下のオリゴヌクレオチド:
【化5】

を使用して、S1PR1開始コドンを標的とするガイドRNA(gRNA)を設計し、そしてlentiCRISPRv2ベクター(Dr. Feng Zhangからの贈り物、Addgene plasmid # 529619)にクローニングした。
【0095】
レンチウイルス粒子を、HEK293T細胞を用いて調製し、HUVECに感染させた。感染の48時間後、2μg/mlのピューロマイシンを選択のために添加し、HUVECをDNA配列決定によりS1PR1遺伝子座の突然変異について分析し、そしてS1P1タンパク質発現を免疫ブロット分析により決定した。
【0096】
S1P内部移行の測定
ヒト骨肉腫細胞株であるU20Sは、GFPと融合したS1P受容体を安定的に発現するように作成され、高レベル発現について選択された。細胞を384ウェルプレートにプレーティングし、コンフルエントにした。次いで、細胞を無血清培地中で2時間飢餓状態にし、個々のウェルをいくつかの濃度のFTY720-P、Albumin-S1P(10~100nM)、ApoM-F-S1P(1~20μm)またはApoM-F-TM(1~20μg/ml)で30分間刺激した。次いで、細胞を4%PFAで15分間固定し、PBS-0.1%Triton中で10分間透過処置した。核をDAPIで5分間染色した。細胞をPBS中に維持し、スポット検出器ソフトウェアを用いて10×でArrayScan VTIにより384ウェルプレートにおいて画像化した。
【0097】
インビトロでの内皮細胞バリア機能の測定
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を標準的な条件下で維持し、継代4~8の間で分析した。内皮細胞バリア機能を、内皮細胞インピーダンスシステム(ECIS)装置(Applied BioPhysics, Troy, NY, USA)を用て、細胞被覆(cell-covered)電極の抵抗を測定することにより評価した。HUVECを1×10細胞/ウェルの密度で0.1%フィブロネクチン被覆電極(8W10Eプレート)上にプレーティングした(Kono, M. et al., JCI, 124, 2076-2086 (2014))。コンフルエントな細胞を内皮基礎培地(EBM-2;Lonza, Basel, Switzerland)中で2~6時間飢餓状態にし、そしてアルブミン-S1P(50~200nM;S1Pを2%脂肪酸非含有アルブミンに溶解;Sigma-Aldrich)、ApoM-F-S1P、またはApoM-F-TM(両方とも0.2~0.4μM)のいずれかで処置した。抵抗性をモニターし、そして画分抵抗性として表現し、アッセイの開始時のベースラインに対して正規化した。
【0098】
マウスおよび細胞株
C57Bl/6雄性マウス(6~8週齢)をJackson Labsから購入した。C57Bl/6バックグラウンドにおいてApoMノックアウトマウスを、以前に報告されたように維持した(Christoffersen, C. et al., PNAS, 108, 9613-9618 (2011))。すべての動物プロトコールは、Weill-Cornell MedicineのInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)によって承認された。すべての細胞株をマイコプラズマ汚染について試験した。
【0099】
C57Bl/6マウスにおけるApoM-FまたはApoM-TMの血漿半減期の測定
6~8週齢のC57Bl/6マウス(n=4)に、100μg(4mg/kg)の、精製されたApoM-FまたはApoM-F-TMのいずれかを投与し(i.p.)、注射の2、4、6、8、24、48、72、96、120、168、および216時間後において分析した。1μlの血漿を、上記のようにSDS-PAGEおよび抗ApoM免疫ブロット分析によって分析した。ポンソーS染色を実施して、レーン当たりのローディングが同等であることを確認した。対照として非注入血漿を使用するImageJ分析により、ウエスタンブロットのスキャンをタンパク質発現について定量した。最大シグナルは4~6時間の間に観察され、これは様々な時点でその後の発現を評価するための基準点として使用された。
【0100】
WTマウスの血液細胞カウントに対するApoM-F投与の効果
C57Bl/6WTマウスに、100μg(4mg/kg)のApoM-F-S1PもしくはApoM-F-TMまたはPBS(それぞれN=5)を腹腔内注射によって注射した。6または24時間後のいずれかに、血液を2mM EDTA中に採取し、細胞画分を遠心分離によって分離した。総血液カウントはClinical Cytometry(Cytometry Core, Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)によって決定した。
【0101】
正常血圧マウスにおける収縮期血圧(SBP)に対するApoM-FおよびApoM-F三重突然変異体の効果の分析
収縮期、拡張期および平均血圧を、空気圧テールカフ法(MRBP System, Life Science, Woodland Hills, California)を使用して、意識のある12週齢の雄性マウスにおいて測定した。簡潔には、動物を34℃に維持したプラスチックチャンバーに入れ、空気圧パルスセンサーを備えたカフを尾に取り付けた。1週間の訓練の後、マウスごとに複数回の測定を行い、そして値を平均した。マウスにPBS(ビヒクル対照)、ApoM-F-S1PまたはApoM-F-TM(4mg/kg)を腹腔内注射し、そして血圧を1、2、4、8、および24時間に、次いで7日目まで24時間毎にモニターした。
【0102】
AngIIの慢性的注入、ならびに、高血圧症に対するApoM-FおよびApoM-F三重突然変異体の効果の分析
以前に記載されたように(Cantalupo, A. et al., Nature Medicine, 21, 1028- 1037, (2015))、浸透圧ミニポンプ(モデルALZET 2004)を用いてAngII(500ng/kg/分)を注入した。簡潔には、ミニポンプを10週齢のC57Bl/6(WT)雄性マウスに皮下移植した。AngII注入の0日目から14日目まで、血圧を週に2回モニターした。収縮期血圧を上記のように評価した。実験の別のセットにおいて、C57Bl/6マウスをPBS(ビヒクル対照)またはPBSに懸濁したApoM-FもしくはApoM-F-TMのいずれか100μg(4mg/kg)をI.P.注射により処置し、血圧を、注射後の異なる時点(1時間から216時間)に測定した。用量応答関係を決定するために、PBS(ビヒクル対照)またはPBS中に懸濁した30μg(1.3mg/kg)のApoM-FもしくはApoM-F-TMのいずれかを用いて同様の実験を行った。加えて、S1P受容体-1アンタゴニストW146(10mg/kg)(8)を同様の実験に使用した。W146を、0時、次いで24時間間隔で(24~96時間、そして次に再度168時間)腹腔内注射により投与した。
【0103】
ApoM-F-S1PまたはApoM-F-TM後のAngII処置マウスにおける血漿亜硝酸塩の測定
以前に記載されたように改変されたグリース反応を使用して(Cantalupo, A. et al., Nature Medicine, 21, 1028-1037 (2015))、ApoM-F-S1PまたはApoM-F-TMの注入の24時間後に、AngII処置WTマウスから血漿中の亜硝酸塩としてNOレベルを測定した。簡潔には、ZnSO(30%w/v)による血漿タンパク質の沈殿後、酸洗浄された(0.24M HCl)カドミウム粉末(Sigma-Aldrich)で上清を化学的に還元した。遠心分離後、試料を、グリース試薬(HO中0.1%のナフチルエチレンジアミン二塩酸塩および濃HPO中1%のスルファミンアミド)で亜硝酸塩含有量について測定し、550nmの波長で読み取った。すべての試料を二重にアッセイし、そしてNO濃度をNaNO検量線に対して計算した。
【0104】
インビボでの心筋虚血/再灌流(MI/R)
心筋虚血再灌流(MI/R)障害のモデルは、以前に報告されたように採用された(Xu, Z., JoVE, doi: 10.3791/51329 (2014))。本質的には、マウスを麻酔し、胸郭を肋骨の間の小さな切開によって開き、心臓を露出させた。心臓の左前下行動脈(LAD)を同定し、スリップノット縫合結紮術により圧迫した。45分後、スリップノットを除去し、切開口を閉じる。24時間後、マウスを屠殺する。危険面積(AAR)を視覚化するために、大動脈および冠動脈を介して心臓をアルシアンブルー染料で灌流し、そして梗塞の程度を心臓の1mm横断面の顕微鏡分析によって評価する。心臓を1%塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)溶液で15分間対比染色した。画像を光学顕微鏡によって視覚化し、写真撮影した。ImageJ分析の後に、梗塞面積ならびにAAR(非青色)および総左心室(LV)を評価し、そして梗塞面積(アルシアンブルー灌流なし)/縫合結紮より下の総心臓面積の百分率として表現した(Shao, D. et al., Nature Communications, 5, 3315 (2014))。すべての実験について、手術の30分前に、WTC57Bl/6マウスに、4mg/kgのApoM-F-S1PまたはApoM-F-TMを含む後眼窩注射によって100μlのIVで投与した。
【0105】
M(I/R)の免疫蛍光染色および組織学的分析
虚血/再灌流の24時間後、マウスを屠殺し、そして心臓を冷PBSで灌流し、4%PFA中で24時間固定し、次いでOCT化合物(Sakura Finetek, Torrence CA)中に包埋した。10μm厚の凍結切片を切り出し、Ly6Gに対する一次抗体(Cat#108401, BioLegend, San Diego, CA)およびビオチン結合イソレクチンGS-IB4(Cat# 121414, Invitrogen)で染色した。Cy3結合ストレプトアビジン(Invitrogen)およびフルオレセインイソチオシアナート(FITC)結合抗ラット抗体を二次試薬として使用した。画像は、Olympus Fluoview FV10iを使用して共焦点顕微鏡により視覚化した。
【0106】
心エコー研究
心臓の寸法および機能は、Vevo 770 Imaging System(VisualSonics)を用いた経胸壁心エコー法によって分析した。マウスを吸入イソフルラン(O中0.2%)で軽く麻酔した。左心室Mモードを使用し、すべての測定値を3~6回の連続心臓周期から得て、平均値を分析に使用した。左心室の拡張末期(LVDd)および収縮末期(LVDs)の寸法をMモードトレースから測定し、そして短縮率(FS)を以下:[(LVDd“LVDs)/LVDd]のように計算した。American Society of Echocardiographyの最先端の方法(Zhang, Y. et al., J CI Insight, 1, doi: 10.1172/jci.insight.85484 (2016))を使用して、拡張期測定は最大心腔寸法の点で行われ、収縮期測定は最小腔寸法の点で行われた。
【0107】
一過性中大脳動脈閉塞(tMCAO)およびその治療
以前に記載されているように(Kim, G. S. et al., Nature Communications, 6, 7893 (2015))、中大脳動脈閉塞(tMCAO)によって一過性の局所的な脳虚血をマウスに誘発した。33匹のマウス(雄性、24~28g、C57BL6)をこの試験に使用した。除外についての基準は、くも膜下出血の発症であった。この研究から除外された動物はなかった。手術、ならびにすべての行動および組織学的アセスメントは、薬物処置を知らされていない調査員によって行われた。誘発のためにO中で気化させた3%イソフルランおよび維持のために1.5%イソフルランでマウスを麻酔した。温度を、手順全体を通して、サーモスタットブランケット(CMA 450 Temp Controller for mice, Harvard Apparatus, Holliston, MA)によって制御し、36.5±0.5℃に維持した。左総頸動脈を露出させ、外頸動脈(ECA)の後頭動脈枝を単離して凝固させた。ECAを遠位に切り裂き、そして末端の舌側(terminal lingual)および顎動脈枝と共に凝固させた。内頸動脈(ICA)を単離し、次いでICAの頭蓋外枝を切り裂いた。切開を通してゴムシリコーン被覆モノフィラメント縫合糸(フィラメントサイズ6~0、直径0.09~0.11mm、長さ20mm;コーティングを含む直径0.23±0.02mm;コーティング長5mm、Doccol Corp., Sharon, MA))をECA内腔に導入し、次いでICA内腔中をおおよそ9~9.5mm穏やかに前進させてMCA血流を遮断した。再灌流のために、縫合糸をMCAOの60分後に引き抜いた。2-Dレーザースペックルフローメトリー(PeriCam PSI HR, Perimed, Jarfalla, Sweden)を用いてMCA閉塞および再灌流を確認した。縫合糸を除去した直後に、PBS、apoM-FまたはApoM-TM-Fの腹腔内注射を、動物に無作為に与えた。
【0108】
Mouse Ox Plus(Starr Life Sciences Corp., Oakmon, PA)を使用して、tMCAOの前、その間およびその後に、生理学的パラメータ(動脈O飽和度、心拍数、脈拍拡張および呼吸数)を記録した。手術後、すべての動物を小動物加熱回復チャンバー(IMS Vetcare Chamber Recovery Unit, Harvard Apparatus, Holliston, MA)内で維持した。回復後、動物は食物と水に自由にアクセスできるようにしてそれらのケージに戻された。死亡率は、PBS処置マウスでは1/11、apoM WTでは0/11、そしてapoM-TM処置マウスでは1/11であった。
【0109】
神経行動試験
再灌流の23時間後、神経学的機能を評価した。神経学的欠損は、以前に記載されているように(Menzies, S. A. et al., Neurosurgery, 31, 100-106; discussion 106-107 (1992); Belayev, L. et al., Stroke, 27, 1616-1622; discussion 1623 (1996); Mokudai, T. et al., Stroke, 31, 1679-1685 (2000))、0~4のスコアで成績付けた:0、観察可能な欠損なし;1、前肢の屈曲;2、前肢の屈曲と横方向への押し付けに対する抵抗の減少;3、前肢の屈曲、横方向への押し付けに対する抵抗の減少、および一方向への旋回;および4、前肢の屈曲、および歩行が不可能または困難である。
【0110】
TTC染色ならびに梗塞および浮腫の比率および梗塞体積の決定
再灌流の23時間後、マウスを麻酔して頭部を切断した。脳を頭蓋から素早く取り出し、-20℃の冷凍庫に20分間入れた後、げっ歯動物の脳マトリックスを用いて1.5mmの冠状切片に切断した。切片を37℃で10分間、2%塩化2,3,5-トリフェニルテトラゾリウム(TTC)(Sigma Co., St. Louis, MO)で染色し、そしてスキャンした。各スライス上の梗塞面積を画像分析ソフトウェア(Image J, the National Institutes of Health, Bethesda, MD)を用いて決定し、梗塞率、浮腫率、および脳当たりの梗塞体積(ミリメートル)を得た。以下の式:I=X-Y(式中、Xは対側(非虚血性)半球の面積であり、Yは同側性(虚血性)半球の無傷領域の面積である)を使用して梗塞面積を計算し(Swanson, R. A. et al., J. of Cerebral Blood Flow and Metabolism, 10, 290-293 (1990))、虚血性半球の浮腫形成を補正した。対側半球による正規化後に梗塞率を得た。浮腫率を、以下の式:E=(Z-X)/X(式中、Zは同側半球の面積である)で計算した。
【0111】
脳研究のための統計解析、無作為化および盲検化
報告されたすべての値は平均値±S.E.M.である。P値は、GraphPad Prismソフトウェアで計算し、一元配置ノンパラメトリックANOVA(Kruskal Wallis)に続いてダンの検定を用いた。統計的有意性の基準はP<0.05に設定した。すべての動物実験は、処置群に対して無作為化し、盲検アセスメントを使用した(Lapchak, P. A. et al., J. of Neurology & Neurophysiology, 4 (2013))。
【0112】
その他の統計分析
すべての統計分析は、Prism, version 4.03(GraphPad Software, Inc., La Jolla, CA, USA)を用いて実施した。両側スチューデントのt検定を使用して、2つの群を比較した。適切な場合には、不等分散に対するウェルチの修正を適用した。多重比較について、分散分析(ANOVA;一元配置または二元配置)を、テューキーの事後検定またはボンフェリーニの検定のいずれかで示されるように行った。P%0.05は統計的有意性を示した。
【0113】
例2:S1P受容体を活性化するための組み換え可溶性ApoMの開発
HDLと会合しない遊離のApoMは、極めて短い半減期を有する(Faber, K. et al., Molecular Endocrinology, 20, 212-218 (2006))。それゆえ、本発明者らは、それを免疫グロブリンの定常ドメイン(Fc)と融合させることによって血漿中のApoMを安定化させるための戦略を開発した。ApoM-F融合タンパク質を、HEK293細胞と昆虫Sf9細胞の両方で発現させた。ApoM-Fの条件培地への頑強な発現および効率的な分泌が観察された。S1P分子の頭部領域と接触する3つのアミノ酸残基に突然変異を含有する、以後ApoM-Fc-TMと称されるS1P結合突然変異体(R98A、W100A、およびR116A)もまた調製した(図1A)。精製されたタンパク質は、非還元ゲル中でオリゴマーとして移動したが、50~55kDの単量体に定量的に還元された(図1B)。コンカナバリンAアフィニティークロマトグラフィーとそれに続くゲル濾過クロマトグラフィーからなる二工程精製手順は、7.8+2μg/ml条件培地の収率で高度に精製されたApoM-F融合タンパク質を達成した。ApoM-F-TM突然変異体を、ApoM-F融合タンパク質と同様の方法で発現させ、6.4+1.4μg/mlの収率で精製した。ApoM-F、ApoM-F-TMタンパク質の両方、ならびにIgG1-Fドメインを均質になるまで精製した(図1C)。
【0114】
ApoM-Fは、0.22μM(95%信頼区間:0.168~0.336)のEC50でS1Pに結合した一方で、ApoM-F-TMおよびFは有意な結合活性を示さなかった(図1D)。さらに、Sf9から単離されたApoM-Fは、1.94+0.31mol%のS1Pを含有し、おそらく細胞および/または細胞培養培地から採取された。S1P(1:8 mol/mol)とのApoM-Fの4℃で24~48時間のインキュベーション、それ続くゲル濾過クロマトグラフィーによる精製は、51.3+8.1mol%のS1Pを含有するApoM-Fを生じた(図1E)。精製されたApoM-F-TMは、わずか0.12+0.01モル%のS1Pを含有した;さらに、上記のようにインビトロでの外因性S1Pとのインキュベーション後にS1P含量は化学量論的に増加しなかった。これは、突然変異体がリゾリン脂質に結合しないという事実と一致する。S1Pに富むApoM-Fは、以下に示されるさらなるシグナル伝達および生物学的実験に使用される。
【0115】
例3:S1P結合ApoM-Fによる内皮細胞S1P受容体の持続的活性化
ApoM-FがS1Pに結合することを考慮して、ApoM-FがS1P受容体を活性化するかどうかが次に決定された。ApoM-Fは、β-アレスチンに基づくS1P1レポーターを用量依存的な様式で活性化した(Kono, M. et al., JCI, 124, 2076-2086 (2014))。しかしながら、ApoM-F-TMが活性的ではなかった一方で、アルブミン-S1Pは同様の用量応答関係でレポーター活性を活性化した(図2A図2B)。S1P受容体サブタイプ1または2を発現するCHO細胞において、ApoM-F-TMではなくApoM-Fが、G経路を介するS1P受容体により活性化されることが知られている、細胞外受容体活性化キナーゼリン酸化(ppERK)およびpAKTのリン酸化を活性化した(図2C)。対照的に、ApoM-F-TMの効果はごくわずかであった。ヒト内皮細胞において、ApoM-FはS1P1およびS1P3受容体を介してppERK、pAKTおよびp-内皮型一酸化窒素シンターゼ(eNOS)を活性化した(図2D)。これらのデータは、ApoM-FがS1P1~3受容体を活性化することができることを示唆した。
【0116】
内皮細胞のS1PおよびS1P受容体の活性化は、増加した経内皮電気抵抗(TEER)によって測定することができる、接着結合の集合およびバリア機能の増強をもたらす(McVerry, B. J. et al., J. of Cellular Biochem., 92, 1075-1085 (2004))。HDL結合S1Pは、インビトロおよびインビボにおいてアルブミン-S1Pと比較して血管バリアの促進においてより強力である(Christensen, P. M. et al., FASEB J. (2016); Christoffersen, C. et al., PNAS, 108, 9613-9618 (2011))。単層のHUVECをApoM-Fで処置した場合、TEERの持続的な増加が観察された。対照的に、ApoM-F-TMはTEERを増加させなかった。アルブミン結合S1PもTEERを増強したが、その増加は一時的なものであった。それがCRISPR/Cas9媒介遺伝子破壊によりS1Pを欠くように設計されたHUVECにおいて大きく減弱したので、TEERを増加させるApoM-Fの能力は、S1Pシグナル伝達に依存する(図3A図3B)。加えて、ApoM-FがS1P1受容体の内部移行を誘導したとしても、内部移行の程度は、FTY720-Pまたはアルブミン結合S1Pによって誘導されるものよりも低かった(図3C)。これらのデータは、ApoM-FがS1P受容体を活性化することによって内皮細胞バリア機能の持続的な増強を誘導することを示唆している。
【0117】
例4:ApoM-F結合S1Pのインビボ安定性
ApoM-FおよびApoM-F-TMのインビボ安定性を、腹腔内注射後の血漿レベルの測定によって決定した。ApoM-FおよびApoM-F-TMは、それぞれ93.5時間および86.5時間の血漿半減期を示し、これらがインビボで非常に安定であることを示唆している(図4A)。100μgのApoM-Fを注射したときに、Apom-/-およびWTマウスにおいて、その24時間後に、血漿S1Pおよびジヒドロ-S1Pレベルは、それぞれ、76.3+13.7%;52.9+12.9%および29.9+10.1%;38.9+4.1%増加した。スフィンゴシン、ジヒドロスフィンゴシン、およびセラミドならびにコレステロールの血漿レベルは影響を受けなかった(図4B図4C)。注射されたApoM-Fは、HDL画分と会合しておらず、リポタンパク質非含有画分において見出された。これらのデータは、おそらくはホスファターゼ媒介分解からの保護に起因して、ApoM-Fがインビボで可溶性タンパク質として、結合したS1Pを安定化することを示唆している。アルブミン結合S1Pはインビボで急速に分解され、15分の推定半減期を有した((Venkataraman, K. et al., Circulation Research, 102, 669-676 (2008))。この特性は、少なくとも部分的には、ApoM-Fの持続的な生物学的効果を説明する。
【0118】
例5:造血細胞輸送に対するApoM-F結合S1Pのインビボ効果
ApoM-F投与および結果として生じる血漿S1Pの上昇は、リンパ球S1P受容体を潜在的に活性化して、リンパ球の排出および血小板形成を調整することができる(Cyster, J. G. & Schwab, S. R., Annual Review of immunology, 30, 69-94 (2012); Zhang, L. et al., The Journal of Experimental Medicine, 209, 2165-2181 (2012))。それゆえ、循環血液細胞を、ApoM-F投与後に定量した。図4Dに示すように、白血球、リンパ球、血小板および赤血球の循環レベルは、ApoM-FまたはApoM-F-TM投与によって変化せず、これは、免疫および造血性S1P受容体はApoM-F投与によって活性化されないことを示唆する。これは、二次リンパ器官である胸腺および脾臓におけるそれらの機能的拮抗作用に起因してリンパ球減少症を誘発する小分子S1P調整剤とは著しく対照的である(Cyster, J. G. & Schwab, S. R., Annual Review of immunology, 30, 69-94 (2012))。ApoM-Fは、リンパ系組織および/または造血系組織中の造血系S1P受容体にアクセスしない可能性が高い。
【0119】
実施例6:ApoM-F投与後の高血圧マウスにおける持続的血圧降下
内皮機能不全は高血圧の病態生理に寄与する。実際、血漿S1Pレベルは、eNOS活性を刺激することによって血管緊張を調整する(Nofer, J. R. et al., JC1, 113, 569-581 (2004); Cantalupo, A. et al., Nature Medicine, 21, 1028-1037 (2015)) while endothelial SI Pi stimulates eNOS activity via the protein kinase Akt (Christoffersen, C. et al., PNAS, 108, 9613-9618 (2011); Igarashi, J. et al., Biochimica et Biophysica Acta, 1781, 489-495 (2008))。それゆえ、ApoM-F投与が、アンジオテンシンII浸透圧ミニポンプを移植した高血圧マウスの血圧を調節するかどうかを調査した。C56/Bl6マウスにおいて、ApoM-F-TM投与ではなくApoM-F投与が、処置後2時間で、血圧を約40mmHg強力に降下させた(図5A)。ApoM-Fの効果は持続し、治療有効性は単回投与後192時間持続した。この顕著で持続的な血圧の降下は、S1Pに対する競合的なアンタゴニストであるW146(10mg/kg)との同時投与によって完全に廃止された(図5B)。高血圧マウスにおいて、血漿亜硝酸レベルはApoM-Fによって強く誘導されたが、ApoM-F-TMによっては誘導されなかった(図5C)。正常マウスにおける安静時血圧は、ApoM-Fによって一過性に降下したが、その程度および期間はそれほど強力ではなく一過性であった(図5D)。実際に、Apom-/-マウスは、WT対照物と比較して有意に上昇した安静時血圧を示す(図5E)。これらのデータは、ApoM-F投与が内皮S1P1/eNOS/NO軸を活性化して持続的な抗高血圧効果を達成することを示唆している。ApoM-Fとは対照的に、S1P受容体を標的とする小分子の投与は、内皮S1P1のそれらの機能的拮抗作用に一部には起因して、げっ歯動物およびヒトにおいて軽度の血圧の上昇を誘導する(Cantalupo, A. et al., Nature Medicine, 21, 1028-1037 (2015); Camm, J. et al., American Heart Journal, 168, 632-644 (2014))。
【0120】
例7:心筋梗塞後の心機能に対するApoM-F結合S1Pの効果
HDLおよびS1Pは、心筋梗塞のげっ歯動物およびブタモデルにおいて(Morel, S. et al., Cardiovascular Research, 109, 385-396 (2016); Sattler, K. et al., Journal of the American College of Cardiology, 66, 1470-1485 (2015); Theilmeier, G. et al., Circulation, 114, 1403-1409 (2006); Santos-Gallego, C. G. et al., Circulation, 133, 954-966 (2016))、および脳卒中のげっ歯動物モデルにおいて(Lapergue, B. et al., Stroke, 44, 699-707 (2013); Wei, Y. et al., Annals of Neurology, 69, 119-129 (2011))、虚血/再灌流(I/R)障害を抑制することが知られている。再灌流療法を受けている脳卒中患者では、HDLコレステロールレベルは3ヵ月時点での良好な転帰と関連していた(Makihara, N. et al., Cerebrovascular Diseases, 33, 240-247 (2012))。心臓において、S1P1アゴニストの治療的投与はまた、小分子アゴニスト(SEW2871)が異常な心律動を誘発したとしてもI/R障害(Levkau, B., Frontiers in Pharmacology, 6, 243 (2015))を抑制する(Hofmann, U. et al., Cardiovascular Res. , 83, 285-293 (2009); Tsukada, Y. T. et al., Journal of Cardiovascular Pharmacology, 50, 660-669 (2007))。それゆえ、本発明者らは、ApoM-F投与は、内皮に対するその保護効果に起因して心筋I/R障害を軽減するであろうと仮定した。ApoM-F-TMではなくApoM-Fの投与は、再灌流後24時間でI/R障害を減少させた(図6A)。加えて、梗塞部位への好中球の蓄積はApoM-Fによって大きく軽減されたが、血管密度は梗塞部位において変化せず、これはApoM-Fが心筋I/R障害後も内皮恒常性を維持したことを示唆する(図6B)。I/R障害の1~2週間後の心エコー分析は、ApoM-F投与による心筋機能の有意な保存を示した(図6C)。これらのデータは、ApoM-Fの治療的投与が血管のS1P受容体を活性化して心筋I/R障害を抑制することを示唆している。
【0121】
脳虚血におけるApoM-F処置の治療的可能性を調査するために、一過性局所脳虚血のマウスモデルである、中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルを使用した。60分の虚血後、マウスを再灌流時にPBS、ApoM-FまたはApoM-TM-F(I.P.注射、4mg/kg)で処置した。再灌流の23時間後、浮腫および梗塞の比率、ならびに梗塞体積を以前に記載されたように計算した(Kim, G. S. et al., Nature Communications, 6, 7893 (2015))。図6D~Fに示されるように、ApoM-Fの投与は、梗塞率(PBS処置マウス 0.393±0.026対ApoM-F処置マウス 0.238±0.019;39%減少)および細胞障害性浮腫と血管原性浮腫の合計である、総浮腫率(PBS処置マウス 0.146±0.013対ApoM-F処置マウス 0.052±0.009、64%減少)の両方において有意な減少をもたらした。梗塞体積(浮腫について補正)は、PBS処置マウス(86.8±5.8mm)と比較してApoM-F処置マウス(52.4±4.2mm)において有意に低かった。対照的に、ApoM-TM-Fによる処置は保護効果を示す傾向があり、それは統計的有意性を達成しなかった。神経学的スコアは、PBS処置マウスと比較してApoM-F処置マウスにおいて有意に改善されたが、ApoM-TM-Fで処置されたマウスでは改善されなかったことも見出された(図6G)。レーザースペックルフローメトリーにより、手術の間にモニターされたMCAの脳血流領域は、閉塞の間、3つのマウス群すべてにおいて同様に減少し、そして再灌流後に同様に回復した(図6H)。これらのデータは、実験的脳卒中において、再灌流後のApoM-F処置が総脳浮腫および梗塞サイズを著しく減少させ、その結果脳卒中転帰の改善がもたらされることを示している。虚血前、間および再灌流後に測定された生理学的パラメータ(動脈酸素飽和度、心拍数、脈拍拡張および呼吸数)(Kim, G. S. et al., Nature Communications, 6, 7893 (2015))は、PBS、ApoM-FまたはApoM-TM-Fで処置したマウスにおいて、有意に変化しなかった。
【0122】
本明細書に開示された結果は、ApoM-F組み換えタンパク質がS1Pと結合し、内皮S1P受容体を活性化することを示唆している。ApoM-F組み換えタンパク質はインビボで安定であり、それゆえ、脈管構造におけるS1P受容体の持続的活性化を可能にする。興味深いことに、ApoM-F処置はリンパ球減少症を誘発せず、これは二次リンパ器官においてリンパ球S1P受容体にアクセスしないことを示唆している。これは、ApoM-F投与が内皮S1P受容体を選択的に標的とし、インビトロでS1P依存性血管病変を治療的に調整するための新規戦略を提供することを示唆している。実際、ApoM-F組み換えタンパク質の投与は、高血圧マウスにおいて血圧の持続的な降下を達成した。この効果はS1P1活性化に依存し、そしてNO合成を含む。この経路の治療的標的化は、治療抵抗性高血圧症候群において有用であり得る。さらに、ApoM-F組み換えタンパク質がマウスモデルにおいて心筋I/R障害を抑制するという証拠が本明細書に提示されている。以前の研究は、HDL注入またはS1PアゴニストがMI/R障害から心筋を保護することを示している(Morel, S. et al., Cardiovascular Research, 109, 385-396 (2016); Sattler, K. et al., Journal of the American College of Cardiology, 66, 1470-1485, (2015); Theilmeier, G. et al., Circulation, 114, 1403-1409 (2006); Santos-Gallego, C. G. et al., Circulation, 133, 954-966 (2016))。加えて、脳卒中のマウスモデルにおいて、HDL注入およびS1P受容体活性化剤は、動物モデルおよびヒトの臨床試験においてニューロンのI/R障害を減少させることが示されている(Makihara, N. et al., Cerebrovascular Diseases, 33, 240-247 (2012); Keene, D. et al., BMJ, 349, g4379 (2014); Lapergue, B. et al., Stroke, 44, 699-707 (2013); Wei, Y. et al., Annals of Neurology, 69, 119-129 (2011); Kim, G. S. et al., Nature Communications, 6, 7893 (2015); Fu, Y. et al., PNAS, 111, 18315-18320 (2014); Zhu, Z. et al., Circulation, 132, 1104-1112 (2015))。ApoM-F組み換えタンパク質により血管S1P受容体を選択的に活性化する能力は、この経路を標的とする小分子に対して大きな利点を提供する。実際、小分子S1P阻害剤は血管系に対して選択的ではなく、短期間の作動作用は多くの器官系に影響を及ぼす慢性的機能拮抗作用へと進化する(Hla, T., Neurology, 76, S3-8 (2011))。したがって、ApoM-F投与は、内皮機能が損なわれている疾患の新規治療法として本明細書で提案されている。
図1A-1C】
図1D-1E】
図2A-2B】
図2C
図2D
図3A-3C】
図4A-4C】
図4D-4G】
図5A-5E】
図6A-6C】
図6D-6H】
【配列表】
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