(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 41/12 20060101AFI20220329BHJP
F16D 43/26 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
F16D41/12 A
F16D41/12 C
F16D43/26 D
(21)【出願番号】P 2019570240
(86)(22)【出願日】2018-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2018004587
(87)【国際公開番号】W WO2019155604
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】大池栄弥
(72)【発明者】
【氏名】加藤忠彦
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-193761(JP,A)
【文献】特許第6209608(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00
F16D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクの伝達と遮断とを切り換えるクラッチ装置であって、
軸線に交差する第1面を有し、前記第1面に形成された第1穴が前記軸線の方向に貫通すると共に前記軸線を中心に回転する第1部材と、
前記第1面と前記軸線の方向に対向する第2面を有し、前記第2面に第2穴が形成されると共に前記軸線を中心に回転する第2部材と、
前記第1穴の前記第2部材側を向く第3面に配置され、トルクの伝達時に前記第1部材の前記第1穴と前記第2部材の前記第2穴とに係合し、トルクの伝達を遮断するときに前記第2穴との係合が解除される係合子と、
前記第1部材の前記第1面と反対側の面に配置され前記第1穴を塞ぐ第3部材と、
前記第1穴に配置された前記係合子と前記第3部材との間に配置される圧縮ばねと、を備え、
前記軸線の方向に貫通する油穴が前記第3部材に設けられ、
前記油穴の位置は前記第1穴の位置と前記軸線の方向に一致し、前記油穴の大きさは前記第1穴の大きさよりも小さ
く、
前記第1部材は、前記第1面を有する第1板部と、前記第1板部の前記第3部材側に配置されると共に前記第3面を有する第2板部と、を備え、
前記第1面に形成された前記第1穴は前記第1板部を貫通し、前記第2板部を前記軸線の方向に貫通する穴部は前記第1穴に連なるクラッチ装置。
【請求項2】
前記第1部材に結合する留め具を備え、
前記留め具は、前記第1部材に対する前記第3部材の前記軸線の方向の移動を規制する請求項
1記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記第1部材は、前記第1穴よりも径方向の外側に配置される突部を備え、
前記突部は、前記第3部材の径方向の外側に位置し、
前記留め具は、前記突部の径方向の内側の面に配置される請求項
2記載のクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトルクの伝達と遮断とを切り換えるクラッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸線に交差する第1面を有し軸線を中心に回転する第1部材と、第1面と軸線の方向に対向する第2面を有し軸線を中心に回転する第2部材と、第1部材の第1面と第2部材の第2面との間に介在する係合子と、を備えるクラッチ装置が知られている(特許文献1及び2)。特許文献1及び2に開示される技術では、第1面に形成された窪みに係合子が配置され、窪みの底と係合子との間に圧縮ばねが配置される。圧縮ばねの弾性力によって係合子が第2面側へ移動し、第1部材と第2部材とに係合子が係合すると、クラッチ装置はトルクを伝達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5145019号公報
【文献】特許第6209608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来の技術では、クラッチ装置を組み立てるときに、第1部材の窪みの底と係合子との間に配置された圧縮ばねの弾性力が係合子に加わり、係合子が圧縮ばねで支持された不安定な状態になるので、組立作業性が悪いという問題点がある。
【0005】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、組立作業性を向上できるクラッチ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のクラッチ装置は、トルクの伝達と遮断とを切り換えるものであり、軸線を中心に回転する第1部材は、軸線に交差する第1面を有し、第1面に形成された第1穴が軸線の方向に貫通する。軸線を中心に回転する第2部材は、第1面と軸線の方向に対向する第2面を有し、第2面に第2穴が形成される。第1穴の第2部材側を向く第1部材の第3面に配置される係合子は、トルクの伝達時に第1部材の第1穴と第2部材の第2穴とに係合し、トルクの伝達を遮断するときに第2穴との係合が解除される。第1部材の第1面と反対側の面に配置される第3部材は第1穴を塞ぎ、第1穴に配置された係合子と第3部材との間に圧縮ばねが配置される。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載のクラッチ装置によれば、第1部材の第1面に形成された第1穴が軸線の方向に貫通し、第1穴の第2部材側を向く第3面に係合子が配置される。軸線の方向に貫通する油穴が第3部材に設けられ、油穴の位置は第1穴の位置と軸線の方向に一致し、油穴の大きさは第1穴の大きさよりも小さい。係合子が配置された第1部材の第1面側に第2部材を配置し、圧縮ばねを第1穴に配置した後、第3部材で第1穴を塞ぐことができるので、クラッチ装置の組立作業性を向上できる。
【0008】
第1部材は、第1面を有する第1板部と、第1板部の第3部材側に配置されると共に第3面を有する第2板部と、を備えている。第1面に形成された第1穴は第1板部を貫通し、第2板部を軸線の方向に貫通する穴部は第1穴に連なる。よって第1部材の加工を容易にできる。
【0009】
請求項2記載のクラッチ装置によれば、第1部材に結合する留め具が、第1部材に対する第3部材の軸線の方向の移動を規制する。よって、請求項1の効果に加え、第3部材の固定を簡易にできる。
【0010】
請求項3記載のクラッチ装置によれば、第1部材は、第1穴よりも径方向の外側に突部が配置され、突部は第3部材の径方向の外側に位置する。突部の径方向の内側の面に留め具が配置される。よって、請求項2の効果に加え、第1部材に留め具を簡易に固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施の形態におけるクラッチ装置の断面図である。
【
図4】第3部材が配置された第1部材の正面図である。
【
図5】(a)は
図4のVa-Va線における第1部材および第3部材の断面図であり、(b)は係合子および圧縮ばねが配置された第1部材および第3部材の断面図である。
【
図6】係合子およびリテーナが配置された第1部材の正面図である。
【
図7】第2実施の形態におけるクラッチ装置の一部の分解立体図である。
【
図8】第1部材、第3部材および留め具の断面図である。
【
図9】第3実施の形態におけるクラッチ装置の一部の分解立体図である。
【
図10】第1部材、第3部材および留め具の断面図である。
【
図11】第4実施の形態におけるクラッチ装置の一部の分解立体図である。
【
図12】第1部材、第3部材および留め具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず
図1を参照してクラッチ装置10の概略構成について説明する。
図1は第1実施の形態におけるクラッチ装置10の軸線Oを含む断面図である。クラッチ装置10は、軸線Oを中心に回転する第1部材20及び第2部材40を備えている。本実施の形態では入力軸11及び出力軸12が同一の軸線O上に配置され、第1部材20は入力軸11に結合し、第2部材40は出力軸12に結合している。第2部材40は内周に形成されたスプライン41により、平坦面状の第2面42を第1部材20側へ向けて出力軸12に結合されている。
【0013】
第1部材20は、軸線Oを中心とする円板状に形成された本体21と、本体21の外周に配置される円筒状の突部23と、を備えている。突部23は本体21と一体に形成され、第2部材40と反対側の軸線O方向へ延びている。本体21は輪状に形成され、本体21の内周面にスプライン22が形成されている。
【0014】
第1部材20は、軸線Oに交差する(本実施形態では軸線Oに直交する)平坦面状の第1面24に第1穴25,26(
図4参照)が形成されている。第1面24は、第2部材40の第2面42と軸線O方向に対向している。第1穴25,26は、本体21を軸線O方向に貫通する。第1穴25,26には、第2部材40側を向く第3面27,28(
図4参照)がそれぞれ形成されている。第1穴25には圧縮ばね50が収納され、第3面27には第1係合子51が配置される。
【0015】
図2は第2部材40の背面図である。第2部材40は、第2面42の周方向に互いに間隔をあけて第2穴43が複数形成されている。第2穴43は、第1部材20に配置された第1係合子51(
図1参照)及び第2係合子54(
図6参照)が係合する部位である。第2部材40は、第2穴43を周方向に繋ぐリング溝44が第2面42に形成されている。第2部材40は、リング溝44の溝底に連通するピン穴45が複数形成されている。
【0016】
図1に戻って説明する。ピン穴45は、第2部材40の第2面42の反対側の面に開口する。リング溝44(
図2参照)にリング46が収容され、ピン穴45にピン47が収容される。ピン47は、出力軸12の周囲に配置された円環状の板部材48を介して、アクチュエータ49の軸線O方向の力をリング46に伝達する。アクチュエータ49がリング46を第1部材20側へ移動させると、第1係合子51及び第2係合子54(
図6参照)はリング46に接触することで第2部材40の第2穴43に係合できなくなる。これによりトルクの伝達が遮断される。
【0017】
第3部材60は、第1部材20に形成された第1穴25,26(
図4参照)を、第1面24の反対側から塞ぐための円環状の部材である。第3部材60は突部23の径方向の内側に配置されており、軸線O方向に貫通する油穴61が形成されている。突部23の内面35に形成された溝36に配置された留め具64は、第3部材60を第1部材20に対して軸線O方向に固定する。本実施形態では、留め具64はスナップリング(穴用)である(
図3参照)。
【0018】
図3はクラッチ装置10の一部の分解立体図であり、
図4は第3部材60が配置された第1部材20の正面図である。第1部材20は、本体21の内周に形成されたスプライン22に係合するスリーブ55を介して、入力軸11(
図1参照)に結合する。スリーブ55の外径は、第3部材60の内周面62の直径よりも小さい。第1部材20の第1穴25には、圧縮ばね50と第1係合子51とが配置され、第1部材20の第1穴26には、圧縮ばね50と第2係合子54(
図6参照)とが配置される。本実施形態では、圧縮ばね50はねじりコイルばねである。第1係合子51は、矩形の板状の支柱52と、支柱52の端から支柱52の幅方向の両側に突出する腕53と、を備えている。第2係合子54は、第1部材20に配置される周方向の向きが第1係合子51と異なる以外は、第1係合子51と同一の部品であり、支柱52及び腕53を備えている。
【0019】
図4に示すように第1部材20は、第1部材20の周方向の長さが異なる第1穴25,26が周方向に交互に並んでいる。第1穴25,26は軸線O方向から見て略矩形状である。第1穴25,26には、軸線O方向を向く第3面27,28が穴の全周に形成されている。第3面28の第1部材20の周方向における長さは、第3面27の第1部材20の周方向における長さよりも長い。第1凹部29は第1穴25に連なり径方向の両側へ延びる窪みである。第1凹部30は第1穴26に連なり径方向の両側へ延びる窪みである。
【0020】
第1凹部30の周方向の長さは、第1凹部29の周方向の長さよりも長い。第1凹部29に第1係合子51(
図6参照)の腕53が配置され、第3面27に第1係合子51の支柱52の縁の部分が配置される。同様に、第1凹部30及び第3面28に第2係合子54(
図6参照)が配置される。第1穴26及び第1凹部30の周方向の長さは第2係合子54の周方向の長さよりも長いので、第2係合子54は、第1凹部30及び第3面28の面内をスライドできる。
【0021】
第1部材20は、第1穴25,26を周方向に繋ぐ第2凹部31が第1面24に形成されている。第2凹部31は、第2部材40(
図1参照)に配置されたリング46が進入する環状の窪みである。第1部材20は、第2凹部31の径方向の内側に、軸線O方向に貫通するピン穴32が複数形成されている。ピン穴32はピン56(
図3参照)が嵌合する穴である。ピン56は、第1部材20のピン穴32と共に、第3部材60を貫通するピン穴63にも嵌合し、第1部材20に対する第3部材60の相対回転を規制する。第3部材60は、油穴61の位置を第1穴25,26の位置に一致させて、第1部材20に固定される。油穴61の大きさは第1穴25,26の大きさよりも小さい。
【0022】
図5(a)は
図4のVa-Va線における第1部材20及び第3部材60の断面図であり、
図5(b)は第2係合子54及び圧縮ばね50が配置された第1部材20及び第3部材60の断面図である。第2係合子54は、第2部材40(
図1参照)の第2面42と第1部材20の第3面28との間に配置される。圧縮ばね50は、第2係合子54と第3部材60との間に配置され、第2係合子54の支柱52の、腕53と反対側の部分に腕53を支点に弾性力を加える。腕53は第2部材40の第2面42に押さえられるので、リング46が第2部材40側へ後退すると、第2係合子54は、支柱52の腕53と反対側の部分が圧縮ばね50のばね力により第2部材40側へ起き上がる。第1係合子51(
図6参照)も同様である。
【0023】
図4に戻って説明する。第1部材20は、第2凹部31の径方向の内側に、第3凹部33及び第4凹部34が形成されている。第3凹部33は、第1係合子51の起き上がりを規制するリテーナ65(
図6参照)が配置される窪みである。第4凹部34は、リテーナ65を第1方向(矢印F方向)へ付勢する圧縮ばね(図示せず)が配置される窪みである。リテーナ65は第3凹部33を周方向に移動する。
【0024】
図6は第1係合子51、第2係合子54及びリテーナ65が配置された第1部材20の正面図である。圧縮ばね(図示せず)の弾性力によって第1方向(矢印F方向)へ付勢されたリテーナ65は、第2係合子54を第1方向(矢印F方向)へスライドさせ、同時に第1係合子51の一部を覆う。これによりリテーナ65は、圧縮ばね50(
図3参照)の弾性力による第1係合子51の起き上がりを阻止する。
【0025】
一方、第2係合子54はリテーナ65の位置に関わらず第2部材40側へ起き上がることができる。第2部材40に対して第1方向(矢印F方向)へ第1部材20が相対回転し、第2係合子54が第2部材40の第2穴43に係合すると、第1部材20と第2部材40とは一体に回転しトルクを伝達する。そうすると、第2係合子54に押されてリテーナ65は第2方向(反矢印F方向)へ回転する。その結果、リテーナ65は第1係合子51を覆えなくなるので、第1係合子51は圧縮ばね50(
図3参照)の弾性力によって第2部材40(
図1参照)側へ起き上がることができる。
【0026】
第2部材40側へ起き上がった第1係合子51は、第2部材40に対して第2方向(反矢印F方向)へ第1部材20が相対回転すると、第2部材40の第2穴43に係合する。これにより、第2部材40に対して第2方向(反矢印F方向)へ相対回転する第1部材20のトルクを第2部材40に伝達できる。
【0027】
2方向クラッチからなるクラッチ装置10を組み立てるには、まず、第1部材20の第3面27に第1係合子51を配置し、第3面28に第2係合子54を配置する。次いで、圧縮ばね(図示せず)を第4凹部34に配置しながらリテーナ65を第3凹部33に配置する。次に、第2凹部31にリング46を挿入した後、第1部材20の第1面24に第2面42を突き合わせるように第2部材40を配置し、第2部材40のリング溝44にリング46を収容する。次いで、第1部材20の第1穴25,26の中に圧縮ばね50を入れた後、第3部材60を第1部材20に接触させ、第1係合子51及び第2係合子54と第3部材60との間に圧縮ばね50を挟み込む。最後に、留め具64を溝36に嵌めて第3部材60を固定する。このように、第1係合子51及び第2係合子54を第3面27,28に配置した後に圧縮ばね50を第1穴25,26に配置し、次いで、第3部材60で第1穴25,26を塞ぐことができる。
【0028】
従来は第1部材に第3部材が一体化していた(第1穴が止まり穴であった)ので、クラッチ装置を組み立てるときに、止まり穴の底に圧縮ばね50を配置した後、第1係合子51及び第2係合子54を配置すると、圧縮ばね50の弾性力で第1係合子51及び第2係合子54が浮いた状態になる。そのような状態でリテーナ65やリング46を配置するので、リテーナ65やリング46も浮いた不安定な状態になる。そのため組立作業性が悪いという問題点があった。
【0029】
これに対し本実施形態によれば、第1穴25,26が貫通しているので、第1係合子51及び第2係合子54が不安定な浮いた状態にならないようにしながら、クラッチ装置10を組み立てられる。よって、クラッチ装置10の組立作業性を向上できる。また、第1部材20の第1穴25,26は本体21を貫通しているので、止まり穴を第1部材に設ける場合に比べ、第1穴25,26を第1部材20に簡易に形成できる。
【0030】
次に
図7及び
図8を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施形態では、第1部材20に設けられた突部23の溝36に留め具64を取り付けて第3部材60を固定する場合について説明した。これに対し第2実施形態では、第1部材71に取り付けられるスリーブ72の外周の溝73に留め具74を取り付けて第3部材60を固定する場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0031】
図7は第2実施の形態におけるクラッチ装置70の一部の分解立体図であり、
図8は第1部材71、第3部材60及び留め具74の軸線Oを含む断面図である。クラッチ装置70は、第1実施形態と同様に、第1部材71と軸線O方向に対向する第2部材40を備えている。
図8では、軸線Oを境にした片側の図示および第2部材40の図示が省略されている。本実施形態では留め具74はスナップリング(軸用)である。
【0032】
第1部材71は、本体21の内周に形成されたスプライン22に係合するスリーブ72を介して、入力軸11(
図8参照)に結合する。スリーブ72の外径は、第3部材60の内周面62の直径よりも小さい。スリーブ72の外周面には、周方向に延びる溝73が形成されている。第1部材71に第3部材60を密着させた状態で、留め具74を溝73に嵌め、留め具74を第3部材60に接触させることにより、第1部材71に対して第3部材60が固定される。第1実施形態で説明した第1部材20(
図3参照)の突部23を省略できるので、第1部材71を軽量化できる。
【0033】
次に
図9及び
図10を参照して第3実施の形態について説明する。第3実施形態では、第3面27,28を境にして、第1部材81を第1板部82及び第2板部86に分割する場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0034】
図9は第3実施の形態におけるクラッチ装置80の一部の分解立体図であり、
図10は第1部材81、第3部材60及び留め具64の軸線Oを含む断面図である。クラッチ装置80は、第1実施形態と同様に、第1部材81と軸線O方向に対向する第2部材40を備えている。
図10では、軸線Oを境にした片側の図示および第2部材40の図示が省略されている。
【0035】
第1部材81は、第1面24を有する輪状の第1板部82と、第3面27,28を有する輪状の第2板部86と、を備えている。第1板部82は、第1板部82の周方向の長さが異なる第1穴83,84が周方向に交互に並んでいる。第1穴83,84は、第1板部82を軸線O方向に貫通する。第1穴83,84は軸線O方向から見て略矩形状である。
【0036】
第1板部82は、第1穴83に連なる第1凹部29、第1穴84に連なる第1凹部30、第2凹部31、ピン穴32、第3凹部33及び第4凹部34が、第1面24に形成されている。第1凹部29,30、第2凹部31、ピン穴32及び第4凹部34は、第1板部82を軸線O方向に貫通する。第1穴83及び第1凹部29は、第3面27に配置される第1係合子51の位置を規制する。第1穴84及び第1凹部30は、第3面28に配置される第2係合子54の位置を規制する。
【0037】
第2板部86は、軸線O方向から見て矩形状の穴部87が複数形成されている。穴部87は第2板部86を軸線O方向に貫通する。穴部87は全て同じ大きさであり、穴部87の大きさは第1穴83,84の大きさよりも小さい。第1板部82及び第2板部86を貫通するピン穴32にピン56が嵌合し、第1板部82と第2板部86とが一体化されると、穴部87は第1穴83,84に連なり、第1穴83,84の内側に第3面27,28がそれぞれ設けられる。
【0038】
第2板部86は、第1板部82に形成された第1凹部29,30及び第4凹部34にそれぞれ連なる第1凹部29,30及び第4凹部34が形成されている。穴部87には圧縮ばね50が収容される。第2板部86の外周には突部23が配置されている。第2板部86にも第1凹部29,30が形成されるので、第1係合子51及び第2係合子54が揺動するときに腕52が第2板部86に干渉しないようにできる。第2板部86にも第4凹部34が形成されるので、リテーナ65(
図6参照)を付勢する圧縮ばね(図示せず)を第4凹部34に収容し易くできる。
【0039】
第1板部82の内周面85及び第2板部86の内周面88に、スリーブ89の第1部90が圧入される。スリーブ89は、筒状の第1部90と、第1部90よりも外径が大きいフランジ状の第2部91と、を備えている。第1板部82の第1面24に第2部91は突き当てられる。第1板部82及び第2板部86は、スリーブ89の内周に形成されたスプライン92が入力軸11(
図10参照)に係合して、入力軸11に結合する。第1部90の外径は、第3部材60の内周面62の直径よりも小さい。留め具64は、突部23の内面に形成された溝(図示せず)に取り付けられ、第3部材60を第1部材81に対して軸線O方向に固定する。
【0040】
クラッチ装置80は、第1板部82に第1穴83,84が形成され、第1穴83,84に連なる穴部87が第2板部86に形成されるので、第1穴83,84及び穴部87の各々の形状を単純化できる。第1穴83,84に段差(第1実施形態における第3面27,28)を設けなくて良いので、第1部材81を第1板部82と第2板部86とに分割することにより、第1部材81の製造を容易にできる。
【0041】
なお、第1係合子51及び第2係合子54が第2部材40に係合するときには、主に第1板部82(特に周方向の第1穴83,84の縁)に力が加わるので、第1板部82はある程度の硬さが要求される。一方、第2板部86は、第1板部82に比べて、要求される硬さは低い。そこで、第1部材81を第1板部82と第2板部86とに分割することにより、要求される硬さに応じて、第1板部82と第2板部86に加える熱処理の条件を変えたり材質を変えたりできる。
【0042】
次に
図11及び
図12を参照して第4実施の形態について説明する。第3実施形態では、第1部材81に設けられた突部23に留め具64を取り付けて第3部材60を固定する場合について説明した。これに対し第4実施形態では、第1部材101に取り付けられるスリーブ102の外周の溝104に留め具74を取り付けて第3部材60を固定する場合について説明する。なお、他の実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0043】
図11は第4実施の形態におけるクラッチ装置100の一部の分解立体図であり、
図12は第1部材101、第3部材60及び留め具74の軸線Oを含む断面図である。クラッチ装置100は、第1実施形態と同様に、第1部材101と軸線O方向に対向する第2部材40を備えている。
図12では、軸線Oを境にした片側の図示および第2部材40の図示が省略されている。
【0044】
第1板部82及び第2板部86を備える第1部材101は、第1板部82及び第2板部86の内周面85,88に圧入されるスリーブ102を介して、入力軸11(
図12参照)に結合される。スリーブ102の第1部103の外径は、第3部材60の内周面62の直径よりも小さい。第1部103の外周面には、周方向に延びる溝104が形成されている。第2板部86に第3部材60を密着させた状態で、留め具74を溝104に嵌め、留め具74を第3部材60に接触させることにより、第1部材101に対して第3部材60が固定される。第3実施形態で説明した第1部材81(
図9参照)の突部23を省略できるので、第1部材101を軽量化できる。
【0045】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、第1係合子51や第2係合子54(係合子)の数や形状、係合子が係合する第2穴43の数は例示であり、適宜設定できる。
【0046】
実施形態では、第1部材20,71,81,101が入力軸11に結合し、第2部材40が出力軸12に結合する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。これとは逆に、第1部材20,71,81,101が出力軸12に結合し、第2部材40が入力軸11に結合することは当然可能である。
【0047】
実施形態では、第1部材20,71,81,101や第2部材40の中心にそれぞれ入力軸11や出力軸12が結合する場合、即ち第1部材や第2部材の軸線Oと入力軸や出力軸とが一致する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、軸で支持された第1部材や第2部材の外周面に歯形を付け、この歯形と入力軸や出力軸に設けられたギヤとのかみ合いによって、軸を中心に回転する第1部材や第2部材にトルクを伝達することは当然可能である。
【0048】
実施形態では、第1穴25,26,83,84の全周に第3面27,28が設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1係合子51や第2係合子54を支えることができれば、第3面は、第1穴25,26,83,84の周の少なくとも一部にあれば良い。
【0049】
実施形態では、留め具64,74によって第3部材60を第1部材やスリーブに固定する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。他の手段によって第3部材60を第1部材やスリーブに固定することは当然可能である。他の手段としては、例えば抵抗溶接やレーザ溶接等によって第3部材を固定する手段、第1部材、第3部材、スリーブ等の一部を塑性加工して第3部材を固定する手段(いわゆる加締め)等が挙げられる。
【0050】
実施形態では、圧縮ばね50としてねじりコイルばねを用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。ねじりコイルばねの代わりに、圧縮コイルばね等の他の圧縮ばねを用いることは当然可能である。
【0051】
実施形態では、留め具64,74(C形止め輪)を溝36,73,104に嵌める場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。他の留め具を採用することは当然可能である。他の留め具としては、例えばR形止め輪、E形止め輪、溝加工が不要なCS型止め輪やCR形止め輪、スピードナット等が挙げられる。
【0052】
実施形態では、第1部材20,71,81,101に第1係合子51及び第2係合子54を配置し二方向クラッチとするクラッチ装置10,70,80,100の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1係合子51及び第2係合子54のいずれかを省略して、クラッチ装置を、一方向に回転を伝達する一方向クラッチとすることは当然可能である。
【0053】
実施形態では、第1係合子51の起き上がりを規制するリテーナ65が第1部材20,71,81,101に配置された場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、リテーナ65を省略することは当然可能である。リテーナ65を省略する場合には、第2係合子54が第1穴26,84内をスライドできないように、第1穴26,84の周方向の長さを短くする。さらに、リテーナ65が入る第3凹部33や第4凹部34も省略できる。
【0054】
実施形態では、リング46を介して第1係合子51及び第2係合子54を軸線O方向に押し付ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。リング46を省略し、ピン47の先端形状や第1係合子51及び第2係合子54の形状を変更することで、ピン47を介して第1係合子51及び第2係合子54を軸線O方向に押し付けることは当然可能である。
【0055】
実施形態では、第1係合子51及び第2係合子54が同一形状の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1係合子51及び第2係合子54の長さ、幅、厚さが互いに異なるようにすることは当然可能である。
【0056】
なお、各実施形態は、それぞれ、他の実施形態が有する構成の一部または複数部分を、その実施形態に追加し或いはその実施形態の構成の一部または複数部分と交換等することにより、その実施形態を変形して構成するようにしても良い。例えば、第1実施形態および第2実施形態で説明したスリーブ55,72に代えて、第3実施形態および第4実施形態で説明したスリーブ89,102を第1部材20,71に結合することは当然可能である。
【符号の説明】
【0057】
10,70,80,100 クラッチ装置
20,71,81,101 第1部材
23 突部
24 第1面
25,26,83,84 第1穴
27,28 第3面
40 第2部材
42 第2面
43 第2穴
50 圧縮ばね
51 第1係合子(係合子)
54 第2係合子(係合子)
60 第3部材
61 油穴
64,74 留め具
82 第1板部
86 第2板部
87 穴部
O 軸線