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特許7048666グルコース目標の自動適合を備えたグルコース制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】グルコース目標の自動適合を備えたグルコース制御システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/172 20060101AFI20220329BHJP
【FI】
A61M5/172 500
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020090703
(22)【出願日】2020-05-25
(62)【分割の表示】P 2018506198の分割
【原出願日】2016-08-08
(65)【公開番号】P2020142112
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2020-06-24
(31)【優先権主張番号】62/202,505
(32)【優先日】2015-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】301069856
【氏名又は名称】トラスティーズ オブ ボストン ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100122426
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 清志
(72)【発明者】
【氏名】エル-カティーブ, フィラス
(72)【発明者】
【氏名】ダミアーノ, エドワード
(72)【発明者】
【氏名】ラッセル, スティーブン ジェイ.
【審査官】上田 真誠
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0217052(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0208113(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/172
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)対象の測定グルコースレベルを示す測定グルコースレベル信号と、(b)目標グルコースレベル信号とに応答して、制御スキームに従ってインスリン用量制御信号を生成するように作動するコントローラであって
前記コントローラは:
コンピュータ実行可能命令を格納するように構成されたメモリ;および、
メモリと通信し、コンピュータ実行可能命令を実行し少なくとも以下をするように構成されたプロセッサ、を含み:
前記目標グルコースレベル信号と、秒から分のオーダーで生じる前記測定グルコースレベル信号の変動とに基づいて補正インスリン用量を計算し;
第一の治療期間中に前記目標グルコースレベル信号の第一の値を使用して第一の補正インスリン用量を計算し;
より長期間にわたる前記測定グルコースレベル信号の値により表される経時変化の前記より長期間の傾向に基づいて、前記目標グルコースレベル信号の修正値を自律的に選択し;
前記修正値で前記目標グルコースレベル信号を設定し;
前記修正値で設定した目標グルコースレベル信号を第二の治療期間中に使用して第二の補正インスリン用量を計算し、それにより、投与される総インスリンを減らしながら、前記第一の治療期間と比較して前記第二の治療期間にわたって本質的に同じグルコース制御効果を達成
前記プロセッサは、前記目標グルコースレベル信号の修正値を自律的に選択するように構成されており、前記第一の治療期間の少なくとも一部にわたる前記より長期間の測定グルコースレベルの関数に基づくものであり、
前記関数が、測定されたグルコースレベルにより前記目標グルコースレベル信号の修正値に対して生じたずれを決定するため測定グルコースレベルが乗算されるスケーリング因子を用いる加重和であり、
および、前記スケーリング因子が、前記各測定グルコースレベルに応じて変動する、コントローラ
【請求項2】
前記プロセッサは更に、前記コントローラに対する入力パラメータとして提供された静的目標グルコースレベル信号から少なくとも前記目標グルコースレベル信号の修正値を計算することによって前記目標グルコースレベル信号の修正値を自律的に選択するように構成される、請求項1に記載のコントローラ
【請求項3】
前記プロセッサは更に、少なくとも長期間にわたる逆調節剤の算出された用量の値によって表される第二の計算された長期間の傾向に基づき、前記目標グルコースレベル信号の修正値を自律的に選択するように構成され、
前記コントローラは更に、前記対象に注入するために前記逆調節剤の用量を送達するように構成された逆調節剤送達デバイスに逆調節剤用量制御信号を送信するように構成され、
前記コントローラは更に、前記制御スキームに従って、(a)前記測定グルコースレベル信号及び(b)目標グルコースレベル信号に応答して前記逆調節剤用量制御信号を生成して、前記対象の正常血糖を維持するよう作動する、請求項1に記載のコントローラ
【請求項4】
前記スケーリング因子が、前記各測定グルコースレベルの時間的位置に応じて変動する、請求項1にコントローラ
【請求項5】
前記プロセッサは、過去及び/又は後退期間にわたる前記逆調節剤の前記算出された用量の関数に基づいて前記目標グルコースレベル信号の修正値を自律的に選択するよう構成される、請求項に記載のコントローラ
【請求項6】
前記算出された用量の関数が、前記逆調節剤の前記算出された用量により前記目標グルコースレベル信号に対して生じたずれの大きさを規定する更なるスケーリング因子を用いる加重和である、請求項5に記載のコントローラ
【請求項7】
前記更なるスケーリング因子が、前記逆調節剤の前記各算出された用量の時間的位置に応じて変動する、請求項6に記載のコントローラ
【請求項8】
前記更なるスケーリング因子が、前記逆調節剤の前記各算出された用量の大きさに応じて変動する、請求項6に記載のコントローラ
【請求項9】
前記プロセッサは更に、前記対象に注入するために前記逆調節剤の前記算出された用量を送達するように構成された逆調節剤送達デバイスに逆調節剤用量制御信号を送信するように構成される、請求項6に記載のコントローラ
【請求項10】
前記逆調節剤が実際には前記対象に注入されず、前記逆調節剤の前記算出された用量が、前記逆調節剤が前記対象に注入された場合に前記対象に注入されるであろう用量を表す、請求項6にコントローラ
【請求項11】
前記プロセッサは、過去及び/又は後退時間幅における前記より長期間の測定グルコースレベルの関数に基づいて、前記目標グルコースレベル信号の修正値を自律的に選択するように構成される、請求項1に記載のコントローラ
【請求項12】
前記プロセッサは、前記過去及び/又は後退時間幅において、閾値が適用された前記測定グルコースレベルの関数に基づいて、前記目標グルコースレベル信号の修正値を自律的に選択するよう構成される請求項11に記載のコントローラ
【請求項13】
前記目標グルコースレベル信号に静的グルコース目標を一時的に設定することによって前記目標グルコースレベル信号の修正値を自律的に選択することを抑制又は無効に、使用者入力を受容するように構成され及び作動する、請求項1に記載のコントローラ
【請求項14】
完全自律的及び半自律的の両方で作動する、請求項1に記載のコントローラ
【請求項15】
前記プロセッサは、前記測定グルコースレベル信号の値を得るために使用される時間スケールと同一の時間スケール若しくはそれと同一かつ同時の時間スケール、又は前記測定グルコースレベル信号の値を得るために使用される時間スケールより短い若しくはより長い時間スケールに、前記目標グルコースレベル信号の修正値を自律的に選択するよう構成される、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項16】
対象への注入のためのインスリン用量を送達するように構成されたインスリン送達デバイス;および、
請求項1のコントローラを含み、
前記コントローラは、インスリン用量制御信号を前記インスリン送達デバイスに送信するように構成されている、センサ駆動型グルコース制御システム。
【請求項17】
測定グルコースレベル信号を生成するように構成されたグルコースセンサをさらに備える、請求項16に記載のセンサ駆動型グルコース制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
米国政府権利の陳述
本発明は、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)により授与された契約DK097657及びDK101084のもとで政府支援により為された。政府は、本発明に所定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、医療システム及びデバイスの分野に関し、より詳細には、対象へのインスリン(類似体を含む)の送達を制御して、正常血糖を維持する医療システム及びデバイスに関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
対象へのインスリンの送達を制御して正常血糖を維持するグルコース制御システムにおける、グルコース目標(設定値)制御変数の適合のための技術、例えば血糖制御システムが開示されている。本明細書で、用語「インスリン」は、天然のヒト又は動物インスリン、及び多様な形態のいずれかの合成インスリン(通常「インスリン類似体」と称される)を含む、インスリン様物質の全形態を包含する。一般に、グルコース目標は、実際のグルコースレベル(例えば、対象において測定された血糖)、及び/又は、逆調節剤(例えば、グルカゴン又はブドウ糖)の算出された用量の傾向に基づいて適合される。グルコース目標に関する上限値及び下限値を有する適合領域が設定され得る。開示される技術は、頑強かつ安全なグルコースレベル制御を提供することができる。一実施形態では、この適合は、逆調節剤が利用可能であるか又は対象に実際に送達されるか否かに関わらず、その薬剤の算出用量に基づくものであり、例えば、逆調節剤が送達のために利用可能でない期間、又は、逆調節剤の(仮定上の)用量が、たとえ該逆調節剤が存在しなくても算出されるインスリンのみの制御システム内、を含む、二ホルモン制御システムの作動を調整するのに使用され得る。代替的に、この適合は、グルコースレベルの傾向(低グルコースレベル若しくは傾向の程度及び/若しくは持続時間の強調、並びに/又は平均グルコースを含む)、又は、グルコースレベルの傾向と逆調節剤の算出用量との組み合わせに基づくものであってもよい。
【0004】
前述の及び他の目的、特徴及び利点は、異なる図の全体において同様の参照文字が同一の部分を指す添付の図面に示される本発明の特定の実施形態に関する以下の説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、血糖レベル制御システムのブロック図である。
図2図2は、血糖レベルコントローラのブロック図である。
図3図3は、補正インスリンコントローラのブロック図である。
図4図4は、目標グルコースレベルの調整に関する血糖レベルコントローラの高レベル作動の流れ図である。
図5図5は、開示された作動のシミュレーションの結果のプロットである。
図6図6は、開示された作動のシミュレーションの結果のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
<概要>
インスリンのみの送達、又はインスリンと逆調節剤(例えばグルカゴン又はブドウ糖)との送達を用いる自律的グルコース制御システムにおいて使用されるグルコース目標(設定値)を自動的に調節する技術を記載する。グルコース目標は、(a)逆調節剤の使用量、あるいは(b)逆調節剤が利用可能であった場合の意図される使用量(例えばインスリンのみのシステムにおいて、又は逆調節剤若しくはその送達チャネルが一時的に利用不可能である場合)、(c)グルコースレベルの傾向(低グルコースレベル若しくは傾向の程度及び/若しくは持続時間の強調、並びに/又は平均グルコースを含む)、又は(d)これらの測定値の任意の組み合わせ、に基づいて自動的に適合される。本方法は、その間で動的グルコース目標が変動する範囲に関する上限値及び/又は下限値(静的又は動的)を設定してもよく、また、使用者が一時的に静的目標を設定する(分離した、繰り返しの、又は予定されたものを含む)ための選択肢と共存してもよい。本方法は、自律的グルコース制御システム内で実施されてもよく、又は半自律的グルコース制御システムにおける自律的制御期間中に実施されてもよい。
【0007】
実施の一例は、携帯型糖尿病ケアのための自動インスリン送達システムにおけるものである。このようなシステムでは、グルコース目標は、システムが移動後退時間窓において記録する低血糖又は近低血糖(near-hypoglycemia)の程度に応じて、下限値と上限値との間でオンラインで動的に浮動するように設定される。低血糖又は近低血糖の所定の程度に関してグルコース目標が上方(その上限値へ向かう)又は下方(その下限値へ向かう)のいずれかに適合する程度又は速度は、システム設定因子又はスケーリング因子によって制御され得る。例えば、設定因子又はスケーリング因子が高くなるほど、グルコース目標は、低血糖又は近低血糖の所定の記録された程度に関して自動的な上昇が増大し、低血糖の程度が低下した場合に同様に下降するであろう。代替的に又は追加的に、グルコース目標は、移動後退時間窓内の平均グルコースレベルが、所望される平均グルコースレベル値の目標とする範囲から外れる程度に応じて、下限値と上限値との間でオンラインで動的に浮動するように設定されてもよい。例えば、平均グルコースレベルが所定の閾値を下回る場合、グルコース目標を動的に上昇させ、該閾値の下方では、たとえ低血糖の程度に基づいて目標が上昇されない場合であっても、更なるグルコース低下の予測される利益が存在しない。
【0008】
別の実施では、グルコース目標は、移動後退時間窓内で算出された逆調節用量に基づいて動的に浮動する。本方法は、システムが、該システム作動の一部として逆調節用量が算出され、それらの送達が実行され又は少なくとも意図され若しくは試みられる多ホルモン構成において働く場合、又は、逆調節用量が仮定的にのみ(逆調節剤が利用可能であるかのように)算出されるが、実際には送達されないインスリンのみの構成において働く場合のいずれにおいても同等に機能し得る。いずれの場合でも、オンラインで算出されたグルカゴン用量が増大するにつれて、システムはグルコース目標を動的に上昇させることによりオンラインで自動的に応答する。更に、算出グルカゴン用量の所定の量に関して、グルコース目標が上方に(その下限値から出発してその上限値に向かう)浮動する程度又は速度は、システム設定又はスケーリング因子によって制御され得る。例えば、設定因子又はスケーリング因子が高くなるほど、グルコース目標は、所定の算出グルカゴン投与量の自動的な上昇を増大させるであろう。
【0009】
<より詳細な説明>
図1は、ヒトであってもよい動物対象(対象)12の血糖レベルを調節するための自動制御システム10を示す。対象12は、カテーテル(一つ又は複数)により結合された一つ以上の送達デバイス14、例えば注入ポンプから、インスリンを対象12の皮下空間へと受容する。下記に記載するように、送達デバイス14は、所定の環境下で血糖レベルを制御するための、例えばグルカゴン等の逆調節剤も送達することができる。インスリン及びグルカゴンの両方を送達するために、送達デバイス14は、インスリン及びグルカゴンのそれぞれ用の二重カートリッジを有する機械的駆動による注入機構であることができる。本記載では、特にグルカゴンに言及しているが、これは単に利便性のためであり、他の逆調節剤を使用してもよいことを理解するべきである。同様に、本明細書で用語「インスリン」は、天然のヒト又は動物インスリン、及び多様な形態のいずれかの合成インスリン(通常「インスリン類似体」と称される)を含む、インスリン様物質の全形態を包含するものと理解するべきである。
【0010】
グルコースセンサ16は、対象12に作動可能に結合されて、対象12のグルコースレベルを連続的にサンプリングする。感知は、多様な方法で達成することができる。コントローラ18は、送達デバイス(一つ又は複数)14の作動を、グルコースセンサ16からのグルコースレベル信号19の関数として制御し、患者/使用者により提供され得る、プログラムされた入力パラメータ(PARAMS)20に従う。外部から供給される一つのパラメータは、「設定値」であり、これはシステム10が維持するように努める目標血糖レベルを確立する。下記の記載において、外部から供給される設定値は、「生の」目標グルコースレベル信号と称され、「rt」と特定される。一般に、コントローラ18は、グルコースレベル信号19により表される対象のグルコースレベルと、目標グルコースレベル信号との差異に基づいて作動する。下記に更に記載するように、生の目標グルコースレベル信号rtは、補正用量の計算に使用され、所定の結果を達成するための制御作動の所定の適合を表す可変目標グルコースレベル信号の計算における1つの入力である。
【0011】
コントローラ18は、本明細書に記載するような作動機能を提供する制御回路を有する電気デバイスである。一実施形態において、コントローラ18は、一つ以上のコンピュータプログラムを実行するコンピュータ命令処理回路を有するコンピュータ化されたデバイスとして実現されてもよく、前記一つ以上のコンピュータプログラムのそれぞれは、対応するコンピュータ命令のセットを含む。この場合、処理回路は、概して、一つ以上のプロセッサと、該プロセッサ(一つ又は複数)に結合されたメモリ及び入力/出力回路とを含み、メモリはコンピュータプログラム命令及びデータを格納し、入力/出力回路は、グルコースセンサ16及び送達デバイス(一つ又は複数)14等の外部デバイスに対するインターフェース(一つ又は複数)を提供する。
【0012】
図2は、コントローラ18の機能的構造を示す。コントローラ18は、4つの別個のコントローラ、即ち逆調節(CTR-REG)コントローラ22、基礎インスリンコントローラ24、補正インスリンコントローラ26、及び他のコントローラ(一つ又は複数)28を含む。各コントローラは、対応するコンピュータプログラム(即ち、それぞれ、逆調節プログラム、基礎インスリン制御プログラム、補正インスリン制御プログラム、及び他のプログラム(一つ又は複数))を実行するコンピュータデバイスとして実現されてもよい。逆調節コントローラ22は、逆調節剤送達デバイス14-1に提供される逆調節用量制御信号34を生成する。インスリンコントローラ24~28からのそれぞれの出力36~40は、組み合わされて、インスリン送達デバイス(一つ又は複数)14-2に提供される全体的なインスリン用量制御信号42を形成する。インスリン送達デバイス(一つ又は複数)14-2は、異なるタイプ及び/又は量のインスリンを送達するように調整されたデバイスを含んでもよく、インスリン送達デバイス(一つ又は複数)14-2の正確な形態はコントローラ24~28に既知であり、かつ該コントローラの制御下にある。記載を容易にするために、一つ以上のインスリン送達デバイス14-2の集合は、下記でインスリン送達デバイス14-2として単数にて参照される。
【0013】
図2には、グルコースレベル信号19及びパラメータ20、並びに1セットのコントローラ間信号44を含む、様々なコントローラの他の入力/出力信号も示されている。コントローラ間信号44は、情報が発生又は生成される一コントローラから、その情報を別のコントローラへ通信することを可能にし、その情報はその別のコントローラの制御機能に使用される。詳細を、下記の制御機能の記載にて提供する。
【0014】
補正インスリンコントローラ26は、血糖レベルの主要な動的レギュレータである。補正インスリンコントローラ26は、その内容が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2008/0208113A1号に記載されている方法で、例えばMPC費用関数(MPC cost function)を含む多様な制御スキームのいずれかを使用することができる。いくつかの実施形態では、逆調節剤は存在しなくてもよく、又は使用されなくてもよく、その場合、逆調節コントローラ22は存在しなくてもよい。しかしながら、下記に記載するように、一スキームでは、逆調節剤コントローラ22は尚存在し、たとえ逆調節剤が実際に送達されなくても、補正インスリンコントローラ26による使用のための情報として逆調節剤の用量の値を尚生成する。このことは、逆調節剤が存在せず若しくは利用不可能若しくは送達のためのアクセス不可能、又は、逆調節剤送達デバイス14-1が存在せず若しくは利用不可能若しくは送達実行のためのアクセス不可能、又は両方の状況を含み、またそのような状況が一時的に、永久に、又は断続的に生じる場合を含む。
【0015】
図3は、一実施形態によるコントローラ18をさらに詳細に示す。コントローラ18は、補正コントローラ26及び目標適合48を含む。補正コントローラ26は、rt’として示される入力目標グルコースレベルに基づいて、グルコースレベルの動的調節を行う。この動的値は、入力(概ね一定)目標グルコースレベル信号rtに部分的に基づいて目標適合48により生成される。別の実施形態では、目標適合48は、別個のコントローラ(例えば、図2の他のコントローラ28の一つ)中に存在してもよい。動的目標値は、コントローラ18内のコントローラの一つのみ又は多数によって使用され得る。
【0016】
図4は、高レベルにおけるコントローラ18に関する所定の作動を示す。一般に、コントローラ18は、(a)測定グルコースレベル信号(例えば、グルコースレベル信号19)及び(b)目標グルコースレベル信号に応答してインスリン用量制御信号(例えば、インスリン用量制御信号38)を連続的に計算し、その特定の例を下記に記載する。これを行う際、50において、コントローラ18は、現在の(最近の)目標グルコースレベル信号と、秒から分のオーダーで生じる測定グルコースレベル信号の変動とに基づいて補正インスリン用量を計算する。これは、図3の補正コントローラ26の機能である。52において、コントローラ18は、(a)より長期間にわたる測定グルコースレベル信号の値、及び(b)より長期間にわたる逆調節剤の算出された用量に関する値の少なくとも一方の、より長期間にわたる計算された傾向に基づいて目標グルコースレベル信号を連続的に調整する。これは、図3の目標適合48の機能である。
【0017】
上記を説明するために、特定の実施例を提供する。
を入力、即ち「生の」目標グルコースレベル信号19を表すのに使用し、r’を補正コントローラ26及び逆調節コントローラ22により使用される動的目標グルコースレベル信号を表すのに使用して、目標適合方法の一つの実施は:
【数1】
式中、Gは、逆調節剤(例えばグルカゴン又はグルコース/ブドウ糖)の算出された(意図される)用量であり、f(G)は、Gのある関数であり、f(y)は、グルコースレベルyのある関数であり、r及びrは、rに関する所定の下限値及び上限値(それら自体が動的であり得る)である。一例として、f(G)は、
【数2】
により与えることができ、式中、Nは、Gの蓄積(総計)が行われる間隔の長さを規定し、
【数3】
は、総計に含まれるGの各寄与によってr’上に生じるずれの大きさを規定するスケーリング又はゲイン因子である。このスケーリング又はゲイン因子
【数4】
は、Gの寄与の時間的位置のみに応じて変動し(例えば、線形的、非線形的、区分的に、等)、即ち
【数5】
であり、又はGの寄与の大きさのみに応じて変動し(例えば、線形的、非線形的、区分的に、等)、即ち
【数6】
であり、又は両方であり、又は全ての寄与に関して潜在的に一定であることにより、そのいずれでもない場合がある。一方、f(y)は、
【数7】
により与えることができ、式中、同様に、
【数8】
は、総計に含まれるyの各寄与によってr’上に生じるずれの大きさを規定するスケーリング又はゲイン因子である。このスケーリング又はゲイン因子
【数9】
は、
【数10】
に関して記載したものと同様の依存性を呈する場合がある。一つの実際的な実施は、高い値yに対して比較的低い(又は0)、より低い値y対して漸進的に高い
【数11】
を含み、両方ともr及び/又は関連する生理学的範囲(例えば、70~120mg/dl)に関して評価されている。等式(2)及び等式(3)の両方が離散時間型で定式化されていても、対応する連続時間積分定式化は、記載された方法を実施するための明らかな変形物であることに留意されたい。
【0018】
一実施形態では、逆調節剤に関連した算出量は、逆調節送達が可能であった場合の意図される逆調節送達を表す信号をこの実施に基礎として用いることにより、例えばインスリンのみのシステムのような逆調節剤が完全に存在しないシステム内に尚存在し得る。これは、逆調節剤又はその送達チャネルが利用不可能になり、又は、何らかの理由で逆調節剤のチャネルを介した逆調節剤の送達が不可能となった際の期間中等、多ホルモンシステム内で逆調節剤が一時的に存在しない場合にも同様に当てはまる。
【0019】
図5及び6は、記載された方法を示すシミュレーションの結果を表す。プロットは両方とも、同一の反復する24時間連続グルコース監視(CGM)トレースを用いた48時間シミュレーションを示す。両方のシミュレーションにおいて、第一の24時間期間は、記載された方法を実施せずに同一の閉ループアルゴリズムを使用し、100mg/dlの一定のグルコース目標rを使用する一方、第二の24時間期間は、等式(1)の実施と共に同一の閉ループアルゴリズムを使用し、ここでr=100mg/dl、[r;r]=[100;150]mg/dl、及びNは1日に対応する。一般に、Nは、補正インスリンコントローラ26により補正が行われ得る遥かに短い期間(秒から分)よりも長い期間に及ぶであろう。これらのプロットにおいて、グルコース目標は、グラフの上部パネル全体に及ぶトレース60としてプロットされている。計算インスリン用量は、下方に延びるように62にて示される一方、計算グルカゴン用量は、上方に延びるように64にて示される。両方のシミュレーションは、二ホルモン構成を想定するが、この実施は逆調節剤が存在しないインスリンのみの構成においても同じであり得る。
【0020】
図5は、等式(3)において
【数12】
等式(2)において
【数13】
(即ち、時間t及びGの値に対して一定)である第一のシミュレーションAの結果を表す。
【0021】
図6は、等式(2)において
【数14】
等式(3)において、
【数15】
(即ち、
【数16】
は、時間に対して一定であるが、yに依存する)である第二のシミュレーションBの結果を表す。
【0022】
2つのシミュレーションからの関連した結果を、表1にまとめる。両方のシミュレーションにおいて、制御システムは、第一の24時間内で40.90Uのインスリンと0.6775mgのグルカゴンを与えた。シミュレーションA(図5)における第二の24時間期間中、与えられる用量は、インスリンに関して32.85U、グルカゴンに関して0.53mgに低下され、動的目標グルコースr’は平均112mg/dl付近で浮動した。シミュレーションB(図6)における第二の24時間期間中、与えられる用量は、インスリンに関して33.45U、グルカゴンに関して0.5675mgに低下され、動的目標グルコースr’は111mg/dlにて浮動した。かくして、これらのシミュレーションは、ある期間にわたって投与される総インスリンの望ましい低下と、その期間にわたって本質的に同一の制御効果が達成されることを示す。
【0023】
表1 図5及び6のシミュレーションA及びBからの関連した結果。
【表1】
【0024】
目標が単一のグルコースレベル値の場合、又は目標がグルコースレベルの範囲若しくは間隔を表す場合を含む、適合(動的)グルコース目標を使用するグルコース制御システムが開示される。グルコース目標の適合は、いくつかの数学的定式化に従って自律的であってもよい。適合グルコース目標は、所定の上限値及び下限値の範囲内に留まるように制約され得る。
【0025】
グルコース目標の適合は、低グルコースレベル若しくは低グルコースレベル付近(例えば、正常範囲の下方又は下端付近等)の頻度、持続時間又は重症度を制限して、より安全かつ/又はより安定なグルコース制御を提供することを目的とし得る。
【0026】
グルコース目標の適合は、達成された平均グルコースをある期間にわたって平均グルコース値の範囲内に維持して、糖尿病の長期合併症を最小限にし、好ましくは、糖尿病の長期合併症を減少させるのに必要とするよりも、平均グルコースレベルが低下することを回避することを目的とし得る。
【0027】
グルコース目標の適合は、インスリンに対する逆調節剤の実際の送達、又は単なる(仮定上の)用量の算出を調節又は制限して、より安全かつ/又はより安定なグルコース制御を提供することを目的とし得る。グルコース目標の適合は、代替的に、インスリンの送達を調節又は制限して、より安全かつ/又はより安定なグルコース制御を提供することを目的とし得る。
【0028】
グルコース目標の適合は、過去及び/又は後退する時間幅におけるグルコースレベルに基づくものであり得、また、過去及び/又は後退時間幅において所定の閾値を下回るグルコースレベルに基づくものであり得る。
【0029】
グルコース目標の適合は、過去及び/又は後退時間幅にわたる逆調節剤の実際の送達又は単なる(仮定上の)用量の算出に基づくものであり得る。
【0030】
グルコース目標の適合は、インスリンのみの送達を用いる、又は代替的にインスリン及び逆調節剤(一つ又は複数)の送達を用いる、又は代替的にインスリン、逆調節剤(一つ又は複数)及び潜在的に他の薬剤の送達を用いるグルコース制御システムの一部であってもよい。
【0031】
グルコース目標の適合は、使用者が一時的に(分離した、繰り返しの、又は予定されたものを含む)静的グルコース目標を設定する選択肢と共存してもよい。グルコース制御システムは、自律的又は半自律的であってもよく、グルコース目標の適合は、逆調節剤が実際に送達されるか、又は算出されるが実際には送達されないかに応じて異なり得る。
【0032】
開示した適合技術は、多様なタイプの自動グルコース制御システムにおいて使用することができる。一例では、この適合技術は、米国特許第7,806,854号又はPCT国際公開第WO2012/058694A2号に開示されているもの等のグルコース制御システムにおいて使用することができる。
【0033】
本発明の様々な実施形態を特に示し、記載してきたが、当業者は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の形態及び詳細に様々な変更を為し得ることを理解するであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6