(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】樹脂圧送LNG燃料タンクサドル及び同サドルによる圧送樹脂硬化層を有するLNG燃料船
(51)【国際特許分類】
B63B 25/16 20060101AFI20220329BHJP
F17C 13/08 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
B63B25/16 101B
F17C13/08 302B
(21)【出願番号】P 2020133591
(22)【出願日】2020-08-06
【審査請求日】2020-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000146814
【氏名又は名称】株式会社新来島どっく
(73)【特許権者】
【識別番号】591145483
【氏名又は名称】原田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090044
【氏名又は名称】大滝 均
(72)【発明者】
【氏名】七宮 賢
(72)【発明者】
【氏名】柴田 悟
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 彰郎
(72)【発明者】
【氏名】松井 勇人
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0044311(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0034455(KR,A)
【文献】特開2003-240198(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1908543(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0131718(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 25/16
F17C 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LNG燃料船のLNG燃料タンクを支えるサドルであって、
同サドルは搭載するLNG燃料タンク下面に対応して上方に湾曲するサドル湾曲面と、
サドル湾曲面上の湾曲溝底面内の最下に配置される樹脂圧送孔及びその上方に配置され、上方の樹脂圧送孔から順次樹脂圧送を行う複数の樹脂圧送孔と、
サドル湾曲面には所定高さの湾曲する船首側湾曲コーミング及び船尾側湾曲コーミングからなる湾曲溝と、
サドル両端に配置され、LNG燃料タンクの搭載に際しLNG燃料タンクを支持する油圧ジャッキ架台及びこの油圧ジャッキ架台に対応する支持金物受け部と、 を有することを特徴とするLNG燃料船のLNG燃料タンクサドル。
【請求項2】
湾曲溝は、船首側湾曲コーミング及び船尾側湾曲コーミングからなる湾曲溝上の双方の内側上端湾曲に沿ってそれぞれ配置されるネオスポンジ当て材と、
ネオスポンジ当て材を上方から押さえる所定幅の押さえアングルとからなる樹脂溢出ダムを有することを特徴とする請求項1に記載のLNG燃料船のLNG燃料タンクサドル。
【請求項3】
最下の樹脂圧送孔及びその上方に配置される複数の樹脂圧送孔から所定の高さ位置までバーコル(Barcol)硬度40~50の液状樹脂が順次圧送された樹脂が硬化して、サドル内に所定高さの樹脂硬化層を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のLNG燃料船のLNG燃料タンクサドル。
【請求項4】
船首側湾曲コーミング及び/又は船尾側湾曲コーミング側面の樹脂圧送孔の下方位置に樹脂注入確認用ネジ孔及び樹脂充填後にネジ孔を閉塞する閉塞ボルトを有する請求項1ないし3のいずれか
に記載のLNG燃料船のLNG燃料タンクサドル。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のLNG燃料船のLNG燃料タンクサドル内の湾曲溝に圧送された液状樹脂が硬化した圧送樹脂硬化層を有することを特徴とするLNG燃料船。
【請求項6】
LNG燃料船のLNG燃料タンク室に請求項1に記載のLNG燃料タンクサドルを搭載する工程と、
LNG燃料タンクサドルの船首側湾曲コーミング及び船尾側湾曲コーミングからなる湾曲溝上の双方の内側上端湾曲に沿ってそれぞれ配置されるネオスポンジ当て材及びこれを上方から押さえる所定幅の押さえアングルとで樹脂溢出ダムを形成する工程と、
LNG燃料タンクサドルのセンターケガキ位置に油圧ジャッキ及び支持金物を介して所定の間隙を保ってLNG燃料タンクを搭載する工程と、
請求項1に記載のLNG燃料タンクサドルのサドル湾曲面上の湾曲溝内の最下に配置される第1の樹脂圧送孔から予め設定された高さ位置までバーコル(Barcol)硬度40~50の液状樹脂を圧送する工程と、
請求項1に記載のLNG燃料タンクサドルのサドル湾曲面上の湾曲溝内の最下に配置される樹脂圧送孔の上方に複数配置される樹脂圧送孔から順次同液状樹脂を圧送する工程と、
液状樹脂が硬化後、支持金物及び油圧ジャッキを撤去する工程と、
からなることを特徴とするLNG燃料船のLNG燃料タンク据付方法。
【請求項7】
液状樹脂の硬化後、押さえアングル及びネオスポンジ当て材を撤去し、ネオスポンジ跡のクボミにバーコル(Barcol)硬度30~34の樹脂(Paste)を充填する工程と、
からなることを特徴とする請求項6に記載のLNG燃料船のLNG燃料タンク据付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂圧送LNG燃料タンクサドル及び同サドルによる圧送樹脂硬化層を有するLNG燃料船に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶においては、搭載する重量装置等においては、搭載する重量装置を隙間なく密着させるため、据え付け面と据え付け台の間に液状樹脂を流し込むことが行われる。この種の船舶搭載重量装置に対する樹脂硬化に関しては、例えば、特開平8-282591号公報に開示のものが知られている。特開平8-282591号公報の開示は、発明名称「主機据付時の合成樹脂性ライナー形成方法」に係り、「・・木栓の打ち込み抜き出しの作業を必要とせず、取扱いの容易な、主機据付時の合成樹脂性ライナーの形成方法を提供する」ことの発明解決課題において(同公報明細書段落番号0012参照)、「縦方向に切れ目を有する合成樹脂管を主機台板に形成されたボルト孔から主機据え付け台板に至る隙間部に挿入し、更に主機台板と主機据え付け台板の間で該合成樹脂管を取り囲むように堰を設けて合成樹脂の流し込み用区画を形成した後、該区画内に合成樹脂を流し込み硬化させることで合成樹脂性ライナーを形成する」という発明構成とすることにより(同公報特許請求の範囲請求項1の記載参照)、「・・合成樹脂性ライナーの形成において、主機台板のボルト孔に、縦方向に切れ目を有する合成樹脂管をその弾力を利用して挿入するので、挿入が簡単かつ確実に行え、ボルト孔への液状の合成樹脂の流出が完全に防止される。さらに、合成樹脂管を抜き出す必要もなくなったので、作業が容易となり、時間が大幅に短縮出来る」等の効果を奏するものである(同公報明細書段落番号0023、0024参照)。
【0003】
しかしながら、特開平8-282591号公報に開示の合成樹脂性ライナー形成方法は、主機据付のボルトの緩みに対するライナー形成であって、本願発明が目的とするLNG燃料船のLNG燃料タンクの据付にそのまま応用することはできない。
【0004】
従来、この種のLNG船のLNG燃料タンクの据付は、半円状のタンクサドル表面にペースト状(粘土状)の樹脂を半円形状のサドル面に塗りつけ、その上からLNG燃料タンクを搭載するだけであり、厚い樹脂層を形成することはできなかった。すなわち、LNG燃料船のLNG燃料タンクは円筒形状であり、それを据付・設置する据付架台(サドル)も上を半円状に開口せざるを得ないため、この半円状の円弧表面に円弧を維持しつつ液状樹脂を塗布したり、流し込んだりしても自重により流れ落ちてしまい良好な円弧状表面を維持した樹脂層とすることはできない。
【0005】
特に、LNG燃料船のLNG燃料タンクの据付における樹脂流し込みにおいては、厳しい温度条件のもとで完工されなければならず、雨天や気温変化の激しい冬場等の悪天候の場合には、樹脂の硬化に必要な温度管理が難しく均一な樹脂層を形成することができないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本願発明者らは、樹脂を上から流し込むのではなく、半円弧状に溝を有するタンクサドルの溝底面に樹脂圧送口を複数配置し、下方の圧送口から順次樹脂圧送を行い、LNG燃料タンクとタンクサドルの間に適宜の圧送樹脂硬化層が形成される樹脂圧送LNG燃料タンクサドル及び同サドルによる圧送樹脂硬化層を有するLNG燃料船を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本願請求項1に係る発明は、LNG燃料船のLNG燃料タンクを支えるサドルであって、同サドルは搭載するLNG燃料タンク下面に対応して上方に湾曲するサドル湾曲面と、サドル湾曲面上の湾曲溝底面内の最下に配置される樹脂圧送孔及びその上方に配置され、上方の樹脂圧送孔から順次樹脂圧送を行う複数の樹脂圧送孔と、サドル湾曲面には所定高さの湾曲する船首側湾曲コーミング及び船尾側湾曲コーミングからなる湾曲溝と、サドル両端に配置され、LNG燃料タンクの搭載に際しLNG燃料タンクを支持する油圧ジャッキ架台及びこの油圧ジャッキ架台に対応する支持金物受け部と、を有することを特徴とする。
また、本願請求項2に係る発明は、前記請求項1に記載のLNG燃料船のLNG燃料タンクサドルにおいて、湾曲溝は、船首側湾曲コーミング及び船尾側湾曲コーミングからなる湾曲溝上の双方の内側上端湾曲に沿ってそれぞれ配置されるネオスポンジ当て材と、ネオスポンジ当て材を上方から押さえる所定幅の押さえアングルとからなる樹脂溢出ダムを有することを特徴とする。
さらに、本願請求項3に係る発明は、前記請求項1又は請求項2に記載のLNG燃料船のLNG燃料タンクサドルにおいて、最下の樹脂圧送孔及びその上方に配置される複数の樹脂圧送孔から所定の高さ位置までバーコル(Barcol)硬度40~50の液状樹脂が順次圧送された樹脂が硬化して、サドル内に所定高さの樹脂硬化層を有することを特徴とする。
そして、本願請求項4に係る発明は、前記請求項1ないし3のいずれかに記載のLNG燃料船のLNG燃料タンクサドルにおいて、船首側湾曲コーミング及び/又は船尾側湾曲コーミング側面の樹脂圧送孔の下方位置に樹脂注入確認用ネジ孔及び樹脂充填後にネジ孔を閉塞する閉塞ボルトを有する。
また、本願請求項5に係る発明は、LNG燃料船において、請求項1ないし4のいずれかに記載のLNG燃料船のLNG燃料タンクサドル内の湾曲溝に圧送された液状樹脂が硬化した圧送樹脂硬化層を有することを特徴とする。
次いで、本願請求項6に係る発明は、LNG燃料船のLNG燃料タンク据付方法において、LNG燃料船のLNG燃料タンク室に請求項1に記載のLNG燃料タンクサドルを搭載する工程と、LNG燃料タンクサドルの船首側湾曲コーミング及び船尾側湾曲コーミングからなる湾曲溝上の双方の内側上端湾曲に沿ってそれぞれ配置されるネオスポンジ当て材及びこれを上方から押さえる所定幅の押さえアングルとで樹脂溢出ダムを形成する工程と、LNG燃料タンクサドルのセンターケガキ位置に油圧ジャッキ及び支持金物を介してLNG燃料タンクを搭載する工程と、請求項1に記載のLNG燃料タンクサドルのサドル湾曲面上の湾曲溝内の最下に配置される第1の樹脂圧送孔から予め設定された高さ位置までバーコル(Barcol)硬度40~50の液状樹脂を圧送する工程と、請求項1に記載のLNG燃料タンクサドルのサドル湾曲面上の湾曲溝内の最下に配置される樹脂圧送孔の上方に複数配置される樹脂圧送孔から順次同液状樹脂を圧送する工程と、液状樹脂が硬化後、支持金物及び油圧ジャッキを撤去する工程と、からなることを特徴とする。
また、本願請求項7に係る発明は、前記請求項6に記載のLNG燃料船のLNG燃料タンク据付方法において、液状樹脂の硬化後、押さえアングル及びネオスポンジ当て材を撤去し、ネオスポンジ跡のクボミにバーコル(Barcol)硬度30~34の樹脂(Paste)を充填する工程と、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
(1)ジャッキを使用してLNG燃料タンクの位置をあらかじめ保持し、ネオスポンジにより溢出防止ダムを作成しておいた状態にて、半円形状のタンク架台の下部に設けた注入穴より圧送ポンプで注入することで、タンクサドル表面に樹脂の受け面を形成する前にタンクの先行搭載ができるようになった。
(2)LNG燃料タンクより先に樹脂注入可能なLNGタンクサドルを搭載できるため、タンクサドル面が天候の影響を受けにくい。
(3)樹脂を下から上に圧送することで、大きな空気たまりが発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、LNG燃料船のLNG燃料タンク配置概略を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドルの概略図である。
【
図3】
図3は、LNG燃料タンクサドル3に樹脂圧送の概略を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3のコーミング5の上端面に形成する溢出防止ダムの概略を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル及び圧送樹脂硬化層を有するLNG燃料船の実施例を図面に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、LNG燃料船のLNG燃料タンク配置概略を示す図であり、
図1において、1は、LNG燃料船のLNG燃料タンク室、2aは、左舷LNG燃料タンク、2bは、右舷LNG燃料タンク、3aは、左舷船首LNG燃料タンクサドル、3bは、右舷船首LNG燃料タンクサドル、3cは、左舷船尾LNG燃料タンクサドル、3dは、右舷船尾LNG燃料タンクサドルである(以下、LNG燃料タンク2a、2bについて、1台のLNG燃料タンクで説明する場合には、「LNG燃料タンク2」として説明し、いずれも本実施例1に係るLNG燃料タンク径は、7400mmφ相当の径を有するものとして説明する。)。
【0013】
図2は、本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドルの概略図であり、便宜的に、上述するように、前後左右4台の上記LNG燃料タンクサドル3a、3b、3c、3dのうちの1台、例えば、右舷船首LNG燃料タンクサドル3bを示している。
【0014】
図2において、2bは、右舷LNG燃料タンク、3bは、右舷船首LNG燃料タンクサドル、4は、サドル湾曲面、5aは、船首側湾曲コーミング、5bは、船尾側湾曲コーミング、5cは、両コーミングによって構成される湾曲溝、6a~6g(6gは図示外)は、樹脂圧送孔、7a、7bは、油圧ジャッキ架台、8a、8bは、支持金物受け部材、9は、LNG燃料タンク2の底部プレスウッドである(以下、LNG燃料タンクサドル3a、3b、3c、3dのうち、一つのLNG燃料タンクサドルで説明する場合には、例えば、「LNG燃料タンクサドル3」などと説明する。)。
【0015】
上記樹脂圧送孔6a~6gは、タンク径や樹脂粘度、毎分当たりの圧送料にもよるが、本実施例1に係るLNG燃料タンクサドル3においては、サドル湾曲面4上に40mmφの樹脂圧送孔6a~6gが所定間隔で開口され(間隔については後述する。)、かつ、当該サドル湾曲面4には所定高さの湾曲する船首側湾曲コーミング5a及び船尾側湾曲コーミング5bからなる湾曲溝5cが構成される。
【0016】
図2に示すような構造のLNG燃料タンクサドル3のサドル湾曲面4上に樹脂厚さを確保する所定の間隙(例えば、20~40mm)を開けて、前記LNG燃料タンク2を載置する。このとき、前記油圧ジャック架台7a、7b及び支持金物受け部材8a、8bの上に油圧ジャッキ(図示外)及び支持金物(図示外)を配置し、LNG燃料タンクサドル3とLNG燃料タンク2との間隙、水平位置等を調節する。
【0017】
図3は、LNG燃料タンクサドル3に樹脂圧送の概略を示す図であり、
図3において、符号10a~10gは、樹脂圧送孔6a~6gに接続されるボールバルブであり、また、11は、圧送ポンプ、12は、ホッパー、13は、鋼管、14a、14b、14cは、バルブ付きホース、15は、圧送する液状樹脂である。
【0018】
図3においては、バルブ付きホース14b、14cが、ボールバルブ10b、10cに接続され、当該領域の樹脂圧送を行っている状態を示し、その外の一部点表示で示すバルブ付きホース14aや他のバルブ付きホースと適宜つなぎ替えて接続し、樹脂圧送が行われることを示している。なお、樹脂圧送の際にバルブ付きホース14a、14b、14c等は内径32mmφのものを使用し、脈動を防止するため圧送ポンプ11との間には前記鋼管13を配置している。
【0019】
(樹脂圧送)
本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3に使用する樹脂は、リキッドタイプ(液状)マスティックTG-7B(ITW社製)を使用する。この樹脂は、常温(20℃)では、粘度:48cps程度(Barcol:バーコル硬度40~50)の2液性耐荷重性エポキシマスティックであり、この樹脂は、常温では、粘度が低く上から充填してもサドル湾曲面4などの曲面に充填することは難しい。そこで、
図3に示すように、最初は、一番下の圧送孔6aから順次上方に圧送して、樹脂を充填せんとするものである。
【0020】
図3に示すように、この樹脂をLNG燃料タンクサドル3に圧送する圧送ポンプ11としては、種々の仕様のポンプの使用が可能であるが、例えば、岡三機工製OKG-20ME(吐出圧:MAX3.0MPa、吐出量:7~27L/分、電流電圧:三相AC200V、動力:2.2kw-4P、定格:インバータ出力定格11A)等が用いられる。圧送ポンプ仕様(スペック)は、樹脂粘度と接続ホース径、圧送孔までの長さ等により適宜選定される。
【0021】
また、本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3への樹脂圧送は、
図3に示すように、本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3においては、LNG燃料タンクサドル3のサドル湾曲面4の最下面高さが基準面より350mmの高さとすると,そこから700mmの高さ間隔で1層目を充填し、しかる後、順次、2層目、3層目を各700mmの高さ間隔で充填し、最終層である4層目を1000mmの高さ間隔で充填するようにする。
【0022】
これは、上述するように、常温下で低い粘度の液状樹脂を下から圧送して充填するようにしたものであり、低い粘度とはいえ、使用する樹脂が、最下の圧送孔6aからサドル樹脂層の最上高まで充填することが難しかったため、最下層から順次上方に充填するようにしたものである。
【0023】
このため、本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3への樹脂圧送は、樹脂粘度等に合わせて第1層目から第4層目までの効率の良い高さを予め求め、この高さ位置に6個の圧送孔6b~6gを設けたものであるが、圧送孔の高さ等の配置位置や数は、使用する樹脂の粘度、タンク径、周囲温度等によって変わりうるものであることは当然であり、本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3の構造ないしはその樹脂圧送順序に限定されるものではない。
なお、充填高さ位置の目安として、各圧送孔6b~6gに対する圧送継続時間を目安としても良く、必ずしも、圧送樹脂の高さに限定されるものでもない。
【0024】
(溢出防止ダムの形成)
本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3に使用する樹脂は、上述するように、常温では低粘度であるため、そのまま圧送すると、船首側湾曲コーミング5a及び/又は船尾側湾曲コーミング5bの上から溢れて出て樹脂が外側にこぼれ落ちてしまう。そこで、コーミング5a、5bから溢れ出ないようにコーミング5a、5bの内側の湾曲溝5cの両上端面に合わせて溢出防止ダムを形成しておく必要がある。
【0025】
図4は、本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3のコーミング5の上端面に形成する溢出防止ダムの概略を示す断面図であり、
図4において、符号20は、本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3のコーミング5a、5bにより形成される湾曲溝5cの両上端面に形成する溢出防止ダムであり、21a、21bは、押さえアングル、22a、22bは、点溶接、23a、23bは、ネオスポンジ当て材、24は、樹脂注入確認用ネジ孔、25は、閉塞ボルト、26は、充填された樹脂を示し、その余の符号2は、LNG燃料タンク、4は、サドル湾曲面、5a、5bは、湾曲コーミング、5cは、湾曲溝、6は、樹脂圧送孔、9は、プレスウッドであり、その側面にはSUSプレートで覆われているなど、
図2、
図3に示す部材は同じ符号で示している。
【0026】
図4に示すネオスポンジ当て材23a、23bは、コーミング5a、5bの上端円弧面に合わせて湾曲する厚さ30mmで、前記LNG燃料タンク2の底部プレスウッド9の両側面に密着させ、かつ、当該ネオスポンジ当て材23a、23bを上から前記押さえアングル21a、21bで押さえ、さらに、押さえアングル21a、21bは、コーミング5a、5bと下部接触面を点溶接されて、ネオスポンジ当て材23a、23bが樹脂の溢出を防止して、コーミング5a、5b内に樹脂を止め置く溢出防止ダム20を形成する。なお、ネオスポンジ当て材23a、23bは、幅25~45mmを5mmピッチ間隔で配置し、プレスウッド9の側面のSUS板(図示外)との間には、シール性を確保するためにシリコンを塗布しておき、かつ、ネオスポンジ当て材23a、23bの下面には、充填される樹脂との固着を防止するためグリスを塗布しておく。
【0027】
また、押さえアングル21a、21bは、長さ250mmで、コーミング5a、5bの上端円弧面に合わせて湾曲するネオスポンジ当て材23a、23bが動かないように上から押さえる50×50×6L又は65×65×6L寸法のアングル材であり、5~10mm隙間隔で複数配置され、いずれも奥行き方向に各3箇所にて
図4に示す前記点溶接22a、22b、・・・により固定される(
図4においては、点溶接22a、22b以外は図示外)。
【0028】
また、樹脂注入確認用ネジ孔24は、樹脂圧送孔6b~6gの少し下側のコーミング5a、5bの側面に開けられた樹脂充填に際し、樹脂溢出が生じないように内部を確認するための10mmφのねじ切りドリル穴(
図2では図示外)であり、充填確認後は閉塞ボルト25で閉塞する。
【0029】
なお、圧送する樹脂は、温度により粘度が変化し、圧送条件が変わるなどして樹脂圧送がうまく行かないことが生じるため、樹脂及びサドルの温度を所定温度以上(本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3に使用する樹脂においては、13℃以上)を確保するためシートで囲みスポット空調機(ヒータ付き)にて保温する。また、押さえアングル21a、21b及びネオスポンジ当て材23a、23bは、樹脂硬化後撤去し、ネオスポンジ当て材23a、23bの撤去後のクボミ部分に洗浄後、粘土状の粘度を有する樹脂(Paste)で塞ぐ。
【0030】
本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3を使用して第4層目等の所定の高さ位置まで液状状態で樹脂圧送され充填された樹脂26は、その後、時間の経過と共に硬化し、サドル3内に所定高さの樹脂硬化層を形成することとなり、この樹脂硬化層をLNG燃料タンク2との間に介装させることにより、LNG燃料タンク2をLNG燃料タンクサドル3に密着して搭載することができることとなる。
【0031】
(LNG燃料タンクの据付)
以下、本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3に液状樹脂(以下、「(Liquid)樹脂」とも称する)を充填し、その上にLNG燃料タンクの据付について説明する。
(1)樹脂圧送設備
本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3については、上述するとおりである。すなわち、本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3に使用する樹脂は常温にて低粘度であるため、
図3、
図4に示すように、LNG燃料タンク2を搭載した状態にて溢出防止ダムを設け、サドル湾曲面4に設けたφ40mmの注入穴6a~6gより圧送ポンプ11を用いた圧送方式にて下部から順番に充填するものである。このため、LNG燃料タンク2のサドルについて、上述するように,
図3に示す形状・構造を有するものを使用し、
図3に示す最下層の第1層目から順次上方向に樹脂圧送を行うものである。
【0032】
この順次の樹脂圧送を可能とするため、本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3においては、
図4に示すように、樹脂圧送孔6b~6gの少し下側のコーミング5a、5bの側面に樹脂圧送を確認する樹脂注入確認用のφ10mmのドリル穴24を開けるほか、バルブ付きホース14a、14bを使用し、樹脂注入後,ボールバルブ6a~6gから切り離した後、ホース内の樹脂が飛び出させないようにする。
【0033】
また、前述するように、圧送ポンプ11の出ロには、バルブ付きホース14a~14gの脈動防止のため、圧送ポンプ11の出口部には鋼管13を配設するものである。
なお、押さえアングル23a、23bは、コーミング5a、5bの円弧に合わせて取りつけられ、樹脂充填後には、容易に撤去できるようにコーミング5a、5bの側部3箇所に点溶接される。 また、樹脂注入確認用穴24は、樹脂圧送孔6b~6gより下側のコーミング5a、5bの側面に配置され、樹脂充填後は、M12ボルト25にて塞ぐようにする。
【0034】
(2)樹脂流し込み準備作業
(2-1)LNG燃料タンク搭載前
a)作業に必要な足場をサドル3の側面に架設する。
b)サドル3のサドル湾曲面4の掃除を行い、油脂分が付着している場合には洗浄剤にて除去する。
c)LNG燃料タンク据付けに必要な資機材を所定の場所に積み込む。
【0035】
(2-2)LNG燃料タンク搭載
a)陸上工場にて支持金物の長さを計測し記録したうえで、支持金物をLNG燃料タンク2の側に取付けておく。
b)油圧ジャッキを所定のストロークにセットした上で、船体の架台に設置する(最終的にはLNG燃料タンク2の撓みがあるのでジャッキの調整は必要となる。)。
【0036】
c)船体サドルのセンターにケガキを入れておく。
d)サドル中央にLNG燃料タンク2を据付けるため、ケガキが一致するように調整しながら徐々に油圧ジャッキに接地させる。
e)プレスウッド9の側面プレート(SUS)のマーキング位置に、コーミング5a、5bのトップからマーキングまでの距離を計測し、各計測位置における樹脂厚さを計算し、LNG燃料タンクの撓みによって樹脂厚さが不足している場合は、油圧ジャッキにて調整を行う。
【0037】
f)樹脂厚さは20~40mm範囲内を目標とするが、最低厚さ10mmは確認する(ただし、LNG燃料タンク2の外径が7400mmφのとき)。
g)油圧ジャッキによる高さ調整が完了後、油圧バルブ(ダブル弁)を閉鎖してジャッキストロークを固定する、
h)油圧ジャッキの圧力及び各計測位置の寸法(ネオスポンジと樹脂との接触面までの幅)を記録しておく。
h)前後方向の調整は、船尾の固定サドル側を基準にして行う。
i)12時間経過後も油圧ジャッキの下がりがないことを確認する。
【0038】
(2-3)樹脂充填用の溢出防止ダムの作成
a)ネオスポンジ当て材23a、23b(厚さ30mm)を使用してコーミング5a、5bの上面にあわせて溢出防止ダム20を作成する。そして、ネオスポンジ当て材23a、23bは、幅25mmから45mmmまで(5mmピッチ)で準備しておく。
b)ネオスポンジ当て材23a、23bと樹脂の固着を防止するために、ネオスポンジ当て材23a、23bの下面にグリスを塗布する。
c)ネオスポンジ当て材23a、23bとプレスウッド9の横面(SUS板)のシール性を確保するためにプレスウッド9の横面プレートにシリコンを塗布する。
d)押さえアングル22a、22b(L=250mm)を5~10mm隙間隔で各3箇所の点溶接にてコーミング5a、5bに固定する。
e)サドル湾曲面4の底部(ウェル形状)に水分が溜まっていない事を確認する。
【0039】
(2-4)周囲環境の作成
溢出防止ダムの作成が終了したら、樹脂及びサドル3の温度を13℃以上にするために、シートにて保温区画を作成し、スポット空調機(ヒーター付き)(図示外)等を使用して、温風を保温区画に導く(場合によっては、前日等より)。
【0040】
(3)樹脂流し込み
(3-1)概要
気泡の混入を抑制するために液状(Liquid)樹脂を使用し、本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3にて充填する場合には、前述の溢出防止ダム形成と、溢出防止ダムからの漏洩を考慮して第1層目から第4層目まで分けて、樹脂流し込み行う(もちろん、載置するLNG燃料タンク2の大きさ等によっては、4層目までを必要としなかったり、それ以上の層を必要とするなど、層数を限るものではない。)。
【0041】
なお、樹脂充填後のネオスポンジ当て材23a、23bを撤去したクボミの部分には、洗浄を行った上で、圧送の際の樹脂より粘性のある樹脂(Paste:粘土状粘性粘度)を使用し、コーミング5a、5bの上面まで30度の傾斜角度で完全に樹脂を充填する。
【0042】
(3-2)樹脂(Liquid)の撹絆作業
a)必要な材料を確認し、圧送圧送ポンプ11ののスタンバイを行う。
b)サドル3及び樹脂(1iquid)が13℃以上であることを確認する。
c)安全装備の着装を確認する。(保護メガネ、ゴム手袋など)
d)指定された撹拝機とブレードを使用して硬化剤を投入後、3分以上~5分以内の間、撹搾作業を行う。
【0043】
(3-3)第1層目の圧送
a)バルブ付きホース14aをサドル中央付近付のボールバルブ10aに接続する。
b)撹拝した樹脂(Liquid)15を圧送ポンプ11の連結ホッパー12に流し込む。
c)ボールバルブ10aより樹脂注入を行い、上部の樹脂注入確認用穴24からオ一バーフローを確認したら、圧送ポンプ11のを停止する。
d)第1層目に充填した樹脂(Liquid)をサンプルピースに充填し、後日、油圧ジャッキを撤去する目安となる硬度を確認する。
e)使用後は圧送ポンプ11のやホース14aを水にて洗浄し、十分エアブローした後、乾燥させておく。
【0044】
(3-4)第2層目の圧送
a)前工程にて溢出防止ダムから樹脂漏れがないことを確認する。
b)鋼管13に二股分岐管を取付け、バルブ付きホース14b、14cをボールバルブ10b、10cに接続する。
c)撹絆した樹脂(Liquid)15をホッパー12に流し込む。
d)ボールバルブ10b、10cより樹脂注入を行い、直上位置の樹脂注入確認用穴24からオーバーフローを確認したら圧送ポンプ11のを停止する。
e)使用後は圧送ポンプ11のやバルブ付きホース14b、14cを水にて洗浄し、十分エアブローした後、乾燥させておく。
【0045】
(3-5)第3層/第4層の圧送
第1層目、第2層目と同様に樹脂圧送を行う。
(3-6)ネオスポンジ当て材23a、23bの撤去
a)第4層目の樹脂硬化を確認したら、押さえアングル21a、21b及びネオスポンジ当て材23a、23bの撤去を行う。
b)グリス及びシリコンを丁寧に洗浄する。
【0046】
(3-7)樹脂(Paste)の準備
ここに、樹脂(Paste)とは、圧送樹脂より粘度の高い状態の樹脂をいい、本実施例1に係る樹脂圧送LNG燃料タンクサドル3に使用する樹脂については、、樹脂(Liquid)=バーコル硬度(Barcol硬度)40~50、樹脂(Paste)=バーコル硬度(Barcol硬度)30~34のものをいう。
【0047】
a)サドル3及び樹脂(Paste)が13℃以上であることを確認する。
b)安全装備の着装を確認する。(保護メガネ、ゴム手袋など)
c)指定された撹絆機とブレードを使用して2液性樹脂の他方である硬化剤(TG-7B PASTE HARDENER)を投入後、3分以上~5分以内の間攪拌を行う。
【0048】
(3-8)樹脂(Paste)の塗布
a)攪拌が終了後、約30~40分の放置し、樹脂粘度が粘土程度の堅さになるまで待機する。
b)ゴム手袋を装着した状態で粘土状の粘度の樹脂を複数の缶に取り分けて撤去したネオスポンジ当て材23a、23bの跡のクボミに塗布する。なお、プレスウッド9の側面プレート(SUS)との間にドレンが溜まらないよう約30度の傾斜がつくよう仕上げる。
c)樹脂(Paste)をサンプルピースに充填する。
【0049】
(3-9)硬化の確認
サンプルピースと対比し、樹脂(Liquid):40~50、樹脂(Paste):30~34のBarcol硬度を確認する。
(4-10)支持金物及び油庄ジャッキの撤去
樹脂(Liquid)にて規定の硬度が確認されたら油圧ジャッキを緩めて、支持金物及び油圧ジャッキの撤去を行い、LNG燃料タンク2の据付を完了する。
このような工程の結果、LNG燃料タンクを搭載したLNG燃料船を建造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、樹脂圧送LNG燃料タンクサドル及び同サドルによる圧送樹脂硬化層を有するLNG燃料船に
【符号の説明】
【0051】
1 LNG燃料船のLNG燃料タンク室
2a 左舷LNG燃料タンク
2b 右舷LNG燃料タンク
3a 左舷船首LNG燃料タンクサドル
3b 右舷船首LNG燃料タンクサドル
3c 左舷船尾LNG燃料タンクサドル
3d 右舷船尾LNG燃料タンクサドル
4 サドル湾曲面
5a 船首側湾曲コーミング
5b 船尾側湾曲コーミング
5c 湾曲溝
6a~6g 樹脂圧送孔
7a、7b 油圧ジャッキ架台
8a、8b 支持金物受け部材
9 LNG燃料タンク2の底部プレスウッド
10a~10g ボールバルブ
11 圧送ポンプ
12 ホッパー
13 鋼管
14a、14b、14c バルブ付きホース
15 液状樹脂
20 溢出防止ダム
21a、21b 押さえアングル
22a、22b 点溶接
23a、23b ネオスポンジ当て材
24 樹脂注入確認用ネジ孔
25 閉塞ボルト
26 充填された樹脂