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  • 特許-熱膨張性耐火樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】熱膨張性耐火樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20220329BHJP
   B29C 48/00 20190101ALI20220329BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220329BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220329BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220329BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20220329BHJP
   E06B 5/16 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
C08L27/06
B29C48/00
C08K3/013
C08K3/04
C08L101/00
E04B1/94 U
E06B5/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020184149
(22)【出願日】2020-11-04
(62)【分割の表示】P 2019096749の分割
【原出願日】2015-08-27
(65)【公開番号】P2021042384
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2020-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2014173016
(32)【優先日】2014-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 倫男
(72)【発明者】
【氏名】矢野 秀明
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/080563(WO,A1)
【文献】特開平09-227747(JP,A)
【文献】特開2007-326908(JP,A)
【文献】特開2009-197115(JP,A)
【文献】特開2001-146466(JP,A)
【文献】特開2012-218338(JP,A)
【文献】特開2005-002268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B29C 48/00
E04B 1/94
E06B 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分100重量部と熱膨張性黒鉛3~300重量部とを含有する熱膨張性耐火樹脂組成物を押出成形した成形体であって、
前記樹脂成分がポリ塩化ビニルを含み
前記熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比が20以上である
ことを特徴とする押出成形体。
【請求項2】
前記熱膨張性耐火樹脂組成物はリン化合物を含む、請求項1に記載の押出成形体。
【請求項3】
前記熱膨張性黒鉛の平均粒径が100~1000μmの範囲にあり、かつ平均厚さが50μm以下である、請求項1または2に記載の押出成形体。
【請求項4】
前記樹脂成分100重量部に対し、無機充填剤(但し、熱膨張性黒鉛を除く。)を2~200重量部含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の押出成形体。
【請求項5】
長尺の成形体の製造方法であって、
ポリ塩化ビニルを含む樹脂成分100重量部と平均アスペクト比が20以上である熱膨張性黒鉛3~300重量部とを含有する熱膨張性耐火樹脂組成物を押出成形機で押出成形する、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連分野の相互参照)
本願は、2014年8月27日に出願した特願2014-173016号明細書の優先権の利益を主張するものであり、当該明細書はその全体が参照により本明細書中に援用される。
(技術分野)
本発明は、熱膨張性耐火樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂は成形性がよく、均一な製品を大量に製造しうるので建築材料として広く使用されているが、合成樹脂は容易に溶融又は燃焼し、ガスや煙を発生するので、火災時の安全性のために発煙性が低く耐火性の優れた材料が要求されている。特に、ドアや窓のサッシにおいては、単に材料が燃え難いだけでなく、たとえ、燃えたとしても、その形状を保持し、火炎がドアや窓の外(裏側)に回ることを防止しうる材料が要求されている。
【0003】
このような要求に対応する材料として、特許文献1には、サッシのような断面形状が複雑な異型成形体を長時間安定的に押出成形できる塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂組成物が記載されており、この塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部、熱膨張性黒鉛3~300重量部、無機充填剤3~300重量部、及び可塑剤20~200重量部からなり、リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く)を含有しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第53522017号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、熱膨張性樹脂組成物では、膨張性が高いと樹脂組成物の燃焼後の残渣硬さが著しく低下するため、これらを両立させることは困難と考えられていたが、上記の文献ではかかる課題については取り組まれていなかった。
【0006】
本発明の目的は、高膨張性と高い残渣硬さとを兼ね備えた熱膨張性耐火樹脂組成物を提供することにある。
【0007】
本発明のさらなる目的は、高膨張性および高い残渣硬さと、形状保持性とを兼ね備えた熱膨張性耐火樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討した結果、意外にも、熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比が高い場合に樹脂組成物中の黒鉛片の数量が多くなり、密になるため、結果として高い膨張性と燃焼後の高い残渣硬さとが得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
本発明は、以下の熱膨張性耐火樹脂組成物を提供するものである。
項1.樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛3~300重量部、及び無機充填材2~200重量部を含有し、熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比が20以上であることを特徴とする熱膨張性耐火樹脂組成物。
項2.熱膨張性黒鉛の平均粒径が100~1000μmの範囲にあり、かつ平均厚さが50μm以下である、項1に記載の熱膨張性耐火樹脂組成物。
項3.樹脂成分が樹脂成分がポリ塩化ビニル、塩素化塩化ビニル及び熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む、項1又は項2に記載の熱膨張性耐火樹脂組成物。
項4.リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有しないことを特徴とする項1~3のいずれか一項に記載の熱膨張性耐火樹脂組成物。
項5.項1~4のいずれか一項に記載の熱膨張性耐火樹脂組成物を備えた耐火部材。
項6.項5に記載の耐火部材を備えた建具。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱膨張性耐火樹脂組成物は、得られた成形体は高い膨張性と高い残渣硬さとを有するため、耐火性に優れている。本発明の樹脂組成物はさらには、形状保持性にも優れ得る。また、本発明の熱膨張性耐火樹脂組成物は特定の実施形態では、長時間安定的に押出成形することができ、特に、サッシのような断面形状が複雑な異型成形体を長時間安定的に押出成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明における熱膨張性黒鉛を説明する模式図。
図2】本発明の樹脂組成物を成形体をサッシ枠に設けた耐火窓を示す略正面図である。
図3】各試料の膨張倍率と残渣硬さを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、単数形(a, an, the)は、本明細書で別途明示がある場合または文脈上明らかに矛盾する場合を除き、単数と複数を含むものとする。
【0013】
本発明の熱膨張性耐火樹脂組成物は、樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛3~300重量部、及び無機充填材2~200重量部を含有し、熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比が20以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明に使用する樹脂成分としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の合成樹脂、エラストマー、ゴム、又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0015】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1-)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂類、ポリスチレン樹脂類、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂類、アクリル樹脂類、ポリアミド樹脂類、ポリ塩化ビニル樹脂類、ポリイソブチレン樹脂等が挙げられる。
【0016】
熱硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、イソシアヌレート樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0017】
エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー、及び塩化ビニル系エラストマー等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0018】
ゴムとしては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ポリクロロプレンゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリイソブ
チレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエン・アクリロニトリルゴム、ニトリルゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体等のエチレン・α-オレフィン共重合体ゴム等のゴム樹脂等が挙げられる。
【0019】
これらの合成樹脂及び/又はゴムは、一種もしくは二種以上を使用することができる。樹脂分の溶融粘度、柔軟性、粘着性等の調整のため、2種以上の樹脂分をブレンドしたものをベース樹脂として用いてもよい。
【0020】
上記樹脂成分には、耐火性能を阻害しない範囲で、架橋や変性が施されてもよい。上記樹脂分の架橋や変性を行う場合は、予め樹脂分に架橋や変性を施してもよく、後述のリン化合物や無機充填剤等の他の成分の配合時又は配合した後で架橋や変性を施してもよい。
【0021】
架橋方法については、特に限定されず、上記樹脂分について通常行われる架橋方法、例えば、各種架橋剤、過酸化物等を使用する架橋方法、電子線照射による架橋方法などが挙げられる。
【0022】
一つの実施形態では、樹脂成分がポリ塩化ビニル、塩素化塩化ビニル及び熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む。別の実施形態では、樹脂成分はEPDM、ポリブテン及びポリブタジエンからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む。
【0023】
上記塩素化塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル樹脂の塩素化物であり、塩素含有量は少なくなると耐熱性が低下し、多くなると溶融押出成形しにくくなるので60~72重量%の範囲であることが好ましい。
【0024】
上記塩化ビニル樹脂は特に限定されず、従来公知の任意の塩化ビニル樹脂であればよく、例えば、塩化ビニル単独重合体;塩化ビニルモノマーと、該塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとの共重合体;塩化ビニル以外の(共)重合体に塩化ビニルをグラフト共重合したグラフト共重合体等が挙げられ、これらは単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0025】
上記塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとしては、塩化ビニルモノマーと共重合可能であれば特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα-オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチルアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル類;N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-置換マレイミド類などが挙げられ、これらは単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0026】
上記塩化ビニルをグラフト共重合する(共)重合体としては、塩化ビニルをグラフト(共)重合するものであれば特に限定されず、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート-一酸化炭素共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリウレタン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどが挙げられ、これらは単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0027】
上記塩化ビニル樹脂の平均重合度は、特に限定されるものではないが、小さくなると成形体の機械的物性が低下し、大きくなると溶融粘度が高くなって溶融押出成形が困難にな
るので、600~1500が好ましい。
【0028】
本発明に使用するEPDMとしては、例えば、エチレン、プロピレン及び架橋用ジエンモノマーとの三元共重合体が挙げられる。
【0029】
EPDMに用いられる架橋用ジエンモノマーとしては特に限定されず、例えば、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-プロピリデン-5-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、ノルボルナジエン等の環状ジエン類、1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,7-オクタジエン等の鎖状非共役ジエン類等が挙げられる。
【0030】
EPDMは、架橋用ジエンモノマーの含有量が2.0重量%~20重量%の範囲であることが好ましく、5.0重量%~15重量%の範囲であればより好ましい。
【0031】
2.0重量%以上であれば、分子間の架橋が進むことから柔軟性に優れる、また20重量%以下の場合には耐候性に優れる。
【0032】
またポリブタジエンとしては、市販品を適宜選択して使用することができる。かかるポリブタジエンとしては、例えば、クラプレンLBR-305(クラレ社製)などのホモポリマータイプ、Poly bd(出光興産社製)などの1,2-結合型ブタジエンと1,
4-結合型ブタジエンとのコポリマータイプ、クラプレンL-SBR-820(クラレ社製)などのエチレンと1,4-結合型ブタジエンと1,2-結合型ブタジエンとのコポリマータイプ等のものが挙げられる。
【0033】
またポリブテンは、ASTM D 2503に準拠した方法で測定した重量平均分子量が300~2000であることが好ましい。重量平均分子量が300~2000であると、押出成形性が良好である。
【0034】
本発明に使用するポリブテンとしては、例えば、出光石油化学社製「100R」(重量平均分子量:940)、「300R」(重量平均分子量:1450)、日本石油化学社製「HV-100」(重量平均分子量:970)、AMOCO社製「H-100」(重量平均分子量:940)などが挙げられる。
【0035】
本発明に使用する樹脂成分は、EPDMに対してポリブテン及びポリブタジエンの少なくとも一方を添加したものが、成形性向上の面から好ましい。
【0036】
樹脂成分100重量部に対する前記ポリブテン及びポリブタジエンの少なくとも一方の添加量は、1~30重量部の範囲であることが好ましく、3~25の範囲であればより好ましい。
【0037】
熱膨張性黒鉛は、従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたもので、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
【0038】
熱膨張性黒鉛は、酸処理して得られた熱膨張性黒鉛がアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和されていてもよい。
【0039】
脂肪族低級アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。上記アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。このように熱膨張性黒鉛の具体例としては、例えば、日本化成社製「CA-60S」等が挙げられる。
【0040】
本発明に使用する熱膨張性黒鉛は、熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比が20以上であり、25以上が好ましいが、高すぎると割れが発生することがあるため、1000以下が好ましい。熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比が20以上であることにより、樹脂組成物の高い膨張性と燃焼後の高い残渣硬さに寄与する。
【0041】
平均アスペクト比は、鉛直方向の厚さに対する水平方向の平均径の割合である。本発明に使用する熱膨張性黒鉛は概ね平板状をしているため、鉛直方向が厚み方向、水平方向が径方向に一致すると見ることができるため、水平方向の最大寸法を鉛直方向の厚みで除した値をアスペクト比とする。
【0042】
そして、十分大きな数、すなわち10個以上の黒鉛片につきアスペクト比を測定し、その平均値を平均アスペクト比とする。熱膨張性黒鉛の平均粒径も、水平方向の最大寸法の平均値として求めることができる。
【0043】
熱膨張性黒鉛の水平方向における最大寸法及び薄片化黒鉛の厚みは、例えば電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて測定することができる。
【0044】
一つの実施形態では、熱膨張性黒鉛の平均粒径が1~100μmの範囲にあり、かつ平均厚さが50μm以下である。
【0045】
熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比が20以上であることにより熱膨張性耐火樹脂組成物の耐火性が向上する理由は必ずしも解明されてはいないが、図1の模式図によると、図1(A)が従来技術の熱膨張性黒鉛として、図1(B)が本発明における熱膨張性黒鉛である。図1(B)の場合、図1(A)の従来技術の熱膨張性黒鉛と比較して、同じ空間に数多く存在できる上、アスペクト比が高いと組成物の膨張効率が大きい。しかしながら、図1(C)のようにアスペクト比が小さすぎる熱膨張性黒鉛を配置した場合、同じ空間に多数存在できても、組成物が熱膨張性が小さいことが確認されている(データ非図示)ため、図1(B)で耐火性の向上に寄与することは驚くべき知見である。
【0046】
熱膨張性黒鉛の添加量は、少なくなると耐火性能及び発泡性が低下し、多くなると押出成形しにくくなり、得られた成形体の表面性が悪くなり、機械的物性が低下するので、樹脂成分100重量部に対して、3~300重量部である。
【0047】
熱膨張性黒鉛の添加量は、樹脂成分100重量部に対して、10~200重量部の範囲であれば好ましい。
【0048】
無機充填剤は、一般に塩化ビニル樹脂成形体を製造する際に使用されている無機充填剤であれば、特に限定されず、例えば、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーンナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム、タルク
、クレー、マイ力、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカバルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコニア鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられ、炭酸カルシウム及び加熱時に脱水し、吸熱効果のある水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の含水無機物が好ましい。又、酸化アンチモンは難燃性向上の効果があるので好ましい。これら無機充填剤は単独で用いられてもよいし、二種以上が併用されてもよい。
【0049】
無機充填剤の添加量は、少なくなると耐火性能が低下し、多くなると押出成形しにくくなり、得られた成形体の表面性が悪くなり、機械的物性が低下するので、樹脂成分100重量部に対して、3~200重量部である。
【0050】
無機充填剤の添加量は、樹脂成分100重量部に対して、10~150重量部の範囲であれば好ましい。
【0051】
上述の通り、本発明の熱膨張性耐火樹脂組成物は、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、及び無機充填剤を含有するが、リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有すると押出成形性が低下するので、好ましくはリン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有しない。尚、後述する可塑剤である燐酸エステル可塑剤は含有してもよい。
【0052】
押出成形性を阻害するリン化合物は次の通りである。
【0053】
赤リン、
トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル、
リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩、
ポリリン酸アンモニウム類、
下記化学式(1)で表される化合物等が挙げられる。
【0054】
【化1】
【0055】
式中、R1及びR3は、水素、炭素数1~16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数6~16のアリール基を表し、
2は、水酸基、炭素数1~16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数1~1
6の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6~16のアリール基、又は、炭素数6~16のアリールオキシ基を表す。
【0056】
前記化学式(1)で表される化合物としては、例えば、メチルホスホン酸、メチルホス
ホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2-メチルプロピルホスホン酸、t-ブチルホスホン酸、2,3-ジメチル-ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4-メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。
【0057】
ポリリン酸アンモニウム類としては、特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0058】
本発明においては、これらの押出成形性を阻害するリン化合物を使用するものではない。
【0059】
本発明の樹脂組成物は、可塑剤をさらに含んでもよい。一実施形態において、樹脂成分が塩化ビニル樹脂の場合、本発明の樹脂組成物は可塑剤を含む。
【0060】
可塑剤は、一般に塩化ビニル樹脂成形体を製造する際に使用されている可塑剤であれば、特に限定されず、例えば、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル可塑剤;ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)等の脂肪酸エステル可塑剤;エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル可塑剤;アジピン酸エステル、アジピン酸ポリエステル等のポリエステル可塑剤;トリ-2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリイソノニルトリメリテート(TINTM)等のトリメリット酸エステル可塑剤;トリメチルホスフェート(TMP)、トリエチルホスフェート(TEP)等の燐酸エステル可塑剤などが挙げられ、これらは単独で用いられてもよいし、二種以上が併用されてもよい。
【0061】
可塑剤の添加量は、少なくなると押出成形性が低下し、多くなると得られた成形体が柔らかくなり過ぎるので、樹脂成分100重量部に対して、20~200重量部である。
【0062】
本発明の熱膨張性耐火樹脂組成物には、その物性を損なわない範囲で、必要に応じて、塩化ビニル樹脂組成物の熱成形の際に一般に使用されている、リン化合物以外の熱安定剤、滑剤、加工助剤、熱分解型発泡剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料等が添加されてもよい。
【0063】
熱安定剤としては、例えば、三塩基性硫酸鉛、三塩基性亜硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、ステアリン酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛等の鉛熱安定剤;有機錫メルカプト、有機錫マレート、有機錫ラウレート、ジブチル錫マレート等の有機錫熱安定剤;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の金属石鹸熱安定剤等が挙げられ、これらは単独で用いられもよいし、二種以上が併用されてもよい。
【0064】
滑剤としては、例えば、ポリエチレン、パラフィン、モンタン酸等のワックス類;各種エステルワックス類;ステアリン酸、リシノール酸等の有機酸類;ステアリルアルコール等の有機アルコール類;ジメチルビスアミド等のアミド化合物等が挙げられ、これらは単独で用いられもよいし、二種以上が併用されてもよい。
【0065】
加工助剤としては、例えば、塩素化ポリエチレン、メチルメタクリレート-エチルアクリレート共重合体、高分子量のポリメチルメタクリレート等が挙げられる。
【0066】
熱分解型発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、p,p-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等が挙げられる。
【0067】
本発明の熱膨張性耐火樹脂組成物は、常法に従って、一軸押出機、二軸押出機等の押出機で130~170℃で溶融押出することにより長尺の成形体を得ることができる。本発明の熱膨張性耐火樹脂組成物は、窓、障子、扉(すなわちドア)、戸、ふすま、及び欄間等の建具;船舶;並びにエレベータ等の構造体に耐火性を付与するために使用されるが、特に、本発明の熱膨張性耐火樹脂組成物は成形性が優れているので、長尺で断面形状が複雑な形状に適合させた異型成形体を容易に得ることができる。
【0068】
従って、本発明には、上記の本発明の樹脂組成物を備えた、成形体を初めとする耐火部材、ならびにかかる耐火部材を備えた建具も包含される。例えば、図2は、本発明の樹脂組成物から形成された成形体4を付与した、建具としての窓1のサッシ枠を示す略図である。この例では、サッシ枠は2つの内枠2と、内枠2を包囲する1つの外枠3とを有し、内枠2および外枠3の枠本体の各辺に沿って、内枠2および外枠3の内部に成形体4が取り付けられている。このようにして、成形体4を設けることにより、窓1に耐火性を付与することができる。
【0069】
一実施形態において、本発明の熱膨張性耐火樹脂組成物は、600℃で30分間加熱した後の膨張倍率が10を超え、かつ残渣硬さが0.25kgf/cm2を超える。熱膨張
性黒鉛の平均アスペクト比が20以上であり、かかる膨張倍率及び残渣硬さを有することにより、熱膨張性耐火樹脂組成物は優れた形状保持性を有する。
【実施例
【0070】
以下に図面を参照しつつ実施例により本発明を詳細に説明する。なお本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0071】
実施例1~2、比較例1
アスペクト比
熱膨張性黒鉛として、ADT社製「ADT501」を実施例1、日本黒鉛工業社製「EXP50T」を実施例2、東ソ一社製「GREP-EG」(膨張開始温度220℃)を比較例1とし、各熱膨張性黒鉛のアスペクト比と、各熱膨張性黒鉛を表1に示した組成で配合した。
【0072】
膨張倍率と残渣硬さの測定
(成形性)
実施例1,2及び比較例1のいずれとも、表面が美麗な長尺異型成形体を2時間押出成形でき、2時間押出成形した後のスクリュー及び金型への配合物の付着もなく、成形性は良好であった。
(膨張倍率)
得られた成形体から作製した試験片(長さ100mm、幅100mm、厚さ2.0mm)を電気炉に供給し、600℃で30分間加熱した後、試験片の厚さを測定し、(加熱後の試験片の厚さ)/(加熱前の試験片の厚さ)を膨張倍率として算出した。
(残渣硬さ)
膨張倍率を測定した加熱後の試験片を圧縮試験機(カトーテック社製、「フィンガーフイリングテスター」)に供給し、0.25cm2の圧子で0.1cm/秒の速度で圧縮し
、破断点応力を測定した。
(残渣の形状保持性)
上記残渣硬さは膨張後の残渣の硬さの指標になるが、測定が残渣の表面部分に限られるため、残渣全体の硬さの指標にならないことがあるので、残渣全体の硬さの指標として形状保持性を測定した。残渣の形状保持性は、膨張倍率を測定した試験片の両端部を手で持って持ち上げて、その際の残渣の崩れやすさを目視して測定した、試験片が崩れることなく持ち上げられた場合をPASSと評価し、試験片が崩壊して持ち上げられない場合をFAILと評価した。
【0073】
得られた成形体の膨張倍率、残渣硬さ、及び残渣の形状保持性の測定結果は、表1及び図3に示す通りである。実施例1,2では、比較的高い膨張倍率と高い残渣硬さが維持されていたが、比較例1では残渣硬さが低下しており、残渣の形状保持性にも劣っていた。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例3~22
表2に示した配合の成分を含有する配合物を、実施例1~2および比較例1に関して上記に記載したのと同様に一軸押出機に供給し、150℃で断面形状がE字状の長尺異型成形体を1m/hrの速度で2時間押出成形した。
【0076】
熱膨張性黒鉛として、ADT社製「ADT351」のアスペクト比は21.3である。
【0077】
樹脂成分として、実施例3~6ではCPVC、実施例7~10ではポリ塩化ビニル樹脂(重合度1000、「PVC」と言う)、実施例11~15ではエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(三井・デュポンポリケミカル製エバフレックスEV360、「EVA」と言う)、実施例16~20ではエチレン-プロピレン-ジエンゴム(三井化学社製三井EPT30
92M、「EPDM」と言う)、実施例21,22ではビスフェノールF型エポキシモノ
マー(油化シェル社製「E807」)、ジアミン系硬化剤(油化シェル社製「EKFL052」)を3:2の配合量で、他配合原料と供に混練、加熱硬化することにより得られるエポキシ樹脂を用いた。
【0078】
ポリリン酸アンモニウムはクラリアント社製「AP422」、軟化剤は出光興産株式会社製「ダイアナプロセスオイルPW-90」とした。
(成形性)
実施例3~22のいずれとも、表面が美麗な長尺異型成形体を2時間押出成形でき、2
時間押出成形した後のスクリュー及び金型への配合物の付着もなく、成形性は良好であった。
(膨張倍率)
得られた成形体から作製した試験片(長さ100mm、幅100mm、厚さ2.0mm)を電気炉に供給し、600℃で30分間加熱した後、試験片の厚さを測定し、(加熱後の試験片の厚さ)/(加熱前の試験片の厚さ)を膨張倍率として算出した。
(残渣硬さ)
膨張倍率を測定した加熱後の試験片を圧縮試験機(カトーテック社製、「フィンガーフイリングテスター」)に供給し、0.25cm2の圧子で0.1cm/秒の速度で圧縮し
、破断点応力を測定した。
【0079】
実施例3~22の成形体のいずれも、実施例1,2と同様、比較的高い膨張倍率と高い残渣硬さが維持されていた(データ非図示)。
(残渣の形状保持性)
上記残渣硬さは膨張後の残渣の硬さの指標になるが、測定が残渣の表面部分に限られるため、残渣全体の硬さの指標にならないことがあるので、残渣全体の硬さの指標として形状保持性を測定した。残渣の形状保持性は、膨張倍率を測定した試験片の両端部を手で持って持ち上げて、その際の残渣の崩れやすさを目視して測定した、試験片が崩れることなく持ち上げられた場合をPASSと評価し、試験片が崩壊して持ち上げられない場合をFAILと評価した。
【0080】
【表2】
図1
図2
図3