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特許7048713フッ素ゴム組成物及びそれを用いて形成されたゴム成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】フッ素ゴム組成物及びそれを用いて形成されたゴム成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20220329BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20220329BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20220329BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220329BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20220329BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20220329BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K5/06
C08L71/00 A
C08K3/013
C08K5/14
C09K3/10 M
H01L21/302 101G
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020210155
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2021-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 裕明
(72)【発明者】
【氏名】浜村 武広
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-036884(JP,A)
【文献】国際公開第2006/068099(WO,A1)
【文献】特開2006-342241(JP,A)
【文献】特開2019-172897(JP,A)
【文献】特開2020-070326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/12
C08K 5/06
C08L 71/00
C08K 3/013
C08K 5/14
C09K 3/10
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素含有フッ素ゴムを主成分として含むベースゴムのA成分と、パーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物のB成分と、かさ密度が0.4g/cm以下の粉体フィラーのC成分とを含有し、且つ前記B成分の一部又は全部が分子内にアルケニル基を含むフッ素ゴム組成物であって、
前記B成分の密度をd及び前記B成分の前記A成分100質量部に対する含有量をp、並びに前記C成分のかさ密度をd及び前記C成分の前記A成分100質量部に対する含有量をpとするとき、(p/d)/(p/d)≧4であるフッ素ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載されたフッ素ゴム組成物において、
前記B成分における分子内にアルケニル基を含むものの割合が20質量%以上であるフッ素ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたフッ素ゴム組成物において、
架橋剤を更に含有するフッ素ゴム組成物。
【請求項4】
請求項3に記載されたフッ素ゴム組成物において、
前記架橋剤が有機過酸化物であるフッ素ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載されたフッ素ゴム組成物において、
架橋助剤を更に含有するフッ素ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載されたフッ素ゴム組成物が架橋して形成されたゴム成形品。
【請求項7】
請求項6に記載されたゴム成形品において、
成形品表面の方が成形品内部よりもCF結合濃度が高いゴム成形品。
【請求項8】
請求項6又は7に記載されたゴム成形品において、
前記ゴム成形品がシール材であるゴム成形品。
【請求項9】
請求項8に記載されたゴム成形品において、
前記シール材が半導体製造装置用であるゴム成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ゴム組成物及びそれを用いて形成されたゴム成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置用のシール材として、フッ素ゴム組成物で形成されたものが広く用いられている。特許文献1には、その耐プラズマ性を高めることを目的として、シール材を形成するフッ素ゴム組成物に、パーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物を含有させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4675907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、シール材を形成するフッ素ゴム組成物にパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物を含有させた場合、それがシール材からブリードアウトするという問題がある。
【0005】
本発明の課題は、ゴム成形品に優れた耐プラズマ性を保持させるとともに、ゴム成形品からパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物がブリードアウトするのを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水素含有フッ素ゴムを主成分として含むベースゴムのA成分と、パーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物のB成分と、かさ密度が0.4g/cm以下の粉体フィラーのC成分とを含有し、且つ前記B成分の一部又は全部が分子内にアルケニル基を含むフッ素ゴム組成物であって、前記B成分の密度をd及び前記B成分の前記A成分100質量部に対する含有量をp、並びに前記C成分のかさ密度をd及び前記C成分の前記A成分100質量部に対する含有量をpとするとき、(p/d)/(p/d)≧4である。
【0007】
本発明は、本発明のフッ素ゴム組成物が架橋して形成されたゴム成形品である。
【0008】
本発明は、水素含有フッ素ゴムを主成分として含むベースゴムのA成分と、パーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物のB成分と、かさ密度が0.4g/cm以下の粉体フィラーのC成分とを含有し、且つ前記B成分の一部又は全部が分子内にアルケニル基を含むフッ素ゴム組成物が架橋して形成されたゴム成形品であって、成形品表面の方が成形品内部よりもCF結合濃度が高い。
【0009】
本発明は、水素含有フッ素ゴムを主成分として含むベースゴムのA成分と、パーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物のB成分と、かさ密度が0.4g/cm以下の粉体フィラーのC成分とを含有し、且つ前記B成分の一部又は全部が分子内にアルケニル基を含むフッ素ゴム組成物が架橋して形成されたゴム成形品であって、X線光電子分光法により、X線を照射したときに計測されるC1sピークにおけるCH結合に由来する282~288eVのピーク面積をACH及びCF結合に由来する288~296eVのピーク面積をACFとするとき、(成形品表面にX線を照射したときのACF/ACH)/(成形品断面にX線を照射したときのACF/ACH)≧2である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ゴム成形品に優れた耐プラズマ性を保持させるとともに、ゴム成形品からパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物がブリードアウトするのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0012】
実施形態に係るフッ素ゴム組成物は、A成分と、B成分と、C成分とを含有する。
【0013】
A成分は、ベースゴムである。このベースゴムのA成分は、水素含有フッ素ゴムを主成分として含む。ここで、本出願における「水素含有フッ素ゴム」とは、高分子の主鎖に水素が結合した炭素が含まれたフッ素ゴムである。A成分における水素含有フッ素ゴムの含有量は、50質量%よりも多く、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。なお、A成分は、水素含有フッ素ゴム以外のフッ素ゴム等を含んでいてもよい。
【0014】
水素含有フッ素ゴムとしては、例えば、ビニリデンフルオライド(VDF)の重合体(PVDF)、ビニリデンフルオライド(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体、テトラフルオロエチレン(TFE)とプロピレン(Pr)との共重合体(FEP)、ビニリデンフルオライド(VDF)とプロピレン(Pr)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体、エチレン(E)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体(ETFE)、エチレン(E)とテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)とテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体等が挙げられる。A成分は、水素含有フッ素ゴムとして、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、ビニリデンフルオライド(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体やビニリデンフルオライド(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体等のビニリデンフルオライドを主成分とするフッ化ビニリデン系フッ素ゴム(FKM)を含むことがより好ましい。
【0015】
B成分は、パーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物である。B成分のパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物は、A成分に均一に混合された液体材料である。B成分は、その一部又は全部が分子内にアルケニル基を含む。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等が挙げられる。アルケニル基は、これらのうちのビニル基が好ましい。分子内のアルケニル基の数は、複数であることが好ましい。その場合、分子内の複数のアルケニル基は、同一であっても、異なっていても、どちらでもよい。
【0016】
B成分は、分子内にアルケニル基を含むものと、分子内にアルケニル基を含まないものとの両方を含んでいてもよい。B成分における分子内にアルケニル基を含むものの割合は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。
【0017】
B成分の密度dは、後述するように実施形態に係るフッ素ゴム組成物を用いて形成されるゴム成形品に優れた耐プラズマ性を保持させるとともに、ゴム成形品からB成分がブリードアウトするのを抑制する観点から、好ましくは1.5g/cm以上、より好ましくは1.8g/cm以上であり、同様の観点から、好ましくは2.5g/cm以下、より好ましくは2.0g/cm以下である。B成分が複数種の化合物を含む場合、B成分の密度dは、それぞれの密度と含有分率との積の総和である。分子内にアルケニル基を含むB成分の密度dは、JIS Z8837:2018に規定されるガスピクノメータ法により測定されるものである。分子内にアルケニル基を含まないB成分の密度dは、JIS K0061:2001に規定される振動式密度計法により温度20℃で測定されるものである。
【0018】
B成分のA成分100質量部に対する含有量pは、ゴム成形品の高い耐プラズマ性を得る観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上であり、ゴム成形品に優れた耐プラズマ性を保持させるとともに、ゴム成形品からB成分がブリードアウトするのを抑制する観点から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。B成分が複数種の化合物を含む場合、B成分の含有量pは、それぞれの含有量の総和である。
【0019】
B成分における分子内にアルケニル基を含むパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物の市販材料としては、例えば、信越化学工業社製のSIFELが挙げられ、特にSIFEL3000シリーズが好ましい。分子内にアルケニル基を含むパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物は、一液型材料であることが好ましい。
【0020】
B成分における分子内にアルケニル基を含まないパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物の市販材料としては、例えば、SOLVAY社製のフォンブリンY潤滑剤やケマーズ社のクライトックスのGPLオイル等が挙げられる。
【0021】
C成分は、A成分に分散したかさ密度dが0.4g/cm以下の粉体フィラーである。C成分の粉体フィラーとしては、例えば、シリカ、樹脂粉体、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素等が挙げられる。C成分は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、シリカ及び/又は樹脂粉体を含むことがより好ましい。シリカは、乾式シリカであっても、湿式シリカであっても、どちらでもよい。シリカは、表面未処理の親水性シリカであっても、ジメチルジクロロシラン等で表面修飾処理された疎水性シリカであっても、どちらでもよい。樹脂粉体としては、例えば、フェノール樹脂粉体、フッ素樹脂粉体、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂粉体等が挙げられる。
【0022】
C成分の粉体フィラーのかさ密度dは、ゴム成形品に優れた耐プラズマ性を保持させるとともに、ゴム成形品からB成分がブリードアウトするのを抑制する観点から、好ましくは0.01g/cm以上、より好ましくは0.03g/cm以上であり、同様の観点から、好ましくは0.35g/cm以下、より好ましくは0.20g/cm以下である。C成分が複数種の粉体フィラーを含む場合、C成分のかさ密度dは、それぞれのかさ密度と含有分率との積の総和である。C成分のかさ密度dは、JIS R1628-1997に規定されるタップかさ密度の測定方法に準じて測定されるものである。
【0023】
C成分のA成分100質量部に対する含有量pは、ゴム成形品に優れた耐プラズマ性を保持させるとともに、ゴム成形品からB成分がブリードアウトするのを抑制する観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上であり、ゴム成形品から粉体フィラーが析出するのを抑制する観点から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。C成分が複数種の粉体フィラーを含む場合、C成分の含有量pは、それぞれの含有量の総和である。
【0024】
C成分の含有量pは、ゴム成形品から粉体フィラーが析出するのを抑制する観点から、B成分の含有量pよりも多いことが好ましい。C成分の含有量pのB成分の含有量pに対する比(p/p)は、同様の観点から、好ましくは0.1以上30以下、より好ましくは1.0以上20以下である。
【0025】
C成分の市販材料としては、シリカでは、例えばエボニック社製のアエロジルシリーズやカープレックスシリーズ等が挙げられる。フェノール樹脂粉体では、例えばエア・ウォーター・ベルパール社製のベルパールシリーズ等が挙げられる。フッ素樹脂粉体では、例えばアルケマ社製のカイナーシリーズ等が挙げられる。ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂粉体では、例えばダイセル・エボニック社製のVESTAKEEPシリーズ等が挙げられる。
【0026】
実施形態に係るフッ素ゴム組成物では、(p/d)/(p/d)≧4である。これは、C成分の体積がB成分の体積の4倍以上あることを意味する。ゴム成形品に優れた耐プラズマ性を保持させるとともに、ゴム成形品からB成分がブリードアウトするのを抑制する観点からは、好ましくは(p/d)/(p/d)≧10、より好ましくは(p/d)/(p/d)≧50である。
【0027】
実施形態に係るフッ素ゴム組成物は、架橋剤を更に含有してもよい。架橋剤としては、例えば、有機過酸化物、ポリオール、ポリアミン、トリアジン等が挙げられる。架橋剤は、これらのうちの有機過酸化物が好ましい。
【0028】
有機過酸化物としては、例えば、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゼン、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエイト等が挙げられる。架橋剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンを含むことがより好ましい。
【0029】
架橋剤のA成分100質量部に対する含有量は、好ましくは0.5質量部以上2.5質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上2.0質量部以下である。
【0030】
実施形態に係るフッ素ゴム組成物は、架橋助剤を更に含有してもよい。架橋助剤としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5-トリス(2,3,3-トリフルオロ-2-プロペニル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン)、トリス(ジアリルアミン)-S-トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N-ジアリルアクリルアミド、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルフタルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6-トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5-ノルボルネン-2-メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイト等が挙げられる。架橋助剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、トリアリルイソシアヌレートを含むことがより好ましい。
【0031】
架橋助剤のA成分100質量部に対する含有量は、好ましくは1質量部以上10質量部以下、より好ましくは2質量部以上5質量部以下である。
【0032】
以上の構成の実施形態に係るフッ素ゴム組成物が架橋すると架橋ゴムとなってゴム成形品が形成される。実施形態に係るフッ素ゴム組成物の架橋は、加熱による架橋剤の作用や放射線の照射の作用により、A成分の分子間の橋掛構造を形成する。また、分子内にアルケニル基を含むB成分や架橋助剤がA成分と反応してA成分の分子間に介在することにより橋掛構造を形成する。
【0033】
実施形態に係るフッ素ゴム組成物が架橋して形成されるゴム成形品では、B成分のパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物が用いられているので、優れた耐プラズマ性を保持させることができ、具体的にはプラズマが照射されても質量減少を少なくすることができる。それとともに、B成分がブリードアウトするのを抑制することができる。これは、C成分の粉体フィラーが用いられており、且つそのC成分の体積がB成分の体積よりも非常に大きいので、B成分がC成分に担持されてA成分内に保持されるためであると推測される。しかも、C成分の粉体フィラーのかさ密度が0.4g/cm以下と小さいことにより、プラズマが照射されても、C成分の粉体フィラーのパーティクルが析出するのを抑制することができる。
【0034】
また、実施形態に係るフッ素ゴム組成物が架橋して形成されるゴム成形品では、その成形加工時において、フッ素ゴム組成物がC成分の粉体フィラーを含有するので、その粘度が高められており、そのためB成分のパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物の流動が容易となり、その結果、B成分が表層に偏析することとなって、成形品表面の方が成形品内部よりもCF結合濃度が高くなる。これにより、成形品表面では、プラズマによる攻撃を受けて劣化の起点となるCH結合が少なくなり、それによって耐プラズマ性を高めることができる。定量的には、X線光電子分光法により、X線を照射したときに計測されるC1sピークにおけるCH結合に由来する282~288eVのピーク面積をACH及びCF結合に由来する288~296eVのピーク面積をACFとするとき、(成形品表面にX線を照射したときのACF/ACH)/(成形品断面にX線を照射したときのACF/ACH)≧2であることが好ましい。この比は、ゴム成形品に優れた耐プラズマ性を保持させるとともに、ゴム成形品からB成分がブリードアウトするのを抑制する観点から、好ましくは2.5以上である。
【0035】
実施形態に係るフッ素ゴム組成物が架橋して形成されるゴム成形品は、特に限定されるものではないが、シール材が好ましく、半導体製造装置用のシール材がより好ましい。
【0036】
実施形態に係るフッ素ゴム組成物が架橋した架橋ゴムについて、JIS K6253-3:2012に基づいて、タイプAデュロメータで測定される硬さは、好ましくは50A以上、より好ましくは55A以上であり、好ましくは95A以下、より好ましくは90A以下である。
【0037】
実施形態に係るフッ素ゴム組成物が架橋した架橋ゴムについて、JIS K6251:2017に基づいて、厚さ2mmのダンベル状3号形試験片を用いて標準試験温度で測定される切断時引張強さは、好ましくは5.0MPa以上、より好ましくは10.0MPa以上である。切断時伸びは、好ましくは50%以上、より好ましくは100%以上である。100%伸び時の引張応力は、好ましくは1.0MPa以上、より好ましくは1.5MPa以上である。
【0038】
実施形態に係るフッ素ゴム組成物が架橋した架橋ゴムについて、JIS K6262:2013に基づいて、試験時間72時間及び試験温度(200±2)℃で測定される圧縮永久ひずみは、好ましくは80%以下、より好ましくは50%以下である。
【実施例
【0039】
(シール材)
以下の実施例1乃至13及び比較例1乃至7のシール材を作製した。それぞれの構成は表1及び2にも示す。なお、パーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物の密度は、分子内にアルケニル基を含む場合には、JIS Z8837:2018に規定されるガスピクノメータ法により測定し、分子内にアルケニル基を含まない場合には、JIS K0061:2001に規定される振動式密度計法により温度20℃で測定した。粉体フィラーのかさ密度は、JIS R1628-1997に規定されるタップかさ密度の測定方法に準じて測定した。
【0040】
<実施例1>
ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体からなる水素含有フッ素ゴム(ダイエルG912 ダイキン工業社製)をA成分とし、このA成分100質量部に対して、B成分の一液型の液状材料である分子内にビニル基を含むパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物1(SIFEL3000シリーズ X-71-359 信越化学工業社製、密度d:1.85g/cm)1質量部(p)、C成分の粉体フィラーである表面未処理の親水性の乾式シリカ1(アエロジル200 エボニック社製、かさ密度d:0.05g/cm)10質量部(p)、架橋剤の有機過酸化物である2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(パーヘキサ25B 日本油脂社製)1.5質量部、及び架橋助剤のトリアリルイソシアヌレート(タイク 日本化成社製)4質量部を配合してオープンロールで混練することによりフッ素ゴム組成物を調製した。そして、このフッ素ゴム組成物を用いて架橋させることによりシール材(AS-214 Oリング)を作製した。フッ素ゴム組成物の架橋は、160℃で10分間のプレス成形により一次架橋と、200℃に温度設定したギアオーブン中に4時間保持する二次架橋とにより行った。得られたシール材を実施例1とした。
【0041】
<実施例2>
C成分の粉体フィラーとして、ジメチルジクロロシランで表面処理された疎水性の乾式シリカ2(アエロジルR972 エボニック社製、かさ密度d:0.05g/cm)を、A成分100質量部に対して0.2質量部(p)を配合してフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を実施例2とした。
【0042】
<実施例3>
C成分の粉体フィラーとして、実施例2で用いた乾式シリカ2を配合してフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を実施例3とした。
【0043】
<実施例4>
C成分の粉体フィラーとして、湿式シリカ(カープレックス#80 エボニック社製、かさ密度d:0.15g/cm)を配合してフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を実施例4とした。
【0044】
<実施例5>
B成分として、液体材料である分子内にアルケニル基を含まないパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物1(フォンブリンY潤滑剤 SOLVAY社製、密度:1.91g/cm)を、A成分100質量部に対して1質量部を更に配合してフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例3と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を実施例5とした。なお、B成分の密度dは1.88g/cmである。
【0045】
<実施例6>
B成分の一液型の液状材料である分子内にビニル基を含むパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物1を、A成分100質量部に対して5質量部配合してフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例3と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を実施例6とした。
【0046】
<実施例7>
B成分として、分子内にアルケニル基を含まないパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物2(クライトックス GPLオイル107 ケマーズ社製、密度:1.90g/cm)を、A成分100質量部に対して1質量部を更に配合してフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例3と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を実施例7とした。なお、B成分の密度dは1.88g/cmである。
【0047】
<実施例8>
B成分の液体材料である分子内にアルケニル基を含まないパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物1を、A成分100質量部に対して5質量部配合してフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例5と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を実施例8とした。なお、B成分の密度dは1.90g/cmである。
【0048】
<実施例9>
B成分の一液型の液状材料である分子内にビニル基を含むパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物2(d:1.90g/cm)と、C成分のシリカ(d:0.05g/cm)とが、B成分:C成分=89:11の質量比で混合された混合材料(SIFEL3000シリーズ X-71-369-N 信越化学工業社製)を、A成分100質量部に対して1質量部配合してフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を実施例9とした。
【0049】
<実施例10>
C成分の粉体フィラーとして、フェノール樹脂粉体1(ベルパールR100 エア・ウォーター・ベルパール社製、かさ密度d:0.35g/cm)を配合してフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を実施例10とした。
【0050】
<実施例11>
C成分の粉体フィラーとして、フェノール樹脂粉体2(ベルパールR200 エア・ウォーター・ベルパール社製、かさ密度d:0.38g/cm)を配合してフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を実施例11とした。
【0051】
<実施例12>
C成分の粉体フィラーとして、フッ素樹脂(PVDF)粉体(カイナーMG15 アルケマ社製、かさ密度d:0.32g/cm)を配合してフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を実施例12とした。
【0052】
<実施例13>
C成分の粉体フィラーとして、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂粉体(VESTAKEEP 2000UFP10 ダイセル・エボニック社製、かさ密度d:0.25g/cm)を配合してフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を実施例13とした。
【0053】
<比較例1>
B成分及びC成分を配合しないフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を比較例1とした。
【0054】
<比較例2>
C成分を配合しないフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を比較例2とした。
【0055】
<比較例3>
B成分のうちの一液型の液状材料である分子内にビニル基を含むパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物1を配合しないフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例5と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を比較例3とした。
【0056】
<比較例4>
C成分の代わりに、粉体フィラーとして、フェノール樹脂粉体3(ベルパールR800 エア・ウォーター・ベルパール社製、かさ密度d:0.60g/cm)を配合してフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を比較例4とした。
【0057】
<比較例5>
C成分の代わりに、粉体フィラーとして、フッ素樹脂(PTFE)粉体(ルブロンL-5 ダイキン工業社製、かさ密度d:0.61g/cm)を配合してフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を比較例5とした。
【0058】
<比較例6>
C成分の代わりに、粉体フィラーとして、MTカーボンブラック(Thermax N990 Cancarb社製、かさ密度d:0.66g/cm)を配合してフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例1と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を比較例6とした。
【0059】
<比較例7>
B成分として、実施例5で用いた液体材料である分子内にアルケニル基を含まないパーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物1を、A成分100質量部に対して1質量部を更に配合してフッ素ゴム組成物を調製したことを除いて、実施例2と同様にしてシール材を作製した。得られたシール材を比較例7とした。なお、B成分の密度dは1.88g/cmである。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
(試験方法)
<耐プラズマ性>
実施例1乃至13及び比較例1乃至7のそれぞれについて、小型プラズマエッチング装置(神港精機社製)に入れ、30分間、Oプラズマを照射して暴露し、その前後の質量減少率を求めた。この質量減少率が0.7%未満の場合を評価A、及び0.7%以上の場合を評価Bとした。また、Oプラズマ暴露後のシール材の表面について、目視によりパーティクルの析出の有無を確認した。なお、Oプラズマの照射では、1500Wの高周波電源を用いた。反応ガスには、O及びCFを用い、それらの流量比を50:1とした。圧力は100Paとした。
【0063】
<B成分のブリードアウトの有無>
実施例1乃至13及び比較例2乃至7のそれぞれについて、黒色のアクリル板に押し付け、B成分によるシール材の転写痕の認められない場合を評価A、及びB成分によるシール材の転写痕が認められた場合を評価Bとした。
【0064】
<XPS測定>
実施例1乃至13及び比較例1乃至7のそれぞれについて、シール材表面及びシール材断面のそれぞれについて、X線光電子分光法により、X線を照射したときに計測されるC1sピークにおけるCH結合に由来する282~288eVのピーク面積をACH及びCF結合に由来する288~296eVのピーク面積をACFとして測定した。そして、(シール材表面にX線を照射したときのACF/ACH)/(シール材断面にX線を照射したときのACF/ACH)を算出した。この比が2以上の場合を評価A、及び2未満の場合を評価Bとした。
【0065】
なお、X線光電子分光法では、帯電によりデータのシフトが起こるので、NIST X-ray Photoelectron Spectroscopy Database(https://srdata.nist.gov/xps/Default.aspx)に記録されているふっ素ゴム(バイトンA デュポンエラストマー社製)のXPSデータに基づき、F1sのピークを688.80を合わせた上で、C1sピークにおけるCH結合に由来する282~288eVのピーク面積ACH及びCF結合に由来する288~296eVのピーク面積ACFを求めた。
【0066】
<硬さ>
実施例1乃至13及び比較例1乃至7のそれぞれを形成する架橋ゴムについて、JIS K6253-3:2012に基づいて、タイプAデュロメータで硬さを測定した。
【0067】
<引張特性>
実施例1乃至13及び比較例1乃至7のそれぞれを形成する架橋ゴムについて、JIS K6251:2017に基づいて、厚さ2mmのダンベル状3号形試験片を用いて標準試験温度で引張試験を実施し、切断時引張強さ、切断時伸び、及び100%伸び時の引張応力を測定した。
【0068】
<圧縮永久ひずみ>
実施例1乃至13及び比較例1乃至7のそれぞれを半分に切断した試験片について、JIS K6262:2013に基づいて、試験時間72時間及び試験温度(200±2)℃として圧縮永久ひずみを測定した。
【0069】
(試験結果)
試験結果を表1及び2に示す。表1及び2によれば、実施例1乃至13では、質量減少率が少ないという優れた耐プラズマ性及びB成分のブリードアウトの抑制が両立されているのに対し、比較例1乃至7では、それらのうちの一方が劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、フッ素ゴム組成物及びそれを用いて形成されたゴム成形品の技術分野について有用である。
【要約】
【課題】ゴム成形品に優れた耐プラズマ性を保持させるとともに、パーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物がブリードアウトするのを抑制する。
【解決手段】フッ素ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムを主成分として含むベースゴムのA成分と、パーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物のB成分と、かさ密度が0.4g/cm以下の粉体フィラーのC成分とを含有する。B成分の一部又は全部が分子内にアルケニル基を含む。B成分の密度をd及びB成分のA成分100質量部に対する含有量をp、並びにC成分のかさ密度をd及びC成分のA成分100質量部に対する含有量をpとするとき、(p/d)/(p/d)≧4である。
【選択図】なし