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  • 特許-一本鎖RNAウイルスを検出する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】一本鎖RNAウイルスを検出する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6844 20180101AFI20220329BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20220329BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20220329BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z ZNA
C12Q1/6888 Z
C12Q1/70
C12N15/09 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021510480
(86)(22)【出願日】2021-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2021006907
(87)【国際公開番号】W WO2021172370
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2020031780
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 満智子
(72)【発明者】
【氏名】横野 航太
(72)【発明者】
【氏名】仙波 晶平
(72)【発明者】
【氏名】道行 悟
【審査官】田村 直寛
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106222298(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103074445(CN,A)
【文献】CHEN, Lei et al.,A Novel RT-LAMP Assay for Rapid and Simple Detection of Classical Swine Fever Virus.,Virologica Sinica,2010年,Vol. 25, No. 1,pp. 59-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6844
C12Q 1/6888
C12Q 1/70
C12N 15/09
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の一本鎖RNAウイルスを検出する方法であって、
プライマーセットを試料に接触させて、逆転写ループ媒介等温増幅反応を行う工程を含み、
プライマーセットは、一本鎖RNAウイルスの標的RNAの塩基配列と、該標的RNAに相補的な核酸の塩基配列と、に基づいて設計され、
一本鎖RNAウイルスがプラス鎖型一本鎖RNAウイルスの場合、標的RNAは、5’末端から3’末端の方向に、任意の領域F3、F2、F1、B1c、B2c及びB3cをこの順に備え、標的RNAに相補的な核酸は、3’末端から5’末端の方向に、任意の領域F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3をこの順に備え、
一本鎖RNAウイルスがマイナス鎖型一本鎖RNAウイルスの場合、標的RNAは、3’末端から5’末端の方向に、任意の領域F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3をこの順に備え、標的RNAに相補的な核酸は、5’末端から3’末端の方向に任意の領域F3、F2、F1、B1c、B2c及びB3cをこの順に備え、
領域F3、F2、F1、B1c、B2c、及びB3cは、それぞれ領域F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3に相補的であり、
プライマーセットは、以下の(i)~(v):
(i)領域F1cと同じ塩基配列を5’末端に有し、領域F2と同じ塩基配列を3’末端に有する、FIPプライマー、
(ii)領域B1cと同じ塩基配列を5’末端に有し、領域B2と同じ塩基配列を3’末端に有する、BIPプライマー、
(iii)領域F3と同じ塩基配列を有する、アウタープライマーであるF3プライマー、
(iv)領域B3と同じ塩基配列を有する、アウタープライマーであるB3プライマー、及び
(v)1以上のさらなるアウタープライマーであって、各さらなるアウタープライマーは、標的RNAに相補的な核酸において領域B3又は領域F3よりも5’末端側に存在する任意の領域と同じ塩基配列を有する、アウタープライマー
を含み、ただし、FIPプライマー、BIPプライマー、F3プライマー、B3プライマー、及び1以上のさらなるアウタープライマーの塩基配列に存在し得るウラシルはチミンに置換されていてもよい、方法。
【請求項2】
一本鎖RNAウイルスがプラス鎖型一本鎖RNAウイルスであり、
標的RNAが、5’末端から3’末端の方向に任意の領域F3、F2、F1、B1c、B2c及びB3cをこの順に備え、
標的RNAに相補的な核酸が、3’末端から5’末端の方向に任意の領域F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3をこの順に備え、
各前記さらなるアウタープライマーは、標的RNAに相補的な核酸において領域B3よりも5’末端側に存在する任意の領域と同じ塩基配列を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一本鎖RNAウイルスがマイナス鎖型一本鎖RNAウイルスであり、
標的RNAが、3’末端から5’末端の方向に任意の領域F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3をこの順に備え、
標的RNAに相補的な核酸が、5’末端から3’末端の方向に任意の領域F3、F2、F1、B1c、B2c及びB3cをこの順に備え、
各前記さらなるアウタープライマーは、標的RNAに相補的な核酸において領域F3よりも5’末端側に存在する任意の領域と同じ塩基配列を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
プライマーセットが、
(vi)領域F1cと領域F2cとの間の任意の領域と同じ塩基配列を有するループプライマーF、及び
(vii)領域B1cと領域B2cとの間の任意の領域と同じ塩基配列を有するループプライマーB
をさらに含み、ただし、ループプライマーF及びループプライマーBの塩基配列に存在し得るウラシルはチミンに置換されていてもよい、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(v)の1以上のさらなるアウタープライマーの融解温度が30~55℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
プライマーセットが(v)のさらなるアウタープライマーを一つ含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
逆転写ループ媒介等温増幅反応の増幅産物を検出する工程をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
一本鎖RNAウイルスを検出するためのキットであって、
プライマーセットを含み、
プライマーセットは、一本鎖RNAウイルスの標的RNAの塩基配列と、該標的RNAに相補的な核酸の塩基配列と、に基づいて設計され、
一本鎖RNAウイルスがプラス鎖型一本鎖RNAウイルスの場合、標的RNAは、5’末端から3’末端の方向に、任意の領域F3、F2、F1、B1c、B2c及びB3cをこの順に備え、標的RNAに相補的な核酸は、3’末端から5’末端の方向に、任意の領域F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3をこの順に備え、
一本鎖RNAウイルスがマイナス鎖型一本鎖RNAウイルスの場合、標的RNAは、3’末端から5’末端の方向に、任意の領域F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3をこの順に備え、標的RNAに相補的な核酸は、5’末端から3’末端の方向に、任意の領域F3、F2、F1、B1c、B2c及びB3cをこの順に備え、
領域F3、F2、F1、B1c、B2c、及びB3cは、それぞれ領域F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3に相補的であり、
プライマーセットは、以下の(i)~(v):
(i)領域F1cと同じ塩基配列を5’末端に有し、領域F2と同じ塩基配列を3’末端に有する、FIPプライマー、
(ii)領域B1cと同じ塩基配列を5’末端に有し、領域B2と同じ塩基配列を3’末端に有する、BIPプライマー、
(iii)領域F3と同じ塩基配列を有する、アウタープライマーであるF3プライマー、
(iv)領域B3と同じ塩基配列を有する、アウタープライマーであるB3プライマー、及び
(v)1以上のさらなるアウタープライマーであって、各さらなるアウタープライマーは、標的RNAに相補的な核酸において領域B3又は領域F3よりも5’末端側に存在する任意の領域と同じ塩基配列を有する、アウタープライマー
を含み、ただし、FIPプライマー、BIPプライマー、F3プライマー、B3プライマー、及び1以上のさらなるアウタープライマーの塩基配列に存在し得るウラシルはチミンに置換されていてもよい、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一本鎖RNAウイルスを検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは細胞に寄生する生物であり、ウイルスを単独で培養することはできないため、ウイルス感染症の診断において原因ウイルスを短時間で特定する方法としては、主に遺伝子診断が利用される。ウイルスの遺伝子診断では、検出対象であるウイルスに固有の核酸配列を核酸増幅反応により増幅して検出する。
【0003】
核酸増幅法の一種として、ループ媒介等温増幅(LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification))法が知られる(特許文献1)。かかる方法では、標的核酸の6つの領域(F3、F2、F1、B1c、B2c、及びB3c、又は、F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3)に基づいて2種類のインナープライマー(FIPプライマー及びBIPプライマー)と2種類のアウタープライマー(F3プライマー及びB3プライマー)を設計し、これらのプライマーを用いて一定温度で標的核酸を増幅する。また、LAMP法においては、上記インナープライマーとアウタープライマーに加えて、2種類のループプライマー(ループプライマーF及びループプライマーB)を用いることにより、増幅反応の効率が向上することが知られている(特許文献2)。
【0004】
ウイルスは、ゲノムの核酸の種類によって、二本鎖DNAウイルス、一本鎖RNAウイルス等に分類される。一本鎖RNAウイルスは、遺伝子が5’末端から3’末端の方向に読み取られる+鎖(プラス鎖)ウイルスと、遺伝子が相補鎖を介して3’末端から5’末端の方向に読み取られる-鎖(マイナス鎖)ウイルスに分けられる。RNAウイルスの核酸を増幅する場合には、増幅反応の開始時に、逆転写酵素を使用して鋳型RNAからcDNAを合成する逆転写反応が必要になる。逆転写反応と組み合わせたLAMP法は、逆転写ループ媒介等温増幅(RT-LAMP)法と呼ばれる(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第00/28082号
【文献】国際公開第02/24902号
【文献】国際公開第2018/042598号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3に記載されたLAMP法によれば、比較的高い感度でウイルスを検出することができるものの、ウイルス性疾患の中には重篤な症状をもたらす疾患が多く存在するため、それら疾患の原因となるウイルスをより確実に検出する方法が求められていた。そこで本発明は、一本鎖RNAウイルスを高感度で検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、従来の6種類のプライマーに加えて特定のさらなるアウタープライマーを用いてRT-LAMP反応を行うことで、一本鎖RNAウイルスをより高感度で検出することができることを見いだし、本発明を完成させた。本発明者らの新たな知見によれば、一本鎖RNAウイルスの標的RNAに相補的な核酸の3’末端側の領域にアニールするアウタープライマーを追加しても検出の感度が向上しないのに対し、一本鎖RNAウイルスの標的RNAの3’末端側の領域にアニールするアウタープライマーを追加すると、検出の感度が向上する。
【0008】
本発明は、以下の[1]~[8]に関する。
[1]
試料中の一本鎖RNAウイルスを検出する方法であって、
プライマーセットを試料に接触させて、逆転写ループ媒介等温増幅反応を行う工程を含み、
プライマーセットは、一本鎖RNAウイルスの標的RNAの塩基配列と、該標的RNAに相補的な核酸の塩基配列と、に基づいて設計され、
一本鎖RNAウイルスがプラス鎖型一本鎖RNAウイルスの場合、標的RNAは、5’末端から3’末端の方向に、任意の領域F3、F2、F1、B1c、B2c及びB3cをこの順に備え、標的RNAに相補的な核酸は、3’末端から5’末端の方向に、任意の領域F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3をこの順に備え、
一本鎖RNAウイルスがマイナス鎖型一本鎖RNAウイルスの場合、標的RNAは、3’末端から5’末端の方向に、任意の領域F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3をこの順に備え、標的RNAに相補的な核酸は、5’末端から3’末端の方向に任意の領域F3、F2、F1、B1c、B2c及びB3cをこの順に備え、
プライマーセットは、以下の(i)~(v):
(i)領域F1cと同じ塩基配列を5’末端に有し、領域F2と同じ塩基配列を3’末端に有する、FIPプライマー、
(ii)領域B1cと同じ塩基配列を5’末端に有し、領域B2と同じ塩基配列を3’末端に有する、BIPプライマー、
(iii)領域F3と同じ塩基配列を有する、アウタープライマーであるF3プライマー、
(iv)領域B3と同じ塩基配列を有する、アウタープライマーであるB3プライマー、及び
(v)1以上のさらなるアウタープライマーであって、各さらなるアウタープライマーは、標的RNAに相補的な核酸において領域B3又は領域F3よりも5’末端側に存在する任意の領域と同じ塩基配列を有する、アウタープライマー
を含み、ただし、FIPプライマー、BIPプライマー、F3プライマー、B3プライマー、及び1以上のさらなるアウタープライマーの塩基配列に存在し得るウラシルはチミンに置換されていてもよい、方法。
[2]
試料中のプラス鎖型一本鎖RNAウイルスを検出する方法であって、
プライマーセットを試料に接触させて、逆転写ループ媒介等温増幅反応を行う工程を含み、
プライマーセットは、
5’末端から3’末端の方向に任意の領域F3、F2、F1、B1c、B2c及びB3cをこの順に備える標的RNAの塩基配列と、
3’末端から5’末端の方向に任意の領域F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3をこの順に備える、標的RNAに相補的な核酸の塩基配列と、に基づいて設計され、以下の(i)~(v):
(i)領域F1cと同じ塩基配列を5’末端に有し、領域F2と同じ塩基配列を3’末端に有する、FIPプライマー、
(ii)領域B1cと同じ塩基配列を5’末端に有し、領域B2と同じ塩基配列を3’末端に有する、BIPプライマー、
(iii)領域F3と同じ塩基配列を有する、アウタープライマーであるF3プライマー、
(iv)領域B3と同じ塩基配列を有する、アウタープライマーであるB3プライマー、及び
(v)1以上のさらなるアウタープライマーであって、各さらなるアウタープライマーは、標的RNAに相補的な核酸において領域B3よりも5’末端側に存在する任意の領域と同じ塩基配列を有する、アウタープライマー
を含み、ただし、FIPプライマー、BIPプライマー、F3プライマー、B3プライマー、及び1以上のさらなるアウタープライマーの塩基配列に存在し得るウラシルはチミンに置換されていてもよい、方法。
[3]
試料中のマイナス鎖型一本鎖RNAウイルスを検出する方法であって、
プライマーセットを試料に接触させて、逆転写ループ媒介等温増幅反応を行う工程を含み、
プライマーセットは、
3’末端から5’末端の方向に任意の領域F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3をこの順に備える標的RNAの塩基配列と、
5’末端から3’末端の方向に任意の領域F3、F2、F1、B1c、B2c及びB3cをこの順に備える、標的RNAに相補的な核酸の塩基配列と、に基づいて設計され、以下の(i)~(v):
(i)領域F1cと同じ塩基配列を5’末端に有し、領域F2と同じ塩基配列を3’末端に有する、FIPプライマー、
(ii)領域B1cと同じ塩基配列を5’末端に有し、領域B2と同じ塩基配列を3’末端に有する、BIPプライマー、
(iii)領域F3と同じ塩基配列を有する、アウタープライマーであるF3プライマー、
(iv)領域B3と同じ塩基配列を有する、アウタープライマーであるB3プライマー、及び
(v)1以上のさらなるアウタープライマーであって、各さらなるアウタープライマーは、標的RNAに相補的な核酸において領域F3よりも5’末端側に存在する任意の領域と同じ塩基配列を有する、アウタープライマー
を含み、ただし、FIPプライマー、BIPプライマー、F3プライマー、B3プライマー、及び1以上のさらなるアウタープライマーの塩基配列に存在し得るウラシルはチミンに置換されていてもよい、方法。
[4]
プライマーセットが、
(vi)領域F1cと領域F2cとの間の任意の領域と同じ塩基配列を有するループプライマーF、及び
(vii)領域B1cと領域B2cとの間の任意の領域と同じ塩基配列を有するループプライマーB
をさらに含み、ただし、ループプライマーF及びループプライマーBの塩基配列に存在し得るウラシルはチミンに置換されていてもよい、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
(v)の1以上のさらなるアウタープライマーの融解温度が30~55℃である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
プライマーセットが(v)のさらなるアウタープライマーを一つ含む、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
逆転写ループ媒介等温増幅反応の増幅産物を検出する工程をさらに含む、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
一本鎖RNAウイルスを検出するためのキットであって、
プライマーセットを含み、
プライマーセットは、一本鎖RNAウイルスの標的RNAの塩基配列と、該標的RNAに相補的な核酸の塩基配列と、に基づいて設計され、
一本鎖RNAウイルスがプラス鎖型一本鎖RNAウイルスの場合、標的RNAは、5’末端から3’末端の方向に、任意の領域F3、F2、F1、B1c、B2c及びB3cをこの順に備え、標的RNAに相補的な核酸は、3’末端から5’末端の方向に、任意の領域F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3をこの順に備え、
一本鎖RNAウイルスがマイナス鎖型一本鎖RNAウイルスの場合、標的RNAは、3’末端から5’末端の方向に、任意の領域F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3をこの順に備え、標的RNAに相補的な核酸は、5’末端から3’末端の方向に、任意の領域F3、F2、F1、B1c、B2c及びB3cをこの順に備え、
プライマーセットは、以下の(i)~(v):
(i)領域F1cと同じ塩基配列を5’末端に有し、領域F2と同じ塩基配列を3’末端に有する、FIPプライマー、
(ii)領域B1cと同じ塩基配列を5’末端に有し、領域B2と同じ塩基配列を3’末端に有する、BIPプライマー、
(iii)領域F3と同じ塩基配列を有する、アウタープライマーであるF3プライマー、
(iv)領域B3と同じ塩基配列を有する、アウタープライマーであるB3プライマー、及び
(v)1以上のさらなるアウタープライマーであって、各さらなるアウタープライマーは、標的RNAに相補的な核酸において領域B3又は領域F3よりも5’末端側に存在する任意の領域と同じ塩基配列を有する、アウタープライマー
を含み、ただし、FIPプライマー、BIPプライマー、F3プライマー、B3プライマー、及び1以上のさらなるアウタープライマーの塩基配列に存在し得るウラシルはチミンに置換されていてもよい、キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、一本鎖RNAウイルスを高感度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、(+)ssRNAウイルスの標的RNAにおける領域F3、F2、F1、B1c、B2c、B3c、及びB4cと、標的RNAに相補的なcDNAにおける領域F3c、F2c、F1c、B1、B2、B3、及びB4と、これらの塩基配列に基づいて設計されるプライマーセット(FIPプライマー、BIPプライマー、F3プライマー、B3プライマー、B4プライマー、ループプライマーF、及びループプライマーB)とを示す。
図2図2は、(-)ssRNAウイルスの標的RNAにおける領域F4c、F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3と、標的RNAに相補的なcDNAにおける領域F4、F3、F2、F1、B1c、B2c、及びB3cと、これらの塩基配列に基づいて設計されるプライマーセット(FIPプライマー、BIPプライマー、F3プライマー、B3プライマー、F4プライマー、ループプライマーF、及びループプライマーB)とを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一形態に係る、試料中の一本鎖RNAウイルスを検出する方法は、RT-LAMP法による核酸増幅を検出して、試料中の一本鎖RNAウイルスを検出する方法であり、プライマーセットとして、従来のプライマー(すなわち、FIPプライマー、BIPプライマー、F3プライマー、B3プライマー、並びに、任意でループプライマーF及びループプライマーB)に加えて、標的RNAの3’末端側の領域にアニールする1以上のさらなるアウタープライマーを用いることを特徴とする。より具体的には、本発明の一形態に係る、試料中の一本鎖RNAウイルスを検出する方法は、プライマーセットを試料に接触させてRT-LAMP反応を行う工程を含み、プライマーセットは、FIPプライマー、BIPプライマー、F3プライマー、B3プライマー、及び1以上の後述するさらなるアウタープライマーを含み、任意でループプライマーF及びループプライマーBを含む。
【0012】
検出する一本鎖RNAウイルスは、プラス鎖型一本鎖RNA((+)ssRNA)ウイルスであっても、マイナス鎖型一本鎖RNA((-)ssRNA)ウイルスであってもよい。(+)ssRNAウイルスは特に限定されず、例えば、デングウイルス3型(DENV3)等デングウイルス、風疹ウイルス、C型肝炎ウイルス、ノロウイルス、チクングニアウイルス、ジカウイルス(ZIKV)、コロナウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)又はA型肝炎ウイルスであってよい。(-)ssRNAウイルスは特に限定されず、例えば、インフルエンザウイルス、センダイウイルス、麻疹ウイルス、ヒトメタニューモウイルス又は狂犬病ウイルス(RABV)であってよい。
【0013】
試料は、一本鎖RNAウイルスの感染が疑われる対象から採取された試料であってよく、例えば、喀痰、体液、糞便、又は組織であってよい。体液は、例えば、鼻汁、唾液、血液、血清、血漿、髄液、尿、精液、又は羊水であってよい。また、試料は、気管支肺胞洗浄液、鼻腔吸引液、鼻腔洗浄液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、又はうがい液であってもよい。あるいは、試料は、感染実験等の実験に用いられた細胞又はその培養液であってもよい。試料は、上記試料に、分離、抽出、濃縮、精製等の前処理を行ったものであってもよい。
【0014】
標的RNAは、一本鎖RNAウイルスが有する一本鎖RNAの全体又は一部であってよい。標的RNAの長さは特に限定されず、例えば、200~30000塩基、200~1000塩基、又は200~550塩基であってよい。
【0015】
本明細書において、用語「FIPプライマー」、「BIPプライマー」、「F3プライマー」、「B3プライマー」、「ループプライマーF」及び「ループプライマーB」は、従来のLAMP法におけるこれらの用語と同義であり、当業者により理解される用語である。いいかえれば、後述するさらなるアウタープライマー以外のプライマーは、当業者が公知の文献等の開示に基づいて適宜設計することができる。
【0016】
以下、図1及び図2を参照しながら、本形態に係る方法におけるプライマーセットについて説明する。プライマーセットは、一本鎖RNAウイルスの標的RNAの塩基配列と、該標的RNAに相補的な核酸の塩基配列と、に基づいて設計される。標的RNA及び該標的RNAに相補的な核酸のうち、そのままタンパク質合成の鋳型となり得る塩基配列を有する鎖においては、プライマー設計の基となる任意の領域は、5’末端側から3’末端側の順に、領域F4、F3、F2、F1、B1c、B2c、B3c、及びB4cと呼ばれる。一方、そのままではタンパク質合成の鋳型となり得ない塩基配列を有する鎖においては、プライマー設計の基となる任意の領域は、3’末端側から5’末端側の順に、領域F4c、F3c、F2c、F1c、B1、B2、B3、及びB4と呼ばれる。領域F4、F3、F2、F1、B1c、B2c、B3c、及びB4cの塩基配列は、それぞれ領域F4c、F3c、F2c、F1c、B1、B2、B3、及びB4に相補的である。したがって、検出する一本鎖RNAウイルスが(+)ssRNAウイルスの場合、図1に示すように、領域F3、F2、F1、B1c、B2c、B3c、及びB4cは、標的RNAの5’末端から3’末端の方向にこの順で存在する任意の領域であり、領域F3c、F2c、F1c、B1、B2、B3、及びB4は、標的RNAに相補的な核酸の3’末端から5’末端の方向にこの順で存在する任意の領域である。一方、検出する一本鎖RNAウイルスが(-)ssRNAウイルスの場合、図2に示すように、領域F4、F3、F2、F1、B1c、B2c、及びB3cは、標的RNAに相補的な核酸の5’末端から3’末端の方向にこの順で存在する任意の領域であり、領域F4c、F3c、F2c、F1c、B1、B2、及びB3は、標的RNAの3’末端から5’末端の方向にこの順で存在する任意の領域である。なお、図1及び2では標的RNAに相補的な核酸としてcDNAが記載されているが、標的RNAに相補的な核酸はDNAに限定されず、RNAであってもよい。
【0017】
本明細書において、用語「相補的」は必ずしも完全に相補的であることを意味しない。例えば、「ある塩基配列に相補的な塩基配列」の範囲には、ある塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列が含まれる。ストリンジェントな条件は、特に限定されないが、例えば、50%ホルムアミド、5×SSC(150mL NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハーツ溶液、及び10%デキストラン硫酸であってよい。
【0018】
本明細書において、用語「同じ」は必ずしも完全に同じであることを意味しない。例えば、「ある塩基配列と同じ塩基配列」の範囲には、ある塩基配列に相補的な塩基配列に相補的な塩基配列が含まれる。
【0019】
当業者に理解されるように、インナープライマーであるFIPプライマーは、領域F1cと同じ塩基配列を5’末端に有し、領域F2と同じ塩基配列を3’末端に有する。ただし、領域F1c又は領域F2にウラシルが存在する場合、FIPプライマーにおける対応するウラシルは、チミンに置き換えられてもよい。領域F1cと同じ塩基配列と、領域F2と同じ塩基配列との間には、リンカーとなる1以上のヌクレオチドが存在しても存在しなくてもよい。リンカーとなるヌクレオチドは、1~500塩基、1~100塩基、又は10~70塩基であってよい。
【0020】
当業者に理解されるように、インナープライマーであるBIPプライマーは、領域B1cと同じ塩基配列を5’末端に有し、領域B2と同じ塩基配列を3’末端に有する。ただし、領域B1c又は領域B2にウラシルが存在する場合、BIPプライマーにおける対応するウラシルは、チミンに置き換えられてもよい。
【0021】
当業者に理解されるように、アウタープライマーであるF3プライマーは、領域F3と同じ塩基配列を有する。ただし、領域F3にウラシルが存在する場合、F3プライマーにおける対応するウラシルは、チミンに置き換えられてもよい。
【0022】
当業者に理解されるように、アウタープライマーであるB3プライマーは、領域B3と同じ塩基配列を有する。ただし、領域B3にウラシルが存在する場合、B3プライマーにおける対応するウラシルは、チミンに置き換えられてもよい。
【0023】
当業者に理解されるように、ループプライマーFは、領域F1cと領域F2cとの間の任意の領域と同じ塩基配列を有する。ただし、領域F1cと領域F2cとの間の任意の領域にウラシルが存在する場合、ループプライマーFにおける対応するウラシルは、チミンに置き換えられてもよい。
【0024】
当業者に理解されるように、ループプライマーBは、領域B1cと領域B2cとの間の任意の領域と同じ塩基配列を有する。ただし、領域B1cと領域B2cとの間の任意の領域にウラシルが存在する場合、ループプライマーBにおける対応するウラシルは、チミンに置き換えられてもよい。
【0025】
上述の通り、当業者は、標的RNAの増幅に適当なFIP、BIP、F3、B3プライマー、ループプライマーF、及びループプライマーBを適宜設計できる。いいかえれば、当業者は、標的RNAにおいて、領域F3、F2、F1、B1c、B2c、及びB3cとして適当な領域を適宜選択することができる。各領域の長さ(塩基数)は、例えば、5塩基以上、10塩基以上、5~200塩基、10~25塩基、10~20塩基、又は17~25塩基であってよい。各領域の融解温度(Tm)は、例えば、55~65℃、60~65℃、又は55~60℃であってよい。本明細書におけるTm値は、Nearest-Neighbor法(反応液中のナトリウムイオン濃度:50mM、マグネシウムイオン濃度:4mM、オリゴ核酸濃度:0.1μM)により算出した値である。各領域のCG含量は、例えば、40~60%、40~50%、又は50~60%であってよい。領域F1c及びB1cの5’末端から6塩基の自由エネルギー変化(dG)は、-4kcal/mol以下であってよい。また、領域F2、B2、F3、及びB3、並びにループプライマーF又はBの設計の基となる領域の3’末端から6塩基のdGも、-4kcal/mol以下であってよい。各プライマーは、極端な二次構造を形成しない塩基配列を有することが好ましい。また、プライマーダイマーの生成を防ぐ観点から、各プライマーの3’末端は、自己の3’末端と又は他のプライマーの3’末端と相補的な塩基配列を有さないことが好ましい。
【0026】
領域F2の5’末端から領域B2cの3’末端までの距離は、例えば120~180塩基であってよい。領域F2と領域F3との間、及び領域B2cと領域B3cとの間の距離は、例えば、0~20塩基であってよい。領域F2の5’末端から領域F1の5’末端までの距離、及び領域B2の5’末端から領域B1の5’末端までの距離は、例えば40~60塩基であってよい。領域F1から領域B1cの間の距離は特に限定されず、領域F1の3’末端と領域B1cの5’末端とは、直接結合していてもよい。
【0027】
検出する一本鎖RNAウイルスが(+)ssRNAウイルスの場合、上記さらなるアウタープライマーは、標的RNAに相補的な核酸において領域B3よりも5’末端側に存在する任意の領域と同じ塩基配列を有する。ただし、かかる領域にウラシルが存在する場合、上記さらなるアウタープライマーにおける対応するウラシルは、チミンに置き換えられてもよい。図1では、B4プライマーが上記さらなるアウタープライマーであり、B4プライマーは、標的RNAに相補的なcDNAにおける領域B3よりも5’末端側に存在する任意の領域B4と同じ塩基配列を有する。
【0028】
検出する一本鎖RNAウイルスが(-)ssRNAウイルスの場合、上記さらなるアウタープライマーは、標的RNAに相補的な核酸において領域F3よりも5’末端側に存在する任意の領域と同じ塩基配列を有する。ただし、かかる領域にウラシルが存在する場合、上記さらなるアウタープライマーにおける対応するウラシルは、チミンに置き換えられてもよい。図2では、F4プライマーが上記さらなるアウタープライマーであり、F4プライマーは、標的RNAに相補的なcDNAにおける領域F3よりも5’末端側に存在する任意の領域F4と同じ塩基配列を有する。
【0029】
上記さらなるアウタープライマーのTm値は、例えば、30~55℃、33~50℃、又は35~45℃であってよい。さらなるアウタープライマーの長さは特に限定されず、例えば、10~18塩基、11~16塩基、又は12~14塩基であってよい。さらなるアウタープライマーのCG含量は、例えば、30~70%、34~65%、又は38~54%であってよい。さらなるアウタープライマーの3’末端から6塩基のdGは、-4kcal/mol以下であってよい。さらなるアウタープライマーは、極端な二次構造を形成しない塩基配列を有することが好ましい。また、プライマーダイマーの生成を防ぐ観点から、さらなるアウタープライマーの3’末端は、自己の3’末端と又は他のプライマーの3’末端と相補的な塩基配列を有さないことが好ましい。
【0030】
上記さらなるアウタープライマーの設計の基となる上記任意の領域(すなわち、図1においては領域B4であり、図2においては領域F4である。)の位置は、その領域の一部又は全部が、標的RNAに相補的な核酸において領域B3((+)ssRNAウイルスの場合)又は領域F3((-)ssRNAウイルスの場合)よりも5’末端側に存在すれば特に限定されず、領域B3又は領域F3からの距離は特に限定されない。領域B3又は領域F3の5’末端からさらなるアウタープライマーの設計の基となる上記任意の領域の3’末端までの距離は、例えば、-4~50塩基、-3~35塩基、又は-2~21塩基であってよい。ここで、アウタープライマーの設計の基となる上記任意の領域と領域B3又は領域F3が部分的に重なっている場合、領域B3又は領域F3の5’末端からさらなるアウタープライマーの設計の基となる上記任意の領域の3’末端までの距離は、負の値で表す。
【0031】
上記さらなるアウタープライマーは、図1ではB4プライマーのみであり、図2ではF4プライマーのみであるが、さらなるアウタープライマーの数は限定されず、プライマーセットには複数のさらなるアウタープライマーが含まれてよい。より高い検出感度を実現する観点から、プライマーセットに含まれるさらなるアウタープライマーは一つであることが好ましい。
【0032】
試料には、上記プライマーセットとともに、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP:dATP、dTTP、dCTP、及びdGTP)等、RT-LAMP反応を行うための公知の試薬を接触させることができる。
【0033】
DNAポリメラーゼは、鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素であれば特に限定されず、例えば、Bst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)、Bca(exo-)DNAポリメラーゼ、Csa DNAポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント、又はこれらの組合せであってよい。
【0034】
逆転写酵素は、RNAを鋳型としてcDNAを合成する活性を有する酵素であれば特に限定されず、例えば、天然の又は組み換えトリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)、マウス白血病ウイルス(MMLV)、又はヒト免疫不全ウイルス(HIV)に由来する天然の又組み換え逆転写酵素であってよい。MMLVに由来する逆転写酵素としては、例えば、Superscript(登録商標)II逆転写酵素、Superscript III逆転写酵素、及びSuperscript IV逆転写酵素、(いずれもサーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、並びにReverTra Ace(登録商標)(東洋紡株式会社製)が挙げられる。AMVに由来する逆転写酵素としては、例えばThermoscript(登録商標)逆転写酵素(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)が挙げられる。逆転写酵素の他の具体例としては、OmniScript(登録商標)逆転写酵素及びSensiscript(登録商標)逆転写酵素(どちらもキアゲン社製)が挙げられる。DNAポリメラーゼとしてBca(exo-)DNAポリメラーゼ等、逆転写酵素活性とDNAポリメラーゼ活性の両方を有する酵素を用いる場合、別途の逆転写酵素を用いなくてもよい。
【0035】
RT-LAMP反応を行うためのその他の公知の試薬としては、例えば、酵素反応に好適な条件を与える緩衝液又は塩、並びにジチオトレイトール(DTT)等の酵素又は鋳型を安定化する保護剤が挙げられる。
【0036】
試料には、上記プライマーセットとともに、RT-LAMP反応の増幅産物を検出するための標識プローブ又は蛍光性インターカレーターを接触させることもできる。標識プローブは、例えば蛍光標識プローブであってよく、蛍光標識プローブは、例えば後述する蛍光消光プローブであってよい。
【0037】
プライマーセットを試料に接触させてRT-LAMP反応を行う工程は、例えば、試料とプライマーセットとを含む反応液をインキュベートすることによって行うことができる。
【0038】
反応液は、RT-LAMP反応を行うための上述の公知の試薬、並びに上述の標識プローブ又は蛍光性インターカレーターを含んでよい。インキュベーションの時間(すなわち、RT-LAMP反応の反応時間)は、標的RNA及びプライマーセットによるが、通常60分以下である。インキュベーションの温度(すなわち、RT-LAMP反応の反応温度)は、通常65℃以下である。
【0039】
反応溶液中の各インナープライマーの濃度は、例えば0.8~2.4μMであってよい。反応溶液中の各アウタープライマーの濃度は、例えば0.1~0.3μMであってよい。反応溶液中の各ループプライマーの濃度は、例えば0.4~1.2μMであってよい。FIPプライマーの濃度は、例えば、F3プライマーの濃度の8倍以上及び/又はループプライマーFの濃度の1~4倍であってよい。BIPプライマーの濃度は、例えば、B3プライマーの濃度の8倍以上、及び/又はループプライマーBの濃度の1~4倍であってよい。
【0040】
一実施形態において、試料中の一本鎖RNAウイルスを検出する方法は、RT-LAMP反応の増幅産物を検出する工程をさらに含んでよい。RT-LAMP反応の増幅産物が検出された場合、試料中に一本鎖RNAウイルスが存在すると判定することができる。増幅産物の検出は、RT-LAMP反応終了後に行ってもよく、反応中にリアルタイムで行ってもよい。
【0041】
増幅産物を検出する方法は特に限定されず、公知の技術を利用できる。増幅産物は、例えば、標識プローブを用いることにより、蛍光性インターカレーターを用いることにより、又は反応液に対して電気泳動を行うことにより、検出することができる。あるいは、反応液中にマグネシウムイオンが含まれる場合、反応液の濁度を測定することで増幅産物を検出することもできる。マグネシウムイオンは核酸合成の副産物であるピロリン酸イオンと反応して白色のピロリン酸マグネシウムを生じる。
【0042】
標識プローブとしては、例えば蛍光消光プローブ(QuenchingProbe:QProbe(登録商標))等の蛍光標識プローブを用いることができる。蛍光消光プローブから発せられる蛍光は標的核酸とハイブリダイズしたときに消光するため、蛍光の減少を測定することで増幅産物を定量又は検出できる。蛍光消光プローブに用いることのできる蛍光標識としては、例えば、BODIPY(登録商標)、BODIPY-FL、カルボキシローダミン6G(CR6G)、カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)、パシフィックブルー(登録商標)、及びフルオレセイン-4-イソチオシアネート(FITC)が挙げられる。
【0043】
蛍光性インターカレーターとしては、例えば、SYTO(登録商標)63 Red Fluorescent Nucleic Acid Stain(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)等、公知の蛍光性インターカレーターを用いることができる。
【0044】
本発明の別の一形態は、上記プライマーセットを含む、一本鎖RNAウイルスを検出するためのキットである。かかるキットは、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、dNTP、緩衝液、塩、保護剤等、RT-LAMP反応を行うための上記公知の試薬さらに含んでよい。また、かかるキットは、上述の標識プローブ又は蛍光性インターカレーターをさらに含んでもよい。
【実施例
【0045】
[試験例1](+)ssRNAウイルス(DENV3)の検出
<参考例1>
0.2mLの試薬チューブに、次の組成を有する反応液25μLを調製した:
20mM トリシン(pH8.6)、
30mM KCl、
8mM MgSO
1.4mM dNTPs、
0.5% Tween20、
1.6mM DTT、
1.6μM FIPプライマー及びBIPプライマー、
0.2μM F3プライマー及びB3プライマー、
0.8μM ループプライマーF及びループプライマーB、
AMV Reverse Transcriptase 1.0U(20U/μL、Roche社製)、
Bst DNApolymerase 22.8U(New England Biolabs社製)、
RNase阻害剤(40U/μL、プロメガ社製)1μL、
鋳型RNA(100コピー)5μL、
PPase 20mU(New England Biolabs社製)、及び
0.04μM QProbe(登録商標)。
【0046】
FIPプライマー、BIPプライマー、F3プライマー、B3プライマー、ループプライマーF、ループプライマーB、及びQProbeとしては、それぞれ表1に示すDENV3_FIPv4、DENV3_BIPv6、DENV3_F3、DENV3_B3a、DENV3_LF、DENV3_LBv1、及びDENV3_Qpを用いた。鋳型RNA(配列番号1)は、DENV3 Capsid遺伝子からRT-PCRにより作製したcDNAをプラスミドに組み込み、該プラスミドDNAからRNAを転写及び精製することにより作製した。転写には、Script Max(登録商標)Thermo T7 Transcription Kit(東洋紡株式会社製、コード番号:TSK-101)を用い、RNA精製にはRNeasy(登録商標)Mini Kit(キアゲン社製、カタログ番号:No.74104)を用いた。QProbeの5’末端はBODIPYで標識し、3’末端はリン酸化した。
【0047】
【表1】
【0048】
リアルタイム定量PCRシステムLightCycler(登録商標)96(Roche社製)を用いて、63℃で60分RT-LAMP反応を行った(N=6)。また、B3プライマーの濃度を2~4倍上げて、同様のRT-LAMP反応を行った(N=6)。RT-LAMP反応の増幅産物は、QProbeの消光をリアルタイムで検出することにより検出した。結果を表2に示す。また、参考までに、鋳型RNAの量を10000コピーに上げた場合の検出結果を表2に併せて示す。
【0049】
【表2】
【0050】
本明細書中の表において、SDは標準偏差を意味し、CVは変動係数を意味し、NCはネガティブコントロールを意味し、N.D.は不検出を意味する。本試験例においては、QProbeの消光が30分以内に検出されなかった場合を不検出と判定した。表2に示すように、B3プライマーの濃度の増加によっては、鋳型RNAの検出感度は向上しなかった。
【0051】
<実施例1>
反応溶液に終濃度で0.2μMのB4プライマーを追加した以外は参考例1と同様にしてRT-LAMP反応を行った(N=2)。B4プライマーとしては、表3に示すプライマーを用いた。比較のため、同様の反応をB4プライマーなしでも行った。結果を表4に示す。また、参考までに、鋳型RNAの量を10000コピーに上げた場合の検出結果を表4に併せて示す。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
表4に示すように、B4プライマーを追加することで鋳型RNAの検出感度が向上した。
【0055】
<実施例2>
測定回数を増やして(N=6)実施例1と同様のRT-LAMP反応を行った。B4プライマーとしてはB3-m27を用いた。比較のため、同様の反応をB4プライマーなしでも行った。結果を表5に示す。また、参考までに、鋳型RNAの量を10000コピーに上げた場合の検出結果を表5に併せて示す。
【0056】
【表5】
【0057】
表5に示すように、測定回数を増やしても、B4プライマーの追加による検出感度の向上が認められた。
【0058】
<比較例1>
B4プライマーの代わりに表6に示すF4プライマーを用いて、実施例1と同様のRT-LAMP反応を行った。比較のため、同様の反応をF4プライマーなしでも行った。結果を表7に示す。また、参考までに、鋳型RNAの量を10000コピーに上げた場合の検出結果を表7に併せて示す。
【0059】
【表6】
【0060】
【表7】
【0061】
表7に示すように、F4プライマーの追加によっては、鋳型RNAの検出感度は向上しなかった。
【0062】
[試験例2](-)ssRNAウイルス(H5N1)の検出
<参考例2>
0.2mLの試薬チューブに、次の組成を有する反応液25μLを調製した:
20mM トリシン(pH8.6)、
30mM KCl、
8mM MgSO
1.4mM dNTPs、
0.5% Tween20、
1.6mM DTT、
1.6μM FIPプライマー及びBIPプライマー、
0.2μM F3プライマー及びB3プライマー、
0.8μM ループプライマーF及びループプライマーB、
AMV Reverse Transcriptase 1.0U(20U/μL、Roche社製)、
Bst DNApolymerase 22.8U(New England Biolabs社製)、
RNase阻害剤(40U/μL、プロメガ社製)1μL、
鋳型RNA(200コピー)5μL、
PPase 20mU(New England Biolabs社製)、及び
0.1μM SYTO 63 Red Fluorescent Nucleic Acid Stain(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)。
【0063】
FIPプライマー、BIPプライマー、F3プライマー、B3プライマー、ループプライマーF、及びループプライマーBとしては、それぞれ表8に示すH5N1-FIP、H5N1-BIP、H5N1-F3v7、H5N1-B3、H5N1-LF、及びH5N1-LBを用いた。鋳型RNA(配列番号27)は、H5型トリインフルエンザウイルス(A/Viet Nam/1203/2004(H5N1)、Accession No.AY818135)のヘマグルチニン(HA)遺伝子の一部からRT-PCRにより作製したcDNAをプラスミドに組み込み、該プラスミドDNAからRNAを転写及び精製することにより作製した。転写には、Script Max Thermo T7 Transcription Kit(東洋紡株式会社製、コード番号:TSK-101)を用い、RNA精製にはRNeasy Mini Kit(キアゲン社製、カタログ番号:No.74104)を用いた。
【0064】
【表8】
【0065】
リアルタイム定量PCRシステムLightCycler(登録商標)96(Roche社製)を用いて、63℃で60分RT-LAMP反応を行った(N=6)。また、F3プライマーの濃度を2~4倍上げて、同様のRT-LAMP反応を行った(N=6)。RT-LAMP反応の増幅産物は、インターカレーター(SYTO 63 Red Fluorescent Nucleic Acid Stain)の蛍光をリアルタイムで検出することにより検出した。結果を表9に示す。また、参考までに、鋳型RNAの量を10000コピーに上げた場合の検出結果を表9に併せて示す。
【0066】
【表9】
【0067】
本試験例においては、インターカレーターの蛍光が30分以内に検出されなかった場合を不検出と判定した。表9に示すように、F3プライマーの濃度の増加によっては、鋳型RNAの検出感度は向上しなかった。
【0068】
<実施例3>
反応溶液に終濃度で0.2μMのF4プライマーを追加した以外は参考例2と同様にしてRT-LAMP反応を行った(N=6)。F4プライマーとしては、表10に示すプライマーを用いた。比較のため、同様の反応をF4プライマーなしでも行った。結果を表11に示す。また、参考までに、鋳型RNAの量を10000コピーに上げた場合の検出結果を表11に併せて示す。
【0069】
【表10】
【0070】
【表11】
【0071】
表11に示すように、F4プライマーを追加することで鋳型RNAの検出感度が向上した。
【0072】
<比較例2>
F4プライマーの代わりに表12に示すB4プライマーを用いて、実施例3と同様のRT-LAMP反応を行った。比較のため、同様の反応をB4プライマーなしでも行った。結果を表13に示す。また、参考までに、鋳型RNAの量を10000コピーに上げた場合の検出結果を表13に併せて示す。
【0073】
【表12】
【0074】
【表13】
【0075】
表13に示すように、B4プライマーの追加によっては、鋳型RNAの検出感度は向上しなかった。
【0076】
[試験例3](+)ssRNAウイルス(ZIKV)の検出
<参考例3>
鋳型RNAとプライマーセットを次のように変更した以外は、試験例1の参考例1と同様のRT-LAMP反応を行った。FIPプライマー、BIPプライマー、F3プライマー、B3プライマー、ループプライマーF、ループプライマーB、及びQProbeとしては、それぞれ表14に示すZIKV FIP、ZIKV BIP、ZIKV F3、ZIKV B3、ZIKV LF、ZIKV LB、及びZIKV Qpを用いた。鋳型RNA(配列番号41)は、ZIKVのNS5遺伝子からRT-PCRにより作製したcDNAをプラスミドに組み込み、該プラスミドDNAからRNAを転写及び精製することにより作製した。転写には、Script Max Thermo T7 Transcription Kitを用い、RNA精製にはRNeasy Mini Kitを用いた。QProbeの3’末端はBODIPYで標識した。結果を表15に示す。
【0077】
【表14】
【0078】
【表15】
【0079】
表15に示すように、B3プライマーの濃度の増加によっては、鋳型RNAの検出感度は向上しなかった。
【0080】
<実施例4>
反応溶液に終濃度で0.2μMのB4プライマーを追加した以外は参考例3と同様にしてRT-LAMP反応を行った(N=6)。B4プライマーとしては、表16に示すプライマーを用いた。比較のため、同様の反応をB4プライマーなしでも行った。結果を表17に示す。また、参考までに、鋳型RNAの量を10000コピーに上げた場合の検出結果を表17に併せて示す。
【0081】
【表16】
【0082】
【表17】
【0083】
表17に示すように、B4プライマーを追加することで鋳型RNAの検出感度が向上した。
【0084】
<比較例3>
B4プライマーの代わりに表18に示すF4プライマーを用いて、実施例4と同様のRT-LAMP反応を行った。比較のため、同様の反応をF4プライマーなしでも行った。結果を表19に示す。また、参考までに、鋳型RNAの量を10000コピーに上げた場合の検出結果を表19に併せて示す。
【0085】
【表18】
【0086】
【表19】
【0087】
表19に示すように、F4プライマーの追加によっては、鋳型RNAの検出感度は向上しなかった。
【0088】
[試験例4](-)ssRNAウイルス(RABV)の検出
<参考例4>
0.2mLの試薬チューブに、次の組成を有する反応液25μLを調製した:
20mM トリシン(pH8.6)、
30mM KCl、
8mM MgSO
1.4mM dNTPs、
0.5% Tween20、
1.6mM DTT、
1.6μM FIPプライマー及びBIPプライマー、
0.2μM F3プライマー及びB3プライマー、
0.8μM ループプライマーB、
AMV Reverse Transcriptase 1.0U(20U/μL、Roche社製)、
Bst DNApolymerase 22.8U(New England Biolabs社製)、
RNase阻害剤(40U/μL、プロメガ社製)1μL、
鋳型RNA(10000コピー)5μL、
PPase 20mU(New England Biolabs社製)、及び
0.1μM SYTO 63 Red Fluorescent Nucleic Acid Stain(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)。
【0089】
FIPプライマー、BIPプライマー、F3プライマー、B3プライマー、及びループプライマーBとしては、それぞれ表20に示すRABV1-FIP、RABV1-BIP、RABV1-F3、RABV1-B3、及びRABV1-LBを用いた。これらのプライマーは、Bazartseren B., S. Inoue, A. Yamada, et al (2009): Rapid Detection of Rabies Virus by Reverse Transcription Loop-Mediated Isothermal Amplification. Jpn. J. Infect. Dis., 62, 187-191, 2009に開示されている。鋳型RNA(配列番号54)は、RABVのN遺伝子からRT-PCRにより作製したcDNAをプラスミドに組み込み、該プラスミドDNAからRNAを転写及び精製することにより作製した。転写には、Script Max Thermo T7 Transcription Kitを用い、RNA精製にはRNeasy Mini Kitを用いた。
【0090】
【表20】
【0091】
リアルタイム定量PCRシステムLightCycler 96を用いて、63℃で60分RT-LAMP反応を行った(N=6)。また、F3プライマーの濃度を2~4倍上げて、同様のRT-LAMP反応を行った(N=6)。RT-LAMP反応の増幅産物は、インターカレーター(SYTO 63 Red Fluorescent Nucleic Acid Stain)の蛍光をリアルタイムで検出することにより検出した。結果を表21に示す。また、参考までに、鋳型RNAの量を1×10コピーに上げた場合の検出結果を表21に併せて示す。
【0092】
【表21】
【0093】
本試験例においては、インターカレーターの蛍光が30分以内に検出されなかった場合を不検出と判定した。表21に示すように、F3プライマーの濃度の増加によっては、鋳型RNAの検出感度は向上しなかった。
【0094】
<実施例5>
反応溶液に終濃度で0.2μMのF4プライマーを追加した以外は参考例4と同様にしてRT-LAMP反応を行った(N=6)。F4プライマーとしては、表22に示すプライマーを用いた。比較のため、同様の反応をF4プライマーなしでも行った。結果を表23に示す。また、参考までに、鋳型RNAの量を1×10コピーに上げた場合の検出結果を表23に併せて示す。
【0095】
【表22】
【0096】
【表23】
【0097】
表23に示すように、F4プライマーを追加することで鋳型RNAの検出感度が向上した。
【0098】
<比較例4>
F4プライマーの代わりに表24に示すB4プライマーを用いて、実施例5と同様のRT-LAMP反応を行った。比較のため、同様の反応をB4プライマーなしでも行った。結果を表25に示す。また、参考までに、鋳型RNAの量を1×10に上げた場合の検出結果を表25に併せて示す。
【0099】
【表24】
【0100】
【表25】
【0101】
表25に示すように、B4プライマーの追加によっては、鋳型RNAの検出感度は向上しなかった。
図1
図2
【配列表】
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