(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】打抜き装置のための油圧運転システム
(51)【国際特許分類】
B30B 15/18 20060101AFI20220329BHJP
B30B 1/34 20060101ALI20220329BHJP
F15B 11/02 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
B30B15/18 B
B30B1/34 B
F15B11/02 Z
(21)【出願番号】P 2021518101
(86)(22)【出願日】2019-09-30
(86)【国際出願番号】 IB2019058280
(87)【国際公開番号】W WO2020070614
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】102018000009060
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】507385752
【氏名又は名称】サルヴァニーニ イタリア エッセ.ピ.ア.
【氏名又は名称原語表記】SALVAGNINI ITALIA S.p.A.
【住所又は居所原語表記】VIA GUIDO SALVAGNINI, 51, I-36040 SAREGO (VI), ITALY
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】バッテュー,クロード・ルチアン
(72)【発明者】
【氏名】バッタリア,ルッゲーロ
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】実用新案登録第2565135(JP,Y2)
【文献】特公昭36-18893(JP,B1)
【文献】実公昭36-29613(JP,Y1)
【文献】特公昭54-13040(JP,B2)
【文献】特開平10-180500(JP,A)
【文献】特開平11-28529(JP,A)
【文献】特許第5147148(JP,B2)
【文献】特表2015-522419(JP,A)
【文献】特開昭58-4024(JP,A)
【文献】実開昭57-181499(JP,U)
【文献】特公昭51-12152(JP,B2)
【文献】実公昭53-13978(JP,Y2)
【文献】国際公開第2017/216737(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第1445042(EP,A1)
【文献】独国特許出願公開第102013005876(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102011114241(DE,A1)
【文献】オーストリア国実用新案第8633(AT,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/18
B30B 1/34
F15B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチプレス打抜き装置(50)の複数の打抜き工具(51)をそれぞれの動作軸(A)に沿って別々の独立した態様で動作させて工作物(100)と相互作用させるように、前記打抜き装置(50)に関連付けることが可能な油圧運転システム(1)であって、
複数の油圧シリンダ(2)であって、各油圧シリンダは、
それぞれの打抜き工具(51)に関連付けられており、
それぞれのピストン(21)を備え、前記ピストン(21)は、油圧シリンダ(2)内で推力チャンバ(22)と戻りチャンバ(23)とを画定し、対応する打抜き工具(51)をそれぞれの動作軸(A)に沿って動かすために前記打抜き工具(51)に関連付けられている、油圧シリンダ(2)と、
可逆型の第1ポンプ(3)であって、
前記複数の油圧シリンダ(2)の前記推力チャンバ(22)に接続されており、
供給圧力(PA)を有する油を前記推力チャンバ(22)の少なくとも1つに送ることで、それぞれのピストン(21)を作業方向に沿って押し、当該ピストン(21)に関連付けられた打抜き工具(51)が工作物(100)と相互作用することができるようにするか、または、少なくとも前記推力チャンバ(22)から油を吸引することで、それぞれのピストン(21)を戻り方向に沿って動かし、前記打抜き工具(51)を前記工作物(100)から引き離し、遠ざけることができるようにするべく構成されている、第1ポンプ(3)と、
複数の切替え弁(4)であって、各切替え弁は、
それぞれの油圧シリンダ(2)に関連付けられており、
前記第1ポンプ(3)と、前記油圧シリンダ(2)の推力チャンバ(22)と、の間に介在し、
前記第1ポンプ(3)を前記推力チャンバ(22)と流動接続させることで前記油圧シリンダ(2)を動作させるように作動させることができる、切替え弁(4)と、
油圧アキュムレータ(5)であって、
前記複数の油圧シリンダ(2)の戻りチャンバ(23)に接続されており、
前記戻りチャンバ(23)における油を既定の予荷重圧力に維持するべく、特に、対応する切替え弁(4)を作動させることによって動作する油圧シリンダ(2)の少なくとも1つのピストン(21) を戻り方向に沿って動かすべく構成されている、油圧アキュムレータ(5)と、
を備える、油圧運転システム(1)。
【請求項2】
電動機(6)であって、
制御ユニット(10)によって制御され、
可逆型の前記第1ポンプ(3)を、両方の回転方向に、第1ポンプ(3)が既定の供給圧力(PA)を有する油を既定の流速で送出するように、駆動するべく構成されている、電動機(6)
を備える、請求項1に記載の油圧運転システム(1)。
【請求項3】
可逆型の第2ポンプ(7)であって、
前記第1ポンプ(3)に結合、接続されており、
前記ポンプ(3,7)は、同じ電動機(6)によって動作し、電動機(6)は、制御ユニット(10)によって制御され、前記ポンプ(3,7)を、両方の回転方向に、前記ポンプ(3,7)が供給圧力(PA)を有する油を既定の流速で送出するように駆動するべく構成されている、第2ポンプ(7)
を備える、請求項2に記載の油圧運転システム(1)。
【請求項4】
第1差動弁(8)であって、
前記第2ポンプ(7)と前記推力チャンバ(22)との間に介在し、
前記推力チャンバ(22)のうちの少なくとも1つにおいて前記供給圧力(PA)が第1作業圧力(P1)を超えると、前記第2ポンプ(7)を、大気圧を有する油溜め(15)に接続させるように作動することができる、第1差動弁(8)
を備える、請求項3に記載の油圧運転システム(1)。
【請求項5】
第2差動弁(9)であって、
前記油圧アキュムレータ(5)と前記戻りチャンバ(23)との間に介在し、
前記推力チャンバ(22)のうちの少なくとも1つにおいて前記供給圧力(PA)が第2作業圧力(P2)を超えると、前記戻りチャンバ(23)を、大気圧を有する油溜め(15)に接続させるように作動することができる、第2差動弁(9)
を備える、前述のいずれかの請求項に記載の油圧運転システム(1)。
【請求項6】
前記第2作業圧力(P2)は前記第1作業圧力(P1)よりも高い、請求項4および5に記載の油圧運転システム(1)。
【請求項7】
油溜め(15)であって、
前記供給圧力(PA)を有する油を前記油圧シリンダ(2)に送るために、前記第1ポンプ(3)が第1回転方向に駆動されると、少なくとも前記第1ポンプ(3)によって油が油溜め(15)から吸引され、
前記油圧シリンダ(2)から油を吸引するために、前記第1ポンプ(3)が逆の第2回転方向に駆動されると、油が油溜め(15)に送られる、油溜め(15)
を備える、前述のいずれかの請求項に記載の油圧運転システム(1)。
【請求項8】
複数の打抜き工具(51)をそれぞれの動作軸(A)に沿って別々の独立した態様で動作させるための、前述のいずれかの請求項に記載の油圧運転システム(1)
を備える、マルチプレス打抜き装置(50)。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の油圧運転システム(1)を備えるマルチプレス打抜き装置(50)の複数の打抜き工具(51)を別々の独立した態様で動作させるための方法において、
供給圧力(PA)を有する油を送出するべく構成されている可逆型の第1ポンプ(3)と、前記打抜き工具(51)に作用する油圧シリンダ(2)と、の間に位置するそれぞれの切替え弁(4)を作動させることによって動作させる少なくとも1つの打抜き工具(51)を選択する工程と、
前記油圧シリンダ(2)の推力チャンバ(22)内に加圧された油を送ることで、前記油圧シリンダ(2)のピストン(21)を作業方向に沿って押し、前記ピストン(21)に関連付けられた打抜き工具(51)が工作物(100)に対して機械加工を実行することを可能にするために、前記第1ポンプ(3)を第1回転方向に駆動する工程と、
前記機械加工が実行されると、前記推力チャンバ(22)から油を吸引するために、前記第1ポンプ(3)を逆の第2回転方向に駆動する工程であって、前記ピストン(21)が、油圧アキュムレータ(5)によって前記油圧シリンダ(1 )の戻りチャンバ(23)に送られる加圧された油によって戻り方向に沿って押されることで、前記打抜き工具(51)を前記工作物(100)から引き離し、遠ざけることを可能にする工程と、
を備える、方法。
【請求項10】
前記第1ポンプ(3)の前記駆動の間、第1作業圧力(P1)に達するまで前記推力チャンバ(22)に油を送るために、特に前記第1ポンプ(3)に結合、接続された可逆型の第2ポンプ(7)を前記第1回転方向にさらに駆動する工程であって、前記第1作業圧力(P1)を超えると、第1差動弁(8)を作動させることによって、前記第2ポンプ(7)は、前記油の送り先となる油溜め(15)に接続される工程
を備える、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1ポンプ(3)の前記駆動の間、前記推力チャンバ(22)の前記供給圧力(PA)が第2作業圧力(P2)を超えると、第2差動弁(9)を作動させることによって、前記戻りチャンバ(23)を油溜め(15)に接続する工程
を備える、請求項9または10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属片および/または薄板金を機械加工するための工作機械に関し、特に、打抜き機のマルチプレス打抜き装置に対して設置できる油圧運転システムであって、複数の打抜き工具を別々の独立した態様で動作させるための油圧運転システムに関する。
【背景技術】
【0002】
マルチプレス(マルチツール)打抜き装置を備える、すなわち、複数の打抜き工具(打抜き器)を含む、打抜き機が知られている。前記打抜き工具は、1または複数の列で互いに隣接し、並べて配置されて、例えば、互いに平行な列からなる行列構造を形成し、また、別々の独立した様式で直線的に駆動されて、直線アクチュエータ、典型的には油圧シリンダ、からなるそれぞれのプレス部 から工作物と相互作用する。この種類の機械において、打抜き装置は、工作物に対して必要となる機械加工を順に実行するのに必要な工具を全て含む。これによって、製造サイクル中に工具変更操作を実行する必要がなくなり、(機械の生産性を増加させるための)工具交換のための停止と、(機械の構造を簡素化するために)工具をセットアップおよび交換するための自動装置と、の両方を排除できる。
【0003】
工作物に対して機械加工を正しく実行するために、各打抜き工具の、それぞれの作業軸(一般に、垂直方向)に沿った位置、変位または行程、および速度を確認する必要がある。これは、それらのパラメータが、工作物の材質の厚さおよび種類、および/または、実行する機械加工の種類、に依存するからであり、また、それらに関連するからである。
【0004】
工具を駆動し、その動きを精密に制御するために、前記公知の打抜き装置は、油圧運転システムを備えている。油圧運転システムは、油圧シリンダに供給し、したがって、それらを別々の独立した態様で駆動できる。油圧シリンダのピストンは、それぞれの工具に接続され、それらを動かすことで、同じ作業段階において、工作物に対して、単一の機械加工または複数の機械加工を実行する。
【0005】
公知の油圧運転システムは、一般に、電動機によって駆動される1または複数の油圧ポンプを含む。電動機は、(300バールに達する)高圧の作動液(油)を、好適なバイパスおよび圧力調整弁によって各油圧シリンダに接続される供給路に供給する。上述の弁によって、油圧シリンダ(すなわち、駆動する工具)、シリンダのピストンの動きの方向(すなわち、ピストン/工具の働き行程または戻り行程)、および、油圧シリンダの供給圧力(すなわち、工具が工作物に対して発揮する打抜き力)、を選択することが可能となる。油圧ポンプが供給路に供給する(300バールに達する)高い圧力は、打抜き装置の1または複数の油圧シリンダが、工作物に対して最大の打抜き力を発揮することを確実にするべく計算される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、普通の機械加工プロセスでは、工作物に対して実行される機械加工のうち、油圧シリンダにとっての最大供給圧力となる最大打抜き力の印加を必要とするのは、わずかな一部(およそ20%)のみであり、通常必要とする供給圧力は、それよりも大幅に小さい(60~100バール)。
【0007】
したがって、上述の油圧運転システムの不利な点の1つは、(高圧の供給路の油に対するポンピングのために必要な)高い電力消費、および、全体的に低い電力効率(油の圧力は、実際に大部分の機械加工において低減しなければならない)、にある。
【0008】
前記油圧運転システムの他の不利な点は、以下の事実にある。すなわち、油圧シリンダの制御弁における圧力低減による高い供給圧力と熱放散とにより、油が高温になり、したがって、適切な冷却手段によって冷却しなければならず、結果として、打抜き装置がより複雑で高価になってしまう。
【0009】
本発明の目的の1つは、マルチプレス打抜き装置のための公知の油圧運転システムを改善することである。
【0010】
他の目的は、電力消費が低減され、エネルギー効率が高い、マルチプレス打抜き装置のための油圧運転システムを提供し、実装することである。
【0011】
さらなる目的は、打抜き装置が打抜きプロセスを最適な態様で実行できるようにする、特に、精密かつ正確に、各打抜き工具をそれぞれの作業軸に沿って駆動し、その位置、変位、および、速度を制御することができる、油圧運転システムを実装することである。
【0012】
さらなる目的は、低減され、コンパクトな寸法および空間要件を有する、簡易かつ低コストの、マルチプレス打抜き装置のための油圧運転システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的および他の目的は、下記の特許請求の範囲に記載の油圧運転システムによって達成される。
【0014】
本発明は、いくつかの例示的かつ非限定的な実施形態を示す、以下に説明する添付図面を参照して、よりよく理解し、実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】非作業構成における、打抜き装置に関連付けられた、本発明の油圧運転システムの図である。
【
図2】
図1に対応する図であって、作業構成における油圧運転システムおよび打抜き装置を示し、2つの油圧シリンダを駆動して、それぞれの打抜き工具を工作物に対して動かす図である。
【
図3】
図1に対応する図であって、さらなる作業構成における油圧運転システムおよび打抜き装置を示し、単一の打抜き工具を駆動して、工作物に対して動作させる図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照すると、同図は、本発明の油圧運転システム1を示す。油圧運転システム1は、マルチプレス打抜き装置50の複数の打抜き工具51をそれぞれの作業軸Aに沿って別々の独立した態様で動作させて、打抜き工具51が、打抜き装置50の打抜き鋳型52上に位置する工作物100と相互作用するように、打抜き装置50に関連付けることが可能である。打抜き工具51は、図示する実施形態では4つであるが、4を超える数の打抜き工具51を、1または複数の列で並べて配置して、行列構造を形成してもよい。
【0017】
油圧運転システム1は、複数の油圧シリンダ(ジャッキ)2を含み、各油圧シリンダ2は、それぞれの打抜き工具51に関連付けられており、これを動作させるように構成されている。詳細には、各油圧シリンダ2は、それぞれのピストン21を含み、ピストン21は、推力チャンバ22と戻りチャンバ23とを内部に画定する。各油圧シリンダ2は、さらに、それぞれの打抜き工具51を作業軸Aに沿って動かすために、打抜き工具51に関連付けられている。より具体的には、各ピストン21は、それぞれの油圧シリンダ2内で摺動可能な本体を含み、容積が可変の2つのチャンバ22,21を形成する。各ピストン21は、さらに、ステム部を含み、ステム部は、油圧シリンダ2から突出し、打抜き装置50の接続手段(公知であり、図示しない)によって、関連する打抜き工具51に接続されている。
【0018】
油圧運転システム1は、第1ポンプ3をさらに含む。第1ポンプ3は、特に複数の供給ダクトによって形成される供給路12によって、油圧シリンダ2の推力チャンバ22に接続されている。第1ポンプ3は、可逆型のポンプであり、以下のように構成されている。すなわち、加圧された油を、推力チャンバ22のうちの1または複数に送ることで、それぞれのピストン21を作業方向に沿って押し、それに関連付けられた打抜き工具51が工作物100と相互作用できるようにする(駆動段階)か、または、前記推力チャンバ22から油を吸引することで、それぞれのピストン21を、作業方向とは逆の戻り方向に沿って動かし、打抜き工具51を工作物100から引き離し、取り除く(吸引段階)。特に、駆動段階では、第1ポンプ3は、油を供給圧力PAに達するまで送るが、これは、必要とする機械加工を実行するために打抜き工具が工作物100に対して発揮しなければならない所望の打抜き力に関連するものである。
【0019】
油圧運転システム1は、大気圧を有する油溜め15を含む。油溜め15は、排出路14を介して第1ポンプ3の一方の口部に接続されており、第1ポンプ3の他方の口部は、供給路12を通じて油圧シリンダ2に接続されている。駆動段階では、第1ポンプ3は、油溜め15から油を引き込み、加圧された状態の油を油圧シリンダ2に送る。吸引段階では、第1ポンプ3は、油圧シリンダ2によって吸引された油を油溜め15に注ぐ。
【0020】
油圧運転システム1は、特に供給路12に挿入された複数の切替え弁4をさらに含む。各切替え弁4は、第1ポンプ3と、それぞれの油圧シリンダ2の推力チャンバ22と、の間に介在する。また、各切替え弁4は、作動させて開き、第1ポンプ3を推力チャンバ22と流動接続させることで、油圧シリンダ2と、関連する打抜き工具51とを作業方向に動作させることができる。
【0021】
油圧(加圧)アキュムレータ5が、特に複数の戻りダクトによって形成される戻り路13によって、油圧シリンダ2の戻りチャンバ23に接続されている。油圧アキュムレータ5(公知の種類であるため、詳述せず)は、シリンダの戻りチャンバ23における油を既定の予荷重圧力に維持するように構成されており、特に、対応する切替え弁4を作動させることによって選択的に動作する、油圧シリンダ2の1または複数のピストン21を、戻り方向に沿って動かすようになっている。
【0022】
以下のことに留意すべきである。すなわち、油圧シリンダ2の戻りチャンバ23における油の予荷重圧力によって、油圧シリンダ2と供給路12および戻り路13との、すなわち、油圧運転システム1全体の剛性がより大きくなる。これによって、油圧運転システム1は、工作物100に対して機械加工が実行される間、ピストン21の、したがって打抜き工具51の動きに関して、より反応的かつ精密になる。
【0023】
以下のことにも留意すべきである。すなわち、各油圧シリンダ2において、打抜き工具51が工作物100に対して発揮できる打抜き力は、ピストン21に作用する供給圧力を有する油から推力チャンバ22において得られる作業方向の推力と、ピストン21に作用する予荷重圧力を有する油から戻りチャンバ23において得られる戻り方向の(逆方向の)対比する力と、の間の差によって生じる。
【0024】
油圧運転システム1は、電動機6を含む。電動機6は、例えば、打抜き装置50の制御ユニットなどの制御ユニット10によって制御される。また、電動機6は、可逆型の第1ポンプ3を、両方の回転方向に、第1ポンプ3が加圧された油を既定の流速で送出するように駆動するべく構成されている。より具体的には、制御ユニット10は、特に電動機軸6aの回転トルク、速度、および、加速度を変動させることによって、電動機6の動作を規制する。電動機軸6aは、作業条件にしたがって第1ポンプ3を駆動する。作業条件とは、例えば、動作させる打抜き工具51(すなわち、油圧シリンダ2)の数、工作物100に対して発揮する打抜き力(すなわち、油圧シリンダに対する油の供給圧力)、などである。前記規制のために、油圧運転システム1は、供給路12に挿入された複数の圧力センサ17を含む。各圧力センサ17は、それぞれの油圧シリンダ2に関連付けられており、推力チャンバ3における油の圧力を測定することができる。圧力センサ17は、制御ユニット10に接続されており、検出した圧力に関する信号を制御ユニット10に送る。
【0025】
図示する実施形態において、本発明の油圧運転システム1は、同じく可逆型の第2ポンプ7を含む。第2ポンプ7は、特に伝動軸によって第1ポンプ3に結合、接続されており、実質的に第1ポンプ3と同一である。2つのポンプ3,7は、制御ユニット10によって制御される同じ電動機6によって動作して、ともに同じ速度で回転し、加圧された油を既定の流速で油圧シリンダ2に送出する。
【0026】
本発明の油圧運転システム1の変形例(図示せず)において、第1ポンプ3と第2ポンプ7とは一体化して、2つのポンピングユニットの組み合わせを備える単一のポンプとなっている。
【0027】
第1差動弁8が、第2ポンプ7と、油圧シリンダ2の推力チャンバ22と、の間に介在する。第1差動弁8は、推力チャンバ22のうちの少なくとも1つにおいて供給圧力PAが第1作業圧力P1を超えると作動し、第2ポンプ7を油溜め15に接続して、第2ポンプ7をバイパスし、または、再循環に組み込み、電動機6の全動力を第1ポンプ3に伝達させることができる。これによって、第1ポンプ3は、より高い圧力値で油を押し、圧縮することができる。第1差動弁8は、例えば、供給路12に挿入され、第1排出ダクト16を介して油溜め15に接続された三方弁である。第1差動弁8は、例えば、圧力センサ17から送られる圧力信号に基づいて、制御ユニット10によって制御され、作動する。あるいは、第1差動弁8は、供給路12における油の圧力によって作動するパイロット弁によって駆動するサーボ弁であってもよい。
【0028】
油圧運転システム1は、第2差動弁9をさらに含む。第2差動弁9は、油圧アキュムレータ5と、油圧シリンダ2の戻りチャンバ23と、の間に介在する。また、第2差動弁9は、推力チャンバ22のうちの少なくとも1つにおいて供給圧力PAが第2作業圧力P2を超えると作動し、戻りチャンバ23を油溜め15に接続して、油溜め15を排出状態に、すなわち、大気圧にすることができる。これによって、推力チャンバ22における油の供給圧力PAは一定のままである一方、戻りチャンバ23の圧力が大気圧の値まで減少するにしたがって、打抜き力は増加する。したがって、このようにすることで、供給圧力PAの値を抑制しつつ、第1ポンプ3の電力消費を低減させることが可能となる。
【0029】
第2作業圧力P2の値は、第1作業圧力P1の値よりも高い。
【0030】
第2差動弁9は、例えば、戻り路13に挿入され、第2排出ダクト18を介して油溜め15に接続された三方弁である。第2差動弁9は、例えば、圧力センサ17から送られる圧力信号に基づいて、制御ユニット10によって制御され、作動する。あるいは、第2差動弁9は、供給路12における油の圧力によって作動するパイロット弁によって駆動するサーボ弁であってもよい。
【0031】
マルチプレス打抜き装置50に関連付けられた、本発明の油圧運転システム1を動作させると、必要とする機械加工を工作物100に対して実行するのに必要な(複数の)打抜き工具51を、例えば、
図2の例示的な作業構成では2つの打抜き工具51を、それぞれの油圧シリンダ2を駆動して、動かす。油圧シリンダ2は、対応する切替え弁4を作動させ、開き、第1ポンプ3と第2ポンプ7とを第1回転方向に駆動して、加圧された油を推力チャンバ22に送ることによって動作する。より具体的には、電動機6は、制御ユニット10によって制御されて、既定の速度およびトルクでポンプを第1回転方向に回転させることで、ポンプ3,7が、工作物100に対して発揮される打抜き力に関係する供給圧力PAを有する油を安定した流速で、すなわち、工作物100が機械加工に対抗する抵抗力によって、送出する。打抜き力は、使用する工具の種類(形状、大きさ、など)、実行する具体的な機械加工(穴あけ、切削、変形、など)、および、工作物100の材質に依存するが、打抜き力は、機械加工の実行中に変動する、特に、増加することがあるため、供給圧力PAも推力チャンバ22内で変動(増加)することがあり、これによって、ポンプ3,7が必要とする供給圧力PAを供給するように、電動機6がポンプ3,7に供給しなければならないトルクまたは動力が増加する。
【0032】
以下のことに留意すべきである。すなわち、打抜き力、つまり、ピストン21によって発揮される、打抜き工具51に対する有効力は、ピストン21に作用する供給圧力PAを有する油によって推力チャンバ22において生じる作業方向に沿う推力と、ピストン21に作用する予荷重圧力を有する油から(油圧アキュムレータ5に接続された)戻りチャンバ23において提供される戻り方向に沿う対比する力と、の間の差によって生じる。以下のことにも留意すべきである。すなわち、油圧シリンダ2の戻りチャンバ23における油の予荷重圧力によって、油圧シリンダ2と供給路12および戻り路13との、すなわち、油圧運転システム1全体の剛性が大きくなる。これによって、油圧運転システム1は、より反応的かつ精密になる。機械加工が工作物100に対して実行されると、それぞれの油圧シリンダ2のピストン21を戻り方向に動かすことによって、打抜き工具51を工作物100から引き離し、遠ざける。これは、電動機6の回転方向を逆転させることによって、すなわち、ポンプ3,7を、逆の第2回転方向に回転させて、推力チャンバ22から油を吸引し、油溜め15に向けて移送することによって、達成される。これによって、推力チャンバ22の油の圧力は(大気圧の値近くまで)低減されて、戻りチャンバ23内の(油圧アキュムレータ5によって確保される)予荷重圧力を有する油が、ピストン21を戻り方向に押すことができる。
【0033】
以下のことに留意すべきである。すなわち、油圧アキュムレータ5を使用してピストン21を戻り方向に動かすようにすることで、油圧運転システム1を簡素化し、より経済的にできる。これは、ポンプ3,7から戻りチャンバ23に分配された油を移送するためにさらなる切替え弁を使用することを避けられるからである。その上、電動機6と、推力チャンバ22を油溜め15に接続するために実質的に動作するポンプ3,7と、の電力消費は最小となり、ポンプ3,7がピストン21を戻り方向に動かすのに必要となる電力消費よりも低い。
【0034】
図3は、打抜き装置50の油圧運転システム1の他の作業構成を示す。この作業構成は、対応する切替え弁4を作動させて、ポンプ3,7が加圧された油をそれぞれの油圧シリンダ2に送るようにすることによって、単一の打抜き工具51を動作させる。この構成では、ピストン21および打抜き工具51の行程において、打抜き力は次第に増加し、それとともに、推力チャンバ22内の供給圧力PAも増加する。供給圧力PAが第1作業圧力P1を超えると、第2ポンプ7は、再循環に組み込まれる。すなわち、第2ポンプ7は、送出のために油溜め15に接続されて、油溜め15に油を送り、第1差動弁8を作動させる。これによって、第2ポンプ7は、動作から実質的に除外され、電動機6の全動力が第1ポンプ3に供給される。したがって、必要とする供給圧力PAの増加を保証できる。より具体的には、供給圧力PAを増加させ、油の流速、すなわち、ピストン21の速度を低減させ、実質的に電動機6の動力を増加させない、または、実質的にそのような増加を限定的にする、ことが可能である。これにより、供給システム1全体の電力消費を抑制することができる。
【0035】
機械加工が進み、打抜き力がさらに増加し、それとともに、推力チャンバ22内の供給圧力PAも増加した場合、供給圧力PAが第2作業圧力P2を超えると、第2差動弁9が作動する。この結果、戻りチャンバ23が油溜め15と流動接続する。すなわち、戻りチャンバ23が、大気圧の排出状態になる。これによって、推力チャンバ22の油の供給圧力PAを、実質的に一定のままに(また、第2作業圧力P2と等しく)できる、または、増加を限定的にできる。しかし、ピストン21によって作業方向に発揮される有効力、すなわち、打抜き力は、相当に増加する。これは、戻りチャンバ23の圧力が大気圧の値まで減少する、すなわち、ピストンの、戻り方向の対比する力が減少する、からである。すなわち、第2差動弁9によって戻りチャンバ23を排出することによって、供給圧力PAを増加させる、または、電動機6の動力を増加させる、必要なしに、打抜き力を相当に増加させることが可能であり、これによって、電力消費を抑制できる。
【0036】
この場合も、工作物100に対する機械加工が終了すると、ピストン21を戻り方向に動かす、特に、ポンプ3,7を逆の第2回転方向に回転させて、推力チャンバ22から油を吸引し、油溜め15に向けて移送し、さらに、第2差動弁9を停止して、戻りチャンバ23を油圧アキュムレータ5に再度接続することによって、打抜き工具51を工作物100から引き離し、遠ざける。これによって、推力チャンバ22の油の圧力は低減されて、戻りチャンバ23内の(油圧アキュムレータ5によって確保される)予荷重圧力を有する油が、ピストン21を戻り方向に押すことができる。
【0037】
マルチプレス打抜き装置50に関連付けることが可能な、本発明の油圧供給システム1のおかげで、上述の打抜き装置の複数の打抜き工具51を、精密かつ正確に、個々に独立して動作させて、工作物100に対して1または複数の機械加工を同時に実行することが可能である。より具体的には、切替え弁4を作動させることによって、それぞれの打抜き工具51を動かすべく動作させる油圧シリンダ2を選択することが可能である。
【0038】
制御ユニット10によって制御される電動機6に作用することでポンプ3,7の回転速度を調節することによって、油圧シリンダ2の推力チャンバ22の油の流速および供給圧力を調節することが可能であり、したがって、ピストン21およびそれぞれの打抜き工具51の位置、変位、および、速度を作業軸Aに沿って精密かつ正確に制御することが可能である。油圧シリンダ2および本発明の油圧運転システム1全体は、精密さおよび反応性、すなわち、コマンドおよび調節(シリンダの油の流速および/または圧力の変化)に反応する能力、を有するが、これらを確実にするのは、すでに強調したように、油圧運転システム1全体の剛性でもあり、この剛性は、油圧シリンダ2の戻りチャンバ23を油圧アキュムレータ5に接続して、油を既定の予荷重圧力に維持することによって得られる。
【0039】
油圧アキュムレータ5は、ピストン21が戻り方向に動くことを可能にするが、油圧運転システム1を簡素化し、その価格を抑えることも可能にする。これは、ポンプ3,7から戻りチャンバ23に供給された油を移送するためにさらなる切替え弁を使用することを避けられるからである。また、油圧アキュムレータ5によって、電動機6と、上述のピストン21を戻り方向に動かすために加圧された油を送出してはならないポンプ3,7と、の電力消費が低減する。
【0040】
また、本発明の油圧運転システム1は、2つの差動弁8,9を使用するおかげで、電力消費が低減され、電力効率が高い。差動弁8,9は、油圧シリンダ2の供給圧力PAが、それぞれ第1作業圧力P1および第2作業圧力P2に達した際に作動する。より具体的には、供給圧力PAが第1作業圧力P1を超えると、第2ポンプ7は、再循環に組み込まれ、送出のために 油溜め15に接続されて、第1差動弁8を作動させる。その結果、電動機6は、実際に第1ポンプ3だけを駆動する。したがって、電動機6の動力、したがって、その電力消費を増加させることなく、必要とする供給圧力PAの増加を保証することが可能である。
【0041】
供給圧力PAが第2作業圧力P2を超えると、戻りチャンバ23と油溜め15とを流動接続させる第2差動弁9も作動する。よって、推力チャンバ22の油の供給圧力PAは、実質的に一定のままにできる、または、増加を限定的にできる。これは、ピストン21に対して作業方向に発揮される有効力、すなわち、打抜き力が、戻りチャンバ23の圧力を減少させることによって増加するからである。打抜き力を増加させる際、供給圧力PAを増加させる、すなわち、電動機6の動力を増加させる、必要はない。
【0042】
したがって、本発明の油圧運転システム1は、マルチプレス打抜き装置のための公知の駆動システムと比較して、エネルギー消費がより効率的である。
【0043】
以下のことにも留意すべきである。すなわち、本発明の油圧運転システム1が含む弁の数は限られており、通常の油圧アキュムレータを使用することは、簡易かつ経済的であり、寸法および空間要件を低減し、コンパクトにできる。
【0044】
上述の油圧運転システム1を備える、
図1から
図3に示すマルチプレス打抜き装置50の複数の打抜き工具51を別々の独立した態様で動作させるための、本発明に係る方法は、以下を含む。
動作させる少なくとも1つの打抜き工具51を選択する工程であって、供給圧力PAを有する油を送出するように構成されている、可逆型の第1ポンプ3と、選択された打抜き工具51に作用する油圧シリンダ2と、の間に介在するそれぞれの切替え弁4を作動させて開くことによって選択する工程。
油圧シリンダ2の推力チャンバ22内に加圧された油を送るために、第1ポンプ3を第1回転方向に駆動して、前記油圧シリンダ2のピストン21を作業方向に沿って押し、前記ピストン21に関連付けられた、選択された打抜き工具51が、工作物100に対して機械加工を実行することを可能にする工程。
前記機械加工が実行されると、推力チャンバ22から油を吸引するために、第1ポンプ3を逆の第2回転方向に駆動して、油圧アキュムレータ5によって油圧シリンダ2の戻りチャンバ23に送られる加圧された油によってピストン21を戻り方向に沿って押し、打抜き工具51を工作物100から引き離し、遠ざけることを可能にする工程。
【0045】
前記方法は、第1ポンプ3の前記駆動の間、第1作業圧力P1に達するまで油圧シリンダ2の推力チャンバ22に油を送るために、特に第1ポンプ3に結合、接続された第2ポンプ7を第1回転方向にさらに駆動する工程であって、第1作業圧力P1を超えると、第1差動弁8を作動させることによって、第2可逆ポンプ7は再循環に組み込まれ、油の送り先となる油溜め15に接続される工程をさらに含む。前記方法は、第1可逆ポンプ3の前記駆動の間、推力チャンバ22の油の圧力が第2作業圧力P2を超えると、第2差動弁9を作動させることによって、油圧シリンダ2の戻りチャンバ23を油溜め15に接続する工程をさらに含む。