(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】ナノエマルション組成物およびそれを含む化粧料または外用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/39 20060101AFI20220330BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20220330BHJP
A61K 8/92 20060101ALI20220330BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20220330BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20220330BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220330BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20220330BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
A61K8/39
A61K8/06
A61K8/92
A61K8/86
A61K9/107
A61Q19/00
A61Q19/10
A61Q5/00
(21)【出願番号】P 2017209880
(22)【出願日】2017-10-31
【審査請求日】2020-09-18
(31)【優先権主張番号】P 2016215280
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226437
【氏名又は名称】日光ケミカルズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000228729
【氏名又は名称】日本サーファクタント工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301068114
【氏名又は名称】株式会社コスモステクニカルセンター
(72)【発明者】
【氏名】田中 佳祐
【審査官】小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-62056(JP,A)
【文献】特開2014-129326(JP,A)
【文献】特開2013-47206(JP,A)
【文献】Pola Daily Cosme, Japan,Eyemoist Eye Cream,Mintel GNPD [online],2010年02月,[検索日2022.01.11],URL:https://www.gnpd.com/sinatora/recordpage/
【文献】Albion, Japan,Face & Neck Massage Cream SV,Mintel GNPD [online],2014年10月,[検索日2022.01.11],URL:https://www.gnpd.com/sinatora/recordpage/
【文献】Pola, Japan,Cold Cream,Mintel GNPD [online],2010年02月,[検索日2022.01.11],URL:https://www.gnpd.com/sinatora/recordpage/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61K 9/107
A61Q 1/00-90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)~(c)を必須成分として含有する平均粒子径が300nm以下のナノエマルション組成物
であり、成分(a)と、成分(b)を含む油相成分との比率が2:8~8:2であり、且つ(a)+(c)を含む水相成分と、(b)を含む油相成分との比率が5:5~8:2であることを特徴とするナノエマルション組成物。
(a)ポリオキシエチレン付加モル数が5~100であるポリオキシエチレン硬化ひまし油
(b)ワセリン、シア脂、ラノリンから選ばれる1種または2種以上である常温で流動性のないペースト状油剤
(c)水
【請求項2】
請求項
1に記載のナノエマルション組成物を含有する化粧料。
【請求項3】
請求項
1に記載のナノエマルション組成物を含有する外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温で流動性のないペースト状油剤を安定に水へ分散させたナノエマルション組成物およびそれを含有した化粧料または外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、水と油は混じり合わず、界面活性剤などを用いて乳化することで混合させている。常温において液状成分だけであれば、加熱の必要もなく簡易に混合することが可能だが、常温においてペースト状の油剤は加熱し溶解後に混合することで乳化できる。しかしながら、液状の油剤でもペースト状油剤でも香粧品分野における化粧水や乳液のような低粘性の製剤へ配合する場合は水と油剤の比重差によるクリーミングを生じることが多く、製剤の安定性を担保することが難しい。クリーミングを抑制する方法としては製剤全体を増粘させて油剤のクリーミングを防ぐ方法と、油剤の粒子径をできる限り小さくして油剤のクリーミングを防ぐ方法の2種類があるが、化粧水のような剤型では製剤の外観や使用感などを理由に増粘させて油剤を安定化するには限界がある。粒子径を小さくすることによるクリーミング抑制は高圧ホモジナイザーや超音波乳化機などによって調製できる場合もあるが、いずれも特殊な装置が必要で一般的でない(非特許文献1)。
界面活性剤を用いたナノエマルション化技術は転相温度乳化法や液晶乳化法、D相乳化法などがあるが(非特許文献2)、いずれも液状油剤を用いた検討が主に行われており(特許文献1)、ペースト状油剤を油性成分として用いたナノエマルション技術については、検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn. 44(3), 199-207 (2010)
【文献】日化, 1983, 1399 (1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、化粧水や乳液、シート用液剤などのような粘度が低い製剤において安定にペースト状油剤を配合することができるナノエマルション組成物、さらにこれを配合した化粧水や乳液、スキンケアシートやパック、清浄シート用の液剤等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これらの実情を鑑み、本発明者らはペースト状油剤を低粘性製剤へ簡易に配合できるナノエマルション組成物を得るために鋭意研究を行った結果、(a)ポリオキシエチレン付加モル数が5~100であるポリオキシエチレン硬化ひまし油と(b)常温で流動性のないペースト状油剤と(c)水とを組み合わせることにより、粒子径300nm以下のナノエマルション組成物を調製し、さらにこのナノエマルション組成物を含有する化粧料または外用剤を得るに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、従来では困難であった、化粧水や乳液等の低粘性製剤へペースト状油剤を安定に配合することができる。また、あらかじめナノエマルション組成物を調製してから化粧水や乳液に配合することにより、高圧ホモジナイザーや超音波乳化機などの特殊な装置を用いることなく、安定かつ容易にペースト状油剤を配合した種々の化粧料や外用剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明について詳述する。
本発明に使用される成分(a)は、ポリオキシエチレン付加モル数が5~100であるポリオキシエチレン硬化ひまし油であり、好ましくはポリオキシエチレン付加モル数が5~60であり、さらに好ましくは10~60である。ポリオキシエチレン付加モル数を変えたポリオキシエチレン硬化ひまし油の合成は容易であり、任意にポリオキシエチレン付加モル数を変えたポリオキシエチレン硬化ひまし油を合成できる。これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。市販品としては、日光ケミカルズ社製 NIKKOL HCOシリーズ(ポリオキシエチレン付加モル数:5~100)などが挙げられる。
【0009】
本発明に使用される成分(b)は、常温でペースト状の油剤であり、具体的にはワセリン、シア脂、ラノリン、アミノ酸誘導体、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどがあり、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
さらに、本発明の(b)常温で流動性のないペースト状油剤には、本発明の効果を損なわない範囲において、液状油や固形油といった油相成分を組み合わせることもできる。具体的には、液状油としてはスクワランや流動パラフィン、イソパラフィンなどの炭化水素油、トリイソオクタン酸グリセリル、ミリスチン酸イソプロピル、イソオクタン酸セチル、パルミチン酸イソオクチルなどのエステル油、オリーブ油、マカデミアンナッツ油、ホホバ油などの植物油、ジメチルシリコーン、フェニルメチルシリコーン、シクロメチコン、アモジメチコンなどのシリコーン油、フッ素油などが挙げられる。固形油としては、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールなどの高級アルコール、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸などの高級脂肪酸などが挙げられる。これらは種類を問わず1種又は2種以上を組み合わせて任意に使用できる。
【0010】
本発明で使用される成分(c)水には、本発明の効果を損なわない範囲において、水に溶解する成分を配合することができる。具体的には、ポリオール、アニオン性界面活性剤、pH調整剤、防腐剤などが挙げられる。より具体的には、ポリオールとしては、グリセリン、ジグリセリン、ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて配合することもできる。
【0011】
本発明のナノエマルション組成物は、成分(a)と成分(b)を含む油性成分とを混合し加温し均一に溶解させ、そこに予め同温に加温した成分(c)を含む水相を、撹拌しながら徐々に添加し、室温まで冷却する方法で、調製することができる。
ナノエマルション組成物においては、成分(a)と、成分(b)を含む油性成分との配合比が2:8~8:2であることが好ましい。
さらに、成分(a)と成分(c)を含む水相成分の合計と、成分(b)を含む油相成分との比率が、5:5~8:2が好ましい。
化粧料又は外用剤における、ナノエマルション組成物の配合量は0.01~30.0質量%が好ましく、化粧水や乳液といった製剤の剤型のタイプや要求される粘度に応じて最適な配合量は異なる。
【0012】
さらに、本発明のナノエマルション組成物を含む化粧料または外用剤には、本発明の効果を損なわない範囲において、通常化粧料または外用剤に用いられる各種の成分、例えば、極性脂質、活性成分、保湿成分、抗菌成分、粘度調整剤、色素、香料等を配合できる。
【0013】
極性脂質としては、セラミド類、リン脂質、コレステロール及びその誘導体、糖脂質類などが挙げられる。
活性成分としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム、パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、テトライソパルミチン酸アスコルビル、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、エラグ酸、ルシノールなどの美白剤、アミノ酸などのNMF成分、水溶性コラーゲン、エラスチン、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、セラミドなどの肌荒れ防止剤、レチノール、ビタミンA酸などの抗老化剤や各種ビタミン類やその誘導体などが挙げられる。
【0014】
保湿成分としては、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ピロリドンカルボン酸ナトリウムなどを挙げられる。
さらに、本発明のナノエマルション組成物を含む化粧料または外用剤としては、化粧水、乳液、クリーム等のスキンケア化粧料、トリートメント、コンディショナー、整髪剤等のヘアケア剤、シート状のパックやマスク、スキンケアシート等の化粧料、おしり拭き等の清浄シートに液剤を含浸させた製剤等が挙げられるが、これに制限されるものではない。
【実施例】
【0015】
以下に実施例を示しながら本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。また以下に示す質量%とは、組成物全体に対する質量%のことである。
【0016】
<実施例1>
(1)組成物の調製
表1および表2に示す組成で、常温においてペースト状油剤を含むナノエマルション組成物を調製した。本ナノエマルション組成物はA相およびB相を加温溶解し、A相を撹拌しながらB相を徐々に添加し、すべて添加後に撹拌しながら冷却して調製した。
調製したナノエマルション組成物は下記の評価を実施した。
(2)粒子径測定
調製したサンプルを精製水で任意の濃度に希釈し、Zetasizer Nano S(Malvern社)を用いて粒子径を測定した。ナノエマルションが調製できず、調製直後に分離したものは測定を行わなかった。
(3)安定性評価
調製したナノエマルション組成物を室温、5℃、45℃の条件下で保存し、1か月後の粒子径を評価した。調製直後に測定したものを初期粒子径とし、初期粒子径と大きな差がなく変化が初期粒子径に対して20%以内のものを○、それ以上の変化が起きたものを×とした。
【0017】
【0018】
【0019】
<実施例2>白濁化粧水
(A)発明品6 5.00(質量%)
精製水 10.00
(B)エタノール 3.00
キサンタンガム(2%水溶液) 7.00
ヒアルロン酸ナトリウム(1%水溶液) 1.00
クエン酸 0.02
クエン酸三ナトリウム 0.05
防腐剤 適量
精製水 残余
(調製方法)A相を室温にて均一混合する。B相を加温し均一溶解する。B相を撹拌しながら冷却し、35℃付近で混合したA相を添加し、均一撹拌後、調製終了とする。
(初期粒子径)102.8nm
(製剤安定性)○
【0020】
<実施例3>保湿エッセンス
(A)PEG-20硬化ひまし油(HCO-20) 0.50(質量%)
PEG-40硬化ひまし油(HCO-40) 0.90
ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)
3.00
エチルヘキサン酸セチル(CIO) 1.00
シクロペンタシロキサン(KF-995) 1.60
(B)グリセリン 0.40
1,3-ブチレングリコール 0.60
精製水 9.00
(C)カルボマー(2%水溶液) 8.00
グリセリン 8.00
水添レシチン 0.70
ヒアルロン酸ナトリウム(1%水溶液) 1.00
クエン酸 0.03
クエン酸三ナトリウム 0.07
防腐剤 適量
精製水 残余
(D)アルギニン 0.16
精製水 10.00
(調製方法)A相およびB相を加温し均一混合する。A相を撹拌しながらB相を添加し、すべて添加後、撹拌しながら室温まで冷却する。C相を加温し均一混合後、室温まで冷却する。D相を室温で均一混合し、C相に添加する。C+D相を撹拌しながらA+B相を徐々に添加し、均一混合後、調製終了とする。
(初期粒子径)269.3nm
(製剤安定性)○
【0021】
<実施例4>毛髪ケアローション
(A)発明品4 7.00(質量%)
精製水 15.00
(B)ベヘナミドプロピルジメチルアミン 0.70
グリチルリチン酸ジカリウム 0.05
エタノール 8.00
1,3-ブチレングリコール 5.00
防腐剤 適量
精製水 残余
(調製方法)A相を室温にて均一混合する。B相を加温し均一溶解する。B相を撹拌しながら冷却し、35℃付近で混合したA相を添加し、均一撹拌後、調製終了とする。
(初期粒子径)147.0nm
(製剤安定性)○
【0022】
<実施例5>おしりふきシート用液剤
(A)発明品3 0.01(質量%)
精製水 15.00
(B)ラウリン酸ポリグリセリル-10 0.70
ポリアミノプロピルビグアニド 0.05
精製水 残余
(調製方法)A相を室温にて均一混合する。B相を加温し均一溶解する。B相を撹拌しながら冷却し、35℃付近で混合したA相を添加し、均一撹拌後、調製終了とする。
(初期粒子径)122.9nm
(製剤安定性)○
【0023】
<実施例6>浴用剤
(A)発明品2 30.00(質量%)
精製水 30.00
(B)1,3-ブチレングリコール 5.00
グリセリン 5.00
防腐剤 適量
精製水 残余
(調製方法)A相を室温にて均一混合する。B相を加温し均一溶解する。B相を撹拌しながら冷却し、35℃付近で混合したA相を添加し、均一撹拌後、調製終了とする。
(初期粒子径)290.7nm
(製剤安定性)○
【0024】
<実施例7>シートマスク薬液
(A)発明品1 10.00(質量%)
精製水 10.00
(B)1,3-ブチレングリコール 5.00
グリセリン 5.00
キサンタンガム(2%水溶液) 10.00
ヒアルロン酸ナトリウム(1%水溶液 ) 1.00
防腐剤 適量
精製水 残余
(調製方法)A相を室温にて均一混合する。B相を加温し均一溶解する。B相を撹拌しながら冷却し、35℃付近で混合したA相を添加し、均一撹拌後、調製終了とする。
(初期粒子径)183.2nm
(製剤安定性)○
【0025】
<実施例8>ふき取り化粧水薬液
(A)発明品5 4.50(質量%)
精製水 5.00
(B)1,3-ブチレングリコール 5.00
グリセリン 5.00
カルボマー(2%水溶液) 5.00
ヒアルロン酸ナトリウム(1%水溶液 ) 1.00
エタノール 3.00
防腐剤 適量
精製水 残余
(調製方法)A相を室温にて均一混合する。B相を加温し均一溶解する。B相を撹拌しながら冷却し、35℃付近で混合したA相を添加し、均一撹拌後、調製終了とする。
(初期粒子径)183.2nm
(製剤安定性)○
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のペースト状油剤を含むナノエマルション組成物およびそれを含有する化粧料または外用剤は、従来では調製困難であった化粧水や乳液、拭き取りシート用薬液などの低粘度の剤型にペースト状油剤が安定に保持できる、今までにない新しい剤型の化粧料または外用剤を提供できる。