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特許7048936自穿孔ロックボルト及びそれを用いた地山の補強工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】自穿孔ロックボルト及びそれを用いた地山の補強工法
(51)【国際特許分類】
   E21D 20/00 20060101AFI20220330BHJP
   E21D 9/04 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
E21D20/00 V
E21D9/04 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017245205
(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公開番号】P2019112786
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591140813
【氏名又は名称】株式会社カテックス
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】村松 富士登
(72)【発明者】
【氏名】石川 巧
(72)【発明者】
【氏名】奥村 正樹
(72)【発明者】
【氏名】葛西 政志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 浩
(72)【発明者】
【氏名】永田 潤一
(72)【発明者】
【氏名】岩本 昭仁
(72)【発明者】
【氏名】嘉本 惇一
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-186490(JP,A)
【文献】特開2001-200687(JP,A)
【文献】特開2003-176530(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0326873(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 20/00
E21D 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に穿孔ビットを備えた中空状のロックボルトからなり、前記ロックボルトは、繊維強化樹脂製ロックボルトと鋼製ロックボルトとがスリーブによって軸方向に連結されてなる自穿孔ロックボルトであって、
先端に穿孔ビットを備えた前記繊維強化樹脂製ロックボルトの後端に、前記鋼製ロックボルトが連結されていることを特徴とする自穿孔ロックボルト。
【請求項2】
先端に穿孔ビットを備えた中空状のロックボルトからなり、前記ロックボルトは、繊維強化樹脂製ロックボルトと鋼製ロックボルトとがスリーブによって軸方向に連結されてなる自穿孔ロックボルトであって、
先端に穿孔ビットを備えた先端側鋼製ロックボルトの後端に、前記繊維強化樹脂製ロックボルトが連結されるとともに、前記繊維強化樹脂製ロックボルトの後端に後端側鋼製ロックボルトが連結されていることを特徴とする自穿孔ロックボルト。
【請求項3】
前記スリーブにおいて、前記繊維強化樹脂製ロックボルトの結合長さは、前記鋼製ロックボルトの結合長さより長い請求項1、2いずれかに記載の自穿孔ロックボルト。
【請求項4】
前記繊維強化樹脂製ロックボルト及び鋼製ロックボルトはそれぞれ、少なくとも前記スリーブが結合する部分の外面に雄ねじ部が形成され、前記スリーブの内面に前記雄ねじ部がそれぞれ螺合可能な雌ねじ部が形成されている請求項1~いずれかに記載の自穿孔ロックボルト。
【請求項5】
上記請求項1~いずれかに記載の自穿孔ロックボルトを用いた地山の補強工法であって、
前記自穿孔ロックボルトを地山に打設し、前記繊維強化樹脂製ロックボルト及び鋼製ロックボルトの中空部を通じてグラウト材を注入し、前記グラウト材が地山内に浸透することによって地山を補強することを特徴とする自穿孔ロックボルトを用いた地山の補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿孔した孔壁が自立せずロックボルトの挿入が困難な軟弱な地山などにおいて、先端に取り付けた穿孔ビットによって自ら穿孔しながら地山に打設される自穿孔ロックボルト及びそれを用いた地山の補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ロックボルトを用いた支保工として、穿孔ロッドを備えたドリルジャンボによって切羽の鏡面や壁面から地山に向けて穿孔を行った後、前記穿孔ロッドを引き抜き、この穿孔内にロックボルトを挿入し、周囲にグラウト材を充填して地山との一体化を図ることによって、地山の変位や、ゆるみを防止し、トンネル周辺の地山補強をする処理が知られている。
【0003】
また、穿孔ロッドの引抜き時などに孔壁崩壊のおそれがある崩壊性地山等の場合には、穿孔ロッドを引き抜いてから穿孔内にロックボルトを挿入することが困難なため、先端に穿孔ビットを備えたロックボルトによって、地山を穿孔しつつロックボルトを地山に打設し、穿孔に使用したロッドをそのまま補強用のロックボルトとして使用する自穿孔ロックボルトが用いられることがある。この自穿孔ロックボルト工は、先端に穿孔ビットが取り付けられた中空状のロックボルトを用いて、ドリルジャンボによって地山を穿孔した後、ロックボルトの後端からグラウト材を注入し、注入されたグラウト材が穿孔ビットを通って穿孔内に充填・固化するようにしたものである。
【0004】
軟弱な地山でのトンネル掘削に際しては、切羽の自立が困難で切羽が不安定な場合、切羽に鏡ボルトを打ち込むことにより切羽前方地山の安定化を図る補助工法が用いられることがある。この工法では、切羽の掘削時に、打ち込まれた鏡ボルトごと掘削することから、切羽掘削時に支障とならず、比較的容易に切断できるように、前記鏡ボルトの材質としては、ガラス繊維強化樹脂(Glassfiber Reinforced Plastic、GRP若しくはGFRPと略される。)が用いられることが多い。前記GRPロックボルトは、鋼製のものに比べて耐腐食性に優れ、重量が1/4程度と軽量であるため施工性に優れており、トンネル掘削時のカッタービットなどによる切削が容易であるなどの利点を有するため、鏡ボルトに限らず、トンネルの壁面に放射状に打設されるロックボルトなど、その他のロックボルトとしても広く用いられている。
【0005】
繊維強化樹脂製のロックボルトとしては、例えば、下記特許文献1において、先端側に削孔クラウンを装着すると共に、基端側を穿孔機又は注入機に接続する様にした岩盤用の支持部材において、硬化樹脂から成るパイプの肉厚内に、該パイプの長手方向に配向した直線状ガラス繊維及び螺旋状ガラス繊維を夫々有する繊維強化硬化樹脂のロッドの両端外周部にネジ部を形成した自穿孔ボルトが開示されている。
【0006】
また、鏡ボルトによる不良地山の補助工法としては、例えば、下記特許文献2において、管状補強材を地中に打設し、その打設された又は打設途中の管状補強材の内部空間から膨張性セメント系固結材を注入し、その固結材を管状補強材の周囲の地山内に浸出させて膨張させ、固化させることにより、地山内の圧力を上昇させて地山を補強する工法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-184400号公報
【文献】特開2003-321992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の自穿孔GRPロックボルトは、比較的硬質な地山や礫混じりの地山などにおいて、ドリルジャンボで穿孔する際の打撃や回転等の衝撃によって、穿孔時に大きな負荷がかかると、GRP製のロックボルトの破断や破損等の不具合が生じやすい欠点があった。したがって、上記特許文献1、2記載の技術では、GRP製の自穿孔ロックボルトを使用した場合には、穿孔ビットを備えた先端部に作用する衝撃エネルギーが吸収されずにドリルジャンボのドリフターとロックボルトとの接合端部などに集中するため、ロックボルトの破断や破損等が生じやすかった。
【0009】
そこで本発明の主たる課題は、穿孔時のロックボルトの破断や破損を防止できる自穿孔ロックボルト及びそれを用いた地山の補強工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、先端に穿孔ビットを備えた中空状のロックボルトからなり、前記ロックボルトは、繊維強化樹脂製ロックボルトと鋼製ロックボルトとがスリーブによって軸方向に連結されてなる自穿孔ロックボルトであって、
先端に穿孔ビットを備えた前記繊維強化樹脂製ロックボルトの後端に、前記鋼製ロックボルトが連結されていることを特徴とする自穿孔ロックボルトが提供される。
【0011】
上記請求項1記載の発明では、前記繊維強化樹脂製ロックボルトと前記鋼製ロックボルトとが前記スリーブによって軸方向に連結されているため、比較的硬質な地山や礫混じりの地山などにおいて、ドリルジャンボによる穿孔時に、打撃や回転等の衝撃力が作用しても前記鋼製ロックボルトの優れた耐力によって衝撃エネルギーが吸収、緩和され、ロックボルトの破断や破損が防止できる。すなわち、鋼製ロックボルトにおける軸方向の変位やねじりに対する弾性変形などによって、穿孔ビットが比較的硬質な地山や礫などに当接したときなどでも、ドリルジャンボからの打撃や回転等の強い衝撃エネルギーを前記鋼製ロックボルト部分で吸収及び緩衝することができるので、繊維強化樹脂製ロックボルトの損傷が防止できるようになる。
【0012】
また、本発明に係る自穿孔ロックボルトでは、鋼製ロックボルトの使用が一部に限られるため、繊維強化樹脂製ロックボルト部分が耐食性に優れるとともに、ロックボルト全体の重量が軽量化でき、施工性に優れ、かつ鏡ボルトや将来のトンネル拡幅掘削などで切断されるロックボルトとして使用した場合でもトンネル掘削時に容易に切断できるようになる。
【0013】
発明は、繊維強化樹脂製ロックボルトの後端に、前記スリーブによって鋼製ロックボルトが連結された構造を成している。この実施形態では、前記鋼製ロックボルト部分をドリルジャンボのドリフターに固定することにより、基端部のドリルジャンボからの打撃や回転等の衝撃力がダイレクトに大きく作用する部分に鋼製ロックボルトが位置するようになるため、鋼製ロックボルトの優れた耐力によって、繊維強化樹脂製ロックボルトの破断や破損がより確実に防止できるようになる。
【0014】
請求項に係る本発明として、先端に穿孔ビットを備えた中空状のロックボルトからなり、前記ロックボルトは、繊維強化樹脂製ロックボルトと鋼製ロックボルトとがスリーブによって軸方向に連結されてなる自穿孔ロックボルトであって、
先端に穿孔ビットを備えた先端側鋼製ロックボルトの後端に、前記繊維強化樹脂製ロックボルトが連結されるとともに、前記繊維強化樹脂製ロックボルトの後端に後端側鋼製ロックボルトが連結されていることを特徴とする自穿孔ロックボルトが提供される。
【0015】
上記請求項記載の発明では、先端側鋼製ロックボルトの後端に、前記スリーブによって繊維強化樹脂製ロックボルトが連結されるとともに、該繊維強化樹脂製ロックボルトの後端に、前記スリーブによって後端側鋼製ロックボルトが連結されている。この実施形態は、特に全長が4mを超える長尺ロックボルトなどとして使用する際に好適であり、繊維強化樹脂製ロックボルトの先端に穿孔ビットを備えた先端側鋼製ロックボルトが連結されることによって、穿孔ビットが硬質な地山や礫等に当接して先端部に大きな衝撃力が作用しても、耐力に優れた前記先端側鋼製ロックボルトによって衝撃力が吸収、緩和されるため、繊維強化樹脂製ロックボルトの破断や破損が防止できるようになる。
【0016】
請求項に係る本発明として、前記スリーブにおいて、前記繊維強化樹脂製ロックボルトの結合長さは、前記鋼製ロックボルトの結合長さより長い請求項1、2いずれかに記載の自穿孔ロックボルトが提供される。
【0017】
上記請求項記載の発明では、前記スリーブにおける繊維強化樹脂製ロックボルトの破損を防止し、所定の引張強度を確保するため、前記スリーブにおける繊維強化樹脂製ロックボルトの結合長さを相対的に長くしている。
【0018】
請求項に係る本発明として、前記繊維強化樹脂製ロックボルト及び鋼製ロックボルトはそれぞれ、少なくとも前記スリーブが結合する部分の外面に雄ねじ部が形成され、前記スリーブの内面に前記雄ねじ部がそれぞれ螺合可能な雌ねじ部が形成されている請求項1~いずれかに記載の自穿孔ロックボルトが提供される。
【0019】
上記請求項記載の発明では、前記スリーブの一方端に繊維強化樹脂製ロックボルトを螺合し、他方端に鋼製ロックボルトを螺合して、前記繊維強化樹脂製ロックボルトと鋼製ロックボルトとが連結される構造である。このため、両者の連結が簡単にでき、施工性を良好にしている。
【0020】
請求項に係る本発明として、上記請求項1~いずれかに記載の自穿孔ロックボルトを用いた地山の補強工法であって、
前記自穿孔ロックボルトを地山に打設し、前記繊維強化樹脂製ロックボルト及び鋼製ロックボルトの中空部を通じてグラウト材を注入し、前記グラウト材が地山内に浸透することによって地山を補強することを特徴とする自穿孔ロックボルトを用いた地山の補強工法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
以上詳説のとおり本発明によれば、穿孔時のロックボルトの破断や損傷を防止した自穿孔ロックボルト及びそれを用いた地山の補強工法が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】トンネルの掘削手順を示す縦断面図である。
図2】トンネルの横断面図である。
図3】本発明に係る自穿孔ロックボルト1を示す側面図である。
図4】自穿孔ロックボルト1のスリーブ6部分を示す拡大断面図である。
図5】(A)~(E)は、本発明に係る自穿孔ロックボルト1を用いた地山の補強工法の施工手順を示す断面図である。
図6】トンネルの施工手順(その1)を示す横断面図である。
図7】トンネルの施工手順(その2)を示す横断面図である。
図8】他の形態例に係る自穿孔ロックボルト1Aを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0024】
本発明に係る自穿孔ロックボルト1は、図1及び図2に示されるように、トンネル掘削に際して、トンネル壁面に対しトンネル半径方向に向けて挿入打設するロックボルトや、切羽に対し前方の地山に向けて挿入打設する鏡ボルトなどとして使用することができるとともに、護岸等の壁面や法面等の補強用支保部材などとしても使用することができる。前記自穿孔ロックボルト1は、穿孔した孔壁が自立せずロックボルトの挿入が困難な軟弱な地山に打設する場合に特に好ましいが、これに限るものではなく、それ以外の自立性の良い地山に対しても使用できる。本書では、トンネル掘削に使用した場合について詳細に説明する。
【0025】
本発明に係る自穿孔ロックボルト1は、図3及び図4に示されるように、先端に穿孔ビット2を備えた中空状のロックボルト3からなり、前記穿孔ビット2が備えられた先端と反対側の基端部のロックボルト3をドリルジャンボのドリフターに固定し、打撃及び回転を加えながら前記穿孔ビット2によって地山を穿孔しつつロックボルト3が地山に打設されるようにしたものである。
【0026】
前記ロックボルト3は、繊維強化樹脂製ロックボルト4と鋼製ロックボルト5とがスリーブ6によって軸方向に連結された構造を成している。すなわち、前記ロックボルト3は、軸方向に対して繊維強化樹脂製ロックボルト4と鋼製ロックボルト5とに分割されており、これらが前記スリーブ6によって軸方向に連結されている。
【0027】
前記繊維強化樹脂製ロックボルト4及び鋼製ロックボルト5はそれぞれ、中空状の略円形管体からなり、軸芯部に軸方向に沿って両端に貫通する中空部4a、5aが形成されている。前記スリーブ6による連結部において両者の中空部4a、5aが連通している。前記繊維強化樹脂製ロックボルト4の外径と鋼製ロックボルト5の外径とは、ほぼ同等に形成されるとともに、前記繊維強化樹脂製ロックボルト4の中空部4aの直径(内径)と鋼製ロックボルト5の中空部5aの直径(内径)とは、ほぼ同等に形成されている。
【0028】
前記繊維強化樹脂製ロックボルト4は、熱硬化性樹脂を含浸後硬化させた繊維強化樹脂で構成される。前記熱硬化性樹脂は、繊維強化樹脂に用いられるものであれば任意に選択することができ、例えば、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド樹脂及びフェノール樹脂等を挙げることができる。また、前記繊維強化樹脂に用いる繊維も任意に選択することができ、例えば、ガラス繊維、炭素繊維及びケプラー繊維等を挙げることができる。特に、ガラス繊維を用いるのが好ましい。
【0029】
前記繊維強化樹脂製ロックボルト4及び鋼製ロックボルト5はそれぞれ、少なくとも前記スリーブ6が結合する部分の外面に雄ねじ部が形成されるのが好ましい。前記雄ねじ部は、ロックボルト4、5の全長に亘って形成されるのが望ましい。前記繊維強化樹脂製ロックボルト4と鋼製ロックボルト5とは、同等のピッチ等からなる同形状のねじ山を有するのが好ましい。これにより、従来のロックボルトと同じ施工性が得られ、前記スリーブ6による連結の作業性も良好となる。
【0030】
前記繊維強化樹脂製ロックボルト4の製造方法は特に問わず、通常知られている方法を適宜選択することができる。この一例として、熱硬化性樹脂を含浸し且つ長さ方向に連続する棒状の長繊維状繊維物の表面に、糸状繊維物を外周軸方向で間隔をおいて螺旋状に一体的に巻き付けて締め上げ、締め上げた糸状繊維物部が螺旋状の凹状溝部を形成し且つ隣り合う凹状溝部の間隔の間が凸状の山部を形成し、その後熱硬化性樹脂を硬化させて作成することができる。前記棒状の長繊維状繊維物は、熱硬化性樹脂により棒状に硬化した長繊維の繊維物である。この長繊維は、上記の繊維強化樹脂として挙げた繊維を用いることができ、このうちガラス繊維が特に好ましい。また、前記糸状繊維物は、長繊維状繊維物に巻き付けて締め上げることによって凹状の溝部と凸状の山部とを形成するために用いられる繊維であり、例えば、ビニロン、テトロン、ケプラー、ナイロン、ガラスヤーン及びガラスロービング等を用いることができる。
【0031】
前記鋼製ロックボルト5としては、従来より公知の鋼製のロックボルトをそのまま使用することができる。
【0032】
前記繊維強化樹脂製ロックボルト4及び鋼製ロックボルト5を連結するスリーブ6は、両者のロックボルト4、5の端部同士を軸方向に突き合わせた状態で連結する鋼製のカップリング部材であり、両端が開放する中空状の円管体を成している。前記スリーブ6の内面には、前記繊維強化樹脂製ロックボルト4及び鋼製ロックボルト5の雄ねじ部がそれぞれ螺合可能な雌ねじ部が形成されている。これにより、前記スリーブ6の一方端から繊維強化樹脂製ロックボルト4を螺入し、他方端から鋼製ロックボルト5を螺入することにより、前記繊維強化樹脂製ロックボルト4及び鋼製ロックボルト5を連結することができる。
【0033】
前記スリーブ6の長さは任意であるが、100~500mm、好ましくは100~300mmとするのがよい。
【0034】
図4に示されるように、前記スリーブ6において、前記繊維強化樹脂製ロックボルト4と鋼製ロックボルト5の結合長さL、Lは同等としてもよいが、前記繊維強化樹脂製ロックボルト4の結合長さLを、前記鋼製ロックボルト5の結合長さLより長くするのが好ましい(L>L)。これにより、繊維強化樹脂製ロックボルト4の破損が低減でき、スリーブ6において所定の引張強度を確保することができるようになる。記結合長さL、Lとは、ロックボルト4、5がスリーブ6と嵌合する長さのことであり、スリーブ6において繊維強化樹脂製ロックボルト4の端縁と鋼製ロックボルト5の端縁とが突き合わされるように配置することにより、両者の結合長さを足し合わせた長さがスリーブ6の全長とほぼ一致する。
【0035】
前記スリーブ6とロックボルト4、5との密着性を向上させるため、前記スリーブ6の内面と繊維強化樹脂製ロックボルト4及び鋼製ロックボルト5の外面との隙間に、充填材を充填するのが好ましい。
【0036】
図3に示される実施形態の自穿孔ロックボルト1では、先端に穿孔ビット2を備えた繊維強化樹脂製ロックボルト4の後端に、前記スリーブ6を介して鋼製ロックボルト5が連結されている。つまり、先端側に繊維強化樹脂製ロックボルト4が配置され、基端側に鋼製ロックボルト5が配置されており、これらが前記スリーブ6によって連結されている。前記繊維強化樹脂製ロックボルト4の先端には前記穿孔ビット2が装着され、前記鋼製ロックボルト5の後端側がドリルジャンボのドリフターに固定される。
【0037】
本自穿孔ロックボルト1をドリルジャンボのドリフターにセットした状態では、基端側の鋼製ロックボルト5部分のみが固定され、前記繊維強化樹脂製ロックボルト4部分はドリフターより前方に配置される。
【0038】
前記鋼製ロックボルト5の長さ(L1)は、ドリルジャンボのドリフターに固定するための長さに加えて、基端側の衝撃エネルギーを吸収、緩和するのに必要な長さで形成され、概ね1m程度とするのが好ましい。自穿孔ロックボルト1の全長は状況に応じて任意に設定されるが、一般に3~4m程度であるから、前記繊維強化樹脂製ロックボルト4の長さによって調整されるとともに、該繊維強化樹脂製ロックボルト4は前記鋼製ロックボルト5の長さ(L1)より長くなる。
【0039】
本実施形態に係る自穿孔ロックボルト1では、前記穿孔ビット2は、前記繊維強化樹脂製ロックボルト4の先端に装着されている。前記穿孔ビット2の装着は、公知の手段を制限なく用いることができ、例えば、前記繊維強化樹脂製ロックボルト4の外面に備えられた雄ねじ部に、穿孔ビット2の後方の中空内面に備えられた雌ねじ部(図示せず)が螺合することにより行うことができる。
【0040】
前記穿孔ビット2の内部には、先端に向けて開孔するとともに、前記繊維強化樹脂製ロックボルト4の中空部4aに連通する通孔が備えられ、自穿孔時にロックボルト3の中空部を通じて後端から送り込まれた空気や水を前記穿孔ビット2の前記通孔を通じて先端の開孔から噴出させることにより、速やかな穿孔を行うことができるとともに、自穿孔ロックボルト1が地山に打設された後、ロックボルト3の中空部を通じて後端から送り込まれたグラウト材を前記穿孔ビット2の前記通孔を通じて先端の開孔から吐出することにより、穿孔内にグラウト材を確実に充填することができる。
【0041】
以上の構成からなる自穿孔ロックボルト1を用いた地山の補強手順について説明する。まず、図1に示されるように、地山を掘削してトンネル空間10を形成し、トンネル空間10の壁面にコンクリートミキサー車12から供給されるモルタルまたはコンクリート等の吹付材11を吹付け機13によって吹き付けた後、ドリルジャンボ14によって前記自穿孔ロックボルト1を地山に打設する。
【0042】
前記自穿孔ロックボルト1の打設は、図5(A)に示されるように、自穿孔ロックボルト1の後端側の鋼製ロックボルト5部分をドリルジャンボ14のドリフター15に取り付け、ドリルジャンボ14によって打撃と回転を加えながら、先端に備えられた穿孔ビット2によって地山に穿孔を形成するとともに、前記穿孔ビット2に先導されて一体に装着されたロックボルト3(繊維強化樹脂製ロックボルト4及び鋼製ロックボルト5)が穿孔内に配置される。
【0043】
自穿孔ロックボルト1が地山中に打設されたならば、図5(B)に示されるように、自穿孔ロックボルト1からドリルジャンボ14のドリフター15を取り外し、ロックボルト後端の中空部5aの開孔に注入アダプター16を螺設するとともに、穿孔の口元の自穿孔ロックボルト1と地山との隙間をコーキング材17で塞ぐ処理を行う。
【0044】
次いで、図5(C)に示されるように、地盤補強用の注入材19を送り込む注入装置18の先端を前記注入アダプター16に接続し、前記ロックボルト3の中空部4a、5a及び穿孔ビット2の通孔を通じて注入材19を穿孔内に圧入する(図5(D))。
【0045】
前記注入材19は、図5(E)に示されるように、地山の空隙や亀裂を通じて穿孔の周囲の地山にも浸透し、穿孔周辺の一定範囲の地山を補強する。前記注入材19としては、公知のものを制限なく使用することができ、例えば、水ガラス系、セメント系、ウレタン系のいずれを用いてもよい。
【0046】
本自穿孔ロックボルト1の効果について説明すると、本自穿孔ロックボルト1は、前記繊維強化樹脂製ロックボルト4と鋼製ロックボルト5とが前記スリーブ6によって軸方向に連結された構造を成しているため、比較的硬質な地山や礫混じりの地山などにおいて、ドリルジャンボ14による穿孔時に、打撃や回転等の衝撃力が作用しても前記構成ロックボルト5の優れた耐力によって衝撃エネルギーが吸収、緩和され、ロックボルト3の破断や破損が防止できる。すなわち、鋼製ロックボルト5における軸方向の変位やねじりに対する弾性変形などによって、穿孔ビット2が比較的硬質な地山や礫などに当接したときなどでも、ドリルジャンボ14からの打撃や回転等の強い衝撃エネルギーを吸収及び緩和することができるので、繊維強化樹脂製ロックボルト4の損傷が防止できるようになる。
【0047】
また、本発明に係る自穿孔ロックボルト1では、鋼製ロックボルト5が一部に限られるため、繊維強化樹脂製ロックボルト4部分が耐食性に優れるとともに、ロックボルト全体の重量が軽量化でき、施工性に優れ、かつ鏡ボルトや将来切断されるロックボルトとして使用した場合でも、トンネル掘削時に容易に切断できるようになる。
【0048】
上述の将来切断されるロックボルトとしては、例えば、図6に示されるトンネル拡幅掘削及び図7に示される並行する2本のトンネル掘削などに用いるロックボルトが挙げられる。図6に示される例は、トンネル拡幅に伴って壁面を掘削するケースであり、図7に示される例は、先行するトンネルに並行して、これに隣接する位置に後行するトンネルを掘削するケースである。このように、将来切断されるロックボルトとして、本発明に係る自穿孔ロックボルト1を用いることにより、繊維強化樹脂製ロックボルト4の部分がトンネル掘削時に容易に切断できるため、トンネルの速やかな掘削が可能となる。
【0049】
〔他の形態例〕
次に、他の実施形態に係る自穿孔ロックボルト1Aについて、図8に基づいて説明する。本自穿孔ロックボルト1Aは、先端に穿孔ビット2を備えた先端側鋼製ロックボルト5Aの後端に、前記スリーブ6によって前記繊維強化樹脂製ロックボルト4が連結されるとともに、前記繊維強化樹脂製ロックボルト4の後端に、前記スリーブ6によって後端側鋼製ロックボルト5Bが連結された構造を成している。つまり、上述の図3に示される実施形態に係る自穿孔ロックボルト1の繊維強化樹脂製ロックボルト4と穿孔ビット2との間に先端側鋼製ロックボルト5Aを追加することにより、繊維強化樹脂製ロックボルト4の先端側及び後端側の両方にそれぞれ鋼製ロックボルト5A、5Bを配置したものである。
【0050】
前記先端側鋼製ロックボルト5A及び後端側鋼製ロックボルト5Bとしては、上述の図3に示される実施形態に係る自穿孔ロックボルト1に用いられる鋼製ロックボルト5と同様のものを用いることができる。
【0051】
本実施形態に係る自穿孔ロックボルト1Aは、特に全長が4mを超える長尺ロックボルトなどとして使用する際に好適であり、穿孔時に穿孔ビット2が比較的硬質な地山や礫等に当たって先端部に作用する打撃や回転のエネルギーが急激に増大した場合などでも、先端側鋼製ロックボルト5Aの耐力によって繊維強化樹脂製ロックボルト4の破断や破損が防止できるようになる。
【符号の説明】
【0052】
1…自穿孔ロックボルト、2…穿孔ビット、3…ロックボルト、4…繊維強化樹脂製ロックボルト、4a…中空部、5…鋼製ロックボルト、5a…中空部、6…スリーブ、10…トンネル空間、11…吹付材、12…コンクリートミキサー車、13…吹付け機、14…ドリルジャンボ、15…ドリフター、16…注入アダプター、17…コーキング材、18…注入装置、19…注入材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8