IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 鹿児島県の特許一覧

<>
  • 特許-蔗糖の回収方法および蔗糖回収装置 図1
  • 特許-蔗糖の回収方法および蔗糖回収装置 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】蔗糖の回収方法および蔗糖回収装置
(51)【国際特許分類】
   C13B 35/00 20110101AFI20220330BHJP
【FI】
C13B35/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018060747
(22)【出願日】2018-03-27
(65)【公開番号】P2019170206
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】591155242
【氏名又は名称】鹿児島県
(74)【代理人】
【識別番号】100170014
【弁理士】
【氏名又は名称】蓼沼 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 浩毅
(72)【発明者】
【氏名】大谷 武人
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 眞治
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-507232(JP,A)
【文献】国際公開第01/090422(WO,A1)
【文献】特開2012-219042(JP,A)
【文献】特開2006-281193(JP,A)
【文献】Cheng-Peng Li, Miao Du,Role of solvents in coordination supramolecular systems,Chemical Communications,2011年,47,p5958-5972
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C13B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蔗糖を含有する作物由来の抽出物を水で希釈して、水分が30~55質量%かつ糖濃度が23~35質量%の糖希釈液を生成する希釈工程と、
親水性を有して前記水と混和し、前記蔗糖の溶解度が前記水より低く、かつ水分が0質量%超過~20質量%以下である溶媒を、前記糖希釈液に積層する積層工程と、
積層した前記糖希釈液の層と前記溶媒の層との間に、移行した蔗糖および水と、前記溶媒とが混合した中間層を生成する中間層生成工程と、
前記中間層生成工程で生成した中間層を回収する中間層回収工程と、
を含み、前記中間層回収工程で回収した中間層から前記溶媒を除去して前記蔗糖を回収する蔗糖回収方法。
【請求項2】
前記中間層生成工程から前記中間層回収工程の間において、積層された前記糖希釈液の層から糖希釈液を抜き出し、抜き出した糖希釈液を前記溶媒の層中に滴下して当該積層された前記糖希釈液の層に戻すことで、当該糖希釈液を溶媒中を循環させる循環工程を含む請求項1に記載の蔗糖回収方法。
【請求項3】
前記中間層生成工程から前記中間層回収工程の間において、積層された前記糖希釈液の層内のみを撹拌し、当該糖希釈液の層内の前記糖濃度を均一化する撹拌工程を含む請求項1または請求項2に記載の蔗糖回収方法。
【請求項4】
前記糖希釈液の粘度が、42~1900mPa・sである請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の蔗糖回収方法。
【請求項5】
前記溶媒が、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、アセトン、またはアセトニトリルである請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の蔗糖回収方法。
【請求項6】
蔗糖を含有する作物由来の抽出物を水で希釈して水分が30~55質量%かつ糖濃度が23~35質量%の糖希釈液と、親水性を有して前記水と混和し、蔗糖の溶解度が前記水より低く、かつ水分が0質量%超過~20質量%以下の溶媒とを積層させ、積層した前記糖希釈液の層と前記溶媒の層との間に、移行した蔗糖および水と、前記溶媒とが混合した中間層を生成する中間層生成槽と、
前記中間層生成槽において生成した中間層を抜き出す中間層抜き出し機構と、
前記中間層生成槽中に、前記溶媒を供給する溶媒供給機構と、
前記中間層生成槽の前記糖希釈液を抜き出し、前記溶媒中に供給する循環機構と、
を備える蔗糖回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蔗糖の回収方法および蔗糖回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サトウキビといった糖を多く含む作物を原料として砂糖を生成する際には、副産物として糖蜜(廃糖蜜ともいわれる)が生じる。この糖蜜は、粘性が高い黒褐色の液体であり、糖分以外の成分も含んでいるが、糖分がまだ多く含まれている。
【0003】
従来、この糖蜜から蔗糖を回収する方法として、ステフェン(カルシウムサッカレート)法やクロマト分離法が用いられている。ステフェン法では、糖蜜に生石灰を加え、糖蜜中の糖分をカルシウムサッカレートとして沈殿させ、沈殿に炭酸ガスを吹き込んで蔗糖を回収する。また、クロマト分離法では、クロマトグラフィーを用いて、蔗糖を回収する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ステフェン法やクロマト分離法では、大量の廃液が生じ、その処理が問題であった。また、クロマト分離法では、クロマトカラムの導入コストが高く、さらにカラム交換回数が多いために、高コストであることが問題であった。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、廃液が少なく、かつ低コストである、非溶媒抽出を用いて糖蜜から蔗糖を回収する蔗糖回収方法およびそれに用いる蔗糖回収装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1又はそれ以上の実施形態は、蔗糖を含有する作物由来の抽出物を水で希釈して糖希釈液を生成する希釈工程と、前記糖希釈液に、親水性が高く、微量または少量の水を含有する溶媒を、前記糖希釈液に積層する積層工程と、積層した前記糖希釈液の層と前記溶媒の層との間に、移行した蔗糖および前記溶媒を含む中間層を生成する中間層生成工程と、前記中間層生成工程で生成した中間層を回収する中間層回収工程と、を含み、前記中間層回収工程で回収した中間層から前記溶媒を除去して前記蔗糖を回収する蔗糖回収方法である。
【0007】
本発明の1又はそれ以上の実施形態は、前記中間層生成工程から前記中間層回収工程の間において、積層された前記糖希釈液の層から糖希釈液を抜き出し、抜き出した糖希釈液を前記溶媒の層中に滴下して当該積層された前記糖希釈液の層に戻すことで、当該糖希釈液を溶媒中を循環させる循環工程を含む蔗糖回収方法である。
【0008】
本発明の1又はそれ以上の実施形態は、前記中間層生成工程から前記中間層回収工程の間において、積層された前記糖希釈液の層内を撹拌する撹拌工程を含む蔗糖回収方法である。
【0009】
本発明の1又はそれ以上の実施形態は、前記糖希釈液の粘度が、42~1900mPa・sである蔗糖回収方法である。
【0010】
本発明の1又はそれ以上の実施形態は、前記溶媒の双極子モーメントが2.61~5.66×10-21Cmである蔗糖回収方法である。
【0011】
本発明の1又はそれ以上の実施形態は、蔗糖を含有する作物由来の抽出物を水で希釈した糖希釈液と、親水性が高く、微量または少量の水を含有する溶媒を、前記糖希釈液に積層させ、積層した前記糖希釈液の層と前記溶媒の層との間に、移行した蔗糖および前記溶媒を含む中間層を生成する中間層生成槽と、前記中間層生成槽において生成した中間層を抜き出す中間層抜き出し部と、前記中間層生成槽中に、前記溶媒を供給する溶媒供給部と、前記中間層生成槽の前記糖希釈液を抜き出し、前記溶媒中に供給する循環機構と、を備える蔗糖回収装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、廃液が少なく、かつ低コストに、糖蜜から蔗糖を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る蔗糖回収工程を示すフロー図である。
図2】本実施形態に係る蔗糖回収工程を行う装置図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係る蔗糖回収工程において用いる原糖蜜は、サトウキビ由来の糖蜜あって、一般的な組成は、糖濃度が40~45質量%、水分が17~20質量%、灰分(カリウム等)7~15%、その他(含有窒素化合物、有機酸、ポリフェノール、蛋白質等)が36~20%である。以下、その他に灰分も含める。なお、本実施形態に係る蔗糖回収工程に用いることができる原糖蜜は、上記組成の糖蜜に限らず、また、植物由来の糖蜜であればよくサトウキビ由来の糖蜜に限らない。
【0015】
図1を用いて、本実施形態に係る蔗糖回収工程について説明する。
<希釈工程>
原糖蜜を水で希釈して、原糖蜜の粘度調整を行い、糖希釈液を生成する。好ましくは、粘度が、42~1900mPa・sとなるように、原糖蜜を水で希釈する。表1に、糖濃度が40質量%、水分が23.5質量%、その他が36.5質量%の組成の原糖蜜の場合における、原糖蜜を水で希釈した希釈倍率、希釈倍率毎の粘度(mPa・s)、希釈倍率毎の糖濃度(質量%)、および希釈倍率毎の水分(質量%)を示す。粘度は、30℃において、株式会社エー・アンド・デイのSV型粘度計SV-100を用いて測定した。
【0016】
【表1】
【0017】
この希釈工程を経ることにより、糖蜜の粘度が低くなり、後述する中間層が生成しやすくなる。
【0018】
<積層工程>
希釈工程により得られた糖希釈液に溶媒を添加し、糖希釈液と溶媒とを積層させる。このとき、糖希釈液と溶媒とは、撹拌や振とうといった強い外力を与えて完全には混合させず、糖希釈液上に溶媒を積層して、両者を静かに接触させる。理由については後述する。ここで、溶媒は、親水性が高く、微量または少量の水を含有する。溶媒は、更に、蔗糖の溶解度が低いものが好ましい。ここで、微量または少量の水を含有する溶媒とは、例えば、水分が20質量%以下、10質量%以下、1%質量以下、0.1質量%以下等であって、好ましくは、溶媒と共沸組成または共沸組成近傍となる水分である。例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、アセトニトリル等である。本実施形態において回収した蔗糖を食品として使用する場合には、溶媒としてエタノールを用いるのが好ましい。
【0019】
<中間層生成工程>
積層工程後、糖希釈液の層と溶媒の層との間に中間層が生成される。この中間層は、糖希釈液から溶媒へと移行した蔗糖と溶媒とを含む。なお、中間層には、溶媒を除くと蔗糖が主成分として含まれ、原糖蜜のその他の成分は少ない。このように、中間層に原糖蜜のその他の成分が多く混ざることを防いで、中間層には蔗糖が多く含まれるようにするために、強い外力を与えて完全には混合させず糖希釈液上に溶媒を積層させている。
【0020】
中間層をより多く生成させるためには、糖希釈液と溶媒とが積層された容器を所定時間タッピングする。ここで、タッピングとは、容器を軽くはじいて、容器内の糖希釈液および溶媒の界面を軽くゆすることである。それにより、両者が接触している界面での接触率上げることで、糖希釈液から溶媒へと移動する蔗糖を増やして、中間層をより多く生成させることができる。ただし、糖希釈液と溶媒とは完全には混合させない。また、中間層生成工程の処理時間として、所定時間、例えば、90分、積層した糖希釈液と溶媒とを静置することでも、中間層をより多く生成させることができる。
【0021】
<中間層回収工程>
中間層生成工程で生成された中間層を回収する。中間層回収後、積層した糖希釈液と溶媒とを静置したり、再度タッピングを行ったりすることで、再度中間層を生成させることができる。このとき、中間層を回収したことで溶媒の量が減っているので、溶媒を再添加するのが好ましい。
【0022】
<蔗糖回収工程>
回収した中間層から蔗糖を回収する。具体的には、回収した中間層を遠心分離し、上清画分と沈殿画分とに分離する。沈殿画分を、エバポレータを用いて溶媒を蒸発させ、その後、凍結乾燥することで、蔗糖を含む固形分が得られる。上清画分は、溶媒であって、積層工程や中間層生成工程で添加する溶媒として再利用することができる。
【0023】
以上説明したように、希釈した糖蜜に溶媒を添加して積層させることで、糖蜜から溶媒へと蔗糖を抽出し、蔗糖と溶媒とを含む中間層から溶媒を除去することで蔗糖を回収することができる。それにより、クロマトグラフといった高価な装置や特別な装置は必要なく、低コストに蔗糖を回収することができる。また、複雑な工程もなく、簡便な工程によって、蔗糖を回収することができる。さらに、蔗糖回収のために中間層から除去した溶媒は再利用することができ、廃液も少なくすることができる。
【0024】
図1を用いて説明した、蔗糖回収工程において、中間層をより多く得ることで、蔗糖の回収率を上げることができる蔗糖回収装置1について、図2を用いて説明する。
【0025】
まず、蔗糖回収装置1の構成について説明する。蔗糖回収装置1は、中間層生成槽10、中間層抜き出し機構20、溶媒供給機構30、循環機構40、および撹拌機構50を備える。
【0026】
中間層生成槽10は、上部が開口した有底の筒状の容器である。底面の形状は、任意でよく、例えば、円形、楕円形、四角形である。
【0027】
中間層抜き出し機構20は、中間層生成槽10の側面中央部に抜き出し口を有し、地面と水平に伸びた後下方に伸びる管路21と、管路21を通じて中間層生成槽10から中間層110を抜き出すポンプ22と、を備える。
【0028】
溶媒供給機構30は、地面と水平に伸びた後下方に伸びて、中間層生成槽10上部にあって開口部周縁よりも低い位置に吐出口を有する管路31と、管路31を通じて中間層生成槽10に溶媒120を供給するポンプ32と、を備える。
【0029】
循環機構40は、中間層生成槽10の側面下部に抜き出し口を有し、地面と水平に伸びた後上方に伸びて、さらに中間層生成槽10に向かって地面と水平に伸びた後下方に伸びて、中間層生成槽10上部にあって開口部周縁よりも低い位置に吐出口を有する管路41と、管路41を通じて中間層生成槽10から抜き出した糖希釈液100を中間層生成槽10の溶媒120中に供給するポンプ42と、を備える。
【0030】
撹拌機構50は、駆動部(図示せず)と接続された撹拌軸51と、撹拌軸51の下部に備えられた撹拌羽根52と、を備える。撹拌羽根52は中間層生成槽10の下部に設置され、羽根の上端は管路21の下端を越えないのが好ましい。
【0031】
次に、蔗糖回収装置1を用いた蔗糖回収工程について説明する。まず、中間層生成槽10内に、上述した積層工程によって糖希釈液100と溶媒120とを積層させる。具体的には、糖希釈液100の液面が、管路41の抜き出し口よりも上であって、かつ管路21の下となるように、中間層生成槽内10に糖希釈液100を入れる。なお、糖希釈液100の液面は、管路21の下端のやや下に位置するのが好ましい。糖希釈液100と溶媒120との間に中間層110は生成されるからである。
【0032】
中間層生成槽10内に糖希釈液100と溶媒120とを積層させた後、循環機構40を用いて、糖希釈液100から抜き出した循環糖希釈液を溶媒120中に滴下する。滴下された循環糖希釈液は、溶媒120中を通過して糖希釈液100へと戻る。このように、糖希釈液100を溶媒120中を循環させることにより、糖希釈液100と溶媒120との接触率が上がり、より多くの中間層の生成を促すことができる。管路41の吐出口は、溶媒120の液面下、糖希釈液100の液面上に位置しているが、接触率を上げるためには、糖希釈液100の液面上からはなるべく離れているのが望ましい。
【0033】
また、溶媒120中に循環糖希釈液を滴下する速度が速いと、糖希釈液100と溶媒120との接触率が下がってしまうため、溶媒120中に循環糖希釈液を滴下する速度は遅ければ遅い方がよい。しかし、循環糖希釈液は粘度があるため、滴下する速度が遅すぎると管路41の吐出口付近で固まりやすくなり、吐出口を塞いでしまう。そこで、溶媒120中に循環糖希釈液を滴下する速度は、糖希釈液が管路41の吐出口付近で固まらない限度の遅い速度とするのが好ましい。なお、溶媒120中に循環糖希釈液を滴下するのは、継続的でもよいし、定期的でもよい。本実施形態において管路41の吐出口は1つであるが、複数とすることで、糖希釈液100と溶媒120との接触率を上げることもできる。
【0034】
中間層生成槽10内に生成された中間層110は、中間層抜き出し機構20によって、管路21を経て他の容器へ送出される。
【0035】
溶媒供給機構30は、中間層抜き出し機構20によって中間層110が抜き出されることにより減少する溶媒120を中間層生成槽10内に添加し、具体的には、溶媒が貯留されている他の容器からポンプ32によって溶媒を管路31に通して中間層生成槽10内に溶媒を送出する。そして、溶媒供給機構30は、溶媒120の液面が管路41の吐出口および管路31の吐出口よりも上になるように、中間層生成槽内10に溶媒を入れる。なお、管路31の吐出口は、糖希釈液100の液面よりも、また中間層110よりも上であって、溶媒120の液面より下に位置するのが好ましい。
【0036】
中間層生成槽10内に糖希釈液100と溶媒120とを積層させた後、循環機構40を用いて中間層生成槽10内の糖希釈液100を循環させるとともに、撹拌機構50を用いて主に糖希釈液100を撹拌する。この撹拌は、糖希釈液100と溶媒120とを完全に混合するためではなく、糖希釈液100内の糖濃度を均一にするために行う。
【0037】
溶媒120と糖希釈液100との接触面において、糖希釈液100の蔗糖が溶媒に移行するため、糖希釈液100の上層の糖濃度が低下する。また、循環糖希釈液は、溶媒120を滴下中に蔗糖が溶媒に移動して糖濃度が低くなった状態で糖希釈液100上層に到達することからも、糖希釈液100の上層の糖濃度が低下する。そうすると、溶媒120と糖希釈液100との界面において、糖希釈液100から溶媒120へと移動する蔗糖が少なくなり、中間層が生成されにくくなるため、糖希釈液100を撹拌し、上層および下層の糖濃度を均一し、上層のみの糖濃度低下を防ぐ必要がある。
【0038】
上述した理由から、撹拌羽根52は、糖希釈液を撹拌すればよいので、糖希釈液100中に位置するのが好ましい。なお、撹拌羽根52の上端が糖希釈液100の液面よりも上に位置してもよい。また、糖希釈液100の糖濃度を均一化するために撹拌するので、糖希釈液全体を撹拌できる大きさの撹拌羽根が好ましく、例えば、上方から下方に伸びる板状の撹拌羽根である。なお、本実施形態において、撹拌羽根52は、撹拌軸51を中心に横回転であるが、糖希釈液全体を撹拌できればよいので、縦回転であってもよい。
【0039】
本実施形態においては糖希釈液100と溶媒120とは完全には混合させないので、撹拌羽根52は、糖希釈液100と溶媒120とが混合しない速度で回転し、例えば、5~30rpm、好ましくは、10~20rpm、さらに好ましくは15rpmである。また、回転方向は、一方向よりも、定期的に回転方向を反転させる方が、撹拌効率がよい。なお、撹拌は、継続的でもよいし、定期的でもよい。
【0040】
上述したように、糖希釈液100を循環させつつ、糖希釈液100を撹拌することで、より多くの中間層110を生成できる。生成された中間層110は、中間層抜き出し機構20によって他の容器へ送出し、貯留する。貯留した中間層から、上述した蔗糖回収工程の処理を経て、蔗糖を回収する。中間層110を回収する速度は、中間層110が生成される速度よりも遅く、中間層110の生成を止まらせない速度である。
【0041】
中間層110を回収するのと合わせて、溶媒供給機構30を用いて、中間層生成槽10内に溶媒を添加する。中間層110を回収することで減少した溶媒を補うためである。溶媒の添加は、継続的または定期的であればよく、好ましくは、中間層110の回収速度と同じ速度で行う。それにより、溶媒の量を一定に保つことができる。
【0042】
なお、上述した、中間層抜き出し機構20、溶媒供給機構30、循環機構40、および撹拌機構50は、糖希釈液100と溶媒120とを積層後に稼働する。なお、蔗糖回収装置1において、中間層抜き出し機構20は必須であるが、溶媒供給機構30、循環機構40、および撹拌機構50は任意であってよい。
【0043】
蔗糖回収装置1において、中間層抜き出し機構20、溶媒供給機構30、循環機構40、および撹拌機構50を稼働させていると、糖希釈液100の粘度が高くなってくる。溶媒120に蔗糖が移行して中間層を生成する際に、蔗糖とともに水も移動し、糖希釈液100の水分が減ってくるためである。糖希釈液100の粘度が高くなってくるのに伴って、中間層110の生成量が少なくなり、最後には、中間層110が生成されなくなる。中間層が生成されなくなった時が、本処理工程の終わりである。
【0044】
以上説明したように、蔗糖回収装置1を用いることで、中間層の生成を連続化し、回収する中間層の量を増加させることができる。その結果、原糖蜜から回収できる蔗糖の量を増加させることができる。
【実施例
【0045】
[実施例1]
表2は、異なる水分の糖希釈液に溶媒エタノールを積層させて、生成した中間層量を示す表である。本実施例においては、原糖蜜として、糖分が40質量%、水分が21質量%、その他が39質量%の組成のものを用いた。また、エタノールには、純度が99.5%(和光純薬工業株式会社)のものを用いた。なお、本実施例に限らず、全ての実施例において、使用した溶媒は和光純薬工業株式会社のものである。そして、原糖蜜を水で希釈し、所要の水分量の糖希釈液を生成し、糖希釈液に溶媒を積層させた。その後、1回/秒で1分タッピングを行い、蔗糖を含む中間層を得た。
【0046】
表に示すように原糖蜜(水分21質量%)を水で希釈せずに、エタノールと積層させても中間層は生成されない。原糖蜜を水で希釈し、水分が30質量%を超えると中間層が形成され始め、水分が50質量%で生成される中間層の量はピークを迎える。そして、さらに水分が多くなると中間層の量は少なくなる。なお、表2において、水分が30質量%での中間層は0.0mlとなっているのは、計量できなかったためであり、目視にて中間層が形成されたのは確認した。また、糖希釈液の水分が60質量%の場合には、糖希釈液の量が大きく増えてエタノールの量が大きく減っている。これは、糖希釈液にエタノールが溶解したことを示しており、中間層は生成するものの好ましくない。
【0047】
以上より、糖希釈液の水分が30~50質量%、上述した表1を参照すると粘度がおおよそ1900~42mPa・sになるように原糖蜜を希釈すると中間層を生成されて蔗糖を含む固形分が回収できる。好ましくは、水分は40~50質量%、粘度がおおよそ140~42mPa・s、さらに好ましくは50質量%、粘度およそ42mPa・sである。
【0048】
【表2】
【0049】
[実施例2]
は、異なる水分量の糖希釈液に溶媒メタノールを積層させて、生成した中間層量を示す表である。本実施例においても、実施例1と同様に、原糖蜜として、糖分が40質量%、水分が21質量%、その他が39質量%の組成のものを用いた。また、メタノールには、純度が99.8%のもの、を用いた。そして、原糖蜜を水で希釈し、所要の水分量の糖希釈液を生成し、糖希釈液に溶媒を積層させた。その後、1回/秒で1分タッピングを行い、蔗糖を含む中間層を得た。
【0050】
溶媒にエタノールを用いた場合と同様に、原糖蜜(水分21質量%)を水で希釈せずに、メタノールと積層させても中間層は生成されない。原糖蜜を水で希釈し、水分が30質量%を超えると中間層が形成され始め、水分が50質量%で生成される中間層の量はピークを迎える。そして、さらに水分が多くなると中間層の量は少なくなる。なお、溶媒にエタノールを用いた場合同様に、糖希釈液の水分が60質量%の場合には、糖希釈液の量が大きく増えてメタノールの量が大きく減っている。
【0051】
以上より、溶媒にメタノールを用いた場合には、水分が30~50質量%、粘度がおおよそ1900~42mPa・sになるように原糖蜜を希釈すると中間層を生成されて蔗糖が回収できる。好ましくは、水分が40~50質量%、粘度がおおよそ140~42mPa・s、さらに好ましくは50質量%、粘度がおおよそ42mPa・sである。中間層の形成においては溶媒がエタノールの場合と同様の傾向がみられたが、溶媒にメタノールを用いた場合の方が中間層が生成しやすいと言える。
【0052】
【表3】
【0053】
[実施例3]
表4は、同一の水分の糖希釈液に異なる溶媒を積層させて、生成した中間層量を示す表である。本実施例においても、実施例1,2と同様に、原糖蜜として、糖分が40質量%、水分が21質量%、その他が39質量%の組成のものを用いた。また、プロパノールには純度が99.0%以上のもの、イソプロパノールには純度が99.0%以上のもの、アセトンには純度90.0%以上、アセトニトリルには純度99.8%以上のもの、THFには純度99.5%以上のものを用いた。そして、原糖蜜を水で希釈し、糖濃度23質量%および水分55質量%に調整した糖希釈液を生成し、糖希釈液に溶媒を積層させた。その後、1回/秒で1分タッピングを行い、蔗糖を含む中間層を得た。
【0054】
表に示した溶媒をいずれも中間層を生成しており、糖希釈液から蔗糖を回収できる溶媒であることがわかる。同一水分であれば、エタノールおよびアセトンが最も生成する中間層の量が多く、イソプロパノール、メタノール、プロパノール、アセトニトリル、THFと続く。実施例1,2から中間層の生成量がピークとなる水分は溶媒によって異なると考えられるので、この順に溶媒としての能力が高いとは言えないが、溶媒として用いるには、エタノール、メタノール、アセトン、およびイソプロパノールが好ましいと言える。
【0055】
【表4】
【0056】
[実施例4]
表5は、図2に示した蔗糖回収装置1において、循環機構40を用いて糖希釈液を循環させない場合の蔗糖回収率を示す表である。また、表6は、図2に示した蔗糖回収装置1において、循環機構40を用いて糖希釈液を循環させた場合の蔗糖回収率を示す表である。
【0057】
本実施例において、原糖蜜として、糖分が44.5質量%、水分が21.6質量%、その他が33.9質量%の組成のものを用いた。また、溶媒として、純度が99.5%のエタノールを用いた。そして、原糖蜜を水で希釈し、所要の水分の糖希釈液を生成し、糖希釈液に溶媒を積層させ、中間層抜き出し機構20、溶媒供給機構30、および撹拌機構50を稼働させて、2時間後に中間層を回収した。循環機構40を用いて糖希釈液を循環させた場合には、中間層抜き出し機構20等と合わせて循環機構40も稼働させた。撹拌羽根はいずれも板状羽根であり、回転速度は5rpmで5秒毎に反転させた。中間層の抽出速度は0.5ml/分とした。本実施例の糖希釈液を循環させない場合では、糖濃度を27質量%に調整した糖希釈液62gから、中間層を回収した。一方、本実施例の糖希釈液を循環させた場合では、糖濃度を30質量%に調整した糖希釈液74gから中間層を回収した。
【0058】
回収したエタノール層、中間層、および糖希釈液層を、遠心分離して得られた沈殿画分からエバポレータを用いて溶媒を蒸発させ、その後、凍結乾燥して得られた蔗糖を含む固形分を得た。回収した固形分を4mlの水に溶解し、イオンクロマトグラフィで分析して得た糖濃度に、回収した固形分の重量に糖濃度をかけて、終了後の含有蔗糖重量を得た。回収率は、固形分中の蔗糖の重量を開始時の糖希釈液中の蔗糖の重量で割った、糖希釈液からの蔗糖の回収率である。なお、開始時の糖希釈液層の含有蔗糖重量は、糖希釈液の質量に糖濃度をかけて得られた値である。
【0059】
表からわかるように、糖希釈液を循環させた場合の方が、中間層からの蔗糖の回収率は高く、また、糖希釈液からの蔗糖の回収率は低くなっている。このことから、糖希釈液を循環させた方が、より多くの蔗糖を回収することができることがわかる。
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
[実施例5]
表7は、図2に示した蔗糖回収装置1を用いて、所定の水分の糖希釈液から、溶媒にエタノールを用いて生成される経過時間毎の蔗糖回収率を示す表である。本実施例において、原糖蜜として、糖分が44.5質量%、水分が21.6質量%、その他が33.9質量%の組成のものを用いた。また、溶媒として、純度が99.5%のエタノールを用いた。そして、原糖蜜を水で希釈し、糖濃度27質量%および水分55質量%に調整した糖希釈液59gを生成し、糖希釈液に溶媒を積層させ、中間層抜き出し機構20、溶媒供給機構30、循環機構40、および撹拌機構50を稼働させて、中間層を回収した。撹拌羽根の回転速度は20rpmで10秒毎に反転させた。循環機構40を用いた糖蜜の循環速度は3.0ml/min、中間層の抽出速度は0.2ml/minとした。
【0063】
回収した固形分の重量は、回収した中間層を遠心分離して得られた沈殿画分からエバポレータを用いて溶媒を蒸発させ、その後、凍結乾燥して得られた蔗糖を含む固形分の重量である。糖濃度は、回収した固形分を4mlの水に溶解し、イオンクロマトグラフィで分析して得た糖濃度である。固形分中の蔗糖の重量は、回収した固形分に含まれる蔗糖の重量であって、回収した固形分の重量に糖濃度をかけた値である。回収率は、固形分中の蔗糖の重量を開始時の糖希釈液中の蔗糖の重量で割った、糖希釈液からの蔗糖の回収率である。なお、開始時の糖希釈液中の蔗糖の重量は、糖希釈液61gに糖濃度27質量%をかけて得られた16gである。
【0064】
表からわかるように、回収率は、開始から60分経過までは低く、60分経過後から90分経過までが著しく高くなり、90分経過後から150分経過までまた低くなる。また、90分程度処理を行うことで、回収可能な蔗糖がほぼ回収できる。これらのことから、処理時間を長くしても、一定時間を経過すると蔗糖がほとんど回収されなくなり処理が終了すること、図2の示した蔗糖回収装置1において処理時間は90分程度が好ましいことがわかる。
【0065】
【表7】
【0066】
[実施例6]
表8は、図2に示した蔗糖回収装置1を用いて、所定の水分の糖希釈液から、溶媒にエタノールを用いて生成された蔗糖回収率を示す表である。本実施例において、原糖蜜として、糖分が44.5質量%、水分が21.6質量%、その他が33.9質量%の組成のものを用いた。また、溶媒として、純度が99.5%のエタノールを用いた。そして、原糖蜜を水で希釈し、糖濃度27質量%および水分55質量%に調整した糖希釈液61gを生成し、糖希釈液に溶媒を積層させ、中間層抜き出し機構20、溶媒供給機構30、循環機構40、および撹拌機構50を稼働させて、中間層を回収した。
【0067】
具体的には、糖希釈液の循環開始から2時間撹拌を行い、その後、溶媒エタノールを添加しながら中間層を回収した。そして、糖希釈液の循環を停止し、撹拌、溶媒エタノールの添加、および中間層の回収を50分間行った。最後に、撹拌も停止し、溶媒エタノールの添加および中間層の回収を20分間行った。なお、撹拌羽根の回転速度は20rpmで10秒毎に反転させた。循環経路20を用いた糖蜜の循環速度は1.0ml/min、中間層の抽出速度は1.0ml/min、溶媒エタノールの添加速度は1.0ml/minとした。
【0068】
上述した実施例4と同様に、終了後の含有蔗糖重量および回収率を得た。本実施例においては、蔗糖が36.47%と高収率で回収できた。本実施例では、実施例4と同様に糖希釈液の循環を行っているが、糖希釈液の循環、溶媒の添加、中間層の回収、および撹拌のその他条件が異なっており、これらの条件の組み合わせによって回収率は変化する。
【0069】
【表8】
【符号の説明】
【0070】
蔗糖回収装置 1
中間層生成槽 10
中間層抜き出し機構 20
管路 21
ポンプ 22
溶媒供給機構 30
管路 31
ポンプ 32
循環機構 40
管路 41
ポンプ 42
撹拌機構 50
撹拌軸 51
撹拌羽根 52
糖希釈液 100
中間層 110
溶媒 120
図1
図2