(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】偏光板製造廃液の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/04 20060101AFI20220330BHJP
【FI】
C02F1/04 C
(21)【出願番号】P 2020056996
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2021-04-14
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000143972
【氏名又は名称】株式会社ササクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】若山 峻哉
(72)【発明者】
【氏名】木谷 義明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀史
(72)【発明者】
【氏名】平野 悟
(72)【発明者】
【氏名】藤原 義浩
(72)【発明者】
【氏名】水野 智章
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-089602(JP,A)
【文献】特開2017-209607(JP,A)
【文献】特開2008-13379(JP,A)
【文献】特開2012-16673(JP,A)
【文献】特開2009-90256(JP,A)
【文献】特表2016-520881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/02 - 1/18
B01B 1/00 - 1/08
B01D 1/00 - 8/00
9/00 - 9/04
C01D 1/00 - 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光板製造廃液からヨウ化カリウムを回収する偏光板製造廃液の処理方法であって、
偏光板製造廃液を蒸発濃縮して、ホウ素含有化合物およびポリビニルアルコールを主として含む第1の析出物を生成する、第1の濃縮工程と;
該第1の析出物を含む偏光板製造廃液から該第1の析出物を固液分離して、第1の濾液を生成する、第1の固液分離工程と;
該第1の濾液を蒸発濃縮して、ヨウ化カリウムを主として含む第2の析出物を生成する、第2の濃縮工程と;
該第2の析出物を含む該第1の濾液から該第2の析出物を固液分離して、第2の濾液を生成する、第2の固液分離工程と;
該第2の濾液の少なくとも一部
を偏光板製造廃液の処理装置外に排出する、濾液排出工程と;
分離した該第2の析出物をヨウ化カリウム水溶液で洗浄し、残存するポリビニルアルコールを除去することにより、該第2の析出物からヨウ化カリウムを回収する、回収工程と;
を含
み、
偏光板製造廃液の処理装置外に排出された第2の濾液は、第2の濃縮工程に戻されず、および、再利用されない、
偏光板製造廃液の処理方法。
【請求項2】
前記濾液排出工程において、前記第2の濾液の10重量%~33重量%を
偏光板製造廃液の処理装置外に排出する、請求項1に記載の偏光板製造廃液の処理方法。
【請求項3】
前記第2の析出物を水に溶解して、ヨウ化カリウムを主として含む水溶液を調製する、水溶液調製工程と;
該水溶液を蒸発濃縮して、該第2の析出物よりも高い純度でヨウ化カリウムを含む第3の析出物を生成する、第3の濃縮工程と;
該第3の析出物を含む該水溶液から該第3の析出物を固液分離する、第3の固液分離工程と;
をさらに含み、
前記回収工程が、分離した該第3の析出物をヨウ化カリウム水溶液で洗浄し、残存するポリビニルアルコールを除去することにより、該第3の析出物からヨウ化カリウムを回収することを含む、
請求項1または2に記載の偏光板製造廃液の処理方法。
【請求項4】
前記水溶液調製工程において、前記第2の析出物の濃度が40重量%~60重量%となるように前記水溶液を調製する、請求項3に記載の偏光板製造廃液の処理方法。
【請求項5】
前記第3の濃縮工程の前に、前記水溶液をフィルターに通過させることをさらに含む、請求項4に記載の偏光板製造廃液の処理方法。
【請求項6】
偏光板製造廃液の処理装置外に排出されなかった前記第2の濾液に前記第1の濾液を補充し、該補充した液を前記第2の濃縮工程に供する、請求項1から5のいずれかに記載の偏光板製造廃液の処理方法。
【請求項7】
前記回収したヨウ化カリウム中のホウ素濃度が0.01重量%以下である、請求項1から6のいずれかに記載の偏光板製造廃液の処理方法。
【請求項8】
前記第1の濃縮工程と前記第1の固液分離工程との間に、蒸発濃縮後の前記偏光板製造廃液を冷却晶析する冷却晶析工程をさらに含む、請求項1から7のいずれかに記載の偏光板製造廃液の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板製造廃液の処理方法に関する。より詳細には、本発明は、偏光板の製造で生じる廃液からヨウ化カリウムを回収する偏光板製造廃液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板の製造においては、染色、架橋および延伸工程等にヨウ素、ヨウ化カリウム(KI)、ホウ素含有化合物(例えば、ホウ酸)が大量に用いられている。したがって、偏光板の製造で生じる廃液(以下、偏光板製造廃液と称する)には、一定量以上のこのような化合物が含まれている。近年、環境問題、持続可能な開発等の観点から、偏光板製造廃液からKIを回収し、回収したKIを再利用することが検討されている。しかし、このような回収KIはホウ素含有化合物が十分に低減されておらず、再利用するには品質が不十分であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-314864号公報
【文献】特開2006-231325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、再利用するに十分な品質を有するヨウ化カリウムを回収し得る偏光板製造廃液の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態による偏光板製造廃液の処理方法は、偏光板製造廃液からヨウ化カリウムを回収するための方法である。偏光板製造廃液の処理方法は、偏光板製造廃液を蒸発濃縮して、ホウ素含有化合物およびポリビニルアルコールを主として含む第1の析出物を生成する、第1の濃縮工程と;該第1の析出物を含む偏光板製造廃液から該第1の析出物を固液分離して、第1の濾液を生成する、第1の固液分離工程と;該第1の濾液を蒸発濃縮して、ヨウ化カリウムを主として含む第2の析出物を生成する、第2の濃縮工程と;該第2の析出物を含む該第1の濾液から該第2の析出物を固液分離して、第2の濾液を生成する、第2の固液分離工程と;該第2の濾液の少なくとも一部を系外に排出する、濾液排出工程と;分離した該第2の析出物からヨウ化カリウムを回収する、回収工程と;を含む。
1つの実施形態においては、上記偏光板製造廃液の処理方法は、上記第2の析出物を水に溶解して、ヨウ化カリウムを主として含む水溶液を調製する、水溶液調製工程と;該水溶液を蒸発濃縮して、該第2の析出物よりも高い純度でヨウ化カリウムを含む第3の析出物を生成する、第3の濃縮工程と;該第3の析出物を含む該水溶液から該第3の析出物を固液分離する、第3の固液分離工程と;をさらに含み、上記回収工程は、分離した該第3の析出物からヨウ化カリウムを回収することを含む。
1つの実施形態においては、上記偏光板製造廃液の処理方法は、系外に排出されなかった上記第2の濾液に上記第1の濾液を補充し、該補充した液を上記第2の濃縮工程に供することを含む。
1つの実施形態においては、上記回収したヨウ化カリウム中のホウ素濃度は0.01重量%以下である。
1つの実施形態においては、上記偏光板製造廃液の処理方法は、上記第1の濃縮工程と上記第1の固液分離工程との間に、蒸発濃縮後の上記偏光板製造廃液を冷却晶析する冷却晶析工程をさらに含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、再利用するに十分な品質(純度)を有するヨウ化カリウムを回収し得る偏光板製造廃液の処理方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の1つの実施形態による偏光板製造廃液の処理方法に用いられ得る装置と処理方法の手順とを組み合わせて説明するブロック図である。
【
図2】ヨウ化カリウムおよびホウ酸の相互溶解度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
図1は、本発明の1つの実施形態による偏光板製造廃液の処理方法に用いられ得る装置と処理方法の手順とを組み合わせて説明するブロック図である。
図1に示すように、偏光板製造廃液の処理装置は、第1の濃縮装置、第1の固液分離装置、第2の濃縮装置、および、第2の固液分離装置、さらに、必要に応じて、水溶液調製装置、第3の濃縮装置、および、第3の固液分離装置を備える。図示例は、第3の固液分離装置までを備える形態である。実用的には、偏光板製造廃液の処理装置は、第1の濃縮装置の上流に原水槽(廃液ピット)を備える。偏光板製造廃液の処理装置は、必要に応じて、第1の濃縮装置と第1の固液分離装置との間に、冷却晶析装置(図示せず)をさらに備えていてもよい。以下、このような偏光板製造廃液の処理装置を用いた偏光板製造廃液の処理方法の代表例を説明する。
【0010】
まず、偏光板製造廃液を原水槽から第1の濃縮装置に導入して蒸発濃縮する(第1の濃縮工程)。偏光板製造廃液は、偏光板の製造で生じる廃液である。偏光板の製造においては、染色、架橋および延伸工程等にヨウ素、ヨウ化カリウム(KI)、ホウ素含有化合物(代表的には、ホウ酸(H3BO3))が大量に用いられている。さらに、偏光板の原反としてポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムが用いられている。したがって、偏光板製造廃液は、代表的には、ヨウ素、KI、ホウ素含有化合物(代表的には、ホウ酸(H3BO3))、PVA、および、偏光板の製造において発生または混入した不純物を含む。KIおよびH3BO3は、代表的にはイオンの形態で偏光板製造廃液に含まれている。偏光板製造廃液のpHは、代表的には3.5~8.0である。なお、偏光板製造廃液はホウ酸(H3BO3)を含むので通常は酸性であるが、中性または弱アルカリ性(例えば、pHが7.0~8.0)であってもよい。処理装置の腐食を抑制するため、偏光板製造廃液に水酸化カリウム等の中和剤を添加してもよい。
【0011】
第1の濃縮装置としては、偏光板製造廃液を蒸発により濃縮可能である限りにおいて任意の適切な構成が採用され得る。具体例としては、ヒートポンプ型、エゼクター駆動型、スチーム型、フラッシュ型などの蒸発濃縮装置が挙げられる。第1の濃縮装置は、単独で用いてもよく2つ以上を組み合わせて用いてもよい。2つ以上の濃縮装置を組み合わせて用いる場合、それぞれの濃縮装置はすべてが同タイプであってもよく、異なるタイプの濃縮装置を組み合わせてもよい。1つの実施形態においては、ヒートポンプ型の濃縮装置を前段(上流)に配置し、この装置で濃縮された偏光板製造廃液をさらに蒸発濃縮するフラッシュ型の濃縮装置を後段(下流)に配置してもよい。蒸発濃縮は、代表的には、偏光板製造廃液を所定温度(例えば、70℃)に加熱してその水分を蒸発させることにより行われる。第1の濃縮装置で生成される水蒸気は、加熱による自己凝縮または冷却水との熱交換により冷却されて凝縮水(図示せず)となる。偏光板製造廃液の濃縮時に発生する遊離ヨウ素の酸化を抑制するために、第1の濃縮装置を窒素パージしてもよい。
【0012】
第1の濃縮装置において偏光板製造廃液が濃縮されると、当該廃液に含まれているホウ素含有化合物(代表的には、ホウ酸(H
3BO
3))が析出する。廃液に含まれるホウ素含有化合物は、実質的にはホウ酸であるので、以下、ホウ酸を代表例としてメカニズムを説明する。
図2は、KIおよびH
3BO
3の相互溶解度を溶液に対する重量%で示す図である。第1の濃縮装置に導入される時点の偏光板製造廃液に含まれるKIおよびH
3BO
3の濃度がA点で表される場合、偏光板製造廃液を70℃で蒸発濃縮すると、KIおよびH
3BO
3の濃度はB点に移動する。KIおよびH
3BO
3は、A点からB点まで移動する間、偏光板製造廃液中に溶解された状態が維持される。その後、70℃に維持しながら偏光板製造廃液をさらに蒸発濃縮すると、H
3BO
3の析出が開始され、H
3BO
3の結晶を生成しながら、KIおよびH
3BO
3の濃度がB点からC点に移動する。C点における濃縮後の偏光板製造廃液は、KIが未飽和で高濃度(例えば20重量%以上、図示例では約50重量%)である一方で、H
3BO
3は低濃度(図示例では約10重量%)である。また、偏光板製造廃液にはPVAが含まれているので、上記のように偏光板製造廃液を高温で蒸発濃縮することにより、PVAが例えばさらに重合してコロイド状になる。その結果、偏光板製造廃液に含まれていたH
3BO
3およびPVAの多くがスラッジとなる。結果として、ホウ素含有化合物(代表的には、ホウ酸)およびPVAを主として含む第1の析出物が生成される。第1の析出物は、H
3BO
3およびPVA以外の不純物を含み得る。
【0013】
次いで、必要に応じて、第1の析出物を含む偏光板製造廃液を、第1の濃縮装置と第1の固液分離装置との間に配置された冷却晶析装置(図示せず)において冷却晶析する(冷却晶析工程)。冷却晶析装置としては、任意の適切な構成が採用され得る。具体例としては、ジャケット式、真空式などの冷却晶析装置が挙げられる。冷却晶析は、偏光板製造廃液を好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは30℃以下、特に好ましくは常温(例えば、25℃)付近まで冷却することが好ましい。冷却晶析を行うことにより、ホウ酸がさらに晶析されるので、偏光板製造廃液中のホウ酸濃度がさらに低減され得る。より詳細には、
図2において、C点まで移動したKIおよびH
3BO
3の濃度は、25℃まで冷却する冷却晶析によってD点に移動することで、ホウ酸がさらに晶析される(図示例では、D点においてホウ酸濃度は5重量%以下となる)。なお、第1の濃縮工程において偏光板製造廃液中のH
3BO
3濃度が十分に低減される場合には、冷却晶析工程は省略され得る。
【0014】
次いで、第1の析出物を含む偏光板製造廃液を第1の固液分離装置に導入して、偏光板製造廃液から第1の析出物を固液分離する(第1の固液分離工程)。これにより、偏光板製造廃液から第1の析出物が除去されて、第1の濾液が生成される。偏光板製造廃液から第1の析出物が除去されることにより、第1の濾液においては、H3BO3が例えば60%~90%程度除去され、PVAが例えば60%~90%程度除去されている。第1の固液分離装置としては、任意の適切な構成が採用され得る。具体例としては、ろ過装置(例えば、加圧ろ過(フィルタープレス)装置、真空ろ過装置、遠心ろ過装置)、遠心分離装置(例えば、デカンター型遠心分離装置)が挙げられる。
【0015】
分離された第1の析出物は、H3BO3を主体とする結晶であり、PVAおよび若干のKI結晶が含まれている。分離された第1の析出物は、代表的には系外に排出される。なお、第1の析出物(H3BO3主体結晶)は、例えば、第1の濃縮装置で生成された凝縮水などを利用して洗浄し、回収することにより、例えば半導体やLED 等の製造工程において再利用することができる。また、洗浄後の洗浄廃液には上記KI結晶が含まれるので、この洗浄廃液を上記第1の濾液とともに後述する第2の濃縮装置に導入してもよい。
【0016】
次いで、上記で得られた第1の濾液を第2の濃縮装置に導入して、蒸発濃縮する(第2の濃縮工程)。上記のとおり、第1の濃縮工程によって第1の濾液に含まれるH3BO3およびPVA濃度は十分に低減され、第1の濾液にはKIが高濃度で溶解しているので、第2の濃縮装置においてさらに濃縮することにより、KIが過飽和となる。その結果、KIを主として含む第2の析出物を生成することができる。より詳細には、第2の析出物は、KIを主体とする結晶であり、若干のH3BO3およびPVAが含まれている。なお、KIの収率を挙げるために濃縮倍率を上げると、第2の析出物に含まれるPVA量も増大するので、第2の析出物(KI結晶)を洗浄してPVAを除去することが好ましい。第2の濃縮装置としては、第1の濃縮装置と同様に任意の適切な構成が採用され得る。1つの実施形態においては、フラッシュ型の濃縮装置が採用され得る。第2の濃縮は、例えば、濃縮液の比重が濃縮前の第1の濾液の比重の1.1倍~1.4倍程度となった時点で終了され得る。
【0017】
次いで、上記第2の析出物を含む第1の濾液(スラリー液)を第2の固液分離装置に導入して、第1の濾液から第2の析出物を固液分離する(第2の固液分離工程)。これにより、第1の濾液から第2の析出物が分離されて、第2の濾液が生成される。第2の固液分離装置としては、第1の固液分離装置と同様に任意の適切な構成が採用され得る。
【0018】
分離された第2の濾液は、代表的には、KI、H3BO3、およびPVAを含む。第2の濾液におけるKI濃度は30重量%~55重量%程度であり、H3BO3濃度は1重量%~5重量程度であり、PVA濃度は後述する第3の濃縮工程において実質的にすべてが除去される程度に少量である。1つの実施形態においては、第2の濾液の一部を第2の濃縮工程に戻すことなく系外に排出する。この場合、系外に排出される第2の濾液の割合は、第2の濾液全体に対して、好ましくは1重量%~50重量%であり、より好ましくは5重量%~40重量%であり、さらに好ましくは10重量%~33重量%である。この場合、系外に排出されなかった第2の濾液には、第1の濾液が補充される。該第1の濾液が補充された液(第2の濾液と第1の濾液との混合液)は、第2の濃縮工程およびそれに続く第2の固液分離工程に供される。第1の濾液の補充量(重量)は、代表的には、第2の濾液の排出量(重量)よりも大きい。より詳細には、第1の濾液の補充量は、「第2の濾液の排出量+第2の濃縮工程において第1の濾液の比重を第2の濾液の比重とするために蒸発させる水の量」に相当し得る。第2の濾液の一部を系外に排出することにより、最終的に回収されるKI中のホウ素濃度を顕著に低減させることができる。従来、偏光板製造廃液から回収されるKIは再利用するに十分な品質(純度)を有していない場合が多かったところ、本発明者らは、その原因がKI中のホウ素(実質的には、ホウ素含有化合物)であることを解明した。そして、試行錯誤の結果、回収KI中のホウ素濃度(ホウ素含有化合物含有量に対応し得る)を低減する手段として第2の濾液の一部を再利用することなく(実質的には、第2の濃縮工程に戻すことなく)系外に排出することが有用であることを見出した。より詳細には、第2の濾液にはKIが含まれているので、当業者であればKI回収率を上げるために第2の濾液のすべてを再利用するところ、本発明者らは、そのような再利用によるKI回収率の向上よりもH3BO3に起因するKI純度の低下のほうが支配的であることを見出した。すなわち、本発明の実施形態は、試行錯誤により得られた業界の技術常識とは逆方向の技術的思想に基づくものであり、したがって、その効果は予期せぬ優れた効果である。別の実施形態においては、第2の濾液のすべてを系外に排出してもよい。この場合も上記と同様の効果が得られ得る。なお、系外に排出された第2の濾液は、そのまま廃棄されてもよく、第1の濃縮工程(すなわち、直前の濃縮工程(第2の濃縮工程)ではなく、その1つ前の濃縮工程)に戻してもよく、第1の濃縮工程よりも前段(例えば、原水槽)に戻してもよい。これにより、回収されるKI中のホウ素濃度の上昇をさらに抑制することができる。好ましくは、系外に排出された第2の濾液は、第1の濃縮工程よりも前段(例えば、原水槽)に戻される。
【0019】
1つの実施形態においては、分離された第2の析出物(KI結晶)からKIを回収する。第2の析出物は、好ましくは、KI水溶液で洗浄され得る。KI水溶液で洗浄することにより、水で洗浄する場合に比べて、得られたKIの減損を小さくすることができる。得られたKIの洗浄液への溶解を抑制することができるからである。得られたKIの溶解を抑制する観点から、洗浄液としてのKI水溶液の濃度は、飽和濃度に近接する高濃度であることが好ましい。加えて、このような洗浄により、残存するPVAを効率的に除去することができる。偏光板製造廃液に含まれるPVAの大部分は、上記第1の析出物として除去されており、かつ、第1の析出物として除去されているPVAは分子量が大きいので、残存するPVAは分子量が小さいものである。したがって、KI結晶中にPVAが残存する場合であっても、洗浄により効率的に除去することができる。
【0020】
以上のようにして、偏光板製造廃液からKIを回収することができる。
【0021】
1つの実施形態においては、必要に応じて、第2の析出物からKIを回収する代わりに、第2の析出物を水溶液調製装置に導入して、KIを主として含む水溶液を調製し(水溶液調製工程)、当該水溶液を後述する第3の濃縮工程および第3の固液分離工程に供してもよい。水溶液調製装置としては、任意の適切な構成が採用され得る。例えば、タンクで第2の析出物を水に溶解させればよい。水溶液は、第2の析出物の濃度が好ましくは40重量%~60重量%となるように調製され得る。当該濃度がこのような範囲であれば、後述の第3の濃縮工程においてH3BO3、PVAおよび不純物を効率的に除去することが可能となり、最終的に非常に純度の高いKIを得ることができる。必要に応じて、得られた水溶液は所定のフィルターを通過させてもよい。水溶液をフィルター通過させることにより、不純物等をさらに効率的に除去することが可能となる。
【0022】
次いで、上記で得られた水溶液を第3の濃縮装置に導入して、蒸発濃縮する(第3の濃縮工程)。上記のとおり、水溶液に含まれるH3BO3およびPVA濃度は第1の濾液よりもさらに低減され、KIに対するH3BO3、PVAおよび不純物の割合が第1の濾液よりも顕著に小さいので、第3の濃縮装置においてさらに濃縮することにより、第2の析出物よりも高い純度でKI結晶を含む第3の析出物を生成することができる。第3の濃縮装置としては、第1および第2の濃縮装置と同様に任意の適切な構成が採用され得る。第3の濃縮は、任意の適切な指標が所定値に達した場合に終了され得る。実質的には、第3の濃縮は連続的に行われるので、指標が所定値に達した場合に、第3の析出物を含む水溶液(濃縮液)が第3の固液分離工程に供され、次の水溶液が第3の濃縮装置に供給され得る。当該指標の具体例としては、濃縮液の比重、濃縮液における第3の析出物と水溶液との割合が挙げられる。例えば濃縮液の比重を指標とする場合、濃縮液の比重が濃縮前の水溶液の比重の1.1倍~1.4倍程度となった時点で、第3の濃縮が終了され得る。濃縮液の比重が大きすぎると、ホウ素含有化合物の除去が不十分となる場合がある。濃縮液の比重が小さすぎると、KIの精製および回収効率が不十分となる場合がある。なお、濃縮液のすべてを第3の固液分離工程に供してもよく、一部を第3の濃縮装置に残しておいてもよい。
【0023】
次いで、上記第3の析出物を含む水溶液を第3の固液分離装置に導入して、水溶液から第3の析出物を固液分離する(第3の固液分離工程)。第3の固液分離装置としては、第1および第2の固液分離装置と同様に任意の適切な構成が採用され得る。なお、水溶液から第3の析出物を固液分離して得られる第3の濾液は、第3の濃縮工程に戻してもよく、そのまま系外に排出してもよい。1つの実施形態においては、第2の濾液の場合と同様に、第3の濾液の一部が系外に排出され得る。これにより、最終的に回収されるKI中のホウ素濃度を顕著に低減させることができる。なお、系外に排出された第3の濾液は、そのまま廃棄されてもよく、偏光板製造廃液とともに第1の濃縮工程に供してもよく、第1の濾液とともに第2の濃縮工程に供してもよく、第1の濃縮工程よりも前段(例えば、原水槽)に戻してもよい。これにより、回収されるKI中のホウ素濃度の上昇をさらに抑制することができる。好ましくは、系外に排出された第3の濾液は、第1の濃縮工程よりも前段(例えば、原水槽)に戻される。
【0024】
分離された第3の析出物(KI結晶)からKIを回収する。第3の析出物は、第2の析出物の場合と同様に、KI水溶液で洗浄され得る。KI水溶液による洗浄の効果は、第2の析出物の場合と同様である。
【0025】
以上のように第3の濃縮工程および第3の固液分離工程をさらに行うことにより、さらに高純度のKIを回収することができる。
【0026】
必要に応じて、第4の濃縮工程および第4の固液分離工程をさらに行ってもよい。具体的には、第3の析出物を水に溶解して水溶液を調製し、当該水溶液を第4の濃縮工程および第4の固液分離工程に供し、第4の析出物(KI結晶)を回収してもよい。第4の析出物(KI結晶)は、第3の析出物よりも高純度のKIを含有し得る。第4の濃縮工程および第4の固液分離工程は、それぞれ、第3の濃縮工程および第3の固液分離工程と同様である。第4の濃縮工程および第4の固液分離工程をさらに行うことにより、さらに高純度のKIを回収することができる。
【0027】
回収されたKI中のホウ素濃度は、好ましくは0.01重量%以下であり、より好ましくは0.009重量%以下であり、さらに好ましくは0.008重量%以下であり、特に好ましくは0.0075重量%以下である。ホウ素濃度は小さいほど好ましく、その下限は例えば0.001重量%であり得る。本発明の実施形態によれば、上記のように、第2の濾液の少なくとも一部を再利用せずに系外に排出することにより、ホウ素濃度が非常に低い(すなわち、純度が非常に高い)KIを回収することができる。このような高純度のKIは、再利用するに十分な品質を有する。なお、本明細書において「ホウ素濃度」とは、回収されたKI全重量に対するホウ素量(%)をいう。ホウ素量は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)分析により測定され得る。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0029】
<実施例1>
実際の偏光板の製造で生じた偏光板製造廃液を、第1の濃縮工程、冷却晶析工程、第1の固液分離工程、第2の濃縮工程、第2の固液分離工程、水溶液調製工程、第3の濃縮工程、および、第3の固液分離工程にこの順に供し、偏光板製造廃液中のKIを回収した。
【0030】
第1の濃縮工程は、ヒートポンプ型の濃縮装置を前段(上流)に配置し、フラッシュ型の濃縮装置を後段(下流)に配置して行った。第1の濃縮工程においては、温度を70℃に維持しながら偏光板製造廃液を蒸発濃縮した。冷却晶析工程は、温度を70℃から25℃に冷却することにより行った。第1の濃縮工程および冷却晶析工程により、第1の析出物が生成した。
第1の固液分離工程は、遠心分離装置を用いて行った。これにより、偏光板製造廃液から第1の析出物を除去して、第1の濾液を得た。第1の析出物は系外に排出した。
第2の濃縮工程においては、フラッシュ型の濃縮装置を用いて、温度を70℃に維持しながら第1の濾液を蒸発濃縮した。これにより、第2の析出物が生成した。
【0031】
第2の固液分離工程は、遠心分離装置を用いて行った。これにより、第1の濾液から第2の析出物を分離して、第2の濾液を得た。第2の濾液の一部(本実施例では第2の濾液全体に対して約33重量%)は、そのまま(すなわち、再利用することなく)系外に排出した。系外に排出されなかった第2の濾液には第1の濾液を補充し、第2の濃縮工程に戻して再利用した。
水溶液調製工程においては、第2の析出物を水に溶解し水溶液を調製した。水溶液における第2の析出物の濃度は約50重量%に調整した。
第3の濃縮工程においては、フラッシュ型の濃縮装置を用いて、温度を70℃に維持しながら水溶液を蒸発濃縮した。これにより、第3の析出物が生成した。
第3の固液分離工程は、遠心分離装置を用いて行った。これにより、水溶液から第3の析出物を分離した。得られた第3の析出物をKI飽和水溶液で洗浄し、KI結晶を得た。得られたKI結晶中のホウ素濃度は0.0072重量%であった。なお、第3の固液分離工程で得られた第3の濾液は、約10重量%を系外に排出し、残りを第3の濃縮工程に戻した。
【0032】
<比較例1>
第2の濾液のすべてを第2の濃縮工程に戻し、および、第3の濾液のすべてを第3の濃縮工程に戻して再利用したこと以外は実施例1と同様にしてKI結晶を得た。得られたKI結晶中のホウ素含有化合物濃度は0.2456重量%であった。