(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】注油機構、粘度コントローラ、および、油の供給方法
(51)【国際特許分類】
F04B 3/00 20060101AFI20220330BHJP
F04B 53/14 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
F04B3/00
F04B53/14
(21)【出願番号】P 2022016923
(22)【出願日】2022-02-07
【審査請求日】2022-02-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592165255
【氏名又は名称】有限会社メイセイ
(74)【代理人】
【識別番号】100167276
【氏名又は名称】渡邉 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】久保 威育
【審査官】大屋 静男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/120539(WO,A1)
【文献】実開平3-49305(JP,U)
【文献】特表平8-512375(JP,A)
【文献】特開昭58-117369(JP,A)
【文献】特開2006-169993(JP,A)
【文献】特開2007-170319(JP,A)
【文献】特開2017-52226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 1/00-7/06
F04B 19/22、53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留容器に貯留されている油を注油対象に供給する注油機構であって、
前記注油対象に接続され、前記油を吐出する吐出口を有し、前記油が流入する第1油室と、
前記吐出口から前記第1油室内への流体の逆流を規制する逆止弁と、
前記貯留容器に接続され、前記油が充填される第2油室と、
前記第1油室と前記第2油室とを隔てるとともに、前記第1油室を密に閉塞するように配置され、前記第1油室に対して往復移動することにより、前記第1油室の容積を増減させる第1移動体と、
前記第1移動体の内部に設けられ、前記第1油室と前記第2油室とを連通する連通流路と、
前記第2油室を密に閉塞するように配置され、前記第2油室に対して往復移動することにより、前記第2油室の容積を増減させるとともに前記連通流路を開閉する第2移動体と、
を備える、注油機構。
【請求項2】
請求項1記載の注油機構であって、
前記第2移動体が前記第2油室の容積が増大する方向に移動すると、閉塞されていた前記連通流路が開かれ、その後に、前記第1移動体が前記第1油室の容積を増大させる方向に移動するように構成され、かつ、前記第2移動体が前記第2油室の容積を減少させる方向に移動すると、開かれていた前記連通流路が閉じられ、その後、前記第1移動体が前記第1油室の容積を減少させる方向に移動するように構成されている、注油機構。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の注油機構であって、
前記第1油室は円柱状の空間によって構成され、
前記第1移動体は、円柱状の形状を有しており、前記第1油室に嵌入され、前記第1油室内において往復移動する先端部を有し、
前記第2油室には、前記第1油室から延び出ている前記第1移動体の部位が中心に配置されていることにより、円筒状の空間が形成されており、
前記第2移動体は、前記第1移動体を収容する円筒状の形状を有しており、先端面が前記第2油室に面し、内周面が前記第1移動体の側面に密に接し、外周面が前記第2油室の内壁面に密に接した状態で、前記第1移動体に沿って往復移動し、
前記連通流路は、前記第1移動体の先端面において開口する第1開口と、前記第1移動体の側面において開口し、前記第2移動体によって開閉される第2開口とを有している、注油機構。
【請求項4】
請求項3記載の注油機構であって、さらに、
前記第1移動体および前記第2移動体の前記第2油室から延び出ている部位が中心に配置されている空間によって構成された空気室を備え、
前記第1移動体と前記第2移動体とは、前記空気室に供給される圧縮空気の圧力によって移動するように構成されている、注油機構。
【請求項5】
インクの粘度を調整する粘度コントローラであって、
外部からの圧縮空気の導入を受け入れる空気導入部と、
前記インクを循環させる循環経路と、
前記空気導入部に導入された前記圧縮空気によって、前記循環経路において前記インクを循環させる駆動力を発生するポンプと、
前記空気導入部に導入された前記圧縮空気によって、前記第1移動体と前記第2移動体とを移動させることにより、前記ポンプに注油する、請求項4に記載の注油機構と、
を備える、粘度コントローラ。
【請求項6】
貯留容器に貯留されている油を注油対象に供給する注油機構であって、前記注油対象に接続され、前記油を吐出する吐出口を有し、前記吐出口からの流体の逆流が規制されている第1油室と、前記貯留容器に接続されている第2油室と、前記第1油室と前記第2油室とを連通し、開閉可能な連通流路と、を備える注油機構によって、前記注油対象に前記油を供給する方法であって、
前記連通流路が閉じられた状態のときに、前記第2油室の容積を増大させ始めることにより、前記貯留容器から前記第2油室への前記油の充填を開始した後、前記連通流路を開く工程と、
前記第2油室の容積を増大させながら、前記第1油室の容積を増大させることにより、前記第2油室に前記油を流入させながら、前記連通流路を通じて、前記第1油室に前記油を流入させる工程と、
前記連通流路を閉じた後、前記第1油室の容積を低減させて、前記第1油室の前記油を前記吐出口から吐出させる工程と、を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、注油機構、粘度コントローラ、および、油の供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプなどの機械装置の駆動を円滑化させるために、駆動中の当該機械装置に油を自動で注入する注油機構が知られている。例えば、下記の特許文献1には、印刷に用いられるインクの粘度を調整する粘度コントローラにおいてインクを循環させる循環ポンプに潤滑油を注入する注油機構が開示されている。特許文献1の注油機構は、シリンダ内に挿入されているピストンを引くことにより、タンクに貯留されている潤滑油をシリンダ内に充填し、ピストンをシリンダ内に押し込むことによってシリンダ内に充填された潤滑油を循環ポンプへと吐出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のシリンダのような、油が充填され、油を吐出するための圧力を発生させる油室を備える注油機構においては、油室に空気が入り込んでいると、油室内に発生させた圧力が、その空気によって吸収されてしまい、油を十分に吐出できなくなる場合があった。特許文献1の技術では、シリンダの内部空間に入りこんだ空気が浮力によって潤滑油の供給源であるタンクの方へと抜けるように、タンクをシリンダの上方に設置している。しかしながら、空気の浮力を利用するだけでは、空気がシリンダの外部へと抜けきらず、シリンダ内に空気を残留させてしまう可能性が高い。このように、注油機構においては、油室に空気が入り込んだ場合でも、注油対象への油の円滑な供給を継続できるようにすることについて、依然として改良の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の技術の一形態は、貯留容器に貯留されている油を注油対象に供給する注油機構として提供される。この形態の注油機構は、前記注油対象に接続され、前記油を吐出する吐出口を有し、前記油が流入する第1油室と、前記吐出口から前記第1油室内への流体の逆流を規制する逆止弁と、前記貯留容器に接続され、前記油が充填される第2油室と、前記第1油室と前記第2油室とを隔てるとともに、前記第1油室を密に閉塞するように配置され、前記第1油室に対して往復移動することにより、前記第1油室の容積を増減させる第1移動体と、前記第1移動体の内部に設けられ、前記第1油室と前記第2油室とを連通する連通流路と、前記第2油室を密に閉塞するように配置され、前記第2油室に対して往復移動することにより、前記第2油室の容積を増減させるとともに前記連通流路を開閉する第2移動体と、を備える。
この形態の注油機構によれば、2つの移動体の移動を個別に制御することにより、2つの油室のそれぞれへの油の流入と、2つの油室のそれぞれからの油の排出と、2つの油室の連通状態と、を容易に制御できる。よって、例えば、第1油室と第2油室との連通を遮断した状態にした上で、第1油室に入り込んだ空気を第1移動体によって油とともに吐出口を通じて押し出すことが容易にできる。また、第1油室と第2油室の連通状態を遮断した状態で第2油室に入り込んだ空気を第2移動体によって貯留容器の方に排出することが容易にできる。また、第1油室の空気が第2油室に流入することを抑制しながら第2油室から第1油室へと油を流入させることも容易にできる。そのため、この形態の注油機構によれば、第1油室や第2油室に空気が入り込んだとしても、その空気を2つの移動体の移動によって第1油室や第2油室から容易に排出させることができる。よって、注油対象への油の供給を円滑に継続することが可能になる。
【0007】
(2)上記形態の注油機構は、前記第2移動体が前記第2油室の容積が増大する方向に移動すると、閉塞されていた前記連通流路が開かれ、その後に、前記第1移動体が前記第1油室の容積を増大させる方向に移動するように構成され、かつ、前記第2移動体が前記第2油室の容積を減少させる方向に移動すると、開かれていた前記連通流路が閉じられ、その後、前記第1移動体が前記第1油室の容積を減少させる方向に移動するように構成されていてよい。
この形態の注油機構によれば、第2移動体を第2油室の容積を増大する方向に移動させて、貯留容器から第2油室に油が流入し始めると、連通流路が開かれるため、第2油室から第1油室へと油を流入させることができる。このとき、第1油室に空気が入り込んでいたとしても、第2油室からの油の流入により、第1油室から第2油室へと空気が流入してしまうことを抑制できる。また、この形態の注油機構によれば、第2移動体を第2油室の容積を減少させる方向に移動させると連通流路が閉じられて、第1油室の容積を減少する方向への第1移動体の移動が開始される。そのため、第1油室と第2油室との連通を遮断した状態で、第1移動体によって、第1油室の油を、吐出口を通じて吐出させることができる。第1油室に空気が入り込んでいた場合には、その空気を、第1移動体によって、油とともに吐出口を通じて第1油室から押し出すことができる。このように、この形態の注油機構によれば、吐出口から油を吐出させるための第1移動体と第2移動体との連携動作により、第1油室に入り込んだ空気を、吐出口を通じて油とともに外部に排出させることができる。そのため、第1油室に空気が入り込んだとしても、注油対象への油の供給を円滑に継続させることが可能である。
【0008】
(3)上記形態の注油機構は、前記第1油室は円柱状の空間によって構成され、前記第1移動体は、円柱状の形状を有しており、前記第1油室に嵌入され、前記第1油室内において往復移動する先端部を有し、前記第2油室は、前記第1油室から延び出ている前記第1移動体の部位が中心に配置されている円筒状の空間によって構成され、前記第2移動体は、前記第1移動体を収容する円筒状の形状を有しており、先端面が前記第2油室に面し、内周面が前記第1移動体の側面に密に接し、外周面が前記第2油室の内壁面に密に接した状態で、前記第1移動体に沿って往復移動し、前記連通流路は、前記第1移動体の先端面において開口する第1開口と、前記第1移動体の側面において開口し、前記第2移動体によって開閉される第2開口とを有していてよい。
この形態の注油機構によれば、円柱状の部材や、円筒状の部材の組合せによって、2つの移動体と2つの油室と連通流路とを備える機構を簡易に実現することができる。また、注油機構の構成を、コンパクトにまとめることができ、簡素化することができる。
【0009】
(4)上記形態の注油機構は、さらに、前記第1移動体および前記第2移動体の前記第2油室から延び出ている部位が中心に配置されている空間によって構成された空気室を備え、前記第1移動体と前記第2移動体とは、前記空気室に供給される圧縮空気の圧力によって移動するように構成されてよい。
この形態の注油機構によれば、2つの移動体の移動の制御を、圧縮空気を利用して容易に行うことができる。
【0010】
(5)本開示の技術の一形態は、インクの粘度を調整する粘度コントローラとして提供される。この形態の粘度コントローラは、外部からの圧縮空気の導入を受け入れる空気導入部と、前記インクを循環させる循環経路と、前記空気導入部に導入された前記圧縮空気によって、前記循環経路において前記インクを循環させる駆動力を発生するポンプと、前記空気導入部に導入された前記圧縮空気によって、前記第1移動体と前記第2移動体とを移動させることにより、前記ポンプに注油する、上記形態の注油機構と、を備えていてもよい。
この形態の粘度コントローラによれば、外部から供給される圧縮空気によって、インクを循環させるポンプを駆動させながら、そのポンプの駆動を円滑化させるための油を注油機構からポンプに供給させることもできるため効率的である。
【0011】
(6)本開示の技術の一形態は、貯留容器に貯留されている油を注油対象に供給する注油機構によって、前記注油対象に前記油を供給する方法として提供される。前記注油機構は、前記注油対象に接続され、前記油を吐出する吐出口を有し、前記吐出口からの流体の逆流が規制されている第1油室と、前記貯留容器に接続されている第2油室と、前記第1油室と前記第2油室とを連通し、開閉可能な連通流路と、を備える。この形態の方法は、前記連通流路が閉じられた状態のときに、前記第2油室の容積を増大させ始めることにより、前記貯留容器から前記第2油室への前記油の充填を開始した後、前記連通流路を開く工程と、前記第2油室の容積を増大させながら、前記第1油室の容積を増大させることにより、前記第2油室に前記油を流入させながら、前記連通流路を通じて、前記第1油室に前記油を流入させる工程と、前記連通流路を閉じた後、前記第1油室の容積を低減させて、前記第1油室の前記油を前記吐出口から吐出させる工程と、を備える。
この形態の方法によれば、第1油室に空気が入り込んでいたとしても、第1油室から第2油室に空気が移動することを抑制しながら、貯留容器から第2油室に油を充填させることができ、第2油室から第1油室へと油を流入させることができる。また、その後に、連通流路が閉じられて閉塞されている第1油室から、油とともに空気を、吐出口を通じて排出させることができる。このように、この形態の方法によれば、注油機構の第1油室に入り込んだ空気を第1油室から容易に排出させることができるため、注油対象への油の供給を円滑に継続させることができる。
【0012】
本開示の技術は、注油機構や、粘度コントローラ、注油機構によって油を供給する方法以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、注油機構からポンプに油が供給されるポンプシステム、駆動部に油を供給する注油機構を備えるその他の種々の機械装置やシステム、注油機構を備える粘度コントローラによってインクの粘度が調整される印刷機、注油機構の駆動を制御する制御方法、その制御方法をコンピュータに実現させるためのプログラム、そのプログラムを記録した記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】注油機構を備える粘度コントローラと印刷機の構成を示す概略図。
【
図3】注油機構によって実行される油の供給方法の一例を示す工程フロー図。
【
図5】第2油室の容積を増大させ始める工程を示す模式図。
【
図6】連通流路が開かれた後、第2油室の容積を増大させながら第1油室の容積を増大させる工程を示す模式図。
【
図7】第1油室と第2油室への油の充填が完了した状態を示す模式図。
【
図8】第2油室の容積を低減させ始めた後、連通流路が閉じられる工程を示す模式図。
【
図9】連通流路が閉じられた後、第1油室の容積を低減させる工程を示す模式図。
【
図10】第1油室や第2油室に空気が入り込んだ後の注油機構の状態を例示する模式図。
【
図11】第2油室に油を充填しながら第1油室に油を流入させる工程を示す模式図。
【
図12】第2油室への油の充填が完了した状態を示す模式図。
【
図13】第1油室からの空気の排出が完了した状態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.実施形態:
図1は、本実施形態の注油機構100を備える粘度コントローラ20と印刷機10の構成を示す概略図である。粘度コントローラ20は、印刷機10に接続され、印刷機10で印刷に用いられるインクの粘度を調整する。以下、印刷機10の構成と、粘度コントローラ20の構成を説明した後、本実施形態の注油機構100の構成を説明する。
【0015】
本実施形態では、印刷機10は、グラビア印刷機である。印刷機10は、インクが貯留されているインク皿11と、インク皿11のインクが側面に付着されるシリンダロール12と、印刷する媒体MDをシリンダロール12に圧着させる圧着ローラ13と、を備える。印刷機10は、さらに、インク皿11に供給されるインクを貯留するインク貯留部15を備える。なお、印刷機10には、インク皿11のインクをシリンダロール12に付着させるファニッシャーロールや、余分なインクをシリンダロール12からかき取るドクターブレードが設けられているが、便宜上、その図示や詳細な説明は省略する。
【0016】
シリンダロール12は、グラビア印刷用の版であり、版胴とも呼ばれ、インクが付着される側面には、印刷画像を表す図示しない微細な凹凸が形成されている。圧着ローラ13は、シリンダロール12との間に媒体MDを挟み、シリンダロール12とともに回転しながら帯状の媒体MDを長手方向に送り出す。これにより、シリンダロール12の側面に付着したインクが媒体MDに転写されて、媒体MDに印刷画像が形成される。媒体MDへの印刷が行われている間、粘度コントローラ20は、インク貯留部15のインクを吸引し、その粘度を調整してインク皿11へと供給する。インク皿11の規定の貯留量を超えるインクは、インク皿11からインク貯留部15へと排出される。
【0017】
粘度コントローラ20は、筐体21と、制御ユニット22と、インク循環部23と、粘度検出部28と、溶剤供給部30と、空気導入部40と、注油システム50と、を備える。筐体21は、例えば、ステンレス鋼(登録商標)等の金属板によって構成される。筐体21の内部空間は、上下二段に区画されており、上段には、制御ユニット22を始めとする電気系統が収納され、下段には、インクや油に近接する各構成部23,28,30,40,50の一部または全部が収納されている。図示は省略するが、筐体21の上段の外面には、インクの粘度の検出結果を表示する表示部や、作業者の操作を受け付ける操作部が設けられている。
【0018】
制御ユニット22は、粘度コントローラ20の全体を制御する。制御ユニット22は、少なくとも中央処理装置や主記憶装置を含む電子回路を備える。制御ユニット22は、粘度検出部28の検出結果を受け取り、その検出結果に基づいて、溶剤供給部30を制御する。本実施形態では、制御ユニット22は、注油機構100の制御部としての機能を有し、後述するように、空気導入部40から注油機構100への圧縮空気の供給を制御することにより、注油システム50における注油機構100の動作を制御する。制御ユニット22は、粘度検出部28の検出結果に基づいて、インクの粘度を上述した表示部に表示する機能を有していてもよい。
【0019】
インク循環部23は、インクを循環させる循環経路24と、循環経路24に設けられているポンプ25と、を備える。循環経路24は、印刷機10のインク貯留部15に接続されて、インク貯留部15のインクが導入されるインク導入配管24aと、インク皿11に接続され、インク皿11にインクを供給するインク供給配管24bと、を含んでいる。
【0020】
ポンプ25は、循環経路24においてインクを循環させる駆動力を発生させる。ポンプ25は、制御ユニット22の制御下において駆動するようにしてもよい。ポンプ25の入力側にはインク導入配管24aが接続され、出力側にはインク供給配管24bが接続される。本実施形態では、ポンプ25は、エア駆動式のダイアフラムポンプによって構成され、空気導入部40を通じて導入される圧縮空気によって駆動する。
【0021】
粘度検出部28は、インク循環部23に流れるインクの粘度を検出し、制御ユニット22にその検出結果を表す信号を出力する。本実施形態では、粘度検出部28は、圧力センサによって構成される。粘度検出部28は、ポンプ25に取り付けられており、ポンプ25の作動圧力の脈動数をインクの粘度を表す値として検出する。インクの粘度が高いほど、ポンプ25の作動圧力の作動圧力の脈動数が小さくなり、インクの粘度が低いほど、ポンプ25の作動圧力の作動圧力の脈動数が大きくなる。他の実施形態では、粘度検出部28は、インク導入配管24aを流れるインクに接触するように配置される粘度センサによって構成されてもよい。
【0022】
溶剤供給部30は、インクを希釈する溶剤が貯留されている溶剤タンク31と、溶剤タンク31とインク循環部23とを接続する溶剤配管33と、溶剤配管33に設けられている溶剤制御弁35と、を備える。本実施形態では、溶剤タンク31は、筐体21の上に設置されている。溶剤配管33は、インク循環部23のインク導入配管24aに接続されている。溶剤制御弁35は、電磁弁によって構成されており、制御ユニット22の制御下において開閉する。溶剤制御弁35が開かれると、溶剤タンク31からインク導入配管24aに溶剤が供給され、ポンプ25の手前でインクに溶剤が混合される。
【0023】
粘度コントローラ20は、インクに対する溶剤の混合を制御することにより、インクの粘度を調整する。制御ユニット22は、印刷機10の印刷中に、ポンプ25の作動圧力の脈動数が予め定められた閾値以下になり、インクの粘度が目標値より高くなった場合に、溶剤制御弁35を開いてインクに溶剤を混合させることにより、インクの粘度を低下させる。その後、制御ユニット22は、ポンプ25の作動圧力の脈動数が予め定められた閾値以上になり、インクの粘度が目標値より低くなった場合には、溶剤制御弁35を閉じて溶剤タンク31からの溶剤の供給を停止させる。なお、インクの粘度の目標値は、上述した操作部を通じて、作業者によって制御ユニット22に指令された値である。
【0024】
空気導入部40は、外部からの圧縮空気の導入を受け入れる。本実施形態では、印刷機10から供給される圧縮空気が空気導入部40に導入される。上述したように、空気導入部40に導入された圧縮空気は、インク循環部23のポンプ25の駆動に用いられる。また、後述するように、本実施形態では、空気導入部40に導入された圧縮空気は、注油システム50が備える注油機構100の駆動に用いられる。
【0025】
空気導入部40は、空気用配管41と、レギュレータ42と、空気制御弁45と、流量調整弁47と、を備える。空気用配管41の上流端は、圧縮空気の供給源に接続され、下流端はポンプ25に接続される。レギュレータ42と空気制御弁45と流量調整弁47は、空気用配管41に、上流側からこの順で設けられている。レギュレータ42は、空気用配管41に流入した圧縮空気の圧力を規定の圧力に調整する。空気制御弁45は、電磁弁によって構成されており、制御ユニット22の制御下において開閉する。制御ユニット22は、空気制御弁45を開閉することにより、ポンプ25および注油システム50への圧縮空気の供給を制御する。流量調整弁47は、作業者が操作可能な手動弁であり、ポンプ25に供給される圧縮空気の圧力を調整する。
【0026】
注油システム50は、制御ユニット22の制御下において駆動し、インク循環部23のポンプ25の駆動を円滑化するために、本実施形態の注油機構100によって、ポンプ25の駆動部に潤滑油としての油を供給する。注油システム50は、注油機構100と、油が貯留されている貯留容器51と、注油機構100の後述する吐出口に接続されている注油配管52と、注油機構100に供給される圧縮空気を取り入れる空気取入配管53と、空気取入配管53に設けられた開閉弁55と、を備える。
【0027】
注油機構100および貯留容器51については後述する。注油配管52は、空気導入部40の空気用配管41に接続されている。より具体的には、注油配管52は、空気用配管41の途中のポンプ25と流量調整弁47との間の部位に接続されている。注油機構100が吐出した油は、注油配管52を通じて空気用配管41へと流入し、空気用配管41を通じて圧縮空気とともにポンプ25の駆動部へと流入する。
【0028】
空気取入配管53は、空気導入部40の空気用配管41と注油機構100とを接続する。空気取入配管53は、空気用配管41の途中の空気制御弁45と流量調整弁47との間の部位に接続されている。空気取入配管53には、空気用配管41のレギュレータ42によって調圧された圧縮空気の一部が空気用配管41から分岐流入する。開閉弁55は、電磁弁によって構成されており、制御ユニット22の制御下において開閉する。制御ユニット22は、開閉弁55を開閉することにより、注油機構100への圧縮空気の分岐流入を制御する。
【0029】
図2は、本実施形態の注油機構100の構成を示す概略図である。なお、
図2には、注油機構100に加えて、貯留容器51と、給油配管51pと、注油配管52と、空気取入配管53と、が図示されている。注油機構100は、本体部101と、第1移動体110と、第2移動体120と、を備える。
【0030】
本実施形態では、本体部101は、円筒状の形状を有する金属製の部材によって構成され、本体部101の中心を中心軸方向に貫通する円形状の貫通孔によって構成された内部空間を有している。本体部101の内部空間は、中心軸方向に配列された、複数の径が異なる円柱状の空間によって構成されており、先端から後端にむかって順に、吐出流路102、第1油室103、第2油室104、空気室105、空気流路106を構成する。第1油室103、第2油室104、空気室105は、この順で径が大きくなる。吐出流路102の径は、連通する第1油室103の径より小さく、空気流路106の径は、連通する空気室105の径より小さい。
【0031】
第1油室103および第2油室104は、注油対象に供給するための油が充填される空間である。第1油室103には、第1移動体110に設けられている後述する連通流路115を通じて、第2油室104から油が流入する。第1油室103の油は、吐出流路102を通じて吐出される。吐出流路102の先端開口は、第1油室103の油を本体部101から吐出させる吐出口102pを構成する。
【0032】
第2油室104には、本体部101に設けられている油導入流路107を通じて、貯留容器51の油が充填される。油導入流路107は、本体部101の側面に設けられた開口と第2油室104の先端側の壁面に設けられた開口とを接続する流路である。油導入流路107は、給油配管51pを介して貯留容器51に接続されている。
【0033】
なお、貯留容器51の油が貯留されている内部空間は大気開放されている。詳細は後述するが、貯留容器51の油は、注油機構100の本体部101における第2移動体120の移動によって第2油室104に発生する負圧によって吸引されて、第2油室104へと流入する。
図2では、便宜上、貯留容器51を本体部101の上方に図示しているが、本体部101に対する貯留容器51の配置位置は特に限定されない。貯留容器51の配置位置は、本体部101の側方や、本体部101より下方に配置されていてもよいし、本体部101より上方に配置されていてもよい。
【0034】
空気室105は、空気取入配管53から圧縮空気が導入される空間である。なお、後述するように、空気室105は、第1空気室105aと第2空気室105bとに区画される。空気室105のうち、後端側に位置する第1空気室105aには、空気流路106を空気室105内にまで延長する円筒状の空気配管108が設けられている。空気配管108は、第1空気室105aの後端の壁面から中心軸方向に突き出ている。
【0035】
空気配管108には、先端の空気流路106の端部開口の他に、空気配管108の側面において開口し、第1空気室105aと空気流路106とを連通する副流路108sが設けられている。副流路108sの機能については後述する。
【0036】
第1移動体110と第2移動体120とは、本体部101の内部空間に配置されている。本実施形態では、第1移動体110は、円柱状の形状を有する金属製の部材によって構成される。第1移動体110は、その中心軸が、本体部101の中心軸と一致するように配置されている。第1移動体110は、本体部101内において中心軸方向に往復移動が可能である。第1移動体110の先端部111は第1油室103に配置され、第1移動体110の後端部112は空気室105に配置されている。
【0037】
第1移動体110の先端部111は、第1油室103に、第1油室103の後端側から嵌入されている。第1油室103の後端側の開口は、その内周面が第1移動体110の側面に面接触することにより密に閉塞される。このように、第1油室103と第2油室104とは、第1移動体110によって隔てられている。
【0038】
第1移動体110が第1油室103に対して中心軸方向に往復移動すると、第1油室103内において第1移動体110の先端部111が中心軸方向に往復移動し、それに応じて第1油室103の容積が増減する。第1移動体110は、その先端部111が、第1油室103の先端側の端まで到達するまで移動することができる。第1移動体110は、その先端面111sが第1油室103の先端側の端まで移動することにより、第1油室103の容積をほぼ0にすることができる。
【0039】
第1移動体110の後端部112は、局所的に径が大きくなっている。第1移動体110の後端部112の外周縁部は、後述するように、第2移動体120の段差面128に接触して係合する係合部として機能する。
図2に示すように、第1移動体110は、その後端部112の後端面が、空気室105の空気配管108の先端面に接触する位置まで移動することができる。第1移動体110がその位置まで移動したときには、第1移動体110の後端部112は、空気配管108の先端開口を気密に閉塞する。このとき、第1油室103の容積は最大となる。
【0040】
第1移動体110の内部には、第1油室103と第2油室104とを連通する連通流路115が設けられている。第1油室103には、第2油室104から連通流路115を通じて油が流入する。連通流路115の一端の第1開口116は、第1移動体110の先端面111sにおいて開口しており、連通流路115の他端の第2開口117は、第1移動体110の側面において開口している。なお、第2開口117は、後に参照する
図4に示されているように、第1移動体110の先端部111が第1油室103の先端まで到達している状態のときに、第2油室104の先端側の壁面に対して、後端側にわずかに離間した位置に位置する。
【0041】
本実施形態では、第2移動体120は、円筒状の形状を有する金属製の部材によって構成されている。第2移動体120は、第2油室104から空気室105に跨って配置されており、その中心軸が本体部101の中心軸と一致するように配置されている。
【0042】
第2移動体120の先端部121は、第2油室104に嵌入されており、第2移動体120の先端部121の内周面は、第2油室104の内周面に密に接している。第2移動体120の先端面121sは、第2油室104内における第1移動体110の周りの円筒状の空間に面している。
【0043】
第2移動体120は、その中心に、中心軸方向に貫通する円形状の貫通孔を有しており、その貫通孔内には、第1移動体110の先端部111より後端側の部位が挿入されている。第1移動体110の中心軸と第2移動体120の中心軸とは一致する。
【0044】
第2移動体120の中心の貫通孔は、径が小さい先端側の第1孔部125と、径が大きい後端側の第2孔部126と、を含む。第1孔部125の内周面は、第1移動体110の後端部112より先端側の部位の外周側面に密に接する。第2孔部126の内周面は、第1移動体110の後端部112の外周側面と密に接する。
【0045】
第2移動体120は、本体部101内において、第1移動体110とは別個に中心軸方向に往復移動可能である。第2移動体120が第2油室104に対して中心軸方向に往復移動すると、それに応じて第2油室104の容積が増減する。第2移動体120は、その先端面121sが、第2油室104の先端側の端まで到達するまで移動することができる。第2移動体120は、その先端面121sが第2油室104の先端側の端まで移動することより、第2油室104の容積をほぼ0にすることができる。また、第2移動体120は、中心軸方向に往復移動することにより、第1移動体110に設けられている連通流路115を開閉する。第2移動体120の先端面121sが、連通流路115の第2開口117より後端側に位置するときに、連通流路115は開かれ、先端側に位置するときに、連通流路115は閉じられる。
【0046】
第2移動体120の貫通孔内には、第1孔部125と第2孔部126との間に段差面128が形成されている。段差面128は、第1移動体110の後端部112の外周縁部が接触して係合する被係合部として機能する。
図2には、第1移動体110の後端部112が第2移動体120内部の段差面128に係合している状態が図示されている。なお、後に参照する
図4に図示されているように、第1移動体110の先端部111が第1油室103の先端に到達し、第2移動体120の先端部121が第2油室104の先端に到達している状態では、第1移動体110の後端部112は、第2移動体120の段差面128に係合せず、後端側に離れた位置にある。
【0047】
第2移動体120の後端部122は、局所的に径が大きくなっている。第2移動体120の後端部122の外周側面は、空気室105の内周面に密に接している。これによって、空気室105は、第2移動体120の後端部122より後端側に位置する第1空気室105aと、先端側に位置する第2空気室105bとに区画されている。第1空気室105aと第2空気室105bとは、第2移動体120の後端部122よって気密に隔てられている。
【0048】
本体部101には、側方空気流路109が設けられている。側方空気流路109は、本体部101の側面において開口し、本体部101の外部と第2空気室105bとを連通する。側方空気流路109には、上述した空気流路106が接続されている。第2空気室105bには、側方空気流路109を通じて空気流路106から圧縮空気が導入される。
【0049】
第2移動体120には、第2孔部126の内部空間と第2空気室105bとを連通する連通路129が設けられている。連通路129は、第2孔部126の先端部において開口している。連通路129の機能については後述する。
【0050】
注油機構100は、さらに、吐出配管130と、逆止弁132と、空気制御機構140と、を備える。吐出配管130は、注油配管52と本体部101の吐出口102pとを接続する。逆止弁132は、吐出配管130に設けられており、吐出口102pから第1油室103に向かう流体の逆流を規制する。流体には、油と空気とが含まれる。
【0051】
本実施形態では、第1移動体110と第2移動体120とは、空気取入配管53によって空気室105に導入される圧縮空気の圧力によって移動するように構成されている。空気制御機構140は、制御ユニット22の制御下において、空気室105への圧縮空気の供給を制御する。空気制御機構140は、空気取入配管53に接続される方向切換弁142と、空気流路106に接続される第1分岐配管145と、側方空気流路109に接続される第2分岐配管146と、を備える。方向切換弁142は、配管が接続される3つのポートを有しており、3つの配管を接続可能である。方向切換弁142の第1ポートには空気取入配管53が接続され、第2ポートには第1分岐配管145が接続され、第3ポートには第2分岐配管146が接続される。方向切換弁142は、制御ユニット22の指令に応じて、空気取入配管53の接続先を、第1分岐配管145と第2分岐配管146のいずれかに切り替える。また、方向切換弁142は、第1分岐配管145と第2分岐配管146のうち、空気取入配管53に接続されていない方は大気開放する。
【0052】
図3~
図9を参照して、貯留容器51の油を注油対象へと供給するときの注油機構100の動作を説明する。
図3は、注油機構100によって実行される油の供給方法の一例を示す工程フロー図である。
図4~
図9はそれぞれ、油の供給方法が実行されているときの注油機構100の状態を示す模式図である。
図4~
図9では、貯留容器51、給油配管51p、および、空気制御機構140の図示は、便宜上、省略されている。以下では、
図4~
図9を、適宜、参照しながら、
図3に示されている各工程を説明する。
【0053】
制御ユニット22は、注油機構100に、所定のタイミングで周期的に
図3に示す各工程S10~S60を実行させて、注油対象であるポンプ25の駆動部に油を供給する。工程S10を実行する前には、注油機構100は、
図4に示す待機状態にある。待機状態では、圧縮空気が第1空気室105aに供給され、第1移動体110の先端部111が第1油室103の先端まで到達しており、第2移動体120の先端部121が第2油室104の先端まで到達している。待機状態では、第1油室103と第2油室104はともに容積がほぼ0であり、油が流入していない状態である。また、待機状態では、第1移動体110の連通流路115の第2開口117が第2移動体120によって閉塞されており、第1移動体110の後端部112が第2移動体120の段差面128から離れた位置にある。
【0054】
図5を参照して工程S10を説明する。工程S10は、上述した待機状態から第2油室104の容積を増大させ始める工程に相当する。制御ユニット22は、
図2に示す空気制御機構140の方向切換弁142を制御して、圧縮空気の供給先を、第1空気室105aから第2空気室105bに切り換え、第2空気室105bへの圧縮空気の供給を開始する。これにより、第2空気室105bの圧縮空気の圧力によって第2移動体120が後端側へと移動を開始し、第2油室104の容積が増大し始める。第2油室104の容積が増大し始めると、第2油室104に発生する負圧によって貯留容器51の油が第2油室104へと吸引され、第2油室104への油の充填が開始される。
【0055】
このとき、第1空気室105aに接続されている第1分岐配管145は方向切換弁142によって大気開放されているため、第1空気室105aの空気は第2移動体120に押し出されて大気中に排出される。また、第1移動体110の後端部112と第2移動体120の段差面128との間の空間に存在する空気は、第2移動体120の連通路129を通じて第2空気室105bに逃げることができる。よって、その空気によって、第2移動体120の後端側への移動が阻害されることが抑制される。なお、この段階では、第1油室103は、逆止弁132による逆流の規制や連通流路115の閉塞により、流体の流入が抑制された閉塞状態にあるため、第1移動体110は移動しないままである。
【0056】
図6、および、
図7を参照して、工程S20~S30を説明する。工程S20は、貯留容器51から第2油室104への油の充填が開始された後に、連通流路115を開く工程に相当する。第2空気室105bへの圧縮空気の供給が継続され、第2移動体120の後端側への移動が継続されると、
図6に示すように、第1移動体110の側面の第2開口117の閉塞状態が解除され、連通流路115が開かれる。これにより、連通流路115を通じて、第2油室104から第1油室103への油の流入が可能になり、第1油室103の閉塞状態が解除され、第1移動体110が後端側に移動可能な状態になる。
【0057】
工程S30は、第2油室104の容積を増大させながら第1油室103の容積を増大させる工程に相当する。工程S20で連通流路115が開かれた後、さらに第2移動体120が後端側へと移動すると、
図6に示すように第2移動体120の第2孔部126の段差面128が第1移動体110の後端部112に係合された状態となり、第1移動体110が、第2移動体120とともに後端側へと移動し始める。これにより、第1油室103の容積が増大し始め、第1油室103の負圧により、連通流路115を通じて第2油室104から第1油室103に油が流入し始める。このように、工程S30では、第2油室104の容積の増大により、貯留容器51から第2油室104に油が流入するとともに、第1油室103の容積の増大により、第2油室104から第1油室103に油が流入する。工程S30においても、方向切換弁142によって第1分岐配管145が大気開放されているため、第1空気室105aの空気は大気中に排出される。
【0058】
その後、
図7に示すように、第1移動体110の後端部112が空気配管108の先端に接触すると第1移動体110の後端側への移動が停止される。第2移動体120も、その段差面128が第1移動体110の後端部112に係合しているため、第1移動体110の停止により、後端側への移動が規制されて停止する。このとき、第1油室103と第2油室104の容積は最大であり、第1油室103と第2油室104はともに油で満たされた状態である。
【0059】
図8を参照して工程S40および工程S50を説明する。工程S40は、油が充填された後の第2油室104の容積を低減させ始める工程に相当する。制御ユニット22は、方向切換弁142を制御して、圧縮空気の供給先を、第2空気室105bから第1空気室105aに切り換え、空気流路106を通じた第1空気室105aへの圧縮空気の供給を開始する。このとき、空気配管108の先端開口は、第1移動体110の後端部112により閉塞されているため、圧縮空気は、空気配管108の側面において開口する副流路108sを通じて第1空気室105aへと流入する。また、このとき、第2空気室105bは、方向切換弁142によって第2分岐配管146が大気開放されているため、大気圧になる。第2移動体120は、第1空気室105aと第2空気室105bの差圧により先端側に移動を開始し始める。これにより、第2油室104の容積が低減され始め、第2油室104の油が貯留容器51の方へと排出され始める。
【0060】
ここで、第1移動体110の圧縮空気から圧力を受ける受圧面積は第2移動体120よりも小さい。また、第1移動体110は、第1油室103の油から先端側への移動を抑制する方向の力を受けている。そのため、工程S40の段階では、第1移動体110は、第2移動体120が移動を開始しても、すぐには移動を開始しないままである。
【0061】
なお、係合状態にある第1移動体110の後端部112と第2移動体120の段差面128との間には、第2移動体120に設けられている連通路129によって空気を導入可能である。そのため、第2移動体120が先端側への移動を開始したときに、第1移動体110の後端部112と第2移動体120の段差面128との間に負圧が発生することが抑制される。よって、第2移動体120の段差面128は、第1移動体110の後端部112から離れることができる。
【0062】
工程S50は、第2移動体120の先端側への移動により、第1移動体110の連通流路115を閉じる工程に相当する。第1移動体110が先端側への移動を開始していない間に、第2移動体120が先に先端側へ移動していくと、第2移動体120によって第1移動体110の連通流路115の第2開口117が閉塞される。その後、圧縮空気による第2移動体120の先端側への移動が継続され、第2油室104の油は、貯留容器51へと押し出されていく。
【0063】
図9を参照して、工程S60を説明する。工程S60は、連通流路115を閉じた後に、第1油室103の容積を低減させる工程に相当する。第1移動体110は、第2移動体120に遅れて、先端側への移動を開始する。第1移動体110の先端側への移動により、第1油室103の容積が低減され始め、第1油室103に充填されていた油が押し出されて、吐出口102pを通じて吐出される。
【0064】
第1移動体110が先端側に移動している間、第2移動体120は、先端側への移動が継続され、その先端部121が第2油室104の先端に到達することによって停止する。これにより、第2油室104からほぼ全ての油が排出される。第2移動体120が停止し、第1移動体110が先端側に移動している間、第1移動体110の後端部112と第2移動体120の段差面128との間の空気は、連通路129を通じて第2空気室105bへと押し出される。
【0065】
第2移動体120が停止した後に、第1移動体110の先端部111が第1油室103の先端に到達することによって第1移動体110が停止する。これにより、吐出口102pから第1油室103のほぼ全ての油が吐出され、注油機構100による注油対象への油の供給が完了し、注油機構100は、
図4に示した注油対象への油の供給を実行可能な待機状態となる。
【0066】
ところで、注油機構100が注油対象であるポンプ25への油の供給を繰り返している間に、貯留容器51に貯留されていた油が切れてしまう場合がある。貯留容器51の油が切れたまま注油機構100が駆動し続けていると、空の貯留容器51を通じて第2油室104や第1油室103に空気が入り込んでしまう可能性がある。本実施形態の注油機構100および
図3で説明した油の供給方法によれば、第1油室103や第2油室104に空気が入り込んだとしても、貯留容器51に油を補給するだけで、その空気を注油機構100の外部に排出して、通常の駆動状態に復帰することが容易にできる。以下に、そのメカニズムを説明する。
【0067】
図10は、注油機構100の駆動中に貯留容器51の油が切れて、注油機構100の第1油室103や第2油室104に空気が入り込んだ後の注油機構100の状態を例示する模式図である。
図10では、注油機構100は
図4で示したのと同様な待機状態になっている。この状態では、第2油室104に入り込んだ空気は、第2移動体120によって油とともに貯留容器51に押し出され、第2油室104から押し出されている。ただし、第1油室103に入り込んだ空気は、第1移動体110の連通流路115内や、吐出流路102内、吐出配管130内に残留している。
【0068】
図11は、
図10の状態から、上述した
図3の工程S10~S30を実行したときの注油機構100の様子を示す模式図である。工程S10において、第2移動体120の後端側への移動を開始させ、第2油室104の容積を増大させ始めると、第2油室104に発生する負圧により、貯留容器51から第2油室104に油が流入し始める。また、その後、工程S20で連通流路115が開かれ、工程S30で第1移動体110の後端側への移動が開始されると、第1油室103に発生する負圧により、第2油室104の油が連通流路115へと流入し、連通流路115の空気が第1油室103へと移動する。
【0069】
図12は、工程S30が完了したときの模式図である。
図11の状態から、第1移動体110および第2移動体120がさらに後端側に移動すると、空気配管108と第1移動体110の後端部112との接触により、第1移動体110と第2移動体120の移動が停止する。この状態では、第2油室104には油が充填され、第1油室103には油と空気とが混在した状態となる。
【0070】
図13は、
図12の状態から、工程S40~S60が実行された後の状態を示す模式図である。工程S40において第2移動体120の先端側への移動が開始され、第2油室104の容積が低減され始めると、工程S50において第2移動体120によって、第1移動体110の連通流路115が閉塞される。この状態で、工程S60で第1移動体110の先端側への移動が開始されると、第1油室103の空気は油とともに吐出口102pを通じて第1油室103から排出される。よって、第1油室103に空気が残留してしまうことが抑制される。
【0071】
以上のように、本実施形態の注油機構100によれば、2つの移動体110,120によって、2つの油室103,104のそれぞれへの油の流入と、2つの油室103,104のそれぞれからの油の排出と、2つの油室103,104の連通状態と、を容易に制御できる。よって、例えば、連通流路115を閉塞して第1油室103と第2油室104との連通を遮断した状態にした上で、第1油室103に入り込んだ空気を第1移動体110によって油とともに吐出口を通じて押し出すことが容易にできる。また、第1油室103と第2油室104の連通状態を遮断した状態で第2油室104に入り込んだ空気を第2移動体120によって貯留容器51の方に排出することが容易にできる。また、第1油室103の空気が第2油室104に流入することを抑制しながら第2油室104から第1油室103へと油を流入させることも容易にできる。
【0072】
本実施形態の注油機構100は、
図6で説明したように、第2移動体120が第2油室104の容積が増大する方向に移動すると、閉塞されていた連通流路115が開かれ、その後に、第1移動体110が第1油室103の容積を増大させる方向に移動するように構成されている。本実施形態では、第2移動体120と連通流路115の第2開口117との位置関係や、第1移動体110の後端部112と第2移動体120の段差面128との位置関係によって、そのように動作するように構成されている。この構成によれば、貯留容器51から第2油室104に油を流入させ始めた後に、連通流路115が開かれ、第2油室104から第1油室103へと油が流入し始める。これにより、第1油室103に空気が入り込んでいたとしても、
図11を参照して説明したように、第1油室103から第2油室104へと空気が流入してしまうことを抑制しながら、第2油室104から第1油室103へと油を流入させることができる。
【0073】
また、本実施形態の注油機構100は、
図8を参照して説明したように、第2移動体120が第2油室104の容積を減少させる方向に移動すると、開放されていた連通流路115が閉じられ、その後に、第1移動体110が第1油室103の容積を減少させる方向に移動するように構成されている。本実施形態では、連通流路115の第2開口117と第2移動体120との位置関係や、第1移動体110と第2移動体120が圧縮空気や油から圧力を受ける受圧面積を調整することにより、そのように動作するように構成されている。この構成によれば、第1油室103と第2油室104との連通を遮断した状態で、第1移動体110によって、第1油室103の油を、吐出口102pを通じて吐出させることができる。第1油室103に空気が入り込んでいた場合には、
図12および
図13を参照して説明したように、その空気を、第2油室104に逃がすことなく、吐出口102pを通じて油とともに第1油室103から押し出すことができる。
【0074】
このように、本実施形態の注油機構100は、注油対象へと油を吐出するための第1移動体110と第2移動体120との連携動作により、第1油室103に入り込んだ空気が、吐出口102pを通じて油とともに外部に排出されるように構成されている。これにより、第1油室103に空気が入り込んだときでも、注油機構100による注油対象への油の供給を継続させることが可能となり、作業者が、第1油室103に入り込んだ空気を抜くための作業をしなくてもよくなる。
【0075】
本実施形態の注油機構100によれば、円柱状の部材や、円筒状の部材の組合せによって、2つの移動体110,120と、2つの油室103,104と、連通流路115と、を備える機構が簡易に実現することができる。また、注油機構100の構成を、コンパクトにまとめることができ、簡素化することができる。
【0076】
本実施形態の注油機構100によれば、第1移動体110と第2移動体120の移動の制御を、空気室105に供給される圧縮空気によって容易に行うことができる。また、本実施形態の注油機構100では、第2移動体120の後端部122によって、空気室105が、第1空気室105と第2空気室105とに隔てられており、圧縮空気の供給先を、第1空気室105と第2空気室105のいずれかに切り換えることができる。この構成によれば、第2移動体120の移動方向の切り換えを簡易に行うことができる。
【0077】
本実施形態の粘度コントローラ20によれば、印刷機10から供給される圧縮空気によって、インクを循環させるポンプ25を駆動させている。また、その圧縮空気を利用して、ポンプ25の駆動を円滑化させるための油を注油機構100からポンプ25に供給させている。よって、印刷機10のインクの粘度調整を効率的に実行することが可能である。
【0078】
2.他の実施形態:
本開示の技術は、上述の実施形態の構成に限定されることはない。例えば、以下のように改変することが可能である。
【0079】
(1)他の実施形態1:
注油機構100は、印刷機10の粘度コントローラ20以外の駆動機構を有する種々な装置に搭載されてもよい。注油機構100は、例えば、ベルトコンベア装置などの搬送装置に搭載され、搬送ローラの軸受部に油を供給するものとしてもよい。
【0080】
(2)他の実施形態2:
注油機構100の第1移動体110は、例えば、四角柱状の形状を有していてもよく、第2移動体120は、第1移動体110が嵌入される四角筒状の形状を有していてもよい。また、第1移動体110は、板状の形状を有していてもよい。この場合には、第1移動体110は、第2油室104の開口底面を閉塞するように配置され、第2移動体120は、第1移動体110の上において、第2油室104の容積を増減させるように、第1移動体110と平行に移動する板状の部材によって構成されてもよい。
【0081】
(3)他の実施形態3:
注油機構100は、第1移動体110の後端部112と第2移動体120の段差面128のような係合部が設けられていなくてもよい。第1移動体110と第2移動体120とはそれぞれ別々の駆動機構によって、個別に移動が制御されるように構成されていてもよい。駆動機構としては、例えば、ソレノイド機構を用いてもよい。この構成においては、制御ユニット22が、各駆動機構を制御することにより、第2移動体120に、第2油室の容積が増大する方向への移動を開始させ、連通流路115を開放させた後に、第1移動体110を、第1油室103の容積を増大させる方向に移動させるものとしてもよい。また、第2移動体120に、第2油室104の容積を減少させる方向への移動を開始させて、連通流路115を閉じさせた後、第1移動体110を、第1油室103の容積を減少させる方向に移動させるものとしてもよい。
【0082】
(4)他の実施形態4:
注油機構100は、第1移動体110と第2移動体120を圧縮空気の圧力以外の方法で移動させるように構成されていてもよい。注油機構100は、例えば、第1移動体110と第2移動体120の移動制御をソレノイドやモータによって実現してもよい。
【0083】
(5)他の実施形態5:
注油機構100において、圧縮空気が供給される空気室105としては、第1空気室105aと第2空気室105bの少なくとも一方を有しているのみでもよい。第1空気室105aが省略される場合には、第1移動体110と第2移動体120の先端側への移動は圧縮空気ではなく、例えば、ソレノイド機能によって実行しもよい。また、第2空気室105bが省略される場合には、第1移動体110と第2移動体120の後端側への移動をソレノイド機能によって実行しもよい。
【0084】
(6)他の実施形態6:
上記実施形態の印刷機10は、インク貯留部15を備えていなくてもよい。この場合には、粘度コントローラ20は、インク導入配管24aによってインク皿11からインクを導入するとともに、粘度を調整したインクを、インク供給配管24bによってインク皿11に供給するように構成されてもよい。上記実施形態の印刷機10において、粘度コントローラ20は、インク導入配管24aによってインク貯留部15からインクを導入するとともに、粘度を調整したインクを、インク供給配管24bによってインク貯留部15に供給するように構成されてもよい。この場合には、印刷機10は、循環ポンプを用いてインク貯留部15のインクをインク皿11に流入させるように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0085】
10…印刷機、11…インク皿、12…シリンダロール、13…圧着ローラ、15…インク貯留部、20…粘度コントローラ、21…筐体、22…制御ユニット、23…インク循環部、24…循環経路、24a…インク導入配管、24b…インク供給配管、25…ポンプ、28…粘度検出部、30…溶剤供給部、31…溶剤タンク、33…溶剤配管、35…溶剤制御弁、40…空気導入部、41…空気用配管、42…レギュレータ、45…空気制御弁、47…流量調整弁、50…注油システム、51…貯留容器、51p…給油配管、52…注油配管、53…空気取入配管、55…開閉弁、100…注油機構、101…本体部、102…吐出流路、102p…吐出口、103,104…油室、105…空気室、106…空気流路、107…油導入流路、108…空気配管、108s…副流路、109…側方空気流路、110…第1移動体、111…先端部、111s…先端面、112…後端部、115…連通流路、116…第1開口、117…第2開口、120…第2移動体、121…先端部、121s…先端面、122…後端部、128…段差面、129…連通路、130…吐出配管、132…逆止弁、140…空気制御機構、142…方向切換弁、MD…媒体
【要約】
【課題】注油機構において、注油対象に供給する油が充填される油室に空気が入り込んでいても油室から油が円滑に吐出されるようにできる技術を提供する。
【解決手段】注油機構は、油を吐出する吐出口を有する第1油室と、前記吐出口から前記第1油室内への流体の逆流を規制する逆止弁と、前記貯留容器に接続され、前記油が充填される第2油室と、前記第1油室と前記第2油室とを隔てるとともに、前記第1油室を密に閉塞するように配置され、前記第1油室に対して往復移動することにより、前記第1油室の容積を増減させる第1移動体と、前記第1移動体の内部に設けられ、前記第1油室と前記第2油室とを連通する連通流路と、前記第2油室を密に閉塞するように配置され、前記第2油室に対して往復移動することにより、前記第2油室の容積を増減させるとともに前記連通流路を開閉する第2移動体と、を備える。
【選択図】
図2