(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】建築用緊締具
(51)【国際特許分類】
E04B 1/38 20060101AFI20220330BHJP
E04B 1/26 20060101ALI20220330BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
E04B1/38 400Z
E04B1/26 E
E04B1/26 G
E04B1/58 508L
E04B1/58 506L
(21)【出願番号】P 2019161657
(22)【出願日】2019-09-05
【審査請求日】2020-07-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】396007258
【氏名又は名称】土江 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【氏名又は名称】河野 誠
(72)【発明者】
【氏名】土江 勝利
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-220047(JP,A)
【文献】特開2000-320520(JP,A)
【文献】特開2002-250083(JP,A)
【文献】実開平02-110716(JP,U)
【文献】実開昭63-051917(JP,U)
【文献】実公昭03-013534(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38 - 1/61
E04B 1/26
F16B 23/00 -43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開口する筒状のケーシング(11)の一端に該ケーシング(11)側に固定される固定バネ受け(14)を設け、他方の端部内に中心部にナット部(5)を備え軸心方向に沿って移動可能で抜け出し防止された可動バネ受け(16)を設け、上記固定バネ受け(14)と可動バネ受け(16)間に可動バネ受け(16)を外向きに付勢するコイルバネ(13)を介挿するとともに、一端が上記ナット部(5)内にねじ込まれ他端が固定バネ受け(14)より外部に突出するボルト(6)を備えた建築用緊締具であって、前記ナット部(5)を可動バネ受け(16)と一体的に設け、可動バネ受け(16)の中心部の内面にガイド筒(16a)を突設し、該ガイド筒(16a)内にボルト(6)の一端をねじ込むねじ切りを施してナット部(5)を形成するとともに上記可動バネ受け(16)
とボルト(6)の端部及びナット部(5)をケーシング(11)の外側端面より突出させない構造とした建築用緊締具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は主として木造建築の軸組部等を弾力的に緊締する建築用緊締具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来木造建築の軸組部をスプリングを用いて弾力的に緊締し、木材の乾燥による緩みを自動的に吸収して緊締状態を保つ緊締具として特許文献1に示されるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の発明は両端が開口した筒状のケース内にコイルスプリングを収容し、ボルトによる緊締時にコイルスプリングの弾力を利用して緊締し、この弾力が軸組部の緩みを吸収して常に緊締状態を保持するもので、ケーシング内にスプリングとバネ受け及び締付ボルト端がコンパクトにまとめて収納されているので、操作性も良く低コストである等の利点がある。
【0005】
しかし、上記文献の発明は、ケーシング端のボルトねじ込み用のナットが、可動バネ受けと別体であるため、建築現場での取扱いや部品組合わせ及び緊締作業に際し、柱材側の座ぐり穴内でナットをつまみながらボルトのねじ込み梁を調節する作業が煩わしく効率が悪い他、ねじ込み不良によりナットが建築現場の高所から落下し、地上の作業者への危険を伴う等の問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は、両端が開口する筒状のケーシング11の一端に該ケーシング11側に固定される固定バネ受け14を設け、他方の端部内に中心部にナット部5を備え軸心方向に沿って移動可能で抜け出し防止された可動バネ受け16を設け、上記固定バネ受け14と可動バネ受け16間に可動バネ受け16を外向きに付勢するコイルバネ13を介挿するとともに、一端が上記ナット部5内にねじ込まれ他端が固定バネ受け14より外部に突出するボルト6を備えた建築用緊締具であって、前記ナット部5を可動バネ受け16と一体的に設け、可動バネ受け16の中心部の内面にガイド筒16aを突設し、該ガイド筒16a内にボルト6の一端をねじ込むねじ切りを施してナット部5を形成するとともに上記可動バネ受け16とボルト6の端部及びナット部5をケーシング11の外側端面より突出させない構造としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
以上のように構成される本発明の緊締具によれば、ケーシング内に収容される可動バネ受けとナット部が一体なので、建築現場でケーシング内で位置決めされた可動バネ受け側のナット部に、ボルトのセット長さを調節しながらねじ込む際に、ケーシング自体を持ってねじ込み調節することができる。その結果ナットを単独でねじ込む場合や、柱材の小径の座ぐり穴内に指を入れてねじ込む場合に比して、作業が簡単且つ効率的で正確に行える他、ねじ込み不良によるナットの落下等も防止できる。
【0008】
また可動バネ受けのガイド筒内に直接ねじ切りしてナット部を設けた場合は、十分な長さのナット部が得られ且つ可動バネ受け端面にナット等の突起物がなく、座ぐり穴を浅くできる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】同じく緊締具の使用状態を示す平断面図である。
【
図3】緊締具のその他の使用例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図示する本発明の実施形態につき詳述する。
図1,
図2は本発明の緊締具の詳細構造と使用例を示し、この例では少なくとも1本の柱と3本の梁が交差する軸組部の軸組部材1~3を本発明の緊締具で緊締する場合を示している。
【0011】
この場合の緊締具は、両ねじ型のボルト6と両端のナット7,ボルト6の一端側に挿通するワッシャー8,ボルト6の他端側に挿通するバネユニット9とで構成されている。
【0012】
図1に示すバネユニット9は、全体として外周を円筒状(角筒でも可)のケーシング11で構成され、その中央にはボルト6が挿通され、該ボルト6の端部はケーシング11内でナット部5にねじ込まれている。ケーシング11は軸組部材(柱)1の座ぐり
穴10内に内挿されている。そしてケーシング11内にはコイルバネ13が内挿され、座ぐり
穴10側に当接する側にはコイルバネ13の端部を受け止めながらボルト6を挿通するフランジ状の固定バネ受け14が一体的に固着されている。この固着は両者を溶接、ねじ止め、圧入嵌合等いずれの方法で固着しても良い。
【0013】
またケーシング11の他方の端部内にはフランジ状の可動バネ受け16が、軸方向スライド移動可能に嵌合又は収容されており、この可動バネ受け16はボルト6を挿通し且つコイルバネ13の一方の端部を受け止めている。そしてこの可動バネ受け16は、ケーシング11の端部でその内周面側にリング状に突出したストッパ11aによりケーシング11の外部へ突出しないように規制(抜け出し防止)されており、無負荷状態ではコイルバネ13により上記ストッパ11a側に弾力的に押接されている。
【0014】
上記固定バネ受け14,16の中空内縁部にはそれぞれケーシング11の軸心に沿って内部方向に突出するスリーブ状のガイド筒14a,16aが突設され、このガイド筒14a,16aは相対的に軸心方向にスライド可能に、可動バネ受け16側のガイド筒16aを内側にして嵌合(又は遊嵌)し合っており、両ガイド筒14a,16aの外周側とケーシング11の内周側との間にコイルバネ13が収容されている。そして可動バネ受け16側のガイド筒16a内に上記ボルト6がねじ込まれるナット部5が、ねじ切り加工により一体的に設けられている。
【0015】
上記のように構成される緊締具を
図2に示す状態で使用する場合について説明する(但し、図示する例ではいずれも軸組部のほぞ接合やアリ接合等の木口の接合については図示を省略している)。
【0016】
軸組部材1,2には予め図示するような座ぐり
穴10,12とボルト孔17が定位置に穿設されており、
図2の実線で示す場合は軸組後に、予めバネユニット9を取付けたボルト6を柱1の座ぐり
穴10より差込み、梁2側の座ぐり
穴12内でワッシャー8,ナット7を取付けて緊締する。
【0017】
その結果、可動バネ受け16はコイルバネ13に抗してケーシング11内に押込まれるが、この例では可動バネ受け16の内部端面が、固定バネ受け14側のガイド筒14aの内端に当接してそれ以上内部への移動が規制され、且つこの状態でコイルバネ13の隣接し合う線材は互いに接触しない状態に保持され、圧接状態による変形やバネ定数の低下が防止される。
【0018】
また上記緊締により柱1側のナット部5はケーシング11内にあって、ケーシング11の開口端から突出しないように設計されており、両ねじボルトを使用した場合もボルト端をケーシング11より突出させないことにより、柱1側又はこれに相当する側の座ぐり
穴10はケーシング11の長さLと同一又はそれ以上にすれば柱1側の表面への緊締金具の突出は防止できる。
これを
図1の寸法表示に沿って説明すると、ケーシング11及びバネ受け14を含めたナット部5(即ち可動バネ受け16)は勿論、バネユニット9の全長をL,ストッパの厚みをL
1,可動バネ受け16の厚みをL
2,可動バネ受けの軸方向移動範囲をL
3,ガイド筒14aの高さをL
4とすると、緊締の前後を問わずボルト6の端部は必ずL
1+L
2+L
3内に収まり、コイルバネのバネ材は、L
4内に非接触状態で収まることが望ましい。
【0019】
尚、コイルバネ以外の材質は必ずしも鋼材その他の金属材である必要はない。ちなみに本実施形態ではバネユニットの全長L=45,同外径48,コイルバネ外径39,同線径3~5(単位はmm)を想定しているが、緊締具自体は軸組材のサイズや材質、建物大きさ等により設計強度が異なる場合もあるため、これに限定されるものではない。
【0020】
図3はこの発明の緊締具のその他の使用例を示すもので、この例は柱1を介して3本の梁部材2,3,3を軸組する場合であって、突合せ側の梁部材3,3の木口側を柱1とともに緊締部材で緊締し、平面視で交差する梁部材2の側面には木ねじ19付の係止プレート18をねじ込んで突設固定し、該係止プレート18と一方の梁部材3とを緊締したものである。
【0021】
上記のほか、梁部材や柱部材が直線状に連結される場合や引用文献1に示されるように梁や筋交い等を直角以外に交差させる場合の緊締にも使用できるほか、FRPその他の合成樹脂製の柱状部材の交差部の組付けにも利用可能である。
【0022】
尚、
図1に示す例ではガイド筒16aの外端側にのみねじ切り加工しているが、ガイド筒16aの内端側のみとし、又は全長にわたってねじ切りを施してナット部5のねじ長さを長くすることも可能である。その他手作業によるねじ込み抵抗を減らしながら、ねじ長さを確保するために、ガイド筒16a内の外端側と内端側の2ケ所にねじ切り加工を施し、中間部にねじ切りのない部分を設けることもできる。
【0023】
また図示する例では可動バネ受け16及びガイド筒16aを切削加工により形成したものを示したが、固定バネ受け14を含め、板金加工により一体成形することによって、コスト低減を図ることも可能である。
【0024】
尚、いずれの実施形態もボルト6は両端にねじ切り加工したIボルトタイプのものが使用されることにより、座ぐり穴10,12の深さや座面間の長さの狂いや違いがある場合でも、ナットやナット部のねじ込み深さを調節することにより対応できる利点がある。
【符号の説明】
【0025】
1~3 軸組材
5 ナット部
5a 固着部
6 ボルト
7 ナット
9 バネユニット
10 座ぐり穴
11 ケーシング
12 座ぐり穴
13 コイルバネ
14 (固定)バネ受け
14a ガイド筒
16 (可動)バネ受け
16a ガイド筒
18 係止プレート
19 木ねじ