(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】予め作製されたナノ粒子の化学的切断による2Dフレークの形成とそれを用いて製造されたファンデルワールスヘテロ構造デバイス
(51)【国際特許分類】
C01G 39/06 20060101AFI20220330BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220330BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220330BHJP
【FI】
C01G39/06
B82Y30/00
B82Y40/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021044460
(22)【出願日】2021-03-18
(62)【分割の表示】P 2018568215の分割
【原出願日】2017-06-28
【審査請求日】2021-03-24
(32)【優先日】2016-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509295262
【氏名又は名称】ナノコ テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピケット,ナイジェル
(72)【発明者】
【氏名】ダニエルス,スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】マサラ,オンブレッタ
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-056511(JP,A)
【文献】特開2009-290204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 39/06
C10M 125/00
B01J 27/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MoS
2ナノ粒子を調製する方法であって、
モリブデンヘキサカルボニル(Mo(CO)
6)、脱気したオクタデカン、及び脱気したヘキサデシルアミンの混合物を密閉容器内で撹拌して第1の反応混合物を生成する工程と、
第1の反応混合物を約150℃に加熱し、その後、第1の反応混合物を室温に冷却して、Mo(CO)
6-アミン錯体を作る工程と、
脱気したオクタデカンを約300℃に加熱する工程と、
Mo(CO)
6-アミン錯体を約40℃に温めて固体を融解させる工程と、
温めたMo(CO)
6-アミン錯体に1-ドデカンチオール(DDT)を加えて第2の反応混合物を作る工程と、
脱気及び加熱したオクタデカンに第2の反応混合物を加えて、第3の反応混合物を作る工程と、
第3の反応混合物を約260℃に約8分間加熱する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
第3の反応混合物からMoS
2ナノ粒子を分離する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第3の反応混合物からMoS
2ナノ粒子を分離する工程は、
第3の反応混合物にアセトンを加えて第4の反応混合物を作る工程と、
第4の反応混合物を遠心分離処理する工程と、
遠心分離処理した第4の反応混合物から上澄を除去する工程と、
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
MoS2ナノ粒子を調製する方法であって、
モリブデンヘキサカルボニル(Mo(CO)
6)、脱気したヘキサデカン、及び脱気したヘキサデシルアミンの混合物を約120℃で撹拌して第1の溶液を生成する工程と、
ヘキサデカン及びヘキサデシルアミンの混合物を真空下で約1時間約80℃で加熱し、その後、ヘキサデカン及びヘキサデシルアミンの混合物をN
2下で約250℃に加熱して第2の溶液を作る工程と、
約120℃に維持された第1の溶液の一部を第2の溶液に約5分毎に約1時間加えて、第3の溶液を作る工程と、
1-ドデカンチオール(DDT)を約1時間かけて約250℃の第3の溶液に添加し、第4の溶液を作る工程と、
を含む、方法。
【請求項5】
第4の溶液からMoS
2ナノ粒子を分離する工程を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
第4の溶液からMoS
2ナノ粒子を分離する工程は、
第4の溶液を60℃に冷却する工程と、
第4の溶液にアセトンを加えて第5の溶液を作る工程と、
第5の溶液を遠心分離処理する工程と、
遠心分離処理した第5の溶液から上澄を除去する工程と、
を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
遠心分離処理した第5の溶液の残留固体をヘキサンに分散させる工程を更に含む、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の表示]
本出願は、2016年6月28日に出願された米国仮特許出願第62/355,428号と、2017年2月21日に出願された米国仮出願第62/461,613号の非仮出願であって、それらの内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
[連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載]
なし
[発明の分野]
本発明は概して、二次元(2D)材料の合成に関する。より具体的には、本発明は、予め作製されたナノ粒子の切断を含む合成方法と、予め作製されたナノ粒子の化学的切断によって形成された2Dフレークを用いたファンデルワールスヘテロ構造デバイスとに関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイトのメカニカル劈開(mechanical exfoliation)によるグラフェンの単離[K.S. Novoselov, A.K. Geim, S.V. Morozov, D. Jiang, Y. Zhang, S.V. Dubnos, I.V. Grigorieva and A.A. Firsov, Science, 2004, 306, 666]は、二次元(2D)層状材料への強い関心を呼び起こした。グラフェンは、強度が非常に優れており、電気伝導性及び熱伝導性が高い一方で、軽量、柔軟及び透明であることを特徴とする。これによって、高速トランジスタ、高速センサ、バリア材料、太陽電池、電池、及び複合材料を含む幅広い用途の可能性が開かれる。
【0003】
関心が持たれているその他の種類の2D材料には、遷移金属ジカルコゲナイド(TMDC)材料、六方晶窒化ホウ素(h-BN)や、シリセン(silicene)やゲルマネン(germanene)などの14族元素を用いた材料が含まれる。これらの材料の特性は、NiTe2やVSe2のような半金属性から、WSe2やMoS2のような半導性、h-BNのような絶縁性に広げられる。
【0004】
TMDC材料の2Dナノシートは、触媒作用から、センシング、エネルギー貯蔵及び光電子デバイスに広がる用途についてますます関心が持たれている。単層及び少数層のTMDCは直接バンドギャップ半導体であり、組成、構造及び寸法に応じてバンドギャップ及びキャリアタイプ(n型又はp型)が異なる。
【0005】
2DのTMDCのうち、半導体WSe2及びMoS2は特に関心が持たれており、材料の大きさが単層又は数層に減少すると、それらのバルク特性の大半を保持しながら、量子閉じ込め効果に起因した追加の特性が生じる。WSe2及びMoS2の場合、それらの特性には、厚さが1つの単層に減少した場合における強い励起子効果を伴う間接-直接バンドギャップ遷移の出現が含まれる。これは、フォトルミネッセンス効率の強力な向上に繋がり、このような材料をオプトエレクトロニクスデバイスに応用する新たな機会をもたらすものである。更に、材料の側方の大きさがナノスケールで縮小されると、それらは「サイズ量子化(size quantization)」効果を受け、それによって、材料の新たなバンドギャップは変化し、故に、材料の全体的な寸法を変えることによって、材料の光学的、電子的及び化学的特性を簡単に操作できる。関心が持たれているその他の材料には、WS2とMoSe2が挙げられる。
【0006】
4乃至7族のTMDCの大半は、層状構造で結晶化して、それらの電気的、化学的、機械的及び熱的性質に異方性をもたらす。各層は、共有結合を介してカルコゲン原子の2つの層の間に挟まれた金属原子のヘキサゴナル充填層(hexagonally packed layer)を含む。隣接している層は、ファンデルワールス相互作用によって弱く結合されており、それは、機械的又は化学的方法によって容易に破壊されて、単層構造及び数層構造が作製される。
【0007】
2Dのh-BNの格子構造は、グラフェンの格子構造と類似している。その絶縁性のために、h-BNの潜在的な用途は、酸化環境と絶縁複合材料中で高温で作動するデバイスが含まれる。h-BNの他の用途には、グラフェンと完全に格子整合する電気絶縁性基板がある。
【0008】
シリコン(シリセン)、ゲルマニウム(ゲルマネン)及びスズ(スタネン)のグラフェン類似体が最近研究されている。シリセンの潜在的な利点の1つは、現在のシリコン技術との適合性であって、追加の処理工程をすることなくそれを既存の回路及びデバイスに適用することを可能にすることである。ゲルマネンには、電界効果トランジスタに潜在的な用途があり、理論的研究は、スタネンがナノエレクトロニクスに使用できることを示唆している。
【0009】
高性能用途においては、平らで欠陥のない材料が必要であるのに対し、電池及びスーパーキャパシタでの用途のためには、欠陥、空隙及び空洞が望ましい。
【0010】
単層及び数層の2D材料は、「トップダウン」手法及び「ボトムアップ」手法を使用して製造できる。トップダウン手法は、バルク材料から機械的又は化学的に層を除去することを含む。そのような技術には、メカニカル劈開、超音波支援液相剥離(LPE)、及びインターカレーション技術が含まれる。層をそれらの構成元素から成長させるボトムアップアプローチには、化学気相成長(CVD)、原子層堆積(ALD)、分子線エピタキシー(MBE)、ホットインジェクション法を含む溶液ベースの手法が含まれる。
【0011】
2D材料の単層及び数層シートは、バルク固体層のメカニカル劈開(いわゆる「スコッチテープ法(Scotch tape method)」)を介して少量生産することができ、ファンデルワールス力のみを介して相互作用する非荷電シートが作製される。メカニカル劈開によって、ミリメートルのオーダーの高結晶性層を得ることができ、サイズは、出発物質である単結晶粒子によって制限される。しかしながら、この技術は、歩留まりが低く、スケーラビリティがなく、厚さ制御が不十分である。この技術は、サイズ及び厚さが異なるフレークを生成するので、光学的同定を用いて、所望である原子的に薄いフレークを見つける必要がある。このようなことから、この技術は、高性能デバイス及び物性現象を実証するための2Dフレークの生産に最も適している。
【0012】
超音波を利用して単層を取り出すことによって、2D材料を液体中で剥離することができる。このLPE法は、通常3つの工程を含む:i)バルク材料の溶媒中への分散;ii)剥離;及びiii)精製。精製工程は、剥離していないフレークから剥離したフレークを分離するのに必要であり、通常、超遠心分離を必要とする。超音波支援剥離は、圧力変動による液体中の気泡又はボイドの形成、成長及び破壊的崩壊によって制御される。超音波処理は、シート間の弱いファンデルワールス力を断って、バルク材料から数層及び単層の2Dフレークを作製するために使用される。スケーラビリティについてLPEがもたらす利点にも拘わらず、プロセスの課題には、厚さ制御と、低反応収率と、生産が小さなフレークに限定されることとが挙げられる。
【0013】
シリセン、ゲルマネン及びスタネンがバルク層状構造を形成することは知られておらず、これらの材料の単層を、剥離技術を用いて単離することはできない。
【0014】
大面積スケーラビリティ、均一性及び厚さ制御は、CVDを使用することで、2D材料について普通に達成される。しかしながら、欠点には、均一な成長を維持するのが困難であることと、大量の未反応前駆体に起因した無駄があることとが挙げられる。
【0015】
2Dフレークを形成するための溶液ベースの手法は、得られる材料のサイズ、形状及び均一性に対する制御をもたらすので、非常に望ましく、更に、材料の表面にリガンドを付して溶解性、ひいては溶液加工性を与えることを可能にする。材料の表面への有機リガンドの適用はまた、CVD成長サンプルで観察されるように、酸素やその他の外部の種に対するバリアとして作用することによって劣化を制限できる。得られた物質は独立型(free-standing)であり、更にそれらの加工性が促進されている。しかしながら、これまでに開発された溶液ベースの方法は、所望の結晶相と、調整可能な(tunable)狭い形状及びサイズ分布と、揮発性キャッピングリガンドとを有する2D層状材料を生成するためのスケーラブルな反応を提供しない。揮発性キャッピングリガンドは、装置処理中に容易に除去できるのが望ましい。
【0016】
2D層状材料の生産における課題の1つは、高品質の無欠陥材料又は欠陥含有材料が要求されているか否かに関係なく、大面積で組成の均一性を達成することである。更なる課題には、均一な形状及びサイズ分布を有する2Dフレークを形成することが挙げられる。
【0017】
異なる2D材料の層状の組合せは、一般に、ファンデルワールスヘテロ構造と呼ばれている。
【0018】
ファンデルワールスヘテロ構造デバイスは、トンネルデバイスから光起電力デバイス及び発光ダイオードまで、広範囲の用途について研究されてきた。特性が異なる2D材料の種々の組合せを積み重ねることによって、様々な種類のデバイスが形成される。ファンデルワールスヘテロ構造デバイスは当初、スタックを機械的に組み合わせることによって形成されていたが、これは遅くて面倒なプロセスである[K.S. Novoselov, A. Mishchenko, A. Carvalho and A.H. Castro Neto, Science, 2016, 353, 461]。初期の方法は、犠牲膜上に2Dフレークを調製し、それを揃えて別のフレーク上に配置し、次に犠牲膜を除去することに基づいていた。このプロセスを繰り返すことで、更に層を堆積させることができる。より新しい技術が開発されており、CVDによって成長した大面積結晶の転写と、CVD又は物理的エピタキシーによるヘテロ構造の直接成長と、溶液中でのワンステップ成長とが挙げられる。2Dヘテロ構造デバイスの溶液処理は、低コストでスケーラブルな堆積プロセスを提供するので、特に魅力的である。
【0019】
従来技術では、溶液処理ファンデルワールスヘテロ構造デバイスは、液相剥離2Dナノフレークを利用していた。例えば、Withersらは、対応するバルク材料のLPEによって形成された2Dフレークを用いた2Dヘテロ構造デバイスの溶液処理を報告している。[F. Withers, H. Yang, L. Britnell, A.P. Rooney, E. Lewis, C.R. Woods, V. Sanchez Romeguera, T. Georgiou, A. Eckmann, Y.J. Kim, S.G. Yeates, S.J. Haigh, A.K. Geim, K.S. Novoselov and C. Casiraghi, Nano Lett., 2014, 14, 3987]。ヘテロ構造は、ドロップキャスティング、インクジェット印刷、及び真空濾過によって、グラフェン、TMDC及び六方晶窒化ホウ素(h-BN)のインクを堆積させることによって生成された。この研究は、溶液処理された2D材料から、ファンデルワールスヘテロ構造デバイスを製造できることを実証した。しかしながら、バルク粉末のLPEは、ナノフレークのサイズ分布を広くする。同様なサイズのナノシートを選択的に単離する方法が開発されているが、この方法は材料を非常に無駄にしている。更に、LPE法からの反応収率は通常、低い。
【0020】
従って、均一な2D材料を高収率で製造する合成方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0021】
本明細書では、2D層状材料を形成する「ボトムアップ-トップダウン」方法が開示される。この方法は、所望の形状、サイズ及び組成の三次元(3D)又はゼロ次元(0D)ナノ粒子を形成し、続いて、化学処理等の処理、例えば、還流、液相剥離(LPE)及び還流、又は、インターカレーション及び劈開を行って、 3D又は0Dナノ粒子の固有の形状によって決定されるようにして、均一サイズの2Dナノフレークを形成することを含む。この方法はスケーラブルであり、均一な性質を有する2Dナノフレークを大量に製造するために使用できる。
【0022】
予め作製されるナノ粒子の形状を制御することによって、この方法は、得られる2Dナノフレークの形状及びサイズ分布の制御をもたらす。予め作製されるナノ粒子の形状は、球状、ナノロッド、ナノワイヤ、ナノチューブ、テトラポッド、ナノキューブなどであってよいが、これらに限定されない。
【0023】
予め作製されるナノ粒子の化学組成を制御することによって、この方法は、2Dナノフレークの化学組成の制御をもたらす。例えば、この方法を用いて、均一なレベルのドーピング、傾斜組成、及び/又はコア/シェル構造を有するナノフレークを形成できる。
【0024】
ある実施形態では、ナノ粒子は、コロイド合成法によって作製され、それらの形状、サイズ及び組成を制御することを可能にし、そしてスケーラビリティをもたらし得る。
【0025】
ある実施形態では、ナノ粒子は、量子ドット(QD)である。QDの切断がなされて、単層QDを含む2D量子ドット(2D QD)が形成されてよい。
【0026】
ある実施形態では、予め作製されたナノ粒子の2Dナノフレークへの切断は、LPE工程及び/又は還流工程を含む。
【0027】
ある実施形態では、予め作製されたナノ粒子の2Dナノフレークへの切断は、インターカレーション工程及び劈開工程を含む。
【0028】
ナノ粒子を製造し、ナノ粒子を化学的に切断してナノフレークを形成し、溶媒中にナノフレークを分散させてインクを形成し、インクを堆積させて薄膜を形成することによって、ファンデルワールスヘテロ構造デバイスを作製できることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、ナノフレークへの予め作製されたナノロッドの化学的切断を示す。
【0030】
【
図2】
図2は、サイズ分布を有するナノフレークへの予め製造された球状ナノ粒子の化学的切断を示す。
【0031】
【
図3】
図3は、ドープされたナノフレークへの予め製造されたドープナノロッドの化学的切断を示す。
【0032】
【
図4】
図4は、組成傾斜ナノフレークへの予め製造された組成傾斜球状ナノ粒子の化学的切断を示す。
【0033】
【
図5】
図5は、予め作製されたコア/シェルナノロッドのコア/シェルナノフレークへの化学的切断を示す。
【0034】
【
図6】
図6A及び
図6Bは、本発明の実施形態に基づいて製造された2Dナノフレークの溶液についてのフォトルミネッセンス(PL)コンターマップである。
【0035】
【
図7】
図7A及び
図7Bは、本発明の実施形態に基づいて製造された2Dナノフレークの溶液についてのPLコンターマップである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本明細書では、2D層状材料を形成する「ボトムアップ-トップダウン」方法を開示する。本方法は、所望の形状、サイズ及び組成を有する3D又はODナノ粒子を形成し、続いて、化学処理等の処理、例えば、還流、液相剥離(LPE)及び還流、又は、インターカレーション及び劈開を行って、 3D又は0Dナノ粒子の固有の形状によって決定されるようにして、均一サイズの2Dナノフレークを形成することを含む。この方法はスケーラブルであり、均一な性質を有する2Dナノフレークを大量に製造するために使用できる。
【0037】
本明細書では、ナノ粒子の「切断(cutting)」は、ナノ粒子の2つ以上の部分への分離を意味する。この用語は、分離方法への限定を示すことを意図しておらず、物理的分離方法及び化学的分離方法を含み得る。物理的分離方法としては、機械的劈開(所謂、「スコッチテープ法」)、層間剥離(delamination)、グラインディング(grinding)、及びミリング(milling)が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書では、ナノ粒子の「化学的切断」は、ナノ粒子の2つ以上の部分への分離を意味し、その分離は、化学処理によって達成される。幾つかの実施形態において、化学処理は以下を含み得る:ナノ粒子の溶液又は分散液への熱、圧力、真空、超音波処理、及び/又は攪拌の適用;化学エッチング;及びインターカレーション。化学的切断方法の非限定的な例としては、溶液中のナノ粒子の還流;ナノ粒子のLPEとそれに続く還流;又は、ナノ粒子のインターカレーション及び劈開が挙げられる。
【0038】
本明細書で使用では、用語「ナノ粒子」は、約1乃至100nmのオーダーの寸法を有する粒子を述べるために使用される。用語「量子ドット」(QD)は、量子閉じ込め効果を示す半導体ナノ粒子を述べるために使用される。量子ドットの寸法は、典型的には、1乃至10nmであるが、これに限定されない。「ナノ粒子」及び「量子ドット」という用語は、粒子の形状に制限を加えることを意味していない。用語「ナノロッド」は、側方寸法x及びyと、長さzとを有する角柱状ナノ粒子を述べるために使用され、ここで、z>x、yである。「2Dナノフレーク」という用語は、側方寸法が約1乃至100nmのオーダーであって、厚さが1乃至5原子である、又は分子の単分子層である粒子を述べるのに使用される。
【0039】
この方法は、予め作製されるナノ粒子の形状によって決まる2Dナノフレークの形状を制御することを可能にする。溶液ベースの合成中にナノ粒子の形状を制御する方法は、当該技術分野において周知であり、温度などの反応条件の変更、ナノ粒子の成長を媒介するシード又はテンプレートの使用、反応溶液へのリガンド、界面活性剤及び/又は添加剤の添加を含んでいる。
【0040】
更なる実施形態では、この方法は、得られる2Dナノフレークのサイズ分布を制御することを可能にする。 例えば、ナノロッドの化学的切断は、
図1に示すように、形状及び大きさが均一である円形2Dナノフレークの集合体の形成をもたらすであろう。球状ナノ粒子の化学的切断は、
図2に示すように、形状が均一であるがサイズの分布を有する円形2Dナノフレークの集まりの形成をもたらすであろう。様々なサイズの2Dナノフレークの集まりは、その集まりが単色光を用いて励起されると、ある範囲にわたった多数の異なる波長でのフォトルミネッセンスなどの特性を提供できる。これは、単一サイズの球状ナノ粒子の集団から切り出された2Dナノフレークの集まりから多色光を生成するために使用できる。別の実施形態では、様々なサイズのナノフレークの集団があって、それらナノフレークは、その後、当該技術分野において知られた技術を用いて、サイズごとに分離することができ、このような技術には、高速遠心分離、サイズ選択沈殿(size-selective precipitation)、透析、カラムクロマトグラフィー、又はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)が含まれるが、これらに限定されない。
【0041】
ナノ粒子の形状は限定されず、球状、ナノロッド、ナノワイヤ、ナノチューブ、テトラポッド、ナノキューブなどが挙げられるが、これらに限定されない。ナノ粒子の形状を制御する方法は、化合物の添加を含んでよく、当該化合物は、参照により全体が本明細書に組み込まれる2009年9月15日に発行された米国特許第7,588,828号に記載されているように、成長している粒子の特定の格子面に優先的に結合し、その後、特定の方向への粒子の成長を抑制又は減速させる。
【0042】
ナノ粒子から2Dナノフレークを作り出すことによって、本開示による方法は、2D材料の化学的組成を制御することを可能にする。例えば、ドーパントをナノ粒子に導入する方法は、ドーパント原子を2Dナノフレークに導入するために本方法に使用される。均一にドープされたナノ粒子を化学的に切断することによって、得られた2Dナノフレークでは、
図3に示されるように、ドーピングのレベルが均一になる。
【0043】
ナノ粒子の組成は制限されない。適切な材料は以下を含むが、これらに限定されない:
【0044】
グラフェン、酸化グラフェン及び還元グラフェン酸化物。
【0045】
遷移金属ジカルコゲナイド(TMDC)。例えば、WO2;WS2;WSe2;WTe2;MnO2;MoO2;MoS2;MoSe2;MoTe2;NiO2;NiTe2;NiSe2;VO2;VS2;VSe2;TaS2;TaSe2;RuO2;RhTe2;PdTe2;HfS2;NbS2;NbSe2;NbTe2;FeS2;TiO2;TiS2;TiSe2;ZrS2。
【0046】
遷移金属トリカルコゲナイド。例えば、TaO3;MnO3;WO3;ZrS3;ZrSe3;HfS3;HfSe3。
【0047】
13-16(III-VI)族化合物。例えば、InS;InSe;GaS;GaSe;GaTe。
【0048】
15-16(IV-VI)族化合物。例えば、Bi2Se3;Bi2Te3。
【0049】
h-BNのような窒化物。
【0050】
酸化物。例えば、LaVO3;LaMnO3;V2O5;LaNbO7;Ca2Nb3O10;Ni(OH)2;Eu(OH)2;層状酸化銅;マイカ;ビスマスストロンチウムカルシウム銅酸化物(BSCCO)。
【0051】
リン化物。例えば、Li7MnP4;MnP4。
【0052】
14族元素の2D同素体。例えば、シリセン、ゲルマネン及びスタネン。前述の材料中では、隣接している層は、ファンデルワールス相互作用によって保持されており、これは、2Dフレークを形成するために、劈開技術、例えば、LPEなどの技術によって容易に破壊され得る。代替的な実施形態では、ナノ粒子は、非層状半導体材料を含んでおり、当該非層状半導体材料は、以下を含むが、これらに限定されない。
【0053】
12-16(II-VI)族半導体。例えば、ZnS;ZnSe;CdS;CdSe;CdTe。
【0054】
13-15(III-V)族材料。例えば、GaN、GaP;GaAs;InN;InP;InAs。
【0055】
I-III-V族材料。例えば、CuGaS2;CuGaSe2;CuGa(S,Se)2;CuInS2;CuInSe2;CuIn(S,Se)2;Cu(In,Ga)S2;Cu(In,Ga)Se2;Cu(In,Ga)(S,Se)2;CuInTe2;AgInS2;AgInSe2。
【0056】
上記材料のドープされた種と合金。
【0057】
更なる実施形態では、ナノ粒子は、限定ではないが、Au;Cu;Pt;Pd;Ru;Re;ドープされた種及びそれらの合金などの金属を含んでよい。
【0058】
ナノ粒子の組成は、均一であってもよく、或いは、ナノ粒子の1又は複数の平面にわたって中心から変化するように傾斜していてもよい。傾斜球状ナノ粒子の場合、
図4に示すように、化学的切断によって、フレークサイズに応じて、又は、組成傾斜ナノ粒子から得られる2Dナノフレークが由来する領域に応じて組成が異なる2Dナノフレークがもたらされる。
【0059】
幾つかの実施形態では、ナノ粒子はQDである。QDは、「量子閉じ込め効果」に起因した、その独特の光学的、電子的及び化学的性質について広く研究されており、半導体ナノ粒子の寸法がボーア半径の2倍より小さくなると、エネルギー準位は量子化されて、離散的なエネルギー準位が生じる。バンドギャップは、粒子サイズが減少すると増加して、サイズ依存(size-dependent)フォトルミネッセンスなどのサイズ調整可能な(size-tunable)光学的、電子的及び化学的特性をもたらす。更に、2Dナノフレークの側方寸法を量子閉じ込め領域に縮小することで、2Dナノフレークの側方寸法及び層の数の両方に応じて、更なる独特の特性を生じさせる可能性があることが分かった。幾つかの実施形態では、2Dナノフレークの側方寸法は量子閉じ込め領域内にあって、ナノ粒子の光学的、電子的及び化学的特性はそれらの側方寸法を変えることによって操作される。例えば、側方寸法が約10nm以下のMoSe2やWSe2などの材料の金属カルコゲナイド単層ナノフレークは、励起されると、サイズ調整可能な発光などの特性を示し得る。これは、ナノ粒子の側方寸法を操作することによって、2Dナノフレークのエレクトロルミネッセンス極大(ELmax)又はフォトルミネッセンス(PLmax)を調整することを可能にする。本明細書では、「2D量子ドット」又は「2D QD」は、量子閉じ込め領域内にある側方寸法と1乃至5単層の厚さとを有する半導体ナノ粒子を指す。本明細書では、「単層量子ドット」又は「単層QD」は、量子閉じ込め領域内にある側方寸法及び1つの単層の厚さとを有する半導体ナノ粒子を指す。従来のQDと比較して、2D QDは、非常に高い表面積対体積比(area-to-volume ratio)を有しており、これは単層の数が減少するにつれて減少する。最も高い表面積対体積比は、単層QDで見られる。これは、従来のQDとは表面化学が非常に異なった2D QDをもたらし、これは、触媒作用などの用途で利用できる。
【0060】
フォトルミネッセンス用途では、半導体QDナノ粒子「コア」上に、格子不整合が小さくてバンドギャップがより広い半導体材料の1又は複数の「シェル」層を成長させることは、コア表面にある欠陥やダングリングボンドが除去されることで、ナノ粒子材料のフォトルミネッセンス量子収量を増加させると知られている。幾つかの実施形態では、コア/シェルナノ粒子構造を形成するために、コアナノ粒子材料上に第2の材料の1又は複数のシェル層をエピタキシャル成長させる。コア/シェルナノ粒子が切断されて、コア/シェル2Dナノフレークが形成されてよい。本明細書では、「コア/シェル2Dナノフレーク」は、第1の材料の少なくとも1つの表面が第2の材料によって少なくとも部分的に覆われているような、第1の材料の2Dナノフレークを指す。
図5は、コア/シェルナノロッドを化学的切断することによるコア/シェル2Dナノフレークの製造を示す。
【0061】
別の実施形態では、コア/シェル2Dナノフレークは、予め製造されたコアナノ粒子を化学的に切断し、続いてコアナノフレークに1又は複数のシェル層を形成することによって製造されてよい。
【0062】
ナノ粒子のコロイド合成は、特に好ましく、ナノ粒子の形状、サイズ及び組成の制御を可能にして、スケーラビリティを提供できる。コロイド状ナノ粒子は更に、リガンド(キャッピング剤)で表面官能化されてもよく、リガンドは、ある範囲の溶媒に溶解性を与えるように選択されてよい。リガンドはまた、得られるナノ粒子の形状を制御するために使用されてよい。ナノ粒子合成中にナノ粒子表面に付着した固有のリガンドは、代わりのリガンドと交換されて、特定の溶媒中での溶液加工性の改善などの特定の機能が付与されてよい。例えば、グラフェンQDナノ粒子の一般的な合成方法は、Muellenらによって開発された酸化縮合反応に基づいている[M. Mueller, C. Kuebel and K. Muellen, Chem.-Eur. J., 1998, 4, 2099]。この方法は、以下の工程を含む:i)ハロゲン化アリールとの鈴木カップリングを介して小さいハロゲン化フェニルアセチレン化合物を合成して、より大きなアリールエチニレンを形成;ii)テトラフェニル-シクロペンタジエノンのディールス-アルダー環状付加(Diels-Alder cycloaddition)によるアリールエチニレンのより大きなポリフェニレンのデンドリマーへのカップリング;iii)例えば塩化アルミニウム(III)によるデンドリマーの酸化脱水素環化(oxidative cyclo-dehydrogenation)してグラフェンQDを形成。ソルボサーマル法によるコロイド状MoS2ナノ粒子の調製は、Zongらによって説明されている[X. Zong, Y. Na, F. Wen, G. Ma, J. Yang, D. Wang, Y. Ma, M. Wang, L. Sun and C. Li, Chem. Commun., 2009, 4536]。ナノ粒子は、テフロン(登録商標)ラインド(Teflon-lined)ステンレス鋼オートクレー内にて、(NH4)2MoS4のメタノール溶液、ポリ(ビニルピロリドン)及びヒドラジン一水和物N2H4・H2Oを加熱することによって調製された。デュアルインジェクション[C.B. Murray, D.J. Norris and M.G. Bawendi, J. Am. Chem. Soc., 1993, 115, 8715]や分子シーディングプロセス[米国特許7,588,828]のようなコロイド状ナノ粒子合成の他の方法が使用されてもよい。
【0063】
ある実施形態では、ナノ粒子は、コロイド溶液中でボトムアップ法を使用して成長する。
【0064】
特定の実施形態では、ナノ粒子は、切断前にコロイド状反応溶液から単離される。単離技術は、遠心分離又は濾過を含むが、これらに限定されない。
【0065】
予め作製されたナノ粒子のナノフレークへの切断は、適切な任意の技術を使用して実施されてよい。適切な例には、化学的プロセスと物理的劈開プロセスが挙げられる。ある実施形態では、予め作製されたナノ粒子の切断は、LPEなどの化学的方法によって行われ、それには、溶媒中の予め作製されたナノ粒子の超音波処理が含まれる。溶媒の表面張力は、劈開される材料の表面張力と合うように選択されてよい。LPE技術は、Ferrariらによって検討されており[A.C. Ferrari et al., Nanoscale, 2015, 7, 4598]、当該文献は、その全体が参照によって本明細書の一部となる。幾つかの実施形態では、剥離したナノ粒子は、次に溶液中で還流される。剥離したMoS2ナノシートを還流させてMoS2QDを形成することは、StenglとHenychによって説明されている[V. Stengl and J. Henych, Nanoscale, 2013, 5, 3387]。
【0066】
幾つかの実施形態では、予め作製されたナノ粒子の切断は、予め劈開することなく、予め作製されたナノ粒子を溶液中で還流させることによって実行されてよい。当業者は、予め製造されたナノ粒子溶液が還流される温度は、溶液を形成する溶媒の沸点に依存することを理解するであろう。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、あり得るメカニズムの1つは、熱を加えるとナノ粒子内で層が熱膨張する;溶液を還流することは、層を化学的に切り離すガスを生じる、というものである。幾つかの実施形態では、溶液は配位溶媒を含む。適切な配位溶媒の例としては、限定ではないが、以下が挙げられる:C6-C50アルキルアミンなどの飽和アルキルアミン;オレイルアミンなどの不飽和脂肪族アミン;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの脂肪酸;トリオクチルホスフィン(TOP)などのホスフィン;トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)などのホスフィンオキシド;ヘキサデカノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール;一級、二級、三級及び分枝溶媒が含まれてよい。幾つかの実施形態では、溶液は、限定ではないが、C11-C50アルカンなどの非配位溶媒を含んでよい。幾つかの実施形態では、溶媒の沸点は、150℃乃至600℃、例えば160℃乃至400℃の間、又は、より具体的には180℃乃至360℃である。特定の実施形態では、溶媒は、ヘキサデシルアミンである。
【0067】
更なる実施形態では、予め製造されたナノ粒子の切断は、インターカレーション及び劈開プロセスによって行われる。ルイス塩基インターカレートを用いたTMDC多層ナノ構造のインターカレーション及び劈開は、Jeongらによって説明されている[S. Jeong, D. Yoo, M. Ahn, P. Miro, T. Heine and J. Cheon, Nat. Commun., 2015, 6, 5763]。第1のインターカレーション及び劈開プロセスは、第1の溶媒中で第1の期間、第1のインターカレート剤及び第2のインターカレート剤の存在下で、予め作製されたナノ粒子を攪拌することによって実施されてよい。任意選択的に、第2の溶媒を続いて加えて、第2の期間撹拌してもよい。幾つかの実施形態では、第2のインターカレーション及び劈開プロセスは、第1のインターカレーション及び劈開プロセスの生成物を、第3のインターカレート剤及び第3の溶媒と混合して、第3の期間攪拌することによって行われる。任意選択的に、第4の溶媒を続いて加えて、第4の期間、攪拌してよい。第1のインターカレート剤及び第2のインターカレート剤は、炭化水素を含んでもよく、第1のインターカレート剤の炭化水素鎖長は、第2のインターカレート剤の炭化水素鎖長とは異なっている。第3のインターカレート剤は、第1及び/又は第2のインターカレート剤と同じでも異なっていてもよい。適切な第1、第2及び第3のインターカレート剤には、以下が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
プロピルアミン、ヘキシルアミンなどのアミンなどのルイス塩基;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどのアルコキシド;ヘキサン酸ナトリウムなどのカルボン酸塩;3-アミノ-1-プロパノールなどのアミノアルコール。
【0069】
システアミン、6-アミノ-1-ヘキサンチオール、8-アミノ-1-オクタンチオールなどのアミノチオール。
【0070】
アルキルアミノ酸を含む、3-アミノプロパン酸(β-アラニン)、6-アミノヘキサン酸、8-アミノオクタン酸などのアミノ酸。
【0071】
当業者であれば、インターカレーション及び劈開プロセスが行われる溶媒の選択は、ナノ粒子及びインターカレート剤の選択に依存することを理解するであろう。インターカレーション及び劈開中、ナノ粒子は、溶媒に十分に分散又は溶解していることが望ましい。インターカレート剤が溶媒に溶解できることが更に望ましい。第2の溶媒は、第1の溶媒と異なっていてよい。第3の溶媒は、第1の溶媒又は第2の溶媒と同じであってよく、又は、第1の溶媒及び第2の溶媒の両方と異なっていてもよい。適切な溶媒には、以下が含まれるが、これらに限定されない:ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリルなどの極性非プロトン性溶媒;プロパノールのような極性プロトン性溶媒。
【0072】
第1の期間は、1時間乃至1ヶ月、例えば2時間乃至2週間、又は、より具体的には4時間乃至3日の範囲であってよい。第2の期間は、1時間乃至2ヶ月、例えば2日乃至2週間、又は、より具体的には1週間乃至3週間の範囲であってよい。第3の期間は、1時間乃至1ヶ月、例えば2時間乃至2週間、又は、より具体的には4時間から3日間の範囲であってよい。第4の期間は、1時間乃至2ヶ月、例えば、2日乃至2週間、又はより具体的には1週間乃至3週間の範囲であってよい。しかしながら、当業者であれば、期間は、溶媒及びインターカレート剤の選択、ナノ粒子内の結合強度、溶液中のインターカレート剤に対するナノ粒子の濃度などの因子に依存することと、より長い期間は、2Dナノフレークのより高い収率につながる可能性があることとを理解するであろう。
【0073】
幾つかの実施形態では、第1及び/又は第2及び/又は後続のインターカレーション及び劈開プロセスは、超音波処理を使用してなされてよい。攪拌の代わりに超音波処理を使用することで、化学的切断プロセスを行うのに必要とされる時間の短縮が促進される。
【0074】
限定ではないが、エッチング技術のようなその他の切断技術を使用して、予め作製されたナノ粒子を2Dナノフレークに切断することもできる。特定の実施形態では、2Dナノフレークは、濾過、透析又はカラムクロマトグラフィーのような技術によって溶液から単離することができるが、それらに限定されない。得られた2Dナノフレークを溶媒中に分散させて、インクを形成できる。限定ではないが、以下のような従来の溶液堆積技術を用いてインクを堆積させて薄膜を形成することができる:ドロップキャスティング、スピンコーティング、スリットコーティング、スプレーコーティング、スロットダイコーティング、インクジェット印刷又はドクターブレード。2Dナノフレークの特性における固有の均一性によって、得られる薄膜において高度の均一性がもたらされる。膜厚は、例えば、インクの濃度を変えることによって、及び/又は2Dナノフレークのサイズを変えることによって制御できる。
【0075】
2Dナノフレーク含有インクを利用して調製できるファンデルワールスヘテロ構造デバイスの例には、以下が挙げられる:導波路集積型数層黒リン光検出器;MoS2垂直ホモ接合型フォトダイオード;静電的に規定された(electrostatically defined)WSe2フォトダイオード;MoS2/WSe2垂直フォトダイオード;GaSフレキシブルフォトトランジスタ;WS2フォトトランジスタ;MoS2フォトトランジスタ;O2プラズマ処理増強(plasma treatment-enhanced)ReS2フォトトランジスタ;プラズモン増強MoS2光検出器;MoS2/Siヘテロ接合フォトダイオード;グラフェン/MoS2/グラフェン垂直フォトダイオード;グラフェン/MoS2ハイブリッドフォトトランジスタ;グラフェン/QDハイブリッドフォトトランジスタ。
【実施例】
【0076】
<実施例1:MoS2ナノ粒子の調製、化学的切断及びファンデルワールスヘテロ構造デバイス形成>
[MoS2ナノ粒子の合成]
合成は、不活性N2環境下で行われた。
【0077】
グローブボックス内にて、SUBA-SEAL(登録商標)ゴム隔膜[SIGMA-ALDRICH CO.,LLC,63103 ミズーリ,セントルイス,スプルース ストリート 3050]で蓋をしたバイアルに、0.132gのMo(CO)6を加えた。
【0078】
丸底フラスコ内で14gのオクタデカンを100℃で2時間脱気し、次に室温まで冷却した。
【0079】
バイアル内で2gのヘキサデシルアミン及び2gのオクタデカンを100℃で2時間脱気し、次に、40乃至50℃に冷却し、Mo(CO)6を含むバイアルに注入して、よく振った。
【0080】
反応混合物を150℃まで徐々に温めて、バイアルを振とうして、昇華したMo(CO)6を溶解させ、次に、室温に冷却してMo(CO)6-アミン錯体を形成した。
【0081】
次に、丸底フラスコ(14gのオクタデカンを含有する)を300℃に加熱した。
【0082】
固体が融解するまでMo(CO)6-アミン錯体を約40℃まで徐々に温めて、1.5mLの1-ドデカンチオール(DDT)を加えた。それをその後直ぐにシリンジに入れて、丸底フラスコに素早く注入した。温度を約260℃に調整した。
【0083】
反応混合物を260℃で8分間放置した。
【0084】
生成物を単離するために、10mLのアセトニトリルと混合した40mLのプロパノールを加えて、4000rpmで5分間遠心分離して、上清を捨てた。
【0085】
[単層MoS2ナノフレークを形成するためのMoS2ナノ粒子の化学的切断]
MoS2ナノ粒子(45mg)、ナトリウムメトキシド(1.5g)、及びヘキサン酸ナトリウム(0.5g)をジメチルスルホキシド(15mL)中で混合し、N2下で、室温で18時間撹拌した。アセトニトリル(140mL)を加えて、N2下で48時間撹拌した。4000rpmで5分間の遠心分離によって、上清を黒色固体から分離した。
【0086】
黒色の固体をトルエンで洗浄して、遠心分離した。次に固体を水に溶解した。
【0087】
[単層MoS2ナノフレークを用いたファンデルワールスヘテロ構造デバイスの調製]
ファンデルワールスヘテロ構造デバイス(LED)を以下のように調製した。
【0088】
SiO2及びポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)上の窒化ホウ素を、PMMA上のグラファイトと同じように劈開した。グラフェンの層と薄い(2乃至5層の)窒化ホウ素フレークとを選んだ。
【0089】
PMMAからのグラフェン(Gr)をSiO2上の窒化ホウ素(BN)上に転写し、PMMAからの薄い窒化ホウ素フレークをSiO/BN/Gr積層構造上に転写して、第2の積層構造-SiO2/BN/Gr/BNを生成した。
【0090】
この段階で、単層MoS2ナノフレークの上述の水溶液(即ち分散液)を第2の層構造上にドロップキャストして、放置して乾燥させた。この処理を2回繰り返して、MoS2の量を増やした。得られた構造体(SiO2/BN/Gr/BN/MoS2)に熱を加えると、MoS2が少量になることが分かったので、これは、避けられた。
【0091】
次の製造段階で、PMMA上のグラフェンフレークを使用して、SiO2からのBNを捕捉し、このスタック(PMMA/Gr/BN)をSiO2/BN/Gr/BN/MoS2上に移すことで、ファンデルワールスヘテロ構造(LED)SiO2/BN/Gr/BN/MoS2/BN/Grを生成した。
【0092】
グラフェンフレークは、トンネルBNバリアを通してMoS2に電子及び正孔を注入するための導電性電極として機能する。
【0093】
<実施例2:MoS2ナノ粒子の調製及び化学的切断>
[MoS2ナノ粒子の合成]
合成は、不活性N2環境下で行われた。
【0094】
グローブボックス内にて、SUBA-SEAL(登録商標)ゴム隔膜[SIGMA-ALDRICH CO.,LLC,63103 ミズーリ,セントルイス,スプルース ストリート 3050]で蓋をしたバイアルに、0.132gのMo(CO)6を加えた。
【0095】
丸底フラスコ内で14gのオクタデカンを100℃で2時間脱気し、次に室温まで冷却した。
【0096】
バイアル内で2gのヘキサデシルアミン及び2gのオクタデカンを100℃で2時間脱気し、次に、40乃至50℃に冷却し、Mo(CO)6を含むバイアルに注入して、よく振とうした。
【0097】
反応混合物を150℃まで徐々に温めて、バイアルを振とうして、昇華したMo(CO)6を溶解させ、次に、室温に冷却してMo(CO)6-アミン錯体を形成した。
【0098】
次に、丸底フラスコ(14gのオクタデカンを含有する)を300℃に加熱した。
【0099】
固体が融解するまでMo(CO)6-アミン錯体を約40℃まで徐々に温めて、1.5mLの1-ドデカンチオール(DDT)を加えた。それをその後直ぐにシリンジに入れて、丸底フラスコに素早く注入した。温度を約260℃に調整した。
【0100】
反応混合物を260℃で8分間放置した。
【0101】
生成物を単離するために、アセトン(200mL)を加えて、4000rpmで5分間遠心分離して、上清を捨てた。
【0102】
[単層MoS2ナノフレークを形成するためのMoS2ナノ粒子の化学的切断]
MoS2ナノ粒子(240mg)、ナトリウムメトキシド(15g)、及びヘキサン酸ナトリウム(3g)をプロパノール(100mL)中で混合し、N2下で、室温で1日間撹拌した。アセトニトリル(100mL)を加えて、N2下で2週間撹拌した。4000rpmで5分間の遠心分離によって、不溶物質を分離した。次に、アセトニトリル-不溶物質を水に溶解させた。
【0103】
ロータリーエバポレータ(rotary evaporator)を用いて、上清を真空乾燥した。水(200mL)を加えて、よく混ぜた。トルエン(50mL)を加えて、滴下漏斗を用いて有機相を集めた。トルエン(3×50mL)を用いて水相を更に洗浄し、有機フラクションを一体にした。ロータリーエバポレータを用いてトルエン溶液を乾燥させ、水で固体を再度洗浄した。その後、メタノールに固体を溶解させた。
【0104】
<実施例3:予め作製されたナノ粒子の還流による化学的切断>
実施例1と同様にしてMoS2ナノ粒子を調製した。MoS2ナノ粒子(10mg)をヘキサデシルアミン(10g)と混合し、330℃に加熱した。15分間還流した後、60℃に溶液を冷却した。メタノール(60mL)を加えて、遠心分離し、その後、黒色の不溶物質を捨てた。上清を真空下で乾燥して、その後アセトニトリルを加えた。混合物を温めて、可溶相をデカントして捨てた。固体を再びアセトニトリルと混合し、過剰のヘキサデシルアミンが溶解するように温めて、可溶相をデカントして捨てた。材料が清浄になるまでこのプロセスを繰り返した。最終材料をトルエンに溶解させた。
【0105】
<実施例4:MoS2ナノ粒子の調製及び化学的切断>
[MoS2ナノ粒子の合成]
200mLバイアル内にて、ヘキサデシルアミン(10g)及びヘキサデカン(50mL)を、真空下で80℃で脱気した。250mL丸底フラスコ内のMo(CO)6(0.66g)に、ヘキサデシルアミン/ヘキサデカン溶液を加えて、120℃で撹拌して溶液Aを形成した。
【0106】
1Lの丸底フラスコ内で、ヘキサデカン(50mL)及びヘキサデシルアミン(5g)を、真空下で80℃で1時間加熱した。N2下で250℃に溶液を加熱して、溶液Bを作製した。250℃で、溶液Aの5mL部(120℃に維持)を、1時間の間に5分毎に溶液Bに加えて、溶液Cを作製した。
【0107】
続いて、1-ドデカンチオール(7.5mL)を、シリンジポンプを使用して1時間かけて250℃で溶液Cにゆっくりと加えて、その後、250℃で更に1時間撹拌した。
【0108】
溶液を60℃に冷却し、その後、アセトン(400mL)を加えて、次に遠心分離した。残留固形物をヘキサン(125mL)中に分散させた。
【0109】
[単層MoS2ナノフレークを形成するためのMoS2ナノ粒子の化学的切断]
250mL丸底フラスコ内にて、の1/6のMoS2ナノ粒子のヘキサン分散液を、6-アミノヘキサン-1-オール(1.48g)及びプロピルアミン(8.3mL)と混合し、N2下で11日間撹拌した。
【0110】
乾燥アセトニトリル(160mL)を加えて、その後、N2下で6日間、混合物を撹拌した。
【0111】
0.20μmのポリプロピレン製シリンジフィルタで混合物を濾過して、濾液及び固体残渣を単離した。
【0112】
濾液について、油が得られるまで溶媒を真空蒸発させた。乾燥アセトニトリル(6mL)を加えて、溶媒溶解発光材料を分散させた。
【0113】
固体残留物について、脱イオン水(30mL)を加えて、次に、混合物を空気中で30分間撹拌した。得られた溶液を、0.20μmのポリプロピレン製シリンジフィルタを通して濾過して、単離した。
【0114】
アセトニトリル可溶性物質と水溶性物質は、互いに異なる発光特性を示した。
図6A及び
図6Bに、アセトニトリル可溶性物質及び水溶性物質についてのPLコンターマップを夫々示す。PLコンターマップは、特定の励起波長(y軸)での発光波長(x軸)を示しており、強度(任意の単位)は、カラースケールで表されている。
図6Aに示すように、アセトニトリル可溶性物質は、励起波長依存性発光(excitation wavelength-dependent emission)を示しており、最大強度発光は、約430nmで励起された場合に約500nmで見られる。
図6Bに示すように、水溶性物質は、励起波長依存性発光を示しており、最大強度発光は、約370nmで励起した場合に約450nmで見られる。同じ波長で励起する場合、アセトニトリルに溶解した物質と水に溶解した物質は互いに異なる波長で発光する。
【0115】
<実施例5:MoS2ナノ粒子の調製及び化学的切断>
[MoS2ナノ粒子の合成]
実施例2のようにしてMoS2ナノ粒子を調製した。
【0116】
[単層MoS2ナノフレークを形成するためのMoS2ナノ粒子の化学的切断]
MoS2ナノ粒子を、最小量のヘキサンに溶解させて、次に丸底フラスコに移した。ミリスチン酸(10g)を加えて、反応物を真空下で110℃にゆっくり加熱した。
【0117】
N2下に容器を置いて、50分間330℃に加熱した。
【0118】
反応物を60℃に冷却させた。アセトン(200mL)を加えて、続いて遠心分離した。黒色物質を集めた。ロータリーエバポレータを用いて上清を真空下で乾燥させた。
【0119】
乾燥した固体に25℃でアセトニトリル(200mL)を加え、十分に振とうした。この物質を遠心分離し、黒い固体を先に集めた黒色物質と合わせた。上清を分離した。上清は、励起波長依存性発光を示した。
図7Aに示すように、最大強度発光は、約370nmで励起された場合に約440nmで見られる。
【0120】
一体にされた黒色固体に、アセトニトリル(100mL)を加えて、撹拌しながら温めた。黒色の非発光性固体の幾らかは溶けないままであったが、溶液は、高発光性な濃い黄色を生じた。濃黄色溶液を黒色の非発光性固体から分離した。深黄色溶液は励起波長依存性の発光を示し、
図7Bに示すように、最大強度発光は、340nmで励起した場合に405nmで見られる。
【0121】
予め作製されたナノ粒子を化学的切断することで形成された材料を使用することの利点には、以下が挙げられる。
・材料が均一な特性(組成、形状、任意選択でサイズ)を有しており、薄膜と結果として生じるデバイスとに均一性をもたらす。
・材料の溶解性が高いので、インクを形成するために多数の溶媒中で容易に加工できる。
・このプロセスは、母体となるナノ粒子の寸法でフレークのサイズを制御することを可能にする。
【0122】
更に、ドープされたナノ粒子は、均一なドーピングをデバイスに導入するための手段として、化学的切断されてよい。
【0123】
溶液処理は、以下の利点をもたらす。
・層の厚さと均一な層を形成する能力とを制御する。
・堆積コストが低い。
・スケーラビリティ。
・フレキシブルエレクトロニクス及び太陽光発電用のフレキシブル基板への適用。
【0124】
本発明のこれら及び他の利点は、上記の開示から当業者には明らかであろう。従って、本発明の広範な発明概念から逸脱することなく、上述の実施形態に変更又は修正を加えることができることが分かる。本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態に限定されないことを理解のこと。添付の特許請求の範囲に文言上及び均等で含まれる本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正がなされてよいことを理解のこと。