(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】鍼管及び鍼セット
(51)【国際特許分類】
A61H 39/08 20060101AFI20220330BHJP
【FI】
A61H39/08 H
(21)【出願番号】P 2018142868
(22)【出願日】2018-07-30
【審査請求日】2020-07-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発明を実施した日:平成30年5月17日~6月2日、実施した者:株式会社山正、実施した場所:株式会社山正(滋賀県長浜市内保町238番地2)
(73)【特許権者】
【識別番号】392007153
【氏名又は名称】株式会社山正
(74)【代理人】
【識別番号】100145953
【氏名又は名称】真柴 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】押谷 小助
【審査官】菊地 牧子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-158616(JP,A)
【文献】特開2012-075873(JP,A)
【文献】中国実用新案第201370749(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍼管と、前記鍼管内に保持された鍼と、を含む鍼灸用鍼セットであって、
前記鍼が、鍼柄及び鍼体を含み、
前記鍼柄が、鍼柄の長さ方向に対して略垂直方向に突起し、かつ鍼柄の長さ方向に並列した少なくとも2つの突起を有しており、
前記鍼管が、長さ方向における一端部に、鍼管の内壁から鍼管の穴の中心方向に突き出た掛止部を少なくとも2以上有しており、前記2以上の掛止部が、前記鍼管の長さ方向において略同一の位置に備えられおり、
前記鍼管の掛止部を含んだ全体が貯蔵弾性率100~500MPaの弾性材料からなっており、
前記鍼管の掛止部の少なくとも先端が、前記鍼柄の一の突起と、当該一の突起と隣り合った別の突起との間に差し込まれることにより、前記鍼が前記鍼管に保持されていることを特徴とする、鍼灸用鍼セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍼灸用鍼を保持するための鍼管及び当該鍼管を含む鍼セットに関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内において鍼による施術を行う場合、主として管鍼法が採用されている。管鍼法においては、鍼管に保持された鍼が使用される。管鍼法による鍼の施術は以下のように行われる。すなわち、あらかじめ鍼を挿入した鍼管を、つぼ等の鍼を刺入する箇所にあて、鍼管の頭部から出ている鍼柄頭部を軽く押すことによって、鍼の先端を皮膚に刺入(切皮)する。次いで、鍼管を取り去り、鍼を指の間に挟み立てた状態で必要な深さまで刺入する。従来の管鍼法では鍼及び鍼管ともに再利用されていた。しかしながら、近年においては、衛生上の問題等を考慮して、鍼を鍼管にセットした状態で個別に密封包装した滅菌済みの使い捨て鍼が主流となっている。
【0003】
例えば、特許文献1は、鍼管と、当該鍼管に装着された鍼とからなる使い捨てタイプの鍼管付き鍼灸用鍼の発明を開示している。前記特許文献1における鍼は、鍼柄と鍼線とからなり、鍼柄には2カ所掛止部が設けられている。前記鍼管は、鍼管上端部以外では前記掛止部の最大径より大きく、鍼管上端部では鍼柄の直径より大きいが掛止部の最大径より小さくなっている。前記掛止部の最大径よりも小さくなった箇所は、特許文献1において掛止孔とされている。特許文献1の鍼は、2カ所に設けられた鍼柄の前記掛止部の間に、前記鍼管の上端部における掛止孔の内周部が差し込まれることにより、鍼が鍼管に固定される。特許文献1の鍼を使用する際には、鍼柄の上端を押し込むことにより、掛止孔をわずかに広げ、鍼柄の掛止部が広がった前記掛止孔を通過することにより、鍼管から鍼を取り外して使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記技術は以下のような問題を有していた。すなわち、特許文献1の鍼管から鍼を取り外すときには、前述のように鍼柄を押し込み、鍼管の掛止孔を鍼柄の掛止部の大きさまで広げなければならない。掛止孔を無理に広げるために、過剰な力が要求される場合も少なくない。鍼柄に対してこのように過剰な力をかけることにより、鍼が鍼管から勢いよく飛び出す場合がある。鍼が勢いよく飛び出すことにより、鍼を持つ者の手に鍼が刺さったり、飛び出した鍼が床等に落ちたりするアクシデントが発生し得る。使用前の鍼が外部と接触して鍼が汚染される可能性があるため、このようなアクシデントは極力避けなければならない。
【0006】
さらに近年、治療目的だけではなく、美容目的で鍼が使用される場合がある。美容目的の鍼は顔面に使用されることが多い。このように顔面に対して鍼を刺入する際に通常の鍼治療で使用される通常の長さの鍼を使用すると、以下のような問題が生じる。すなわち、顔面は、一般的に、人体の顔面以外の部分と比較して骨を覆う肉の厚さが薄い傾向がある。従って、通常の長さの鍼を顔面に刺入すると、人体の他の部分と比較して深く鍼を刺入できないため、刺入されていない鍼の残りの部分が比較的長くなってしまう。このように、鍼の長く残った部分は比較的動きやすい状態となる。一方、顔面は、人体における顔面以外の部分と比較すると非常に敏感な箇所である。刺入されていない鍼の部分が動くことにより、施術を受ける者に不快感を与える場合が多い。従って、前記のような不快感を極力低減するために、美容目的で使用される鍼は通常の鍼治療で使用される鍼よりも短い鍼が使用される。このような美容目的等で使用される短い鍼を特許文献1の技術を用いて鍼管に固定すると、鍼自体の長さが短いため、鍼を鍼管から取り外す際に鍼が鍼管から飛び出す可能性がさらに高まってしまう。
【0007】
従来技術は前記のような問題を有していたため、このような問題を解決できる技術が望まれてきた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討を重ねた結果、特定材料からなる特定の構造を有する鍼管を用いることにより前記問題が解決できることを見いだし、本発明に至った。
すなわち本発明は、
[1]鍼灸用鍼を保持する鍼管であって、
前記鍼管が、長さ方向における一端部に、鍼管の内壁から鍼管の穴の中心方向に突き出た掛止部を少なくとも1つ有しており、
前記鍼管の掛止部が、貯蔵弾性率100~1000MPaの弾性材料からなる、
ことを特徴とする、鍼管、
[2]前記掛止部を少なくとも2以上有しており、前記2以上の掛止部が、前記鍼管の長さ方向において略同一の位置に備えられている、[1]に記載の鍼管、
[3]掛止部を含んだ全体が貯蔵弾性率100~1000MPaの弾性材料からなる、[1]又は[2]に記載の鍼管、
[4]前記掛止部が、貯蔵弾性率100~500MPaの弾性材料からなる、[1]~[3]のいずれかに記載の鍼管、
[5]掛止部を含んだ全体が貯蔵弾性率100~500MPaの弾性材料からなる、[1]~[4]のいずれかに記載の鍼管、並びに
[6][1]~[5]のいずれかに記載の鍼管と、前記鍼管内に保持された鍼と、を含む鍼灸用鍼セットであって、
前記鍼が、鍼柄及び鍼体を含み、
前記鍼柄が、鍼柄の長さ方向に対して略垂直方向に突起し、かつ鍼柄の長さ方向に並列した少なくとも2つの突起を有しており、
前記鍼管の掛止部の少なくとも先端が、前記鍼柄の一の突起と、当該一の突起と隣り合った別の突起との間に差し込まれることにより、前記鍼が前記鍼管に保持されていることを特徴とする、鍼灸用鍼セット、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鍼管及び鍼セットにより、鍼を使用する際に、わずかな力で鍼を鍼管から取り外すことができるため、鍼の長さにかかわらず、鍼の鍼管からの飛び出しを極力防ぐことができる。従って、鍼が鍼管に固定された際の衛生状態を保ったままで、鍼による施術を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】A:
図1の鍼管の平面図及びB:本発明の範囲外の鍼管を説明するための平面図である。
【
図4】本発明の鍼セットにおける鍼の正面図である。
【
図8】
図7の鍼セットにおいて鍼管をA-Bで切断した一部断面図である。
【
図9】
図6の鍼セットから鍼を取り外す際の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、添付図面に示す具体的な実施形態に基づき、本発明の鍼管及び鍼セットについて詳細に説明する。なお、本発明の範囲は以下の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で様々な設計変更が可能であることは言うまでもない。
【0012】
図1は、本発明の鍼管1の正面図である。鍼管1は、中空の細長い管である。なお、本実施形態において、鍼管1の断面形状は円形である(
図2A参照)。しかしながら、鍼管1の断面形状は円形である必要はなく、例えば、三角形、四角形、五角形、六角形等の多角形の形状であっても良い(図示せず)。また、鍼管1の太さ(
図1においては直径r1)は
図1に示すように全体が均一の太さであっても良いし、一部が太く又は細くなっていても良い。
【0013】
鍼管1の大きさは、当該鍼管1により保持される鍼2の大きさにより適宜変更可能である。例えば、通常の鍼灸施術で使用される鍼(鍼柄の端から鍼体の端までの全長が45~85mmで、鍼柄の直径が1.0~2.5mmの鍼)を保持する場合、鍼管1の長さは42~82mm で中空部11の幅(
図3においては直径r2)は1.6~3.1mmであってよい。また、例えば、美容目的等で使用される短い鍼(鍼柄の端から鍼体の端までの全長が25~45mmで、鍼柄の直径が1.0~2.5mmの鍼)を保持する場合、鍼管1の長さは22~42mm で、中空部11の幅(
図3においては直径r2)は1.6~3.1mmであってよい。
【0014】
本発明の鍼管1は、前記の通り中空の細長い管であり、当該管の中空部11に後述する鍼2が保持される。前記中空部11の幅(
図3においては直径r2)は、均一な幅であっても良いし、一部が太く又は細くなっていても良い。なお、鍼2を使用する場合に鍼管1の中空部11から鍼2をスムーズに取り出せるように、中空部11の幅は、後述する掛止部12のある箇所を除いて、鍼管の長さ方向において均一か、又は鍼管1の長さ方向において掛止部12がある方からない方に向けて徐々に広がっていることがより好ましい。
【0015】
鍼管1の長さ方向における一端部には、鍼管1の内壁(中空部11の側面)から鍼管の穴の中心方向に突き出た掛止部12を少なくとも1つ有している。なお、本発明における「一端部」とは、鍼管1の端部そのものだけで無く、後述する鍼2を保持することができることを条件として、鍼管1の長さ方向における一端部付近の箇所も含まれる。また、本発明における「鍼管の穴の中心方向に突き出た」とは、掛止部12が後述する鍼2を保持することができることを条件として、掛止部12が鍼管1の内壁(中空部11の側壁)から中空部11の穴の中心方向に突き出ていることを意味している。従って、掛止部12の中心線と鍼管1の内壁(長さ方向)との角度は、直角であっても良いし、直角以外の角度であっても良い。
【0016】
さらに、本発明における「突き出た」とは、掛止部12が
図2Bに示されるように中空部11の内壁をぐるりと一周するように形成されるのではなく、少なくとも1つの独立した掛止部が鍼管1の内壁から飛び出した形状になっていることを意味する。このように掛止部12が突き出た形状になっていることより、掛止部12の鍼柄21に対する接触面積を極力減らし、後述する鍼2を鍼管1から取り外す際に過剰な力をかけることなく鍼2を鍼管1から取り外すことが可能となる。過剰な力が必要ないため、鍼2が鍼管1から飛び出す可能性を極力低減できる。
なお、掛止部12が2以上ある場合には、これら2以上の掛止部12が、鍼管1の長さ方向において略同一の位置にあることが好ましい。
【0017】
具体的には、本実施形態においては、3つの掛止部121、122及び123が、鍼管1の長さ方向における一端部に、長さ方向において略同一の位置に設けられている(
図2A及び3参照)。掛止部12の数は、鍼管1の大きさ、鍼2の大きさ等の諸条件に応じて適宜変更可能である。掛止部12の大きさも、鍼管1の大きさ、鍼2の大きさ、鍼管1に設けられた掛止部12の数等の諸条件に応じて適宜変更可能である。
【0018】
本発明の鍼管1において、少なくとも前記掛止部12は、貯蔵弾性率が、好ましくは100~1000MPa、より好ましくは100~700MPa、さらに好ましくは100~500MPa、さらにより好ましくは350~500MPaの弾性材料からなる。掛止部12が、貯蔵弾性率が1000MPa以下の弾性材料からなることにより、後述する鍼2を鍼管1から取り外す際に、過剰な力をかけることなく鍼2を鍼管1から取り外すことが可能となり、鍼2が鍼管1から飛び出す可能性を極力低減できる。また、掛止部12が、貯蔵弾性率が100MPa以上の弾性材料からなることにより、製造効率を必要以上に落とすことなく鍼管1を製造することができる。さらに、貯蔵弾性率が500MPa以下、好ましくは100~500MPa、より好ましくは350~500MPaの弾性材料を用いることにより、鍼管1のロットブレを極力低減させ鍼管1の製造安定性を向上できる。
【0019】
鍼管1の掛止部12のみを前記のような弾性材料で、鍼管1のそのほかの部分を異なる材料で製造しても良いし、掛止部12を含む鍼管1全体を前記のような弾性材料、具体的には、貯蔵弾性率が、好ましくは100~1000MPa、より好ましくは100~700MPa、さらに好ましくは100~500MPa、さらにより好ましくは350~500MPaの弾性材料で製造しても良い。掛止部12を含む鍼管1全体を同じ材料で製造することにより、鍼管1の製造効率を必要以上に低下させる恐れがないため、より好ましい。
【0020】
本発明の掛止部12又は掛止部12を含む鍼管1全体を形成する弾性材料は、貯蔵弾性率が上記範囲内であることを条件として特に制限されない。弾性材料の具体例として、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂があげられる。
【0021】
以下に、本発明の鍼セット3について説明する。本発明の鍼セット3は、前記説明した鍼管1と前記鍼管1の中空部11の内部に保持された鍼2とのセットである。
【0022】
本発明の鍼2の具体例が
図4に示されている。
図4に示すように、鍼2は、鍼柄21と鍼体22とからなる。鍼柄21は、例えば、ステンレス、アルミ、白銅又はクロムメッキ等の金属製であっても、ポリプロピレン又はポリエチレン等の合成樹脂製であっても良い。鍼柄21の形状は、鍼灸の施術を行う者の作業を阻害しないことを条件として特に制限されない。鍼柄21の平面方向から見た形状は、
図5に示すように円形であっても良いし、三角形、四角形、五角形、六角形等の多角形(図示せず)であっても良い。
鍼体22は、例えば、ステンレス、アルミ、白銅又はクロムメッキ等の金属製であって良い。
【0023】
鍼2の全体の長さは、例えば、通常の鍼灸施術で使用される鍼の場合、鍼柄21の端から鍼体22の端までの長さが45~85mmで、鍼柄の太さ(
図5においては直径r4)が1.0~2.5mmであってよい。また、例えば、美容目的等で使用される短い鍼の場合、鍼柄21の端から鍼体22の端までの長さが25~45mmで、鍼柄の太さ(
図5においては直径r4)が1.0~2.5mmであってよい
【0024】
鍼柄21は、鍼柄の長さ方向に対して略垂直方向に突起し、かつ鍼柄の長さ方向に並列した少なくとも2つの突起部23(
図4においては231及び232)を有している。
図4の鍼2においては、鍼柄21に、2つの突起部231,232が設けられている。突起部23の形状は、後述するように、鍼2を鍼管1に保持させる際に、隣り合った2つの突起部23の間に鍼管1の掛止部12の少なくとも先端を差し込むことができることを条件として、特に制限されない。しかしながら、突起部23は、
図4及び
図5に示すように、鍼柄21の軸周囲をぐるりと取り囲む輪の形状であることがより好ましい。突起部23を輪の形状とすることにより、後述するように鍼2を鍼管1に保持させた後、鍼2が鍼管1に対して相対的に回転した場合でも、鍼2が鍼管1から勝手に外れることを防止できる。
【0025】
なお、鍼2を正面方向から見た場合の突起部23の形状は、鍼2を鍼管1から取り外す際に障害とならない形状であることを条件として特に制限はない。例えば、
図4に示すように、勾配を有する山形でもよい。このような山形であることにより、鍼2を鍼管1から取り外す際に、より小さい力でスムーズに取り外すことができる。
【0026】
突起部23の大きさ及び間隔は、前述の鍼管1の掛止部12の少なくとも先端を差し込むことにより鍼2を鍼管1の中空部11に保持できる程度であれば特に制限されない。なお、「突起部23の間隔」は、以下のように測定される。例えば、2つの突起部23が、鍼柄21の長さ方向に対して略垂直方向にまっすぐ突き出ている(言い換えれば、正面方向から見た際に、突起部23が鍼柄21の長さ方向に対して傾斜を有していない)場合、「突起部23の間隔」は、上側の突起部(
図4においては突起部231)の下端から下側の突起部(
図4においては突起部232)の上端の間の間隔を意味する。また、2つの突起部23が、
図4に示すように、鍼柄21の長さ方向に対して傾斜を有している場合、「突起部23の間隔」は、上側の突起部(
図4においては突起部231)の傾斜が始まった箇所から下側の突起部(
図4においては突起部232)の傾斜が終わった箇所までの間隔(
図4においてはw1)の間隔を意味する。
また、前述の鍼管1の掛止部12の少なくとも先端を差し込むことにより鍼2を鍼管1の中空部11に保持できることを条件として、一の突起部23の大きさ及び/又は形状が、隣り合う他の突起部23の大きさ及び/又は形状と同じであっても異なっていても良い。
【0027】
突起部23の大きさ及び間隔と、鍼管1の掛止部12の大きさとの関係は、例えば以下の通りである。前記の通り、鍼管1の掛止部12の少なくとも先端を差し込むことにより鍼2が鍼管1の中空部11に保持される。従って、鍼管1の掛止部12の厚さ(
図3においてはt1)が、鍼柄21における隣り合った2つの突起部23(例えば、
図4においては突起部231及び232)の間隔(
図4においてはw1)以下であることが好ましい。また、鍼管1の掛止部12の厚さ(
図3においてはt1)が、鍼柄21における隣り合った2つの突起部23(例えば、
図4においては突起部231及び232)の間隔(
図4においてはw1)と同じか又はこれより厚い場合には、断面方向(
図3における断面方向)から見た掛止部12の先端の形状を、丸みを帯びた形状にして、前記掛止部12の丸みを帯びた先端が鍼柄21における隣り合った2つの突起部23の間に差し込まれて良い。
【0028】
また、鍼管1の掛止部12の先端から中空部11の内壁までの距離(一つの掛止部12を有する場合)又は複数の掛止部12の先端が描く円の直径(例えば、
図2Aにおいては直径r3)は、鍼柄21の太さ(例えば、
図5においては直径r4)よりも大きいことが好ましい。鍼柄21の突起部23の太さ(例えば、
図5においては直径r5)は、鍼管1の掛止部12の先端から中空部11の内壁までの距離(一つの掛止部12を有する場合)又は複数の掛止部12の先端が描く円の直径(例えば、
図2Aにおいては直径r3)よりもわずかに大きいことが好ましい。一方で、鍼2を鍼管1からよりスムーズに取り出すことができるように、突起部23の太さ(例えば、
図5においては直径r5)は、鍼管の中空部11の幅(例えば、
図3においては直径r2)よりも小さいことが好ましい。
【0029】
前述の通り、鍼2が鍼管1に保持されることにより、本発明の鍼セット3となる。
図6は、本発明の鍼セット3の一形態を示す正面図である。鍼2は、鍼管1の中空部11に差し込まれる。鍼管1の掛止部121、122及び123の少なくとも先端が、鍼柄21における隣り合った2つの突起部(
図6においては突起部231、232)の間に差し込まれることにより、鍼2が鍼管1に保持される(
図7及び8参照)。鍼体22が外部に接触しないように、鍼2の長さと鍼管1の長さを以下のような関係にすることが好ましい。すなわち、鍼管1の掛止部12が差し込まれる鍼柄21における2つの突起部23のうち上側の突起部の下端から鍼体22の端までの長さ(
図4においてはl1)が、鍼管1の掛止部12から鍼管1の端(掛止部12のない方の端)までの長さ(
図6においてはl2)の長さよりも、少なくともわずかに短いことが好ましい。
【0030】
鍼灸の施術を行う際には、鍼2を鍼管1から取り外して使用する。鍼2を鍼管1から取り外す際には、
図9に示すように、鍼セット3の鍼柄2側を下にして、鍼柄21の頭部を軽く押し込む。鍼柄21の頭部を軽く押し込むことで、鍼柄21の突起部231により鍼管1の掛止部121、122及び123が鍼管1の出口方向に押し込まれる。掛止部121、122及び123が出口方向に押し込まれることにより、掛止部121、122及び123の先端部の間隔(
図2Aにおいては直径r3)が広がり、突起部23が掛止部121、122及び123を通過することにより、鍼2が鍼管1に保持されていない状態となる。このようにした後は、通常の管鍼法による鍼施術を行うことができる。
【0031】
本発明の鍼セット3において鍼管1の掛止部121、122及び123が、前記のような貯蔵弾性率の弾性材料からなることにより、鍼2を鍼管1から取り外す際に、過度な力で鍼柄21を押し込む必要がない。従って、鍼管1からの鍼2の飛び出しを極力抑えることができる。特に、鍼セット3が、美容目的等で使用される短い鍼である場合であっても、鍼2の過剰な飛び出しを抑えることができる。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例に基づいて本発明をさらに詳しく説明する。
【0033】
1.使用した材料
(1)ポリプロピレン樹脂(上海石化有限公司製、品番M700R)(以下「サンプル1」)
(2)ポリエチレン樹脂(中国石化股_斉魯分公司製、品番2102TN26)(以下、「サンプル2」)
(3)ポリプロピレン樹脂(独山子天利有限公司製、品番A180TM)(以下、「サンプル3」)
【0034】
2.使用した機器
(1)卓上ホットプレス機(テクノサプライ社製、型番:小型プレスG-12型)
(2)粘弾性測定装置(日立ハイテクノサイエンス社製、型番:DMA7100)
(3)万能材料試験機10kN(インストロンジャパンカンパニイリミテッド社製、型番:5966型)
【0035】
3.粘弾性測定サンプルの調製
中央部に7×10cmの穴をくり抜いたアルミ板(厚み1mm)を用意した。ホットプレス機の鉄製プレス台座内部にカプトンフィルムを敷き、その上にアルミ板を置いた。前記アルミ板のくり抜き部に、前記各サンプルのペレットを添加し、上からカプトンフィルムを被せ、上下のカプトンフィルムを鉄製台座で挟んだ。ホットプレス機の温度をポリプロピレン樹脂に対して190℃で、ポリエチレン樹脂に対して140℃に設定した。プレス圧力を10MPaに設定し、前記設定温度にて1分間(60秒)プレスした。ホットプレス機から鉄製プレス台座ごと取り出し、作業台上にて1分間常温冷却させた。冷却後、鉄製台座及び上下のカプトンフィルムを取り外し、アルミ板のくりぬき部からプレスされたフィルムを取り出した。取り出したフィルムを幅5mm×長さ5cmに断裁して測定サンプルとした。
【0036】
4.粘弾性の測定
前記調整した各サンプルの貯蔵弾性率を、前記粘弾性測定装置を用いて測定しした。具体的には、測定装置内の治具に測定サンプルを取り付け、1KHzの振動を与えた際に装置に伝わる圧を測定することにより、貯蔵弾性率を測定した。測定サンプルごとに5枚のフィルムを用いて測定を行った。測定は、測定装置内の治具に対するフィルムの取り付け方向を、1枚のフィルム当たり上下方向及び裏表を反転させた上下方向の合計4方向に変更してそれぞれ測定を行った。1測定サンプル当たり、5枚のフィルム×4方向の20回測定を行い、その平均値を各サンプルにおける貯蔵弾性率とした。測定結果が、以下の表1にまとめられている。
【表1】
【0037】
5.各サンプルを用いた鍼管の製造
図1の鍼管を製造するための型を準備し、上記各サンプルを溶融射出成形することにより
図1の鍼管を製造した。なお、掛止部を含む鍼管全体が、上記各サンプルにより製造された。鍼管のサイズは、以下の通りである:長さ(l2)31.8mm、幅(r1)4.21mm、中空部の幅(r2)2.85mm、掛止部の高さ(t1)1mm、各掛止部の先端が描く円の直径(r3)1.85mm。
【0038】
6.鍼セットの製造
図4に示す鍼を準備し、前記のように調製した鍼管に保持させることにより、鍼セットを製造した。同一のサンプルから調製された鍼管20本を準備し、鍼2と組み合わせることにより、20本の鍼セットを調製した。なお、鍼のサイズは以下の通りである:鍼の全長35mm、突起部231の下端から鍼体先端までの長さ(l1)27.7mm、鍼柄の長さ20mm、鍼体の長さ15mm、鍼柄の直径(r4)1.82mm、突起部231の直径(r5)2.42mm、突起部232の直径(r5)2.52mm、突起部231と232との間隔(w1)1.15mm。
【0039】
7.鍼管押し出し試験
前記万能材料試験機10kNを用いて、20本の鍼セットから鍼2を押し出す際に必要な力を測定した。測定結果が表2に示されている。なお、サンプル1を用いた例を実施例1、サンプル2を用いた例を実施例2、サンプル3を用いた例を比較例1としている。
【表2】
(単位:N)
【0040】
表2に示すように、本発明の実施例1及び2は、比較例1と比べて押し出しに要する力が小さいことが明らかである。従って、実施例1及び2の鍼セットは、比較例1の鍼セットと比較して、鍼が鍼管から飛び出す恐れが非常に小さい。
さらに、実施例2の鍼セットにおいては、各ロットにおける鍼を押し出す際に必要な力の最大値と最小値の差が0.7Nである。このことは、実施例2の鍼セットは、ロット間のブレが小さいため、非常に高い製造効率で製造可能であることを意味する。
【符号の説明】
【0041】
1 鍼管
11 中空部
12 掛止部
2 鍼
21 鍼柄
22 鍼体
23 突起部
3 鍼セット