(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】自律走行システム
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20220330BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20220330BHJP
【FI】
A01B69/00 303M
G05D1/02 N
(21)【出願番号】P 2018231378
(22)【出願日】2018-12-11
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100141298
【氏名又は名称】今村 文典
(74)【代理人】
【識別番号】100181869
【氏名又は名称】大久保 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】小倉 康平
(72)【発明者】
【氏名】西井 康人
(72)【発明者】
【氏名】白藤 大貴
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-158520(JP,A)
【文献】特開2018-116614(JP,A)
【文献】特開平11-266608(JP,A)
【文献】特開2018-117558(JP,A)
【文献】特開2018-143216(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0112044(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機が装着された作業車両で自律走行を行って作業を行うための走行経路が設定される作業領域、及び、前記作業領域と圃場周縁の間に形成された枕地領域を有する圃場の情報を取得する圃場取得部と、
作業幅の1/2又は作業機幅の1/2である第1基準間隔だけ、前記圃場周縁を内側に離間した位置の前記枕地領域内に第1基準補助線を作成する基準補助線作成部と、
前記作業幅からオーバーラップ量を減算した値、又は、前記作業幅に作業間隔を加算した値である補助線間隔ずつ、前記第1基準補助線を内側に離間した位置に第1隣接補助線を作成し、前記圃場周縁の所定の一辺の内側に作成される前記第1基準補助線と前記第1隣接補助線の合計の数は、当該圃場周縁から前記作業領域までの距離である枕地幅をLとし、前記補助線間隔をSとしたときに、L/Sの小数点以下を切り上げた値である隣接補助線作成部と、
前記第1基準補助線及び前記第1隣接補助線の少なくとも一部に沿って前記作業車両を自律走行させる走行制御部と、
を備えることを特徴とする自律走行システム。
【請求項2】
作業機が装着された作業車両で自律走行を行って作業を行うための走行経路が設定される作業領域、及び、前記作業領域と圃場周縁の間に形成された枕地領域を有する圃場の情報を取得する圃場取得部と、
作業幅の1/2からオーバーラップ量を減算した値、又は、前記作業幅の1/2に作業間隔を加算した値である第2基準間隔だけ、作業領域周縁を外側に離間した位置の前記枕地領域内に第2基準補助線を作成する基準補助線作成部と、
前記作業幅からオーバーラップ量を減算した値、又は、前記作業幅に作業間隔を加算した値である補助線間隔ずつ、前記第2基準補助線を外側に離間した位置に第2隣接補助線を作成し、前記作業領域周縁の所定の一辺の外側に作成される前記第2基準補助線と前記第2隣接補助線の合計の数は、前記圃場周縁から前記作業領域までの距離である枕地幅をLとし、前記補助線間隔をSとしたときに、L/Sの小数点以下を切り捨てた値又は当該値から1を減算した値である隣接補助線作成部と、
前記第2基準補助線及び前記第2隣接補助線の少なくとも一部に沿って前記作業車両を自律走行させる走行制御部と、
を備えることを特徴とする自律走行システム。
【請求項3】
請求項1に記載の自律走行システムであって、
前記基準補助線作成部は、前記第1基準補助線を作成可能であるとともに、前記作業幅の1/2からオーバーラップ量を減算した値、又は、前記作業幅の1/2に作業間隔を加算した値である第2基準間隔だけ、作業領域周縁を外側に離間した位置の前記枕地領域内に第2基準補助線を作成可能であり、
前記隣接補助線作成部は、前記第1隣接補助線を作成可能であるとともに、補助線間隔ずつ、前記第2基準補助線を外側に離間した位置に第2隣接補助線を作成可能であり、前記作業領域周縁の所定の一辺の外側に作成される前記第2基準補助線と前記第2隣接補助線の合計の数は、L/Sの小数点以下を切り捨てた値又は当該値から1を減算した値であり、
前記第1基準補助線及び前記第1隣接補助線を選択するか、あるいは、前記第2基準補助線及び前記第2隣接補助線を選択する補助線選択部を更に備え、
前記走行制御部は、前記補助線選択部が選択した補助線の少なくとも一部に沿って前記作業車両を自律走行させることを特徴とする自律走行システム。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の自律走行システムであって、
前記隣接補助線作成部は、前記第2隣接補助線と前記圃場周縁との間隔が作業幅の1/2又は作業機幅の1/2より小さい場合は、当該第2隣接補助線を作成しない又は作成後に削除することを特徴とする自律走行システム。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の自律走行システムであって、
前記作業領域及び前記枕地領域の何れでの作業を行うかをユーザに選択させる処理、及び、前記枕地領域での作業を行うか作業を終了するかの何れかをユーザに選択させる処理を行う選択処理部を備え、
前記枕地領域での作業をユーザが選択したと判断した場合に、前記走行制御部は、前記基準補助線作成部及び前記隣接補助線作成部が作成した補助線の少なくとも一部に沿って前記作業車両を自律走行させることを特徴とする自律走行システム。
【請求項6】
作業機が装着された作業車両で自律走行を行って作業を行うための走行経路が設定される作業領域、及び、前記作業領域と圃場周縁の間に形成された枕地領域を有する圃場の情報を取得する圃場取得部と、
前記枕地領域において前記作業車両を自律走行させるための補助線を作成する補助線作成部と、
前記作業領域及び前記枕地領域の何れでの作業を行うかをユーザに選択させる処理、及び、前記枕地領域での作業を行うか作業を終了するかの何れかをユーザに選択させる処理を行う選択処理部と、
前記枕地領域での作業をユーザが選択したと判断した場合に、前記補助線作成部が作成した補助線の少なくとも一部に沿って前記作業車両を自律走行させる走行制御部と、
を備えることを特徴とする自律走行システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、作業機が装着された作業車両を経路に沿って走行させる自律走行システムに関する。
【背景技術】
【0002】
圃場は、作業車両を主に直進走行させて作業を行う作業領域と、作業車両の周囲にあって例えば作業車両を旋回させるための枕地領域と、に区分されることがある。特許文献1には、この種の作業領域と枕地領域の両方において、作業車両を自律走行させるための経路を作成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1には、枕地領域用の経路の具体的な作成方法又は具体的な使用方法について詳細には記載されていない。枕地領域は作業領域とは異なる特徴を有しているため、作業領域での経路作成方法又は使用方法を単純に適用することはできない。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、枕地領域において経路として利用可能な補助線を作成することで、枕地領域において作業車両を適切に自律走行させることが可能な自律走行システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の自律走行システムが提供される。即ち、この自律走行システムは、圃場取得部と、基準補助線作成部と、隣接補助線作成部と、走行制御部と、を備える。前記圃場取得部は、作業機が装着された作業車両で自律走行を行って作業を行うための走行経路が設定される作業領域、及び、前記作業領域と圃場周縁の間に形成された枕地領域を有する圃場の情報を取得する。前記基準補助線作成部は、作業幅の1/2又は作業機幅の1/2である第1基準間隔だけ、前記圃場周縁を内側に離間した位置の前記枕地領域内に第1基準補助線を作成する。前記隣接補助線作成部は、前記作業幅からオーバーラップ量を減算した値、又は、前記作業幅に作業間隔を加算した値である補助線間隔ずつ、前記第1基準補助線を内側に離間した位置に第1隣接補助線を作成する。前記圃場周縁の所定の一辺の内側に作成される前記第1基準補助線と前記第1隣接補助線の合計の数は、当該圃場周縁から前記作業領域までの距離である枕地幅をLとし、前記補助線間隔をSとしたときに、L/Sの小数点以下を切り上げた値である。前記走行制御部は、前記第1基準補助線及び前記第1隣接補助線の少なくとも一部に沿って前記作業車両を自律走行させる。
【0008】
これにより、圃場周縁を基準とした補助線を作成して当該補助線に沿って作業車両を自律走行させることで、枕地領域に作業残りが発生することを防止できる。
【0009】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の自律走行システムが提供される。即ち、この自律走行システムは、圃場取得部と、基準補助線作成部と、隣接補助線作成部と、走行制御部と、を備える。前記圃場取得部は、作業機が装着された作業車両で自律走行を行って作業を行うための走行経路が設定される作業領域、及び、前記作業領域と圃場周縁の間に形成された枕地領域を有する圃場の情報を取得する。前記基準補助線作成部は、作業幅の1/2からオーバーラップ量を減算した値、又は、前記作業幅の1/2に作業間隔を加算した値である第2基準間隔だけ、作業領域周縁を外側に離間した位置の前記枕地領域内に第2基準補助線を作成する。前記隣接補助線作成部は、前記作業幅からオーバーラップ量を減算した値、又は、前記作業幅に作業間隔を加算した値である補助線間隔ずつ、前記第2基準補助線を外側に離間した位置に第2隣接補助線を作成する。前記作業領域周縁の所定の一辺の外側に作成される前記第2基準補助線と前記第2隣接補助線の合計の数は、前記圃場周縁から前記作業領域までの距離である枕地幅をLとし、前記補助線間隔をSとしたときに、L/Sの小数点以下を切り捨てた値又は当該値から1を減算した値である。前記走行制御部は、前記第2基準補助線及び前記第2隣接補助線の少なくとも一部に沿って前記作業車両を自律走行させる。
【0010】
これにより、作業領域周縁を基準とした補助線を作成して当該補助線に沿って作業車両を自律走行させることで、枕地領域の作業ピッチを一定にすることができる。
【0011】
前記の自律走行システムにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記基準補助線作成部は、前記第1基準補助線を作成可能であるとともに、前記第2基準補助線を作成可能である。前記隣接補助線作成部は、前記第1隣接補助線を作成可能であるとともに、前記第2隣接補助線を作成可能である。また、自律走行システムは、前記第1基準補助線及び前記第1隣接補助線を選択するか、あるいは、前記第2基準補助線及び前記第2隣接補助線を選択する補助線選択部を更に備える。前記走行制御部は、前記補助線選択部が選択した補助線の少なくとも一部に沿って前記作業車両を自律走行させる。
【0012】
これにより、圃場周縁を基準とした補助線か、作業領域周縁を基準とした補助線の何れかに基づいて枕地領域において作業車両を自律走行させることができる。
【0013】
前記の自律走行システムにおいては、前記隣接補助線作成部は、前記第2隣接補助線と前記圃場周縁との間隔が作業幅の1/2又は作業機幅の1/2より小さい場合は、当該第2隣接補助線を作成しない又は作成後に削除することが好ましい。
【0014】
これにより、圃場周縁に作業機が接触する経路又は圃場外側に作業が行われる経路が作成されることを防止できる。
【0015】
前記の自律走行システムにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この自律走行システムは、前記作業領域及び前記枕地領域の何れでの作業を行うかをユーザに選択させる処理、及び、前記枕地領域での作業を行うか作業を終了するかの何れかをユーザに選択させる処理を行う選択処理部を備える。前記枕地領域での作業をユーザが選択したと判断した場合に、前記走行制御部は、前記基準補助線作成部及び前記隣接補助線作成部が作成した補助線の少なくとも一部に沿って前記作業車両を自律走行させる。
【0016】
これにより、ユーザは簡単な操作を行うことで、枕地領域における自律走行を作業車両に行わせることができる。
【0017】
本発明の第3の観点によれば、以下の構成の自律走行システムが提供される。即ち、この自律走行システムは、圃場取得部と、補助線作成部と、選択処理部と、走行制御部と、を備える。前記圃場取得部は、作業機が装着された作業車両で自律走行を行って作業を行うための走行経路が設定される作業領域、及び、前記作業領域と圃場周縁の間に形成された枕地領域を有する圃場の情報を取得する。前記補助線作成部は、前記枕地領域において前記作業車両を自律走行させるための補助線を作成する。前記選択処理部は、前記作業領域及び前記枕地領域の何れでの作業を行うかをユーザに選択させる処理、及び、前記枕地領域での作業を行うか作業を終了するかの何れかをユーザに選択させる処理を行う。前記走行制御部は、前記枕地領域での作業をユーザが選択したと判断した場合に、前記補助線作成部が作成した補助線の少なくとも一部に沿って前記作業車両を自律走行させる。
【0018】
これにより、ユーザは簡単な操作を行うことで、枕地領域における自律走行を作業車両に行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る自律走行システムで用いられるトラクタの全体的な構成を示す側面図。
【
図3】自律走行システムの主要な構成を示すブロック図。
【
図4】圃場の作業領域で作業を行う際にトラクタを自律走行させる走行経路を示す図。
【
図5】枕地領域に作成された第1基準補助線と第1隣接補助線を示す図。
【
図6】第1基準補助線と第1隣接補助線を作成する処理を示すフローチャート。
【
図7】第1基準補助線と第1隣接補助線を作成する処理の流れを模式的に示す図。
【
図8】枕地領域に作成された第2基準補助線と第2隣接補助線を示す図。
【
図9】第2基準補助線と第2隣接補助線を作成する処理を示すフローチャート。
【
図10】第2基準補助線と第2隣接補助線を作成する処理の流れを模式的に示す図。
【
図11】作業領域及び枕地領域での作業に関する処理を示すフローチャート。
【
図12】経路の作成後に無線通信端末に表示される映像を示す図。
【
図13】作業領域での作業中に無線通信端末に表示される映像を示す図。
【
図14】枕地領域での作業中に無線通信端末に表示される映像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態である自律走行システムについて説明する。自律走行システムは、圃場(走行領域)で1台又は複数台の作業車両を自律的に走行させて、作業の全部又は一部を実行させるものである。本実施形態では、作業車両としてトラクタを例に説明するが、作業車両としては、トラクタの他、田植機、コンバイン、土木・建設作業装置、除雪車等、乗用型作業機に加え、歩行型作業機も含まれる。本明細書において自律走行とは、トラクタが備える制御部(ECU)によりトラクタが備える走行に関する構成が制御されることで、予め定められた経路に沿うように少なくとも操舵が自律的に行われることを意味する。また、操舵に加え、車速又は作業機による作業等が自律的に行われる構成であってもよい。自律走行には、トラクタに人が乗っている場合と、トラクタに人が乗っていない場合が含まれる。
【0021】
次に、
図1から
図3を参照して自律走行システム100について具体的に説明する。
図1は、トラクタ1の全体的な構成を示す側面図である。
図2は、トラクタ1の平面図である。
図3は、自律走行システム100の制御系の主要な構成を示すブロック図である。
【0022】
図1に示すトラクタ1は、自律走行システム100で用いられ、無線通信端末46との間で無線通信を行うことにより操作される。トラクタ1は、圃場内を自律走行することが可能な走行機体(車体部)2を備える。走行機体2には、例えば農作業を行うための作業機3が着脱可能に取り付けられている。
【0023】
この作業機3としては、例えば、耕耘機、プラウ、施肥機、草刈機、播種機等の種々の作業機があり、これらの中から選択された作業機3が走行機体2に装着される。
図1及び
図2には、作業機3として耕耘機が取り付けられた例が示されている。耕耘機はカバー3aの内側に耕耘爪3bが配置されており、この耕耘爪3bが車幅方向を回転中心として回転することによって圃場を耕耘する。ここで、作業機3が作業を行う幅(車幅方向の長さ)を作業幅W1と称し、作業機3の車幅方向の長さを作業機幅W2と称する。
図2に示す形状の耕耘機では、耕耘爪3bの幅が作業幅W1に相当し、カバー3aの幅が作業機幅W2に相当する。耕耘機では、カバー3aの内側に耕耘爪3bが配置されているため、作業幅W1<作業機幅W2となる。しかし、例えば幅方向に広がるように薬剤を散布する施肥機が作業機3として取り付けられている場合、作業幅W1>作業機幅W2となることもある。このように、作業幅W1と作業機幅W2の何れが大きいかは作業機3及び作業内容に応じて異なる。また、走行機体2は、装着された作業機3の高さ及び姿勢を変更可能に構成されている。
【0024】
トラクタ1の構成について、
図1及び
図2を参照してより詳細に説明する。トラクタ1の走行機体2は、
図1に示すように、その前部が左右1対の前輪(車輪)7,7で支持され、その後部が左右1対の後輪8,8で支持されている。
【0025】
走行機体2の前部にはボンネット9が配置されている。このボンネット9内には、トラクタ1の駆動源であるエンジン10及び燃料タンク(図略)が収容されている。このエンジン10は、例えばディーゼルエンジンにより構成することができるが、これに限るものではなく、例えばガソリンエンジンにより構成してもよい。また、駆動源としては、エンジンに加えて、又はこれに代えて、電気モータを使用してもよい。
【0026】
ボンネット9の後方には、ユーザが搭乗するためのキャビン11が配置されている。このキャビン11の内部には、ユーザが操舵を行うためのステアリングハンドル(操舵具)12と、ユーザが着座可能な座席13と、各種の操作を行うための様々な操作具と、が主として設けられている。ただし、トラクタ1等の作業車両は、キャビン11を備えていてもよいし、キャビン11を備えていなくてもよい。
【0027】
上記の操作具としては、
図2に示すモニタ装置14、スロットルレバー15、主変速レバー27、複数の油圧操作レバー16、PTOスイッチ17、PTO変速レバー18、副変速レバー19、前後進切換レバー25、パーキングブレーキ26、作業機昇降スイッチ28等を例として挙げることができる。これらの操作装置は、座席13の近傍、又はステアリングハンドル12の近傍に配置されている。
【0028】
モニタ装置14は、トラクタ1の様々な情報を表示可能に構成されている。スロットルレバー15は、エンジン10の回転速度を設定するための操作具である。主変速レバー27は、トラクタ1の走行速度を無段階で変更するための操作具である。油圧操作レバー16は、図略の油圧外部取出バルブを切換操作するための操作具である。PTOスイッチ17は、トランスミッション22の後端から突出した図略のPTO軸(動力取出軸)への動力の伝達/遮断を切換操作するための操作具である。即ち、PTOスイッチ17がON状態であるときPTO軸に動力が伝達されてPTO軸が回転し、作業機3が駆動される一方、PTOスイッチ17がOFF状態であるときPTO軸への動力が遮断されてPTO軸が回転せず、作業機3が停止される。PTO変速レバー18は、作業機3に入力される動力の変更操作を行うものであり、具体的にはPTO軸の回転速度の変速操作を行うための操作具である。副変速レバー19は、トランスミッション22内の走行副変速ギア機構の変速比を切り換えるための操作具である。前後進切換レバー25は、前進位置、中立位置、後進位置の間で切換可能に構成されている。前後進切換レバー25が前進位置に位置する場合、エンジン10の動力が後輪8に伝達されることでトラクタ1が前進する。前後進切換レバー25が中立位置に位置する場合、トラクタ1は前進も後進も行わない。前後進切換レバー25が後進位置に位置する場合、エンジン10の動力が後輪8に伝達されることでトラクタ1が後進する。パーキングブレーキ(制動操作具)26は、ユーザが手で操作して制動力を発生させる操作具であり、例えばトラクタ1をしばらく停車させる場合等に用いられる。作業機昇降スイッチ28は、走行機体2に装着された作業機3の高さを所定範囲内で昇降操作するための操作具である。
【0029】
図1に示すように、走行機体2の下部には、トラクタ1のシャーシ20が設けられている。当該シャーシ20は、機体フレーム21、トランスミッション22、フロントアクスル23、及びリアアクスル24等から構成されている。
【0030】
機体フレーム21は、トラクタ1の前部における支持部材であって、直接、又は防振部材等を介してエンジン10を支持している。トランスミッション22は、エンジン10からの動力を変化させてフロントアクスル23及びリアアクスル24に伝達する。フロントアクスル23は、トランスミッション22から入力された動力を前輪7に伝達するように構成されている。リアアクスル24は、トランスミッション22から入力された動力を後輪8に伝達するように構成されている。
【0031】
図3に示すように、トラクタ1は、制御部4を備える。制御部4は公知のコンピュータとして構成されており、図示しないCPU等の演算装置、不揮発性メモリ等の記憶装置、及び入出力部等を備える。記憶装置には、各種のプログラム及びトラクタ1の制御に関するデータ等が記憶されている。演算装置は、各種のプログラムを記憶装置から読み出して実行することができる。上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、制御部4を走行制御部4a及び作業機制御部4bとして動作させることができる。走行制御部4aは、走行機体2の走行(前進、後進、停止及び旋回等)を制御する。作業機制御部4bは、作業機3の動作(昇降、駆動及び停止等)を制御する。なお、制御部4は、これら以外の制御(例えば撮影した画像の解析等)を行うこともできる。また、制御部4は、1つのコンピュータから構成されていてもよいし、複数のコンピュータから構成されていてもよい。
【0032】
走行制御部4aは、トラクタ1の車速を制御する車速制御と、トラクタ1を操舵する操舵制御と、を行う。制御部4は、車速制御を行う場合、エンジン10の回転速度及びトランスミッション22の変速比の少なくとも一方を制御する。
【0033】
具体的には、エンジン10には、当該エンジン10の回転速度を変更させる図略のアクチュエータを備えたガバナ装置41が設けられている。走行制御部4aは、ガバナ装置41を制御することで、エンジン10の回転速度を制御することができる。また、エンジン10には、エンジン10の燃焼室内に噴射(供給)するための燃料の噴射時期・噴射量を調整する燃料噴射装置45が付設されている。走行制御部4aは、燃料噴射装置45を制御することで、例えばエンジン10への燃料の供給を停止させ、エンジン10の駆動を停止させることができる。
【0034】
また、トランスミッション22には、例えば可動斜板式の油圧式無段変速装置である変速装置42が設けられている。走行制御部4aは、変速装置42の斜板の角度を図略のアクチュエータによって変更することで、トランスミッション22の変速比を変更する。以上の処理を行うことにより、トラクタ1が目標の車速に変更される。
【0035】
走行制御部4aは、操舵制御を行う場合、ステアリングハンドル12の回動角度を制御する。具体的には、ステアリングハンドル12の回転軸(ステアリングシャフト)の中途部には、操舵アクチュエータ43が設けられている。この構成で、予め定められた経路をトラクタ1が走行する場合、制御部4は、当該経路に沿ってトラクタ1が走行するようにステアリングハンドル12の適切な回動角度を計算し、得られた回動角度となるように操舵アクチュエータ43を駆動し、ステアリングハンドル12の回動角度を制御する。
【0036】
作業機制御部4bは、作業実行条件を満たすか否かに基づいて、PTOスイッチ17を制御することで、作業機3の駆動と停止を切り替える。また、作業機制御部4bは、作業機3の昇降を制御する。具体的には、トラクタ1は、作業機3を走行機体2に連結している3点リンク機構の近傍に、油圧シリンダ等からなる昇降アクチュエータ44を備えている。作業機制御部4bが昇降アクチュエータ44を駆動して作業機3を適宜に昇降動作させることにより、所望の高さで作業機3による作業を行うことができる。
【0037】
上述のような制御部4を備えるトラクタ1は、ユーザがキャビン11内に搭乗して各種操作をしなくとも、当該制御部4によりトラクタ1の各部(走行機体2、作業機3等)を制御して、圃場内を自律走行しながら自律作業を行うことができる。
【0038】
次に、自律走行を行うために必要な情報を取得する構成について説明する。具体的には、本実施形態のトラクタ1は、
図3等に示すように、測位用アンテナ6、無線通信用アンテナ48、前方カメラ56、後方カメラ57、車速センサ53、及び舵角センサ52等を備える。また、これらに加えて、トラクタ1には、走行機体2の姿勢(ロール角、ピッチ角、ヨー角)を特定することが可能な慣性計測ユニット(IMU)が備えられている。
【0039】
測位用アンテナ6は、例えば衛星測位システム(GNSS)等の測位システムを構成する測位衛星からの信号を受信するものである。
図1に示すように、測位用アンテナ6は、トラクタ1のキャビン11のルーフ5の上面に取り付けられている。測位用アンテナ6で受信された測位信号は、
図3に示す位置検出部としての位置情報取得部49に入力される。位置情報取得部49は、トラクタ1の走行機体2(厳密には、測位用アンテナ6)の位置情報を、例えば緯度・経度情報として算出し、取得する。当該位置情報取得部49で取得された位置情報は、制御部4に入力されて、自律走行に利用される。
【0040】
なお、本実施形態ではGNSS-RTK法を利用した高精度の衛星測位システムが用いられているが、これに限るものではなく、高精度の位置座標が得られる限りにおいて他の測位システムを用いてもよい。例えば、相対測位方式(DGPS)、又は静止衛星型衛星航法補強システム(SBAS)を使用することが考えられる。
【0041】
無線通信用アンテナ48は、ユーザが操作する無線通信端末46からの信号を受信したり、無線通信端末46への信号を送信したりするものである。
図1に示すように、無線通信用アンテナ48は、トラクタ1のキャビン11が備えるルーフ5の上面に取り付けられている。無線通信用アンテナ48で受信した無線通信端末46からの信号は、
図3に示す無線通信部40で信号処理された後、制御部4に入力される。また、制御部4等から無線通信端末46に送信する信号は、無線通信部40で信号処理された後、無線通信用アンテナ48から送信されて無線通信端末46で受信される。
【0042】
前方カメラ56はトラクタ1の前方を撮影するものである。後方カメラ57はトラクタ1の後方を撮影するものである。前方カメラ56及び後方カメラ57はトラクタ1のルーフ5に取り付けられている。前方カメラ56及び後方カメラ57で撮影された動画データは、無線通信部40により、無線通信用アンテナ48から無線通信端末46に送信される。動画データを受信した無線通信端末46は、その内容をディスプレイ31に表示する。
【0043】
上記の車速センサ53は、トラクタ1の車速を検出するものであり、例えば前輪7,7の間の車軸に設けられる。車速センサ53で得られた検出結果のデータは、制御部4へ出力される。なお、トラクタ1の車速は車速センサ53で検出せずに、測位用アンテナ6に基づいて所定距離におけるトラクタ1の移動時間に基づいて算出してもよい。舵角センサ52は、前輪7,7の舵角を検出するセンサである。本実施形態において、舵角センサ52は前輪7,7に設けられた図示しないキングピンに備えられている。舵角センサ52で得られた検出結果のデータは、制御部4へ出力される。なお、舵角センサ52をステアリングシャフトに備える構成としてもよい。
【0044】
図3に示すように、無線通信端末46は、ディスプレイ31及びタッチパネル32を備える。無線通信端末46は、タブレット端末であるが、スマートフォン又はノートPC等であってもよい。なお、トラクタ1にユーザが搭乗した状態でトラクタ1に自律走行を行わせる場合は、トラクタ1側(例えば制御部4)に無線通信端末46と同じ機能を持たせてもよい。ユーザは、無線通信端末46のディスプレイ31に表示された情報(例えば、前方カメラ56や、後方カメラ57や、車速センサ53等からの情報)を参照して確認することができる。また、ユーザは、上記のタッチパネル32又は図略のハードウェアキー等を操作して、トラクタ1の制御部4に、トラクタ1を制御するための制御信号(例えば、一時停止信号等)を送信することができる。
【0045】
無線通信端末46は、図示しないCPU等の演算装置、不揮発性メモリ等の記憶装置、及び入出力部等を備える。記憶装置には、各種のプログラム及び走行経路に関するデータ等が記憶されている。演算装置は、各種のプログラムを記憶装置から読み出して実行することができる。上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、無線通信端末46を表示制御部33、圃場取得部34、走行経路作成部35、基準補助線作成部(補助線作成部)36、隣接補助線作成部(補助線作成部)37、補助線選択部38、及び選択処理部39として動作させることができる(具体的な処理は後述)。
【0046】
表示制御部33は、ディスプレイ31に表示する表示用データを作成し、表示内容を適宜に制御する。例えば、表示制御部33は、トラクタ1を走行経路に沿って自律走行させている間は、所定の監視画面、指示画面等をディスプレイ31に表示させる。
【0047】
圃場取得部34は、トラクタ1が自律走行を行う対象となる圃場の位置及び形状を記憶装置から取得する。圃場の位置及び形状は、トラクタ1を圃場の外周に沿って走行させた際の測位用アンテナ6の位置情報の推移に基づいて作成されている。なお、トラクタ1を実際に走行させずに、例えばディスプレイ31に表示された地図上でユーザが範囲を指定することで、圃場の位置及び形状が作成されていてもよい。また、本実施形態では圃場に関する情報は無線通信端末46に記憶されているが、無線通信端末46と物理的に離れたサーバに記憶されていてもよい。この場合、圃場取得部34は、このサーバから圃場に関する情報を取得する。
【0048】
ここで、
図4を参照して、圃場について簡単に説明する。圃場には、作業領域と枕地領域とが含まれている。作業領域は圃場の中央部に位置しており、作業を行うための領域(作業を行うことが主目的の領域)である。枕地領域は、作業領域の外側に位置しており、作業領域で適切に作業を行うために使用される領域である。例えば、枕地領域は、圃場に進入したトラクタ1を作業領域での作業の開始位置に移動させるために使用される。更に、枕地領域は、作業領域を直進したトラクタ1を旋回させるためにも使用される。また、本実施形態では、作業領域だけでなく、枕地領域に対しても作業が行われる。具体的には、トラクタ1は、作業領域を走行して作業を行った後に、トラクタ1は枕地領域を走行して作業を行う。
【0049】
走行経路作成部35は、作業領域で作業を行うための走行経路を作成する。本実施形態において走行経路作成部35は、ユーザが無線通信端末46を用いて行った各種設定に基づいて、
図4に示す直線経路71及び旋回経路72を作成する。直線経路71は、圃場周縁及び作業領域周縁の一辺(短辺)に平行である。直線経路71の配置間隔は、作業幅W1からオーバーラップ量(隣接する作業範囲を車幅方向にどの程度重複させるかを示す長さ)を減算した値、又は、作業幅W1に作業間隔(隣接する作業範囲を車幅方向にどの程度の間隔を空けるかを示す長さ)を加算した値である。また、旋回経路72は、直線経路71同士を接続する経路である。本実施形態では、旋回経路72は、隣接する直線経路71同士を接続するが、離れた直線経路71同士を接続してもよい。また、本実施形態の旋回経路72は、90度の旋回を行った後に後退して、その後に前進に切り替えて再に90度の旋回を行ってトラクタ1を反転させることで、次の直線経路71に到達する経路である。しかし、この種の旋回経路72に代えて、180度の旋回を行うことでトラクタ1を反転させて次の直線経路71に到達する旋回経路を作成してもよい。このようにして作成された走行経路は、無線通信端末46に記憶される。
【0050】
ユーザは、無線通信端末46を適宜操作して、走行経路作成部35が作成した走行経路の情報をトラクタ1の制御部4に入力(転送)する。その後、ユーザはトラクタ1を走行させて、トラクタ1を走行経路の開始位置に配置する。続いて、ユーザが無線通信端末46を操作し、自律走行の開始を指示する。これにより、トラクタ1が直線経路71及び旋回経路72に沿って走行しながら作業を行う。
【0051】
基準補助線作成部36及び隣接補助線作成部37は、枕地領域で自律走行を行うための補助線を作成する処理を行う。ユーザが無線通信端末46に所定の操作を行うことで、トラクタ1が補助線に沿うように自律走行する。なお、本実施形態では、枕地領域上での旋回及び作業機3の駆動と停止の切替え等は、ユーザが操作する構成であり、トラクタ1が自律的には行わない。また、これらの処理をトラクタ1が自律的に行う構成であってもよい。なお、補助線選択部38及び選択処理部39が行う処理については後述する。
【0052】
以下、基準補助線作成部36及び隣接補助線作成部37が作成する補助線について詳細に説明する。基準補助線作成部36及び隣接補助線作成部37は、ユーザの指示等に応じて、2種類の補助線を作成可能である。第1の補助線は、作業残りを無くすことが要求される作業(例えば耕耘)を枕地領域に行う場合の補助線である。第2の補助線は、作業残りが発生したとしても作業ピッチを一定にしたい作業(播種、畝立て等)を枕地領域に行う場合の補助線である。
【0053】
初めに、
図5から
図7を参照して、第1の補助線の作成方法について説明する。
図5に示すように、第1の補助線は、第1基準補助線81と、第1隣接補助線82と、を含む。
【0054】
初めに、圃場取得部34は、第1の補助線を作成する圃場の情報を取得する(S101)。ここで取得される情報は、例えば、圃場、作業領域、及び枕地領域の周縁(輪郭)の位置が含まれている。
【0055】
次に、基準補助線作成部36は、圃場周縁(圃場の外周の輪郭を構成する各辺)を第1基準間隔T1だけ内側に離間して(オフセットして)、第1基準補助線81を作成する(S102)。そのため、第1基準補助線81は、圃場周縁と平行(基本的には作業領域周縁とも平行)である。また、圃場周縁のそれぞれの辺に対して第1基準補助線81が作成されるので、圃場が四角形の場合は4つの第1基準補助線81が作成される。また、第1基準間隔T1は、
図7に示すように、作業幅W1の1/2、又は、作業機幅W2の1/2である。なお、作業幅W1と作業機幅W2のうち大きい方の1/2を第1基準間隔T1とすることが好ましい。これにより、第1基準補助線81に沿ってトラクタ1が走行した場合に圃場外に作業が行われることを防止したり、圃場外に作業機が出ることを防止したりすることができる。
【0056】
次に、隣接補助線作成部37は、第1基準補助線81を補助線間隔Sずつ内側に離間して(オフセットして)第1隣接補助線82を作成する(S103)。そのため、第1隣接補助線82は、第1基準補助線81と平行である。また、補助線間隔Sは、
図7に示すように、作業幅W1からオーバーラップ量Rを減算した値か、作業幅W1に作業間隔Dを加算した値である。なお、オーバーラップ量R及び作業間隔Dは、直線経路71の作成時に用いた値と同じであるが、異なっていてもよい。また、補助線間隔Sと作業幅W1が同じ値であってもよい(言い換えれば、オーバーラップ量R又は作業間隔Dがゼロであってもよい)。
【0057】
隣接補助線作成部37は、0、1、又は複数の第1隣接補助線82を作成する。具体的な作成数は以下のとおりである。即ち、圃場周縁の1辺についての第1の補助線の作成数(即ち、第1基準補助線81と第1隣接補助線82の作成数の合計)は、枕地幅L/補助線間隔Sの小数点以下を切り上げた値である。枕地幅Lは、圃場周縁から作業領域までの距離である。小数点以下を切り上げることで、枕地領域をもれなく作業することができる(作業幅W1の作業間隔Dを除く)。条件によっては、第1隣接補助線82は作業領域上に作成されることもある(この場合であっても、当該経路は枕地領域を作業するための経路である)。また、圃場周縁の辺によって枕地幅Lが異なる場合、辺によって第1の補助線の作成数が異なる場合もある。
【0058】
また、本実施形態では、第1基準補助線81及び第1隣接補助線82の端点を圃場周縁と一致させているが、圃場周縁とは異なる位置(例えば遠い位置)にこれらの端点を設定してもよい。つまり、トラクタ1の旋回はユーザの判断で開始するため、第1基準補助線81及び第1隣接補助線82が長くても問題とならない。
【0059】
次に、
図8から
図10を参照して、第2の補助線の作成方法について説明する。以下の説明では、第1の補助線の作成方法と共通する部分について、説明を簡略化又は省略することがある。
図8に示すように、第2の補助線は、第2基準補助線91と、第2隣接補助線92と、を含む。
【0060】
初めに、圃場取得部34は、第2の補助線を作成する圃場の情報を取得する(S201)。
【0061】
次に、基準補助線作成部36は、作業領域周縁を第2基準間隔T2だけ外側に離間して(オフセットして)、第2基準補助線91を作成する(S202)。そのため、第2基準補助線91は、作業領域周縁と平行(基本的には圃場周縁とも平行)である。また、作業領域周縁のそれぞれの辺に対して第2基準補助線91が作成される。また、第2基準間隔T2は、
図10に示すように、作業幅W1の1/2からオーバーラップ量Rを減算した値、又は、作業幅W1の1/2に作業間隔Dを加算した値である。これにより、作業領域の外側の適切な位置を起点として作業を開始できる。そのため、枕地領域を走行して作業を行っても、その作業は枕地領域のみに行われ、基本的には作業領域に進入することはない。
【0062】
次に、隣接補助線作成部37は、第2基準補助線91を補助線間隔Sずつ外側に離間して(オフセットして)第2隣接補助線92を作成する(S203)。そのため、第2隣接補助線92は、第2基準補助線91と平行である。
【0063】
隣接補助線作成部37は、0、1、又は複数の第2隣接補助線92を作成する。具体的な作成数は以下のとおりである。即ち、圃場周縁の1辺についての第2の補助線の作成数(即ち、第2基準補助線91と第2隣接補助線92の作成数の合計)は、枕地幅L/補助線間隔Sの小数点以下を切り捨てた値である。小数点以下を切り捨てることで、作業残りが発生する可能性はあるが、圃場外に作業が行われることを防止しつつ、作業ピッチを一定にすることができる。また、圃場周縁の辺によって枕地幅Lが異なる場合、辺によって第2の補助線の作成数が異なる場合もある。また、第2の補助線の長さについても、第1の補助線と同様に、適宜変更可能である。
【0064】
次に、隣接補助線作成部37は、最外周の第2隣接補助線92と圃場周縁の間隔Xが作業幅W1の1/2又は作業機幅W2の1/2よりも小さいか否かを判定する(S204)。ここで、間隔Xが作業幅W1の1/2よりも小さい場合は圃場外に作業が行われる可能性があり、間隔Xが作業機幅W2の1/2よりも小さい場合は圃場外に作業機3が出る可能性がある。従って、ステップS204でYesの場合は、隣接補助線作成部37は、この最外周の第2隣接補助線92を削除する(S205)。また、間隔Xが作業幅W1の1/2又は作業機幅W2の1/2の片方ではなく両方よりも小さいことを条件として設定することが好ましい。なお、ステップS204でNoの場合は最外周の第2隣接補助線92の削除を行わない。
【0065】
従って、最終的に作成される第2の補助線の作成数は、「枕地幅L/補助線間隔Sの小数点以下を切り捨てた値又は当該値から1を減算した値」である。また、本実施形態では、ステップS203の条件で第2隣接補助線92を作成した後に、ステップS204で最外周の第2隣接補助線92の削除の要否を判断する構成である。これに代えて、ステップS204の削除条件を満たす第2隣接補助線92を初めから作成しない構成でもよい(言い換えれば、ステップS204とS205に類似する処理をステップS203に入れ込んでもよい)。
【0066】
次に、補助線の平行移動について簡単に説明する。第1の補助線は圃場周縁を基準として作成されている。従って、例えば圃場周縁の位置が変化した場合、それに合わせて第1の補助線が平行移動する。また、第1の補助線は、圃場周縁の各辺に対応しているため、例えば圃場周縁の1つの辺の位置が変化した場合は、当該辺に対応する第1の補助線の位置を変化させる。なお、例えば枕地幅Lが更に変化する場合は、
図6の処理を再び行って、第1基準補助線81及び第1隣接補助線82を再作成する。
【0067】
また、第2の補助線は、基準となる線が圃場周縁ではなく作業領域周縁であることが異なるのみであり、作業領域周縁の位置が変化した場合は、第1の補助線と同様の処理が行われる。
【0068】
次に、
図11及び
図12を参照して、作業領域及び枕地領域での作業に関する処理の具体的な流れを説明する。
図11は、作業領域及び枕地領域での作業に関する処理を示すフローチャートである。
図12は、経路の作成後に無線通信端末46に表示される映像を示す図である。
【0069】
ユーザは、圃場の登録等の完了後、作業領域及び枕地領域での作業用の経路を作成するための情報(例えば、作業幅W1、作業機幅W2、作業機の種類、開始位置、及び終了位置等)を無線通信端末46に入力する。その後、走行経路作成部35により作業領域での作業用の走行経路が作成される(S301)。また、基準補助線作成部36及び隣接補助線作成部37により、枕地領域での作業用の補助線が作成される(S302)。なお、ステップS301及びS302の処理が事前に行われている場合、無線通信端末46は、ステップS301及びS302の処理を省略して、ステップS303の処理を初めに行う。
【0070】
ステップS302において、無線通信端末46は、第1の補助線及び第2の補助線の両方を作成する構成であってもよいし、何れか一方のみを作成する構成であってもよい。なお、何れか一方のみの補助線を作成する場合、作成する補助線を無線通信端末46(補助線選択部38)が選択してもよい。無線通信端末46は、事前に登録された作業機3の種類に合わせて、当該作業機3に適した方の補助線を作成する。例えば使用する作業機3が耕耘機の場合は、作業残りを無くすことが重要であるため、第1の補助線が選択されて作成される。一方、使用する作業機3が施肥機の場合は、作業残りが発生したとしても作業ピッチを一定することが重要であるため、第2の補助線が選択されて作成される。
【0071】
次に、無線通信端末46(表示制御部33)は、
図12に示すように、作業領域での作業用の走行経路(直線経路71及び旋回経路72)、及び、枕地領域での作業用の補助線(第1基準補助線81及び第1隣接補助線82)をディスプレイ31に表示する(S303)。無線通信端末46は、例えばステップS302において、第1の補助線及び第2の補助線の両方を作成した場合は、何れか一方又は両方の補助線をディスプレイ31に表示する。また、何れか一方の補助線を表示する場合、上記と同様に、表示する補助線を補助線選択部38が選択してもよい。
【0072】
更に、無線通信端末46(選択処理部39)は、「作業領域」及び「枕地領域」での何れの領域で作業を行うかをユーザに問い合わせる画面を表示し、ユーザによる選択を受け付ける(S303)。この画面の表示態様は様々であるが、例えば
図12のようにディスプレイ31に図として表示されている領域(又は領域上の走行経路又は補助線)をユーザに選択させる構成であってもよいし、文字で「作業領域」、「枕地領域」等と表示されている項目をユーザに選択させる構成であってもよい。ユーザは、作業領域での作業が完了していない場合は、「作業領域」を選択する。一方、ユーザは、作業領域での作業が既に完了している場合は、「枕地領域」を選択する。
【0073】
無線通信端末46は、「作業領域」がユーザによって選択されたと判断した場合(ステップS304でYesの場合)、作業領域での作業を実行する(S305)。具体的には、作成済みの走行経路(直線経路71及び旋回経路72)に沿った自律走行をトラクタ1(走行制御部4a)に指示する。なお、作業領域での作業を行う場合、ユーザがトラクタ1に搭乗する有人モードかユーザがトラクタ1に搭乗しない無人モードかを更に選択できる構成であってもよい。
【0074】
作業領域での作業の完了後、無線通信端末46(選択処理部39)は、「枕地領域での作業」と「作業終了」の何れかをユーザに選択させる画面を表示して、ユーザの選択を受け付ける(S306)。ユーザは、枕地領域での作業を現在行うことを希望する場合は、「枕地領域での作業」を選択する。一方、ユーザは、枕地領域での作業を後から行うことを希望する場合又は枕地領域での作業自体が不要である場合は、「作業終了」を選択する。
【0075】
無線通信端末46は、「枕地領域での作業」が選択されたと判断した場合(ステップS307でYesの場合)、枕地領域での作業を実行する(S308)。また、無線通信端末46は、ステップS304において「枕地領域」が選択された場合(即ち、「作業領域」が選択されなかった場合、ステップS304でNoの場合)も同様に、枕地領域での作業を実行する(S308)。具体的には、作成済みの第1の補助線(第1基準補助線81及び第1隣接補助線82)又は第2の補助線(第2基準補助線91又は第2隣接補助線92)に沿った自律走行をトラクタ1(走行制御部4a)に指示する。無線通信端末46は、例えばステップS302において、第1の補助線及び第2の補助線の両方を作成した場合は、上記と同様に、枕地領域での作業で用いる補助線を補助線選択部38が選択してもよい。あるいは、第1の補助線及び第2の補助線の何れで作業を行うかをユーザに選択させてもよい。この場合、タッチパネル32等に対するユーザの操作に応じて、補助線選択部38が何れかの補助線を選択する処理を行う。
【0076】
枕地領域での作業が終了した場合、及び、ステップS307で「作業終了」が選択された場合、トラクタ1による圃場での作業が終了(中断)する。
【0077】
次に、
図13及び
図14を参照して、走行経路及び補助線の無線通信端末46への表示について説明する。なお、以下の説明では、第1の補助線及び第2の補助線を補助線と総称する。
【0078】
図13に示すように、トラクタ1が走行経路に沿って自律走行を行っている場合は、補助線よりも走行経路が目立つように走行経路及び補助線を表示する。
図13に示す例では、線幅を太くすることで走行経路を目立つようにしているが、色を異ならせたり、線種(実線、破線、鎖線)を異ならせたりしてもよい。一方、トラクタ1が補助線に沿って自律走行を行っている場合は、
図14に示すように、走行経路よりも補助線が目立つように走行経路及び補助線を表示する。なお、トラクタ1が走行を行っていない場合においても、走行経路と補助線とで表示態様を異ならせてもよい。これにより、ユーザが経路を確認し易くなる。
【0079】
以上に説明したように、本実施形態の自律走行システム100は、圃場取得部34と、基準補助線作成部36と、隣接補助線作成部37と、走行制御部4aと、を備える。圃場取得部34は、作業機3が装着されたトラクタ1で自律走行を行って作業を行うための走行経路が設定される作業領域、及び、作業領域と圃場周縁の間に形成された枕地領域を有する圃場の情報を取得する。基準補助線作成部36は、作業幅W1の1/2又は作業機幅W2の1/2である第1基準間隔T1だけ、圃場周縁を内側に離間した位置の枕地領域内に第1基準補助線81を作成する。隣接補助線作成部37は、作業幅W1からオーバーラップ量Rを減算した値、又は、作業幅W1に作業間隔Dを加算した値である補助線間隔Sずつ、第1基準補助線81を内側に離間した位置に第1隣接補助線82を作成する。圃場周縁の所定の一辺の内側に作成される第1基準補助線81と第1隣接補助線82の合計の数は、枕地幅L/補助線間隔Sの小数点以下を切り上げた値である。走行制御部4aは、第1基準補助線81及び第1隣接補助線82の少なくとも一部に沿ってトラクタ1を自律走行させる。
【0080】
これにより、圃場周縁を基準とした第1の補助線を作成して当該第1の補助線に沿ってトラクタ1を自律走行させることで、枕地領域に作業残りが発生することを防止できる。
【0081】
また、本実施形態の自律走行システム100は、圃場取得部34と、基準補助線作成部36と、隣接補助線作成部37と、走行制御部4aと、を備える。圃場取得部34は、作業機3が装着されたトラクタ1で自律走行を行って作業を行うための走行経路が設定される作業領域、及び、作業領域と圃場周縁の間に形成された枕地領域を有する圃場の情報を取得する。基準補助線作成部36は、作業幅W1の1/2からオーバーラップ量Rを減算した値、又は、作業幅W1の1/2に作業間隔Dを加算した値である第2基準間隔T2だけ、作業領域周縁を外側に離間した位置の枕地領域内に第2基準補助線91を作成する。隣接補助線作成部37は、作業幅W1からオーバーラップ量Rを減算した値、又は、作業幅W1に作業間隔Dを加算した値である補助線間隔Sずつ、第2基準補助線91を外側に離間した位置に第2隣接補助線92を作成する。作業領域周縁の所定の一辺の外側に作成される第2基準補助線91と第2隣接補助線92の合計の数は、枕地幅L/補助線間隔Sの小数点以下を切り捨てた値又は当該値から1を減算した値である。走行制御部4aは、第2基準補助線91及び第2隣接補助線92の少なくとも一部に沿ってトラクタ1を自律走行させる。
【0082】
これにより、作業領域周縁を基準とした第2の補助線を作成して当該補助線に沿ってトラクタ1を自律走行させることで、枕地領域の作業ピッチを一定にすることができる。
【0083】
また、本実施形態の自律走行システム100において、基準補助線作成部36は、第1基準補助線81を作成可能であるとともに、第2基準補助線91を作成可能である。隣接補助線作成部37は、第1隣接補助線82を作成可能であるとともに、第2隣接補助線92を作成可能である。また、自律走行システム100は、第1基準補助線81及び第1隣接補助線82を選択するか、あるいは、第2基準補助線91及び第2隣接補助線92を選択する補助線選択部38を更に備える。走行制御部4aは、補助線選択部38が選択した補助線の少なくとも一部に沿ってトラクタ1を自律走行させる。
【0084】
これにより、圃場周縁を基準とした第1の補助線か、作業領域周縁を基準とした第2の補助線の何れかに基づいて枕地領域においてトラクタ1を自律走行させることができる。
【0085】
また、本実施形態の自律走行システム100において、隣接補助線作成部37は、第2隣接補助線92と圃場周縁との間隔Xが作業幅W1の1/2又は作業機幅W2の1/2より小さい場合は、当該第2隣接補助線92を作成しない又は作成後に削除することが好ましい。
【0086】
これにより、圃場周縁に作業機3が接触する経路又は圃場外側に作業が行われる経路が作成されることを防止できる。
【0087】
また、本実施形態の自律走行システム100は、作業領域及び枕地領域の何れでの作業を行うかをユーザに選択させる処理(S303)、及び、枕地領域での作業を行うか作業を終了するかの何れかをユーザに選択させる処理(S306)を行う選択処理部39を備える。枕地領域での作業をユーザが選択したと判断した場合に、走行制御部4aは、基準補助線作成部36及び隣接補助線作成部37が作成した補助線の少なくとも一部に沿ってトラクタ1を自律走行させる。
【0088】
これにより、ユーザは簡単な操作を行うことで、枕地領域における自律走行をトラクタ1に行わせることができる。
【0089】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0090】
上記実施形態の無線通信端末46は、第1の補助線と第2の補助線の両方を作成する機能を有するが、何れか一方のみの機能を有する構成であってもよい。
【0091】
上記実施形態では、第1の補助線又は第2の補助線の何れかを用いて枕地領域での作業を行う。これに代えて、別の方法で作成した補助線(例えば圃場周縁と作業領域周縁を等分するように引いた補助線)を用いて枕地領域での作業を行わせることもできる。そのため、枕地作業用の様々な補助線を用いて、
図11に示す各ステップの処理を無線通信端末46に行わせることができる。また、選択処理部39は、ステップS303とステップS306の何れか一方のみの処理を行う構成であってもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 トラクタ(作業車両)
34 圃場取得部
35 走行経路作成部
36 基準補助線作成部(補助線作成部)
37 隣接補助線作成部(補助線作成部)
38 補助線選択部
39 選択処理部
46 無線通信端末