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特許7049052真空ポンプ、および真空ポンプに備わる固定円板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】真空ポンプ、および真空ポンプに備わる固定円板
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20220330BHJP
【FI】
F04D19/04 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2016188362
(22)【出願日】2016-09-27
(65)【公開番号】P2018053752
(43)【公開日】2018-04-05
【審査請求日】2019-07-17
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091225
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 均
(74)【代理人】
【識別番号】100096655
【弁理士】
【氏名又は名称】川井 隆
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 剛志
【合議体】
【審判長】佐々木 芳枝
【審判官】田合 弘幸
【審判官】関口 哲生
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-505012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口と排気口が形成された外装体と、
前記外装体に内包され、回転自在に支持された回転軸と、
前記回転軸または前記回転軸に配設された回転円筒体の外周面に、少なくとも1つのスリットが設けられ、らせん状に配設されたらせん状板と、
前記らせん状板の前記スリット内に、当該スリットと所定の間隔を設けて配置され、貫通した穴部を有する固定円板と、
前記固定円板を固定するスペーサ部と、
前記らせん状板と前記固定円板との相互作用により前記吸気口側から吸気した気体を前記排気口側へ移送する真空排気機構と、
を備える真空ポンプであって、
前記穴部は、少なくとも前記固定円板の外周側の領域と内周側の領域とに配設され、
前記外周側の領域:前記内周側の領域は、半径方向断面比で1:2であり、
前記外周側の領域の外周側開口率が前記内周側の領域の内周側開口率よりも高く、
前記外周側開口率と前記内周側開口率が式1の関係にあることを特徴とする真空ポンプ。
前記外周側開口率/前記内周側開口率≧2・・・・式1
【請求項2】
前記穴部は、略同径形状を有する丸孔であり、
前記固定円板において前記内周側の領域よりも前記外周側の領域に多くの当該丸孔が前記固定円板の仮想中心を中心にして並列配設されることで前記固定円板における前記外周側開口率が前記内周側開口率よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記穴部は、略同径形状を有する丸孔および細長い形状の長孔であり、
前記固定円板において、前記内周側の領域には当該丸孔が、かつ、前記外周側の領域には当該長孔が半径方向に並列配設されることで前記固定円板における前記外周側開口率が前記内周側開口率よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記穴部は、前記固定円板の外周側に円周方向に沿って伸びる細長い形状の外周側長孔と前記外周側長孔よりも内周側に半径方向に沿って伸びる細長い形状の内周側長孔とが、略T字を象るように連結することで形成されるT字孔であり、
前記固定円板において、当該T字孔が円周方向に並列配設されることで前記固定円板における前記外周側開口率が前記内周側開口率よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記穴部は、前記固定円板の外周側に円周方向に沿って伸びる細長い形状の外周側長孔と前記外周側長孔よりも内周側に半径方向に沿って伸びる細長い形状の内周側長孔とが、略L字を象るように連結することで形成されるL字孔であり、
前記固定円板において、当該L字孔が円周方向に並列配設されることで前記固定円板における前記外周側開口率が前記内周側開口率よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記内周側長孔は、前記固定円板の半径方向と所定の傾斜角を有することを特徴とする請求項5に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記傾斜角は、隣接する前記内周側長孔に囲まれた内周肉部の中心と、隣接する前記外周側長孔に囲まれた外周肉部の中心とが、前記穴部を介さずに前記固定円板の半径方向の仮想直線上に並ぶようにして定められる角度であることを特徴とする請求項6に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記固定円板は、内周側に配置された前記穴部のうち少なくとも1つの穴部が分割される位置で直径方向に分割され、当該分割された内周側の穴部の分割部分には間隙が形成されることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項9】
前記固定円板は、前記穴部を含まない当該固定円板上に、内周側から外周側への最短経路となる熱の通り道が少なくとも1箇所形成されることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項10】
前記請求項1から請求項9の少なくとも1項に記載の真空ポンプに備わる固定円板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ、および真空ポンプに備わる固定円板に関する。
詳しくは、らせん状板を備える真空ポンプのらせん状板が、局所的に高圧になるのを緩和する真空ポンプ、および真空ポンプに備わる固定円板に関する。
【背景技術】
【0002】
配設される真空室内の真空排気処理を行うための真空ポンプには、回転部と固定部から構成され排気機能を発揮させる構造物である気体移送機構が収納されている。この気体移送機構のうち、回転部に配設されるらせん状板と、固定部に配設される固定円板との相互作用によってガスを圧縮する構成のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2015-505012号
【0004】
特許文献1には、真空ポンプの回転円筒の側面にらせん状板(螺旋翼30など)が設置され、当該らせん状板において少なくとも1つ設けられたスロット40(本願の説明ではスリットと称する構成)内に、アレイ状の穴部(穿孔38など)が設けられた固定円板(有孔交差要素14など)が配設される技術について記載されている。
図9は、上述したような従来の真空ポンプに配設される固定円板の一例である固定円板1010を説明するための図である。図9に示したように、従来の真空ポンプでは、らせん状板と穴部1020が千鳥配置で設けられた固定円板1010との相互作用(A)、および、らせん状板とケーシングとの相互作用(B)により、排気作用を生じさせていた。
圧縮されるガスは、穴部1020の比率(固定円板における穴部が占める割合)が大きければ大きいほど、気体移送機構を通り抜けやすくなるが、一方で、排気作用は小さくなる。そのため、穴部1020の比率は、排気するガスの圧力に応じて(例えば、内周側から外周側に向かって穴の大きさを徐々に大きく設計するなどして)設定されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような構造の真空ポンプでは、上述した相互作用(A)および(B)の両方が同時に発生するらせん状板の先端(外周側)付近では、特に、ガスを圧縮する作用が非常に強くなる。
その結果、らせん状板の先端付近には、局所的に高圧となる部分(固定円板のスリットの上部など)が生じてしまっていた。
そのため、ガスが蒸気圧を超えて、液化または固化することで生成された反応生成物が、真空ポンプ内に堆積する虞があった。
【0006】
本発明は、らせん状板を備える真空ポンプのらせん状板が、局所的に高圧になるのを緩和する真空ポンプ、および真空ポンプに備わる固定円板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本願発明では、吸気口と排気口が形成された外装体と、前記外装体に内包され、回転自在に支持された回転軸と、前記回転軸または前記回転軸に配設された回転円筒体の外周面に、少なくとも1つのスリットが設けられ、らせん状に配設されたらせん状板と、前記らせん状板の前記スリット内に、当該スリットと所定の間隔を設けて配置され、貫通した穴部を有する固定円板と、前記固定円板を固定するスペーサ部と、前記らせん状板と前記固定円板との相互作用により前記吸気口側から吸気した気体を前記排気口側へ移送する真空排気機構と、を備える真空ポンプであって、前記穴部は、少なくとも前記固定円板の外周側の領域と内周側の領域とに配設され、前記外周側の領域:前記内周側の領域は、半径方向断面比で1:2であり、前記外周側の領域の外周側開口率が前記内周側の領域の内周側開口率よりも高く、前記外周側開口率と前記内周側開口率が式1の関係にあることを特徴とする真空ポンプを提供する。
前記外周側開口率/前記内周側開口率≧2・・・・式1
請求項2記載の本願発明では、前記穴部は、略同径形状を有する丸孔であり、前記固定円板において前記内周側の領域よりも前記外周側の領域に多くの当該丸孔が前記固定円板の仮想中心を中心にして並列配設されることで前記固定円板における前記外周側開口率が前記内周側開口率よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプを提供する。
請求項3記載の本願発明では、前記穴部は、略同径形状を有する丸孔および細長い形状の長孔であり、前記固定円板において、前記内周側の領域には当該丸孔が、かつ、前記外周側の領域には当該長孔が半径方向に並列配設されることで前記固定円板における前記外周側開口率が前記内周側開口率よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプを提供する。
請求項4記載の本願発明では、前記穴部は、前記固定円板の外周側に円周方向に沿って伸びる細長い形状の外周側長孔と前記外周側長孔よりも内周側に半径方向に沿って伸びる細長い形状の内周側長孔とが、略T字を象るように連結することで形成されるT字孔であり、前記固定円板において、当該T字孔が円周方向に並列配設されることで前記固定円板における前記外周側開口率が前記内周側開口率よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプを提供する。
請求項5記載の本願発明では、前記穴部は、前記固定円板の外周側に円周方向に沿って伸びる細長い形状の外周側長孔と前記外周側長孔よりも内周側に半径方向に沿って伸びる細長い形状の内周側長孔とが、略L字を象るように連結することで形成されるL字孔であり、前記固定円板において、当該L字孔が円周方向に並列配設されることで前記固定円板における前記外周側開口率が前記内周側開口率よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプを提供する。
請求項6記載の本願発明では、前記内周側長孔は、前記固定円板の半径方向と所定の傾斜角を有することを特徴とする請求項5に記載の真空ポンプを提供する。
請求項7記載の本願発明では、前記傾斜角は、隣接する前記内周側長孔に囲まれた内周肉部の中心と、隣接する前記外周側長孔に囲まれた外周肉部の中心とが、前記穴部を介さずに前記固定円板の半径方向の仮想直線上に並ぶようにして定められる角度であることを特徴とする請求項6に記載の真空ポンプを提供する。
請求項8記載の本願発明では、前記固定円板は、内周側に配置された前記穴部のうち少なくとも1つの穴部が分割される位置で直径方向に分割され、当該分割された内周側の穴部の分割部分には間隙が形成されることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の真空ポンプを提供する。
請求項9記載の本願発明では、前記固定円板は、前記穴部を含まない当該固定円板上に、内周側から外周側への最短経路となる熱の通り道が少なくとも1箇所形成されることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の真空ポンプを提供する。
請求項10記載の本願発明では、前記請求項1から請求項9の少なくとも1項に記載の真空ポンプに備わる固定円板を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、真空ポンプに配設されるらせん状板の先端付近において、局所的に高圧になる部分が生じるのを緩和することができる。そのため、高圧によって液化または固化するガスの反応生成物が堆積するのを低減することができるので、真空ポンプのメンテナンスサイクルを延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る真空ポンプの概略構成例を示した図である。
図2】本発明の実施形態(実施例1)に係る固定円板を説明するための図である。
図3】本発明の実施形態(実施例2)に係る固定円板を説明するための図である。
図4】本発明の実施形態(実施例3)に係る固定円板を説明するための図である。
図5】本発明の実施形態(実施例4)に係る固定円板を説明するための図である。
図6】本発明の実施形態(実施例5)に係る固定円板を説明するための図である。
図7】本発明の実施形態(実施例6)に係る固定円板を説明するための図である。
図8】本発明の実施形態(実施例7)に係る複合型真空ポンプの概略構成例を示した図である。
図9】従来技術を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(i)実施形態の概要
本発明の実施形態に係る真空ポンプでは、固定円板に複数の穴部を形成し、さらに、固定円板における先端(外周側/外周部)の穴の比率を局所的に大きく(高く)する。つまり、外周側の開口率を大きくする。
より詳しくは、以下(1)から(4)のいずれかの構成を備える。
(1)同じ大きさの穴部(略丸穴)を、固定円板の内周側から外周側へ波紋状に配設し、かつ、最も外側の列に配設される穴部の数を、内側の列よりも多くする。
(2)同じ大きさの穴部を、固定円板の内周側から外周側へ波紋状に配設し、かつ、最も外側の列に配設される穴部のいくつかを統合して一つの穴部(長穴)とする。
(3)固定円板にT字型の穴部を配設する。
(4)固定円板にL字型の穴部を配設する。
【0011】
上述した構成により、らせん状板の先端付近に高圧となる部分が生じ難くなるので、液化または固化したガスによる反応生成物が真空ポンプ内に堆積してしまうのを低減することができる。
【0012】
(ii)実施形態の詳細
以下、本発明の好適な実施の形態について、図1から図8を参照して詳細に説明する。
(真空ポンプ1の構成)
図1は、本発明の実施形態に係る真空ポンプ1の概略構成例を示した図であり、真空ポンプ1の軸線方向の断面図を示している。
なお、本発明の実施形態では、便宜上、回転翼の直径方向を「径(直径・半径)方向」、回転翼の直径方向と垂直な方向を「軸線方向(または軸方向)」として説明する。
真空ポンプ1の外装体を形成するケーシング(外筒)2は、略円筒状の形状をしており、ケーシング2の下部(排気口6側)に設けられたベース3と共に真空ポンプ1の筐体を構成している。そして、この筐体の内部には、真空ポンプ1に排気機能を発揮させる構造物である気体移送機構が収納されている。
本実施形態では、この気体移送機構は、大きく分けて、回転自在に支持された回転部(ロータ部)と、筐体に対して固定された固定部(ステータ部)から構成されている。
また、図示しないが、真空ポンプ1の外装体の外部には、真空ポンプ1の動作を制御する制御装置が専用線を介して接続されている。
【0013】
ケーシング2の端部には、当該真空ポンプ1へ気体を導入するための吸気口4が形成されている。また、ケーシング2の吸気口4側の端面には、外周側へ張り出したフランジ部5が形成されている。
また、ベース3には、当該真空ポンプ1から気体を排気するための排気口6が形成されている。
【0014】
気体移送機構のうち回転部は、回転軸であるシャフト7、このシャフト7に配設されたロータ8、ロータ8に設けられた複数枚のらせん状板9を備える。
各らせん状板9は、シャフト7の軸線に対して放射状に伸び、かつ、螺旋流路を形成するように伸びたらせん状の円板部材により構成される。
【0015】
シャフト7の軸線方向中程には、シャフト7を高速回転させるためのモータ部20が設けられ、ステータコラム80に内包されている。
さらに、ステータコラム80内には、シャフト7のモータ部20に対して吸気口4側と排気口6側に、シャフト7をラジアル方向(径方向)に非接触で支持するための径方向磁気軸受装置30、31が設けられている。また、シャフト7の下端には、シャフト7を軸線方向(アキシャル方向)に非接触で支持するための軸方向磁気軸受装置40が設けられている。
【0016】
気体移送機構のうち固定部は、筐体(ケーシング2)の内周側に形成されている。
この固定部には、円筒形状をしたスペーサ70により互いに隔てられて固定されている固定円板10が配設されている。
固定円板10は、シャフト7の軸線に対して垂直に放射状に伸びた円板形状をした板状部材である。本実施形態では、半円形状(不完全な円形状)の部材を接合することにより円形形状に形成され、ケーシング2の内周側において、らせん状板9と互い違いに、軸線方向に複数段配設されている。
なお、段数については、真空ポンプ1に要求される排出性能(排気性能)を満たすために必要な任意の数の固定円板10および(あるいは)らせん状板9を設ける構成にすればよい。
本実施形態では、固定円板10に穴部(孔部)が設けられる。なお、本実施形態の以下の説明では、貫通している孔を穴部と称し、穴部の詳細については後述する。
【0017】
スペーサ70は、円筒形状をした固定部材であり、各段の固定円板10は、このスペーサ70によって互いに隔てられて固定される。
このような構成により、真空ポンプ1は、真空ポンプ1に配設される真空室(図示しない)内の真空排気処理を行う。
【0018】
(実施例1)
上述した真空ポンプ1に配設される固定円板10について図2を用いて説明する。
図2は、本実施形態の実施例1に係る固定円板10を説明するための図である。
ここで、以下説明する実施形態の実施例1では、固定円板10の肉部200における、外周側の円周面をエリアA、そして内周側の円周面をエリアBとする。また、後に続く実施例2から実施例6についても同様とする。
なお、本実施形態(実施例1から実施例6)では、エリアA:エリアBは、半径方向断面比で1:2とするが、これに限られることはない。エリアAの方がエリアBよりも小さい範囲内で、適宜、比率の設定が可能である。
図2に示したように、固定円板10は、略同じ大きさであり略丸い形状をした穴部100を有する。なお、穴部100が形成されていない固定円板10の実部を肉部200と称する。
固定円板10上に形成される穴部100は、最も外側(外周側)であるエリアAに配設される外周側穴部101と、内側(内周側)であるエリアBに配設される内周側穴部102aおよび内周側穴部102bにより構成される。なお、内周側穴部102aおよび内周側穴部102bを特に区別しない場合は、内周側穴部102と称して説明する。
より詳しくは、複数の穴部100が、固定円板10の内周側から外周側へ、固定円板10の仮想中心を中心にして並列配置され、かつ、エリアA内にはエリアB内よりも多く配置される。すなわち、穴部100の配列は千鳥配置とはしない。
この構成により、固定円板10の半径方向外側(エリアA)では、肉部200に対する穴部100の比率を急激に(局所的に)大きくすることができる。すなわち、外周側の開口率を内周側よりも高くすることができる。換言すれば、固定円板10の外周側のみ開口率を大きくすることができる。
なお、本実施例1では、内周側の開口率と外周側の開口率を1:3としたが、これに限られることはない。開口率の比率としては、1:2から1:9程度が望ましい。
【0019】
上述した実施例1の構成により、固定円板10の外周側の開口率を内周側よりも大きくすることができるため、固定円板10を配設した真空ポンプ1を稼働した際の、らせん状板9の外径側である先端付近が局所的に高圧になる現象を起こりにくくすることができる。
また、半径方向に穴部100を並列させることにより、肉部200における熱の通り道を最短距離にすることができるため、固定円板10において強度を保ちつつ、固定円板10にたまった熱を、スペーサ70を通じ外部へ放熱しやすくすることができる。
【0020】
(実施例2)
上述した真空ポンプ1に配設される固定円板10の変形例である実施例2について図3を用いて説明する。
図3は、本実施形態の実施例2に係る固定円板11を説明するための図である。
図3に示したように、固定円板11は、実施例1の穴部100に相当する略丸い形状をした丸穴部と、丸穴部のいくつかを統合して1つの穴部とした、細長い形状の長穴部からなる穴部110を有する。
より詳しくは、固定円板11上には、最も外周側であるエリアAに長径と短径を有する長穴あるいは楕円形状をした穴である外周側穴部111が形成される。そして、エリアAよりも内周側であるエリアBには、略同じ大きさで略丸い形状をした内周側穴部112aおよび内周側穴部112bが形成される。なお、内周側穴部112aおよび内周側穴部112bを特に区別しない場合は、内周側穴部112と称して説明する。
また、穴部110は、固定円板11において、固定円板11の仮想中心を中心として内周側から外周側へ、内周側穴部112、外周側穴部111の順で波紋状に複数並列配設される。
この外周側穴部111を有する構成により、固定円板11の半径方向外側(エリアA)では、肉部200に対する穴部110の比率を局所的に大きくすることができる。すなわち、外周側の開口率を内周側よりも急激に増加させることができる。
【0021】
上述した実施例2の構成により、固定円板11の外周側の開口率を局所的に大きくすることができるため、固定円板11を配設した真空ポンプ1を稼働した際の、らせん状板9の外径側である先端付近が局所的に高圧になる現象を起こりにくくすることができる。
また、穴部110は、固定円板11の内周側から内周側穴部112、外周側穴部111の順で半径方向に並列して配置させることにより、肉部200が半径方向で連続し、肉部200における熱の通り道を最短距離にすることができるため、固定円板11において強度を保ちつつ、固定円板11にたまった熱を、スペーサ70を通じ外部へ放熱しやすくすることができる。
【0022】
(実施例3)
上述した真空ポンプ1に配設される固定円板11の変形例である実施例3について図4を用いて説明する。
図4は、本実施形態の実施例3に係る固定円板12を説明するための図である。
図4に示したように、固定円板12は、実施例2の外周側穴部111に相当する長穴部と、実施例2の内周側穴部112(a、b)を半径方向に連結(結合)させるなどして形成される長穴部とが、T字を象るように組み合わされた(連結された)T字穴部120を有する。
より詳しくは、固定円板12上には、外周側に、外周方向に伸びる長径と半径方向に伸びる短径を有する長穴あるいは楕円形状をした穴である外周側穴部121が形成される。かつ、外周側穴部121よりも内周側に、半径方向に伸びる長径を有する長穴あるいは楕円形状をした穴である内周側穴部122が形成される。そして、外周側穴部121と内周側穴部122は、外周側穴部121の長径方向の略中心部で繋がる構成にすることで、T字穴部120が形成される。
また、T字穴部120は、固定円板12において、固定円板12の仮想中心を中心として内周側から外周側へ、内周側穴部122、外周側穴部121の順に配設される。また、好ましくは複数のT字穴部120が円周方向に並列配設される。
このT字穴部120を有する構成により、固定円板12は、半径方向外側における肉部200に対する穴部の比率を急激に大きくすることができる。
【0023】
上述した実施例3の構成により、固定円板12の外周側の開口率を局所的に大きくすることができるため、固定円板12を配設した真空ポンプ1を稼働した際の、らせん状板9の外径側である先端付近が局所的に高圧になる現象を起こりにくくすることができる。
また、T字穴部120は、固定円板12の内周側から内周側穴部122、外周側穴部121の順で半径方向に配置させることにより、肉部200が半径方向で連続し、肉部200における熱の通り道を最短距離にすることができるため、固定円板12において強度を保ちつつ、固定円板12にたまった熱を、スペーサ70を通じ外部へ放熱しやすくすることができる。
【0024】
(実施例4)
上述した真空ポンプ1に配設される固定円板12の変形例(実施例4)について図5を用いて説明する。
図5は、本実施形態の実施例4に係る固定円板13を説明するための図である。
図5に示したように、固定円板13は、実施例3の外周側穴部121および内周側穴部122に相当する長径と短径を有する長穴あるいは楕円形状をした穴である2つの長穴部が、L字を象るように組み合わされたL字穴部130を有する。
より詳しくは、固定円板13には、外周側に、外周方向に伸びる長径と半径方向に伸びる短径を有する長穴あるいは楕円形状をした穴である外周側穴部131が形成される。かつ、外周側穴部131よりも内周側に、半径方向に伸びる長径を有する長穴あるいは楕円形状をした穴である内周側穴部132が形成される。そして、外周側穴部131と内周側穴部132とは、外周側穴部131の長径方向端部のいずれか一方で繋がる構成にすることで、固定円板13上にL字穴部130が形成される。
さらに、本実施例4では、内周側穴部132を固定円板13の半径方向に対して斜めに配置させることが好ましい。つまり、内周側穴部132の長辺方向と半径方向とが所定の傾斜角度(90度未満)を有するようにL字穴部130を構成する。
また、L字穴部130は、固定円板13において、固定円板13の仮想中心を中心として内周側から外周側へ、内周側穴部132、外周側穴部131の順に配設される。また、好ましくは複数のL字穴部130が円周方向に並列配設される。
このL字穴部130を有する構成により、固定円板13は、半径方向外側における肉部200に対する穴部の比率を急激に大きくすることができる。
【0025】
上述した実施例4の構成により、固定円板13の外周側の開口率を局所的に大きくすることができるため、固定円板13を配設した真空ポンプ1を稼働した際の、らせん状板9の外径側である先端付近が局所的に高圧になる現象を起こりにくくすることができる。
また、L字穴部130は、固定円板13の内周側から内周側穴部132、外周側穴部131の順で半径方向に配置させることにより、肉部200が半径方向で連続し、肉部200における熱の通り道を最短距離にすることができるため、固定円板13において強度を保ちつつ、固定円板13にたまった熱を、スペーサ70を通じ外部へ放熱しやすくすることができる。
さらに、L字穴部130における内周側穴部132を固定円板13の半径方向に対して斜めに配置するので、らせん状板9がL字穴部130を通過するタイミングを、内周側と外周側とでずらすこと(一致させない構成にすること)ができる。その結果、圧力変動を緩和する可能性が高まる。
【0026】
(実施例5)
次に、上述した固定円板13(実施例4)の変形例である実施例5について図6を用いて説明する。
図6は、本実施形態の実施例5に係る固定円板14を説明するための図である。
図6に示したように、固定円板14には、実施例4のL字穴部130の構成と基本構造を同じくするL字穴部140が形成される。つまり、L字穴部140は、外周側に外周側穴部141を、かつ、外周側穴部141よりも内周側に内周側穴部142を有し、外周側穴部141の長径方向の端部どちらかで両者が繋がる構成を有する。
ここで、実施例5では、固定円板14の肉部200のうち、隣接するL字穴部140の内周側穴部142同士に囲まれた部分を内周側実部146とする。また、固定円板14の肉部200のうち、隣接するL字穴部140の外周側穴部141同士に囲まれた部分を保持部145とする。
そして、固定円板14では、L字穴部140は、内周側実部146の中心O2と保持部145の中心O1が、固定円板14の半径方向の仮想直線上に並ぶように、内周側穴部142の長辺方向と固定円板14の半径方向との傾斜角度(傾斜角θ)が定められる。より詳しくは、固定円板14に配設するL字穴部140の数、保持部145の円周方向の幅、そして内周側実部146の半径方向の長さなどにより傾斜角θを定める。
【0027】
上述した構成により、実施例5に係る固定円板14では、実施例4で述べた効果に加え、ガス負荷の変動などで、固定円板14に荷重がかかった際にも、固定円板14がねじれるように変形してしまうのを低減することができる。
その結果、らせん状板9と固定円板14とが接触するリスクを軽減することができる。
【0028】
(実施例6)
上述した固定円板(10、11、12、13、14)の変形例である実施例6について図7を用いて説明する。なお、図7では、一例として実施例3のT字穴部120に相当するT字穴部150(外周側穴部151、内周側穴部152)が形成された固定円板15を用いて説明する。
図7は、本実施形態の実施例6に係る固定円板15を説明するための図である。
図7に示したように、実施例6では、固定円板15を2つに分割(切断)する構成にする。なお、本実施例6では2分割としたが、分割回数(あるいは切断面の数)はこれに限られることはない。
さらに、固定円板15における分割面C-C’と、T字穴部150が形成された部分とが、一致するように固定円板15を分割する構成にする。すなわち、固定円板15における肉部200のみを分割して分割面C-C’が形成される構成にはしない。
さらに、固定円板15の分割面C-C’が形成されるいずれかのT字穴部150は、間隙(隙間)であるニゲ153が形成された分割内周側穴部152aを有する構成にする。
なお、ニゲ153の間隔は1mm程度が望ましい。
【0029】
上述した実施例6の構成により、固定円板15を真空ポンプ1に配設する際の組み立て作業を容易にすることができる。
さらに、固定円板15では、形成された分割面C-C’における内周側(分割した部分が突き合わされる部分)に隙間(ニゲ153)が設けられるので、分割した固定円板15同士が重ならないように構成することができる。そのため、分割面同士の重なりや衝突によって固定円板15が欠けてしまうなどの不具合を低減させることができ、メンテナンスサイクルを延長することができる。
【0030】
(実施例7)
図8は、本実施形態の実施例7に係る複合型の真空ポンプ1000の概略構成例を示した図である。
本実施例7に係る複合型の真空ポンプ1000では、吸気口4側にターボ分子ポンプ部Tが、そして、排気口6側にねじ溝ポンプ部Sが配設され、さらにその間に、上述した実施例1から実施例6で説明したいずれかの固定円板(10、11、12、13、14、15)を備える機構が配設される。
より詳しくは、ターボ分子ポンプ部Tは、ロータ8における吸気口4側に、複数枚のブレード形状をした回転翼90および固定翼91を備える。固定翼91は、シャフト7の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜してケーシング2の内周面からシャフト7に向かって伸びたブレードから構成され、回転翼90と互い違いに、軸線方向に複数段配設されている。
また、ねじ溝ポンプ部Sは、ロータ円筒部(スカート部)8aおよびねじ溝排気要素71を備える。ロータ円筒部8aは、ロータ8の回転軸線と同心の円筒形状をした円筒部材である。ねじ溝排気要素71は、ロータ円筒部8aとの対向面にネジ溝(らせん溝)が形成されている。
ねじ溝排気要素71におけるロータ円筒部8aとの対向面側(すなわち、真空ポンプ1000の軸線に平行な内周面)は、所定のクリアランスを隔ててロータ円筒部8aの外周面と対面しており、ロータ円筒部8aが高速回転すると、複合型の真空ポンプ1000で圧縮されたガスがロータ円筒部8aの回転に伴ってネジ溝にガイドされながら排気口6側へ送出されるようになっている。すなわち、ネジ溝は、ガスを輸送する流路となっている。
このように、ねじ溝排気要素71におけるロータ円筒部8aとの対向面と、ロータ円筒部8aとが、所定のクリアランスを隔てて対向することにより、ねじ溝排気要素71の軸線方向側内周面に形成されたネジ溝でガスを移送する気体移送機構を構成している。
なお、ガスが吸気口4側へ逆流する力を低減させるために、このクリアランスは小さければ小さいほど好ましい。
また、ねじ溝排気要素71に形成されたネジ溝の方向は、ネジ溝内をロータ8の回転方向にガスが輸送された場合、排気口6に向かう方向である。
また、ネジ溝の深さは、排気口6に近づくにつれて浅くなるようになっており、ネジ溝を輸送されるガスは排気口6に近づくにつれて圧縮されるようになっている。
上述した構成により、複合型の真空ポンプ1000は、当該真空ポンプ1000に配設される真空室(図示しない)内の真空排気処理を行うことができる。
【0031】
この複合型の真空ポンプ1000の構成により、ターボ分子ポンプ部Tで圧縮されたガスは、次に本実施形態のいずれかの固定円板(10、11、12、13、14、15)を備える部分で圧縮され、さらに、ねじ溝ポンプ部Sで圧縮されるので、より真空化性能を高めることができる。
【0032】
上述した構成により、本実施形態では、真空ポンプ1(1000)において、配設されるらせん状板9の先端(外径側)付近に局所的に高圧になる部分が生じるのを緩和することができる。そのため、高圧により液化または固化するガスの反応生成物が堆積するのを低減することができるので、真空ポンプ1(1000)のメンテナンスサイクルを延長することができる。
【0033】
なお、本発明の実施形態および各変形例は、必要に応じて組み合わせる構成にしてもよい。
【0034】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が当該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0035】
1 真空ポンプ
2 ケーシング(外筒)
3 ベース
4 吸気口
5 フランジ部
6 排気口
7 シャフト
8 ロータ
8a ロータ円筒部
9 らせん状板
10 固定円板(実施例1)
11 固定円板(実施例2)
12 固定円板(実施例3)
13 固定円板(実施例4)
14 固定円板(実施例5)
15 固定円板(実施例6)
20 モータ部
30 径方向磁気軸受装置
31 径方向磁気軸受装置
40 軸方向磁気軸受装置
70 スペーサ
71 ねじ溝排気要素
80 ステータコラム
90 回転翼
91 固定翼
100 穴部
101 外周側穴部
102a 内周側穴部
102b 内周側穴部
110 穴部
111 外周側穴部
112a 内周側穴部
112b 内周側穴部
120 T字穴部
121 外周側穴部
122 内周側穴部
130 L字穴部
131 外周側穴部
132 内周側穴部
140 L字穴部
141 外周側穴部
142 内周側穴部
145 保持部
146 内周側実部
150 T字穴部
151 外周側穴部
152 内周側穴部
152a 分割内周側穴部
153 ニゲ
200 肉部
1000 真空ポンプ(複合型)
1010 従来の固定円板
1020 従来の穴部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9