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特許7049075メタノール製造方法およびメタノール製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】メタノール製造方法およびメタノール製造装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/152 20060101AFI20220330BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20220330BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20220330BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20220330BHJP
   C07C 31/04 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
C07C29/152
B01D53/22
B01D69/02
B01D71/02 500
C07C31/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017124593
(22)【出願日】2017-06-26
(65)【公開番号】P2018008940
(43)【公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2016132342
(32)【優先日】2016-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591178012
【氏名又は名称】公益財団法人地球環境産業技術研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】余語 克則
(72)【発明者】
【氏名】沼口 遼平
(72)【発明者】
【氏名】茂木 康弘
(72)【発明者】
【氏名】原岡 たかし
(72)【発明者】
【氏名】紫垣 伸行
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 郁宏
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-055970(JP,A)
【文献】特表平09-511509(JP,A)
【文献】特開2004-043586(JP,A)
【文献】特開2011-041921(JP,A)
【文献】特開2015-181992(JP,A)
【文献】春名一生,圧力変動吸着法(PSA法)によるガス分離技術,真空,2000年,Vol. 43,pp. 1088-1093
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
B01D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素と水素とを含む原料ガスを、非透過側の第1空間と、水蒸気分離膜と、透過側の第2空間と、前記第1空間に配置された触媒と、を具備する分離膜反応器の前記第1空間に供給し、前記触媒の作用により前記原料ガスのメタノールへの転化反応を進行させる工程と、
前記第2空間に掃引ガスを流通させることにより、前記転化反応に伴って発生する反応熱を除去するとともに、前記水蒸気分離膜を透過させた前記転化反応の副生成物である水蒸気を前記第2空間から流出させる工程と、
前記転化反応により生成したメタノールと未反応ガスとを含む非透過流体を冷却し、メタノールを凝縮させて、メタノールと前記未反応ガスとを分離する工程と、
前記未反応ガスを前記第1空間に循環させる工程と、を具備し、
前記水蒸気分離膜が、230以上の水蒸気/メタノール分離係数および1×10-7mol/(s・Pa・m)以上の水蒸気透過速度を有する無機膜であ
前記第2空間を流れる前記掃引ガスの流量は、標準状態でのモル流量に換算した物理量で前記第1空間に供給する前記原料ガスの流量と等量以上である、メタノール製造方法。
【請求項2】
前記掃引ガスが、窒素および/または空気である、請求項1に記載のメタノール製造方法。
【請求項3】
前記原料ガスが、水素が添加された、製鉄所の副生ガスを含む、請求項1または2に記載のメタノール製造方法。
【請求項4】
前記製鉄所の副生ガスが、高炉ガスまたは転炉ガスである、請求項3に記載のメタノール製造方法。
【請求項5】
前記原料ガスが、圧力変動吸着法(PSA法)により水素を精製するときに生じるオフガスを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のメタノール製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスから分離膜反応器を用いてメタノールを製造する方法または装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温室効果ガスの削減の必要性が高まっており、発電所、製鉄所、セメントプラントなどで生成される排ガス中の二酸化炭素の固定化技術の開発が急務とされている。中でも、排ガスを水素と反応させてメタノールに変換し、再利用する技術が注目を集めている。メタノールは、常温で液体であり、貯蔵性や輸送性に優れ、化学品原料やクリーンエネルギーとしての利用価値が高く、世界的に大きな需要が見込まれている。
【0003】
一般的に、メタノールは、一酸化炭素、二酸化炭素および水素を含む合成ガスを、触媒存在下で接触水素化することにより製造されている。メタノール合成の反応式は、以下の通りである。
【0004】
CO+2H2 ⇔ CH3OH (1)
CO2+3H2 ⇔ CH3OH+H2O (2)
CO2+H2 ⇔ CO+H2O (3)
【0005】
上記反応は、いずれも平衡反応であり、メタノール転化率は温度と圧力に応じた熱力学的上限(平衡転化率)を有する。メタノール転化率を高めるには、低温かつ高圧で反応を進行させることが望ましい。
【0006】
ただし、低温では反応速度が顕著に低下することから、一般には200℃~300℃、5MPa~50MPaの高温高圧下で反応が行われる。その際の単通転化率は低く、多量の未反応ガスが生成物から分離され、再び反応器へと循環される。未反応ガスの循環に伴うエネルギー消費は大きく、メタノール合成のコスト増大の主要因となっている。
【0007】
メタノールの単通転化率を向上させるための検討は、大別して二種類存在する。一つは高性能触媒の開発であり、これまでに数多くの報告がある。もう一つは、平衡シフト効果を利用するアプローチであり、反応系から生成物の一部または全部を分離することにより反応平衡(上記式(1)~(3))を生成物側へとシフトさせる手法である。
【0008】
平衡シフト効果を利用するアプローチとして、反応器と凝縮器を多段に連ねた複合反応器(特許文献1)、反応管内に配置した冷却器により水とメタノールを凝縮分離する反応器(特許文献2、3)、水と反応する有機溶媒中でメタノール合成を行う液相合成法(特許文献4)などが報告されている。中でも注目を集めているのが、分離膜反応器によって反応系から生成物を分離するプロセスである(特許文献5、6)。
【0009】
特許文献5では、合成ガスからメタノールを製造する際に、分離膜により反応系から生成物を除去し、反応平衡を生成物側へ移動させることが提案されている。生成物は、基本的に減圧により、透過側から回収される。平衡シフト効果を利用するプロセスでは、メタノール合成反応が従来よりも効率的に進行するため、高効率な除熱が求められる。しかし、特許文献5では、反応熱の除去について対策がなされていないため、温度上昇による深刻なメタノール転化率の低下を招くと考えられる。
【0010】
一方、特許文献6では、冷却水と反応ガスとの熱交換や、高温ガスと未反応の低温ガスとの自己熱交換を利用する除熱方法が提案されている。分離膜を透過したメタノール含有ガスは、凝縮された後、蒸留精製され、メタノールが回収される。そのため、蒸留精製に要するエネルギー投入量が大きくなり、分離膜反応器を利用するプロセスとしては完成度が低く、非現実的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2005-132739号公報
【文献】特開2005-298413号公報
【文献】特開2010-13422号公報
【文献】特開2007-55974号公報
【文献】特表平9-511509号公報
【文献】特開2001-9265号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上のように、従来の分離膜反応器を用いたプロセスでは、除熱の効率化とメタノールの分離精製プロセスの簡略化とを同時に実現することが困難である。
【0013】
本発明の一局面は、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスを、非透過側の第1空間と、水蒸気分離膜と、透過側の第2空間と、前記第1空間に配置された触媒と、を具備する分離膜反応器の前記第1空間に供給し、前記触媒の作用により前記原料ガスのメタノールへの転化反応を進行させる工程と、前記第2空間に掃引ガスを流通させることにより、前記転化反応に伴って発生する反応熱を除去するとともに、前記水蒸気分離膜を透過させた前記転化反応の副生成物である水蒸気を前記第2空間から流出させる工程と、前記転化反応により生成したメタノールと未反応ガスとを含む非透過流体を冷却し、メタノールを凝縮させて、メタノールと前記未反応ガスとを分離する工程と、前記未反応ガスを前記第1空間に循環させる工程と、を具備する、メタノールの製造方法に関する。
【0014】
本発明の別の局面は、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスが導入される非透過側の第1空間と、水蒸気分離膜と、透過側の第2空間と、前記第1空間に配置された触媒と、を具備し、前記触媒の作用により前記原料ガスのメタノールへの転化反応を進行させる分離膜反応器と、前記第1空間に前記原料ガスを供給する原料ガス供給部と、前記第2空間に掃引ガスを供給する掃引ガス供給部と、前記第1空間から、前記転化反応により生成したメタノールと未反応ガスとを含む非透過流体を回収し、メタノールを凝縮させる第1回収部と、前記第2空間から、前記水蒸気分離膜を透過させた前記転化反応の副生成物である水蒸気を前記掃引ガスとともに流出させる第2回収部と、前記非透過流体から分離された未反応ガスを前記第1空間に循環させる循環部と、を具備する、メタノールの製造装置に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスのメタノールへの転化反応において、平衡シフト効果が得られ、かつ反応熱の除熱が効率的に行われるため、メタノール転化率を十分に高めることができる。また、メタノールを反応系から容易に分離できるため、分離精製プロセスの簡略化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一酸化炭素からのメタノール(MeOH)合成における平衡転化率を示すグラフである。
図2】二酸化炭素からのメタノール合成における平衡転化率を示すグラフである。
図3A】本発明の実施形態に係るメタノール製造装置の一例を断面で示す概略構成図である。
図3B】第1空間、膜複合体および第2空間の断面構造の一例を示す概念図である。
図4】原料ガス(H2/CO=3)のメタノール転化反応におけるメタノール転化率と温度との関係を示す図である。
図5】原料ガス(H2/CO=3)のメタノール転化反応における非透過側(第1空間)からのメタノール回収率と温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るメタノール製造方法は、分離膜反応器を用いて、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスのメタノールへの転化反応を進行させる工程を具備する。ここで、分離膜反応器は、原料ガスが供給される非透過側の第1空間と、水蒸気分離膜と、透過側の第2空間とを具備する。
【0018】
第1空間には、原料ガスのメタノールへの転化反応を進行させる触媒が配置されている。触媒の第1空間内への配置の仕方は、特に限定されない。例えば、触媒を第1空間内に充填してもよいし、水蒸気分離膜の第1空間側に触媒を担持させてもよい。
【0019】
第1空間では、触媒の作用によりメタノールが生成するとともに、上記式(2)~(3)に示すように副生成物として水蒸気も生成する。水蒸気は選択的に水蒸気分離膜を透過し、第1空間から第2空間に移動する。一方、メタノールと未反応ガスは、非透過流体として第1空間から回収される。
【0020】
また、上記製造方法は、第2空間に掃引ガスを流通させることにより、転化反応に伴って発生する反応熱を除去するとともに、副生成物である水蒸気を第2空間から回収し、もしくは外部に流出させる工程を具備する。転化反応に伴って発生する反応熱は、第2空間内を流通する掃引ガスに移動し、掃引ガスとともに第2空間から除去される。このとき、第2空間に移動してきた水蒸気も掃引ガスとともに第2空間から除去される。これにより、上記式(2)~(3)の反応平衡が生成物側へとシフトし、メタノール転化率が向上する。
【0021】
また、上記製造方法は、第1空間から回収されたメタノールと未反応ガスとを含む非透過流体を冷却し、メタノールを凝縮させる工程を具備する。これにより、凝縮性を有するメタノールと非凝縮性の未反応ガスとが分離され、高純度のメタノールが回収される。すなわち、蒸留などのメタノールの分離精製に必要な工程を省略もしくは短縮することができる。
【0022】
次に、上記製造方法は、未反応ガスを第1空間に循環させる工程を具備する。これにより、未反応ガスが再利用されるが、メタノール転化率の向上により、循環させるべき未反応ガス量が低減される。よって、未反応ガスの循環に伴うエネルギー消費が抑制される。循環させる未反応ガスの一部をパージして、第1空間に導入される原料ガスの組成を調整してもよい。
【0023】
以上のように、本発明に係るメタノール製造方法によれば、原料ガスからメタノールを生成させる反応と、メタノールの分離精製とを並行して行うことができ、蒸留などの工程を省略もしくは短縮することが可能である。また、第2空間に掃引ガスを流通させることで、触媒反応により生じた反応熱が効率的に除去され、更に、副生成物である水蒸気が掃引ガスによって第2空間から除去されることで平衡シフト効果が得られ、メタノール転化率が向上する。
【0024】
本発明に係るメタノール製造では、上記式(2)~(3)の反応平衡が生成物側へとシフトするため、従来の一般的なメタノール製造条件(200℃~300℃、5MPa~50MPa)に比べ、穏やかな温度または圧力で高い反応効率を得ることが可能である。例えば、分離膜反応器内の原料ガスの温度が200℃未満(例えば150℃~180℃)であり、分離膜反応器内の原料ガスの圧力が5MPa未満(例えば0.9MPa~2MPa)でも、効率的に転化反応が進行する。すなわち、原料ガスのメタノールへの転化反応において、所定の温度および圧力下における平衡転化率を超えて、メタノール転化率を高めることが可能である。
【0025】
掃引ガスとしては、窒素および/または空気が、低コストで調達できる点で好ましく、中でも空気が好ましい。掃引ガスの圧力は、例えば10kPa~500kPaの範囲内であればよく、大気圧でもよい。反応熱を除去する十分な効果を得る観点から、第2空間を流れる掃引ガスの流量は、分離膜反応器に供給する原料ガスの流量と等量以上が好ましく、2~10倍がより好ましい。
【0026】
原料ガスには、水素が添加された製鉄所の副生ガスを用いることができる。製鉄所の副生ガスとしては、高炉ガスまたは転炉ガスが挙げられる。中でも、鉄鉱石を還元し、銑鉄を製造する工程では、多量の高炉ガス(BFG:Blast Furnace Gas)が排出される。BFGは、典型的には、H2:4vol%、N2:52vol%、CO:22vol%、CO2:22vol%の組成を有し、多量の一酸化炭素と二酸化炭素を含んでいる。そのため、BFGを有効利用することが望まれている。
【0027】
上記式(1)~(3)に示すように、H2とCO(x=1または2)との反応では、概ねH2:CO=3:1のモル比でメタノール転化反応が進行する。つまり、H2:CO=3:1を満たすようにBFGに水素を添加すれば、丁度、メタノール転化反応に適した原料ガス組成が得られる。ただし、H2とCOとのモル比は特に限定されず、H2/CO比が1~4の範囲内になるように適宜調整すればよい。
【0028】
なお、BFGには多量の窒素が含まれるが、水素を添加することで窒素のモル分率を例えば25%以下まで十分に低下させると、メタノール転化反応が窒素によって大きく阻害されることはない。BFGにH2:CO=3:1を満たすように水素を添加する場合、原料ガス(BFG+H2)の組成(vol%)は、典型的には表1に示すようになる。
【0029】
【表1】
【0030】
原料ガスとして、圧力変動吸着法(PSA法)により水素を精製するときに生じるオフガスを用いてもよい。例えば、合成ガスに含まれる水素を分離した後のオフガスには、一酸化炭素と二酸化炭素が含まれている。オフガスに水素を添加し、H2/CO比が1~4の範囲内になるように適宜調整すれば、メタノール合成の原料ガスとして用いることができる。
【0031】
原料ガスとして、木質バイオマスの利用後に生成する排ガスを用いてもよい。木質バイオマスは、直接燃焼またはガス化炉でガス成分に改質された後に燃焼に供されることで、二酸化炭素を含むガスを生成する。また、前記ガス成分を水蒸気改質し、水性ガスシフト反応を行うことでも二酸化炭素を含むガスを生成する。これらのガスに水素を添加し、H2/CO比が1~4の範囲内になるように適宜調整すれば、メタノール合成の原料ガスとして用いることができる。なお、木質バイオマスの燃焼で生成する熱エネルギーは、発電設備などで使用される。
【0032】
以上のように、二酸化炭素を多量に含むガスを原料として利用することの技術的意義は大きい。また、上記式(1)(CO+2H2 ⇔ CH3OH)における反応熱(ΔH0 298)は-90.97kJ/molであり、上記式(2)(CO2+3H2 ⇔ CH3OH+H2O)における反応熱(ΔH0 298)は-49.81kJ/molである。すなわち、原料ガスに含まれる二酸化炭素の濃度が高いほど、反応熱が減少するため、温度制御が容易となる。更に、原料ガスとして、製鉄所の副生ガスをそのまま有効活用することができれば、合成ガスを原料とする場合のように、二酸化炭素を除去するプロセス、水性ガスシフト反応による改質プロセスなど、メタノール合成における高コストなプロセスを省くことができる。
【0033】
以上より、本発明に係るメタノール製造方法は、二酸化炭素の濃度が20vol%以上である副生ガスやオフガスを原料ガスの少なくとも一部として用いる場合に特に有効である。このとき、分離膜反応器に供給される原料ガスの組成は、H2とCOとのモル比(H2/CO比)が1~4の範囲内になるように水素添加により適宜調整される。原料ガスが二酸化炭素とともに一酸化炭素を含む場合には、一酸化炭素と二酸化炭素とのモル比(CO/CO2比)が0~1の範囲内が望ましく、0.125~1の範囲内がより望ましい。
【0034】
次に、二酸化炭素からメタノールを合成する際に顕在化する特有の課題について説明する。図1は、一酸化炭素からのメタノール合成における平衡転化率を示し、図2は、二酸化炭素からのメタノール合成における平衡転化率を示している。ここでは、水および/またはメタノールが、ガスとして存在する領域を実線、凝縮して液化する領域を点線で示している。図1、2から明らかなように、温度と圧力とが同じ条件では、二酸化炭素からのメタノール合成における平衡転化率が顕著に低くなる。例えば200℃における5MPaでの二酸化炭素からのメタノール合成における平衡転化率は約33%程度であり、同じ条件下での一酸化炭素からのメタノール合成における平衡転化率(約92%)に比べて相当に低くなる。また、二酸化炭素からのメタノール合成では、二酸化炭素と等モルの水蒸気が生成する。これに対し、本発明に係るメタノール製造方法は、除熱および平衡シフト効果による転化率の向上と、メタノールの分離精製とを両立するものであるため、上記特有の課題が顕在化することはない。
【0035】
次に、本発明に係るメタノール製造装置について説明する。
メタノール製造装置は、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスのメタノール転化反応を進行させる分離膜反応器を具備する。分離膜反応器は、原料ガスが導入される非透過側の第1空間と、水蒸気分離膜と、透過側の第2空間と、原料ガスのメタノールへの転化反応を進行させるために第1空間に配置された触媒とを具備する。水蒸気分離膜は、第1空間と第2空間とを隔絶するように配置されている。
【0036】
水蒸気分離膜は、1×10-7mol/(s・Pa・m)以上の水蒸気透過速度を有することが好ましく、1×10-6mol/(s・Pa・m)以上の水蒸気透過速度を有することがより好ましい。水蒸気透過速度が大きいほど、第1空間で生成した水蒸気が第2空間に移動しやすく、上記式(2)~(3)の反応平衡が生成物側へとシフトするため、より穏やかな温度または圧力で高い反応効率を得ることが可能である。一方、1×10-7mol/(s・Pa・m)未満の場合、水蒸気の移動が遅くなる分だけ、メタノール製造の効率が低下し得る。ただし、水蒸気分離速度が大きすぎると、水蒸気分離膜に欠陥が生じている可能性がある。よって、水蒸気分離膜の水蒸気透過速度は、1×10-5mol/(s・Pa・m)以下であることが好ましい。
【0037】
水蒸気透過速度Qは、既知の方法で求めればよいが、例えば、非特許文献1(Ind.Eng.Chem.Res.,40,163-175(2001))に記載されているような透過セルを用いて測定することができる。任意温度において、任意組成のメタノールと水蒸気との混合ガスを水蒸気分離膜に供給し、透過側を真空ポンプにて減圧すると、混合ガスの一部が分離膜を透過する。続いて、透過ガスをコールドトラップで捕集し、凝縮液の質量とモル組成とを測定すればよい。水蒸気透過速度Qは、次式:Q=A/{(P1-P2)・S・t}から算出される。ここで、Aは水蒸気の透過量(mol)、P1は供給側の水蒸気分圧(Pa)、P2は透過側の水蒸気分圧(Pa)、Sは水蒸気分離膜の見かけの面積(m2)、tは透過量がAであるときの測定時間(秒)を表す。なお、回収した凝縮液のモル組成はガスクロマトグラフあるいはカールフィッシャー水分計を用いることで容易に測定できる。
【0038】
水蒸気分離膜は、無機膜であることが好ましい。無機膜は100℃を超える温度でも安定であり、耐圧性、耐水蒸気性を高めることも容易である。無機膜としては、ゼオライト膜、シリカ膜、アルミナ膜、これらの複合膜などが挙げられる。中でも、水蒸気透過性に優れる点で、表面のシリコン元素(Si)とアルミニウム元素(Al)とのモル比:Si/Alが50以下(好ましくは10以下、より好ましくは2以下)のゼオライト膜などが好ましい。
【0039】
ここで、水蒸気分離膜は、230以上の水蒸気/メタノール分離係数を有する無機膜であることが好ましい。水蒸気/メタノール分離係数(以下、αW/M)とは、非透過側における水とメタノールの組成(xW,xM)と、透過側における水とメタノールの組成(yW,yM)により、下記式(4)により定められる係数である。
αW/M=(yW/yM)/(xW/xM) (4)
【0040】
αW/Mが大きい分離膜ほど、水蒸気を透過しやすく、かつメタノールを透過させにくい性質を有する。例えば、CO:CO=1:8、CO:H2=1:3である原料ガスを、1MPaの圧力下で分離膜反応器に単通させた場合、αW/M=約230以上で非透過側である第1空間から、生成したメタノールの99%を回収できる。αW/Mは、大きいほど望ましく、450以上(メタノール回収率99.5%に相当)がより好ましく、2200以上(メタノール回収率99.9%に相当)が更に好ましい。
【0041】
上記数値は、反応の平衡状態および水蒸気透過の平衡状態における値であり、下記の仮定および計算手順により算出される。
【0042】
(仮定1)
分離膜反応器の非透過側である第1空間において、COxのメタノール化反応および水性ガスシフト反応は平衡状態に到達している。
【0043】
(仮定2)
水蒸気分離膜に対する水蒸気の透過は平衡に達しており、非透過側である第1空間における水蒸気分圧と、透過側である第2空間における水蒸気分圧とが等しい。
【0044】
(仮定3)
水蒸気に随伴して膜を透過するメタノール量は、分離係数に従って決定される。すなわち、透過側におけるメタノールの組成(yM)は、上記式(4)に従い、
yM=(1/αW/M)×yW/(xW/xM) (5)
から求められる。なお、水とメタノール以外の成分は、水蒸気分離膜を透過しないものとする。
【0045】
(手順1)
公知の方法に従い、膜透過がない場合の反応平衡状態における各物質の組成を決定する。
【0046】
(手順2)
上記式(2)と(3)の反応進行度ξとξおよび水蒸気の透過量ξを定義し、上記式(4)に基づきメタノール透過量を、ξ~ξを用いて表すとともに、前記仮定に基づく反応と膜透過の平衡状態における、非透過側の全成分の組成を、初期組成とξ~ξを用いて表す。
【0047】
(手順3)
系内のガスが理想気体であると仮定し、手順1で定めた組成が上記式(2)と(3)の圧平衡定数を満たすこと、および水蒸気の分圧差がゼロとなることを示す3個の連立式を立てる。
【0048】
(手順4)
手順3で得られる連立式からξを消去すると、ξとξについてそれぞれ4次と2次の式が得られるため、ニュートン・ラプソン法等の収束計算により解を得る。なお、計算に必要な物性定数である、メタノール、一酸化炭素、二酸化炭素、水素等の標準生成自由エネルギーおよびエンタルピー、ならびに比熱係数は、例えば化学工学便覧の第六版などから入手することができる。
【0049】
水蒸気分離膜の厚さは、例えば0.5μm~10μmであることが望ましい。これにより、水蒸気の透過速度が十分に速くなり、水蒸気を効率的に第1空間から第2空間に移動させやすくなる。水蒸気分離膜は、単独では強度が低いため、多孔質基材の表面に担持することが望ましい。
【0050】
多孔質基材の材質は特に限定されないが、シリカ、アルミナ、ジルコニア、コージェライト、チタニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、チタンなどから選択することができる。
【0051】
例えばゼオライト膜は、多孔質基材の表面にゼオライトの種結晶を塗布した後、水、シリカ材料、アルミナ材料、有機構造規定剤などを含む水性懸濁液中で水熱合成することにより調製される。
【0052】
αW/Mが230以上の水蒸気分離膜を形成する場合、緻密な膜を形成するためには、あらかじめ多孔質基材の表面近傍に種結晶を塗布し、二次成長法により製膜することが望ましい。
【0053】
水蒸気分離膜のサイズ、形状などは、分離膜反応器の構成や方式により適宜設計される。例えば、形状に関しては、円筒状、平板状、ハニカム状などであればよい。
【0054】
原料ガスのメタノールへの転化反応を進行させる触媒として、金属触媒としては、銅、パラジウムなどが知られており、酸化物触媒としては、酸化亜鉛、ジルコニア、酸化ガリウムなどが知られている。これらを複合化した触媒として、銅-酸化亜鉛、銅-酸化亜鉛-アルミナ、銅-酸化亜鉛-酸化クロム-アルミナ、あるいはこれらにパラジウムを修飾した触媒などが挙げられる。これらは、水蒸気分離膜の少なくとも非透過側(すなわち第1空間側)に担持されていればよい。
【0055】
上記メタノール製造装置は、更に、第1空間に原料ガスを供給する原料ガス供給部と、第2空間に掃引ガスを供給する掃引ガス供給部と、第1空間から、転化反応により生成したメタノールと未反応ガスとを含む非透過流体を回収する第1回収部と、第2空間から、水蒸気分離膜を透過させた水蒸気を掃引ガスとともに回収し、もしくは外部に流出させる第2回収部と、非透過流体から分離された未反応ガスを第1空間に循環させる循環部とを具備する。
【0056】
原料ガス供給部は、原料ガスの流量を制御しながら第1空間に原料ガスを供給できる手段であればよく、第1空間内を大気圧以上に加圧できるコンプレッサー、ポンプなどを具備することが望ましい。原料ガス供給部は、製鉄所の高炉などで生成したBFGを第1空間に移送するためのパイプラインを具備してもよい。
【0057】
掃引ガス供給部は、掃引ガスの流量を制御しながら第2空間に掃引ガスを供給できる手段であればよい。掃引ガス供給部は、例えば、大気中の空気を第2空間に送り込むコンプレッサー、ポンプ、ファンなどを具備することが望ましい。
【0058】
第1回収部は、転化反応により生成したメタノールと未反応ガスとを含む非透過流体を少なくとも一時的に貯留できる空間を有する。第1回収部では、非透過流体が冷却され、メタノールが凝縮し、非凝縮性の未反応ガスとメタノールとが分離される。
【0059】
第2回収部は、水蒸気を同伴した掃引ガスを少なくとも一時的に貯留できる空間を有してもよく、水蒸気と掃引ガスをそのまま、もしくは精製して、大気に開放する機能を有してもよい。また、水蒸気を同伴した掃引ガスを冷却し、水蒸気を凝縮させて、凝縮水と掃引ガスとを分離する機能を有してもよい。大気に放出する前の掃引ガスを精製する際には、活性炭などの吸着材を含むフィルタに掃引ガスを通過させればよい。
【0060】
未反応ガスを第1空間に循環させる循環部は、未反応ガスをそのまま、もしくは一部をパージしてから直接または間接的に第1空間に移送する機能を有すればよい。循環部は、例えば、第1回収部と第1空間とを繋ぐパイプライン、コンプレッサー、ポンプなどを具備する。未反応ガスは、原料ガス供給部から第1空間に供給される原料ガスに合流させてもよく、ダイレクトに第1空間に供給してもよい。
【0061】
メタノール製造装置は、更に、第1空間に隣接する冷却媒体流路と、冷却媒体流路に冷却媒体を供給する冷却媒体供給部とを具備してもよい。これにより、分離膜反応器の温度制御をより容易に行うことが可能になる。冷却媒体流路は、ステンレス鋼などの耐食性金属で形成することが望ましい。冷却媒体には、ボイラ水を用いることができる。ボイラ水は、メタノール転化反応の反応熱を吸収することで、気化しながら冷却媒体流路を流通する。
【0062】
以下、図3A図3Bを参照しながら、本発明の実施形態に係るメタノール製造装置の一例について具体的に説明する。
図3Aに示すメタノール製造装置1は、分離膜反応器10と、分離膜反応器10内の第1空間11に通じる原料ガス入口に原料ガス(FG)を導入する原料ガス供給部21と、分離膜反応器10内の第2空間12に通じる掃引ガス入口に掃引ガス(SG)を導入する掃引ガス供給部22と、第1空間11から非透過流体(RG)を回収する第1回収部31と、第2空間12から水蒸気(PG)とともに掃引ガス(SG)を回収する第2回収部32と、第1回収部31に回収された未反応ガス(UG)を第1空間11に移送する循環部40とを具備する。
【0063】
分離膜反応器10は、非透過側の第1空間11と、水蒸気分離膜13aと、透過側の第2空間12とを具備する。水蒸気分離膜13aは、第1空間11と第2空間12とを隔てるように配置される。水蒸気分離膜13aは、図3Bに示すように、例えば、外周面である第1表面および内周面である第2表面を有するとともに第1表面と第2表面とを連通させる細孔を有する筒状の多孔質基材13bの第1表面に形成され、多孔質基材13bとともに筒状の膜複合体13を形成している。第1空間11には、メタノール転化反応を進行させる触媒15が充填されており、第1空間11内で原料ガスのメタノール転化反応が進行する。
【0064】
触媒量は、分離膜の形状や分離膜の性能に合わせて適宜設計されるが、過度な触媒反応律速または膜透過律速にならないよう、第1空間11に配置された触媒15の見かけの体積Vaと、水蒸気分離膜13aと多孔質基材13bとの合計の見かけの体積Vbとの比:Va/Vbは、0.43~25.0であることが好ましい。これにより、効率的にメタノールを製造することができる。なお、触媒の見かけの体積Vaとは、触媒が充填されている空間体積を意味する。触媒が第1空間に満充填される場合、触媒の見かけの体積Vaは、第1空間の体積と同義である。Vbは、水蒸気分離膜および多孔質基材中の空隙を考慮しない見かけの体積である。
【0065】
生成したメタノールは、第1空間11内に滞留し、未反応ガスとともに第1回収部31に非透過流体(RG)として回収される。第1回収部31は、非透過流体(RG)を冷却し、メタノールを凝縮させる熱交換器31aと気液分離タンク31bとを具備し、液状メタノールが気液分離タンク31bから取り出される。未反応ガス(UG)は、ほとんど水を含まず、かつ原料ガスは非凝縮性であるため、非透過流体(RG)から容易にメタノールだけが回収される。よって、蒸留などのエネルギー負荷の大きいプロセスを要することなく、高純度メタノールを得ることができる。
【0066】
一方、メタノールが除去された後に残留する未反応ガス(UG)には、二酸化炭素、水素などが含まれる。未反応ガス(UG)は、必要に応じて一部がパージされた後、循環部40が具備するコンプレッサー40aで昇圧され、パイプライン40Lを通って第1空間11に循環される。
【0067】
副生成物である水蒸気(PG)は、膜複合体13を透過して、膜複合体13で囲まれた中空の第2空間12に移動する。第2空間12に移動した水蒸気(PG)は、掃引ガス(SG)とともに、透過側出口から第2回収部32に回収される。水蒸気(PG)を同伴した掃引ガス(SG)は、例えば、第2回収部32内で、微量の不純物を回収するためのフィルタを通過した後、大気に解放される。
【0068】
非透過側の第1空間11は、ステンレス鋼製の冷却壁14で囲まれており、冷却壁14は第1空間11に隣接する冷却媒体流路14gを形成している。換言すれば、冷却壁14と水蒸気分離膜13aとで規制される空間が第1空間11であり、第1空間11は、冷却媒体流路14gを流通する冷却媒体(例えばボイラ水)との熱交換によって冷却され、反応熱が除去される。冷却媒体は、その流量を制御するポンプ50a、冷却媒体の流通経路となるパイプライン50Lなどを具備する冷却媒体供給部50から供給される。
【0069】
原料ガス供給部21は、原料ガス(FG)を昇圧するコンプレッサー21aと、原料ガス(FG)の流通経路となるパイプライン21Lとを具備する。原料ガス供給部21は、原料ガス(FG)の流量もしくは流速を制御するコントローラを有してもよい。
【0070】
掃引ガス供給部22は、掃引ガス(SG)の流量を制御するポンプ22aと、掃引ガス(SG)の流通経路となるパイプライン22Lとを具備する。掃引ガス供給部22は、掃引ガス(FG)の流量もしくは流速を制御するコントローラを有してもよい。第2空間12における水蒸気の分圧は、掃引ガス(SG)の流量により制御することができる。
【0071】
一般的に、メタノール転化率が高まると反応熱が増大するが、反応熱が蓄積され易い第1空間11は、冷却媒体流路14gと冷却媒体により構築された熱交換器で冷却され、同時に、水蒸気分離膜13aを介して、掃引ガス(SG)による冷却も受ける。水蒸気(PG)は、水蒸気分離膜13aの内部で一旦凝縮するが、第2空間12に移動すると、掃引ガス(SG)に同伴して反応系外に排出される。掃引ガス(SG)は、その際の気化熱を輸送するため、掃引ガス(SG)による冷却は単なる気体と気体との熱交換よりも効率が高く、十分な冷却が可能である。また、触媒15が担持もしくは充填されている水蒸気分離膜13aの非透過側(第1空間11)では、水蒸気(PG)の分圧が減少するため、触媒15に含まれる金属成分の水蒸気によるシンタリングが回避され、触媒15の活性の低下を防止する効果も得られる。
【0072】
図4は、CO:CO=1:8、COx:H2=1:3である原料ガスのメタノール転化反応におけるメタノール転化率と温度との関係を示す図であり、上記仮定1~3と手順1~3により求められる。比較対象として分離膜反応器を用いない場合の平衡転化率(熱力学平衡)も図4に同時に示す。ここでは、図3Aに示すようなメタノール製造装置を用いる場合において、第1空間側の圧力を5MPaに設定し、第2空間の全圧を0.1MPa、透過したガスの分圧を0.01MPaに設定した場合の結果を示す。特許文献5および6で想定されている水およびメタノールを共に透過する膜(αW/M=10)の場合と比べ、水蒸気を選択的に透過する膜(αW/M=230)ではやや転化率が低減するものの、膜を用いない従来のプロセスにおける平衡転化率と比較すると高い転化率が得られる。
【0073】
図5は、CO:CO=1:8、COx:H2=1:3である原料ガスのメタノール転化反応における非透過側(第1空間)からのメタノール回収率と温度との関係を示す図であり、前記仮定1~3と手順1~4により求められる。ここでも、図3に示すようなメタノール製造装置を用いる場合において、第1空間側の圧力を5MPaに設定し、第2空間の全圧を0.1MPa、透過したガスの分圧を0.01MPaに設定した場合の結果を示す。αW/M=10の場合は、メタノール回収率が88%以下と非常に低い値を示しており、透過側からも水と共にメタノールを回収し、蒸留精製することが必要となる。一方、αW/M=230の場合には99%以上のメタノールを回収可能であり、蒸留精製が不要なことから、プロセスとしての採算性に優れている。
【0074】
以下、本発明の実施形態に係るメタノール製造装置によるメタノール製造の化学工学シミュレーションによる結果について説明する。膜透過と反応という二種の単位操作を単一装置で実現する分離膜反応器は、市販のプロセスシミュレータでは装置としてパッケージ化されていないため、ユーザーがルーチンを新規に記述する必要がある。本発明者らは、VBAコードを利用してルーチンを独自に作製した。
【0075】
具体的には、まず、原料ガスを分離膜反応器の第1空間へ供給し、メタノールと副生物の水とを生成させる。このとき、主として水蒸気が水蒸気分離膜を透過するため、触媒が充填された第1空間側の生成物量が減少し、平衡シフト効果が発現する。第1空間に残留したメタノールと未反応ガスとを含む非透過流体は、40℃での気液平衡を仮定した凝縮器(第1回収部)に回収され、凝縮性成分であるメタノールと微量の水分とが液体として回収される。凝縮されずに非透過流体から分離された未反応ガスは、原料ガスと合流され、再び第1空間に送られる。ただし、未反応ガスを循環させると、反応に関与しないガス(窒素など)が循環し、未反応ガスが積算されるにつれて濃縮され、反応効率が低下する。そこで、未反応ガスの一部を所定のパージ率で除去した後、原料ガスと合流させる。
【0076】
未反応ガスのパージ率は、原料であるCO2を有効利用する観点から、0.1~10%に設定することが好ましく、1~6%に設定することがより好ましい。なお、パージ率とは、未反応ガス全体に対する、除去されるガスの体積割合である。
【0077】
また、(膜反応器へ循環される未反応ガスの流量)/(新規に膜反応器へ供給される原料の流量)で表されるリサイクル比は、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。
【0078】
通常、原料ガスのメタノール転化反応のシミュレーションでは、押し出し流れを仮定したチューブ状反応器が想定され、想定された反応器はガスの流れ方向に沿って複数の微小セルに分割され、各セルへのガスの流入および流出と、反応に由来するガスの組成変化と、温度変化とが計算される。微小セルでの変化をガスの流れ方向に沿って積分することで反応器全体におけるメタノール生成量、生成するメタノール純度などを求めることができる。
【0079】
分離膜反応器では、メタノール転化反応に加え、水蒸気分離膜を介したガス透過と、それに由来する熱輸送とを考慮する必要がある。そこで、触媒が充填される非透過側の第1空間と透過側の第2空間のそれぞれを微小セルに分割し、反応と膜透過の両方を考慮した物質収支と熱収支とを計算した。
【0080】
COのメタノール転化反応のモデルとして、Graaf et al.Chemical Engineering Science Vol.43,pp.3185-3195(1988)に記載の反応速度式を利用した。ガスの状態はSoave-Redlich-Kwongの状態方程式を用いて表現した。水蒸気分離膜を透過するガスは、ジュール・トムソン膨張すると仮定し、物質収支より求められる各ガスの差圧ΔP[Pa]と予め与えたガス透過速度Q[mol/(s・Pa・m)]から、透過フラックスF[mol/(s・m)]を、F=QΔPのように求めた。
【0081】
熱輸送については、触媒を充填した第1空間の外壁から冷却媒体により除熱される効果と、水蒸気分離膜および多孔質基材自身を通じた熱伝導と、透過するガス自身の熱輸送とを考慮した。冷却媒体は沸騰伝熱で除熱を行うこととし、必要な熱輸送係数は既知の推算式(化学工学便覧第六版(化学工学会編著)に記載)を用いて求めた。
【0082】
シミュレーションでは、一本のチューブ状反応器を具備する膜反応器についてメタノール生成量等が解かれるが、分離膜反応器が多数本のチューブを具備する場合のメタノール生成量は、得られた解に、単にチューブの本数を掛ければ求めることができる。
【0083】
分離膜反応器では、チューブ状反応器の長さを78cmに固定し、第1空間を画定する外壁の内径は22mmとし、水蒸気分離膜の外径は可変とした。ただし、それぞれの肉厚は2mmとした。原料ガスは量論比のCO2とH2(CO2:H2=1:3(モル比))とした。反応温度は、単通転化率が極大値を取る温度になるように5℃精度で最適化した。
【0084】
未反応ガスのパージ率は、原料であるCO2を有効利用するために、炭素原子基準におけるプロセスの総括収率が、95.00%(±0.3%)となるよう調整した。計算収束条件は、物質収支誤差0.01%以下とした。リサイクル比:(膜反応器へ循環される未反応ガスの流量)/(新規に膜反応器へ供給される原料の流量)は、表3に示すように制御した。
【0085】
生成したメタノールのうち、透過側もしくはパージ側へと流出せずに非透過側の第1空間から回収された量をメタノール(MeOH)回収率と定義し、非透過側から凝縮器(第1回収部)を用いて回収されたメタノール水溶液におけるメタノール量/(メタノール量+水分量)をメタノール濃度(モル濃度)と定義し、これらを計算した。また、第1空間に充填された触媒の見かけ体積と、分離層(多孔質基材と水蒸気分離膜とを含む膜複合体13に相当)の体積との比を、触媒/膜占有体積比と定義し、これを計算した。
【0086】
6ケースのシミュレーションを実施した。各ケースの計算条件を表2に示し、結果を表3に示す。4.5MPa以下という極めて低い圧力においてメタノール回収率は99%以上を達成し、このときのメタノール濃度は98%以上であった。水分含有量は燃料用アルコールと同程度であり、蒸留などの精製を行わずに販売可能な濃度である。
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
比較例として、水蒸気分離膜を用いない管型反応器において、圧力2.5~4.5MPa、メイクアップSVを400hr-1としたときのシミュレーション結果(ケース7~9)を表4に示す。なお、メイクアップSVとは、原料供給量を空間速度(hr-1)に換算した物理量を意味する。実施例のケース1~6と比べると、平衡シフト効果が得られないため、単通転化率が大きく低下し、リサイクル比が増大している。得られた凝縮液は、水とメタノールがほぼ等モルの水溶液であり、蒸留などの精製工程が必須である。
【0090】
【表4】
【0091】
構築したシミュレータの計算精度および整合性を検証するために、実測の転化率とシミュレーションの転化率とを比較した。以下の検討では、固定床型のメタノール合成反応器を作製し、COとHを原料とするメタノール合成反応実験を実施した。
【0092】
直径12mm、長さ150mmのガラスチューブを内管として格納可能なステンレス鋼製の円筒状二重管式リアクタを作製した。第1空間を画定する外壁の内径に相当するリアクタの内径はφ41.2mm、外径φは48.6mmとした。内管のガラスチューブの両端を、グラファイトパッキンを用いて固定するとともに封止し、ガラスチューブの中央部50mmの外側(二重管の隙間)に、図3Bのように、Zn-Cu触媒(日揮触媒化成株式会社製)を充填した。Zn-Cu触媒は、篩で粒子径1~2mmに分級されたものであり、分級後のZn-Cu触媒の充填密度は1300kg/mであった。
【0093】
リアクタ温度を180℃に設定し、CO:H=25:75(mol/mol)の混合ガスをリアクタ内の触媒充填層に供給した。SV(空間速度)=40、80、240hr-1となるように、供給されるガス流量を調整し、随時の条件下での転化率を算出した。なお、リアクタの入口および出口のガス流量を石鹸膜流量計で測定し、ガス組成をガスクロマトグラフにて測定し、入口と出口におけるCOモル流量の変化から実測の転化率を算出した。一方、構築したシミュレータに所定の実験条件をそれぞれ入力し、シミュレーションの転化率を算出した。3ケースの結果を表5に示す。
【0094】
【表5】
【0095】
供給圧力0.9MPa、反応温度180℃、SV=40hr-1の実験条件では、実測の転化率は11.8%、シミュレーションの転化率は10.5%であり、シミュレーションの転化率は、実測の転化率と非常に近い結果であった。混合ガスの供給流量を増加させてSV=80hr-1に設定したときの実測の転化率は10.5%であり、シミュレーションの転化率は9.1%であった。SV=240hr-1に設定したときの実測の転化率は6.5%であり、シミュレーションの転化率は5.7%であった。異なるSV条件においても良好な一致を示したことから、構築したシミュレータを用いて実測結果を十分に予測できることがわかった。
【0096】
本発明に係るメタノール製造方法およびメタノール製造装置は、原料ガスとして二酸化炭素を多量に含む製鉄所の副生ガスや水素PSAのオフガスを有効利用する場合に特に好適である。
【符号の説明】
【0097】
1:メタノール製造装置、10:分離膜反応器、11:第1空間、12:第2空間、13:膜複合体、13a:水蒸気分離膜、13b:多孔質基材、15:触媒、14:冷却壁、14g:冷却媒体流路、21:原料ガス供給部、21a:コンプレッサー、21L:パイプライン、22:掃引ガス供給部、22a:ポンプ、22L:パイプライン、31:第1回収部、31a:熱交換器、31b:気液分離タンク、32:第2回収部、40:循環部、40a:コンプレッサー、40L:パイプライン、50:冷却媒体供給部、50a:ポンプ、50L:パイプライン

図1
図2
図3A
図3B
図4
図5