(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】静電粉体塗料、並びに塗膜を有する塗装物品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 1/00 20060101AFI20220330BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20220330BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220330BHJP
B05D 1/06 20060101ALI20220330BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D5/03
C09D7/61
B05D1/06 H
B05D7/24 301A
B05D7/24 303K
(21)【出願番号】P 2017135892
(22)【出願日】2017-07-12
【審査請求日】2020-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【氏名又は名称】下田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100160945
【氏名又は名称】菅家 博英
(72)【発明者】
【氏名】大槻 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】上田 幸宏
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-518416(JP,A)
【文献】特開昭51-060227(JP,A)
【文献】特開昭58-034069(JP,A)
【文献】特開平02-077582(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0204666(US,A1)
【文献】米国特許第9609874(US,B1)
【文献】国際公開第2010/084924(WO,A1)
【文献】特表2004-535348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化点の異なるガラス粒子(A)とガラス粒子(B)とを少なくとも含み、焼き付けによって被塗装物品に塗膜を形成する静電粉体塗料であって、
静電粉体塗料は、樹脂成分を含有せず、
該ガラス粒子(A)は焼き付け温度で軟化し、該ガラス粒子(B)は焼き付け温度で軟化しない、静電粉体塗料。
【請求項2】
前記ガラス粒子(B)は孔及び/又は空隙を有するガラス粒子である、請求項1に記載の静電粉体塗料。
【請求項3】
静電粉体塗装法により請求項1又は2に記載の静電粉体塗料を被塗装物品に塗装する工程と、塗装した静電粉体塗料を焼き付け温度で焼き付ける工程と、を含む塗膜を有する塗装物品の製造方法。
【請求項4】
静電粉体塗装法により請求項1又は2に記載の静電粉体塗料を被塗装物品に塗装する工程と、塗装した静電粉体塗料を焼き付け温度で焼き付ける工程と、を含む工程により塗膜を形成して得られる、塗膜を有する塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種のガラス粒子を用いた、新規の静電粉体塗料に関する。また、その静電粉体塗料を用いた、塗膜を有する塗装物品の製造方法、及びその塗膜を有する塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
静電粉体塗装法は、通常の噴霧塗装法と比較して塗料の飛散が少なく、その向きや凹凸によらず被塗装物品全体に塗料が付着し、均一な仕上がりが期待できる。そのような背景もあって、静電粉体塗装法に好適な各種静電粉体塗料の開発が進められている。
【0003】
特許文献1には、所定のポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、所定のリン酸変性エポキシ樹脂、及び防錆顔料を含有する静電粉体塗装用の粉体プライマ組成物が開発されている。また、特許文献2~5には、熱硬化性樹脂、熱硬化剤等を含む粉体粒子を有する静電粉体塗料が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-162929号公報
【文献】特開2017-60914号公報
【文献】特開2017-60915号公報
【文献】特開2017-60919号公報
【文献】特開2017-60920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、静電粉体塗料について開発が進められているところ、本発明では従来にはない新たな静電粉体塗料、該静電粉体塗料を用いた、塗膜を有する塗装物品の製造方法、及び該塗膜を有する塗装物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は、以下の通りである。
(1)軟化点の異なるガラス粒子(A)とガラス粒子(B)とを少なくとも含み、焼き付けによって被塗装物品に塗膜を形成する静電粉体塗料であって、
該ガラス粒子(A)は焼き付け温度で軟化し、該ガラス粒子(B)は焼き付け温度で軟化しない、静電粉体塗料。
(2)前記ガラス粒子(B)は孔及び/又は空隙を有するガラス粒子である、(1)に記載の静電粉体塗料。
(3)静電粉体塗装法により(1)又は(2)に記載の静電粉体塗料を被塗装物品に塗装する工程と、塗装した静電粉体塗料を焼き付け温度で焼き付ける工程と、を含む塗膜を有する塗装物品の製造方法。
(4)静電粉体塗装法により(1)又は(2)に記載の静電粉体塗料を被塗装物品に塗装する工程と、塗装した静電粉体塗料を焼き付け温度で焼き付ける工程と、を含む工程により塗膜を形成して得られる、塗膜を有する塗装物品。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、従来にはない新たな静電粉体塗料、該静電粉体塗料を用いた、塗膜を有する塗装物品の製造方法、及び該塗膜を有する塗装物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の具体的形態に係る静電粉体塗料、該静電粉体塗料を被塗装物品に塗装して焼き付けることによって塗膜を形成させた塗装物品の製造方法、及び該製造方法によって得られる塗装物品について詳細に説明する。
【0009】
1.静電粉体塗料
本発明の実施形態に係る静電粉体塗料は、焼き付けによって被塗装物品に塗膜を形成させる、溶媒(水分や有機溶剤などの液体成分)を実質的に含まない塗料であって、軟化点の異なるガラス粒子(A)とガラス粒子(B)とを少なくとも含む。そして、ガラス粒子(A)は焼き付け温度で軟化し、ガラス粒子(B)は焼き付け温度で軟化しない、ガラス粒子である。このように、軟化点の異なるガラス粒子(A)及び(B)を含み、ガラス粒子(A)が焼き付け温度にて軟化することで、焼き付け温度においてガラス粒子(A)がバインダとして機能し、塗膜を形成することができる。
なお、静電粉体塗料は、上記ガラス粒子(A)及び(B)に加え、適宜他の成分を含んでいてもよい。以下、静電粉体塗料に含まれる成分について説明する。
【0010】
<ガラス粒子(A)>
ガラス粒子(A)は、後述するガラス粒子(B)と軟化点が異なり、且つ、焼き付け温度で軟化する限り、その組成は特に限定されない。
例えば、旭硝子株式会社製のガラスフリット LS-5-300M、K-303、日本フリット株式会社製のガラスフリット EY0077、CK5425のような市販のガラス粒子を使用することができる。焼き付け温度で軟化する異なる組成のガラス粒子を2種以上、ガラス粒子(A)として配合してもよい。
【0011】
ガラス粒子(A)は、焼き付け温度で軟化するため、その軟化点は焼き付け温度よりも低い。本明細書において軟化点とは、ガラスが自重で変形する温度をいう。この温度は10の7.65乗ポアズの粘度に相当し、ガラスの軟化点は、JIS R 3103-1に従って測定することができる。
ガラス粒子(A)の軟化点は、焼き付け温度よりも10℃以上低いことが好ましく、焼き付け温度よりも50℃以上低いことがより好ましく、焼き付け温度よりも100℃以上低いことが更に好ましい。具体的な軟化点としては、通常300℃以上、好ましくは350℃以上、より好ましくは400℃以上であり、また通常850℃以下、好ましくは750℃以下であり、より好ましくは650℃以下である。また、ガラス粒子(A)の軟化点と、後述する焼き付け温度で軟化しないガラス粒子(B)の軟化点との差は、20℃以上であることが好ましく、より好ましくは60℃以上であり、更に好ましくは110℃以上、特に好ましくは150℃以上である。
【0012】
ガラス粒子(A)の形状は、粒子であれば特段限定されず、真球状、略球状、棒状、フレーク状、板状、鱗片状、中空形状、多孔形状など、いずれの形状であってよく、またこれらの混合物であってよい。軟化のし易さの観点から、厚みの薄いフレーク状、板状、鱗片状などのガラスを用いてもよい。
【0013】
ガラス粒子(A)の粒径(メジアン径:d50、d90)は特段限定されず、d50が5μm以上50μm以下であってよく、好ましくはd50が5μm以上30μm以下である。d90/d50としては特に制限されないが、8以下が好ましく、4以下がより好ましい。また、ガラス粒子(A)として、複数種のガラス粒子を用いる場合、異なる粒径のものを組み合わせてもよい。なお、ガラス粒子(A)の粒径は粒度分布計を用いて測定できる。粒度分布計としては例えば、株式会社堀場製作所製 レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-960を用いることができる。
【0014】
ガラス粒子(A)の線膨張係数は、通常ガラスが有している線膨張係数の範囲であれば特段限定されず、例えば10.0~15.0×10-6/Kの範囲内である。
また、ガラス粒子(A)は、必要に応じて表面処理されていてもよい。例えば、二次凝集防止のための表面処理がなされていてもよい。
【0015】
<ガラス粒子(B)>
ガラス粒子(B)は、前記のガラス粒子(A)と軟化点が異なり、且つ、焼き付け温度で軟化しない限り、その組成は特に限定されない。また、その形状も特段限定されないが、塗膜の熱伝導率を低下させる観点から、ガラス粒子(B)は孔及び/又は空隙を有するガラス粒子であることが好ましい。孔を有するガラス粒子としては、典型的には多孔質ガラスが挙げられ、空隙を有するガラス粒子としては、典型的には中空ガラスが挙げられるが、孔及び/又は空隙を有していればこれに限定されるものではない。なお、ここでいう中空とは、内部に空洞を有した構造を指し、例えば内部に空洞を有する球状構造やドーナツ構造であってよい。また、多孔質とは、内部に多数の孔を有した構造を指す。
【0016】
ガラス粒子(B)としては、前記のガラス粒子(A)と軟化点が異なり、且つ、焼き付け温度で軟化しないものであればよく、上記ガラス粒子(A)で例示したガラス粒子であってもよい。その他、中空ガラスとして、ポッターズ・バロティーニ株式会社製の中空ガラスビーズ Sphericel 60P18,45P25、スリーエムジャパン株式会社製の中空ガラスビーズ グラスバブルズS42XHS,iM30Kのような市販の中空ガラスであってよい。また、多孔質ガラスとしては、AGCエスアイテック株式会社製の多孔質シリカ サンスフェア H-51、富士シリシア化学株式会社製の多孔質シリカ サイロスフェア C-1510のような市販の多孔質ガラスであってよい。
焼き付け温度で軟化しない異なる組成のガラス粒子を2種以上、ガラス粒子(B)として配合してもよい。
【0017】
ガラス粒子(B)の粒径(メジアン径:d50、d90)は特段限定されず、d50が5μm以上50μm以下であってよく、好ましくはd50が5μm以上30μm以下である。d90/d50としては特に制限されないが、8以下が好ましく、4以下がより好ましい。また、ガラス粒子(B)として、複数種のガラス粒子を用いる場合、異なる粒径のものを組み合わせてもよい。
【0018】
ガラス粒子(B)は、焼き付け温度で軟化しないため、その軟化点は焼き付け温度よりも高い。
ガラス粒子(B)の軟化点は、焼き付け温度よりも10℃以上高いことが好ましく、焼き付け温度よりも50℃以上高いことがより好ましく、焼き付け温度よりも100℃以上高いことが更に好ましい。具体的には、軟化点が通常320℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは500℃以上であり、また通常2000℃以下、好ましくは1500℃以下であり、より好ましくは1000℃以下である。
【0019】
ガラス粒子(B)として中空ガラスを用いる場合、そのグラス厚(粒子の外縁から内部の空洞までのガラス厚さ)は例えば0.5μm以上1.5μm以下であってよい。中空ガラスの空隙率は例えば30vol%以上であってよく、50vol%以上であってよく、上限は限定されないが、空隙率が過度に大きい場合には、耐衝撃性に劣るため通常85vol%以下であり、80vol%以下であってよい。
また、ガラス粒子(B)として多孔質ガラスを用いる場合、その比表面積(BET比表面積)が例えば300m2/g以上であってよく、500m2/g以上であってよく、上限は限定されないが、比表面積が過度に大きい場合には、耐衝撃性に劣るため通常1000m2/g以下である。
【0020】
ガラス粒子(B)は焼き付け温度で軟化せず、塗膜の強度に寄与する。そのためガラス粒子(B)の耐圧強度は、通常20MPa以上、好ましくは50MPa以上、より好ましくは80MPa以上であってよい。
なお、ガラス粒子(B)は、必要に応じて表面処理がされていてもよい。例えば、二次凝集防止のための表面処理がなされていてもよい。
【0021】
<その他の成分>
本実施形態に係る静電粉体塗料には、上記ガラス粒子(A)及び(B)以外の成分として、一般的に静電粉体塗料に用いられる添加剤等を配合することができる。例えば、上記ガラス粒子(A)及びガラス粒子(B)の表面に付着することにより静電粉体塗料の流動性を制御できる流動性調整剤や流動性付与剤(例えば微粒子シリカ等)が挙げられ、例えば、株式会社トクヤマ製 乾式シリカ レオロシールが挙げられる。
【0022】
その他、塗膜に意匠性を付与する目的で白色顔料、赤色顔料などの各種顔料を添加してもよい。また各種樹脂成分を含有させてもよいが、樹脂を全く含まない形態であってもよい。
【0023】
<静電粉体塗料の製造方法>
本実施形態に係る静電粉体塗料は上記ガラス粒子(A)及び(B)を所定の比率にて配合し、必要に応じて上記その他の成分を配合し、これらを混合することによって製造することができる。
混合方法は特に限定されず、既知の方法を適用することができる。例えば、市販の容器回転式混合機を用いて混合することができ、混合時間、混合温度等も当業者が適宜設定できる。
上記ガラス粒子(A)及び(B)の配合比率は、ガラス粒子(A)がバインダとして機能するために必要な量が配合されていればよく、具体的には静電粉体塗料の総量に対してガラス粒子(A)の含有量が40wt%以上95wt%以下であってよく、好ましくは50wt%以上90wt%以下である。また静電粉体塗料の総量に対してガラス粒子(B)の含有量は1wt%以上50wt%以下であってよく、得られる塗膜の耐熱性の観点から5wt%以上30wt%以下であることが好ましい。
【0024】
2.塗膜の製造方法
上述の静電粉体塗料を被塗装物品に塗装する塗装工程と、塗装した静電粉体塗料を焼き付け温度で焼き付ける焼付工程とを実施することにより塗膜を製造し、該塗膜を有する塗装物品を得ることができる。
塗装した静電粉体塗料を焼き付けることによって、ガラス粒子(A)は軟化してバインダとして機能し、軟化していないガラス粒子(B)を有する塗膜が形成される。
【0025】
<被塗装物品>
被塗装物品の形状は特段限定されず、成形前の板材であっても成形品であってもよい。その材質も特段限定されず、金属材料では例えば、鉄、アルミニウム、チタン、マグネシウム、ニッケル、銅、銀、金、及び、前記金属が主成分である合金が挙げられる。非金属材料では例えばガラス、セラミックス、耐熱プラスチック等が挙げられる。また、絶縁性材料の場合、静電気を逃がすために表面に導電性処理を施したものが望ましい。例えば、無電解めっきや真空蒸着などが挙げられる。
【0026】
<塗装工程>
静電粉体塗料の塗装方法としては、一般的な静電粉体塗装法を用いることができる。ここでいう静電粉体塗装法とは、静電粉体塗装ガンで静電粉体塗料を帯電させた状態で噴霧
し、アースを取った被塗装物品に帯電による静電気力によって接触させる方法を意味する。
【0027】
静電粉体塗装法で使用される塗装装置は、特段限定されず、一般的な静電粉体塗装装置を用いることができる。例えば、パーカーエンジニアリング株式会社の静電粉体塗装装置
GX-8500αβなどが挙げられる。
なお、静電粉体塗料を用いた静電粉体塗装は、静電粉体塗料を混合しながら行うことが好ましい。
また、塗装される被塗装物品の表面を清浄化したり、該表面の表面粗さを調整したりするために、例えば、脱脂、酸洗、研磨、ブラスト等の前処理を施してもよい。
【0028】
<焼付工程>
塗装した静電粉体塗料の焼き付け方法は特に限定されず、一般的な方法を用いることができる。例えば、熱風乾燥炉等の焼付装置による焼き付け方法、遠赤外線加熱や高周波加熱のような手段による焼き付け方法等が挙げられる。
【0029】
焼き付け温度は、被塗装物品に応じて適宜設定すればよく、ガラス粒子(A)がガラス粒子(B)を保持するバインダとして機能しうる温度であれば特に制限されるものではない。通常、310℃以上950℃以下の範囲内であり、350℃以上800℃以下の範囲内であることが好ましい。具体的には、ガラス粒子(A)の軟化点より10℃以上高い温度であってよく、好ましくは50℃以上高い温度、より好ましくは100℃以上高い温度であってよい。かつ、ガラス粒子(B)の軟化点以下であり、被塗装物品が変形しない温度である必要がある。
【0030】
焼き付け時間は、焼き付け温度にもよるが、ガラス粒子(A)がガラス粒子(B)を保持するバインダとして機能できれば特に制限されるものではない。焼き付け温度がガラス粒子(A)の軟化点より100℃高い場合には、典型的には10分以上5時間以下焼き付けを行えばよい。
【0031】
上記焼付工程後に、適宜後処理を行ってもよい。後処理としては、例えば、塗装物品に対する表面粗さ調整、濡れ性調整、彩色等の処理が挙げられる。より具体的には、塗装表面の研磨処理、塗装表面の親水性処理、塗装表面の撥水性処理、塗装表面への彩色塗装等が挙げられる。
【0032】
塗装物品の塗膜の厚さは、特段限定されず、また用途によって適宜設定され得るが、通常20μm~500μmであり、好ましくは30μm~200μm、より好ましくは50μm~150μmである。
【0033】
また、ガラス粒子(B)として、中空ガラスや多孔質ガラスなどの孔を有するガラス粒子を用いる場合、得られる塗膜には空隙が存在し、塗膜の熱伝導率を低下させることができる。塗膜の空隙率は、例えば5vol%~50vol%であってよく、好ましくは10~30vol%である。
塗膜の空隙率の測定方法は、塗膜断面の顕微鏡写真から、塗膜全体の面積と、ガラス粒子(B)の面積を測定し、その比率から計算で求めることができる。なお、塗膜中の空隙の局在の可能性を考慮すると、アトランダムに3か所以上、好ましくは5か所以上、より好ましくは10箇所以上の断面の空隙率を測定し、その平均値を採用することが好ましい。
【0034】
3.塗装物品
被塗装物品に対して上記塗膜の製造方法を適用することによって塗膜を有する塗装物品
を得ることができる。このようにして得られた塗装物品は、宇宙産業部品、航空産業部品、自動車部品、建築部材、調理用品などに有用である。特に良好な耐熱性を有する塗装物品は、宇宙産業部品、航空産業部品、自動車部品などに特に有用である。
【実施例】
【0035】
以下、具体的な実施例によって、本発明を更に詳細に説明する。下記実施例により、本発明の範囲が限定されるものではない。
【0036】
<被塗装物品>
株式会社パルテック製ステンレス鋼板 SUS304(2B仕上げ、70mm×150mm×0.8mm)を用いた。
【0037】
<被塗装物品の前処理>
日本パーカライジング株式会社製 ファインクリーナーE6408を用いて、被塗装物品の油分や汚れを取り除いた。次に、純水を流しかけ、その後100℃雰囲気のオーブンで加熱し、水分を除去した。
【0038】
<実施例1>
<実施例1の静電粉体塗料の製造方法>
ガラス粒子(A):旭硝子株式会社製のガラスフリット K-303(軟化点431℃、メジアン径d50=8.0μm、線膨張係数12.9×10-6/K)と、ガラス粒子(B):ポッターズ・バロティーニ株式会社製の中空ガラスビーズ Sphericel
60P18(軟化点830℃、メジアン径d50=18μm、耐圧強度55MPa)とを(A):(B)=70wt%:30wt%となるように容器回転式混合器を用いて混合したものを実施例1の静電粉体塗料とした。
【0039】
<実施例1の静電粉体塗料を用いた塗膜の製造方法>
上記調製した実施例1の静電粉体塗料をパーカーエンジニアリング株式会社の静電粉体塗装装置 GX-8500αβとGX132静電粉体塗装ガン(スリットノズル)を用い、水平に設置した被塗装物品の真上から吹き付けた。このとき、ガン電圧100kV、ガン電流値35μA、塗料吐出量50%、塗料搬送空気量50L/minに設定し、ガンの吐出口と被塗装物品の距離を300mmとした。
続いて、実施例1の静電粉体塗料を吹き付けた被塗装物品を、電気マッフル炉(アドバンテック東洋株式会社 FUW220PA)を用いて焼き付けた。焼き付け条件は、焼き付け温度500℃、昇温時間30分、焼き付け温度での保持時間1時間とした。焼き付け後、炉の電源を切って炉内で塗装物品を1時間冷却した後、炉内から塗装物品を取り出して25℃の室内に放置して徐冷した。
【0040】
<実施例2>
<実施例2の静電粉体塗料の製造方法>
ガラス粒子(A):旭硝子株式会社製のガラスフリット 9079-150(軟化点344℃、メジアン径d50=13.0μm、線膨張係数12.2×10-6/K)と、ガラス粒子(B):ポッターズ・バロティーニ株式会社製の中空ガラスビーズ Sphericel 45P25(軟化点830℃、メジアン径d50=27μm、耐圧強度28MPa)とを(A):(B)=80wt%:20wt%となるように容器回転式混合器を用いて混合したものを実施例2の静電粉体塗料とした。
【0041】
<実施例2の静電粉体塗料を用いた塗膜の製造方法>
上記調製した実施例2の静電粉体塗料をパーカーエンジニアリング株式会社の静電粉体塗装装置 GX-8500αβとGX132静電粉体塗装ガン(スリットノズル)を用い
、水平に設置した被塗装物品の真上から吹き付けた。このとき、ガン電圧100kV、ガン電流値35μA、塗料吐出量50%、塗料搬送空気量50L/minに設定し、ガンの吐出口と被塗装物品の距離を300mmとした。
続いて、実施例2の静電粉体塗料を吹き付けた被塗装物品を、電気マッフル炉を用いて焼き付けた。焼き付け条件は、焼き付け温度400℃、昇温時間30分、焼き付け温度での保持時間1時間とした。焼き付け後、炉の電源を切って炉内で塗装物品を1時間冷却した後、炉内から塗装物品を取り出して25℃の室内に放置して徐冷した。
【0042】
<実施例3>
<実施例3の静電粉体塗料の製造方法>
ガラス粒子(A):旭硝子株式会社製のガラスフリット LS-5-300M(軟化点575℃、メジアン径d50=10.0μm、線膨張係数10.5×10-6/K)と、ガラス 粒子(B):AGCエスアイテック株式会社製の多孔質球状シリカH-51(軟化点1650℃、メジアン径d50=5μm、耐圧強度40MPa)とを(A):(B)=85wt%:15wt%となるように容器回転式混合器を用いて混合したものを実施例3の静電粉体塗料とした。
【0043】
<実施例3の静電粉体塗料を用いた塗膜の製造方法>
上記調製した実施例3の静電粉体塗料をパーカーエンジニアリング株式会社の静電粉体塗装装置 GX-8500αβとGX132静電粉体塗装ガン(スリットノズル)を用い、水平に設置した被塗装物品の真上から吹き付けた。このとき、ガン電圧100kV、ガン電流値35μA、塗料吐出量50%、塗料搬送空気量50L/minに設定し、ガンの吐出口と被塗装物品の距離を300mmとした。
続いて、実施例3の静電粉体塗料を吹き付けた塗装物品を、電気マッフル炉を用いて焼き付けた。焼き付け条件は、焼き付け温度650℃、昇温時間1時間、焼き付け温度での保持時間1時間とした。焼き付け後、炉の電源を切って炉内で塗装物品を2時間冷却した後、炉内から塗装物品を取り出して25℃の室内に放置して徐冷した。
【0044】
<塗膜の評価>
膜厚:株式会社ケツト科学研究所製渦電流膜厚計 LH-200Jを用いて膜厚を測定した。塗装物品の塗装部分を3等分し、それぞれの部位で5箇所ずつ膜厚を測定し、計15箇所の測定値の平均値を膜厚とした。
空隙率:塗膜断面の顕微鏡写真を撮影し、任意に選択した3箇所の塗装部分に対して、所定の塗装面積に占めるガラス粒子(B)の面積の割合を測定し、その割合の平均を空隙率として求めた。
【0045】
焼き付け後のクラック発生の有無:塗膜の焼き付け後に、株式会社日立ハイテクノロジーズ製卓上顕微鏡 TM-3000を用いて塗膜表面を観察し、クラック発生の有無を確認した。
塗膜付着性:JIS K 5600-5-6:1999の塗料一般試験方法(第5部:塗膜の機械的性質及び第6節:付着性(クロスカット法))により評価した。カッターナイフを用いて、塗装物品の塗膜に一辺が2mmの格子で、5×5個(25個)の碁盤目となるように切込みを加えた。切込みを加えた部分に幅が24mmとなるセロハンテープを付着させ、セロハンテープを剥がす操作を行った。塗膜物品の碁盤目部の塗膜の一部がセロハンテープに付着した場合、塗膜物品に残存する塗膜の割合を残存率として算出し、以下の基準にしたがって評価した。
(評価基準)
S:残存率が90%以上100%以下である。(最も良い残存率)
A:残存率が70%以上90%未満である。
B:残存率が50%以上70%未満である。
C:残存率が50%未満である。
【0046】
<塗膜耐熱性>
実施例1~3の静電粉体塗料を用いて製造した各種塗膜を有する塗装物品を、以下に示す温度で6時間加熱し、取り出した後の塗膜表面を観察し、クラック発生の有無を確認した。なお、加熱は、上記電気マッフル炉を用いて、焼き付け温度と同じ温度で実施した。電気マッフル炉による加熱は電気マッフル炉の最大出力で行った。上記加熱終了後、3時間かけて300℃未満まで炉内冷却を行った。炉内冷却後に塗装物品を取り出し、25℃の室内に放置して徐冷を行った。クラック発生の有無の確認は上記卓上顕微鏡を用いて塗膜表面を観察することで行った。
実施例の塗膜の評価結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
表1に示すように、2種類のガラス粒子を用いた実施例の静電粉体塗料は、耐熱性に優れた塗膜となり得ることがわかった。