(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
B23D 47/00 20060101AFI20220330BHJP
B27B 9/00 20060101ALI20220330BHJP
B27G 19/04 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
B23D47/00 Z
B27B9/00 E
B27G19/04 Z
(21)【出願番号】P 2018049212
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポンハーン アヌポン
(72)【発明者】
【氏名】久米 翔
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/047433(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0251258(US,A1)
【文献】実開平07-031302(JP,U)
【文献】特開2011-098420(JP,A)
【文献】特開2012-196735(JP,A)
【文献】特開2015-112652(JP,A)
【文献】特開2016-135540(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061556(WO,A1)
【文献】中国実用新案第202780026(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2009/0223069(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0281508(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0257021(US,A1)
【文献】実開昭59-005302(JP,U)
【文献】特開平02-303776(JP,A)
【文献】特開平06-238557(JP,A)
【文献】特開平07-304003(JP,A)
【文献】特開2003-251523(JP,A)
【文献】特開2015-016552(JP,A)
【文献】国際公開第2012/040891(WO,A1)
【文献】米国特許第5875698(US,A)
【文献】米国特許第6042310(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0292148(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102005037530(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 3/08
B23D 21/00
B23D 45/00-65/04
B24B 27/06
B25D 1/00-17/32
B25F 1/00-5/02
B26D 3/16
B27B 1/00-23/00
B27B 33/08
B27F 1/00
B27F 1/08
B27F 5/02
B27G 1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
・請求項1
(訂正前) (訂正後)
「前記操作補助部材として」 → 「前記操作補助部として」
【請求項2】
請求項
1記載の電動工具であって、
前記操作補助部は、前記ロック部材の前記ロック位置側への操作方向と同じ方向に突出する部位を有する構成とした電動工具。
【請求項3】
ブラシレスモータを駆動源として先端工具を回転させる電動工具であって、
前記ブラシレスモータのモータ軸から前記先端工具を取り付けたスピンドルに至る動力伝達経路中の動力伝達部材にロック部材を係合させて前記スピンドルの回転をロックするスピンドルロック機構を備え、
前記ロック部材は、前記動力伝達部材に係合するロック位置と、係合が解除されるアンロック位置との間を移動可能、かつ前記アンロック位置側に付勢して設けられており、
前記スピンドルロック機構は、前記ロック部材に加えて、該ロック部材を移動操作する指先とは別の指先を当接させるための操作補助部を備え、
前記操作補助部は、前記ロック部材の前記ロック位置側への操作方向と同じ方向に突出する部位を有する構成とした電動工具。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の電動工具であって、
前記ロック部材は、前記モータ軸の径方向に移動して前記ロック位置と前記アンロック位置に移動操作され、前記ロック位置で前記モータ軸に係合して前記モータ軸を回転ロックする構成とした電動工具。
【請求項5】
請求項1~
4の何れか1項に記載した電動工具であって、
前記ロック部材は、前記ブラシレスモータのモータハウジングと、前記ブラシレスモータの出力を減速する減速ギヤ部のギヤハウジングとの結合部付近に配置されて、前記モータ軸に対して係合可能に設けられ
るとともに、
前記モータハウジングの前部に使用者が把持するフロントグリップ部が設けられ、前記モータハウジングの後部に前記フロントグリップ部とは別の手で把持するメイングリップ部が設けられており、前記フロントグリップ部の基部に前記操作補助部を設けた電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを駆動源として先端工具を回転させて加工材を加工する電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば携帯マルノコと称される切断機では、電動モータを駆動源として回転するスピンドルに、鋸刃や砥石等の円形の先端工具(回転刃具)が取り付けられる。通常、先端工具は、スピンドルの先端部に対して固定ねじを同軸回りに締め込んで取り付けられる。このため、先端工具の交換等のメンテナンス作業を行う際には、固定ねじをスピンドルに対して軸回りに締め付け、あるいは緩める必要があり、その際の便宜を図るためにスピンドルの回転がロックされていることが望ましい。このことから、この種の切断機では、電動モータのモータ軸若しくはスピンドルにロック部材を係合させてその回転をロックするスピンドルロック機構が備え付けられている。
【0003】
スピンドルロック機構に関する従来の技術が下記の特許文献に開示されている。下記の特許文献1には、ブラシ付きの電動モータのモータ軸若しくは減速ギヤ部の出力軸に相当するスピンドルに対してロック部材を径方向に移動させて係脱させて、スピンドル等の回転をロックし、若しくはアンロックする構成としたスピンドルロック機構が開示されている。係る従来のスピンドルロック機構によれば、ロック部材をロック位置に移動操作してスピンドル等の回転をロックした状態で先端工具を固定する固定ねじの締め付け、緩め作業を迅速かつ楽に行うことができ、この点で切断機のメンテナンス性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平7-31302号公報
【文献】特開2015-112652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のスピンドルロック機構についてはさらに改良を加える必要があった。
【0006】
例えば、上記特許文献2に開示されているようにいわゆるブラスレスモータを駆動源として内装している場合には、モータ停止状態であってもロータの永久磁石の磁力の影響によりロック部材のスムーズな動作に支障をきたす場合があった。そのため、その分だけアンロック位置に戻すためのばね付勢力を強く設定する必要があったが、そうするとロック部材をロック位置側に移動させる場合により大きな操作力が必要になり、この点でロック部材の操作性が損なわれる問題があった。
【0007】
本発明は、駆動源としてブラシレスモータを用いる場合であっても、スピンドルロック機構のロック部材の操作を楽に行えるようにすることを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題は以下の各発明により解決される。第1の発明は、ブラシレスモータを駆動源として先端工具を回転させる電動工具である。第1の発明では、ブラシレスモータのモータ軸から先端工具を取り付けたスピンドルに至る動力伝達経路中の動力伝達部材にロック部材を係合させてスピンドルの回転をロックするスピンドルロック機構を備え、ロック部材は、動力伝達部材に係合するロック位置と、係合が解除されるアンロック位置との間を移動可能、かつアンロック位置側に付勢して設けられており、スピンドルロック機構は、ロック部材に加えて、ロック部材を移動操作する指先とは別の指先を当接させるための操作補助部を備えた構成となっている。
【0009】
第1の発明によれば、例えば親指(操作指)でロック部材をロック位置側に押し操作する際に、同じ手の人差し指や中指や薬指や小指(操作指とは別の指先)を操作補助部に当接させることにより、親指等の操作指により大きな押し操作力をロック部材に加えやすくなる。大きな押し操作力を加えやすくなることから、ロック部材をアンロック位置側に戻すための付勢力がブラシレスモータの磁力分だけ強く設定され、その結果より大きな押し操作力が要求される場合についても、ロック部材のロック位置側への操作性を高めることができる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、ロック部材を押し操作してロック位置側に直線移動させる際に、操作指とは別の指先を引き掛けるための引き掛け部を操作補助部として設けた電動工具である。
【0011】
第2の発明によれば、ロック部材を移動操作する指先(例えば親指、操作指)とは別の指先(同じ手の例えば人差し指や中指や薬指や小指、あるいはこれらのうち複数の指先)を操作補助部の引き掛け部に引き掛けて当接させることにより、ロック部材に対してより大きな操作力を加えやすくなって、操作性を一層高めることができる。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、操作補助部は、ロック部材のロック位置側への操作方向と同じ方向に突出する部位を有する構成とした電動工具である。
【0013】
第3の発明によれば、操作補助部に、ロック部材のロック位置側への操作方向(例えば押し込み方向)と同じ方向に突出する(張り出す)部位が設けられていることにより、当該部位に操作指とは別の指先(人差し指や中指や薬指や小指)を引き掛ける等してロック部材に対してロック位置側へより大きな操作力を加えることができ、この点でロック部材の操作性をより高めることができる。
【0014】
第4の発明は、第1~第3の何れか一つの発明において、ロック部材は、ブラシレスモータのモータハウジングと、ブラシレスモータの出力を減速する減速ギヤ部のギヤハウジングとの結合部付近に配置されて、モータ軸に対して係合可能に設けられた電動工具である。
【0015】
第4の発明によれば、モータハウジングとギヤハウジングとの結合部(ブラシレスモータと減速ギヤ部との結合部)付近にロック部材が配置されており、このロック部材をモータ軸の径方向に移動操作して当該ロック部材をモータ軸に係合させて当該モータ軸ひいてはスピンドルの回転がロックされる。ロック部材がモータハウジングとギヤハウジングの結合部付近に配置されることにより、当該スピンドルロック機構の組付け性及びメンテナンス性を高めることができる。
【0016】
第5の発明は、第4の発明において、モータハウジングの前部に使用者が把持するフロントグリップ部が設けられ、モータハウジングの後部にフロントグリップ部とは別の手で把持するメインハンドル部が設けられており、フロントグリップ部の基部に操作補助部を設けた電動工具である。
【0017】
第5の発明によれば、フロントグリップ部と操作補助部とが接近して配置されることによりフロントグリップ部を把持した手を迅速に移動させて操作補助部に指先を当接させることができ、この点で操作補助部の操作性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る切断機の右側面図である。本図は、第1実施形態に係る操作補助部を備えた切断機を示している。
【
図2】本発明の実施形態に係る切断機を
図1中矢印(II)方向から見た平面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る切断機を
図1中矢印(III)方向から見た前面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る切断機を
図3中矢印(IV)方向から見た左側面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る切断機の
図3中(V)-(V)線断面矢視図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る切断機の
図4中(VI)-(VI)線断面矢視図である。
【
図7】ロック部材の操作状態を平面的に見た図である。
【
図8】別形態に係る操作補助部を備えた切断機の左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態を
図1~
図8に基いて説明する。以下説明する実施形態では、電動工具の一例として、使用者が手で移動操作して切断加工を行う携帯式の切断機1を例示する。本実施形態の切断機1は、切断材Wの上面に当接させる矩形平板形状のベース2と、ベース2の上面に支持された切断機本体10を備えている。切断機本体10は、ベース2の前部上面に設けた前側支持部3と、後部上面に設けた後側支持部4を介して上下に揺動可能、かつ左右に傾動可能に支持されている。
【0020】
切断機本体10は、電動モータ20を駆動源として回転する円形の先端工具12を備えている。先端工具12の下部側は、ベース2の下面側に突き出されている。この突き出し部分が切断材Wに切り込まれて切断加工がなされる。ベース2に対して切断機本体10を上下に揺動させて先端工具12の下面側への突き出し量を変更することにより、先端工具12の切断材Wに対する切り込み深さを調整することができる。先端工具12の下部側は、可動カバー13で覆われている。可動カバー13は、先端工具12に沿って開閉可能に設けられている。
【0021】
先端工具12の上部側は固定カバー14で覆われている。固定カバー14の前部及び後部が前側支持部3と後側支持部4を介してベース2に支持されている。固定カバー14の後部には、発生した粉塵を集塵するための集塵ホースあるいは集塵用のダストバックを取り付けるための集塵ダクト14aが設けられている。
【0022】
図6に示すように固定カバー14の左側面に減速ギヤ部15を介して電動モータ20が結合されている。減速ギヤ部15を経て電動モータ20の出力が減速されて先端工具12を取り付けたスピンドル16に出力される。
【0023】
本実施形態では、電動モータ20にブラシレスモータが用いられている。電動モータ20は、モータハウジング21の内周側に固定された固定子22と、固定子22の内周側に支持された回転子23を備えている。回転子23の鉄心には、複数の永久磁石23aが埋め込まれている。複数の永久磁石23aの位置が、固定子22の左端部に取り付けたセンサ基板22aで検知されて電動モータ20の回転制御がなされる。回転子23を支持するモータ軸24は2つの軸受25,26を介して軸回りに回転自在に支持されている。モータ軸24は、当該電動モータ20の回転動力を先端工具12まで伝達するための動力伝達部材に相当する。右側の軸受25は、減速ギヤ部15のギヤハウジング15aに保持されている。左側の軸受26は、モータハウジング21の左端部に保持されている。
【0024】
モータ軸24の右端部側は、減速ギヤ部15に進入している。モータ軸24の右端部には駆動ギヤ24aが設けられている。駆動ギヤ24aには、減速ギヤ部15の従動ギヤ15bが噛み合わされている。従動ギヤ15bはスピンドル16に固定されている。スピンドル16は左右2つの軸受17,18を介してギヤハウジング15aに回転自在に支持されている。スピンドル16の右端部側は、固定カバー14の内側に突き出されている。固定カバー14内に突き出されたスピンドル16の右端部に、先端工具12が取り付けられている。先端工具12は、アウタフランジ12aとインナフランジ12bで板厚方向に挟まれた状態でスピンドル16に同軸に取り付けられている。先端工具12のスピンドル16に対する取り付け状態は、スピンドル16の右端面中心に設けたねじ孔16aに固定ねじ19を締め込んで固定されている。スピンドル16のねじ孔16aに対して固定ねじ19を緩めることにより、先端工具12をスピンドル16から取り外すことができる。
【0025】
電動モータ20には、モータ軸24の回転をロックするためのスピンドルロック機構50が併設されている。このスピンドルロック機構50により、スピンドル16に対する先端工具12の脱着作業の便宜を図ることができる。スピンドルロック機構50は、ロック部材51を備えている。
図6に示すようにロック部材51は、モータハウジング21とギヤハウジング15aとの結合部付近において、モータ軸24に対して径方向に変位可能に支持されている。
図5に示すようにロック部材51は、モータ軸24から前方やや斜め上方に向けて延びている。このため、ロック部材51の操作部51aは、
図2に示すように平面的に見れば電動モータ20よりも前方かつ前側支持部3よりも後方であって、固定カバー14の前端部付近と、グリップ本体部41の間に位置しており、使用者が指先で押し操作しやすいスペースのほぼ中央に配置されている。
【0026】
ロック部材51の機能自体は、従来と同様で本実施形態において特に変更を要するものではない。簡単に説明すると、
図5及び
図7に示すようにロック部材51に設けた長溝孔と円形孔(
図5では見えていない)を結合した鍵穴形状の係合孔51b内に、モータ軸24に設けた平面部(二面幅部)24bが位置されている。この平面部24bは、モータ軸24の側部に径方向に対向する位置に平行に設けられた同一形状の2つの平面である。また、ロック部材51は、圧縮ばね52によりアンロック側(モータハウジング21から突き出す方向)に付勢されている。使用者が圧縮ばね52の付勢力に抗してロック部材51をロック側(後方斜めやや下方)へ押し込み操作すると、相対的にモータ軸24の平面部24bが係合孔51bの長溝孔内に進入して、モータ軸24ひいてはスピンドル16が回転不能にロックされる。押し込み操作を解除すると、ロック部材51が圧縮ばね52の付勢力によりアンロック位置側に戻されて、相対的にモータ軸24の平面部24bが係合孔51bの円形孔内に戻され、その結果モータ軸24ひいてはスピンドル16の回転が許容される状態に復帰する。
図5と
図7には、ロック部材51のロック位置側への押し込み操作方向(ロック方向)と、アンロック位置側への復帰方向(アンロック方向)がそれぞれ白抜き矢印で示されている。
【0027】
ブラシレスモータ特有の現象として「コギング」が知られている。「コギング」とは回転子と固定子の回転方向の相対位置における特定位置(本実施形態においては約20箇所)において永久磁石の磁力による静止力が働き、磁力に抗して特定位置から回転させようとすると、特定位置に戻そうとするトルクが働く(これを「コギングトルク」と呼ぶ)。ロック部材51をモータ軸24の平面部24bに係合した状態でコギングが起きると、モータ軸24の平面部24bが係合孔51bの長溝孔に干渉してロック部材51にコギングトルクが作用する。このコギングトルクが、ロック部材51のアンロック位置側への力(圧縮ばね52の付勢力)と反対の方向への摩擦力(ロック位置に保持する力)として働くが、圧縮ばね52の力が通常よりも十分に大きいため、戻り不良等の動作不良を起こすことはない。本実施形態の切断機1は、圧縮ばね52の力が比較的大きいため、ロック部材51の押し込み操作(ロック操作)力を阻害させないための構造である操作補助部55が設けられている点で従来にない特徴を有している。操作補助部55の詳細については後述する。
【0028】
電動モータ20の上部には、コントローラ収容部30が設けられている。コントローラ収容部30には、電動モータ20の動作制御を行うためのコントローラ31が収容されている。コントローラ31は、底浅のケースに制御基板を収容して樹脂モールドしたもので、本実施形態では、最大平面の面方向を水平に沿わせ、電動モータ20と平行な姿勢で収容されている。このコントローラ31は、主として電動モータ20の動作制御を行うための制御回路や電源回路を含むもので、電動モータ20のセンサ基板22aで検知された回転子23の位置情報に基づいて制御信号を送信するマイコンからなる制御回路、この制御回路から受信した制御信号に基いて電動モータ20の電流をスイッチングするFETからなる駆動回路、及びバッテリパック39の状態の検出結果に応じて過放電又は過電流状態とならないように電動モータ20への電力供給を遮断するオートストップ回路等が搭載されている。コントローラ収容部30には、モータ冷却風が流れ込んでコントローラ31の冷却がなされるようになっている。電動モータ20が起動すると、モータ軸24に取り付けた冷却ファン27が回転する。冷却ファン27が回転することにより、モータハウジング21の左端面に設けた複数の吸気窓21aを経て外気がモータハウジング21内に導入される。モータハウジング21内に導入された外気(モータ冷却風)が右方に流れることにより固定子22及び回転子23等の冷却がなされる。
【0029】
モータハウジング21内に導入されたモータ冷却風の一部が、遠心ファンである冷却ファン27により放射方向に吹き付けられて、モータハウジング21内からコントローラ収容部30に流入する。コントローラ収容部30内に流入したモータ冷却風により、コントローラ31が冷却される。コントローラ収容部30に流入したモータ冷却風は、固定カバー14の左側部に向けて排気される。
図6において、モータ冷却風の流れであって、吸気窓21aを経てモータハウジング21内に流入する段階の流れ、モータハウジング21内からコントローラ収容部30内に流入する段階の流れ、コントローラ収容部30から排気される段階の流れがそれぞれ塗り潰した矢印で示されている。
【0030】
電動モータ20と減速ギヤ部15の結合部付近の上方には、使用者が把持するハンドル部35が設けられている。ハンドル部35は、山形を有しており、後方へ向かって下る方向に傾斜した部分が使用者が片手で把持するメイングリップ部35aとなっている。メイングリップ部35aの前部であって、山形頂部の内周側にメイングリップ部35aを把持した手の指先で上方へ引き操作するスイッチレバー36が配置されている。メイングリップ部35aの前部は、起立部35bを介して電動モータ20と減速ギヤ部15の結合部付近に結合されている。ハンドル部35の後部には、吊り下げ用のストラップを引き掛けておくための引き掛け部37が設けられている。
【0031】
ハンドル部35の下方であって、電動モータ20の後方には、平板形状のバッテリ取り付け部38が設けられている。バッテリ取り付け部38の上面にメイングリップ部35aの後部と引き掛け部37が結合されている。バッテリ取り付け部38の下面側に、2つのバッテリパック39を前後に並列状態で取り付けることができる。2つのバッテリパック39は、本実施形態の切断機1の電源として取り付けられるもので、他の電動工具にも使い回し可能な定格電圧18Vのリチウムイオンバッテリが用いられている。バッテリパック39は、バッテリ取り付け部38に対して右方へスライドさせて取り付けることができる。バッテリパック39は、バッテリ取り付け部38に対して左方へスライドさせることにより取り外すことができる。取り外したバッテリパック39は、別途用意した充電器で充電することにより繰り返し使用することができる。
【0032】
図4に示すように電動モータ20の前側には、使用者が把持するフロントグリップ部40が設けられている。使用者は右手でメイングリップ部35aを把持し、左手でフロントグリップ部40を把持して、当該切断機1の移動操作を両手で行うことができる。フロントグリップ部40は、使用者が実際に把持するグリップ本体部41と、グリップ本体部41をモータハウジング21の前方に支持するためのグリップ基部42を備えている。グリップ本体部41は、使用者が片手で把持しやすい横長の円柱体形を有している。グリップ本体部41は、グリップ基部42の上部に結合されている。グリップ基部42は、モータハウジング21の前部から上方へ延びている。
【0033】
グリップ基部42の下部には、操作補助部55が設けられている。前記したように操作補助部55は、スピンドルロック機構50のロック部材51の押し込み操作(ロック操作)をより楽に行えるようにする機能を有している。本実施形態に係る操作補助部55は、グリップ基部42の下部から下方へ張り出す状態で設けられている。
図3に示すように操作補助部55は、グリップ基部42よりも左右方向にやや大きな幅の平板形状を有している。操作補助部55は、幅広に設けられることにより、使用者が例えば
図7に示すように人差し指F2、中指F3、薬指F4又は小指F5の指先を前側から引き掛けるように当接させることができる。本実施形態において、操作補助部55は、指先引き掛け部として機能する。
【0034】
スピンドル16の回転をロックするためにスピンドルロック機構50のロック部材51を押し込み操作する際に、使用者は例えば
図7に示すように左手の人差し指F2、中指F3、薬指F4又は小指F5の指先を操作補助部55に引き掛け、この引き掛け状態のまま、親指F1でロック部材51をロック側へ押し込み操作することができる。このように、親指F1を操作指としてロック部材51を押し込み操作する際に、その他の指(操作指以外の指)の指先を操作補助部55に引き掛けることができ、これにより押し込み操作時に親指F1(操作指)が受けるロック部材51の付勢力をその他の指を経て操作補助部55で受けることができることから、ロック部材51に対してより大きな押し込み操作力を付加することができる。これにより、回転子23の磁力が作用する分だけアンロック位置側への付勢力を大きく設定したロック部材51であっても、そのロック位置側への押し込み操作を楽に行うことができる。
【0035】
以上説明した実施形態によれば、スピンドルロック機構50において、ロック部材51のアンロック位置側への押し込み操作を行う際に、操作指としての親指F1以外の指先を操作補助部55に引き掛けて、操作指により大きな押し込み力をロック部材51に付加することできる。ロック部材51に対して大きな押し込み力を楽に付加できるようになることから、当該ロック部材51のアンロック位置側への付勢力を大きく設定したことによる不具合(ロック位置側への押し込み操作時により大きな操作力が要求される問題)を解消して、当該ロック部材51の操作性を高めることができる。
【0036】
特に、ロック部材51が後方斜め下方に向けて押し込み操作されてロック位置側に移動操作される構成であり、係る操作方向が操作補助部55の張り出し方向(下向き)に一致していることから、操作補助部55で反力を受けつつ、ロック部材51に大きな操作力を付加する当該ロック部材51の押し込み操作をより楽に行うことができる。
【0037】
ロック部材51が、電動モータ20と減速ギヤ部15との結合部付近に配置されていることにより、当該ロック部材51の組付け性及びメンテンナンス性が確保されている。
【0038】
また、例示した実施形態では、フロントグリップ部40のグリップ基部42の下部側(モータハウジング21に対する結合側の基部)に操作補助部55を設けた構成となっている。グリップ本体部41と操作補助部55が接近して配置されることにより、グリップ本体部41を把持した手(左手)を迅速に移動させてその指先を操作補助部55に引き掛けることができ、この点で当該操作補助部55の操作性を高めることができる。
【0039】
以上説明した実施形態には種々変更を加えることができる。例えば、電動モータ20のモータ軸24に対してロック部材51を係合させて、スピンドル16の回転をロックするスピンドルロック機構50を例示したが、スピンドル16に対して直接ロック部材を係合させて当該スピンドル16の回転をロックする構成、あるいは減速ギヤ部15の従動ギヤ15bに対してロック部材を径方向又は軸線方向に係合させて、スピンドル16の回転をロックする構成であってもよい。要は、電動モータ20のモータ軸24から先端工具12を取り付けたスピンドル16に至る動力伝達経路中の動力伝達部材にロック部材を係合させてスピンドル16の回転をロックする構成としたスピンドルロック機構について例示した操作補助部55を適用することができる。
【0040】
また、下方へ張り出す平板形状の操作補助部55を例示し、この操作補助部55に対してその他の指の指先を後面側へ伸ばして引き掛ける構成を例示したが、係る引き掛け構造ではなく、単にその他の指先を当接させて(押し付けて)操作指が受ける反力を受ける構成としてもよい。その他の指の指先を当接させる部位としては、ロック部材51から受ける反力方向に交差する方向の押し付け力を付加できる部位、例えば操作補助部55の前面や下面に設定することができる。
【0041】
また、
図8に示すように操作補助部55には、指先をより確実に引き掛けるための引き掛け部56を設ける構成としてもよい。引き掛け部56は、操作補助部55の下部から後方へ張り出す状態に設けられている。この引き掛け部56により、操作指以外のその他の指の指先をより確実に引き掛けてロック部材51の反力を受けることができる。
【0042】
さらに、フロントグリップ部40のグリップ基部42の下部に操作補助部55を設けた構成を例示したが、グリップ基部42とは別の部位、例えばモータハウジング21の前部に操作補助部を設ける構成としてもよい。従って、ロック部材51のロック側への操作の便宜を図るための操作補助部は、フロントグリップ部40を有しない切断機について適用することができる。
【0043】
また、例示した操作補助部55は、切断機1に限らず、スピンドルロックを備えるその他の電動工具、例えばトリマやディスクグラインダ等の刃具を回転させて加工を行う電動工具や円形の研磨パッドを回転させて石材等の磨き加工を行うサンダ等の電動工具にも広く適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
W…切断材
1…切断機(電動工具)
2…ベース
3…前側支持部
4…後側支持部
10…切断機本体
12…先端工具
12a…アウタフランジ、12b…インナフランジ
13…可動カバー
14…固定カバー、14a…集塵ダクト
15…減速ギヤ部
15a…ギヤハウジング、15b…従動ギヤ
16…スピンドル
17,18…軸受
19…固定ねじ
20…電動モータ(ブラシレスモータ)
21…モータハウジング
21a…吸気窓
22…固定子
23…回転子、23a…永久磁石
24…モータ軸
24a…駆動ギヤ、24b…平面部
25,26…軸受
27…冷却ファン
30…コントローラ収容部
31…コントローラ
35…ハンドル部
35a…メイングリップ部、35b…起立部
36…スイッチレバー
37…引き掛け部
38…バッテリ取り付け部
39…バッテリパック
40…フロントグリップ部
41…グリップ本体部
42…グリップ基部
50…スピンドルロック機構
51…ロック部材
51a…操作部、51b…係合孔
52…圧縮ばね
55…操作補助部
F1…親指(操作指)
F2…人差し指(その他の指)
F3…中指(その他の指)
F4…薬指(その他の指)
F5…小指(その他の指)